ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko2387 ゆっくりしていない二匹の旅(下)
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『ゆっくりしていない二匹の旅(下) 』 38KB
虐待 戦闘 同族殺し 駆除 ゲス れいぱー ドスまりさ 創作亜種 ぺにまむ 続き。チート無双。ある種の愛で。
・注意事項は前編に載せているものと同じですが一番大事なことだけ
・『俺の考えた最強のゆっくりが活躍する話』です
・つまりチートゆっくりの話です
・あと、後編には希少種虐殺描写あり
それではごゆっくりとお楽しみ下さい。
子供を作らせようとしたが検体Aは損傷が激しく、検体Bは老齢過ぎた。食品加工部門へ――
食料品に加工しようとしたが、検体Aは足を焼いても動き回り、検体Bを潰そうとしたプレスが破損した。処分へ――
二体纏めて熱湯に投げ込めば泳ぎ、フードプロセッサの刃が吹き飛んだ。逃走された――
再び検体ABの確保に成功。研究のため硬いと評判の皮にメスを入れるとあっさり死んだ。処分――
ゴミ箱から二体とも消えていた。加工所の敷地内の施設のゆっくりを大量に捕食か破壊した。処分――
処分しても、埋めても、金庫に入れてもいつの間にか出てきてゆっくりを殺す。損失が大きすぎる。元居た山へ――
勝手にやって来た。最高級の菓子を持たせ、職員全員の土下座で帰っていただいた。ああ、ゆっくりの少ないシベリアに行こう。
シベリアへ――
――――とある加工所所長の業務日誌より。
才蔵はその日、ハンターまりさ(以下ハンター)とおげどうさまぱちゅりー(以下おげどうさま)によって壊滅されたゲスまりさの集
団から、従姉妹の脚を傷付けたゲスまりさをハンターから受け取り、納屋で制裁を加えていた。
冬瓜を剥く道具に括りつけ、回転させながらおろし金で摺っていった。
全てが終わったときには日も暮れていて、家に入ると、自分の分の夕食が置いてあり、伯母も従姉妹も寝たのだと思っていた。
しかし、ハンターに叩き起こされた家の住人は二人。
伯父が病院なのは仕方の無い事だが、伯母はどうした。そんな事を考えていると。
「御手洗の小母さんが負傷した」
と、ハンターに告げられ、速くは走れない従姉妹を負ぶって、村の集会所まで駆けつける。
そこには、脚を酷く負傷した伯母が倒れていた。
村の面々に介抱されながら、街からの救急車を待つ。
その間、従姉妹の少女はひたすら心配し続ける。
ようやく救急車が到着し、緊急治療員が見た所、骨折はしているが他に問題はなさそうであり、病院ですぐに治療、及び入院だろうと
言われ、伯母は「大丈夫」と辛そうな顔で言いながら、搬送されていった。
その途端、従姉妹はいきなり号泣し、崩れ落ちた。
その後開かれた集会で、伯母は突然クイーンありすとその群の攻撃を受けたと、掠り傷ではあるが同じく襲われた同行者が言った。
これに激怒したのは村人でも、村長でも、従姉妹(そもそも参加していないが)でも才蔵でもなく、ハンターとおげどうさまであった。
「村の周りのゆっくりの調査にクイーンありすなんてなかったぞ? おい?」
「遺憾千万……どういう事かしら? 私達ではゆっくりの動きを全て把握できないから、村の人たちに調査を依頼していたのに――あの
方角に危険な大型種はいないどころか、ゆっくりの群の報告すら無かったわよね?」
どの方角か、その方角の担当者は誰かが調べられた。
すぐに判明する。才蔵だ。
ゆっくりのゆっくり狩りを信用せず、適当な調査で済ませ、今日の当番に至ってはハンター達の追跡をしていて、調査の一つもしてい
なかった。故に伯母が調査役を買って出た。
少し進めば見晴らしの良い開けた場所に出る。双眼鏡さえあれば、遠くからでも群の存在がわかる。だから、才蔵の報告を信じていた
伯母達は、村からそんなに離れていない場所でクイーンに襲われ、不幸中の幸い、片方が片方を背負って逃げれたという訳だ。
ひどく落ち込む才蔵を友人と村人何名かは慰め、明日の朝にでも駆除に行こうと言った。
村長に謝罪に行くと励ましてくれたが、救急の手続きらしい市のマニュアルを読んで小声で
「面倒を起こしてくれおって」
と、言ったのが聞こえた。勿論自分の事だと思った才蔵が顔を上げると、村長は救急車の消えた方向を睨んでいた。
家人が二人も居なくなった事で、才蔵と少女は集会所に泊まる事にした。自分が居れば大丈夫だろうと言ったし、村長も頷いたが、村
人の何人かが、ここに泊まっていくように言った。
そしてそれを強く推したのはハンターとおげどうさまだった。
それに才蔵は自分の計画の為に、少女を家に一人に出来ないと考え直し、集会所に泊まってくれるという友人や伯父達と友好の深い村
人に感謝した。
真夜中、一度家の納屋に戻り、小回りの利きそうなピッケルと鍬を担いで山へ向かおうとする才蔵。
その目の前に、黒い帽子のバレーボール大の物体が道を塞いでいた。
「……通行料の菓子なら無いぞ」
「夜中に甘いモノ食うと、身体に悪いんでねぇ。吹き出物でも出来たら困っちゃうだろぅ?」
余裕綽々といったようすのハンター。まりさのくせに。ゆっくりのくせに。気味が悪いったらありゃあしない。
「止めるつもりか?」
「何で? 勝手に行って、勝手に死ねば良いじゃないかぁ? 俺の断りが必要な事かい?」
「死なねえよ! たかがゆっくり如きに」
「クイーンありすは、あの汚らわしい無数の生殖器の触手の強度を変えて、鞭のように扱う、接近戦ならドスより厄介だ」
「……」
「群の数は総勢三百、どこで手に入れたのか、ガラス片やカッターで武装しているのが六十匹、ふらんとれみりゃ、何故かきめぇ丸とゆ
うか、すぃーに乗って角材を尖らせたものを咥えためーりんと、通常種以外の編成部隊もいる――おそらくクイーンの子供のゲスだろう。
マスゲームみたいな動きだったなぁ……ひゃはは!」
ハンターの言葉に驚く。
「……お前、調べて来たのか?」
「どうせ行くんだろう? あの屑村長でも気付くんだ、調べておいて損は無ぇだろうと思ってな――奴らは知恵の回るゲスだ。夜は捕食
種を恐れて群が動かないと踏んだ村を夜中の内に襲い、四方が山なのをいい事に四散して、食い物にだけありつこうって奴らだ。ハバネ
ロも獅子唐も役には立たねぇよ」
「戦死覚悟の特攻野郎か……面倒くさえ連中だ……それで、俺に村を守るか、全員で掛かって行けと」
「効率的だろう? 裏の裏をかく。決死覚悟の特攻野郎の作戦より大分マシさ。だろぅ?」
ふふんと、無い鼻で笑うハンター。
「ま、言っても聞かないんだろうけどなぁ」
「判ってるんなら言うんじゃあ無ぇよ糞饅頭……俺が何体か潰しちまえば、奴らの悲鳴で村人も気付くだろうよ。お前の話じゃあ村長も
気付いているんだろうし」
「どうだかなぁ……あの爺が真っ先に安全地帯まで逃げ出すだろうよ」
「……どういうこった?」
先程から、自分達に友好的であるはずの村長をひたすらに悪く言う。
そう言えば、ゲスまりさも村長に渡せば英雄扱いだとか言っていたな。
「佞悪醜穢」
突然背後から声を掛けられた。おげどうさまだ。
「厳十郎は貴方達一家が嫌いなのよ? 気付かなかった? 村の子供達は、貴方の従姉妹と遊ばないのよ?」
それを聞いて、才蔵はハッとした。
少女が遊んでいるのはいつもゆっくり(恐らくおげどうさまの群)だけだ。
同年代の子供達はいつも別の場所に集まっている。
その子供達の目には、一緒に遊びたいという感情と明らかな侮蔑の二種があったが、それは少女が脚に抱えるハンディに対するものだ
と今の今まで思っていた。――それが間違いだとしたら。
かつては広かった伯父の畑、自分が大きくなったのだと思い込んでいたが、少し真剣に考えれば小さくなりすぎだ。
そして、村人。
友人や周りの村人は良くしてくれるが、それは他者の目を盗んでいるようだったと、今思い出してみれば判る。
大人がそうなら、社会的に弱い立場の子供はそういった空気をすぐに読む。
下手をすれば村長側の村人は、子供に虐めを推奨するような事を教えているかもしれない。
まだ、現代社会である事が救いなだけで、ここは陸の孤島といって言い、山中の閉鎖社会。
村八分。
村長の意向には歯向かえない。
「どうして……」
「御手洗の家が、ゆっくりが好きだからよ……いえ、山に住む生き物を滅多やたらに殺す事を嫌っているから」
才蔵は衝撃を受けた。
そんな事でというのも勿論ある。
ゆっくりの山狩りは日本の田舎なら、昔から見られる行事だし、ゆっくり愛好家の中には愛護を通り越して愛誤とも言える、異常な狂
信者もいるが、少なくとも御手洗の家は山狩りにも参加し、過剰な殺生を避けながらも村に貢献していたはず。
それに才蔵がゆっくり嫌いと言ったら、大きく否定に出たり、目の前の二匹を過剰なまでに評価していたのはどこの誰だ。
「矛盾ばかりで納得が行かないようね? 簡単よ。村に有益な群を残しているんだから、他のゆっくりは国が保護しようとしている希
少種だって殺す。だからゆっくりに加担する奴は敵。村に居たければ財産を寄こせ。少しでも反抗するなら山の中で事故に見せかけて怪
我をさせる。村に有益なゆっくりが嫌いとはけしからん! 頭がどうかしている若者は勝手に出て行って死ねばいい。私が正しい。歯向
かう者は即ち悪! ……自分の言った内容なんて、気分次第で二転三転させるし、簡単に忘れるわ。この村で佞言似忠を使えない者は即
悪人扱いなのよ」
「あんの……餡子脳爺ぃいいいいい~!!!!!」
ゆっくりの言う事を信じるのも馬鹿らしいが、こいつらの言ってる事が正しいのは判った。
ある種、ゲスゆっくり並みの人間が、村を取り仕切っていたのだ。人間でいぶである。
「あ! じゃあアイツを独りにしてきたら……!!」
「ふふ……大丈夫よ。その為に村人が集まりやすい集会所に泊めるように、あなたの友人達が取り繕ったのだから。家においてきていた
ら、番の人間を付けても一人や二人じゃ意味が無い。けれど、集会所なら公共の場で、大量の人間が居残る事ができる。それはどちらに
も言える事だけど、村長側の村人は根負けして帰って行ったわ。私を抱いて寝ていたのも利いたみたいね」
才蔵がホッと一息つく。
「ありがとな……おげどうさま。ついでにハンターも」
「ふふ、構わないわ」
「ひゃは!」
ハンターがおげどうさまの方を見る。
「で、おげどう……お前はそんな子を放って、何しに行こうって言うんだい?」
「焦眉之急……少し用事が出来たのよ」
「ひゃは! お前さんのお得意の言い回しで言ってやろうか? 燃犀之明のある奴のすることじゃあ無ぇなぁ」
「貴女との関係は確かに拈華微笑、以心伝心、黙契秘旨だとは思っているわ。でもね、相手の心に土足で踏み込んで良いという事は無い
でしょう?」
いきなり不穏な空気になった。
才蔵も間に入る。
「待て待て! 何でいきなり喧嘩腰なんだ! それにお前もクイーン狩りに行くのか!?」
「決まっているでしょう? それ以外にあると思って?」
「罠も張らず? 知略も使わず? 戦略も練らずぅ?」
ハンターの言い回しはムカつくが、確かに才蔵以上に無謀に思われた。
聞いた話、あの落とし穴はハンターが掘ったものらしい。つまり、おげどうさまにあるのは異様な防御力のみ。
負けはせずとも勝てもしない。
「俺が聞きたいのはなぁ、おげどう? 何で無茶をしようとしているのか? ……だ。いつもの自己満足にしたって酷いぞこれは」
「俺もそれは知りたい」
才蔵にとってのそれは、あの子の事を思った言葉が出てくるのを期待していての事だった。
こいつ等は頭が良い。
街の金バッチのように他人を思い遣れる言葉が出てきてくれるかもしれないと……。
しかし――
「だってあの子ムカつくんだもの」
思いもよらない一言だった。
「む……むかつくって……」
「私も最初は夜に相手が来ても、集会所に大人数集まっているからそれを利用しようと思っていたのに、考え事の最中なのに一緒に居て
くれなきゃあ寂しいだとか、寝る時も一緒に居てほしいだとか言って私を抱き枕にして、抱きしめてきて、いつもの寝床より暖かくて…
…次から自分の寝床で眠れないわね。作戦も立てられないわムカつく」
微笑みながら話すおげどうさまに、才蔵とハンターがにやりと笑う。
「でも、眠りに付いたら、手がブルブル震えだして、苦しい位に私を抱きしめて、寝ているくせに泣き出して、私の頭の上で嗚咽を漏ら
して睡眠妨害した挙句、最後には頭を撫でてくれていた貴方の友人の手を取って眠ってしまったのよ? 不愉快でしょう? だからハン
ター、貴方の言葉を借りたら八つ当たりに行くのよ以上」
そこまで聞いて、才蔵は自分も付いていく決心をした。
「で、また後悔するのかい?」
「後悔しない為に行くのよ。それで後悔するというのなら、何度だってしてみせましょう?」
誰とも無く挑発するような言い回しをするおげどうさまの横に才蔵が立つ。
「安心しろ! その後悔は二等分だ!」
「おいおい兄さん? 頭が茹っちまったのかい?」
この状況でもムカつく事を言いやがる饅頭を踏み抜いてやりたくなったものの、どうせ逃げられると留まる。
「三等分でしょうが? 計算出来ねぇの?」
ハンターがお下げで、帽子のつばを直す。
相手はゆっくりだが、心強いと思った。
「俺が行くからには一匹残らず喰い潰してやる。ひゃはは!」
「熱烈峻厳なのは結構な事だけれど、一体どういうつもりなの?」
「ひゃは! 俺はゆっくりが喰いたい。しかもレア物まで沢山居やがる、更に俺のお気に入りの人間を泣かせたイコール俺の敵だ。邪魔
はさせないつもりだったが、想いが同じなら構いやしねぇ! あんた風に言うなら自己満足の自己欺瞞だぁよ! で、俺はいい事を思い
ついたんだが……どうだいお二方? 乗ってみないかい?」
才蔵がハンターに言われたものを用意している間、ハンターとおげどうさまは色々な準備をしていた。
「ほらこれ」
「ひゃは! いかすなぁ」
おげどうさまが寄こしたのは、これまで二体が狩ってきたゆっくりのお飾りを繋ぎ合わせて作られた帽子。しかも、まりさ種の魔女の
ような山高帽ではない。今まで被っていた帽子から死臭を移す作業を始める。
「まだ貴女のデザインには届いてなくて、リボンの材料が足りなかったのだけれど」
「ところで、おげどう……いや、大将。今回の命令は?」
「クイーンありすの群の完全壊滅と……あの人間を――才蔵さんを守る事よ。これで何かあったら、うちの群まであの糞の言いなりにな
りかねないわ。理由はそれだけ」
「らーさ」
才蔵が居たらツッコミを入れたであろう返事をし、下品な笑い顔でおげどうさまを見つめるハンターを睨み返すおげどうさま。
そこに才蔵がやってくる。
「お! なんだその帽子。某ヴァンパイアハンターみたいだな」
「いかすだろぅ?」
ハンターの帽子はつばの広いハンターハットかトラベラーズハットのようで、確かにあの吸血鬼を狩る者の帽子に見えなくも無かった。
「で、ほんとにこの渓谷を通ってくるのかよ?」
「本当よ」
「でもゆっくりが岩や水の多い場所を選ぶかのかよ?」
「飛行系のゆっくりでは木々の間を通る群を追いかけにくいし、この辺りの傾斜を群全体で進めば時間のロスに繋がる。そして人間は今
言ったとおり、大量の水や岩の多いところにゆっくりが来ないと考える。相手は群を軍隊仕立てにして奇襲を仕掛けるつもりの智将か阿
呆の二つに一つ。どちらにしたって此処を通るわ」
「智将と阿呆じゃ天と地ほどの差があるな」
「紙一重系って事じゃあねぇ?」
するとどこからとも無く。
ずーりずーり。ぬちょぬちょ。ゆっゆっ。
と音が聞こえてきた。目を凝らして見れば、月明かりの下、真ん中に巨大で、卑猥な触手だらけの饅頭を取り囲むように空陸に大量の
生首のようなモノが跳ねている。先頭集団は後続から何かを受け取り、地面に撒いて進んでいる。
「なんぞあれは?」
「先走りよ」
「は?」
「クイーンの粘着質で気色の悪い下品で卑猥な液体を撒いて、小石や岩の角で底面を怪我しないようにしているのよ」
「気持ち悪!」
ようやくクイーンの表情が視認出来る距離まで近付いた。あれは完全にレイパーありすの表情だ。故にこの大編成だろう。希少種に
孕ませた子供で、群を増強したのだ。
「準備は?」
「「OK」」
おげどうさまとハンターが、先程用意していた物――ハンター手(お下げ)製のクロスボウに飛び乗る。
それは小さな枝の矢を発射し、空中を舞うれみりゃや前列を任された刃物を持ったみょんに突き刺さる。しかも次々と刺さったゆっく
りは顔を真っ赤にして爆ぜる。
「う~☆ うぅーーーーーっ!!? うー! うー! うぎゃ!」
「ちーんぽ? でかまらっ! いでぃっ!!?」
「うー!! なんなんだどー! みんながつぎつぎと……うあああああ!! がらいいいいいい!!」
「なんなんだみょん!? なにがおこってい……ゆああああああ!! ちーんp…………」
枝にはハバネロを煮詰めた液体が塗布されている。それが少しの狂いも無く中枢餡に到達し、ゆっくりの中身は一気に汚染され、ゆっ
くり出来ない物質に変化する。通常その変化の後に、ゆっくりの中身は苦痛で甘くなるが、その時には死んでいる為、ゆっくり出来ない
物質は化学変化を起こさず、死臭を纏った苦いものとなる。
その化学変化は熱を起こし、死んだ中枢餡が少しも回復しようとしない矢の刺さった皮の裂け目から、一気に暴発して辺りに降り注ぎ
二次被害をもたらす。
「あああああああ!! クイーンの可愛い堕血美ちゃんたちがああああああああああああ!!」
クイーンありすがその惨状に悲鳴をあげる。……変換の事は気にしないで行こう。
「めーりん部隊! 相手の飛礫はからからさんが塗ってあるわ! あなた達の厚い皮と辛い中身で対抗しなさい!」
「「「じゃおおおおおおおん!!!」」
めーりん達は喜び勇んですぃーを走らせる。
「今さね兄さん」
「おう!」
そういえば、さっきから才蔵の事をジジイからアニサンに変っているなと、才蔵は思いながらハンターを抱える。
才蔵が走り出すと、めーりん達が凄い速さで迫ってくる。その口には角材。人間でも怪我をする。
「「「じゃおおおおおおん」」」
めーりんが才蔵の脚を切り裂こうとするが、それは反発を受けてすぃー転倒というあっけない幕切れになった。
なにせ才蔵は、股引の上にブーツとカーゴパンツ、更にその上に魚屋とかが履いてる下半身一体型のビニールエプロンを履き、その間
に丸めたちり紙をを詰め、さらにカーゴパンツを履くという、オムツ老人みたいなスピードを殺した防御重視の格好をしていた。
そして片手に抱いたハンターを持ち上げる。
「「「じゃおおおおお!!?」」」
「「「ゆうううううう!!?」」」
ドスの帽子を中心に作られた、捕食種すら気絶しそうな死臭塗れのトラベラーズハットを被ったゲス中のゲスまりさ――ハンターのゆ
っくりさせないというオーラと、お飾りだけでなく身体にまで染み付いた強烈な死臭に、めーりんや地上の通常種だけでなく、飛行中の
捕食種まで、吐餡しながら絶命し、辺りは恐慌状態となる。
その瞬間、才蔵が大きく構えを取る。
「いっけえええええええハンタァァァァァァァァァ!! 君に決めたああああああああ!!!」
全力で空中に投げられたハンターはゆっくりとは思えぬ動きで、れみりゃの羽根に噛み付き引きちぎる、さらにそこに帽子に隠してお
いたハバネロと片栗粉と重曹を混ぜてガム状にした物を噛んで吹き付ける。これで激痛と共に羽根は再生しない。
「ぅぎゃああああああああああああああ!!!」
「「「う……うああああああああああああ!! ざぐやああああああああ!!」」」
元々集団行動が苦手なれみりゃとふらんは、やられたれみりゃを遠巻きに見ているだけである。
落下するれみりゃを足場にハンターが次の得物――ふらんへと飛び移る。
「!!! しねっ! ゆっくりしねぇぇぇぇぇ!!!」
「はいはい、それじゃあお言葉に甘えて、あと八十年位生きてましょうかぁ」
「「「じゃおおおお……」」」
「おい、よそ見してる暇は無えぞ」
「「「じゃお?」」」
才蔵がめーりんの一匹目掛けて鍬を振り下ろす。
そこで潰れた姉妹を見て、めーりん達は顔を見合わせる。
「「「じゃおぉん?」」」
それは普段愛らしいめーりん種特有の笑顔だったが、冷や汗と無理に作ったために見える歯茎が、全くこちらを和ませてくれない。む
しろ才蔵は笑いの神すら降りている気がした。
「今更そんな事が……通用するわけ無えだろうがおんどりゃあこの、ラーメ○マンどもがあああああああああああああ!!」
ピッケルでめーりん達を貫いていく。
「ゆ! こっちにゲロぶくろなぱちゅりーがいるよ!」
「このいなかものがこいつらをしきしているのね!」
「むきゅきゅ! けんじゃのぱちぇとはおおちがい!」
「みょんのはくろーけんのさびにしてやるちーんぽ!」
「ゆっへっへ! まりささまのすっきりどれいにしてやるのぜ!」
みょんとまりさがおげどうさまに飛び掛る。
「おげどうさま!?」
「心配無用よ」
おげどうさまが体当たりを仕掛ける。
「ゆっへっへ! ぱちゅりーなんかのたいあた……あれ……ごれ、ばりざのがおのひだりはんぶんだよ……?」
「みょ……みょんのはくろーけんと、からだがまっぷたつに……うそだみょん」
「「ゆあああああああああああああああああ!!」」
ここで才蔵は大きな間違いに気付く。
ゆっくりとって体当たりは最高の攻撃なのだ。
他のゆっくりより皮を硬く出来、ハンターほどではないが、素早く動けるおげどうさまの体当たりは、ゆっくりにとっては必殺の一撃
に他ならない。動いているだけで凶器となる。
「当たり前じゃない、ハンターが来るまでこの辺りの群は私一人で全滅させていたのよ。毎年毎年――攻撃が最大の防御なら、最硬の防
御は転ずれば最大の攻撃になるのは自明の理。ウサギが防具をつけたラガーマンに体当たりされているようなもの」
喋くりながらも、次々とゆっくりをいなして行くおげどうさま。
「むきゅう! あなたがおげどうさまなのね! ちがうのよ! ありすままとわたしたちはあなたのむれにはいりたくて――」
「必要無い」
「ああああああ!! クイーンの長女ぱちゅりーがあああああああああああああ!!」
言う割には動かないクイーン。おげどうさまは、陸の捕食種ゆうかと最強の皮をもつめーりんの身体まで抉っている。
才蔵はゆうかは勿体無いなと思っていたが……
「ゆうかはしにたくないのよ! まりさがかわりにしんでね!」
「ゆうかをたすけてね! れいむはどうなってもいいから!」
「ゆぷぷ! ゆうかのいだいなたいあたりで……どおじでゆうがのあんよざんがうごがないのおおおお!!」
訂正。
どんな希少種でも、ゴミ以下のクズゲスに成り下がったら、誰も必要としない。
すると後方から、声が聞こえた。
「やつらのぶきをせっしゅーしたみょん!」
ゆっくり用クロスボウの周りに幾らかのゆっくりが集まっていた。
が、才蔵たちは気にせず狩りを続ける。
「みょんがしょうっじゅんをあわせるみょん!」
「まりさがうつのぜ! ゆりゃあああああ!!」
まりさもハンター達のように飛び乗る。使い方は理解できたらしい。しかし、結局のところ何も起きない。あの二体の体重に調整して
あるからだ。
「なんでみょん!?」
「しらないのぜ!!」
「どきな! でいぶがやるよ!」
重みが足りないと思ったのか、重量級のでいぶが前に出る。
「ゆんっ!!」
パァン!
炸裂音と共に弓から弦が弾け飛び、クロスボウ周辺のゆっくり達が綺麗に裂かれた。
「ゆ? ゆっく……」
自分の状態を認識できる者は涙を流すが声は出ない。
顔面が削がれ、顔が真ん中で上下に分かれ、唇が削がれ、何もしていないのに「さあ、おたべなさい」状態の者までいる。
「おぉ、こわいこわい」
ふらんの後頭部に噛み付くハンターに、胴付ききめぇ丸が近付く。
余裕綽々と行った表情はきめぇ丸だが、人間を恐れない辺り、親であるクイーンありすの血が濃いのかもしれない。
「おぉ、シェイクシェイク」
「……」
「おぉ……シェイク……シェイク……」
戦況を見ていたゆっくり達が「ゆっくりしてないー!」と吐餡しているのに対し、ハンターは冷ややかな目線を送っている。
「俺はな、元からゆっくりして無ぇんだよ? 判るか? それが攻撃か? 首を振るだけなら人形でも出来るぞ? ケーキ屋の前に立
ってろよ?」
投げかけられる冷たい言葉。きめぇ丸の方が冷静で居られなくなってきた。
「攻撃って言うのはなぁ?」
ハンターのお下げからカッターナイフが覗く。
「……こうやるもんだ」
言い終わった時には全てが終わっていた。きめぇ丸の顔の上半分が切り落とされ、残った首がゆっくりシェイクしながら、身体ごと
落下していった。
しかし、ふらんはその瞬間、ハンターを地上に振り落とす。
「しね!」
勝利を確信した。
地上10m。相手は渓谷の岩にぶつかって、破裂するだろう。じっくり痛めつけられなかったのは残念などとふらんが考えていると、
ハンターは地上に着地すると同時に、ゴム鞠のように変形し、形が戻る勢いを利用して跳躍。ふらんの遥か頭上まで飛んでいった。
「いやはや? 追撃しときゃあ仕留められたかもしれないのにねぇ……おぉ残念残念……ってか?」
ふらんの眼前まで戻ってきたハンターの表情は、得物を狩るふらん種のそれか、それ以上に恐ろしい形相だった。
「ゆっくりしないでし……うぎゃ!!」
ふらんの顔面を喰い千切り、ハンターは次の獲物に飛び移る。すると、地上から声がする。
「ゆ……ゆっくりしないでこうさんしないと、このちびどもをえいっえんにゆっくりさせるんだぜ!」
なぜかまりさが自分の群の子供達を運ぶであろう箱に石を落としていた。
良心に訴えるつもりなのかもしれないが、石を落としているから既に半数近く死んでいるし、何がしたいのかさっぱりわからなかった。
「勝手にすれば良い」
「ぉちびちゃアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああん!!!!!!!!!!!!!」
叫び声はクイーンのモノである。
「ゆうう! ちびがしんでもいいんだぜ!? とんでもないゲスなのぜ!」
「なんだ? 今頃気付いたのか?」
「ゆううううううううううう!!」
「まあ、お前に言われる筋合いは無ぇなぁ!!」
「よぐもおぢびぢゃんをごろじだなあああああああああ!! ごのがいながものおおおおお!!」
「ゆ! 待つんだぜクイーン! これは作戦なのぜ! まつのぜ! まってほしいんだぜ! おおおおおかあしゃあああああん!!」
自分の姉妹を殺したらしいまりさは、母親であるクイーンに殺されてしまった。
それを見て、更に恐慌状態に陥る群。
「こうなったら私が自ら出るわ! 私のぺにぺにハリケーンを喰らいなさい!!」
「「「ゆわああああああああ!! クイーンやめてええええええええええええ!!!」」」
卑猥な形の硬質な鞭のような物が、四方八方に広がる。そのままクイーンが回転を始める。
「うお!!」
才蔵は巻き込まれないように避けるが、高さを変え、長さを買え、クイーンのぺにぺには周りをどんどん抉っていく。
味方で唯一安全地帯にいるのは、臆病なれみりゃを手懐かせて空を飛んでいるハンターのみ。
才蔵はついに藪の中へと吹き飛ぶ。
「ぐあああああああああああ!!」
しかし、群のゆっくりも余すところ無く潰れていってしまった。
唯一その場に立っているのは、身体を異様に硬質化させて凌いだおげどうさまだけ。
「んほおおおおお!! おげどうさまを何度もぺちぺちしてたら興奮してきたわああああああ!! クイーンの都会派な愛を受け取って
ねええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「気色悪い」
そんな事を冷静に呟くおげどうさまの穴という穴に、クイーンの触手が何本も束になって侵入する。
「んほおおおおお!! 熟女を通り越した憂いのあるぱちゅりーのまむまむ(その他)最高y――ゆぴゃああああああああああああああ
ああ!!!!!!!!!!!」
クイーンが悶絶して触手を引き抜く。そこには黒ずんだぺにぺにがあった。
「ありずの……ぐいーんの都会派なべにべにがあああああああああああああ!!!!! ごんな腐っだの違ぶうううう!!!!!」
おげどうさまとハンターの穴という穴と肌には、練り山葵、辛子、山椒などを練りこんだペーストを軟膏のように塗ってある。
甘いカスタード饅のありす種――いや、多くのゆっくりには猛毒でしかないが、この二対はハバネロを丸齧りにし、炎にもあまり焼か
れない身体を持つ、後は体内に仕掛けておけば良い。
「ぐそおおおおおお!! ゆぴぃ!?」
クイーンの背中にピッケルが刺さる。
そこには才蔵が立っていた。
「なんでえええええ!? ざっぎ……ざっぎいいいい!!!!!」
「お前アホか? 岩が砕けるような攻撃、まともに受けたら細切れになってるっつーの! 射程範囲から一時撤退してただけだ。 それ
にな、俺は親父が蒸発するまで、俺の先祖は忍者だといって育てられ! まあマトモに忍術は覚えられなかったが、誰にも気配を悟られ
ずに行動が可能っていう基礎くらいはできるのだ!」
それの何処が基礎なのだろう? という疑問をハンターとおげどうさまは飲み込んだ。
「雪隠れ忍軍末裔! 雪隠才蔵、推参! ……なんてな!」
「おトイレだな」「おトイレね」という二体の会話は聞こえなかった事にする才蔵。
「かの雪中の狩人に描かれているのも、俺の先祖だと教わった!」
「ブリューゲルって日本の人だったかしら?」
「仕えた城はバベルの塔だな」
「あれなのかしら、気付かなかったけど、才蔵さんって、可哀想な人?」
「しーっ! 聞こえちゃうだろぅ」
「聞こえとるわおんどりゃあ!!」
才蔵がツッコミを入れた瞬間、クイーンが叫ぶ。
「胴付き四天王!」
次の瞬間。川の中から手が伸び、おげどうさまを反対の川岸に連れ去る。
胴付きにとりだ。
そして、おげどうさまにナイフを突きつける胴付きゆうかりん。
さらに空中には胴付きふらんが居た。
三体しか居ない所を見ると、さっきハンターにやられたきめぇ丸も四天王だったのだろう。
しかし、才蔵は憧れの胴付きゆうかりんに目を奪われている。
「ゆぷぷ! てんっさいのゆうかにかかればおげどうさまだろうがおひさまだろうがこんなものよ!」
訂正。
喩え胴付きゆうかりんであっても、馬鹿でゲスになってしまったらどうしようもない。
ビキィとしか来ない。
「さあ、このぱちゅりーの命が惜しかったら、降伏なさい! にとりの水鉄砲が火を噴くわよ!」
凄く不思議な比喩表現を聞いた気がするが、ピンチなのに代わりは無い。
しかし、当のおげどうさまとハンターは平然としたもので、次のように口を揃えた。
「「好きにしたら良い」」
先程の無関係の子ゆと同じような反応をする。
「私もハンターと同じ立場なら、そう言うと思ったわ」
「俺のなすべき事は大将……あんたに言われたと通り、こいつらを殲滅して、この兄さんを無事に生きて帰す事だ。それ以外の事がどう
なろうが……おげどう、あんたがどうなろうが知ったこっちゃあ無ぇ」
ひしひしと伝わる本気の空気。
「だったら……」
にとりが水鉄砲を構える。エアーポンプの水流型。並みのゆっくりには殺ゆん兵器に他ならない。
その時、ハンターが才蔵の方を一瞥する。それに才蔵が気付く。
「やってやるよおおおお!!」
にとりの高圧水鉄砲。ゆうかりんに押さえ込まれたおげどうさまの顔面に命中した。
しかし、結果はどうだろう。硬質化していた皮が、少しふやけて軟らかくなった程度だ。
この結果に皆が驚いていると、いそいそとおげどうさまがサングラスを掛ける(っていうか付ける)。
「ゆ! なに勝手にうごいてるのよ!」
ゆうかりんが軟らかくなったおげどうの顔面にナイフを刺そうとする。
しかし、この時点で決定打を打っていたのは才蔵とハンターだった。
ハンターは帽子から、ドスから奪ったキノコを取り出し、自身の餡子と砂糖水の唾液を加えて、地面に叩きつける。
次の瞬間閃光が巻き起こる。
ドススパークを利用したスタングレネードだ。その為に才蔵に用意してもらったのが、サングラスだ。
眩い閃光の中、ゴーグルをつけたハンターをサングラスをした才蔵が抱え、川へ飛び込み、おげどうさまの下へ走る。
一番早く再起したのはにとり。水中と陸地の明るさの違いに目を慣れさす機能が働いたらしい才蔵を狙ってリューターのようなものを
振り上げる。
才蔵は全力でハンターをゆうか目掛けて投げる。反応したのはふらん。音を敏感にキャッチして、ハンター目掛けて飛び掛る。
最後にゆうかは手探りでおげどうさまにナイフを振り下ろそうとする。
一瞬。
ほんの一瞬だが、勝敗は連携で決まった。
動きが遅れ、ハンターの体当たりで身体を抉られ、ナイフが顔面に刺さり絶命したゆうか。ハンターを狙って飛ぶも、その行動が才蔵
に丸見えで、鍬で一閃されたふらん。ゆうかの手を離れた途端、にとりの胴体に風穴を開ける程の体当たりをしたおげどうさま。
おげどうさまは勢いで、川に落ちそうになったのを才蔵が慌てて抱える。
全員の動きが止まる。
「……今の俺達って格好良くない? はじめてあった時のゴムと三刀流みたいで」
「ごめんなさい。読んだ事が無いわ。あまり本を読まないタイプなの」
「ひゃはは! そんなに格好良い様か? 野暮ったい格好の兄さんに、生首二体が人間モドキを倒しただけで」
「なにはともあれ……“二人”とも、無事か?」
「ええ、“お兄さん”」
「助かった――ぜ。“おにいさん”」
言ってから才蔵はむず痒くなった。愛でお兄さんの真似なんて、慣れない事する物じゃあ無い。
「こ……」
才蔵達が振り返る。
「こ……こどもだぢがああああああああ!! びどりもいなぐなっじゃだあああああ!!」
重症の身体でもがき出すクイーン。
「もっどごどもぼぶぎゃずよでびだじゃのぎいいいいいい!!」
もう何言っているのか判らない。
「このごみむじいいいいいい!!」
「失礼ね」
クイーンの腐りかけの触手がおげどうさまに迫る。おげどうさまはそれを噛んで受け止めてしまった。
「ゴミムシはアジア圏に生息する甲虫で、甲虫の宝石オサムシの仲間であり、その種類も多様ながら、すむ地域が種類ごとに限られてい
て、マニアの中では高値で取引される事もあるのよ? それにくらべたら、野生や野良、ゲス化したゆっくりなんてゴキさん以下、私達
と一緒にするなんて、ゴミムシに対する冒涜も良い所よ……あと、テメェ! さっきから子供子供ってよぉ! その子供を死地に連れ込
んだ挙句、ほぼ全員を粉微塵にしやがったのは……どこのどいつだああああああああああああああ!!?」
「ユアあああああああああああああああああああああああああ!!」
触手を基点に振り回されるクイーン。体力も桁違いである。
「おおおおおげどうさまがキレたーーーーー!? どうするの? ハンター! どうすれば良いの? どうなってるの!?」
「落ち着け兄さん。大将は今、ちょっと情緒が不安定なだけさ」
「どういうごとなのおおおおおぉぉぉぉぉ!?」
目の前で巻き起こる、異様なプロレス風景に、才蔵は固まっている。
「俺とおげどうの大将は、出会ってから互いに依存しまくりでな、俺はあいつがそばに居ない時間が続くと自傷行為に走るし、あいつは
俺と長時間すりすり出来ないと暴れ始めるんだ……落ち着くまでまつしかないさ」
そこで漸く、才蔵はハンターが火の中からなかなか出てこなかった理由。おげどうさまが黙ってそれを見ていた理由が判った。
この二人は、人間では治せ無い程に渇いてしまったのだと。
まさに二人のドライな性格を現している。
そうしている内に落ち着いたらしく、クイーンを地面に叩きつけるおげどうさま。
そこへすかさず、クイーンの口にドスキノコを投げ込むハンター。
ドスキノコは激辛。その上、ありす種にはきのこ嫌いも多い。大量のカスタードを吐いて倒れるクイーン。
そこに才蔵が近付く。
「にんげんさ……たすけて……ゆぎぃ!?」
「俺の家族の脚をへし折っておいて、よくそんな事がいえるなぁ? おい?」
ピッケルを使って、クイーンありすの口を限界まで裂く。
「じらながったんだずううう!! にんがんざんのがぞくだなんでじらながっだんだずうううううう!!!!!」
「ほお、知っていたら他の人間にしたと?」
「はいぃ! 強いにんげんざんのかぞぐなんでねらいばぜんんん!!」
「違うなクイーン、間違っているぞ」
「ゆへ?」
「結局人間を狙うなら、危険害獣としてお前を殺さなきゃあいけないんだ……結局な」
「ゆうううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!!!」
クイーンの眼に、少しずつ少しずつ、ピッケルの先端が近付いてくる。
「じまぜん! もうじばぜん!! にんげんざまをおぞっだりじまぜんんん!!」
「反省してるか?」
「はんせいしてる! ばんぜいじでるがらどめでえええええええええ!!」
「何を反省している?」
「にんげんさまをおそったこと! むらをおそおうとしたこと!!」
「これからどうする?」
「べづのゆっぐりのむれにいっで、そこのおざをごろじで、むれのみんなどおぢびぢゃんを……なんで!? なんでちかづけるの!?
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでええええ!! おぢびぢゃんはゆっくりできるってでいぶも――!」
最後に責任転嫁をしようとしたところで、ピッケルは巨大な白玉を抉った。
「「「地獄で再会する日まで、ごきげんよう!」」」
それからクイーンのカチューシャを抱えて村に戻ると、村人達やあの子が才蔵たちを出迎えてくれた。
村長の心底嬉しく無さそうな表情は印象的だった。
才蔵の視点からのエピローグ
それから暫らくして、御手洗の家は、俺の実家に引っ越す事となった。実家は此処ほどいなかじゃあ無いが、街の中心まで電車で二十
分は掛かる所で、俺もそこで生活する事にする。
親父が「俺、仕事定年退職したら、農場やるんだ」と呟いて、お袋と離婚する切っ掛けを作った忌まわしき農場予定地。
ここを開拓してもらうのに伯父の夫婦は打って付けだ。
親父が忍者らしくドロンしてから年数も経ち、今更戻ってきても土地の所有者は俺で、今まで馬鹿みたいな維持費と税金を納めてきた
のだから、勝手に使わさせてもらう。
あの子も親と一緒に暮らせるし、病院だって近くにある。だから俺たちが村を出るという日、あの二人も旅立つ事にしたらしい。
この村の近くに、政治家が票田を広げるための公道が通る事になった。
それに伴い、加工所がこの村に出来る。村と協力関係にある善良な群。それがそうそう滅びる事は無いだろうが、二人の仕事には差し
支える。他の群は加工所が駆逐してしまうからだ。
俺らの旅立ちより、村人たちが集まっているようだ。
「群は守らなくて良いのかい? 我々だって寂しいよ」
ゆっくり愛好家の旅行客を逃すまいという魂胆が見え見えな村長。
「私達も歳だしね、能事畢矣、やることはやったし、研究材料にされるのも嫌だからね。ふふ」
「ほんじゃあな」
村人との別れもそこそこにスケボーを走り出させる二人、しばらく進むと陰で見ていた俺の所までやってきた。
「貴方達も村を出て正解ね。この村はもうすぐ終わるわ」
「どういうこった?」
「この村の名産は?」
「小豆に蓬、粕、柏……でも、ゆっくりは昔から居るが取って代わられた事は無いぞ」
「昔は豚も鶏もゆっくりも量産できなかったからねぇ……養豚場の豚を見ていりゃあ、生命が工業製品なのがよく判る」
ハンターの嫌味に苦笑いをする。
「ここの村から出荷した物を一括で買い取っていた者がいるわ?」
「Y・Uコーポと農協か?」
「そのY・Uは、今度来る加工所の子会社よ。名産の小豆饅頭だなんて真っ赤な嘘。ゆっくりに一番良い餌、また、商品材料が不足した
ときの保険。残念ながら、純小豆製品として売り出すには、此処の小豆は二流品よ」
「それ、村人が聞いたらキレるだろうな~」
目に浮かぶ。
「いずれ否が応にも知る時が来るわ。村長が厳十郎ごときで無ければなんとかなったでしょうけど」
「どういうこった?」
「周章狼狽が狗尾続貂……あんな村長では村がいつか困窮するのも当たり前よね……村長とは泰然自若、虚心坦懐、不撓不屈、率先垂範、
威風堂々たる存在でならなければならないのに、遺憾千万……村は悪衣悪食に塗れていくでしょう。アレのような年長であるというだけ
の浅学非才の輩が村長など勤めるから、村の農業が発展しなくなるのでしょうね。星火燎原……意味判るかしら? 判ったところで他人
になってしまう貴方達には意味の無いことだけれども 無学文盲で無知蒙昧の極みの爺如きでは、食い潰し続けた村から搾取され、美味
い汁を吸う気が、間違えてオオスズメバチを呼び寄せたようなものね」
酷い言われようである。
ハンターは、あの子からクッキーを貰っている。車からはアイツも手を振っている。
「友人さん……じゃなかったわね、これからは。奥さんを大切にね」
「ああ、迷惑掛けちまった分、のら仕事で鍛えた体力で、精一杯守ってみせるさ!」
「ふふふ」
「ひゃは!」
「そうだ、一つだけ聞かせてくれ」
「なあに」
「お前達の能力って思い込みで得たんだよな?」
「そうね、ゆっくりって思い込みで生きてる饅頭だから」
「じゃあ、なんで人間に勝てると思い込んでるゆっくりは人に負ける?」
「ああ……それ」
おげどうさまが楽しそうに微笑む。
「ゆっくりには基本体力限界点があるわ、それを思い込みで乗り越えて、胴付きになったり、つむりを産んだりするの、でも、自分の限
界を見誤るのは、思い込みじゃあなくて思い違いでしょ?」
「なるほど」
会話している間に二人の出立の準備は整ったらしい。
二人がスケボーに乗りなおす。
「むきゅ!」
「だぜ!」
「!」
「三人とも、幸せな時間に、『ゆっくりしていってね!』」
ゆっくりである事を捨てたゆっくりが、心からのゆっくりしてね。
それは誰かに優しい気持ちで掛けるべき言葉。
ああ、不覚にも程がある。聞きなれたこの言葉で涙が出るなんて。たかだか数ヶ月の付き合いなのに。
「ああ、お前らもゆっくりしていけよ! 死に急ぐなよ! 生き急ぐなよ! いずれ再会する日まで……!」
「「ごきげんよう!」」
二人はスケボーで走り出した。
多分会う事なんか二度と無いのだろう、その後姿を何時までも見て居たかった。
とあるゆっくりしていない“二人”の視点でのエピローグ。
「さてと、どこかにご飯にありつける場所はないかしら」
通常のゆっくりなら非ゆっくり症を起こしかねないスピードだ。
「ま、ゆっくりできなくても、次のお飯、今夜の寝床、明日の生存がありゃあ、生き物は割かし幸せだからなぁ」
「不倶戴天の加工所の為に、そのまんまと寝床を失ったのよ、全く」
「この先にゆっくりでも買い物なんかが出来る『安威砂村』って村があったはずだが」
「兎に角そこにいきましょうかね」
ハンターが呟く。
「良かったのかぃ? 群を放棄して来て」
「……思うところが無いといえば嘘だけど、私の育てた群の子達の直系の子孫は殆ど居なくなってるし、じっさい御人好しばかりの群、
加工所が出来ても、上手く立ち回れば、逆に保護してもらえるだろうしね」
「はぁん……」
そんな物かと欠伸をする。
「なにせ百年も経つんだし」
長年群を支えた長老。老齢で嫁を貰った金バッジ。
いや、実際どこまで信じれたものか判らない。
少なくともお互いに信じられるのは、片方は立派な群の長だったという事、片方は虐待を受けていたという事、妻はさなえ種だった事
くらいだろう。
しかし、本当に流行り病で群を壊したのか、あのニュースになった男に捕まったのか、調べる方法など無いし、自分自身でも昔の事過
ぎて、嘘だったか本当だったか覚えていないというのが事実。どうせ、互いにそこまで求めてはいない。
もしかしたら、原初のゆっくりだったのかもしれないし、やたら頭が良いのは、都市伝説のゆっくりになってしまった人間という奴だ
ったのかもしれない。
ただ、人間が年経て魔人や神になるように、物品が年経て妖怪になるように、妖怪が年経て神になるように。
二体は妖怪になった。
思い込みか、自分自身で蠱毒じみた事をした結果か、やたら長生きしたせいか、自分達で口にする事は無かったが、実際に自分も相手
も妖怪になっていた。
しかし、それを口にするのはおこがましい事だと思った。
妖怪じみていていても、妖怪が同一視を嫌う糞饅頭が自分達だ。
だからといってゆっくりを名乗る事もできない。
既にゆっくりにとって、二体は気味の悪い存在だった。
だから、自分達を“二人”と呼んでくれたあの男が好きだった。どうせなら、一緒に付いて行きたかった。が、始まった幸せを壊して
しまうつもりは無い。二人にとって最後のお兄さんと別れた。
もう、何時死んでも後悔の無い生。
刹那に生きてきた二人が、本当に刹那に死に逝く事になった日だった。
――随分先の事だが、二人のゆっくりもどきは人間に殺される最期を迎える事になる。――それはそれは幸せそうに――
スケートボードに焦げたクッキーの詰まった麻袋。サングラスのぱちゅりーと、トラベラーズハットにゴーグルをつけたまりさの話。
* 全然反省していないDX怪人ファイル *
*No.2
おげどうさま
体格:成体ゆっくり
性別:雌よりの雌雄同体
種族:妖怪(元ゆっくりぱちゅりー)
能力:『思い込みだけで身体の強度を変える程度の能力』
パートナー:ハンターまりさ
備考:本当の群での呼び名は「ごぼどうさま」。ハンターに長時間触れていないと、癇癪を起こす悪癖あり。
*No.3
ハンターまりさ
体格:成体ゆっくり
性別:中性
種族:妖怪(元ゆっくりまりさ)
能力:『思い込みだけで身体能力を高める程度の能力』
パートナー:おげどうさま
備考:行動に私情を挟まない冷血漢。おげどうさまの近くにいないと自傷癖が出る。
*No.4
忍者お兄さん
本名:雪隠 才蔵(ゆきがくれ さいぞう)
体格:中肉中性 性別:男 種族:人間
能力:『気配を殺す程度の能力』
備考:父方が雪隠、母方が御手洗、嫁の実家が羽場雁なので、通称おトイレさん。
こちらでは二作目です。
友人に見せたら「こんなの愛でに投稿しちゃダメ!」だそうです。愛でタグもダメだそうで……?。
友人曰く「毒されてる」だそう。
過去投稿
anko2370 虐待の無い世界の鬼意山
虐待 戦闘 同族殺し 駆除 ゲス れいぱー ドスまりさ 創作亜種 ぺにまむ 続き。チート無双。ある種の愛で。
・注意事項は前編に載せているものと同じですが一番大事なことだけ
・『俺の考えた最強のゆっくりが活躍する話』です
・つまりチートゆっくりの話です
・あと、後編には希少種虐殺描写あり
それではごゆっくりとお楽しみ下さい。
子供を作らせようとしたが検体Aは損傷が激しく、検体Bは老齢過ぎた。食品加工部門へ――
食料品に加工しようとしたが、検体Aは足を焼いても動き回り、検体Bを潰そうとしたプレスが破損した。処分へ――
二体纏めて熱湯に投げ込めば泳ぎ、フードプロセッサの刃が吹き飛んだ。逃走された――
再び検体ABの確保に成功。研究のため硬いと評判の皮にメスを入れるとあっさり死んだ。処分――
ゴミ箱から二体とも消えていた。加工所の敷地内の施設のゆっくりを大量に捕食か破壊した。処分――
処分しても、埋めても、金庫に入れてもいつの間にか出てきてゆっくりを殺す。損失が大きすぎる。元居た山へ――
勝手にやって来た。最高級の菓子を持たせ、職員全員の土下座で帰っていただいた。ああ、ゆっくりの少ないシベリアに行こう。
シベリアへ――
――――とある加工所所長の業務日誌より。
才蔵はその日、ハンターまりさ(以下ハンター)とおげどうさまぱちゅりー(以下おげどうさま)によって壊滅されたゲスまりさの集
団から、従姉妹の脚を傷付けたゲスまりさをハンターから受け取り、納屋で制裁を加えていた。
冬瓜を剥く道具に括りつけ、回転させながらおろし金で摺っていった。
全てが終わったときには日も暮れていて、家に入ると、自分の分の夕食が置いてあり、伯母も従姉妹も寝たのだと思っていた。
しかし、ハンターに叩き起こされた家の住人は二人。
伯父が病院なのは仕方の無い事だが、伯母はどうした。そんな事を考えていると。
「御手洗の小母さんが負傷した」
と、ハンターに告げられ、速くは走れない従姉妹を負ぶって、村の集会所まで駆けつける。
そこには、脚を酷く負傷した伯母が倒れていた。
村の面々に介抱されながら、街からの救急車を待つ。
その間、従姉妹の少女はひたすら心配し続ける。
ようやく救急車が到着し、緊急治療員が見た所、骨折はしているが他に問題はなさそうであり、病院ですぐに治療、及び入院だろうと
言われ、伯母は「大丈夫」と辛そうな顔で言いながら、搬送されていった。
その途端、従姉妹はいきなり号泣し、崩れ落ちた。
その後開かれた集会で、伯母は突然クイーンありすとその群の攻撃を受けたと、掠り傷ではあるが同じく襲われた同行者が言った。
これに激怒したのは村人でも、村長でも、従姉妹(そもそも参加していないが)でも才蔵でもなく、ハンターとおげどうさまであった。
「村の周りのゆっくりの調査にクイーンありすなんてなかったぞ? おい?」
「遺憾千万……どういう事かしら? 私達ではゆっくりの動きを全て把握できないから、村の人たちに調査を依頼していたのに――あの
方角に危険な大型種はいないどころか、ゆっくりの群の報告すら無かったわよね?」
どの方角か、その方角の担当者は誰かが調べられた。
すぐに判明する。才蔵だ。
ゆっくりのゆっくり狩りを信用せず、適当な調査で済ませ、今日の当番に至ってはハンター達の追跡をしていて、調査の一つもしてい
なかった。故に伯母が調査役を買って出た。
少し進めば見晴らしの良い開けた場所に出る。双眼鏡さえあれば、遠くからでも群の存在がわかる。だから、才蔵の報告を信じていた
伯母達は、村からそんなに離れていない場所でクイーンに襲われ、不幸中の幸い、片方が片方を背負って逃げれたという訳だ。
ひどく落ち込む才蔵を友人と村人何名かは慰め、明日の朝にでも駆除に行こうと言った。
村長に謝罪に行くと励ましてくれたが、救急の手続きらしい市のマニュアルを読んで小声で
「面倒を起こしてくれおって」
と、言ったのが聞こえた。勿論自分の事だと思った才蔵が顔を上げると、村長は救急車の消えた方向を睨んでいた。
家人が二人も居なくなった事で、才蔵と少女は集会所に泊まる事にした。自分が居れば大丈夫だろうと言ったし、村長も頷いたが、村
人の何人かが、ここに泊まっていくように言った。
そしてそれを強く推したのはハンターとおげどうさまだった。
それに才蔵は自分の計画の為に、少女を家に一人に出来ないと考え直し、集会所に泊まってくれるという友人や伯父達と友好の深い村
人に感謝した。
真夜中、一度家の納屋に戻り、小回りの利きそうなピッケルと鍬を担いで山へ向かおうとする才蔵。
その目の前に、黒い帽子のバレーボール大の物体が道を塞いでいた。
「……通行料の菓子なら無いぞ」
「夜中に甘いモノ食うと、身体に悪いんでねぇ。吹き出物でも出来たら困っちゃうだろぅ?」
余裕綽々といったようすのハンター。まりさのくせに。ゆっくりのくせに。気味が悪いったらありゃあしない。
「止めるつもりか?」
「何で? 勝手に行って、勝手に死ねば良いじゃないかぁ? 俺の断りが必要な事かい?」
「死なねえよ! たかがゆっくり如きに」
「クイーンありすは、あの汚らわしい無数の生殖器の触手の強度を変えて、鞭のように扱う、接近戦ならドスより厄介だ」
「……」
「群の数は総勢三百、どこで手に入れたのか、ガラス片やカッターで武装しているのが六十匹、ふらんとれみりゃ、何故かきめぇ丸とゆ
うか、すぃーに乗って角材を尖らせたものを咥えためーりんと、通常種以外の編成部隊もいる――おそらくクイーンの子供のゲスだろう。
マスゲームみたいな動きだったなぁ……ひゃはは!」
ハンターの言葉に驚く。
「……お前、調べて来たのか?」
「どうせ行くんだろう? あの屑村長でも気付くんだ、調べておいて損は無ぇだろうと思ってな――奴らは知恵の回るゲスだ。夜は捕食
種を恐れて群が動かないと踏んだ村を夜中の内に襲い、四方が山なのをいい事に四散して、食い物にだけありつこうって奴らだ。ハバネ
ロも獅子唐も役には立たねぇよ」
「戦死覚悟の特攻野郎か……面倒くさえ連中だ……それで、俺に村を守るか、全員で掛かって行けと」
「効率的だろう? 裏の裏をかく。決死覚悟の特攻野郎の作戦より大分マシさ。だろぅ?」
ふふんと、無い鼻で笑うハンター。
「ま、言っても聞かないんだろうけどなぁ」
「判ってるんなら言うんじゃあ無ぇよ糞饅頭……俺が何体か潰しちまえば、奴らの悲鳴で村人も気付くだろうよ。お前の話じゃあ村長も
気付いているんだろうし」
「どうだかなぁ……あの爺が真っ先に安全地帯まで逃げ出すだろうよ」
「……どういうこった?」
先程から、自分達に友好的であるはずの村長をひたすらに悪く言う。
そう言えば、ゲスまりさも村長に渡せば英雄扱いだとか言っていたな。
「佞悪醜穢」
突然背後から声を掛けられた。おげどうさまだ。
「厳十郎は貴方達一家が嫌いなのよ? 気付かなかった? 村の子供達は、貴方の従姉妹と遊ばないのよ?」
それを聞いて、才蔵はハッとした。
少女が遊んでいるのはいつもゆっくり(恐らくおげどうさまの群)だけだ。
同年代の子供達はいつも別の場所に集まっている。
その子供達の目には、一緒に遊びたいという感情と明らかな侮蔑の二種があったが、それは少女が脚に抱えるハンディに対するものだ
と今の今まで思っていた。――それが間違いだとしたら。
かつては広かった伯父の畑、自分が大きくなったのだと思い込んでいたが、少し真剣に考えれば小さくなりすぎだ。
そして、村人。
友人や周りの村人は良くしてくれるが、それは他者の目を盗んでいるようだったと、今思い出してみれば判る。
大人がそうなら、社会的に弱い立場の子供はそういった空気をすぐに読む。
下手をすれば村長側の村人は、子供に虐めを推奨するような事を教えているかもしれない。
まだ、現代社会である事が救いなだけで、ここは陸の孤島といって言い、山中の閉鎖社会。
村八分。
村長の意向には歯向かえない。
「どうして……」
「御手洗の家が、ゆっくりが好きだからよ……いえ、山に住む生き物を滅多やたらに殺す事を嫌っているから」
才蔵は衝撃を受けた。
そんな事でというのも勿論ある。
ゆっくりの山狩りは日本の田舎なら、昔から見られる行事だし、ゆっくり愛好家の中には愛護を通り越して愛誤とも言える、異常な狂
信者もいるが、少なくとも御手洗の家は山狩りにも参加し、過剰な殺生を避けながらも村に貢献していたはず。
それに才蔵がゆっくり嫌いと言ったら、大きく否定に出たり、目の前の二匹を過剰なまでに評価していたのはどこの誰だ。
「矛盾ばかりで納得が行かないようね? 簡単よ。村に有益な群を残しているんだから、他のゆっくりは国が保護しようとしている希
少種だって殺す。だからゆっくりに加担する奴は敵。村に居たければ財産を寄こせ。少しでも反抗するなら山の中で事故に見せかけて怪
我をさせる。村に有益なゆっくりが嫌いとはけしからん! 頭がどうかしている若者は勝手に出て行って死ねばいい。私が正しい。歯向
かう者は即ち悪! ……自分の言った内容なんて、気分次第で二転三転させるし、簡単に忘れるわ。この村で佞言似忠を使えない者は即
悪人扱いなのよ」
「あんの……餡子脳爺ぃいいいいい~!!!!!」
ゆっくりの言う事を信じるのも馬鹿らしいが、こいつらの言ってる事が正しいのは判った。
ある種、ゲスゆっくり並みの人間が、村を取り仕切っていたのだ。人間でいぶである。
「あ! じゃあアイツを独りにしてきたら……!!」
「ふふ……大丈夫よ。その為に村人が集まりやすい集会所に泊めるように、あなたの友人達が取り繕ったのだから。家においてきていた
ら、番の人間を付けても一人や二人じゃ意味が無い。けれど、集会所なら公共の場で、大量の人間が居残る事ができる。それはどちらに
も言える事だけど、村長側の村人は根負けして帰って行ったわ。私を抱いて寝ていたのも利いたみたいね」
才蔵がホッと一息つく。
「ありがとな……おげどうさま。ついでにハンターも」
「ふふ、構わないわ」
「ひゃは!」
ハンターがおげどうさまの方を見る。
「で、おげどう……お前はそんな子を放って、何しに行こうって言うんだい?」
「焦眉之急……少し用事が出来たのよ」
「ひゃは! お前さんのお得意の言い回しで言ってやろうか? 燃犀之明のある奴のすることじゃあ無ぇなぁ」
「貴女との関係は確かに拈華微笑、以心伝心、黙契秘旨だとは思っているわ。でもね、相手の心に土足で踏み込んで良いという事は無い
でしょう?」
いきなり不穏な空気になった。
才蔵も間に入る。
「待て待て! 何でいきなり喧嘩腰なんだ! それにお前もクイーン狩りに行くのか!?」
「決まっているでしょう? それ以外にあると思って?」
「罠も張らず? 知略も使わず? 戦略も練らずぅ?」
ハンターの言い回しはムカつくが、確かに才蔵以上に無謀に思われた。
聞いた話、あの落とし穴はハンターが掘ったものらしい。つまり、おげどうさまにあるのは異様な防御力のみ。
負けはせずとも勝てもしない。
「俺が聞きたいのはなぁ、おげどう? 何で無茶をしようとしているのか? ……だ。いつもの自己満足にしたって酷いぞこれは」
「俺もそれは知りたい」
才蔵にとってのそれは、あの子の事を思った言葉が出てくるのを期待していての事だった。
こいつ等は頭が良い。
街の金バッチのように他人を思い遣れる言葉が出てきてくれるかもしれないと……。
しかし――
「だってあの子ムカつくんだもの」
思いもよらない一言だった。
「む……むかつくって……」
「私も最初は夜に相手が来ても、集会所に大人数集まっているからそれを利用しようと思っていたのに、考え事の最中なのに一緒に居て
くれなきゃあ寂しいだとか、寝る時も一緒に居てほしいだとか言って私を抱き枕にして、抱きしめてきて、いつもの寝床より暖かくて…
…次から自分の寝床で眠れないわね。作戦も立てられないわムカつく」
微笑みながら話すおげどうさまに、才蔵とハンターがにやりと笑う。
「でも、眠りに付いたら、手がブルブル震えだして、苦しい位に私を抱きしめて、寝ているくせに泣き出して、私の頭の上で嗚咽を漏ら
して睡眠妨害した挙句、最後には頭を撫でてくれていた貴方の友人の手を取って眠ってしまったのよ? 不愉快でしょう? だからハン
ター、貴方の言葉を借りたら八つ当たりに行くのよ以上」
そこまで聞いて、才蔵は自分も付いていく決心をした。
「で、また後悔するのかい?」
「後悔しない為に行くのよ。それで後悔するというのなら、何度だってしてみせましょう?」
誰とも無く挑発するような言い回しをするおげどうさまの横に才蔵が立つ。
「安心しろ! その後悔は二等分だ!」
「おいおい兄さん? 頭が茹っちまったのかい?」
この状況でもムカつく事を言いやがる饅頭を踏み抜いてやりたくなったものの、どうせ逃げられると留まる。
「三等分でしょうが? 計算出来ねぇの?」
ハンターがお下げで、帽子のつばを直す。
相手はゆっくりだが、心強いと思った。
「俺が行くからには一匹残らず喰い潰してやる。ひゃはは!」
「熱烈峻厳なのは結構な事だけれど、一体どういうつもりなの?」
「ひゃは! 俺はゆっくりが喰いたい。しかもレア物まで沢山居やがる、更に俺のお気に入りの人間を泣かせたイコール俺の敵だ。邪魔
はさせないつもりだったが、想いが同じなら構いやしねぇ! あんた風に言うなら自己満足の自己欺瞞だぁよ! で、俺はいい事を思い
ついたんだが……どうだいお二方? 乗ってみないかい?」
才蔵がハンターに言われたものを用意している間、ハンターとおげどうさまは色々な準備をしていた。
「ほらこれ」
「ひゃは! いかすなぁ」
おげどうさまが寄こしたのは、これまで二体が狩ってきたゆっくりのお飾りを繋ぎ合わせて作られた帽子。しかも、まりさ種の魔女の
ような山高帽ではない。今まで被っていた帽子から死臭を移す作業を始める。
「まだ貴女のデザインには届いてなくて、リボンの材料が足りなかったのだけれど」
「ところで、おげどう……いや、大将。今回の命令は?」
「クイーンありすの群の完全壊滅と……あの人間を――才蔵さんを守る事よ。これで何かあったら、うちの群まであの糞の言いなりにな
りかねないわ。理由はそれだけ」
「らーさ」
才蔵が居たらツッコミを入れたであろう返事をし、下品な笑い顔でおげどうさまを見つめるハンターを睨み返すおげどうさま。
そこに才蔵がやってくる。
「お! なんだその帽子。某ヴァンパイアハンターみたいだな」
「いかすだろぅ?」
ハンターの帽子はつばの広いハンターハットかトラベラーズハットのようで、確かにあの吸血鬼を狩る者の帽子に見えなくも無かった。
「で、ほんとにこの渓谷を通ってくるのかよ?」
「本当よ」
「でもゆっくりが岩や水の多い場所を選ぶかのかよ?」
「飛行系のゆっくりでは木々の間を通る群を追いかけにくいし、この辺りの傾斜を群全体で進めば時間のロスに繋がる。そして人間は今
言ったとおり、大量の水や岩の多いところにゆっくりが来ないと考える。相手は群を軍隊仕立てにして奇襲を仕掛けるつもりの智将か阿
呆の二つに一つ。どちらにしたって此処を通るわ」
「智将と阿呆じゃ天と地ほどの差があるな」
「紙一重系って事じゃあねぇ?」
するとどこからとも無く。
ずーりずーり。ぬちょぬちょ。ゆっゆっ。
と音が聞こえてきた。目を凝らして見れば、月明かりの下、真ん中に巨大で、卑猥な触手だらけの饅頭を取り囲むように空陸に大量の
生首のようなモノが跳ねている。先頭集団は後続から何かを受け取り、地面に撒いて進んでいる。
「なんぞあれは?」
「先走りよ」
「は?」
「クイーンの粘着質で気色の悪い下品で卑猥な液体を撒いて、小石や岩の角で底面を怪我しないようにしているのよ」
「気持ち悪!」
ようやくクイーンの表情が視認出来る距離まで近付いた。あれは完全にレイパーありすの表情だ。故にこの大編成だろう。希少種に
孕ませた子供で、群を増強したのだ。
「準備は?」
「「OK」」
おげどうさまとハンターが、先程用意していた物――ハンター手(お下げ)製のクロスボウに飛び乗る。
それは小さな枝の矢を発射し、空中を舞うれみりゃや前列を任された刃物を持ったみょんに突き刺さる。しかも次々と刺さったゆっく
りは顔を真っ赤にして爆ぜる。
「う~☆ うぅーーーーーっ!!? うー! うー! うぎゃ!」
「ちーんぽ? でかまらっ! いでぃっ!!?」
「うー!! なんなんだどー! みんながつぎつぎと……うあああああ!! がらいいいいいい!!」
「なんなんだみょん!? なにがおこってい……ゆああああああ!! ちーんp…………」
枝にはハバネロを煮詰めた液体が塗布されている。それが少しの狂いも無く中枢餡に到達し、ゆっくりの中身は一気に汚染され、ゆっ
くり出来ない物質に変化する。通常その変化の後に、ゆっくりの中身は苦痛で甘くなるが、その時には死んでいる為、ゆっくり出来ない
物質は化学変化を起こさず、死臭を纏った苦いものとなる。
その化学変化は熱を起こし、死んだ中枢餡が少しも回復しようとしない矢の刺さった皮の裂け目から、一気に暴発して辺りに降り注ぎ
二次被害をもたらす。
「あああああああ!! クイーンの可愛い堕血美ちゃんたちがああああああああああああ!!」
クイーンありすがその惨状に悲鳴をあげる。……変換の事は気にしないで行こう。
「めーりん部隊! 相手の飛礫はからからさんが塗ってあるわ! あなた達の厚い皮と辛い中身で対抗しなさい!」
「「「じゃおおおおおおおん!!!」」
めーりん達は喜び勇んですぃーを走らせる。
「今さね兄さん」
「おう!」
そういえば、さっきから才蔵の事をジジイからアニサンに変っているなと、才蔵は思いながらハンターを抱える。
才蔵が走り出すと、めーりん達が凄い速さで迫ってくる。その口には角材。人間でも怪我をする。
「「「じゃおおおおおおん」」」
めーりんが才蔵の脚を切り裂こうとするが、それは反発を受けてすぃー転倒というあっけない幕切れになった。
なにせ才蔵は、股引の上にブーツとカーゴパンツ、更にその上に魚屋とかが履いてる下半身一体型のビニールエプロンを履き、その間
に丸めたちり紙をを詰め、さらにカーゴパンツを履くという、オムツ老人みたいなスピードを殺した防御重視の格好をしていた。
そして片手に抱いたハンターを持ち上げる。
「「「じゃおおおおお!!?」」」
「「「ゆうううううう!!?」」」
ドスの帽子を中心に作られた、捕食種すら気絶しそうな死臭塗れのトラベラーズハットを被ったゲス中のゲスまりさ――ハンターのゆ
っくりさせないというオーラと、お飾りだけでなく身体にまで染み付いた強烈な死臭に、めーりんや地上の通常種だけでなく、飛行中の
捕食種まで、吐餡しながら絶命し、辺りは恐慌状態となる。
その瞬間、才蔵が大きく構えを取る。
「いっけえええええええハンタァァァァァァァァァ!! 君に決めたああああああああ!!!」
全力で空中に投げられたハンターはゆっくりとは思えぬ動きで、れみりゃの羽根に噛み付き引きちぎる、さらにそこに帽子に隠してお
いたハバネロと片栗粉と重曹を混ぜてガム状にした物を噛んで吹き付ける。これで激痛と共に羽根は再生しない。
「ぅぎゃああああああああああああああ!!!」
「「「う……うああああああああああああ!! ざぐやああああああああ!!」」」
元々集団行動が苦手なれみりゃとふらんは、やられたれみりゃを遠巻きに見ているだけである。
落下するれみりゃを足場にハンターが次の得物――ふらんへと飛び移る。
「!!! しねっ! ゆっくりしねぇぇぇぇぇ!!!」
「はいはい、それじゃあお言葉に甘えて、あと八十年位生きてましょうかぁ」
「「「じゃおおおお……」」」
「おい、よそ見してる暇は無えぞ」
「「「じゃお?」」」
才蔵がめーりんの一匹目掛けて鍬を振り下ろす。
そこで潰れた姉妹を見て、めーりん達は顔を見合わせる。
「「「じゃおぉん?」」」
それは普段愛らしいめーりん種特有の笑顔だったが、冷や汗と無理に作ったために見える歯茎が、全くこちらを和ませてくれない。む
しろ才蔵は笑いの神すら降りている気がした。
「今更そんな事が……通用するわけ無えだろうがおんどりゃあこの、ラーメ○マンどもがあああああああああああああ!!」
ピッケルでめーりん達を貫いていく。
「ゆ! こっちにゲロぶくろなぱちゅりーがいるよ!」
「このいなかものがこいつらをしきしているのね!」
「むきゅきゅ! けんじゃのぱちぇとはおおちがい!」
「みょんのはくろーけんのさびにしてやるちーんぽ!」
「ゆっへっへ! まりささまのすっきりどれいにしてやるのぜ!」
みょんとまりさがおげどうさまに飛び掛る。
「おげどうさま!?」
「心配無用よ」
おげどうさまが体当たりを仕掛ける。
「ゆっへっへ! ぱちゅりーなんかのたいあた……あれ……ごれ、ばりざのがおのひだりはんぶんだよ……?」
「みょ……みょんのはくろーけんと、からだがまっぷたつに……うそだみょん」
「「ゆあああああああああああああああああ!!」」
ここで才蔵は大きな間違いに気付く。
ゆっくりとって体当たりは最高の攻撃なのだ。
他のゆっくりより皮を硬く出来、ハンターほどではないが、素早く動けるおげどうさまの体当たりは、ゆっくりにとっては必殺の一撃
に他ならない。動いているだけで凶器となる。
「当たり前じゃない、ハンターが来るまでこの辺りの群は私一人で全滅させていたのよ。毎年毎年――攻撃が最大の防御なら、最硬の防
御は転ずれば最大の攻撃になるのは自明の理。ウサギが防具をつけたラガーマンに体当たりされているようなもの」
喋くりながらも、次々とゆっくりをいなして行くおげどうさま。
「むきゅう! あなたがおげどうさまなのね! ちがうのよ! ありすままとわたしたちはあなたのむれにはいりたくて――」
「必要無い」
「ああああああ!! クイーンの長女ぱちゅりーがあああああああああああああ!!」
言う割には動かないクイーン。おげどうさまは、陸の捕食種ゆうかと最強の皮をもつめーりんの身体まで抉っている。
才蔵はゆうかは勿体無いなと思っていたが……
「ゆうかはしにたくないのよ! まりさがかわりにしんでね!」
「ゆうかをたすけてね! れいむはどうなってもいいから!」
「ゆぷぷ! ゆうかのいだいなたいあたりで……どおじでゆうがのあんよざんがうごがないのおおおお!!」
訂正。
どんな希少種でも、ゴミ以下のクズゲスに成り下がったら、誰も必要としない。
すると後方から、声が聞こえた。
「やつらのぶきをせっしゅーしたみょん!」
ゆっくり用クロスボウの周りに幾らかのゆっくりが集まっていた。
が、才蔵たちは気にせず狩りを続ける。
「みょんがしょうっじゅんをあわせるみょん!」
「まりさがうつのぜ! ゆりゃあああああ!!」
まりさもハンター達のように飛び乗る。使い方は理解できたらしい。しかし、結局のところ何も起きない。あの二体の体重に調整して
あるからだ。
「なんでみょん!?」
「しらないのぜ!!」
「どきな! でいぶがやるよ!」
重みが足りないと思ったのか、重量級のでいぶが前に出る。
「ゆんっ!!」
パァン!
炸裂音と共に弓から弦が弾け飛び、クロスボウ周辺のゆっくり達が綺麗に裂かれた。
「ゆ? ゆっく……」
自分の状態を認識できる者は涙を流すが声は出ない。
顔面が削がれ、顔が真ん中で上下に分かれ、唇が削がれ、何もしていないのに「さあ、おたべなさい」状態の者までいる。
「おぉ、こわいこわい」
ふらんの後頭部に噛み付くハンターに、胴付ききめぇ丸が近付く。
余裕綽々と行った表情はきめぇ丸だが、人間を恐れない辺り、親であるクイーンありすの血が濃いのかもしれない。
「おぉ、シェイクシェイク」
「……」
「おぉ……シェイク……シェイク……」
戦況を見ていたゆっくり達が「ゆっくりしてないー!」と吐餡しているのに対し、ハンターは冷ややかな目線を送っている。
「俺はな、元からゆっくりして無ぇんだよ? 判るか? それが攻撃か? 首を振るだけなら人形でも出来るぞ? ケーキ屋の前に立
ってろよ?」
投げかけられる冷たい言葉。きめぇ丸の方が冷静で居られなくなってきた。
「攻撃って言うのはなぁ?」
ハンターのお下げからカッターナイフが覗く。
「……こうやるもんだ」
言い終わった時には全てが終わっていた。きめぇ丸の顔の上半分が切り落とされ、残った首がゆっくりシェイクしながら、身体ごと
落下していった。
しかし、ふらんはその瞬間、ハンターを地上に振り落とす。
「しね!」
勝利を確信した。
地上10m。相手は渓谷の岩にぶつかって、破裂するだろう。じっくり痛めつけられなかったのは残念などとふらんが考えていると、
ハンターは地上に着地すると同時に、ゴム鞠のように変形し、形が戻る勢いを利用して跳躍。ふらんの遥か頭上まで飛んでいった。
「いやはや? 追撃しときゃあ仕留められたかもしれないのにねぇ……おぉ残念残念……ってか?」
ふらんの眼前まで戻ってきたハンターの表情は、得物を狩るふらん種のそれか、それ以上に恐ろしい形相だった。
「ゆっくりしないでし……うぎゃ!!」
ふらんの顔面を喰い千切り、ハンターは次の獲物に飛び移る。すると、地上から声がする。
「ゆ……ゆっくりしないでこうさんしないと、このちびどもをえいっえんにゆっくりさせるんだぜ!」
なぜかまりさが自分の群の子供達を運ぶであろう箱に石を落としていた。
良心に訴えるつもりなのかもしれないが、石を落としているから既に半数近く死んでいるし、何がしたいのかさっぱりわからなかった。
「勝手にすれば良い」
「ぉちびちゃアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああん!!!!!!!!!!!!!」
叫び声はクイーンのモノである。
「ゆうう! ちびがしんでもいいんだぜ!? とんでもないゲスなのぜ!」
「なんだ? 今頃気付いたのか?」
「ゆううううううううううう!!」
「まあ、お前に言われる筋合いは無ぇなぁ!!」
「よぐもおぢびぢゃんをごろじだなあああああああああ!! ごのがいながものおおおおお!!」
「ゆ! 待つんだぜクイーン! これは作戦なのぜ! まつのぜ! まってほしいんだぜ! おおおおおかあしゃあああああん!!」
自分の姉妹を殺したらしいまりさは、母親であるクイーンに殺されてしまった。
それを見て、更に恐慌状態に陥る群。
「こうなったら私が自ら出るわ! 私のぺにぺにハリケーンを喰らいなさい!!」
「「「ゆわああああああああ!! クイーンやめてええええええええええええ!!!」」」
卑猥な形の硬質な鞭のような物が、四方八方に広がる。そのままクイーンが回転を始める。
「うお!!」
才蔵は巻き込まれないように避けるが、高さを変え、長さを買え、クイーンのぺにぺには周りをどんどん抉っていく。
味方で唯一安全地帯にいるのは、臆病なれみりゃを手懐かせて空を飛んでいるハンターのみ。
才蔵はついに藪の中へと吹き飛ぶ。
「ぐあああああああああああ!!」
しかし、群のゆっくりも余すところ無く潰れていってしまった。
唯一その場に立っているのは、身体を異様に硬質化させて凌いだおげどうさまだけ。
「んほおおおおお!! おげどうさまを何度もぺちぺちしてたら興奮してきたわああああああ!! クイーンの都会派な愛を受け取って
ねええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「気色悪い」
そんな事を冷静に呟くおげどうさまの穴という穴に、クイーンの触手が何本も束になって侵入する。
「んほおおおおお!! 熟女を通り越した憂いのあるぱちゅりーのまむまむ(その他)最高y――ゆぴゃああああああああああああああ
ああ!!!!!!!!!!!」
クイーンが悶絶して触手を引き抜く。そこには黒ずんだぺにぺにがあった。
「ありずの……ぐいーんの都会派なべにべにがあああああああああああああ!!!!! ごんな腐っだの違ぶうううう!!!!!」
おげどうさまとハンターの穴という穴と肌には、練り山葵、辛子、山椒などを練りこんだペーストを軟膏のように塗ってある。
甘いカスタード饅のありす種――いや、多くのゆっくりには猛毒でしかないが、この二対はハバネロを丸齧りにし、炎にもあまり焼か
れない身体を持つ、後は体内に仕掛けておけば良い。
「ぐそおおおおおお!! ゆぴぃ!?」
クイーンの背中にピッケルが刺さる。
そこには才蔵が立っていた。
「なんでえええええ!? ざっぎ……ざっぎいいいい!!!!!」
「お前アホか? 岩が砕けるような攻撃、まともに受けたら細切れになってるっつーの! 射程範囲から一時撤退してただけだ。 それ
にな、俺は親父が蒸発するまで、俺の先祖は忍者だといって育てられ! まあマトモに忍術は覚えられなかったが、誰にも気配を悟られ
ずに行動が可能っていう基礎くらいはできるのだ!」
それの何処が基礎なのだろう? という疑問をハンターとおげどうさまは飲み込んだ。
「雪隠れ忍軍末裔! 雪隠才蔵、推参! ……なんてな!」
「おトイレだな」「おトイレね」という二体の会話は聞こえなかった事にする才蔵。
「かの雪中の狩人に描かれているのも、俺の先祖だと教わった!」
「ブリューゲルって日本の人だったかしら?」
「仕えた城はバベルの塔だな」
「あれなのかしら、気付かなかったけど、才蔵さんって、可哀想な人?」
「しーっ! 聞こえちゃうだろぅ」
「聞こえとるわおんどりゃあ!!」
才蔵がツッコミを入れた瞬間、クイーンが叫ぶ。
「胴付き四天王!」
次の瞬間。川の中から手が伸び、おげどうさまを反対の川岸に連れ去る。
胴付きにとりだ。
そして、おげどうさまにナイフを突きつける胴付きゆうかりん。
さらに空中には胴付きふらんが居た。
三体しか居ない所を見ると、さっきハンターにやられたきめぇ丸も四天王だったのだろう。
しかし、才蔵は憧れの胴付きゆうかりんに目を奪われている。
「ゆぷぷ! てんっさいのゆうかにかかればおげどうさまだろうがおひさまだろうがこんなものよ!」
訂正。
喩え胴付きゆうかりんであっても、馬鹿でゲスになってしまったらどうしようもない。
ビキィとしか来ない。
「さあ、このぱちゅりーの命が惜しかったら、降伏なさい! にとりの水鉄砲が火を噴くわよ!」
凄く不思議な比喩表現を聞いた気がするが、ピンチなのに代わりは無い。
しかし、当のおげどうさまとハンターは平然としたもので、次のように口を揃えた。
「「好きにしたら良い」」
先程の無関係の子ゆと同じような反応をする。
「私もハンターと同じ立場なら、そう言うと思ったわ」
「俺のなすべき事は大将……あんたに言われたと通り、こいつらを殲滅して、この兄さんを無事に生きて帰す事だ。それ以外の事がどう
なろうが……おげどう、あんたがどうなろうが知ったこっちゃあ無ぇ」
ひしひしと伝わる本気の空気。
「だったら……」
にとりが水鉄砲を構える。エアーポンプの水流型。並みのゆっくりには殺ゆん兵器に他ならない。
その時、ハンターが才蔵の方を一瞥する。それに才蔵が気付く。
「やってやるよおおおお!!」
にとりの高圧水鉄砲。ゆうかりんに押さえ込まれたおげどうさまの顔面に命中した。
しかし、結果はどうだろう。硬質化していた皮が、少しふやけて軟らかくなった程度だ。
この結果に皆が驚いていると、いそいそとおげどうさまがサングラスを掛ける(っていうか付ける)。
「ゆ! なに勝手にうごいてるのよ!」
ゆうかりんが軟らかくなったおげどうの顔面にナイフを刺そうとする。
しかし、この時点で決定打を打っていたのは才蔵とハンターだった。
ハンターは帽子から、ドスから奪ったキノコを取り出し、自身の餡子と砂糖水の唾液を加えて、地面に叩きつける。
次の瞬間閃光が巻き起こる。
ドススパークを利用したスタングレネードだ。その為に才蔵に用意してもらったのが、サングラスだ。
眩い閃光の中、ゴーグルをつけたハンターをサングラスをした才蔵が抱え、川へ飛び込み、おげどうさまの下へ走る。
一番早く再起したのはにとり。水中と陸地の明るさの違いに目を慣れさす機能が働いたらしい才蔵を狙ってリューターのようなものを
振り上げる。
才蔵は全力でハンターをゆうか目掛けて投げる。反応したのはふらん。音を敏感にキャッチして、ハンター目掛けて飛び掛る。
最後にゆうかは手探りでおげどうさまにナイフを振り下ろそうとする。
一瞬。
ほんの一瞬だが、勝敗は連携で決まった。
動きが遅れ、ハンターの体当たりで身体を抉られ、ナイフが顔面に刺さり絶命したゆうか。ハンターを狙って飛ぶも、その行動が才蔵
に丸見えで、鍬で一閃されたふらん。ゆうかの手を離れた途端、にとりの胴体に風穴を開ける程の体当たりをしたおげどうさま。
おげどうさまは勢いで、川に落ちそうになったのを才蔵が慌てて抱える。
全員の動きが止まる。
「……今の俺達って格好良くない? はじめてあった時のゴムと三刀流みたいで」
「ごめんなさい。読んだ事が無いわ。あまり本を読まないタイプなの」
「ひゃはは! そんなに格好良い様か? 野暮ったい格好の兄さんに、生首二体が人間モドキを倒しただけで」
「なにはともあれ……“二人”とも、無事か?」
「ええ、“お兄さん”」
「助かった――ぜ。“おにいさん”」
言ってから才蔵はむず痒くなった。愛でお兄さんの真似なんて、慣れない事する物じゃあ無い。
「こ……」
才蔵達が振り返る。
「こ……こどもだぢがああああああああ!! びどりもいなぐなっじゃだあああああ!!」
重症の身体でもがき出すクイーン。
「もっどごどもぼぶぎゃずよでびだじゃのぎいいいいいい!!」
もう何言っているのか判らない。
「このごみむじいいいいいい!!」
「失礼ね」
クイーンの腐りかけの触手がおげどうさまに迫る。おげどうさまはそれを噛んで受け止めてしまった。
「ゴミムシはアジア圏に生息する甲虫で、甲虫の宝石オサムシの仲間であり、その種類も多様ながら、すむ地域が種類ごとに限られてい
て、マニアの中では高値で取引される事もあるのよ? それにくらべたら、野生や野良、ゲス化したゆっくりなんてゴキさん以下、私達
と一緒にするなんて、ゴミムシに対する冒涜も良い所よ……あと、テメェ! さっきから子供子供ってよぉ! その子供を死地に連れ込
んだ挙句、ほぼ全員を粉微塵にしやがったのは……どこのどいつだああああああああああああああ!!?」
「ユアあああああああああああああああああああああああああ!!」
触手を基点に振り回されるクイーン。体力も桁違いである。
「おおおおおげどうさまがキレたーーーーー!? どうするの? ハンター! どうすれば良いの? どうなってるの!?」
「落ち着け兄さん。大将は今、ちょっと情緒が不安定なだけさ」
「どういうごとなのおおおおおぉぉぉぉぉ!?」
目の前で巻き起こる、異様なプロレス風景に、才蔵は固まっている。
「俺とおげどうの大将は、出会ってから互いに依存しまくりでな、俺はあいつがそばに居ない時間が続くと自傷行為に走るし、あいつは
俺と長時間すりすり出来ないと暴れ始めるんだ……落ち着くまでまつしかないさ」
そこで漸く、才蔵はハンターが火の中からなかなか出てこなかった理由。おげどうさまが黙ってそれを見ていた理由が判った。
この二人は、人間では治せ無い程に渇いてしまったのだと。
まさに二人のドライな性格を現している。
そうしている内に落ち着いたらしく、クイーンを地面に叩きつけるおげどうさま。
そこへすかさず、クイーンの口にドスキノコを投げ込むハンター。
ドスキノコは激辛。その上、ありす種にはきのこ嫌いも多い。大量のカスタードを吐いて倒れるクイーン。
そこに才蔵が近付く。
「にんげんさ……たすけて……ゆぎぃ!?」
「俺の家族の脚をへし折っておいて、よくそんな事がいえるなぁ? おい?」
ピッケルを使って、クイーンありすの口を限界まで裂く。
「じらながったんだずううう!! にんがんざんのがぞくだなんでじらながっだんだずうううううう!!!!!」
「ほお、知っていたら他の人間にしたと?」
「はいぃ! 強いにんげんざんのかぞぐなんでねらいばぜんんん!!」
「違うなクイーン、間違っているぞ」
「ゆへ?」
「結局人間を狙うなら、危険害獣としてお前を殺さなきゃあいけないんだ……結局な」
「ゆうううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!!!」
クイーンの眼に、少しずつ少しずつ、ピッケルの先端が近付いてくる。
「じまぜん! もうじばぜん!! にんげんざまをおぞっだりじまぜんんん!!」
「反省してるか?」
「はんせいしてる! ばんぜいじでるがらどめでえええええええええ!!」
「何を反省している?」
「にんげんさまをおそったこと! むらをおそおうとしたこと!!」
「これからどうする?」
「べづのゆっぐりのむれにいっで、そこのおざをごろじで、むれのみんなどおぢびぢゃんを……なんで!? なんでちかづけるの!?
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでええええ!! おぢびぢゃんはゆっくりできるってでいぶも――!」
最後に責任転嫁をしようとしたところで、ピッケルは巨大な白玉を抉った。
「「「地獄で再会する日まで、ごきげんよう!」」」
それからクイーンのカチューシャを抱えて村に戻ると、村人達やあの子が才蔵たちを出迎えてくれた。
村長の心底嬉しく無さそうな表情は印象的だった。
才蔵の視点からのエピローグ
それから暫らくして、御手洗の家は、俺の実家に引っ越す事となった。実家は此処ほどいなかじゃあ無いが、街の中心まで電車で二十
分は掛かる所で、俺もそこで生活する事にする。
親父が「俺、仕事定年退職したら、農場やるんだ」と呟いて、お袋と離婚する切っ掛けを作った忌まわしき農場予定地。
ここを開拓してもらうのに伯父の夫婦は打って付けだ。
親父が忍者らしくドロンしてから年数も経ち、今更戻ってきても土地の所有者は俺で、今まで馬鹿みたいな維持費と税金を納めてきた
のだから、勝手に使わさせてもらう。
あの子も親と一緒に暮らせるし、病院だって近くにある。だから俺たちが村を出るという日、あの二人も旅立つ事にしたらしい。
この村の近くに、政治家が票田を広げるための公道が通る事になった。
それに伴い、加工所がこの村に出来る。村と協力関係にある善良な群。それがそうそう滅びる事は無いだろうが、二人の仕事には差し
支える。他の群は加工所が駆逐してしまうからだ。
俺らの旅立ちより、村人たちが集まっているようだ。
「群は守らなくて良いのかい? 我々だって寂しいよ」
ゆっくり愛好家の旅行客を逃すまいという魂胆が見え見えな村長。
「私達も歳だしね、能事畢矣、やることはやったし、研究材料にされるのも嫌だからね。ふふ」
「ほんじゃあな」
村人との別れもそこそこにスケボーを走り出させる二人、しばらく進むと陰で見ていた俺の所までやってきた。
「貴方達も村を出て正解ね。この村はもうすぐ終わるわ」
「どういうこった?」
「この村の名産は?」
「小豆に蓬、粕、柏……でも、ゆっくりは昔から居るが取って代わられた事は無いぞ」
「昔は豚も鶏もゆっくりも量産できなかったからねぇ……養豚場の豚を見ていりゃあ、生命が工業製品なのがよく判る」
ハンターの嫌味に苦笑いをする。
「ここの村から出荷した物を一括で買い取っていた者がいるわ?」
「Y・Uコーポと農協か?」
「そのY・Uは、今度来る加工所の子会社よ。名産の小豆饅頭だなんて真っ赤な嘘。ゆっくりに一番良い餌、また、商品材料が不足した
ときの保険。残念ながら、純小豆製品として売り出すには、此処の小豆は二流品よ」
「それ、村人が聞いたらキレるだろうな~」
目に浮かぶ。
「いずれ否が応にも知る時が来るわ。村長が厳十郎ごときで無ければなんとかなったでしょうけど」
「どういうこった?」
「周章狼狽が狗尾続貂……あんな村長では村がいつか困窮するのも当たり前よね……村長とは泰然自若、虚心坦懐、不撓不屈、率先垂範、
威風堂々たる存在でならなければならないのに、遺憾千万……村は悪衣悪食に塗れていくでしょう。アレのような年長であるというだけ
の浅学非才の輩が村長など勤めるから、村の農業が発展しなくなるのでしょうね。星火燎原……意味判るかしら? 判ったところで他人
になってしまう貴方達には意味の無いことだけれども 無学文盲で無知蒙昧の極みの爺如きでは、食い潰し続けた村から搾取され、美味
い汁を吸う気が、間違えてオオスズメバチを呼び寄せたようなものね」
酷い言われようである。
ハンターは、あの子からクッキーを貰っている。車からはアイツも手を振っている。
「友人さん……じゃなかったわね、これからは。奥さんを大切にね」
「ああ、迷惑掛けちまった分、のら仕事で鍛えた体力で、精一杯守ってみせるさ!」
「ふふふ」
「ひゃは!」
「そうだ、一つだけ聞かせてくれ」
「なあに」
「お前達の能力って思い込みで得たんだよな?」
「そうね、ゆっくりって思い込みで生きてる饅頭だから」
「じゃあ、なんで人間に勝てると思い込んでるゆっくりは人に負ける?」
「ああ……それ」
おげどうさまが楽しそうに微笑む。
「ゆっくりには基本体力限界点があるわ、それを思い込みで乗り越えて、胴付きになったり、つむりを産んだりするの、でも、自分の限
界を見誤るのは、思い込みじゃあなくて思い違いでしょ?」
「なるほど」
会話している間に二人の出立の準備は整ったらしい。
二人がスケボーに乗りなおす。
「むきゅ!」
「だぜ!」
「!」
「三人とも、幸せな時間に、『ゆっくりしていってね!』」
ゆっくりである事を捨てたゆっくりが、心からのゆっくりしてね。
それは誰かに優しい気持ちで掛けるべき言葉。
ああ、不覚にも程がある。聞きなれたこの言葉で涙が出るなんて。たかだか数ヶ月の付き合いなのに。
「ああ、お前らもゆっくりしていけよ! 死に急ぐなよ! 生き急ぐなよ! いずれ再会する日まで……!」
「「ごきげんよう!」」
二人はスケボーで走り出した。
多分会う事なんか二度と無いのだろう、その後姿を何時までも見て居たかった。
とあるゆっくりしていない“二人”の視点でのエピローグ。
「さてと、どこかにご飯にありつける場所はないかしら」
通常のゆっくりなら非ゆっくり症を起こしかねないスピードだ。
「ま、ゆっくりできなくても、次のお飯、今夜の寝床、明日の生存がありゃあ、生き物は割かし幸せだからなぁ」
「不倶戴天の加工所の為に、そのまんまと寝床を失ったのよ、全く」
「この先にゆっくりでも買い物なんかが出来る『安威砂村』って村があったはずだが」
「兎に角そこにいきましょうかね」
ハンターが呟く。
「良かったのかぃ? 群を放棄して来て」
「……思うところが無いといえば嘘だけど、私の育てた群の子達の直系の子孫は殆ど居なくなってるし、じっさい御人好しばかりの群、
加工所が出来ても、上手く立ち回れば、逆に保護してもらえるだろうしね」
「はぁん……」
そんな物かと欠伸をする。
「なにせ百年も経つんだし」
長年群を支えた長老。老齢で嫁を貰った金バッジ。
いや、実際どこまで信じれたものか判らない。
少なくともお互いに信じられるのは、片方は立派な群の長だったという事、片方は虐待を受けていたという事、妻はさなえ種だった事
くらいだろう。
しかし、本当に流行り病で群を壊したのか、あのニュースになった男に捕まったのか、調べる方法など無いし、自分自身でも昔の事過
ぎて、嘘だったか本当だったか覚えていないというのが事実。どうせ、互いにそこまで求めてはいない。
もしかしたら、原初のゆっくりだったのかもしれないし、やたら頭が良いのは、都市伝説のゆっくりになってしまった人間という奴だ
ったのかもしれない。
ただ、人間が年経て魔人や神になるように、物品が年経て妖怪になるように、妖怪が年経て神になるように。
二体は妖怪になった。
思い込みか、自分自身で蠱毒じみた事をした結果か、やたら長生きしたせいか、自分達で口にする事は無かったが、実際に自分も相手
も妖怪になっていた。
しかし、それを口にするのはおこがましい事だと思った。
妖怪じみていていても、妖怪が同一視を嫌う糞饅頭が自分達だ。
だからといってゆっくりを名乗る事もできない。
既にゆっくりにとって、二体は気味の悪い存在だった。
だから、自分達を“二人”と呼んでくれたあの男が好きだった。どうせなら、一緒に付いて行きたかった。が、始まった幸せを壊して
しまうつもりは無い。二人にとって最後のお兄さんと別れた。
もう、何時死んでも後悔の無い生。
刹那に生きてきた二人が、本当に刹那に死に逝く事になった日だった。
――随分先の事だが、二人のゆっくりもどきは人間に殺される最期を迎える事になる。――それはそれは幸せそうに――
スケートボードに焦げたクッキーの詰まった麻袋。サングラスのぱちゅりーと、トラベラーズハットにゴーグルをつけたまりさの話。
* 全然反省していないDX怪人ファイル *
*No.2
おげどうさま
体格:成体ゆっくり
性別:雌よりの雌雄同体
種族:妖怪(元ゆっくりぱちゅりー)
能力:『思い込みだけで身体の強度を変える程度の能力』
パートナー:ハンターまりさ
備考:本当の群での呼び名は「ごぼどうさま」。ハンターに長時間触れていないと、癇癪を起こす悪癖あり。
*No.3
ハンターまりさ
体格:成体ゆっくり
性別:中性
種族:妖怪(元ゆっくりまりさ)
能力:『思い込みだけで身体能力を高める程度の能力』
パートナー:おげどうさま
備考:行動に私情を挟まない冷血漢。おげどうさまの近くにいないと自傷癖が出る。
*No.4
忍者お兄さん
本名:雪隠 才蔵(ゆきがくれ さいぞう)
体格:中肉中性 性別:男 種族:人間
能力:『気配を殺す程度の能力』
備考:父方が雪隠、母方が御手洗、嫁の実家が羽場雁なので、通称おトイレさん。
こちらでは二作目です。
友人に見せたら「こんなの愛でに投稿しちゃダメ!」だそうです。愛でタグもダメだそうで……?。
友人曰く「毒されてる」だそう。
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anko2370 虐待の無い世界の鬼意山