Shahrazad(MtG)

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Shahrazad(MtG) - (2021/02/18 (木) 16:26:27) の編集履歴(バックアップ)


登録日:2010/05/31(月) 23:49:10
更新日:2024/04/11 Thu 12:44:48
所要時間:約 3 分で読めます




昔々。あるアラブの王様は、彼の一番目の妻の不貞を発見した怒りから彼女を処刑した。
王様は女性に対する不信をすっかりこじらせてしまい、処女と結婚しては翌朝には処刑していた。
大臣の娘シェヘラザードは王の愚行をやめさせるために、王との結婚を志願した。
彼女は自ら王の褥に行って一夜を共にする。そして「明日には殺されてしまうのでしょう。ですのでどうか、最愛の妹に別れを告げたいのです」と望んだ。
王は言うとおりにシェヘラザードの妹を呼びつけた。妹はシェヘラザードにこうせがんだ。
「姉様。マジック:ザ・ギャザリングのクソみたいなカードについて教えてくださいませ」
シェヘラザードはにっこりと微笑み、穏やかに話し始めた。
「それでは始めましょう。むかし、むかし…1993年アメリカで発売された、あるカードのお話です…」



《Shahrazad》はマジック・ザ・ギャザリングのアラビアンナイト(1993年)に収録された白のカードである。レアリティはレアで、日本語版は存在しない。

Shahrazad(シェヘラザード、シャハラザード)はこのエキスパンションのモチーフになっている「千夜一夜物語」*2同様、このセット内の語り部として存在している。
彼女が物語を語る様をイメージしてデザインされたカードがこれだ。



Shahrazad (白)(白)
ソーサリー
プレイヤーは、それぞれのライブラリーを自分のデッキとしてマジックのサブゲームをプレイする。そのサブゲームに勝利できなかったプレイヤーはそれぞれ、自分のライフの半分(端数切り上げ)を失う。

初期のMTGらしい素朴な絵柄の、横に寝そべるアラビア系のおねーさんのイラストが絶妙にセクシー。

ちょっと解りにくいが、要するに、一旦ゲームを中断して互いに残りのライブラリーを使ってデュエルし、負けた方がゲーム再開後ライフを半分失うって訳である。
なるほど。確かに《Shahrazad》によってデュエルの中でデュエルという名の物語が紡がれる訳だ。




当然ながら禁止カードに指定された。



禁止カードはゲーム環境に著しく悪影響を及ぼす(要するに強すぎる)場合に指定されるのが大半だが、
それとは別にカードを使用する際に大きな問題点が発生する場合も対象になる事がある。
ざっと例を挙げるとアンティ(賭け)に関するカード、投げるカードこと《Chaos Orb》、人種・宗教に対する差別であると判断され使用禁止に指定されたカード、トーナメントにおける遅延モチリツモマシーンこと《師範の占い独楽》など。*3

《Shahrazad》の場合、一回使う事にゲームを中断してデュエルを行うため、効果が終了するまで時間を浪費してしまう。
しかも、そのサブゲーム中に《Shahrazad》をプレイできてしまうため、そのサブゲームを中断して更にサブサブゲームを、下手すりゃそこからさらにサブサブサブ(ry……。
そこからようやく「メインゲーム」が始まったとおもった矢先にまたShahrazadがきて「サブゲーム(ry…なんて事態もあり得るのだ。
一体どれだけの時間を使うのか、考えるだけでも頭が痛い。
さらにタチの悪い事にもう一つのデュエルをする以上、対戦スペースも使う度に2倍、3倍に増えていく悪質な面もある。
当然他プレイヤーからは白い目で見られること間違いなしだ。

マジックの公式大会は基本的に一戦ごと制限時間が設けられており、時間切れは引き分けになる。当然対戦スペースにも限りがある場合がほとんど。
時間切れを意図的に起こしかねない上に、大会の速やかな進行を阻害するとして、禁止カードに指定された。
実際、禁止前の公式大会で使ったプレイヤーがいたらしく、かなりの時間ロスになったらしい。

それからしばらくして、99年に《Shahrazad》は何故か禁止指定から解除される。
その頃になるとカードプールもかなり増えていて、他に強力なデッキやカードもあるからわざわざこんなネタカード使う奴いないだろ、と判断しての事だろう。禁止リストを短くしたいってのもあったのかもしれない。

事実、禁止指定解除後に大会で使ったプレイヤーが複数いたらしいが、対戦相手がゲームの進行を優先するために、あえて半分ライフを失うことを選んでサブゲームを即投了したので、時間を食う事はなかったらしい。
確かにサブゲームに付き合うよりそちらの方が効率が良い。バーンやウィニーなら尚更だ。疲れるしね。

しかしだ。

投了するプレイヤーばかりと仮定する。
すると事実上このカードはライフ半分奪う、つまり《Shahrazad》は白2マナで5~10点前後のライフを消し飛ばす、カラーパイを完全に無視した異常に凶悪なバーンカードという事になってしまう。
当然対戦ゲームである以上、そんな「本来の使用方法と完全に反する使い方をされる」「極めて強力なカードである」と判断されれば、これをデッキに入れるプレイヤーも増える事だろう。
かと言って、プレイヤーがそれを防ぐためにサブゲームに付き合えば、前の問題がまた出てくる。

八方塞がりである。

以上に述べた点が問題視され続けたので、結局07年にヴィンテージとレガシーの両フォーマットで禁止カードに再指定された。


しかし統率者環境では使えた時期があった。
…まあ、統率者戦はそのルールの特性上、カオス無茶苦茶大・歓・迎な場合が多いので、使ったとしてもさほど問題にはならないだろう。


「《Shahrazad》!さぁサブゲームおっぱじめようぜ!」
あ、ちょっと待って。統率領域とかどう扱うの?っていうか細かいルールの問題点出てくるたびにこんな問答やるの?
え、俺今手札と盤面に高額なカードたくさんあるんだけど…これどこにしまえばいいかな、その辺に寄せとくなんて嫌だよ?盗まれるかもしれないし
面倒だしさっさと投了してぇんだけどなぁ…統率者戦ってサブゲームも投了禁止なんだっけ…*1こいついるなら次からやるのやめとこ…

問題だらけである。*4
実際単発で1回使うだけでもすさまじく面倒がられるのに、うっかり再利用なんてしちゃったら、あるいはサブゲーム中に別のプレイヤーが使ってしまったら…

結局ヘイト値は使ったプレイヤーの枠を越えて世界的に限界突破したらしい。
2011年9月20日に統率者戦においても再度禁止とすることが推奨されている。つまり事実上禁止である。
こいつ含め真面目にサブゲームをする類のカードは通常ルールでは二度と戻ってこないだろう。


さて、サブゲームについてだが、実は昔とルールがだいぶ変わってきている。
サブゲームに関しては「メインゲームに該当するゲームの中で扱われているカード」をゲーム外領域として扱い、
現在のライブラリーだけをサブゲームのライブラリーに移動してゲームを始める。
これが基本ルールなのだが、いくつか細かい部分で面倒が起こることがある。

  • サブゲームを作る処理が解決に入った段階で、メインゲームは中断される。《時を解す者、テフェリー》や《血編み髪のエルフ》などで《Shahrazad》をインスタントタイミングで唱えた場合に問題になる。この場合、いったんスタックはそのままゲームを中断し、サブゲームを開始する。

  • デッキの最小枚数に関するルールは無視される。デッキの枚数が7枚未満ならゲーム開始時に7枚引くことができないので、開始直後に敗北する。これはマリガンをしても敗北を免れることはできない

  • サブゲームの中においては、メインゲームのカードもゲーム外のカードとして扱うので、それらのカードを「願い」で参照することができる

  • 統率者戦でサブゲームが始まった場合、各プレイヤーは自分の統率者を、それが統率領域にあればメインゲームの統率領域からサブゲームの統率領域に動かす。

  • サブゲームが終わった場合、すべてのサブゲーム領域のカードをライブラリーに戻し、それをメインのライブラリーにしてゲームに戻る。そしてサブゲーム解決時の処理を必ず行う*5。《Shahrazad》なら「勝利できなかったプレイヤーはライフを半分失う」。

  • その後、メインゲームに干渉した一部のカードの処理をスタックに乗せて処理していく。たとえばサブゲーム中に願いでメインゲームの《隔離するタイタン》を持ってきたが、当然戦場から離れたことになる。この時サブゲーム中にメインゲームの処理は行われない。メインゲームに戻ってきたタイミングで、《隔離するタイタン》が戦場に離れたときの処理をスタックに積む。

  • 最後にもしスタックに処理が存在するなら、それらを解決していく(サブゲームとは直接関係ない)。


…面倒な使い方はしないで素直にソーサリーとして使うという空気の読み方が大事であるというのが何となく伝わっただろうか。
そもそも空気を読んで使わなければいけない時点で、あまり楽しくないカードである。結局このカードのやることって、さんざん時間かけてライフを半分減らすだけだしね。

さて、アニヲタwikiのコメントログでよく言われている「待機持ちのカードをメインゲームに持ち込む方法」だが、これは現在のルールではできない
これができた頃、つまり「サブゲーム中に追放されたカードはメインゲームに戻っても追放されたままである」というルールの時は、
  • 「対戦相手のカードを積極的に追放し、メインゲームで使える札をずたずたにする」
  • 「《大いなるガルガドン》などの強力なカードを「待機」させ、待機が切れそうなタイミングで投了することでメインゲームに持ち込む」
などの「小技」が使えた。小技の問題点はともかくとして、現在それをやると立派なルール違反である。
現在のルールだとライブラリーにすべて戻るので気を付けよう。これ読んでる人にサブゲームやる機会は多分ないだろうけど。


さて、とんでもない問題児であるサブゲームだが、銀枠に後継者が2枚登場している。

Enter the Dungeon (黒)(黒)
ソーサリー
プレイヤーはテーブルの下でマジックのサブゲームをプレイする。開始時のライフは5ライフで、各自のライブラリーをデッキとする。サブゲームが終了した後、勝者は自分のライブラリーから2枚のカードを探し、それらを自分の手札に加えて、その後ライブラリーを切り直す。

勝利すると2枚のカードが手に入る。「地下ダンジョンに潜って競争冒険者と戦ってお宝ゲット」という、古き良きダンジョン型ゲームを思わせる。
本家が「ライフ総量据え置き」で「報酬がライフ半分」で妙にながったるい割に報酬がいまいちぴんとこない(さらに言えばライフロス以外で勝利を見出すようなタイプには旨味がない、報酬が釣り合うかは割とデッキを選ぶ)ので「めんどいし旨味に欠けるからから、投了した方が手っ取り早くていいや…」と思いがちな本家と違って、
「ライフ5点で開始」「報酬が好きなカード2枚」という手早くかつ報酬がおいしいのでむしろ「手間はかかるが、それでも報酬旨いしいっちょやってやるか!」と自然と前向きに思わせてくれるナイスデザイン。

しかもジョークカードらしさとして「机の下にもぐる」という指示がある。
机の下にもぐることによって、薄暗く狭い地下ダンジョンに潜っているロールプレイを楽しみつつ「メインボードのカード置き場」の問題も解決できるという字面だけでは伝わらない本カードならではの素晴らしさがある。

ちなみに本カード固有のルールとして「机がない場合」は「机を持ってくる」、「机の下で」再びこれを唱えたら「別の机に」移動するとのこと。

総合して「効果は奇抜だけど面白みにかけるわ問題は多いわ」の本カードの欠点をきちんと反省した、
「効果は奇抜で実際に開発の遊び心も純粋に楽しめる」非常に優れたデザインである。
そのため好きなプレイヤーはとことん好きなカード*6

…なのだが、この机の下という文言がまずかったのか、それとも「黒2マナで唱えられる」という点がまずいのか、
銀枠統率者では禁止推奨カードになってしまっている。

カード汚れるもんな、机の下じゃ…。
仮に土足が踏み込まない室内だとしても、人によっては馴染みのある地べた座りするぐらいの高さしかないちゃぶ台やコタツだったらまともにプレイできるのか…?。そこへ布なんかかけてたら中は薄暗いどころか真っ暗だぞ…?コタツの電源いれてたら暑いだろうし下手したら窒息しそうだ…。
さらに言えば足を延ばせるタイプの掘りコタツだとしたらもはやどうプレイしろと…?ウルトラマンのツインテールになれとでも…?

そもそも《Shahrazad》が異質すぎるせい&サブゲームの先駆者なのでそっちで話が盛り上がる。だからこっちはあんまり話題にならない。


The Countdown Is at One (3)(赤)(赤)
ソーサリー
プレイヤーは、初期ライフ総量1点でそれぞれのライブラリーをそれぞれのデッキとしたマジックのサブゲームをプレイする。メインゲームの残りの期間、発生源がこのサブゲームで勝利しなかったプレイヤーにダメージを与えるなら、代わりにそれはそのダメージの2倍をそのプレイヤーに与える。

初期ライフ総量1点というサドンデス形式。敗北したプレイヤーはメインゲームで2倍のダメージを受けるようになってしまう。
5マナとかなり重く、ライフは1点なのですぐ終わる。そして赤のカードなので、こちらが勝利できる算段は高いだろう。
こちらは銀枠統率者でもさすがに禁止されていない。先輩2人の問題点をようやく解決できた形になるだろう。



「…ほかに面白いカードの話ないの?」
と王様は続きをせがむが、シェヘラザードは言った。
「もう夜が明けるので、今宵はここまでに致します。そして明日の夜の話は、もっと面白くなるでしょう。それと…」
そして彼女は、白い歯を見せてほほ笑んだ。
「拝聴料として、ライフを半分頂きたいのです」

千と一夜が終わるころ、シェヘラザードと王様の間にはライフ半分…もとい子供が生まれていた。
王様は彼女から得た知識と、まぎれもなく自分の後継ぎと分かる子を得たことで愚行をやめ、シェヘラザードを正妻に迎えて幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。*7


メインの追記・修正は一旦中断してサブの追記・修整をしてからお願いします。

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