ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko0056 まりさの見つけた大切なもの
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ankoss
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※『ふたば系ゆっくりいじめ 9 ラジコンに引きずられて』のまりさサイドのお話です
スレにてまりさサイドの話を書いてみてはどうか、との指摘をいただいたので書いてみま
した。
「「すっきりー!」」
街の路地裏、その一角。薄暗いそこで、二匹のゆっくりがすっきりーしていた。
一匹は、ゆっくりまりさ。
もっちりしっとりとした肌。綺麗に整えられた輝く金髪。汚れ一つない漆黒の帽子に輝く
銅バッジを見るまでもなく、飼いゆっくりであることが伺えた。
一匹は、ゆっくりれいむ。
がさがさに痛んだ肌。汚れにくすんだ黒髪とりぼん。顔立ちは整っていたが、その汚れた
姿は野良に違いなかった。
まりさは好戦的な顔でぺにぺにを突き込み、れいむは泣き顔でそれを受け止めていた。
飼いゆっくりによる野良のレイプ。街ではさほど珍しくない光景だ。
まりさは事が済むと、一瞥すらせずれいむを置き立ち去ろうとした。それもまた珍しくな
いこと。だが、このとき違ったのは、
「やあ! まりさ、おめでとう!」
まりさの飼い主、おにいさんがその場にいたことだ。
「ゆううっ、おにいさんっ!?」
まりさは激しく動揺した。このまりさにとって、おにいさんは大抵のわがままを聞いてく
れるゆっくりとした存在だ。だが、粗相をしたときは叱られる。野良ゆっくりをレイプす
ればどうなるかぐらい、まりさはわかっていた。
それなのに見つかり、あまつさえ祝福の言葉を受け、まりさはすっかり混乱してしまった。
そんなまりさをよそに、おにいさんはれいむの方へと駆け寄った。
れいむは早くもぽんぽんを大きくし始めていた。胎生型のにんっしんだ。
「やあれいむ、初めまして! 僕のまりさをこれからよろしくね! いっしょに俺の家に
来て、まりさと暮らしてくれないか?」
「な、なにいってるんだぜーっ!?」
まりさの絶叫が路地裏にこだました。
まりさの見つけた大切なもの
あれよあれよという間に、本当にれいむはまりさと一緒におにいさんの家で暮らすことに
なってしまった。
もちろんまりさは反対した。
「すっきりしたのはまちがいだよ!」
「まちがい? アクシデントから始まるのが恋愛ってものさ!」
「まりさはこどもをそだてるなんてできないんだぜ!」
「れいむができるさ! お互い補い合ってこそ番ってものさ!」
「まりさはれいむのことなんてなんともおもってないんだぜ!」
「何とも思わない相手を襲ったり何てしないさ! そんな事を言うまりさはツンデレって
ものさ!」
埒が明かなかった。もともとゆっくりが人間相手に口論でまともに勝利することなどでき
ないが、それにしてもおにいさんは強引だった。
なにより、
「このれいむは俺の大好きなまりさの子供を身籠もってるんだろう? だったら、大切に
しなきゃ!」
そういう風に言われては反論はできなかった。
まりさは飼いゆっくりだ。それも甘やかされて、大抵のことは聞いてもらえるゆっくりだ。
そうでありながら、自分の分はわきまえていた。自分は所詮飼われている身、どれだけワ
ガママを言っても最終的には飼い主には逆らえない。
増長しがちなゆっくりには珍しい、ちょっと変わったまりさだった。
そして、今。
二匹は部屋の中にいた。
ブランコ、滑り台、ジャンプ台などのゆっくり用の遊具にゆっくりハウス。ゆっくりでき
るものに溢れたその部屋は、おにいさんにあてがわれたまりさだけのゆっくりプレイスだ
った。
だが、今は二匹。
まりさの他に、れいむがいる。
レイプ、野良から飼いゆっくりへなったこと。突然連発した異常事態に疲れ切ったのか、
ゆうゆうと寝息を立てて眠っている。
家に上げられたとき、汚れは落とされた。肌の粗さまでは消えないが、もともとの顔の作
りのよさとしっとりとした黒髪。なかなかの美ゆっくりだった。
だが、まりさはゆっくりできなかった。
このれいむが自分のゆっくりを脅かす存在だと警戒していたからだ。
まりさもまた、元々は野良だった。
*
*
*
まりさが生まれ落ちて初めて見たもの。それは笑いながら親ゆっくりを潰す人間の姿だっ
た。
自分がどうして生き残れたかわからない。人間の気まぐれか、あるいはもともと赤ゆっく
りには興味がなかったのか。恐怖に震え、動くこともできないまりさは、殺されることな
く、ただ取り残された。
そんなまりさが初めにしたことは、かつて親だった餡子を食べることだった。他に食べ物
はなく、食欲旺盛な赤ゆっくりに選択の余地はなかった。
「ゆっくりしていってね」
その一言を発する余裕すらなく、まりさの過酷な野良生活が始まった。
あまりにも不幸なまりさの生い立ちで、唯一幸運と言えたのは最初から人間の脅威を餡子
に刻みつけていたと言うことだろう。ゆっくりはすぐに増長し墓穴を掘るものだが、この
まりさは既に自分より強大な存在を思い知っており、ゆっくりにしては珍しく謙虚にもの
を考えるようになっていた。普通のゆっくりのように人間を侮ったりせず、むしろ積極的
に避けた。
他のゆっくりとの交流もやむを得ない場合でなければ避けた。ゆっくりでなければ誰でも
気づく。バカなゆっくりと共に行動することは危険を増すだけなのだ。
その注意深さにより、まりさはどうにかテニスボール大の子ゆっくりに成長するまで野良
生活を続けることができた。むろん、暮らしは楽ではなかったが、どうにか命を繋ぐこと
はできていた。それだけでも奇跡的なことと言えた。
そんなある日、ゴミあさりをしていたとき。
まりさは、おにいさんにつかまってしまった。
完全に不意をつかれた。もしおにいさんが悪意を持って近づいたのなら、まりさはすぐに
逃げていたことだろう。
まりさにとって、人間は二種類。野良ゆっくりを積極的にゆっくりさせなくするものか、
全く無視するもの。おにいさんはどちらでもなかった。悪意も敵意もなく近づいてきたお
にいさんには、まりさの鍛え抜いた警戒心も働かなかったのだ。
もうおしまいだと思った。
だが、まりさは潰されることなくおにいさんの家に連れてこられた。
それでも安心などできるわけがない。まりさはやけになった。
「あまあまをよこすんだぜ!」
「ひまだからおうたをきかせるんだぜ!」
「ねむいんだぜ! ふかふかをよこすんだぜ!」
思いつく限りのわがままを言った。どうせ自分は死ぬのだから。だから、今まで抑圧され
ていた全てを、ゆっくりの本能を解放してしまえ、と思ったのだ。
ところが、おにいさんはまりさのわがままにこたえてくれた。
あまあまをくれた。歌を歌ってくれた。寝床を与えてくれた。
ゆっくりさせてくれた。
まりさは信じられなかった。人間がそんなことをしてくれるなんて、まったく理解不能だ
った。
まりさはその注意深さと謙虚さから、自分がどんな存在であるかを正確に理解していた。
ゆっくりにしては警戒心があり、素早いという自信がある。野良生活で身につけた様々な
技術もある。だが、それらが人間に好まれることはないことを知っていた。まりさは特別
見た目が綺麗なわけでもなく、ましておにいさんに捕まったのはゴミあさりの真っ最中。
飼いゆっくりにされる理由など何処にもない。
そんなまりさの餡子脳に浮かんだのは、他のゆっくりから聞いた噂だ。
「にんげんさんはゆっくりをすごくゆっくりさせてから、ころすことがあるらしいよ!」
自分は弄ばれ、いずれ殺される――そんな疑念が消えなかった。
それでも、自分から人間の機嫌を損ねることはない。幼い日のトラウマから、元々そんな
ことはできなかった。ヤケになった時のようなわがままは言わず、極力おにいさんの機嫌
を損ねないようにした。
それでも、お腹が空いたと言えばおいしいごはんをもらえ、退屈そうにしていればおもち
ゃを買ってきてくれた。最低限のしつけはされたが、それぐらい厳しい野良生活で様々な
抑圧を受けてきたまりさにはなんでもないことだった。
とても、やさしくしてされた。
安全な環境。栄養たっぷりのご飯。まりさは瞬く間に成体ゆっくりへと成長していった。
外への散歩も許してくれた。おにいさんがいっしょだったが、短時間ならひとりでの散歩
も許された。
おにいさん曰く、
「まりさにつけたバッジには発信器が付いてるんだ。だから迷っても大丈夫。でも、時間
はちゃんと守るんだよ?」
まりさにはよくわからなかったが、おにいさんは言葉の通りまりさが何処にいてもすぐに
見つけた。逃げ出すのは無理なようだった。
それでも、まりさはどうにかならないかと考えた。おにいさんの住んでいる街は、まりさ
が住んでいる場所とは遠く離れていた。土地勘がない。もう少し街を知れば逃げられるか
も知れない。だからまりさはおにいさんを積極的に散歩へ誘い、一人歩きの時間をもらっ
た。
れいむと出会ったのは、そんな時だった。
一目でわかった。目の前にいるれいむが、かつての自分と同じであることに。厳しい野良
の生活のなか、それに負けずたくましく生きていることを。
まりさは何故だか妬ましくなった。
飼いゆっくりである自分の生活の方が明らかに恵まれているはずだ。それはわかっている。
それでも、れいむが妬ましくてたまらなかった。
まりさはれいむに襲いかかった。れいむは逃げ出した。戦っても野良では飼いゆっくりに
敵わないとちゃんと知っているのだ。
れいむは野良で生きるゆっくりらしく、狡猾に逃げていった。普通の飼いゆっくりなら簡
単に撒かれてしまっただろう。だが、まりさは違った。むしろ燃えた。れいむがかつての
自分と同じ存在であるとの確信を深め、ますます妬ましくなり追いかけた。
そして。
まりさは、妬みの気持ちをレイプで叩きつけたのだった。
*
*
*
そして、れいむとの生活が始まった。
まりさにとってれいむは邪魔なだけの存在だった。もともと野良でも一人の時間が長かっ
たまりさだ。他のゆっくりが自分のゆっくりプレイスにいるというだけで落ち着かない。
なにより、これから生まれようとする赤ゆっくりが恐ろしかった。
赤ゆっくりはかわいい。とてもゆっくりできる。
これはおよそあらゆるゆっくりに共通する認識だ。まりさもそれは知っている。だからこ
そ恐ろしい。
生まれたら、おにいさんは自分より赤ゆっくりに興味を持ってしまうかも知れない。
そうしたら、自分は殺されるかも知れない。
そう思えてしまったのだ。
だからと言って、れいむを殺そうとするほどまりさは愚かでもなかった。
なぜなら、おにいさんはれいむのこともまたまりさと同じくらい大事に扱ったのだ。その
れいむを殺すことは、おにいさんの機嫌を損ね自分の命を危うくするかも知れない。
だから表面上、まりさはれいむに優しくした。
そんな偽りの優しさに、しかしゆっくりの単純さゆえか。レイプされたというのに、れい
むはまりさを受け入れた。
見た目は仲のいい番のようだった。
そんなある日。
「ほら、れいむ! もうすこしだぜ!」
「ゆ、ゆうう……まりさ、やっぱりむりだよぉ……」
「だいじょうぶだぜ! ほら、もう着いた! どうなんだぜ!」
「ゆあぁ~、いいながめだよ~」
まったく動かないのも良くないと、まりさは身重のれいむを部屋の遊具に連れ出した。
連れ出した先は、ゆっくり用ジャンプ台の上。そこからの眺めはいい。成体ゆっくり1.
5体分ほどの高さのそこは、人間からすれば大したことはない。だが、ゆっくりからすれ
ばとてもいい眺めだ。バカとゆっくりは高いところが大好きなのだ。
れいむは先ほどまでの苦労を忘れたように、ジャンプ台からの眺めを楽しんでいる。
そんなれいむを、まりさはちょっとだけ押した。
「ゆゆっ!?」
あっさりと、れいむはジャンプ台から落ちた。
まりさの考えたシナリオは、事故による赤ゆっくりの流産。ゆっくりらしい浅知恵だが、
これでもまりさは必死に考えた結果だ。
赤ゆっくりがいなくなればとりあえずの脅威は去る。れいむとも縁が無くなり、追い出す
こともできるかも知れない――そんな期待もあった。
まりさは素早くれいむが落ちる様を観察した。流産しないようなら、自分も「事故を装っ
て」れいむの上に飛び降り、確実に始末するつもりだった。
だが、そこでまりさは信じられないものを見た。
落ち方からすればれいむは狙い通り、腹から着地して流産するはずだった。
それが、
「ゆううっ!」
れいむは強引に体勢をねじまげ、顔面から落ちたのだ。
「れいむーっ!」
気づけばまりさはれいむの元へと走っていた。
「だ、だいじょうぶ……?」
「ゆ……まりさ……れいむうっかりしちゃったよ……でもあかちゃんはぶじだから、あん
しんしてね……」
まりさには信じられなかった。自分はれいむをレイプしたのだ。表面上は仲良くしている
とは言え、きっと自分のことを心の底では憎んでおり、赤ゆっくりを邪魔者だと考えてい
ると思っていた。。
それなのに。
れいむは、身を挺して赤ゆっくりを守ったのだ。
まりさは自分のしようとしていたことが急に恐ろしくなった。
その恐ろしさを加速させるものがあった。れいむの瞳だ。
迷い無く、ひたむきな瞳。痛いはずなのに、苦しいはずなのに、まったく迷い無く揺るが
ない、強い瞳。そこに込められた、赤ゆっくりへの想い。
自分はこんな瞳ができるだろうか。
命に代えても守りたいと思うものがあるのだろうか。
今まで生きるだけで精一杯だった。守りたいと思うものなんて、自分の餡子の他にはなに
もなかった。
だから恐ろしい。れいむのひたむきさが、恐くてたまらない。
「ぺ、ぺーろぺろしてあげるんだぜ……」
「ゆゆ~ん、まりさ。ありがとう……」
まりさがぺーろぺろすると、れいむは目を閉じてその感触に身を委ねた。
あのおそろしい瞳は見えなくなったが、まりさの中の恐怖は消えなかった。
「う、うばれるぅぅぅ……!」
「れいむ、がんばるんだぜ! げんきなあかちゃんうむんだぜ!」
やがて、れいむは出産を迎えた。
まりさはおぼうしをかまえて赤ゆっくりを受け止めようと待ちかまえる。後ろにはタオル
を持ったおにいさんもいてくれる。
だが、まりさは不安だった。
おにいさんの話では、普通より出産が早すぎるというのだ。
まりさが思い浮かべるのは、自身の罪。ジャンプ台から突き落としたことが何か悪い影響
を与えてしまったのかも知れない。
「あかちゃん、ゆっくりして……ゆっくりしないで……とにかく、げんきにうまれるんだ
ぜぇ……!」
不安の中、
「ゆぎぃ!」
れいむの一際高い声と共に、何かが飛んでくる。まりさは必死におぼうしで受け止めた。
おぼうしの中に、確かな感触。
おそるおそる覗き込むと、
「ゆっきゅりしちぇいっちぇね!」
かわいらしい赤ゆっくりの声に迎えられた。
「ゆっくりしていってね! ゆっくりしていってね! れいむ! れいむとまりさのあか
ちゃん、とってもゆっくりしてるんだぜぇぇぇ!」
煌めく金髪に、可愛らしい黒のおぼうし。元気な赤まりさだった。
どうやらおにいさんの心配は杞憂だったようだ。
「うん。まりさ……よかった……あかちゃんうけとめてくれて、ありがとう……」
「れいむ、よくがんばったんだぜ! でかしたんだぜ!」
たたえあうまりさとれいむ。
それを祝福するように、赤ゆっくりは叫んだ。
「ゆっきゅりしちぇいっちぇね!」
「「ゆっくりしていってね!」」
まりさとれいむは、赤まりさに最高のゆっくりを送るのだった。
その夜。
赤まりさはとても元気に騒ぎ、大いに食べ、そして今は眠っている。
まりさとれいむは赤まりさに寄り添い合い、眠りにつこうとしていた。
あまりにも幸せだった。
野良の時には想像もしなかった、飼いゆっくりになっても手に入らなかった、本当のゆっ
くり。
安堵して、そして、急に恐ろしくなった。
愛しいれいむ。大切な赤まりさ。
だが、自分のしてきたことはどうだ。
れいむをレイプし、あまつさえ赤まりさを殺そうとさえした。
れいむは疲れたのか、目を閉じている。
だから、まりさは呟いた。罪から逃れるように、そっと。
「ごめんね、れいむ……」
「なんであやまるの、まりさ?」
「!」
れいむは起きていた。
じっとまりさを見た。
あの時見た瞳で。あの強い、ひたむきな瞳で。
まりさはもう隠せないと思った。
だから洗いざらい喋った。
れいむをレイプした理由。ジャンプ台から突き落としたこと。
自分の罪を、全て。
れいむは口を挟むことなく、じっと聞いていた。
まりさは、最後に、
「ほんとうにごめんだぜ、れいむ……まりさじゃ、おとーさんにふさわしくないぜ……」
情けなく、そんなことを言った。
そんなまりさに、れいむは、
「ぜんぶ、わかってたよ」
驚くべき事を言った。
「まりさがいらいらしてれいむをおそったのも、つきおとしたのがわざとなのも、ぜんぶ
わかってたよ」
「わかってたのかぜ……! それならどうして……」
「あかちゃんができたからだよ。あかちゃんにはおとーさんとおかーさんがひつようなん
だよ。いっしょにいれば、ゆっくりできるんだよ」
れいむは人間に飼われるようになった。赤ゆっくりを確実にゆっくりさせるためにはその
環境が必要だった。環境の維持にはまりさが必要だった。
そのゆっくりらしからぬ冷静な判断は、れいむ種特有の母性によるものだった。赤ゆっく
りができれば、それをゆっくりさせるために全力を尽くす。時には同族を殺し、敵わぬ人
間にも立ち向かう。理屈も道理も逸脱した、狂気にも似た母性。
それがれいむ種というものであり、脆弱なゆっくりが絶滅しない理由のひとつ。
れいむの母性は、まりさの餡子を打った。
まりさは親の愛というものを知らない。れいむの異常な母性が、眩しいほどに輝いて見え
た。とてつもなくゆっくりできるように思えた。
「まりさ。まりさはあやまらなくていいよ。れいむはまりさのしたことをゆるさない。お
とーさんにふさわしくないなんていわせない。まりさはいいおとーさんになってつぐなっ
てね! ゆっくりりかいしてね!」
「ゆっくり……りかいしたよ……!」
まりさは泣いた。哀しいのではない。それは暖かな涙だった。
そして、まりさは父として頑張った。
とは言え飼いゆっくりの身、餌はなにもしなくてももらえる。狩りは必要ない。だからま
りさのできることと言えば、赤まりさと遊んだり、今まで身につけた生き残る術を伝える
ぐらいだ。
それでも真剣だった。必死だった。
れいむはそんなまりさを受け入れた。
気づけば、仲睦まじい家族ができていた。
「なあ、まりさ」
れいむとおうたの練習をする赤まりさを眺めていると、おにいさんが話しかけてきた。
「お前、ゆっくりしているか?」
「うん! まりさもれいむもおちびちゃんも、すっごくゆっくりしてるんだぜ!」
「でもまりさ……お前、本当はれいむなんか連れて来たくなかったんだろう?」
「ゆゆ!?」
突然の指摘にまりさは動揺した。
なにしろ、まりさが好きだからレイプしたと勘違いしてれいむを家に連れ込んだのはおに
いさんなのだ――そう、まりさの餡子脳は理解していた。
「それでも無理矢理連れてきたのは……まりさ、お前に本当に大切なものを持って欲しか
ったんだ」
「たいせつな、もの……?」
「人から与えられただけのものなんて、大して価値がないんだ。俺の両親は金持ちなんだ
けど、仕事ばっかりで全然家に帰ってきやしない。頼めばなんでも買ってもらえるけど、
それは本当にありがたいことなんだけど……それじゃ、本当に大切なものにならないんだ」
「ゆうう……」
「お前にはちょっと難しいか? じゃあ……なあ、まりさ。お前にはなんでも買ってやっ
た。でも、たいしてうれしくはないだろう?」
言って、部屋にいくつもあるゆっくり用遊具を眺める。
「そんなことないんだぜ! おにいさんのかってくれたものはどれもとってもゆっくりで
きるんだぜ!」
「でも、れいむとおちびちゃんの方がゆっくりできるだろう?」
「ゆうう……!」
まりさは反論できなかった。その通りだったからだ。
「俺にも大切なものがなかった。でも、できたんだ。それがまりさ、お前だ。お前を拾っ
たのはほんの気まぐれだった。お前ときたらわがままを言ったかと思ったら急にしおらし
くなるし、ちっとも思い通りにならない。そんなお前を構っているうちに、気づけばお前
のことが好きになってた。お前が俺にとって、大切なものになっていたんだ」
「おにいさん……」
「だからお前にも大切なものを持ってもらいたかった。だかられいむを連れてきた。ゆっ
くりは子供ができればすごくゆっくりできるって言うし、きっとお前の大切なものになる。
そう思ったんだ」
まりさは感極まったのか、目を潤ませ声も出せない様子だった。
おにいさんはれいむに声をかけた。
「れいむ、子育て大丈夫か!」
「まかせてね! れいむはこどもをそだてるのがじょうずなんだよ!」
笑った。みんなで笑った。言葉ではなく、それがきっと答だった。
「なあ、まりさ。お前はいま幸せか? すごくゆっくりしてるか?」
「うん! すごくゆっくりしているよ!」
「そうか。きっと俺もお前と同じくらいしあわせで、ゆっくりしてるぞ」
まりさはうれしくてたまらなくなった。
だかられいむと赤まりさのところに駆け寄って、家族揃って、
「「「ゆっくりしていってね!」」」
最高のゆっくりを、おにいさんに送った。
赤まりさも子まりさと呼べるほどに大きくなり、ゆっくり一家とおにいさんはそろって散
歩へ行くことにした。
子まりさは初めての外の世界に興味津々。まりさもれいむも、久しぶりに外へでる開放感
にご機嫌だった。
「おちびちゃん、きをつけるんだよ!」
「おとーさんのおしえたこと、ちゃんとわかってる?」
「ゆっきゅりりきゃいしてるよ!」
まだ赤ちゃん言葉が抜けきらないとは言え、野良で生き抜いた二人の教育を受けたゆっく
りだ。おにいさんもいることだし、危険はないだろう。
もし、危険があったとしても。まりさは命に代えてもれいむ子まりさを守るつもりだった。
かつて、野良だった頃。人間に立ち向かうゆっくり一家を何度も見た。愚かだと思った。
見捨てて逃げれば、助かるかも知れないのにと、バカにしていた。
でも、今ならその気持ちが分かった。もっともまりさは、もっと賢く立ち回る自信はあっ
た。人間に立ち向かうなんて自殺行為だと知っていた。
まりさは野良の頃のように気を張っていたが、晴れた穏やかな日。特別な危険もなく、ノ
ンビリと散歩は続いた。
「あ、たんぽぽさんだ!」
れいむの声に目を向ければ、道の反対側に咲く鮮やかな黄色。細かな花びらを大輪に広げ
たタンポポが咲いていた。
「ゆゆ!? おきゃーしゃん、たんぽぽさんってなに?」
「おかーさんのだいすきなおはなだよ。とってもゆっくりできるんだよ♪」
れいむと子まりさの会話に、まりさは敏感に反応した。
たんぽぽ。れいむも子まりさもゆっくりできる花。
「まりさがとってきてあげるよ!」
まりさの餡子脳の中では、おにいさんの言葉が甦っていた。
――人から与えられただけのものなんて、大して価値がない。
まりさは飼いゆっくり。れいむや子ゆっくりにあげられるのは、おにいさんからもらった
ものばかりだ。
しかし、今。自分で手に入れられるものがある。大切なれいむと子まりさをゆっくりさせ
られるたんぽぽ。れいむと子まりさの大切なものになってくれるかも知れない、花。
いてもたってもられなかった。
だから、気がつかなかった。
生まれてからずっと保ち続けた警戒心が、ほんのつかの間途切れて、気づけなかった。
いくつかの音がした。
ちりんちりんというベルの音。
アスファルトを擦るゴムの音。
そして、饅頭を潰すタイヤの音。
「まりさーっ!」
れいむの絶叫に、失われる感覚に、まりさは予感した。
自分が、永遠にゆっくりしてしまう、と。
まりさは自転車にひかれた。
不幸な事故だった。
自転車はおにいさんの後ろから来た。ゆっくり一家はおにいさんの前を歩いていた。
自転車に乗った人間からは、まりさ達ゆっくりはおにいさんに隠れて見えなかったのだ。
そこに、まりさはタイミング悪く飛び出した。
自転車はそのまま走り去ってしまった。転びでもしない限り、ゆっくりを轢いて止まる人
間はなかなかいない。野良なら片づけが面倒で、飼いゆっくりなら飼い主の文句が面倒だ。
それは、世間ではありふれた事故。
まりさにとってはありえない惨劇。
(……もっと、ゆっくりしたかった……)
まりさは動けず、声すら出せない。自転車の轍はまりさを前後に両断していた。飛び散っ
た餡子を量るまでもなく、致命傷なのは誰が見ても明らかだった。
まりさは悔しかった。
もっとゆっくりしたかった。れいむと子まりさと、ずっとゆっくりしたかった。
でも、なにより悔しいのは。
れいむと子まりさを、もうゆっくりさせてやれないことだった。
そんなときだった。ほとんど音の無くなった感覚の中、ただひとつ。れいむの叫びが届い
た。
「まりさのぶんまで、おちびちゃんとふたりでずっとゆっくりするよ……!」
――ああ、よかった。
まりさは安堵した。れいむのことを信じている。そのれいむがゆっくりするというのだか
ら、子まりさは絶対にゆっくりできるハズだ。
まりさは心底安心し、そして、逝った。
その死に顔は、凄惨な死に様とは裏腹にとてもゆっくりしたものだった。
だから、知らずに済んだ。
「お前さえいなければ……!」
れいむに向けたおにいさんの冷たい言葉を。
まりさという、大切なものを失ってしまったおにいさん。その胸にぽっかり空いた穴を優
しさで埋めるのではなく憎しみで蓋をして、いつまでも癒えない虚無へのいらだちをれい
むに向けたことを。
まりさは知らないまま、永遠にゆっくりした。
たった独りで産まれ、生きたまりさ。その最後は救われたように思えたが、結局独りで勝
手に未来を信じ、独りで死んだのかも知れない。
ゆっくりの死に救いなんてない。
それは本当にありふれた、なんでもないこと。
了
by触発あき
スレにてまりさサイドの話を書いてみてはどうか、との指摘をいただいたので書いてみま
した。
「「すっきりー!」」
街の路地裏、その一角。薄暗いそこで、二匹のゆっくりがすっきりーしていた。
一匹は、ゆっくりまりさ。
もっちりしっとりとした肌。綺麗に整えられた輝く金髪。汚れ一つない漆黒の帽子に輝く
銅バッジを見るまでもなく、飼いゆっくりであることが伺えた。
一匹は、ゆっくりれいむ。
がさがさに痛んだ肌。汚れにくすんだ黒髪とりぼん。顔立ちは整っていたが、その汚れた
姿は野良に違いなかった。
まりさは好戦的な顔でぺにぺにを突き込み、れいむは泣き顔でそれを受け止めていた。
飼いゆっくりによる野良のレイプ。街ではさほど珍しくない光景だ。
まりさは事が済むと、一瞥すらせずれいむを置き立ち去ろうとした。それもまた珍しくな
いこと。だが、このとき違ったのは、
「やあ! まりさ、おめでとう!」
まりさの飼い主、おにいさんがその場にいたことだ。
「ゆううっ、おにいさんっ!?」
まりさは激しく動揺した。このまりさにとって、おにいさんは大抵のわがままを聞いてく
れるゆっくりとした存在だ。だが、粗相をしたときは叱られる。野良ゆっくりをレイプす
ればどうなるかぐらい、まりさはわかっていた。
それなのに見つかり、あまつさえ祝福の言葉を受け、まりさはすっかり混乱してしまった。
そんなまりさをよそに、おにいさんはれいむの方へと駆け寄った。
れいむは早くもぽんぽんを大きくし始めていた。胎生型のにんっしんだ。
「やあれいむ、初めまして! 僕のまりさをこれからよろしくね! いっしょに俺の家に
来て、まりさと暮らしてくれないか?」
「な、なにいってるんだぜーっ!?」
まりさの絶叫が路地裏にこだました。
まりさの見つけた大切なもの
あれよあれよという間に、本当にれいむはまりさと一緒におにいさんの家で暮らすことに
なってしまった。
もちろんまりさは反対した。
「すっきりしたのはまちがいだよ!」
「まちがい? アクシデントから始まるのが恋愛ってものさ!」
「まりさはこどもをそだてるなんてできないんだぜ!」
「れいむができるさ! お互い補い合ってこそ番ってものさ!」
「まりさはれいむのことなんてなんともおもってないんだぜ!」
「何とも思わない相手を襲ったり何てしないさ! そんな事を言うまりさはツンデレって
ものさ!」
埒が明かなかった。もともとゆっくりが人間相手に口論でまともに勝利することなどでき
ないが、それにしてもおにいさんは強引だった。
なにより、
「このれいむは俺の大好きなまりさの子供を身籠もってるんだろう? だったら、大切に
しなきゃ!」
そういう風に言われては反論はできなかった。
まりさは飼いゆっくりだ。それも甘やかされて、大抵のことは聞いてもらえるゆっくりだ。
そうでありながら、自分の分はわきまえていた。自分は所詮飼われている身、どれだけワ
ガママを言っても最終的には飼い主には逆らえない。
増長しがちなゆっくりには珍しい、ちょっと変わったまりさだった。
そして、今。
二匹は部屋の中にいた。
ブランコ、滑り台、ジャンプ台などのゆっくり用の遊具にゆっくりハウス。ゆっくりでき
るものに溢れたその部屋は、おにいさんにあてがわれたまりさだけのゆっくりプレイスだ
った。
だが、今は二匹。
まりさの他に、れいむがいる。
レイプ、野良から飼いゆっくりへなったこと。突然連発した異常事態に疲れ切ったのか、
ゆうゆうと寝息を立てて眠っている。
家に上げられたとき、汚れは落とされた。肌の粗さまでは消えないが、もともとの顔の作
りのよさとしっとりとした黒髪。なかなかの美ゆっくりだった。
だが、まりさはゆっくりできなかった。
このれいむが自分のゆっくりを脅かす存在だと警戒していたからだ。
まりさもまた、元々は野良だった。
*
*
*
まりさが生まれ落ちて初めて見たもの。それは笑いながら親ゆっくりを潰す人間の姿だっ
た。
自分がどうして生き残れたかわからない。人間の気まぐれか、あるいはもともと赤ゆっく
りには興味がなかったのか。恐怖に震え、動くこともできないまりさは、殺されることな
く、ただ取り残された。
そんなまりさが初めにしたことは、かつて親だった餡子を食べることだった。他に食べ物
はなく、食欲旺盛な赤ゆっくりに選択の余地はなかった。
「ゆっくりしていってね」
その一言を発する余裕すらなく、まりさの過酷な野良生活が始まった。
あまりにも不幸なまりさの生い立ちで、唯一幸運と言えたのは最初から人間の脅威を餡子
に刻みつけていたと言うことだろう。ゆっくりはすぐに増長し墓穴を掘るものだが、この
まりさは既に自分より強大な存在を思い知っており、ゆっくりにしては珍しく謙虚にもの
を考えるようになっていた。普通のゆっくりのように人間を侮ったりせず、むしろ積極的
に避けた。
他のゆっくりとの交流もやむを得ない場合でなければ避けた。ゆっくりでなければ誰でも
気づく。バカなゆっくりと共に行動することは危険を増すだけなのだ。
その注意深さにより、まりさはどうにかテニスボール大の子ゆっくりに成長するまで野良
生活を続けることができた。むろん、暮らしは楽ではなかったが、どうにか命を繋ぐこと
はできていた。それだけでも奇跡的なことと言えた。
そんなある日、ゴミあさりをしていたとき。
まりさは、おにいさんにつかまってしまった。
完全に不意をつかれた。もしおにいさんが悪意を持って近づいたのなら、まりさはすぐに
逃げていたことだろう。
まりさにとって、人間は二種類。野良ゆっくりを積極的にゆっくりさせなくするものか、
全く無視するもの。おにいさんはどちらでもなかった。悪意も敵意もなく近づいてきたお
にいさんには、まりさの鍛え抜いた警戒心も働かなかったのだ。
もうおしまいだと思った。
だが、まりさは潰されることなくおにいさんの家に連れてこられた。
それでも安心などできるわけがない。まりさはやけになった。
「あまあまをよこすんだぜ!」
「ひまだからおうたをきかせるんだぜ!」
「ねむいんだぜ! ふかふかをよこすんだぜ!」
思いつく限りのわがままを言った。どうせ自分は死ぬのだから。だから、今まで抑圧され
ていた全てを、ゆっくりの本能を解放してしまえ、と思ったのだ。
ところが、おにいさんはまりさのわがままにこたえてくれた。
あまあまをくれた。歌を歌ってくれた。寝床を与えてくれた。
ゆっくりさせてくれた。
まりさは信じられなかった。人間がそんなことをしてくれるなんて、まったく理解不能だ
った。
まりさはその注意深さと謙虚さから、自分がどんな存在であるかを正確に理解していた。
ゆっくりにしては警戒心があり、素早いという自信がある。野良生活で身につけた様々な
技術もある。だが、それらが人間に好まれることはないことを知っていた。まりさは特別
見た目が綺麗なわけでもなく、ましておにいさんに捕まったのはゴミあさりの真っ最中。
飼いゆっくりにされる理由など何処にもない。
そんなまりさの餡子脳に浮かんだのは、他のゆっくりから聞いた噂だ。
「にんげんさんはゆっくりをすごくゆっくりさせてから、ころすことがあるらしいよ!」
自分は弄ばれ、いずれ殺される――そんな疑念が消えなかった。
それでも、自分から人間の機嫌を損ねることはない。幼い日のトラウマから、元々そんな
ことはできなかった。ヤケになった時のようなわがままは言わず、極力おにいさんの機嫌
を損ねないようにした。
それでも、お腹が空いたと言えばおいしいごはんをもらえ、退屈そうにしていればおもち
ゃを買ってきてくれた。最低限のしつけはされたが、それぐらい厳しい野良生活で様々な
抑圧を受けてきたまりさにはなんでもないことだった。
とても、やさしくしてされた。
安全な環境。栄養たっぷりのご飯。まりさは瞬く間に成体ゆっくりへと成長していった。
外への散歩も許してくれた。おにいさんがいっしょだったが、短時間ならひとりでの散歩
も許された。
おにいさん曰く、
「まりさにつけたバッジには発信器が付いてるんだ。だから迷っても大丈夫。でも、時間
はちゃんと守るんだよ?」
まりさにはよくわからなかったが、おにいさんは言葉の通りまりさが何処にいてもすぐに
見つけた。逃げ出すのは無理なようだった。
それでも、まりさはどうにかならないかと考えた。おにいさんの住んでいる街は、まりさ
が住んでいる場所とは遠く離れていた。土地勘がない。もう少し街を知れば逃げられるか
も知れない。だからまりさはおにいさんを積極的に散歩へ誘い、一人歩きの時間をもらっ
た。
れいむと出会ったのは、そんな時だった。
一目でわかった。目の前にいるれいむが、かつての自分と同じであることに。厳しい野良
の生活のなか、それに負けずたくましく生きていることを。
まりさは何故だか妬ましくなった。
飼いゆっくりである自分の生活の方が明らかに恵まれているはずだ。それはわかっている。
それでも、れいむが妬ましくてたまらなかった。
まりさはれいむに襲いかかった。れいむは逃げ出した。戦っても野良では飼いゆっくりに
敵わないとちゃんと知っているのだ。
れいむは野良で生きるゆっくりらしく、狡猾に逃げていった。普通の飼いゆっくりなら簡
単に撒かれてしまっただろう。だが、まりさは違った。むしろ燃えた。れいむがかつての
自分と同じ存在であるとの確信を深め、ますます妬ましくなり追いかけた。
そして。
まりさは、妬みの気持ちをレイプで叩きつけたのだった。
*
*
*
そして、れいむとの生活が始まった。
まりさにとってれいむは邪魔なだけの存在だった。もともと野良でも一人の時間が長かっ
たまりさだ。他のゆっくりが自分のゆっくりプレイスにいるというだけで落ち着かない。
なにより、これから生まれようとする赤ゆっくりが恐ろしかった。
赤ゆっくりはかわいい。とてもゆっくりできる。
これはおよそあらゆるゆっくりに共通する認識だ。まりさもそれは知っている。だからこ
そ恐ろしい。
生まれたら、おにいさんは自分より赤ゆっくりに興味を持ってしまうかも知れない。
そうしたら、自分は殺されるかも知れない。
そう思えてしまったのだ。
だからと言って、れいむを殺そうとするほどまりさは愚かでもなかった。
なぜなら、おにいさんはれいむのこともまたまりさと同じくらい大事に扱ったのだ。その
れいむを殺すことは、おにいさんの機嫌を損ね自分の命を危うくするかも知れない。
だから表面上、まりさはれいむに優しくした。
そんな偽りの優しさに、しかしゆっくりの単純さゆえか。レイプされたというのに、れい
むはまりさを受け入れた。
見た目は仲のいい番のようだった。
そんなある日。
「ほら、れいむ! もうすこしだぜ!」
「ゆ、ゆうう……まりさ、やっぱりむりだよぉ……」
「だいじょうぶだぜ! ほら、もう着いた! どうなんだぜ!」
「ゆあぁ~、いいながめだよ~」
まったく動かないのも良くないと、まりさは身重のれいむを部屋の遊具に連れ出した。
連れ出した先は、ゆっくり用ジャンプ台の上。そこからの眺めはいい。成体ゆっくり1.
5体分ほどの高さのそこは、人間からすれば大したことはない。だが、ゆっくりからすれ
ばとてもいい眺めだ。バカとゆっくりは高いところが大好きなのだ。
れいむは先ほどまでの苦労を忘れたように、ジャンプ台からの眺めを楽しんでいる。
そんなれいむを、まりさはちょっとだけ押した。
「ゆゆっ!?」
あっさりと、れいむはジャンプ台から落ちた。
まりさの考えたシナリオは、事故による赤ゆっくりの流産。ゆっくりらしい浅知恵だが、
これでもまりさは必死に考えた結果だ。
赤ゆっくりがいなくなればとりあえずの脅威は去る。れいむとも縁が無くなり、追い出す
こともできるかも知れない――そんな期待もあった。
まりさは素早くれいむが落ちる様を観察した。流産しないようなら、自分も「事故を装っ
て」れいむの上に飛び降り、確実に始末するつもりだった。
だが、そこでまりさは信じられないものを見た。
落ち方からすればれいむは狙い通り、腹から着地して流産するはずだった。
それが、
「ゆううっ!」
れいむは強引に体勢をねじまげ、顔面から落ちたのだ。
「れいむーっ!」
気づけばまりさはれいむの元へと走っていた。
「だ、だいじょうぶ……?」
「ゆ……まりさ……れいむうっかりしちゃったよ……でもあかちゃんはぶじだから、あん
しんしてね……」
まりさには信じられなかった。自分はれいむをレイプしたのだ。表面上は仲良くしている
とは言え、きっと自分のことを心の底では憎んでおり、赤ゆっくりを邪魔者だと考えてい
ると思っていた。。
それなのに。
れいむは、身を挺して赤ゆっくりを守ったのだ。
まりさは自分のしようとしていたことが急に恐ろしくなった。
その恐ろしさを加速させるものがあった。れいむの瞳だ。
迷い無く、ひたむきな瞳。痛いはずなのに、苦しいはずなのに、まったく迷い無く揺るが
ない、強い瞳。そこに込められた、赤ゆっくりへの想い。
自分はこんな瞳ができるだろうか。
命に代えても守りたいと思うものがあるのだろうか。
今まで生きるだけで精一杯だった。守りたいと思うものなんて、自分の餡子の他にはなに
もなかった。
だから恐ろしい。れいむのひたむきさが、恐くてたまらない。
「ぺ、ぺーろぺろしてあげるんだぜ……」
「ゆゆ~ん、まりさ。ありがとう……」
まりさがぺーろぺろすると、れいむは目を閉じてその感触に身を委ねた。
あのおそろしい瞳は見えなくなったが、まりさの中の恐怖は消えなかった。
「う、うばれるぅぅぅ……!」
「れいむ、がんばるんだぜ! げんきなあかちゃんうむんだぜ!」
やがて、れいむは出産を迎えた。
まりさはおぼうしをかまえて赤ゆっくりを受け止めようと待ちかまえる。後ろにはタオル
を持ったおにいさんもいてくれる。
だが、まりさは不安だった。
おにいさんの話では、普通より出産が早すぎるというのだ。
まりさが思い浮かべるのは、自身の罪。ジャンプ台から突き落としたことが何か悪い影響
を与えてしまったのかも知れない。
「あかちゃん、ゆっくりして……ゆっくりしないで……とにかく、げんきにうまれるんだ
ぜぇ……!」
不安の中、
「ゆぎぃ!」
れいむの一際高い声と共に、何かが飛んでくる。まりさは必死におぼうしで受け止めた。
おぼうしの中に、確かな感触。
おそるおそる覗き込むと、
「ゆっきゅりしちぇいっちぇね!」
かわいらしい赤ゆっくりの声に迎えられた。
「ゆっくりしていってね! ゆっくりしていってね! れいむ! れいむとまりさのあか
ちゃん、とってもゆっくりしてるんだぜぇぇぇ!」
煌めく金髪に、可愛らしい黒のおぼうし。元気な赤まりさだった。
どうやらおにいさんの心配は杞憂だったようだ。
「うん。まりさ……よかった……あかちゃんうけとめてくれて、ありがとう……」
「れいむ、よくがんばったんだぜ! でかしたんだぜ!」
たたえあうまりさとれいむ。
それを祝福するように、赤ゆっくりは叫んだ。
「ゆっきゅりしちぇいっちぇね!」
「「ゆっくりしていってね!」」
まりさとれいむは、赤まりさに最高のゆっくりを送るのだった。
その夜。
赤まりさはとても元気に騒ぎ、大いに食べ、そして今は眠っている。
まりさとれいむは赤まりさに寄り添い合い、眠りにつこうとしていた。
あまりにも幸せだった。
野良の時には想像もしなかった、飼いゆっくりになっても手に入らなかった、本当のゆっ
くり。
安堵して、そして、急に恐ろしくなった。
愛しいれいむ。大切な赤まりさ。
だが、自分のしてきたことはどうだ。
れいむをレイプし、あまつさえ赤まりさを殺そうとさえした。
れいむは疲れたのか、目を閉じている。
だから、まりさは呟いた。罪から逃れるように、そっと。
「ごめんね、れいむ……」
「なんであやまるの、まりさ?」
「!」
れいむは起きていた。
じっとまりさを見た。
あの時見た瞳で。あの強い、ひたむきな瞳で。
まりさはもう隠せないと思った。
だから洗いざらい喋った。
れいむをレイプした理由。ジャンプ台から突き落としたこと。
自分の罪を、全て。
れいむは口を挟むことなく、じっと聞いていた。
まりさは、最後に、
「ほんとうにごめんだぜ、れいむ……まりさじゃ、おとーさんにふさわしくないぜ……」
情けなく、そんなことを言った。
そんなまりさに、れいむは、
「ぜんぶ、わかってたよ」
驚くべき事を言った。
「まりさがいらいらしてれいむをおそったのも、つきおとしたのがわざとなのも、ぜんぶ
わかってたよ」
「わかってたのかぜ……! それならどうして……」
「あかちゃんができたからだよ。あかちゃんにはおとーさんとおかーさんがひつようなん
だよ。いっしょにいれば、ゆっくりできるんだよ」
れいむは人間に飼われるようになった。赤ゆっくりを確実にゆっくりさせるためにはその
環境が必要だった。環境の維持にはまりさが必要だった。
そのゆっくりらしからぬ冷静な判断は、れいむ種特有の母性によるものだった。赤ゆっく
りができれば、それをゆっくりさせるために全力を尽くす。時には同族を殺し、敵わぬ人
間にも立ち向かう。理屈も道理も逸脱した、狂気にも似た母性。
それがれいむ種というものであり、脆弱なゆっくりが絶滅しない理由のひとつ。
れいむの母性は、まりさの餡子を打った。
まりさは親の愛というものを知らない。れいむの異常な母性が、眩しいほどに輝いて見え
た。とてつもなくゆっくりできるように思えた。
「まりさ。まりさはあやまらなくていいよ。れいむはまりさのしたことをゆるさない。お
とーさんにふさわしくないなんていわせない。まりさはいいおとーさんになってつぐなっ
てね! ゆっくりりかいしてね!」
「ゆっくり……りかいしたよ……!」
まりさは泣いた。哀しいのではない。それは暖かな涙だった。
そして、まりさは父として頑張った。
とは言え飼いゆっくりの身、餌はなにもしなくてももらえる。狩りは必要ない。だからま
りさのできることと言えば、赤まりさと遊んだり、今まで身につけた生き残る術を伝える
ぐらいだ。
それでも真剣だった。必死だった。
れいむはそんなまりさを受け入れた。
気づけば、仲睦まじい家族ができていた。
「なあ、まりさ」
れいむとおうたの練習をする赤まりさを眺めていると、おにいさんが話しかけてきた。
「お前、ゆっくりしているか?」
「うん! まりさもれいむもおちびちゃんも、すっごくゆっくりしてるんだぜ!」
「でもまりさ……お前、本当はれいむなんか連れて来たくなかったんだろう?」
「ゆゆ!?」
突然の指摘にまりさは動揺した。
なにしろ、まりさが好きだからレイプしたと勘違いしてれいむを家に連れ込んだのはおに
いさんなのだ――そう、まりさの餡子脳は理解していた。
「それでも無理矢理連れてきたのは……まりさ、お前に本当に大切なものを持って欲しか
ったんだ」
「たいせつな、もの……?」
「人から与えられただけのものなんて、大して価値がないんだ。俺の両親は金持ちなんだ
けど、仕事ばっかりで全然家に帰ってきやしない。頼めばなんでも買ってもらえるけど、
それは本当にありがたいことなんだけど……それじゃ、本当に大切なものにならないんだ」
「ゆうう……」
「お前にはちょっと難しいか? じゃあ……なあ、まりさ。お前にはなんでも買ってやっ
た。でも、たいしてうれしくはないだろう?」
言って、部屋にいくつもあるゆっくり用遊具を眺める。
「そんなことないんだぜ! おにいさんのかってくれたものはどれもとってもゆっくりで
きるんだぜ!」
「でも、れいむとおちびちゃんの方がゆっくりできるだろう?」
「ゆうう……!」
まりさは反論できなかった。その通りだったからだ。
「俺にも大切なものがなかった。でも、できたんだ。それがまりさ、お前だ。お前を拾っ
たのはほんの気まぐれだった。お前ときたらわがままを言ったかと思ったら急にしおらし
くなるし、ちっとも思い通りにならない。そんなお前を構っているうちに、気づけばお前
のことが好きになってた。お前が俺にとって、大切なものになっていたんだ」
「おにいさん……」
「だからお前にも大切なものを持ってもらいたかった。だかられいむを連れてきた。ゆっ
くりは子供ができればすごくゆっくりできるって言うし、きっとお前の大切なものになる。
そう思ったんだ」
まりさは感極まったのか、目を潤ませ声も出せない様子だった。
おにいさんはれいむに声をかけた。
「れいむ、子育て大丈夫か!」
「まかせてね! れいむはこどもをそだてるのがじょうずなんだよ!」
笑った。みんなで笑った。言葉ではなく、それがきっと答だった。
「なあ、まりさ。お前はいま幸せか? すごくゆっくりしてるか?」
「うん! すごくゆっくりしているよ!」
「そうか。きっと俺もお前と同じくらいしあわせで、ゆっくりしてるぞ」
まりさはうれしくてたまらなくなった。
だかられいむと赤まりさのところに駆け寄って、家族揃って、
「「「ゆっくりしていってね!」」」
最高のゆっくりを、おにいさんに送った。
赤まりさも子まりさと呼べるほどに大きくなり、ゆっくり一家とおにいさんはそろって散
歩へ行くことにした。
子まりさは初めての外の世界に興味津々。まりさもれいむも、久しぶりに外へでる開放感
にご機嫌だった。
「おちびちゃん、きをつけるんだよ!」
「おとーさんのおしえたこと、ちゃんとわかってる?」
「ゆっきゅりりきゃいしてるよ!」
まだ赤ちゃん言葉が抜けきらないとは言え、野良で生き抜いた二人の教育を受けたゆっく
りだ。おにいさんもいることだし、危険はないだろう。
もし、危険があったとしても。まりさは命に代えてもれいむ子まりさを守るつもりだった。
かつて、野良だった頃。人間に立ち向かうゆっくり一家を何度も見た。愚かだと思った。
見捨てて逃げれば、助かるかも知れないのにと、バカにしていた。
でも、今ならその気持ちが分かった。もっともまりさは、もっと賢く立ち回る自信はあっ
た。人間に立ち向かうなんて自殺行為だと知っていた。
まりさは野良の頃のように気を張っていたが、晴れた穏やかな日。特別な危険もなく、ノ
ンビリと散歩は続いた。
「あ、たんぽぽさんだ!」
れいむの声に目を向ければ、道の反対側に咲く鮮やかな黄色。細かな花びらを大輪に広げ
たタンポポが咲いていた。
「ゆゆ!? おきゃーしゃん、たんぽぽさんってなに?」
「おかーさんのだいすきなおはなだよ。とってもゆっくりできるんだよ♪」
れいむと子まりさの会話に、まりさは敏感に反応した。
たんぽぽ。れいむも子まりさもゆっくりできる花。
「まりさがとってきてあげるよ!」
まりさの餡子脳の中では、おにいさんの言葉が甦っていた。
――人から与えられただけのものなんて、大して価値がない。
まりさは飼いゆっくり。れいむや子ゆっくりにあげられるのは、おにいさんからもらった
ものばかりだ。
しかし、今。自分で手に入れられるものがある。大切なれいむと子まりさをゆっくりさせ
られるたんぽぽ。れいむと子まりさの大切なものになってくれるかも知れない、花。
いてもたってもられなかった。
だから、気がつかなかった。
生まれてからずっと保ち続けた警戒心が、ほんのつかの間途切れて、気づけなかった。
いくつかの音がした。
ちりんちりんというベルの音。
アスファルトを擦るゴムの音。
そして、饅頭を潰すタイヤの音。
「まりさーっ!」
れいむの絶叫に、失われる感覚に、まりさは予感した。
自分が、永遠にゆっくりしてしまう、と。
まりさは自転車にひかれた。
不幸な事故だった。
自転車はおにいさんの後ろから来た。ゆっくり一家はおにいさんの前を歩いていた。
自転車に乗った人間からは、まりさ達ゆっくりはおにいさんに隠れて見えなかったのだ。
そこに、まりさはタイミング悪く飛び出した。
自転車はそのまま走り去ってしまった。転びでもしない限り、ゆっくりを轢いて止まる人
間はなかなかいない。野良なら片づけが面倒で、飼いゆっくりなら飼い主の文句が面倒だ。
それは、世間ではありふれた事故。
まりさにとってはありえない惨劇。
(……もっと、ゆっくりしたかった……)
まりさは動けず、声すら出せない。自転車の轍はまりさを前後に両断していた。飛び散っ
た餡子を量るまでもなく、致命傷なのは誰が見ても明らかだった。
まりさは悔しかった。
もっとゆっくりしたかった。れいむと子まりさと、ずっとゆっくりしたかった。
でも、なにより悔しいのは。
れいむと子まりさを、もうゆっくりさせてやれないことだった。
そんなときだった。ほとんど音の無くなった感覚の中、ただひとつ。れいむの叫びが届い
た。
「まりさのぶんまで、おちびちゃんとふたりでずっとゆっくりするよ……!」
――ああ、よかった。
まりさは安堵した。れいむのことを信じている。そのれいむがゆっくりするというのだか
ら、子まりさは絶対にゆっくりできるハズだ。
まりさは心底安心し、そして、逝った。
その死に顔は、凄惨な死に様とは裏腹にとてもゆっくりしたものだった。
だから、知らずに済んだ。
「お前さえいなければ……!」
れいむに向けたおにいさんの冷たい言葉を。
まりさという、大切なものを失ってしまったおにいさん。その胸にぽっかり空いた穴を優
しさで埋めるのではなく憎しみで蓋をして、いつまでも癒えない虚無へのいらだちをれい
むに向けたことを。
まりさは知らないまま、永遠にゆっくりした。
たった独りで産まれ、生きたまりさ。その最後は救われたように思えたが、結局独りで勝
手に未来を信じ、独りで死んだのかも知れない。
ゆっくりの死に救いなんてない。
それは本当にありふれた、なんでもないこと。
了
by触発あき