ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko1026 むらさの舟歌
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ankoss
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作:神奈子さまの一信徒
淡々とした観察系小ネタです。
南の島シリーズでちょっと出したむらさの生活史について考えてみました。
ほとんど独自設定、ちょっとだけ南の島後半の外伝要素あり、ご注意ください。
淡々とした観察系小ネタです。
南の島シリーズでちょっと出したむらさの生活史について考えてみました。
ほとんど独自設定、ちょっとだけ南の島後半の外伝要素あり、ご注意ください。
『むらさの舟歌』
地球の表面積の七割を占める、海。
母なる海と賛美されるその場所は、太古の昔から、生命のゆりかごであり、
同時に、大空や地上よりも古くから激闘が繰り広げられてきた戦場でもある。
同時に、大空や地上よりも古くから激闘が繰り広げられてきた戦場でもある。
水中の覇権を争うもの、海底の覇権を争うもの、
海藻の上、砂の隙間、わずかなニッチを争い、共有し、
命の欠片は今日も桜吹雪のように海中に狂い咲き、舞い散っていった。
「よーそろー!!!」
そのような環境に進出したゆっくりがいた。
むらさである。
むらさである。
むらさは、ゆっくりの中でも珍しい海棲種であり、主に浅海域に棲息してい
る。にとり同様、表面に特殊な皮があるため、水に溶けないとされているが
詳細はまだ分かってない。
大きさは成体でサッカーボール程度、サイズ自体は標準的なゆっくりで
ある。外見的特長は黒い髪、真っ白な水兵帽と、その中にしまい込んである
石灰質のあんかーである。中には柄杓を持っている個体も観察されているが、
すべての個体が持っているわけではないらしい。
る。にとり同様、表面に特殊な皮があるため、水に溶けないとされているが
詳細はまだ分かってない。
大きさは成体でサッカーボール程度、サイズ自体は標準的なゆっくりで
ある。外見的特長は黒い髪、真っ白な水兵帽と、その中にしまい込んである
石灰質のあんかーである。中には柄杓を持っている個体も観察されているが、
すべての個体が持っているわけではないらしい。
むらさは希少種として知られ、大枚をはたくことをいとわなければ、ペット
ショップでも手に入ることがある。水上まりさよりも飼育は困難であり、繁
殖に成功したという例は正式な報告としては確認されていない。
ショップでも手に入ることがある。水上まりさよりも飼育は困難であり、繁
殖に成功したという例は正式な報告としては確認されていない。
しかしながら、天然の浅海域においては、むらさ種は決して珍しい種ではな
く、海域によっては食物連鎖の重要な地位を占めていることもある。
く、海域によっては食物連鎖の重要な地位を占めていることもある。
近年は飼育技術・分子生物学の発達によって、品種改良を受けた、純淡水産
むらさ種、陸上飼育用むらさ種などが試験的に生産され、ダム湖やビオトー
プへの放流、愛玩用として少数ながら出回っている。これらについては本報
告では触れない。
むらさ種、陸上飼育用むらさ種などが試験的に生産され、ダム湖やビオトー
プへの放流、愛玩用として少数ながら出回っている。これらについては本報
告では触れない。
ここに、近年の研究によって明らかになったむらさ種の天然環境下での生態
について記す。
について記す。
春はむらさ種の繁殖期にあたる。冬の間、浅海域に生育する海藻類をたっぷ
りと食べた成体むらさは、春になって南からの暖かい海流が勢力を増すと、
発情し、すっきり、産卵を行う。
りと食べた成体むらさは、春になって南からの暖かい海流が勢力を増すと、
発情し、すっきり、産卵を行う。
「むらむらするよ~!!!とってもむらむらするよ~!!!」
「「すっきりー!!!」」
「あ゛~、もうがまんできない!!まだむらむらしちゃう~!!!」
「「すっきりー!!!」」
「あ゛~、もうがまんできない!!まだむらむらしちゃう~!!!」
頬を赤らめ、全身からぬめぬめした粘液を放出してすっきりするむらさ、し
ばらくするとその頭から茎が伸び、先端に半透明のカプセルに包まれた赤む
らさが生じる。
ばらくするとその頭から茎が伸び、先端に半透明のカプセルに包まれた赤む
らさが生じる。
「むらむらするあかちゃん!ゆっくりしていってね!!!」
どこか間違っているが、とりあえず赤ちゃんが生まれたことを喜ぶ親むらさ。
植物性出産の場合、すっきり後2−5日で、赤むらさが自分でカプセルを食
べて孵化する。
植物性出産の場合、すっきり後2−5日で、赤むらさが自分でカプセルを食
べて孵化する。
「ゆっくちちていってね!!」
「ゆっくちむらむらちゅるよ!!!」
「よーしょろー!!!」
「ゆっくちむらむらちゅるよ!!!」
「よーしょろー!!!」
生まれた赤むらさは合計13匹。彼らは親の保護を受けず、そのまま海へと
散っていく。植物型出産の場合、生まれる赤むらさは小さく、その代わりに
水兵帽が体に対して大きい。この水兵帽の中にガスを分泌し、それによって
海面近くに浮き、海流に乗って分散するのである。
散っていく。植物型出産の場合、生まれる赤むらさは小さく、その代わりに
水兵帽が体に対して大きい。この水兵帽の中にガスを分泌し、それによって
海面近くに浮き、海流に乗って分散するのである。
「うみさんにぷーかぷーかしゅるよ!!」
「ぷーかぷーかはゆっくりできりゅね!!!」
「ぷーかぷーかはゆっくりできりゅね!!!」
この時期を赤むらさの「浮遊期」と呼ぶ。
浮遊期のむらさには、遊泳能力はほとんどなく、その移動は海流任せとなる。
そのため、生きていくのに不都合な環境にたどり着いてしまうケースも多い。
浮遊期のむらさには、遊泳能力はほとんどなく、その移動は海流任せとなる。
そのため、生きていくのに不都合な環境にたどり着いてしまうケースも多い。
「ゆゆ!?なんだかおみじゅさんのあじがかわっちゃよ!!」
この赤むらさは河口に近づいているようだ。満潮時の海から川への逆流に乗
って、川の中に侵入する。
って、川の中に侵入する。
「ゆゆ!?きょきょはごはんしゃんがいっぱいだよ!!!」
河口付近の海水と淡水が交じり合う汽水域は、河川が上流域から運んできた
栄養塩が流れ込むため、プランクトンなどの餌が豊富なエリアである。
そのため、汽水域に集まり、餌が豊富なこの環境で幼い時期を乗り切る魚種
は少なくない。
栄養塩が流れ込むため、プランクトンなどの餌が豊富なエリアである。
そのため、汽水域に集まり、餌が豊富なこの環境で幼い時期を乗り切る魚種
は少なくない。
「むらむらしゅる!!むらむらしゅるよ~!!!」
先程の赤むらさは全身を紅潮させ、粘液を放出している。
「ねばねばさんにごはんさんついちゃよ~!!むーしゃむーしゃ…ちあわし
ぇ~!!!」
ぇ~!!!」
浮遊期のむらさはこの粘液を網のように海中を振り回し、そこに付着したプ
ランクトンや水中懸濁物を粘液ごと食べるのである。
ランクトンや水中懸濁物を粘液ごと食べるのである。
「ゆゆ~!!!ぽんぽいっぱいだよ…ちょっちょくるちいよ…」
だが、それは食べすぎのせいだけではなかった。この赤むらさは川に深く入
り込みすぎていた。
り込みすぎていた。
「ゆぴぴぴぴ…くるちいよ…ゆっくり…できにゃい…」
淡水の影響が強い水域に入り込むことで、むらさの浸透圧調整能力の限界を
越えてしまったのだ。淡水が全身からむらさの体内に入り込んでくる。
ビー玉ぐらいの大きさだった赤むらさは、今や、テニスボール大にまで膨れ
上がっていた。だが、その体は薄く風船のようであり、今にも破裂しそうだ
った。
そして、限界が訪れる。
越えてしまったのだ。淡水が全身からむらさの体内に入り込んでくる。
ビー玉ぐらいの大きさだった赤むらさは、今や、テニスボール大にまで膨れ
上がっていた。だが、その体は薄く風船のようであり、今にも破裂しそうだ
った。
そして、限界が訪れる。
「もっちょ…むらむら…しちゃ…ゆびびっ!!!」
ポンッという音が聞こうてきそうな勢いで赤むらさは破裂した。目と皮は四
散し、中身の黒蜜だけが少しずつ海水に混ざり、分散していった。
成長すると、塩分変化への耐性も備えるようになるが、浮遊期の赤むらさは
まだまだ脆弱である。
散し、中身の黒蜜だけが少しずつ海水に混ざり、分散していった。
成長すると、塩分変化への耐性も備えるようになるが、浮遊期の赤むらさは
まだまだ脆弱である。
また、この時期は外敵に対して無防備であり、浅海域の表層付近を遊泳する
ボラやイワシ、アジなどに捕食される。また、ミズクラゲも運動能力の乏し
い浮遊期のむらさには脅威である。
ボラやイワシ、アジなどに捕食される。また、ミズクラゲも運動能力の乏し
い浮遊期のむらさには脅威である。
「ゆゆ~!?なんじゃかゆっきゅりちたものがぷーかぷーかちてるよ!!」
ミズクラゲがその傘の部分で作り出す水流、またはその触手に触れれば最期
である。
である。
「いじゃい!!!いじゃいいい!!!ぴりぴりはゆっぐりできにゃ!?きもぢ
わぶっ!!!ゆげえええ゛!!!」
わぶっ!!!ゆげえええ゛!!!」
先程の赤むらさはミズクラゲの触手に絡め捕られ、無数の刺胞を打ち込まれ
ていた。人間ならピリッと一瞬痛みが走る程度だが、赤むらさには致命傷で
ある。体は麻痺し、もう逃げることは出来ない。
ていた。人間ならピリッと一瞬痛みが走る程度だが、赤むらさには致命傷で
ある。体は麻痺し、もう逃げることは出来ない。
「ゆげっ!!ゆ゛!ゆ゛!ゆ゛!!」
そのままクラゲの口に取り込まれ、胃に収められてしまった。こうなっては
消化されるだけである。クラゲは体が半透明な種類が多いため、赤むらさが
クラゲの体内で溶けていく様子はじっくり観察できる。
一時間もすれば、赤むらさの皮はぐちょぐちょになり、体のどこがどこなの
か見分けがつかなくなるだろう。
消化されるだけである。クラゲは体が半透明な種類が多いため、赤むらさが
クラゲの体内で溶けていく様子はじっくり観察できる。
一時間もすれば、赤むらさの皮はぐちょぐちょになり、体のどこがどこなの
か見分けがつかなくなるだろう。
ミズクラゲには効果がないものの、これらの捕食を避けるために、浮遊期の
赤むらさは流れ藻に集まり、隠れ潜むように生活するものも多い。
ただし、流れ藻にたどり着けるかは、完全に運次第である。
赤むらさは流れ藻に集まり、隠れ潜むように生活するものも多い。
ただし、流れ藻にたどり着けるかは、完全に運次第である。
この脆弱な浮遊期も後半になると、赤むらさはスーパーボールぐらいの大き
さに成長し、この頃から海水中の炭酸カルシウムを取り込んで、石灰質のあ
んかーを作り出す。また、水兵帽の体に占める割合が小さくなり、徐々に浮
力を失って、生活圏を海の表層から、次第に底層へと移していく。
さに成長し、この頃から海水中の炭酸カルシウムを取り込んで、石灰質のあ
んかーを作り出す。また、水兵帽の体に占める割合が小さくなり、徐々に浮
力を失って、生活圏を海の表層から、次第に底層へと移していく。
餌は相変わらず、粘液によるプランクトン捕食が中心だが、浮遊期後半には
ある程度の遊泳力も発揮できるようになり、海藻などにしがみつき、その表
面に付着している微小甲殻類なども捕食するようになる。
だが、まだまだ捕食者に対しては脆弱である。
ある程度の遊泳力も発揮できるようになり、海藻などにしがみつき、その表
面に付着している微小甲殻類なども捕食するようになる。
だが、まだまだ捕食者に対しては脆弱である。
「ゆあああああ゛!!!だじゅげで!!!おざがなざんはゆっぐりでぎないい
いいいい゛!!!」
いいいい゛!!!」
このむらさはメバルに追われていた。生活圏が底層に移行することで、主な外
敵はメバルや、マダイ、クロダイ、アイナメなどに変わってくる。鋭い歯で何
度も齧りついてくるフグ類も恐ろしい捕食者である。
敵はメバルや、マダイ、クロダイ、アイナメなどに変わってくる。鋭い歯で何
度も齧りついてくるフグ類も恐ろしい捕食者である。
「ゆびいいいい゛!!!いやああああ゛!!!ごれじゃあむらむらできなああい
いいい!!!ゆぎっ!?」
いいい!!!ゆぎっ!?」
アイナメがむらさを一飲みにしようとする。しかし、むらさが動いたため、背
中の皮が少し千切れただけだった。
中の皮が少し千切れただけだった。
「ゆぎゃああああああ゛!!!いじゃい!!!いじゃいよおおおお゛!!!」
アイナメの追撃により今度は水兵帽を食べられてしまう。
「ゆあああああ゛!!!ぶらざのほごりだがいおぼうじがああああ゛!!!」
ガスを貯める水兵帽を失うと、むらさは浮力の調節ができなくなるため、もう
逃げることはできない。例え、逃げ切ったとして、海底で這い回ることしかで
きなくなり、生存確率は激減する。
逃げることはできない。例え、逃げ切ったとして、海底で這い回ることしかで
きなくなり、生存確率は激減する。
「おぼうじいいいいい゛!!!ぶらざのぼうぶぶっぺっ!?」
浮力を失い、ゆっくりと沈んでいくむらさはアイナメにパクリと食われ、咀嚼
されて死んだ。アイナメはあんかーをぺっと口から吐き出すと、次の餌を求め
て泳ぎ去っていった。
されて死んだ。アイナメはあんかーをぺっと口から吐き出すと、次の餌を求め
て泳ぎ去っていった。
あんかーが一定の大きさになるまで生き延びることが出来ると、むらさは海底
に着底し、海底付近に生活圏を移す。この頃には子むらさと呼べる大きさに成
長し、遊泳力も成体に比べて遜色のないものとなる。この時期を「着底期」と呼
ぶ。
に着底し、海底付近に生活圏を移す。この頃には子むらさと呼べる大きさに成
長し、遊泳力も成体に比べて遜色のないものとなる。この時期を「着底期」と呼
ぶ。
また、あんかーによって砂の中に潜ることが可能となる。
「ゆゆ!!ここならすなさんにもぐれそうだよ!きゅーそくせんこー!よーそ
ろー!!」
ろー!!」
子むらさはまず、表面の砂を口からの水流で吹き飛ばし、そこにあんかーを差
し込む。潜砂性の底棲生物としてはゴカイや二枚貝が知られているが、ゴカイ
では体液の充填により膨張させた頭部を、二枚貝では砂の中に滑り込ませた足
を膨張させ、アンカーとすることが知られている。そして、それを足がかりに
体を砂中に潜り込ませていくのである。
し込む。潜砂性の底棲生物としてはゴカイや二枚貝が知られているが、ゴカイ
では体液の充填により膨張させた頭部を、二枚貝では砂の中に滑り込ませた足
を膨張させ、アンカーとすることが知られている。そして、それを足がかりに
体を砂中に潜り込ませていくのである。
「すなさんをぷーぷーするよ!!からだをもじもじさせるよ!!またぷーぷー
するよ!!」
するよ!!」
基本的な潜砂行動は、ゴカイ、二枚貝、そしてむらさも同様である。
水を吹き付けることで、砂の間隙を作り、掘りやすくする。そこへ、あんかー
へ体を引き寄せるようにして、砂の中に体を潜り込ませていくのである。
このとき、むらさは体を小刻みに震わせることで、砂の中への侵入を容易にし
ている。この行動を「もじもじさせる」とむらさは呼んでいるようだ。
水を吹き付けることで、砂の間隙を作り、掘りやすくする。そこへ、あんかー
へ体を引き寄せるようにして、砂の中に体を潜り込ませていくのである。
このとき、むらさは体を小刻みに震わせることで、砂の中への侵入を容易にし
ている。この行動を「もじもじさせる」とむらさは呼んでいるようだ。
「すなのなかでおもうぞんぶんむらむらするよ……うひょおおおお゛!!」
こうして砂の中に潜り込んだむらさは、水兵帽の先端と目だけが砂から出るよ
うに位置を調整し、その姿勢で外敵の通過や、餌生物の接近を待つ。
うに位置を調整し、その姿勢で外敵の通過や、餌生物の接近を待つ。
「…ふぅ…」
ちょうど、むらさが潜った辺りに小さなエビがやってきた。砂の中を探るよう
にハサミ脚を突っ込み、有機物の破片などを次々と口に運んでいる。
にハサミ脚を突っ込み、有機物の破片などを次々と口に運んでいる。
むらさは体の上に乗っている砂が落ちないように、姿勢をやや高めにとる。
餌がよく見えるようにである。
餌がよく見えるようにである。
「そろーり…そろーり…」
そして砂に隠れたまま、少しずつ、エビに接近する。不意にエビがむらさの
方に接近したその瞬間、
方に接近したその瞬間、
ぱくっ!
むらさは砂の中から飛び出し、周囲の水ごと飲み込むようにして、エビを口
内に納めてしまった。エビがびくびくと動いて抵抗するが、後はもう咀嚼す
るだけである。
内に納めてしまった。エビがびくびくと動いて抵抗するが、後はもう咀嚼す
るだけである。
「むーしゃむーしゃ…すぃあわすぇ~!!!」
そして、しあわせ宣言を済ませると、再び砂に身を隠す。慣れた個体だと、
一連の行動に一分費やさないという。
一連の行動に一分費やさないという。
「…むらさはここにはいないよ~…」
この他、むらさはバカガイや小さなアサリなど、貝殻の薄い二枚貝をあんかー
で割って捕食する。巻貝は割りにくいのか、捕食した事例は観察されているも
ののあまり好まないようだ。
で割って捕食する。巻貝は割りにくいのか、捕食した事例は観察されているも
ののあまり好まないようだ。
「着底期」からは、このような潜砂行動と、遊泳力の向上によって、むらさの生
存確率は一気に高まる。ここまでくれば成体はあと一歩であるが、やはり外敵
に襲われ命を落とす個体もいる。
存確率は一気に高まる。ここまでくれば成体はあと一歩であるが、やはり外敵
に襲われ命を落とす個体もいる。
先程のむらさに何やら魚影がせまる。
ナルトビエイである。
ナルトビエイである。
エイは頭を砂の中に突っ込み、二枚貝や甲殻類を探して捕食する。むらさに対
しては特に好んで攻撃しているわけではないが、うまく逃げなければ捕食され
てしまう。
しては特に好んで攻撃しているわけではないが、うまく逃げなければ捕食され
てしまう。
ナルトビエイが砂の中を頭部で探り、砂の中に隠れていたむらさをツンツンと
つつく。
つつく。
「…む、むらさはここにいないよ~…つつかないでね!…そんなにつつかれたら
むらむら…ぎょわあああああ゛!!!」
むらむら…ぎょわあああああ゛!!!」
むらさはナルトビエイに吸い込まれるようにくわえられた。
「はなじでね!!むらさはおいじぐないよ!!はなじでね!!むらさはゆぎゅう
うう!?」
うう!?」
むらさはナルトビエイにゴリゴリと咀嚼され、体がぐちょぐちょにされてしま
った。
った。
「ゆぎゃあああああああああ゛!!!ぶらざのがらだがあああああああ!!!ぶ
ぎゅう!?」
ぎゅう!?」
そして、飲み込まれ、あんかーだけが吐き出された。
ナルトビエイが接近してきた時点で、タイミングよく全力で泳ぎ去れば、まだ逃
げられたかもしれない。
ナルトビエイが接近してきた時点で、タイミングよく全力で泳ぎ去れば、まだ逃
げられたかもしれない。
こちらでは、むらさマダコに捕まっていた。
触覚で砂の中にいる貝類を探るタコにとって、むらさのように表面近くに潜砂
する小動物は決して捕獲するのは難しい餌ではない。
触覚で砂の中にいる貝類を探るタコにとって、むらさのように表面近くに潜砂
する小動物は決して捕獲するのは難しい餌ではない。
「やべでね!!!タコさんやべでね!!!ぞんなにざれだら、むらさごわれぢゃ
うううううううっ゛!!!」
うううううううっ゛!!!」
いろいろと勘違いしているようである。
マダコは食べられるのか確かめるように、むらさを腕でいじくりまわす。
マダコは食べられるのか確かめるように、むらさを腕でいじくりまわす。
「ゆひいいいいいっ!!!きゅうばんさんですりすりされるとっ!!!んほおお
おおおおおおんほおおおっ!!!」
おおおおおおんほおおおっ!!!」
だが、タンパク質代謝で生きるタコにとって、炭水化物が多いゆっくりは魅力の
ある餌ではなかったらしい。マダコはむらさを放り出すと、さっさと次の餌を求
めて行ってしまった。
ある餌ではなかったらしい。マダコはむらさを放り出すと、さっさと次の餌を求
めて行ってしまった。
「どぼじでええええええっ!?どぼじでずっぎりざぜずにいっじゃうのおおおお
おお゛!!?」
おお゛!!?」
中途半端にむらむらさせられたむらさは、その後しばらく、海中で吼え続けた。
このような砂で底質が構成された浅海域で子むらさは成長する。そして、夏にた
くさんの餌を食べ、急速に成長したむらさは、晩夏には成体サイズになり、言葉
も巧みに話せるようになる。
くさんの餌を食べ、急速に成長したむらさは、晩夏には成体サイズになり、言葉
も巧みに話せるようになる。
この頃になると、体が大きくなったことで、むらさを積極的に襲う捕食者は浅海
域にはほとんどいなくなる。また、あんかーで潜砂することはあまりなくなり、
あんかーは純粋に捕食のための道具として、堅い貝類やウニを割るのに使われる
ようになる。
成体になると、皮が丈夫になり、度々海岸に上陸して餌を探したり、干潮時の干
潟で跳ねている姿が目撃されている。呼吸はそもそも皮膚呼吸であるため、水中
でも陸上でも呼吸は可能である。
ここまで来ると、適時水分を補給しさえすれば、一般家庭でも水槽を用意しなく
ても飼育も可能であるため、成体はペットショップに出回ることがある。
域にはほとんどいなくなる。また、あんかーで潜砂することはあまりなくなり、
あんかーは純粋に捕食のための道具として、堅い貝類やウニを割るのに使われる
ようになる。
成体になると、皮が丈夫になり、度々海岸に上陸して餌を探したり、干潮時の干
潟で跳ねている姿が目撃されている。呼吸はそもそも皮膚呼吸であるため、水中
でも陸上でも呼吸は可能である。
ここまで来ると、適時水分を補給しさえすれば、一般家庭でも水槽を用意しなく
ても飼育も可能であるため、成体はペットショップに出回ることがある。
よく、いたずらで、水上を帽子で移動するまりさを攻撃するところが目撃されて
いるが、それは成体のむらさによるものである。
いるが、それは成体のむらさによるものである。
「まりさはこの川を渡ったら、れいむに告白して、ふぁーすとでぃーぷちゅっ
ちゅをするんだ!」
ちゅをするんだ!」
とある河川の河口近く、まりさは水路を対岸に向けて渡っていた。まりさは滅多に
行かない浜辺に行き、きれいなピンク色のサクラガイを拾ってきた。
これをプレゼントとして、今日こそれいむに告白するつもりなのだ。ずっといっし
ょにゆっくりしようと。
行かない浜辺に行き、きれいなピンク色のサクラガイを拾ってきた。
これをプレゼントとして、今日こそれいむに告白するつもりなのだ。ずっといっし
ょにゆっくりしようと。
「れいむ、ゆっくりまっててね!まりさはいまいくよ!!」
自然と櫂を漕ぐ動作も軽快になる。
まりさは告白することに何の心配もしていなかった。れいむの態度から、れいむも
きっと自分のことが好きなんじゃないかと、感じられる節があった。
きっと自分のことが好きなんじゃないかと、感じられる節があった。
「ゆ?」
異変に気がついたのは、水路の中ほどまで来たときだった。帽子が浸水しているの
である。
である。
「どぼじでおぼうじざんにぉみずざんはいっでぎでるのおおおおおお゛!?」
よく見ると、帽子の先端がちぎられたようになくなっていた。
「おみずさんこないでね!!まりさのおぼうしからでていってね!!」
だが、水はどんどん入ってくる。
「どぼじでおみずざんどまらないのおおおおおおおっ!!!」
まりさは慌てて櫂を漕いだが、もう帽子の半分まで水が来ている。
「てきかんげきちん!!よーそろーっ!!!」
まりさの後方でむらさが声をあげる。このむらさがこっそりまりさの帽子の先端を齧
り取ったのだ。
り取ったのだ。
「そんなごどよりだじゅげで!!!ばでぃざじんじゃう!!!たじゅげでええ゛!!」
泣きながら助けを求めるまりさに対して、むらさは答える。
「あ~あ、早く行かないと愛しのれいむちゃんがとられちゃうよ!!」
「いいからだじゅげでえええええええ゛!!!」
「きっと今頃、ほかのゆっくりとすっきりしてるんじゃないかなぁ?」
「ぞんなごどないいいいいいっ!!!」
「いいからだじゅげでえええええええ゛!!!」
「きっと今頃、ほかのゆっくりとすっきりしてるんじゃないかなぁ?」
「ぞんなごどないいいいいいっ!!!」
まりさは顔を真っ赤にして反論する。
それに対して、むらさはからかうような声で答えた。
それに対して、むらさはからかうような声で答えた。
「すごい~!すごいよ~!れいむむらむらしちゃう~!!!まりさなんかとは比べ物
にならない~っ!!すっきり~っ!!!」
「やめろおおおおお゛っ!!!ぞんなわげあるがああああっ!!!」
にならない~っ!!すっきり~っ!!!」
「やめろおおおおお゛っ!!!ぞんなわげあるがああああっ!!!」
まりさはかんかんに怒り、帽子が沈みつつあることも忘れていた。既にあんよの皮が
ふやけ、少しずつ餡子が水に溶け出している。
ふやけ、少しずつ餡子が水に溶け出している。
「まりさってだれ!?そんな変なお帽子野郎のことなんか忘れてもっとすっきりして
ええええっ!!!」
「ふんぎいいいいいいっ!!!でいぶはばでぃざがずぎなのおおおおっ!!!」
「きっと今頃まりさよりも汚くてかっこ悪いゆっくりにだまされてたくさんすっきり
してあかちゃん産んじゃってるじゃない?全弾命中!よーそろーっ!!!」
「ゆがががあああああああっ!!!ゆ゛ゆ゛!?おみじゅざんがっ!!!ぶぶぶ…」
ええええっ!!!」
「ふんぎいいいいいいっ!!!でいぶはばでぃざがずぎなのおおおおっ!!!」
「きっと今頃まりさよりも汚くてかっこ悪いゆっくりにだまされてたくさんすっきり
してあかちゃん産んじゃってるじゃない?全弾命中!よーそろーっ!!!」
「ゆがががあああああああっ!!!ゆ゛ゆ゛!?おみじゅざんがっ!!!ぶぶぶ…」
まりさがむらさの戯言に付き合っている間に、帽子は浸水し、まりさはもうあんよが
溶け出して動けなくなっていた。
溶け出して動けなくなっていた。
「せめて…すっきりしてから……」
結局、ばら色の新婚生活を夢見たまりさは溶けてしまった。
「りあ充しね!」
むらさはそういい残すと、満足そうに海へと帰って行った。
このような行動から、むらさの棲息する水域は水難事故が多い難所として、まりさたち
に恐れられているという。
このような行動から、むらさの棲息する水域は水難事故が多い難所として、まりさたち
に恐れられているという。
秋になると、むらさは繁殖シーズンを迎える。むらさの繁殖シーズンは春と秋の年二
回であり、春に生まれた個体が秋に成熟し、にんっしんっ可能となるのだ。
この時期の海中では、発情したむらさが番をつくり、あちこちですっきりをしている。
回であり、春に生まれた個体が秋に成熟し、にんっしんっ可能となるのだ。
この時期の海中では、発情したむらさが番をつくり、あちこちですっきりをしている。
「むぅらぁむぅらぁするよほほほほほほほほほほほひひひっ!!!」
「ふう…すっきり…♪…」
「ふう…すっきり…♪…」
飼われているむらさはともかく、天然の環境下ではいつでも繁殖できるわけではない。
生まれた赤ゆたちがゆっくり育つことが出来る季節、それを狙って、繁殖期を合わせて
いるのだ。このような一斉すっきり時のむらさは「むらさむらむら」と呼ばれることもあ
る。一斉すっきりをしなくても生きていける飼育環境下では見られない行動だが、むら
さのシンボルとも言える繁殖様式である。
生まれた赤ゆたちがゆっくり育つことが出来る季節、それを狙って、繁殖期を合わせて
いるのだ。このような一斉すっきり時のむらさは「むらさむらむら」と呼ばれることもあ
る。一斉すっきりをしなくても生きていける飼育環境下では見られない行動だが、むら
さのシンボルとも言える繁殖様式である。
「むらさのぺにぺには世界一ィィィッ!」
「よぉぉぉおそろぉぉぉぉぉお゛っ!!!」
「仰角15度!!!んほおおおおおおっ!!!初弾!!命中!!!」
「よぉぉぉおそろぉぉぉぉぉお゛っ!!!」
「仰角15度!!!んほおおおおおおっ!!!初弾!!命中!!!」
むらさの下腹部にそびえ立つは劣情の摩天楼。
全身から大量の粘液を放出しながら、すっきりが行われる。むらさの飼育が難しいと
されるのは、この大量の粘液によって、一般的な水槽の水量では急激に水質が悪化し
てしまうためである。そのため、通常はむらさが陸上生活に適応するのを待って、繁
殖を行おうとするブリーダーが多いようだ。
全身から大量の粘液を放出しながら、すっきりが行われる。むらさの飼育が難しいと
されるのは、この大量の粘液によって、一般的な水槽の水量では急激に水質が悪化し
てしまうためである。そのため、通常はむらさが陸上生活に適応するのを待って、繁
殖を行おうとするブリーダーが多いようだ。
この時期は夏の豊富な餌によって、春の繁殖よりも肥えた個体が多く、そのため、すっ
きりも、動物型が中心となる。
動物型すっきりの場合、生まれてくるのは、既にスーパーボールほどのサイズにまで成
長した赤ゆであり、植物型の赤ゆとは違い、生まれてすぐに海底に着底、砂に潜って生
活する。直達発生と呼ばれるタイプの、浮遊期を経ない、赤ゆである。
きりも、動物型が中心となる。
動物型すっきりの場合、生まれてくるのは、既にスーパーボールほどのサイズにまで成
長した赤ゆであり、植物型の赤ゆとは違い、生まれてすぐに海底に着底、砂に潜って生
活する。直達発生と呼ばれるタイプの、浮遊期を経ない、赤ゆである。
「ゆっくり!!ゆっくりあかちゃん産んでね!!!」
ここでも一組のむらさのカップルに新しい命が生まれようとしていた。
「みゃみゃからしゅっこうちゅるよ!よーしょろー!!!」
「よーちょろー!!!ゆっくちしていってね!!」
「よーちょろー!!!ゆっくちしていってね!!」
「おちびちゃああああん!!!ゆっくりしていってね!!!」
「ぱぱににて、すごいゆっくりしたおちびちゃんだよ!!」
「ぱぱににて、すごいゆっくりしたおちびちゃんだよ!!」
父むらさも母むらさも元気そうな赤ゆの誕生に心から喜んでいた。
動物型にんっしんっのため、一度に生まれる数は少ない。その代わり、春産卵群とは異
なり、親とともに生きていくことが出来る。そのため、秋産卵群は生存確率は高く、生
息域の拡大ではなく、安定した環境で個体数を維持するための産卵群であると言えた。
なり、親とともに生きていくことが出来る。そのため、秋産卵群は生存確率は高く、生
息域の拡大ではなく、安定した環境で個体数を維持するための産卵群であると言えた。
「さあ、おちびちゃんたち、ごはんさんにするよ!!」
父むらさが捕まえておいた、ハゼや二枚貝を持ってきた。ハゼは予め、頭部を噛み砕い
てある。また、二枚貝はバカガイ(アオヤギ)や小さめのアサリのような殻の薄いものを、
石灰質のあんかーで割ってから捕食する。
てある。また、二枚貝はバカガイ(アオヤギ)や小さめのアサリのような殻の薄いものを、
石灰質のあんかーで割ってから捕食する。
「むーしゃむーしゃ!!しあわせ~!!!」
「ぐぅ~れいとぉっ!!!」
「ぐぅ~れいとぉっ!!!」
直達発生によって生まれた赤ゆたちは、この後、両親と共に漁の練習をする。
「きょうはぱぱがごはんさんの捕り方を教えるよ!!」
「「ゆっくりりかいしたよ!!よ−そろー!!」」
「「ゆっくりりかいしたよ!!よ−そろー!!」」
父むらさは二匹の赤むらさを藻場に連れてきた。砂地にアマモが繁茂しているが、夏は
強い紫外線によって、多くの海藻・海草類が減少する季節であり、この時期に見られる
のはまだ幼草体を中心とした小さな藻場である。
しかし、既にアマモの根本に付着したイガイ類、その表面や間隙に棲息する微小甲殻類、
その周辺には雑多な稚魚が集まっており、漁の練習台としては申し分なかった。
強い紫外線によって、多くの海藻・海草類が減少する季節であり、この時期に見られる
のはまだ幼草体を中心とした小さな藻場である。
しかし、既にアマモの根本に付着したイガイ類、その表面や間隙に棲息する微小甲殻類、
その周辺には雑多な稚魚が集まっており、漁の練習台としては申し分なかった。
「くささんには、いろんなごはんさんが隠れてるんだよ!ゆっくり捕まえてね!!」
「おしゃかなさんうごかにゃいでね!!!」
「ゆええええ!!なんじぇにげりゅのおおおおおっ!!!」
「おしゃかなさんうごかにゃいでね!!!」
「ゆええええ!!なんじぇにげりゅのおおおおおっ!!!」
赤ゆたちは無駄な動きが多く、稚魚を捕まえることが出来ない。何度か、父むらさが見
本を見せたが、一向にダメだった。
本を見せたが、一向にダメだった。
「むぅ~…最初はみんなへたくそだよ。むらむら頑張ろうね~!!」
父むらさが赤ゆたちを励まし、海藻表面にくっつく甲殻類や二枚貝の食べ方を教え始め
た。
た。
「こういう草さんの周りにはあみさんが群れてるよ。」
父むらさが示したのは、海藻や藻場、海底付近に蚊柱のような群れをつくるアミである。
アミはエビに似た外見を持つ小型甲殻類で、海水魚飼育などの生き餌としてよく利用さ
れる。
父むらさはアミの群れの周りをぐるぐるとまわり、少しずつアミの群れを小さく、しか
し、密度の濃いものにしていく。
アミはエビに似た外見を持つ小型甲殻類で、海水魚飼育などの生き餌としてよく利用さ
れる。
父むらさはアミの群れの周りをぐるぐるとまわり、少しずつアミの群れを小さく、しか
し、密度の濃いものにしていく。
「おちびちゃんたち!!今だよ!!!」
「「よーしょろー!!!」」
「「よーしょろー!!!」」
二匹の赤むらさは勢い良く、アミの群れに飛び込み、口いっぱいにアミをくわえる。
「むーしゃむーしゃ…しあわしぇ~!!!」
「あみしゃんはむりゃむりゃできるよぉ~!!!」
「あみしゃんはむりゃむりゃできるよぉ~!!!」
父むらさからすれば無駄の多い食事であったが、初めての漁に、二匹とも満足してい
るようだった。
こうして赤むらさたちは両親の指導を受けてすくすく成長し、一ヶ月もすれば、子む
らさと言える大きさにまで成長していた。
るようだった。
こうして赤むらさたちは両親の指導を受けてすくすく成長し、一ヶ月もすれば、子む
らさと言える大きさにまで成長していた。
晩夏から秋半ばにかけて、この地域は度々台風が襲ってくる。大型の台風はその風雨に
よって沿岸域の生態系を一時的に攪拌してしまう。
沖合いの生物が沿岸に持ち込まれ、逆に沿岸の生物が沖合いに運び去られる。
さらに高波によって、砂浜は削られ、海藻はちぎれ飛んでいった。
よって沿岸域の生態系を一時的に攪拌してしまう。
沖合いの生物が沿岸に持ち込まれ、逆に沿岸の生物が沖合いに運び去られる。
さらに高波によって、砂浜は削られ、海藻はちぎれ飛んでいった。
「まだだよー!!」
「がんばっててーはくしてね!!おちびちゃんたち!!!」
「がんばっててーはくしてね!!おちびちゃんたち!!!」
台風などで水中が荒れたとき、通常、むらさ種はあんかーを砂の中に打ち込んで、荒波
や水流に流されないようにする。しかし、今回の台風のように、あまりにも水中の攪乱
が強い場合、丈夫そうな海藻などの茎に齧りついてやり過ごすのである。
むらさたちは、このような行動を「てーはく」と呼んでいた。
や水流に流されないようにする。しかし、今回の台風のように、あまりにも水中の攪乱
が強い場合、丈夫そうな海藻などの茎に齧りついてやり過ごすのである。
むらさたちは、このような行動を「てーはく」と呼んでいた。
「ゆぎいいいひいいひいひいっ!!!もうむりじゃよおおおお゛っ!!!」
「おぎゃああじゃあああんっ!!!おぎゃあさんのおくちさんにいれでえええっ!!!」
「おぎゃああじゃあああんっ!!!おぎゃあさんのおくちさんにいれでえええっ!!!」
直達発生の赤ゆたちは既にそれなりの大きさであるため、親むらさの口の中に隠れられ
るのは生まれて最初のうちだけである。
赤むらさたちは自力で歯を食いしばり、荒れ狂う水界に立ち向かわなければならなかった。
るのは生まれて最初のうちだけである。
赤むらさたちは自力で歯を食いしばり、荒れ狂う水界に立ち向かわなければならなかった。
「ゆぎいいいいいっ!!!ひゃあっ!!!」
姉むらさが遂に力尽き、食らいついていた茎を離してしまう。
「おねえちゃあああんっ!!!」
妹むらさは必死にあんよを伸ばした。しかし、姉むらさが噛み付いたのは、妹むらさが必
死に差し出したあんよではなく、お尻だった。
死に差し出したあんよではなく、お尻だった。
「お゛ね゛え゛ぢゃあああああああああああああああんっ!!?」
姉むらさは流されまいとして、必死に妹むらさの尻に食らいつく。生まれてからとりあえ
ずひどい目にあっていないはずの妹むらさのぷりぷりした尻に、ぐいぐいと姉むらさの歯
が食い込んでいく。
ずひどい目にあっていないはずの妹むらさのぷりぷりした尻に、ぐいぐいと姉むらさの歯
が食い込んでいく。
「ふごごごっ!!!ほへんへええええええっ!!!」
「いじゃあああいいいいっ!!!むらじゃのぷりちーなももじりがあああああっ!!!」
「いじゃあああいいいいっ!!!むらじゃのぷりちーなももじりがあああああっ!!!」
姉むらさの顎が耐えられなくなるのが先か、それとも妹むらさの尻が耐えられなくなるの
が先か…
が先か…
ぶちっ!
「「!!?」」
一番最初に荒れ狂う海に耐えられなくなったのは、二匹が噛み付いていた海藻だった。
「おぢびぢゃあああああああああっ!!?」
「むらざのびずぼじだだるいいぶずめがああああああっ!!?」
「おぎゃああしゃああああんっ!!!」
「おどうじゃあああああああんんんん!!!」
「むらざのびずぼじだだるいいぶずめがああああああっ!!?」
「おぎゃああしゃああああんっ!!!」
「おどうじゃあああああああんんんん!!!」
子むらさの姉妹は荒波にもまれ、海藻もろともどこか遠くの海に流されてしまった。
流されたむらさ姉妹は大きな流れ藻にあんかーをひっかけて海面を漂っていた。周
囲には同じように沿岸域から流されたのであろう、何匹かの稚魚が流れ藻の影を泳
ぎ、流れ藻の上には甲殻類の幼生や小さなタコの子供がしがみついている。
囲には同じように沿岸域から流されたのであろう、何匹かの稚魚が流れ藻の影を泳
ぎ、流れ藻の上には甲殻類の幼生や小さなタコの子供がしがみついている。
もうどれくらい海を漂っているのか分からない。海は深まり、海底はとっくに見え
なくなっていた。眼下には底の見えない海が広がり、太陽光線も届かないその奥底
には、何やら薄暗い空間が広がっている。時折、大きな魚影が真下を通ったり、夜
中に光る何かが周囲を泳ぎ回っては、姉妹は身を寄せ合うように流れ藻にしがみつ
き、息を潜めた。
なくなっていた。眼下には底の見えない海が広がり、太陽光線も届かないその奥底
には、何やら薄暗い空間が広がっている。時折、大きな魚影が真下を通ったり、夜
中に光る何かが周囲を泳ぎ回っては、姉妹は身を寄せ合うように流れ藻にしがみつ
き、息を潜めた。
「ねえさん、またおさかなさんいっぴきいなくなってるよ。」
「きっと、ゆっくりできなくなったのよ…」
「きっと、ゆっくりできなくなったのよ…」
その日、姉妹はこの流れ藻のマスコット的存在であった、可愛い小さなタコを分け
合って食べた。妹は流されて以来よく遊んでいたこのタコを食べるのを最後まで嫌
がったが、もう簡単に食べられそうな流れ藻の付着生物は食べきってしまっていた
のだ。また、稚魚の類はまだ漁の経験が乏しい二匹には捕まえるのが困難であった。
合って食べた。妹は流されて以来よく遊んでいたこのタコを食べるのを最後まで嫌
がったが、もう簡単に食べられそうな流れ藻の付着生物は食べきってしまっていた
のだ。また、稚魚の類はまだ漁の経験が乏しい二匹には捕まえるのが困難であった。
姉むらさは一度稚魚を捕まえようとしたものの、気がついたら流れ藻から遠く離れ
た、真っ青な海中に稚魚と二匹で取り残されたことがあった。なんとか懸命に泳い
で流れ藻にたどり着き、事なきを得たものの、まだ子供のむらさ姉妹には、この広
い海の真っ只中で、一匹取り残されるという感覚はトラウマとなった。
た、真っ青な海中に稚魚と二匹で取り残されたことがあった。なんとか懸命に泳い
で流れ藻にたどり着き、事なきを得たものの、まだ子供のむらさ姉妹には、この広
い海の真っ只中で、一匹取り残されるという感覚はトラウマとなった。
それ以来、姉妹が流れ藻を離れて行動しようとすることはなかった。
「むーしゃ…むーしゃ……」
「ふう…そこがみえないうみじゃ、ゆっくりもむらむらもできないよ…」
「ふう…そこがみえないうみじゃ、ゆっくりもむらむらもできないよ…」
現状では起きていても体力を消耗するだけである。姉妹は食事を終えると、まだ日
も高いうちから交代で眠りについた。日中は、片方が起きて警戒と、周囲の観察を
行う。そして、夜間は二匹とも眠りにつき、命を運に任せてきた。どうせ、夜行性
ではないむらさの目では、夜間はほとんど何も見えなかった。
も高いうちから交代で眠りについた。日中は、片方が起きて警戒と、周囲の観察を
行う。そして、夜間は二匹とも眠りにつき、命を運に任せてきた。どうせ、夜行性
ではないむらさの目では、夜間はほとんど何も見えなかった。
ふと姉妹が目を覚ましたとき、周囲にはかつてないほど無数の生命がうごめき、何
かが光り、そして泳ぎ回っていた。
かが光り、そして泳ぎ回っていた。
「おねえちゃん!!おほしさまがうみのなかにっ!!!」
かつて父むらさが内陸部で見たことがあるという、蛍とはこういうものなのだろう
か?それともこれは人の巣の光だろうか?
か?それともこれは人の巣の光だろうか?
それは日周鉛直移動−昼と夜で深海と表層を往来するアミやハダカイワシの群れだ
った。ちょうど、複数の海流がぶつかる栄養塩に満ちた海域まで流されてきたのだ
ろうか?そして、それらに導かれるように、真っ暗な深海の奥底から、影しか見え
ない魚が、煌びやかな光を身にまとったクラゲが、そして流れ星のような不思議な
動きをする生き物(姉妹は知らなかったが、発光器官を備えた外洋性のイカである)
が海中の星空へと加わっていった。
った。ちょうど、複数の海流がぶつかる栄養塩に満ちた海域まで流されてきたのだ
ろうか?そして、それらに導かれるように、真っ暗な深海の奥底から、影しか見え
ない魚が、煌びやかな光を身にまとったクラゲが、そして流れ星のような不思議な
動きをする生き物(姉妹は知らなかったが、発光器官を備えた外洋性のイカである)
が海中の星空へと加わっていった。
「きれいだねえ…おねえちゃん、おほしさまはうみのなかでもとてもゆっくりして
いるよ。」
「でもなんだかむらむらしてて、ゆっくりできないおほしさまもいるよっ!!!」
いるよ。」
「でもなんだかむらむらしてて、ゆっくりできないおほしさまもいるよっ!!!」
それは獰猛な捕食者たちによる凄惨な捕食の現場であった。
一つ、また一つと小さな光が消えるたびに、儚い命が海へと還っていく。
それはまるで、宇宙の深遠で誕生と消滅を繰り返す星々の無窮動曲のようであった。
一つ、また一つと小さな光が消えるたびに、儚い命が海へと還っていく。
それはまるで、宇宙の深遠で誕生と消滅を繰り返す星々の無窮動曲のようであった。
そのとき、いくつかの影が流れ藻に接近してきた。影は流れ藻の周りに集まると、
つつくようにして、流れ藻表面の微小な付着生物を食べていく。
微かな星明りに浮かぶ黒い羽のシルエット、トビウオだった。
その度にむらさ姉妹があんかーでしがみつく流れ藻はぐらぐらと揺れた。
つつくようにして、流れ藻表面の微小な付着生物を食べていく。
微かな星明りに浮かぶ黒い羽のシルエット、トビウオだった。
その度にむらさ姉妹があんかーでしがみつく流れ藻はぐらぐらと揺れた。
「ゆええええええっ!!!やべでね!!!ゆれるよ!!!ちんぼつしぢゃうよおお
おおっ!!!」
「あっぢいっで!!!おざがなざんあっぢいっでね!!!じーじーずるよ!!!」
おおっ!!!」
「あっぢいっで!!!おざがなざんあっぢいっでね!!!じーじーずるよ!!!」
トビウオの大きさから丸飲みにされることはないだろうが、自分達の唯一の拠り所
が揺れる度に恐怖し、姉妹は泣きじゃくった。姉はお尻を振りながらしーしーをば
ら撒いたが、ちゃんと流れを読んでしーしーしなかったため、自分のところに戻っ
てきただけだった。
が揺れる度に恐怖し、姉妹は泣きじゃくった。姉はお尻を振りながらしーしーをば
ら撒いたが、ちゃんと流れを読んでしーしーしなかったため、自分のところに戻っ
てきただけだった。
「ゆわあああんっ!!!おねえじゃんのじーじーのにおいがずるっ!!!」
「ゆべべ!!!しーしーのんじゃっだよっ!!!」
「ゆべべ!!!しーしーのんじゃっだよっ!!!」
あまりに騒ぎすぎたせいか、それともしーしーの臭いに魅かれたのか、トビウオは
姉の体を口でつまむように突いてきた。
姉の体を口でつまむように突いてきた。
「いやあああああああああ゛っ!!!やべでえええっ!!!むらざおいじぐないよ
おおおおっ!!!つつかないでえっ!!!」
「やめてね!!おねえちゃんにひどいことしないでね!!!」
おおおおっ!!!つつかないでえっ!!!」
「やめてね!!おねえちゃんにひどいことしないでね!!!」
ぷくーっをして威嚇する妹むらさ。しかし、この程度の大きさのぷくーっではトビ
ウオ相手にお話にならなかった。もっとも、今は夜なので、どのみち外敵を威嚇す
る効果など皆無なのだが。
ウオ相手にお話にならなかった。もっとも、今は夜なので、どのみち外敵を威嚇す
る効果など皆無なのだが。
べりりっ!
「ゆんやあああああああああああああああ゛っ!!!」
姉むらさの頬の皮が薄くはがされてしまった。
「ゆぎゃあああっ!!!いじゃいいいっ!!!いじゃいよっ!!!だじゅげでぱぱ
ぁっ~!!ままぁ~っ!!」
ぁっ~!!ままぁ~っ!!」
泣き喚く姉むらさ。幸い、まだ中身の黒蜜は漏れていなかったが、トビウオに取り
囲まれている限り、それは時間の問題のように思えた。
囲まれている限り、それは時間の問題のように思えた。
「だじゅげでええええっ!!!いじゃいいっ!!!じにだぐないいいいっ!!!」
流れ藻から離れて泳いで逃げるべきか?それともこのままトビウオがいなくなるの
を待つべきか?
を待つべきか?
姉妹は迷った。
このまま流れ藻に留まれば殺られる。
かといって、逃げたところで、浅海域に棲息するむらさがこの海底の見えない沖合
いの海域で生きていけるとは思えなかった。
第一、食べるものにも困り、疲労しきった自分達が、このトビウオから逃げられる
保証はないのだ。
このまま流れ藻に留まれば殺られる。
かといって、逃げたところで、浅海域に棲息するむらさがこの海底の見えない沖合
いの海域で生きていけるとは思えなかった。
第一、食べるものにも困り、疲労しきった自分達が、このトビウオから逃げられる
保証はないのだ。
「おねえじゃんっ!!!」
逃げよう!
そう妹むらさが言おうとした瞬間だった。
そう妹むらさが言おうとした瞬間だった。
ぱっと散るようにして、トビウオの影はむらさ姉妹がしがみついている流れ藻から
離れた。姉むらさを突いていたトビウオだけ反応が遅れる。
離れた。姉むらさを突いていたトビウオだけ反応が遅れる。
姉むらさを突いていたトビウオの体が不自然によじれ、何者かに捕らえられた。
アオリイカによる攻撃である。
アオリイカは沿岸性のイカであり、釣りの対象として有名である。
アオリイカはトビウオを触腕で捕らえ、まず、トビウオの頭の後方、人間で言えば
頚椎のあたりを齧り、脊髄を分断してトビウオの動きを封じると、その肉をゆっく
りと齧りながらどこかへ行ってしまった。
アオリイカはトビウオを触腕で捕らえ、まず、トビウオの頭の後方、人間で言えば
頚椎のあたりを齧り、脊髄を分断してトビウオの動きを封じると、その肉をゆっく
りと齧りながらどこかへ行ってしまった。
「た…た…たすかった…?」
むらさ姉妹はそれ以上言葉をつむぐことも出来ず。ただ流れ藻に隠れるようにしが
みつき、その夜を過ごした。
みつき、その夜を過ごした。
翌日、いつの間にか眠ってしまっていたむらさ姉妹が目を覚ますと、中天の太陽光
が燦々と海水に突き刺さっていた。心なしか、水の色が明るく、水そのものも暖か
い。
が燦々と海水に突き刺さっていた。心なしか、水の色が明るく、水そのものも暖か
い。
「ねえさん、なんだかうみさんがぽーかぽーかするよ!!!」
「ほんとうだね!!むらむらしてくるよっ!!!」
「ほんとうだね!!むらむらしてくるよっ!!!」
傷は大したことなかったのか、姉むらさは軽口を叩いた。
「ゆ!?よーそろー!!!ろくじのほうこうになにかいるよっ!!!」
妹の声にふと、姉むらさが後ろを向くと、後方の表層を何か、黒くて大きなものが
泳いでいた。
泳いでいた。
「なんだろう!?むらむらするよかんが…」
「えいさん!?」
「えいさん!?」
それはマンタ、オニイトマキエイであった。
「よーそろー!とってもおおきなえいさんだよっ!!」
マンタは熱帯、亜熱帯の暖かい海に生息する。プランクトン食の大型エイであり、
その体重は3トンにも達する。我々が夏の海で遭遇するようなエイが、一般的に
砂地の中に隠れている底棲生活者であるのに対して、マンタはその大きな胸鰭で
悠然と泳ぐように表層を遊泳する。
その体重は3トンにも達する。我々が夏の海で遭遇するようなエイが、一般的に
砂地の中に隠れている底棲生活者であるのに対して、マンタはその大きな胸鰭で
悠然と泳ぐように表層を遊泳する。
「ゆっくりしていってね!!」
「あんなおっきなおさかなさんはむらむらするよぉっ!!!」
「あんなおっきなおさかなさんはむらむらするよぉっ!!!」
マンタはぐんぐんと水中を飛ぶように前進し、勢いをつけて水の外へと飛び出し
た。
た。
「「おおおおおおおおっ!!!」」
マンタのジャンプが一体何のために行われるのかは、今も結論が出ていない。一
説には寄生虫を払うためとも言われている。
説には寄生虫を払うためとも言われている。
「「よーそろおおおおおおおっ!!!」」
むらさ姉妹は感嘆の声を上げ、マンタのジャンプを注視した。
何トンという体が空中を飛ぶのだ。圧巻である。
そして、マンタは倒れこむように、空中から海中へ、ちょうどむらさ姉妹の真上
へと着水する
何トンという体が空中を飛ぶのだ。圧巻である。
そして、マンタは倒れこむように、空中から海中へ、ちょうどむらさ姉妹の真上
へと着水する
…真上?
「ぼんばぁぃえ゛っ!!!」
「ねえざあああああああああああああああああああんっ!!!」
「ねえざあああああああああああああああああああんっ!!!」
マンタの巨体はむらさ姉妹がしがみついていた流れ藻を直撃した。
濛々と白い気泡が辺りを乱舞し、流れ藻はマンタの体に割られるように四散した。
姉むらさには最期のセリフを言う時間すら与えられなかった。
そして、姉むらさの体も、流れ藻に混じって、ちぎれ、水中をぼろぼろと落下して
いった。
濛々と白い気泡が辺りを乱舞し、流れ藻はマンタの体に割られるように四散した。
姉むらさには最期のセリフを言う時間すら与えられなかった。
そして、姉むらさの体も、流れ藻に混じって、ちぎれ、水中をぼろぼろと落下して
いった。
「ねええざあああああああああああああんっ!!!」
妹むらさはマンタの着水の衝撃で流れ藻から放り出され、水中をくるくると回転し
ていた。その間、妹むらさが最後に見た姉むらさの姿は、ぼんやりと水中を分散して
いく黒蜜の姿だった。
ていた。その間、妹むらさが最後に見た姉むらさの姿は、ぼんやりと水中を分散して
いく黒蜜の姿だった。
その日の夜も前日と同じ光景、深海からやってくる血生臭いプラネタリウムがむらさ
の下方で展開された。しかし、前回のように、それを美しいと思うことも楽しむこと
もできなかった。
の下方で展開された。しかし、前回のように、それを美しいと思うことも楽しむこと
もできなかった。
ただ一匹、水面近くから眺める真っ黒な深淵は、舞い踊る光の乱舞は、ただひたすら
不気味だった。
妹むらさは流れ藻の破片にしがみつき、夜明けが来るのを待った。しかし、もう限界
が近かった。流れ藻はちぎれ、餌らしい餌は何も残っていなかった。おまけに、流れ
藻に集まっていた稚魚もどこかへ行ってしまった。
そして何より、これ以上、ただ浮かんでいるだけの長旅を一人で続ける自信も、理由
もなかった。妹むらさはそっとあんかーを流れ藻の破片から外した。
不気味だった。
妹むらさは流れ藻の破片にしがみつき、夜明けが来るのを待った。しかし、もう限界
が近かった。流れ藻はちぎれ、餌らしい餌は何も残っていなかった。おまけに、流れ
藻に集まっていた稚魚もどこかへ行ってしまった。
そして何より、これ以上、ただ浮かんでいるだけの長旅を一人で続ける自信も、理由
もなかった。妹むらさはそっとあんかーを流れ藻の破片から外した。
「おとうさん…おかあさん…ねえさん…むらさは…もう…」
むらさは目を閉じて波の動きに身をゆだね、ゆっくりと沈んでいった。
そして、むらさの体はサンゴ礁に横たわった。
とある南の海、サンゴ礁が鮮やかな海で、一匹のむらさがウミガメから逃げていた。
「来ないでね!!!むらさは食べられたくないわ!!」
お尻に残った実の姉の歯形の痕…あの妹むらさの成長した姿である。
どうやら、むらさはそれなりに場数を踏んできたようだ。
巧みにウミガメの追撃をかわし、サンゴの影に隠れる。
ウミガメはしばらく辺りを泳いでいたが、諦めたのか、それとも別の獲物を見つけたの
か、どこかに泳ぎ去ってしまった。
どうやら、むらさはそれなりに場数を踏んできたようだ。
巧みにウミガメの追撃をかわし、サンゴの影に隠れる。
ウミガメはしばらく辺りを泳いでいたが、諦めたのか、それとも別の獲物を見つけたの
か、どこかに泳ぎ去ってしまった。
「ふう…やっとゆっくりでき…」
そのとき、むらさの視界に入ってきたのはレモンザメだった。レモンザメは最大で3m
ほどにもなる暖かい海に生息するサメである。その名はそのレモン色の体色から来てい
るが、実際は個体差もある。
今回、むらさが見つけたのは、体長70cm前後のまだ若いレモンザメだった。若い個体
はしばしば、リーフ内の浅い海に入ってきて捕食を行う。いくら海中に適応したむらさ
でも分の悪い相手であった。
ほどにもなる暖かい海に生息するサメである。その名はそのレモン色の体色から来てい
るが、実際は個体差もある。
今回、むらさが見つけたのは、体長70cm前後のまだ若いレモンザメだった。若い個体
はしばしば、リーフ内の浅い海に入ってきて捕食を行う。いくら海中に適応したむらさ
でも分の悪い相手であった。
砂に潜るか…それとも陸に逃げるか…?
妹むらさは成体と言えるサイズになって皮が丈夫になり、乾燥への耐性を備えたことで
ある程度陸上でも行動できるようになっていた。
むらさは一度上陸して、この捕食者をやり過ごすことにした。隙を見てサンゴの影から
抜け出すと、波打ち際に飛び跳ねるように逃げていく。
ある程度陸上でも行動できるようになっていた。
むらさは一度上陸して、この捕食者をやり過ごすことにした。隙を見てサンゴの影から
抜け出すと、波打ち際に飛び跳ねるように逃げていく。
「…ふう…ここまでくればゆっくりできるわ…」
そこは真っ白なサンゴ砂に覆われた浜辺だった。海の中では感じることのなかった、照
りつけるような太陽が痛い。まだ、陸上での生活経験が乏しいむらさには強すぎる太陽
だった。
りつけるような太陽が痛い。まだ、陸上での生活経験が乏しいむらさには強すぎる太陽
だった。
それでも、さめさんといっしょよりはゆっくりできるわね…
むらさは太陽から逃げるように木陰に跳ねていった。
「おや?見ないゆっくりだね!ゆっくりしていってね!」
そこにいたのは見たことのない二匹のゆっくりだった。
大きな耳を持った笑顔の素敵なゆっくり
「ぼくはなずーりん」
そしてもう一匹は頭に可愛い花を乗せた、少しおどおどしたゆっくり
「…しょうです…」
「むらさ、わたしはむらさよ。」
「むらさ、わたしはむらさよ。」
むらさは初めて会う別のゆっくりにどう振舞っていいか分からなかった。
「きみはどこの飼いゆっくりなんだい?」
なずーりんと名乗ったゆっくりはむらさが野生だとは思わなかったようだ。
南国の太陽の下、照りつける太陽に濡れた黒髪に魅かれるものがあったのかもしれない。
南国の太陽の下、照りつける太陽に濡れた黒髪に魅かれるものがあったのかもしれない。
「わたしは海から来たの。にんげんさんに飼われているわけじゃないわ!」
「すごいや!しょう聞いたかい!?海に棲んでるんだって!!」
「すごいや!しょう聞いたかい!?海に棲んでるんだって!!」
なずーりんは目を輝かせる。むらさはなずーりんが一体何に驚いているのか良く分から
ず、少々困った顔をしていた。
ず、少々困った顔をしていた。
「うん…海の中ってどんな感じなのかな?…とっても興味あるよ…」
しょうと名乗ったゆっくりも海に興味があるらしい。このゆっくりたちにとっては、海
の中の世界がそんなに珍しいのだろうか?
の中の世界がそんなに珍しいのだろうか?
「ねえ、むらさ?これからぼくらが面倒見てもらっているお兄さんのゆっくりぷれいす
に行かないかい?きみの棲む海の中に興味があるんだ!ゆっくりした話を聞かせてよ!」
「わたしも…お話聞いてみたいかな?…」
に行かないかい?きみの棲む海の中に興味があるんだ!ゆっくりした話を聞かせてよ!」
「わたしも…お話聞いてみたいかな?…」
まあ、いいか
むらさはそう思った。どうせレモンザメがいなくなるまで、海の中に戻るつもりはない。
それに一度、地上をゆっくり見てみたかった。
それに一度、地上をゆっくり見てみたかった。
「いいわよ!みんなで一緒にゆっくりしましょう!」
快諾したむらさの笑顔に、なずーりんとしょうの顔もほころんだ。
「ねえ、むらさぼくらと同志になってくれないかな?」
「同志ってなに?」
「一緒に遊ぶと楽しい友達のことさ」
「同志ってなに?」
「一緒に遊ぶと楽しい友達のことさ」
なずーりんの笑顔は無邪気でとてもまぶしかった。
むらさはこの二匹と一緒ならば、たくさんゆっくりできるような気がした。
むらさはこの二匹と一緒ならば、たくさんゆっくりできるような気がした。
海の中しか知らなかったむらさは、なずーりんとしょうの二匹に出会い、様々な思い出を
作っていくことになる。
作っていくことになる。
陸地から海に進出し、また再び陸にも上がろうとするむらさ種、このゆっくりはどこを目
指すのだろうか?
指すのだろうか?
まぶしい太陽の下、むらさの新しい生活が始まった。
完
神奈子さまの一信徒です。
私の専門である水棲ゆっくりって、にとり、むらさしかいないなぁ~ってことで書いてみ
ました。すわこはカエル、いくは深海魚、ぬえはカニっていうイメージもあるのですが、
どうなんでしょう?
あまり一人で独自のゆっくり量産するのも気が引けましたので、南の島シリーズ後半でち
ょい役で出てきたむらさにスポットライトを当ててみました。
こんなのむらさのイメージと合わないという方、ごめんなさい。
お目汚し失礼いたしました。
私の専門である水棲ゆっくりって、にとり、むらさしかいないなぁ~ってことで書いてみ
ました。すわこはカエル、いくは深海魚、ぬえはカニっていうイメージもあるのですが、
どうなんでしょう?
あまり一人で独自のゆっくり量産するのも気が引けましたので、南の島シリーズ後半でち
ょい役で出てきたむらさにスポットライトを当ててみました。
こんなのむらさのイメージと合わないという方、ごめんなさい。
お目汚し失礼いたしました。
挿絵:絵本あき