T-72

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T-72 - (2020/07/18 (土) 20:03:07) の編集履歴(バックアップ)


登録日: 2011/12/08(木) 05:43:53
更新日:2024/01/06 Sat 16:40:01
所要時間:約 8 分で読めます




T-72

乗員………3名
全長………9.53 m
車体長……6.86 m
全幅………3.59 m
全高………2.19 m
重量………41.5 t
最高速度…60 km/h(整地)
行動距離…460km(路上)
主砲………125 mm滑腔砲 2A46M

副武装
7.62mm機関銃PKT(同軸)
12.7mm機関銃NSVT(対空)


T-72とは、ソ連が1973年に正式採用した史上最高の神戦車のことであるオブイェークト!

なぜ神戦車なのかは後述するのであるオブイェークト。


~開発までの経緯~

時は1950年代、ソ連は当時主力だった傑作戦車T-55を使っていたが、そろそろ計画的に更新したいと考え、

ソ「新技術も育ってきたし、凄い戦車作ってよ!」

と、当時開発中だった新世代の戦車砲……滑腔砲とAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)を載せたいと戦車技師達に要請。

今現在も一部の途上国で使われているベストセラー戦車T-55を作ったL.N.カルツェフ、
祖国を救った最良戦車T-34を作ったA.A.モロゾフがそれぞれ担当することになり

カルツェフ「とりあえず積めばいいんですね。やってみましょう」

モロゾフ「うはwwおkwwすげぇのつくってやるよww」


こうして2種類の戦車が生まれることになった。






が……


カルツェフのT-62、モロゾフのT-64にはそれぞれ重大な弱点があった。

T-62はT-55をベースに、砲塔周りは新戦車砲を積むために新規設計され、史上初めて滑腔砲を装備する戦車となった。

車体は被弾率や敵からの発見される確率を低くするために全高を低く抑えた設計とし、更に連射速度の向上のために空薬莢の自動排出装置も搭載。


が、これが大きな問題となった。

当時の排出装置は

撃つ

砲を規定角度に上げる

排出

元の角度に戻す

といった動作をこなさねばならず、かえって連射速度は低下してしまった。


ちなみに「だったら手動でやればよくね?」となりそうだが、前述の車体の低さが災いして居住性は最悪。
とても作業を行えるほどの余裕がなかったのである。


また、俯角(砲を下に傾けること)にも難があり、これは第四次中東戦争で問題となる。



それに対してT-64は更に先を行き、自動装填装置を搭載。
これにより乗員を少なくすることに成功している。

更に新機軸や複合装甲、最新式の測遠器まで備え、まさに時代の最先端を突っ走る戦車となった。






…そう、突っ走りすぎてしまったのである。

自動排出装置ですら問題が出ていたのに、自動装填装置に至っては砲手の右手を巻き込んで切断するという痛ましい事件まで発生。

西側諸国から「ソ連の新型戦車の自動装填装置は人間を食う」とまで言われる始末。


また、新しく設計した足回りやエンジン、期待の滑腔砲の命中率にまで問題は山積。

そして何より、一番の弱点は高過ぎる価格


これによりソ連では満足な量の配備が出来ず、
一説には6年間でたった600~1,700両しか生産できなかったと言われている。


T-55やT-62といった補助に回ることになった戦車が年間3,000両作られていたことと比較しても、明らかに少ないことが分かる。



こうして早急に新しい戦車を開発する必要に迫られた結果、



1973年、
我々の神はご降臨なさった。



~神戦車T-72~

神戦車T-72はL.N.ヴェネディクトフの元、価格を抑え、堅実な性能になるように設計。

それでいて対戦車ミサイルを発射することが出来る125mm滑腔砲を装備するなど、次世代の戦車としての性能も有している。


では、何故T-72が神戦車と言われているのか。
それは登場した当時の各国の戦車事情がそのまま答えとなっていると言えよう。


この時の各国の主力戦車はまだ第二世代の

アメリカ…M60パットン
西ドイツ…レオパルト1
イギリス…チーフテン

日本に至っては第一世代の61式戦車である。


さて、問題の貫通力

T-72 ……………2000mで400mm
M60(M392A2)……1000mで240mm
レオパルト1……M60とほぼ同等
チーフテン ……1000mで362mm

61式戦車 ………お 察 し く だ さ い


対しての装甲(対運動エネルギー弾)
※装甲の厚さ≠実質の防御力

T-72A________実質500mm(砲塔防盾)/実質420mm(車体前面)
M60A1________実質254mm(砲塔防盾)/実質257mm(車体前面)
レオパルト1最初期型_実質130mm(砲塔防盾)/実質140mm(車体前面)
チーフテン______実質390mm(砲塔防盾)/実質388mm(車体前面)

61式戦車_______実質114mm(砲塔防盾)/実質110mm(車体前面)←※推定値


また、重量も他の戦車に比べて軽かったというのも大きな点である。

当時のワルシャワ条約機構下ではT-72の重量を基準に道路や橋を設計したと言われており、自軍の戦車が進行するには有利かつ、他国の戦車の侵攻を阻む地形になっていた。


当時の主力戦車及び第2.5世代戦車の重量

T-72 ………………41.5 t
M60パットン………52 t
レオパルト1………40 t
チーフテン ………55 t
96式戦車 …………42.5 t
61式戦車 …………35 t
74式戦車 …………38 t
K1 …………………51.1 t


ちなみに、120mm以上の砲を持つ第三世代の重量

T-80 ………………46 t
M1エイブラムス …55.7 t
チャレンジャー1…62 t
レオパルト2………59.7 t
98式戦車 …………52.0 t
90式戦車 …………50.2 t
K1A1 ………………53.2 t


と、まさに走・攻・守の揃った最高の戦車であり、
登場当時は世界中を探してもT-72を撃破しうる戦車は存在しなかったのである。

それでいてお値段もT-64よりも安価。

まさに全てを持ち合わせた最高の神戦車なのであるオブイェークト!
オブイェークト!









~現実~(´・ω・`)

っと、いかにも最強のように書かれてきたが、所詮は兵器。

いくら登場時期に最強であろうとも、時が立てば対抗しうる戦車が登場してくる。


が、T-72はその本領を発揮する前に紙戦車の烙印を押されてしまったのだよオブイェークト……



ソ連はT-72開発後、意図的にスペックをダウンさせた、
いわゆる

モンキーモデル

を各国に輸出するが、その輸出先で様々な戦闘を経験する。


1982年にイスラエルがレバノンへ侵攻した際、イスラエルのメルカバMk.1とシリアのT-72が交戦。

相手は同じ2.5世代であり、モンキーモデルであっても十分な戦闘が行えるハズだった。

結果…


イスラエル側はタングステン合金弾芯を使い、更に戦術的にも圧倒されシリアのT-72は一方的な敗北。

これによりメルカバの評判は一気に高まることとなった。


湾岸戦争でもイラク軍が使用するが、今度の相手はM1エイブラムスやチャレンジャー1・2。

しかも使ってくる砲弾には劣化ウランが練りこまれ、それを射撃統制装置で正確に撃ち込んでくる。

こちらは未だに鋼鉄の弾芯を使い、更に相手は装甲にも劣化ウランを使用。

結果……



まさにお 察 し く だ さ い状態。


あまりの一方的な敗北にT-72、そしてソ連製兵器に対するイメージは完全に失墜した。


どれくらいダメージを受けたかというと

戦前までは東側の規格とまで言われたT-72ブランドを本家ソ連ですら回復不可能と判断。

後日発表される予定だった新戦車の名前を急遽T-90に変更までされる始末。
中身はT-72の発展系なのに……(´・ω・`)



そんな感じに落ちぶれたT-72だが、安くてまぁまぁ強い戦車としては認知されているらしく、
途上国には改修型を含めてそこそこの需要はある様子。


そんな波瀾万丈な戦車に何かを見出だした同志達により、T-72は「神戦車」と呼ばれている。

2008年9月、ウクライナからケニア軍向けに海上輸送されていた33輌のT-72(と多数の武器)がケニア沖でソマリアの海賊に輸送船ごと強奪され、ニュースになった。
身代金の支払いによって解放されている。



これも余談だが、オブイェークトとはロシア語で「物体」の意味を持つと同時に、試作の戦車を指す際にもつけられる。
同志の間ではT-72について語る際は語尾に「オブイェークト」とつけるのがマナーになっているらしい。


こうしてネタにされているが、陸自の戦車部隊が本国仕様のT-72へ対抗できるようになるには冷戦が終結した90年代までは待たねばならなかった。
ほぼ同時期に登場した74式戦車が使用するL28A1装弾筒付徹甲弾(APDS)やM735装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)は導入当時には陳腐化していて*1
105mmライフル砲用の93式装弾筒付翼安定徹甲弾*2や第三世代型主力戦車の90式戦車が配備されるまでは苦戦も予想されていた。
現在もロシアで配備されているT-72Bシリーズは複合装甲の材質変更と爆発反応装甲(リアクティブアーマー)(ERA)*3の装着で完璧とまでは言えないものの防御力を強化しており、
複合装甲のみの場合は、車体前面で500mm(対APFSDS)/600mm(対HEAT)、砲塔前面で550mm(対APFSDS)/650mm(対HEAT)、
爆発反応装甲込みだと、車体前面は750mm(対APFSDS)/1100mm(対HEAT)、砲塔前面は800mm(対APFSDS)/1200mm(対HEAT)相当まで向上し*4
90式戦車用の120mm装弾筒付翼安定徹甲弾であるDM-33/JM-33よりも強力とされるDM-53及びM829A1すら耐える事が米独の試験で判明している*5
これは旧西側諸国が愛用する105mmライフル砲に対する定格防護能力と120mm滑腔砲に対する最大防護能力(限定的な防弾性)を得た事を意味している*6
少なくとも74式戦車や16式機動戦闘車にとっては侮れない存在である事は確かだろう*7
なお近代化改修後も成形炸薬弾(HEAT)に対する防御力は不足しているとロシア自身も認めているが、
爆発反応装甲を装着した場合ならDM-12/JM-12多目的対戦車榴弾*8やM830A1 HEAT-MP*9に耐えられるようである。

発展型のT-90を含むT-72系列におけるロシア連邦軍の評価は不評である*10
戦車砲やエンジンの換装、戦車砲弾の更新、砲発射型ATGM(対戦車ミサイル)と爆発反応装甲の導入、複合装甲の組成変更、懸架装置の改良、ベトロニクスの整備など、
随時マイナーチェンジとアップデートを繰り返してきたが、財政難の影響で近代化は中途半端にならざるをえず、軍内部で費用対効果も疑問視された程だった*11
最大の問題は原設計が戦後第二世代型戦車の範疇で、能力向上を果たしても戦後第三世代型主力戦車に伍する事は出来ず、性能の改善も限界を迎えつつある点である。
装甲防御力は爆発反応装甲を装着しても西側諸国の戦後第三世代型戦車に劣っており、砲塔の構造的欠陥から被弾時の生存性も低いままに留まっている*12
装弾筒付翼安定徹甲弾の侵徹長やベトロニクスの精度*13も水を開けられているため、遠距離での交戦時は半ば高額な砲発射型ATGM頼りとなっている*14
しかしながら2020年以降に本格量産が予定されている戦後第四世代型戦車のT-14はファミリー化による価格低減に努めてもなお高額であるため*15
2020年代も数的補完程度の扱いとはいえロシア機甲戦力の一端を担っていくだろうと見られている*16



追記・修正はT-72神に祈りながらお願いします。

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