SCP-8900-EX

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SCP-8900-EX - (2020/09/07 (月) 22:23:20) の編集履歴(バックアップ)


登録日:2015/06/18 Thu 20:01:35
更新日:2024/04/28 Sun 15:58:26
所要時間:約 3 分で読めます




今日も空は青い。




このアーカイブ情報は参照専用です。現在、SCP-8900-EXに対しての封じ込め手段は講じられておりません。







諸君、我々は失敗した。
―O5-8









SCP-8900-EX-Sky Blue Sky(青い、青い空)は、怪異創作コミュニティサイト「SCP Foundation」に登場するオブジェクト
オブジェクトクラスExplained

Explainedクラスは副次的かつ特殊なクラスであり、
「その性質が今現在の主流科学で説明できるほどに完全に解明された・虚偽や錯誤によるものだと判明した・最早収容不可能なほどに公に流布され、広まってしまった」
という条件に該当するSCPがSCPナンバーの後に「-EX」と付けられる事で認定される。

まずはじめに言ってしまうと、このオブジェクトは財団の歴史上最初にして唯一とも言える、財団の敗北宣言である。



概要

SCP-8900-EXは、ざっくり言うと視覚的な影響を恒常かつ永続的に与える現象系のSCPオブジェクトであり、その影響は全人類に及んでいる。
その影響範囲及び形態により事実上収容不可能と判断されており、そのことからKeterへと分類された。
この8900-EXはある撮影技術の発明時の副産物によって生まれたもので、このSCPが与えている視覚的影響は撮影が可能。
最初こそ影響は写真乾板などの一部媒体にのみ表れていたが、次第に人類へと侵蝕し始め、やがてそれが当たり前の事になってしまった。
このSCPが急速に拡散を始めた時期は1935年前後であり、とある株式会社が発明したカラー写真技術が原因であるとされている。


このSCPの正体は、可視スペクトルに永続的な変調をもたらす、つまり眼球に届いて脳が認識する光の波長を変え、目に映る色を全く別のものに変えてしまう現象系のオブジェクトである。
生物は、物体にぶつかって反射してきた光を目で受け取り、それによって色を認識している。このオブジェクトの影響を受けた物体は、自身にぶつかり反射する光の波長が不可逆に変わってしまう、つまりその物体に対して認識される色が変わってしまうのだ。

起源は不明だが、1800年代と比較的新しく、影響は写真乾板のみに留まっていた。そして当時は、我々が現在知るものとは全く別の色が世界に存在していた。

だが最初のカラーフィルムを開発したコダック社によって、カラー写真技術が生まれると同時に、本来あった「美しい」色彩は失われ、変調による「」色彩に塗りつぶされてしまった。
財団は収容しようと試みたが、全てが手遅れだった。最早どうしようもなかった。
そしてこの影響は、影響を受けた何かによる接触で広がる。「感染」と形容されるこの下品な色彩の流布は止められず、接触禁止命令や「元の色彩」を与えなおす試みも失敗に終わっていく。

そして当時の財団は最終手段―アンニュイ・プロトコルと呼ばれる最高クラスの記憶処理の実施に踏み切った。
世界中に微細な記憶喪失を引き起こさせる化学物質を散布し、「世界が元の色彩から変化した」という認識を「世界は元からこの色彩だった」というものへ書き換えたのだ。

何も知らぬ人々は突然の記憶操作に混乱したが、直ぐに順応した。
空は元からこのような色だったのだ」と。




その後に残ったのは、下品な緑に包まれた山々可笑しい色を見せ続ける海空色で構成された空



何も知らず「世界は元々そうだったのだ」と財団に思い込まされているということも知らない無辜の人々。そして、何も出来なかったと悔み続ける財団のみだった。



補遺

ここに、O5の権限によってのみ閲覧可能な、一つのメモがある。
時のO5-8が記した、敗北宣言である。


諸君、我々は失敗した。
SCP-8900の影響はあまりにも広く拡散し、ありふれたものになってしまった。空の自然な青は下品で不自然な色合いに変わり、木々の緑は等しく汚された。SCP-8900は全ての可視スペクトルに荒廃をもたらし、我々は覆い尽くされた。

正反対の影響を及ぼす「感染症」を作り出すという我々の試みは失敗した。我々は被験体に対して自然な色彩を復元させることに成功したが、この処置は被験体を無音にしてしまうようだ。
その上、今しがた使者がオフィスに到着し、我々のささやかな試みが収容違反を起こしたことを伝えてくれた。未来のエージェントはその性質から、これをSCPオブジェクトとして扱わなくてはならないかもしれないな。

我々にはたった一つの選択肢が残されたのだ、諸君。私は財団の最終フェイルセーフ手段、アンニュイ・プロトコルを実行する。

このメッセージが、受領を許可された君達に届いたことが確認され次第、世界中の財団が総力を挙げ、微細な記憶喪失を引き起こす化合物ENUI-5を大量散布する。
世界中のこのような恐怖を味わうべきでない男女が、立ち止まり、困惑し、自らの生活に戻るだろう、この現象が常に存在していたと確信し、何を失ったかを決して知らないまま。
ただ一つ、SCP-8900の影響を受けていない写真のみが真実を伝えていくことだろう。

私は残念でならない、諸君。本当に残念だよ。

これはやり遂げられねばならない。

― O5-8

確保。収容。保護。






議論

ところで、このSCPオブジェクトは、未だに議論が絶えないことで知られている。その理由は、「元の世界の色」についてである。ざっくりまとめると、

  1. 「世界は元々白黒で、SCP-8900によって色彩という概念が生まれた」
  2. 「世界は元々白黒だが、色彩の概念自体はあり、SCP-8900によって現在の我々が知る色になった」
  3. 「世界は元々我々の知るものとは別の色で満ちていたが、SCP-8900によって現在の我々が知る色になった。これに伴い元々の色は現在の我々では認識できなくなり、モノクロにしか見えない」

要するに、「元の世界の色は白黒だったのか? 我々に認識できない別の色だったのか?」というのが論点である。

なお、元記事の著者であるtunedtoadeadchannel氏の構想は二番目。

+ Discussionにおける、作者の発言の一部抜粋
2010年12月19日
They had a "blue", but it wasn't what we now see as blue; I couldn't write "everything went from black and white to color" because in-universe that's not what happened.

彼らは「青」の概念を持っていましたが、私達にそれは「青」とは見えません。私は「すべての物がモノクロからカラーになった」とは書きませんでした、宇宙で起こった事はそうではないからです。

2011年9月14日
A color photo of a black and white object is visually identical to a black and white photo.

When you go to color an illustration of, say, something blue, you reach for ink that is the shade you perceive as the shade of blue you want.

When things were black and white, people still perceived blue as a separate color from red. If they wanted to illustrate something colored greythatwouldlaterbeblue, they used greythatwouldlaterbeblue ink. Because the ink was that color, when the SCP altered the visual spectrum, it remained that color; grey that became blue.

In this article, photographs have always been in color. That is, photographs have always percieved color the way humans do post exposure. The things they were photographing haven't.

黒と白の物体のカラー写真は、モノクロ写真と視覚的に同じです。

あなたが例えばイラストに「青」を使おうとする時、あなたは自分が「青」と知覚するインクを使うでしょう。

物事が「白」と「黒」であった時もやはり、人々は「青」と「赤」を区別していました。もし彼らがイラストに「(後に青となる)灰色」を使おうとするなら、当然「(後に青となる)灰色」を使います。
SCP-8900-EXが可視スペクトルを変調させてもインクの色自体が変化する訳ではないため、曝露後の人々には「(後に青となる)灰色」が「青」に変化したように認識されます。

この記事(SCP-8900-EXが存在する世界)においては、写真は常にカラー写真です。つまり、写真が人に見せてくれるのはSCP曝露後の色であり、「撮影した時、それがどのような色に見えていたか」ではないのです。

google翻訳さん、ありがとう
作者がモノクロ写真を見て思いついたSCPである事や上の説明からすると「人類に見えていた世界はモノクロだったが、どういう訳か色の区別は現在と同じように為されていた」と言う解釈が最も自然である。
(作者本人の発言を読んでなお、おかしい!モノクロの世界で色が区別できるなんて現実にはあり得ない!と言う方は、せめてSCP-173のスピードと動力源を現実的に説明してから反論して頂きたい)

ディスカッションでは「If they wanted to illustrate something colored greythatwouldlaterbeblue, they used greythatwouldlaterbeblue ink(たとえば彼らが青い色のついた何かを例示する場合、後に青となる灰色のインクを使った)」という言及があるため、この記事における「かつての世界」は、

白と黒の濃淡のみによる色彩が存在していた→このオブジェクトによる可視スペクトルの変調によって、それは現在我々が知る色となった→財団はこれを元の白黒のコントラストに戻そうとしたが、逆効果だった→どうにもならなくなったため、修正作業を放棄して歪められた色彩を「正常」に位置付けた

という流れで現在に至っていることがわかる。
つまり、かつての世界には当時の人々にとっての、白と黒のコントラストでのみ構成された色彩が存在しており、それを歪めてしまったのがこのSCPオブジェクトなのである。
我々にとっては理解しがたいが、冷静に考えてみよう。

財団がアンニュイ・プロトコル実行に踏み切ったのは、何一つ打つ手がなくなってしまった、最後の最後である。となれば、収容を試みている間にもそれはどんどん広がっていたはずであり、同時にこれにはミーマチックエフェクトが存在しない。
この事実を裏返すと、財団が拡散を食い止めようと試行錯誤している間にも「」色彩は広がり続け、人々が混乱の極みにあったことが容易にうかがえる。
何せ記憶処理では意味がない。目に映る色自体が変わって見えるのだから、常識レベルから書き換えないと意味がない。

当時の人々にとって、赤も青も黄も緑も白も黒も、全ては白と黒のコントラストでのみ構成されており、それが常識だったのだ。それがどんどん「」色に塗り替えられていくのだから、抱く違和感は尋常ではなかっただろう。

当然、「正常な」世界を維持するために財団はSCP-8900を全力で収容しようとした。
そして、出来なかった。
SCP-8900による可視スペクトルの変調は、もはや世界全土に広まった。白黒のコントラストが、あり得るはずのないおかしな色に塗り替えられてしまったのだ。

隠蔽も収容も不可能となってしまったことにより、財団が取った最後の手段がアンニュイ・プロトコルだったのだ。
異常が全世界に広まり、もはや隠せなくなってしまった。だが、それでも「正常な」世界のために動かなければならない。
だから、異常で埋め尽くされた現在の世界を「正常」と位置付けて、それが本来の姿なのだと世界そのものを欺いたのである。

そして、SCP-8900は再分類された。
もはやそれは異常ではない。その影響を受けていることこそが「正常」になった今、収容の必要はない。
SCP-8900-EX、オブジェクトクラスはExplained。

その特性の関係上、この報告書は秘匿され、O5のみが閲覧を許されている。


かくして、我々の今知る世界が回り出したのである。
何も変わっていない。
今日も、明日も、その先も、山々は美しい緑に燃え海は青く波打っている

かつての人々が、白と黒のコントラストにどんな色を見ていたのか?
言葉には出来る。青や赤。だが、どんなふうに見えていたのかは、もはや誰にもわからない。
思い描くことすら、難しい。


どんなに焦がれても、どんなに望んでも、



今日も空は、青く広がっている






SCP-8900-EX

Sky Blue Sky(青い、青い空)







余談

  • 一度日本語訳版SCPwikiにおいて、このSCPの翻訳版のタイトルの投票が行われたことがある。その際、空色の空青い、青い空等の題案の中にブライト博士」がしっかり混ざっていた。

  • 翻訳wikiでは通常ディスカッションまでは翻訳されないため、日本のSCPファンの間では長らく「どのようなSCPなのか、作者の答えはどこにも提示されていない」と思われ「どの解釈が正当なのか」を巡って、度々マウントの取り合いが行われていた。その後、原著者による解説がマウント合戦以前から既に行われていた事が日本語話者の間でも広く知れた事で今度は「原著者の提示した背景が正解だ派」と「原著者の意図を押し付けられたくない派」が衝突しやすい状況が生まれているが、動画サイトやwikiのコメント欄は皆で楽しむ事が第一義である事を忘れないで欲しい。要するに、「そっとしといてやんな」と言う事である。


追記・修正は世界の色を見渡してからお願いします。


CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-8900-EX - Sky Blue Sky
by tunedtoadeadchannel
http://www.scp-wiki.net/scp-8900-ex
http://ja.scp-wiki.net/scp-8900-ex

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