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anko2653 とてもがんばったまりさの末路(後編)
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『とてもがんばったまりさの末路(後編)』 30KB
自業自得 群れ 自然界 人間なし 先に前編読んでね
「おちびちゃんがあんなことしたのも、元はといえばむのーなまりさがちゃんと狩りをし
てこないからだよ!」
というのが、れいむの言い分であった。
一理はあるが、一理だけである。
まりさは、ますます励むが、既に限度を超えた先に行っているのだ。もう十分な食料を
備蓄し、あとは貯蔵庫からの分配を受け取れば越冬は大丈夫と見て狩りを止めているもの
もいるような時期である。
獲るものが無いのだから、ただひたすら跳ね回って疲労していくだけである。それでも
なんとか僅かばかりの食料を確保した。
量はもちろん、質はもはや下の下である。食べられなくはない、というレベルだ。
それに文句をつけつつも、食べるものはそれしかないのだから仕方なくれいむたちは食
べていた。子供たちも、ある程度成長して不味いものを食べただけで食べた以上に吐いて
死に瀕するようなことはなかった。
「ゆぅ、まりしゃまりしゃ」
「ゆん」
まりさが狩りに行き、れいむが昼寝していた。そんな時に、姉まりさが妹まりさに声を
かけた。
「まりしゃ、また狩りにいくのじぇ」
「ゆゆ!?」
この二匹の間で「狩り」と言えば、狩場はあそこのことだ。
「でも、おかあしゃんがだめっていっちゃのじぇ?」
おとうさんも駄目だと言っているのだが、そんなもん別に気にすることもないと思って
いるようだ。
れいむは、愚鈍ではあったが、最低二つのことだけはきちんと理解していた。まりさが
いなければ自分たちは餓死すること、群れから追放されたら自分たちは生きていけないこ
と。
だから、長のおうちの貯蔵庫での「狩り」は絶対にやってはいけない、と言って聞かせ
ていた。
「ゆへっ、ばれなければいいんだじぇ」
「ゆゆ……」
「おいちーあまあまもあるんだじぇ、まりしゃ、もうにがにがな草にゃんかたべちゃくな
いのじぇ」
「ゆぅ」
姉まりさは、貯蔵庫に美味しいごはんがたくさんあるのを見ていた。
妹まりさとて、苦い草などもうごめんだと思っているのは姉まりさと同じである。
「でも、もし、もしもばれちゃら、どうするにょ?」
「ゆふん、だいじょーぶらよ」
ひーそひーそと、姉まりさは妹まりさに何かを告げる。
「ゆゆっ、それならあんしんなのだにぇ!」
「ゆん!」
子まりさたちは、そろーりそろーりとおうちを出た。
長のおうちへ行く。いつかのばかれいむが見張りをしていてくれれば、と祈りつつ跳ね
ていくと……
「ゆ?」
「だれも、いにゃい?」
なんと、見張り自体がいなかった。
「ゆゆゆっ!」
「ゆっ! ゆっ!」
これ以上ない好機と見た子まりさたちは、大急ぎで跳ねて行く。
「いにゃい、やっぱりいにゃいよ!」
「ゆゆーん! いまのうちなのじぇ!」
必死に跳ねていく二匹の眼前に、山と積まれたごはんの山が現れた。
越冬前の分配を控えただけあって、その量は膨大である。
「「ゆわわわわぁ!」」
子まりさたちは目を輝かせて山に向かう。
「「むーちゃむーちゃ」」
帽子に入れる前に、まず食えるだけ食ってしまおう。そう思った子まりさたちは幸せそ
うにかぶりつく。
「「ちあわ」」
「そこまでよ」
久しぶりの食後の歓喜を妨げたのは長ぱちゅりーの声だった。
「「ゆっ!?」」
振り返った先には、長と、その横に幹部のまりさがいた。
「くそちびども! げんこーはんなのぜ!」
鬼の形相で幹部まりさが凄むと、そこは所詮まだ赤ちゃん言葉の抜けていない子ゆっく
りである。ゆわゆわと震えしーしーちびって泣き出した。
「まりさ、捕まえておいてね。ぱちゅはみんなを集めるわ」
「ゆぅ、ゆぅ、ゆぅ」
まりさが狩りから帰ってきた。
広場に、群れのゆっくりたちが集まっている。
いつか見た光景に、嫌な予感がした。
あの時は、その中心に捕らえられたおちびちゃんがいて――
「ゆ! ど、どうしたの? なにかあったの!」
まりさが叫ぶと、ゆっくりたちはまりさを見た。
「ゆぅ……」
みんな、まりさをなんと言ったらいいのかわからない、という目で見ていた。
「どいてね! どいてね! まりさを通してね!」
まりさが言うと、さーっと道が開けた。その先にあるものは、いつか見た光景。
違うのは、押さえつけられている子供が一匹ではなく二匹だということだ。
「どぼじで……どぼじで……だめだって、言ったのに……どぼじで」
れいむが、呆然としながら呟いている。
自分の言いつけを破られたことにいささかショックを受けているようだ。
しかし、散々甘やかされた子供たちは、今やれいむでも理解していることすら理解でき
なくなってしまっていた。子まりさたちに比べれば、れいむはまだ自分が生きるために最
低限必要なことを理解し、そのためには時には引くこともできた。
「ま、まりざぁ!」
「れ、れいむ、どうしたの? ま、まさか……まさか……」
「むきゅ、たぶんまりさが思っている通りよ。この子たちは、貯蔵庫へ盗みに入ったわ」
「……ゆ゛、ゆ゛っ……」
まりさは口をぱくぱくさせてなんとか「ゆ」とだけ言うのが精一杯のようだ。
「約束は覚えているわね。……まりさ、れいむ、あなたたちの一家をこの群れから追放す
るわ」
わかってはいたことだが、改めて「追放」という重みを持った言葉が長の口から発され
ると、群れのゆっくりたちがざわめいた。
「ゆ゛……ゆっぐりごべんなざぁぁぁい!」
まりさは、ずしゃーっと顔面を地面にこすりつけるゆっくり式土下座とでも言うべき姿
勢で叫んだ。
「ごべんなざい! ごべんなざい! どうか、どうか、どうかついほーだけはゆるじでぐ
だざい!」
まりさが必死に謝る。長や幹部はそれを冷淡に見下ろしていた。
群れのものも概ね、かわいそうだけど仕方ないね、という感じであった。
前回、庇ったものたちも、こうもあっさりと長との約束が破られたのを見て同情しつつ
も表立って庇い立てするのを躊躇っていた。
「……」
れいむは、黙っている。
ここでれいむもまりさのように謝れば、また群れのものたちの感情も違ってくるであろ
うに、全てをまりさに投げていた。
この辺り、れいむの限界で、所詮は嫌なことは全てまりさに任せてしまう習慣が染み付
いてしまっている。
「ごべんなざい! ごべんなざい! ごべんなざい!」
まりさは、もうあれこれ考えることすらできなくなったのか、ただひたすらそれだけを
口にしている。
「まりさ、約束は約束よ」
長が、感情のこもらぬ声で言った。
内心、嫌な仕事はさっさと終わらせてしまいたい、と思っていた。
嫌な仕事――まりさ一家を追放すること――そうなることがわかっていながらそれを事
前に防ぐための方策はとらずにいたこと。
あの我慢することを知らない子供たちは、また必ずやる。
だから、むしろ誘うように貯蔵庫への道をがら空きにしておいたのだ。
見張りがいなかったわけではない。
見張りは、逆側――つまり長のお部屋へ続く道の方にいて、そこから貯蔵庫への道を見
張っていたのだ。
非情の処置であるが、越冬前に不安を取り除いておきたかったのだ。
れいむと子供たちの自己中心ぶり、倫理観欠如は長の目から見ると一線を超えていた。
おとなしく貯蔵庫からの分配を受け取って越冬に入り、そして失敗して永遠にゆっくりし
てくれればよいが、食料を奪うために他のものを襲ったりしないとは思えなかったのであ
る。
「ごべんなざい! ごべんなざい! ゆるじでぐださい! おちびぢゃんは、まだ、まだ
おちびぢゃんなんでずぅぅぅぅ」
「……」
長が、冷徹にまりさを見下ろす。
あれが子供なのはわかっている。
こちらは、その子供の躾をろくにせず、最低限のルールすら守らせることのできないま
りさとれいむの親としての無能さを問題にしているというのに、それがわかっていない。
「ばかおやぁぁぁぁぁ! いいかげんにちろぉぉぉぉ!」
突如、姉まりさが叫んだのはその時である。
押さえつけられて今までおとなしくしていたのに、いきなりの大声だ。
「ゆ、お、おちびちゃん……」
「おばえがちゃんとあやまらにゃいから、ついほーになっちゃうのじぇ!」
「ゆ、ゆゆ?」
「おまえりゃもだじぇ!」
と、姉まりさは押さえつけられながらも、ぐにっと顔を別の方に向けた。そちらは群れ
のゆっくりたちがいる。
「おまえりゃは、にゃんでまりしゃをかばわにゃいんだじぇぇぇぇ! おかげでまりしゃ
たちはついほーされそうなのじぇ! このやくたたじゅ!」
みんな、長ですら呆然とそれを聞いていた。
いやいやいやいや――何言ってんの?
それが偽らざる皆の気持ちであった。
「はぁ~っ」
大きなため息は、長だ。
長は、さすがに一番早くそれに気付いた。
姉まりさは、前回の時と同様、まりさが謝り、他のものがそれを庇えば自分は何も罰を
受けなくていいと思っているのだ。
物事を自分の都合のいいように解釈する傾向のあるゆっくりとは言っても、ここまで行
ってしまっているのは珍しい。
「きいちぇるの! はやく、はやくかばうんだじぇ! せいっさいっされちゃいのじぇぇ
ぇぇ!」
「……うるさいんだぜ」
呆然と罵倒され続けていた群れのものたちの中のまりさが、搾り出すように言った。
「うるしゃいって、だれにいってるんだじぇ! いいからはやく」
「おまえに言ってるんだぜ! このくそちび! せいっさいっされたいのかぜえ!」
「ゆぴ!」
まりさが憤怒を顕わに凄むと、姉まりさの強気はあっさりと崩れた。
「長! はやくこいつらついほーしちまうのぜ!」
「ゆん、そうだよー、もう相手にしてらんないねー、わからないよー」
「ついほー、ついほー!」
「ゆっ! ついほー、ついほー!」
「「「ついほー! ついほー!」」」
遂に、群れからついほーコールが沸き起こった。ようやく姉まりさの言っていることの
意味を理解した皆は、怒りと、そしてそれを上回る「もうこいつら駄目だ」という諦観に
支配されていた。
「お、おちびぢゃん! はやぐ! はやぐあやばっでね!」
姉まりさは、まりさにそう言われてもゆわゆわと震えていた。咄嗟に、謝ることができ
なかった。謝罪など、ろくにしたことがないのだ。
「むきゅ、それじゃあ、追放よ。二度とこの辺りに来ないこと、うちの群れのものに話し
かけないこと……みんなも、相手をしたら駄目よ」
追放刑は、完全に群れとの関係が断たれる。一度二度話しかけただけならば無視される
だけだが、それが何度も続けばせいっさいされることもあるのだ。
「ごべんなざい! ゆるじで! ゆるじでえええ! みんな、みんな、ごべんなざい!
まりざに、まりざにめんじでゆるじでえ!」
「ゆん、長」
涙と涎を振りまきながら土下座するまりさを見ていたゆっくりたちの中から、一匹のれ
いむが跳ねて前に出た。
「まりさだけは許してあげようよ」
「ちぃーんぽ、まりさだけならみょんも許していいと思うみょん」
それに続いたのはみょんだ。このれいむとみょん、番である。
れいむは、独り身の頃は狩りの獲物が少なくて困っていたところを何度もまりさに助け
て貰っていた。
みょんは、れいむにまりさのことを聞いて、まりさのことをとても優しくてゆっくりし
ていると思っていた。
「ゆぅ……まりさだけなら、許してあげてもいいかもね」
「まりさは、狩りもうまいし、いつもがんばってるからねー、わかってるよー」
「ゆっ! まりさは許してあげようよ!」
そして、たちまちまりさだけは、との声が上がる。なんだかんだで、多くのものはあの
一家でまりさだけは例外と見ている。
それに、まりさのことを思っているものほど、まりさはあんなれいむとおちびちゃんと
は離れた方がゆっくり暮らせるはず、と思っていたのでむしろまりさだけを許し、れいむ
たちだけを追放するという提案を受け入れやすかった。
「ゆ! ま、まりざだけずるいよ!」
れいむは、慌ててまりさに食ってかかる。まりさ相手ならば、れいむは強気になれる。
しかし、すぐさま群れのものたちに引っ込めと罵倒されてしまった。
「……むきゅ、わかったわ……それじゃあ、まりさはちゃんと謝ったし、まりさだけは許
すことにするわ」
「ま、まっでね! れいぶとおちびぢゃんもゆるじであげでね!」
まりさは、食い下がる。だが、長も群れのみんなも、それだけは絶対に譲らなかった。
「どうしても、というのなら、まりさも一緒に追放ね」
長がそう言うと、まりさは折れた。
「ふ、ふざげるなぁぁぁ! まりざああああ!」
「ゆっぎゅちできにゃぃぃぃ!」
「やめちぇね! はなちちぇ!」
「ぷ、ぷきゅーすりゅのじぇ、こわいのじぇ? ……ゆわあ、やめぢぇ!」
「にゃんでぎょんなごちょに……お、おとーじゃん、だちゅけでええええ」
れいむたちは、群れでも屈強なものたちに連れていかれてしまった。
群れの境界線が明確に決まっているわけではないが、おうちが密集しているところから
少し離れた所まで引き摺られ、或いはくわえられて連れてこられた。
「さっさと消えるんだぜ」
幹部まりさに言われても、そこを動こうとしなかったれいむたちだが、幹部まりさに体
当たりを喰らったれいむがふっ飛び、さらにみょんが尖った棒を突きつけると、恐れをな
して跳ねて行った。
「精が出るわね。狩りの帰り?」
長ぱちゅりーにそう言われて、れいむとみょんの夫婦は頷いた。
「そろそろ、獲れるものがないでしょう」
「ゆん、今日はこれだけだよ」
「だいぶたまったから、えっとうできそうだみょん」
「それはよかったわ。……ところで、まりさはどう?」
「ゆぅ……やっぱり元気がないよ」
「じぶんは家族を捨てたって落ち込んでるみょん、あんな奴らのこと気にするな、って言
ってるけど……」
まりさは、家族が追放されて一匹になってからは、気落ちしてふさぎ込んでいた。
そこで、まりさを自分のおうちに引き取ったのがれいむとみょんである。二匹とも、ま
りさはそのうちにきっと立ち直ってくれると信じていた。今まで家族がいたおうちに一匹
で住んでいたら気が滅入るばかりで立ち直りに支障があると思っての申し出であった。
「何かあったらすぐに教えてね。ほんとうに、どんなことでもいいから」
「「ゆっくりりかいしたよ!」」
二匹と別れておうちに向かう。
「大丈夫、だとは思うけど……」
長は、呟いた。
れいむとみょんが、長のおうちを訪ねて来たのはそれからすぐのことである。
「どうしたの? まりさになにかあった?」
「ゆぅ……それが……まりさにというか」
「なんというか……ちぃーんぽ……」
「むきゅ?」
なんだか話しにくそうにしている二匹から、ぱちゅりーが話を聞き出す。
「むきゅぅ……」
話を聞いて、ぱちゅりーはゆっくりできない表情をした。
おうちに溜めてあるごはんが減っている。
そんな、いつか聞いたような話であった。
「まりさには、ごはんをあげているのよね?」
「ちぃーんぽ」
「長……まりさが……まりさが、盗んだの?」
そんなことは信じたくはないと思いつつ、状況的には留守番をしているまりさの犯行の
可能性が高いことに思い当たっているのだろう。
「減った量は、けっこうな量ね」
「ゆん」
「わかったわ。……まあ、たぶん、まりさでしょうね」
「いぃぃぃんぽ……」
「そ、そんなぁ……」
「でも、まりさは自分のためにそんなことはしないでしょうね」
「ゆ?」
「まあ、いつもの作戦でいきましょう」
「それじゃあまりさ! 行って来るね!」
「おるすばん頼んだみょん!」
「ゆぅ、ゆっくり、いってらっしゃい」
まりさを残して、れいむとみょんは狩りに出て行った。
しばらくすると、まりさもおうちから出てきた。
帽子が、少し膨らんでいる。
ぽよんぽよんと、周囲を気にしながら跳ねて行く。
群れから離れた所まで来ると、そこできょろきょろと辺りを見回した。
「まりさ……まりさ……」
小さな声が、聞こえてきた。
「ゆっ、れいむ」
まりさがそちらを向くと、繁みの中から、れいむと四匹の子ゆっくり、すなわち群れを
追放されたまりさの家族たちが姿を現す。
その姿は、一言で言えばボロボロであった。
狩りをまりさに任せておうちでゆっくりしていたれいむたちは、野生とは思えないぐら
いきれいな肌をしていたものだが、今では見る影も無い。
「ゆっ、ごはんだよ」
まりさが帽子を傾けると、食べ物が零れ落ちる。
「ゆっ! むーしゃむーしゃ、し、し、し、しあわせええええ!」
「「「むーちゃむーちゃ、ちあわちぇぇぇ!」」」
「ゆ、こ、声が大きいよ」
まりさは慌てて周囲に気を配る。
「ゆ!」
そして、幾つもの気配を感じてしまった。
「ゆ、ゆゆ……長!」
まりさのその声に、れいむたちは食事を中断してその視線の先を追う。
「……はぁ~っ、そこまでよ」
長ぱちゅりーと、幹部たちと屈強な何匹かのゆっくり、そしてれいむとみょんの夫婦が
まりさ一家を取り囲んでいた。
「ゆ、ゆ、ゆあああああ」
その顔ぶれに、れいむたちの声を聞きつけてやってきたのではなく、はじめから自分の
後をつけていたのだろうと悟ったまりさの顔が絶望一色に染まった。
「あなたたちには、一度チャンスを与えたわ。……まりさは、以前の行いのおかげで二度
目のチャンスまで与えられたのにねえ……」
「ごべんなざい! ごべんなざい! れ、れいぶとおちびぢゃんが、このままじゃむーし
ゃむーしゃできなくで死んじゃうっでいうがら仕方ながったんです!」
群れの広場で、もうすっかり板についた感のある土下座を披露するまりさ。
これに対する群れのものたちの反応は、うんざり、という以外なかった。
「もういいから、こいつもついほーするんだぜ。そろそろえっとうだし」
「そうだねー、それでいいねー」
「れいむもそれでいいよー」
出る意見も、どことなく投げやりなものが多い。
「むきゅ、それじゃあ、まりさはれいむとみょんのおうちのごはんを盗んだ罪と、それを
渡すために追放になったものたちと会っていた罪で追放にするわ」
「ま、まっで、まっで」
「まりさ、はやく行きなさい」
「だ、だって、だって、家族のためにしょうがなかったんだよぉぉぉ! 家族が、おなか
が減って死んじゃうって泣いてるんだよぉぉぉ! これを助けるのはとーぜんでじょぉぉ
ぉ! みんな、家族がたいっせつでじょぉ! まりざだって、まりざだってそうなだけだ
よぉぉぉ」
なんだか段々と開き直ってきたまりさであるが、皆それを冷ややかに眺めている。
群れで最もまりさのことを信頼していたみょんとれいむを裏切ったのだ。以前はれいむ
たちに向けられていた悪意が今やまりさに向けられてしまっている。
そして不幸なことに、まりさはいまいちそれに気付いていない。
どことなく、自分だけは泣いて謝って情に訴えれば誰かが庇ってくれると甘い考えを持
っているところがあった。
「まりさ」
例の、おうちに居候させたらごはんを盗まれたれいむが、まりさの前に跳ねてきた。
「れ、れいぶ、ご、ごべんねえええええ! でも、でも、しょうがながったんだよ。家族
のために!」
「家族のため、家族のため……たしかに家族はたいっせつだけど、まりさはれいむたちは
どうなってもいいんだよね? まりさの家族のためなら、しょうがないんだよね? ……
まりさは、まりさはゆっくりしてないよ」
「れ、れいぶぅ」
「そんなに家族がたいっせつなら、この前いっしょについほーされてればよかったんだよ」
「ゆ゛……ゆびぃぃぃぃぃぃ」
「むきゅ……まりさ、家族のためと言うけど……群れは大きな家族なのよ。自分の家族の
ためと言って、群れのものに迷惑をかけるまりさは、もうぱちゅたちの家族とは認められ
ないわ」
「お、おざぁ……ゆ゛……ゆっぐり、ゆっぐり」
もう誰も味方はいなかった。
まりさは、追放刑に処された。
「どぼじで……どぼじで……まりざは、家族のために……それが、それがいげないごとだ
っていうのぉぉぉぉ!」
「まりさ」
と、言ったのはありすだった。
「長の話をまったく理解してないわね……群れはたくさんの家族が集まってできている大
きな家族なのよ。例えば、まりさ似のおちびちゃんが、もう一人のおちびちゃんのためだ
と言ってれいむ似のおちびちゃんをゆっくりできなくしたら、叱って止めさせて、それで
も止めなかったらおしおきしたり、最悪、おうちから追い出さないといけないでしょ」
「……ゆ?……」
まりさの呆けた顔を、ありすは哀れみをこめた目で見やった。
「……そうか、まりさにはそういうことわからないのね。まりさは自分が家族にしてたよ
うに、群れも自分にあまあまなのがあたりまえ、と思っているのね。でもね、まりさ……
家族ってそういうものじゃないと思うわ」
そしてまりさは、追放された。
「ゆひぃぃぃぃ、どぼじで……どぼじで」
「おにゃかすいちゃよぉ……」
「ゆぴっ、ゆぴぃ……」
「ゆっくちできにゃぃよぉ……」
「おとうしゃん、なんちょかちてよ……」
「ゆ、ゆぅぅぅ……」
まりさ一家は、群れへの未練を感じつつ、ずーりずーりと這っていた。
道々、なんとか食べられる草などを見つけて食べた。
しかし、もうそれは食事と呼べるようなものではなかった。
獲れるのは、成体ですら吐き出してしまうような苦い草ばかりなのだ。それでもまりさ
が吐き気をこらえつつそれをある程度の細かいサイズに噛み千切って、むーしゃむーしゃ、
すなわち咀嚼をせずにそのまま飲み込むのだ。
飲み込んでさえしまえば、ゆっくりの持つ餡子変換能力によって、少しは栄養になる。
「とりあえず、おうちを探さないと……」
これまで、野宿していたというれいむたちの話を聞いて、まずまりさが思ったのはそれ
だ。しかし、そうそうおうちに適した洞窟や木の洞などは見つからない。
「ゆゆぅ、なんとかしないと……」
幸いここ数日は雨が降っていないが、もしも降ったらおしまいだ。繁みなどである程度
は凌げるだろうが……。
「ゆぅ、もう暗くなってきたからすーやすーやしようね」
結局おうちは見つからず、繁みに入って眠ることにした。
「ゆぴぴぴぴぴ!」
子れいむの一匹が、明らかに非ゆっくり症と見られる症状を呈したのはその晩だ。
「ゆわわわ、ゆっくりしてね、すーりすーり」
「ゆっくりしてね、ぺーろぺーろ」
まりさとれいむが必死にゆっくりさせようとするが、ゆっくりできなさが一線を超えて
非ゆっくり症になってしまえば、その程度の「ゆっくり」では回復しない。
美味しいごはんや、ふわふわの寝床など、要するに今すぐ調達など不可能なものを与え
ない限り、症状は治らない。
「ゆっぴぃぃぃぃ、にゃんとかちろぉぉぉ!」
「おとうじゃんだりょ! なんとかするのじぇ!」
姉妹まりさがそう叫びながらまりさに体当たりをしてきた。
勝手な言い分ではあるが、子まりさたちは、まりさが合流したことによって元から持っ
ていたまりさへの極度の依存心をよみがえらせており、とにかくまりさがなんとかするべ
きだと思っていた。
「ゆゆぅ……ごべんねえ……」
「ごべんじゃにゃくて、にゃんどがじろぉぉぉ!」
「ゆ゛ぴぃぃぃぃ! ゆっくちでぎにゃいのじぇぇぇぇぇ!」
「お、おちびちゃん!」
甲高い子まりさたちの声に、まりさはハッとして言った。
「声が大きいよ! もう夜なんだよ! そんな声を出していたら」
「うー!」
れみりゃが来るよ。と続けようとした正にその時であった。
「うー! あまあまがいるどぉ~!」
「うー! あまあま~」
「うー! うー!」
声を聞きつけて、夜間の狩りに出ていたれみりゃ親子に発見されてしまったのだ。
これまでは、暗くなれば死んだように眠っていたのだが、今日はまりさがいた。つまり
は怒りやら何やらのぶつけ先があった。それゆえに子まりさたちは大声を出してしまい、
恐ろしい捕食種を呼び寄せてしまったのである。
「「「れ、れみりゃだぁぁぁ!」」」
恐怖に引きつった声を上げ、まりさ一家はこのような場合に唯一とれる手段である逃走
にかかった。
しかし、非ゆっくり症の子れいむはもちろん、ろくに食べていないれいむと他の子供た
ちも跳ねる速度は凄まじく遅かった。
「うー!」
成体サイズのれみりゃが、あっという間にれいむの上に到達し、降下する。
「いだいぃぃぃぃ、やべでええええ!」
れいむは頭にかぶりつかれ、牙と顎の力でガッチリ固定されてしまった。
「うー! うー!」
「うー! うー!」
もう二匹の子供と思われるれみりゃは、四匹の子供を捕獲した。
子供と言っても、成体一歩手前の大きさであり、一匹の子れみりゃが二匹の子まりさと
子れいむを捕まえて運ぶことができた。
「ゆ゛……ゆ゛……ゆ゛……」
まりさは震えていた。まりさだけはここ数日ある程度の食事をしていたのと、元からお
うちで食っちゃ寝生活のれいむたちよりも体力があるために逃げるのが速かったのだ。
れみりゃに挑んでも勝てないのは嫌というほどわかっている。
「ま、まりざぁぁぁ、だずげでええええええええ!」
「おとうじゃん、たちゅげでええええ!」
「は、はやぐするのじぇぇぇぇ、まりしゃたべられちゃうのじぇぇぇぇ!」
「ゆえええええん、ゆえええん」
「ゆぴ、ゆぴ、ゆぴぴ」
れみりゃの牙にかかったれいむたちがまりさに助けを求める。
「ゆ゛ひぃ、ぞ、ぞんなごと、言っだって……」
そんなことは、無理である。通常種と呼ばれるまりさ種がれみりゃに勝つなど、ほぼ不
可能である。
「「「うー!」」」
れみりゃ親子の六つの目が放つ視線が、まりさを射抜いた。
「ゆ゛……ゆ゛……ゆっぐりごべんねええええええ!」
そう叫んで、まりさは逃げ出した。
「ば、ばりさあああああ、どごいぐのぉぉぉぉぉ!」
「お、おとうじゃん、おとうじゃん、おとうじゃぁぁぁぁん!」
「いぎゃないでほしいのじぇぇぇ! まりしゃ、いいごにするのじぇぇぇ!」
「もどってぎちぇぇぇ!」
「ゆぴ、ゆぴ、ゆぴ」
家族の恐怖に彩られた声を受けながら、まりさは必死に跳ねた。
「うー!」
「「うー! うー!」」
それを追わずに、れみりゃ親子は、羽ばたいた。どうせあのまりさを狩っても運ぶのは
不可能である。
「ゆっぐりごべんね! ゆっぐりにげるよ!」
まりさはれみりゃ親子が逆方向に去ってしまったのには気付かずに必死に跳ねる。
「か、家族が……家族が……」
まりさのあんよは自然に群れへと向いていた。
また、群れに入れてもらおう。
れいむたちが死んだのは悲しいことだが、まりさだけならばきっとまた群れに迎え入れ
てくれる。
まりさは決断した。
いつもの、決断であった。
手遅れで、今更それをしてももうなんの意味も無い、いつもの決断であった。
翌朝――
「まりさが来てる?」
長ぱちゅりーは、どうでもよさそうに言った。
「ゆん」
「忙しいんだけど、しょうがないわね」
広場に行くと、そこにはまりさがいた。報告にあった通り、まりさだけだ。
「まりさ、どうしたの。あなたは追放されたのよ」
「れ、れいぶだちがああああああ! れ、れびりゃにぃぃぃぃ!」
「むきゅ」
その一言で事情は了解できた。れいむたちはれみりゃに襲われ、まりさはなんとか逃げ
延びたのだろう。
「それで?」
「ゆ゛ぅ……ゆ゛?」
「それで、なんで戻ってきたの。あなたは、追放されたのよ」
そこで、はじめてまりさはぱちゅりーの自分を見る目が冷淡なことに気付いた。
いや、よく見れば、周囲にいる群れのものたちも、同じ目をしている。
まりさは、なぜ自分がそんな目で見られるのかわけがわからずに戸惑う。
「ま、まりざは……もういっがい群れに入れてもらおうと……」
「ふぅーん」
長は気の無い返事をした。まりさの態度から、どうも嫌われもののれいむたちがいなく
なった今、自分が群れに復帰するのが当然許されるだろうと思っていたらしいことを察し
て、とうとう本格的に失望したのである。
「まりさ……」
一時は、幹部にとまで考えていたまりさの凋落っぷりに長は一抹の憐憫を覚えたものの、
それを圧する失望が、同情的な言葉を続けることを止めさせた。
「みんなは、どう思う?」
「れいむははんったいだよ!」
長の問いに真っ先に言ったのはれいむだった。例の、みょんの番のれいむである。
「れ、れいぶぅぅぅぅぅ、どぼじでぞんなごと言うのぉぉぉぉ! ……は、はんぜいじで
ます! まりざ、はんぜいじでますぅぅぅ!」
「こう言ってるけど?」
「まりさは、うそをついてるよ!」
「へえ、どんな?」
「れいむたちがれみりゃに連れてかれたっていうのが、うそだと思うよ!」
「ゆ゛、う、うぞじゃないよ!」
「まりさは黙ってなさい。それで?」
「きっと、そうやってまりさだけまた群れに入れてもらって、みんなのごはんを盗んで、
群れのお外にいるれいむたちに渡すつもりなんだよ!」
「ゆ、ち、違うよ! そんなごどじないよ! ほんどうに……ほんどうにれみりゃに」
「むきゅ、なるほど」
周りのものたちもれいむの意見に同意を示す。
皮肉にも、これは皆がまだまりさを買いかぶっているせいであった。まりさのことだか
ら家族を見捨てたりはしないだろう。そして、まりさのことだから自分の家族のためなら
どんな嘘でもつくし、どんなことでもやるだろう、と思っているのだ。
長は、もしかしたら本当かもしれない、とは思ったものの証拠は無いし、むしろそうい
うことにして群れ復帰を拒む方がよいと思ったのでれいむの意見に全面的に賛同した。
まりさは、追いたてられた。未練たっぷりに群れの外れから動かないのに苛立った荒っ
ぽいものたちに体当たりを喰らって、ようやく去って行った。
「ゆひぃ、ゆひぃ……」
どうしてこんなことに。
まりさはあてもなく彷徨っていた。
「まりざ、あんなに、あんなにがんばっだのに、どぼじでごんな目に……」
まりさの頑張りは事実であり、みんなそれを認めていた。
長などは、幹部候補に考えていたほどだ。
ただ、その頑張りを捧げられたものたちだけがそれを認めず、それを享受するのを当た
り前に思っていた。
そして、まりさもその無駄な献身を続けていた。
りこんっ、するという選択肢を示され、一時はまりさ自身もその気になったのに結局決
断できなかった。
どんなに酷い目にあわされても、いざ目の前で泣かれると家族のためにと称して自分を
案じてくれたものを裏切り、群れの掟を破る。
さらに、いつまでも自分は被害者であり、みんなはそれに同情してくれているという勝
手な思い込み。
全て、まりさのいい加減さが招いた結果である。
そして――
「ゆひぃぃぃぃ、もういいよ……もう……まりさ、永遠にゆっぐりずるよ……」
ごろりと転がって、まりさは目をつぶった。もう、このまま永遠にゆっくりしたい。
「ゆぅ……ゆっくり、するよ……もう、もう狩りにいがなくていいんだよね」
安らかな顔で、まりさは呟く。
そんな死の間際のゆっくりと思い定めたそれすらも許されない運命に、思いを致すこと
もなく――
「うー! うー!」
「ゆ゛!」
本能を刺激する声に目を覚ます。どのぐらい寝たのか、辺りはもう薄暗い。
「うー!」
れみりゃが、既にまりさを真上から見下ろしていた。
「ゆわわわわ」
「うー! でっかいのみっけたどー!」
「ゆ゛ぎゃああああ、やべでええええ!」
まりさはすぐに立ち上がって跳ねようとするが、上から降って来たれみりゃによって地
面に叩きつけられた。
「うー!」
「だずげでええええ! やべでええええ!」
れみりゃは、まりさを噛んだまま空に舞い上がる。
行き先は、断崖にある横穴を利用したれみりゃの巣だ。
「うー!」
「うー!」
二匹のやや小さめのれみりゃが、獲物をくわえて帰ってきたれみりゃを嬉しそうに迎え
る。
「うー、おちびたち、でっかいくろしろがいたんだどー、これであんしんして冬をこせる
どー」
「「うー! うー!」」
「ゆひぃぃぃぃぃぃぃ」
「さっそくアレをやるんだどー」
れみりゃが再びまりさに噛み付いて強引にまりさのあんよが横を向くように動かす。
「「うー! うー!」」
小さめのれみりゃたちが口に尖った棒をくわえていた。
「ゆ゛! や、やべ!」
ざくりざくり、とまりさのあんよが切り刻まれていく。
「うー! これでこいつあるけないどー!」
「「うー! うー!」」
「それじゃ、奥に持ってくどー」
「ま、まりざの、あんよが……もうぴょんぴょんでぎないよ……」
れみりゃのおうちの奥には、先客がいた。
成体サイズのれいむが一匹、子供のれいむとまりさが二匹ずつ。
「……ゆぅ? ゆゆゆゆゆ! ば、ばりざ!」
「ゆ、ゆゆ!?」
それは、れみりゃにとっ捕まったまりさの家族たちであった。
「ゆ、お、おとうしゃんがにゃんでここに?」
「ゆ、ゆゆ、どうしたんだじぇ……ゆ? お、おとうじゃんなのじぇ?」
「うー! なんだおまえ、きのー逃げたやつだったんだど」
そのれみりゃの言葉を聞いて、困惑していたばかりだったれいむたちの顔に影がさす。
「み、みんないぎでたんだねぇぇぇぇぇ! よがったよぉぉぉぉ!」
「ふ……ふざけるなぁぁぁぁ! れいむだぢを見捨てで逃げだぐせにぃぃぃぃ!」
「ゆ、ゆゆ、そうらよ! おとうしゃん、まりしゃたちを見捨てたんだじぇ!」
「ゆ、ゆゆ」
途端に、れいむたちはまりさを激しく責め出す。そんなことを言っても、あの場ではさ
っさと逃げるのは仕方がないことだ。しかし、見捨てられた方としては感情として納得し
にくいし、何より元々れいむたちは自己中心的でまりさが自分たちのために何かするのが
当たり前と思っている。
「うー、なんかもめてるけど、れみぃの知ったこっちゃないんだどー」
「うー!」
「うー、うー」
れみりゃたちは、まりさたちをすぐには殺さなかった。それどころか、できるだけ長く
生かして餡子を少しずつ吸っていた。
にがにがな草が大量に蓄えてあり、それを無理矢理に食べさせて餡子を補充させるのだ。
逆らえば、尖った棒でぷーすぷーすされる。
捕食種のれみりゃは、死ぬか死なないかの加減をよく心得ており、巧みに中枢餡を刺激
することで凄まじい激痛をまりさたちに与えた。
「おきゃあしゃん……」
「すーりすーりしてほしいんだじぇ」
「ゆぅ、れいみゅも、れいみゅも」
「ゆぴぴ、ゆぴぴ」
「ゆん、すーりすーり、すーりすーり」
れみりゃが眠っている間、れいむたちはれみりゃを起こさぬように小さな声で精一杯の
ゆっくりを得ようと、傷付いたあんよを必死に動かしてこの状況で唯一許されるすーりす
ーりをする。
非ゆっくり症になって以来、まともに話せない子れいむも、この時ばかりは少しゆっく
りしているように見えた。
「ゆぅ……」
まりさは、それを少し離れた所で見ている。
「……」
時々それに気付いたれいむたちに睨まれて、いたたまれないように目を逸らす。
まりさも、すーりすーりしたかった。
しかし、家族を捨てたまりさのことを敵視するれいむたちは、それを許さない。
れみりゃには従順なれいむたちが、そいつを離れた所に置いてくれ、と食ってかかるよ
うに言ったほどである。
れみりゃは、すーりすーりしようとするまりさをれいむたちが拒絶し罵倒するのをうる
さく思っていたので、おとなしくすることを条件にその通りにしてやった。
「「「すーやすーや」」」
すーりすーりをして、幾許かのゆっくりを補充したせいであろうか、捕食種の越冬用食
料という境遇にも関わらずほんの少しだけゆっくりした顔でれいむたちは眠る。
「ゆぅぅぅ……」
まりさは、悲しそうにそれを見ているだけ。
もう、全くゆっくりすることなどなくなった。
「まりさは……」
小さな、小さな声で呟く。
どこで間違ったのか。
過去を遡っていき、様々なところで別の道に行くべき道筋が示されていたことに気付く。
もちろん、今更気付いたってなんの意味もない。
違う選択をすれば、群れの幹部になってゆっくりできた未来すらありえた。だが、むし
ろその想像は、まりさをゆっくりできなくするばかりだった。
「ありす……れいむ……みょん……たずげでよ……」
自分によくしてくれたものたちのことを思い出す。
その頃、ありすは少々荒っぽく見えるが心根の優しいまりさとよい感じになっており、
れいむとみょんは越冬後の春に行う子作りのことであれこれと楽しい想像をしており、ま
りさのことを思い出すことなど滅多に無かった。
そんなことは知らぬまりさは、みんなが「ゆっくりしていってね!」と言う幻影を見る
とようやくまどろみ始める。
それが、まりさの残りのゆん生の全てになった。
終わり
書いたのはすぐに「じゃ、やりたいようにやりゃいいじゃねえかおれはもう知らん」に
なるのるまあき。
見ての通り、よくある「でいぶな番と子供たちに虐げられながらも唯々諾々とこれに従
う善良と称するまりさの話」を見て「むしろこいつの方が腹立つわ」と思って書いた作品
なのぜ。
過去作品
anko429 ゆっくりほいくえん
anko490 つむりとおねえさん
anko545 ドスハンター
anko580 やさしいまち
anko614 恐怖! ゆっくり怪人
anko810 おちびちゃん用のドア
anko1266 のるま
anko1328 しょうりしゃなのじぇ
anko1347 外の世界でデビュー
anko1370 飼いドス
anko1415 えーき裁き
anko1478 身の程知らず
anko1512 やけぶとりっ
anko1634 かわいそうかわいそう
anko1673 いきているから
anko1921 理想郷
anko2087.2088 とんでもないゲス
anko2165 面の皮があつい
anko2200 けんっりょく
anko2547 絶対に渡さない
自業自得 群れ 自然界 人間なし 先に前編読んでね
「おちびちゃんがあんなことしたのも、元はといえばむのーなまりさがちゃんと狩りをし
てこないからだよ!」
というのが、れいむの言い分であった。
一理はあるが、一理だけである。
まりさは、ますます励むが、既に限度を超えた先に行っているのだ。もう十分な食料を
備蓄し、あとは貯蔵庫からの分配を受け取れば越冬は大丈夫と見て狩りを止めているもの
もいるような時期である。
獲るものが無いのだから、ただひたすら跳ね回って疲労していくだけである。それでも
なんとか僅かばかりの食料を確保した。
量はもちろん、質はもはや下の下である。食べられなくはない、というレベルだ。
それに文句をつけつつも、食べるものはそれしかないのだから仕方なくれいむたちは食
べていた。子供たちも、ある程度成長して不味いものを食べただけで食べた以上に吐いて
死に瀕するようなことはなかった。
「ゆぅ、まりしゃまりしゃ」
「ゆん」
まりさが狩りに行き、れいむが昼寝していた。そんな時に、姉まりさが妹まりさに声を
かけた。
「まりしゃ、また狩りにいくのじぇ」
「ゆゆ!?」
この二匹の間で「狩り」と言えば、狩場はあそこのことだ。
「でも、おかあしゃんがだめっていっちゃのじぇ?」
おとうさんも駄目だと言っているのだが、そんなもん別に気にすることもないと思って
いるようだ。
れいむは、愚鈍ではあったが、最低二つのことだけはきちんと理解していた。まりさが
いなければ自分たちは餓死すること、群れから追放されたら自分たちは生きていけないこ
と。
だから、長のおうちの貯蔵庫での「狩り」は絶対にやってはいけない、と言って聞かせ
ていた。
「ゆへっ、ばれなければいいんだじぇ」
「ゆゆ……」
「おいちーあまあまもあるんだじぇ、まりしゃ、もうにがにがな草にゃんかたべちゃくな
いのじぇ」
「ゆぅ」
姉まりさは、貯蔵庫に美味しいごはんがたくさんあるのを見ていた。
妹まりさとて、苦い草などもうごめんだと思っているのは姉まりさと同じである。
「でも、もし、もしもばれちゃら、どうするにょ?」
「ゆふん、だいじょーぶらよ」
ひーそひーそと、姉まりさは妹まりさに何かを告げる。
「ゆゆっ、それならあんしんなのだにぇ!」
「ゆん!」
子まりさたちは、そろーりそろーりとおうちを出た。
長のおうちへ行く。いつかのばかれいむが見張りをしていてくれれば、と祈りつつ跳ね
ていくと……
「ゆ?」
「だれも、いにゃい?」
なんと、見張り自体がいなかった。
「ゆゆゆっ!」
「ゆっ! ゆっ!」
これ以上ない好機と見た子まりさたちは、大急ぎで跳ねて行く。
「いにゃい、やっぱりいにゃいよ!」
「ゆゆーん! いまのうちなのじぇ!」
必死に跳ねていく二匹の眼前に、山と積まれたごはんの山が現れた。
越冬前の分配を控えただけあって、その量は膨大である。
「「ゆわわわわぁ!」」
子まりさたちは目を輝かせて山に向かう。
「「むーちゃむーちゃ」」
帽子に入れる前に、まず食えるだけ食ってしまおう。そう思った子まりさたちは幸せそ
うにかぶりつく。
「「ちあわ」」
「そこまでよ」
久しぶりの食後の歓喜を妨げたのは長ぱちゅりーの声だった。
「「ゆっ!?」」
振り返った先には、長と、その横に幹部のまりさがいた。
「くそちびども! げんこーはんなのぜ!」
鬼の形相で幹部まりさが凄むと、そこは所詮まだ赤ちゃん言葉の抜けていない子ゆっく
りである。ゆわゆわと震えしーしーちびって泣き出した。
「まりさ、捕まえておいてね。ぱちゅはみんなを集めるわ」
「ゆぅ、ゆぅ、ゆぅ」
まりさが狩りから帰ってきた。
広場に、群れのゆっくりたちが集まっている。
いつか見た光景に、嫌な予感がした。
あの時は、その中心に捕らえられたおちびちゃんがいて――
「ゆ! ど、どうしたの? なにかあったの!」
まりさが叫ぶと、ゆっくりたちはまりさを見た。
「ゆぅ……」
みんな、まりさをなんと言ったらいいのかわからない、という目で見ていた。
「どいてね! どいてね! まりさを通してね!」
まりさが言うと、さーっと道が開けた。その先にあるものは、いつか見た光景。
違うのは、押さえつけられている子供が一匹ではなく二匹だということだ。
「どぼじで……どぼじで……だめだって、言ったのに……どぼじで」
れいむが、呆然としながら呟いている。
自分の言いつけを破られたことにいささかショックを受けているようだ。
しかし、散々甘やかされた子供たちは、今やれいむでも理解していることすら理解でき
なくなってしまっていた。子まりさたちに比べれば、れいむはまだ自分が生きるために最
低限必要なことを理解し、そのためには時には引くこともできた。
「ま、まりざぁ!」
「れ、れいむ、どうしたの? ま、まさか……まさか……」
「むきゅ、たぶんまりさが思っている通りよ。この子たちは、貯蔵庫へ盗みに入ったわ」
「……ゆ゛、ゆ゛っ……」
まりさは口をぱくぱくさせてなんとか「ゆ」とだけ言うのが精一杯のようだ。
「約束は覚えているわね。……まりさ、れいむ、あなたたちの一家をこの群れから追放す
るわ」
わかってはいたことだが、改めて「追放」という重みを持った言葉が長の口から発され
ると、群れのゆっくりたちがざわめいた。
「ゆ゛……ゆっぐりごべんなざぁぁぁい!」
まりさは、ずしゃーっと顔面を地面にこすりつけるゆっくり式土下座とでも言うべき姿
勢で叫んだ。
「ごべんなざい! ごべんなざい! どうか、どうか、どうかついほーだけはゆるじでぐ
だざい!」
まりさが必死に謝る。長や幹部はそれを冷淡に見下ろしていた。
群れのものも概ね、かわいそうだけど仕方ないね、という感じであった。
前回、庇ったものたちも、こうもあっさりと長との約束が破られたのを見て同情しつつ
も表立って庇い立てするのを躊躇っていた。
「……」
れいむは、黙っている。
ここでれいむもまりさのように謝れば、また群れのものたちの感情も違ってくるであろ
うに、全てをまりさに投げていた。
この辺り、れいむの限界で、所詮は嫌なことは全てまりさに任せてしまう習慣が染み付
いてしまっている。
「ごべんなざい! ごべんなざい! ごべんなざい!」
まりさは、もうあれこれ考えることすらできなくなったのか、ただひたすらそれだけを
口にしている。
「まりさ、約束は約束よ」
長が、感情のこもらぬ声で言った。
内心、嫌な仕事はさっさと終わらせてしまいたい、と思っていた。
嫌な仕事――まりさ一家を追放すること――そうなることがわかっていながらそれを事
前に防ぐための方策はとらずにいたこと。
あの我慢することを知らない子供たちは、また必ずやる。
だから、むしろ誘うように貯蔵庫への道をがら空きにしておいたのだ。
見張りがいなかったわけではない。
見張りは、逆側――つまり長のお部屋へ続く道の方にいて、そこから貯蔵庫への道を見
張っていたのだ。
非情の処置であるが、越冬前に不安を取り除いておきたかったのだ。
れいむと子供たちの自己中心ぶり、倫理観欠如は長の目から見ると一線を超えていた。
おとなしく貯蔵庫からの分配を受け取って越冬に入り、そして失敗して永遠にゆっくりし
てくれればよいが、食料を奪うために他のものを襲ったりしないとは思えなかったのであ
る。
「ごべんなざい! ごべんなざい! ゆるじでぐださい! おちびぢゃんは、まだ、まだ
おちびぢゃんなんでずぅぅぅぅ」
「……」
長が、冷徹にまりさを見下ろす。
あれが子供なのはわかっている。
こちらは、その子供の躾をろくにせず、最低限のルールすら守らせることのできないま
りさとれいむの親としての無能さを問題にしているというのに、それがわかっていない。
「ばかおやぁぁぁぁぁ! いいかげんにちろぉぉぉぉ!」
突如、姉まりさが叫んだのはその時である。
押さえつけられて今までおとなしくしていたのに、いきなりの大声だ。
「ゆ、お、おちびちゃん……」
「おばえがちゃんとあやまらにゃいから、ついほーになっちゃうのじぇ!」
「ゆ、ゆゆ?」
「おまえりゃもだじぇ!」
と、姉まりさは押さえつけられながらも、ぐにっと顔を別の方に向けた。そちらは群れ
のゆっくりたちがいる。
「おまえりゃは、にゃんでまりしゃをかばわにゃいんだじぇぇぇぇ! おかげでまりしゃ
たちはついほーされそうなのじぇ! このやくたたじゅ!」
みんな、長ですら呆然とそれを聞いていた。
いやいやいやいや――何言ってんの?
それが偽らざる皆の気持ちであった。
「はぁ~っ」
大きなため息は、長だ。
長は、さすがに一番早くそれに気付いた。
姉まりさは、前回の時と同様、まりさが謝り、他のものがそれを庇えば自分は何も罰を
受けなくていいと思っているのだ。
物事を自分の都合のいいように解釈する傾向のあるゆっくりとは言っても、ここまで行
ってしまっているのは珍しい。
「きいちぇるの! はやく、はやくかばうんだじぇ! せいっさいっされちゃいのじぇぇ
ぇぇ!」
「……うるさいんだぜ」
呆然と罵倒され続けていた群れのものたちの中のまりさが、搾り出すように言った。
「うるしゃいって、だれにいってるんだじぇ! いいからはやく」
「おまえに言ってるんだぜ! このくそちび! せいっさいっされたいのかぜえ!」
「ゆぴ!」
まりさが憤怒を顕わに凄むと、姉まりさの強気はあっさりと崩れた。
「長! はやくこいつらついほーしちまうのぜ!」
「ゆん、そうだよー、もう相手にしてらんないねー、わからないよー」
「ついほー、ついほー!」
「ゆっ! ついほー、ついほー!」
「「「ついほー! ついほー!」」」
遂に、群れからついほーコールが沸き起こった。ようやく姉まりさの言っていることの
意味を理解した皆は、怒りと、そしてそれを上回る「もうこいつら駄目だ」という諦観に
支配されていた。
「お、おちびぢゃん! はやぐ! はやぐあやばっでね!」
姉まりさは、まりさにそう言われてもゆわゆわと震えていた。咄嗟に、謝ることができ
なかった。謝罪など、ろくにしたことがないのだ。
「むきゅ、それじゃあ、追放よ。二度とこの辺りに来ないこと、うちの群れのものに話し
かけないこと……みんなも、相手をしたら駄目よ」
追放刑は、完全に群れとの関係が断たれる。一度二度話しかけただけならば無視される
だけだが、それが何度も続けばせいっさいされることもあるのだ。
「ごべんなざい! ゆるじで! ゆるじでえええ! みんな、みんな、ごべんなざい!
まりざに、まりざにめんじでゆるじでえ!」
「ゆん、長」
涙と涎を振りまきながら土下座するまりさを見ていたゆっくりたちの中から、一匹のれ
いむが跳ねて前に出た。
「まりさだけは許してあげようよ」
「ちぃーんぽ、まりさだけならみょんも許していいと思うみょん」
それに続いたのはみょんだ。このれいむとみょん、番である。
れいむは、独り身の頃は狩りの獲物が少なくて困っていたところを何度もまりさに助け
て貰っていた。
みょんは、れいむにまりさのことを聞いて、まりさのことをとても優しくてゆっくりし
ていると思っていた。
「ゆぅ……まりさだけなら、許してあげてもいいかもね」
「まりさは、狩りもうまいし、いつもがんばってるからねー、わかってるよー」
「ゆっ! まりさは許してあげようよ!」
そして、たちまちまりさだけは、との声が上がる。なんだかんだで、多くのものはあの
一家でまりさだけは例外と見ている。
それに、まりさのことを思っているものほど、まりさはあんなれいむとおちびちゃんと
は離れた方がゆっくり暮らせるはず、と思っていたのでむしろまりさだけを許し、れいむ
たちだけを追放するという提案を受け入れやすかった。
「ゆ! ま、まりざだけずるいよ!」
れいむは、慌ててまりさに食ってかかる。まりさ相手ならば、れいむは強気になれる。
しかし、すぐさま群れのものたちに引っ込めと罵倒されてしまった。
「……むきゅ、わかったわ……それじゃあ、まりさはちゃんと謝ったし、まりさだけは許
すことにするわ」
「ま、まっでね! れいぶとおちびぢゃんもゆるじであげでね!」
まりさは、食い下がる。だが、長も群れのみんなも、それだけは絶対に譲らなかった。
「どうしても、というのなら、まりさも一緒に追放ね」
長がそう言うと、まりさは折れた。
「ふ、ふざげるなぁぁぁ! まりざああああ!」
「ゆっぎゅちできにゃぃぃぃ!」
「やめちぇね! はなちちぇ!」
「ぷ、ぷきゅーすりゅのじぇ、こわいのじぇ? ……ゆわあ、やめぢぇ!」
「にゃんでぎょんなごちょに……お、おとーじゃん、だちゅけでええええ」
れいむたちは、群れでも屈強なものたちに連れていかれてしまった。
群れの境界線が明確に決まっているわけではないが、おうちが密集しているところから
少し離れた所まで引き摺られ、或いはくわえられて連れてこられた。
「さっさと消えるんだぜ」
幹部まりさに言われても、そこを動こうとしなかったれいむたちだが、幹部まりさに体
当たりを喰らったれいむがふっ飛び、さらにみょんが尖った棒を突きつけると、恐れをな
して跳ねて行った。
「精が出るわね。狩りの帰り?」
長ぱちゅりーにそう言われて、れいむとみょんの夫婦は頷いた。
「そろそろ、獲れるものがないでしょう」
「ゆん、今日はこれだけだよ」
「だいぶたまったから、えっとうできそうだみょん」
「それはよかったわ。……ところで、まりさはどう?」
「ゆぅ……やっぱり元気がないよ」
「じぶんは家族を捨てたって落ち込んでるみょん、あんな奴らのこと気にするな、って言
ってるけど……」
まりさは、家族が追放されて一匹になってからは、気落ちしてふさぎ込んでいた。
そこで、まりさを自分のおうちに引き取ったのがれいむとみょんである。二匹とも、ま
りさはそのうちにきっと立ち直ってくれると信じていた。今まで家族がいたおうちに一匹
で住んでいたら気が滅入るばかりで立ち直りに支障があると思っての申し出であった。
「何かあったらすぐに教えてね。ほんとうに、どんなことでもいいから」
「「ゆっくりりかいしたよ!」」
二匹と別れておうちに向かう。
「大丈夫、だとは思うけど……」
長は、呟いた。
れいむとみょんが、長のおうちを訪ねて来たのはそれからすぐのことである。
「どうしたの? まりさになにかあった?」
「ゆぅ……それが……まりさにというか」
「なんというか……ちぃーんぽ……」
「むきゅ?」
なんだか話しにくそうにしている二匹から、ぱちゅりーが話を聞き出す。
「むきゅぅ……」
話を聞いて、ぱちゅりーはゆっくりできない表情をした。
おうちに溜めてあるごはんが減っている。
そんな、いつか聞いたような話であった。
「まりさには、ごはんをあげているのよね?」
「ちぃーんぽ」
「長……まりさが……まりさが、盗んだの?」
そんなことは信じたくはないと思いつつ、状況的には留守番をしているまりさの犯行の
可能性が高いことに思い当たっているのだろう。
「減った量は、けっこうな量ね」
「ゆん」
「わかったわ。……まあ、たぶん、まりさでしょうね」
「いぃぃぃんぽ……」
「そ、そんなぁ……」
「でも、まりさは自分のためにそんなことはしないでしょうね」
「ゆ?」
「まあ、いつもの作戦でいきましょう」
「それじゃあまりさ! 行って来るね!」
「おるすばん頼んだみょん!」
「ゆぅ、ゆっくり、いってらっしゃい」
まりさを残して、れいむとみょんは狩りに出て行った。
しばらくすると、まりさもおうちから出てきた。
帽子が、少し膨らんでいる。
ぽよんぽよんと、周囲を気にしながら跳ねて行く。
群れから離れた所まで来ると、そこできょろきょろと辺りを見回した。
「まりさ……まりさ……」
小さな声が、聞こえてきた。
「ゆっ、れいむ」
まりさがそちらを向くと、繁みの中から、れいむと四匹の子ゆっくり、すなわち群れを
追放されたまりさの家族たちが姿を現す。
その姿は、一言で言えばボロボロであった。
狩りをまりさに任せておうちでゆっくりしていたれいむたちは、野生とは思えないぐら
いきれいな肌をしていたものだが、今では見る影も無い。
「ゆっ、ごはんだよ」
まりさが帽子を傾けると、食べ物が零れ落ちる。
「ゆっ! むーしゃむーしゃ、し、し、し、しあわせええええ!」
「「「むーちゃむーちゃ、ちあわちぇぇぇ!」」」
「ゆ、こ、声が大きいよ」
まりさは慌てて周囲に気を配る。
「ゆ!」
そして、幾つもの気配を感じてしまった。
「ゆ、ゆゆ……長!」
まりさのその声に、れいむたちは食事を中断してその視線の先を追う。
「……はぁ~っ、そこまでよ」
長ぱちゅりーと、幹部たちと屈強な何匹かのゆっくり、そしてれいむとみょんの夫婦が
まりさ一家を取り囲んでいた。
「ゆ、ゆ、ゆあああああ」
その顔ぶれに、れいむたちの声を聞きつけてやってきたのではなく、はじめから自分の
後をつけていたのだろうと悟ったまりさの顔が絶望一色に染まった。
「あなたたちには、一度チャンスを与えたわ。……まりさは、以前の行いのおかげで二度
目のチャンスまで与えられたのにねえ……」
「ごべんなざい! ごべんなざい! れ、れいぶとおちびぢゃんが、このままじゃむーし
ゃむーしゃできなくで死んじゃうっでいうがら仕方ながったんです!」
群れの広場で、もうすっかり板についた感のある土下座を披露するまりさ。
これに対する群れのものたちの反応は、うんざり、という以外なかった。
「もういいから、こいつもついほーするんだぜ。そろそろえっとうだし」
「そうだねー、それでいいねー」
「れいむもそれでいいよー」
出る意見も、どことなく投げやりなものが多い。
「むきゅ、それじゃあ、まりさはれいむとみょんのおうちのごはんを盗んだ罪と、それを
渡すために追放になったものたちと会っていた罪で追放にするわ」
「ま、まっで、まっで」
「まりさ、はやく行きなさい」
「だ、だって、だって、家族のためにしょうがなかったんだよぉぉぉ! 家族が、おなか
が減って死んじゃうって泣いてるんだよぉぉぉ! これを助けるのはとーぜんでじょぉぉ
ぉ! みんな、家族がたいっせつでじょぉ! まりざだって、まりざだってそうなだけだ
よぉぉぉ」
なんだか段々と開き直ってきたまりさであるが、皆それを冷ややかに眺めている。
群れで最もまりさのことを信頼していたみょんとれいむを裏切ったのだ。以前はれいむ
たちに向けられていた悪意が今やまりさに向けられてしまっている。
そして不幸なことに、まりさはいまいちそれに気付いていない。
どことなく、自分だけは泣いて謝って情に訴えれば誰かが庇ってくれると甘い考えを持
っているところがあった。
「まりさ」
例の、おうちに居候させたらごはんを盗まれたれいむが、まりさの前に跳ねてきた。
「れ、れいぶ、ご、ごべんねえええええ! でも、でも、しょうがながったんだよ。家族
のために!」
「家族のため、家族のため……たしかに家族はたいっせつだけど、まりさはれいむたちは
どうなってもいいんだよね? まりさの家族のためなら、しょうがないんだよね? ……
まりさは、まりさはゆっくりしてないよ」
「れ、れいぶぅ」
「そんなに家族がたいっせつなら、この前いっしょについほーされてればよかったんだよ」
「ゆ゛……ゆびぃぃぃぃぃぃ」
「むきゅ……まりさ、家族のためと言うけど……群れは大きな家族なのよ。自分の家族の
ためと言って、群れのものに迷惑をかけるまりさは、もうぱちゅたちの家族とは認められ
ないわ」
「お、おざぁ……ゆ゛……ゆっぐり、ゆっぐり」
もう誰も味方はいなかった。
まりさは、追放刑に処された。
「どぼじで……どぼじで……まりざは、家族のために……それが、それがいげないごとだ
っていうのぉぉぉぉ!」
「まりさ」
と、言ったのはありすだった。
「長の話をまったく理解してないわね……群れはたくさんの家族が集まってできている大
きな家族なのよ。例えば、まりさ似のおちびちゃんが、もう一人のおちびちゃんのためだ
と言ってれいむ似のおちびちゃんをゆっくりできなくしたら、叱って止めさせて、それで
も止めなかったらおしおきしたり、最悪、おうちから追い出さないといけないでしょ」
「……ゆ?……」
まりさの呆けた顔を、ありすは哀れみをこめた目で見やった。
「……そうか、まりさにはそういうことわからないのね。まりさは自分が家族にしてたよ
うに、群れも自分にあまあまなのがあたりまえ、と思っているのね。でもね、まりさ……
家族ってそういうものじゃないと思うわ」
そしてまりさは、追放された。
「ゆひぃぃぃぃ、どぼじで……どぼじで」
「おにゃかすいちゃよぉ……」
「ゆぴっ、ゆぴぃ……」
「ゆっくちできにゃぃよぉ……」
「おとうしゃん、なんちょかちてよ……」
「ゆ、ゆぅぅぅ……」
まりさ一家は、群れへの未練を感じつつ、ずーりずーりと這っていた。
道々、なんとか食べられる草などを見つけて食べた。
しかし、もうそれは食事と呼べるようなものではなかった。
獲れるのは、成体ですら吐き出してしまうような苦い草ばかりなのだ。それでもまりさ
が吐き気をこらえつつそれをある程度の細かいサイズに噛み千切って、むーしゃむーしゃ、
すなわち咀嚼をせずにそのまま飲み込むのだ。
飲み込んでさえしまえば、ゆっくりの持つ餡子変換能力によって、少しは栄養になる。
「とりあえず、おうちを探さないと……」
これまで、野宿していたというれいむたちの話を聞いて、まずまりさが思ったのはそれ
だ。しかし、そうそうおうちに適した洞窟や木の洞などは見つからない。
「ゆゆぅ、なんとかしないと……」
幸いここ数日は雨が降っていないが、もしも降ったらおしまいだ。繁みなどである程度
は凌げるだろうが……。
「ゆぅ、もう暗くなってきたからすーやすーやしようね」
結局おうちは見つからず、繁みに入って眠ることにした。
「ゆぴぴぴぴぴ!」
子れいむの一匹が、明らかに非ゆっくり症と見られる症状を呈したのはその晩だ。
「ゆわわわ、ゆっくりしてね、すーりすーり」
「ゆっくりしてね、ぺーろぺーろ」
まりさとれいむが必死にゆっくりさせようとするが、ゆっくりできなさが一線を超えて
非ゆっくり症になってしまえば、その程度の「ゆっくり」では回復しない。
美味しいごはんや、ふわふわの寝床など、要するに今すぐ調達など不可能なものを与え
ない限り、症状は治らない。
「ゆっぴぃぃぃぃ、にゃんとかちろぉぉぉ!」
「おとうじゃんだりょ! なんとかするのじぇ!」
姉妹まりさがそう叫びながらまりさに体当たりをしてきた。
勝手な言い分ではあるが、子まりさたちは、まりさが合流したことによって元から持っ
ていたまりさへの極度の依存心をよみがえらせており、とにかくまりさがなんとかするべ
きだと思っていた。
「ゆゆぅ……ごべんねえ……」
「ごべんじゃにゃくて、にゃんどがじろぉぉぉ!」
「ゆ゛ぴぃぃぃぃ! ゆっくちでぎにゃいのじぇぇぇぇぇ!」
「お、おちびちゃん!」
甲高い子まりさたちの声に、まりさはハッとして言った。
「声が大きいよ! もう夜なんだよ! そんな声を出していたら」
「うー!」
れみりゃが来るよ。と続けようとした正にその時であった。
「うー! あまあまがいるどぉ~!」
「うー! あまあま~」
「うー! うー!」
声を聞きつけて、夜間の狩りに出ていたれみりゃ親子に発見されてしまったのだ。
これまでは、暗くなれば死んだように眠っていたのだが、今日はまりさがいた。つまり
は怒りやら何やらのぶつけ先があった。それゆえに子まりさたちは大声を出してしまい、
恐ろしい捕食種を呼び寄せてしまったのである。
「「「れ、れみりゃだぁぁぁ!」」」
恐怖に引きつった声を上げ、まりさ一家はこのような場合に唯一とれる手段である逃走
にかかった。
しかし、非ゆっくり症の子れいむはもちろん、ろくに食べていないれいむと他の子供た
ちも跳ねる速度は凄まじく遅かった。
「うー!」
成体サイズのれみりゃが、あっという間にれいむの上に到達し、降下する。
「いだいぃぃぃぃ、やべでええええ!」
れいむは頭にかぶりつかれ、牙と顎の力でガッチリ固定されてしまった。
「うー! うー!」
「うー! うー!」
もう二匹の子供と思われるれみりゃは、四匹の子供を捕獲した。
子供と言っても、成体一歩手前の大きさであり、一匹の子れみりゃが二匹の子まりさと
子れいむを捕まえて運ぶことができた。
「ゆ゛……ゆ゛……ゆ゛……」
まりさは震えていた。まりさだけはここ数日ある程度の食事をしていたのと、元からお
うちで食っちゃ寝生活のれいむたちよりも体力があるために逃げるのが速かったのだ。
れみりゃに挑んでも勝てないのは嫌というほどわかっている。
「ま、まりざぁぁぁ、だずげでええええええええ!」
「おとうじゃん、たちゅげでええええ!」
「は、はやぐするのじぇぇぇぇ、まりしゃたべられちゃうのじぇぇぇぇ!」
「ゆえええええん、ゆえええん」
「ゆぴ、ゆぴ、ゆぴぴ」
れみりゃの牙にかかったれいむたちがまりさに助けを求める。
「ゆ゛ひぃ、ぞ、ぞんなごと、言っだって……」
そんなことは、無理である。通常種と呼ばれるまりさ種がれみりゃに勝つなど、ほぼ不
可能である。
「「「うー!」」」
れみりゃ親子の六つの目が放つ視線が、まりさを射抜いた。
「ゆ゛……ゆ゛……ゆっぐりごべんねええええええ!」
そう叫んで、まりさは逃げ出した。
「ば、ばりさあああああ、どごいぐのぉぉぉぉぉ!」
「お、おとうじゃん、おとうじゃん、おとうじゃぁぁぁぁん!」
「いぎゃないでほしいのじぇぇぇ! まりしゃ、いいごにするのじぇぇぇ!」
「もどってぎちぇぇぇ!」
「ゆぴ、ゆぴ、ゆぴ」
家族の恐怖に彩られた声を受けながら、まりさは必死に跳ねた。
「うー!」
「「うー! うー!」」
それを追わずに、れみりゃ親子は、羽ばたいた。どうせあのまりさを狩っても運ぶのは
不可能である。
「ゆっぐりごべんね! ゆっぐりにげるよ!」
まりさはれみりゃ親子が逆方向に去ってしまったのには気付かずに必死に跳ねる。
「か、家族が……家族が……」
まりさのあんよは自然に群れへと向いていた。
また、群れに入れてもらおう。
れいむたちが死んだのは悲しいことだが、まりさだけならばきっとまた群れに迎え入れ
てくれる。
まりさは決断した。
いつもの、決断であった。
手遅れで、今更それをしてももうなんの意味も無い、いつもの決断であった。
翌朝――
「まりさが来てる?」
長ぱちゅりーは、どうでもよさそうに言った。
「ゆん」
「忙しいんだけど、しょうがないわね」
広場に行くと、そこにはまりさがいた。報告にあった通り、まりさだけだ。
「まりさ、どうしたの。あなたは追放されたのよ」
「れ、れいぶだちがああああああ! れ、れびりゃにぃぃぃぃ!」
「むきゅ」
その一言で事情は了解できた。れいむたちはれみりゃに襲われ、まりさはなんとか逃げ
延びたのだろう。
「それで?」
「ゆ゛ぅ……ゆ゛?」
「それで、なんで戻ってきたの。あなたは、追放されたのよ」
そこで、はじめてまりさはぱちゅりーの自分を見る目が冷淡なことに気付いた。
いや、よく見れば、周囲にいる群れのものたちも、同じ目をしている。
まりさは、なぜ自分がそんな目で見られるのかわけがわからずに戸惑う。
「ま、まりざは……もういっがい群れに入れてもらおうと……」
「ふぅーん」
長は気の無い返事をした。まりさの態度から、どうも嫌われもののれいむたちがいなく
なった今、自分が群れに復帰するのが当然許されるだろうと思っていたらしいことを察し
て、とうとう本格的に失望したのである。
「まりさ……」
一時は、幹部にとまで考えていたまりさの凋落っぷりに長は一抹の憐憫を覚えたものの、
それを圧する失望が、同情的な言葉を続けることを止めさせた。
「みんなは、どう思う?」
「れいむははんったいだよ!」
長の問いに真っ先に言ったのはれいむだった。例の、みょんの番のれいむである。
「れ、れいぶぅぅぅぅぅ、どぼじでぞんなごと言うのぉぉぉぉ! ……は、はんぜいじで
ます! まりざ、はんぜいじでますぅぅぅ!」
「こう言ってるけど?」
「まりさは、うそをついてるよ!」
「へえ、どんな?」
「れいむたちがれみりゃに連れてかれたっていうのが、うそだと思うよ!」
「ゆ゛、う、うぞじゃないよ!」
「まりさは黙ってなさい。それで?」
「きっと、そうやってまりさだけまた群れに入れてもらって、みんなのごはんを盗んで、
群れのお外にいるれいむたちに渡すつもりなんだよ!」
「ゆ、ち、違うよ! そんなごどじないよ! ほんどうに……ほんどうにれみりゃに」
「むきゅ、なるほど」
周りのものたちもれいむの意見に同意を示す。
皮肉にも、これは皆がまだまりさを買いかぶっているせいであった。まりさのことだか
ら家族を見捨てたりはしないだろう。そして、まりさのことだから自分の家族のためなら
どんな嘘でもつくし、どんなことでもやるだろう、と思っているのだ。
長は、もしかしたら本当かもしれない、とは思ったものの証拠は無いし、むしろそうい
うことにして群れ復帰を拒む方がよいと思ったのでれいむの意見に全面的に賛同した。
まりさは、追いたてられた。未練たっぷりに群れの外れから動かないのに苛立った荒っ
ぽいものたちに体当たりを喰らって、ようやく去って行った。
「ゆひぃ、ゆひぃ……」
どうしてこんなことに。
まりさはあてもなく彷徨っていた。
「まりざ、あんなに、あんなにがんばっだのに、どぼじでごんな目に……」
まりさの頑張りは事実であり、みんなそれを認めていた。
長などは、幹部候補に考えていたほどだ。
ただ、その頑張りを捧げられたものたちだけがそれを認めず、それを享受するのを当た
り前に思っていた。
そして、まりさもその無駄な献身を続けていた。
りこんっ、するという選択肢を示され、一時はまりさ自身もその気になったのに結局決
断できなかった。
どんなに酷い目にあわされても、いざ目の前で泣かれると家族のためにと称して自分を
案じてくれたものを裏切り、群れの掟を破る。
さらに、いつまでも自分は被害者であり、みんなはそれに同情してくれているという勝
手な思い込み。
全て、まりさのいい加減さが招いた結果である。
そして――
「ゆひぃぃぃぃ、もういいよ……もう……まりさ、永遠にゆっぐりずるよ……」
ごろりと転がって、まりさは目をつぶった。もう、このまま永遠にゆっくりしたい。
「ゆぅ……ゆっくり、するよ……もう、もう狩りにいがなくていいんだよね」
安らかな顔で、まりさは呟く。
そんな死の間際のゆっくりと思い定めたそれすらも許されない運命に、思いを致すこと
もなく――
「うー! うー!」
「ゆ゛!」
本能を刺激する声に目を覚ます。どのぐらい寝たのか、辺りはもう薄暗い。
「うー!」
れみりゃが、既にまりさを真上から見下ろしていた。
「ゆわわわわ」
「うー! でっかいのみっけたどー!」
「ゆ゛ぎゃああああ、やべでええええ!」
まりさはすぐに立ち上がって跳ねようとするが、上から降って来たれみりゃによって地
面に叩きつけられた。
「うー!」
「だずげでええええ! やべでええええ!」
れみりゃは、まりさを噛んだまま空に舞い上がる。
行き先は、断崖にある横穴を利用したれみりゃの巣だ。
「うー!」
「うー!」
二匹のやや小さめのれみりゃが、獲物をくわえて帰ってきたれみりゃを嬉しそうに迎え
る。
「うー、おちびたち、でっかいくろしろがいたんだどー、これであんしんして冬をこせる
どー」
「「うー! うー!」」
「ゆひぃぃぃぃぃぃぃ」
「さっそくアレをやるんだどー」
れみりゃが再びまりさに噛み付いて強引にまりさのあんよが横を向くように動かす。
「「うー! うー!」」
小さめのれみりゃたちが口に尖った棒をくわえていた。
「ゆ゛! や、やべ!」
ざくりざくり、とまりさのあんよが切り刻まれていく。
「うー! これでこいつあるけないどー!」
「「うー! うー!」」
「それじゃ、奥に持ってくどー」
「ま、まりざの、あんよが……もうぴょんぴょんでぎないよ……」
れみりゃのおうちの奥には、先客がいた。
成体サイズのれいむが一匹、子供のれいむとまりさが二匹ずつ。
「……ゆぅ? ゆゆゆゆゆ! ば、ばりざ!」
「ゆ、ゆゆ!?」
それは、れみりゃにとっ捕まったまりさの家族たちであった。
「ゆ、お、おとうしゃんがにゃんでここに?」
「ゆ、ゆゆ、どうしたんだじぇ……ゆ? お、おとうじゃんなのじぇ?」
「うー! なんだおまえ、きのー逃げたやつだったんだど」
そのれみりゃの言葉を聞いて、困惑していたばかりだったれいむたちの顔に影がさす。
「み、みんないぎでたんだねぇぇぇぇぇ! よがったよぉぉぉぉ!」
「ふ……ふざけるなぁぁぁぁ! れいむだぢを見捨てで逃げだぐせにぃぃぃぃ!」
「ゆ、ゆゆ、そうらよ! おとうしゃん、まりしゃたちを見捨てたんだじぇ!」
「ゆ、ゆゆ」
途端に、れいむたちはまりさを激しく責め出す。そんなことを言っても、あの場ではさ
っさと逃げるのは仕方がないことだ。しかし、見捨てられた方としては感情として納得し
にくいし、何より元々れいむたちは自己中心的でまりさが自分たちのために何かするのが
当たり前と思っている。
「うー、なんかもめてるけど、れみぃの知ったこっちゃないんだどー」
「うー!」
「うー、うー」
れみりゃたちは、まりさたちをすぐには殺さなかった。それどころか、できるだけ長く
生かして餡子を少しずつ吸っていた。
にがにがな草が大量に蓄えてあり、それを無理矢理に食べさせて餡子を補充させるのだ。
逆らえば、尖った棒でぷーすぷーすされる。
捕食種のれみりゃは、死ぬか死なないかの加減をよく心得ており、巧みに中枢餡を刺激
することで凄まじい激痛をまりさたちに与えた。
「おきゃあしゃん……」
「すーりすーりしてほしいんだじぇ」
「ゆぅ、れいみゅも、れいみゅも」
「ゆぴぴ、ゆぴぴ」
「ゆん、すーりすーり、すーりすーり」
れみりゃが眠っている間、れいむたちはれみりゃを起こさぬように小さな声で精一杯の
ゆっくりを得ようと、傷付いたあんよを必死に動かしてこの状況で唯一許されるすーりす
ーりをする。
非ゆっくり症になって以来、まともに話せない子れいむも、この時ばかりは少しゆっく
りしているように見えた。
「ゆぅ……」
まりさは、それを少し離れた所で見ている。
「……」
時々それに気付いたれいむたちに睨まれて、いたたまれないように目を逸らす。
まりさも、すーりすーりしたかった。
しかし、家族を捨てたまりさのことを敵視するれいむたちは、それを許さない。
れみりゃには従順なれいむたちが、そいつを離れた所に置いてくれ、と食ってかかるよ
うに言ったほどである。
れみりゃは、すーりすーりしようとするまりさをれいむたちが拒絶し罵倒するのをうる
さく思っていたので、おとなしくすることを条件にその通りにしてやった。
「「「すーやすーや」」」
すーりすーりをして、幾許かのゆっくりを補充したせいであろうか、捕食種の越冬用食
料という境遇にも関わらずほんの少しだけゆっくりした顔でれいむたちは眠る。
「ゆぅぅぅ……」
まりさは、悲しそうにそれを見ているだけ。
もう、全くゆっくりすることなどなくなった。
「まりさは……」
小さな、小さな声で呟く。
どこで間違ったのか。
過去を遡っていき、様々なところで別の道に行くべき道筋が示されていたことに気付く。
もちろん、今更気付いたってなんの意味もない。
違う選択をすれば、群れの幹部になってゆっくりできた未来すらありえた。だが、むし
ろその想像は、まりさをゆっくりできなくするばかりだった。
「ありす……れいむ……みょん……たずげでよ……」
自分によくしてくれたものたちのことを思い出す。
その頃、ありすは少々荒っぽく見えるが心根の優しいまりさとよい感じになっており、
れいむとみょんは越冬後の春に行う子作りのことであれこれと楽しい想像をしており、ま
りさのことを思い出すことなど滅多に無かった。
そんなことは知らぬまりさは、みんなが「ゆっくりしていってね!」と言う幻影を見る
とようやくまどろみ始める。
それが、まりさの残りのゆん生の全てになった。
終わり
書いたのはすぐに「じゃ、やりたいようにやりゃいいじゃねえかおれはもう知らん」に
なるのるまあき。
見ての通り、よくある「でいぶな番と子供たちに虐げられながらも唯々諾々とこれに従
う善良と称するまりさの話」を見て「むしろこいつの方が腹立つわ」と思って書いた作品
なのぜ。
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