そして誰もいなくなった

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そして誰もいなくなった - (2020/04/29 (水) 22:47:29) の編集履歴(バックアップ)


登録日:2010/09/19(日) 14:09:16
更新日:2024/04/19 Fri 11:01:21
所要時間:約 5 分で読めます




人のインディアンの少年が食事に出かけた。
一人が喉を詰まらせて、人になった。

人のインディアンの少年が遅くまで起きていた。
一人が寝過ごして、人になった。

人のインディアンの少年がデヴォン*1を旅していた。
一人がそこに残って、人になった。

人のインディアンの少年が薪を割っていた。
一人が自分を二つに割って、人になった。

人のインディアンの少年が蜂の巣を悪戯していた。
蜂が一人を刺して、人になった。

人のインディアンの少年が法律に夢中になった。
一人が大法院に入って、人になった。

人のインディアンの少年が海に出掛けた。
一人が燻製のにしんにのまれ、人になった。

人のインディアンの少年が動物園を歩いていた。
大熊が一人を抱きしめ、人になった。

人のインディアンの少年が日向に座った。
一人が陽に焼かれて、人になった。*2

人のインディアンの少年が後に残された。
彼が首をくくり、後には誰もいなくなった。

※本によって和訳に違いがある場合があります。





AND THEN THERE WERE NONE
そして誰もいなくなった








―――私にとって、これが「こんな作品が書きたい」という目標であることはいつまでも変わらないだろう。

川 次郎


〈概要〉

"そして誰もいなくなった"は、小説家アガサ・クリスティの書いた推理小説。
同氏の代表作の1つであり、全世界で1億冊以上を売り上げたとされる。
舞台は陸から1マイル程度離れた孤島、「インディアン島」に建てられた洋館であり、
「孤島の洋館で起こる連続殺人事件」と言われて、この作品を連想する人は少なくないと思われる。


ちなみに、発表当時の原題は「Ten Little Niggers (10人の小さな黒人)*3」という、表現的に危ないものであったため、後に「And Then There Were None (そして誰もいなくなった)」に改題された。
なお、冒頭の童謡の歌詞や島の名前も「Nigger」だったが、上記の通り「Indian」に変更されている。
また、最近では「Indian」も差別用語とする見解があることから、童謡のその部分が「Soldiers」に変えてあるものもあるとか。



〈ストーリー〉

互いに面識の無い十人の男女が、様々な理由で孤島「インディアン島」に招かれた。
しかしそこに招待主であるオーエン夫妻の姿はなく、そのまま夜になり夕食を済ませた時、どこからともなく客達の過去の罪を告発する声が響いた。
そこから一人、また一人と童謡に沿って殺されていく……。

果たして犯人は誰なのか? そして犯人の目的は……?



〈登場人物〉

アンソニー・ジェームズ・マーストン
遊び好きの若いあんちゃん。
友人から電報が来たんで、深く考えず遊びに来たらしい。
登場していきなりアームストロング医師の車と事故りそうになるなど、車の運転がめちゃめちゃ荒っぽい。
告発によると、その危険運転で2人の子どもを轢き殺したが事故として片づけられたとのこと。なお、反省の色ゼロ。
人目の犠牲者。
オーエンの告発にも動じず、むしろ面白がっていたが、その直後に「喉を詰まらせた」の歌詞どおり酒に毒薬を盛られて窒息死した。

――― 一人が喉を詰まらせて、人になった。


エセル・ロジャース
オーウェン夫妻に雇われたコックで、執事のトマスの妻。
料理の腕はとてもいい模様。
告発によると、かつて仕えていた老婦人の遺産を手に入れるため、夫と共謀して主人の持病による心臓発作をわざと放置した。
人目の犠牲者。
アンソニーの死にショックを受けて気絶。そのまま寝室に運ばれたが、「寝過ごした」の歌詞どおり就寝中に致死量の睡眠薬を盛られる。

――― 一人が寝過ごして、人になった。


ジョン・ゴードン・マカーサー
退役した老将軍。GHQの最高司令官とは何の関係もない。
「あなたの軍時代の旧友が、あなたをお呼びしたいとのことだから」と招かれたらしい。
告発によると、妻と不倫関係にあった部下をわざと死地に送り込んで死なせた。
人目の犠牲者。
「デヴォンに残った」の歌詞どおり散歩に出た先で撲殺され、屋敷に帰ってくることはなかった。
犯した罪の影に怯える人生に疲れ切っており、殺される直前にはこれで「終われる」事に安堵の顔さえ見せていた。

――― 一人がそこに残って、人になった。


トマス・ロジャース
オーエン夫妻に雇われた執事。エセルの夫であり、夫婦で使用人を生業としている。
なお、雇われたのは本編開始のわずか1週間前である。
告発によると、かつて仕えていた老婦人の遺産を手に入れるため、妻と共謀して主人の持病による心臓発作をわざと放置した。
殺された順番からして、おそらく彼の方が主犯。
人目の犠牲者。
連続殺人が起こってからも使用人の仕事をこなしていたが、「斧で自分を真っ二つ」の歌詞どおり薪割りの最中に斧で頭をカチ割られる。

――― 一人が自分を二つに割って、人になった。


エミリー・キャロライン・ブレント
カトリックの信仰篤い老婦人。
避暑地のホテルで知り合った人物に招かれたことになっていた。
何でもかんでも自分が正しいと思い込んでおり、それ故に標的に選ばれることに。
告発によると、不義の子を身ごもったメイドにつらく当たり、自殺に追い込んだ。
人目の犠牲者。
生き残り達による捜査にも我関せずといった態度だったが、「蜂に刺される」の歌詞どおり首筋に毒物を注射される。*4

――― 蜂が一人を刺して、人になった。


ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ
元判事の老爺。有罪判決の多さから、一部では"首吊り判事"と呼ばれている。
インディアン島へは旧友の女性に招かれたらしい。
告発によると、誰もが無罪と信じていた被告を決定的証拠もないまま死刑にした。
人目の犠牲者。
職業由来の毅然とした厳格さで一同を引っ張っていた彼も「大法院に入る」の歌詞どおり判事の正装に見立てた仮装をさせられ銃殺される。

――― 一人が大法院に入って、人になった。


エドワード・ジョージ・アームストロング
ロンドンの名医が集うハーレー街に医院を構える医者。
黒船に搭載されてた大砲や、某筋肉錬金術師とは何の関係もな(ry
オーエン夫人の診察を頼まれていたとのこと。
告発によると、泥酔したまま手術を執刀して助かるはずだった患者を死なせた。
人目の犠牲者。
深夜に行方不明になり、生き残り達は彼こそがオーエンだと色めき立つが、「海で燻製のにしんに呑まれる」の歌詞どおり何者かに海に突き落とされて溺死していた。

――― 一人が燻製のにしんにのまれ、人になった。


ウィリアム・ヘンリー・ブロア
元警部の現探偵。
オーエン氏に来客者を見張るよう依頼されたと主張する。
告発によると、虚偽の証言で無実の男に強盗殺人の罪を被せて獄死させた。
控えめに言って外道。警察仲間からも嫌われていたらしい。
人目の犠牲者。
腕力と体力に自信があったようだが、「大熊に抱きしめられる」の歌詞どおり熊の形をした大理石像を脳天に落とされてはひとたまりもなかった。

――― 大熊が一人を抱きしめ、人になった。


フィリップ・ロンバート
元陸軍大尉。現在は、アウトローという名のプーな伊達男。
モリスと名乗る男の依頼でインディアン島へ赴く。
告発によると、東アフリカの任地で現地人の部下21名を見捨て、食糧を奪って死なせた。
人目の犠牲者。
残り二人になったためヴェラとお互いに犯人と決めつけ合い、諍いの末に自分が持ち込んだ拳銃を奪われて撃たれる。
死体は歌詞どおりに「砂浜で陽に焼かれる」ことになった。

――― 一人が陽に焼かれて、人になった。


ヴェラ・エリザベス・クレイソーン
秘書と家庭教師を職業とする若い女性。
秘書としてオーエン夫妻に雇われる事になっていた。
告発によると、体の弱い教え子に泳げるはずのない距離を泳ぐ許可を与えて溺死させた。
人目の犠牲者。
恐怖からの解放と殺人を犯した興奮、過去の罪の意識等がないまぜになった錯乱状態の中、自室に戻ると首吊りのロープがセッティングされていた。
見えない何かに誘われるかのように、歌詞どおりに自分から「首をくくる」。

――― 彼が首をくくり、後には誰もいなくなった。



オーエン夫妻
彼ら十人を島に招いた富豪。
夫はユリック・ノーマン(Ulick・Norman)、妻はユナ・ナンシー(Una・Nancy)と名乗っており、どちらともU.N.オーエンとなる。



※以下真相を暴く為のヒント的なもの(微妙にネタバレ注意)











"燻製のにしん"とは、英語圏において「注意を他の事にそらす」という意味で使う慣用句。





なお戯曲化された際には結末が異なっている他、ゲーム化もされている。
また2017年にはテレビ朝日にて、舞台を日本に置き換えた仲間由紀恵主演の「事件編」、及び沢村一樹主演の「解決編」による前後編のSPドラマを放送。
渡瀬恒彦の遺作となった。渡瀬氏の役柄とリアルでの病状等とのリンクが洒落になっていなかったとも言われる。
上述した通り、原作とは違い「解決編」部分がオリキャラの刑事による推理シーンに変更されており、このオリキャラ刑事主役編として、ミス・マーブルシリーズを原作としたドラマも後に放送されている。

クローズドサークル及び見立て殺人の金字塔とも言える名作であるがゆえに、パロディも多く存在している。
特にクローズドサークルものの作品では、登場人物が自分たちの置かれた状況について「まるで"そして誰もいなくなった"のようだ」とこの作品そのものに言及することもしばしば。
また、見立て殺人ものにおいては、犯人がこの小説に見立てて殺人を行うという作品が一つならず存在している。

日本の推理小説においては、綾辻行人による『十角館の殺人』が特に有名だろう。
上述のとおりに、登場人物による「"そして誰もいなくなった"のようだ」という状況確認が何度も出てくるだけでなく、シチュエーションやプロットをほぼそのまま踏襲しているのは、旧版や新装版の巻末解説でも触れられている。
そしてもちろん、その踏襲こそがトリックのみならずドラマ面においても大きな役割を果たしている。
氏がその才覚によって新本格の先駆となるのは変わりなかったにしても、この"そして誰もいなくなった"がなかった場合、それは『十角館~』ではない全く違った小説によって成されていたはずで、そういった意味では日本の新本格ミステリ史を語るうえで外せない作品でもある。




一人のWiki篭りが後に残された。
彼が追記・修正をし、後には誰もいなくなった。

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