登録日:2011/04/04(月) 04:10:12
更新日:2022/02/13 Sun 22:29:30
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わたくしといふ現象は
仮定された有機交流電燈の
ひとつの青い証明です
『Boy's Surface』とは円城塔の小説、及びその表題作。
表紙の色から「ピンクの本」と呼ばれた単行本と、それに“解説”を加えた文庫版が早川書房から刊行されている。
尚、本稿は文庫版を基に述べていく。
【概要】
四篇+解説の全五篇からなる恋愛小説集……のはず。
作者の小説が基本的によくわからない調子でよくわからないことを言っているのは常だが、本書は「本気で書いた」というだけあって輪も拍車も掛かったよくわからなさがある。
仮に「円城塔の小説を読み始めてみたい」という人にこの本を渡したとしよう。
後日、あなたは質問攻めにあうか、本を投げ返されるか、あるいは質問攻めにあった挙句本を投げ返される可能性があるので覚悟しておくべきだ。
その人が携帯小説『あたし彼女』を読んで「ふーむ、とんでもない文字系列生成オートマトンが出てきたな……」と考える猛者であれば、もしかしたらすんなり好きになるかもしれない。
一方、恋愛小説としてどうなのかというと、男の子と女の子が嬉し恥ずかしできゃっきゃうふふな展開は無い。勿論、男の子同士や女の子同士のそれも無い。
あるのは男女の考え方のちょっとしたすれ違いだったり、時空間的なすれ違いだったり、ささやかでわかりにくい好意だったり……。
全体的に恋愛が5パーセント、それ以外が95パーセントと考えて頂いて差し支えない。
いや、ひょっとしたらこれは文系の永遠のテーマのひとつ「恋愛って何よ?」ってのを回りくどく理系的にアプローチした小説群……なのかもしれない。
【CONTENTS】
●Boy's Surface
変人数学者のアルフレッド・レフラーはフランシーヌ・フランスと如何にして恋に落ち、如何にして別れたか──。
ここだけ抜き出すと恋愛小説っぽいが、何せ語り手が「紙の上に書かれた基盤図形を見ると青白い球体として空中に生成され、図形を変換して文字列として出力する機能を持つ数学的構造体」のレフラー球。
タイトルはヴェルナー・ボーイさんが発見した実射影平面の三次元空間への嵌め込みの一つである「ボーイ曲面」と「青年の表面」の駄洒落である。
ここまで何を言っているのかよくわからないと思う。
正直なところ、僕にもよくわからない。
(#詳しい方の解説を切実にお待ち申し上げております)
“博士を愛せなかった数式”
●Goldberg Invariant
忽然と姿を消した防衛戦の英雄・霧島梧桐。
彼の失踪については戦役の発端となった計算クラスタ「GRAPE 64」と、キャサリンたちと、キャサリンのことを語らねばならない。
恋愛小説っぽくなさはピカイチで、もう一度じっくり読み返してみると……やっぱり恋愛小説っぽくない話。
“林檎と書いたのを林檎に気づかれぬよう”
●Your Heads Only
午前三時、春先。あるいは初秋。
ポスト・ドクターの僕は彼女からの電話で起こされる。
彼女は知人の家を転々と渡り歩いているみたいだけど、これは家出ではないらしい。
曰く「閉め出されたからこうしている」。
僕が言うのも何だが彼女は変だ。異常とまでは程遠いが、それでも十分変わっている。
まるで人間だ。
“読者を読み出す/書き出す恋愛小説機関”
●Gernsback Intersection
相対的に一番ボーイ・ミーツ・ガールしている話。
黒髪の少女が出てくる。
巨大花嫁も出てくる。
巨大花嫁に進攻する花婿一個連隊も出てくる。
お話の流れを申し上げると、これが、
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↓↓↓↓↓
□♂
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↓↓↓↓↓
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♀
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↓↓↓↓↓
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↓↓↓↓↓
□□ ♂
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♀
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こうなる。そんな話。
“その未来にいない私と僕の超遠距離恋愛”
●What is the Name of This Rose?
文庫版に書き下ろした、限りなく短篇に近い解説。
解説の解説が欲しい。
【余談】
「Boy's Surface」は氏の博士論文を応用していて思い入れのある作品とのこと。
尚、執筆にあたって担当編集者に提出したプロットがこちら。
……渡された側は困ると思う。
伊藤計劃氏との対談によると「Your Heads Only」は手クセ七割で書いたそうだ。
追記・修正よろしくお願いします。