ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko1640 僕の考えた最強のまりさ
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僕の考えた最強のまりさ
そんなことはいわないほうがいいわよ。
何かと言えばそれがありすの口癖だった。
まりさが何か喋る度に、小首を傾げたり、眉を顰めてから、
考え深い人間のように一言一言をよく吟味して喋るのだった。
今にして思えば、まりさがそれだけ愚かな事を口走っていたのだろう。
初めての出会いをまりさは今も覚えている。
町の一角に在る閑静な住宅街。
今まで野良ゆっくりたちのゆっくりぷれいすであった空き家に人間が越してきて、
其処の床下や庭に巣食っていたゆっくりたち。
まりさや他の野良ゆ連中が、駄目元で人間に脅しを掛けていた時の事だった。
ゆっへっへっ、にんげんさんはいたいめをみたくなければでていくんだぜ。
今にしてみれば赤面ものだが、その時のまりさは、もしかしたら自分たちの要求が通るかも知れないなどと、
餡子より甘い見通しを抱いていたものだ。
十数匹の野良ゆっくりに取り囲まれながらも、青年は、冷静なそして何かを押し測るような目で
ゆっくりたちを見下ろしていた。
そんなまりさ達に声を掛けてきたのが、空き家の隣人に飼われているありすだった。
入ってよろしいですか?
横合いから、丁寧な言い方で青年に話しかける。
……構わんよ。
青年の了承を得、ありすはゆっくり達の前へとぽよんぽよんと進み出て一同を見回した。
一目で飼いゆと分かる清潔な肌。
金髪は煌くような輝きを湛え、静かな深い蒼の瞳で一堂を見回した。
あなたたち、そんなことは云わない方がいい。
ゆゆっ、ありすはにんげんにみかたするのかだぜ!
ゆっくりしていないありすね!ゆっくりのかざかみにもおけないいなかものだわ!
ゆっ?ここはれいむたちのゆっくりぷれいすなんだよ!
でていくのはにんげんさんなんだよ。ゆっくりわかってねー。
さすがに人間を目の前にして、飼いゆに襲い掛かるほど無謀な野良はいなかったが、
それでも溜まっていた憤懣の捌け口として口々にありすに罵詈雑言を浴びせかけた。
ありすが金バッジであったのも、感情を逆撫でした一因であったかも知れない。
此処は人間の造った家なの。貴方達もそれ位は知っているのでしょう。
ごねてもいい結果にはならないわ。早く立ち去ったほうが身のためよ。
野良一党の領袖のような立場にあったちぇんが、怒りを込めた声で叫んだ。
そんなきょうはくにはのらないんだよー!うらぎりものはいなくなってねー!
ありすは溜息を洩らすと、人間に一礼してから庭から出て行った。
青年が首を振ると、踵を返して扉へと姿を消した。
まりさは、無言でありすの後ろ姿を見送った。
人間が要求を呑むはずがないと、薄々はまりさとて分かっていた。
他の連中も、知ってはいるのだ。
山中なら兎も角、山の手の一帯に棲む野良がそんな無知では生き残れない。
それでも生きる為に必死なのだ。仕方ないのだと言い訳しながら、
自分たちにとって都合のいい要求を人間に押し付けようと皆が必死になっていた。
だが、当然、ゆっくりにとって都合のいい要求を人間が飲む事など絶対にない。
一端、家に戻った青年が戻ってきた時、その手にはシャベルを持っていた。
ゆっ……?
まりさの背中を悪寒の手が撫でた。あれはゆっくり出来ない道具だ。
此処でグズグズしていたら皆がゆっくり出来なくさせられる。
まりさは踵を返すと、全力で跳ね始めた。
自分が生き残るのに必死で、仲間に警告を発しようなど考えもしなかった。
じじいあま ぶちゅり
っじ!?じじいなにをしているんだぜぇえええ?おみゃ!
げぺ!
じゅぱ!
ものの一分ほどで全ての野良を叩き潰すと、青年は残骸を麻袋へと投げ入れた。
背中をスコップの腹でぶん殴られたまりさは、それでも辛うじて生き伸びた。
ゆへーゆへーと喘ぎながら門を越えると、青年は興味を失ったのだろう。
まりさを追いかけてこなかった。
風雨を凌げるゆっくりプレイスを失い、再び、辛い野良の生活に戻って一月。
まりさは暫く近づかなかった家の前を再び通りがかった。
そこで目にしたのは、野良を餌付けしている青年の姿だった。
その時のまりさは、腹が減ってどうしようもなかった。
庭に群れているゆっくりに声を掛ける。
少し分けて欲しいんだぜ。
これはまりさのなんだぜ!!
叫ぶ同族を無視して、餌をまいていた青年はまりさを招きいれた。
おっ、かわいいまりさだね。おいで さあ、食べるといい。
……じじいのしょうたいをしってるまりさはおとなしくしているんだぜ。
余計な事は言わないんだぜ。
じじいはまりさのことをおぼえていないんだぜ。
えさがもらえるならどうでもいいんだぜ。
ゆっ!さっさとえさをよこすんだぜ!じじい!
はやくあまあまもってきてね!れいむはおなかすいてるんだよ!
他のゆっくりたちが付け上がり始めていた。
まりさですら同族の身勝手な物言いにはイラつく時が在る。
青年が溜息を洩らした。立て掛けてあったバットを手に取る。
まりさはいち早く察して門から逃げ出していた。
一匹逃がした事を別に気にする風ではなく、青年は門を閉めた。
ゆんぎゃあああああああ
他のゆっくりが潰されていく悲鳴がまりさの耳を打つ。
塵袋に同族の死体を入れる青年を電柱の影から見つめながらまりさは躰を震わせていた。
きっとぎゃくたいはなんだぜ
其れからも青年は幾度となく同じ事を繰り返した。
腹が減って仕方ないまりさも危険を知っていて、餌が取れない時には庭に入り込んだ。
まりさを見る度に青年は初めて会った時と同様の挨拶をする。
かわいいまりさだな。おいで。と
別に虐待したくているのではない。
餌だけやって可愛がって、わずらわしくなったら処分する。
それだけなんだと悟る。
なら、餌だけ食べるんだぜ。
餌だけやる。野良たちが付け上がる。門扉を閉めて容赦なく潰す。
月に一度の長さでそのサイクルを繰り返しながら
まりさはいつも餌だけ食って、速めに逃げ出していた。
そんな事を十四、五回も繰り返して、半年も経った頃だろうか。
お前、いつものまりさだな。来い。
ゆっ
自分も潰されるのか。
そう思ったがまりさだったが、逃げなかった。
食うや食わずの日々を送る事に疲れていたのだろう。
だが、青年は別にまりさを潰すことなく、
他の野良連中から見えない家の中に運んで餌を与えただけだった。
暫く一緒に暮らした。
一度も、逆らわなかった。
飼い主は理不尽な要求はしなかった。
撫でたり、洗ったり、髪を梳ったり、汚れを取ってくれた。
相手の気持ちを考える事。分からなければ尋ねる事。上下関係。自分の立場。
まりさも考えて、ようやくだがその程度は悟っていた。
やがて暫らくして、青年はまりさ以外の野良を庭に入れなくなった。
小さな籠。中に入れる程度の大きさでタオルが敷いてある。
まりさは中で眠った。
起きた時、銅のバッジが帽子に付けられた。
それから何年か経った。
青年がパソコンで仕事をしている隣で、まりさは本を読んでいる
最初は絵本から、今は、小学生向けの簡単な小説くらいなら読める。
飼い主が暇な時間は、一緒に衛星放送で海外の報道番組や映画を眺める。
時に青年は、簡単な社会の仕組みを噛み砕いて説明してくれた。
まりさは、理解できずとも耳をそばだてるようにしていた。
それが飼い主を喜ばすし、自身の世界も広げてくれると悟っていたからだ。
いつしかゆうかのように花を育て始めていた。
通行人が立ち止まって目を細めると、誇らしいようなむずかゆいような感覚が湧き上がる。
簡単な床掃除をしたり、新聞を取ってきたりはする。
云われてではなく、自分で考えた。飼い主の役に立ちたかった。
懐いたというより、一方的に与えられるのが嫌になったからだ。
勿論、どうでもいい程度の手伝いだとは分かってるが、飼い主は喜んだのだろう。
頭を撫でられたりしていると、まりさも気は楽になった。
飼い慣らされたのかも知れない。だが、それもいいと思った。
飼い主の食べ残しや安物のフード。それで充分だった。
簡単な戦闘訓練も受けさせてくれた。予防注射もされた。
何年も経つうちに、まりさの世界はかつてと大きく様変わりしていた。
世界は何も変わっていない。まりさの視野が広がったのだと飼い主は云う。
まりさは、虚勢を張る事がなくなった。知ったかぶりをする事もなくなった。
盗まなくなった。
買物や使いもこなした。商店街の人間たちも、まりさの顔を覚えた。
帽子についていたバッジは銀色になり、やがて金色になった頃、
飼い主に相談してからありすに告白した。
まりさにはもっと若い相手がいるだろうと断った。
近くで見たありすは眼尻に皺が刻まれていたが、まりさは他の相手は考えられなかった。
やがてありすに受け入れて貰い、二匹は結ばれた。
不思議に野生と違い、中々、子宝に恵まれなかったが、やがて四匹の子供を授かり、
各々の飼い主が二匹ずつ引き取り、教育を施す事となった。
季節は巡り、歳月は流れ、万物は流転する。
やがて飼い主の青年も結婚し、二人の子供が生まれ、やがて多くの想い出と共に
飼い主の子供たちも独り立ちして家から出た。
その時には、まりさの子供たちも一匹ずつ付いていった。
ありすの飼い主の二匹も金バッジを取って、また別の人たちに貰われていったそうだ。
青年も壮年となり、今は初老に差し掛かっていた。
まりさは人間の背丈程も大きくなっていた。
どすではない。
長く生き、よく運動し、心が満たされていた為にただ大きくなっただけだった。
森の奥に時々生息している長老サイズという奴だろう。
不可思議な力など持ちえないし、まりさも欲しくもなかった。
幸いにも、食事は体躯に見合わず、若い頃よりやや少ない程度の量で済んでいる。
ありすも今は墓の下。まりさも動きが衰え始めていた。よく生きたと思う。
周囲の人たちが幾度か後添えを探してくれようとしたが、
まりさにはありすと過ごした想い出だけで充分だった。
まりさが飼われてから何十年目かの或る日。
冬の最中、久しぶりに日本晴れの早朝だった。
珍しく心浮き立つものを覚えたまりさは、久しぶりに街路に出てみた。
いつの間にか、隣の家に新しい住人が越してきていたようだ。
ありすが居なくなった頃、ありすの主人も引っ越して近所づきあいも途絶えていた。
どんな人だろうか。まりさが覗いてみると、落ち着いた雰囲気の女性が
ゆっくりと話しているようだった。
冷静な眼差しで、静かに庭で騒ぎ立てている薄汚れたゆっくりを見つめている。
ここはれいむのゆっくりぷれいすなんだよ!
にんげんはさっさとでていってね!そしてしんでね!
茂みの垣根から、まりさと女性の目が合った。
お邪魔していいですか?
女性が肯くと、まりさは音もなく跳ねて野良の傍らまで進んだ。
その薄汚れたゆっくり。歯は所々欠けており、リボンも千切れている野良のれいむは、
老成した雰囲気を纏った大きなゆっくりを不思議そうな顔で眺めた。
ゆっくりしていってね!まりさ!
ややあって、ぎこちなくまりさが返事をれいむに返した。
ああ、ゆっくりしていってね。れいむ。
まりさは、自分が周囲の人間とも同族とも十数年もその挨拶を交わしていなかった事に気づいた。
ゆっくりを無理に求める必要も欲求も、何時しか薄れて消えていたのか。
ゆっくりはまりさのうちに溢れている。他の飼われている同族も同様に満たされている。
必死でゆっくりしていってねと叫んでいたあの頃が、なんだかとても懐かしく思えた。
れいむは、あの人にとても乱暴な口の聞き方をしているね?
そんなことはいわないほうがいい。
一言だけ忠告する。
ゆゆっ、あのにんげんはれいむのどれいなんだよ
まりさはゆっへんを胸を張るれいむをじっと見つめた。
貪欲で傲慢な顔。ただ己。己の欲だけが心のうちに在る顔。
自分の欲求が通ると何の臆面もなく信じきった、厚かましい嫌な面。
目を閉じた。かつての自分もこんな面だったのかも知れない。
思い起こそうとするが、最近は、昔の事を思い出すのにも一苦労だった。
鏡で見た筈の自分の若い頃の姿は、記憶の果てで薄れ掛けていて遂に思い出せなかった。
目を見開いて、何処か薄ぼんやりとした眼差しで庭を見回した。
ありすの眠る庭。隅に小さな石の墓がある。
残していて欲しいと願う反面、新しい住人が越してきた以上、
やがては消えるだろうとも思う。
足元でれいむが何か云ってるが、まりさの耳には入らなかった。
花も、虫も、草木も、何もかもが美しくて愛おしかった。
女性が多少の戸惑いを孕んだ静かな瞳で、まりさを観察していた。
此の見知らぬ大きなゆっくりが如何出るかも分からないからだろう。
では、なるようにしかならないね。れいむ。
そう告げてから、女性に頭を下げた。
無理に同族を救おうとは思わなかった。
まりさの意志を読み取ったのだろう。女性が何かを諦めたように溜息を洩らしながら、
家の奥へと引っ込んでいく。
恐らくはれいむを処分するのだ。
人間さえ思うように生きられない厳しく残酷な世界で、不思議と飼い主と巡りあい、
心を通じ、今こうして衣食住を与えられているという事がどれほどの幸運か。
ありすという賢明な伴侶を得、子宝にも恵まれた。もう思い残す事はなかった。
今のまりさが此処にこうして在るのは、全く一人と一匹のお陰であった。
野良のまま物を知らずに死ぬのは、今考えると本当に恐ろしいことだった。
飼い主も、ありすも、よくぞ自分如きに目を掛けて根気よく付き合い、育ててくれたと
己が幸運を噛み締めながら、まりさも小さく溜息を洩らして踵を返した。
人間が戻ってきたのだろう。背後から、れいむの傲慢な罵り声が聞こえた。
すぐに狼狽した声に変化し、命乞いへ。そして恐怖の絶叫が周囲へ鳴り響いた。
断末魔の叫びは遠く、まりさの心には響かなかった。
老境に差し掛かった今、まりさは物事をあるがままに受け入れるようになっていた。
早朝の冷たく澄んだ大気が、まりさの肌を心地よく刺激する。
天は何処までも蒼く澄みわたり、遠く町並みの彼方まで広がっている。
街路樹の枝に羽を休める鳥の囀りに耳を傾けながら、老いたまりさは老いた主を起こしに
ゆっくりと家へと戻っていった。
fin
『ゆっくり』は他者に要求するものではなく、自分で掴み取るものであり、
また如何な境地でも悟りとは一足飛びに得られる物ではなく、
長い歳月を研鑽と練磨を怠らず、道を一歩一歩進んでいくように、
順序を経て学びとっていくものだと思う(キリッ
過去作
『ゆっくりしていってね!yuukaさん!』
『帰還』
そんなことはいわないほうがいいわよ。
何かと言えばそれがありすの口癖だった。
まりさが何か喋る度に、小首を傾げたり、眉を顰めてから、
考え深い人間のように一言一言をよく吟味して喋るのだった。
今にして思えば、まりさがそれだけ愚かな事を口走っていたのだろう。
初めての出会いをまりさは今も覚えている。
町の一角に在る閑静な住宅街。
今まで野良ゆっくりたちのゆっくりぷれいすであった空き家に人間が越してきて、
其処の床下や庭に巣食っていたゆっくりたち。
まりさや他の野良ゆ連中が、駄目元で人間に脅しを掛けていた時の事だった。
ゆっへっへっ、にんげんさんはいたいめをみたくなければでていくんだぜ。
今にしてみれば赤面ものだが、その時のまりさは、もしかしたら自分たちの要求が通るかも知れないなどと、
餡子より甘い見通しを抱いていたものだ。
十数匹の野良ゆっくりに取り囲まれながらも、青年は、冷静なそして何かを押し測るような目で
ゆっくりたちを見下ろしていた。
そんなまりさ達に声を掛けてきたのが、空き家の隣人に飼われているありすだった。
入ってよろしいですか?
横合いから、丁寧な言い方で青年に話しかける。
……構わんよ。
青年の了承を得、ありすはゆっくり達の前へとぽよんぽよんと進み出て一同を見回した。
一目で飼いゆと分かる清潔な肌。
金髪は煌くような輝きを湛え、静かな深い蒼の瞳で一堂を見回した。
あなたたち、そんなことは云わない方がいい。
ゆゆっ、ありすはにんげんにみかたするのかだぜ!
ゆっくりしていないありすね!ゆっくりのかざかみにもおけないいなかものだわ!
ゆっ?ここはれいむたちのゆっくりぷれいすなんだよ!
でていくのはにんげんさんなんだよ。ゆっくりわかってねー。
さすがに人間を目の前にして、飼いゆに襲い掛かるほど無謀な野良はいなかったが、
それでも溜まっていた憤懣の捌け口として口々にありすに罵詈雑言を浴びせかけた。
ありすが金バッジであったのも、感情を逆撫でした一因であったかも知れない。
此処は人間の造った家なの。貴方達もそれ位は知っているのでしょう。
ごねてもいい結果にはならないわ。早く立ち去ったほうが身のためよ。
野良一党の領袖のような立場にあったちぇんが、怒りを込めた声で叫んだ。
そんなきょうはくにはのらないんだよー!うらぎりものはいなくなってねー!
ありすは溜息を洩らすと、人間に一礼してから庭から出て行った。
青年が首を振ると、踵を返して扉へと姿を消した。
まりさは、無言でありすの後ろ姿を見送った。
人間が要求を呑むはずがないと、薄々はまりさとて分かっていた。
他の連中も、知ってはいるのだ。
山中なら兎も角、山の手の一帯に棲む野良がそんな無知では生き残れない。
それでも生きる為に必死なのだ。仕方ないのだと言い訳しながら、
自分たちにとって都合のいい要求を人間に押し付けようと皆が必死になっていた。
だが、当然、ゆっくりにとって都合のいい要求を人間が飲む事など絶対にない。
一端、家に戻った青年が戻ってきた時、その手にはシャベルを持っていた。
ゆっ……?
まりさの背中を悪寒の手が撫でた。あれはゆっくり出来ない道具だ。
此処でグズグズしていたら皆がゆっくり出来なくさせられる。
まりさは踵を返すと、全力で跳ね始めた。
自分が生き残るのに必死で、仲間に警告を発しようなど考えもしなかった。
じじいあま ぶちゅり
っじ!?じじいなにをしているんだぜぇえええ?おみゃ!
げぺ!
じゅぱ!
ものの一分ほどで全ての野良を叩き潰すと、青年は残骸を麻袋へと投げ入れた。
背中をスコップの腹でぶん殴られたまりさは、それでも辛うじて生き伸びた。
ゆへーゆへーと喘ぎながら門を越えると、青年は興味を失ったのだろう。
まりさを追いかけてこなかった。
風雨を凌げるゆっくりプレイスを失い、再び、辛い野良の生活に戻って一月。
まりさは暫く近づかなかった家の前を再び通りがかった。
そこで目にしたのは、野良を餌付けしている青年の姿だった。
その時のまりさは、腹が減ってどうしようもなかった。
庭に群れているゆっくりに声を掛ける。
少し分けて欲しいんだぜ。
これはまりさのなんだぜ!!
叫ぶ同族を無視して、餌をまいていた青年はまりさを招きいれた。
おっ、かわいいまりさだね。おいで さあ、食べるといい。
……じじいのしょうたいをしってるまりさはおとなしくしているんだぜ。
余計な事は言わないんだぜ。
じじいはまりさのことをおぼえていないんだぜ。
えさがもらえるならどうでもいいんだぜ。
ゆっ!さっさとえさをよこすんだぜ!じじい!
はやくあまあまもってきてね!れいむはおなかすいてるんだよ!
他のゆっくりたちが付け上がり始めていた。
まりさですら同族の身勝手な物言いにはイラつく時が在る。
青年が溜息を洩らした。立て掛けてあったバットを手に取る。
まりさはいち早く察して門から逃げ出していた。
一匹逃がした事を別に気にする風ではなく、青年は門を閉めた。
ゆんぎゃあああああああ
他のゆっくりが潰されていく悲鳴がまりさの耳を打つ。
塵袋に同族の死体を入れる青年を電柱の影から見つめながらまりさは躰を震わせていた。
きっとぎゃくたいはなんだぜ
其れからも青年は幾度となく同じ事を繰り返した。
腹が減って仕方ないまりさも危険を知っていて、餌が取れない時には庭に入り込んだ。
まりさを見る度に青年は初めて会った時と同様の挨拶をする。
かわいいまりさだな。おいで。と
別に虐待したくているのではない。
餌だけやって可愛がって、わずらわしくなったら処分する。
それだけなんだと悟る。
なら、餌だけ食べるんだぜ。
餌だけやる。野良たちが付け上がる。門扉を閉めて容赦なく潰す。
月に一度の長さでそのサイクルを繰り返しながら
まりさはいつも餌だけ食って、速めに逃げ出していた。
そんな事を十四、五回も繰り返して、半年も経った頃だろうか。
お前、いつものまりさだな。来い。
ゆっ
自分も潰されるのか。
そう思ったがまりさだったが、逃げなかった。
食うや食わずの日々を送る事に疲れていたのだろう。
だが、青年は別にまりさを潰すことなく、
他の野良連中から見えない家の中に運んで餌を与えただけだった。
暫く一緒に暮らした。
一度も、逆らわなかった。
飼い主は理不尽な要求はしなかった。
撫でたり、洗ったり、髪を梳ったり、汚れを取ってくれた。
相手の気持ちを考える事。分からなければ尋ねる事。上下関係。自分の立場。
まりさも考えて、ようやくだがその程度は悟っていた。
やがて暫らくして、青年はまりさ以外の野良を庭に入れなくなった。
小さな籠。中に入れる程度の大きさでタオルが敷いてある。
まりさは中で眠った。
起きた時、銅のバッジが帽子に付けられた。
それから何年か経った。
青年がパソコンで仕事をしている隣で、まりさは本を読んでいる
最初は絵本から、今は、小学生向けの簡単な小説くらいなら読める。
飼い主が暇な時間は、一緒に衛星放送で海外の報道番組や映画を眺める。
時に青年は、簡単な社会の仕組みを噛み砕いて説明してくれた。
まりさは、理解できずとも耳をそばだてるようにしていた。
それが飼い主を喜ばすし、自身の世界も広げてくれると悟っていたからだ。
いつしかゆうかのように花を育て始めていた。
通行人が立ち止まって目を細めると、誇らしいようなむずかゆいような感覚が湧き上がる。
簡単な床掃除をしたり、新聞を取ってきたりはする。
云われてではなく、自分で考えた。飼い主の役に立ちたかった。
懐いたというより、一方的に与えられるのが嫌になったからだ。
勿論、どうでもいい程度の手伝いだとは分かってるが、飼い主は喜んだのだろう。
頭を撫でられたりしていると、まりさも気は楽になった。
飼い慣らされたのかも知れない。だが、それもいいと思った。
飼い主の食べ残しや安物のフード。それで充分だった。
簡単な戦闘訓練も受けさせてくれた。予防注射もされた。
何年も経つうちに、まりさの世界はかつてと大きく様変わりしていた。
世界は何も変わっていない。まりさの視野が広がったのだと飼い主は云う。
まりさは、虚勢を張る事がなくなった。知ったかぶりをする事もなくなった。
盗まなくなった。
買物や使いもこなした。商店街の人間たちも、まりさの顔を覚えた。
帽子についていたバッジは銀色になり、やがて金色になった頃、
飼い主に相談してからありすに告白した。
まりさにはもっと若い相手がいるだろうと断った。
近くで見たありすは眼尻に皺が刻まれていたが、まりさは他の相手は考えられなかった。
やがてありすに受け入れて貰い、二匹は結ばれた。
不思議に野生と違い、中々、子宝に恵まれなかったが、やがて四匹の子供を授かり、
各々の飼い主が二匹ずつ引き取り、教育を施す事となった。
季節は巡り、歳月は流れ、万物は流転する。
やがて飼い主の青年も結婚し、二人の子供が生まれ、やがて多くの想い出と共に
飼い主の子供たちも独り立ちして家から出た。
その時には、まりさの子供たちも一匹ずつ付いていった。
ありすの飼い主の二匹も金バッジを取って、また別の人たちに貰われていったそうだ。
青年も壮年となり、今は初老に差し掛かっていた。
まりさは人間の背丈程も大きくなっていた。
どすではない。
長く生き、よく運動し、心が満たされていた為にただ大きくなっただけだった。
森の奥に時々生息している長老サイズという奴だろう。
不可思議な力など持ちえないし、まりさも欲しくもなかった。
幸いにも、食事は体躯に見合わず、若い頃よりやや少ない程度の量で済んでいる。
ありすも今は墓の下。まりさも動きが衰え始めていた。よく生きたと思う。
周囲の人たちが幾度か後添えを探してくれようとしたが、
まりさにはありすと過ごした想い出だけで充分だった。
まりさが飼われてから何十年目かの或る日。
冬の最中、久しぶりに日本晴れの早朝だった。
珍しく心浮き立つものを覚えたまりさは、久しぶりに街路に出てみた。
いつの間にか、隣の家に新しい住人が越してきていたようだ。
ありすが居なくなった頃、ありすの主人も引っ越して近所づきあいも途絶えていた。
どんな人だろうか。まりさが覗いてみると、落ち着いた雰囲気の女性が
ゆっくりと話しているようだった。
冷静な眼差しで、静かに庭で騒ぎ立てている薄汚れたゆっくりを見つめている。
ここはれいむのゆっくりぷれいすなんだよ!
にんげんはさっさとでていってね!そしてしんでね!
茂みの垣根から、まりさと女性の目が合った。
お邪魔していいですか?
女性が肯くと、まりさは音もなく跳ねて野良の傍らまで進んだ。
その薄汚れたゆっくり。歯は所々欠けており、リボンも千切れている野良のれいむは、
老成した雰囲気を纏った大きなゆっくりを不思議そうな顔で眺めた。
ゆっくりしていってね!まりさ!
ややあって、ぎこちなくまりさが返事をれいむに返した。
ああ、ゆっくりしていってね。れいむ。
まりさは、自分が周囲の人間とも同族とも十数年もその挨拶を交わしていなかった事に気づいた。
ゆっくりを無理に求める必要も欲求も、何時しか薄れて消えていたのか。
ゆっくりはまりさのうちに溢れている。他の飼われている同族も同様に満たされている。
必死でゆっくりしていってねと叫んでいたあの頃が、なんだかとても懐かしく思えた。
れいむは、あの人にとても乱暴な口の聞き方をしているね?
そんなことはいわないほうがいい。
一言だけ忠告する。
ゆゆっ、あのにんげんはれいむのどれいなんだよ
まりさはゆっへんを胸を張るれいむをじっと見つめた。
貪欲で傲慢な顔。ただ己。己の欲だけが心のうちに在る顔。
自分の欲求が通ると何の臆面もなく信じきった、厚かましい嫌な面。
目を閉じた。かつての自分もこんな面だったのかも知れない。
思い起こそうとするが、最近は、昔の事を思い出すのにも一苦労だった。
鏡で見た筈の自分の若い頃の姿は、記憶の果てで薄れ掛けていて遂に思い出せなかった。
目を見開いて、何処か薄ぼんやりとした眼差しで庭を見回した。
ありすの眠る庭。隅に小さな石の墓がある。
残していて欲しいと願う反面、新しい住人が越してきた以上、
やがては消えるだろうとも思う。
足元でれいむが何か云ってるが、まりさの耳には入らなかった。
花も、虫も、草木も、何もかもが美しくて愛おしかった。
女性が多少の戸惑いを孕んだ静かな瞳で、まりさを観察していた。
此の見知らぬ大きなゆっくりが如何出るかも分からないからだろう。
では、なるようにしかならないね。れいむ。
そう告げてから、女性に頭を下げた。
無理に同族を救おうとは思わなかった。
まりさの意志を読み取ったのだろう。女性が何かを諦めたように溜息を洩らしながら、
家の奥へと引っ込んでいく。
恐らくはれいむを処分するのだ。
人間さえ思うように生きられない厳しく残酷な世界で、不思議と飼い主と巡りあい、
心を通じ、今こうして衣食住を与えられているという事がどれほどの幸運か。
ありすという賢明な伴侶を得、子宝にも恵まれた。もう思い残す事はなかった。
今のまりさが此処にこうして在るのは、全く一人と一匹のお陰であった。
野良のまま物を知らずに死ぬのは、今考えると本当に恐ろしいことだった。
飼い主も、ありすも、よくぞ自分如きに目を掛けて根気よく付き合い、育ててくれたと
己が幸運を噛み締めながら、まりさも小さく溜息を洩らして踵を返した。
人間が戻ってきたのだろう。背後から、れいむの傲慢な罵り声が聞こえた。
すぐに狼狽した声に変化し、命乞いへ。そして恐怖の絶叫が周囲へ鳴り響いた。
断末魔の叫びは遠く、まりさの心には響かなかった。
老境に差し掛かった今、まりさは物事をあるがままに受け入れるようになっていた。
早朝の冷たく澄んだ大気が、まりさの肌を心地よく刺激する。
天は何処までも蒼く澄みわたり、遠く町並みの彼方まで広がっている。
街路樹の枝に羽を休める鳥の囀りに耳を傾けながら、老いたまりさは老いた主を起こしに
ゆっくりと家へと戻っていった。
fin
『ゆっくり』は他者に要求するものではなく、自分で掴み取るものであり、
また如何な境地でも悟りとは一足飛びに得られる物ではなく、
長い歳月を研鑽と練磨を怠らず、道を一歩一歩進んでいくように、
順序を経て学びとっていくものだと思う(キリッ
過去作
『ゆっくりしていってね!yuukaさん!』
『帰還』