SCP-2935

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SCP-2935 - (2020/08/22 (土) 20:22:15) の編集履歴(バックアップ)


登録日:2016/11/11(金) 16:13:45
更新日:2024/02/29 Thu 14:13:19
所要時間:約 12 分で読めます






本当の“死”は、すべてが止まる。



SCP-2935とは、シェアード・ワールドSCP Foundationに登場するオブジェクト(SCP)のひとつである。
収容クラスKeter
撹乱クラス5/Amida
リスククラスは2/Caution。


SCP財団の収容する(一部出来ていない・そもそも出来ない)オブジェクトは、Joke認定などごくごく一部の例外を除いては、基本的に危険という言葉から切っても切り離せない存在あるいは概念である。
正体不明のSCP-001、不死身のクソトカゲことSCP-682、ミーム汚染の王様SCP-1561など、どっちを向いても下手すりゃ死ぬ(下手しなくても死ぬ)危険物の塊なのだ。
当然というべきか、このSCP-2935もその例に漏れず危険なSCPである。
危険というか、わけがわからないのだが。


概要

SCP-2935は、アメリカはインディアナ州、ジョッパ近郊の集合墓地の下層に広がる鍾乳洞の内部に発生している時空間異常である。
現在ここに通じる鍾乳洞は入口がコンクリートで封鎖され、アクセスは不可能となっている。そのため、一応財団的には収容は出来ている……ということになっている。一応。一応ね。

さて、そんなSCP-2935はどんな世界なのだろうか。
異世界・時空間異常系統のSCPとしては、大体クトゥルフ神話に近いような本物の異世界が大半である。
が、SCP-2935は違う。

SCP-2935は、2016年現在の地球とたった一つの点を除いて同じ世界なのである。
どこが違うのか?



死んでいるのである。



SCP-2935には確かに人間がおり、自然現象がある。だが、そのすべてが死んでいる。比喩でもなんでもなく、全ての生物が、全ての生命が死絶しているのである
それだけではない。
生命体どころか、コンピュータや人工知能、果てはSCPに時々見られる知性ある実体などの「生きているように見える挙動」すらも完全に停止しているのだ。
……この時点でおそらく例外になるだろうSCPを思い浮かべた諸兄に問うが、それは十中八九この記事の冒頭で挙げた「ヤツ」だろう。

初期調査によれば、SCP-2935(以後特記なき限り「別世界」と呼称する)のすべての存在は、2016年4月20日のアメリカ標準時03:00から04:00までの1時間のいずれかの時点において、何の前触れもなく一斉に死亡したと判明している。この原因については未だに判明していない。


発見

全ては、2016年の4月28日に始まった。その日、インディアナ州ブルーミントン近郊のサイト-81に勤務していたとある財団職員が、無線信号を検出した。

歪みがひどく判読は不可能であったが、追跡の結果ジョッパ近郊の非法人地域まで追うことができた。財団はポリシーに従い、インディアナポリスからサイト-81の職員を派遣。
結果、SCP-2935の発見に至った。

最初の調査として、無人ドローンを使用した探査が行われた。
前述のとおりSCP-2935は全てが死んでいることを除けば構造的には地球と同一であるため、職員らは当初、自分たちがSCPであろう異常存在を発見したことを認識していなかった。

が、周辺の観察および、検出された無線信号の完全なものと思しき放送の受信により、この別世界はSCPと認定された。
ちなみにその無線の内容がこれである。

これはSCP財団および貴方がたの国の政府からの自動放送です。私たちのサイトの1つ以上が通信断絶状態にあり、不明な規模の収容違反が発生した可能性が濃厚です。収容チームが封じ込めを再確立するために活動している間、全ての市民は屋内に留まってください。このメッセージは2016年4月20日から―――

どうやら、別世界にもSCP財団とそのサイトが存在していたことが判明した。


調査

サイト司令部は職員らの報告を受け、ただちに機動部隊イプシロン-13 “マニフェスト・ディスティニー”を派遣。SCP-2935の探索に乗り出した。
探索任務は目的別に4回に分けられているが、派遣された部隊およびドローンは現地に留まって任務を遂行したため、探索自体はこの一回のみが行われたことになる。

・ミッション1:SCP-2935入場ポイントを直接的に取り巻く領域の調査、および情報とサンプルの採取。


ジュノ隊長率いる機動部隊はSCP-2935に突入後、明らかな異変を観測した。
生きている植生が存在せず、雑草に至るまで全て枯死していたのである。

その後、一軒の農家へ立ち入った彼らが見たものは、住人と思しき三人の成人の遺体であった。
テーブルの上の新聞を確認したところ、元の世界における同じ日の新聞と正確に一致するものであった。さらに掛け時計は、調査日である2016年4月28日を示していた。
だが、異状はすぐに発見された。
テーブルの上の食事や3人の遺体は、ホコリをかぶって乾燥してはいたが、一切腐敗していなかったのである。

テレビは動いていたが、通販番組のチャンネルに移るコメンテーターらはやはり死んでいた。
一旦入口まで引き返した彼らだが、その道中でさらなる異変に気が付いた。

別世界には、風以外の一切の音が存在しなかったのである。虫も、獣も、鳥も、車も。

サンプルを調査したところ、微生物すらも死滅していたことが判明した。


・ミッション2:財団サイト(サイト-81)へ到達し、財団サーバーから情報を取得し、そこに前哨キャンプを確立する。


増援と合流した調査隊は、二班に分かれてさらなる調査を開始した。
エージェント・ロイ率いるロイ班は、モンロー湖貯水ダムの地下にある別世界のサイト-81ヘ向かった。
幸いアクセス用エレベーターは生きていたが、班員たちは疑問を抱いていた。

全ての発端となったサイト-81からの自動放送。だが、そこまで達するならば、19日から20日にかけてサイト-81に勤務していた彼らは収容違反警報を聞いていなければおかしい。
疑問をぬぐえぬままサイト-81に到達した彼らを待っていたのは、元の世界における19日から20日にかけて、サイト-81に勤務していたであろう職員らの死体だった。

システム上の問題を考慮したのち、現状や元の世界との矛盾について違和感を覚えた班員たちは、AIADへのアクセスを試みるが、コンソールの上では起動しているにも関わらず一切の応答がなかった。

その後、ロイ班長とケラー班員はインディゴ班員のチームへ合流。
そこで彼らが見たものは、ロイ班長自身の死体であった。
死体となっているロイ班長は、元の世界の19日にサイト-81でロイ班長が試験を行っていた火器を所持していた。
ほかの死体もそうだが、やはり腐敗は起きていない。乾燥しているのみである。

その直後、エージェント・ケラーによりある事実が判明する。
サイト-81におけるSCP収容棟への物理的アクセスの可否を確認していたケラーは、異変の発生から5日後にあたる4月25日に暗号化された保安警報が手動で入力されたというログを発見した。
フェイルセーフが過剰なほど存在する財団サイトにおいて、暗号通信はまずあり得ない。あるとすればそれは、誰かが手動で仕込んだものでしかない。

つまり、あの異変をわずかにも生き延びた誰かが―――その誰かは間違いなく財団職員だろうが、彼が通信を打ち込んだのだ。

その後、チームは収容棟の調査を開始した。
相手はSCP、彼らにとっては慣れた、そしてどこまでも危険な相手である。ゆえに十分な警戒を持って突入した。

SCP-2151。ペアリングを身に着けた二人の融合体である肉の塊は、死んでいた。

次に彼らが発見したのは、別世界におけるエージェント・ケラーの死体であった。が、何故か彼の死体だけは腐敗しており、そもそも元の世界ではこの場所にケラーはいなかったはずだという。
気味の悪い不一致に部隊の面々は不安を覚えつつも、探索を続行する。

SCP-2996。詳細も所在も不明になっていた亡霊少女は、飛び散って消えていた。

生物学的なSCPは全て死亡、非生物的なSCPは全て不活性状態に陥っていた。

と、ここでエージェント・インディゴがあることを思い出し、エージェント・ロイに尋ねた。
エージェント・ロイは4月19日頃、サイト-19ヘあるSCPを移動する任務に就いていた。その途中で数日ほどサイト-81を経由し、当該SCPをここの収容棟へ収容していた。

エージェント・インディゴは問うた。

「それはいつですか?」

奇妙な予感にかられたエージェント・ロイは、班員を率いて当該SCPがいた―――今もいるだろう収容棟に飛び込んだ。
ここにある収容室はEuclidおよびKeterクラス実体用だが、大半は空である。移送のために一時収容された当該SCPを除いては。

セキュリティドアの向こうにあったのは、酸のタンクを乗せた巨大な鋼鉄のコンテナ。


開かれた扉の向こう。






SCP-682が、死んでいた。





財団があの手この手で殺害を試み、そのどれもが不首尾に終わったあの不死身のクソトカゲが、内側そのものたるSCP-2719にすら適応したSCP世界の公式チートアリゲーターが、死んでいたのだ。

この後、エージェント・ロイ班は一時後退。ジュノ班と合流した。


・ミッション3:SCP-2935内部のサイト-19まで移動し、状況を確認する。


ロイ班はその後、司令部よりの指示に従い、サイト-19へと移動し状況を確認した。
やはり、サイト-81と似たような状況であった。
ほとんどのサイトが19へ連絡を取ろうとしていたらしく、通信ログは一杯であった。

エージェント・ケラーはある首飾りを発見した。SCP-963。不活性化している。
財団の名物博士にしてスーパートラブルメーカー、ブライト博士も死んでいた。もっとも彼に限って言えば、「漸く憩う」ことが出来たのだろう。

SCP-173。目を離しても、殺しに来なかった。

SCP-079。完全に沈黙していた。

調査が進む中、エージェント・ケラーはこう述べた。

全員、死んでいます。一人残らず。どうしてまだ分からないんですか? 俺たちはただのクソ忌々しい回収任務をやってるわけじゃない。救うためにここに居るんじゃないんです。ここには救いを待ってる奴なんかいない。俺たちが集めた証拠は、皆が……そう、皆がです。皆が死んでいるという事を示してる。
財団のサイトは全てが同一の通信エラーを起こして封鎖されている。ここだけじゃない、全世界です。掩蔽壕に避難した者もいないでしょう―――誰もが死んだんだ!
でも此処は俺たちの世界じゃない。他の誰かの、です。俺たちのは…安全です。何も俺たちの世界には起きていない。

しかしこの直後、調査班は電力コアルームに閉じ込められ、さらに緊急違反プロトコルの作動により核弾頭が起爆。
これ以後、調査班との通信は完全に途絶した。

なおこの探索任務の間、通信機器に何らかのトラブルが発生していたらしく、エージェント・ケラー以外の音声記録は拾えていない。
この状況はエージェント・ケラーにも通知されたらしいのだが、特に機器の点検や修理をする様子は見せなかったようだ。
司令部からの通知が届かなかったのか、はたまたエージェント・ケラーが故意に無視したのか。真相は謎のままである。


・ミッション4:SCP-2935世界の全体的状況を評価するため、MTF E-13によるサイト-19の偵察(ミッション3)と並行して、自動化されたドローンを飛ばす。


ドローンから送られた映像に映っていたのはまさに全てが死に絶えた世界。どこからか火が出たのか、近隣都市では大規模な火災まで発生しているようだ。
一通り周辺を見て回ったドローンはサイト-19の滑走路に着陸、ソーラーパネルを展開して休止状態に入る。
5時間後、ドローンが来たことを察知したエージェント・ケラーが、ドローンを再起動させるために一人出てくる。
エージェント・ケラーは部隊が回収した物品やデータをドローンに積み込んだ後、メインカメラを見つめながら遺言あるいは懺悔とも取れる言葉を残すと、サイト内部に戻っていく。

サイト-19から離陸し帰還の途に就いたドローンは、その道中にてサイト-19における核弾頭の起爆を確認。
以降は何事もなく、無事に全ての物品・データを現実世界側へと持ち帰った。


調査結果

回収されたアーティファクトや映像記録を調べた結果、謎の突然死が起きたのはアメリカ標準時03:13であり、全ての生物およびそれに類する存在が、この瞬間一斉に死亡したことがわかった。
だが、その原因は今もって不明。

SCP-2935は現在、財団により閉鎖されアクセスは不可能となっている。


また、エージェント・ケラーがサイト-81で発見した、何者かが手動で打ち込んだ暗号化済みの保安警報。
これをデコードしたところ、音声記録が発見された。



一体何が起こったのか?

SCP-2935の正体は、「入れ子構造になった世界の中を移動する死の概念」である。
乱暴に例えると、例の洞窟は時空ポータルであり、その先には極めて良く似た全く別の世界が繋がっている。
そして、ある世界からその先の世界に入った場合、行き来はその二つの間でしか出来ない。
一つの世界の住人が例の洞窟を通じて行き来できるのは、元の世界からつながる世界の、いずれか1つに限られるのだ。

今回のケースで財団が発見した世界をB世界とする。
B世界のエージェント・ケラーはある日、ジョッパ近郊の洞窟から発信されている謎の信号の調査に、恐らく単独で向かった。
だがその先にあったC世界は、既にSCP-2935によって全てが死滅していた。向こう側のケラーは、音声記録を聞く限りではまさに「それ」が起きたタイミングで侵入したらしい。
向こう側のケラーはそのC世界のことを伝えるべく、B世界の財団に帰還した。しかしその時、彼言うところの「死」(死神)が、向こう側のケラーとともにB世界に入り込んでしまった。

結果、持ち込まれた「死」によってB世界は滅亡。キャリアとなった向こう側のケラー自身はそれによっては死ななかったが、自分が「死」になってしまったことを悟った彼はメッセージを残して自殺。
B世界のエージェント・ケラーの死体が腐敗していたのは、ケラーと同じようにキャリアとなった微生物が生き残っていたためであろう。
そして、A世界、つまり財団世界のエージェント・ケラーがそのメッセージを発見、恐らくはそれをデコードして真相を知り、「死」となってしまった自分たち調査チームをB世界で葬るため、あえて核弾頭で自爆した……というのが一連の流れである。

向こう側のケラーの「あなたもきっと、死になってます」という提言は、「誰かがここに辿り着いてこのメッセージを聞いているのなら、既に死のキャリアとなっているはず」という推測である。
だから、それをサイト-81で聞いてしまったケラーは、死の拡散を防ぐために調査チームごと自らを葬り去ったのである。


余談

この記事の主役であるエージェント・ケラーであるが、彼はSCP-2127「ヒンターカイ・ファン!」にも登場している。
が、この御仁なんとあちらの記事でもオブジェクトに殺されている。どんだけめぐり合わせが悪いんだケラー。



SCP-2935


O, Death(あゝ死よ)




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