ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko2547 絶対に渡さない
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ankoss
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家出 飼いゆ ゲス 愛護人間 ゲスといえばゲスだけど
「ゆぴ……ゅ……」
「おちびちゃん! しっかりして!」
れいむは、一目で衰弱しているとわかる子まりさに必死に呼びかける。
この子だけは……この子だけは……。
番のまりさ、この子の姉妹だった二匹の子れいむ。
みんな、死んでしまった。
この子だけが、ただ一人残された家族なのだ。死なせるわけにはいかない。
そのことが、れいむに、今まで躊躇わせた行動をとらせた。れいむだけが野垂れ死にす
るなら、それには及ばなかったであろうが、子まりさのためとあらば。
「おにいざん、おにいざん……」
子まりさを頭に乗せたれいむは、子まりさを落とさぬようにずーりずーりと這って行っ
た。
れいむは、そこそこ優秀で銀バッヂを取得した飼いゆっくりだった。
無論のこと、飼いゆっくりの等級を示すバッヂで最高なのは黄金に輝く金バッヂだ。し
かし、よほどゆっくりに高望みをしなければ銀バッヂで十分だ。
飼い主のお兄さんもそれで満足していて、れいむはとてもゆっくりと過ごすことができ
た。
お兄さんは一人暮らしの寂しさかられいむを飼い始めたのだが、自分が仕事に行ってい
る間にれいむは一匹なのを気にして、壁にゆっくりが出入りできる扉をつけて庭に出るの
を許していた。
庭といっても、家と壁の間にある僅かな地面であり狭かったが、れいむにとっては十分
であった。
天気のいいある日、草の上に寝転んで日向ぼっこを楽しんでいた。
そこで、運命の出会いをしたのである。
「ゆ? れいむ、ゆっくりしていってね!」
一匹の精悍なまりさが庭に入ってきたのだ。
「ゆ、ゆっくりしていってね!」
「ゆゆ、バッヂさんなのぜ。れいむはここのにんげんさんの子なのぜ?」
「ゆん、そうだよ」
「ゆぅ、ここの草を少し持って行っていいのぜ?」
「ゆっ、いいよ」
庭に生えている草は、お兄さんが時々むしって捨てている。それならあげてもいいだろ
うと思い、れいむは快諾した。
それから、まりさは時々草を取りに来るようになった。
いつも忙しそうだったが、短い時間、まりさはれいむと話していった。
そして、れいむはいつしか草をむしっておくようになった。そうすれば、まりさが草を
むしる必要がなくなり、その時間だけまりさとたくさんお話ができるからだ。
れいむは自分でも気付かずに、まりさに惹かれていたのだろう。
やがて、まりさも優しいれいむに草をくれる飼いゆっくりという以上の感情を抱き始め
た。
「れいむ、まりさといっしょにずっとゆっくりしてほしいのぜ!」
それを切り出したのはまりさであった。
先に惚れたのはれいむなのだから、れいむが言い出してもおかしくないはずだが……そ
こはれいむは飼いゆっくりである。
お兄さんには、野良と話したりする程度はいいが、番になったりあまつさえ子供を作っ
たりすることは許されていなかった。
それをするなら捨てる、と言われている。お兄さんとしては、そう言っておけば、そん
な馬鹿なことをするまいと考えてのことだったが――。
「お兄さん! れいむ、このまりさとゆっくりしたいよ」
「ゆっ、まりさだぜ」
「……」
お兄さんは、呆然としていた。
しかし、やがて己を取り戻すと、れいむが銀バッヂをとって粗相をしなくなってからは
しなかったような厳しい顔と声で、約束をちゃんと覚えていてそういうことをしたのか、
捨てられて野良になってもそのまりさと一緒になって子供を産みたいのか、と言った。
れいむは、それに頷いた。
お兄さんは見るからにガックリとしたようだったが、少し辛そうな顔をしてから腰を落
とし、れいむのリボンについていた銀バッヂを取り外した。
「もう、二度とここには来るなよ」
「……ゆぅ……ゆっくり、りかいしたよ」
そして、テーブルの上に、れいむが大好きだったキャンディーが幾つか乗っているのを
見つけると、それを手に取りビニール袋に入れてれいむの前に置いた。
「持っていけ……ただし、すぐに食べるんじゃないぞ。野良ゆっくりは栄養不足になりが
ちで飴玉一個で助かるような状態で死んでしまうことがあると聞いた。いざという時か、
産まれた子供が病気になったりした時のためにとっておくんだぞ」
親身になった言葉に、れいむは号泣した。まりさも、一緒になって泣いていた。
「ゆっ、おにいざん、いままでおぜわになじまじた!」
「れいむは、まりさがゆっくりさせるんだぜ。あんしんしてほしいんだぜ」
二匹はぺこぺこと頭を下げて、去っていった。
しばらくは、しあわせーなゆっくりした日々が続いた。
とりあえず公園にダンボールハウスをかまえた二匹は、ある程度の食料を備蓄すると、
すっきりーして子供を作った。
「ゆゆーん」
れいむは、額から生えた茎の先に、自分に似た二つの命、そしてまりさに似た一つのそ
れ、合わせて三つの命がゆぅゆぅと生まれる時を待っているのを見てとてもゆっくりした
気分であった。
「ただいまなんだぜ、おちびは? おちびは?」
まりさは、ますます励んで帽子を獲物で満載にして帰ってきては、まずまっさきに子供
たちを見に来るのだった。
「「「ゆっきゅちちていっちぇね!」」」
「「ゆっくりしていってね!」」
子供たちがとてもゆっくりと生まれた時の感動を、れいむは生涯最高のゆっくりだと思
った。
あれだけよくしてくれたお兄さんの元を離れてしまったことを後悔する気持ちは、やは
りどうしてもあった。
それでも、このときの感動を思えば、お兄さんには悪いが、やっぱりまりさと一緒にな
ってよかったと思うのだ。
子供たちは元気に育っていったが、ある時、子まりさが何か悪いものを食べたのか下痢
を起こしてしまった。
急激に餡子を失わせる下痢は、子供ならばあっさりと死に至ってしまうため、野良の子
ゆっくりの死因としては極めて多い。
だが、れいむたちにはお兄さんがくれた飴玉があった。
野良ゆっくりにとって下痢が死に繋がってしまうのは、野良では栄養価の高い食べ物を
得ることが困難なためだ。
逆に言えば、それさえ与えれば十分に助かるのである。
子まりさも、水をごーくごーくして水分を補給し、飴玉を舐めて栄養を得て、下痢がお
さまるまでなんとか耐え切った。
「ゆゆーん、よかったよぉ、よかったよぉぉぉ」
「ゆひぃぃぃぃ、おちび、よくがんばったのぜえ!」
「まりしゃ、これでまたゆっきゅちできりゅね!」
「ゆわーい、ゆわーい」
家族の喜びは言うまでも無い。
「ゆぅ、これもお兄さんが飴さんをくれたおかげだよ」
「ゆん、お兄さんにありがとうなんだぜ」
れいむとまりさは、飴をくれたお兄さんに感謝した。あれがなければ、子まりさは確実
に死んでいたであろう。
まだまだお兄さんがくれた飴は残っていた。これさえあれば、多少の病気等に子供たち
が犯されてしまっても大丈夫だろう。
だが、そのしあわせーの元が災いをもたらすことがある。
誰でも、しあわせーは欲しいのだ。
どうしても欲しいそれを手に入れるために、他者のそれを奪う必要があった場合、それ
を実行するものは、人間にもゆっくりにも存在する。
人間の多くは国家に属しており、その国家が安定していれば警察という治安組織の恩恵
を受けられる。
警察は抑止力を持ち、他者のものを暴力や詐術で我が物にせんとする行為へ歯止めをか
ける。
これが飼いゆっくりとなると、飼い主の所有物という形で、人間社会のそういった仕組
みに組み込まれている。
しかし、野良ゆっくりには、そういったものは及ばない。
野良ゆっくりの群れはそういった要求を満たすために作られる。数が集まり、それらが
群れの一員への攻撃は自分へのそれと見なして反撃を加える姿勢を示すことによりゲスに
対する抑止力を得るのだ。
とは言っても、野良同士だとどうしても食料調達の際の競争相手になることも多く、頭
がよくリーダーシップを持ったリーダーがいないと群れは長続きしない。
れいむとまりさが住んでいる公園には、数家族の野良ゆっくりが住んでそれぞれ仲良く
やってはいたが、群れと呼べるような組織立ったものではない。
れいむたちは、自分たちの身を守るために極めて慎重に振舞うべきであった。
決して、自分たちが人間さんに貰った飴玉を持っていることなど、他のものに知られて
はいけないのだ。
だが、れいむは所詮は飼いゆっくりになるために産まれペットショップでお兄さんに買
われた生粋の飼いゆっくりである。野良になってそれほど時間が経っていないのと、この
公園に住んでいる御近所さんが善良なものたちばかりなため、少々おっとりとし過ぎてい
た。
まりさも、優しくてゆっくりしてはいるが、こちらは生粋の野良ゆっくりで、いわば持
たざる者であり続けていた。
そのため、持っている者としての保身に鈍感なところがあった。
れいむたちが、れいむの元飼い主に貰ったとってもあまあまな飴さんを持っているとい
う話は、子供たちから他の家族の子供たちに、そしてその親へと広がっていった。
それでも公園に住んでいたゆっくりたちは、それを大変羨んだものの、それだけであっ
た。
だが、ぶらりと公園にやってきた一匹の眼光鋭いまりさがその話にじっと聞き入ってい
た。
まりさは大急ぎで跳ねて行った。
そして、戻ってきた時には仲間を引き連れていた。
公園に入ってきたまりさ一行は、まっすぐにれいむたちのおうちへと向かう。
目的は言うまでもあるまい。
まりさの帰りを待ちながら、おうたをうたっていたれいむと子供たちはニヤニヤと笑い
ながら押し入ってきた一団になす術も無かった。
連中は狡猾であった。
子供がいるのを見るや、すぐにそれをゆん質に取ってれいむに人間に貰った飴を出すよ
うにと迫ったのだ。
れいむは気丈に拒んだが、相手はゲスである。子供を殺すことなどなんとも思っていな
いのだ。
「ゆ゛ぴゃ!」
子れいむがあっさりと、本当にあっさりと潰された。
「おぢびぢゃぁぁぁぁぁん!」
「だ、だちゅけ……ちぇ……」
もう一匹の子れいむも上にのしかかられている。
「やべでええええ、飴さんをあげるがら、やべでえええ!」
「ゆへっ、さいしょからそうすれば、その汚いちびは死なないで済んだんだぜ」
夫のまりさと本当に同種かと思うような嫌らしい笑みを浮かべて言ったゲスまりさに、
れいむは歯軋りしながらも飴の入ったビニール袋を渡した。
「ゆへへっ、ひきあげなのぜ!」
ゲスまりさが言うと、連中はぞろぞろと未練なくおうちから出て行った。
子れいむを失った悲しみに打ちひしがれながら、それでもれいむは残りの二匹が助かっ
たことに安堵した。
「ゆへっ、これはこれは、だんなさんのおかえりなのぜ」
そんな声が表から聞こえてきた。
れいむははっとして子れいむの亡骸から目を上げる。
自分のおうちで何をしていたのかと詰問するまりさの声もした。
それに得意そうにゲスまりさが答える。
「おとなしく出さないから、ちびを一匹潰してやったのぜ、ゆひゃひゃ」
ゲスまりさがそう言った瞬間――。
「ゆっぐりじねえええええ!」
まりさの怒号が響いた。
「まりざっ!」
れいむはおうちを出た。
「ゆっひゃあ!」
「ちぃーんぽ。勝てると思ってるかみょん」
「けんかはあいてを見てから売ってねー」
「ゲラゲラゲラ、死ぬのはお前だよ!」
まりさの必死の攻撃も、それが来るのを予想していたゲスどもによって阻まれていた。
「やべでええええええ!」
「ゲラゲラゲラ、馬鹿がもう一匹来たのぜ!」
止めに入ったれいむもゲスまりさに体当たりを喰らってしまう。
それからのリンチで、れいむが生き残れたのは、早々に戦意を喪失して全く抵抗をしな
くなったのと、まりさが最後まで闘志を失わずに抵抗し、ゲスどもの攻撃を多く引き付け
たせいであったろう。
まりさは、それから数時間ほど苦しんだ後に死んだ。
こんな時に頼りになる飴は当然ながら一個も残っていない。
今更ながら、れいむは飴を二つに分けておくなどの処置をしていなかったことを悔やん
だ。
れいむも無傷ではない。
必死にその体を引き摺って狩りをした。
子れいむも子まりさも、れいむが頑張っているのを知っているので不満一つ口にしない
が、まりさが生きていた頃よりも明らかにむーしゃむーしゃできず、ゆっくりもできてい
ないためどことなく暗く沈んでいた。
以前は誰にも誇れる明るい仲良し家族だったのに……。
れいむは、その日も必死に狩りをしていた。
幸いなことに、人間が食べきれずに捨てようとしていたお菓子を貰うことができた。
こんないいものを食べきれないから捨てようとするなんて、とれいむは思った。
そして、その帰り道――。
「ゆびぃぃぃ、やべでぐださい」
「ごべんなざい、ごべんなざい!」
「いぃぃぃんぽ、ゆ、ゆるじでほじいびょん!」
「わ、わがったよー、にんげんざんだちが強いのわがったがら、もうゆるじでえええ!」
ゆっくりの悲鳴を聞いた。
聞き覚えのある声だ。
「ゆ!」
そこではあのゲスまりさたち、れいむのしあわせーをぶち壊したゲス一味が、二人の人
間に暴行されて涙を流しながら許しを乞うていた。
いや、実際は一人は笑って見ているだけで、やっているのは一人だけだ。
「勝てると思ってたのかよ!」
「喧嘩は相手見て売れよなー」
「なぁーにがゆっくりしね! だよ。死ぬのはお前らだよ!」
れいむとまりさがなす術も無かったゲスたちが、何もできずにやられていく。
れいむはゲスまりさたちの悲鳴を背に、跳ね出した。
まりさと子れいむを殺したゲスどもが人間にやられているのをざまあみろと思うよりも、
れいむの中には、先ほどのことと合わせて、やはり人間というのは自分たちゆっくり如き
よりもはるかに凄い存在なのだと思う気持ちの方が大きかった。
その日持ち帰ったお菓子を食べて衰弱気味だった子供たちが元気になって、れいむは久
しぶりにゆっくりすることができた。
そして、それが最後のゆっくりとなった。
翌日からはお菓子をもらえるような僥倖には出会えず、子供たちはまた衰弱していった。
先に子れいむが逝った。
子まりさも後を追おうとしていた。
ずーりずーり。
ずーりずーり。
頭に子まりさを乗せたれいむが這いずる。
食べ物を子供たちに優先的に回していたれいむとて辛い。
しかし、行かねばならぬ。
この子だけは……この子だけは……。
二度と来るなと言われたあそこへ……。
ずーりずーり。
ずーりずーり。
「ゆぅぅぅ」
懐かしい庭が見えた。
ずーりずーり。
ずーりずーり。
この子だけでも……。
れいむは、このまま死んでもいい。この子だけは……。
きっと、優しいお兄さんのことだから、自分のことは許してくれなくとも、子まりさの
ことは助けてくれるはず。
その淡い希望を原動力に、這いずる。
ずーりずーり。
ずーりずーり。
「ゆ? ゆっくりしてないれいむなのぜ」
庭には先客がいた。
一匹のゆっくりまりさである。お帽子に銀バッヂをつけている。
「ゆっくりしていってね!」
「ゆ……ゆっぐ……いっで、ね……」
「ゆぅ、どうしたんだぜ。ここはにんげんさんのおうちだから入ってきちゃ駄目なんだぜ」
「ゆ……れ、れいぶは、おにい、ざんに……」
「ゆぅ……まつのぜ」
まりさはぴょんと跳ねて壁に沿って置かれた小さな階段を上ると、小さな扉を開いて家
の中に入っていった。
しばらく経って戻ってきたまりさは、帽子の中から飴玉を取り出した。
それは懐かしい、あのれいむが大好きだった飴玉だった。
「まあ、こいつを食べるのぜ。でも、言っておくけど、あまりにもれいむがかわいそうだ
から恵んでやるのぜ。勘違いしてまた貰いに来たりしたらお兄さんに言ってせいっさいっ
してもらうのぜ」
「ぺーろぺーろ、し、し、し、しあわせぇぇぇぇ!」
れいむは飴玉を舐めて歓喜の声を上げた。
「ほら、おちびちゃん!」
舌の先に乗せた飴玉を、子まりさの口元へ持っていってやると、子まりさは舌を伸ばし
た。
「ぺーりょ、ぺーりょ……」
ちあわちぇー、という声こそ出さなかったものの、明らかに子まりさの顔がゆっくりし
ているのを見て、れいむは喜んだ。
「ゆぅ、まりさ」
「もうやらないんだぜ。さっさと帰るんだぜ」
「まりさは、お兄さんに飼われているんだね」
銀バッヂをつけているのを見てもしやと思ったが、手馴れた様子でおうちに入って飴玉
を持ってきたことにより、確信することができた。
このまりさは、お兄さんがれいむを捨てた後に飼っている飼いゆっくりなのだ。
そもそも、一人暮らしの寂しさを紛らわすためにお兄さんはれいむを飼っていたのだ。
そのれいむがいなくなれば、その穴を他のもので埋めようとするのは当然だ。
「ゆ?」
れいむの口ぶりに妙なものを感じたらしいまりさに、れいむは自分は以前ここのお兄さ
んの飼いゆっくりだったことを告げた。
「ゆゆ!? は、話は聞いてるのぜ。れいむが、れいむなのぜ?」
「ゆん」
まりさは、驚いたようだ。
「……いっしょになったまりさは、どうしたのぜ」
「ゆぅ」
それかられいむはここを出てからの一連のことをまりさに語った。
「ゆゆゆぅ……」
「だからこの子だけでも助けて欲しいんだよ。れいむはどうなってもいいよ。……お兄さ
んは、いないの?」
「ゆ、お兄さんはまだまだお仕事なんだぜ」
「ゆっ、そうか……」
れいむは野良になってからそういった感覚がなくなっていたが、そういえばお兄さんは
何日か仕事に行って一日二日休む日があり、仕事に行く日は朝から晩までおうちにいない
のだった。
「れいむ……もうここには来ない方がいいんだぜ」
「ゆ?」
「お兄さん、自分を裏切ったれいむのこと、すごい怒ってるのぜ。捨てたりしないで、あ
の汚い野良まりさといっしょに殺しておけばよかった、っていつも言ってるのぜ」
「ゆ? ゆゆ!? そ、そんなわけないよ! お兄さんがそんなこと言うわけないよ!」
れいむは、確信に満ちて断言した。
「ゆぅ……」
それを見て、まりさは気圧されたように後ろにずりずりと下がる。
「とにかく、ここでお兄さんの帰りをまつよ。まりさがくれた飴さんのおかげで、おちび
ちゃんも少しげんきになったし」
「そ、そうなのかぜ。で、でもでも、まりさの言ったことはほんとーなのぜ。すぐに帰っ
てもう来ない方がいいのぜ?」
「ゆん、どうせ、帰っても、れいむもおちびちゃんも生きていけないよ。それなら、お兄
さんにれいむはどうなってもいいからおちびちゃんだけでも助けてください、ってお願い
してみるよ」
れいむは、もう完全に開き直ったというか、覚悟を決めた。
「……ち」
それを見て、まりさは小さく舌打ちすると、
「それじゃ、そこで待ってるといいのぜ。まりさはおうちですーやすーやするのぜ」
そう言って、家の中に入ってしまった。
おうちですーやすーやするという言葉に、たまらない羨望を感じつつ、れいむはお兄さ
んの帰りを待った。
「ゆぴぃ、ゆぴぃ」
「ゆぅ、ゆぅ、ゆぅ」
やがて、まりさがくれた飴玉で少し栄養補給ができたのと疲労のせいもあり、れいむと
子まりさは寝息を立て始めた。
「ゆん、れいむれいむ」
まりさが出てきた。
「れいむ、ねてるのぜ?」
言いつつ、れいむの様子を射るような視線でうかがう。
「さっき帰っていればよかったのぜ……」
「ゆ!?」
れいむは、衝撃で、目が覚めた。
「ゆ゛……な、な゛に……どぼじで……」
わけがわからなかった。
わからぬままに、次々に衝撃がれいむを苛む。
「い、いだ、やべ……やべで……ま、まりざ!」
自分へ殺意のこもった体当たりをするまりさに、れいむは止めるよう懇願した。
「ゆっくりしね、ゆっくりしね、ゆっくりしね」
まりさは全く聞く耳持たずに攻撃を繰り返す。
「ど、どぼ、じで、ごんあ……ごと、ずる……の……」
「お兄さんの飼いゆっくりはまりさなのぜ。お前なんかに、邪魔させないのぜ」
さっき飴玉を食べたとはいえ、根本的に衰弱しきっていたれいむである。抵抗らしい抵
抗もできず、衝撃を受けるたびに餡子を吐き出すようになってからは意識すら朦朧として
いった。
「……ゆん」
れいむが死んだのを確認すると、まりさは、しあわせそうに寝息を立てている子まりさ
を見た。
跳躍した。
「ただいまー」
「おかえりなんだぜ!」
お兄さんが帰って来た。
「おかばんおもちしますだぜ」
「持てないだろーが」
いつものやり取りをして、お兄さんがカバンを置き、上着を脱ぎ、大きく息を吐いて伸
びをする。
「お兄さん、お兄さん」
お兄さんが落ち着いたのを見て、まりさが声をかけた。
「んー、なんだ」
「実は……」
まりさが言うには、すーやすーやとお昼寝をしてから目覚めると、なんと庭でゆっくり
が死んでいたというのだ。
「んん、野良の行き倒れかな」
「ゆぅ、どーも喧嘩してやられたみたいなんだぜ」
「どれどれ」
お兄さんが庭に出ると、まりさが言った通り、一匹の成体サイズのれいむと子まりさの
死体があった。
「ひどいな、子供なんかぺしゃんこじゃないか」
「ゆぅ……ゲスは子供でも容赦しないのぜ……」
「そっか、お前、元野良だもんな」
「ゆん、野良ゲスの怖さはまりさようく知ってるのぜ」
「ん?」
お兄さんは屈んで、れいむの死体を凝視する。
「ど、ど、どうしたのぜ? そのれいむが、どうかしたのぜ?」
「んー、いやー、ほら、何度か話しただろ。前に飼ってたれいむ」
「ゆん」
「そいつなんじゃねえか、と思ったんだけど、うーん、わからんな。野良暮らしで見た目
変わってるだろうし」
「ゆぅ……違うのぜ。れいむは、まりさと一緒におちびを産んでゆっくり暮らしてるんだ
ぜ、こんなところで死んでるわけないんだぜ」
「うん……そうだよな。……こいつらは、明日の朝に穴掘って埋めてやろう」
「ゆん、それがいいんだぜ」
「うし、じゃ、おれは風呂はいってくるかな」
まりさは、野良だった。
産まれた時こそ両親と姉妹と一緒にゆっくりできたが、過酷な野良の生活はそれらを次
々に奪っていった。
とうとう、母親のれいむとまだ子供だったまりさだけが生き残った。
「おちびちゃん、みんなの分までゆっくりしようね!」
「ゆっきゅち!」
そう言葉を交わした次の瞬間、母れいむは死んだ。
「シュートッ!」
いきなり人間がやってきて、思い切り母れいむを蹴ったのだ。
母れいむはふっ飛んで壁に激突し、大量の餡子を吐いて死んだ。
「おいおい、いきなりなにすんだよ」
母れいむを蹴飛ばした男の連れらしい別の男が言った。
「ああ、なんかゆっくりいたから、シュート!」
「おいおい、止めたれよ! かわいそうじゃんか!」
かわいそうと言いつつ、大笑いしながら男は言った。
「そういやシュートっていえばさ、今度の代表の試合」
「ああ、監督変わって初めての試合だよな。あの監督ってどうなの?」
そして、もう次の瞬間には、全く違う話に夢中になりながら、去って行ってしまった。
まりさは、もう理不尽にも程がある仕打ちで最後の家族を失い、呆けていた。悲しいは
ずなのに、涙すら流さなかった。
それからも相も変わらず過酷な野良生活をまりさは生き抜いた。その中で、まりさの心
をかき乱したのは飼いゆっくりの存在だ。
ゆっくり全てが同じ生活をしているのならばよいが、同じゆっくりがあからさまに自分
たちよりもいい生活をしているのがまりさには納得できなかった。
もう、なんか世の中そういうもんらしい、と納得した頃には、世の中がそういうもんな
らば自分もなんとか飼いゆっくりになりたいものだと思っていた。
飼いゆっくりになるには、そのための厳しい躾を受けていなければいけない、という話
を聞き、所詮自分のような野良が飼いゆっくりになるなど夢物語かと諦めた。
そして、諦めた時に、その夢がまりさに下りて来たのだ。
食べられる草を見つけて侵入した人家の庭。
「ん、ゆっくり……まりさか」
自分を見下ろす人間。
はじめは、まりさはこれで終わった、死んだ、と思った。
「ゆゆゆ! ご、ごべんなさい! く、草さんは返すから許して欲しいのぜ!」
駄目で元々と必死に謝ると、その人間はそんな草むしって持ってってくれるならありが
たいぐらいだと言って、まりさを許した。
それから、何度かその庭に通って草を貰っていたが、その内に、その人間――お兄さん
とよく話すようになった。
そこで、以前れいむを飼っていたこと、そのれいむが野良まりさと一緒になると言って
出て行ってしまったことを聞いた。
なんて愚かなれいむだと思いつつ、まりさはこのお兄さんがゆっくりを飼っていたこと
があるということを強烈に頭に刻み付けた。
お兄さんは約束を破ったのだからとれいむを追い出したことを後悔していた。
約束を破ったのに、これをなぁなぁで許してまりさともども迎え入れたりすれば増長し
てゲスになると思ってのことだったが、今から思えば番のまりさは決してゲスではなかっ
たようだし、もう少し様子を見てみてもよかったかもしれない。
それらの話を聞いて、このお兄さんはゆっくりに優しいゆっくりした人間さんだとまり
さは確信した。
「お兄さん、まりさを――」
飼いゆっくりにしてください、とはまりさは言わなかった。
「お兄さん、まりさを飼いゆっくりになれるよう鍛えて欲しいんだぜ。まりさ、飼いゆっ
くりになりたいんだぜ」
「んん?」
まりさは計算して言ったわけではないが、この物言いは、お兄さんの興味をまりさに向
けるのに効果があった。
まりさは家族を失って以来、野良生活がほとほと嫌になって飼いゆっくりになりたいと
思っていたが、どうも飼いゆっくりになるにはそのための「躾」が必要らしい。
それで諦めていたのだが、お兄さんと知り合うことができた。お兄さんは以前れいむを
飼っていたのなら、飼いゆっくりの「躾」を知っているのだろう。それを教えて欲しいと
まりさは懇願したのだ。
お兄さんは快諾し、それからまりさが日曜毎に通ってきた。
やがて、ダンボールで作ったおうちを庭に置いてそこに住んでいいと言われ、艱難辛苦
なんとか銀バッヂ試験に合格できるかというところまで教育が進んだ時、遂にお兄さんは
まりさをおうちの中に招き入れた。
お兄さんも、れいむを失った穴を埋めるための何かを欲してはいたものの、ゆっくりを
飼うことに抵抗があった。またれいむのように去られたら……そう思うと踏み切れなかっ
た。
そこへ、まりさが現れた。
飼いゆっくりにするわけではなく、あくまでもそのための教育をしてやるだけだ、とい
うのはお兄さんの抵抗を和らげた。
そして、自分の教育により、野良として生まれたまりさが銀バッヂ合格も夢ではないと
いうところまで来る間に、十分以上に情もわいたし、まりさの頑張りはよくわかっていた。
ここまで来れば、お兄さんの口から、
「まりさ、うちの飼いゆっくりにならないか?」
という言葉が出るのは時間の問題であったろう。
まりさはその後、一度は落ちたものの、その悔しさをバネに猛勉強し、とうとう銀バッ
ヂ試験に合格することができた。
まりさは夢をかなえた。
まりさは、飼いゆっくりになったのだ。
「ゆぅ……絶対、ぜーったいに、優しいお兄さんの飼いゆっくりの座は、誰にも、誰にも
渡さないのぜ」
お兄さんが風呂に行った後、窓かられいむと子まりさの死体をじっと見つつ、まりさは
呟いた。
お兄さんは自分を信頼してくれている。
それはまりさも感じていたが、時々お兄さんが前に飼っていたれいむのことを話す時に
見せる寂しげな顔が、まりさの心に引っかかっていた。
――まりさとそのれいむと、どっちが好きなのぜ?
答えを聞きたくないゆえに投げかけられぬ疑問が、まりさの中にわだかまっていた。
優しいお兄さんのことだから、どっちが、とかは決められないよと言うであろうが。
心配そうなお兄さんに気を遣って、きっとれいむはまりさと一緒に家族を作ってしあわ
せーにゆっくり暮らしているはずだと言いつつ、内心では厳しい野良ゆっくりの生活に耐
えられずにとっくに死んでいるであろうと思って安心していた。
それが、今日、そのれいむが現れたのだ。
幸いなことに、本当に、本当に幸いなことに、お兄さんがいない時に。
追い出したことを後悔していたお兄さんである。
れいむが、こうなってしまったわけを涙ながらに語り、自分はいいから子供だけでも助
けて欲しいと頼めば、れいむも子供も助け、もう一度飼ってやる可能性は十分にある。
だからといってまりさを捨てたりはしないだろう。
それはわかっている。
わかっているつもりだ。
まりさは、お兄さんのことをもちろん信頼していた。
しかし、多難なゆん生を歩んできたまりさである。
お兄さんに限らず、他者を完全に信頼しきれないところがあり、ようやく掴んだ今の幸
せを破壊しかねぬ要素には過剰に恐怖を抱き、これを排除しようとするところがあった。
そして、排除した。
文字通りの、排除だ。
「ゆぅ……ゆぅ……ゆひぃぃぃぃ」
まりさは、思い出していた。
れいむを殺し、子まりさを潰した時に、母れいむと子供だった頃の自分を思い出してい
た。
今も思い出していた。
窓から見える、れいむと子まりさの死体。
それがまるで、母と自分の死体に見えて――。
「ゆっひぃぃぃぃ」
まりさは母が死んだ時のように、涙を流さずに、泣いていた。
終わり
書いたのは、スレに自己紹介とか書いたらスルーされたのるまあき。
本人証明? トリップ? わからんわ、そんなもん。
そんなわけで、この場を借りてAVあきさんの漫画が好きなことを表明しておくのぜ。
こないだの街ふらんのもよかったです。ふらんは少し凶暴なぐらいが可愛い。
過去作品
anko429 ゆっくりほいくえん
anko490 つむりとおねえさん
anko545 ドスハンター
anko580 やさしいまち
anko614 恐怖! ゆっくり怪人
anko810 おちびちゃん用のドア
anko1266 のるま
anko1328 しょうりしゃなのじぇ
anko1347 外の世界でデビュー
anko1370 飼いドス
anko1415 えーき裁き
anko1478 身の程知らず
anko1512 やけぶとりっ
anko1634 かわいそうかわいそう
anko1673 いきているから
anko1921 理想郷
anko2087.2088 とんでもないゲス
anko2165 面の皮があつい
anko2200 けんっりょく
家出 飼いゆ ゲス 愛護人間 ゲスといえばゲスだけど
「ゆぴ……ゅ……」
「おちびちゃん! しっかりして!」
れいむは、一目で衰弱しているとわかる子まりさに必死に呼びかける。
この子だけは……この子だけは……。
番のまりさ、この子の姉妹だった二匹の子れいむ。
みんな、死んでしまった。
この子だけが、ただ一人残された家族なのだ。死なせるわけにはいかない。
そのことが、れいむに、今まで躊躇わせた行動をとらせた。れいむだけが野垂れ死にす
るなら、それには及ばなかったであろうが、子まりさのためとあらば。
「おにいざん、おにいざん……」
子まりさを頭に乗せたれいむは、子まりさを落とさぬようにずーりずーりと這って行っ
た。
れいむは、そこそこ優秀で銀バッヂを取得した飼いゆっくりだった。
無論のこと、飼いゆっくりの等級を示すバッヂで最高なのは黄金に輝く金バッヂだ。し
かし、よほどゆっくりに高望みをしなければ銀バッヂで十分だ。
飼い主のお兄さんもそれで満足していて、れいむはとてもゆっくりと過ごすことができ
た。
お兄さんは一人暮らしの寂しさかられいむを飼い始めたのだが、自分が仕事に行ってい
る間にれいむは一匹なのを気にして、壁にゆっくりが出入りできる扉をつけて庭に出るの
を許していた。
庭といっても、家と壁の間にある僅かな地面であり狭かったが、れいむにとっては十分
であった。
天気のいいある日、草の上に寝転んで日向ぼっこを楽しんでいた。
そこで、運命の出会いをしたのである。
「ゆ? れいむ、ゆっくりしていってね!」
一匹の精悍なまりさが庭に入ってきたのだ。
「ゆ、ゆっくりしていってね!」
「ゆゆ、バッヂさんなのぜ。れいむはここのにんげんさんの子なのぜ?」
「ゆん、そうだよ」
「ゆぅ、ここの草を少し持って行っていいのぜ?」
「ゆっ、いいよ」
庭に生えている草は、お兄さんが時々むしって捨てている。それならあげてもいいだろ
うと思い、れいむは快諾した。
それから、まりさは時々草を取りに来るようになった。
いつも忙しそうだったが、短い時間、まりさはれいむと話していった。
そして、れいむはいつしか草をむしっておくようになった。そうすれば、まりさが草を
むしる必要がなくなり、その時間だけまりさとたくさんお話ができるからだ。
れいむは自分でも気付かずに、まりさに惹かれていたのだろう。
やがて、まりさも優しいれいむに草をくれる飼いゆっくりという以上の感情を抱き始め
た。
「れいむ、まりさといっしょにずっとゆっくりしてほしいのぜ!」
それを切り出したのはまりさであった。
先に惚れたのはれいむなのだから、れいむが言い出してもおかしくないはずだが……そ
こはれいむは飼いゆっくりである。
お兄さんには、野良と話したりする程度はいいが、番になったりあまつさえ子供を作っ
たりすることは許されていなかった。
それをするなら捨てる、と言われている。お兄さんとしては、そう言っておけば、そん
な馬鹿なことをするまいと考えてのことだったが――。
「お兄さん! れいむ、このまりさとゆっくりしたいよ」
「ゆっ、まりさだぜ」
「……」
お兄さんは、呆然としていた。
しかし、やがて己を取り戻すと、れいむが銀バッヂをとって粗相をしなくなってからは
しなかったような厳しい顔と声で、約束をちゃんと覚えていてそういうことをしたのか、
捨てられて野良になってもそのまりさと一緒になって子供を産みたいのか、と言った。
れいむは、それに頷いた。
お兄さんは見るからにガックリとしたようだったが、少し辛そうな顔をしてから腰を落
とし、れいむのリボンについていた銀バッヂを取り外した。
「もう、二度とここには来るなよ」
「……ゆぅ……ゆっくり、りかいしたよ」
そして、テーブルの上に、れいむが大好きだったキャンディーが幾つか乗っているのを
見つけると、それを手に取りビニール袋に入れてれいむの前に置いた。
「持っていけ……ただし、すぐに食べるんじゃないぞ。野良ゆっくりは栄養不足になりが
ちで飴玉一個で助かるような状態で死んでしまうことがあると聞いた。いざという時か、
産まれた子供が病気になったりした時のためにとっておくんだぞ」
親身になった言葉に、れいむは号泣した。まりさも、一緒になって泣いていた。
「ゆっ、おにいざん、いままでおぜわになじまじた!」
「れいむは、まりさがゆっくりさせるんだぜ。あんしんしてほしいんだぜ」
二匹はぺこぺこと頭を下げて、去っていった。
しばらくは、しあわせーなゆっくりした日々が続いた。
とりあえず公園にダンボールハウスをかまえた二匹は、ある程度の食料を備蓄すると、
すっきりーして子供を作った。
「ゆゆーん」
れいむは、額から生えた茎の先に、自分に似た二つの命、そしてまりさに似た一つのそ
れ、合わせて三つの命がゆぅゆぅと生まれる時を待っているのを見てとてもゆっくりした
気分であった。
「ただいまなんだぜ、おちびは? おちびは?」
まりさは、ますます励んで帽子を獲物で満載にして帰ってきては、まずまっさきに子供
たちを見に来るのだった。
「「「ゆっきゅちちていっちぇね!」」」
「「ゆっくりしていってね!」」
子供たちがとてもゆっくりと生まれた時の感動を、れいむは生涯最高のゆっくりだと思
った。
あれだけよくしてくれたお兄さんの元を離れてしまったことを後悔する気持ちは、やは
りどうしてもあった。
それでも、このときの感動を思えば、お兄さんには悪いが、やっぱりまりさと一緒にな
ってよかったと思うのだ。
子供たちは元気に育っていったが、ある時、子まりさが何か悪いものを食べたのか下痢
を起こしてしまった。
急激に餡子を失わせる下痢は、子供ならばあっさりと死に至ってしまうため、野良の子
ゆっくりの死因としては極めて多い。
だが、れいむたちにはお兄さんがくれた飴玉があった。
野良ゆっくりにとって下痢が死に繋がってしまうのは、野良では栄養価の高い食べ物を
得ることが困難なためだ。
逆に言えば、それさえ与えれば十分に助かるのである。
子まりさも、水をごーくごーくして水分を補給し、飴玉を舐めて栄養を得て、下痢がお
さまるまでなんとか耐え切った。
「ゆゆーん、よかったよぉ、よかったよぉぉぉ」
「ゆひぃぃぃぃ、おちび、よくがんばったのぜえ!」
「まりしゃ、これでまたゆっきゅちできりゅね!」
「ゆわーい、ゆわーい」
家族の喜びは言うまでも無い。
「ゆぅ、これもお兄さんが飴さんをくれたおかげだよ」
「ゆん、お兄さんにありがとうなんだぜ」
れいむとまりさは、飴をくれたお兄さんに感謝した。あれがなければ、子まりさは確実
に死んでいたであろう。
まだまだお兄さんがくれた飴は残っていた。これさえあれば、多少の病気等に子供たち
が犯されてしまっても大丈夫だろう。
だが、そのしあわせーの元が災いをもたらすことがある。
誰でも、しあわせーは欲しいのだ。
どうしても欲しいそれを手に入れるために、他者のそれを奪う必要があった場合、それ
を実行するものは、人間にもゆっくりにも存在する。
人間の多くは国家に属しており、その国家が安定していれば警察という治安組織の恩恵
を受けられる。
警察は抑止力を持ち、他者のものを暴力や詐術で我が物にせんとする行為へ歯止めをか
ける。
これが飼いゆっくりとなると、飼い主の所有物という形で、人間社会のそういった仕組
みに組み込まれている。
しかし、野良ゆっくりには、そういったものは及ばない。
野良ゆっくりの群れはそういった要求を満たすために作られる。数が集まり、それらが
群れの一員への攻撃は自分へのそれと見なして反撃を加える姿勢を示すことによりゲスに
対する抑止力を得るのだ。
とは言っても、野良同士だとどうしても食料調達の際の競争相手になることも多く、頭
がよくリーダーシップを持ったリーダーがいないと群れは長続きしない。
れいむとまりさが住んでいる公園には、数家族の野良ゆっくりが住んでそれぞれ仲良く
やってはいたが、群れと呼べるような組織立ったものではない。
れいむたちは、自分たちの身を守るために極めて慎重に振舞うべきであった。
決して、自分たちが人間さんに貰った飴玉を持っていることなど、他のものに知られて
はいけないのだ。
だが、れいむは所詮は飼いゆっくりになるために産まれペットショップでお兄さんに買
われた生粋の飼いゆっくりである。野良になってそれほど時間が経っていないのと、この
公園に住んでいる御近所さんが善良なものたちばかりなため、少々おっとりとし過ぎてい
た。
まりさも、優しくてゆっくりしてはいるが、こちらは生粋の野良ゆっくりで、いわば持
たざる者であり続けていた。
そのため、持っている者としての保身に鈍感なところがあった。
れいむたちが、れいむの元飼い主に貰ったとってもあまあまな飴さんを持っているとい
う話は、子供たちから他の家族の子供たちに、そしてその親へと広がっていった。
それでも公園に住んでいたゆっくりたちは、それを大変羨んだものの、それだけであっ
た。
だが、ぶらりと公園にやってきた一匹の眼光鋭いまりさがその話にじっと聞き入ってい
た。
まりさは大急ぎで跳ねて行った。
そして、戻ってきた時には仲間を引き連れていた。
公園に入ってきたまりさ一行は、まっすぐにれいむたちのおうちへと向かう。
目的は言うまでもあるまい。
まりさの帰りを待ちながら、おうたをうたっていたれいむと子供たちはニヤニヤと笑い
ながら押し入ってきた一団になす術も無かった。
連中は狡猾であった。
子供がいるのを見るや、すぐにそれをゆん質に取ってれいむに人間に貰った飴を出すよ
うにと迫ったのだ。
れいむは気丈に拒んだが、相手はゲスである。子供を殺すことなどなんとも思っていな
いのだ。
「ゆ゛ぴゃ!」
子れいむがあっさりと、本当にあっさりと潰された。
「おぢびぢゃぁぁぁぁぁん!」
「だ、だちゅけ……ちぇ……」
もう一匹の子れいむも上にのしかかられている。
「やべでええええ、飴さんをあげるがら、やべでえええ!」
「ゆへっ、さいしょからそうすれば、その汚いちびは死なないで済んだんだぜ」
夫のまりさと本当に同種かと思うような嫌らしい笑みを浮かべて言ったゲスまりさに、
れいむは歯軋りしながらも飴の入ったビニール袋を渡した。
「ゆへへっ、ひきあげなのぜ!」
ゲスまりさが言うと、連中はぞろぞろと未練なくおうちから出て行った。
子れいむを失った悲しみに打ちひしがれながら、それでもれいむは残りの二匹が助かっ
たことに安堵した。
「ゆへっ、これはこれは、だんなさんのおかえりなのぜ」
そんな声が表から聞こえてきた。
れいむははっとして子れいむの亡骸から目を上げる。
自分のおうちで何をしていたのかと詰問するまりさの声もした。
それに得意そうにゲスまりさが答える。
「おとなしく出さないから、ちびを一匹潰してやったのぜ、ゆひゃひゃ」
ゲスまりさがそう言った瞬間――。
「ゆっぐりじねえええええ!」
まりさの怒号が響いた。
「まりざっ!」
れいむはおうちを出た。
「ゆっひゃあ!」
「ちぃーんぽ。勝てると思ってるかみょん」
「けんかはあいてを見てから売ってねー」
「ゲラゲラゲラ、死ぬのはお前だよ!」
まりさの必死の攻撃も、それが来るのを予想していたゲスどもによって阻まれていた。
「やべでええええええ!」
「ゲラゲラゲラ、馬鹿がもう一匹来たのぜ!」
止めに入ったれいむもゲスまりさに体当たりを喰らってしまう。
それからのリンチで、れいむが生き残れたのは、早々に戦意を喪失して全く抵抗をしな
くなったのと、まりさが最後まで闘志を失わずに抵抗し、ゲスどもの攻撃を多く引き付け
たせいであったろう。
まりさは、それから数時間ほど苦しんだ後に死んだ。
こんな時に頼りになる飴は当然ながら一個も残っていない。
今更ながら、れいむは飴を二つに分けておくなどの処置をしていなかったことを悔やん
だ。
れいむも無傷ではない。
必死にその体を引き摺って狩りをした。
子れいむも子まりさも、れいむが頑張っているのを知っているので不満一つ口にしない
が、まりさが生きていた頃よりも明らかにむーしゃむーしゃできず、ゆっくりもできてい
ないためどことなく暗く沈んでいた。
以前は誰にも誇れる明るい仲良し家族だったのに……。
れいむは、その日も必死に狩りをしていた。
幸いなことに、人間が食べきれずに捨てようとしていたお菓子を貰うことができた。
こんないいものを食べきれないから捨てようとするなんて、とれいむは思った。
そして、その帰り道――。
「ゆびぃぃぃ、やべでぐださい」
「ごべんなざい、ごべんなざい!」
「いぃぃぃんぽ、ゆ、ゆるじでほじいびょん!」
「わ、わがったよー、にんげんざんだちが強いのわがったがら、もうゆるじでえええ!」
ゆっくりの悲鳴を聞いた。
聞き覚えのある声だ。
「ゆ!」
そこではあのゲスまりさたち、れいむのしあわせーをぶち壊したゲス一味が、二人の人
間に暴行されて涙を流しながら許しを乞うていた。
いや、実際は一人は笑って見ているだけで、やっているのは一人だけだ。
「勝てると思ってたのかよ!」
「喧嘩は相手見て売れよなー」
「なぁーにがゆっくりしね! だよ。死ぬのはお前らだよ!」
れいむとまりさがなす術も無かったゲスたちが、何もできずにやられていく。
れいむはゲスまりさたちの悲鳴を背に、跳ね出した。
まりさと子れいむを殺したゲスどもが人間にやられているのをざまあみろと思うよりも、
れいむの中には、先ほどのことと合わせて、やはり人間というのは自分たちゆっくり如き
よりもはるかに凄い存在なのだと思う気持ちの方が大きかった。
その日持ち帰ったお菓子を食べて衰弱気味だった子供たちが元気になって、れいむは久
しぶりにゆっくりすることができた。
そして、それが最後のゆっくりとなった。
翌日からはお菓子をもらえるような僥倖には出会えず、子供たちはまた衰弱していった。
先に子れいむが逝った。
子まりさも後を追おうとしていた。
ずーりずーり。
ずーりずーり。
頭に子まりさを乗せたれいむが這いずる。
食べ物を子供たちに優先的に回していたれいむとて辛い。
しかし、行かねばならぬ。
この子だけは……この子だけは……。
二度と来るなと言われたあそこへ……。
ずーりずーり。
ずーりずーり。
「ゆぅぅぅ」
懐かしい庭が見えた。
ずーりずーり。
ずーりずーり。
この子だけでも……。
れいむは、このまま死んでもいい。この子だけは……。
きっと、優しいお兄さんのことだから、自分のことは許してくれなくとも、子まりさの
ことは助けてくれるはず。
その淡い希望を原動力に、這いずる。
ずーりずーり。
ずーりずーり。
「ゆ? ゆっくりしてないれいむなのぜ」
庭には先客がいた。
一匹のゆっくりまりさである。お帽子に銀バッヂをつけている。
「ゆっくりしていってね!」
「ゆ……ゆっぐ……いっで、ね……」
「ゆぅ、どうしたんだぜ。ここはにんげんさんのおうちだから入ってきちゃ駄目なんだぜ」
「ゆ……れ、れいぶは、おにい、ざんに……」
「ゆぅ……まつのぜ」
まりさはぴょんと跳ねて壁に沿って置かれた小さな階段を上ると、小さな扉を開いて家
の中に入っていった。
しばらく経って戻ってきたまりさは、帽子の中から飴玉を取り出した。
それは懐かしい、あのれいむが大好きだった飴玉だった。
「まあ、こいつを食べるのぜ。でも、言っておくけど、あまりにもれいむがかわいそうだ
から恵んでやるのぜ。勘違いしてまた貰いに来たりしたらお兄さんに言ってせいっさいっ
してもらうのぜ」
「ぺーろぺーろ、し、し、し、しあわせぇぇぇぇ!」
れいむは飴玉を舐めて歓喜の声を上げた。
「ほら、おちびちゃん!」
舌の先に乗せた飴玉を、子まりさの口元へ持っていってやると、子まりさは舌を伸ばし
た。
「ぺーりょ、ぺーりょ……」
ちあわちぇー、という声こそ出さなかったものの、明らかに子まりさの顔がゆっくりし
ているのを見て、れいむは喜んだ。
「ゆぅ、まりさ」
「もうやらないんだぜ。さっさと帰るんだぜ」
「まりさは、お兄さんに飼われているんだね」
銀バッヂをつけているのを見てもしやと思ったが、手馴れた様子でおうちに入って飴玉
を持ってきたことにより、確信することができた。
このまりさは、お兄さんがれいむを捨てた後に飼っている飼いゆっくりなのだ。
そもそも、一人暮らしの寂しさを紛らわすためにお兄さんはれいむを飼っていたのだ。
そのれいむがいなくなれば、その穴を他のもので埋めようとするのは当然だ。
「ゆ?」
れいむの口ぶりに妙なものを感じたらしいまりさに、れいむは自分は以前ここのお兄さ
んの飼いゆっくりだったことを告げた。
「ゆゆ!? は、話は聞いてるのぜ。れいむが、れいむなのぜ?」
「ゆん」
まりさは、驚いたようだ。
「……いっしょになったまりさは、どうしたのぜ」
「ゆぅ」
それかられいむはここを出てからの一連のことをまりさに語った。
「ゆゆゆぅ……」
「だからこの子だけでも助けて欲しいんだよ。れいむはどうなってもいいよ。……お兄さ
んは、いないの?」
「ゆ、お兄さんはまだまだお仕事なんだぜ」
「ゆっ、そうか……」
れいむは野良になってからそういった感覚がなくなっていたが、そういえばお兄さんは
何日か仕事に行って一日二日休む日があり、仕事に行く日は朝から晩までおうちにいない
のだった。
「れいむ……もうここには来ない方がいいんだぜ」
「ゆ?」
「お兄さん、自分を裏切ったれいむのこと、すごい怒ってるのぜ。捨てたりしないで、あ
の汚い野良まりさといっしょに殺しておけばよかった、っていつも言ってるのぜ」
「ゆ? ゆゆ!? そ、そんなわけないよ! お兄さんがそんなこと言うわけないよ!」
れいむは、確信に満ちて断言した。
「ゆぅ……」
それを見て、まりさは気圧されたように後ろにずりずりと下がる。
「とにかく、ここでお兄さんの帰りをまつよ。まりさがくれた飴さんのおかげで、おちび
ちゃんも少しげんきになったし」
「そ、そうなのかぜ。で、でもでも、まりさの言ったことはほんとーなのぜ。すぐに帰っ
てもう来ない方がいいのぜ?」
「ゆん、どうせ、帰っても、れいむもおちびちゃんも生きていけないよ。それなら、お兄
さんにれいむはどうなってもいいからおちびちゃんだけでも助けてください、ってお願い
してみるよ」
れいむは、もう完全に開き直ったというか、覚悟を決めた。
「……ち」
それを見て、まりさは小さく舌打ちすると、
「それじゃ、そこで待ってるといいのぜ。まりさはおうちですーやすーやするのぜ」
そう言って、家の中に入ってしまった。
おうちですーやすーやするという言葉に、たまらない羨望を感じつつ、れいむはお兄さ
んの帰りを待った。
「ゆぴぃ、ゆぴぃ」
「ゆぅ、ゆぅ、ゆぅ」
やがて、まりさがくれた飴玉で少し栄養補給ができたのと疲労のせいもあり、れいむと
子まりさは寝息を立て始めた。
「ゆん、れいむれいむ」
まりさが出てきた。
「れいむ、ねてるのぜ?」
言いつつ、れいむの様子を射るような視線でうかがう。
「さっき帰っていればよかったのぜ……」
「ゆ!?」
れいむは、衝撃で、目が覚めた。
「ゆ゛……な、な゛に……どぼじで……」
わけがわからなかった。
わからぬままに、次々に衝撃がれいむを苛む。
「い、いだ、やべ……やべで……ま、まりざ!」
自分へ殺意のこもった体当たりをするまりさに、れいむは止めるよう懇願した。
「ゆっくりしね、ゆっくりしね、ゆっくりしね」
まりさは全く聞く耳持たずに攻撃を繰り返す。
「ど、どぼ、じで、ごんあ……ごと、ずる……の……」
「お兄さんの飼いゆっくりはまりさなのぜ。お前なんかに、邪魔させないのぜ」
さっき飴玉を食べたとはいえ、根本的に衰弱しきっていたれいむである。抵抗らしい抵
抗もできず、衝撃を受けるたびに餡子を吐き出すようになってからは意識すら朦朧として
いった。
「……ゆん」
れいむが死んだのを確認すると、まりさは、しあわせそうに寝息を立てている子まりさ
を見た。
跳躍した。
「ただいまー」
「おかえりなんだぜ!」
お兄さんが帰って来た。
「おかばんおもちしますだぜ」
「持てないだろーが」
いつものやり取りをして、お兄さんがカバンを置き、上着を脱ぎ、大きく息を吐いて伸
びをする。
「お兄さん、お兄さん」
お兄さんが落ち着いたのを見て、まりさが声をかけた。
「んー、なんだ」
「実は……」
まりさが言うには、すーやすーやとお昼寝をしてから目覚めると、なんと庭でゆっくり
が死んでいたというのだ。
「んん、野良の行き倒れかな」
「ゆぅ、どーも喧嘩してやられたみたいなんだぜ」
「どれどれ」
お兄さんが庭に出ると、まりさが言った通り、一匹の成体サイズのれいむと子まりさの
死体があった。
「ひどいな、子供なんかぺしゃんこじゃないか」
「ゆぅ……ゲスは子供でも容赦しないのぜ……」
「そっか、お前、元野良だもんな」
「ゆん、野良ゲスの怖さはまりさようく知ってるのぜ」
「ん?」
お兄さんは屈んで、れいむの死体を凝視する。
「ど、ど、どうしたのぜ? そのれいむが、どうかしたのぜ?」
「んー、いやー、ほら、何度か話しただろ。前に飼ってたれいむ」
「ゆん」
「そいつなんじゃねえか、と思ったんだけど、うーん、わからんな。野良暮らしで見た目
変わってるだろうし」
「ゆぅ……違うのぜ。れいむは、まりさと一緒におちびを産んでゆっくり暮らしてるんだ
ぜ、こんなところで死んでるわけないんだぜ」
「うん……そうだよな。……こいつらは、明日の朝に穴掘って埋めてやろう」
「ゆん、それがいいんだぜ」
「うし、じゃ、おれは風呂はいってくるかな」
まりさは、野良だった。
産まれた時こそ両親と姉妹と一緒にゆっくりできたが、過酷な野良の生活はそれらを次
々に奪っていった。
とうとう、母親のれいむとまだ子供だったまりさだけが生き残った。
「おちびちゃん、みんなの分までゆっくりしようね!」
「ゆっきゅち!」
そう言葉を交わした次の瞬間、母れいむは死んだ。
「シュートッ!」
いきなり人間がやってきて、思い切り母れいむを蹴ったのだ。
母れいむはふっ飛んで壁に激突し、大量の餡子を吐いて死んだ。
「おいおい、いきなりなにすんだよ」
母れいむを蹴飛ばした男の連れらしい別の男が言った。
「ああ、なんかゆっくりいたから、シュート!」
「おいおい、止めたれよ! かわいそうじゃんか!」
かわいそうと言いつつ、大笑いしながら男は言った。
「そういやシュートっていえばさ、今度の代表の試合」
「ああ、監督変わって初めての試合だよな。あの監督ってどうなの?」
そして、もう次の瞬間には、全く違う話に夢中になりながら、去って行ってしまった。
まりさは、もう理不尽にも程がある仕打ちで最後の家族を失い、呆けていた。悲しいは
ずなのに、涙すら流さなかった。
それからも相も変わらず過酷な野良生活をまりさは生き抜いた。その中で、まりさの心
をかき乱したのは飼いゆっくりの存在だ。
ゆっくり全てが同じ生活をしているのならばよいが、同じゆっくりがあからさまに自分
たちよりもいい生活をしているのがまりさには納得できなかった。
もう、なんか世の中そういうもんらしい、と納得した頃には、世の中がそういうもんな
らば自分もなんとか飼いゆっくりになりたいものだと思っていた。
飼いゆっくりになるには、そのための厳しい躾を受けていなければいけない、という話
を聞き、所詮自分のような野良が飼いゆっくりになるなど夢物語かと諦めた。
そして、諦めた時に、その夢がまりさに下りて来たのだ。
食べられる草を見つけて侵入した人家の庭。
「ん、ゆっくり……まりさか」
自分を見下ろす人間。
はじめは、まりさはこれで終わった、死んだ、と思った。
「ゆゆゆ! ご、ごべんなさい! く、草さんは返すから許して欲しいのぜ!」
駄目で元々と必死に謝ると、その人間はそんな草むしって持ってってくれるならありが
たいぐらいだと言って、まりさを許した。
それから、何度かその庭に通って草を貰っていたが、その内に、その人間――お兄さん
とよく話すようになった。
そこで、以前れいむを飼っていたこと、そのれいむが野良まりさと一緒になると言って
出て行ってしまったことを聞いた。
なんて愚かなれいむだと思いつつ、まりさはこのお兄さんがゆっくりを飼っていたこと
があるということを強烈に頭に刻み付けた。
お兄さんは約束を破ったのだからとれいむを追い出したことを後悔していた。
約束を破ったのに、これをなぁなぁで許してまりさともども迎え入れたりすれば増長し
てゲスになると思ってのことだったが、今から思えば番のまりさは決してゲスではなかっ
たようだし、もう少し様子を見てみてもよかったかもしれない。
それらの話を聞いて、このお兄さんはゆっくりに優しいゆっくりした人間さんだとまり
さは確信した。
「お兄さん、まりさを――」
飼いゆっくりにしてください、とはまりさは言わなかった。
「お兄さん、まりさを飼いゆっくりになれるよう鍛えて欲しいんだぜ。まりさ、飼いゆっ
くりになりたいんだぜ」
「んん?」
まりさは計算して言ったわけではないが、この物言いは、お兄さんの興味をまりさに向
けるのに効果があった。
まりさは家族を失って以来、野良生活がほとほと嫌になって飼いゆっくりになりたいと
思っていたが、どうも飼いゆっくりになるにはそのための「躾」が必要らしい。
それで諦めていたのだが、お兄さんと知り合うことができた。お兄さんは以前れいむを
飼っていたのなら、飼いゆっくりの「躾」を知っているのだろう。それを教えて欲しいと
まりさは懇願したのだ。
お兄さんは快諾し、それからまりさが日曜毎に通ってきた。
やがて、ダンボールで作ったおうちを庭に置いてそこに住んでいいと言われ、艱難辛苦
なんとか銀バッヂ試験に合格できるかというところまで教育が進んだ時、遂にお兄さんは
まりさをおうちの中に招き入れた。
お兄さんも、れいむを失った穴を埋めるための何かを欲してはいたものの、ゆっくりを
飼うことに抵抗があった。またれいむのように去られたら……そう思うと踏み切れなかっ
た。
そこへ、まりさが現れた。
飼いゆっくりにするわけではなく、あくまでもそのための教育をしてやるだけだ、とい
うのはお兄さんの抵抗を和らげた。
そして、自分の教育により、野良として生まれたまりさが銀バッヂ合格も夢ではないと
いうところまで来る間に、十分以上に情もわいたし、まりさの頑張りはよくわかっていた。
ここまで来れば、お兄さんの口から、
「まりさ、うちの飼いゆっくりにならないか?」
という言葉が出るのは時間の問題であったろう。
まりさはその後、一度は落ちたものの、その悔しさをバネに猛勉強し、とうとう銀バッ
ヂ試験に合格することができた。
まりさは夢をかなえた。
まりさは、飼いゆっくりになったのだ。
「ゆぅ……絶対、ぜーったいに、優しいお兄さんの飼いゆっくりの座は、誰にも、誰にも
渡さないのぜ」
お兄さんが風呂に行った後、窓かられいむと子まりさの死体をじっと見つつ、まりさは
呟いた。
お兄さんは自分を信頼してくれている。
それはまりさも感じていたが、時々お兄さんが前に飼っていたれいむのことを話す時に
見せる寂しげな顔が、まりさの心に引っかかっていた。
――まりさとそのれいむと、どっちが好きなのぜ?
答えを聞きたくないゆえに投げかけられぬ疑問が、まりさの中にわだかまっていた。
優しいお兄さんのことだから、どっちが、とかは決められないよと言うであろうが。
心配そうなお兄さんに気を遣って、きっとれいむはまりさと一緒に家族を作ってしあわ
せーにゆっくり暮らしているはずだと言いつつ、内心では厳しい野良ゆっくりの生活に耐
えられずにとっくに死んでいるであろうと思って安心していた。
それが、今日、そのれいむが現れたのだ。
幸いなことに、本当に、本当に幸いなことに、お兄さんがいない時に。
追い出したことを後悔していたお兄さんである。
れいむが、こうなってしまったわけを涙ながらに語り、自分はいいから子供だけでも助
けて欲しいと頼めば、れいむも子供も助け、もう一度飼ってやる可能性は十分にある。
だからといってまりさを捨てたりはしないだろう。
それはわかっている。
わかっているつもりだ。
まりさは、お兄さんのことをもちろん信頼していた。
しかし、多難なゆん生を歩んできたまりさである。
お兄さんに限らず、他者を完全に信頼しきれないところがあり、ようやく掴んだ今の幸
せを破壊しかねぬ要素には過剰に恐怖を抱き、これを排除しようとするところがあった。
そして、排除した。
文字通りの、排除だ。
「ゆぅ……ゆぅ……ゆひぃぃぃぃ」
まりさは、思い出していた。
れいむを殺し、子まりさを潰した時に、母れいむと子供だった頃の自分を思い出してい
た。
今も思い出していた。
窓から見える、れいむと子まりさの死体。
それがまるで、母と自分の死体に見えて――。
「ゆっひぃぃぃぃ」
まりさは母が死んだ時のように、涙を流さずに、泣いていた。
終わり
書いたのは、スレに自己紹介とか書いたらスルーされたのるまあき。
本人証明? トリップ? わからんわ、そんなもん。
そんなわけで、この場を借りてAVあきさんの漫画が好きなことを表明しておくのぜ。
こないだの街ふらんのもよかったです。ふらんは少し凶暴なぐらいが可愛い。
過去作品
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anko580 やさしいまち
anko614 恐怖! ゆっくり怪人
anko810 おちびちゃん用のドア
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anko1347 外の世界でデビュー
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