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anko3081 くそにんげんに挑んだ結果 後編
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『くそにんげんに挑んだ結果 後編』 33KB
いじめ 自業自得 差別・格差 嫉妬 妬み 追放 駆除 番い 群れ 子ゆ 自然界 現代 うんしー そのエングレーブには何のタクティカルアドバンテージも無い
陽の光が針葉樹の葉で敷き詰められた天井の隙間から伸び、樹海の一面に広がった茶褐色の地表を照らす。
鳥の囀りが遠くから響くのみの冷ややかな空気の中に沈む森の奥地で、木陰に寄り添って息を整えているゆっくりたちの姿がある。
それは新たな土地を目指して旅立ったれいむ一家であったが、つい3時間ほど前に浮かべていた精力を溢れさせた表情はそこになく、
だらしなく開けた口から涎を垂らして小麦粉で模られた身体を荒々しく上下させていた。
「ゆぅ……ゆぅっ……」
木々の根元に居座っていたれいむは乾いた唇を尖らせた番であるまりさと親たちと同じ様に寝転んで唸っている我が子を横目で見つめていた。
れいむたちは自身が求める理想郷、まだ見ぬゆっくりプレイスを求めて歩き出したのだが、
まりさのあんよの具合と子供達の融通の利かなさが足を引っ張り、出立から短時間にも関わらず限界近くにまで疲労を蓄積させていた。
少し歩いてはまりさは立ち止まりあんよが痛いと言って腰を下ろし、その間に足りないゆっくりの子れいむを
見放すと直ぐにあらぬ方向へ転がっていってしまい、その度にれいむは森を駆けて跳ね回っている娘を連れ戻した。
追い出されたぱちゅりー達が仕切るゆっくりプレイスは既に見えなくなったが、
それでも群れの活動範囲内をようやく抜け出した程度の距離を進んだだけという事実にれいむは僅かながら焦りを覚えていた。
「ゆーん……このままじゃあっというまによるになっちゃうよ……きょうじゅうにゆっくりできるおうちをさがさないとれみりゃやふらんにおそわちゃうよ……」
「わ、わかってるのぜ……でも、まりさのあんよさんがいうことをきかないのぜ……」
硬い意志を持って新たに森を行脚すると決め込んだまりさの決意は既に揺らぎ始めている。
キリッと釣り上がった眉は折れて、生気を欠いた仏頂面がのっぺりと顔面に付着するのみ。
このまま休んでいては埒が明かないと、れいむはまりさの背中を押してでも前に進ませようと考えていた時、
ふいに背後から地面に散らばっている小枝の一つが割れる乾いた音が響いてきた。
「ゆっ?」
れいむは何事かと振り返り音のした方向を見ると、そこに大きな影が立っていた。
聳えるは塔の如く垂直のそれの全体像を把握する為、れいむはゆっくりと見上げるとそこにあった二つの双眸と視線が重なった。
像の正体はストレートの黒髪を肩にまで伸ばした人間の女性だった。
「ゆんやぁああああっ!!!に、にんげんざんだよぉおおおっ!?」
「ゆひいぃいいいっ!!!にんげんざんはゆっぐりできなのぜぇええええ!!!にげるのぜっ!!ゆっぐりぢないでにげるのぜぇえええ!!」
かつて人間の町で散々痛い思いを味わったれいむたちは、前に居た影が人間だと知るや否や我先に逆の方角に向けて走り始めた。
だがまりさの焼き焦がされ擦り切れたあんよは思う様に動かず、木の根元に張り巡らされた凹凸に足を引っ掛け顔面から見事に転がってしまった。
子ゆっくりを咥えて数歩前に居たれいむは、まりさが逃走の為の初動に失敗したと悟って歩みを止めた。
見れば既に人間の女性は傍まで迫っており、尻を突き上げて体制を持ち直そうとしているまりさに手を伸ばしている最中だった。
れいむは咥えていた2匹の子供達を無意識にぽとりと落として、伸びた女性の手がまりさにえげつない拷問を繰り出すのだと想像し、思わず盛大に恐ろしーしーを噴出してしまう。
じょろじょろと飛び出たれいむの御小水は下で蹲っている子供達の頭上に勢い良く降り注いだ。
「あらあら、大丈夫?何も逃げなくてもいいのに」
「ゆんやぁあああああぁあぁあっ!!やめじぇえぇええ!!にんげんざんっ、ひどいごどじないでぇええええ!!!
まりざだぢがめざわりならゆっぐりじないできえまずうぅうう!!おでがいでずぅうう!!みのがじでぐだざいぃいっ!!!」
「うーん、なんだか私の事を酷く警戒しているようね……私は悪い人間じゃないわ、恐がらなくてもいいのよ」
そう言って目蓋を細め清楚な微笑みを浮かべた女性はまりさを丁寧に掴み上げると、平らな地面にそっと置き直した。
恐怖心に縛られていたまりさは、女性が特に危害を加える雰囲気にないと察知すると恐る恐るその姿を見返した。
象牙色の一色のみを写したコットン生地のニット帽を被り、淡い黄土色のベルトを肩に掛けその先に繋がれた透明な箱を腰の辺りに下げている。
その品の良さそうな女性は、円らなまりさの瞳が自身に向けられている事に気付いて警戒心を薄れさせる為にニッコリと笑い返した。
なんだかとてもゆっくりしている人間さんだとまりさは感じると、小刻みに揺れていた身体の震えが収まり平常を取り戻した。
「ゆぅ、おねーさんはなんだかとってもゆっくりしてるにんげんさんなのぜ」
「ま、まりさっ……!だ、だいじょうぶなのっ……!?」
泣きっ面だったまりさのゆっくりしている姿を見てれいむがおっかなびっくりに近付いてくる。
女性はれいむにも特有の微笑みを浮かべて応じると、それらに害意がないものだと知りれいむはホッと胸を撫で下ろした。
「おねーさんはゆっくりできるにんげんさんなんだね!ゆっくりしていってね!!」
「えぇ、ゆっくりさせて貰うわね」
「ゆーん?おねーさんはどうしてこんなところにいるのぜ?」
「私はゆっくりの生態調査に来てるの」
「ゆー?せいたいちょうさ?」
「ええそうよ」
そう言いつつ女性はゆっくりの視線と合わせる為に膝を折って身を下げた。
彼女が着込んでいる作業着の胸元に『加工所』の文字が見えるが、れいむたちには読み取る事は出来ない。
「貴方達……随分と酷い傷を追ってるのね、野良……じゃないわよね?どこかの群れのゆっくりかしら?」
「ゆぅ……」
途端に表情を曇らせるれいむたち、その仕草に小首を傾げながら彼らの返答を待っている女性は
ポケットからビスケットを取り出すと食べ易い様に砕いて辺りに散らばせた。
その甘い匂いに過敏な反応を見せたのは子ゆっくり達である。
「ゆゆっ!あみゃあみゃしゃんのにおいがしゅるのじぇ!!まりしゃがゆっくちむーちゃむーちゃしゅるのじぇ!!」
「ゆっぴゃぁ!!ゆーぴゃっぴゃーあ!!」
目の無い子まりさと足りない子れいむが本能の赴くままビスケットの破片に近付くと、涎でベタベタになった舌を伸ばして頬張り始めた。
「ゆっ!にんげんのおねーさん、おちびちゃんにあまあまさんをくれたんだね!ゆっくりありがとう!!」
「気にしなくていいわ、ところで貴方達の話を少し聞かせてくれないかしら?」
「……わかったのぜ、おねーさんはいいにんげんさんだからおしえてあげるのぜ……まりさたちは、むれをおいだされたのぜ……」
まりさは今までの経緯をなるべく事細かく女性に語った。
人間の街に出向いて酷い目にあった話や、群れでの待遇についてなど、途中感極まってまりさは泣きそうになると帽子の鍔で目元を隠して震えながらに訴える。
ゆっくりである故に語彙が乏しいので大まかな部分が曖昧な表現に留まるも、女性は何度も頷いて熱心に聞き入っていた。
「なるほどね、散々な目にあってきたのね……それで貴方達は新しいゆっくりプレイスを求めて旅に出たのね?」
「そうなのぜ……」
「……やっぱり、今すぐ元の群れに戻った方がいいわ」
「い、いやなのぜっ!!あんなゆっくりできないむれなんかに――」
声を荒げるまりさの口元にサッと人差し指を当てた女性は、手首を左右に振ってまりさを牽制し、言葉を遮った。
「気持ちが分からない訳ではないのよ、でもこれから先その身体で有るか分からない理想郷を探すのはとても難しい話よ」
「で、でもっ!!」
「お姉さんに少し考えがあるの、その追い出した長のぱちゅりーに会わせてくれたらきっとまりさたちが納得できる結果を用意できるわ
どうかしら?元居た群れのゆっくりプレイスに案内してくれないかしら?」
自信たっぷりに女性はウインクを交えて頬を緩ませて見せた、まりさとれいむはお互いに顔を合わせて唸ると、
このまま前進しても桃源郷に辿り着くのは不可能ではないかという不安に押され、2匹の思惑は一致して従う事で合意した。
「わかったのぜ、おねーさんにおねがいするのぜ……ぱちゅりーをせっとくしてほしいのぜ……」
「任せて頂戴、じゃあ早速出発しましょうか」
肩に掛けていた透明な箱を下ろすと、女性はまりさたちに中に入るように促した。
ビスケットを食べ尽くして膨らんだお腹を空に向けていた子供達を回収し家族全員を押し込むと、
飛び出していったゆっくりプレイスに戻るため女性は軽い足取りで歩き始めた――。
―――――――――――――――――
ぱちゅりーたちに追い出されたゆっくりプレイスとの距離を縮める毎に、まりさの表情は徐々に曇っていった。
激昂した形で啖呵を切って群れを出て行ったのに、僅か数時間足らずで舞い戻る事になった恰好の悪さに示しが付かないのがその原因で、
まりさは頻りに眉を折ったり、唇を噛んだりして不満顔を浮かべていた。
とは言えまりさ一家を透明な箱に入れて歩いている女性は、かつてまりさたちを完膚なきまでに叩きのめした『人間』という種に間違いない訳で、
強大無比のジョーカーを味方に付けているという絶対の安心感はまりさの心情をそれほど沈ませる事は無かった。
ゆっくりたちが3時間掛けて歩いた道も人間の足なら15分と掛からず、気付けば樹海の奥地に根付いたゆっくりプレイスの前に到着していた。
「ゆんっ、おねーさん……ここがれいむたちのゆっくりぷれいすだったところだよ……」
過去形で表現した辺り、れいむにも燻った思いがあったのだろうか暢気な人相に若干の影を落としている。
遠くの方にちらほらとゆっくりの姿が視認出来、女性は大きく足を踏み出してゆっくりプレイスへと進入する、そこへ――。
「むっきゅーんっ!!まちなさいっ!!ここはしんせいっなゆっくりぷれいすよ!!にんげんさんっ、なんのようがあって……むきゅっ!?」
突然と長であるぱちゅりーとその取り巻きが飛び出してきた、ぱちゅりーは女性をゆっくりプレイスに入らせないように立ち塞がった様だが、
女性の腰の辺りで透明な納められているまりさたちの存在に勘付き怪訝な顔付きをして見せた。
「むきゅっ……どうしてまりさたちがそこにいるの?まりさたちはむれからでていったんじゃなかったの?それにそのにんげんさんはなんなの!?」
「ぱちゅりーきくのぜ、まりさたちはやっぱりこのむれでくらすのぜ……おうちをかえすのぜ!」
「なにいってるのっ!?もうまりさのおうちはこれからおさになるまりさのおうちになったのよ!もうおうちせんげんもすませたわ!!いまさらもどってこないでね!!」
ゆっくり達にとっておうち宣言とは大礼にも匹敵する重大な儀式である。
既にそれを済ませてしまったというぱちゅりーの言葉にれいむとまりさは不安を隠せずにはいられない。
子供の泣きっ面を思わせるひしゃむくれた顔をして最後の望みである女性に目配せすると、彼女は特に何か言うでもなく再び歩みを進め始めた。
「むきゅー!!ま、まちなさいーっ!まだはなしはおわってないわー!!」
「ゆゆっ!?お、おねーさん?どうしたのぜ?ぱちゅりーをせっとくしてくれるんじゃなかったのぜ?」
まりさが見上げた先にあった女性の顔は酷く冷淡で、先ほど見せていた柔らかい微笑みはそこに無い。
何か別のスイッチが入った様な、かつてまりさたちを甚振り尽くした人間が放っていた雰囲気に似た物を感じてまりさは思わず言葉を失くす。
ゆっくりプレイスの中央、集会に使われる広場に立った女性はポケットからビニール袋に入った固形物を取り出すと、それを辺りにばら撒き始めた。
突然の不法侵入者を前にして不信感を露にした群れのゆっくりたちは遠巻きに彼女の姿を見つめ警戒していると、唐突に漂い始めた甘い香りに眼を大きく見開かせた。
女性が落とした物は先ほどまりさの子供達に与えたビスケットだった。
「ゆゆっ!!あまあまさんのにおいがするよ!!あまあまさんはれいむがたべるよ!!ゆっくりたべられてね!!」
「おいちそうなにおいがしゅるのじぇ!!まりしゃがゆっくりしないじぇいただくのじぇ!!」
「あっちにあみゃあみゃしゃんがありゅぅううう!!れいみゅのしゅーぱーむーちゃむーちゃたいみゅがはじまりゅよぉおお!!」
警戒のケの字も忘れてビスケットにむしゃぶりつくゆっくりたち、外の歓喜の声と樹海には縁のない糖質の匂いが巣の中に潜んでいたゆっくりたちさえも炙り出す。
気付けば群れの大半のゆっくりが、まるで餌を与えられた公園の鳩の様に広場に集まっていた。
大も小も関係なく100を越えるほどの数でビスケットの奪い合いを始める群れのゆっくりたち。
「ど、どどういうことなの!?みんなっ、なにかおかしいわ!!あまあまさんをたべるのをやめるのよ!!」
異様な光景を前にして平静を保てたのは賢い部類に入る少数のゆっくりのみ、
長であるぱちゅりーは異常を察知して皆に呼び掛けるも欲望に囚われたゆっくりたちは耳を傾けない。
「じゃましないでね!!れいむのあまあまさんがにげちゃうでしょぉおおお!!!」
「むきゅーっ!!なにいってるの!?これはへんだとおもわないのーっ!?」
静止を振り払い舌の伸ばし合いを続ける群れのゆっくりたち、そこに意外な悲鳴が木霊する。
「ゆんやぁああああああぁああああっ!!!いっせいくじょのにんげんざんなんだぜぇええええ!!!!!ゆっぐりじないでにげるんだぜぇええええっ!!!!」
騒ぎを聞きつけたあの流れ者まりさが、女性の姿恰好を見て金切り声を周辺に轟かせる。
平静を保っている者と、透明な箱の中で様子を伺っていたまりさたちはギョッとなった。
一斉駆除と加工所はゆっくりにとってゆっくり出来ない事の代名詞である。
親の代から脈々と受け継がれ餡子に刻み込まれた本能を揺さ振る恐怖のキーワードはゆっくりたちを一層と怯えさせる。
「あら、生き残りが居たのね」
そう言って鋭く目蓋を細めたままにんまりとほくそ笑む女性、さっきまでの清楚な姿はそこにはない。
この女性が加工所の職員なのは言うまでも無く、この辺りのゆっくりプレイスを一斉駆除して回っていたのは他ならぬ彼女達であった。
たまたま逃げることが出来た流れ者まりさは、同族を殺し尽くす悪魔が身に付けていた作業着を目蓋に焼き付けていたので彼女の正体に逸早く気付く事が出来た。
「もう少し引き付けたかったけどしょうがないわねぇ……」
徐に女性が首に掛けた笛を吹くと、それに応じて大勢の人影が茂みの中から姿を現した。
女性と同じく青碧色の作業着を着込んだ男達が、背中に小型のポリタンクを背負い右手にはポリタンクと繋がったホースの先端であるピストルノズルを構えている。
「主任、もう宜しいのですか?」
「いいわ、始めちゃって。あっでもそこのぱちゅりーは持ち帰るから手を出さないで、
それから前回の取り逃がしがいるみたいだから今回はより一層入念にね」
「了解です、おーし新人たちーっ、これも研修だぞ!気合入れて潰せよ!!」
「「「ハイッ!!」」」
景気のいい返事と共にゆっくりプレイスを輪にして囲み始める加工所の職員達。
今回の一斉駆除には今年入社したばかりの新入社員が借り出されているらしく、若くエネルギッシュに溢れた彼らは意気揚々に
平然とビスケットに喰らい付いているゆっくりたちの頭上目掛けて毒素を振り撒き始めた。
四方八方から立ち上る悲鳴、ようやく非常事態を察知したゆっくりはお決まりのそろーりそろーりと台詞を吐いて逃げ出し、
それを人間が追い掛けては虐殺を繰り返す、文字通りの地獄絵図が完成した。
「おねーざんのうそづきーっ!!れいぶだぢをおろじでね!!ゆっくりじないでにげさぜでねっ!!」
「ぞうなのぜっ!!おろずのぜっ!!おでーざんはまりざにうぞをづいだのぜっ!!ゆっぐりじでないのぜ!!」
抗議の声を張り上げたのは透明な箱に収まったまりさたち、女性はすっかり忘れていたと軽く息を吐いて微笑する。
「いやねぇ、私まだ嘘は付いてないわよ。それより貴方達、私に協力する気はないかしら?」
「きょ、きょうりょく?な、なんのぜっ!?どうぜひどいごどづるにぎまっでるのぜぇ!!」
「確かに酷い事をしてるわね、でも貴方達も同じ様に酷い事をされたんじゃないの?」
「「……ゆっ!」」
そう言われてまりさとれいむは考え込む、今こうして嗚咽を漏らしているゆっくりたちはまりさたちを笑い飛ばした者ばかりだ。
「どう?復讐したいとは思わないかしら?そのついでで構わないから私たちに協力して駆除の手伝いをしてくれれば、
最終的にここを貴方達に譲り渡してもいいと考えているわ、無論私たち人間との協定を結んで貰う事になるけれど」
人差し指を立てて提案を持ち掛ける女性に、思わずまりさたちは息を呑んだ。
「それにここは越冬用のご飯さんも随分溜め込んでいるんでしょ?それが全部貴方達の物になれば、理想郷を手に入れたと同義ではないかしら?」
「た、たしかにそうなのぜ、でも……ゆっくり――」
殺しはゆっくりできない、と出掛かったまりさの言葉は喉元でつっかえた。
ゆっくりなりの倫理や道徳から考えても女性に加担するなど反社会的な行いに値するが、かつて受けた仕打ちがまりさの脳裏に蘇り訴え掛ける。
これは散々馬鹿にしてくれた群れのゆっくりたちに引導を渡す絶好の機会ではないか。
何の道群れのゆっくりを助けたところでぱちゅりーたちがまりさを英雄視してくれる筈もないのは、想像力の乏しいまりさでも容易に理解できた。
ならばどうするか、まりさはれいむを見た、れいむも同じ様に煮詰まった顔をしているが向かっている思惑は一致しているらしく軽く頷いて見せた。
「まりさ、れいむはさんせいだよ……れいむたちはかわいそうなのにむれのみんなはひどくあたったよ、みんなわるいゆっくりだったんだよ……」
「ゆぅ、わ、わかったのぜ……!でもおねーさんっ、まりさたちをえいえんにゆっくりさせないってちかうのぜ……!」
「勿論よ、貴方達は大切な協力者なんだから手を出すつもりは毛頭ないわ」
「そのことばしんじるのぜ……!」
こうして盟約を交わしたまりさ一家を女性は透明な箱から取り出して地面に置いてやると、毒液を散布している新入社員の一人を呼びつけて耳打ちした。
若い男はやや不満気な顔付きでまりさたちを見下ろしていたが、先輩である女性の手前拒否することも出来ず渋々に提案を了承した様だ。
「このお兄さんが貴方達に付いて行くから、まりさとれいむはおうちに残っているゆっくりを炙り出して欲しいの、いいわね?」
「「ゆっくりりかいしたよ!」」
「そうだ、おちびちゃんたちは私が預かっておくわね、一緒に連れて行くと後々面倒でしょ?」
「そうだね!おねーさんにみてもらえばあんしんっしておてつだいができるよ!!」
「ゆーっ!おかーしゃん、おちごとがんばるのじぇ!!まりしゃおうえんしちぇるのじぇ!!」
「おちびちゃんのためにもまりさはやるのぜ!」
「ゆっぴゃぁー、ゆぴゃっぴゃー」
2匹はキリッと眉を吊り上げて決意を新たにすると、新入社員の男を引き連れて樹海の奥へと進んでいった。
残された女性は、群れの皆が殺戮の渦中に晒されている様子を恐ろしーしーを漏らして眺めている長ぱちゅりーの頭をがっちりと掴んで持ち上げた。
「むぎゅぅううっ!!どおじでっ、ぱじゅりーだぢはただゆっぐりじだがっだだけなのにっ……!どうじでごんなひどいごどをっ……!!」
「ごめんなさいね、これが私達のお仕事なのよ。ところで貴方なかなか賢いゆっくりのようね、不穏分子を排除する狡猾さには見所があるわ」
「むぎゅーぅうう!!はなじなざいっ、ぱじゅりーをはなじなざいっ!!」
「私加工所の職員だけど駆除課の人間じゃないの、生態研究課って言ってね野生のゆっくりの文化構築の具合を調査したりするのだけど、
貴方には研究対象になってもらおうと思うわ、これからその身体が持つまでも間だけよろしくね」
「いやよぉおおっ!!はなじでっー!!」
尻を振って抵抗を試みるぱちゅりーをそのまま空になった透明な箱に押し込むと、女性はしっかりと蓋をしてぱちゅりーを拘束した。
この後、ぱちゅりーはここで死んでいたならばどれほど幸せだったかと嘆く程の尋問と拷問を繰り返される事になるのだが、
音を遮断する小さな空間の中ですすり泣くぱちゅりーにそれを予知するなど到底不可能な話だった――。
―――――――――――――――――
新入社員の若い男を従えてまりさたちは近辺のおうちを片っ端から調査して行く、そこに生き残りが居れば一緒に逃げようと提案し外に誘き寄せ、
出て来た所を待ち構えた男が毒液を浴びせて駆除を行う誘引戦法を採った。
まりさたちはかつて同胞だった者たちの毒を喰らい身体を溶けさせ内臓物を吐き出す凄惨な死に様を見せ付けられ良心の呵責に苛まれていたが、
3件目に訪れた場所でそのちっぽけな正義感が見事に粉砕された。
「ぷきゅぅううっ!!ここにありすのとかいはなおちびちゃんはいないわ!!」
「そうなのぜっ!!まりささまのかわいいおちびちゃんはこんなところにはいないのぜ!!」
成体のありすとまりさが大きな木の根に作ったおうちの入り口を塞ぐ形でそこに立っていた。
何人たりとも通させまいと身体をきっちりと寄せ合って、大きく息を吸い込んで頬を膨らませている。
れいむとまりさはこのゆっくりに見覚えがあった、かつてれいむを割り箸れいむと罵ったり狩りの邪魔をしたりと陰湿な嫌がらせ行為をしたお隣の一家だった。
誰も聞いていないのに頻りに自分達の子供達はここに居ないと叫んでいる姿は、
逆にここに大切な者を匿っていると宣伝している様なものであまりにも滑稽である。
ありすたちは近付いてくる人間の影にを恐怖し怯えながらも、なんとかこの場を死守しようと必死になっている。
いよいよとなった時、ありすは加工所の職員である若い男の傍に佇むまりさとれいむに気付いて何を思ったかニッコリと微笑んだ。
「にんげんのおにーさんっ!!とかいはなありすをくじょするより、そこのわりばしれいむたちをころしてね!」
「ゆゆっ!さすがはまりさのはにーなのぜ!あのまぬけなれいむたちをおとりにしてとんずらするのぜ!」
2匹はまりさたちと加工所の若い男が結託しているとも知らず、出し抜いてあわよくば逃げ出そうと浅はかながらも知略を巡らせた様だ。
そんな哀れなありすたちにれいむが現実を突きつける。
「ばかなゆっくりだね!れいむはおにーさんとめいっやくっをむすんでるんだよ!!」
「な、なにいってるの!?にんげんのおにーさんっ、そのいなかもののれいむをえいえんにゆっくりさせちゃってね!いますぐでいいわ!!」
戯言に付き合うつもりはない加工所の若い男はピストルノズルに手を掛けてありすたちを駆除しようとしたところで、まりさが割って入り男を制止した。
「にんげんのおにーさん、まってほしいのぜ!あいつらはまりさたちをさんっざんっひどいめにあわせたごくあくひどうなゆっくりなのぜ!!
かんたんにえいえんにゆっくりさせたらおなかのむしさんがおさまらないのぜ!!」
「そうだよ!!れいむはなんどもかりをじゃまされたよ!!あいつらにふくっしゅうっしないとれいむもきがすまないよ!!」
先ほどまで浮かない顔をして駆除の片棒を担いでいた2匹が、打って変わり眉間に皺を寄せて怒り顔を前面に押し出す。
男は実に面倒臭そうに後頭部を掻いてぶつくさと文句を言いながらも、仕方無しに2匹のやりたいようにやらせる事にした。
軽くノズルのトリガーを引いて立ち塞がるありすとまりさに死なない程度の毒素を流し込むと、皮の一部をドロドロに溶かしてありす達が悲鳴を上げた。
「ゆぎぃいいっ!!いじゃぁぃいいいっ!!!ありずのとがいばなぶろんどのがみざんがぁああああっ!!!」
「ゆんやぁああああっ!!!まりざのおながのあんござんっ!!ででいっじゃだめなのぜぇえええ!!!」
新聞紙を丸めてくしゃくしゃにした様な顔をした2匹を軽く蹴っ飛ばしておうちの前を開放すると、男はれいむとまりさに目配せした。
「おにーさんっ、ありがとうなのぜ!まりさはゆっくりふくしゅうをはたすよ!!」
「ゆぎぎぎっ!!!ありずのどがいばなおちびじゃんにでをだずなぁあああーっ!!」
「ゆぷぷっ、そこでゆっくりくるしんでね!おちびちゃんはれいむがせきにんっをもってえいえんにゆっくりさせるよ!!」
「やべろーっ!!わりばじでいぶうぅうううっ!!まりざのがわいいおちびじゃんっ!!にげるのじぇぇええっ!!!」
結界を取り除かれたおうちの中を覗くと、外の光を受けて3匹の子ゆっくりが姿を現した。
外の悲鳴を聞いてゆっくり出来ない事態を認識しているらしく、身を寄せ合ってカタカタと恐ろちーちーを漏らし震えている。
そこにまりさが踏み込むと、姉妹の中で一番体躯の大きな子まりさが咄嗟に前に飛び出した。
「いもうちょはまりちゃがまもりゅのじぇ!!ぷきゅぅうううっ!!ゆっ!?ゆぷぷーっ!!なんなのじぇっ、よくみちゃらどりぇいのまりさなのじぇ!!
やいやいっ、まりちゃさまのどりぇいのまりさがなんのようなのじぇ!!」
そう、この子ゆっくりたちはかつてまりさを奴隷扱いしれいむのおちびちゃんを玩具にしたあの子供達だった。
目の前のまりさを奴隷宣言して服従させたものだと勘違いしている子まりさは、大人顔負けの厭らしい笑みを浮かべて舌を上下させている。
「どりぇいはみちゅぎものをよういしゅるのじぇー!!まりちゃさまにあみゃあみゃをもっちぇ――ゆぎょっ!?」
「よくもまりさをどれいあつかいしてくれたのぜっ!!ぐずはゆっくりしないでしぬのぜ!!いっぱいくるしんでしねっ!!」
子まりちゃの小さな身体の端から圧し掛かり、まりさはぐいぐいと中身の餡子を搾り出す様に体重を掛けていく。
内蔵物を吐き出させまいとお口を閉じて必死に子まりちゃは堪えるも、お尻の方から雪崩込んで来る臓物の波に呆気なく防波堤は決壊した。
「ゆぎゅぎゅっー、ちゅぶれ、ちゅぶれりゅぅううーっゆぶゅううっーっ!!ぶぶりゅぶぅぶーっ!!」
どばどばと餡子を口元から排泄し、漏らした汚物を前に干し柿の様に身体を萎れさせ子まりちゃは息絶えた。
まるで歯磨き粉のチューブの中身を絞る様に、餡子を吐き切らされた姉の死に様を目先で見てしまった子まりさと子ありすの2匹は、
巨体をくねくねと揺らしてせせら笑っているれいむとまりさと眼が合い壮絶な悲鳴をあげて命乞いをし始めた。
「たじゅけじぇぇええ!!おねがいだじぇぇえ!!まりちゃまじゃしにじゃくないのじぇぇえええ!!!」
「みゃみゃぁああっ!!ありしゅをたしゅけちぇぇええ!!こんないにゃかもののしにかちゃなんてしちゃくないわぁあああ!!!」
「れいむのかわいいおちびちゃんにひどいことをしたばつだよ!!しんでつぐなってね!!」
きゃぁきゃぁと甲高い声を発した2匹に向かってれいむは助走をつけて突進した。
壁に巻き込む形で押し潰すと金切り声は一瞬にして止まり、小さな命の芽が呆気なくもぎ取られた事実をそこに示した。
「ゆぷぷっ、ざまぁみろなのぜ!!げすにふさわしいまつろだったのぜ!!」
晴れやかな顔をして満足気に巣を出てきたまりさたちは、にんまりと微笑んで毒を受け身動きが取れないありすたちの前に子供たちの亡骸を放り投げた。
「ありずぅのぉおおおっどぉがいばなぁあ!!おちびじゃぁんんがぁああっ!!」
「ゆぎぎぃいいっ!!よぐもっおちびじゃんをごろじだなぁあああっ!!せいっさいっじでやるぅうううう!!!」
「ふくしゅうしちゃってごめんね!げすにいんどーをわたすのはとってもすっきりーできたね!!」
「おにーさんっ、もうまりさたちはまんぞくなのぜ!こいつらをころしてね!!むじひにくるしめてころしてね!!」
待ち草臥れた若い男は、だらりと頷いて毒液をありすたちに浴びせた。
最期の断末魔をあげ、ありすたちは声にならない恨み言を残し程なくして事切れた。
一斉駆除も終盤に差し掛かった辺りで、れいむが木陰に隠れているあの流れ者まりさを発見した。
もう周囲は完全に沈静化され、悲鳴もなければ嗚咽もなく大勢のゆっくりが息絶えたか言葉を発する力を無くし冥府への旅立ちを待っている者ばかりだった。
同族が死んでいく横で、流れ者まりさは茂みの中で身を震わせ一斉駆除が終わるのを待っていたのだろう。
若い男の手によって引きずり出された流れ者まりさは、既に目蓋に大量の涙を浮かべプルプルと小刻みに身体を揺らしていた。
広場に投げ出され左右に顔を振って逃げ道がないのを理解すると突然と額を地面に擦り始めた。
「ゆひぃいいいっ!!おでがいじまずぅうううっ、みのがじでぐだざいぃいいいっ!!まだまりざはじにだぐありまぜんっ!!!」
そんな無様な流れ者まりさを好奇な眼差しで見つめているのは当然れいむとまりさだ。
尻を突き上げる形でひたすらに額を下げ続ける流れ者まりさに、ニヤニヤと肉付いた頬を歪めまりさが近付いた。
「たすけてほしいのぜ?まりさはおにーさんとめいっやくっをむすんでるから、まりさがおねがいすればたすけてあげられるかもしれないのぜ!」
「ゆゆっ!!だ、だずげでほじいんだぜ!!お、おねがいなんだぜっ……!!」
藁にも縋る思いで懇願を続けるその姿を見て、れいむが自身のピコピコで流れ者まりさの頭を高圧的にぺちぺちと叩き始めた。
その他ゆんを馬鹿にした様な態度は、大勢のゆっくりが死んでいく姿を見ていく過程で、
れいむとまりさは罪の意識が薄れ、次第に優位者であるという認識が高くなった結果から来るものだった。
たった数時間という僅かな期間でゲス化を果たしてしまった2匹は厭らしく笑い続ける。
「たすけてほしかったらぺにぺにさんをたてるんだよ!ぐずぐずするんじゃないよ!!」
「ゆーん、いいかんがえなのぜ!さあぺにぺにさんをみんなのまえでみせるのぜ、そうしたらたすけてやるのぜ!!」
「な、なにいっでるのぉおおおっ!?ぞんなはずがじいごどできないにぎまっでるでしょぉおおおお!!!」
「それじゃあしかたないのぜ、おにーさん、このまりさにゆっくりどくさんをかけてね!」
まりさの声に感化してサッとピストルノズルの先端を向ける加工所の職員、その脅しに流れ者まりさはあっさりと屈してしまう。
「やべでぇええええっ!!やりまずうぅううっ、まりざのぺにぺにざんをたてまずがらぁあああ!!」
そう言って流れ者まりさは、唇を噛みながら身体を左右に揺らし始めた。
ゲラゲラと下品な笑い声に包まれながら、流れ者まりさの小さく萎れたぺにぺにがひょっこりと姿を現す。
恥辱に塗れ、悔しさからポロポロと涙を流す流れ者まりさに一層声を荒げて見下すれいむとまりさたち。
「ゆっひーっひっ!!みるのぜれいむっ、なさけないたんしょーぺにぺにさんなのぜっ!!おちびちゃんさいずのみにみにぺにぺにさんなのぜ!!」
「ゆぷぷーっ、ほんとだよっ!!そんなぺにぺにさんのくせにおさになろうだなんてみのほどをわきまえるべきだったね!!」
「ゆうぅううっ……!ゆぐううぅううっ……!!」
見世物を前にして一頻り騒いだ2匹は突然ピタッと笑うのを止めると、
ピコピコで力強く流れ者まりさを指差し後ろで構えている加工所の職員に命令する。
「もういいよ!こいつをころしてね!!れいむのおうちをうばったげすをたたきのめしてね!!」
「まりさのいばしょをぬすんだむくいをうけるのぜっ!!さあにんげんさんっ、みにみにぺにぺにさんのまりさにたっぷりといためつけてね!!」
「どおじでぞういうごどいうのぉおおおっ!?ゆひぃっ!!うぞづぎぃいいいっ!!だずげでぐれるっでやぐぞくしたのにぃいいいっ!!!」
命令に従って不機嫌な顔をした職員の男がゆっくりと流れ者まりさとの距離を詰める。
流れ者まりさはぺにぺにを収納するのも忘れて、萎れた突起物をぶら下げたまま一目散に逃げ出そうと走り出す。
しかし人間の足に敵う筈もなく、大きな長靴の爪先部分で身体を押し付けられすんなりと拘束されてしまう。
ぎゅうぎゅうと踏み躙られながら、僅かに身体を仰け反らせて流れ者まりさは助命を嘆願するしかない。
「ゆんやぁああああぁああっ!!まっでぇええっ、まっでぐだざいぃいっ、おでがい……っ!!ごろざないでっ……!!ゆびぃいいいっ!!!」
圧力が強まり、小麦粉で模られた身体の一部がぶちぶちと音を立てて破れていくのが分かる。
溢れ出る餡子が痛みと共に零れ落ちるのを自覚しながら、流れ者まりさは愉快そうにこちらを傍観しているれいむとまりさと眼が合った。
2匹を睨み付ける様々な負の感情が混ざり合った表情は、男の重みに敗北し粉々に砕け散る。
流れ者まりさの死を見届け終わると、辺りは完全な静寂に包まれた。
背負い込んだポリタンクを空にして加工所の職員達が広場に集まってくる、それは一斉駆除が一様の区切りを迎えた事を示唆していた。
―――――――――――――――――
西南西の空に太陽が落ちていく準備段階へと入る夕暮れを目前にした時刻、
一斉駆除を終えたか職員たちはポリタンクを降ろして切り株の上に腰掛け、同僚達と談笑し酷使した身体を労わっている。
そんな彼らの近くで無数に点在する野生のゆっくりたちの死骸を余所目にし、れいむとまりさとその子供達は腹を揺すって哄笑していた。
もう近辺にまりさたちを馬鹿にした群れのゆっくりは存在しない、積み上げられた骸の中に辛うじて身体を痙攣させていた者達も、
まりさの容赦のない伸し掛かりで、まるで虱を潰す様に息絶えさせられた。
「はーい、みんなご苦労様ー」
駆除課のグループリーダーと思しき中年の男性と暫く事後処理を行っていたニット帽姿のあの女性が集団に近付くと労いの言葉を掛けた、
会話を弾ませていた加工所の職員たちは彼女の存在に気付くと口を閉じ、腰掛けていた者は立ち上がって女性の方に注目する。
「全課合同の新人研修はこれが最後になるわ、駆除課の新人君はまだこれからも同じ仕事が続くでしょうけれど、
他の課の人も基本的に私達はゆっくりを排斥する仕事に就いている事を忘れないようにね、一週間大変だったでしょうけど、
それぞれの課に移っても今日の日の教訓を生かしてこれからの仕事に臨んで貰えればこの研修に意味があったと思うわ――」
女性の言葉に凛々しい表情で耳を傾ける新人たち、不景気な面構えもなく熱心に取り組んだ姿勢を見てきた付き添いの年配の男は、
今年の新入社員はなかなか骨がある人材が揃っていると確信し、腕を組んで頷いている。
締め括りのスピーチが終わると新入社員たちは大きく拍手をし随伴してくれた先輩方に感謝を現した。
そうして解散となり帰り支度を始める一同の中、腑に落ちない顔をした社員の一人が女性に近付いてそっと尋ねた。
「あのー主任さん……こいつらどうするんですか?」
若い男が指差した先にまりさとれいむがいるのに気付いて、女性はすっかり忘れていたと片目を細めて自身の頭をコツンと叩いた。
再度号令を掛けて皆を注目させると、女性はラフな表情を作ってニッコリと微笑んだ。
「最後にレクレーションがあったわ、簡単な余興を残しておいたから興味がある人は参加していってね!」
樹海の入り口に置いてある加工所所有の乗合自動車こと通称『駆除バス』に戻ろうとしていた職員達が足を止める。
何事かと集まり、広場はまりさとれいむを囲んで輪になった。
「ゆゆっ、にんげんさんがいっぱいだよ!」
「ご苦労様、貴方達の協力のお陰で随分と助かったわ」
そう言いつつ女性は膝を折ってまりさたちの視線に合わせた、腰の辺りにぶら下がった透明な箱の中にいるぱちゅりーが
涙で隈を作りやつれた顔をしたまま凄まじい剣幕でまりさ一家を睨み付けているが、まりさは気にも留めない。
「かんしゃするのぜ、まりさがいなかったらのろまなにんげんさんじゃひがくれてたのぜ!!」
「そうだよ!たいどじゃなくてものでしめしてね!!あまあまをたくっさんっちょうだいね!!」
顔をそろえた職員たちが眉を顰める、完全に増長し切った2匹はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべて人間を見下していた。
当初出会った頃の人間に怯えた姿はそこになく、女性はクスッと軽く含んだ笑みを浮かべるとあまあまを要求する2匹を諭した。
「そんなことよりここを貴方達のゆっくりプレイスにするんでしょ?」
「ゆっ!!そうだったのぜ!!きょうからここはまりさのものになるんだぜ!!」
「ゆーん、そうときまればおうちせんげんだよ!!まりさ、いっしょにせんげんっしようね!!」
互いに顔を合わせた2匹は頷いて、周囲にその騒がしい金切り声を轟かせた。
「ここをまりさたちの――」
「ここをれいむたちの――」
「「ゆっくりぷれいすにするよ!!」」
その言葉を耳にして女性が、ついに理想郷を手に入れた興奮から感動を覚え涎を垂らしながら武者震いしている2匹の頭をガッチリと掴んで持ち上げた。
突然の浮遊感に「おそらをとんでるみたいーっ!」と歓喜の声を漏らすれいむとまりさであったが、くるりと向きを変更され、
対面した女性のドス黒く沈みながらも勝ち誇り嘲笑を浮かべた顔を目の当たりにして、まるで忘れていた恐怖を取り戻すかのように言葉を失った。
ガタガタと震えだす身体、どうして今の今まで『人間』という種に対する警戒を解き失念していたのか後悔するまりさ。
だが時は既に遅い、女性はにんまりとほくそ笑んだ。
「うふふっ、ごめんなさいね。嘘は一回切りよ」
「ゆひぃいいっ!!!な、なにずるのぉおおっ!?ばりざだぢになにずるぎなのぉおおおっ!?」
女性は2匹を近くの職員にそれぞれ持たせると、辺りに転がる小枝の1本を持ち上げて滑らせた。
まるでペン回しをする様に小枝をその華奢な手の中で躍らせる女性は、ふんっと可愛らしく息づいてそれを振り上げた――。
季節は冬に移行した。
あの一斉駆除が行われた森にゆっくりの姿はなく、毒素を撒かれ息絶えた彼らは土と同化し、
まるで雪解けの田畑を思わせるように辛うじて小麦粉の一部を残すのみとなった。
そんな冬の樹海の中に一人の男が入って行く、リュックサックを重たそうに背負い痩せこけた頬をして虚ろな表情を浮かべた彼は、
まるで浮浪者の様に彷徨い、ある場所を探して歩き続けていた。
その薄汚れた身形と死んだ魚の眼を思わせる形相から察する通り、彼はこの樹海に死に場所を求めた自殺志願者だった。
理由はありがちだった、事業に失敗し多額の借金を抱え嫁には片方だけ捺印が押された離婚届を残され家を出て行かれ、
あらゆる者を恨み妬み、酒に溺れて最終的にこの樹海に足を運ぶ下りとなった。
手頃な大木を見つけてリュックの中に忍ばせたロープを使って首を吊ろう、そうすれば全てが楽になる、救済への道が開かれる、
と鈍り偏った思考と同期した足取りで森の奥へ進んでいく男は、ついに頃合な巨木を発見した。
これが人生の終着点か、と男はぼんやりとそれを眺めていると大木の枝から不自然にぶら下がった『それ』を目の当たりにしてしまう。
「……うぁ……」
思わずもう二度と震わせるつもりがなかった男の喉が揺れた、見上げた先にロープで吊るされた4つのゆっくりの死骸、
大きさから見て成体2匹と子2匹が、吹き曝しの風に当たりくるくると球体を回して浮かんでいる。
その特質すべき点は全身を抉った傷だ。
不可思議な事に短拳銃に施されたエングレーブの彫刻を思わせる様に肌を抉り、僅かに漏れ出た餡子が鮮やかな花の絵柄を浮かばせている。
見る者を圧倒する芸術性と相反して、吊るされたゆっくりたちの表情は酷く歪に折れ曲がっている。
男は周囲をよく見渡すと吊るされているゆっくりのちょうど真下の部分に餡子の、恐らくうんうんの一部と思しき物が転がっていて思わず驚愕した。
それはこのうんうんが煌びやかな傷を全身に刻み付けられて尚、暫くの間ここでゆっくりたちが生存していた事実を示していたからで、
脆弱なゆっくりの命を奪わずに且つ高度な彫刻を描く巧みな趣向は圧巻と言わざるを得なかった。
「……もう少し、頑張ってみようか……」
ふいに男は言葉を漏らした、本当に無意識であった為に発言の後に自分で口を摩って確認すると、男の顔に薄っすらと笑みが戻った。
ここで首を吊ったら後、このゆっくりの様に惨めな朽ち果て方をした自身の亡骸を想像したのと、
4体のゆっくりに刻み込まれた造形芸術に一種の感動を覚えた彼は、僅かに生気を取り戻した顔をして樹海の入り口に戻って行った。
加工所の女性が余興として行ったそれはこれから先、何人かの自殺志望者を改心させるのだが、
当の本人も、亡骸となったゆっくりたちもそれを知る由がなかった――。
おわり
今まで書いたもの:
http://www26.atwiki.jp/ankoss/pages/2415.html
ご意見ご感想よろしければどうぞ:
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13854/1287934134/l50
書いた人:おおかみねこあき
いじめ 自業自得 差別・格差 嫉妬 妬み 追放 駆除 番い 群れ 子ゆ 自然界 現代 うんしー そのエングレーブには何のタクティカルアドバンテージも無い
陽の光が針葉樹の葉で敷き詰められた天井の隙間から伸び、樹海の一面に広がった茶褐色の地表を照らす。
鳥の囀りが遠くから響くのみの冷ややかな空気の中に沈む森の奥地で、木陰に寄り添って息を整えているゆっくりたちの姿がある。
それは新たな土地を目指して旅立ったれいむ一家であったが、つい3時間ほど前に浮かべていた精力を溢れさせた表情はそこになく、
だらしなく開けた口から涎を垂らして小麦粉で模られた身体を荒々しく上下させていた。
「ゆぅ……ゆぅっ……」
木々の根元に居座っていたれいむは乾いた唇を尖らせた番であるまりさと親たちと同じ様に寝転んで唸っている我が子を横目で見つめていた。
れいむたちは自身が求める理想郷、まだ見ぬゆっくりプレイスを求めて歩き出したのだが、
まりさのあんよの具合と子供達の融通の利かなさが足を引っ張り、出立から短時間にも関わらず限界近くにまで疲労を蓄積させていた。
少し歩いてはまりさは立ち止まりあんよが痛いと言って腰を下ろし、その間に足りないゆっくりの子れいむを
見放すと直ぐにあらぬ方向へ転がっていってしまい、その度にれいむは森を駆けて跳ね回っている娘を連れ戻した。
追い出されたぱちゅりー達が仕切るゆっくりプレイスは既に見えなくなったが、
それでも群れの活動範囲内をようやく抜け出した程度の距離を進んだだけという事実にれいむは僅かながら焦りを覚えていた。
「ゆーん……このままじゃあっというまによるになっちゃうよ……きょうじゅうにゆっくりできるおうちをさがさないとれみりゃやふらんにおそわちゃうよ……」
「わ、わかってるのぜ……でも、まりさのあんよさんがいうことをきかないのぜ……」
硬い意志を持って新たに森を行脚すると決め込んだまりさの決意は既に揺らぎ始めている。
キリッと釣り上がった眉は折れて、生気を欠いた仏頂面がのっぺりと顔面に付着するのみ。
このまま休んでいては埒が明かないと、れいむはまりさの背中を押してでも前に進ませようと考えていた時、
ふいに背後から地面に散らばっている小枝の一つが割れる乾いた音が響いてきた。
「ゆっ?」
れいむは何事かと振り返り音のした方向を見ると、そこに大きな影が立っていた。
聳えるは塔の如く垂直のそれの全体像を把握する為、れいむはゆっくりと見上げるとそこにあった二つの双眸と視線が重なった。
像の正体はストレートの黒髪を肩にまで伸ばした人間の女性だった。
「ゆんやぁああああっ!!!に、にんげんざんだよぉおおおっ!?」
「ゆひいぃいいいっ!!!にんげんざんはゆっぐりできなのぜぇええええ!!!にげるのぜっ!!ゆっぐりぢないでにげるのぜぇえええ!!」
かつて人間の町で散々痛い思いを味わったれいむたちは、前に居た影が人間だと知るや否や我先に逆の方角に向けて走り始めた。
だがまりさの焼き焦がされ擦り切れたあんよは思う様に動かず、木の根元に張り巡らされた凹凸に足を引っ掛け顔面から見事に転がってしまった。
子ゆっくりを咥えて数歩前に居たれいむは、まりさが逃走の為の初動に失敗したと悟って歩みを止めた。
見れば既に人間の女性は傍まで迫っており、尻を突き上げて体制を持ち直そうとしているまりさに手を伸ばしている最中だった。
れいむは咥えていた2匹の子供達を無意識にぽとりと落として、伸びた女性の手がまりさにえげつない拷問を繰り出すのだと想像し、思わず盛大に恐ろしーしーを噴出してしまう。
じょろじょろと飛び出たれいむの御小水は下で蹲っている子供達の頭上に勢い良く降り注いだ。
「あらあら、大丈夫?何も逃げなくてもいいのに」
「ゆんやぁあああああぁあぁあっ!!やめじぇえぇええ!!にんげんざんっ、ひどいごどじないでぇええええ!!!
まりざだぢがめざわりならゆっぐりじないできえまずうぅうう!!おでがいでずぅうう!!みのがじでぐだざいぃいっ!!!」
「うーん、なんだか私の事を酷く警戒しているようね……私は悪い人間じゃないわ、恐がらなくてもいいのよ」
そう言って目蓋を細め清楚な微笑みを浮かべた女性はまりさを丁寧に掴み上げると、平らな地面にそっと置き直した。
恐怖心に縛られていたまりさは、女性が特に危害を加える雰囲気にないと察知すると恐る恐るその姿を見返した。
象牙色の一色のみを写したコットン生地のニット帽を被り、淡い黄土色のベルトを肩に掛けその先に繋がれた透明な箱を腰の辺りに下げている。
その品の良さそうな女性は、円らなまりさの瞳が自身に向けられている事に気付いて警戒心を薄れさせる為にニッコリと笑い返した。
なんだかとてもゆっくりしている人間さんだとまりさは感じると、小刻みに揺れていた身体の震えが収まり平常を取り戻した。
「ゆぅ、おねーさんはなんだかとってもゆっくりしてるにんげんさんなのぜ」
「ま、まりさっ……!だ、だいじょうぶなのっ……!?」
泣きっ面だったまりさのゆっくりしている姿を見てれいむがおっかなびっくりに近付いてくる。
女性はれいむにも特有の微笑みを浮かべて応じると、それらに害意がないものだと知りれいむはホッと胸を撫で下ろした。
「おねーさんはゆっくりできるにんげんさんなんだね!ゆっくりしていってね!!」
「えぇ、ゆっくりさせて貰うわね」
「ゆーん?おねーさんはどうしてこんなところにいるのぜ?」
「私はゆっくりの生態調査に来てるの」
「ゆー?せいたいちょうさ?」
「ええそうよ」
そう言いつつ女性はゆっくりの視線と合わせる為に膝を折って身を下げた。
彼女が着込んでいる作業着の胸元に『加工所』の文字が見えるが、れいむたちには読み取る事は出来ない。
「貴方達……随分と酷い傷を追ってるのね、野良……じゃないわよね?どこかの群れのゆっくりかしら?」
「ゆぅ……」
途端に表情を曇らせるれいむたち、その仕草に小首を傾げながら彼らの返答を待っている女性は
ポケットからビスケットを取り出すと食べ易い様に砕いて辺りに散らばせた。
その甘い匂いに過敏な反応を見せたのは子ゆっくり達である。
「ゆゆっ!あみゃあみゃしゃんのにおいがしゅるのじぇ!!まりしゃがゆっくちむーちゃむーちゃしゅるのじぇ!!」
「ゆっぴゃぁ!!ゆーぴゃっぴゃーあ!!」
目の無い子まりさと足りない子れいむが本能の赴くままビスケットの破片に近付くと、涎でベタベタになった舌を伸ばして頬張り始めた。
「ゆっ!にんげんのおねーさん、おちびちゃんにあまあまさんをくれたんだね!ゆっくりありがとう!!」
「気にしなくていいわ、ところで貴方達の話を少し聞かせてくれないかしら?」
「……わかったのぜ、おねーさんはいいにんげんさんだからおしえてあげるのぜ……まりさたちは、むれをおいだされたのぜ……」
まりさは今までの経緯をなるべく事細かく女性に語った。
人間の街に出向いて酷い目にあった話や、群れでの待遇についてなど、途中感極まってまりさは泣きそうになると帽子の鍔で目元を隠して震えながらに訴える。
ゆっくりである故に語彙が乏しいので大まかな部分が曖昧な表現に留まるも、女性は何度も頷いて熱心に聞き入っていた。
「なるほどね、散々な目にあってきたのね……それで貴方達は新しいゆっくりプレイスを求めて旅に出たのね?」
「そうなのぜ……」
「……やっぱり、今すぐ元の群れに戻った方がいいわ」
「い、いやなのぜっ!!あんなゆっくりできないむれなんかに――」
声を荒げるまりさの口元にサッと人差し指を当てた女性は、手首を左右に振ってまりさを牽制し、言葉を遮った。
「気持ちが分からない訳ではないのよ、でもこれから先その身体で有るか分からない理想郷を探すのはとても難しい話よ」
「で、でもっ!!」
「お姉さんに少し考えがあるの、その追い出した長のぱちゅりーに会わせてくれたらきっとまりさたちが納得できる結果を用意できるわ
どうかしら?元居た群れのゆっくりプレイスに案内してくれないかしら?」
自信たっぷりに女性はウインクを交えて頬を緩ませて見せた、まりさとれいむはお互いに顔を合わせて唸ると、
このまま前進しても桃源郷に辿り着くのは不可能ではないかという不安に押され、2匹の思惑は一致して従う事で合意した。
「わかったのぜ、おねーさんにおねがいするのぜ……ぱちゅりーをせっとくしてほしいのぜ……」
「任せて頂戴、じゃあ早速出発しましょうか」
肩に掛けていた透明な箱を下ろすと、女性はまりさたちに中に入るように促した。
ビスケットを食べ尽くして膨らんだお腹を空に向けていた子供達を回収し家族全員を押し込むと、
飛び出していったゆっくりプレイスに戻るため女性は軽い足取りで歩き始めた――。
―――――――――――――――――
ぱちゅりーたちに追い出されたゆっくりプレイスとの距離を縮める毎に、まりさの表情は徐々に曇っていった。
激昂した形で啖呵を切って群れを出て行ったのに、僅か数時間足らずで舞い戻る事になった恰好の悪さに示しが付かないのがその原因で、
まりさは頻りに眉を折ったり、唇を噛んだりして不満顔を浮かべていた。
とは言えまりさ一家を透明な箱に入れて歩いている女性は、かつてまりさたちを完膚なきまでに叩きのめした『人間』という種に間違いない訳で、
強大無比のジョーカーを味方に付けているという絶対の安心感はまりさの心情をそれほど沈ませる事は無かった。
ゆっくりたちが3時間掛けて歩いた道も人間の足なら15分と掛からず、気付けば樹海の奥地に根付いたゆっくりプレイスの前に到着していた。
「ゆんっ、おねーさん……ここがれいむたちのゆっくりぷれいすだったところだよ……」
過去形で表現した辺り、れいむにも燻った思いがあったのだろうか暢気な人相に若干の影を落としている。
遠くの方にちらほらとゆっくりの姿が視認出来、女性は大きく足を踏み出してゆっくりプレイスへと進入する、そこへ――。
「むっきゅーんっ!!まちなさいっ!!ここはしんせいっなゆっくりぷれいすよ!!にんげんさんっ、なんのようがあって……むきゅっ!?」
突然と長であるぱちゅりーとその取り巻きが飛び出してきた、ぱちゅりーは女性をゆっくりプレイスに入らせないように立ち塞がった様だが、
女性の腰の辺りで透明な納められているまりさたちの存在に勘付き怪訝な顔付きをして見せた。
「むきゅっ……どうしてまりさたちがそこにいるの?まりさたちはむれからでていったんじゃなかったの?それにそのにんげんさんはなんなの!?」
「ぱちゅりーきくのぜ、まりさたちはやっぱりこのむれでくらすのぜ……おうちをかえすのぜ!」
「なにいってるのっ!?もうまりさのおうちはこれからおさになるまりさのおうちになったのよ!もうおうちせんげんもすませたわ!!いまさらもどってこないでね!!」
ゆっくり達にとっておうち宣言とは大礼にも匹敵する重大な儀式である。
既にそれを済ませてしまったというぱちゅりーの言葉にれいむとまりさは不安を隠せずにはいられない。
子供の泣きっ面を思わせるひしゃむくれた顔をして最後の望みである女性に目配せすると、彼女は特に何か言うでもなく再び歩みを進め始めた。
「むきゅー!!ま、まちなさいーっ!まだはなしはおわってないわー!!」
「ゆゆっ!?お、おねーさん?どうしたのぜ?ぱちゅりーをせっとくしてくれるんじゃなかったのぜ?」
まりさが見上げた先にあった女性の顔は酷く冷淡で、先ほど見せていた柔らかい微笑みはそこに無い。
何か別のスイッチが入った様な、かつてまりさたちを甚振り尽くした人間が放っていた雰囲気に似た物を感じてまりさは思わず言葉を失くす。
ゆっくりプレイスの中央、集会に使われる広場に立った女性はポケットからビニール袋に入った固形物を取り出すと、それを辺りにばら撒き始めた。
突然の不法侵入者を前にして不信感を露にした群れのゆっくりたちは遠巻きに彼女の姿を見つめ警戒していると、唐突に漂い始めた甘い香りに眼を大きく見開かせた。
女性が落とした物は先ほどまりさの子供達に与えたビスケットだった。
「ゆゆっ!!あまあまさんのにおいがするよ!!あまあまさんはれいむがたべるよ!!ゆっくりたべられてね!!」
「おいちそうなにおいがしゅるのじぇ!!まりしゃがゆっくりしないじぇいただくのじぇ!!」
「あっちにあみゃあみゃしゃんがありゅぅううう!!れいみゅのしゅーぱーむーちゃむーちゃたいみゅがはじまりゅよぉおお!!」
警戒のケの字も忘れてビスケットにむしゃぶりつくゆっくりたち、外の歓喜の声と樹海には縁のない糖質の匂いが巣の中に潜んでいたゆっくりたちさえも炙り出す。
気付けば群れの大半のゆっくりが、まるで餌を与えられた公園の鳩の様に広場に集まっていた。
大も小も関係なく100を越えるほどの数でビスケットの奪い合いを始める群れのゆっくりたち。
「ど、どどういうことなの!?みんなっ、なにかおかしいわ!!あまあまさんをたべるのをやめるのよ!!」
異様な光景を前にして平静を保てたのは賢い部類に入る少数のゆっくりのみ、
長であるぱちゅりーは異常を察知して皆に呼び掛けるも欲望に囚われたゆっくりたちは耳を傾けない。
「じゃましないでね!!れいむのあまあまさんがにげちゃうでしょぉおおお!!!」
「むきゅーっ!!なにいってるの!?これはへんだとおもわないのーっ!?」
静止を振り払い舌の伸ばし合いを続ける群れのゆっくりたち、そこに意外な悲鳴が木霊する。
「ゆんやぁああああああぁああああっ!!!いっせいくじょのにんげんざんなんだぜぇええええ!!!!!ゆっぐりじないでにげるんだぜぇええええっ!!!!」
騒ぎを聞きつけたあの流れ者まりさが、女性の姿恰好を見て金切り声を周辺に轟かせる。
平静を保っている者と、透明な箱の中で様子を伺っていたまりさたちはギョッとなった。
一斉駆除と加工所はゆっくりにとってゆっくり出来ない事の代名詞である。
親の代から脈々と受け継がれ餡子に刻み込まれた本能を揺さ振る恐怖のキーワードはゆっくりたちを一層と怯えさせる。
「あら、生き残りが居たのね」
そう言って鋭く目蓋を細めたままにんまりとほくそ笑む女性、さっきまでの清楚な姿はそこにはない。
この女性が加工所の職員なのは言うまでも無く、この辺りのゆっくりプレイスを一斉駆除して回っていたのは他ならぬ彼女達であった。
たまたま逃げることが出来た流れ者まりさは、同族を殺し尽くす悪魔が身に付けていた作業着を目蓋に焼き付けていたので彼女の正体に逸早く気付く事が出来た。
「もう少し引き付けたかったけどしょうがないわねぇ……」
徐に女性が首に掛けた笛を吹くと、それに応じて大勢の人影が茂みの中から姿を現した。
女性と同じく青碧色の作業着を着込んだ男達が、背中に小型のポリタンクを背負い右手にはポリタンクと繋がったホースの先端であるピストルノズルを構えている。
「主任、もう宜しいのですか?」
「いいわ、始めちゃって。あっでもそこのぱちゅりーは持ち帰るから手を出さないで、
それから前回の取り逃がしがいるみたいだから今回はより一層入念にね」
「了解です、おーし新人たちーっ、これも研修だぞ!気合入れて潰せよ!!」
「「「ハイッ!!」」」
景気のいい返事と共にゆっくりプレイスを輪にして囲み始める加工所の職員達。
今回の一斉駆除には今年入社したばかりの新入社員が借り出されているらしく、若くエネルギッシュに溢れた彼らは意気揚々に
平然とビスケットに喰らい付いているゆっくりたちの頭上目掛けて毒素を振り撒き始めた。
四方八方から立ち上る悲鳴、ようやく非常事態を察知したゆっくりはお決まりのそろーりそろーりと台詞を吐いて逃げ出し、
それを人間が追い掛けては虐殺を繰り返す、文字通りの地獄絵図が完成した。
「おねーざんのうそづきーっ!!れいぶだぢをおろじでね!!ゆっくりじないでにげさぜでねっ!!」
「ぞうなのぜっ!!おろずのぜっ!!おでーざんはまりざにうぞをづいだのぜっ!!ゆっぐりじでないのぜ!!」
抗議の声を張り上げたのは透明な箱に収まったまりさたち、女性はすっかり忘れていたと軽く息を吐いて微笑する。
「いやねぇ、私まだ嘘は付いてないわよ。それより貴方達、私に協力する気はないかしら?」
「きょ、きょうりょく?な、なんのぜっ!?どうぜひどいごどづるにぎまっでるのぜぇ!!」
「確かに酷い事をしてるわね、でも貴方達も同じ様に酷い事をされたんじゃないの?」
「「……ゆっ!」」
そう言われてまりさとれいむは考え込む、今こうして嗚咽を漏らしているゆっくりたちはまりさたちを笑い飛ばした者ばかりだ。
「どう?復讐したいとは思わないかしら?そのついでで構わないから私たちに協力して駆除の手伝いをしてくれれば、
最終的にここを貴方達に譲り渡してもいいと考えているわ、無論私たち人間との協定を結んで貰う事になるけれど」
人差し指を立てて提案を持ち掛ける女性に、思わずまりさたちは息を呑んだ。
「それにここは越冬用のご飯さんも随分溜め込んでいるんでしょ?それが全部貴方達の物になれば、理想郷を手に入れたと同義ではないかしら?」
「た、たしかにそうなのぜ、でも……ゆっくり――」
殺しはゆっくりできない、と出掛かったまりさの言葉は喉元でつっかえた。
ゆっくりなりの倫理や道徳から考えても女性に加担するなど反社会的な行いに値するが、かつて受けた仕打ちがまりさの脳裏に蘇り訴え掛ける。
これは散々馬鹿にしてくれた群れのゆっくりたちに引導を渡す絶好の機会ではないか。
何の道群れのゆっくりを助けたところでぱちゅりーたちがまりさを英雄視してくれる筈もないのは、想像力の乏しいまりさでも容易に理解できた。
ならばどうするか、まりさはれいむを見た、れいむも同じ様に煮詰まった顔をしているが向かっている思惑は一致しているらしく軽く頷いて見せた。
「まりさ、れいむはさんせいだよ……れいむたちはかわいそうなのにむれのみんなはひどくあたったよ、みんなわるいゆっくりだったんだよ……」
「ゆぅ、わ、わかったのぜ……!でもおねーさんっ、まりさたちをえいえんにゆっくりさせないってちかうのぜ……!」
「勿論よ、貴方達は大切な協力者なんだから手を出すつもりは毛頭ないわ」
「そのことばしんじるのぜ……!」
こうして盟約を交わしたまりさ一家を女性は透明な箱から取り出して地面に置いてやると、毒液を散布している新入社員の一人を呼びつけて耳打ちした。
若い男はやや不満気な顔付きでまりさたちを見下ろしていたが、先輩である女性の手前拒否することも出来ず渋々に提案を了承した様だ。
「このお兄さんが貴方達に付いて行くから、まりさとれいむはおうちに残っているゆっくりを炙り出して欲しいの、いいわね?」
「「ゆっくりりかいしたよ!」」
「そうだ、おちびちゃんたちは私が預かっておくわね、一緒に連れて行くと後々面倒でしょ?」
「そうだね!おねーさんにみてもらえばあんしんっしておてつだいができるよ!!」
「ゆーっ!おかーしゃん、おちごとがんばるのじぇ!!まりしゃおうえんしちぇるのじぇ!!」
「おちびちゃんのためにもまりさはやるのぜ!」
「ゆっぴゃぁー、ゆぴゃっぴゃー」
2匹はキリッと眉を吊り上げて決意を新たにすると、新入社員の男を引き連れて樹海の奥へと進んでいった。
残された女性は、群れの皆が殺戮の渦中に晒されている様子を恐ろしーしーを漏らして眺めている長ぱちゅりーの頭をがっちりと掴んで持ち上げた。
「むぎゅぅううっ!!どおじでっ、ぱじゅりーだぢはただゆっぐりじだがっだだけなのにっ……!どうじでごんなひどいごどをっ……!!」
「ごめんなさいね、これが私達のお仕事なのよ。ところで貴方なかなか賢いゆっくりのようね、不穏分子を排除する狡猾さには見所があるわ」
「むぎゅーぅうう!!はなじなざいっ、ぱじゅりーをはなじなざいっ!!」
「私加工所の職員だけど駆除課の人間じゃないの、生態研究課って言ってね野生のゆっくりの文化構築の具合を調査したりするのだけど、
貴方には研究対象になってもらおうと思うわ、これからその身体が持つまでも間だけよろしくね」
「いやよぉおおっ!!はなじでっー!!」
尻を振って抵抗を試みるぱちゅりーをそのまま空になった透明な箱に押し込むと、女性はしっかりと蓋をしてぱちゅりーを拘束した。
この後、ぱちゅりーはここで死んでいたならばどれほど幸せだったかと嘆く程の尋問と拷問を繰り返される事になるのだが、
音を遮断する小さな空間の中ですすり泣くぱちゅりーにそれを予知するなど到底不可能な話だった――。
―――――――――――――――――
新入社員の若い男を従えてまりさたちは近辺のおうちを片っ端から調査して行く、そこに生き残りが居れば一緒に逃げようと提案し外に誘き寄せ、
出て来た所を待ち構えた男が毒液を浴びせて駆除を行う誘引戦法を採った。
まりさたちはかつて同胞だった者たちの毒を喰らい身体を溶けさせ内臓物を吐き出す凄惨な死に様を見せ付けられ良心の呵責に苛まれていたが、
3件目に訪れた場所でそのちっぽけな正義感が見事に粉砕された。
「ぷきゅぅううっ!!ここにありすのとかいはなおちびちゃんはいないわ!!」
「そうなのぜっ!!まりささまのかわいいおちびちゃんはこんなところにはいないのぜ!!」
成体のありすとまりさが大きな木の根に作ったおうちの入り口を塞ぐ形でそこに立っていた。
何人たりとも通させまいと身体をきっちりと寄せ合って、大きく息を吸い込んで頬を膨らませている。
れいむとまりさはこのゆっくりに見覚えがあった、かつてれいむを割り箸れいむと罵ったり狩りの邪魔をしたりと陰湿な嫌がらせ行為をしたお隣の一家だった。
誰も聞いていないのに頻りに自分達の子供達はここに居ないと叫んでいる姿は、
逆にここに大切な者を匿っていると宣伝している様なものであまりにも滑稽である。
ありすたちは近付いてくる人間の影にを恐怖し怯えながらも、なんとかこの場を死守しようと必死になっている。
いよいよとなった時、ありすは加工所の職員である若い男の傍に佇むまりさとれいむに気付いて何を思ったかニッコリと微笑んだ。
「にんげんのおにーさんっ!!とかいはなありすをくじょするより、そこのわりばしれいむたちをころしてね!」
「ゆゆっ!さすがはまりさのはにーなのぜ!あのまぬけなれいむたちをおとりにしてとんずらするのぜ!」
2匹はまりさたちと加工所の若い男が結託しているとも知らず、出し抜いてあわよくば逃げ出そうと浅はかながらも知略を巡らせた様だ。
そんな哀れなありすたちにれいむが現実を突きつける。
「ばかなゆっくりだね!れいむはおにーさんとめいっやくっをむすんでるんだよ!!」
「な、なにいってるの!?にんげんのおにーさんっ、そのいなかもののれいむをえいえんにゆっくりさせちゃってね!いますぐでいいわ!!」
戯言に付き合うつもりはない加工所の若い男はピストルノズルに手を掛けてありすたちを駆除しようとしたところで、まりさが割って入り男を制止した。
「にんげんのおにーさん、まってほしいのぜ!あいつらはまりさたちをさんっざんっひどいめにあわせたごくあくひどうなゆっくりなのぜ!!
かんたんにえいえんにゆっくりさせたらおなかのむしさんがおさまらないのぜ!!」
「そうだよ!!れいむはなんどもかりをじゃまされたよ!!あいつらにふくっしゅうっしないとれいむもきがすまないよ!!」
先ほどまで浮かない顔をして駆除の片棒を担いでいた2匹が、打って変わり眉間に皺を寄せて怒り顔を前面に押し出す。
男は実に面倒臭そうに後頭部を掻いてぶつくさと文句を言いながらも、仕方無しに2匹のやりたいようにやらせる事にした。
軽くノズルのトリガーを引いて立ち塞がるありすとまりさに死なない程度の毒素を流し込むと、皮の一部をドロドロに溶かしてありす達が悲鳴を上げた。
「ゆぎぃいいっ!!いじゃぁぃいいいっ!!!ありずのとがいばなぶろんどのがみざんがぁああああっ!!!」
「ゆんやぁああああっ!!!まりざのおながのあんござんっ!!ででいっじゃだめなのぜぇえええ!!!」
新聞紙を丸めてくしゃくしゃにした様な顔をした2匹を軽く蹴っ飛ばしておうちの前を開放すると、男はれいむとまりさに目配せした。
「おにーさんっ、ありがとうなのぜ!まりさはゆっくりふくしゅうをはたすよ!!」
「ゆぎぎぎっ!!!ありずのどがいばなおちびじゃんにでをだずなぁあああーっ!!」
「ゆぷぷっ、そこでゆっくりくるしんでね!おちびちゃんはれいむがせきにんっをもってえいえんにゆっくりさせるよ!!」
「やべろーっ!!わりばじでいぶうぅうううっ!!まりざのがわいいおちびじゃんっ!!にげるのじぇぇええっ!!!」
結界を取り除かれたおうちの中を覗くと、外の光を受けて3匹の子ゆっくりが姿を現した。
外の悲鳴を聞いてゆっくり出来ない事態を認識しているらしく、身を寄せ合ってカタカタと恐ろちーちーを漏らし震えている。
そこにまりさが踏み込むと、姉妹の中で一番体躯の大きな子まりさが咄嗟に前に飛び出した。
「いもうちょはまりちゃがまもりゅのじぇ!!ぷきゅぅうううっ!!ゆっ!?ゆぷぷーっ!!なんなのじぇっ、よくみちゃらどりぇいのまりさなのじぇ!!
やいやいっ、まりちゃさまのどりぇいのまりさがなんのようなのじぇ!!」
そう、この子ゆっくりたちはかつてまりさを奴隷扱いしれいむのおちびちゃんを玩具にしたあの子供達だった。
目の前のまりさを奴隷宣言して服従させたものだと勘違いしている子まりさは、大人顔負けの厭らしい笑みを浮かべて舌を上下させている。
「どりぇいはみちゅぎものをよういしゅるのじぇー!!まりちゃさまにあみゃあみゃをもっちぇ――ゆぎょっ!?」
「よくもまりさをどれいあつかいしてくれたのぜっ!!ぐずはゆっくりしないでしぬのぜ!!いっぱいくるしんでしねっ!!」
子まりちゃの小さな身体の端から圧し掛かり、まりさはぐいぐいと中身の餡子を搾り出す様に体重を掛けていく。
内蔵物を吐き出させまいとお口を閉じて必死に子まりちゃは堪えるも、お尻の方から雪崩込んで来る臓物の波に呆気なく防波堤は決壊した。
「ゆぎゅぎゅっー、ちゅぶれ、ちゅぶれりゅぅううーっゆぶゅううっーっ!!ぶぶりゅぶぅぶーっ!!」
どばどばと餡子を口元から排泄し、漏らした汚物を前に干し柿の様に身体を萎れさせ子まりちゃは息絶えた。
まるで歯磨き粉のチューブの中身を絞る様に、餡子を吐き切らされた姉の死に様を目先で見てしまった子まりさと子ありすの2匹は、
巨体をくねくねと揺らしてせせら笑っているれいむとまりさと眼が合い壮絶な悲鳴をあげて命乞いをし始めた。
「たじゅけじぇぇええ!!おねがいだじぇぇえ!!まりちゃまじゃしにじゃくないのじぇぇえええ!!!」
「みゃみゃぁああっ!!ありしゅをたしゅけちぇぇええ!!こんないにゃかもののしにかちゃなんてしちゃくないわぁあああ!!!」
「れいむのかわいいおちびちゃんにひどいことをしたばつだよ!!しんでつぐなってね!!」
きゃぁきゃぁと甲高い声を発した2匹に向かってれいむは助走をつけて突進した。
壁に巻き込む形で押し潰すと金切り声は一瞬にして止まり、小さな命の芽が呆気なくもぎ取られた事実をそこに示した。
「ゆぷぷっ、ざまぁみろなのぜ!!げすにふさわしいまつろだったのぜ!!」
晴れやかな顔をして満足気に巣を出てきたまりさたちは、にんまりと微笑んで毒を受け身動きが取れないありすたちの前に子供たちの亡骸を放り投げた。
「ありずぅのぉおおおっどぉがいばなぁあ!!おちびじゃぁんんがぁああっ!!」
「ゆぎぎぃいいっ!!よぐもっおちびじゃんをごろじだなぁあああっ!!せいっさいっじでやるぅうううう!!!」
「ふくしゅうしちゃってごめんね!げすにいんどーをわたすのはとってもすっきりーできたね!!」
「おにーさんっ、もうまりさたちはまんぞくなのぜ!こいつらをころしてね!!むじひにくるしめてころしてね!!」
待ち草臥れた若い男は、だらりと頷いて毒液をありすたちに浴びせた。
最期の断末魔をあげ、ありすたちは声にならない恨み言を残し程なくして事切れた。
一斉駆除も終盤に差し掛かった辺りで、れいむが木陰に隠れているあの流れ者まりさを発見した。
もう周囲は完全に沈静化され、悲鳴もなければ嗚咽もなく大勢のゆっくりが息絶えたか言葉を発する力を無くし冥府への旅立ちを待っている者ばかりだった。
同族が死んでいく横で、流れ者まりさは茂みの中で身を震わせ一斉駆除が終わるのを待っていたのだろう。
若い男の手によって引きずり出された流れ者まりさは、既に目蓋に大量の涙を浮かべプルプルと小刻みに身体を揺らしていた。
広場に投げ出され左右に顔を振って逃げ道がないのを理解すると突然と額を地面に擦り始めた。
「ゆひぃいいいっ!!おでがいじまずぅうううっ、みのがじでぐだざいぃいいいっ!!まだまりざはじにだぐありまぜんっ!!!」
そんな無様な流れ者まりさを好奇な眼差しで見つめているのは当然れいむとまりさだ。
尻を突き上げる形でひたすらに額を下げ続ける流れ者まりさに、ニヤニヤと肉付いた頬を歪めまりさが近付いた。
「たすけてほしいのぜ?まりさはおにーさんとめいっやくっをむすんでるから、まりさがおねがいすればたすけてあげられるかもしれないのぜ!」
「ゆゆっ!!だ、だずげでほじいんだぜ!!お、おねがいなんだぜっ……!!」
藁にも縋る思いで懇願を続けるその姿を見て、れいむが自身のピコピコで流れ者まりさの頭を高圧的にぺちぺちと叩き始めた。
その他ゆんを馬鹿にした様な態度は、大勢のゆっくりが死んでいく姿を見ていく過程で、
れいむとまりさは罪の意識が薄れ、次第に優位者であるという認識が高くなった結果から来るものだった。
たった数時間という僅かな期間でゲス化を果たしてしまった2匹は厭らしく笑い続ける。
「たすけてほしかったらぺにぺにさんをたてるんだよ!ぐずぐずするんじゃないよ!!」
「ゆーん、いいかんがえなのぜ!さあぺにぺにさんをみんなのまえでみせるのぜ、そうしたらたすけてやるのぜ!!」
「な、なにいっでるのぉおおおっ!?ぞんなはずがじいごどできないにぎまっでるでしょぉおおおお!!!」
「それじゃあしかたないのぜ、おにーさん、このまりさにゆっくりどくさんをかけてね!」
まりさの声に感化してサッとピストルノズルの先端を向ける加工所の職員、その脅しに流れ者まりさはあっさりと屈してしまう。
「やべでぇええええっ!!やりまずうぅううっ、まりざのぺにぺにざんをたてまずがらぁあああ!!」
そう言って流れ者まりさは、唇を噛みながら身体を左右に揺らし始めた。
ゲラゲラと下品な笑い声に包まれながら、流れ者まりさの小さく萎れたぺにぺにがひょっこりと姿を現す。
恥辱に塗れ、悔しさからポロポロと涙を流す流れ者まりさに一層声を荒げて見下すれいむとまりさたち。
「ゆっひーっひっ!!みるのぜれいむっ、なさけないたんしょーぺにぺにさんなのぜっ!!おちびちゃんさいずのみにみにぺにぺにさんなのぜ!!」
「ゆぷぷーっ、ほんとだよっ!!そんなぺにぺにさんのくせにおさになろうだなんてみのほどをわきまえるべきだったね!!」
「ゆうぅううっ……!ゆぐううぅううっ……!!」
見世物を前にして一頻り騒いだ2匹は突然ピタッと笑うのを止めると、
ピコピコで力強く流れ者まりさを指差し後ろで構えている加工所の職員に命令する。
「もういいよ!こいつをころしてね!!れいむのおうちをうばったげすをたたきのめしてね!!」
「まりさのいばしょをぬすんだむくいをうけるのぜっ!!さあにんげんさんっ、みにみにぺにぺにさんのまりさにたっぷりといためつけてね!!」
「どおじでぞういうごどいうのぉおおおっ!?ゆひぃっ!!うぞづぎぃいいいっ!!だずげでぐれるっでやぐぞくしたのにぃいいいっ!!!」
命令に従って不機嫌な顔をした職員の男がゆっくりと流れ者まりさとの距離を詰める。
流れ者まりさはぺにぺにを収納するのも忘れて、萎れた突起物をぶら下げたまま一目散に逃げ出そうと走り出す。
しかし人間の足に敵う筈もなく、大きな長靴の爪先部分で身体を押し付けられすんなりと拘束されてしまう。
ぎゅうぎゅうと踏み躙られながら、僅かに身体を仰け反らせて流れ者まりさは助命を嘆願するしかない。
「ゆんやぁああああぁああっ!!まっでぇええっ、まっでぐだざいぃいっ、おでがい……っ!!ごろざないでっ……!!ゆびぃいいいっ!!!」
圧力が強まり、小麦粉で模られた身体の一部がぶちぶちと音を立てて破れていくのが分かる。
溢れ出る餡子が痛みと共に零れ落ちるのを自覚しながら、流れ者まりさは愉快そうにこちらを傍観しているれいむとまりさと眼が合った。
2匹を睨み付ける様々な負の感情が混ざり合った表情は、男の重みに敗北し粉々に砕け散る。
流れ者まりさの死を見届け終わると、辺りは完全な静寂に包まれた。
背負い込んだポリタンクを空にして加工所の職員達が広場に集まってくる、それは一斉駆除が一様の区切りを迎えた事を示唆していた。
―――――――――――――――――
西南西の空に太陽が落ちていく準備段階へと入る夕暮れを目前にした時刻、
一斉駆除を終えたか職員たちはポリタンクを降ろして切り株の上に腰掛け、同僚達と談笑し酷使した身体を労わっている。
そんな彼らの近くで無数に点在する野生のゆっくりたちの死骸を余所目にし、れいむとまりさとその子供達は腹を揺すって哄笑していた。
もう近辺にまりさたちを馬鹿にした群れのゆっくりは存在しない、積み上げられた骸の中に辛うじて身体を痙攣させていた者達も、
まりさの容赦のない伸し掛かりで、まるで虱を潰す様に息絶えさせられた。
「はーい、みんなご苦労様ー」
駆除課のグループリーダーと思しき中年の男性と暫く事後処理を行っていたニット帽姿のあの女性が集団に近付くと労いの言葉を掛けた、
会話を弾ませていた加工所の職員たちは彼女の存在に気付くと口を閉じ、腰掛けていた者は立ち上がって女性の方に注目する。
「全課合同の新人研修はこれが最後になるわ、駆除課の新人君はまだこれからも同じ仕事が続くでしょうけれど、
他の課の人も基本的に私達はゆっくりを排斥する仕事に就いている事を忘れないようにね、一週間大変だったでしょうけど、
それぞれの課に移っても今日の日の教訓を生かしてこれからの仕事に臨んで貰えればこの研修に意味があったと思うわ――」
女性の言葉に凛々しい表情で耳を傾ける新人たち、不景気な面構えもなく熱心に取り組んだ姿勢を見てきた付き添いの年配の男は、
今年の新入社員はなかなか骨がある人材が揃っていると確信し、腕を組んで頷いている。
締め括りのスピーチが終わると新入社員たちは大きく拍手をし随伴してくれた先輩方に感謝を現した。
そうして解散となり帰り支度を始める一同の中、腑に落ちない顔をした社員の一人が女性に近付いてそっと尋ねた。
「あのー主任さん……こいつらどうするんですか?」
若い男が指差した先にまりさとれいむがいるのに気付いて、女性はすっかり忘れていたと片目を細めて自身の頭をコツンと叩いた。
再度号令を掛けて皆を注目させると、女性はラフな表情を作ってニッコリと微笑んだ。
「最後にレクレーションがあったわ、簡単な余興を残しておいたから興味がある人は参加していってね!」
樹海の入り口に置いてある加工所所有の乗合自動車こと通称『駆除バス』に戻ろうとしていた職員達が足を止める。
何事かと集まり、広場はまりさとれいむを囲んで輪になった。
「ゆゆっ、にんげんさんがいっぱいだよ!」
「ご苦労様、貴方達の協力のお陰で随分と助かったわ」
そう言いつつ女性は膝を折ってまりさたちの視線に合わせた、腰の辺りにぶら下がった透明な箱の中にいるぱちゅりーが
涙で隈を作りやつれた顔をしたまま凄まじい剣幕でまりさ一家を睨み付けているが、まりさは気にも留めない。
「かんしゃするのぜ、まりさがいなかったらのろまなにんげんさんじゃひがくれてたのぜ!!」
「そうだよ!たいどじゃなくてものでしめしてね!!あまあまをたくっさんっちょうだいね!!」
顔をそろえた職員たちが眉を顰める、完全に増長し切った2匹はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべて人間を見下していた。
当初出会った頃の人間に怯えた姿はそこになく、女性はクスッと軽く含んだ笑みを浮かべるとあまあまを要求する2匹を諭した。
「そんなことよりここを貴方達のゆっくりプレイスにするんでしょ?」
「ゆっ!!そうだったのぜ!!きょうからここはまりさのものになるんだぜ!!」
「ゆーん、そうときまればおうちせんげんだよ!!まりさ、いっしょにせんげんっしようね!!」
互いに顔を合わせた2匹は頷いて、周囲にその騒がしい金切り声を轟かせた。
「ここをまりさたちの――」
「ここをれいむたちの――」
「「ゆっくりぷれいすにするよ!!」」
その言葉を耳にして女性が、ついに理想郷を手に入れた興奮から感動を覚え涎を垂らしながら武者震いしている2匹の頭をガッチリと掴んで持ち上げた。
突然の浮遊感に「おそらをとんでるみたいーっ!」と歓喜の声を漏らすれいむとまりさであったが、くるりと向きを変更され、
対面した女性のドス黒く沈みながらも勝ち誇り嘲笑を浮かべた顔を目の当たりにして、まるで忘れていた恐怖を取り戻すかのように言葉を失った。
ガタガタと震えだす身体、どうして今の今まで『人間』という種に対する警戒を解き失念していたのか後悔するまりさ。
だが時は既に遅い、女性はにんまりとほくそ笑んだ。
「うふふっ、ごめんなさいね。嘘は一回切りよ」
「ゆひぃいいっ!!!な、なにずるのぉおおっ!?ばりざだぢになにずるぎなのぉおおおっ!?」
女性は2匹を近くの職員にそれぞれ持たせると、辺りに転がる小枝の1本を持ち上げて滑らせた。
まるでペン回しをする様に小枝をその華奢な手の中で躍らせる女性は、ふんっと可愛らしく息づいてそれを振り上げた――。
季節は冬に移行した。
あの一斉駆除が行われた森にゆっくりの姿はなく、毒素を撒かれ息絶えた彼らは土と同化し、
まるで雪解けの田畑を思わせるように辛うじて小麦粉の一部を残すのみとなった。
そんな冬の樹海の中に一人の男が入って行く、リュックサックを重たそうに背負い痩せこけた頬をして虚ろな表情を浮かべた彼は、
まるで浮浪者の様に彷徨い、ある場所を探して歩き続けていた。
その薄汚れた身形と死んだ魚の眼を思わせる形相から察する通り、彼はこの樹海に死に場所を求めた自殺志願者だった。
理由はありがちだった、事業に失敗し多額の借金を抱え嫁には片方だけ捺印が押された離婚届を残され家を出て行かれ、
あらゆる者を恨み妬み、酒に溺れて最終的にこの樹海に足を運ぶ下りとなった。
手頃な大木を見つけてリュックの中に忍ばせたロープを使って首を吊ろう、そうすれば全てが楽になる、救済への道が開かれる、
と鈍り偏った思考と同期した足取りで森の奥へ進んでいく男は、ついに頃合な巨木を発見した。
これが人生の終着点か、と男はぼんやりとそれを眺めていると大木の枝から不自然にぶら下がった『それ』を目の当たりにしてしまう。
「……うぁ……」
思わずもう二度と震わせるつもりがなかった男の喉が揺れた、見上げた先にロープで吊るされた4つのゆっくりの死骸、
大きさから見て成体2匹と子2匹が、吹き曝しの風に当たりくるくると球体を回して浮かんでいる。
その特質すべき点は全身を抉った傷だ。
不可思議な事に短拳銃に施されたエングレーブの彫刻を思わせる様に肌を抉り、僅かに漏れ出た餡子が鮮やかな花の絵柄を浮かばせている。
見る者を圧倒する芸術性と相反して、吊るされたゆっくりたちの表情は酷く歪に折れ曲がっている。
男は周囲をよく見渡すと吊るされているゆっくりのちょうど真下の部分に餡子の、恐らくうんうんの一部と思しき物が転がっていて思わず驚愕した。
それはこのうんうんが煌びやかな傷を全身に刻み付けられて尚、暫くの間ここでゆっくりたちが生存していた事実を示していたからで、
脆弱なゆっくりの命を奪わずに且つ高度な彫刻を描く巧みな趣向は圧巻と言わざるを得なかった。
「……もう少し、頑張ってみようか……」
ふいに男は言葉を漏らした、本当に無意識であった為に発言の後に自分で口を摩って確認すると、男の顔に薄っすらと笑みが戻った。
ここで首を吊ったら後、このゆっくりの様に惨めな朽ち果て方をした自身の亡骸を想像したのと、
4体のゆっくりに刻み込まれた造形芸術に一種の感動を覚えた彼は、僅かに生気を取り戻した顔をして樹海の入り口に戻って行った。
加工所の女性が余興として行ったそれはこれから先、何人かの自殺志望者を改心させるのだが、
当の本人も、亡骸となったゆっくりたちもそれを知る由がなかった――。
おわり
今まで書いたもの:
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書いた人:おおかみねこあき