ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko0822 五体のおうち宣言
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ankoss
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暴力少なめです。
人称や言葉が所々狂ってますがどうか温かい目で…。
陽が沈み、辺りを濃い紫色にそめる冬の夕刻、男は民家から外れてぽつりと建つ一軒家の前にいた。
男は汗だくになりながら、一度大きく深呼吸した後、玄関の扉を開けた。
早く休みたい。早くあのビなんとか…とにかく有名なブランドものらしいソファーで寛ぎたかった。
背負っていたギュウギュウ詰めのリュックを担ぎ直し、地面に置いていたパンパンになっているスーパーの袋を両手に一袋ずつ持ち上げる。
地獄はあと少しで終わりだ。玄関を閉め、糞重い荷物と共にリビングに到達さえすれば暫くは…。
男は電気をつけずに暗い廊下を記憶頼りで渡っていった。早く疲れをとりたいという衝動が男を足早にさせる。
廊下とリビングを仕切る扉の前にたどり着いた男は両手に抱えていたスーパーの袋をドサッと離し、素早い動作で一の字の形をしたドアノブを捻った。
ようやく着いた。あの二人は三日間の夫婦旅行に出掛けている。もう誰にも邪魔されない俺だけの空間だ。
声が返ってくるはずがないと判っていながら、男は嬉しさのあまり「ただいま!」と声を張り上げていた。
しかし声は返ってきた。それも人間のものとは程遠い声音で。
「ゆっ、まりさ、にんげんがむだんではいってきたよ!」
「おいにんげん、ここはまりさとれいむのゆっくりぷれいすだからはやくでていくんだぜ! でていきたくなければまりさのどれいになって、あまあまたくさんよこすんだぜ」
「「よこちぇーくしょじじぃ!」」
目の前にゆっくりがいた。それも言動から察するにゲスな親まりさと親れいむの夫婦とその子供でありゲスな赤まりさと赤れいむが。
男は窓がある方へ目を向けた。カーテンが閉められているのでよく見えないが右端に穴が開いている箇所を見つけた。
破片は内側に散らばっており、どうやら彼ら(彼女ら?)はそこから侵入してきたらしい。近頃急増している野良ゆっくりに対策をうつ家は少なくない。
綿密な戸締まり、強度の高いガラス窓、ゆっくりホイホイなどの罠の設置。しかしこの家はリビングに彼らがいる以上、何の対策もしていなかったのだろう。
その事実こそ知らなかったとはいえあまりのセキュリティの甘さに不思議と恥ずかしさを覚えた。
「おい、じじい! きこえたのかぜ! はやくあまあまよこしてここからたちさるんだぜ! まりさのことばがりかいできないの? ばかなの? しぬの? だから――」
さっきと言っていることが違っていたが、特に従うつもりもないので思考に意識を集中させる。
考えることはこのゆっくりたちをどうするかだ。こいつらはこれから始まる俺の生活を確実に妨害するだろう。
虐待鬼威山よろしくありとあらゆる方法で虐め尽くしてもいいが大声出されたら堪らない。
民家から多少離れているとはいえ、苦情を言いに来られたら面倒だ。
なら口を封じればいい。そうだ。それでいこう。
口を潰してから束縛してハンダゴテプレイしてそれから――つかハンダゴテあるかな? まぁなかったら買ってきた蝋燭で女王様のようにSMプレイに勤しめばいいか。
膨らみ続ける妄想を一旦止め、ゆっくりたちに目を向ける。さっさと捕まえて口を引きちぎろうと歩を進めようとするが途中で止まる。
なんだこれは・・・?
男は目を凝らして部屋を見渡した。薄暗いせいもあり、男は部屋の惨状をよく確認していなかった。
リビングは荒れ果てていた。テーブルに置かれていたであろう花瓶は割れ、破片と共に水がクロスを濡らしている。
活けられていた花は食い散らかされ、残り滓がこれまたテーブルに載せられていた菓子と一緒に散乱している。よく見れば複数のうんうんも確認できた。
男が寛ごうとしていた横長のソファーは見るも無残に所々か噛み千切られ、泥まみれになっていた。
部屋の左に設置された二つの棚も存分に荒らされていた。一つ目の棚は高級なインテリアが飾られていたはずだが今はもう見る影はない。
たちどころに落下させて割っていったとしか思えないくらい破片が床に散らばっていた。
二つ目の棚は本棚だったが殆どの本が破かれており、下の段はおもいっきりちーちーがひっかられ書籍がグズグズになっていた。
カーテンもよく見れば所々引き裂かれている。うんうんが拭き取られた箇所をいくつか発見した。
部屋の右側のデスクに置かれていたビット数の高い薄型テレビは冷たい床と接している。多分もう映ることはないだろう。
デスク内にあったであろう複数のDVDはケースが開けられ、中にあったディスクは壁に投げ付けられたのか、割れて床に眠っていた。
DVDデッキに関してはちーちーをかけられただけで済ん…でない。上部のフレームがベコンベコンになっていた。あの程度ならもしかしたら使えるかもしれない。
土で育てていた観葉植物が倒れて食い荒らされていたとか、どういうわけか床に傷によって線が引かれていたりとか挙げたらキリがなかった。
というか子ゆっくりたちが俺の対応がこないことに飽きたのか現在進行形で壁紙剥がしという破壊活動に熱中していた。
男は驚きのあまり絶句していた。ゆっくりの被害談はよく耳にしたがまさかこれほどまでとは。いや今まで聞いた中でこれは断トツで1番酷いだろう。
どうしてここまで出来る…というかここを自分達のゆっくりプレイスにするとか言ってたぞあいつら…ゆっくりできるのかこの状態で。
男はゆっくりには一定の美意識というものがあると考えていた。やたらと飾りにこだわるし、猫の毛ずくろいのようにぺーろぺーろもする。
汚いゆっくりを見たらゆっくりできないゆっくりだと判別しているようだし、反して綺麗なら美ゆっくりに扱いをする。
それらはゆっくりにある一定の美意識が存在し、選別しているのではないだろうかというのが男の持論だった。
しかしそれは打ち砕かれた。こいつらに美意識なんて大層なものなんてない。あるのはゲスな心だけだ。
男は親まりさに尋ねることにした。
「聞きたいんだけどさ。ここは君達のゆっくりプレイスだとして、君達はここでゆっくりできるの?」
「ようやくくちをひらいたとおもえばなんだぜ。いいからあまあまもって」
左手で親まりさの側頭部を抑えながら右手で親まりさの右頬からCの形になるまで殴りつける。両手に手袋をはめているせいか感触がいまいちだった。
「よくもやったなくそじじい! まりさはもりでいちばんつよ」
同じ箇所を再びCの形になるまで力を込めて殴る。
「いひゃいよ。こたえるからゆっきゅりやめ」
何となくCの形になるまで殴りつける。
「にゃんじぇあやみゃっちぇるにょににゃぎゅるにょー!!」
右頬が赤く膨れ上がった親まりさに男は「いいから答えろ」と促す。力の差を理解したのか親まりさは抵抗せずに声を発しようとした。
「ゆっk」
「ああー! わたしのまりさになにしてくれてんの? ばかなの? しぬの? あんこのうなの? ゆっくりできないにんげんはさっさとしね! いくよおちびちゃんたち!」
「「ちねーーー!!」」
親まりさをボコボコにした相手に何故か親れいむと赤ん坊たちがかかってきたので、親まりさと同じメニューを与える。焼き餅が4つ出来あがっていた。
「親まりさだけに聞くってのもあれだしな。じゃあ改めて四人に聞こう。ここが君たちのゆっくりプレイスだとして、君たちはゆっくり出来るの?」
「ゆっくりできるんだぜ…」
「ゆっくりできるよ…」
「ゆっきゅりできりゅよ。びゃきゃなの? しぬの?」
「そんにゃこちょもわきゃりゃないにんげんなんちぇくじゅでs」
男は先ほどと同じ要領で赤二人の左頬を膨れ上げさせる。親二人が何も反発してこないことが滑稽だった。
男はゆっくりたちの言葉に驚いていた。この凄惨な部屋でゆっくり出来ると言ってのけた。男は額から流れる汗を拭きながら次なる質問をぶつける。
「悪いが質問を続けさせてもらう。お前たちがここに侵入する前はこの部屋は綺麗だったはずだ。その綺麗な状態の方が落ち着いたんじゃないか」
「いまのほうがふしぎとおちつくんだぜ…」
「ゆっくりできるよ…」
「ゆっきゅりしゅよ…」
「ゆっきゅりしゃせちぇよ…」
最後に発言した赤れいむにはデコピンを十発食らわし額を腫れさせたが、まぁそれはいい。どうやらこのゆっくりたちは汚いほうがゆっくりできるタイプらしい。確かに人間にもそういった趣向をもつ奴もいるが、しかし……。
台風が過ぎ去ったより酷い部屋を見る。恐らく落ち着かないことから徹底的に荒らしまくったのだろう。荒らすことでゆっくりを得られるなら彼らは何も厭わないのだろう。ただひたすら荒らしまくりゆっくりを享受するゆっくり。
どう考えても人類の敵です。本当にありがとうございました。
とりあえず口を蝋で埋め尽くそうかと手を伸ばしたところでふと閃くことがあった。男は自分の閃きに感動し、すぐさまゆっくりたちに提案する。
「そうか、ゆっくり出来るのか。なら仕方ないな。で、君たちはここに住み着くつもりなのかな?」
「に、にんげんさんのばしょはゆっくりできないからたちさるんだぜ…」
「ゆっ、ざんねんだけどしかたないね…」
「やじゃやじゃしゃみゅいのやじゃー!」
「おしょちょはふゆしゃんにゃんだよ! びゃかにゃの?」
親二人は諦めがついているようだが、赤二人は未練たらたらのようだった。いい流れだと男は思った。
「別に住み着いてもいいんだけどな」
男がポツリとこぼした言葉に、俯き加減だったゆっくりたちが一斉に男の方を向いた。親二人は信じられないといった表情で、赤二人は気持ち悪いにやけ面で。
「だって外は冬だし。お前ら今出たら間違いなく死ぬだろ。俺もそこまで鬼じゃないさ。そうだな。外に出ない、カーテンを開けない、大声出さないって制約さえ守ればここにいてもいいよ」
親二人がしばらくポカーンとしていたがやがて正気を取り戻し、
「はじめからそういえばよかったんだよ!」
「にんげんさんはようりょうがわるいよ! ぷんぷん!」
「やっぴゃりあんきょにょうにゃんだにぇー」
「にゃにしちぇるの? はやきゅあまあまもっちぇきょい!」
とほざきだした。餡子脳を理解する気はとうに失せたので言動は特に気にしない。
ただ大声を張り上げたので、ポケットから小型のドライバーセットを取り出し、ゆっくりの上唇と下唇をドライバーを突き刺して繋げた。痛みでのたうち回っていたが今は興味がない。
「大声出さないと誓ったら抜いてやる。しかし誓い破ったら次はどこに穴が開くかな」
とだけ言い、様子をうかがった。
ゆっくりたちの行動は早かった。ゆっくり全員がひたすら頷き、誓いの姿勢を見せた。男は親から順にドライバーを抜いていくことにした。
当然だがドライバーを抜くときの痛みは刺されている状態よりもより鋭敏である。さっとドライバーを抜いたものの親二人は眼を充血させ歯を折れるほどに噛み締めながら声を出すのを抑えていた。
次は赤二人である。男は絶対に大声を出すだろうなと思い、口元を抉り取る構えをとった。男がなるべく早くドライバーを抜き取る。
赤まりさの口内が露出していく。あまりひどい泣き顔から大声を出すのは確実だった。
仕方ない、と思い口元を抉ろうとしたところでこの行為はまずいのではないかという考えに行き着く。そしてドライバーを刺してしまったことも…。
男は慌てて、赤まりさを親まりさの口の中に入れ、防音処理を施した。赤れいむも同じ要領で親れいむの口へ投入し、大声を阻止した。
そして赤二人が泣きやんだことを確認し、穴のあいた部分に買ってきておいたオレンジジュースをそれぞれ塗りたくる。傷口は開いたままだが、時間の解決を祈るしかないだろう。
「子供だからハンデとして一度だけ許してやった。まぁ俺もドライバーを突き刺すのは酷過ぎたな。これは素直に謝る。けれど大声を出したら頭に血が上って何をするか判らない。ゆっくり理解したかな?」
「「「「ゆっくりりかいしたよ…」」」」
今度は誰も異論はないようだ。ようやく話が前に進むと男は溜息をひとつ吐き出す。
「さて、君たちはここに住むことを決意したわけだが、この部屋でいいのか?」
男の質問にゆっくり全員が疑問符を出した。互いに顔を見合わせ誰も理解していないことを察した親まりさが前に出る。
「にんげんさん、ゆっくりわかるようにせつめいしてね…」
「ああ、えっとだな。この部屋があるだろ? ここはリビングといって家の一部でしかないんだ。つまり、このリビングの他にも部屋があるからお前たちにどうかなと勧めていたわけなんだが」
「ほきゃにみょへやしゃんありゅにょ? しゅぎょーい!」
「きょきょよりみょゆっきゅりしちぇりゅばしょ?」
眼を一段輝かせて赤まりさと赤れいむは歓喜余ったのか震えている。親まりさと親れいむの方も震えはしないものの眼を輝かせていた。男は口元に手を当て笑いを抑えながら赤れいむの質問に返答した。
「それはお前たち次第だ。俺にはどの部屋がお前たちに適しているか知らないからな。
とりあえずそうだな。一日ごとに部屋を替えていこうか。候補はここ含めて三か所ある。三日目の夜にお前たちはその中から一番ゆっくり出来る場所を選んでくれ。どうだ。理解したか?」
「「「「ゆっくりりかいしたよ!」」」」
家族全員が飛び跳ねながらそう答えた。口元が怪我しているせいかそこまで大声でもなかったので、ボディーブロー一発で許してやった。
男は夢を見ていた。今から半年ほど前の嫌な出来事が再現される最悪の夢だった。男はそれが原因で仕事を辞めていた。今も働いていなかった。
いや働くあてがなかった。両親が暮らす家で寝食していた男は居心地悪さを覚えていた。毎日が最低の気分だった。ああ、もう思い出したくない。男は必死で夢の中で終わるよう願った。しかし夢は結末まで続いていった。
翌日、寝室で男は眼を覚ますと、買っておいた粘着テープでベッドに張り付いたゴミをとってからゆっくりたちのいるリビングへ向かった。餌は与えていなかったが、菓子がまだ残っていたのでさすがに餓死することはないだろう。
「部屋移動するぞお前たち」
扉を開けて開口一番、男はそう言った。部屋の惨状はより一層酷くなっていたが、もはやこれ以上酷くなってもいっしょな気がした。
「ゆっくりりかいしたよ! いくよ、れいむ、おちびちゃんたち!」
「「「ゆっくりりかいしたよ!」」」
嬉しそうに飛び跳ねてくる四人家族。なんとも幸せそうな表情だった。男は潰したい衝動を抑えながら、ゆっくりの次の候補となる部屋『書斎』に案内する。
「「「「ゆゆ~~~♪」」」」
書斎の扉を開けるとゆっくりたちは至福の声を漏らした。
座り居心地の良さそうな一人用の椅子が部屋の中心に一つ、奥に木製の机があり、その上には照明、プリンター、書類、ノートパソコンが置かれていた。
部屋の左側にはずらっと本棚が設置されており、書籍がびっちりと詰まっている。いかにも書斎といった様相だ。
「にんげんしゃん! きょきょしゅきにつきゃっちぇいいにょ?」
飛び跳ねている赤れいむの質問に男はにこやかに応対する。
「いいに決まっているだろ。今はお前たちの部屋なんだから。でも約束は守れよ? 覚えているか?」
「大声出さない!」
「大声出さない!」
「おおぎょえだしゃにゃい!」
「おおぎょえだしゃにゃい!」
「他は?」
「「「「………?」」」」
赤二人を具に親二人でサンドイッチする。
「お外に出ない、カーテンを開けない。判ったかな」
「「「「ゆ、ゆっくちりかいしたよ…」」」」
家族四人が息絶え絶えそう答える。
「それさえ守ればいいんだ。簡単だろ? ほら、あとは自由にしていいから。あ、あとこれご飯ね」
男は応接間にあった菓子を放り投げると書斎を出ていった。男はそのままの足で昨日し忘れたことを行い、寝室に戻った。
「考えてほしいことがあるんだけど」
視線上げた先に緒方部長が立っていた。ついに来たか。男はそう思った。
「自主退社の件ですか?」
「そうだね、うん」
緒方部長が言葉を濁す、振りをする。男は知っていた。彼がそういった性格であり、これを機に昇進しようとしていることを。
次の日の朝、昨日と同じように粘着テープでゴミを取り除き、ゆっくりたちがいる書斎へ向かう。さて、一体どんなふうになっているのだろうか。男はゆっくりと扉を開けた。
思わずなんということでしょうと言いそうになった。ゆっくりたちは見事に書斎を汚せてみせた。
高級そうなソファーは座りたくないほどにうんうんとちーちーと穴まみれとなり、机の照明は割れ、プリンターとノートパソコンは床に落下し、無残なオブジェと成り下がっていた。
本棚の書籍は思い思いに抜き出され、リビング同様破き散らされていていた。壁紙は所々剥がれ、カーテンは当然のようにズタズタになっていた。男は自分の眼に狂いはなかったことを確信する。
「ここはりびんぐとくらべて、あそぶものがすくなかったぜ!」
「でもこのいすはりびんぐさんのよりゆっくりしてたよ!」
「このへやはしゃいあきゅだっちゃよ!」
「はやきゅちぎゃうへやにいきちゃいよ!」
思い思いに感想を口にするゆっくりたち。糞うざったいが「はいはい」とにこやかに応対しながら、最後の部屋『寝室』へ案内する。
「「「「ゆゆ~~♪」」」」
前日と似たような声を上げるゆっくりたち。ゆっくりたちの視線は清潔そうな白い布が被せてある二つのベッドだろう。
「約束、覚えているな」
「大声出さない!」
「お外に出ない」
「きゃーてんしゃんをあけにゃい!」
「しょれだけ!」
最後の赤れいむをズダズダに引き裂いてやりたかったが、約束を覚えていたのでやめる。
「じゃあ、好きにしていいぞ。ここが最後の部屋だからな。今日の夜に来るから決めておけよ。」
「「「「ゆっくちりかいしたよ!」」」」
幾度も聞いたその嘘くさい言葉に男は頷きながら、荷物を持って寝室を出た。あえて、ご飯は与えなかった。
「君、結婚していなかったよね」
緒方部長の言葉に男は静かに頷く。
「牧原君、大変だろうね。今職失っちゃ…」
牧原とは同じ時期に入社し、共に仕事をした仲だった。休日に遊ぶこともままあった。
「だからなんですか」
「それだけだよ」
そう言って緒方部長は去って行った。
後日、男は自主退社をした。そのあとで牧原もやめされていたことを知った。
夜、ゆっくりたちは思う存分に散らかした寝室で男が来るのを待っていた。
「にんげんさんこないんだぜ」
「ゆー、おなかすいたよ…ねむいよ…」
「ゆゆ、おきゃーしゃん、まりしゃもおにゃきゃすいちゃし、ねみゅちゃいよ」
「ゆー、れーみゅもー」
男は何時に来るか告げていなかった。そもそも野良ゆっくりに時間が判別できるか不明だが。
「れいむとおちびちゃんたちはねていいんだぜ。ねればくうふくをごまかせるんだぜ。まりさがみんなでえらんだゆっくりぷれいすをせんげんして、ごはんをもらってやるんだぜ!」
「ゆー、ありがとうまりさ!」
「しゃしゅぎゃ、おとーしゃんだにぇ!」
「おとーしゃん、きゃっきょいい!」
すぐさま親れいむと赤二人は眠りに入る。あまりの眠りの速さに親まりさは驚きを隠せなかったが、可愛い寝顔を見ていたらそんな気持ちは吹き飛んだ。
「それにしてもにんげんさんおそいんだぜ…」
結局朝になっても男が寝室に現れることはなかった。
男は緒方を恨んだ。恨みこそしたものの、内に秘めていただけだった。しかし三カ月も職が見つからないとなると、恨みを外に放出したい衝動に駆られた。
男は緒方に復讐しようと計画し始めた。先ず両親のいる家を出た。そして何度も緒方宅に探りを入れた。家の中に侵入し、金を盗んだこともあった。
しかし、それだけでは気が済まず、どうしたらいいか悩んでいるうちに三日間の旅行の情報が入ってきた。
男はそこで閃いた。そうだ、三日間あいつの家に侵入して生活してやろう。あいつの家をめちゃくちゃしてやろう。ゆっくりでいう“おうち宣言”をしてやろう。
そして実行の日、男はなかなか上手くいかないピッキングで汗をかいていた。ピッキングは針金と細いドライバーを使う方法だった。
スーパーの袋の片方には三日間過ごすための食糧、もう片方には家で破壊活動をする道具が詰まっていた。そしてリュックには遠くへ行くために必要な物が詰まっていた。
男は捕まってもいい覚悟でいた。自分が完全犯罪を達成できるとは思えなかった。だから捕まる前に全力叩き壊してやろうと考えていた。
しかし、それはゆっくりの出現によって消え去った。ゆっくりがすでに部屋を滅茶苦茶にしていたからだ。男は考えた。
『ゆっくりが自分の代わりをしてくれるのではないか』と。
男はゆっくりに緒方部長の家を荒させることにした。一日ごとに一部屋を荒させてやった。
放し飼いにしては全体を微々たる汚れにするより、汚したい個所を集中的に汚したかった。男は愉快だった。自分が何もしていないのに忌々しい緒方の家が荒らされていく。
男がしたことといえば、ふと思いついて冷蔵庫と冷凍庫を開けっぱなしにしたことくらいだ。
三日目の夜、男は緒方宅を出た。初めからどこをゆっくりプレイスにするかなど聞くつもりはなかった。
男はこれからどうしようか考える。
まぁなるようになるだろう。
リュックを背負いなおしながら、男は町を出た。
帰ってきた緒方夫婦に見つかったゆっくりたちの断末魔は当然聞こえてこなかった。
人称や言葉が所々狂ってますがどうか温かい目で…。
陽が沈み、辺りを濃い紫色にそめる冬の夕刻、男は民家から外れてぽつりと建つ一軒家の前にいた。
男は汗だくになりながら、一度大きく深呼吸した後、玄関の扉を開けた。
早く休みたい。早くあのビなんとか…とにかく有名なブランドものらしいソファーで寛ぎたかった。
背負っていたギュウギュウ詰めのリュックを担ぎ直し、地面に置いていたパンパンになっているスーパーの袋を両手に一袋ずつ持ち上げる。
地獄はあと少しで終わりだ。玄関を閉め、糞重い荷物と共にリビングに到達さえすれば暫くは…。
男は電気をつけずに暗い廊下を記憶頼りで渡っていった。早く疲れをとりたいという衝動が男を足早にさせる。
廊下とリビングを仕切る扉の前にたどり着いた男は両手に抱えていたスーパーの袋をドサッと離し、素早い動作で一の字の形をしたドアノブを捻った。
ようやく着いた。あの二人は三日間の夫婦旅行に出掛けている。もう誰にも邪魔されない俺だけの空間だ。
声が返ってくるはずがないと判っていながら、男は嬉しさのあまり「ただいま!」と声を張り上げていた。
しかし声は返ってきた。それも人間のものとは程遠い声音で。
「ゆっ、まりさ、にんげんがむだんではいってきたよ!」
「おいにんげん、ここはまりさとれいむのゆっくりぷれいすだからはやくでていくんだぜ! でていきたくなければまりさのどれいになって、あまあまたくさんよこすんだぜ」
「「よこちぇーくしょじじぃ!」」
目の前にゆっくりがいた。それも言動から察するにゲスな親まりさと親れいむの夫婦とその子供でありゲスな赤まりさと赤れいむが。
男は窓がある方へ目を向けた。カーテンが閉められているのでよく見えないが右端に穴が開いている箇所を見つけた。
破片は内側に散らばっており、どうやら彼ら(彼女ら?)はそこから侵入してきたらしい。近頃急増している野良ゆっくりに対策をうつ家は少なくない。
綿密な戸締まり、強度の高いガラス窓、ゆっくりホイホイなどの罠の設置。しかしこの家はリビングに彼らがいる以上、何の対策もしていなかったのだろう。
その事実こそ知らなかったとはいえあまりのセキュリティの甘さに不思議と恥ずかしさを覚えた。
「おい、じじい! きこえたのかぜ! はやくあまあまよこしてここからたちさるんだぜ! まりさのことばがりかいできないの? ばかなの? しぬの? だから――」
さっきと言っていることが違っていたが、特に従うつもりもないので思考に意識を集中させる。
考えることはこのゆっくりたちをどうするかだ。こいつらはこれから始まる俺の生活を確実に妨害するだろう。
虐待鬼威山よろしくありとあらゆる方法で虐め尽くしてもいいが大声出されたら堪らない。
民家から多少離れているとはいえ、苦情を言いに来られたら面倒だ。
なら口を封じればいい。そうだ。それでいこう。
口を潰してから束縛してハンダゴテプレイしてそれから――つかハンダゴテあるかな? まぁなかったら買ってきた蝋燭で女王様のようにSMプレイに勤しめばいいか。
膨らみ続ける妄想を一旦止め、ゆっくりたちに目を向ける。さっさと捕まえて口を引きちぎろうと歩を進めようとするが途中で止まる。
なんだこれは・・・?
男は目を凝らして部屋を見渡した。薄暗いせいもあり、男は部屋の惨状をよく確認していなかった。
リビングは荒れ果てていた。テーブルに置かれていたであろう花瓶は割れ、破片と共に水がクロスを濡らしている。
活けられていた花は食い散らかされ、残り滓がこれまたテーブルに載せられていた菓子と一緒に散乱している。よく見れば複数のうんうんも確認できた。
男が寛ごうとしていた横長のソファーは見るも無残に所々か噛み千切られ、泥まみれになっていた。
部屋の左に設置された二つの棚も存分に荒らされていた。一つ目の棚は高級なインテリアが飾られていたはずだが今はもう見る影はない。
たちどころに落下させて割っていったとしか思えないくらい破片が床に散らばっていた。
二つ目の棚は本棚だったが殆どの本が破かれており、下の段はおもいっきりちーちーがひっかられ書籍がグズグズになっていた。
カーテンもよく見れば所々引き裂かれている。うんうんが拭き取られた箇所をいくつか発見した。
部屋の右側のデスクに置かれていたビット数の高い薄型テレビは冷たい床と接している。多分もう映ることはないだろう。
デスク内にあったであろう複数のDVDはケースが開けられ、中にあったディスクは壁に投げ付けられたのか、割れて床に眠っていた。
DVDデッキに関してはちーちーをかけられただけで済ん…でない。上部のフレームがベコンベコンになっていた。あの程度ならもしかしたら使えるかもしれない。
土で育てていた観葉植物が倒れて食い荒らされていたとか、どういうわけか床に傷によって線が引かれていたりとか挙げたらキリがなかった。
というか子ゆっくりたちが俺の対応がこないことに飽きたのか現在進行形で壁紙剥がしという破壊活動に熱中していた。
男は驚きのあまり絶句していた。ゆっくりの被害談はよく耳にしたがまさかこれほどまでとは。いや今まで聞いた中でこれは断トツで1番酷いだろう。
どうしてここまで出来る…というかここを自分達のゆっくりプレイスにするとか言ってたぞあいつら…ゆっくりできるのかこの状態で。
男はゆっくりには一定の美意識というものがあると考えていた。やたらと飾りにこだわるし、猫の毛ずくろいのようにぺーろぺーろもする。
汚いゆっくりを見たらゆっくりできないゆっくりだと判別しているようだし、反して綺麗なら美ゆっくりに扱いをする。
それらはゆっくりにある一定の美意識が存在し、選別しているのではないだろうかというのが男の持論だった。
しかしそれは打ち砕かれた。こいつらに美意識なんて大層なものなんてない。あるのはゲスな心だけだ。
男は親まりさに尋ねることにした。
「聞きたいんだけどさ。ここは君達のゆっくりプレイスだとして、君達はここでゆっくりできるの?」
「ようやくくちをひらいたとおもえばなんだぜ。いいからあまあまもって」
左手で親まりさの側頭部を抑えながら右手で親まりさの右頬からCの形になるまで殴りつける。両手に手袋をはめているせいか感触がいまいちだった。
「よくもやったなくそじじい! まりさはもりでいちばんつよ」
同じ箇所を再びCの形になるまで力を込めて殴る。
「いひゃいよ。こたえるからゆっきゅりやめ」
何となくCの形になるまで殴りつける。
「にゃんじぇあやみゃっちぇるにょににゃぎゅるにょー!!」
右頬が赤く膨れ上がった親まりさに男は「いいから答えろ」と促す。力の差を理解したのか親まりさは抵抗せずに声を発しようとした。
「ゆっk」
「ああー! わたしのまりさになにしてくれてんの? ばかなの? しぬの? あんこのうなの? ゆっくりできないにんげんはさっさとしね! いくよおちびちゃんたち!」
「「ちねーーー!!」」
親まりさをボコボコにした相手に何故か親れいむと赤ん坊たちがかかってきたので、親まりさと同じメニューを与える。焼き餅が4つ出来あがっていた。
「親まりさだけに聞くってのもあれだしな。じゃあ改めて四人に聞こう。ここが君たちのゆっくりプレイスだとして、君たちはゆっくり出来るの?」
「ゆっくりできるんだぜ…」
「ゆっくりできるよ…」
「ゆっきゅりできりゅよ。びゃきゃなの? しぬの?」
「そんにゃこちょもわきゃりゃないにんげんなんちぇくじゅでs」
男は先ほどと同じ要領で赤二人の左頬を膨れ上げさせる。親二人が何も反発してこないことが滑稽だった。
男はゆっくりたちの言葉に驚いていた。この凄惨な部屋でゆっくり出来ると言ってのけた。男は額から流れる汗を拭きながら次なる質問をぶつける。
「悪いが質問を続けさせてもらう。お前たちがここに侵入する前はこの部屋は綺麗だったはずだ。その綺麗な状態の方が落ち着いたんじゃないか」
「いまのほうがふしぎとおちつくんだぜ…」
「ゆっくりできるよ…」
「ゆっきゅりしゅよ…」
「ゆっきゅりしゃせちぇよ…」
最後に発言した赤れいむにはデコピンを十発食らわし額を腫れさせたが、まぁそれはいい。どうやらこのゆっくりたちは汚いほうがゆっくりできるタイプらしい。確かに人間にもそういった趣向をもつ奴もいるが、しかし……。
台風が過ぎ去ったより酷い部屋を見る。恐らく落ち着かないことから徹底的に荒らしまくったのだろう。荒らすことでゆっくりを得られるなら彼らは何も厭わないのだろう。ただひたすら荒らしまくりゆっくりを享受するゆっくり。
どう考えても人類の敵です。本当にありがとうございました。
とりあえず口を蝋で埋め尽くそうかと手を伸ばしたところでふと閃くことがあった。男は自分の閃きに感動し、すぐさまゆっくりたちに提案する。
「そうか、ゆっくり出来るのか。なら仕方ないな。で、君たちはここに住み着くつもりなのかな?」
「に、にんげんさんのばしょはゆっくりできないからたちさるんだぜ…」
「ゆっ、ざんねんだけどしかたないね…」
「やじゃやじゃしゃみゅいのやじゃー!」
「おしょちょはふゆしゃんにゃんだよ! びゃかにゃの?」
親二人は諦めがついているようだが、赤二人は未練たらたらのようだった。いい流れだと男は思った。
「別に住み着いてもいいんだけどな」
男がポツリとこぼした言葉に、俯き加減だったゆっくりたちが一斉に男の方を向いた。親二人は信じられないといった表情で、赤二人は気持ち悪いにやけ面で。
「だって外は冬だし。お前ら今出たら間違いなく死ぬだろ。俺もそこまで鬼じゃないさ。そうだな。外に出ない、カーテンを開けない、大声出さないって制約さえ守ればここにいてもいいよ」
親二人がしばらくポカーンとしていたがやがて正気を取り戻し、
「はじめからそういえばよかったんだよ!」
「にんげんさんはようりょうがわるいよ! ぷんぷん!」
「やっぴゃりあんきょにょうにゃんだにぇー」
「にゃにしちぇるの? はやきゅあまあまもっちぇきょい!」
とほざきだした。餡子脳を理解する気はとうに失せたので言動は特に気にしない。
ただ大声を張り上げたので、ポケットから小型のドライバーセットを取り出し、ゆっくりの上唇と下唇をドライバーを突き刺して繋げた。痛みでのたうち回っていたが今は興味がない。
「大声出さないと誓ったら抜いてやる。しかし誓い破ったら次はどこに穴が開くかな」
とだけ言い、様子をうかがった。
ゆっくりたちの行動は早かった。ゆっくり全員がひたすら頷き、誓いの姿勢を見せた。男は親から順にドライバーを抜いていくことにした。
当然だがドライバーを抜くときの痛みは刺されている状態よりもより鋭敏である。さっとドライバーを抜いたものの親二人は眼を充血させ歯を折れるほどに噛み締めながら声を出すのを抑えていた。
次は赤二人である。男は絶対に大声を出すだろうなと思い、口元を抉り取る構えをとった。男がなるべく早くドライバーを抜き取る。
赤まりさの口内が露出していく。あまりひどい泣き顔から大声を出すのは確実だった。
仕方ない、と思い口元を抉ろうとしたところでこの行為はまずいのではないかという考えに行き着く。そしてドライバーを刺してしまったことも…。
男は慌てて、赤まりさを親まりさの口の中に入れ、防音処理を施した。赤れいむも同じ要領で親れいむの口へ投入し、大声を阻止した。
そして赤二人が泣きやんだことを確認し、穴のあいた部分に買ってきておいたオレンジジュースをそれぞれ塗りたくる。傷口は開いたままだが、時間の解決を祈るしかないだろう。
「子供だからハンデとして一度だけ許してやった。まぁ俺もドライバーを突き刺すのは酷過ぎたな。これは素直に謝る。けれど大声を出したら頭に血が上って何をするか判らない。ゆっくり理解したかな?」
「「「「ゆっくりりかいしたよ…」」」」
今度は誰も異論はないようだ。ようやく話が前に進むと男は溜息をひとつ吐き出す。
「さて、君たちはここに住むことを決意したわけだが、この部屋でいいのか?」
男の質問にゆっくり全員が疑問符を出した。互いに顔を見合わせ誰も理解していないことを察した親まりさが前に出る。
「にんげんさん、ゆっくりわかるようにせつめいしてね…」
「ああ、えっとだな。この部屋があるだろ? ここはリビングといって家の一部でしかないんだ。つまり、このリビングの他にも部屋があるからお前たちにどうかなと勧めていたわけなんだが」
「ほきゃにみょへやしゃんありゅにょ? しゅぎょーい!」
「きょきょよりみょゆっきゅりしちぇりゅばしょ?」
眼を一段輝かせて赤まりさと赤れいむは歓喜余ったのか震えている。親まりさと親れいむの方も震えはしないものの眼を輝かせていた。男は口元に手を当て笑いを抑えながら赤れいむの質問に返答した。
「それはお前たち次第だ。俺にはどの部屋がお前たちに適しているか知らないからな。
とりあえずそうだな。一日ごとに部屋を替えていこうか。候補はここ含めて三か所ある。三日目の夜にお前たちはその中から一番ゆっくり出来る場所を選んでくれ。どうだ。理解したか?」
「「「「ゆっくりりかいしたよ!」」」」
家族全員が飛び跳ねながらそう答えた。口元が怪我しているせいかそこまで大声でもなかったので、ボディーブロー一発で許してやった。
男は夢を見ていた。今から半年ほど前の嫌な出来事が再現される最悪の夢だった。男はそれが原因で仕事を辞めていた。今も働いていなかった。
いや働くあてがなかった。両親が暮らす家で寝食していた男は居心地悪さを覚えていた。毎日が最低の気分だった。ああ、もう思い出したくない。男は必死で夢の中で終わるよう願った。しかし夢は結末まで続いていった。
翌日、寝室で男は眼を覚ますと、買っておいた粘着テープでベッドに張り付いたゴミをとってからゆっくりたちのいるリビングへ向かった。餌は与えていなかったが、菓子がまだ残っていたのでさすがに餓死することはないだろう。
「部屋移動するぞお前たち」
扉を開けて開口一番、男はそう言った。部屋の惨状はより一層酷くなっていたが、もはやこれ以上酷くなってもいっしょな気がした。
「ゆっくりりかいしたよ! いくよ、れいむ、おちびちゃんたち!」
「「「ゆっくりりかいしたよ!」」」
嬉しそうに飛び跳ねてくる四人家族。なんとも幸せそうな表情だった。男は潰したい衝動を抑えながら、ゆっくりの次の候補となる部屋『書斎』に案内する。
「「「「ゆゆ~~~♪」」」」
書斎の扉を開けるとゆっくりたちは至福の声を漏らした。
座り居心地の良さそうな一人用の椅子が部屋の中心に一つ、奥に木製の机があり、その上には照明、プリンター、書類、ノートパソコンが置かれていた。
部屋の左側にはずらっと本棚が設置されており、書籍がびっちりと詰まっている。いかにも書斎といった様相だ。
「にんげんしゃん! きょきょしゅきにつきゃっちぇいいにょ?」
飛び跳ねている赤れいむの質問に男はにこやかに応対する。
「いいに決まっているだろ。今はお前たちの部屋なんだから。でも約束は守れよ? 覚えているか?」
「大声出さない!」
「大声出さない!」
「おおぎょえだしゃにゃい!」
「おおぎょえだしゃにゃい!」
「他は?」
「「「「………?」」」」
赤二人を具に親二人でサンドイッチする。
「お外に出ない、カーテンを開けない。判ったかな」
「「「「ゆ、ゆっくちりかいしたよ…」」」」
家族四人が息絶え絶えそう答える。
「それさえ守ればいいんだ。簡単だろ? ほら、あとは自由にしていいから。あ、あとこれご飯ね」
男は応接間にあった菓子を放り投げると書斎を出ていった。男はそのままの足で昨日し忘れたことを行い、寝室に戻った。
「考えてほしいことがあるんだけど」
視線上げた先に緒方部長が立っていた。ついに来たか。男はそう思った。
「自主退社の件ですか?」
「そうだね、うん」
緒方部長が言葉を濁す、振りをする。男は知っていた。彼がそういった性格であり、これを機に昇進しようとしていることを。
次の日の朝、昨日と同じように粘着テープでゴミを取り除き、ゆっくりたちがいる書斎へ向かう。さて、一体どんなふうになっているのだろうか。男はゆっくりと扉を開けた。
思わずなんということでしょうと言いそうになった。ゆっくりたちは見事に書斎を汚せてみせた。
高級そうなソファーは座りたくないほどにうんうんとちーちーと穴まみれとなり、机の照明は割れ、プリンターとノートパソコンは床に落下し、無残なオブジェと成り下がっていた。
本棚の書籍は思い思いに抜き出され、リビング同様破き散らされていていた。壁紙は所々剥がれ、カーテンは当然のようにズタズタになっていた。男は自分の眼に狂いはなかったことを確信する。
「ここはりびんぐとくらべて、あそぶものがすくなかったぜ!」
「でもこのいすはりびんぐさんのよりゆっくりしてたよ!」
「このへやはしゃいあきゅだっちゃよ!」
「はやきゅちぎゃうへやにいきちゃいよ!」
思い思いに感想を口にするゆっくりたち。糞うざったいが「はいはい」とにこやかに応対しながら、最後の部屋『寝室』へ案内する。
「「「「ゆゆ~~♪」」」」
前日と似たような声を上げるゆっくりたち。ゆっくりたちの視線は清潔そうな白い布が被せてある二つのベッドだろう。
「約束、覚えているな」
「大声出さない!」
「お外に出ない」
「きゃーてんしゃんをあけにゃい!」
「しょれだけ!」
最後の赤れいむをズダズダに引き裂いてやりたかったが、約束を覚えていたのでやめる。
「じゃあ、好きにしていいぞ。ここが最後の部屋だからな。今日の夜に来るから決めておけよ。」
「「「「ゆっくちりかいしたよ!」」」」
幾度も聞いたその嘘くさい言葉に男は頷きながら、荷物を持って寝室を出た。あえて、ご飯は与えなかった。
「君、結婚していなかったよね」
緒方部長の言葉に男は静かに頷く。
「牧原君、大変だろうね。今職失っちゃ…」
牧原とは同じ時期に入社し、共に仕事をした仲だった。休日に遊ぶこともままあった。
「だからなんですか」
「それだけだよ」
そう言って緒方部長は去って行った。
後日、男は自主退社をした。そのあとで牧原もやめされていたことを知った。
夜、ゆっくりたちは思う存分に散らかした寝室で男が来るのを待っていた。
「にんげんさんこないんだぜ」
「ゆー、おなかすいたよ…ねむいよ…」
「ゆゆ、おきゃーしゃん、まりしゃもおにゃきゃすいちゃし、ねみゅちゃいよ」
「ゆー、れーみゅもー」
男は何時に来るか告げていなかった。そもそも野良ゆっくりに時間が判別できるか不明だが。
「れいむとおちびちゃんたちはねていいんだぜ。ねればくうふくをごまかせるんだぜ。まりさがみんなでえらんだゆっくりぷれいすをせんげんして、ごはんをもらってやるんだぜ!」
「ゆー、ありがとうまりさ!」
「しゃしゅぎゃ、おとーしゃんだにぇ!」
「おとーしゃん、きゃっきょいい!」
すぐさま親れいむと赤二人は眠りに入る。あまりの眠りの速さに親まりさは驚きを隠せなかったが、可愛い寝顔を見ていたらそんな気持ちは吹き飛んだ。
「それにしてもにんげんさんおそいんだぜ…」
結局朝になっても男が寝室に現れることはなかった。
男は緒方を恨んだ。恨みこそしたものの、内に秘めていただけだった。しかし三カ月も職が見つからないとなると、恨みを外に放出したい衝動に駆られた。
男は緒方に復讐しようと計画し始めた。先ず両親のいる家を出た。そして何度も緒方宅に探りを入れた。家の中に侵入し、金を盗んだこともあった。
しかし、それだけでは気が済まず、どうしたらいいか悩んでいるうちに三日間の旅行の情報が入ってきた。
男はそこで閃いた。そうだ、三日間あいつの家に侵入して生活してやろう。あいつの家をめちゃくちゃしてやろう。ゆっくりでいう“おうち宣言”をしてやろう。
そして実行の日、男はなかなか上手くいかないピッキングで汗をかいていた。ピッキングは針金と細いドライバーを使う方法だった。
スーパーの袋の片方には三日間過ごすための食糧、もう片方には家で破壊活動をする道具が詰まっていた。そしてリュックには遠くへ行くために必要な物が詰まっていた。
男は捕まってもいい覚悟でいた。自分が完全犯罪を達成できるとは思えなかった。だから捕まる前に全力叩き壊してやろうと考えていた。
しかし、それはゆっくりの出現によって消え去った。ゆっくりがすでに部屋を滅茶苦茶にしていたからだ。男は考えた。
『ゆっくりが自分の代わりをしてくれるのではないか』と。
男はゆっくりに緒方部長の家を荒させることにした。一日ごとに一部屋を荒させてやった。
放し飼いにしては全体を微々たる汚れにするより、汚したい個所を集中的に汚したかった。男は愉快だった。自分が何もしていないのに忌々しい緒方の家が荒らされていく。
男がしたことといえば、ふと思いついて冷蔵庫と冷凍庫を開けっぱなしにしたことくらいだ。
三日目の夜、男は緒方宅を出た。初めからどこをゆっくりプレイスにするかなど聞くつもりはなかった。
男はこれからどうしようか考える。
まぁなるようになるだろう。
リュックを背負いなおしながら、男は町を出た。
帰ってきた緒方夫婦に見つかったゆっくりたちの断末魔は当然聞こえてこなかった。