ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko3281 “少女”が見た田舎の流星群(前編)
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『“少女”が見た田舎の流星群(前編)』 26KB
いじめ 思いやり 不運 日常模様 群れ 捕食種 希少種 現代 夏コンペ没ネタ(容量オーバー) 以下:余白
いじめ 思いやり 不運 日常模様 群れ 捕食種 希少種 現代 夏コンペ没ネタ(容量オーバー) 以下:余白
『“少女”が見た田舎の流星群(前編)』
序、
新緑を梅雨の雨が濡らす田舎の農村。こじんまりとした学校の教室で数名の子供たちが机を一箇所に寄せて作ったスペースで
歓声を上げていた。その輪の中心には二匹の赤ちゃんゆっくりがいる。二匹は取っ組み合いの喧嘩の真っ最中だ。
歓声を上げていた。その輪の中心には二匹の赤ちゃんゆっくりがいる。二匹は取っ組み合いの喧嘩の真っ最中だ。
「ほらいけ! そこだ!」
「いちゃいよぉぉぉ!!!」
赤れいむと赤まりさ。二匹は大泣きしながらまだ発達しきっていない柔肌を互いにぶつけ合っていた。
「おいまりさ! お前負けたら俺が踏み潰してやるからな!!!」
「ゆんやあぁあぁぁぁあぁぁ!!!!」
子供たちは近くの山で捕まえてきた野生のゆっくり親子から赤ゆを奪い、戦わせて遊んでいたのだ。生まれて間もない赤ゆの
体に小さな傷が無数に刻まれていく。硬い木製の床や体当たりを受けたときに生じる衝撃から皮が裂けてしまうのだ。痛みに弱
い赤ゆの皮は小石を踏んでも泣き出すくらいに脆い。体を動かす際の餡子の流動でさえ内側から赤ゆにダメージを与えているこ
とだろう。それでも子供たちは赤ゆが痛みに耐えかねその場で震えていると、頭を押さえつけて固定し後頭部の辺りをデコピン
で弾く。脳天を抉られるような衝撃を味わわされるくらいならと泣きながら対峙する赤ゆに攻撃を仕掛ける。
体に小さな傷が無数に刻まれていく。硬い木製の床や体当たりを受けたときに生じる衝撃から皮が裂けてしまうのだ。痛みに弱
い赤ゆの皮は小石を踏んでも泣き出すくらいに脆い。体を動かす際の餡子の流動でさえ内側から赤ゆにダメージを与えているこ
とだろう。それでも子供たちは赤ゆが痛みに耐えかねその場で震えていると、頭を押さえつけて固定し後頭部の辺りをデコピン
で弾く。脳天を抉られるような衝撃を味わわされるくらいならと泣きながら対峙する赤ゆに攻撃を仕掛ける。
「おにぇーちゃぁぁぁん!! やめちぇよぅ!! れーみゅ、もう、ちんじゃうよぉぉぉ」
「ごめんにぇっ! ごめんにぇっ!!」
「いちゃああああああい!!!」
戦意を失って揉み上げを力なく垂らす赤れいむの頭を何度も踏みつける赤まりさ。たった一匹の妹を泣きながら殺そうとする
赤まりさの姿に子供たちは大笑いしている。この二匹も数分前までは頬を寄せ合って子供たちに威嚇を行っていたのだ。姉であ
る赤まりさは「いもーちゃはじぇったいにまもりゅよっ!」などと言っていた。それが歯車の動きを一つ狂わせただけで、姉妹
による壮絶な殺し合いが始まるのだ。子供たちが定めた赤ゆを戦わせる遊びの決着方法はただ一つ。どちらか一方の死である。
赤まりさの姿に子供たちは大笑いしている。この二匹も数分前までは頬を寄せ合って子供たちに威嚇を行っていたのだ。姉であ
る赤まりさは「いもーちゃはじぇったいにまもりゅよっ!」などと言っていた。それが歯車の動きを一つ狂わせただけで、姉妹
による壮絶な殺し合いが始まるのだ。子供たちが定めた赤ゆを戦わせる遊びの決着方法はただ一つ。どちらか一方の死である。
「おきゃ……しゃっ、たしゅけ……ちぇ……。 れ、れーみゅ……ちゅ、ちゅぶれりゅぅぅぅぅぅぅぅぅ……うぶぎゅッ!??」
圧迫に耐えきれなくなった赤れいむの皮が勢いよく裂けて中身の餡子が飛び出す。薄皮一枚に細い髪の毛が絡みついた妹の残
骸の上で赤まりさがぶるぶる震えた。
骸の上で赤まりさがぶるぶる震えた。
「ま……まりしゃのいもうちょがぁぁぁぁ!!!」
「あーはっはっはっは!!! 何が“妹がー!”だよ。 お前が潰したんじゃねーか!」
ゆんゆん泣きわめく赤まりさを持ち上げて虫かごの中に入れる。プラスチックの壁に頬をぴったりとくっつけて泣き崩れる赤
まりさを放置して次の試合が始まろうとしていた。
まりさを放置して次の試合が始まろうとしていた。
「あれ?」
「あいつはほら……さっき死んだゆっくりが最後のストックだったから、先帰るって言ってたぜ? 山にゆっくりを捕まえに行
ったんじゃない?」
ったんじゃない?」
「そうか。 じゃあ、今いる奴で決勝やろうぜ。 おら、まりさ出てこい」
「ゆんやあぁぁぁぁ!!! もうやじゃあ! まりしゃ、おうちかえりゅぅぅぅぅ!!!」
滝のように涙を流す赤まりさをよそにこの日の遊びのフィナーレが始まる。
トウモロコシ畑の中を突っ切っていく少年の姿があった。半袖のティーシャツに半ズボン。肩にぶら下がる虫かご。裸足にス
リッパを引っかけただけの軽装で草を掻き分けて奥へ奥へと進んでいく。この辺りの山は少年を含めた村の子供たちにとって庭
のようなものだ。目的はゆっくりを捕まえるだけなので身一つで十分に事足りる。親ゆが抵抗してもせいぜい威嚇か体当たりく
らいしかできない。二、三発殴って蹴り飛ばせばすぐに大人しくなるのだ。
リッパを引っかけただけの軽装で草を掻き分けて奥へ奥へと進んでいく。この辺りの山は少年を含めた村の子供たちにとって庭
のようなものだ。目的はゆっくりを捕まえるだけなので身一つで十分に事足りる。親ゆが抵抗してもせいぜい威嚇か体当たりく
らいしかできない。二、三発殴って蹴り飛ばせばすぐに大人しくなるのだ。
「やっぱり暗いな……」
学校を出た時間が遅かったため既に夕日が山の向こうに隠れようとしている。周囲を山に囲まれたこの村は暗くなるのも早か
った。それでも少年は明日みんなで遊ぶために赤ゆを求めて山へと足を踏み入れる。山の地形や道筋は頭の中に叩き込んであっ
た。問題はどこにゆっくりの巣があるか、だけなのだ。ゆっくりは馬鹿である。何度も赤ゆを乱獲する人間が山に侵入してくる
のにも関わらず居住域を変えようとしない。
ゆっくりの引っ越しはある意味で賭けなのだろう。人間のように新しい住処が決まった状態で家を出るわけではないので、新
たな家が見つかるまでは放浪の旅を強いられるのだ。その途中で野生動物や捕食種に襲われたり、体の小さな赤ゆは餓死してし
まう危険がある。
少年は忍び足で移動をしていた。よくゆっくりを見かける場所までやってきたのである。少年が息を殺して周囲を見回した。
った。それでも少年は明日みんなで遊ぶために赤ゆを求めて山へと足を踏み入れる。山の地形や道筋は頭の中に叩き込んであっ
た。問題はどこにゆっくりの巣があるか、だけなのだ。ゆっくりは馬鹿である。何度も赤ゆを乱獲する人間が山に侵入してくる
のにも関わらず居住域を変えようとしない。
ゆっくりの引っ越しはある意味で賭けなのだろう。人間のように新しい住処が決まった状態で家を出るわけではないので、新
たな家が見つかるまでは放浪の旅を強いられるのだ。その途中で野生動物や捕食種に襲われたり、体の小さな赤ゆは餓死してし
まう危険がある。
少年は忍び足で移動をしていた。よくゆっくりを見かける場所までやってきたのである。少年が息を殺して周囲を見回した。
(いた……!)
おそらくは日向ぼっこから巣穴に帰る途中のゆっくり親子だろう。子宝に恵まれたのかなんと四匹も赤ゆが跳ねている。少年
は歓喜した。四匹もいればストックとして十分だ。遊び道具にもなる。少年は頭の中で作戦を立て始めた。と言っても内容はと
ても作戦などと呼べるようなものではなく、親ゆっくりを蹴り飛ばして赤ゆを虫かごに入れる、というだけだった。
夕日の茜色に染められながら笑顔を絶やさないゆっくり親子。やがてその集団は少年が身を潜めていた草むらの前へとやって
きた。
は歓喜した。四匹もいればストックとして十分だ。遊び道具にもなる。少年は頭の中で作戦を立て始めた。と言っても内容はと
ても作戦などと呼べるようなものではなく、親ゆっくりを蹴り飛ばして赤ゆを虫かごに入れる、というだけだった。
夕日の茜色に染められながら笑顔を絶やさないゆっくり親子。やがてその集団は少年が身を潜めていた草むらの前へとやって
きた。
(――――今だっ)
草むらから飛び出そうとしたそのとき。
「く……、くろ……」
「~~~~~~ッ?!!」
ヒタリ……と少年の足首をつかむ生温かい感触。思わず上げそうになった声を歯を食いしばって押さえ込む。文字通り目を丸
くした少年が額からダラダラと汗を流していた。まるで化物でも見るかのように顔を引きつらせて目線を下に向ける。そこには
一人の“少女”が倒れていた。刻一刻と変化していく状況に思考回路がまったく追いつかない。ゆっくり親子は巣穴の中に戻っ
てしまっていた。それに気づくはずもない少年は膝の力が抜けたのかそのままその場に座り込む。瞳に涙を滲ませ訴えるように
少年を真っ直ぐ見つめる“少女”。ショートカットに緑の髪が揺れる。白い長袖の服に紺と黒を基調にした上着を羽織り、下半
身は膝上までかかるスカート。“少女”の手には、墓地などでよく見かける細長いギザギザの板……“卒塔婆”(そとば)が握
られていた。
くした少年が額からダラダラと汗を流していた。まるで化物でも見るかのように顔を引きつらせて目線を下に向ける。そこには
一人の“少女”が倒れていた。刻一刻と変化していく状況に思考回路がまったく追いつかない。ゆっくり親子は巣穴の中に戻っ
てしまっていた。それに気づくはずもない少年は膝の力が抜けたのかそのままその場に座り込む。瞳に涙を滲ませ訴えるように
少年を真っ直ぐ見つめる“少女”。ショートカットに緑の髪が揺れる。白い長袖の服に紺と黒を基調にした上着を羽織り、下半
身は膝上までかかるスカート。“少女”の手には、墓地などでよく見かける細長いギザギザの板……“卒塔婆”(そとば)が握
られていた。
「……どこか……痛いの……?」
「しろ……。 しろ……」
「わ……分かんないよ! ちゃんと喋ってくれよ!!」
「~~~~……くろぉ……」
「もしかして……“しろ”か、“くろ”ってしか……言えないの?」
「しろ……」
必死に頷きながら「しろ、しろ」と繰り返す“少女”。ようやく少年はこの“少女”にとって“白”という言葉が肯定の意を
表しているということに気づいた。遅れて“黒”という言葉が否定の意を表していることも。少年が“少女”を抱き起こす。同
年代……よりも少し年下であろうか。少年にもたれかかる少女の体は軽かった。
表しているということに気づいた。遅れて“黒”という言葉が否定の意を表していることも。少年が“少女”を抱き起こす。同
年代……よりも少し年下であろうか。少年にもたれかかる少女の体は軽かった。
「うわ……」
思わず絶句する少年。それもそうだろう。自分に助けを求める“少女”は太ももの辺りの皮が引き裂かれていたのである。幸
いにも“血”は止まっているようであるがこの傷の深さは尋常ではない。
いにも“血”は止まっているようであるがこの傷の深さは尋常ではない。
「うー……うー。 はなすんだどぉ。 それはれみりゃたちのごはんなんだどー」
突如上から聞こえた声に“少女”がびくんと肩を震わせる。声の方向に目を向けると、そこには一匹のれみりゃがいた。絶や
さない笑顔から覗く鋭い牙に体の倍近くもある二対の翼。れみりゃと呼ばれるゆっくりを主食にしている捕食種の一匹だ。
さない笑顔から覗く鋭い牙に体の倍近くもある二対の翼。れみりゃと呼ばれるゆっくりを主食にしている捕食種の一匹だ。
「こいつ……! ゆっくりのくせに人間の女の子を襲うなんて……ッ!!」
足下に転がっていた拳大の石を拾って投げつける。一直線に飛んだ石は見事にれみりゃの額に命中した。
「うっぎゃあああ!! いだい゛んだどぉぉぉぉ!!!!!」
思いっきり石をぶつけられたれみりゃは大泣きしながら「ざぐや゛ーーー!!」と叫んで飛んでいってしまった。 すると。
“少女”が少年に抱きついてきた。痛めた足を引きずりながらなので頭は腰の位置ぐらいから上がらない。
“少女”が少年に抱きついてきた。痛めた足を引きずりながらなので頭は腰の位置ぐらいから上がらない。
「わ、わわ……」
「しろぉ……っ、しろぉぉぉ!!」
「……“ありがとう”、ってこと……?」
「しろ! しろ!!」
「そっか……。 へへ、どういたしまして」
“少女”の泣き顔に少年がはにかんで頬を染めた。それからハッと我に返る。
「そ、そうだ! 足……足見せて!」
「しろ……?」
見間違いでなければこの“少女”の太ももは先ほどのれみりゃによって引き裂かれていたはずだ。場合によっては病院に行っ
て医者に診て貰わなければならない。慌てていたから、というのは理由になるだろうか。仮にもスカートをはいた“少女”の膝
下を掴んで前に回り込むなど。
て医者に診て貰わなければならない。慌てていたから、というのは理由になるだろうか。仮にもスカートをはいた“少女”の膝
下を掴んで前に回り込むなど。
「あ……」
スカートの奥からちらりと覗く“少女”の下着が目に入った瞬間、思考回路ががくんと音を立てて停止してしまった。“少女”
は顔を真っ赤にして、
は顔を真っ赤にして、
「く……くろ~~~~~ッ/////」
「そ、そんな……白じゃ……、おぶっ!!!」
もう片方の足で少年の顎を蹴り上げた。顎を押さえて転げ回る少年の元に“少女”が心配そうにとことこと歩いてくる。少年
と目が合うと、“少女”は何度も何度も頭を下げた。まだ少し足は引き摺っているようだが、一歩も動けないというわけではな
いらしい。血が出ていないので大丈夫というわけではないのだろうが、少年は自分のティーシャツを破るとそれを“少女”の傷
口に巻き付けた。少年が“少女”の足下に膝をついたときに警戒心を露わにしたのか両手を胸の上で組んで後ずさりをしたが、
なんとか誤解されずに済んだようである。
と目が合うと、“少女”は何度も何度も頭を下げた。まだ少し足は引き摺っているようだが、一歩も動けないというわけではな
いらしい。血が出ていないので大丈夫というわけではないのだろうが、少年は自分のティーシャツを破るとそれを“少女”の傷
口に巻き付けた。少年が“少女”の足下に膝をついたときに警戒心を露わにしたのか両手を胸の上で組んで後ずさりをしたが、
なんとか誤解されずに済んだようである。
「しろっ!」
そう言って“少女”はぺこりと頭を下げた。顔を上げた“少女”が嬉しそうに笑っている。なぜだか一瞬、少年の胸の奥が締
め付けられたような……そんな気がした。
め付けられたような……そんな気がした。
一、
母親から掛け布団を引っぺがされ、敷き布団から蹴り飛ばされてようやく目が覚めた少年はぼーっとした様子で顔を洗ってい
た。昨日の“少女”は少年に御礼(?)を言った後に山の奥へと帰って行ったのだ。麓に降りるのではなく山の奥へ。それから
疑問が尽きなくなってしまった。冷静に考えればこの人口の少ない過疎化まっしぐらの村で初めて見る女の子がいる事自体おか
しなことなのである。
た。昨日の“少女”は少年に御礼(?)を言った後に山の奥へと帰って行ったのだ。麓に降りるのではなく山の奥へ。それから
疑問が尽きなくなってしまった。冷静に考えればこの人口の少ない過疎化まっしぐらの村で初めて見る女の子がいる事自体おか
しなことなのである。
(あの子は……いったい誰なんだろう……?)
鏡に映る水に濡れた自分の顔に向かって問いかけてみる。当然、答えが返ってくることはなかった。一つ溜め息をついて、ま
た勢いよく冷水を顔にぶつける。それから思考を振り払うかの如くガシガシとタオルを顔にこすりつけた。 少年の家は農家だ。
今日は両親の畑仕事を手伝う手筈になっていた。午前中のうちに手伝いを終わらせてしまえば、午後は赤ゆを探しに山へ入るこ
とができる。夕方からはまた友人たちと一緒に赤ゆを戦わせて遊ぶ約束をしていた。両親よりも先に家を飛び出し昨夜指示され
た内容の作業に取りかかる。もともと少年は農業関連の仕事が嫌いではない。両親の畑を継ぎたいと願うのはもちろんのこと、
村を出ようなどという考えは一切持ち合わせていなかった。少し蒸し暑い畑で少年が汗を流しながら働く様は既に次代の農業を
担う若者の姿に他ならない。大きく息をついて額に浮かんだ汗を手の甲で拭う。
た勢いよく冷水を顔にぶつける。それから思考を振り払うかの如くガシガシとタオルを顔にこすりつけた。 少年の家は農家だ。
今日は両親の畑仕事を手伝う手筈になっていた。午前中のうちに手伝いを終わらせてしまえば、午後は赤ゆを探しに山へ入るこ
とができる。夕方からはまた友人たちと一緒に赤ゆを戦わせて遊ぶ約束をしていた。両親よりも先に家を飛び出し昨夜指示され
た内容の作業に取りかかる。もともと少年は農業関連の仕事が嫌いではない。両親の畑を継ぎたいと願うのはもちろんのこと、
村を出ようなどという考えは一切持ち合わせていなかった。少し蒸し暑い畑で少年が汗を流しながら働く様は既に次代の農業を
担う若者の姿に他ならない。大きく息をついて額に浮かんだ汗を手の甲で拭う。
「ゆゆっ! にんげんさん! ゆっくりしていってね!!!」
「ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!!!」
後ろからかけられた声に振り返るとそこにはれいむとまりさの親子がいた。れいむはキリッとした表情で少年を見上げ、まり
さは人を小馬鹿にしたような顔で少年をじろじろと眺めている。三匹の赤ゆは親ゆの周りを忙しなく跳ね回っていた。
さは人を小馬鹿にしたような顔で少年をじろじろと眺めている。三匹の赤ゆは親ゆの周りを忙しなく跳ね回っていた。
「ここはおやさいさんがたくさんはえてていいばしょだね!」
「ここをれいむたちのゆっくりぷれいすにするよ!」
「ゆっくち! ゆっくち!」
唐突なおうち宣言に少年が思わず呆気に取られる。何も言わない少年を見て宣言が認められたと認識したれいむ一家は野菜の
葉っぱを食べ始めた。
葉っぱを食べ始めた。
「あ。 こら!」
「むーしゃ、むーしゃ、しあわせぇぇぇぇ!!」
「またゆっくりか……。 うちの畑にも来るとはな……」
「お父さん……?」
「ゆ? ここはまりさたちのゆっくりぷれいだよ! にんげんさんははやくでていってね! まりさ、おこるとつよいんだよ?」
頬を膨らませて威嚇を行うまりさを無視して少年の父親はここ最近、人里に下りてきては畑を荒らすゆっくりたちによる被害
を語って聞かせた。農作物の収穫が生命線である農家にとって畑荒らしは許されざる所業である。
を語って聞かせた。農作物の収穫が生命線である農家にとって畑荒らしは許されざる所業である。
「昔はこんな事はなかったんだがなぁ……」
そう言っておもむろにクワをまりさの脳天に叩き込む少年の父親。寸断されたまりさは断末魔の悲鳴を上げることなく「ゆ゛っ、
ゆ゛っ」と呻いて事切れた。一家の動きがピタリと止まる。それから一家は思い思いに自分たちの感情を吐き出した。声を張り
上げて喚き散らすゆっくりを見ても何の感情も沸かないのか、少年の父親はまりさの顔の右半分に泣きながら頬をすり寄せるれ
いむの頭に再びクワを振り下ろした。
ゆ゛っ」と呻いて事切れた。一家の動きがピタリと止まる。それから一家は思い思いに自分たちの感情を吐き出した。声を張り
上げて喚き散らすゆっくりを見ても何の感情も沸かないのか、少年の父親はまりさの顔の右半分に泣きながら頬をすり寄せるれ
いむの頭に再びクワを振り下ろした。
「もっど……ゆ゛っぐり゛、じだが……た」
同様に即死させられたれいむの姿を見て赤ゆたちは金縛りにあったように動けなくなっている。少年の父親はそれらを、ぷち、
ぷち、ぷち、と無言で踏み潰した。
ぷち、ぷち、と無言で踏み潰した。
「……赤ゆは潰さなくても良かったのに」
「ゆっくりなんかに同情してはいかんぞ? 近いうちに村周辺のゆっくりを一斉駆除する予定なんだ。 街から業者を呼んでな。
もちろん村の人間も手伝うことになってる。 お前も頭数に入れてるからな」
もちろん村の人間も手伝うことになってる。 お前も頭数に入れてるからな」
同情をしたわけではなく赤ゆを探しに行く手間が省けたと思っていただけだったのが、少年の父親の言葉にはゆっくりへの憎
悪が見え隠れしていたので何も言うことはしなかった。それからしばらくして畑仕事を終えた少年は昼食の代わりに井戸水で冷
やしていたスイカを食べ、そそくさと虫カゴを肩にぶら下げ家を飛び出していく。未舗装の道を颯爽と駆けていく少年。その途
中で少年は村とゆっくりの“現状”を垣間見た。
悪が見え隠れしていたので何も言うことはしなかった。それからしばらくして畑仕事を終えた少年は昼食の代わりに井戸水で冷
やしていたスイカを食べ、そそくさと虫カゴを肩にぶら下げ家を飛び出していく。未舗装の道を颯爽と駆けていく少年。その途
中で少年は村とゆっくりの“現状”を垣間見た。
「い゛だい゛よ゛ぉぉぉぉ……」
「ごべんなざい゛ぃぃぃ……おろ゛じでぐだざい゛ぃぃぃ……」
「たしゅけちぇにぇ…… たしゅけちぇにぇ……」
畑荒らしを行ったのであろうゆっくりたちの悲痛な泣き声と訴えがそこかしこから聞こえてくる。こうなるまでの過程で人間
との実力差をたっぷりと刻み込まれたのか不思議と呪詛をぶつけてくるゆっくりは一匹もいない。先端の尖った鉄筋がゆっくり
たちの頭頂部から底部にかけて貫通された状態で地面に突き立っていた。“ゆっくり避けのカカシ”だ。赤ゆは丹念にあんよを
焼かれ、頭に釣り針を突き刺された状態でカカシの周囲にぶら下がっている。同族が見たならば思わず目を背けたくなるような
光景であろう。村の小さな子供たちは身動きの取れないカカシにされたゆっくりの顔に石を投げつけて遊んでいた。
山に入った少年が足を止めて呼吸を整え始める。木々で覆われた山のほうが涼しいのでここまで一気に駆け抜けてきたのだ。
忍び足で山の奥へと入っていく。昨日はすぐに見つかったが今日はなかなかゆっくりに遭遇しない。ゆっくりの巣穴も探しては
みたが容易に発見することはできなかった。成体ゆっくりはたまに見かけたが少年の姿を見るや否やぴょんぴょん逃げていくの
で相手にしない。
との実力差をたっぷりと刻み込まれたのか不思議と呪詛をぶつけてくるゆっくりは一匹もいない。先端の尖った鉄筋がゆっくり
たちの頭頂部から底部にかけて貫通された状態で地面に突き立っていた。“ゆっくり避けのカカシ”だ。赤ゆは丹念にあんよを
焼かれ、頭に釣り針を突き刺された状態でカカシの周囲にぶら下がっている。同族が見たならば思わず目を背けたくなるような
光景であろう。村の小さな子供たちは身動きの取れないカカシにされたゆっくりの顔に石を投げつけて遊んでいた。
山に入った少年が足を止めて呼吸を整え始める。木々で覆われた山のほうが涼しいのでここまで一気に駆け抜けてきたのだ。
忍び足で山の奥へと入っていく。昨日はすぐに見つかったが今日はなかなかゆっくりに遭遇しない。ゆっくりの巣穴も探しては
みたが容易に発見することはできなかった。成体ゆっくりはたまに見かけたが少年の姿を見るや否やぴょんぴょん逃げていくの
で相手にしない。
「……なんか、ゆっくりの数が減ったな……」
二時間近く歩き続けてすっかり疲れてしまったのか少年が樹の根本に腰を下ろす。その状態できょろきょろと周囲を見渡して
みるがやっぱりゆっくりの姿は見えない。
みるがやっぱりゆっくりの姿は見えない。
「どぉしてそんなこというのぉぉぉ?! えーきはれいむたちのおさでしょぉぉぉ?! れいむたちをゆっくりさせるのが、お
さのしごとでしょぉぉぉぉぉ!??」
さのしごとでしょぉぉぉぉぉ!??」
「く……くろっ! くろっ!!」
(……え?)
寄りかかった樹の反対側からゆっくりの声と昨日の“少女”の声が聞こえた。
「もりのなかはあぶなくって、ごはんさんをさがしにいけないよっ! だからにんげんさんからおやさいさんをわけてもらわな
いとゆっくりできないんだよっ!」
いとゆっくりできないんだよっ!」
「そうなのぜ! にんげんさんはおやさいさんをひとりじめしてるゲスなんだぜ!まりさたちにもむーしゃむーしゃさせてもら
うけんりがあるのぜ!!」
うけんりがあるのぜ!!」
「~~~~ッ!! くろっ!! くぅろぉぉぉぉぉッ!!!!」
「ゆひぃっ!」
「そ、そんなにおこることないんだぜ……っ!! もういいんだぜっ! まりさたちはにんげんさんのところにいって、おやさ
いさんをむーしゃむーしゃしてくるのぜ!!」
いさんをむーしゃむーしゃしてくるのぜ!!」
「ゲスなおさはゆっくりしんでねっ!!」
「く……くろ……っ!」
少年が声を押し殺していると目の前を二匹のれいむとまりさが跳ねていった。その表情は必死そのもので少年の姿にも気がつ
いていないようである。少年がそっと樹の反対側を覗く。そこにはボロボロと溢れる涙を必死になって両手で拭う“少女”の姿
があった。思わず少年が歩み寄る。“少女”はびくっ、とした様子でこちらに目を向けた。細い指の間から覗く潤んだ瞳に頬を
伝う涙。不安そうに悲しそうに、寂しそうに泣いている“少女”の姿を見た途端、少年は自分でも考えつかないような行動を取
ってしまった。
いていないようである。少年がそっと樹の反対側を覗く。そこにはボロボロと溢れる涙を必死になって両手で拭う“少女”の姿
があった。思わず少年が歩み寄る。“少女”はびくっ、とした様子でこちらに目を向けた。細い指の間から覗く潤んだ瞳に頬を
伝う涙。不安そうに悲しそうに、寂しそうに泣いている“少女”の姿を見た途端、少年は自分でも考えつかないような行動を取
ってしまった。
「……っ!」
“少女”の背に手を回す。そのまま、ぎゅっと抱きしめた。抵抗されるかも知れないなどと言うことまで頭が回らなかった。
“少女”は少年のまだまだ細い腕の中でそのまま泣き続けている。少年の胸に額を当て、嗚咽を漏らしながら。
“少女”は少年のまだまだ細い腕の中でそのまま泣き続けている。少年の胸に額を当て、嗚咽を漏らしながら。
辺りが薄暗くなってきた。“少女”は本当に長い間、少年に泣きすがっていた。ようやく泣きやんだ“少女”が恥ずかしそう
に少年の顔をチラチラと見つめている。少年が尋ねた。
に少年の顔をチラチラと見つめている。少年が尋ねた。
「君は、ゆっくりなの……?」
「しろ……」
「“えーき”、っていう名前なの?」
「……しろ」
街の高級ペットショップで高値で売られている希少種よりも更に珍しいとされる胴付きのゆっくり。えーき自体が希少種であ
ることを考えれば、ゆっくり業界では珍品中の珍品と言って間違いない。しかし、希少種のことも胴付きのことも知らない少年
にとっては関係のないことだ。改めてまじまじと見つめる。少し幼い印象はあるものの、少年には人間のようにしか見えなかっ
た。ゆっくりらしからぬ頬の輪郭は“少女”本来のものではなく疲労によって皮が痩せてしまっているだけなのだが、当然知る
由はない。少年には“少女”がゆっくりだと信じることができなかった。しかし、先ほどのゆっくりとの会話を思えば信じるほ
かない。少年に“少女”の言葉を理解することはできないが、あのゆっくりたちは理解をしていたようだった。さらに、“少女”
はゆっくりの群れの長でもあるらしい。
ることを考えれば、ゆっくり業界では珍品中の珍品と言って間違いない。しかし、希少種のことも胴付きのことも知らない少年
にとっては関係のないことだ。改めてまじまじと見つめる。少し幼い印象はあるものの、少年には人間のようにしか見えなかっ
た。ゆっくりらしからぬ頬の輪郭は“少女”本来のものではなく疲労によって皮が痩せてしまっているだけなのだが、当然知る
由はない。少年には“少女”がゆっくりだと信じることができなかった。しかし、先ほどのゆっくりとの会話を思えば信じるほ
かない。少年に“少女”の言葉を理解することはできないが、あのゆっくりたちは理解をしていたようだった。さらに、“少女”
はゆっくりの群れの長でもあるらしい。
「……しろ?」
不安そうに覗き込む“少女”の瞳に思考回路が完全にストップしてしまった。それからしばらく考え込むような仕草を見せた
“少女”は草むらから立ち上がると、少年にぺこりと頭を下げてまた山の奥へと歩いて行った。
“少女”は草むらから立ち上がると、少年にぺこりと頭を下げてまた山の奥へと歩いて行った。
(ゆっくりだから……山の中に家があるんだろうな……)
少年はキツネにつままれたような顔をしながら山を下りて行った。既に太陽は山の向こう側へと沈み、田畑を茜色に染めてい
る。遥か西の空には分厚い雨雲が見え隠れしており、これから雨が降るであろうことを物語っていた。耳を澄ませば空を揺るが
す雷鳴の音が微かに聞こえてくる。そんな空の表情を眺めながら畑道を歩いていると、ゆっくりのカカシに向かって大声で叫び
続けるゆっくりの姿が視界に入った。カカシにされているのはまりさ。声を張り上げているのはれいむのようである。ぼんやり
とそれを眺めながら、少年は“少女”と口論を交わしていた二匹のゆっくりを思い出した。どれも同じ顔なので見分けがつかな
いが、もしかしたら先ほどのゆっくりが畑の人間に捕まってしまったのかも知れない。周りに二匹の赤ゆがいればそれだけ拉致
して帰ろうかとも思ったが、目当ての物がいないことに気付くとそれらを無視して通り過ぎようとした。しかし。
る。遥か西の空には分厚い雨雲が見え隠れしており、これから雨が降るであろうことを物語っていた。耳を澄ませば空を揺るが
す雷鳴の音が微かに聞こえてくる。そんな空の表情を眺めながら畑道を歩いていると、ゆっくりのカカシに向かって大声で叫び
続けるゆっくりの姿が視界に入った。カカシにされているのはまりさ。声を張り上げているのはれいむのようである。ぼんやり
とそれを眺めながら、少年は“少女”と口論を交わしていた二匹のゆっくりを思い出した。どれも同じ顔なので見分けがつかな
いが、もしかしたら先ほどのゆっくりが畑の人間に捕まってしまったのかも知れない。周りに二匹の赤ゆがいればそれだけ拉致
して帰ろうかとも思ったが、目当ての物がいないことに気付くとそれらを無視して通り過ぎようとした。しかし。
「ゆゆっ! にんげんさん!! まってね!! まってね!!!」
歩み去ろうとする少年の前に回り込んだれいむがその場でぴょんぴょんと飛び跳ねて必死に自分の存在をアピールする。何を
言いたいかはなんとなく理解できるので畑のほうに蹴り返そうと左足を振り上げると、れいむはびくっとして目を閉じた。間髪
入れずにまりさの声が少年の耳に届く。
言いたいかはなんとなく理解できるので畑のほうに蹴り返そうと左足を振り上げると、れいむはびくっとして目を閉じた。間髪
入れずにまりさの声が少年の耳に届く。
「やめるんだぜぇっ! れいむにひどいこと……するななのぜぇっ!!!」
カカシにされた状態で必死になって叫ぶまりさ。ゆっくりの感情など正直どうでも良いことはであったが、このまりさは心底
パートナーであるれいむの身を案じているようだ。いつまで経っても痛みが襲ってこないことに、れいむは閉じていた目を片方
だけ開けるとすぐに涙目になってカカシの下に跳ねていった。
パートナーであるれいむの身を案じているようだ。いつまで経っても痛みが襲ってこないことに、れいむは閉じていた目を片方
だけ開けるとすぐに涙目になってカカシの下に跳ねていった。
「ゆぅん、ゆぅぅぅん……! まりさ、ゆっくりありがとう! こわかったよぅ……!!!」
「れいむはもうおうちにかえるのぜ……まりさはここからうごけないんだぜ……」
「いやだよ! まりさもいっしょにかえるんだよっ!!」
「……なぁ、お前ら」
「ゆ?」
「ゆゆ?」
気が付くと少年は二匹に声をかけていた。聞いてみたいことがあったのだ。こんな絶望的な状況に追い込まれていながらも、
ほんの少しの闘争心を剥き出しにしているのかまりさが少年を睨み付ける。れいむの方はすっかり怯えて打ち込まれた鉄筋に頬
をぴったりとくっつけていた。少年が二匹に歩み寄ると“ゆわぁぁぁ”と叫びながられいむが鉄筋の反対側に移動する。あんま
り警戒されても困るのでそれ以上近づくことはせずに話しかけることにした。
ほんの少しの闘争心を剥き出しにしているのかまりさが少年を睨み付ける。れいむの方はすっかり怯えて打ち込まれた鉄筋に頬
をぴったりとくっつけていた。少年が二匹に歩み寄ると“ゆわぁぁぁ”と叫びながられいむが鉄筋の反対側に移動する。あんま
り警戒されても困るのでそれ以上近づくことはせずに話しかけることにした。
「なんで急に野菜を食べに人間の畑に来たんだ……? 今まではこんなことなかったよな……?」
「……にんげんさんは、いつでもおやさいさんをむーしゃむーしゃできてずるいのぜっ! まりさたちにすこしぐらいわけてく
れてもばちはあたらないんだぜっ!!」
れてもばちはあたらないんだぜっ!!」
「僕らは、野菜だけを食べて生きてるわけじゃないんだ。 ここで一生懸命作った野菜をたくさんの人に売ってそれでお金を稼
いでる……って言っても分からないかな。 とにかく僕らが作った野菜を何と交換するわけでもなく勝手に食べられたら迷惑な
んだ。 僕たちが生きていけなくなる。 ……あぁ、ゆっくりできなくなるんだよ」
いでる……って言っても分からないかな。 とにかく僕らが作った野菜を何と交換するわけでもなく勝手に食べられたら迷惑な
んだ。 僕たちが生きていけなくなる。 ……あぁ、ゆっくりできなくなるんだよ」
自分でも不思議なくらいにゆっくりを相手に説得を試みてしまっていた。二匹の後ろに“少女”の影がちらつくからだろうか。
れいむとまりさはしばらく“ゆんゆん”唸っていたが少年の説明を理解できていないようだった。
れいむとまりさはしばらく“ゆんゆん”唸っていたが少年の説明を理解できていないようだった。
「……ゆっくりできないのはれいむたちだっておなじだよっ!!」
「ちょっとぐらいおすそわけしてくれてもいいんだぜっ! にんげんさんはゲスばっかりなのぜっ!!!」
「……分かったよ。 まりさ、お前を助けてやる。 そしたら、僕の質問に答えてくれるかい?」
「ゆゆっ?!」
「ほ、ほんとに……いいのぜ?」
「お前ら、さ……。 本当はわかってるんだろう? 野菜は僕らの物で、それを勝手に食べちゃいけないってこと」
「……ゆぐっ」
二匹と“少女”のやり取りを見ていなければこんな事は言わなかっただろう。少なくとも“少女”は野菜の所有権が人間にあ
ることを理解していた。だから二匹に対して必死に説得を行っていたのだ。それはつまり二匹が群れの長である“少女”に対し
伺いを立てていたことを意味する。もし本当に馬鹿なゆっくりであれば、勝手に山を下りて野菜畑を荒らしていたはずだ。不自
然なのはそれだけではない。“狩り”と称して人間の野菜を狙っているのであれば、もっと大挙して押し寄せてきてもいいはず
なのである。それにも関わらず少年の家にやってきたゆっくりも、畑でカカシにされているゆっくりも、この二匹も……家族単
位で行動を起こしていた。つまり、野菜の略奪行為は群れの総意ではないのである。
ることを理解していた。だから二匹に対して必死に説得を行っていたのだ。それはつまり二匹が群れの長である“少女”に対し
伺いを立てていたことを意味する。もし本当に馬鹿なゆっくりであれば、勝手に山を下りて野菜畑を荒らしていたはずだ。不自
然なのはそれだけではない。“狩り”と称して人間の野菜を狙っているのであれば、もっと大挙して押し寄せてきてもいいはず
なのである。それにも関わらず少年の家にやってきたゆっくりも、畑でカカシにされているゆっくりも、この二匹も……家族単
位で行動を起こしていた。つまり、野菜の略奪行為は群れの総意ではないのである。
「い゛、いだい゛よ゛ぉ゛ぉぉぉ……ッ!!!」
「ま、まりさぁ……ゆっくり……ゆっくり……!!」
鉄筋に突き刺さっていたまりさを引き抜く。一応、皮が破れたり避けたりしないように慎重に行動を起こしたつもりだったが、
体内を鉄筋によって蹂躙される激痛がまりさの全身を駆け巡っているのだろう。ゆっくりらしからぬ形相でその痛みに耐えてい
た。
体内を鉄筋によって蹂躙される激痛がまりさの全身を駆け巡っているのだろう。ゆっくりらしからぬ形相でその痛みに耐えてい
た。
「ゆゆゆゆゆゆ……ありがとうなんだぜっ! ありがとうなんだぜっ!!!」
「ゆぁぁぁん……まりさぁ……ッ! すーりすーりすーり…………ゆ、ゆっくり~~~!!!」
「さて。 じゃあ、教えてくれないかな。 お前らがわざわざ危険を冒してまで畑に野菜を食べに山から下りてくる理由を」
「……ゆっくりりかいしたのぜ……」
山奥に存在するまりさたちのゆっくりプレイス。そこに大きな群れがある。少年たちが山に入って見かけるゆっくりは全体の
一割程度に過ぎないものであった。群れを統率しているのは“えーき”。仲間内でも珍しいと言われている胴付きゆっくりが群
れと共に活動しているケースは滅多にないことらしく、頭が良く規律を重んじる“少女”によって治められた群れは山で暮らす
ゆっくりたちにとって自慢のゆっくりプレイスであったという。“少女”は自分たちが人間と関わりを持つことを群れの禁忌と
し、どんなに辛いことがあっても群れの問題は群れの仲間で解決することを説き続けた。台風や日照り、越冬など年中通して死
活問題に晒されながらもなんとか生き残ってこれたのは、“少女”の知恵によるところが大きいらしい。かくして“少女”率い
る山奥の群れは人間と一切関わることなく今日まで生き延びることができていた。
一割程度に過ぎないものであった。群れを統率しているのは“えーき”。仲間内でも珍しいと言われている胴付きゆっくりが群
れと共に活動しているケースは滅多にないことらしく、頭が良く規律を重んじる“少女”によって治められた群れは山で暮らす
ゆっくりたちにとって自慢のゆっくりプレイスであったという。“少女”は自分たちが人間と関わりを持つことを群れの禁忌と
し、どんなに辛いことがあっても群れの問題は群れの仲間で解決することを説き続けた。台風や日照り、越冬など年中通して死
活問題に晒されながらもなんとか生き残ってこれたのは、“少女”の知恵によるところが大きいらしい。かくして“少女”率い
る山奥の群れは人間と一切関わることなく今日まで生き延びることができていた。
「……だけど……まりさたちだけじゃ、どうにもできないことがおこったのぜ……」
「ゆぅぅぅ……」
「言ってみな」
「……いま、まりさたちのゆっくりぷれいすは……“れみりゃ”のむれにおそわれているんだぜ……」
「れみりゃ、ってお前らを食べるゆっくりのこと……?」
そう言えば初めて“少女”と出会ったときもれみりゃに襲われていた。捕食種、れみりゃ。コウモリのような翼と大きな牙、
そして笑顔が特徴のゆっくり。中身は肉まん。他のゆっくり同様、虫や植物も食べるが一番の好物はゆっくりであるとされる。
主な活動時間が夜であるため、両者の活動時間が重なるのは夕方の数時間のみだ。このため、捕食種と被捕食種の数は均衡を保
つことができている。そのはず、なのだ。
そして笑顔が特徴のゆっくり。中身は肉まん。他のゆっくり同様、虫や植物も食べるが一番の好物はゆっくりであるとされる。
主な活動時間が夜であるため、両者の活動時間が重なるのは夕方の数時間のみだ。このため、捕食種と被捕食種の数は均衡を保
つことができている。そのはず、なのだ。
「すごく、あたまのいい“れみりゃ”がいるんだよ……」
れみりゃは基本的には馬鹿である。“うー☆うー☆”などと言いながらフラフラと夜空を飛んでいることが多い。また、群れ
などは絶対に作らない。と、言うよりも作れないはずだ。知性はともかくれみりゃ単体が高い戦闘能力を持っているため、群れ
を作る意味がない。食糧の奪い合いになるだけだ。
などは絶対に作らない。と、言うよりも作れないはずだ。知性はともかくれみりゃ単体が高い戦闘能力を持っているため、群れ
を作る意味がない。食糧の奪い合いになるだけだ。
「“れみりゃ”は……おさとおなじで“どうつきゆっくり”なんだぜ……」
「“れみりゃ”にさからったら、“ぐんぐにる”でえいえんにゆっくりさせられちゃうんだよ……」
ぐんぐにると言うのは“れみりゃ”がいつも持っている竹槍のことを指しているようだ。その“れみりゃ”曰く、“少女”の
群れの“運命を操った”と豪語しているらしい。実際、捕食種の群れに支配された通常種の群れなど、運命を決定づけられたと
言っても過言ではないかも知れない。れみりゃの群れは薄暗い山奥であれば昼夜問わず活動を行うようである。そういう理由か
ら少しずつ山奥から人間の村の方へと群れの拠点が移動しているらしかった。昼に食糧を集めなければ生きていくことのできな
いゆっくりにとって、捕食種が昼にも活動することは文字通り死を意味している。
群れの“運命を操った”と豪語しているらしい。実際、捕食種の群れに支配された通常種の群れなど、運命を決定づけられたと
言っても過言ではないかも知れない。れみりゃの群れは薄暗い山奥であれば昼夜問わず活動を行うようである。そういう理由か
ら少しずつ山奥から人間の村の方へと群れの拠点が移動しているらしかった。昼に食糧を集めなければ生きていくことのできな
いゆっくりにとって、捕食種が昼にも活動することは文字通り死を意味している。
「……えーきの群れと、れみりゃの群れ……か」
破れてしまった皮の部分を少年のシャツの切れ端で塞いでもらったまりさと、番のれいむがお礼を言ってぴょんぴょんと山へ
向かって跳ねていく。
向かって跳ねていく。
(それじゃあ……山のゆっくりたちは“れみりゃ”がいるから村の畑に食糧を求めてやってくる、ってことなんだよな……)
そこまで考えて少年がハッとした様子で思考を止める。まるで山のゆっくりたちを庇うような考えを一瞬でも巡らせたことが
自分でも意外で仕方なかった。それからししばらくして“少女”の笑顔と涙が交互に頭をよぎる。助けたいと考えているのだろ
うか。少年はパラパラと降り出した小粒の雨に打たれながら、小さく二度三度と頭を掻いた。
家に戻った少年は晩酌をしている父に今日知った森の事情についてそれとなく話をしてみた。酒をくいっと飲み干した少年の
父親が静かな口調で語りかける。
自分でも意外で仕方なかった。それからししばらくして“少女”の笑顔と涙が交互に頭をよぎる。助けたいと考えているのだろ
うか。少年はパラパラと降り出した小粒の雨に打たれながら、小さく二度三度と頭を掻いた。
家に戻った少年は晩酌をしている父に今日知った森の事情についてそれとなく話をしてみた。酒をくいっと飲み干した少年の
父親が静かな口調で語りかける。
「……それで? “れみりゃ”を駆除すれば山のゆっくりたちが村の畑を荒らしに来ないと言い切れるのか?」
「山のゆっくりを全部駆除するのは大変だと思うんだ。 だから……」
「一度人間と接触したゆっくりは必ずまた人里にやってくる。 なまじ手助けなんかしてみろ。 自分たちと人間は対等な存在
と思い込んでそのうち我が物顔で村をうろつくようになるぞ。 山のゆっくりも“れみりゃ”もまとめて駆除すれば問題ない話
だと思うが違うか?」
と思い込んでそのうち我が物顔で村をうろつくようになるぞ。 山のゆっくりも“れみりゃ”もまとめて駆除すれば問題ない話
だと思うが違うか?」
「うん、まぁ……。 それはそうなんだけど……」
「お前もこの村で農業がどれだけ重要な位置にあるかは理解しているだろう? 俺は一応この村の村長だ。 危険因子は徹底的
に取り除く義務がある。 それにもしお前が言う規模の群れが隣にあるのなら、越冬の食糧集めで必ず餌不足に陥るはずだ。
そうなるとますます人間の畑をアテにする可能性が高い。 味を占められたら困る」
に取り除く義務がある。 それにもしお前が言う規模の群れが隣にあるのなら、越冬の食糧集めで必ず餌不足に陥るはずだ。
そうなるとますます人間の畑をアテにする可能性が高い。 味を占められたら困る」
「……でも、一度もそんなことはなかったんでしょう? 今まで村の畑を荒らしに来たことはないわけなんだし……」
「煮え切らないな。 そこまでして山のゆっくり駆除を躊躇う理由はなんだ?」
「……え?」
「まぁいい。 わざわざ街から業者を呼んで駆除をするんだ。 やるなら徹底的にやったほうがいいに決まってる。 この話は
もう終わりだ」
もう終わりだ」
「わかったよ」
……一方その頃。
「ゆっ、ゆっ、ゆっ、ゆっ……!!!」
「ありす! はやくにげてね!! ここはまりさがくいとめるよっ!!!」
「う~☆ う~☆ たべちゃうど~~~」
一直線に逃げ続けるまりさとありすの後方から飛来する三匹のれみりゃ。家族揃って巣穴の中ですーやすーやしていたところ
を襲撃されたのだ。生まれたばかりの赤ゆは一瞬でれみりゃの腹の中に入れられた。突然の出来事に恐慌状態に陥ったありすを
巣穴から逃がし、まりさも命からがらその後を追った。しかし捕食種のスピードは速く一瞬で追いつかれてしまう。れみりゃの
開かれた口から大きな牙が覗き、それがまりさを捉えようとしていた。
を襲撃されたのだ。生まれたばかりの赤ゆは一瞬でれみりゃの腹の中に入れられた。突然の出来事に恐慌状態に陥ったありすを
巣穴から逃がし、まりさも命からがらその後を追った。しかし捕食種のスピードは速く一瞬で追いつかれてしまう。れみりゃの
開かれた口から大きな牙が覗き、それがまりさを捉えようとしていた。
「くろッ!!!」
「う゛っぎゃあ゛あ゛あ゛ッ?!! ざ……ざぐや゛ーーー!!!」
「おさっ! ゆっくりありがとう!!!」
振り返るまりさとそれを追いかけるれみりゃの間に“少女”が立ちふさがる。“少女”の手には卒塔婆が握りしめられていた。
これでれみりゃの顔面を思い切り打ちつけたのだ。戸惑うれみりゃたちの顔を狙い正確に卒塔婆を叩きつけていく。いかに捕食
種といえども四肢を持つ胴付きゆっくりを相手にするには分が悪い。自分たちが劣勢と見た三匹のれみりゃは生い茂る木々の向
こう側へ急上昇し、月をバックに飛び去って行った。
まりさとありすが涙目で“少女”の元へと跳ね寄ってくる。“少女”は膝をついて泣きすがる二匹をそっと抱きしめた。嗚咽
を漏らしながらありすが口を開く。
これでれみりゃの顔面を思い切り打ちつけたのだ。戸惑うれみりゃたちの顔を狙い正確に卒塔婆を叩きつけていく。いかに捕食
種といえども四肢を持つ胴付きゆっくりを相手にするには分が悪い。自分たちが劣勢と見た三匹のれみりゃは生い茂る木々の向
こう側へ急上昇し、月をバックに飛び去って行った。
まりさとありすが涙目で“少女”の元へと跳ね寄ってくる。“少女”は膝をついて泣きすがる二匹をそっと抱きしめた。嗚咽
を漏らしながらありすが口を開く。
「おさ……っ、おさ……っ、ありすのとかいはなちびちゃんたちが……えいえんにゆっくりさせられちゃったよぅ……ッ!!!」
「ゆぐっ、ひっく……。 まりさにはなんにもできなかったよ……!!」
「……くろ……」
泣きそうな顔の“少女”が二匹の頬に自分の頬をすり寄せた。それから、“くろ、くろ”と小さくつぶやく。
「ゆゆっ! おさはわるくないよっ!! わるいのはぜんぶれみりゃたちのせいだよっ!! ゆっくりりかいしてねっ!!!」
「そうだわっ! おさがいてくれなければ、ありすたちはとっくのむかしにみんなえいえんにゆっくりさせられていたはずよ……」
“少女”の卒塔婆と“れみりゃ”のぐんぐにる。二匹の胴付きゆっくりと二つの群れ。それに人間を交えた辺境の農村で起こ
る物語の歯車が、少しずつ動き出そうとしていた。
る物語の歯車が、少しずつ動き出そうとしていた。
*中編へ続く