ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko0955 ドン れいむ
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ankoss
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ドン [(スペイン) don]
首領。親分。実力者。
※ ※ ※ ※ ※
ドン れいむ
※ ※ ※ ※ ※
ここは森の外れにあるゆっくりの群。
人里から離れていることもあって人との諍いは遠く、守護者が見守っているお陰で捕食
種や山犬等の獣たちからの被害も極力抑えられていた。
守護者――つまりは、『ドス』という尊称を頭に着けることを許されたゆっくり。
緩やかにウェーブのかかった長い金髪に片方の頬にかかる三つ編み。頭に乗せた飾りは
白いリボンをあしらった鴉の羽根より黒い鍔広のとんがり帽子。その姿は見上げるほど大
きくなったとは言っても、『まりさ』と称するゆっくりの一種だった。
穏やかなほほえみで駆け回る子供のゆっくりたちを見守るその姿は、ゆっくりでなくと
も実に『ゆっくりとしている』ように見える。そして、そのドスまりさの姿を見る群のゆ
っくりたちもまたゆっくりした気分で日々を過ごしていた。
ただ、一匹のゆっくりを除いては……
※
「ふこーへーだよ!」
おうちにしている木の根の穴蔵に入ってくるなり開口一番飛び出した台詞がこれであった。
もっとも、それを聞いたこのおうちの家主であるぱちゅりーは、またか……、としか思
わなかった。
ぱちゅりーのおうちに転がり込んで早々にがなりだしたのは、しばらく前から不平不満
を垂れ流して群でも疎まれているれいむだ。ドスや賢い大人たちの指示で群では相手にさ
れなくなってきたために、数日前から篭もってばかりで逃げ場のないぱちゅりーのおうち
に押し掛けるようになったのであった。
非常に残念なことに、群の相談役という立場上ぱちゅりーまでもが無視するわけにはい
かなかった。
「まりさばっかりひいきだよっ! れいむだってみんなにめーれーしたいんだよっ!
ぱちゅりーはれいむをえらくしてねっ!!」
「むきゅ、なら河原でりーだーのお勉強をやってるわ。れいむもそこでお勉強したらどう
かしら?」
確かにれいむの言うとおり、群ではまりさたちが先頭に立って他のゆっくりたちを指導
することが多い。だがそれは先達からきっちりと生き抜くための術を教育されたからでき
ることである。生活に必要不可欠のことすら学ばず、のんべんだらりと過ごしてきたれい
むでは役立たずも甚だしい。
だというのに、れいむはぱちゅりーの苦言を一笑に付した。
「おべんきょーなんてひつようないよっ! れいむはかしこいんだよっ!!」
「……3たす2は幾つかしら?」
「ゆ? なにわけのわからないこといってるの? ばかなの?」
「むきゅ~……」
延々とこの調子である。
れいむが連日言い続けてきたことを要約すれば、偉くなりたい、命令したい、ちやほや
されたい、けど面倒なことはしたくない。そんな都合のいい話があるものか、とぱちゅり
ーは思うがそれを直接言えば癇癪を起こすのが目に見えている。
とはいえ、それもこれもここ数日間、朝から晩まである。さすがに辟易してきたぱちゅ
りーからぽろりと本音がこぼれ落ちてしまった。
「狩りもお勉強もしないでえらくなれるわけないでしょ、このおばか……む、むきゅ!?」
あ、と思ったときには本音をしっかりと口にしていた。
暴れられる。
このれいむは狩りにも参加しない、見回りにも協力しない、食っちゃ寝ばかりのぐーた
らゆっくりではあるが、親の過保護のお陰で元来虚弱で小柄なぱちゅりーとは比較になら
ないほど体格が良い。上にのしかかられて、一度でもピョンと跳ねればひ弱なぱちゅりー
など潰されてしまうに違いない。
しかし、退路はない。おうちはお饅頭サイズのぱちゅりーなら何匹か自由に遊び回れる
くらいの広さがあるとは言っても、その奥に座っている以上ここは袋小路に相違ない。
ゆっくりらしからぬ思考回路で進退窮まったことを理解したぱちゅりーは、せめて一思
いに永遠のゆっくりへ旅立てるようにと願いながら目を閉じた。
「ゆふっ、ゆっふっふふ……」
「……むきゅ?」
ところが予想した衝撃はいつまで経っても襲ってこない。それどころか、怒り狂ってる
とばかり思っていたれいむからとても楽しげな笑い声まで聞こえてきた。
不思議そうにそぅっと目を開けて見ると、そこにはとってもご機嫌な、そしてあからさ
まにこちらに見下した眼を向けるれいむの姿があった。
れいむに見下されるのはとってもゆっくりできないことではあったが、今は命があるだ
けでも儲けものだった。
ぱちゅりーがこっそり安堵のため息をついていることには気づかず、れいむはにやにや
笑いながらぱちゅりーを嘲る。
「かんがえてみたらかんたんなことだったよっ! むれのけんじゃ、なんていってるのに
ぱちゅりーはおばかだね! えらくなるのにべんきょうもれんしゅうもひつようなんてな
いんだよっ!」
訝しげな表情を浮かべたぱちゅりーが口を開くより早く、れいむは『えらくなるほうほ
う』を高らかに宣言した。
「おっきくなれば、みんながちやほやしてくれるりっぱなりーだーになれるんだよっ!!」
『ドス』という存在の見てくれのみを見てきたれいむの辿り着いた結論。
ぱちゅりーは、ただただ深くため息を吐いた。
※
お饅頭サイズのぱちゅりーの前で、鏡餅(下段)サイズのれいむが「ゆっへん」と反り
返る。ゆっくりに張る胸がないから仕方ない。
「おっきくなれば、れいむだって『ドス』になれるよっ!」
大きさと強さや偉さがイコールで考えられているゆっくりとはいえ、単純に大きくなれ
ばドスに成れると思っているゆっくりは――実のところ少なくなかったりする。それでも
このぱちゅりーには、それが荒唐無稽な話だと理解していた。
一瞬前まで小馬鹿にしていた瞳を希望で満たしたれいむに、呆れた表情を浮かべたぱち
ゅりーは簡潔に応えた。
「……れいむ、ドスになれるのはまりさだけよ」
「ゆがーん!?」
ぱちゅりーたちは脆弱なゆっくりの中でも極めて貧弱な部類に入る。
力は弱く、体力は乏しく、お肌の張りは成長しても他種のあかちゃんに匹敵する柔さで
ある。そんな欠点だらけのぱちゅりーたちであるが、それらを補うのがゆっくりの中でも
群を抜く知識である。ごほんを読み、様々な話を聞いて多種多様な知識を仕入れることを
好み、忘れっぽいゆっくりでありながら記憶力も悪くない。ただし、その知識を知恵にで
きるぱちゅりーは極めて希少ではある。
このぱちゅりーは、そんな数少ない知恵者の一匹だった。
「ぱちぇはこの群にくる旅のゆっくりから色んなお話を聞くけど、まりさ以外のゆっくり
がドスになったお話なんて聞いたこと無いわ」
ドスまりさに似た存在ならばクイーンありすだろうか。何にしても巨体となったれいむ
の存在は一度も耳にした覚えはない。いや、一つあったか。
「れ、れいむはいっぱいむーしゃむーしゃしていっぱいすーやすーやしてるよ!? おと
ーさんもおかーさんもそうすればおおきくなれるっていってたよっ!? それにむれでれ
いむよりおっきなゆっくりはドスしかいないよ?」
「それはおデブさんになっただけよ」
「ゆがーん!?」
一度死を覚悟したためか、ぱちゅりーの切り返しには迷いがない。『でいぶ』という
蔑称を使わなかったのがせめてもの優しさだった。
態度の割に繊細なれいむはショックの余り数分間放心してしまった。そして目覚めると
持ち前の忘却力を駆使して気を取り直し、再度ぱちゅりーに訊ねた。
「それじゃあぱちゅりー、れいむがえらくなるほうほうをおしえてねっ!」
「むきゅ~、そこに戻るのね……」
そんなれいむの態度にぱちゅりーは溜息しかでない。
幸いにも命を落とす事態にはならなかったが、事実を突きつけても忘却してしまっては
意味がない。結局は堂々巡りが続くのだろうか。そう考えるとぱちゅりーはゆっくりでき
ない気分に陥った。
そんな時、不意にぱちゅりーは以前旅のゆっくりから聞いた噂話を思い出した。
「そういえばあまりにもありえないから忘れてたけど……」
「ゆ? れいむがえらくなるほうほう? しってるならゆっくりしないでおしえてねっ!」
即座に食いついてきたれいむにちょっと引きながら、それでも言うか言うまいかぱちゅ
りーは悩んだ。しかし、じりじりと近寄ってくるれいむの圧力に負け、しぶしぶ口を開いた。
「むきゅぅ……れいむ、『ドン』って知ってるかしら?」
「どん? ドスじゃないの?」
「むきゅ、違うわね」
「ならしらないよ! ぱちゅりーはゆっくりせつめいしてねっ!」
「ゆっくり説明するから少し下がってちょうだい……潰されそうでゆっくりできないわ」
ずずいと近寄るれいむを牽制し、ぱちゅりーは餡子に記憶した噂話を思い返した。
「ドンというのはたくさんのゆっくりたちの頂点に立つ、ドスよりもクイーンよりもゆっ
くりとした、すべてのゆっくりを従えるゆっくりなのよ。そしてドンはれいむたちの中か
らしか選ばれないって、旅のみょんが教えてくれたわ」
「ゆゆっ!! ドスやクイーンよりもえらいのっ!?」
「むっきゅん。そう聞いたわよ」
「れいむがえらばれたゆっくりなのっ!?」
「むきゅ、それはわからな……れいむ、お願いだから下がって、こっちこなむぎゃーっ!!」
「ゆーっ♪ れいむはすごいよっ! れいむはドンれいむだよぉっ!!」
にじり寄る巨体に押し潰されそうになったぱちゅりーの悲痛な叫びも耳に届かず、れい
むは自分勝手な妄想で歓喜に打ち震える。
ところがふと、肝心なことを聞いてないことに気付いた。
「ゆ? それでどうすればれいむはドンになれるの? もうドンなの?」
「お……おじえるがら……どいで……むぎゅぅ……」
幸いなことに、ぱちゅりーが壁とれいむに圧殺される寸前であった。
※
群のあるゆっくりぷれいすからお日様が昇る方へひたすら真っ直ぐ進んだ先にある森。
その森の奥に、まるでお月様を半分に割ったような綺麗な『椅子』がある。
その椅子に座った者は、総てのゆっくりから尊敬される至高のゆっくり、『ドン』にな
ることができる。
しかしその椅子に座ることが許されるのは唯一、れいむだけであるという。
息も絶え絶えなぱちゅりーから漸く聞き出した情報を元に、れいむは旅に出た。
ありったけの食料だけを持ち、泣いて追いすがるおとーさんと悲痛な声で呼び止めるお
かーさんを振り切り、悲しみと寂しさをグッと堪えて、れいむは初めて群の外へと飛び出
した。
一度だけ振り返ったゆっくりゆっくりぷれいす。ぱちゅりーだけが満面の笑みで見送っ
てくれていた。
れいむはゆっくり旅をする。
あさひさんが昇って暖かくなってから目を覚まし、ご飯をしっかり食べてゆっくり食休
みをとって跳ね出した。
疲れたらお昼の時間。食べ終わったら草むらの上ですーやすーやお昼寝。起きたらゆう
ひさんになっていた。
背の高い草を寄せて捻っててんとさんの完成。おうちほどゆっくりはできないけれど、
とりあえずはこれでがまん。こんなてんとさんの作り方しか知らないなんて、まったくぱ
ちゅりーはゆっくりしてない。
ご飯を食べたらてんとさんに入って、明日に備えてゆっくり寝ることにした。
れいむはゆっくり旅をする。
旅のみょんは二回ゆうひさんを見るくらいで着いたとぱちゅりーは言っていたけど、れ
いむが森に辿り着くまでにたくさんたくさんゆうひさんを見た。きっと、旅のみょんは大
げさにぱちゅりーに教えたんだろう。
そうしてれいむは森の奥へと辿り着いた。
森と言うには木々は疎らで、見上げれば空もよく見える。その代わり、生えている一本
一本の木がとても巨大だった。巨体のドスでも後ろに隠れることができそうな木など、れ
いむはこれまで見たこともなかった。
そんな巨木の森を進んだ先に、果たして噂に聞いた『ドンの椅子』はあった。
「ゆ~……やっと……やっとみつけたよ……っ!!」
苦難の果てに踏破したドンへの道。
なめらかな白い光沢を湛えた、まるでお月さまの上半分を切り取ったような半円の『ド
ンの椅子』。巨木の根本にそっと据え置かれたその姿は、ぱちゅりーから聞いた姿と一致
する。なにより、その縁には書いてあるのだ。
『どん れいむ』と。
「れいむがっ! れいむがドンだよぉおおおおおおおおっ!!」
まったく疲れても傷付いてもいないあんよに鞭打ち、れいむは飛び上がった。
そして何事も無くドンの椅子へと着地した。
椅子の内側は丸くくぼんでいて、れいむの躯をすっぽりと包み込んだ。その座り心地、
安定感はゆっくりしていると言わざるを得ない。このジャストフィットしている感覚は、
この椅子がれいむのために用意された物だと思わせるに十分だった。
「ゆっふぅ~ん♪」
目を閉じてドンの座の座り心地に酔いしれるれいむ。
これでれいむはゆっくりの中で、最高にゆっくりした、一番偉いゆっくりになれたのだ!
この姿を群のみんなに、おばかなぱちゅりーに、偉ぶってばっかりのドスに見せつけて
やろう。なんと言ってもドスなんかより、このれいむの方がゆっくりしているのだから。
この姿を見れば、涙を流して喜びながられいむをゆっくりさせるに違いない――
陶酔するれいむの餡子には、そんなバラ色の未来予想図が描き出されていた。
輝ける妄想とドンの座の座り心地を時間をかけて存分に堪能すると、カッと眼を見開い
て大音声で宣言した。
「れいむはドンれいむだよっ!! ゆっくりしていってねぇええええええええっ!!」
「…………」
すると、れいむの大音声で目を覚ましたゆっくりとバッチリ目が合った。
巨木の蔭に隠れて見えなかったが、ドンの椅子から見上げると真っ正面にそのゆっくり
の顔があった。
「……ゆ? ゆゆっ!?」
直視していたのは真っ赤な双眸。視線を上げてゆけば緩やかにウェーブのかかった桜色
の髪があり、その上には三角形の白い布の付いた水色の帽子があった。
「ゆっゆっゆっ……っ!」
そして視点を引いて全体を見れば、巨木でなければ隠れようのない巨体。
そのゆっくりはにっこりと邪気のない笑みを浮かべると、友好的に挨拶をしてきた。
「こぼね~♪」
「ゆゆこだぁあああああああああああああああああああああっっ!?」
れいむは絶叫で返した。
まあ、捕食種を目の前にしたゆっくりとしての反応としては当然ではあった。ところが
その時、れいむの餡はぱちゅりーの言葉を思い出した。
『ドンというのはたくさんのゆっくりたちの頂点に立つ、ドスよりもクイーンよりもゆっ
くりとした、すべてのゆっくりを従えるゆっくりなのよ……』
「れ、れれれいむはドンだよっ! ドンなんだよっ! ドンれいむだよっ!! ゆっくり
ならドンのめーれーをきいてねっ! ゆゆこはちかづかないでねっ! くちをひらかない
でねっ? すいこまないでねっ? れいむをたべたりしないでねっ? ゆゆこはゆっくり
できないからどっかいってねぇええええええええええええええええええええっ!!」
総てのゆっくりはドンの言葉を聞けとばかりに、深い森を震わせる大号令を発す。
ドンは総てのゆっくりを従えるゆっくり。ならば、たとえゆゆこであろうともドンには
逆らえるはずがない。
恐怖の涙が溢れる眼を見開いて、れいむはゆゆこに命じた。
その言葉を聞き、ゆゆこはれいむに近寄り、口を開き、深呼吸でもするようにれいむを
吸い込み、ゆっくりと咀嚼した。
「こ~ぼね♪」
そうして空になった『ドンの椅子』だけを吐き出すと、舐めて綺麗にしてから元の位置
へと置いた。ゆゆこもまた元居た位置へと戻り、食休みに入った。
からんころんと回るドンの椅子。
縁には文字が書かれているのが見て取れた。
縁に沿うように全部で三カ所、同じ文字が繰り返し書かれていた。
首領。親分。実力者。
※ ※ ※ ※ ※
ドン れいむ
※ ※ ※ ※ ※
ここは森の外れにあるゆっくりの群。
人里から離れていることもあって人との諍いは遠く、守護者が見守っているお陰で捕食
種や山犬等の獣たちからの被害も極力抑えられていた。
守護者――つまりは、『ドス』という尊称を頭に着けることを許されたゆっくり。
緩やかにウェーブのかかった長い金髪に片方の頬にかかる三つ編み。頭に乗せた飾りは
白いリボンをあしらった鴉の羽根より黒い鍔広のとんがり帽子。その姿は見上げるほど大
きくなったとは言っても、『まりさ』と称するゆっくりの一種だった。
穏やかなほほえみで駆け回る子供のゆっくりたちを見守るその姿は、ゆっくりでなくと
も実に『ゆっくりとしている』ように見える。そして、そのドスまりさの姿を見る群のゆ
っくりたちもまたゆっくりした気分で日々を過ごしていた。
ただ、一匹のゆっくりを除いては……
※
「ふこーへーだよ!」
おうちにしている木の根の穴蔵に入ってくるなり開口一番飛び出した台詞がこれであった。
もっとも、それを聞いたこのおうちの家主であるぱちゅりーは、またか……、としか思
わなかった。
ぱちゅりーのおうちに転がり込んで早々にがなりだしたのは、しばらく前から不平不満
を垂れ流して群でも疎まれているれいむだ。ドスや賢い大人たちの指示で群では相手にさ
れなくなってきたために、数日前から篭もってばかりで逃げ場のないぱちゅりーのおうち
に押し掛けるようになったのであった。
非常に残念なことに、群の相談役という立場上ぱちゅりーまでもが無視するわけにはい
かなかった。
「まりさばっかりひいきだよっ! れいむだってみんなにめーれーしたいんだよっ!
ぱちゅりーはれいむをえらくしてねっ!!」
「むきゅ、なら河原でりーだーのお勉強をやってるわ。れいむもそこでお勉強したらどう
かしら?」
確かにれいむの言うとおり、群ではまりさたちが先頭に立って他のゆっくりたちを指導
することが多い。だがそれは先達からきっちりと生き抜くための術を教育されたからでき
ることである。生活に必要不可欠のことすら学ばず、のんべんだらりと過ごしてきたれい
むでは役立たずも甚だしい。
だというのに、れいむはぱちゅりーの苦言を一笑に付した。
「おべんきょーなんてひつようないよっ! れいむはかしこいんだよっ!!」
「……3たす2は幾つかしら?」
「ゆ? なにわけのわからないこといってるの? ばかなの?」
「むきゅ~……」
延々とこの調子である。
れいむが連日言い続けてきたことを要約すれば、偉くなりたい、命令したい、ちやほや
されたい、けど面倒なことはしたくない。そんな都合のいい話があるものか、とぱちゅり
ーは思うがそれを直接言えば癇癪を起こすのが目に見えている。
とはいえ、それもこれもここ数日間、朝から晩まである。さすがに辟易してきたぱちゅ
りーからぽろりと本音がこぼれ落ちてしまった。
「狩りもお勉強もしないでえらくなれるわけないでしょ、このおばか……む、むきゅ!?」
あ、と思ったときには本音をしっかりと口にしていた。
暴れられる。
このれいむは狩りにも参加しない、見回りにも協力しない、食っちゃ寝ばかりのぐーた
らゆっくりではあるが、親の過保護のお陰で元来虚弱で小柄なぱちゅりーとは比較になら
ないほど体格が良い。上にのしかかられて、一度でもピョンと跳ねればひ弱なぱちゅりー
など潰されてしまうに違いない。
しかし、退路はない。おうちはお饅頭サイズのぱちゅりーなら何匹か自由に遊び回れる
くらいの広さがあるとは言っても、その奥に座っている以上ここは袋小路に相違ない。
ゆっくりらしからぬ思考回路で進退窮まったことを理解したぱちゅりーは、せめて一思
いに永遠のゆっくりへ旅立てるようにと願いながら目を閉じた。
「ゆふっ、ゆっふっふふ……」
「……むきゅ?」
ところが予想した衝撃はいつまで経っても襲ってこない。それどころか、怒り狂ってる
とばかり思っていたれいむからとても楽しげな笑い声まで聞こえてきた。
不思議そうにそぅっと目を開けて見ると、そこにはとってもご機嫌な、そしてあからさ
まにこちらに見下した眼を向けるれいむの姿があった。
れいむに見下されるのはとってもゆっくりできないことではあったが、今は命があるだ
けでも儲けものだった。
ぱちゅりーがこっそり安堵のため息をついていることには気づかず、れいむはにやにや
笑いながらぱちゅりーを嘲る。
「かんがえてみたらかんたんなことだったよっ! むれのけんじゃ、なんていってるのに
ぱちゅりーはおばかだね! えらくなるのにべんきょうもれんしゅうもひつようなんてな
いんだよっ!」
訝しげな表情を浮かべたぱちゅりーが口を開くより早く、れいむは『えらくなるほうほ
う』を高らかに宣言した。
「おっきくなれば、みんながちやほやしてくれるりっぱなりーだーになれるんだよっ!!」
『ドス』という存在の見てくれのみを見てきたれいむの辿り着いた結論。
ぱちゅりーは、ただただ深くため息を吐いた。
※
お饅頭サイズのぱちゅりーの前で、鏡餅(下段)サイズのれいむが「ゆっへん」と反り
返る。ゆっくりに張る胸がないから仕方ない。
「おっきくなれば、れいむだって『ドス』になれるよっ!」
大きさと強さや偉さがイコールで考えられているゆっくりとはいえ、単純に大きくなれ
ばドスに成れると思っているゆっくりは――実のところ少なくなかったりする。それでも
このぱちゅりーには、それが荒唐無稽な話だと理解していた。
一瞬前まで小馬鹿にしていた瞳を希望で満たしたれいむに、呆れた表情を浮かべたぱち
ゅりーは簡潔に応えた。
「……れいむ、ドスになれるのはまりさだけよ」
「ゆがーん!?」
ぱちゅりーたちは脆弱なゆっくりの中でも極めて貧弱な部類に入る。
力は弱く、体力は乏しく、お肌の張りは成長しても他種のあかちゃんに匹敵する柔さで
ある。そんな欠点だらけのぱちゅりーたちであるが、それらを補うのがゆっくりの中でも
群を抜く知識である。ごほんを読み、様々な話を聞いて多種多様な知識を仕入れることを
好み、忘れっぽいゆっくりでありながら記憶力も悪くない。ただし、その知識を知恵にで
きるぱちゅりーは極めて希少ではある。
このぱちゅりーは、そんな数少ない知恵者の一匹だった。
「ぱちぇはこの群にくる旅のゆっくりから色んなお話を聞くけど、まりさ以外のゆっくり
がドスになったお話なんて聞いたこと無いわ」
ドスまりさに似た存在ならばクイーンありすだろうか。何にしても巨体となったれいむ
の存在は一度も耳にした覚えはない。いや、一つあったか。
「れ、れいむはいっぱいむーしゃむーしゃしていっぱいすーやすーやしてるよ!? おと
ーさんもおかーさんもそうすればおおきくなれるっていってたよっ!? それにむれでれ
いむよりおっきなゆっくりはドスしかいないよ?」
「それはおデブさんになっただけよ」
「ゆがーん!?」
一度死を覚悟したためか、ぱちゅりーの切り返しには迷いがない。『でいぶ』という
蔑称を使わなかったのがせめてもの優しさだった。
態度の割に繊細なれいむはショックの余り数分間放心してしまった。そして目覚めると
持ち前の忘却力を駆使して気を取り直し、再度ぱちゅりーに訊ねた。
「それじゃあぱちゅりー、れいむがえらくなるほうほうをおしえてねっ!」
「むきゅ~、そこに戻るのね……」
そんなれいむの態度にぱちゅりーは溜息しかでない。
幸いにも命を落とす事態にはならなかったが、事実を突きつけても忘却してしまっては
意味がない。結局は堂々巡りが続くのだろうか。そう考えるとぱちゅりーはゆっくりでき
ない気分に陥った。
そんな時、不意にぱちゅりーは以前旅のゆっくりから聞いた噂話を思い出した。
「そういえばあまりにもありえないから忘れてたけど……」
「ゆ? れいむがえらくなるほうほう? しってるならゆっくりしないでおしえてねっ!」
即座に食いついてきたれいむにちょっと引きながら、それでも言うか言うまいかぱちゅ
りーは悩んだ。しかし、じりじりと近寄ってくるれいむの圧力に負け、しぶしぶ口を開いた。
「むきゅぅ……れいむ、『ドン』って知ってるかしら?」
「どん? ドスじゃないの?」
「むきゅ、違うわね」
「ならしらないよ! ぱちゅりーはゆっくりせつめいしてねっ!」
「ゆっくり説明するから少し下がってちょうだい……潰されそうでゆっくりできないわ」
ずずいと近寄るれいむを牽制し、ぱちゅりーは餡子に記憶した噂話を思い返した。
「ドンというのはたくさんのゆっくりたちの頂点に立つ、ドスよりもクイーンよりもゆっ
くりとした、すべてのゆっくりを従えるゆっくりなのよ。そしてドンはれいむたちの中か
らしか選ばれないって、旅のみょんが教えてくれたわ」
「ゆゆっ!! ドスやクイーンよりもえらいのっ!?」
「むっきゅん。そう聞いたわよ」
「れいむがえらばれたゆっくりなのっ!?」
「むきゅ、それはわからな……れいむ、お願いだから下がって、こっちこなむぎゃーっ!!」
「ゆーっ♪ れいむはすごいよっ! れいむはドンれいむだよぉっ!!」
にじり寄る巨体に押し潰されそうになったぱちゅりーの悲痛な叫びも耳に届かず、れい
むは自分勝手な妄想で歓喜に打ち震える。
ところがふと、肝心なことを聞いてないことに気付いた。
「ゆ? それでどうすればれいむはドンになれるの? もうドンなの?」
「お……おじえるがら……どいで……むぎゅぅ……」
幸いなことに、ぱちゅりーが壁とれいむに圧殺される寸前であった。
※
群のあるゆっくりぷれいすからお日様が昇る方へひたすら真っ直ぐ進んだ先にある森。
その森の奥に、まるでお月様を半分に割ったような綺麗な『椅子』がある。
その椅子に座った者は、総てのゆっくりから尊敬される至高のゆっくり、『ドン』にな
ることができる。
しかしその椅子に座ることが許されるのは唯一、れいむだけであるという。
息も絶え絶えなぱちゅりーから漸く聞き出した情報を元に、れいむは旅に出た。
ありったけの食料だけを持ち、泣いて追いすがるおとーさんと悲痛な声で呼び止めるお
かーさんを振り切り、悲しみと寂しさをグッと堪えて、れいむは初めて群の外へと飛び出
した。
一度だけ振り返ったゆっくりゆっくりぷれいす。ぱちゅりーだけが満面の笑みで見送っ
てくれていた。
れいむはゆっくり旅をする。
あさひさんが昇って暖かくなってから目を覚まし、ご飯をしっかり食べてゆっくり食休
みをとって跳ね出した。
疲れたらお昼の時間。食べ終わったら草むらの上ですーやすーやお昼寝。起きたらゆう
ひさんになっていた。
背の高い草を寄せて捻っててんとさんの完成。おうちほどゆっくりはできないけれど、
とりあえずはこれでがまん。こんなてんとさんの作り方しか知らないなんて、まったくぱ
ちゅりーはゆっくりしてない。
ご飯を食べたらてんとさんに入って、明日に備えてゆっくり寝ることにした。
れいむはゆっくり旅をする。
旅のみょんは二回ゆうひさんを見るくらいで着いたとぱちゅりーは言っていたけど、れ
いむが森に辿り着くまでにたくさんたくさんゆうひさんを見た。きっと、旅のみょんは大
げさにぱちゅりーに教えたんだろう。
そうしてれいむは森の奥へと辿り着いた。
森と言うには木々は疎らで、見上げれば空もよく見える。その代わり、生えている一本
一本の木がとても巨大だった。巨体のドスでも後ろに隠れることができそうな木など、れ
いむはこれまで見たこともなかった。
そんな巨木の森を進んだ先に、果たして噂に聞いた『ドンの椅子』はあった。
「ゆ~……やっと……やっとみつけたよ……っ!!」
苦難の果てに踏破したドンへの道。
なめらかな白い光沢を湛えた、まるでお月さまの上半分を切り取ったような半円の『ド
ンの椅子』。巨木の根本にそっと据え置かれたその姿は、ぱちゅりーから聞いた姿と一致
する。なにより、その縁には書いてあるのだ。
『どん れいむ』と。
「れいむがっ! れいむがドンだよぉおおおおおおおおっ!!」
まったく疲れても傷付いてもいないあんよに鞭打ち、れいむは飛び上がった。
そして何事も無くドンの椅子へと着地した。
椅子の内側は丸くくぼんでいて、れいむの躯をすっぽりと包み込んだ。その座り心地、
安定感はゆっくりしていると言わざるを得ない。このジャストフィットしている感覚は、
この椅子がれいむのために用意された物だと思わせるに十分だった。
「ゆっふぅ~ん♪」
目を閉じてドンの座の座り心地に酔いしれるれいむ。
これでれいむはゆっくりの中で、最高にゆっくりした、一番偉いゆっくりになれたのだ!
この姿を群のみんなに、おばかなぱちゅりーに、偉ぶってばっかりのドスに見せつけて
やろう。なんと言ってもドスなんかより、このれいむの方がゆっくりしているのだから。
この姿を見れば、涙を流して喜びながられいむをゆっくりさせるに違いない――
陶酔するれいむの餡子には、そんなバラ色の未来予想図が描き出されていた。
輝ける妄想とドンの座の座り心地を時間をかけて存分に堪能すると、カッと眼を見開い
て大音声で宣言した。
「れいむはドンれいむだよっ!! ゆっくりしていってねぇええええええええっ!!」
「…………」
すると、れいむの大音声で目を覚ましたゆっくりとバッチリ目が合った。
巨木の蔭に隠れて見えなかったが、ドンの椅子から見上げると真っ正面にそのゆっくり
の顔があった。
「……ゆ? ゆゆっ!?」
直視していたのは真っ赤な双眸。視線を上げてゆけば緩やかにウェーブのかかった桜色
の髪があり、その上には三角形の白い布の付いた水色の帽子があった。
「ゆっゆっゆっ……っ!」
そして視点を引いて全体を見れば、巨木でなければ隠れようのない巨体。
そのゆっくりはにっこりと邪気のない笑みを浮かべると、友好的に挨拶をしてきた。
「こぼね~♪」
「ゆゆこだぁあああああああああああああああああああああっっ!?」
れいむは絶叫で返した。
まあ、捕食種を目の前にしたゆっくりとしての反応としては当然ではあった。ところが
その時、れいむの餡はぱちゅりーの言葉を思い出した。
『ドンというのはたくさんのゆっくりたちの頂点に立つ、ドスよりもクイーンよりもゆっ
くりとした、すべてのゆっくりを従えるゆっくりなのよ……』
「れ、れれれいむはドンだよっ! ドンなんだよっ! ドンれいむだよっ!! ゆっくり
ならドンのめーれーをきいてねっ! ゆゆこはちかづかないでねっ! くちをひらかない
でねっ? すいこまないでねっ? れいむをたべたりしないでねっ? ゆゆこはゆっくり
できないからどっかいってねぇええええええええええええええええええええっ!!」
総てのゆっくりはドンの言葉を聞けとばかりに、深い森を震わせる大号令を発す。
ドンは総てのゆっくりを従えるゆっくり。ならば、たとえゆゆこであろうともドンには
逆らえるはずがない。
恐怖の涙が溢れる眼を見開いて、れいむはゆゆこに命じた。
その言葉を聞き、ゆゆこはれいむに近寄り、口を開き、深呼吸でもするようにれいむを
吸い込み、ゆっくりと咀嚼した。
「こ~ぼね♪」
そうして空になった『ドンの椅子』だけを吐き出すと、舐めて綺麗にしてから元の位置
へと置いた。ゆゆこもまた元居た位置へと戻り、食休みに入った。
からんころんと回るドンの椅子。
縁には文字が書かれているのが見て取れた。
縁に沿うように全部で三カ所、同じ文字が繰り返し書かれていた。