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anko3432 幸せのバージンロードを歩いて 前編
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ankoss
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『幸せのバージンロードを歩いて 前編』 33KB
愛で 思いやり 愛情 差別・格差 育児 群れ 赤ゆ れいぱー 自然界 独自設定 うんしー ぺにまむ 主要ゆっくりがやや高性能です
西の上天が赤みを帯びた夕空の頃、吹き込んだ微風に僅かな湿り気が混じっており通り雨の到来を予見させている。
暗がりに沈み往く森の、奥地に聳え立った大木を前にしてゆっくりぱちゅりーは穏やかならぬ剣幕をその小麦粉の面貌に浮かべていた。
彼女の脇には樹枝を口に咥えて周囲を警戒するみょんや、きょろきょろと近傍を見渡しているまりさの震え怯えた姿を窺わせる。
「むきゅー、いいみんな。まむまむさんをきゅっとしぼるのよ! いつれいぱーがおそってくるかわからないわ!!」
「ゆーっ、れ、れいぱーをせいっさいっしないとみんなあんっしんっできないのぜ!」
「どこからでもかかってくるみょん、このはくろーけんのさびさんにしてあげるみょん!」
厳戒態勢を強める三匹、ぱちゅりーの指令に従って相身互いに尻を死守しながらじりじりと野苺が茂る狩場に移動していくと、
ガサリと注視していた草原が大きく掻き乱れて揺れ始めた、ギョッとしたぱちゅりーは息を呑みつつも恐る恐る震源に向けて声を掛ける、
すると茂みの中からひょっこりと耳付きが、群れの朋輩である自警団のちぇんが飛び出し極度の切迫感に縛られていた三匹は見慣れた仲間の姿にホッと胸を撫で下ろした。
「おさっ、れいぱーがみつかったんだよー!らんさまとせいっさいっしたからもうあんしんだよー!ゆっくりしないでれんこうするよー!」
「よくやってくれたわ! みょん、まりさ、ゆっくりしないでむれのみんなをあつめてちょうだい!」
「わかったみょん!」
「わ、わかったのぜ!」
ちぇんの報告を受けて、ぱちゅりーは安堵しつつも取り巻きの二匹に出払った全員の招集を指示した。
森のゆっくりプレイスを突然と襲ったれいぱーありすによる無差別すっきりテロは、事態の終息を迎えられたらしい。
切り株に寄り添って昂った感情を整えぱちゅりーは待機していると、雑木林の脇を潜って群れの自警団長であるらんと自警団員のちぇんやまりさなどが
無数の枝を身体中に差し込まれたれいぱーありすの薄汚れたブロンドヘアーを強引に口で咥えてぱちゅりーの前に突き出した。
片目を深く抉り取られてドロドロになった寒天が涙の様に頬を滴り、根元を切断され千切れた陰部からとろりとカスタードクリームが漏れ出している。
生きているのもやっとの身体を引き摺りながら喉を壊すのも承知で本能に忠実なまま「んほぉぉ……」と呟いている文字通り無様なれいぱーありすの姿に、
思わず眼を背けたくなったぱちゅりーは、それでも必死に群れを恐怖のどん底に叩き落した元凶を見下ろし、
れいぱーありすの凶行により未来を奪われた者たち無念を想い憎悪の感情で以って睨み付けていた。
「いけのちかくでうずくまっているところをかくほしたよ、いくらかなかまたちをぎせいにしてしまったが、なんとかつかまえることができたよ」
「ごくろうさま、らんたちのおかげでこれいじょうひがいをかくだいせずにすんだようね
じけいだんのみんなにもかんしゃするわ、あとはてのあいたものでしょりするからそのへんでやすんでいていいわ」
ぱちゅりーの労いの言葉に自警団のゆっくりたちは自警団長のらんと数匹のゆっくりを警護に残して各々に腰を落ち着ける。
暫く待っていれば、みょんとまりさが連れてきた群れのゆっくり達が、れいぱーありすと一定の距離を保ちながら囲いぞくぞくと集まり、
ほぼ全員が結集したところで、ぱちゅりーは各自に得ている情報を受け取り群れの被害状況を確認した。
「ゆぇえええぇえんっ!! れいぶのまりざとおちびぢゃんがれいぱーにまっくろにされちゃったんだよぉおおおっ!!」
「おとなりのまりさのおうちはぜんめつだったよー、おうちのなかにくきさんをたくっさんっはやしたまりさとおちびちゃんのしたいがころがってたよー」
れいぱーありすの毒牙に罹った者は大半がまりさ種であったらしく、子や赤ゆ問わずに大勢のゆっくりがれいぱーの餌食と化した様だった。
改めて伝わってくる被害の甚大さにぱちゅりーは顔を渋めるばかりで、むきゅーっと大きく溜息を吐いて家族や親類や友人を亡くし涙する群れのゆっくりたちを宥めて回った。
集まった群れの面々は深い弔意に包まれていたが、次第に悲嘆は憤怒に、故ゆんへの愛心はれいぱーへの怨恨へと急変し
一部の盛んな若いゆっくりたちがその場で跳ね上がり『れいぱーを制裁しろッ!』と声を大にして主張を掲げた。
辺りは騒然とし直ぐにでも組討ちの火蓋が切って落とされそうな一触即発の雰囲気に、
慌ててぱちゅりーが騒乱を鎮めるために皆の前に躍り出るも、同じく割り込んだ自警団長のらんがぱちゅりーに目配せし左右に首を振って眼を伏せた。
「ざんねんだけれど……れいぱーはこときれてしまったようだ……もうせいさいはかなわない」
ぱちゅりーが視線を移すと辛うじて息をしていたれいぱーありすは完全に沈黙していて、厭らしい笑みを浮かべたまま凍結し僅かに死臭を漂わせている。
せめて特にゆん的被害の大きかった遺族を優先して制裁に充てようと思惑を張り巡らせていたぱちゅりーは、
それが実現できないと知り朽ち果てたれいぱーありすから視線を外すと唇を噛みつつくるりと向きを正した。
「む、むきゅー……しかたないわ……みんなっ! れいぱーがえいっえんっにゆっくりしてしまったからせいっさいっはなしよ!
このれいぱーのむくろさんは、ぱちゅりーたちがむじひっにしょぶんするから、とりあえずかいっさんっしてね!!」
ぱちゅりーの感情の無い群れの長としての事務的な言葉は無論全員を納得させられる筈もなく、
失った物への対価を求めて大勢のゆっくりたちが反発の胴間声が上げる。
思いの他、強い憤慨に晒されたぱちゅりーや自警団のらんやちぇんは驚き困惑していると、
突然と金切り声が周囲に轟き間の抜けた泣き声と共に、集まったゆっくりたちの肉壁を易々と破って一匹のでいぶが輪の中心に雪崩れ込んで来た、
その食欲をコントロール出来ていない不健康さをありありと見せ付ける肥えた巨体が表す、
群れでも随一の我侭者で周りから敬遠されているでいぶが大口を開けてぱちゅりーを押し潰さんと迫ってきた。
「ゆびぇぇえええぇんっ、ぱじゅりぃいいいーっ!! でいぶのこうっけつなていっそうっが、れいぱーにやぶられっちゃっだよぉおおお!!!」
「むぎゅっ!? ちょっとやめなさいっ! ぱ、ぱぢゅりーをつ、つぶするもりなのっ!? らんっ、おねがいっ、れ、れいむをとめてちょうだいっー!!」
ぱちゅりーの叫び声に感化してらんは大慌てにでいぶを取り押さえ強引に距離を離すと、
開放されたぱちゅりーは青白い顔をしながらもでいぶの体面を見つめ直ぐにその異変に勘付いた。
良く眼を凝らせばでいぶの額に茎が生えておりその先からプチトマトサイズの実りゆ、れいむ種二匹とありす種一匹をぶら下げている。
でいぶもれいぱーありすに襲われて植物型妊娠をしてしまったのが見て取れ、実りゆが少数な事かられいぱーに直ぐに飽きられたのが伺えた。
大方でいぶの絞まりの無いまむまむに満足を得られなかったか、身体だけは無駄に大きいのが仇となってまりさと見間違えられたのかの何れかだろう。
悲劇のヒロインを存分に演じているでいぶを横目にぱちゅりーは白けた顔をしていると、でいぶの騒ぎに押されて言葉を失っていた群れのゆっくりたちの熱が再び上昇し始めた。
「おさっ!! れいぱーをせいっさいっできないならそのれいむのおちびちゃんをせいっさいっさせてね!!」
「そうなのぜっ!! れいぱーのおちびちゃんはゆっくりできないのぜっ!! ゆっくりしないでせいっさいっするべきなのぜ!!」
「えいえんにゆっくりしちゃったみんなのかたきをとらないといけないんだねー、ちぇんにもわかるよー!」
気付けば彼らの要求が、でいぶの額に実ったれいぱーありすの遺児に対する制裁に切り替わっていた。
目に見える結果を冀求する姿勢を崩さない群れの面々は、まるで主張を隣人に感染させる様に広げていく。
ぱちゅりーは対応に手を焼いていると、わなわなと巨躯を小刻みに震わせたでいぶがヒステリックな赤い声を捻り出し一瞬にして群れのゆっくりたちを黙らせた。
「はぁあああっ!? なにいってるのぉおおお!? れいむのおちびちゃんにひどいことするなんてだめにきまってるでしょぉおお!!
れいぱーにのおちびちゃんならまだしも、びゅーてぃふるでびゆっくりなれいむのあんこさんをうけついだ
れいむにのおちびちゃんをせいっさいっするなんてぜったいにゆるさないよ!!」
でいぶはキリッと吊り上げた眉とキュッと絞った唇をこれでもかという程周囲に見せ付ける。
呆れ気味にその申し立てを聞いていたぱちゅりーは半開きにした目をしてでいぶにそっと尋ねた。
「……れいぱーにのおちびちゃんならいいのね?」
「いいよ! れいむがこそだてしたいのはれいむにのおちびちゃんだよ、れいぱーにのおちびちゃんはいらないよ!」
特段悪びれた様子も無く諏訪っとした顔をしてでいぶはそう言い切った。
れいぱーに襲われた不幸も茎に実った子供たちで帳尻が合うようで、なんともでいぶらしい思考回路だと感心しながらも、
その上で遊び感覚の子育て論を目も前で自信たっぷりに見せびらかされた気がして、ぱちゅりーは心底仰天としていたが、
彼女の意識は別に『これを利用しない手はないだろう』と思惑を巡らせていた。
道徳的に後ろめたい部分はあるものの、あの実りゆのありすを生贄にすれば群れの不満は解消されて安定を保てるのではないか、
下手に鬱積を抱えさせるのは群れの運営に支障を来たす可能性が十分にあると警戒したぱちゅりーは、でいぶの了解を得るべく提案を投げ掛けた。
「むきゅー、みんなをなっとくさせるためにはしかたないわ、そのれいぱーにのおちびちゃんをいけっにえっにしましょう、いいわねれいむ?」
「ゆっ!? でもこのれいぱーにのおちびちゃんもいらないこだけどれいむのおちびちゃんだよ、
おさがどうしてもほしいならあまあまをちょうだね! たくっさんっじゃないとゆるさないよ!!」
「……」
「どおじでだまっちゃうのぉおおおっ!? でいぶはおかーさんなんだからとうっぜんっのけんりでしょぉおおお!?」
あの学が無さそうな身形とは裏腹に取引を持ち掛ける狡猾さに、ぱちゅりーはゆっくり出来ない事だと承知の上で
こいつがすっきり死すれば良かったのに、と嫌な妄想を浮かべ腹黒い含みのある笑みを作り渋々とでいぶの要求を呑んだ。
「し、しかたがないわ……むれのきょうどうほかんこさんに、にんげんさんがすてたがむさんがあるわ……それをわたすわ」
「ゆーん、わかればいいんだよ!! れいむのかわいいおちびちゃんとあまあまさんがもらえるなんてれいむはさいっこうっにうれしいよ!」
左右に巨大な体をぶるんぶるんと振って喜びを表現しているでいぶを他所にぱちゅりーは群れの一同に向かって声を張り上げた。
ともかく、このままれいぱーにのおちびちゃんをでいぶから引き離すのは幾らなんでも母体へのダメージを考慮し現実的ではないと判断したぱちゅりーは、
一旦日付を置いて、実りゆから赤ゆへと成長を待ち産まれ落ちるまで事の保留を群れのゆっくりたちに強要した。
それでも制裁せずにはいられない一部のゆっくりが駄々を捏ねるも、先程から厚い雲に覆われていた空が通り雨を齎し、事態は有耶無耶なまま一時的な休戦へと繋がった。
それからでいぶは味を占めたのか何度もれいぱーにのおちびちゃんを盾に、食料の提示を求めたりと散々好き勝手してぱちゅりーを困らせた。
だが、でいぶの有り余るほど豊満な餡子は実りゆたちを急速なペースで成長させていくことになり、ついには予定よりも遥かに早い出産日を迎る件となる。
れいぱーの一件で愛すべき家族を失ったゆっくりたちがでいぶのお家の前に集まり、今か今かと実りゆの生と死を待ち望んでいた。
ぱちゅりーや自警団の面々、いざという時の為に隣群れから呼び寄せた助産師であるえーりんも集まり万全の出産体制を整え待機していると、
まず最初にれいむ二匹が茎から震え落ちて舌足らずな産声を轟かせた。
いよいよれいぱーにのおちびちゃん、実りゆのありすが痙攣を始めると一同は息を呑んで見守り始める、ただ一匹でいぶを除いて。
「ゆぅ~ん、れいむのあまあまひきかえけんさんっ! ゆっくりしないでうまれたら、ぱちゅりーたちにせいっさいっされてね!!」
産まれたばかりの赤れいむたちを揉み上げで寄せて、お菓子を独占する子供の様に厭らしく欲深そうな微笑を浮かべたでいぶ。
その視線の先にある引換券と称した我が子を涎を溜め込みながら見つめていると、ついに実りゆのありすが――茎から放たれた。
「ゆっ! ゆっくししちぇいっちぇにぇ!! ときゃいはなありしゅがゆっきゅりうまれちゃわ!!」
雑草で急造したクッションを弾いて産み落とされた赤ゆっくりありすは、ニッコリと満面に無邪気でご機嫌な笑顔を貼り付け、
親であるでいぶを見つけて元気いっぱいに挨拶をして見せた、しかしでいぶはニヤニヤと薄ら笑いを浮かべるだけで言葉を返す事はしない、
でいぶの態度をやや不審に思いつつも、赤ありすは先に産み落とされた赤れいむたちが、
額から切り落とされた茎を「むーちゃむーちゃ」と美味しそうに頬張っているのに気付いて、
急いで跳ね上がり列に加わろうとまだ覚束無い足取りで擦り寄り始めた、
しかし、でいぶの野太く膨れ上がった揉み上げがそれを拒み、鉄槌が赤ありすの頬を敲いて放り飛ばしでいぶを中心とした家族の領域から無慈悲に排除した。
突然の出来事に蹲った赤ありすは拒否の気概をはっきりと示した親であるでいぶを呆然と見上げ、
後からじんわりと伝わってきた痛みの反動で溢れんばかりの砂糖水が目尻に溜まり頬をなぞる様に下っていった。
「ゆぅえ”ぇえ”ぇえ”え”んっ!! みゃみゃぁああっ!!!! ありしゅにどうじでしょんなことじゅるのぉおおおっ!!」
「ひきかえけんのぶんざいでれいむをおかーさんよばわりしないでね! さぁぱちゅりーっ!
そいつをゆっくりしないでしょけいしてね!! それからあまあまさんをもってきてね!!」
「ゆぷぷっ、きっちゃないいもうちょだにぇー!」
「ゆぐっ、ゆぐっ……どうじじぇなの? ありしゅはときゃいはなゆっきゅりなのに、どうじじぇっ!?」
実りゆの頃から想像を膨らませ描いた未来は幸福に包まれた世界の明け、与えられる筈だった甘やかな祝福は一変し、
酸鼻の形で始まったゆん生のスタートに、赤ありすは一匹めそめそと悲涙を落としていると、
のっそりと重い足取りで裡面から近づいた自警団長のらんが、赤ありすの餅と酷似した頭部を咥えようと大口を開いて差し迫った。
「さぁ、みんなこのれいぱーのおちびちゃんを、このありすを――」
ぱちゅりーは集まった皆を、群れの広場であり本日限りの処刑場へ導こうと号令を発したところで、
何の前触れもなく、周囲の注目を一身に集めるほど透き通った張りのある声をしたゆっくりがぱちゅりーの口回しを遮った。
『みんな、まってねっ!! まりさのおはなしをきいてねっ!!』
声の主の方を見るようにでいぶのお家の入り口を塞いだゆっくりたちが徐々に道を開けていく。
見れば、日差しを背にしてお帽子に形遅れな銀の古ぼけたバッジを装着したゆっくりまりさとゆっくりれいむがそこに佇んでいた。
二匹は自警団長のらんを押し退けて、赤ありすから引き離すとれいむが揉み上げでそっと赤ありすを持ち上げ、
同席者たちが有りっ丈に注ぐ殺意の眼差しから護る様にがっちりと掴んで一歩引き下がった。
そのれいむと赤ありすを庇う形で立ち塞がり仁王立ちしたまりさは、キュッと鋭い眼光を辺りに撒き散らし言葉を紡ぐ。
「みんなきいてね! このおちびちゃんをせいっさいっするのはやめるべきだよ! とてもほめられたことじゃないよ!!」
「なっ……! と、とつぜんなにをいいだすのっ!? このれいぱーのおちびちゃんは――」
「このこはれいぱーのおちびちゃんかもしれないけれど、まだなにもわるいことはしてないよ!
それなのにせいっさいっするのはまちがってるよ! みんなおめめをさましてね!」
「なにいってるのー!! ふざけたこというのはやめてねー!!」
予期しない乱入者の、制裁中止の訴えに異を唱えたのは長ぱちゅりーや自警団たちではなく一番手前で出産を見守っていたちぇんだ。
このちぇんはれいぱー襲撃事件で癒える事のない傷痕を刻まれたゆっくりの一匹だった。
番のまりさやまだ年端も行かぬ幼い子供たちも、れいぱーに犯し殺され唯一の生き残ってしまったちぇんは、
失意のままただただこのれいぱーの遺児である赤ありすの死と、
制裁を願って浄水を沸騰させるほど煮え切った堅固な憎悪を内に溜め今日という日を待ち望んでいた。
「そんなのぜったいにわからないよー! ちぇんのまりさも、ちぇんのおちびちゃんも、みんなみんなれいぱーにえいっえんっにゆっくりされちゃったんだよー!
それなのにそのおちびちゃんをどうしてゆるさなきゃいけないのー!? ちぇんにはわからないよー!! わかりたくもないよ!!」
「……ちぇんのかなしみをおもうとまりさもこころさんがちくちくするよ! でもよくかんがえてね!!
ちぇんのまりさもおちびちゃんも、ちぇんにゆっくりごろしをしてほしいとはおもってないはずだよ! きっとそうだよ!!」
「なにかってなこといってるのー!! かんけいないまりさはだまってろよー!! ぢぇんはたぐっざんっうしなっだんだよー
たいせつなおちびぢゃんをえいっえんっにゆっぐりざぜられだのにっ……わがるわけないよーっ!! そんなごどぐらいわがれよーっ!!」
涙ながらに語るちぇんの気迫が満ちた訴えに、まりさは一瞬だけたじろいでしまうが、
相対したまりさにも譲れない強い熱意があるのか、下から覗き込むようにしっかりとちぇんの瞳を見据えては、
大きく息を吐き、冷々たりながら且つ芯の通った抜き難い胸中をその願い出に乗せてまりさは答える。
「ゆっくりごろしはゆっくりできないよ!!」
その一言で、一同はちぇんを含めて固唾を飲んだ。
「なんどでもまりさはいうよ! ゆっくりごろしはぜったいにゆっくりできないよ!!」
各々に後ろめたさの尺度は違うが、一様に決まりが悪そうに眼を逸らし唇を折り曲げる。
特に長であるぱちゅりーは、道徳的な部分をすっぽ抜くのを当初から仕方ないと割り切って自分を誤魔化していた故に、
まりさの発言には胸を射抜かれた様ななんとももどかしい気持ちに支配されていた。
「ちぇんのくやしいきもちをまりさはぜんぶりかいできないよ、でもこれだけはいえるよ! ちぇんがこのおちびちゃんをえいっえんっにゆっくりさせちゃったら
ちぇんもれいぱーとおなじゆっくりごろしになっちゃうよ! きっとゆっくりできなくなったちぇんのすがたをみたらてんごくのおちびちゃんはよろこばないよ!」
「そんな……かってなこと……わっ、わがらないよっ……」
「ゆるしてとはいわないよ、でもおねがいだよ……このおちびちゃんをせいっさいっするのはやめてあげてね……」
徐々に表情を暗く沈ませたちぇんは、一度だけギロリとれいむの揉み上げに隠れた赤ありすを睨み付けた。
赤ありすは刺すような視線を受けて「きょわいょおぉおおお!!」と泣き叫びながら、プシャァっと勢い良く恐ろしーしーを漏らし円らな身体を震わせる。
あまりにも幼過ぎる赤ありすの姿を見て、ちぇんは刹那に失った子供たちの面影を赤ありすと重ね、顔を伏せるとか細い呟きを残して背を向けた。
「もしそのこがれいぱーになったらちぇんはまよわず、そのこをえいえんにゆっくりさせるよ……」
それだけ言い残すとちぇんはでいぶのお家から去って行ってしまった。
毒気を抜かれた群れのゆっくりたちは、それぞれ居合わせたゆっくりたちの様子を伺い一匹がちぇんの後を追うように出て行くと、伝染する様に次々と退出していった。
残されたのは出産に立ち会った自警団の面々と長のぱちゅりーだけだ、ぱちゅりーは群れの皆を鎮めたまりさに近寄き、わざとらしく咳払いをしてまりさの頬をそっと突いた。
「むきゅー……とんだことをしてくれたわね」
「お、おさっ、かってなことをしてごめんね! でも、でもまりさはねっ――」
「それいじょういわなくてもいいわ、ほんらいならぱちゅりーがみんなにいうべきことだったのよ
まりさのいうとおりゆっくりごろしはゆっくりできないわね……まりさたちにはきづかされたわ、ありがとう」
ぺこりと頭を下げたぱちゅりーに、まりさは左右に身体を振って謙虚さを表している。
一連の行動といい、照れを隠した直向な態度からまりさの人となりをぱちゅりーは再認識しつつ、
改めて赤ありすを見つめてみれば、先程から自分の事で揉めているのだと勘付いているのか、
さっとれいむの揉み上げ深くに潜り込んで姿を隠してしまった。
「でも……このれいぱーにの……いいえ、おちびちゃんありすをどうしたものかしら……むきゅー、こまったわ」
「そのことならしんぱいいらないよ! おさっ、このおちびちゃんをまりさたちのおちびちゃんにしたいんだよ! だからきょかをちょうだいね!」
「ほ、ほんきなの? まりさもれいむも、そのつもりでこのおちびちゃんをたすけたの!?」
お互いに顔を見合わせたまりさとれいむは同時に頷いて決意を新たにする、今まで黙していたれいむが片方の揉み上げで前髪を掻き揚げると、
ガッチガチに凝固した哀れを誘うほど痛々しく黒焦げ傷付いた額をぱちゅりーに見せ付けた。
「おさにはまえにおはなししたけど、れいむも……まりさも、にんげんさんにぎゃくたいされて、もうおちびちゃんがつくれないおからだなんだよ
まりさのぺにぺにさんはぶちぶちされちゃったし、れいむのまむまむさんはふさがっちゃってるよ
だから、みんながれいぱーのおちびちゃんをせいっさいっするってきいて、いてもたってもいられなかったんだよ
どんなににくまれてうまれてきたおちびちゃんでも、えいっえんっにゆっくりさせるのはかわいそうだとおもったんだよ」
まりさとれいむは外し忘れた銀バッジが示す通り、元は飼いゆっくりだった。
ペットショップで『ゆっくりつがいセット』という名目で二匹は揃って売り出され人間のお姉さんに飼われる事になり、
それなりに順境な暮らしを送っていたものの、子供を許可無く作ってしまう在りがちな失態を犯してしまい状況は一変した。
初めてのおちびちゃんはお姉さんに処分され、家を放り出され、途方に暮れた二匹は当時まだ人間に対して無知だった為に、
もう一度飼いゆっくりにしてもらおうと人間たちが集まりそうな駅前で只管と自分達がゆっくりしている事を訴え続けていた。
そこで不運にもゆっくりを良く思わない人間と鉢合わせ弄ばれ、二度と子供が出来ない身体に虐待という名の改造を施されてしまった。
奇跡的にも一命を取り留め、ほうほうの体で人間の街を脱した二匹はこうして森の奥地に根付いたゆっくりプレイスの一員に加えられた、
そういう経緯から野生のゆっくりでは到底想像し難い波乱のゆん生を送って来た過去があり、
どれほど希求しようとも二度と自分たちの餡子を受け継いだ子供を作れない故に、
誰からも望まれないれいぱーの遺児を育てると誓った決心は並大抵の物ではない。
れいぱーに家族を殺されたちぇんの様な、被害者たちから蒙るであろう非難の全てを受け止める覚悟をその瞳に宿している。
「むきゅー……まりさとれいむのおもいはつたわったわ、でも、もし……もしそのおちびちゃんがれいぱーかして、むれのみんなをおそうようなことになれば……」
「そうならないようにするよ! まりさのえいえんにゆっくりしちゃったおちびちゃんにちかってやくそくするよ!!
ぜったいにないとおもうけど、もしもおちびちゃんがれいぱーかしちゃったらむれのるーるにしたがって、まりさもれいむもどれいになるつもりだよ!
だからまりさをしんじてね! まりさはいのちがけでこのこをいちゆんまえのゆっくりにしてみせるよ、だからっ……! だからおねがいだよっ!!」
子供が欲しいというまりさたちの粘り強い一念は、長であり同時に親であるぱちゅりーにも痛いほど響いてくる。
ぱちゅりーは群れの舵を取り均等を司る旗頭の為、決して肩入れすることは出来ないと念を押してから二匹の意思を汲み取り養子縁組を承諾した。
儀礼的とは言えようやく念願のおちびちゃんを家族に加える事が叶ったまりさとれいむは頬を綻ばせるが、
それに異を唱えた絶え入るような声が、れいむの揉み上げに隠れた赤ありすから発せられまりさとれいむは思わず表情を崩した。
「かっちぇなこといわないじぇにぇ!! ありしゅのみゃみゃはほかにいにゃいわっ!」
ピンポン玉が跳ねる様に、赤ありすはれいむの揉み上げから飛び出すと再びでいぶの前に躍り出た。
「みゃ、みゃみゃぁっ! ありしゅもいいこにしゅるからありしゅもいっちょにゆっきゅりさせちぇねっ!!」
のーびのーびして上下に身体を揺らし精一杯に痛々しい笑顔を振り撒き、自分がいかに実親のでいぶをゆっくりさせられるか必死にアピールし、
せめてこっちを振り向いて欲しいと、自分を見限らないで欲しいと、幼いながら我武者羅に喰い付こうとする健気な姿を皆の前で曝け出す。
だがでいぶは、そんな幼子の微かな想いさえ踏み躙って一喝を下してしまう。
「れいむをおかーさんよばわりするなっていったでしょぉおお!! おまえなんかしらないよっ!!
くずのれいぱーのくせにちかづかないでねっ!! れいむのかわいいおちびちゃんにすっきりーしたらしょうちしないよ!!」
「そ、そんなちゅもりはないわっ!! みゃみゃぁっ、ありしゅはとっちぇもときゃいはなゆっきゅりよ!!だから――」
「うるさいよっ!! これいじょうれいむにいやなおもいをさせないでね! めいわくだからゆっくりしないでしんでいいよ!!」
酷薄な痛罵の壁の前に、ようやく自身が望まれぬ稚児と認識した赤ありすは、
世界の終焉を垣間見た様な言葉通りの絶望を知り、顔を真っ赤にして涙腺を緩ませる。
でいぶにとっては目障りでしかない赤ありすの啜り泣きに、でいぶは眉を顰めて舌打ちしては、
何か良からぬ事を思い付いたのか含みのある冷笑を見せて脇に寄り掛かった子供たちにそっと耳打ちをし始めた。
「おちびちゃんたち、あのくそめざわりなれいぱーにむけていっしょにぷくーしようね! わるいゆっくりをやっつけようね!!」
「ゆっくちりかいしちゃよ!! れいみゅのさいきょうのぷきゅーをくらっちぇにぇ!! ぷきゅぅうううーっ!!」
「れいぱーはれいみゅのいもうちょじゃないにぇ!! ゆっきゅりしないじぇきえちぇねっ!! ぷっきゅううぅううー!!」
歪に膨れ上がった三匹のれいむたち、もうここに居場所が無いと確信した赤ありすは呻りながら旗を巻く様に後ろへ駆けていく。
一心不乱に跳ねればボスンッと柔らかい肉圧にぶつかり赤ありすが巧まずして見上げれば、
群れのゆっくりたちから身を護り庇ってくれていたれいむが切なげに微笑んでいた。
「おちびちゃん、れいむといっしょにいこうね……れいむならおちびちゃんをゆっくりさせてあげられるよ……」
「ゆぐっ……ゆぐっ……おばしゃん……」
「まりさのおうちならゆっくりできるよ……おいしいごはんさんもよういしてあるよ、だからたくっさんっわらってね!」
紅く腫れ上がった目蓋に湧き上がる砂糖水を、れいむは揉み上げで丁寧に拭いて慰めるとやんわりと頭を撫でてやった。
もうここに居ても赤ありすの為にならないと判断したまりさは、れいむに目配せし、ぱちゅりーに軽く会釈をするとでいぶのお家を家族全員で出て行った。
その様子を見続けていたでいぶは終始一貫して、赤ありすを「くそれいぱー」「ゆっくりしていないくず」等と口汚しては罵り、
最後まで自分の餡子を分けた子供であると認めなはしなかった。
そうして外敵の排斥に成功したと思い込んだでいぶは、まるでうんうんを捻り出した後の晴れ晴れとしたうりざね顔をくっきりと周囲に見せ付けた。
「ゆーん、やっとれいぱーがいなくなったよ! これでおちびちゃんはあんっしんっだよ!! れいむさいきょうでごめんねぇ!
そういえばまだあまあまさんをもらってなかったよ! ぱちゅりー、ゆっくりしないでよういしてね!!」
一部始終を見守ったぱちゅりーは侮蔑の眼差しでたっぷりとでいぶを睨み付けた後、一言も返事を交わさずそそくさと引き揚げて行った。
「ちょっとぉおおおっ!! なんでむしするのぉおぉぉっ!! でいぶはしんぐるまざーなんだよぉおおっ!! やさしくするのがあたりまえでしょぉおっ!!」
「おきゃーしゃん、れいみゅうんうんしゃんがでりゅよ!! もうがまんじぇきないにぇ! もりもりでてきちぇにぇ!!」
「れいみゅもちーちーしゃんがしちゃくなったにぇ!! はじめちぇのちーちーしゃん、いっぱいでりゅよぉおお!!」
「おちびちゃんたちなにじでるぉおおおおっ!! うんうんさんもしーしーさんもおへやのなかでしちゃだめでしょぉおおお!! おそとでしてきてよぉおおおっ!!」
「「しゅっきりー!!」」
ぱちゅりーを追い掛けてあまあまをせしめようとするも、早速とでいぶの子供たちが粗相をする始末、
覚悟のない者の子育てが如何に大変なのか、それをでいぶが知覚するのはもう間も無くの事だ。
―――――――――――――――――
あれから季節を三つ跨いだ――。
実りの秋、白銀の冬は過ぎ去り、野花が咲き誇る春の時代が森のゆっくりプレイスに訪れていた。
この日、広場には大勢のゆっくりが集まり、とある祭り事を催す為に忙しなく準備に取り掛かっている最中で、
その中にやや草臥れた顔をした老齢のまりさが、群れの皆の様子を遠巻きに伺っている。
まりさの背後にガサリと土を踏む音が響き、思わず振り向くとその視線の先に、
清楚な微笑みを浮かべた成体のゆっくりありすが春風にブロンドの髪を靡かせ佇んでいた。
「まりさおとうさん……」
「ゆっ、ありす。どうしたの? はなよめさんがくるにはまだはやいよ」
このありすはあのれいぱーの遺児、捨て子のありすだった。
ありすが父親と呼んだ老齢なまりさも、かつて長ぱちゅりーに命を懸けると宣言してまで赤ありすを引き取ったまりさで、
若々しさを失ってしまったものの、あの時と変らぬ穏やかで温厚な相貌をありすに向けている。
「……その……なんだか、まりさおとーさんにあいたくなって……」
「そうなんだね……ありす、こっちへおいで」
僅かに高く山形になっている丘の斜面で、二匹は無言のまま頬を寄せ合った。
「……」
お互いこうして身近な距離で寄り添うのは久方振りで言葉に詰まっていると、
まりさはすっかり一ゆん前のゆっくりに成長したありすを横目に、感傷に浸りながら過去の断片を拾い上げていた。
まりさが飼いゆっくりとして育ち勘当され森に居着いた軌跡があるように、ありすが歩んできた歴史も決して軽妙な物ではなかった。
幕開きの幼少期は正しく波乱の連続だった。
公式に群れの一員に加えられたものの、れいぱーありすの遺児というレッテルは、
当然ながら直ぐに拭える物ではなく、迫害を受け虐げられありすはいつも孤立の渦中にあった。
年相応の友人にも恵まれず、常に孤独で「れいぱーのこども」という汚点を種に近所のゆっくりたちがありすをからかい、見下しては除け者にする、
そういった日々でも、親であるまりさとれいむは非のないありすが苛めを受けていると知ればそのいじめっ子の家に乗り込み、
謝罪させるまで何度も異議を唱えて押し迫った。そんな姿に群れのゆっくりたちは「ゆっくりできないくれいまー」と馬鹿にし嘲笑ったが、
世間の逆境など物ともせず、まりさとれいむは如何なる時でもありすの味方に徹しては身を守る盾となった。
そうしてまりさたちに護られたありすが少年期に達したとき、負の呪縛がありすを何度と無く苦しめた。
子ゆっくりにまで成長した体は、れいぱーありすとでいぶの餡子が性格として色濃く現れてしまう時期で、
ありすは時折発作的に癇癪を起こしてはまりさたちを幾度も困らせるも、慈悲と忍耐の心で接したまりさとれいむは、
ありすの暴力的な癇癖に正面から向き合い、身勝手で自己中心的な振る舞いが如何に恥ずかしい事なのか丁寧に一から教え諭して来た。
呆れ返るほどの積み重ねが功を奏し、ありすは本能に打ち勝つ事が叶い、発作的な癇性は鳴りを潜めていき、
その頃になればありすは素行の良さから群れの一員として名実共に認められ、母親であるれいむから教わった乙女の嗜みが美ゆっくりへと着実に導いていった。
越冬を終え、春を迎えればありすはすっかり成体のゆっくりに姿を変え、群れの管理運営を任される首脳部
長のサポートをする助言役として働き、群れには欠かせない存在になっていた。
それらの結果は偏に親たちの教育の賜物でもあるが、まりさはしばしば「他ゆんの痛みが分かるゆっくりになるんだよ」と言って問題に直面する度にありすを諭し、
一流のゆっくりブリーダーでも難易度が極めて高い道徳心を芽生えさせ、ありすの根底に献身的なゆん格の構築を成せた事が大きかった。
優しく他ゆん思いなありすは、群れの子ゆっくりたちからは憧れのお姉さんとなり、年頃の成体ゆっくりからは理想の妻として圧倒的な支持を受ける程であった。
そんな折、遠方の彼方からやってきた一匹の旅ゆっくりとの邂逅がありすの運命を大きく揺るがした。
安息の地を求めて森のゆっくりプレイスに訪れたそのゆっくりまりさは、その身一つに命懸けで世界を転々としてきただけあって、
肉体的にも精神的にも逞しく主体性に富んだ気質を垣間見せ、安穏な暮し振りに慣れきった群れのゆっくりとは違い、成熟した大人の魅力を持っていた。
二匹は出会って直ぐに恋に落ちた、運命を感じられずにはいられない程のセンチメンタリズムに溺れ、情熱的な恋愛を得て結婚を誓い合った。
挨拶にとやって来た旅ゆっくりのまりさとありすの仲睦まじい姿を眼にし、まりさとれいむは喜んで二匹を祝福した。
そうしてつい三日前に発覚したのがありすの妊娠――。
その喜ばしいニュースは群れ中を駆け巡り、ついには毎年執り行われる春祭りに便乗して
ありすとまりさの結婚式を一緒に挙行しようではないかと長ぱちゅりーが提案し、満場一致で可決された。
子供を産むとなればありすも自分の時間を作るのが難しくなる為、
胎児型妊娠の初期段階でまだ母体がそれなりに融通の利く状態であることを理由に急遽開催が早められた。
群れの皆が広場に集まって、狩りで収穫した木の実や茸を広葉樹の葉に乗せて並べたり、
切り株に野花を刺して飾り付けしているのも全てはその為だった。
ふと思い出に揺られてまりさは追憶にふけていると、隣に腰掛けたありすが何か伝えたそうに、
まごまごと曖昧な態度で視線を泳がせているのに気付いて横を向き直った。
まりさは自分よりも遥かに聡明で柔和な気立てのいい立派なゆっくりに育ってくれたありすを見つめて、やんわりと微笑む。
そんなまりさの表情に押されて意を決したありすがついに口を開こうとした時、突然と周囲に金切り声が轟き驚いた二匹は思わず声の主の方へ振り返った。
「ゆ”ゆ”ゆ”ーっ!! でいぶのおちびちゃんのありすちゃんがいるよぉおおっ!! でいぶだよっ、おかーさんっだよ!!」
そこに佇立していたのは、あのありすの産みの親である『でいぶ』とありすの姉に当たる『れいむ』だった。
だがよく眼を凝らせば、でいぶの姿は明らかに他のゆっくりと異なり全身が泥で汚れており、茄子型のお腹をぷりぷりと振って奇妙な動きを繰り返し、
頭部には生命の次に大事なお飾りが消失し、変わりに埃と砂利塗れの艶を失った黒髪が糊を塗り手繰った様にへばり付いていた。
姉れいむの方も同様で、頬が痩せこけているのに腹周りは奇怪な肉付きを蓄え、見苦しい泣きっ面を見せ付けている。
「おかーさんがわかるっ!? ありすちゃんをうんだでいぶだよぉっ!! おねがいだからおかーさんをたすけてねっ!!
むれのみんながでいぶにひどいことをするんだよ!! ありすちゃんはおやこうこうしないといけないんだよっ!!」
「ありずぅうううっ、れいむだよぉっ!! おねーちゃんだよぉっ! そっちのくそおやなんかよりおねーちゃんをだずげでねっ!! おでがいだよぉぉぅううっ!!」
狼狽し震え怯えた様子で後ずさるありすを、でいぶとれいむは己の主張だけを取り上げて押し迫る。
ありすの身の危険を察知したまりさは、拙速にありすを庇う形で割り込むとでいぶの括れた土手っ腹を思いっ切りぶつけられ、派手に顔面から転倒した。
「まりさおとーさんっ!!!」
「ゆぐっ……あ、ありすっ!!」
「でいぶからありすちゃんをとりあげたげすはどいてねっ! ゆっ!! ありすちゃんはおびえなくてもいいんだよっ!!
ありすちゃんいっしょにぱちゅりーのところにいこうねっ!! ぱちゅりーにじかだんぱんしてでいぶをふつうのゆっくりに――」
「むっきゅーんっ!! そこまでよっ!!」
騒ぎを掻き付けて颯爽と登場した長ぱちゅりーが、丘の天辺から転がるように滑って四匹の前に現れた。
遅れてやってきた自警団長のみょんが、俊敏な速度でありすにしがみ付くでいぶとれいむに体当たりすると、
二匹はお互いを巻き込む形ではぶわっと持ち上げられ斜面に小麦粉の肌を削られるように転がっていった。
「むっきゅん、ありす! まりさ! けがはないかしらっ!?」
「じけーだんちょうのみょんがきたからにはもうあんしんみょん!」
まだ幼顔を僅かに残した長ぱちゅりーと、自警団長のみょんの助太刀によって難を逃れたまりさとありすはホッと胸を撫で下ろした。
この若い長ぱちゅりーは冬を越せなかった前代の長ぱちゅりーの二番目の娘で、今はありすと共に群れの運営を任される頭目である。
三つの時節を乗り越える最中、古い世代のゆっくりたちは残した娘達に後を託して過ぎ去った季節と共に消えていった。
まりさもまたそれを待つゆっくりであり、若い世代の舵取りを陰ながら見守りつつ余生を過ごしていた。
「まりさはだいじょうぶだよ、おさっ、たすかったよ」
「ごめんなさいね、けっこんしきのじゅんびにゆんいんがたりなかったから、どれいのあいつらにもてつだわせていたの
ぱちゅりーのおかーさん……ぜんだいのおさのいいつけをまもって、ありすとあのでいぶのおかおをあわせさせないようにしていたのに……とんだしったいだわ」
「……ありすはきにしてないわ、ぱちゅりー、ありがとう……」
あのでいぶは今、群れの中の最下層被支配階級である『どれい』として辛うじて群れの一員に加えられている。
どうしてその様な地位に落とされたかというと、過去にでいぶの上の娘であるれいむが子ゆっくりの時にとある出来事を切っ掛けに『擬似れいぱー化』してしまい、
近隣の子まりさを巻き込んですっきりー死させた事件が発生してしまい、擬似れいぱー化したれいむはその場で処刑され、
残された姉れいむとでいぶ共々、身内から重犯罪者を出してしまった責任として、生殖器を切り落とされ、
お飾りを奪われた上で、群れのルールに従い奴隷に成り下がり遺族への奉仕活動を強要されていた。
結局のところでいぶは子育てに失敗し娘をれいぱーとして世に送り出してしまった、覚悟の無い者の末路はあまりにも惨めだった。
「みょん、どれいをひきさげてきてちょうだい。それからありすのけっこんしきのじゃまをぜったいにさせないようにね」
「まかせるみょん、ちょうどいいからうんうんしょりじょうのおそうじをさせるみょん」
そう言ってみょんは這い蹲っているでいぶとれいむに再び体罰を下して会場から引っ張り出して行く。
でいぶとれいむは最後まで泣きじゃくりながらながらありすに救済を求めて去っていった。
ありすが群れの重役だと知っていたらしく、ぱちゅりーに口利きして罪を免除してもらおうという魂胆だったのだろう、
連行されていくかつての肉親だった彼らに、ありすは一度も眼を向けはしなかった。
でいぶの騒動も治まって再び準備が進められると、群れの家々がある方向からありすを呼ぶ声と共にれいむが近付いて来た。
「ゆーっ、こんなところにいたんだね! ありす、そろそろおめかしさんをしようね、れいむはぴこぴこさんによりをかけててつだうよ!」
「ちょ、ちょっとれいむおかーさん、ありすまだまりさおとーさんとおはなしが――」
駆けて来たのはまりさの番であり、ありすの母であるれいむだった。
母れいむはありすの背中を押すように急かすと、これから施す花の蜜を使った頬紅の話を切り出し、娘の晴れ姿を想像して顔がニヤけ切っている。
胸中に押し留めた想い伝えるべくまりさの元にやってきたありすは、まだ何も会話をしていないと抵抗して見せるも、
そんなありすの心情に気付けないまりさは、柔らかい笑顔でそっと見送った。
「ありす、かいじょうでまってるよ」
「……おとーさん……」
ありすは後ろ髪を引かれる思いで母れいむに追従し、花嫁の控え室にした長ぱちゅりーのお家に戻っていく。
残されたまりさは、雲一つ無い晴天を仰ぎ、会場に一足先にやってきた花婿のまりさの姿を見つけ挨拶と談話をするために近付いて行った。
※後編に続きます
愛で 思いやり 愛情 差別・格差 育児 群れ 赤ゆ れいぱー 自然界 独自設定 うんしー ぺにまむ 主要ゆっくりがやや高性能です
西の上天が赤みを帯びた夕空の頃、吹き込んだ微風に僅かな湿り気が混じっており通り雨の到来を予見させている。
暗がりに沈み往く森の、奥地に聳え立った大木を前にしてゆっくりぱちゅりーは穏やかならぬ剣幕をその小麦粉の面貌に浮かべていた。
彼女の脇には樹枝を口に咥えて周囲を警戒するみょんや、きょろきょろと近傍を見渡しているまりさの震え怯えた姿を窺わせる。
「むきゅー、いいみんな。まむまむさんをきゅっとしぼるのよ! いつれいぱーがおそってくるかわからないわ!!」
「ゆーっ、れ、れいぱーをせいっさいっしないとみんなあんっしんっできないのぜ!」
「どこからでもかかってくるみょん、このはくろーけんのさびさんにしてあげるみょん!」
厳戒態勢を強める三匹、ぱちゅりーの指令に従って相身互いに尻を死守しながらじりじりと野苺が茂る狩場に移動していくと、
ガサリと注視していた草原が大きく掻き乱れて揺れ始めた、ギョッとしたぱちゅりーは息を呑みつつも恐る恐る震源に向けて声を掛ける、
すると茂みの中からひょっこりと耳付きが、群れの朋輩である自警団のちぇんが飛び出し極度の切迫感に縛られていた三匹は見慣れた仲間の姿にホッと胸を撫で下ろした。
「おさっ、れいぱーがみつかったんだよー!らんさまとせいっさいっしたからもうあんしんだよー!ゆっくりしないでれんこうするよー!」
「よくやってくれたわ! みょん、まりさ、ゆっくりしないでむれのみんなをあつめてちょうだい!」
「わかったみょん!」
「わ、わかったのぜ!」
ちぇんの報告を受けて、ぱちゅりーは安堵しつつも取り巻きの二匹に出払った全員の招集を指示した。
森のゆっくりプレイスを突然と襲ったれいぱーありすによる無差別すっきりテロは、事態の終息を迎えられたらしい。
切り株に寄り添って昂った感情を整えぱちゅりーは待機していると、雑木林の脇を潜って群れの自警団長であるらんと自警団員のちぇんやまりさなどが
無数の枝を身体中に差し込まれたれいぱーありすの薄汚れたブロンドヘアーを強引に口で咥えてぱちゅりーの前に突き出した。
片目を深く抉り取られてドロドロになった寒天が涙の様に頬を滴り、根元を切断され千切れた陰部からとろりとカスタードクリームが漏れ出している。
生きているのもやっとの身体を引き摺りながら喉を壊すのも承知で本能に忠実なまま「んほぉぉ……」と呟いている文字通り無様なれいぱーありすの姿に、
思わず眼を背けたくなったぱちゅりーは、それでも必死に群れを恐怖のどん底に叩き落した元凶を見下ろし、
れいぱーありすの凶行により未来を奪われた者たち無念を想い憎悪の感情で以って睨み付けていた。
「いけのちかくでうずくまっているところをかくほしたよ、いくらかなかまたちをぎせいにしてしまったが、なんとかつかまえることができたよ」
「ごくろうさま、らんたちのおかげでこれいじょうひがいをかくだいせずにすんだようね
じけいだんのみんなにもかんしゃするわ、あとはてのあいたものでしょりするからそのへんでやすんでいていいわ」
ぱちゅりーの労いの言葉に自警団のゆっくりたちは自警団長のらんと数匹のゆっくりを警護に残して各々に腰を落ち着ける。
暫く待っていれば、みょんとまりさが連れてきた群れのゆっくり達が、れいぱーありすと一定の距離を保ちながら囲いぞくぞくと集まり、
ほぼ全員が結集したところで、ぱちゅりーは各自に得ている情報を受け取り群れの被害状況を確認した。
「ゆぇえええぇえんっ!! れいぶのまりざとおちびぢゃんがれいぱーにまっくろにされちゃったんだよぉおおおっ!!」
「おとなりのまりさのおうちはぜんめつだったよー、おうちのなかにくきさんをたくっさんっはやしたまりさとおちびちゃんのしたいがころがってたよー」
れいぱーありすの毒牙に罹った者は大半がまりさ種であったらしく、子や赤ゆ問わずに大勢のゆっくりがれいぱーの餌食と化した様だった。
改めて伝わってくる被害の甚大さにぱちゅりーは顔を渋めるばかりで、むきゅーっと大きく溜息を吐いて家族や親類や友人を亡くし涙する群れのゆっくりたちを宥めて回った。
集まった群れの面々は深い弔意に包まれていたが、次第に悲嘆は憤怒に、故ゆんへの愛心はれいぱーへの怨恨へと急変し
一部の盛んな若いゆっくりたちがその場で跳ね上がり『れいぱーを制裁しろッ!』と声を大にして主張を掲げた。
辺りは騒然とし直ぐにでも組討ちの火蓋が切って落とされそうな一触即発の雰囲気に、
慌ててぱちゅりーが騒乱を鎮めるために皆の前に躍り出るも、同じく割り込んだ自警団長のらんがぱちゅりーに目配せし左右に首を振って眼を伏せた。
「ざんねんだけれど……れいぱーはこときれてしまったようだ……もうせいさいはかなわない」
ぱちゅりーが視線を移すと辛うじて息をしていたれいぱーありすは完全に沈黙していて、厭らしい笑みを浮かべたまま凍結し僅かに死臭を漂わせている。
せめて特にゆん的被害の大きかった遺族を優先して制裁に充てようと思惑を張り巡らせていたぱちゅりーは、
それが実現できないと知り朽ち果てたれいぱーありすから視線を外すと唇を噛みつつくるりと向きを正した。
「む、むきゅー……しかたないわ……みんなっ! れいぱーがえいっえんっにゆっくりしてしまったからせいっさいっはなしよ!
このれいぱーのむくろさんは、ぱちゅりーたちがむじひっにしょぶんするから、とりあえずかいっさんっしてね!!」
ぱちゅりーの感情の無い群れの長としての事務的な言葉は無論全員を納得させられる筈もなく、
失った物への対価を求めて大勢のゆっくりたちが反発の胴間声が上げる。
思いの他、強い憤慨に晒されたぱちゅりーや自警団のらんやちぇんは驚き困惑していると、
突然と金切り声が周囲に轟き間の抜けた泣き声と共に、集まったゆっくりたちの肉壁を易々と破って一匹のでいぶが輪の中心に雪崩れ込んで来た、
その食欲をコントロール出来ていない不健康さをありありと見せ付ける肥えた巨体が表す、
群れでも随一の我侭者で周りから敬遠されているでいぶが大口を開けてぱちゅりーを押し潰さんと迫ってきた。
「ゆびぇぇえええぇんっ、ぱじゅりぃいいいーっ!! でいぶのこうっけつなていっそうっが、れいぱーにやぶられっちゃっだよぉおおお!!!」
「むぎゅっ!? ちょっとやめなさいっ! ぱ、ぱぢゅりーをつ、つぶするもりなのっ!? らんっ、おねがいっ、れ、れいむをとめてちょうだいっー!!」
ぱちゅりーの叫び声に感化してらんは大慌てにでいぶを取り押さえ強引に距離を離すと、
開放されたぱちゅりーは青白い顔をしながらもでいぶの体面を見つめ直ぐにその異変に勘付いた。
良く眼を凝らせばでいぶの額に茎が生えておりその先からプチトマトサイズの実りゆ、れいむ種二匹とありす種一匹をぶら下げている。
でいぶもれいぱーありすに襲われて植物型妊娠をしてしまったのが見て取れ、実りゆが少数な事かられいぱーに直ぐに飽きられたのが伺えた。
大方でいぶの絞まりの無いまむまむに満足を得られなかったか、身体だけは無駄に大きいのが仇となってまりさと見間違えられたのかの何れかだろう。
悲劇のヒロインを存分に演じているでいぶを横目にぱちゅりーは白けた顔をしていると、でいぶの騒ぎに押されて言葉を失っていた群れのゆっくりたちの熱が再び上昇し始めた。
「おさっ!! れいぱーをせいっさいっできないならそのれいむのおちびちゃんをせいっさいっさせてね!!」
「そうなのぜっ!! れいぱーのおちびちゃんはゆっくりできないのぜっ!! ゆっくりしないでせいっさいっするべきなのぜ!!」
「えいえんにゆっくりしちゃったみんなのかたきをとらないといけないんだねー、ちぇんにもわかるよー!」
気付けば彼らの要求が、でいぶの額に実ったれいぱーありすの遺児に対する制裁に切り替わっていた。
目に見える結果を冀求する姿勢を崩さない群れの面々は、まるで主張を隣人に感染させる様に広げていく。
ぱちゅりーは対応に手を焼いていると、わなわなと巨躯を小刻みに震わせたでいぶがヒステリックな赤い声を捻り出し一瞬にして群れのゆっくりたちを黙らせた。
「はぁあああっ!? なにいってるのぉおおお!? れいむのおちびちゃんにひどいことするなんてだめにきまってるでしょぉおお!!
れいぱーにのおちびちゃんならまだしも、びゅーてぃふるでびゆっくりなれいむのあんこさんをうけついだ
れいむにのおちびちゃんをせいっさいっするなんてぜったいにゆるさないよ!!」
でいぶはキリッと吊り上げた眉とキュッと絞った唇をこれでもかという程周囲に見せ付ける。
呆れ気味にその申し立てを聞いていたぱちゅりーは半開きにした目をしてでいぶにそっと尋ねた。
「……れいぱーにのおちびちゃんならいいのね?」
「いいよ! れいむがこそだてしたいのはれいむにのおちびちゃんだよ、れいぱーにのおちびちゃんはいらないよ!」
特段悪びれた様子も無く諏訪っとした顔をしてでいぶはそう言い切った。
れいぱーに襲われた不幸も茎に実った子供たちで帳尻が合うようで、なんともでいぶらしい思考回路だと感心しながらも、
その上で遊び感覚の子育て論を目も前で自信たっぷりに見せびらかされた気がして、ぱちゅりーは心底仰天としていたが、
彼女の意識は別に『これを利用しない手はないだろう』と思惑を巡らせていた。
道徳的に後ろめたい部分はあるものの、あの実りゆのありすを生贄にすれば群れの不満は解消されて安定を保てるのではないか、
下手に鬱積を抱えさせるのは群れの運営に支障を来たす可能性が十分にあると警戒したぱちゅりーは、でいぶの了解を得るべく提案を投げ掛けた。
「むきゅー、みんなをなっとくさせるためにはしかたないわ、そのれいぱーにのおちびちゃんをいけっにえっにしましょう、いいわねれいむ?」
「ゆっ!? でもこのれいぱーにのおちびちゃんもいらないこだけどれいむのおちびちゃんだよ、
おさがどうしてもほしいならあまあまをちょうだね! たくっさんっじゃないとゆるさないよ!!」
「……」
「どおじでだまっちゃうのぉおおおっ!? でいぶはおかーさんなんだからとうっぜんっのけんりでしょぉおおお!?」
あの学が無さそうな身形とは裏腹に取引を持ち掛ける狡猾さに、ぱちゅりーはゆっくり出来ない事だと承知の上で
こいつがすっきり死すれば良かったのに、と嫌な妄想を浮かべ腹黒い含みのある笑みを作り渋々とでいぶの要求を呑んだ。
「し、しかたがないわ……むれのきょうどうほかんこさんに、にんげんさんがすてたがむさんがあるわ……それをわたすわ」
「ゆーん、わかればいいんだよ!! れいむのかわいいおちびちゃんとあまあまさんがもらえるなんてれいむはさいっこうっにうれしいよ!」
左右に巨大な体をぶるんぶるんと振って喜びを表現しているでいぶを他所にぱちゅりーは群れの一同に向かって声を張り上げた。
ともかく、このままれいぱーにのおちびちゃんをでいぶから引き離すのは幾らなんでも母体へのダメージを考慮し現実的ではないと判断したぱちゅりーは、
一旦日付を置いて、実りゆから赤ゆへと成長を待ち産まれ落ちるまで事の保留を群れのゆっくりたちに強要した。
それでも制裁せずにはいられない一部のゆっくりが駄々を捏ねるも、先程から厚い雲に覆われていた空が通り雨を齎し、事態は有耶無耶なまま一時的な休戦へと繋がった。
それからでいぶは味を占めたのか何度もれいぱーにのおちびちゃんを盾に、食料の提示を求めたりと散々好き勝手してぱちゅりーを困らせた。
だが、でいぶの有り余るほど豊満な餡子は実りゆたちを急速なペースで成長させていくことになり、ついには予定よりも遥かに早い出産日を迎る件となる。
れいぱーの一件で愛すべき家族を失ったゆっくりたちがでいぶのお家の前に集まり、今か今かと実りゆの生と死を待ち望んでいた。
ぱちゅりーや自警団の面々、いざという時の為に隣群れから呼び寄せた助産師であるえーりんも集まり万全の出産体制を整え待機していると、
まず最初にれいむ二匹が茎から震え落ちて舌足らずな産声を轟かせた。
いよいよれいぱーにのおちびちゃん、実りゆのありすが痙攣を始めると一同は息を呑んで見守り始める、ただ一匹でいぶを除いて。
「ゆぅ~ん、れいむのあまあまひきかえけんさんっ! ゆっくりしないでうまれたら、ぱちゅりーたちにせいっさいっされてね!!」
産まれたばかりの赤れいむたちを揉み上げで寄せて、お菓子を独占する子供の様に厭らしく欲深そうな微笑を浮かべたでいぶ。
その視線の先にある引換券と称した我が子を涎を溜め込みながら見つめていると、ついに実りゆのありすが――茎から放たれた。
「ゆっ! ゆっくししちぇいっちぇにぇ!! ときゃいはなありしゅがゆっきゅりうまれちゃわ!!」
雑草で急造したクッションを弾いて産み落とされた赤ゆっくりありすは、ニッコリと満面に無邪気でご機嫌な笑顔を貼り付け、
親であるでいぶを見つけて元気いっぱいに挨拶をして見せた、しかしでいぶはニヤニヤと薄ら笑いを浮かべるだけで言葉を返す事はしない、
でいぶの態度をやや不審に思いつつも、赤ありすは先に産み落とされた赤れいむたちが、
額から切り落とされた茎を「むーちゃむーちゃ」と美味しそうに頬張っているのに気付いて、
急いで跳ね上がり列に加わろうとまだ覚束無い足取りで擦り寄り始めた、
しかし、でいぶの野太く膨れ上がった揉み上げがそれを拒み、鉄槌が赤ありすの頬を敲いて放り飛ばしでいぶを中心とした家族の領域から無慈悲に排除した。
突然の出来事に蹲った赤ありすは拒否の気概をはっきりと示した親であるでいぶを呆然と見上げ、
後からじんわりと伝わってきた痛みの反動で溢れんばかりの砂糖水が目尻に溜まり頬をなぞる様に下っていった。
「ゆぅえ”ぇえ”ぇえ”え”んっ!! みゃみゃぁああっ!!!! ありしゅにどうじでしょんなことじゅるのぉおおおっ!!」
「ひきかえけんのぶんざいでれいむをおかーさんよばわりしないでね! さぁぱちゅりーっ!
そいつをゆっくりしないでしょけいしてね!! それからあまあまさんをもってきてね!!」
「ゆぷぷっ、きっちゃないいもうちょだにぇー!」
「ゆぐっ、ゆぐっ……どうじじぇなの? ありしゅはときゃいはなゆっきゅりなのに、どうじじぇっ!?」
実りゆの頃から想像を膨らませ描いた未来は幸福に包まれた世界の明け、与えられる筈だった甘やかな祝福は一変し、
酸鼻の形で始まったゆん生のスタートに、赤ありすは一匹めそめそと悲涙を落としていると、
のっそりと重い足取りで裡面から近づいた自警団長のらんが、赤ありすの餅と酷似した頭部を咥えようと大口を開いて差し迫った。
「さぁ、みんなこのれいぱーのおちびちゃんを、このありすを――」
ぱちゅりーは集まった皆を、群れの広場であり本日限りの処刑場へ導こうと号令を発したところで、
何の前触れもなく、周囲の注目を一身に集めるほど透き通った張りのある声をしたゆっくりがぱちゅりーの口回しを遮った。
『みんな、まってねっ!! まりさのおはなしをきいてねっ!!』
声の主の方を見るようにでいぶのお家の入り口を塞いだゆっくりたちが徐々に道を開けていく。
見れば、日差しを背にしてお帽子に形遅れな銀の古ぼけたバッジを装着したゆっくりまりさとゆっくりれいむがそこに佇んでいた。
二匹は自警団長のらんを押し退けて、赤ありすから引き離すとれいむが揉み上げでそっと赤ありすを持ち上げ、
同席者たちが有りっ丈に注ぐ殺意の眼差しから護る様にがっちりと掴んで一歩引き下がった。
そのれいむと赤ありすを庇う形で立ち塞がり仁王立ちしたまりさは、キュッと鋭い眼光を辺りに撒き散らし言葉を紡ぐ。
「みんなきいてね! このおちびちゃんをせいっさいっするのはやめるべきだよ! とてもほめられたことじゃないよ!!」
「なっ……! と、とつぜんなにをいいだすのっ!? このれいぱーのおちびちゃんは――」
「このこはれいぱーのおちびちゃんかもしれないけれど、まだなにもわるいことはしてないよ!
それなのにせいっさいっするのはまちがってるよ! みんなおめめをさましてね!」
「なにいってるのー!! ふざけたこというのはやめてねー!!」
予期しない乱入者の、制裁中止の訴えに異を唱えたのは長ぱちゅりーや自警団たちではなく一番手前で出産を見守っていたちぇんだ。
このちぇんはれいぱー襲撃事件で癒える事のない傷痕を刻まれたゆっくりの一匹だった。
番のまりさやまだ年端も行かぬ幼い子供たちも、れいぱーに犯し殺され唯一の生き残ってしまったちぇんは、
失意のままただただこのれいぱーの遺児である赤ありすの死と、
制裁を願って浄水を沸騰させるほど煮え切った堅固な憎悪を内に溜め今日という日を待ち望んでいた。
「そんなのぜったいにわからないよー! ちぇんのまりさも、ちぇんのおちびちゃんも、みんなみんなれいぱーにえいっえんっにゆっくりされちゃったんだよー!
それなのにそのおちびちゃんをどうしてゆるさなきゃいけないのー!? ちぇんにはわからないよー!! わかりたくもないよ!!」
「……ちぇんのかなしみをおもうとまりさもこころさんがちくちくするよ! でもよくかんがえてね!!
ちぇんのまりさもおちびちゃんも、ちぇんにゆっくりごろしをしてほしいとはおもってないはずだよ! きっとそうだよ!!」
「なにかってなこといってるのー!! かんけいないまりさはだまってろよー!! ぢぇんはたぐっざんっうしなっだんだよー
たいせつなおちびぢゃんをえいっえんっにゆっぐりざぜられだのにっ……わがるわけないよーっ!! そんなごどぐらいわがれよーっ!!」
涙ながらに語るちぇんの気迫が満ちた訴えに、まりさは一瞬だけたじろいでしまうが、
相対したまりさにも譲れない強い熱意があるのか、下から覗き込むようにしっかりとちぇんの瞳を見据えては、
大きく息を吐き、冷々たりながら且つ芯の通った抜き難い胸中をその願い出に乗せてまりさは答える。
「ゆっくりごろしはゆっくりできないよ!!」
その一言で、一同はちぇんを含めて固唾を飲んだ。
「なんどでもまりさはいうよ! ゆっくりごろしはぜったいにゆっくりできないよ!!」
各々に後ろめたさの尺度は違うが、一様に決まりが悪そうに眼を逸らし唇を折り曲げる。
特に長であるぱちゅりーは、道徳的な部分をすっぽ抜くのを当初から仕方ないと割り切って自分を誤魔化していた故に、
まりさの発言には胸を射抜かれた様ななんとももどかしい気持ちに支配されていた。
「ちぇんのくやしいきもちをまりさはぜんぶりかいできないよ、でもこれだけはいえるよ! ちぇんがこのおちびちゃんをえいっえんっにゆっくりさせちゃったら
ちぇんもれいぱーとおなじゆっくりごろしになっちゃうよ! きっとゆっくりできなくなったちぇんのすがたをみたらてんごくのおちびちゃんはよろこばないよ!」
「そんな……かってなこと……わっ、わがらないよっ……」
「ゆるしてとはいわないよ、でもおねがいだよ……このおちびちゃんをせいっさいっするのはやめてあげてね……」
徐々に表情を暗く沈ませたちぇんは、一度だけギロリとれいむの揉み上げに隠れた赤ありすを睨み付けた。
赤ありすは刺すような視線を受けて「きょわいょおぉおおお!!」と泣き叫びながら、プシャァっと勢い良く恐ろしーしーを漏らし円らな身体を震わせる。
あまりにも幼過ぎる赤ありすの姿を見て、ちぇんは刹那に失った子供たちの面影を赤ありすと重ね、顔を伏せるとか細い呟きを残して背を向けた。
「もしそのこがれいぱーになったらちぇんはまよわず、そのこをえいえんにゆっくりさせるよ……」
それだけ言い残すとちぇんはでいぶのお家から去って行ってしまった。
毒気を抜かれた群れのゆっくりたちは、それぞれ居合わせたゆっくりたちの様子を伺い一匹がちぇんの後を追うように出て行くと、伝染する様に次々と退出していった。
残されたのは出産に立ち会った自警団の面々と長のぱちゅりーだけだ、ぱちゅりーは群れの皆を鎮めたまりさに近寄き、わざとらしく咳払いをしてまりさの頬をそっと突いた。
「むきゅー……とんだことをしてくれたわね」
「お、おさっ、かってなことをしてごめんね! でも、でもまりさはねっ――」
「それいじょういわなくてもいいわ、ほんらいならぱちゅりーがみんなにいうべきことだったのよ
まりさのいうとおりゆっくりごろしはゆっくりできないわね……まりさたちにはきづかされたわ、ありがとう」
ぺこりと頭を下げたぱちゅりーに、まりさは左右に身体を振って謙虚さを表している。
一連の行動といい、照れを隠した直向な態度からまりさの人となりをぱちゅりーは再認識しつつ、
改めて赤ありすを見つめてみれば、先程から自分の事で揉めているのだと勘付いているのか、
さっとれいむの揉み上げ深くに潜り込んで姿を隠してしまった。
「でも……このれいぱーにの……いいえ、おちびちゃんありすをどうしたものかしら……むきゅー、こまったわ」
「そのことならしんぱいいらないよ! おさっ、このおちびちゃんをまりさたちのおちびちゃんにしたいんだよ! だからきょかをちょうだいね!」
「ほ、ほんきなの? まりさもれいむも、そのつもりでこのおちびちゃんをたすけたの!?」
お互いに顔を見合わせたまりさとれいむは同時に頷いて決意を新たにする、今まで黙していたれいむが片方の揉み上げで前髪を掻き揚げると、
ガッチガチに凝固した哀れを誘うほど痛々しく黒焦げ傷付いた額をぱちゅりーに見せ付けた。
「おさにはまえにおはなししたけど、れいむも……まりさも、にんげんさんにぎゃくたいされて、もうおちびちゃんがつくれないおからだなんだよ
まりさのぺにぺにさんはぶちぶちされちゃったし、れいむのまむまむさんはふさがっちゃってるよ
だから、みんながれいぱーのおちびちゃんをせいっさいっするってきいて、いてもたってもいられなかったんだよ
どんなににくまれてうまれてきたおちびちゃんでも、えいっえんっにゆっくりさせるのはかわいそうだとおもったんだよ」
まりさとれいむは外し忘れた銀バッジが示す通り、元は飼いゆっくりだった。
ペットショップで『ゆっくりつがいセット』という名目で二匹は揃って売り出され人間のお姉さんに飼われる事になり、
それなりに順境な暮らしを送っていたものの、子供を許可無く作ってしまう在りがちな失態を犯してしまい状況は一変した。
初めてのおちびちゃんはお姉さんに処分され、家を放り出され、途方に暮れた二匹は当時まだ人間に対して無知だった為に、
もう一度飼いゆっくりにしてもらおうと人間たちが集まりそうな駅前で只管と自分達がゆっくりしている事を訴え続けていた。
そこで不運にもゆっくりを良く思わない人間と鉢合わせ弄ばれ、二度と子供が出来ない身体に虐待という名の改造を施されてしまった。
奇跡的にも一命を取り留め、ほうほうの体で人間の街を脱した二匹はこうして森の奥地に根付いたゆっくりプレイスの一員に加えられた、
そういう経緯から野生のゆっくりでは到底想像し難い波乱のゆん生を送って来た過去があり、
どれほど希求しようとも二度と自分たちの餡子を受け継いだ子供を作れない故に、
誰からも望まれないれいぱーの遺児を育てると誓った決心は並大抵の物ではない。
れいぱーに家族を殺されたちぇんの様な、被害者たちから蒙るであろう非難の全てを受け止める覚悟をその瞳に宿している。
「むきゅー……まりさとれいむのおもいはつたわったわ、でも、もし……もしそのおちびちゃんがれいぱーかして、むれのみんなをおそうようなことになれば……」
「そうならないようにするよ! まりさのえいえんにゆっくりしちゃったおちびちゃんにちかってやくそくするよ!!
ぜったいにないとおもうけど、もしもおちびちゃんがれいぱーかしちゃったらむれのるーるにしたがって、まりさもれいむもどれいになるつもりだよ!
だからまりさをしんじてね! まりさはいのちがけでこのこをいちゆんまえのゆっくりにしてみせるよ、だからっ……! だからおねがいだよっ!!」
子供が欲しいというまりさたちの粘り強い一念は、長であり同時に親であるぱちゅりーにも痛いほど響いてくる。
ぱちゅりーは群れの舵を取り均等を司る旗頭の為、決して肩入れすることは出来ないと念を押してから二匹の意思を汲み取り養子縁組を承諾した。
儀礼的とは言えようやく念願のおちびちゃんを家族に加える事が叶ったまりさとれいむは頬を綻ばせるが、
それに異を唱えた絶え入るような声が、れいむの揉み上げに隠れた赤ありすから発せられまりさとれいむは思わず表情を崩した。
「かっちぇなこといわないじぇにぇ!! ありしゅのみゃみゃはほかにいにゃいわっ!」
ピンポン玉が跳ねる様に、赤ありすはれいむの揉み上げから飛び出すと再びでいぶの前に躍り出た。
「みゃ、みゃみゃぁっ! ありしゅもいいこにしゅるからありしゅもいっちょにゆっきゅりさせちぇねっ!!」
のーびのーびして上下に身体を揺らし精一杯に痛々しい笑顔を振り撒き、自分がいかに実親のでいぶをゆっくりさせられるか必死にアピールし、
せめてこっちを振り向いて欲しいと、自分を見限らないで欲しいと、幼いながら我武者羅に喰い付こうとする健気な姿を皆の前で曝け出す。
だがでいぶは、そんな幼子の微かな想いさえ踏み躙って一喝を下してしまう。
「れいむをおかーさんよばわりするなっていったでしょぉおお!! おまえなんかしらないよっ!!
くずのれいぱーのくせにちかづかないでねっ!! れいむのかわいいおちびちゃんにすっきりーしたらしょうちしないよ!!」
「そ、そんなちゅもりはないわっ!! みゃみゃぁっ、ありしゅはとっちぇもときゃいはなゆっきゅりよ!!だから――」
「うるさいよっ!! これいじょうれいむにいやなおもいをさせないでね! めいわくだからゆっくりしないでしんでいいよ!!」
酷薄な痛罵の壁の前に、ようやく自身が望まれぬ稚児と認識した赤ありすは、
世界の終焉を垣間見た様な言葉通りの絶望を知り、顔を真っ赤にして涙腺を緩ませる。
でいぶにとっては目障りでしかない赤ありすの啜り泣きに、でいぶは眉を顰めて舌打ちしては、
何か良からぬ事を思い付いたのか含みのある冷笑を見せて脇に寄り掛かった子供たちにそっと耳打ちをし始めた。
「おちびちゃんたち、あのくそめざわりなれいぱーにむけていっしょにぷくーしようね! わるいゆっくりをやっつけようね!!」
「ゆっくちりかいしちゃよ!! れいみゅのさいきょうのぷきゅーをくらっちぇにぇ!! ぷきゅぅうううーっ!!」
「れいぱーはれいみゅのいもうちょじゃないにぇ!! ゆっきゅりしないじぇきえちぇねっ!! ぷっきゅううぅううー!!」
歪に膨れ上がった三匹のれいむたち、もうここに居場所が無いと確信した赤ありすは呻りながら旗を巻く様に後ろへ駆けていく。
一心不乱に跳ねればボスンッと柔らかい肉圧にぶつかり赤ありすが巧まずして見上げれば、
群れのゆっくりたちから身を護り庇ってくれていたれいむが切なげに微笑んでいた。
「おちびちゃん、れいむといっしょにいこうね……れいむならおちびちゃんをゆっくりさせてあげられるよ……」
「ゆぐっ……ゆぐっ……おばしゃん……」
「まりさのおうちならゆっくりできるよ……おいしいごはんさんもよういしてあるよ、だからたくっさんっわらってね!」
紅く腫れ上がった目蓋に湧き上がる砂糖水を、れいむは揉み上げで丁寧に拭いて慰めるとやんわりと頭を撫でてやった。
もうここに居ても赤ありすの為にならないと判断したまりさは、れいむに目配せし、ぱちゅりーに軽く会釈をするとでいぶのお家を家族全員で出て行った。
その様子を見続けていたでいぶは終始一貫して、赤ありすを「くそれいぱー」「ゆっくりしていないくず」等と口汚しては罵り、
最後まで自分の餡子を分けた子供であると認めなはしなかった。
そうして外敵の排斥に成功したと思い込んだでいぶは、まるでうんうんを捻り出した後の晴れ晴れとしたうりざね顔をくっきりと周囲に見せ付けた。
「ゆーん、やっとれいぱーがいなくなったよ! これでおちびちゃんはあんっしんっだよ!! れいむさいきょうでごめんねぇ!
そういえばまだあまあまさんをもらってなかったよ! ぱちゅりー、ゆっくりしないでよういしてね!!」
一部始終を見守ったぱちゅりーは侮蔑の眼差しでたっぷりとでいぶを睨み付けた後、一言も返事を交わさずそそくさと引き揚げて行った。
「ちょっとぉおおおっ!! なんでむしするのぉおぉぉっ!! でいぶはしんぐるまざーなんだよぉおおっ!! やさしくするのがあたりまえでしょぉおっ!!」
「おきゃーしゃん、れいみゅうんうんしゃんがでりゅよ!! もうがまんじぇきないにぇ! もりもりでてきちぇにぇ!!」
「れいみゅもちーちーしゃんがしちゃくなったにぇ!! はじめちぇのちーちーしゃん、いっぱいでりゅよぉおお!!」
「おちびちゃんたちなにじでるぉおおおおっ!! うんうんさんもしーしーさんもおへやのなかでしちゃだめでしょぉおおお!! おそとでしてきてよぉおおおっ!!」
「「しゅっきりー!!」」
ぱちゅりーを追い掛けてあまあまをせしめようとするも、早速とでいぶの子供たちが粗相をする始末、
覚悟のない者の子育てが如何に大変なのか、それをでいぶが知覚するのはもう間も無くの事だ。
―――――――――――――――――
あれから季節を三つ跨いだ――。
実りの秋、白銀の冬は過ぎ去り、野花が咲き誇る春の時代が森のゆっくりプレイスに訪れていた。
この日、広場には大勢のゆっくりが集まり、とある祭り事を催す為に忙しなく準備に取り掛かっている最中で、
その中にやや草臥れた顔をした老齢のまりさが、群れの皆の様子を遠巻きに伺っている。
まりさの背後にガサリと土を踏む音が響き、思わず振り向くとその視線の先に、
清楚な微笑みを浮かべた成体のゆっくりありすが春風にブロンドの髪を靡かせ佇んでいた。
「まりさおとうさん……」
「ゆっ、ありす。どうしたの? はなよめさんがくるにはまだはやいよ」
このありすはあのれいぱーの遺児、捨て子のありすだった。
ありすが父親と呼んだ老齢なまりさも、かつて長ぱちゅりーに命を懸けると宣言してまで赤ありすを引き取ったまりさで、
若々しさを失ってしまったものの、あの時と変らぬ穏やかで温厚な相貌をありすに向けている。
「……その……なんだか、まりさおとーさんにあいたくなって……」
「そうなんだね……ありす、こっちへおいで」
僅かに高く山形になっている丘の斜面で、二匹は無言のまま頬を寄せ合った。
「……」
お互いこうして身近な距離で寄り添うのは久方振りで言葉に詰まっていると、
まりさはすっかり一ゆん前のゆっくりに成長したありすを横目に、感傷に浸りながら過去の断片を拾い上げていた。
まりさが飼いゆっくりとして育ち勘当され森に居着いた軌跡があるように、ありすが歩んできた歴史も決して軽妙な物ではなかった。
幕開きの幼少期は正しく波乱の連続だった。
公式に群れの一員に加えられたものの、れいぱーありすの遺児というレッテルは、
当然ながら直ぐに拭える物ではなく、迫害を受け虐げられありすはいつも孤立の渦中にあった。
年相応の友人にも恵まれず、常に孤独で「れいぱーのこども」という汚点を種に近所のゆっくりたちがありすをからかい、見下しては除け者にする、
そういった日々でも、親であるまりさとれいむは非のないありすが苛めを受けていると知ればそのいじめっ子の家に乗り込み、
謝罪させるまで何度も異議を唱えて押し迫った。そんな姿に群れのゆっくりたちは「ゆっくりできないくれいまー」と馬鹿にし嘲笑ったが、
世間の逆境など物ともせず、まりさとれいむは如何なる時でもありすの味方に徹しては身を守る盾となった。
そうしてまりさたちに護られたありすが少年期に達したとき、負の呪縛がありすを何度と無く苦しめた。
子ゆっくりにまで成長した体は、れいぱーありすとでいぶの餡子が性格として色濃く現れてしまう時期で、
ありすは時折発作的に癇癪を起こしてはまりさたちを幾度も困らせるも、慈悲と忍耐の心で接したまりさとれいむは、
ありすの暴力的な癇癖に正面から向き合い、身勝手で自己中心的な振る舞いが如何に恥ずかしい事なのか丁寧に一から教え諭して来た。
呆れ返るほどの積み重ねが功を奏し、ありすは本能に打ち勝つ事が叶い、発作的な癇性は鳴りを潜めていき、
その頃になればありすは素行の良さから群れの一員として名実共に認められ、母親であるれいむから教わった乙女の嗜みが美ゆっくりへと着実に導いていった。
越冬を終え、春を迎えればありすはすっかり成体のゆっくりに姿を変え、群れの管理運営を任される首脳部
長のサポートをする助言役として働き、群れには欠かせない存在になっていた。
それらの結果は偏に親たちの教育の賜物でもあるが、まりさはしばしば「他ゆんの痛みが分かるゆっくりになるんだよ」と言って問題に直面する度にありすを諭し、
一流のゆっくりブリーダーでも難易度が極めて高い道徳心を芽生えさせ、ありすの根底に献身的なゆん格の構築を成せた事が大きかった。
優しく他ゆん思いなありすは、群れの子ゆっくりたちからは憧れのお姉さんとなり、年頃の成体ゆっくりからは理想の妻として圧倒的な支持を受ける程であった。
そんな折、遠方の彼方からやってきた一匹の旅ゆっくりとの邂逅がありすの運命を大きく揺るがした。
安息の地を求めて森のゆっくりプレイスに訪れたそのゆっくりまりさは、その身一つに命懸けで世界を転々としてきただけあって、
肉体的にも精神的にも逞しく主体性に富んだ気質を垣間見せ、安穏な暮し振りに慣れきった群れのゆっくりとは違い、成熟した大人の魅力を持っていた。
二匹は出会って直ぐに恋に落ちた、運命を感じられずにはいられない程のセンチメンタリズムに溺れ、情熱的な恋愛を得て結婚を誓い合った。
挨拶にとやって来た旅ゆっくりのまりさとありすの仲睦まじい姿を眼にし、まりさとれいむは喜んで二匹を祝福した。
そうしてつい三日前に発覚したのがありすの妊娠――。
その喜ばしいニュースは群れ中を駆け巡り、ついには毎年執り行われる春祭りに便乗して
ありすとまりさの結婚式を一緒に挙行しようではないかと長ぱちゅりーが提案し、満場一致で可決された。
子供を産むとなればありすも自分の時間を作るのが難しくなる為、
胎児型妊娠の初期段階でまだ母体がそれなりに融通の利く状態であることを理由に急遽開催が早められた。
群れの皆が広場に集まって、狩りで収穫した木の実や茸を広葉樹の葉に乗せて並べたり、
切り株に野花を刺して飾り付けしているのも全てはその為だった。
ふと思い出に揺られてまりさは追憶にふけていると、隣に腰掛けたありすが何か伝えたそうに、
まごまごと曖昧な態度で視線を泳がせているのに気付いて横を向き直った。
まりさは自分よりも遥かに聡明で柔和な気立てのいい立派なゆっくりに育ってくれたありすを見つめて、やんわりと微笑む。
そんなまりさの表情に押されて意を決したありすがついに口を開こうとした時、突然と周囲に金切り声が轟き驚いた二匹は思わず声の主の方へ振り返った。
「ゆ”ゆ”ゆ”ーっ!! でいぶのおちびちゃんのありすちゃんがいるよぉおおっ!! でいぶだよっ、おかーさんっだよ!!」
そこに佇立していたのは、あのありすの産みの親である『でいぶ』とありすの姉に当たる『れいむ』だった。
だがよく眼を凝らせば、でいぶの姿は明らかに他のゆっくりと異なり全身が泥で汚れており、茄子型のお腹をぷりぷりと振って奇妙な動きを繰り返し、
頭部には生命の次に大事なお飾りが消失し、変わりに埃と砂利塗れの艶を失った黒髪が糊を塗り手繰った様にへばり付いていた。
姉れいむの方も同様で、頬が痩せこけているのに腹周りは奇怪な肉付きを蓄え、見苦しい泣きっ面を見せ付けている。
「おかーさんがわかるっ!? ありすちゃんをうんだでいぶだよぉっ!! おねがいだからおかーさんをたすけてねっ!!
むれのみんながでいぶにひどいことをするんだよ!! ありすちゃんはおやこうこうしないといけないんだよっ!!」
「ありずぅうううっ、れいむだよぉっ!! おねーちゃんだよぉっ! そっちのくそおやなんかよりおねーちゃんをだずげでねっ!! おでがいだよぉぉぅううっ!!」
狼狽し震え怯えた様子で後ずさるありすを、でいぶとれいむは己の主張だけを取り上げて押し迫る。
ありすの身の危険を察知したまりさは、拙速にありすを庇う形で割り込むとでいぶの括れた土手っ腹を思いっ切りぶつけられ、派手に顔面から転倒した。
「まりさおとーさんっ!!!」
「ゆぐっ……あ、ありすっ!!」
「でいぶからありすちゃんをとりあげたげすはどいてねっ! ゆっ!! ありすちゃんはおびえなくてもいいんだよっ!!
ありすちゃんいっしょにぱちゅりーのところにいこうねっ!! ぱちゅりーにじかだんぱんしてでいぶをふつうのゆっくりに――」
「むっきゅーんっ!! そこまでよっ!!」
騒ぎを掻き付けて颯爽と登場した長ぱちゅりーが、丘の天辺から転がるように滑って四匹の前に現れた。
遅れてやってきた自警団長のみょんが、俊敏な速度でありすにしがみ付くでいぶとれいむに体当たりすると、
二匹はお互いを巻き込む形ではぶわっと持ち上げられ斜面に小麦粉の肌を削られるように転がっていった。
「むっきゅん、ありす! まりさ! けがはないかしらっ!?」
「じけーだんちょうのみょんがきたからにはもうあんしんみょん!」
まだ幼顔を僅かに残した長ぱちゅりーと、自警団長のみょんの助太刀によって難を逃れたまりさとありすはホッと胸を撫で下ろした。
この若い長ぱちゅりーは冬を越せなかった前代の長ぱちゅりーの二番目の娘で、今はありすと共に群れの運営を任される頭目である。
三つの時節を乗り越える最中、古い世代のゆっくりたちは残した娘達に後を託して過ぎ去った季節と共に消えていった。
まりさもまたそれを待つゆっくりであり、若い世代の舵取りを陰ながら見守りつつ余生を過ごしていた。
「まりさはだいじょうぶだよ、おさっ、たすかったよ」
「ごめんなさいね、けっこんしきのじゅんびにゆんいんがたりなかったから、どれいのあいつらにもてつだわせていたの
ぱちゅりーのおかーさん……ぜんだいのおさのいいつけをまもって、ありすとあのでいぶのおかおをあわせさせないようにしていたのに……とんだしったいだわ」
「……ありすはきにしてないわ、ぱちゅりー、ありがとう……」
あのでいぶは今、群れの中の最下層被支配階級である『どれい』として辛うじて群れの一員に加えられている。
どうしてその様な地位に落とされたかというと、過去にでいぶの上の娘であるれいむが子ゆっくりの時にとある出来事を切っ掛けに『擬似れいぱー化』してしまい、
近隣の子まりさを巻き込んですっきりー死させた事件が発生してしまい、擬似れいぱー化したれいむはその場で処刑され、
残された姉れいむとでいぶ共々、身内から重犯罪者を出してしまった責任として、生殖器を切り落とされ、
お飾りを奪われた上で、群れのルールに従い奴隷に成り下がり遺族への奉仕活動を強要されていた。
結局のところでいぶは子育てに失敗し娘をれいぱーとして世に送り出してしまった、覚悟の無い者の末路はあまりにも惨めだった。
「みょん、どれいをひきさげてきてちょうだい。それからありすのけっこんしきのじゃまをぜったいにさせないようにね」
「まかせるみょん、ちょうどいいからうんうんしょりじょうのおそうじをさせるみょん」
そう言ってみょんは這い蹲っているでいぶとれいむに再び体罰を下して会場から引っ張り出して行く。
でいぶとれいむは最後まで泣きじゃくりながらながらありすに救済を求めて去っていった。
ありすが群れの重役だと知っていたらしく、ぱちゅりーに口利きして罪を免除してもらおうという魂胆だったのだろう、
連行されていくかつての肉親だった彼らに、ありすは一度も眼を向けはしなかった。
でいぶの騒動も治まって再び準備が進められると、群れの家々がある方向からありすを呼ぶ声と共にれいむが近付いて来た。
「ゆーっ、こんなところにいたんだね! ありす、そろそろおめかしさんをしようね、れいむはぴこぴこさんによりをかけててつだうよ!」
「ちょ、ちょっとれいむおかーさん、ありすまだまりさおとーさんとおはなしが――」
駆けて来たのはまりさの番であり、ありすの母であるれいむだった。
母れいむはありすの背中を押すように急かすと、これから施す花の蜜を使った頬紅の話を切り出し、娘の晴れ姿を想像して顔がニヤけ切っている。
胸中に押し留めた想い伝えるべくまりさの元にやってきたありすは、まだ何も会話をしていないと抵抗して見せるも、
そんなありすの心情に気付けないまりさは、柔らかい笑顔でそっと見送った。
「ありす、かいじょうでまってるよ」
「……おとーさん……」
ありすは後ろ髪を引かれる思いで母れいむに追従し、花嫁の控え室にした長ぱちゅりーのお家に戻っていく。
残されたまりさは、雲一つ無い晴天を仰ぎ、会場に一足先にやってきた花婿のまりさの姿を見つけ挨拶と談話をするために近付いて行った。
※後編に続きます