ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko0560 ゆっくりとサバゲー対決
最終更新:
ankoss
-
view
「すまんなA二等兵、貴様をこんな戦いに巻き込むつもりはなかった」
「なかったって…呼んだのは先輩じゃないですか」
「私のことはただ曹長と呼べばよい。戦場では指揮系統を構成する官職は重要だが、個人の名前など意味をなすものではない」
「はあ…」
A二等兵と呼ばれた社員Aは周りを見渡した。
完全武装の男達が彼を含めて5人。
中央には菓子類がうず高く積まれ、周囲は土を掘って作った塹壕が取り囲んでいる。
加えて、あたりには甘ったるい匂いが立ち込めていた。
Aは今朝、会社の先輩から「サバイバルゲームの人数が足りない」と、突然呼び出された。
彼はもともと、エアガンやサバゲーについてまったく知らなかったわけではない。
実際、子供のころにエアガンを片手に野山を駆け回ったこともあった。
今回も似たようなもんだろう、と思って来てみたら、いきなり大量のお菓子を運ばされた。
その次は塹壕を掘らされ、掘り終わったらなぜかオレンジジュースやガムシロップをあたりに撒くよう言われた。
甘い匂いが立ち込めているのはこのせいである。
“曹長”が隊員達に言う。
「我々の任務は、この物資を敵の手から死守することである!」
敵とはあれか。Aは向うのほうでうごめくゆっくりの群れを見やった。
彼らがやろうとしているのは「ゆっくり相手のサバイバルゲーム」だった。
もちろん、ゆっくりに旗の取り合いなどのルールを教えられる訳がない。第一、ゆっくりはエアガンのような攻撃手段を持っていない。
そこで考えたのが、ゾンビ映画の「1体1体は大した戦闘力はないが集団で押し寄せてくる」ような防衛戦だった。
ここで問題になるのが、ゆっくりの士気である。
まず、大量のお菓子と甘い匂いでゆっくりをおびき出すのだが、それだけでは不足。
おそらく10匹も撃ち殺さない間に、ゆっくり達は恐怖し、あきらめて逃げてしまうだろう。
そうならないための仕掛けがちゃんとしてあった。
ゆっくり達はみな怒っていた。
朝ごはんを済ませ、狩りに出て来たら甘い匂いに誘われた。
たどっていくとゆっくり達の前に現れたのは見上げるほどのあまあまの山。
そして、それを守っている何匹かの「めーりん」だった。
グズのめーりんが、生意気にもあまあまをひとり占めしている!
それはまたたくまに群れに伝えられ、ゆっくり達は総出でせいさいの為に取り囲んだ。
「何があってもその帽子だけは絶対に無くすなよ」
軍曹と呼ばれる別の先輩が、改めてAに注意した。
Aはようやく理解した。つまり、彼らがヘルメットの上に付けているこの帽子によって、ゆっくり達には「にっくきめーりん」に見えているということか。
確かにこれなら、ゆっくり達はムキになって襲ってくるだろう。
しかし迷彩服で固めた上に、ちょこんとめーりんの帽子が載っているのはどう見ても間抜けであった。
「日没までだ。日没まで持ちこたえれば友軍が来てくれる」
友軍って何のこっちゃ、とAは思った。
そもそも、ドスのいないゆっくりの群れなど、手ぶらにパンツ一丁でも踏みつけて回ればあっというまに片付けられる。
しかしこれはゲームである。あくまでも「数にまかせて押し寄せる敵を、取り残された少数で必死に押し返す」という状況を楽しむのが目的だ。
総勢5人というのも、ゆっくりの群れの規模に対し多すぎず少なすぎず、ギリギリの人数を計算した結果だった。
「よし伍長、やれ」
曹長が命令を下した。
「サー!イエッサー!」
伍長と呼ばれたこれまた別の先輩が土塁の上に飛び乗ると、
「じゃおおおおおおおおんんんんん!」
突然、大音声でめーりんの鳴き声を叫んだ。
あまりのことにAはドン引きである。
それが戦闘開始の合図だった。
「伏せろバカ者!」
ポカーンとしているAを軍曹がヘルメットごと押さえつけ、無理やり腹這いにさせた。
弾が飛んで来るわけでもないのに何でやねん、とAは心の中で突っ込んでいた。
ゆっくり達は激怒した。
何なんだあのめーりんは。こともあろうに大声で挑発してきたではないか。
ひどい発音なのでよく聞き取れなかったが「来るなら来てみろ」とでも言っていたに違いない。
「みんな!ぐずのめーりんからあまあまをとりかえすんだぜえええええ!」
「ゆおおおおおおーーー!」
リーダーのまりさの掛け声で、ゆっくり達は殺到した。つーか、いつお菓子がゆっくり達の物になったのか。
「物資集積所」は、意図的に森の中に開けた場所、周囲から丸見えな所に作られていた。
「めーりんのくせにいいいい!」
「あまあまをよこせええええ!」
四方八方から大小のゆっくりが襲いかかる。
それを前にして隊員達は、
「俺、この戦争が終わったら結婚するんだ…」
「お前とはもっと早く会っていたかったぜ…」
などと、わざわざ死亡フラグを立てるセリフを口にしていた。どうやらとことん危機的状況を演出したいらしい。
「何やってんですか!」
Aが向かってくるゆっくりを撃とうとすると、曹長がそれを止めた。
「まだだ!もっと引きつけろ!」
籠城戦で「引きつけろ」もまた死亡フラグなんじゃ…と思いながらも、Aは従わざるを得なかった。
「A二等兵、マニュアルどおりに動こうとするな」
「そうそう、新兵は俺達古参兵のマネしてりゃいいのよ」
先輩達は完全になりきっていた。
余談になるが、ここで各員の装備を見てみよう。
曹長 M16A1/ガバメント
軍曹 GALIL ARM/ジェリコ941
伍長 H&K G36C/H&K USP
兵長 三八式歩兵銃/南部十四式拳銃
A二等兵 ワルサーMPK/オート9
国も年代も見事にバラバラだが、どうやらAは余り物を押し付けられているようだ。
「今だ、撃て!」
曹長の号令一下、各員の銃がBB弾を放った。
「ヒャッハアアアアア!」ブリブリブリブリ!
自分を奮い立たせながら撃つ者。
「来るな、来るなああ、チクショオオオオオオ!」ボスッ!ボスッ!ボスッ!
涙目になりながら早くもパニック状態を演出する者。
塹壕の外は跳ねまわる饅頭と飛び散る餡子だらけで阿鼻叫喚になったが、塹壕の中もたいがいなカオスだった。
ゆっくり達は一瞬呆気にとられた。
あまあまの山を目の前にして、突然周りのゆっくりが何匹も弾け飛んだのである。
見ればめーりん達が、叫びながら何かをこっちに向かって撃って来ていた。
ゆっくり達の怒りが爆発した。
自分達がグズのめーりんに遅れをとっているだと?
なんてクソ生意気なめーりんだ。一匹残らずせいさいしてやる。あまあま寄越して降伏しても絶対許さない。
仲間が次々と餡子を散らして倒れていくなか、ゆっくり達の士気はますますヒートアップしていた。
「先ぱ…曹長!奴らちっともひるみません!」
Aも必死で銃撃していた。
最初は三八式の兵長とともに、ガッションガッションとコッキングしていたが、オート9のほうがフルオートだと分かるとそっちをメインに使っていた。
別にゆっくりに襲われても危険なんかないのだが、体当たりをされればヒット扱いだし、お菓子を奪われたら負けというルールである。
自分のせいで負けになったら後で先輩達に何を言われるか分からない。
「あきらめるな!銃身が真っ赤になるまで撃って撃って撃ちまくれ!」
曹長はそれだけ言ってM16の引き金を引き続けた。
そうこうしているうちにBB弾が尽きてきた。
「曹長殿!弾がもうありません!」
「誰か!あそこまで行って弾を取って来い!」
曹長が塹壕の外を指差して叫んだ。その先にはBB弾が詰まっているであろう袋が置いてある。
ちょっと待て。Aは眉間にしわを寄せて何度目かの突っ込みを入れた。
弾なんて最初から全部ここに置いておけばいいではないか。わざわざ外に置いて取りに行かせるとは、なんちゅう演出だ。
「曹長!私が行きます!」
伍長がすぐに名乗りをあげた。
「頼んだぞ伍長!」
「任せてください!兵長、援護を頼む!」
「アイサー!」
伍長はG36Cを構えて飛び出そうとしたが、直前でペンダントを外すと兵長に渡し、
「親父の形見だ。俺が戻ってくるまで貴様に預けておく」
と、さらに死亡フラグを追加して出て行った。
「ウオオオオオ!」
腰だめにG36Cを構え、右に左に乱射しながら伍長は走る。
よく見れば、足元のゆっくりを踏まないようによけながら走っているではないか。
これは踏んだり蹴ったりの攻撃をよしとせず、あくまでBB弾によるヒットを狙うべし、という彼らの美学であった。
「取って来たぞオー!」
伍長が弾の入った袋をかかげて走って来る。
「早く!早く!」
兵長が十四式で援護する。三八式の弾はとうに撃ち尽くしていた。
その懸命の援護もむなしく、あと数メートルという所で伍長の運命は尽きた。
「ぐずのめーりんはしねええええええ!」
とうとう足にゆっくりの体当たりを受けてしまったのである。
「うあああああ!」
伍長は大げさに倒れながら、最後の力を振り絞って弾の袋を投げてよこし、そのまま動かなくなった。
「伍長!今助けます!」
兵長は受け取った袋もそこそこに、塹壕から飛び出そうとした。
「馬鹿野郎!頭を出すな!」
しかし軍曹がすかさず上着のすそを掴んで引き戻す。
「軍曹!曹長!行かせてください!今なら助かります!」
「お前まで死ぬ気か!伍長はもう助からん!」
その伍長は今、うつぶせに倒れたままで、背中の上で勝ち誇ったゆっくり達がトドメとばかりにぼっすんぼっすん跳ねていた。
「見殺しにするんですか!伍長!伍長オオオオオオー!」
周りの山々に兵長の叫びがこだました。
Aはもう頭を抱えるしかなかった…。
「やったのぜ!めーりんのやつをいっぴきせいさいしたのぜ!」
「むきゅう…でもこっちもだいぶやられてしまったわ。いったんもどったほうがよくないかしら?」
参謀のぱちゅりーが、リーダーまりさに一時撤退と立て直しを進言した。
「ゆう…」
まりさも同意せざるを得なかった。確かにかなりの数のゆっくりが、あまあまを前にしてやられている。
「だいじょうぶ。ぱちゅりーにいいかんがえがあるわ!」
「よし、ここはいったんひくのぜ!」
まりさは撤退命令を出した。
「それで、どうするんだぜ?ぱちゅりー」
ゆっくりの群れはかなり数を減らしていたが、あきらめようと言うのは少数だった。
めーりんとあまあまの山のせいで、皆頭に血?が上っているのだ。
「むきゅ!それはね…」
ぱちゅりーの作戦とはこうだった。
あまあまの山とめーりん達は、広場の中に陣取っているとはいえ、一方が森に近い。
そこで、正面からめーりん達の気を引き、その間に別働隊が森の中を隠れて進み、背後から奇襲をかけるのだ。
「よーし、それでいくのぜ!」
リーダーまりさが同意し、別働隊を選ぼうとしたとき、一匹のゆっくりが異変に気づいた。
「伍長はあのままなんですか?」
ゆっくり達はいったん引いたものの、向うの方からこちらをうかがっている。
隊員達の方もこの間に弾の補充やガスの充填をしていた。
「今伍長を回収している余裕はない。奴らは必ずまた攻めてくる」
Aの問いに曹長は答えた。答えながらチラリと兵長のほうを見やり、すまなそうな表情を作った。
その兵長はというと、曹長から目をそらし、憮然とした表情をしている。
ここまでツーカーな連携プレーには呆れるを通り越して感嘆するしかない。
で、その伍長はどうしているかというと、さっきの場所に餡子まみれでブッ倒れたままなのだ。
サバゲーならさっさとフィールドから退場し、セーフティゾーンに行くべきなんだろうが、ここはあくまで戦場。
どうやら最後まで死体を演じるらしい。見上げた根性だった。
「兵長、いつまでそうしているつもりだ。やるぞ」
軍曹が促した。
「イエッサー」
兵長が答え、2人はお菓子の山に近づくと、いきなりそれらを手当たり次第にむさぼり始めた。
「むーしゃ、むーしゃ!」
「うっめ!めっちゃうっめ!」
大声でしゃべりながら、ゆっくりのように汚く食べ散らかす。
見れば2人のヘルメットに付いているのは、いつの間にかめーりんの帽子ではなく、れいむのリボンとまりさの帽子に替わっていた。
ご丁寧にリボンは破かれ、帽子はてっぺんが切り取られている。
「な、な、な、何をしてるんですか?」
Aは突然のことに引きつりながら後ずさった。
「まあ見ていろA二等兵」
曹長は平然としている。そのうち食い荒らしている2人は揃ってゆっくり達の方を向くと、
「「しあわせえええ~~~~」」
と聞こえよがしに叫んだ。
呆気にとられたのはAだけではなく、ゆっくり達も同様だった。
いつの間にかれいむとまりさが向こうにいて、あまあまにありついているのだ。
何だあのめーりんに付く裏切り者のゲスなゆっくりは。
見れば2匹のお飾りは破れている。ゆっくりできないゆっくりだから当然か。
「れいむのあまあまがぁ!」
「おちびちゃんのおやつがあああああ!」
ゆっくり達が騒ぎだした。だからいつこいつらの物になったというのだ。
騒いでいる間にも、2匹によってあまあまは次々に数を減らしてゆく。
「ゆああああ!たべるなああああああ!」
ゆっくり達は再び襲いかかった。
なるほど、こうして常にゆっくりを挑発するのか。Aはようやく理解した。
「何をボーッとしている!死にたいのか!」
軍曹に叱咤され、Aも再び銃撃を開始した。
ゆっくり達の勢いは衰えるどころかますます激しくなっていた。
すぐ隣で別のゆっくりが直撃弾を受け、餡子を散らして絶命しようがおかまいなしに突っ込んでくる。
軍曹と兵長は銃撃をしながらも、あいかわらずお菓子を食べ続けていた。
それを見たゆっくり達はさらに焦る。早く行かないとあの山と積まれたあまあまが無くなってしまう。
他のゆっくりが何匹死のうが、自分さえたどりつければあまあまをひとり占めできる。そう考えているゆっくりもいた。
「ゆっへっへ…さすがはまりさのみこんだ“せいえいぶたい”なのぜ…」
そのころリーダーまりさは、選抜した別働隊十数匹とともに集積所の背後に回りつつあった。
なし崩しに始まってしまった第2派攻撃だが、まりさの選んだ“せいえい”は動じることなく、黙って付いて来ていた。
「にんげんたちはしょうめんにくぎづけなのぜ!ふいをつけばぜったいかてるのぜ!」
別働隊は木々に隠れ、突撃のチャンスをうかがっていた。
当然、Aを除く全員はそんなこと先刻承知である。
そもそも森を背にしたのも、これまた「背後から不意をつかれて急襲される」という状況を作り出すため。
襲って来たとき自分はどういうリアクションをするか。隊員達は背後を気にしつつそれを考えていた。
そして遂にその時が来た。
「むーしゃむーしゃするよ!」
先陣を切って飛び込んで来たのはれいむだった。
「う、うわあああああああああ!」
相対したのは兵長。完全に慌てたという演技で、れいむの顔に三八式の銃剣を突き立てた。
「ゆぶぇ!」
銃剣はペラペラのゴム製だったのでれいむの表面でグニャリと曲がったが、銃身そのものがれいむを貫いた。
「うわああ!死ね!死ねえええええ!」
兵長はなおもパニックの演技を続け、とっくに絶命しているれいむに何度も何度も三八式を突き立てている。
背後のただならぬ様子に、Aも振り返って銃撃しようとしたが、そこで悲劇が起こった。
振り返るとき、ワルサーMPKのストックが土塁にひっかかってしまったのである。
せめてストックが「折りたたまれる向き」に当たっていたなら悲劇は避けられたかも知れない。
しかし運悪く「これ以上曲がらない向き」に当たってしまった。
結果、Aが引き金を引いたとき、MPKの銃口は兵長を捉えていた。
発射されたBB弾は、まっすぐに兵長の脇腹に吸い込まれていった。
兵長は一瞬驚愕してみせ、次に弾が当たった脇腹を押さえながら、
「な…何で…」
と、恨みがましい表情をAに向けながらその場に倒れていった。
「うわわわ、すみませんすみませんすみません!」
Aは慌てて頭を下げた。
ゆっくりにしてみればそんな事情知ったことではない。続いて入って来たちぇんがお菓子の山にとりついた。
「ちぇんがいちばんなんだよー、わかるよー」
ここに、人間側の負けが確定した。
集積所は狂乱の宴となっていた。
前から後ろからゆっくりがなだれ込み、お菓子の山に飛び込んでいく。
「これぱねぇ!めっちゃうっめ!」
「むーしゃ、むーしゃ、しあわしぇえええええ~~~~~!」
お菓子の山にはゆっくりがびっしりととりつき、うぞうぞと蠢いている。もう表面もほとんど見えない。
傍らには戦意を喪失した(演技をしている)隊員。ゆっくり達はもう彼らなど眼中にない。
ただひたすらお菓子をむさぼり食う。隣にいるゆっくりよりもより多く食らおうと。
「おしまいだ…もう何もかもおしまいだ…」
軍曹がジェリコ941を手にし、マガジンを外して中のBB弾をばらまく。
そしてフラフラと2、3歩歩くと、マガジンを戻して銃口をこめかみに当て、自ら引き金を引いた。
バシュ!
軍曹は空砲で「自決」した。空虚な表情を作って崩れ落ちる。
「軍曹!軍曹オオオオオー!」
曹長が駆け寄って抱き起こし、大声で揺さぶるが軍曹は目を開けない。
「何てことだ…常に冷静なあの軍曹が…」
まだ終わってないのかよ、と思いながら見おろしているAの耳に、まったく別の人間の声が聞こえてきた。
「お~い…大丈夫か~…」
それを聞き、曹長が顔を明るくする。
「友軍だ!友軍が来てくれたぞ!」
友軍ねぇ…Aが声の方を向くと、3、4人のオッサンを載せた軽トラがこっちにやってくるところだった。
結局、後からやって来たオッサン達によって、群がっていたゆっくり達はあっさりと一網打尽にされた。
彼らはこの山の所有者で、日暮が近くなったから様子を見に来たのである。
「ここからだすんだぜくそじじいいいい!」
「むきゅううう!つぶれちゃううううう!」
お菓子の山ごと袋に詰め込まれたゆっくり達が騒いでいる。
その脇で、軍曹・伍長・兵長の「死体」は、死体袋と言う設定の寝袋に入れられ、軽トラの荷台に乗せられるところだった。
この人達はいつまでやってるんじゃい、とAは思った。それに付き合ってるオッサン達もたいがいだ。
「ありがとうございました。おかげですっかりゆっくりどもが片付きました。これはほんのわずかですがお礼です」
「そんな、お礼をするのはこっちですよ。思う存分やらせていただきましたし」
「いやいやそう言わずに。お菓子の実費程度ですから」
山の所有者と曹長との間で、そんなやりとりがされていた。
Aには今になって知らされたのだが、曹長達先輩は「サバゲーをしながらゆっくりを駆除する」というボランティアチームであった。
ゆっくりの駆除はたいてい専門の業者に頼むのだが、彼らはボランティアなので基本的に無料。
依頼者は、山を1日使わせるだけでゆっくりを駆除してもらえる。
チームにしてみれば、タダでフィールドを借りて1日暴れまわれる。
両者の利益が見事に一致していた。
「今回は負けということになりましたが、実に充実したゲームでしたねぇ」
帰りのワゴン車の中、兵長が言った。
「うむ、見どころのある新兵も入ったことだしな」
と、これは軍曹。
「特に最後の場面で兵長を誤射する演技、あれはなかなかできんぞ。実によくやってくれた」
曹長も同意する。
あれは本当に間違えて撃ったんだけどな…と思いながらも、Aは笑ったまま口に出せずにいた。
「次は赤ゆっくりを人質に取って立てこもるなんてどうですか?」
運転しながら伍長が提案した。
「いいな。次はそれで行くか。A二等兵も今度は自前の装備を揃えてくるように」
何と、次も付き合わされるのか、とAは天を仰いだ…。
−終−
「なかったって…呼んだのは先輩じゃないですか」
「私のことはただ曹長と呼べばよい。戦場では指揮系統を構成する官職は重要だが、個人の名前など意味をなすものではない」
「はあ…」
A二等兵と呼ばれた社員Aは周りを見渡した。
完全武装の男達が彼を含めて5人。
中央には菓子類がうず高く積まれ、周囲は土を掘って作った塹壕が取り囲んでいる。
加えて、あたりには甘ったるい匂いが立ち込めていた。
Aは今朝、会社の先輩から「サバイバルゲームの人数が足りない」と、突然呼び出された。
彼はもともと、エアガンやサバゲーについてまったく知らなかったわけではない。
実際、子供のころにエアガンを片手に野山を駆け回ったこともあった。
今回も似たようなもんだろう、と思って来てみたら、いきなり大量のお菓子を運ばされた。
その次は塹壕を掘らされ、掘り終わったらなぜかオレンジジュースやガムシロップをあたりに撒くよう言われた。
甘い匂いが立ち込めているのはこのせいである。
“曹長”が隊員達に言う。
「我々の任務は、この物資を敵の手から死守することである!」
敵とはあれか。Aは向うのほうでうごめくゆっくりの群れを見やった。
彼らがやろうとしているのは「ゆっくり相手のサバイバルゲーム」だった。
もちろん、ゆっくりに旗の取り合いなどのルールを教えられる訳がない。第一、ゆっくりはエアガンのような攻撃手段を持っていない。
そこで考えたのが、ゾンビ映画の「1体1体は大した戦闘力はないが集団で押し寄せてくる」ような防衛戦だった。
ここで問題になるのが、ゆっくりの士気である。
まず、大量のお菓子と甘い匂いでゆっくりをおびき出すのだが、それだけでは不足。
おそらく10匹も撃ち殺さない間に、ゆっくり達は恐怖し、あきらめて逃げてしまうだろう。
そうならないための仕掛けがちゃんとしてあった。
ゆっくり達はみな怒っていた。
朝ごはんを済ませ、狩りに出て来たら甘い匂いに誘われた。
たどっていくとゆっくり達の前に現れたのは見上げるほどのあまあまの山。
そして、それを守っている何匹かの「めーりん」だった。
グズのめーりんが、生意気にもあまあまをひとり占めしている!
それはまたたくまに群れに伝えられ、ゆっくり達は総出でせいさいの為に取り囲んだ。
「何があってもその帽子だけは絶対に無くすなよ」
軍曹と呼ばれる別の先輩が、改めてAに注意した。
Aはようやく理解した。つまり、彼らがヘルメットの上に付けているこの帽子によって、ゆっくり達には「にっくきめーりん」に見えているということか。
確かにこれなら、ゆっくり達はムキになって襲ってくるだろう。
しかし迷彩服で固めた上に、ちょこんとめーりんの帽子が載っているのはどう見ても間抜けであった。
「日没までだ。日没まで持ちこたえれば友軍が来てくれる」
友軍って何のこっちゃ、とAは思った。
そもそも、ドスのいないゆっくりの群れなど、手ぶらにパンツ一丁でも踏みつけて回ればあっというまに片付けられる。
しかしこれはゲームである。あくまでも「数にまかせて押し寄せる敵を、取り残された少数で必死に押し返す」という状況を楽しむのが目的だ。
総勢5人というのも、ゆっくりの群れの規模に対し多すぎず少なすぎず、ギリギリの人数を計算した結果だった。
「よし伍長、やれ」
曹長が命令を下した。
「サー!イエッサー!」
伍長と呼ばれたこれまた別の先輩が土塁の上に飛び乗ると、
「じゃおおおおおおおおんんんんん!」
突然、大音声でめーりんの鳴き声を叫んだ。
あまりのことにAはドン引きである。
それが戦闘開始の合図だった。
「伏せろバカ者!」
ポカーンとしているAを軍曹がヘルメットごと押さえつけ、無理やり腹這いにさせた。
弾が飛んで来るわけでもないのに何でやねん、とAは心の中で突っ込んでいた。
ゆっくり達は激怒した。
何なんだあのめーりんは。こともあろうに大声で挑発してきたではないか。
ひどい発音なのでよく聞き取れなかったが「来るなら来てみろ」とでも言っていたに違いない。
「みんな!ぐずのめーりんからあまあまをとりかえすんだぜえええええ!」
「ゆおおおおおおーーー!」
リーダーのまりさの掛け声で、ゆっくり達は殺到した。つーか、いつお菓子がゆっくり達の物になったのか。
「物資集積所」は、意図的に森の中に開けた場所、周囲から丸見えな所に作られていた。
「めーりんのくせにいいいい!」
「あまあまをよこせええええ!」
四方八方から大小のゆっくりが襲いかかる。
それを前にして隊員達は、
「俺、この戦争が終わったら結婚するんだ…」
「お前とはもっと早く会っていたかったぜ…」
などと、わざわざ死亡フラグを立てるセリフを口にしていた。どうやらとことん危機的状況を演出したいらしい。
「何やってんですか!」
Aが向かってくるゆっくりを撃とうとすると、曹長がそれを止めた。
「まだだ!もっと引きつけろ!」
籠城戦で「引きつけろ」もまた死亡フラグなんじゃ…と思いながらも、Aは従わざるを得なかった。
「A二等兵、マニュアルどおりに動こうとするな」
「そうそう、新兵は俺達古参兵のマネしてりゃいいのよ」
先輩達は完全になりきっていた。
余談になるが、ここで各員の装備を見てみよう。
曹長 M16A1/ガバメント
軍曹 GALIL ARM/ジェリコ941
伍長 H&K G36C/H&K USP
兵長 三八式歩兵銃/南部十四式拳銃
A二等兵 ワルサーMPK/オート9
国も年代も見事にバラバラだが、どうやらAは余り物を押し付けられているようだ。
「今だ、撃て!」
曹長の号令一下、各員の銃がBB弾を放った。
「ヒャッハアアアアア!」ブリブリブリブリ!
自分を奮い立たせながら撃つ者。
「来るな、来るなああ、チクショオオオオオオ!」ボスッ!ボスッ!ボスッ!
涙目になりながら早くもパニック状態を演出する者。
塹壕の外は跳ねまわる饅頭と飛び散る餡子だらけで阿鼻叫喚になったが、塹壕の中もたいがいなカオスだった。
ゆっくり達は一瞬呆気にとられた。
あまあまの山を目の前にして、突然周りのゆっくりが何匹も弾け飛んだのである。
見ればめーりん達が、叫びながら何かをこっちに向かって撃って来ていた。
ゆっくり達の怒りが爆発した。
自分達がグズのめーりんに遅れをとっているだと?
なんてクソ生意気なめーりんだ。一匹残らずせいさいしてやる。あまあま寄越して降伏しても絶対許さない。
仲間が次々と餡子を散らして倒れていくなか、ゆっくり達の士気はますますヒートアップしていた。
「先ぱ…曹長!奴らちっともひるみません!」
Aも必死で銃撃していた。
最初は三八式の兵長とともに、ガッションガッションとコッキングしていたが、オート9のほうがフルオートだと分かるとそっちをメインに使っていた。
別にゆっくりに襲われても危険なんかないのだが、体当たりをされればヒット扱いだし、お菓子を奪われたら負けというルールである。
自分のせいで負けになったら後で先輩達に何を言われるか分からない。
「あきらめるな!銃身が真っ赤になるまで撃って撃って撃ちまくれ!」
曹長はそれだけ言ってM16の引き金を引き続けた。
そうこうしているうちにBB弾が尽きてきた。
「曹長殿!弾がもうありません!」
「誰か!あそこまで行って弾を取って来い!」
曹長が塹壕の外を指差して叫んだ。その先にはBB弾が詰まっているであろう袋が置いてある。
ちょっと待て。Aは眉間にしわを寄せて何度目かの突っ込みを入れた。
弾なんて最初から全部ここに置いておけばいいではないか。わざわざ外に置いて取りに行かせるとは、なんちゅう演出だ。
「曹長!私が行きます!」
伍長がすぐに名乗りをあげた。
「頼んだぞ伍長!」
「任せてください!兵長、援護を頼む!」
「アイサー!」
伍長はG36Cを構えて飛び出そうとしたが、直前でペンダントを外すと兵長に渡し、
「親父の形見だ。俺が戻ってくるまで貴様に預けておく」
と、さらに死亡フラグを追加して出て行った。
「ウオオオオオ!」
腰だめにG36Cを構え、右に左に乱射しながら伍長は走る。
よく見れば、足元のゆっくりを踏まないようによけながら走っているではないか。
これは踏んだり蹴ったりの攻撃をよしとせず、あくまでBB弾によるヒットを狙うべし、という彼らの美学であった。
「取って来たぞオー!」
伍長が弾の入った袋をかかげて走って来る。
「早く!早く!」
兵長が十四式で援護する。三八式の弾はとうに撃ち尽くしていた。
その懸命の援護もむなしく、あと数メートルという所で伍長の運命は尽きた。
「ぐずのめーりんはしねええええええ!」
とうとう足にゆっくりの体当たりを受けてしまったのである。
「うあああああ!」
伍長は大げさに倒れながら、最後の力を振り絞って弾の袋を投げてよこし、そのまま動かなくなった。
「伍長!今助けます!」
兵長は受け取った袋もそこそこに、塹壕から飛び出そうとした。
「馬鹿野郎!頭を出すな!」
しかし軍曹がすかさず上着のすそを掴んで引き戻す。
「軍曹!曹長!行かせてください!今なら助かります!」
「お前まで死ぬ気か!伍長はもう助からん!」
その伍長は今、うつぶせに倒れたままで、背中の上で勝ち誇ったゆっくり達がトドメとばかりにぼっすんぼっすん跳ねていた。
「見殺しにするんですか!伍長!伍長オオオオオオー!」
周りの山々に兵長の叫びがこだました。
Aはもう頭を抱えるしかなかった…。
「やったのぜ!めーりんのやつをいっぴきせいさいしたのぜ!」
「むきゅう…でもこっちもだいぶやられてしまったわ。いったんもどったほうがよくないかしら?」
参謀のぱちゅりーが、リーダーまりさに一時撤退と立て直しを進言した。
「ゆう…」
まりさも同意せざるを得なかった。確かにかなりの数のゆっくりが、あまあまを前にしてやられている。
「だいじょうぶ。ぱちゅりーにいいかんがえがあるわ!」
「よし、ここはいったんひくのぜ!」
まりさは撤退命令を出した。
「それで、どうするんだぜ?ぱちゅりー」
ゆっくりの群れはかなり数を減らしていたが、あきらめようと言うのは少数だった。
めーりんとあまあまの山のせいで、皆頭に血?が上っているのだ。
「むきゅ!それはね…」
ぱちゅりーの作戦とはこうだった。
あまあまの山とめーりん達は、広場の中に陣取っているとはいえ、一方が森に近い。
そこで、正面からめーりん達の気を引き、その間に別働隊が森の中を隠れて進み、背後から奇襲をかけるのだ。
「よーし、それでいくのぜ!」
リーダーまりさが同意し、別働隊を選ぼうとしたとき、一匹のゆっくりが異変に気づいた。
「伍長はあのままなんですか?」
ゆっくり達はいったん引いたものの、向うの方からこちらをうかがっている。
隊員達の方もこの間に弾の補充やガスの充填をしていた。
「今伍長を回収している余裕はない。奴らは必ずまた攻めてくる」
Aの問いに曹長は答えた。答えながらチラリと兵長のほうを見やり、すまなそうな表情を作った。
その兵長はというと、曹長から目をそらし、憮然とした表情をしている。
ここまでツーカーな連携プレーには呆れるを通り越して感嘆するしかない。
で、その伍長はどうしているかというと、さっきの場所に餡子まみれでブッ倒れたままなのだ。
サバゲーならさっさとフィールドから退場し、セーフティゾーンに行くべきなんだろうが、ここはあくまで戦場。
どうやら最後まで死体を演じるらしい。見上げた根性だった。
「兵長、いつまでそうしているつもりだ。やるぞ」
軍曹が促した。
「イエッサー」
兵長が答え、2人はお菓子の山に近づくと、いきなりそれらを手当たり次第にむさぼり始めた。
「むーしゃ、むーしゃ!」
「うっめ!めっちゃうっめ!」
大声でしゃべりながら、ゆっくりのように汚く食べ散らかす。
見れば2人のヘルメットに付いているのは、いつの間にかめーりんの帽子ではなく、れいむのリボンとまりさの帽子に替わっていた。
ご丁寧にリボンは破かれ、帽子はてっぺんが切り取られている。
「な、な、な、何をしてるんですか?」
Aは突然のことに引きつりながら後ずさった。
「まあ見ていろA二等兵」
曹長は平然としている。そのうち食い荒らしている2人は揃ってゆっくり達の方を向くと、
「「しあわせえええ~~~~」」
と聞こえよがしに叫んだ。
呆気にとられたのはAだけではなく、ゆっくり達も同様だった。
いつの間にかれいむとまりさが向こうにいて、あまあまにありついているのだ。
何だあのめーりんに付く裏切り者のゲスなゆっくりは。
見れば2匹のお飾りは破れている。ゆっくりできないゆっくりだから当然か。
「れいむのあまあまがぁ!」
「おちびちゃんのおやつがあああああ!」
ゆっくり達が騒ぎだした。だからいつこいつらの物になったというのだ。
騒いでいる間にも、2匹によってあまあまは次々に数を減らしてゆく。
「ゆああああ!たべるなああああああ!」
ゆっくり達は再び襲いかかった。
なるほど、こうして常にゆっくりを挑発するのか。Aはようやく理解した。
「何をボーッとしている!死にたいのか!」
軍曹に叱咤され、Aも再び銃撃を開始した。
ゆっくり達の勢いは衰えるどころかますます激しくなっていた。
すぐ隣で別のゆっくりが直撃弾を受け、餡子を散らして絶命しようがおかまいなしに突っ込んでくる。
軍曹と兵長は銃撃をしながらも、あいかわらずお菓子を食べ続けていた。
それを見たゆっくり達はさらに焦る。早く行かないとあの山と積まれたあまあまが無くなってしまう。
他のゆっくりが何匹死のうが、自分さえたどりつければあまあまをひとり占めできる。そう考えているゆっくりもいた。
「ゆっへっへ…さすがはまりさのみこんだ“せいえいぶたい”なのぜ…」
そのころリーダーまりさは、選抜した別働隊十数匹とともに集積所の背後に回りつつあった。
なし崩しに始まってしまった第2派攻撃だが、まりさの選んだ“せいえい”は動じることなく、黙って付いて来ていた。
「にんげんたちはしょうめんにくぎづけなのぜ!ふいをつけばぜったいかてるのぜ!」
別働隊は木々に隠れ、突撃のチャンスをうかがっていた。
当然、Aを除く全員はそんなこと先刻承知である。
そもそも森を背にしたのも、これまた「背後から不意をつかれて急襲される」という状況を作り出すため。
襲って来たとき自分はどういうリアクションをするか。隊員達は背後を気にしつつそれを考えていた。
そして遂にその時が来た。
「むーしゃむーしゃするよ!」
先陣を切って飛び込んで来たのはれいむだった。
「う、うわあああああああああ!」
相対したのは兵長。完全に慌てたという演技で、れいむの顔に三八式の銃剣を突き立てた。
「ゆぶぇ!」
銃剣はペラペラのゴム製だったのでれいむの表面でグニャリと曲がったが、銃身そのものがれいむを貫いた。
「うわああ!死ね!死ねえええええ!」
兵長はなおもパニックの演技を続け、とっくに絶命しているれいむに何度も何度も三八式を突き立てている。
背後のただならぬ様子に、Aも振り返って銃撃しようとしたが、そこで悲劇が起こった。
振り返るとき、ワルサーMPKのストックが土塁にひっかかってしまったのである。
せめてストックが「折りたたまれる向き」に当たっていたなら悲劇は避けられたかも知れない。
しかし運悪く「これ以上曲がらない向き」に当たってしまった。
結果、Aが引き金を引いたとき、MPKの銃口は兵長を捉えていた。
発射されたBB弾は、まっすぐに兵長の脇腹に吸い込まれていった。
兵長は一瞬驚愕してみせ、次に弾が当たった脇腹を押さえながら、
「な…何で…」
と、恨みがましい表情をAに向けながらその場に倒れていった。
「うわわわ、すみませんすみませんすみません!」
Aは慌てて頭を下げた。
ゆっくりにしてみればそんな事情知ったことではない。続いて入って来たちぇんがお菓子の山にとりついた。
「ちぇんがいちばんなんだよー、わかるよー」
ここに、人間側の負けが確定した。
集積所は狂乱の宴となっていた。
前から後ろからゆっくりがなだれ込み、お菓子の山に飛び込んでいく。
「これぱねぇ!めっちゃうっめ!」
「むーしゃ、むーしゃ、しあわしぇえええええ~~~~~!」
お菓子の山にはゆっくりがびっしりととりつき、うぞうぞと蠢いている。もう表面もほとんど見えない。
傍らには戦意を喪失した(演技をしている)隊員。ゆっくり達はもう彼らなど眼中にない。
ただひたすらお菓子をむさぼり食う。隣にいるゆっくりよりもより多く食らおうと。
「おしまいだ…もう何もかもおしまいだ…」
軍曹がジェリコ941を手にし、マガジンを外して中のBB弾をばらまく。
そしてフラフラと2、3歩歩くと、マガジンを戻して銃口をこめかみに当て、自ら引き金を引いた。
バシュ!
軍曹は空砲で「自決」した。空虚な表情を作って崩れ落ちる。
「軍曹!軍曹オオオオオー!」
曹長が駆け寄って抱き起こし、大声で揺さぶるが軍曹は目を開けない。
「何てことだ…常に冷静なあの軍曹が…」
まだ終わってないのかよ、と思いながら見おろしているAの耳に、まったく別の人間の声が聞こえてきた。
「お~い…大丈夫か~…」
それを聞き、曹長が顔を明るくする。
「友軍だ!友軍が来てくれたぞ!」
友軍ねぇ…Aが声の方を向くと、3、4人のオッサンを載せた軽トラがこっちにやってくるところだった。
結局、後からやって来たオッサン達によって、群がっていたゆっくり達はあっさりと一網打尽にされた。
彼らはこの山の所有者で、日暮が近くなったから様子を見に来たのである。
「ここからだすんだぜくそじじいいいい!」
「むきゅううう!つぶれちゃううううう!」
お菓子の山ごと袋に詰め込まれたゆっくり達が騒いでいる。
その脇で、軍曹・伍長・兵長の「死体」は、死体袋と言う設定の寝袋に入れられ、軽トラの荷台に乗せられるところだった。
この人達はいつまでやってるんじゃい、とAは思った。それに付き合ってるオッサン達もたいがいだ。
「ありがとうございました。おかげですっかりゆっくりどもが片付きました。これはほんのわずかですがお礼です」
「そんな、お礼をするのはこっちですよ。思う存分やらせていただきましたし」
「いやいやそう言わずに。お菓子の実費程度ですから」
山の所有者と曹長との間で、そんなやりとりがされていた。
Aには今になって知らされたのだが、曹長達先輩は「サバゲーをしながらゆっくりを駆除する」というボランティアチームであった。
ゆっくりの駆除はたいてい専門の業者に頼むのだが、彼らはボランティアなので基本的に無料。
依頼者は、山を1日使わせるだけでゆっくりを駆除してもらえる。
チームにしてみれば、タダでフィールドを借りて1日暴れまわれる。
両者の利益が見事に一致していた。
「今回は負けということになりましたが、実に充実したゲームでしたねぇ」
帰りのワゴン車の中、兵長が言った。
「うむ、見どころのある新兵も入ったことだしな」
と、これは軍曹。
「特に最後の場面で兵長を誤射する演技、あれはなかなかできんぞ。実によくやってくれた」
曹長も同意する。
あれは本当に間違えて撃ったんだけどな…と思いながらも、Aは笑ったまま口に出せずにいた。
「次は赤ゆっくりを人質に取って立てこもるなんてどうですか?」
運転しながら伍長が提案した。
「いいな。次はそれで行くか。A二等兵も今度は自前の装備を揃えてくるように」
何と、次も付き合わされるのか、とAは天を仰いだ…。
−終−