ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko3944 にちようだいくさんはゆっくりできるよ!
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『にちようだいくさんはゆっくりできるよ!』 18KB
愛で いたづら 日常模様 お家宣言 野良ゆ 愛護人間 おバカれいむと聞いて
愛で いたづら 日常模様 お家宣言 野良ゆ 愛護人間 おバカれいむと聞いて
おうちせんげん+愛で
ゲスいのがちょっぴりひどい目に会います
ゲスいのがちょっぴりひどい目に会います
にちようだいくさんはゆっくりできるよ!
「ここをれいむのおうちにするよ!」
「だが断る」
「どぼぢでえええええ!?」
俺が自宅の庭で犬小屋を作るべくかっつんかっつん金槌を振るっていた時、果敢にもその横を通り過ぎたれいむが俺の家に上がりこんでおうち宣言を敢行した。直後に却下したが。
「目の前に俺がいるってのに空き家だと思ったのかね」
「そこでおうちつくってるんだから、ふつうあきやだとおもうでしょおおおお!?」
なるほど一理ある。犬小屋は半分出来上がっていて、内部の広さ的にもちょっと広めのゆっくりぷれいすと言えないこともない。自分の家の目の前に家を作るのはゆっくり的にはありえない光景なのだろう。もちろん人間でも離れなんて作るのは一部の人間だから、俺としてもありえない。
「確かにな。でもこの大きさで俺の体が入ると思うか?」
「むりすればはいらなくもないよ?」
「無理だろ。ジョーシキで判断せえや」
巷では人間の縄張りでおうち宣言したゆっくりは即殺処分というのが一般的のようだが、他の野生動物にしないことをゆっくりにするのは不平等と言わざるを得ない。たとえそれが蟻や蜘蛛でも最低限殺さないのが俺の流儀だ。
相手が話せば分かるやつであればなおさら……と言いたいところだが、幼稚園児並の知能しかないゆっくりは基本的に聞き分けがない。聞いて分からなければ庭から強制退去してもらうだけなので問題は無いが、重いので面倒くさい。ここは是非、聞き分けてもらおう。
「こっちのでかいほうが俺のおうち。このちっこいのは犬用だ」
「いぬさんこわいよおお……いぬさんなんてどこにいるの?」
「いないよ?」
「いぬさんがいないのにいぬさんのおうちをつくってるの?」
「おう」
なんだか訝しげな顔で見ている。言うな。作るのが目的で使うのは二の次なんだから。他にも鳥用の給餌台とか盆栽棚とかが庭にごろごろしているが、使ったものは何一つとしてない。
「……いぬさんはふべんだよね」
れいむはしばらく怪訝な視線を送っていたが、それはそれとして自分の疑問を吐き出すことにしたようだ。良かった。たとえゆっくりのものでも、ちょっと視線が痛かったところだ。
「ん、何がだ?」
「ゆっくりとかにんげんさんはかってにはえてくるおうちがあるけど、いぬさんはにんげんさんがつくってあげないとおうちがないんでしょ?」
いぬさんとはすなわち飼い犬のことだろう。ここいらの森には野生化した犬は居ないらしいので、ゆっくりが見るのは必然的に人が飼う犬ということになる。
畑を野菜が勝手に生えてくる場所と思い込んでいるのはよく聞くが、家にもその概念が当てはまるとは思っていなかった。そう考えると、人間の街はゆっくりにとっては人間が独り占めしている大きな家が生えてくる場所、ということになるのか。
しかし普通の野良や野生ゆっくりは自分で家を作ると聞く。こいつはそうではないのだろうか?
「お前は、いや周りのやつは自分で家を作ったことはないのか?」
「ゆ? もりにはいくらでもおうちがはえてるんだよ?」
「ああ……なるほど」
長いことゆっくりが住んでいた土地は先住ゆっくりによって、木のうろや根元、掘りやすい土の坂や壁など、至る所に巣が作られている。しかしゆっくりは多産にして多死である。春の間に巣立ったおとなのゆっくりがいくら巣を作っても、梅雨や寒波によって大半が死滅する。後には巣だけが残るというわけだ。もし繁殖量を上回るだけの巣がその土地にあれば、その土地のゆっくりはいつか巣の作り方を子孫に教えなくなるだろう。
「いやな? お前たちの巣もそうだが、人間の家も誰かが作らなければそこにはないんだぞ?」
「うそいってもれいむにはわかるよ! おうちがはえてくるのはみんなのじょうしきだよ!」
「よし分かった。実践してやろう」
「ゆっ?」
犬小屋を作りかけで放置し、れいむに建築というものを教えてやることにした。俺は建築関係者ではないので詳しいことはわからないが、ゆっくりに本格的なものを教えても仕方ないので日曜大工程度でも十分だろう。
まず例題を見せる。れいむが言うところの勝手に生えてくるおうちの縁側にれいむを載せ、釘が打ってある縁側の板を指し示す。
「これはな、長い木の板を十字に組み合わせて釘を打ってあるんだ。固くなってるけど、もともとはばらばらの板だったんだ」
「ゆゆ?」
縁側を地団駄を踏んだりもみ上げで引っ張ったりしているが、そんなもので壊れるほど人間の造形物はやわではない。
それにしても最初の件があったせいで単なるでいぶかと思っていたが、好奇心旺盛な若いゆっくりであったらしい。ゆっくりは考え方が極端になりがちで、しかも染まりやすい。だからゲスが多い街のゆっくりはたいがいゲスだし、純真なゆっくりが多い街にはゲスがあまりいない。このれいむは比較的純真なゆっくりで、多くのゆっくりにありがちな『ゆっくりのじょうしき』に縛られている、極普通のゆっくりのようだ。
「よし次はこっちだ。ここにあるふたつの板をそれと同じ形にしてみせるから、そこでよく見てるんだ。いいな?」
「ゆっくりりかいしたよ!」
犬小屋のために用意していた木片をれいむの講義用に使うことにした。もともと安いものだし、無知なゆっくりを説き伏せるのに使うというのも悪くない。まあ考えて釘を打てば再利用できるので、そのまま犬小屋に使うことも可能だ。
れいむがちゃんと見ているのを確認して、俺は金槌を振るう。短めの釘を板にあてがい、最初は慎重に、それから力強く叩いて打ち込んでいく。そして交差に対して二本の釘を打ち込んだところでゆっくりそれを眺めてみる。釘は両方とも垂直に打ち込まれていて申し分ない出来だ。最初のころは釘が曲がったり斜めに入ったりして不細工だったなあ……。
「できたの? ゆっくりみせてね!」
そうだ。今回はれいむに見せるためにやっていたんだった。
「さ、見てごらん」
縁側に交差した状態で固定された板を置いてやった。れいむはそれをさっきとおなじようにもみ上げで引っ張ってみたり、足元の縁側と見比べたりして体をひねっている。きっとあれは人間でいうところの頭を捻る動作なのだろう。
「ゆっくりりかいしたよ! でもほかにもなにかつくってほしいよ!」
十五分くらいゆっくり調べたれいむは他のを催促してきた。厚かましいように見えるが、ゆっくりの精神年齢は総じて低いので、近所のこどもと接するような感覚ならどうということもない。ただ好奇心が旺盛というだけだ。
「つぎはこれをつくってほしいよ!」
「ああ、それ無理」
しかし次にれいむがもみ上げで示したのは、こともあろうにエアコンの室外機だった。俺の腕には余る代物というか、そもそも日曜大工の範疇を軽く超えている。日曜大工程度で十分とか言った奴だれだ! 俺だ!
「どうして? にんげんさんはおうちをつくれるんじゃなかったの?」
「いや実はな、れいむ。このおうちは俺が作ったものじゃないんだ」
「ゆゆ? やっぱりかってにはえてくるの?」
疑問符がついているのはやっぱり信じきれていない証拠だろう。まあ仕方のないところだろう。実例が一個だけじゃ、俺だって疑ってしまう。
「そうじゃない。いいか? 人間にはおうちづくりだけを仕事にしている人間がいるんだ。俺は別の仕事をしていて、その仕事で手に入ったものとおうちを物々交換しているんだ」
「ゆゆっ? にんげんさんもゆっくりをわけあっていきてるってことなの!?」
「ん、まあそうだな。どっちかっていうと狩りの成果を分けあってるっていう感じだけど」
「ゆゆーん。わかったよー!」
何か重大なことに気付いてしまったかのようなれいむは、ちぇんのような口振りで叫ぶとすごい勢いで俺の庭から飛び出していった。
何が分かったのか分からないが、とにかく日が沈まないうちに犬小屋製作の続きへ取りかかれることに安堵した、と思ったのもつかの間。
「材料が足りない、な」
教材としてれいむに渡した、十字に固定した木片を持ち去られてしまった事に気がついた。犬小屋製作用の木材はちょうどいい量だけしか用意していなかったので、足りないということは買いに行かねばならないということだ。幸いまだ陽が沈むまでには時間があるので、ホームセンターに行く程度なら問題はない。
「仕方ない。買いに行ってくるか」
ここのところ金曜日の仕事帰りに木材を買い込んで土日に工作するというサイクルで生活していたので、日曜日の昼間に外へ出かけるという行為がひどく新鮮に感じられた。
「ま、長居せんようにしないとな」
工具を仕舞い、戸締りをきちんと済ませると、俺は足りない材木を買いにホームセンターへと出かけたのだった。
で、約一時間後。帰ってきた俺は庭先が何やら騒がしいことに気がついた。
日曜大工なんかしているのは珍しいのか、興味を持った爺様やらが庭の造形物を見に来ることもある。特に自分で使わないこともあり、先月、作ってあったリクライニングチェアをお持ち帰りしてもらった。重そうに抱えていったが、あとで思えば郵送すればよかったかもしれない。
「爺様、また来られましたか……ってなんじゃこりゃあ」
しかしうちの庭で騒がしくしていたのは爺様でも近隣住民でもなかった。六匹のゆっくりが興味津々といった面持ちで作りかけの犬小屋を見つめ、弄くり、談笑していたのだ。よく見るとさっきのれいむが一緒にいる。
「なるほど、お友達を連れてきちまったか」
「ゆっ? おにーさんがかえってきたよ!」
れいむは耳聡く気付いて周りのゆっくりに知らせる。残りの五匹はしげしげと眺めたり噛み付いていたりしていた木片を放り出すと、俺の前に集まってきた。
「じじいがおうちをつくるとかいうやつなのぜ?」
「まあ、そんなもんだな」
そうだよゲスまりさ、とでも言おうかと思ったがやめた。曲がりなりにも話し合いに来ているらしいのだ。いきなり喧嘩腰になってはいけない。
「こんな、がたがたでやねもないおうちなんてくそいぬでもすまないのぜ。このできそこないはくれてやるから、おおきいおうちはまりさがもらうのぜ」
「いますぐとうめいなかべさんをどければいのちだけはたすけてあげるみょん!」
おお、珍しい。卑猥じゃないみょんだ。
「すこしでもじぶんがとかいはだとおもうなら、はむかわないほうがみのためね!」
「よしお前らちょっとそこに並べ」
と言いつつ並ばせるのは手作業である。大型鳥類のバードウォッチング用に作った給餌台に、最初に来たれいむ以外の五匹を並べていく。高さは150センチほどもあり、ゆっくりが飛び降りるのは命がけの高さだ。これでおとなしくなるだろう。
成体ゆっくりを五匹も持ち上げた俺は、痛む腰をさすりながられいむに話しかけた。
「れいむ、あの話がどうなったらこうなる」
「いっしょうけんめいせつめいしたけどむりだったよ!」
「無理じゃ仕方ない」
直接行使できなくなった代わりにより一層うるさくなった五匹を金槌で小突いて黙らせると、出かける前にれいむへ行ったように講釈をすることにした。ゲスっぽいので無駄かもしれないが、念のため。
しまっておいた工具を取り出し、噛み痕がついて工作に使えなくなった木片をより分けて講釈に行う。こんなことがあると思っていたわけではないが、木材を多めに買っておいて損は無かった。大は小を兼ねるという言葉に嘘はない。
「さてこれがれいむのもってきた十字の板、こっちがばらばらの板だ」
「そんなのわかってるんだぜ。それをおなじかたちにする? ゆっくりにできないことをくそにんげんができるわけないのぜ」
「まあ黙って見てろって」
最初は小さく、釘が安定するに従って大きくなる金槌を振るう動き。板に突き立った釘は、芸術的なまでに垂直を保ったまま板へ叩きこまれていく。どうやら俺は見られていると上手くいくらしい。そう言えば昔は本番に強いヤツとか言われていたなあ……。
「うるさいのぜええええええ! そのがんがんいうやつをやめるのぜえええええ!」
「ゆっくりできないみょおおおおおおおおおおおおん!」
「わからないよおおおおおおおおおお!」
あ、ちぇんいたのか。
なんだか大人気なようなので調子に乗って釘を増やしてしまおう。
サンバのリズムに乗って、もはや意味もなく板を叩く楽器と化した俺は、ふと隣家からの視線に気が付いた。なぜか野良の胴付きもこうに好かれる謎の隣家のおねえさんは、その件のもこうを抱きかかえながら可哀想な人を見るような目で俺を見つめている。すみません。すみません。
「どうだ。この通り同じ形にだな」
歩く楽器になりかけていた過去を誤魔化すように声を張り上げ、釘の打ち過ぎで新手の近代美術と化した木片をゆっくりたちに見せる。しかしゆっくりたちはそれどころではないかのように騒いでいた。
「こんなうるさいおうちはまりささまにはふさわしくないのぜ!」
「もうおうちかえるみょん!」
「うー! うー!」
うるさい? そりゃそうだ、俺だって時々頭が痛くなる。調子にのると大きくなるのは何も金槌の動きだけではない。比例して打撃音も大きくなるのだ。隣家のおねえさんに睨まれるのも道理というものである。
「あきらめてやるからさっさとここからおろすんだぜ!」
「これいじょういなかものなおとをだしたらしょうちしないんだからね!」
それはツンデレですか?
「まあこれ以上騒がれても作業時間が減るだけだしな。帰してやろう」
二十キロ以上の重さを誇るゆっくりをあと五回も地面に下ろすのは勘弁してもらいたいので、適当の長さの板で坂を作ってやる。おっかなびっくりという体だったが、五匹のゆっくりたちは捨て台詞を吐きつつ去っていった。鳴き声からして捕食種が一匹混じっていたような気がするが気のせいだろう。
「お前は帰らなくていいのか?」
「れいむはもうちょっとかなづちさんのおとをきいていたいよ!」
「ほう?」
そういえばれいむは最初から金槌の打撃音に不快感を示していなかった。それどころか、今にいたってはうっとりとした表情でその音を聞いていたのだった。
「ふーむ」
「どうしたの?」
「いやな、この犬小屋、お前が良ければくれてやろうかと思ったんだが」
単純な好意から言い出したつもりだったが、れいむは露骨に嫌な顔をした。
「いぬさんのおうちにれいむがすむの?」
気に入らんのはそこか。
「名前が気に入らないならゆっくり小屋、いやれいむ小屋でもいいぞ」
「ほんとうっ?」
「ああ。あとで『れいむのいえ』とでも書いた表札を付けてやろう。それにしてもれいむの今の家まで運ぶのが骨だな……」
爺様が俺謹製のリクライニングチェアを担いでいったときのことを思い出して憂鬱になる。人様の家なら郵送することも視野に入るが、森の中のゆっくりプレイスじゃあそうもいかないだろう。
「れいむはここでおうちせんげんしたいよ!」
「ああん?」
「ゆっ? ちがうよ! ちがうよ! れいむのおうちはここがいいんだよ!」
どうにも分かりにくい。が、恐らくこういうことだろう。
「つまり、俺の家の庭に住みたいってことか?」
「そういうことだよ! そうしたらこれからはすきなときにかなづちさんがきけるよ!」
「そうか、気に入っちまったか」
どうやられいむは金槌の打撃音がいたくお気に召したらしい。もしかしたらさっきの五匹もこのれいむに金槌の打撃音の魅力を吹きこまれたのかもしれないが、この家にやってくるゆっくりといえば音がうるさいと言って殴りこんでくるクレーマーゆっくりぐらいのもので、大概はゆっくりできない音が聞こえる我が家には近寄ろうともしない。そりゃ理解もされないというものである。
「まあ俺とか周りの家の人間とかに迷惑かけないって約束できるならそこで住んでもいい」
「ゆっくりわかったよ!」
れいむはそういったまま不敵な笑みを浮かべてこちらをじっと見ている。
ふと気づくと隣家のおねえさんも横目でこっちを見ている。どうやら一部始終を見られていたらしい。普段交流がないだけになんだか恥ずかしい。
「れいむ、引越しするものとかはないのか」
「そういうのはあしたにするよ! だから……ゆっくりうっていってね!」
「だが断る」
「どぼぢでえええええ?」
別に意地悪では無い。不良ゆっくりたちで遊んでいたら夕方に差し掛かっており、のんびり組み立てていたら夜になってしまうというだけのことだ。
「れいむ、飯の時間や寝る時間になっても外がうるさかったらどうする?」
「ゆっくりできないよ!」
「そうとも。だからさっさと作ってしまわないといかん」
「ゆっくりわかったよ!」
幸い、数枚の外板を張れば、あとは屋根を載せて固定するばかりだった。なんとか夕焼け頃には終わるだろう。
さっそく作業を始めた俺は、そういえば誰かのために物を作るのはこれが初めてだということに気が付いた。まあ、日曜大工人生二人目の共感者がゆっくりっていうのもどうなんだろうかとは思うが、それが犬相手でもゆっくり相手でもそう差は無い。一人目? そりゃもちろん、あの爺様だ。
「ああ、そうそう。れいむ」
「ゆっ?」
「金槌の音だけどな。毎日は聞けないから」
「なっ、なんでええええええ?」
「俺みたいなサラリーマンっていう種類の人間はな。七日間のうち、最低でも五日間は昼の間狩りにでているんだ。出かけるのは朝で、帰ってくるのは夜だ」
「それじゃしかたないね!」
サービスマンとかトラッカーとか、色々人間には種族があって得意分野が違うのさ、とでも言おうかと思ったが、理解しきれないだろうからやめた。それにゆっくりも種族ごとに仕事が違うとか言い出されたら、人間の場合は仕事によって名前が変わるから逆だとか説明しなきゃならんので、なお面倒くさい。
「このゆっくりはうすはれいむのべっそうさんにするよ!」
作り終えた途端に犬小屋へ飛び込んだれいむは、振り向きざまにこう言った。犬小屋を作りきった俺のドヤ顔と、おうち宣言したれいむのドヤ顔が交錯し、一種奇妙な空間が現れる。
「別荘か。じゃあ、普段は森に帰ってるんだな?」
「そうするよ!」
「でもそれじゃあ日曜大工に出会えるかは博打だな」
ゆっくりは三を越える数を数えられないと聞いた。たぶんさっきの五日間とか七日間も分かっていないだろう。せっかく日曜大工を『聴き』に来てくれるのだから、日時は正確に把握してもらいたい。
「玄関にカレンダーを貼っておいてやろうか」
「かれんだーさん?」
「人間が使っている、日、つまりお日様が上った回数を数える道具だ」
家からカレンダーを持ってきてれいむに見せる。これも俺が日曜大工で作った代物だ。今月の日にちパネルをぶら下げた上から、本日を表すパネルを毎日移し変えていくことで日にちを表すことが出来るが、あまりに運用が面倒なのでお蔵入りとなっている。
「この一番右の赤い板のところにこの黒い板が来たら、それが日曜大工の日だ。ほれ、今日は日曜大工の日だったから、この赤い板のところに黒い板があるだろう」
「ゆっくりわかったよ! あかいひのおひるがかなづちさんのひだね!」
「理解が早いのはいいことだ」
俺は最後の仕上げにと、ぞんざいに油性マジックで書いただけの表札と、おまけにあるものををれいむハウスへ打ち付けた。何事かと外に出てきたれいむは、その表札に目を輝かせる。
「ゆゆーん! ひょうさつさんにもおりぼんがついてるよ!」
「喜んでもらえて何よりだな」
なにか物足りなかったので、せっかくだから赤い塗料で色を付けたリボン型の木片も打ち付けてみた。文字が読めないゆっくりにもわかりやすい、れいむハウスの証だ。
「せっかくだから今日は泊まっていきな。もう森に帰るには遅いだろう」
「ゆっ! そうさせてもらうよ!」
「飯を今から作る。どうせなら一緒に食おう」
「ゆっくりまってるよ!」
そろそろ日が沈み始める頃合い。夕食を作り始めるにはちょうどいい時間だ。
庭をあちこち回りながら造形物に目を輝かせているれいむを傍目に家へ上がった俺は思う。来週からはれいむ用のおもちゃでも作ってみるか、と。ちょっと大きめの猫だと思ってキャットタワーならぬゆっくりタワーを作ってみても面白いだろう。
そういえば来週作るものを考えるのはいつぶりだろうか。大抵は仕事中、あるいはホームセンターを散歩して思いつくものだった。こんなやる気になったのは、そう日曜大工を始めたとき以来かもしれない。
庭を振り返り、そのやる気の原因を見て苦笑する。来週もこんな風にご馳走してやってもいいかもしれない。そんなふうに思いながら、俺は台所へ向かうのであった。
「だが断る」
「どぼぢでえええええ!?」
俺が自宅の庭で犬小屋を作るべくかっつんかっつん金槌を振るっていた時、果敢にもその横を通り過ぎたれいむが俺の家に上がりこんでおうち宣言を敢行した。直後に却下したが。
「目の前に俺がいるってのに空き家だと思ったのかね」
「そこでおうちつくってるんだから、ふつうあきやだとおもうでしょおおおお!?」
なるほど一理ある。犬小屋は半分出来上がっていて、内部の広さ的にもちょっと広めのゆっくりぷれいすと言えないこともない。自分の家の目の前に家を作るのはゆっくり的にはありえない光景なのだろう。もちろん人間でも離れなんて作るのは一部の人間だから、俺としてもありえない。
「確かにな。でもこの大きさで俺の体が入ると思うか?」
「むりすればはいらなくもないよ?」
「無理だろ。ジョーシキで判断せえや」
巷では人間の縄張りでおうち宣言したゆっくりは即殺処分というのが一般的のようだが、他の野生動物にしないことをゆっくりにするのは不平等と言わざるを得ない。たとえそれが蟻や蜘蛛でも最低限殺さないのが俺の流儀だ。
相手が話せば分かるやつであればなおさら……と言いたいところだが、幼稚園児並の知能しかないゆっくりは基本的に聞き分けがない。聞いて分からなければ庭から強制退去してもらうだけなので問題は無いが、重いので面倒くさい。ここは是非、聞き分けてもらおう。
「こっちのでかいほうが俺のおうち。このちっこいのは犬用だ」
「いぬさんこわいよおお……いぬさんなんてどこにいるの?」
「いないよ?」
「いぬさんがいないのにいぬさんのおうちをつくってるの?」
「おう」
なんだか訝しげな顔で見ている。言うな。作るのが目的で使うのは二の次なんだから。他にも鳥用の給餌台とか盆栽棚とかが庭にごろごろしているが、使ったものは何一つとしてない。
「……いぬさんはふべんだよね」
れいむはしばらく怪訝な視線を送っていたが、それはそれとして自分の疑問を吐き出すことにしたようだ。良かった。たとえゆっくりのものでも、ちょっと視線が痛かったところだ。
「ん、何がだ?」
「ゆっくりとかにんげんさんはかってにはえてくるおうちがあるけど、いぬさんはにんげんさんがつくってあげないとおうちがないんでしょ?」
いぬさんとはすなわち飼い犬のことだろう。ここいらの森には野生化した犬は居ないらしいので、ゆっくりが見るのは必然的に人が飼う犬ということになる。
畑を野菜が勝手に生えてくる場所と思い込んでいるのはよく聞くが、家にもその概念が当てはまるとは思っていなかった。そう考えると、人間の街はゆっくりにとっては人間が独り占めしている大きな家が生えてくる場所、ということになるのか。
しかし普通の野良や野生ゆっくりは自分で家を作ると聞く。こいつはそうではないのだろうか?
「お前は、いや周りのやつは自分で家を作ったことはないのか?」
「ゆ? もりにはいくらでもおうちがはえてるんだよ?」
「ああ……なるほど」
長いことゆっくりが住んでいた土地は先住ゆっくりによって、木のうろや根元、掘りやすい土の坂や壁など、至る所に巣が作られている。しかしゆっくりは多産にして多死である。春の間に巣立ったおとなのゆっくりがいくら巣を作っても、梅雨や寒波によって大半が死滅する。後には巣だけが残るというわけだ。もし繁殖量を上回るだけの巣がその土地にあれば、その土地のゆっくりはいつか巣の作り方を子孫に教えなくなるだろう。
「いやな? お前たちの巣もそうだが、人間の家も誰かが作らなければそこにはないんだぞ?」
「うそいってもれいむにはわかるよ! おうちがはえてくるのはみんなのじょうしきだよ!」
「よし分かった。実践してやろう」
「ゆっ?」
犬小屋を作りかけで放置し、れいむに建築というものを教えてやることにした。俺は建築関係者ではないので詳しいことはわからないが、ゆっくりに本格的なものを教えても仕方ないので日曜大工程度でも十分だろう。
まず例題を見せる。れいむが言うところの勝手に生えてくるおうちの縁側にれいむを載せ、釘が打ってある縁側の板を指し示す。
「これはな、長い木の板を十字に組み合わせて釘を打ってあるんだ。固くなってるけど、もともとはばらばらの板だったんだ」
「ゆゆ?」
縁側を地団駄を踏んだりもみ上げで引っ張ったりしているが、そんなもので壊れるほど人間の造形物はやわではない。
それにしても最初の件があったせいで単なるでいぶかと思っていたが、好奇心旺盛な若いゆっくりであったらしい。ゆっくりは考え方が極端になりがちで、しかも染まりやすい。だからゲスが多い街のゆっくりはたいがいゲスだし、純真なゆっくりが多い街にはゲスがあまりいない。このれいむは比較的純真なゆっくりで、多くのゆっくりにありがちな『ゆっくりのじょうしき』に縛られている、極普通のゆっくりのようだ。
「よし次はこっちだ。ここにあるふたつの板をそれと同じ形にしてみせるから、そこでよく見てるんだ。いいな?」
「ゆっくりりかいしたよ!」
犬小屋のために用意していた木片をれいむの講義用に使うことにした。もともと安いものだし、無知なゆっくりを説き伏せるのに使うというのも悪くない。まあ考えて釘を打てば再利用できるので、そのまま犬小屋に使うことも可能だ。
れいむがちゃんと見ているのを確認して、俺は金槌を振るう。短めの釘を板にあてがい、最初は慎重に、それから力強く叩いて打ち込んでいく。そして交差に対して二本の釘を打ち込んだところでゆっくりそれを眺めてみる。釘は両方とも垂直に打ち込まれていて申し分ない出来だ。最初のころは釘が曲がったり斜めに入ったりして不細工だったなあ……。
「できたの? ゆっくりみせてね!」
そうだ。今回はれいむに見せるためにやっていたんだった。
「さ、見てごらん」
縁側に交差した状態で固定された板を置いてやった。れいむはそれをさっきとおなじようにもみ上げで引っ張ってみたり、足元の縁側と見比べたりして体をひねっている。きっとあれは人間でいうところの頭を捻る動作なのだろう。
「ゆっくりりかいしたよ! でもほかにもなにかつくってほしいよ!」
十五分くらいゆっくり調べたれいむは他のを催促してきた。厚かましいように見えるが、ゆっくりの精神年齢は総じて低いので、近所のこどもと接するような感覚ならどうということもない。ただ好奇心が旺盛というだけだ。
「つぎはこれをつくってほしいよ!」
「ああ、それ無理」
しかし次にれいむがもみ上げで示したのは、こともあろうにエアコンの室外機だった。俺の腕には余る代物というか、そもそも日曜大工の範疇を軽く超えている。日曜大工程度で十分とか言った奴だれだ! 俺だ!
「どうして? にんげんさんはおうちをつくれるんじゃなかったの?」
「いや実はな、れいむ。このおうちは俺が作ったものじゃないんだ」
「ゆゆ? やっぱりかってにはえてくるの?」
疑問符がついているのはやっぱり信じきれていない証拠だろう。まあ仕方のないところだろう。実例が一個だけじゃ、俺だって疑ってしまう。
「そうじゃない。いいか? 人間にはおうちづくりだけを仕事にしている人間がいるんだ。俺は別の仕事をしていて、その仕事で手に入ったものとおうちを物々交換しているんだ」
「ゆゆっ? にんげんさんもゆっくりをわけあっていきてるってことなの!?」
「ん、まあそうだな。どっちかっていうと狩りの成果を分けあってるっていう感じだけど」
「ゆゆーん。わかったよー!」
何か重大なことに気付いてしまったかのようなれいむは、ちぇんのような口振りで叫ぶとすごい勢いで俺の庭から飛び出していった。
何が分かったのか分からないが、とにかく日が沈まないうちに犬小屋製作の続きへ取りかかれることに安堵した、と思ったのもつかの間。
「材料が足りない、な」
教材としてれいむに渡した、十字に固定した木片を持ち去られてしまった事に気がついた。犬小屋製作用の木材はちょうどいい量だけしか用意していなかったので、足りないということは買いに行かねばならないということだ。幸いまだ陽が沈むまでには時間があるので、ホームセンターに行く程度なら問題はない。
「仕方ない。買いに行ってくるか」
ここのところ金曜日の仕事帰りに木材を買い込んで土日に工作するというサイクルで生活していたので、日曜日の昼間に外へ出かけるという行為がひどく新鮮に感じられた。
「ま、長居せんようにしないとな」
工具を仕舞い、戸締りをきちんと済ませると、俺は足りない材木を買いにホームセンターへと出かけたのだった。
で、約一時間後。帰ってきた俺は庭先が何やら騒がしいことに気がついた。
日曜大工なんかしているのは珍しいのか、興味を持った爺様やらが庭の造形物を見に来ることもある。特に自分で使わないこともあり、先月、作ってあったリクライニングチェアをお持ち帰りしてもらった。重そうに抱えていったが、あとで思えば郵送すればよかったかもしれない。
「爺様、また来られましたか……ってなんじゃこりゃあ」
しかしうちの庭で騒がしくしていたのは爺様でも近隣住民でもなかった。六匹のゆっくりが興味津々といった面持ちで作りかけの犬小屋を見つめ、弄くり、談笑していたのだ。よく見るとさっきのれいむが一緒にいる。
「なるほど、お友達を連れてきちまったか」
「ゆっ? おにーさんがかえってきたよ!」
れいむは耳聡く気付いて周りのゆっくりに知らせる。残りの五匹はしげしげと眺めたり噛み付いていたりしていた木片を放り出すと、俺の前に集まってきた。
「じじいがおうちをつくるとかいうやつなのぜ?」
「まあ、そんなもんだな」
そうだよゲスまりさ、とでも言おうかと思ったがやめた。曲がりなりにも話し合いに来ているらしいのだ。いきなり喧嘩腰になってはいけない。
「こんな、がたがたでやねもないおうちなんてくそいぬでもすまないのぜ。このできそこないはくれてやるから、おおきいおうちはまりさがもらうのぜ」
「いますぐとうめいなかべさんをどければいのちだけはたすけてあげるみょん!」
おお、珍しい。卑猥じゃないみょんだ。
「すこしでもじぶんがとかいはだとおもうなら、はむかわないほうがみのためね!」
「よしお前らちょっとそこに並べ」
と言いつつ並ばせるのは手作業である。大型鳥類のバードウォッチング用に作った給餌台に、最初に来たれいむ以外の五匹を並べていく。高さは150センチほどもあり、ゆっくりが飛び降りるのは命がけの高さだ。これでおとなしくなるだろう。
成体ゆっくりを五匹も持ち上げた俺は、痛む腰をさすりながられいむに話しかけた。
「れいむ、あの話がどうなったらこうなる」
「いっしょうけんめいせつめいしたけどむりだったよ!」
「無理じゃ仕方ない」
直接行使できなくなった代わりにより一層うるさくなった五匹を金槌で小突いて黙らせると、出かける前にれいむへ行ったように講釈をすることにした。ゲスっぽいので無駄かもしれないが、念のため。
しまっておいた工具を取り出し、噛み痕がついて工作に使えなくなった木片をより分けて講釈に行う。こんなことがあると思っていたわけではないが、木材を多めに買っておいて損は無かった。大は小を兼ねるという言葉に嘘はない。
「さてこれがれいむのもってきた十字の板、こっちがばらばらの板だ」
「そんなのわかってるんだぜ。それをおなじかたちにする? ゆっくりにできないことをくそにんげんができるわけないのぜ」
「まあ黙って見てろって」
最初は小さく、釘が安定するに従って大きくなる金槌を振るう動き。板に突き立った釘は、芸術的なまでに垂直を保ったまま板へ叩きこまれていく。どうやら俺は見られていると上手くいくらしい。そう言えば昔は本番に強いヤツとか言われていたなあ……。
「うるさいのぜええええええ! そのがんがんいうやつをやめるのぜえええええ!」
「ゆっくりできないみょおおおおおおおおおおおおん!」
「わからないよおおおおおおおおおお!」
あ、ちぇんいたのか。
なんだか大人気なようなので調子に乗って釘を増やしてしまおう。
サンバのリズムに乗って、もはや意味もなく板を叩く楽器と化した俺は、ふと隣家からの視線に気が付いた。なぜか野良の胴付きもこうに好かれる謎の隣家のおねえさんは、その件のもこうを抱きかかえながら可哀想な人を見るような目で俺を見つめている。すみません。すみません。
「どうだ。この通り同じ形にだな」
歩く楽器になりかけていた過去を誤魔化すように声を張り上げ、釘の打ち過ぎで新手の近代美術と化した木片をゆっくりたちに見せる。しかしゆっくりたちはそれどころではないかのように騒いでいた。
「こんなうるさいおうちはまりささまにはふさわしくないのぜ!」
「もうおうちかえるみょん!」
「うー! うー!」
うるさい? そりゃそうだ、俺だって時々頭が痛くなる。調子にのると大きくなるのは何も金槌の動きだけではない。比例して打撃音も大きくなるのだ。隣家のおねえさんに睨まれるのも道理というものである。
「あきらめてやるからさっさとここからおろすんだぜ!」
「これいじょういなかものなおとをだしたらしょうちしないんだからね!」
それはツンデレですか?
「まあこれ以上騒がれても作業時間が減るだけだしな。帰してやろう」
二十キロ以上の重さを誇るゆっくりをあと五回も地面に下ろすのは勘弁してもらいたいので、適当の長さの板で坂を作ってやる。おっかなびっくりという体だったが、五匹のゆっくりたちは捨て台詞を吐きつつ去っていった。鳴き声からして捕食種が一匹混じっていたような気がするが気のせいだろう。
「お前は帰らなくていいのか?」
「れいむはもうちょっとかなづちさんのおとをきいていたいよ!」
「ほう?」
そういえばれいむは最初から金槌の打撃音に不快感を示していなかった。それどころか、今にいたってはうっとりとした表情でその音を聞いていたのだった。
「ふーむ」
「どうしたの?」
「いやな、この犬小屋、お前が良ければくれてやろうかと思ったんだが」
単純な好意から言い出したつもりだったが、れいむは露骨に嫌な顔をした。
「いぬさんのおうちにれいむがすむの?」
気に入らんのはそこか。
「名前が気に入らないならゆっくり小屋、いやれいむ小屋でもいいぞ」
「ほんとうっ?」
「ああ。あとで『れいむのいえ』とでも書いた表札を付けてやろう。それにしてもれいむの今の家まで運ぶのが骨だな……」
爺様が俺謹製のリクライニングチェアを担いでいったときのことを思い出して憂鬱になる。人様の家なら郵送することも視野に入るが、森の中のゆっくりプレイスじゃあそうもいかないだろう。
「れいむはここでおうちせんげんしたいよ!」
「ああん?」
「ゆっ? ちがうよ! ちがうよ! れいむのおうちはここがいいんだよ!」
どうにも分かりにくい。が、恐らくこういうことだろう。
「つまり、俺の家の庭に住みたいってことか?」
「そういうことだよ! そうしたらこれからはすきなときにかなづちさんがきけるよ!」
「そうか、気に入っちまったか」
どうやられいむは金槌の打撃音がいたくお気に召したらしい。もしかしたらさっきの五匹もこのれいむに金槌の打撃音の魅力を吹きこまれたのかもしれないが、この家にやってくるゆっくりといえば音がうるさいと言って殴りこんでくるクレーマーゆっくりぐらいのもので、大概はゆっくりできない音が聞こえる我が家には近寄ろうともしない。そりゃ理解もされないというものである。
「まあ俺とか周りの家の人間とかに迷惑かけないって約束できるならそこで住んでもいい」
「ゆっくりわかったよ!」
れいむはそういったまま不敵な笑みを浮かべてこちらをじっと見ている。
ふと気づくと隣家のおねえさんも横目でこっちを見ている。どうやら一部始終を見られていたらしい。普段交流がないだけになんだか恥ずかしい。
「れいむ、引越しするものとかはないのか」
「そういうのはあしたにするよ! だから……ゆっくりうっていってね!」
「だが断る」
「どぼぢでえええええ?」
別に意地悪では無い。不良ゆっくりたちで遊んでいたら夕方に差し掛かっており、のんびり組み立てていたら夜になってしまうというだけのことだ。
「れいむ、飯の時間や寝る時間になっても外がうるさかったらどうする?」
「ゆっくりできないよ!」
「そうとも。だからさっさと作ってしまわないといかん」
「ゆっくりわかったよ!」
幸い、数枚の外板を張れば、あとは屋根を載せて固定するばかりだった。なんとか夕焼け頃には終わるだろう。
さっそく作業を始めた俺は、そういえば誰かのために物を作るのはこれが初めてだということに気が付いた。まあ、日曜大工人生二人目の共感者がゆっくりっていうのもどうなんだろうかとは思うが、それが犬相手でもゆっくり相手でもそう差は無い。一人目? そりゃもちろん、あの爺様だ。
「ああ、そうそう。れいむ」
「ゆっ?」
「金槌の音だけどな。毎日は聞けないから」
「なっ、なんでええええええ?」
「俺みたいなサラリーマンっていう種類の人間はな。七日間のうち、最低でも五日間は昼の間狩りにでているんだ。出かけるのは朝で、帰ってくるのは夜だ」
「それじゃしかたないね!」
サービスマンとかトラッカーとか、色々人間には種族があって得意分野が違うのさ、とでも言おうかと思ったが、理解しきれないだろうからやめた。それにゆっくりも種族ごとに仕事が違うとか言い出されたら、人間の場合は仕事によって名前が変わるから逆だとか説明しなきゃならんので、なお面倒くさい。
「このゆっくりはうすはれいむのべっそうさんにするよ!」
作り終えた途端に犬小屋へ飛び込んだれいむは、振り向きざまにこう言った。犬小屋を作りきった俺のドヤ顔と、おうち宣言したれいむのドヤ顔が交錯し、一種奇妙な空間が現れる。
「別荘か。じゃあ、普段は森に帰ってるんだな?」
「そうするよ!」
「でもそれじゃあ日曜大工に出会えるかは博打だな」
ゆっくりは三を越える数を数えられないと聞いた。たぶんさっきの五日間とか七日間も分かっていないだろう。せっかく日曜大工を『聴き』に来てくれるのだから、日時は正確に把握してもらいたい。
「玄関にカレンダーを貼っておいてやろうか」
「かれんだーさん?」
「人間が使っている、日、つまりお日様が上った回数を数える道具だ」
家からカレンダーを持ってきてれいむに見せる。これも俺が日曜大工で作った代物だ。今月の日にちパネルをぶら下げた上から、本日を表すパネルを毎日移し変えていくことで日にちを表すことが出来るが、あまりに運用が面倒なのでお蔵入りとなっている。
「この一番右の赤い板のところにこの黒い板が来たら、それが日曜大工の日だ。ほれ、今日は日曜大工の日だったから、この赤い板のところに黒い板があるだろう」
「ゆっくりわかったよ! あかいひのおひるがかなづちさんのひだね!」
「理解が早いのはいいことだ」
俺は最後の仕上げにと、ぞんざいに油性マジックで書いただけの表札と、おまけにあるものををれいむハウスへ打ち付けた。何事かと外に出てきたれいむは、その表札に目を輝かせる。
「ゆゆーん! ひょうさつさんにもおりぼんがついてるよ!」
「喜んでもらえて何よりだな」
なにか物足りなかったので、せっかくだから赤い塗料で色を付けたリボン型の木片も打ち付けてみた。文字が読めないゆっくりにもわかりやすい、れいむハウスの証だ。
「せっかくだから今日は泊まっていきな。もう森に帰るには遅いだろう」
「ゆっ! そうさせてもらうよ!」
「飯を今から作る。どうせなら一緒に食おう」
「ゆっくりまってるよ!」
そろそろ日が沈み始める頃合い。夕食を作り始めるにはちょうどいい時間だ。
庭をあちこち回りながら造形物に目を輝かせているれいむを傍目に家へ上がった俺は思う。来週からはれいむ用のおもちゃでも作ってみるか、と。ちょっと大きめの猫だと思ってキャットタワーならぬゆっくりタワーを作ってみても面白いだろう。
そういえば来週作るものを考えるのはいつぶりだろうか。大抵は仕事中、あるいはホームセンターを散歩して思いつくものだった。こんなやる気になったのは、そう日曜大工を始めたとき以来かもしれない。
庭を振り返り、そのやる気の原因を見て苦笑する。来週もこんな風にご馳走してやってもいいかもしれない。そんなふうに思いながら、俺は台所へ向かうのであった。
おしまい
だそく
「群れの中にれみりゃがいて怖くないのか?」
がんがんうるさい人間のおうちから脱出した五匹は帰りしな、別の人間と話していた。まりさ、ありす、ちぇん、みょんというオーソドックスな連中にれみりゃが混じって跳ねているのだから、呼び止めないほうがおかしいというものである。
「れみりゃはむれのいちいんなのぜ。さべつしちゃいけないのぜ」
「しかしお前、れみりゃは捕食種だぜ?」
「にんげんだってらいおんさんとかわにさんとかとおともだちになれるのぜ? にんげんにできてゆっくりにできないことはないのぜ」
ふうむと人間は唸る。ゆっくりらしからぬ論理的思考だ。しかしちょっとした問題もある。
「確かにその通りだが、それは食糧事情が安定している時に限る」
「ゆっ? どういうことなのぜ?」
「ワニもライオンも腹が減ったら人間なんてただの餌だってことだよ」
「ゆっ!?」
事の重要さに気付いたのかまりさがだらだらと脂汗を垂らし始める。そして急にそわそわしだした。
「こっ、こんなところでゆっくりしているひまはないのぜ! まりさはおなかがへったのぜ!」
「なにをそんなにいそいでるみょん」
「ゆっくりいきましょうよ」
「うー?」
「うひっ!」
いつの間にかまりさの側に寄ってきていたれみりゃの声に驚いたまりさは転がるようにあとずさった。そしてそのまま森の方へ走り去る。
「まってよまりさあ!」
「ゆっくりしてないみょおおおん」
「うー! うー!」
「まりさはおなかがへったのぜええええええええ!」
もうカラスが鳴くような時間。明かりのないゆっくりたちにとってはおゆはんの時間でもある。まりさのお腹が減れば、もちろんれみりゃのお腹も……。
「そういえばれみりゃが跳ねてるのって珍しくね? もしかして損した?」
今更携帯電話の動画モードを起動した彼は、過ぎ去った事実に呆然と立ち尽くすのであった。
がんがんうるさい人間のおうちから脱出した五匹は帰りしな、別の人間と話していた。まりさ、ありす、ちぇん、みょんというオーソドックスな連中にれみりゃが混じって跳ねているのだから、呼び止めないほうがおかしいというものである。
「れみりゃはむれのいちいんなのぜ。さべつしちゃいけないのぜ」
「しかしお前、れみりゃは捕食種だぜ?」
「にんげんだってらいおんさんとかわにさんとかとおともだちになれるのぜ? にんげんにできてゆっくりにできないことはないのぜ」
ふうむと人間は唸る。ゆっくりらしからぬ論理的思考だ。しかしちょっとした問題もある。
「確かにその通りだが、それは食糧事情が安定している時に限る」
「ゆっ? どういうことなのぜ?」
「ワニもライオンも腹が減ったら人間なんてただの餌だってことだよ」
「ゆっ!?」
事の重要さに気付いたのかまりさがだらだらと脂汗を垂らし始める。そして急にそわそわしだした。
「こっ、こんなところでゆっくりしているひまはないのぜ! まりさはおなかがへったのぜ!」
「なにをそんなにいそいでるみょん」
「ゆっくりいきましょうよ」
「うー?」
「うひっ!」
いつの間にかまりさの側に寄ってきていたれみりゃの声に驚いたまりさは転がるようにあとずさった。そしてそのまま森の方へ走り去る。
「まってよまりさあ!」
「ゆっくりしてないみょおおおん」
「うー! うー!」
「まりさはおなかがへったのぜええええええええ!」
もうカラスが鳴くような時間。明かりのないゆっくりたちにとってはおゆはんの時間でもある。まりさのお腹が減れば、もちろんれみりゃのお腹も……。
「そういえばれみりゃが跳ねてるのって珍しくね? もしかして損した?」
今更携帯電話の動画モードを起動した彼は、過ぎ去った事実に呆然と立ち尽くすのであった。
こんどこそおしまい
おバカ≠ゲス
おバカ≒無知
素直なおバカは好物です
おバカ≒無知
素直なおバカは好物です
過去作:
anko3922 バッヂさん以外はゆっくりできない
anko3922 バッヂさん以外はゆっくりできない