その日投稿された動画には、財団の遺体安置室内に設置された遺体台の上で痙攣するサイモン少年の遺体と、台の上に座り、まっすぐに画面を見つめる『SCP-2352-2』の姿が映し出されていた。
約8秒ほど経過した後、不意に『SCP-2352-2』が男とも女ともつかない声色で語り始める。
「俺を休ませてほしいんだ」と、彼はそう言った。
彼の種族は絶滅の危機に瀕しており、彼自身も生きる歓びを見失っていた。
そんな中、自らの動画を配信するサイモン少年の姿を見かけた『SCP-2352-2』はーー
そう、私は彼に惹かれたのだ。彼は私に考えるべき何かを与え、現実から私の思考を逸らしてくれた。
こんな生き方もあるのか。彼がそう思い始めた刹那、サイモン少年は不慮の事故によってこの世を去ってしまったのだ。
無論、私は取り乱した。彼の動画を見ていた他の少数の者たちも同様だったと私は確信している。だから…だから、私は彼を生き返らせようと決めたんだ。
これは自分のエゴだというのはわかっていた。でも、『SCP-2352-2』は自らの行為を止められなかったのだ。
彼にあの世から引き戻されたことで、最初サイモン少年は混乱していた。
しかし、『SCP-2352-2』は少年を説得して死者の動画配信をスタートさせたのである。
まだ、動画配信を続けられる。
サイモン少年は、本来ならありえないこの状況を最初は素直に楽しんでいたらしい。
『SCP-2352-2』も、無味乾燥だった日々にやっと生きがいを見つけることができ、充実した日々を送って来た。
しかし、幸せな日々は長くは続かなかった。
サイモン少年の身体が腐敗し始めたのだ。
異次元の存在である『SCP-2352-2』も、時の流れには勝てなかったのだ。
だんだん、サイモン少年は満足に喋ることができなくなって来た。
撮影そのものも苦痛になって来た。
しかし、『SCP-2352-2』は撮影を止めることが出来なかったのだ。
既に、動画の撮影と配信がライフワークとなっていたからだ。
恐らく私は、彼に少し負担をかけてしまった。結局のところ、これは私が数ヶ月前に発見したヒトと同じ物では無かった。そして君たちは恐らく、その結果を目にしている…
でも、やがて『SCP-2352-2』は気づいた。
私が彼をこのような有り様に変えてしまったのだ。だから…私はきっと彼を休ませてやらねばならない…
配信をやめてしまったら、自分の人生はどうなってしまうのかわからない。
でも、これ以上サイモン少年を苦しめるわけにはいかない。
さようなら、サイモン…
横たわった少年の口が、「ありがとう」という発音の形に動いた後、彼の体は二度と動かなくなった。
そして、それを見届けた『SCP-2352-2』は画面からフレームアウトして、動画は終了した。