ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko3461 ゆっくりに生まれて
最終更新:
ankoss
-
view
『ゆっくりに生まれて』 17KB
いじめ 自業自得 嫉妬 日常模様 子ゆ 現代 失礼します。
いじめ 自業自得 嫉妬 日常模様 子ゆ 現代 失礼します。
anko2611 ゲスゆっくり奮闘記1
anko2622 ゲスゆっくり奮闘記2
anko3414 ゲスゆっくり奮闘記3
anko3417 ゲスゆっくり奮闘記4
anko3456 れいむのゆん生
anko3458 まけいぬとゆっくり
「」ゆっくりの台詞
『』人間の台詞でお願いします
誤字脱字失礼します
anko2622 ゲスゆっくり奮闘記2
anko3414 ゲスゆっくり奮闘記3
anko3417 ゲスゆっくり奮闘記4
anko3456 れいむのゆん生
anko3458 まけいぬとゆっくり
「」ゆっくりの台詞
『』人間の台詞でお願いします
誤字脱字失礼します
れいむは、ゆっくりにうまれてしあわせー! だよ!
朝を迎えるたびに、れいむはそう思う
番であるまりさが、精魂込めて作ってくれたダンボールの巣の中でれいむは目を覚ます
小さな小さなダンボールだが、家族で暮らすには十分は広さのある巣の一角に、成体のれいむ、まりさ、そしてその二匹に挟まれるように蜜柑ほどの子ゆっくりのれいむが一匹
「ゆふふ、まりさも、かわいいかわいいおちびちゃんもゆっくりしてるね……」
まだ気持ち良さそうに「すーや、すーや」と寝息を立てている二匹に、れいむは優しく微笑む
このれいむは食品加工されるゆっくりであった
冷凍処理されてコンベアーに運ばれて餡子ペーストにされるだけの存在であったが、運搬中に偶然に偶然が重なり街に放り出された
その後に、紆余曲折ありまりさと出会い、今では子供も授かった
元々は食品になるだけの運命はこうも変わるものだと感心する
れいむはその事実を知らないが、ゆっくり出来なかった、とだけ認識している
「れいむは、しあわせーだよ!」
「ゆぅぅ? ……れいむ、ゆっくりおはよう!」
「ゆ? ごめんね、まりさおこしちゃった?」
れいむの「しあわせー!」の声で、寝息を立てていたまりさは目を覚ましたようだ
まりさはお下げで、わざとらしいくらいの寝ぼけまなこを擦ると、身体を上方にぐいっと伸ばす
俗に言う【のーびのーび】だ
寝ている間に固まってしまった餡子を捏ね解しているのだろう
「ゆふぅ……ゆん! れいむあさごはんにしようね!」
「わかったよ、すこしまっててね!」
まりさの言葉に、れいむはまだ眠っている子れいむを起こさないようにゆっくりと底部をうねらせ、巣の隅に置かれたビニール袋に顔を突っ込む
その中から硬くなったウィンナー、虫の死骸、パンの切れ端、野菜の皮などを取り出す
どれもこれも野良ゆっくりが街で手に入れる中では最高級の食材ばかりだ
このまりさの狩の腕の良さが伝わってくる
れいむはそれらを口の中に含むと、一つ一つ半分に噛み千切っていく
「ゆぺっ! ゆぅ、ぶれいくふぁすとさんのかんっせいだよ!」
砂糖水の唾液に塗れた、人間からしたら生ゴミ同然、それ以下の物体をどこかで拾ったのか紙の皿に吐き出した
その紙皿を引きずって家の中央に向かう
向かうといっても狭いダンボール内、振り返って少し這えばもう到着だ
そこにはまりさが笑顔で待っていてくれた
「ゆぅ、れいむのごはんさんは いつもおいしそうだね!」
「まりさが、いっぱいしょくっざいさんをとってきてくれるからだよ!」
お互いにお互いを褒めあい、そして微笑む
平和な団欒がそこにあった
「それじゃあ、ゆっくりたべようね! むーしゃむーしゃ! しあわせぇぇえぇえ!!」
「ゆん! まりさも、ゆっくりたべるよ! が~つが~つ! しあわせぇぇえぇえ!!」
れいむとまりさは、紙皿ごと食べるような勢いで生ゴミみたいなそれを租借していく
口の周りを汚し、身体に食べかすを付着させながら、どんどん食べていく
数分と掛からずに、紙皿の上には食べかすのみ残すこととなった
「ゆげっぷ! ゆふぅ……それじゃあ、いってくるねれいむ!」
「あ、まりさ! まってね!」
「ゆ?」
食べ散らかし、顔中を汚したまりさは狩に出かけようとしたが、それをれいむが呼び止めた
れいむはまりさに近づくと、ゆっくり特有の長い舌を、まりさに伸ばしていく
「ぺ~ろぺ~ろ! ゆゆ、おとこまえさんになったね!」
れいむはまりさの顔というか、体中についた食べかすを綺麗に舐め取った
正直、ゴミみたいな饅頭に何がついていようと問題なく感じるが、ゆっくりにとって身嗜みの基準はあるようだった
「ありがとうれいむ! それじゃあいってくるよ!」
「ゆっくりいってらっしゃい! にんげんはゆっくりしてないから きをつけてね!」
「わかってるよ、それじゃ」
まりさはポヨンポヨンと跳ねて、巣を後にした
残されたれいむは小さく息を吐くとさっき自分で言った言葉を思い出す
【にんげんはゆっくりしてない】
「なんで、にんげんはゆっくりできないんだろうね……」
れいむは小さく呟き、本当に哀れむような表情をする
そして気を取り直すように目を瞑ると、そろそろ起き出すだろう子れいむの為に、さっきと同じように、さっきより念入りにビニールから取り出した生ゴミを噛み砕き出した
……
…………
「おちびちゃん、あんまりはしゃいでころんじゃだめだよ!」
「ゆぅぅ~ん! わかっちぇるよ! れいむころばにゃいよ!」
昼を少し回ったころ、れいむと子れいむは巣の外に出ていた
巣があったのは公園の草むらの奥、そこから出て子れいむを遊ばせていた
まだ赤ちゃん言葉の抜けきらない子れいむに、れいむは少し心配そうに、そしてそれ以上に幸せそうに笑っていた
れいむはベンチの下、日差しから遮られたそこでゆったりとしながら、ただ広い公園の地面を駆け回るだけで楽しそうな子れいむを眺めていた
「ゆふぅ、もうすこししたら、ほかのみんなにおちびちゃんをしょうかいしないとね!」
この公園にはれいむの家族以外にも、数家族住んでいた
子れいむが生まれて以来、育児やらであまり出歩けなかったので、挨拶もかねて連れて行こうとれいむは考えていた
「そのまえにおべんきょうもさせなくちゃだね! いいきかいだから おちびちゃんにいろいろおしえてあげなくちゃね!」
れいむは自分の子育て計画の巧みさに頭の中で感動しながら、ゆっくりベンチの下から這い出る
少し離れた場所にいる子れいむに声をかけようと口をあけ
「おちび、ゆぼぶべっぁ?!」
『あぁん? んだ、ゆっくりか、猫かと思って損した』
偶然通りかかった、サラリーマン風の青年に強かに足をぶつけられた
ぶつけた青年は軽く舌打すると、つまらなさそうにれいむの前を通り過ぎる
「お、おきゃぁぁぁしゃぁぁあぁああん!!?」
「ゆ、ゆぐ、おちびちゃん、おかあさんは、だいじょうぶ、だよ……」
子れいむの声に、れいむは笑顔を見せる
実質、ほとんど怪我はない、青年はただ歩いていて出てきたれいむが勝手にぶつかっただけなのだ
蹴ろうとした訳でもないので、命に関るようなダメージは負っていない
それでも、ゆっくりと人間の力の差は計り知れないほどあるので、とてつもなく痛いことには変わりない
れいむは息を整えると、これも良い機会だと子れいむに人間について教えることに決めた
「おかーしゃん、ほんちょにだいじょぶにゃの?」
「ゆふふ、おちびちゃんはやさしいね でも、おかあさんはだいじょうぶだよ、ゆっくりしてるから!」
れいむは、自身の揉み上げで子れいむの頭を撫でる
「おちびちゃん、よくきいてね さっきのゆっくりしてないのがにんげん、っていうんだよ!」
「にん、ぎぇん?」
「そう、にんげん ほらあっちをみてね」
「ゆ?」
れいむは揉み上げで、公園の出口、その外を行きかう人間たちを指し示す
「ゆぅ、ゆっくちしてにゃいね……」
忙しなく行きかう人間に、子れいむは泣きそうな顔で感想を言う
「ゆん、ゆっくりしてない、ううん、ゆっくりできないんだよ」
れいむは子れいむの言葉に頷くと、思い出すように目を閉じた
「ゆっくりできにゃい? なんで? ゆっくりしないとしあわせー! じゃないよ?」
「ふつうはそうだよね、でも、にんげんはゆっくりとちがって ゆっくりできない、かとうせいぶつ、なんだよ」
「かちょー、せいぶちゅ?」
「そう、かとうせいぶつ にんげんはね、まいにちまいにちあんなふうに かりもしないでゆっくりしないでウロウロしてるんだよ」
「にゃんで? にゃんでそんなゆっくりできないことしゅるにょ?」
「にんげんはゆっくりにうまれなかったからだよ、うまれてたら、れいむたちみたいにゆっくりできたのに……」
れいむは、行きかう人々に哀れみの視線を向ける
子れいむもそれに習うように、哀れみの視線を向ける
「かわいちょう、だにぇ」
「かわいそうだよ しかも にんげんはねおいしいたべものさんをひとりじめしてるんだよ!」
「ゆぅぅうう!? しょれほんちょにゃの!?」
れいむの言葉に、子れいむはまだ未熟な揉み上げを振り上げて驚く
その驚きを理解できるというように、れいむは目を閉じ頷く
「ゆっくりかんがえてねおちびちゃん、まりさは、おとうさんはかりのたつじん、せかいいちのかりうどだよ」
「しっちぇるよ! おちょーしょんいじょうの かりうどはいないっちぇ!」
子れいむは誇らしそうに胸を張る、それにれいむは優しく微笑む
「それなのに、どうしてあまあまがとれないか、わかる?」
「ゆゆ? ゆぅ? おちょーしゃんはせきゃいいち、でも、あまあまとりゃにゃい……ゆぅ?」
「おとびちゃんにはまだむずかしかったね でも、かんたんなはなしだよ、さっきいったとおりにんげんがひとりじめしてるからだよ」
「ゆゆゆゆゆ!!!??!?」
子れいむは目を見開き、揉み上げを上下に激しく振る
れいむの言葉を理解出来ないのだろう
「おとーさんがひっしにかりしてるのに、にんげんはかりもしないで、ゆっくりもしないで、あまあまやおいしいたべものを ふとうにどくっせんしてるんだよ」
まだ理解出来ていないのか、子れいむは目を回している
れいむは遠い目をしながら、行きかう人々を見る
「かんがえてみてね、おとーさんくらいのかりうどなら、まいにち あまあまを たべきれないくらい とってこれるはずだよね?」
「ゆん! とうっぜんだよ!」
「でも、おとーさんはあまあまとってこれないよね、それはどうして?」
れいむは優しく、丁寧に論理を説く
子れいむも、そのミニマム餡子脳でやっと母の言いたいことを理解したのか、呆然とした顔で頷く
「にんげんが、ひちょりじめ、してるきゃら……」
れいむは、頷く
子れいむは自分の言葉を、れいむの言葉を何回も反芻する
する度に身体を震えていく、そしてその震えが限界に達したのか、れいむに問い詰めるように振り向く
「にゃんで!? にゃんでにんげんはしょんなことするの!? じぇんじぇんゆっくちできにゃいよ!?」
「そうだね、あたりまえだね、おちびちゃんでもわかるよね」
「あちゃりまえだよ! ひとりじめにゃんてゆっくちでにゃいこちょ、にゃんでするの!?」
「おかーさんにもよくわからないけど、にんげんはゆっくりにしっとしてるんだよ」
「しっと?」
れいむの言葉に、子れいむはキョトンする
そしてまたれいむは、行きかう人々を揉み上げで示す
「みて、おちびちゃん、にんげんはゆっくりしてる?」
「じぇんじぇんしてないよ」
「そうだね……じゃあ、れいむたちは?」
れいむは今度は自分、そして子れいむを揉み上げで指し示す
「ゆっくちしてるよ! ……ゆゆ! しょっか、しっと、しちぇる、んだにぇ」
「おちびちゃんはてんっさいだね! こんなにちいさいのに、もうりかいしちゃったんだ」
子れいむは今度は即座にれいむの言いたいことを理解したようだった
その様子に、れいむは嬉しそうに笑う
「れいむたちが ゆっくりにうまれて、あまりにもゆっくりしてるから しっとしてるんだよ」
「ゆん……」
「にんげんは まりさみたいにかりもできないし、れいむみたいにこそだてもできない、ただゆっくりしないでウロウロするだけ、それしかできない、かわいそうないきもの、なんだよ」
「みててわきゃるよ……」
「だから、しっとして れいむたちのじゃまをしてるんだよ……ほんとうはれいむたちは、もっともっともぉっとゆっくりしたゆっくりプレイスにすめるんだよ!」
「ゆゆゆ!? ほんちょ!?」
れいむの言葉、ゆっくりプレイス
ゆっくりが最高にゆっくり出来る場所、その言葉に子れいむは目を輝かせる
「もちろんだよ、でも、それもにんげんがじゃましてるんだよ」
「にゃんでぇぇぇえ!?」
「しっと、してるからだよ……」
れいむの思想、野良の中でもかなり偏った思想を子れいむは受け入れていく
にんげんがゆっくりできない、かわいそうないきもの
ゆっくりにしっとして、じゃまばかりする
れいむは奥底のもう消えそうな記憶の中に残る、人間に対する怒り不信感をこのような考えにまとめていた
まさにゆっくり至上主義の考え方だった
れいむは、人間に対して憐憫の情さえ持っていた
「にんげんが、かわいそ 『おもしれーこと言ってんなぁ、おい』 ゆゆ?」
れいむは突然声をかけられ、慌てて振り向いた
そこには、さっきぶつかった青年が立っていた
『聞いてりゃ随分笑える理論振りかざしてくれてんのな、お前』
「ゆ? なにが?」
『人間がゆっくり如きにしっとしてるとかほざいてたろ』
青年はしゃがんでれいむと子れいむを見下ろす
子れいむは初めて間近で見る人間に少し戸惑っているようだった
対照的にれいむは、挑むように凛々しい目つきで青年を見ていた
「そうだよ、れいむしってるよ、にんげんがゆっくにうまれることができなかったから ゆっくりにしっとしていじわるしてるって」
れいむは自身満々に告げる
青年は、笑いを堪えるように肩を揺らすと
『んなわけねぇだろバカ饅頭! ゆっくりに生まれる? そんなの世界一の負け組確定しちまうだろーが!』
心底バカにしたよう笑う、事実バカにしているのだろう
少々子供っぽい所作であるが、青年はれいむに舌を【べー】っと突き出してみせた
「なにってるの? バカなの? しねば? ゆっくりにうまれることもできくて くやしいのはわかるけど げんじつをみてね!」
青年の行動に戸惑い怒りながらも、自分の理論を突き通すれいむ
『だぁかぁらよぉ、なんでゆっくりに生まれないと悔しいんだよ、誰もお前らみたいな生ゴミ饅頭に生まれたくねーよ』
「なんでってきまってるでしょぉおお!? ゆっくりにうまれないと、ゆっくりできないんだよぉおお?!」
れいむは当然であると言う様に声を張り上げる
子れいむは母親のその仕草に、同調するように頬を膨らませていたが青年はまったく気にしていなかった
『アホか、ゆっくりに生まれたらゆっくりなんて出来る訳ねーだろ』
「ゆ? なにいってるの?」
青年の言葉にれいむは理解できないという顔をする
それに青年は、少し考えるように頭を捻り、口を開く
『じゃあ、聞くがよ、お前らのゆっくりって、どんなだ? そこの膨れてる子饅頭答えてみろよ』
ぷくーしている子れいむは指差す
指されたれいむは、息を吐き出すと自身満々に答えた
「れいむはれいむだよ! ふかふかのベッドしゃんですーやすーやしゅるときだよ! れいみゅのおうちのベッドしゃんは、ふっかふかだよ!」
子れいむは自分が普段寝ている、ダンボールの床を思い出す
れいむが枝を咥えて、それを突き刺したりして毛羽出させたそこは、確かに普通の段ボールよりはふかふかかも知れない
青年は頷くと、ポケットを漁り、タオルタイプのハンカチを取り出した
『おい、子饅頭、お前のベッドはこれよりふかふかか?』
「ゆゆ? ゆー……ゆゆゆゆ!??! にゃ、にゃにこりぇぇぇえええ!!? しゅっぎょくふかふかだよぉぉぉおおおおお!??」
差し出されたハンカチに頬ずりした子れいむは、涎を垂らしながら感動していた
それもそうだろう、方や段ボール、方やハンカチ
ふかふかのレベル違う
「おきゃーしゃん! れいみゅもあんなふかふかでねたいよ!」
「ゆ、ゆゆ?! お、おちついてね、おちびちゃん!」
「あんにゃふかふかでねたら、れいみゅずっとねちゃいそうだよ!」
『あー、おい勘違いするなよ』
「「ゆ?」」
子れいむに詰め寄られ、慌てるれいむ
その二匹に、青年はニヤニヤ笑いながら声をかける
『これは俺にとってはあれだ、汚れを拭くだけの布、俺が寝てるのはこれの何倍もふかふかのベッドだからな』
「さっきにょ、なんびゃい、もふかふか?」
『おうそうだぞ、そこで眠れたらゆっくり出来るぞ、あ、でもお前にはふかふかのベッドあるんだっけ?』
青年は心底楽しそうに笑う
『で? 子饅頭ちゃんは俺のこの布以下のベッドで眠ってゆっくり出来るんだっけ? ん?』
「……ゆっくち、できにゃい、よ」
「お、おちびちゃん?!」
子れいむの悔しそうな言葉に、れいむは慌てる
『ぎゃはは! ふかふかのベッドで眠ること出来ないゆっくりがゆっくりしてるのかぁ、ゆっくりって随分レベル低いんだな!』
「ゆ、ゆぎぎ! ちょっとかったからってちょうしにのらないでね!」
『へぇ、じゃあ言ってみろよお前にとってのゆっくりってなんだ?』
青年は笑みを浮かべたままれいむに問う
「ゆっくりはね、ゆっくりってのはね……ゆゆ! かいてきなおうちにすめることだよ!」
れいむはこれはもう勝った、そう確信に満ちた笑みを浮かべた
悔しそうにしていた子れいむも、希望に満ちた笑みを浮かべた
「れいむのおうちはね! すっごくゆっくりしてるんだよ! あめさんがふってもへいきで、かぜさんもへいきで、すっごくひろいんだよ!」
「そうじゃよ! おうちしゃんはしゅごくゆっくちだよ!」
二匹は騒ぎ、自分たちのゆっくりっぷりをアピールする
『雨が降っても平気で、風が降っても平気ってそんなん家なら当たり前だろ』
「「ゆ?」」
『人間が住む家ってのはそんなもんじゃないんだよ、ほら、あれ見えるか? あの四角いの』
青年は、公園の外に立つビル型マンションを指差す
「あれがどうしたの?」
『あれが人間の家だよ』
「「ゆゆ?!」」
二匹は驚きの表情を浮かべた
本当は青年の示すビルは、とある会社のビルなのだがそこは気にしない
『広いとか言ってたけど、お前の家はあんなにでかいか? ん?』
「「…………」」
『雨が降っても平気とかいってたけどな、あの家の中に入れば雨が降ったなんて気付かないんだよ』
「「…………」」
『しかも、あの中はいつもあったかくて、さっきのフカフカが沢山あるんだけど……お前らの家ってどんな感じ?』
「「ゆぎぃ……」」
二匹は、言葉も見付けられず唸っていた
どうしたら、どうしたらこの青年にゆっくりのゆっくりを認めさせられるか、れいむはそれを必死に考えていた
自分の少ない記憶、ゆっくりを思い出す、そして出てきたのが
「ゆっくりきいてね! れいむたちはね まいちにまいちにすっごくゆっくりしたごは 『これ食ってみろ』 ゆゆ?」
れいむの言葉を予想していたのか、青年はまたもやポケットから取り出した小さいドーナツのかけらを二匹の前に置いた
二匹は、その欠片から発せられる臭いに惹かれるように近づき、無言で口に入れた
そして
「「じじ、じあばせぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇえぇっぇええええええ!!!?!!?!!?!」」
爆発するように叫んだ
子れいむは尿を撒き散らしながら、揉み上げを振り乱し
れいむは涙を流して髪を逆立てていた
『どうだ? これが人間の食べ物だ、人間はなこれを毎日、好きなだけ食えるんだけど、お前ら何食ってるの?』
青年は悪意塗れの顔で質問する
まだ幸せの余韻に浸っていた二匹は、お互いに顔を見合わせて
朝食べたものを思い出していた
干からびたウィンナー、虫、腐った野菜の皮
どれをとっても、さっき食べたドーナツには勝てない
二匹は項垂れて、悔しそうにしていたが、急に子れいむが顔をあげた
「しっちぇるよ! にんげんがじゃまをしてるからおちょーしゃんはさっきのあまあまとれにゃいって! じゃましなければれいみゅだって、まいにちたべられるよ!」
「ゆゆ! そうだよ!」
『あー、そういえばそんな超理論展開してたなぁ』
青年は急に活気を取り戻した二匹に呆れたように額を叩く
『じゃあよう、聞くけどさっきのお前ら食べたことある?』
「にゃいよ! もっとちょうだにぇ!」
『なんでないの?』
「にんげんがじゃまするからでしょぉおおお!」
『なんで?』
「しっとしてるからだってっちぇ、いっちぇるでしょ!」
『なんで?』
「なんかいもいってるでしょぉおおお!? ゆっくりにうまれることができなくて、しっとしてるんでしょぉおおお!?」
『いやいや、フカフカのベッドもなくて、快適な家もないお前らになんで人間が嫉妬するの?』
「「ゆ?」」
青年の言葉に、二匹は一気に動きを止める
『だって、さっき理解したろ? お前らのゆっくりは人間以下だって、なのに人間以下のお前らになんで俺らが嫉妬して邪魔するんだよ』
「しょれは、れ、れいみゅたちが、ゆっくち 『してないだろ?』 ゆぎっ」
子れいむは押し黙る
「に、にんげんは、ほんとはゆっくりにうまれ 『生まれたくねーよ、だって美味い飯もないんだろ?』 ゆぐっ」
青年の言葉に、二匹は必死に必死に考えていた
自分たちのゆっくりしているところを、必死に、必死に考えていた
人間よりゆっくりしてる、それの矜持を守る為に
「ゆっくり、ゆっくり、ゆっくりしてるんだよ……ゆっくり」
「ゆっきゅり、しちぇる、よ……」
『…………』
うわ言のように繰り返す二匹に青年は興味を失ったのか、立ち上がった
そしてポケットからドーナツを取り出して二匹の前に置いた、ハンカチも一緒に
「「ゆ?」」
『それやるよ、ゆっくり出来ないお前らに人間さまが恵んでやるよ、じゃな、人間に嫉妬しながらゆっくり出来るよう頑張れよ』
青年は、それだけ言うと振り返らずに公園から出ていった
れいむと子れいむは、死んだような目でドーナツを貪り
青年が置いていってハンカチに擦り擦りして、その柔らかさを感じていた
「れいみゅ、あんにゃおうちにすみたいよ……」
子れいむは、遠くに見えるビルを眩しそうに見つめて呟いた
れいむは、何も言わずに、ハンカチを頭に乗せると、子れいむのリボンを咥えて草むらの奥にある、ゆっくり出来る快適なお家に入っていった
このれいむがどうなったかは知らない
朝を迎えるたびに、れいむはそう思う
番であるまりさが、精魂込めて作ってくれたダンボールの巣の中でれいむは目を覚ます
小さな小さなダンボールだが、家族で暮らすには十分は広さのある巣の一角に、成体のれいむ、まりさ、そしてその二匹に挟まれるように蜜柑ほどの子ゆっくりのれいむが一匹
「ゆふふ、まりさも、かわいいかわいいおちびちゃんもゆっくりしてるね……」
まだ気持ち良さそうに「すーや、すーや」と寝息を立てている二匹に、れいむは優しく微笑む
このれいむは食品加工されるゆっくりであった
冷凍処理されてコンベアーに運ばれて餡子ペーストにされるだけの存在であったが、運搬中に偶然に偶然が重なり街に放り出された
その後に、紆余曲折ありまりさと出会い、今では子供も授かった
元々は食品になるだけの運命はこうも変わるものだと感心する
れいむはその事実を知らないが、ゆっくり出来なかった、とだけ認識している
「れいむは、しあわせーだよ!」
「ゆぅぅ? ……れいむ、ゆっくりおはよう!」
「ゆ? ごめんね、まりさおこしちゃった?」
れいむの「しあわせー!」の声で、寝息を立てていたまりさは目を覚ましたようだ
まりさはお下げで、わざとらしいくらいの寝ぼけまなこを擦ると、身体を上方にぐいっと伸ばす
俗に言う【のーびのーび】だ
寝ている間に固まってしまった餡子を捏ね解しているのだろう
「ゆふぅ……ゆん! れいむあさごはんにしようね!」
「わかったよ、すこしまっててね!」
まりさの言葉に、れいむはまだ眠っている子れいむを起こさないようにゆっくりと底部をうねらせ、巣の隅に置かれたビニール袋に顔を突っ込む
その中から硬くなったウィンナー、虫の死骸、パンの切れ端、野菜の皮などを取り出す
どれもこれも野良ゆっくりが街で手に入れる中では最高級の食材ばかりだ
このまりさの狩の腕の良さが伝わってくる
れいむはそれらを口の中に含むと、一つ一つ半分に噛み千切っていく
「ゆぺっ! ゆぅ、ぶれいくふぁすとさんのかんっせいだよ!」
砂糖水の唾液に塗れた、人間からしたら生ゴミ同然、それ以下の物体をどこかで拾ったのか紙の皿に吐き出した
その紙皿を引きずって家の中央に向かう
向かうといっても狭いダンボール内、振り返って少し這えばもう到着だ
そこにはまりさが笑顔で待っていてくれた
「ゆぅ、れいむのごはんさんは いつもおいしそうだね!」
「まりさが、いっぱいしょくっざいさんをとってきてくれるからだよ!」
お互いにお互いを褒めあい、そして微笑む
平和な団欒がそこにあった
「それじゃあ、ゆっくりたべようね! むーしゃむーしゃ! しあわせぇぇえぇえ!!」
「ゆん! まりさも、ゆっくりたべるよ! が~つが~つ! しあわせぇぇえぇえ!!」
れいむとまりさは、紙皿ごと食べるような勢いで生ゴミみたいなそれを租借していく
口の周りを汚し、身体に食べかすを付着させながら、どんどん食べていく
数分と掛からずに、紙皿の上には食べかすのみ残すこととなった
「ゆげっぷ! ゆふぅ……それじゃあ、いってくるねれいむ!」
「あ、まりさ! まってね!」
「ゆ?」
食べ散らかし、顔中を汚したまりさは狩に出かけようとしたが、それをれいむが呼び止めた
れいむはまりさに近づくと、ゆっくり特有の長い舌を、まりさに伸ばしていく
「ぺ~ろぺ~ろ! ゆゆ、おとこまえさんになったね!」
れいむはまりさの顔というか、体中についた食べかすを綺麗に舐め取った
正直、ゴミみたいな饅頭に何がついていようと問題なく感じるが、ゆっくりにとって身嗜みの基準はあるようだった
「ありがとうれいむ! それじゃあいってくるよ!」
「ゆっくりいってらっしゃい! にんげんはゆっくりしてないから きをつけてね!」
「わかってるよ、それじゃ」
まりさはポヨンポヨンと跳ねて、巣を後にした
残されたれいむは小さく息を吐くとさっき自分で言った言葉を思い出す
【にんげんはゆっくりしてない】
「なんで、にんげんはゆっくりできないんだろうね……」
れいむは小さく呟き、本当に哀れむような表情をする
そして気を取り直すように目を瞑ると、そろそろ起き出すだろう子れいむの為に、さっきと同じように、さっきより念入りにビニールから取り出した生ゴミを噛み砕き出した
……
…………
「おちびちゃん、あんまりはしゃいでころんじゃだめだよ!」
「ゆぅぅ~ん! わかっちぇるよ! れいむころばにゃいよ!」
昼を少し回ったころ、れいむと子れいむは巣の外に出ていた
巣があったのは公園の草むらの奥、そこから出て子れいむを遊ばせていた
まだ赤ちゃん言葉の抜けきらない子れいむに、れいむは少し心配そうに、そしてそれ以上に幸せそうに笑っていた
れいむはベンチの下、日差しから遮られたそこでゆったりとしながら、ただ広い公園の地面を駆け回るだけで楽しそうな子れいむを眺めていた
「ゆふぅ、もうすこししたら、ほかのみんなにおちびちゃんをしょうかいしないとね!」
この公園にはれいむの家族以外にも、数家族住んでいた
子れいむが生まれて以来、育児やらであまり出歩けなかったので、挨拶もかねて連れて行こうとれいむは考えていた
「そのまえにおべんきょうもさせなくちゃだね! いいきかいだから おちびちゃんにいろいろおしえてあげなくちゃね!」
れいむは自分の子育て計画の巧みさに頭の中で感動しながら、ゆっくりベンチの下から這い出る
少し離れた場所にいる子れいむに声をかけようと口をあけ
「おちび、ゆぼぶべっぁ?!」
『あぁん? んだ、ゆっくりか、猫かと思って損した』
偶然通りかかった、サラリーマン風の青年に強かに足をぶつけられた
ぶつけた青年は軽く舌打すると、つまらなさそうにれいむの前を通り過ぎる
「お、おきゃぁぁぁしゃぁぁあぁああん!!?」
「ゆ、ゆぐ、おちびちゃん、おかあさんは、だいじょうぶ、だよ……」
子れいむの声に、れいむは笑顔を見せる
実質、ほとんど怪我はない、青年はただ歩いていて出てきたれいむが勝手にぶつかっただけなのだ
蹴ろうとした訳でもないので、命に関るようなダメージは負っていない
それでも、ゆっくりと人間の力の差は計り知れないほどあるので、とてつもなく痛いことには変わりない
れいむは息を整えると、これも良い機会だと子れいむに人間について教えることに決めた
「おかーしゃん、ほんちょにだいじょぶにゃの?」
「ゆふふ、おちびちゃんはやさしいね でも、おかあさんはだいじょうぶだよ、ゆっくりしてるから!」
れいむは、自身の揉み上げで子れいむの頭を撫でる
「おちびちゃん、よくきいてね さっきのゆっくりしてないのがにんげん、っていうんだよ!」
「にん、ぎぇん?」
「そう、にんげん ほらあっちをみてね」
「ゆ?」
れいむは揉み上げで、公園の出口、その外を行きかう人間たちを指し示す
「ゆぅ、ゆっくちしてにゃいね……」
忙しなく行きかう人間に、子れいむは泣きそうな顔で感想を言う
「ゆん、ゆっくりしてない、ううん、ゆっくりできないんだよ」
れいむは子れいむの言葉に頷くと、思い出すように目を閉じた
「ゆっくりできにゃい? なんで? ゆっくりしないとしあわせー! じゃないよ?」
「ふつうはそうだよね、でも、にんげんはゆっくりとちがって ゆっくりできない、かとうせいぶつ、なんだよ」
「かちょー、せいぶちゅ?」
「そう、かとうせいぶつ にんげんはね、まいにちまいにちあんなふうに かりもしないでゆっくりしないでウロウロしてるんだよ」
「にゃんで? にゃんでそんなゆっくりできないことしゅるにょ?」
「にんげんはゆっくりにうまれなかったからだよ、うまれてたら、れいむたちみたいにゆっくりできたのに……」
れいむは、行きかう人々に哀れみの視線を向ける
子れいむもそれに習うように、哀れみの視線を向ける
「かわいちょう、だにぇ」
「かわいそうだよ しかも にんげんはねおいしいたべものさんをひとりじめしてるんだよ!」
「ゆぅぅうう!? しょれほんちょにゃの!?」
れいむの言葉に、子れいむはまだ未熟な揉み上げを振り上げて驚く
その驚きを理解できるというように、れいむは目を閉じ頷く
「ゆっくりかんがえてねおちびちゃん、まりさは、おとうさんはかりのたつじん、せかいいちのかりうどだよ」
「しっちぇるよ! おちょーしょんいじょうの かりうどはいないっちぇ!」
子れいむは誇らしそうに胸を張る、それにれいむは優しく微笑む
「それなのに、どうしてあまあまがとれないか、わかる?」
「ゆゆ? ゆぅ? おちょーしゃんはせきゃいいち、でも、あまあまとりゃにゃい……ゆぅ?」
「おとびちゃんにはまだむずかしかったね でも、かんたんなはなしだよ、さっきいったとおりにんげんがひとりじめしてるからだよ」
「ゆゆゆゆゆ!!!??!?」
子れいむは目を見開き、揉み上げを上下に激しく振る
れいむの言葉を理解出来ないのだろう
「おとーさんがひっしにかりしてるのに、にんげんはかりもしないで、ゆっくりもしないで、あまあまやおいしいたべものを ふとうにどくっせんしてるんだよ」
まだ理解出来ていないのか、子れいむは目を回している
れいむは遠い目をしながら、行きかう人々を見る
「かんがえてみてね、おとーさんくらいのかりうどなら、まいにち あまあまを たべきれないくらい とってこれるはずだよね?」
「ゆん! とうっぜんだよ!」
「でも、おとーさんはあまあまとってこれないよね、それはどうして?」
れいむは優しく、丁寧に論理を説く
子れいむも、そのミニマム餡子脳でやっと母の言いたいことを理解したのか、呆然とした顔で頷く
「にんげんが、ひちょりじめ、してるきゃら……」
れいむは、頷く
子れいむは自分の言葉を、れいむの言葉を何回も反芻する
する度に身体を震えていく、そしてその震えが限界に達したのか、れいむに問い詰めるように振り向く
「にゃんで!? にゃんでにんげんはしょんなことするの!? じぇんじぇんゆっくちできにゃいよ!?」
「そうだね、あたりまえだね、おちびちゃんでもわかるよね」
「あちゃりまえだよ! ひとりじめにゃんてゆっくちでにゃいこちょ、にゃんでするの!?」
「おかーさんにもよくわからないけど、にんげんはゆっくりにしっとしてるんだよ」
「しっと?」
れいむの言葉に、子れいむはキョトンする
そしてまたれいむは、行きかう人々を揉み上げで示す
「みて、おちびちゃん、にんげんはゆっくりしてる?」
「じぇんじぇんしてないよ」
「そうだね……じゃあ、れいむたちは?」
れいむは今度は自分、そして子れいむを揉み上げで指し示す
「ゆっくちしてるよ! ……ゆゆ! しょっか、しっと、しちぇる、んだにぇ」
「おちびちゃんはてんっさいだね! こんなにちいさいのに、もうりかいしちゃったんだ」
子れいむは今度は即座にれいむの言いたいことを理解したようだった
その様子に、れいむは嬉しそうに笑う
「れいむたちが ゆっくりにうまれて、あまりにもゆっくりしてるから しっとしてるんだよ」
「ゆん……」
「にんげんは まりさみたいにかりもできないし、れいむみたいにこそだてもできない、ただゆっくりしないでウロウロするだけ、それしかできない、かわいそうないきもの、なんだよ」
「みててわきゃるよ……」
「だから、しっとして れいむたちのじゃまをしてるんだよ……ほんとうはれいむたちは、もっともっともぉっとゆっくりしたゆっくりプレイスにすめるんだよ!」
「ゆゆゆ!? ほんちょ!?」
れいむの言葉、ゆっくりプレイス
ゆっくりが最高にゆっくり出来る場所、その言葉に子れいむは目を輝かせる
「もちろんだよ、でも、それもにんげんがじゃましてるんだよ」
「にゃんでぇぇぇえ!?」
「しっと、してるからだよ……」
れいむの思想、野良の中でもかなり偏った思想を子れいむは受け入れていく
にんげんがゆっくりできない、かわいそうないきもの
ゆっくりにしっとして、じゃまばかりする
れいむは奥底のもう消えそうな記憶の中に残る、人間に対する怒り不信感をこのような考えにまとめていた
まさにゆっくり至上主義の考え方だった
れいむは、人間に対して憐憫の情さえ持っていた
「にんげんが、かわいそ 『おもしれーこと言ってんなぁ、おい』 ゆゆ?」
れいむは突然声をかけられ、慌てて振り向いた
そこには、さっきぶつかった青年が立っていた
『聞いてりゃ随分笑える理論振りかざしてくれてんのな、お前』
「ゆ? なにが?」
『人間がゆっくり如きにしっとしてるとかほざいてたろ』
青年はしゃがんでれいむと子れいむを見下ろす
子れいむは初めて間近で見る人間に少し戸惑っているようだった
対照的にれいむは、挑むように凛々しい目つきで青年を見ていた
「そうだよ、れいむしってるよ、にんげんがゆっくにうまれることができなかったから ゆっくりにしっとしていじわるしてるって」
れいむは自身満々に告げる
青年は、笑いを堪えるように肩を揺らすと
『んなわけねぇだろバカ饅頭! ゆっくりに生まれる? そんなの世界一の負け組確定しちまうだろーが!』
心底バカにしたよう笑う、事実バカにしているのだろう
少々子供っぽい所作であるが、青年はれいむに舌を【べー】っと突き出してみせた
「なにってるの? バカなの? しねば? ゆっくりにうまれることもできくて くやしいのはわかるけど げんじつをみてね!」
青年の行動に戸惑い怒りながらも、自分の理論を突き通すれいむ
『だぁかぁらよぉ、なんでゆっくりに生まれないと悔しいんだよ、誰もお前らみたいな生ゴミ饅頭に生まれたくねーよ』
「なんでってきまってるでしょぉおお!? ゆっくりにうまれないと、ゆっくりできないんだよぉおお?!」
れいむは当然であると言う様に声を張り上げる
子れいむは母親のその仕草に、同調するように頬を膨らませていたが青年はまったく気にしていなかった
『アホか、ゆっくりに生まれたらゆっくりなんて出来る訳ねーだろ』
「ゆ? なにいってるの?」
青年の言葉にれいむは理解できないという顔をする
それに青年は、少し考えるように頭を捻り、口を開く
『じゃあ、聞くがよ、お前らのゆっくりって、どんなだ? そこの膨れてる子饅頭答えてみろよ』
ぷくーしている子れいむは指差す
指されたれいむは、息を吐き出すと自身満々に答えた
「れいむはれいむだよ! ふかふかのベッドしゃんですーやすーやしゅるときだよ! れいみゅのおうちのベッドしゃんは、ふっかふかだよ!」
子れいむは自分が普段寝ている、ダンボールの床を思い出す
れいむが枝を咥えて、それを突き刺したりして毛羽出させたそこは、確かに普通の段ボールよりはふかふかかも知れない
青年は頷くと、ポケットを漁り、タオルタイプのハンカチを取り出した
『おい、子饅頭、お前のベッドはこれよりふかふかか?』
「ゆゆ? ゆー……ゆゆゆゆ!??! にゃ、にゃにこりぇぇぇえええ!!? しゅっぎょくふかふかだよぉぉぉおおおおお!??」
差し出されたハンカチに頬ずりした子れいむは、涎を垂らしながら感動していた
それもそうだろう、方や段ボール、方やハンカチ
ふかふかのレベル違う
「おきゃーしゃん! れいみゅもあんなふかふかでねたいよ!」
「ゆ、ゆゆ?! お、おちついてね、おちびちゃん!」
「あんにゃふかふかでねたら、れいみゅずっとねちゃいそうだよ!」
『あー、おい勘違いするなよ』
「「ゆ?」」
子れいむに詰め寄られ、慌てるれいむ
その二匹に、青年はニヤニヤ笑いながら声をかける
『これは俺にとってはあれだ、汚れを拭くだけの布、俺が寝てるのはこれの何倍もふかふかのベッドだからな』
「さっきにょ、なんびゃい、もふかふか?」
『おうそうだぞ、そこで眠れたらゆっくり出来るぞ、あ、でもお前にはふかふかのベッドあるんだっけ?』
青年は心底楽しそうに笑う
『で? 子饅頭ちゃんは俺のこの布以下のベッドで眠ってゆっくり出来るんだっけ? ん?』
「……ゆっくち、できにゃい、よ」
「お、おちびちゃん?!」
子れいむの悔しそうな言葉に、れいむは慌てる
『ぎゃはは! ふかふかのベッドで眠ること出来ないゆっくりがゆっくりしてるのかぁ、ゆっくりって随分レベル低いんだな!』
「ゆ、ゆぎぎ! ちょっとかったからってちょうしにのらないでね!」
『へぇ、じゃあ言ってみろよお前にとってのゆっくりってなんだ?』
青年は笑みを浮かべたままれいむに問う
「ゆっくりはね、ゆっくりってのはね……ゆゆ! かいてきなおうちにすめることだよ!」
れいむはこれはもう勝った、そう確信に満ちた笑みを浮かべた
悔しそうにしていた子れいむも、希望に満ちた笑みを浮かべた
「れいむのおうちはね! すっごくゆっくりしてるんだよ! あめさんがふってもへいきで、かぜさんもへいきで、すっごくひろいんだよ!」
「そうじゃよ! おうちしゃんはしゅごくゆっくちだよ!」
二匹は騒ぎ、自分たちのゆっくりっぷりをアピールする
『雨が降っても平気で、風が降っても平気ってそんなん家なら当たり前だろ』
「「ゆ?」」
『人間が住む家ってのはそんなもんじゃないんだよ、ほら、あれ見えるか? あの四角いの』
青年は、公園の外に立つビル型マンションを指差す
「あれがどうしたの?」
『あれが人間の家だよ』
「「ゆゆ?!」」
二匹は驚きの表情を浮かべた
本当は青年の示すビルは、とある会社のビルなのだがそこは気にしない
『広いとか言ってたけど、お前の家はあんなにでかいか? ん?』
「「…………」」
『雨が降っても平気とかいってたけどな、あの家の中に入れば雨が降ったなんて気付かないんだよ』
「「…………」」
『しかも、あの中はいつもあったかくて、さっきのフカフカが沢山あるんだけど……お前らの家ってどんな感じ?』
「「ゆぎぃ……」」
二匹は、言葉も見付けられず唸っていた
どうしたら、どうしたらこの青年にゆっくりのゆっくりを認めさせられるか、れいむはそれを必死に考えていた
自分の少ない記憶、ゆっくりを思い出す、そして出てきたのが
「ゆっくりきいてね! れいむたちはね まいちにまいちにすっごくゆっくりしたごは 『これ食ってみろ』 ゆゆ?」
れいむの言葉を予想していたのか、青年はまたもやポケットから取り出した小さいドーナツのかけらを二匹の前に置いた
二匹は、その欠片から発せられる臭いに惹かれるように近づき、無言で口に入れた
そして
「「じじ、じあばせぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇえぇっぇええええええ!!!?!!?!!?!」」
爆発するように叫んだ
子れいむは尿を撒き散らしながら、揉み上げを振り乱し
れいむは涙を流して髪を逆立てていた
『どうだ? これが人間の食べ物だ、人間はなこれを毎日、好きなだけ食えるんだけど、お前ら何食ってるの?』
青年は悪意塗れの顔で質問する
まだ幸せの余韻に浸っていた二匹は、お互いに顔を見合わせて
朝食べたものを思い出していた
干からびたウィンナー、虫、腐った野菜の皮
どれをとっても、さっき食べたドーナツには勝てない
二匹は項垂れて、悔しそうにしていたが、急に子れいむが顔をあげた
「しっちぇるよ! にんげんがじゃまをしてるからおちょーしゃんはさっきのあまあまとれにゃいって! じゃましなければれいみゅだって、まいにちたべられるよ!」
「ゆゆ! そうだよ!」
『あー、そういえばそんな超理論展開してたなぁ』
青年は急に活気を取り戻した二匹に呆れたように額を叩く
『じゃあよう、聞くけどさっきのお前ら食べたことある?』
「にゃいよ! もっとちょうだにぇ!」
『なんでないの?』
「にんげんがじゃまするからでしょぉおおお!」
『なんで?』
「しっとしてるからだってっちぇ、いっちぇるでしょ!」
『なんで?』
「なんかいもいってるでしょぉおおお!? ゆっくりにうまれることができなくて、しっとしてるんでしょぉおおお!?」
『いやいや、フカフカのベッドもなくて、快適な家もないお前らになんで人間が嫉妬するの?』
「「ゆ?」」
青年の言葉に、二匹は一気に動きを止める
『だって、さっき理解したろ? お前らのゆっくりは人間以下だって、なのに人間以下のお前らになんで俺らが嫉妬して邪魔するんだよ』
「しょれは、れ、れいみゅたちが、ゆっくち 『してないだろ?』 ゆぎっ」
子れいむは押し黙る
「に、にんげんは、ほんとはゆっくりにうまれ 『生まれたくねーよ、だって美味い飯もないんだろ?』 ゆぐっ」
青年の言葉に、二匹は必死に必死に考えていた
自分たちのゆっくりしているところを、必死に、必死に考えていた
人間よりゆっくりしてる、それの矜持を守る為に
「ゆっくり、ゆっくり、ゆっくりしてるんだよ……ゆっくり」
「ゆっきゅり、しちぇる、よ……」
『…………』
うわ言のように繰り返す二匹に青年は興味を失ったのか、立ち上がった
そしてポケットからドーナツを取り出して二匹の前に置いた、ハンカチも一緒に
「「ゆ?」」
『それやるよ、ゆっくり出来ないお前らに人間さまが恵んでやるよ、じゃな、人間に嫉妬しながらゆっくり出来るよう頑張れよ』
青年は、それだけ言うと振り返らずに公園から出ていった
れいむと子れいむは、死んだような目でドーナツを貪り
青年が置いていってハンカチに擦り擦りして、その柔らかさを感じていた
「れいみゅ、あんにゃおうちにすみたいよ……」
子れいむは、遠くに見えるビルを眩しそうに見つめて呟いた
れいむは、何も言わずに、ハンカチを頭に乗せると、子れいむのリボンを咥えて草むらの奥にある、ゆっくり出来る快適なお家に入っていった
このれいむがどうなったかは知らない