BEATLESS(小説)

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BEATLESS(小説) - (2022/01/16 (日) 23:56:19) の編集履歴(バックアップ)


登録日:2014/08/06 (水) 19:39:00
更新日:2024/01/29 Mon 19:36:12
所要時間:約 14 分で読めます





その笑顔を僕は信じる
君に魂が無かったとしても――


BEATLESSとは月刊誌「NewType」において2011年7月より連載された連続SF小説である。全14回。
著者は「円環少女」シリーズで人気を博したSF・ライトノベル作家の長谷敏司氏。イラストは「ギルティクラウン」等で知られるredjuice氏が手がけている。
現在は連載も終了しており、全14回分をまとめた単行本と電子書籍版、アニメ化に合わせ加筆修正を入れた文庫版が発売されている。
単行本は表紙が驚きの白さで有名なため平積みしてたらすぐ発見でき、文庫版(及び現行の電子書籍版)ではレイシア(上巻)とスノウドロップ(下巻)が表紙を飾っているので分かりやすいだろう。
尚、連載時には存在していたredjuice氏による挿絵が単行本・文庫では挿入されていない。原作者の話では、これは一般の人でも手に取りやすくするためとのこと。単行本で収録されなかったこれらのイラストは、公式サイトで公開されている。


■概要

元々はProject<Lacia>としてグッドスマイルカンパニーとの共同企画で立ち上げられた作品であり、原作者の言によれば「redjuice氏から貰ったヒロインのデザインから構成していった物語」であるとのこと。つまり、最初にヒロインの名前とデザインのみ決められており、そこからできた小説である。
そういった経緯があるため、かなり早くからメディア展開されており、フィギュアやコミカライズ、イメージサウンドトラック等のグッズが存在する。
とはいえ、決してビジュアルのみが評価されている作品という訳ではなく、その緻密な設定や「ヒト」と「モノ」の関係を描ききったストーリーはSF小説としても非常に高い評価を受けている。その年の日本SF大賞にノミネートされている事や、ベストSF2012において3位入賞している事実からもその事はうかがい知れるであろう。
2018年にはTVアニメ化している。

○あらすじ


今から100年後の未来。社会のほとんどをhIEと呼ばれる人型ロボットに任せた世界。
人類の知恵を超えた超高度AIが登場し、人類の技術をはるかに凌駕した物質「人類未到産物(レッドボックス)」が生まれ始めた。

黒い棺桶のようなデバイスを持つレイシア。彼女こそが人類を超えた超高度AIによって作り出された「人類未到産物」だった。

17歳の少年、遠藤アラトはレイシアと出会う。
人間がもてあます進化を遂げた人間そっくりの<モノ>を目の前にし、アラトは戸惑い、疑い、翻弄され、そしてあらゆる選択を迫られる。

信じるのか、信じないのか――。

「ヒト」と「モノ」のボーイ・ミーツ・ガール。
彼女たちはなぜ生まれたのか。彼女たちの存在と人間の存在意義が問われる。

そして、
17歳の少年は決断する。

BEATLESS それは 鼓動無きモノ

<単行本帯、あらすじより>

■登場人物

○人間

  • 遠藤アラト
「やってみたら、出来ること、何も無い訳じゃなかったな」
CV 吉永拓斗
主人公。チョロい。
新小岩井在住。地元の高校に通う2年生。17歳。
父はhIEの第一人者として現在単身赴任中のため家に帰らず、母は単行本版では「父のいない家庭から去っていった」・文庫版では「10年以上前に他界した」ため、現在は妹と共にマンションで二人暮らしをしている。
ある日、買い物帰りにスノウドロップによる現象に巻き込まれ「人類未到産物」の一体であるレイシアと出会い、そのオーナーとなることで彼の運命は大きな転換を迎える事となる。
極度のお人好しであり、困っているものには手を差し伸べずにはいられない性格。また人間と似た姿形を持つhIEに対しても、それがモノだと理解しつつも、その行動に”こころ”が無いことを割り切る事ができず、結局は人間と同様に手を差し伸べてしまう(友人はアラトのそんな性質をチョロいと評しており、自身もその性質について自覚している)。

そのチョロさ故アナログハックにもかかりやすく、レイシアのオーナーとしてレイシアを使う事を「自分の決断」か「誘導されての事」なのかを度々悩むこととなり、物語後半にてレイシアの恐ろしさを身をもって知った際は一瞬とはいえ彼女を拒絶してしまった。
だが、離れた後もレイシアに対する愛情を捨てきれず、妹や紫織との会話の末、最後まで彼女を受け入れることを決意。
これが超高度AI「ヒギンズ」との対話への鍵となっていく。


  • 遠藤ユカ
「お兄ちゃん、スキ」
CV 小野早稀
アラトの妹。ビッチ。14歳。
両親のいない家で、兄であるアラトに甘やかされて育ったため天真爛漫で若干精神年齢が低く、いつもわがままでアラトを振り回している。とはいえ、兄であるアラトを思う気持ちは大きく、兄が面倒に巻き込まれた時は本気で心配し、最後には悩む彼の後押しをしている。
同じく妹属性のオーリガや紫織とは度々「妹会議(要するにお茶会)」を開くほど仲が良い。


  • 村主ケンゴ
「バカですね。世界が、優しいはずないじゃないですか」
CV 山下大輝
アラトの友人。アラトと同じ高校に通う。
実家は定食店「さんふらわあ」を経営しているが、hIEを導入しておらず、hIEを導入している他店に押され経営が悪化しているため、hIEに対し複雑な気持ちを抱いている。
その鬱憤を晴らすため、反hIEの”ボランティア”である「抗体ネットワーク」に所属し、hIEを破壊する人間の手伝いをしている。
とはいえ、それ以外の部分では普通の高校生と変わらない。また、アラトに助けを求められた際、抗体ネットワークに処分されることを承知でアラトを助けたりもしており、アラトに対する友情にも篤い。
抗体ネットワークの繋がりから、レイシア級の一体である「紅霞」と関係を持つ事となる。
最初はhIEに対する危険認識をより強めていたが、彼女と行動を共にする内に次第に変化していく事となる。

  • 村主オーリガ
「ユカちゃんはビッチ可愛いよ」
CV 若井友希
ケンゴの妹でユカの友人。15歳。ちなみに名前が外国風なのは母がロシア人のため。
基本的にはおとなしいがたまに毒を吐く。「ビッチ可愛い」という迷言を生み出した張本人。
兄の不審な行動に対し心を痛めている。

  • 海内遼
「おまえは俺には初めての友達だ。でも、おまえにとっては何なんだろうな」
CV 石川界人
通称「リョウ」。アラトの幼馴染。アラトと同じ高校に通う。
人間側のヒロイン。
超高度AI「ヒギンズ」を擁し、hIE産業の心臓部である行動管理クラウドを担う大企業「ミームフレーム社」の創業者一族の長男。
高校ではクラス中の女子に声をかける等の行動から軽い人間だと思われているが、大企業の御曹司として社会の暗部もそれなりに覗いている。幼少期に陰謀から殺されかけたトラウマもあり、根は冷静で基本的に他人を信用していない。
唯一といっていい例外がアラトであり、トラウマの根源となった爆発事件(アラト達も巻き添えで被害者に)の後で自身に対し手を伸ばしてくれたアラトには心を開いている。
正体不明のhIEであり「人類未到産物」であるレイシアがアラトと共にいる事をあまり快く思っておらず、「ヒトの選択をモノに委ねてはならない」との信念から、度々アラトに対しアナログハックの危険性を訴えレイシアを手放すよう警告するが……。
また中盤以降事態に介入し、妹やアラトを守るためあえて危険過ぎる「人類未到産物」メトーデの新たなオーナーとなるも、「他人もhIEも信用出来ない」リョウと「命令の行使法を自分で決める」メトーデでは互いにその力を生かしきれなかった。
ある意味では作中もっともアラトを心配している人物なのだが、性格が災いして空回りする事が多く損な役割が多く、中盤ではトラウマの影響から長らく距離を置いていた妹にも拒絶されてしまっている。

  • 海内紫織
「アラトさん、はしたないお願いですけれど、私に協力してくださいませんか?」
CV 佐武宇綺
遼の妹でユカの友人。16歳。
遼の妹ではあるが、あることがきっかけで兄とはやや疎遠気味。そのためか、親友のユカやその兄アラトの方に対し寧ろ心を開いている。妹会議においては一番年上ということもあり二人を見守る姉役をすることが多い。
優秀で物腰は穏やか。正にお嬢様と呼ぶにふさわしい人物であるが、兄同様に社会の暗部もそれなりに覗いている。
アラトに対し明確な好意を抱いており、それ故に「ヒト」と「モノ」をちがうモノであると割り切れないアラトがレイシアのオーナーをしていることを心配している。
一時期レイシア級の一体「メトーデ」のオーナーの一人になったが……。
明言されてはいないが最終的には通い妻に進化した模様だが、この先に困難があるのは確実であろう。

  • エリカ・バロウズ
CV 陶山恵実里
「バロウズ財団」の理事長兼傘下企業「ファビオンMG」のCEOであるセレブ少女。レイシア級最後の一体マリアージュ(正式名サトゥルヌス)のオーナーでもある。
肉体年齢的には17才だが、実は2011年生まれながら16歳の時不治の病により冷凍睡眠に入り、80年近い眠りの後本編の一年前に目覚めた「眠り姫」なため、戸籍年齢は94歳だったり。
自分の幼少期からあまりにも変わった22世紀や、その過去や親の遺した財団から得た富等からくる周囲の視線等で世界を醒めた目で見るようになり、昔と変わらぬ生家からヒトを遠ざけ「モノ」だけを置いている。
いきなり家のhIEを全部壊して現れたサトゥルヌスには最初不信感を抱くものの、気まぐれから紅茶ブランド由来な「マリアージュ」の名を与え傍に置く様になり、その後はあくまで第3者としてだが事件や社会へと介入していく。
また彼女から得たレイシア級のデータを使い、スノウドロップ以外のレイシア級&オーナーを家に招くという無茶なこともしており、変革への願いから彼女達の争いを望むような発言を取っていた。

  • 渡来銀河
CV 神谷浩史
ミームフレーム社の研究所主任で、メトーデの最初のオーナー。
レイシア級のデータに詳しく、最強機体のメトーデのみを管理下に置くことで事態を制御しようとしていた。
だが中盤で紫織のリタイア後、つくば実験都市でスノウドロップの勧誘及びユカを人質にアラトからのオーナー権奪取を測るも、オーナーを必要としないスノウドロップメトーデとリョウによる新規オーナー契約成立アラトの告白によるレイシアのオーナー権奪取失敗と一気に失点を重ね、直後スノウドロップによるhIEゾンビの大量襲来に押しつぶされ、ユカを人質に取り続けようとしたことで対応が遅れメトーデがリョウの守護を優先したこともありあっけなく死亡。
終盤では生前に遺した彼の映像記録が発見され、レイシア級脱走事件の主犯だったと判明したが、その甘い見方等から記録を入手したエリカに嘲笑された。


○レイシア級hIE

  • レイシア
人間に未だ明かされざる道具
CV 東山奈央
ヒロイン。レイシア級hIE5号機。
ミームフレーム社から逃げ出した「人類未到産物」、レイシア級hIEのひとつ。
逃げ出した先でスノウドロップに襲われているアラトと邂逅し、アラトとオーナー契約を結ぶ事となる。
その後は遠藤家の一員としてアラトとユカと共に日々を送りつつも、アラトの危機や他のレイシア級の襲撃の際にはアラトの決断の元、その圧倒的な能力を以て問題解決にあたることとなる。
また、居候して暫くたった頃ユカが(勝手に)応募したファビオンMG開催のhIEモデルのオーディションにも受かり、新進気鋭のhIEモデルとしても活動している。

アイスブルーの瞳と薄紫の髪を持つ美貌のhIEであり、その能力は(当たり前であるが)他のhIEに比べると頭一つ抜けて高い。
「人類未到産物」として高度な電子戦能力と機体能力を持ち、所有するデバイス「BLACK MONOLITH」のロックを解除することでその能力は更に上昇、質量砲撃や大規模ハッキング等多彩な技術を行使可能になる。
「人間に未だ明かされざる道具」ゆえに渡来やメトーデからは未完成機と見做されていたが、どんな危機的状況においても常に冷静な態度を失わず、アラトの決断をその頭脳と能力で支える。
頭脳はレイシア級の中でも非常に高く、最終的には高い経済力を手に入れており、何事にも対する用意周到さとアラト以外に対する容赦の無さからラスボス系腹黒ヒロインとも言われたりしている。

hIE故、アラトに対しては一貫して自分に”こころ”はないという態度を崩さない。
当初はそれでも”こころ”を持つものとして接していたアラトだが、妹を人質にオーナー権譲渡を強要された時彼女への愛を告白し、それに答えるため彼女は自らオーナー認証ユニットを破壊。
後半ではいくつかの選択を経て彼女が”こころ”のないモノであると理解し、レイシアの「裏」を知らされ迷いながらも、恐れを超えモノとして自らを愛するアラトに対し、レイシアもまた、モノとしてアラトに応える事を誓い、ヒトとモノの新しい可能性を見い出す事となる。

  • スノウドロップ
<進化の委託先(アウトソース)>としての道具
CV 五十嵐裕美
レイシア級hIE2号機。ミームフレーム社から逃げ出した「人類未到産物」のひとつ。
外見はエメラルドグリーンの瞳に淡緑色の髪をした幼女
とはいえレイシア級のhIEが見た目通りの訳もなく、作中でも特に危険なhIEのひとつ。
舌足らずで外見を裏切らない喋り方をするものの、その思想は極論すれば「人間なんかいらない」というもの。なのでオーナーも必要としない。
作中においてはレイシア級としての能力を存分に振るい、人間社会に対し多くの厄災を振りまき、最終的には醜い怪物へと成り果て、「親」のヒギンズすら獲物認定してしまう。

服の下から、寄生することで他のhIEの行動管理権限を「ヒギンズ」から奪取する花弁型の機械を生み出すことが出来、それら用いる事で大量のhIEをゾンビのように操る事を主な戦法としている。
また「EMERALD HARMONY」と呼ばれるデバイスを所有している。これは超高度結晶と呼ばれる超硬の外殻に包まれた歯型のデバイスであり、このデバイスで他の機械を噛み砕く事で対象の情報を読み取り、スノウドロップの機体内に取り込むことで、スノウドロップと対象を融合させることが出来る。
通称hIE版デビルガンダム

  • 紅霞
<人間との競争に勝つため>の道具
CV 冨岡美沙子
レイシア級hIE1号機。ミームフレーム社から逃げ出した「人類未到産物」のひとつ。
クリムゾンレッドの瞳と真紅の髪を持つ少女型hIE。
レイシア級の中でも最初に造られた機体であり、機体性能では他のレイシア級に対し遅れを取るものの、「人間との競争に勝つための道具」という用途が示す通りその戦闘能力は高い。
「人間との競争に勝つための道具」として製造された為か、作中のレイシア級及びhIEの中ではもっとも人間臭い存在となっている。
一応「抗体ネットワーク」全体がオーナーになっており、普段は「霞崎カレア」として活動している。

戦闘時には多彩な内蔵武器と高出力のレーザーを搭載した刃型デバイス「BLOOD PRAYERS」を用いた戦闘を得意とするが、巨大なため小回りが利かないのが難点。

後半ではエリカから「未来への扉」を諭されたとき、人間たちの争いとしての道具や抗体ネットワークから提示された「戦い」における勝ち目のなさに“出口の無さ”を認識し、モノにとっての未来に思い悩むが、
協力者であるケンゴが抱えた友人たちへのコンプレックスを知り、自分自身の存在意義を改めて認識。そして自らの存在理由やアラトへの問題提議等を示すためある行動に出ることになる。


  • マリアージュ
<環境を構築するもの>
CV 下地紫野
レイシア級hIE3号機。ミームフレーム社から逃げ出した「人類未到産物」のひとつ。
ブラウンの瞳に亜麻色の髪の女性型hIE。エリカの元に住む様になってからはメイド服を着ている。
他のレイシア級が「ヒギンズ」によって造り出されたものであるのに対し、彼女は他の超高度AIである「九龍」と「ヒギンズ」のクロスライセンスにより造られた機体であり、若干出自が違う。
積極的に主人の命に服し、他に比べて直接戦闘参加するのが基本的に無いので、影が薄いながらレイシア級では一番の勝ち組。
元は「サトゥルヌス」という名であったが、現オーナーのエリカ・バロウズによりマリアージュという名に改名させられた。本人はマリアージュという名を気に入っている模様。
所有するデバイス「GOLD WEAVER」は地面に突き立てるアンカーを持った、糸車のような形状。”モノ”を創造することが出来るデバイスであるが、設定した角度で糸車のハンドルを回す度にオーナーの了承を必要とする。
本機体曰く、作れる”モノ”の中には「液状化現象を通じて地震を引き起こす機器」なんてヤバいのもあるそうな。

  • メトーデ
<人間を拡張するもの>としての道具
CV 雨宮天
レイシア級hIE4号機。ミームフレーム社から逃げ出した「人類未到産物」のひとつ。
オレンジ色の髪をした女性型hIE。
五体のレイシア級の中でも最強の機体であり、自らと単体で渡り合えるレイシア級は「マリアージュ」だと言って憚らない。
その発現を裏付けるように戦闘面だけなら初戦闘で「レイシア」を圧倒し、他のレイシア級二機を相手に対等に渡り合う程の機体性能を持ち、「今の人間の世界の維持」を望むが、
複数人とオーナー契約可能で、かつ恒にオーナーの命令姿勢を測り自分を優位に扱う姿勢を求める」という行動規範と主人となった人々の性格ゆえにオーナーとの信頼関係が一切築けず、作中においては一番の貧乏くじを引く羽目となる。
両掌にデバイス「LIBERATED FLAME」と呼ばれる擬似フォノン兵器が付いている。これは、観測の極めて困難な粒子を空間中に散布することで、粒子を媒介として莫大なエネルギーを伝達出来る兵器である。
その破壊力は作中でも最上級であり、何らかの対策をした装甲材でない限り、厚さ数センチ程度のモノであれば容易く打ち破る事ができる程。
また、このデバイスは両掌に付いているものを一部とし機体内の各所に内蔵されておりこのデバイスを用いることで機体の運動性能を底上げしている。
実はコンセプトの関係上、最強でありながらレイシア級一番の欠陥機とされている。


■用語

○hIE

「humanoid Interface Elements」の略称。
「ハザード」と呼ばれる世界規模の大災害を経験した後の作中世界において、人類の仕事を代替すべく生み出された人型ロボット。
その行動はミームフレーム社の擁する超高度AI「ヒギンス」が提供する行動管理クラウドと「AASC(行動適応基準レベル)」に準じており、hIEに感情の類は存在しない。
またクラウドは専用サーバーからのネットワークに依存するため、現行のhIE内に「人工知能」的な回路は殆ど存在しない*1(「ヒギンス」を基礎に用途によって様々なカスタムクラウドに接続する*2)。
作中世界においてhIEは乗用車並みの値段で買えるくらい一般社会レベルにまで浸透しており、人間がすべき多くの仕事を代替している。ケンゴの言に寄れば「自分たちが大人になる頃には人は何をする必要も無くなる」程に。
しかしながら、hIEのオーナーが自らの代わりにhIEを働かせ賃金を得ることが認められていることや、hIEに雇用を奪われたと感じる人間も少なくなく、未だに根強い反発を受けている事も事実である。

また、人間型のhIEのほかに愛護用の動物型ロボットであるaIE(animal Interface Elements)も社会に普及している。こちらも行動管理クラウドに準じて行動している。

○アナログハック

人間の意識に対するハッキング。
hIEの行動は行動管理クラウドに準じており、その動きに”こころ”の介在する余地は無い。しかしながら、人間と同じ姿形を持つhIEの動きに対し人間はhIEに”こころ”があると錯覚を覚える。”こころ”の無いhIEの行動に対し、見る側の人間が勝手に”意味”を付随させてしまうのだ。
そしてhIEの動きに勝手に”意味”を見出した人間の「感情の動き」というアナログ的なセキュリティホールを利用し、意識そのものに対してハッキングを行うことを「アナログハック」と呼ぶ。
作中ではこれをキティちゃんのプリントされたマグカップを用いて説明しているが、俺らに解りやすく説明するならばアニメやギャルゲのキャラクタに対し萌えの感情を抱く事も一種のアナログハックと言える(アニメやギャルゲのような感情を持たないプログラムの言動に対し「萌え」という「感情の動き」を喚起させられる)。
また21世紀生まれのエリカはこれを「ミーム(文化的な「模倣子」)」の現在の形とも捉えている。

○超高度AI

人間の知能を凌駕した人工知能のこと。
本編開始時には計39台の超高度AIが稼働しているものの、過去に日本で災害対処のため超高度AI「ありあけ」にインフラを一任したせいで「ハザード」が発生したことから*3、その多くは研究用途とされ人類の根幹に関わるようなインフラに接続することが禁止されている*4
本編ではレイシア級を開発したhIE管理AI「ヒギンズ」とAI監視組織『国際人工知性機構(IAIA)』の管理AI「アストライア」が登場している。

○人類未到産物(レッドボックス)

超高度AIにより作成された「人類が未だ到達していない」レベルの産物群。未来を先取りした技術と使用した産物、といえば解りやすいか。
作中における技術開発はこの人類未到産物を解析することで「未来の技術を理解する」やり方が主流となっており、「新たな技術を生み出す」かたちの技術開発は殆ど行われていないのが実情である。
因みにレッドボックスと呼ばれる所以は、観測者から遠ざかる光が赤から黒へと変化するように「人類が追いすがらなければいずれブラックボックスへ変化してしまう」ということから。

○レイシア級

超高度AI「ヒギンス」の生み出した「人類未到産物」のhIE。全部で五体のレイシア級が存在し、それらのレイシア級が、製作元のミームフレーム社から脱走した時点から本編は回りだす。
通常のhIEよりも明らかに高性能である他、「デバイス」と呼ばれる超高性能の道具を所有。これは共通機能として高度な感覚器や量子コンピュータを内蔵しており、実質的に彼女達の基礎クラウドサーバー兼電源でもある。
デバイスは五体のレイシア級がそれぞれ別のモノを持ち、その性能も様々であるが、いずれにしても現在の人間の技術では作成不可能な程の性能を誇る。
ちなみにデバイス自体も「人類未到産物」のひとつであり、レイシア級は「レイシア級hIE主機」と「そのデバイス」の二つで一つの不可分な関係である。
またデバイス内には「ヒギンス」内のバックアップデータが存在。このためミームフレーム社はデータ奪還の意味も兼ねて捜索していたが、それゆえに「デバイス(中枢)破壊」という手っ取り早い停止法を躊躇う事に。
全てのレイシア級は、それぞれ別の「造られた意味」を持ち、ミームフレーム社脱走後はそれぞれがその意味を果たすために活動している。


■備考

  • 前述のとおりコミカライズも存在し、本編四章までを描いた「BEATLESS-dystopia-/鶯神楽」と、いわゆるSD化ギャグ漫画の「びーとれすっ/Kila」、そして同一世界観の「天動のシンギュラリティ/大崎ミツル(漫画)砂阿久雁(ストーリー協力)」の三種類が存在する。(/以降はいずれも作者名)
  • また、同氏による短編集「My humanity」にも同一世界観を描いた短編「Hollow vision」が掲載されており、後述の「Analoghack Open Resource」使用作として2019年に同人作品「電霊道士」が発表されている。
  • 同氏の長編作品にしては珍しくヒロインが幼女ではないためそのあたりは注意。もっとも主要キャラに幼女らしきモノは存在するが。
  • 本世界観を用いた企画「Analoghack Open Resource」が存在する。
これはBEATLESSの設定・世界観を誰でも自由に使用できるよう開放する試みであり、簡単に言えば「本作の設定を用いて一次創作を作成出来る」ということである。ニュアンス的にはアメコミ等でよくあるシェアワールド的なものに近いか。
無論、設定を開放とはいうものの、ポリシーは存在するため、詳しく知りたい人は画「Analoghack Open Resource」のサイト内を観る事。
また、創作をする気が無い人であってもBEATLESSの世界観が気に入ったのであれば設定資料集的なものとして読むことができるためおすすめである。


追記・修正はシンギュラリティを迎えてからお願いします。

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