ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko4134 ドスはみんなでゆっくりしたい:英ゆん編
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『ドスはみんなでゆっくりしたい:英ゆん編』 77KB
虐待 考証 自業自得 駆除 群れ ドスまりさ 希少種 現代 虐待人間 独自設定 これは英ゆんの物語ではない 暇つぶしにどうぞ
・善良なだけの子まりさが、ゆっくり過渡期を経た世界で、理想と現実の差に嘆き苦しみ絶望の果てにたどり着く話です。
英ゆん編・塵袋編の二分割仕様です。決してすっきりできる話ではありません。
・独自設定に基づいた世界観です。ゆっくりが悪い方向に可能性を広げた仕様です。
塵袋編では人類に対し極めて有害な部分が取り上げられますので御注意ください。
・英ゆん編は力無き正義が蹂躙される仕様です。ミ○ドスとかト○等と同系統の亜種設定虐待メインです。
暴力虐待描写・食うん描写多々、いかなるゆっくりも無下に扱われ、さなえとかにとりとかも酷い目に遭います。
・その他ネタ被り、独自設定、意味不明な箇所など書き捨て御免ということで。
・暇つぶしにどうぞ。話のネタにしてくれたら幸いです。
ドスはみんなでゆっくりしたい:英ゆん編
「むぎゃあああ!! もうじわげありまぜんでじだあああっっ!! どうがゆるじであげでぐだざいいいいいっっ!!」
子まりさはゆっくりできない気持ちを抱く。公園のゆっくり達を束ねる長ぱちゅりーの平身低頭ぶりに。
ビッタン、ビッタン、ビッタンと、地面に「おかお」を打ち付けながら「どげざっ」を繰り返す姿は、無様の一言であった。
窮地を打開するためとはいえ、あまりにもゆっくりしていない――。
そんな子まりさの想い空しく、長ぱちゅりーの前にいる「おにーさん」は、一際ゆっくりしてない様子を顕わにした。
「許してあげて、じゃねーッ! 人間にケンカ売ってタダで済ますつもりかよッ!!
掟破りがどうなるのか、ちゃんとゴミ袋共に躾けてるのかッ!? このゲロ袋ッ!!」
「むきゅううう!?」
長ぱちゅりーに突き出された「おにーさん」の「おてて」。
その先には1頭の子みょんが摘まみ上げられていた。
その子みょんは子まりさの幼馴染であり、つい先程まで一緒にゆっくりしていたのだ。
しかし、子みょんは厳守すべき掟を破ってしまったのだ。「にんげんさん」を襲ってはいけないという掟を。
「はにゃしぇみょぉぉん!! ひきょーもにょのくしょにんげんはゆっくちしにゃいでみょんをはなしぇみょぉぉん!!」
「みょ、みょん! ゆっくち! ゆっくちしちぇね! おにーしゃんも、ゆっくちしちぇね!!」
子まりさは互いに向けてゆっくりしようと訴える。それが事を収める最善の方法と信じて――。
子まりさも子みょんも公園で生まれて間も無く、親姉妹に先立たれた孤児である。
2頭のような身よりの無い「おちびちゃん」を、長ぱちゅりーは自らの「おうち」に迎え入れ、共に生活を営んだ。
時に自らの「しあわせー」を我慢して、群れのゆっくり達の生活を守る長ぱちゅりー。
その姿に、子まりさは少なからず影響を受けて育った。
この日、子まりさと子みょんは日向ぼっこをしながら夢を語り合った。
「まりちゃはいちゅか、ゆっくちもにんげんしゃんも、みんにゃがゆっくちできりゅ、ゆっくちぷれいしゅをつきゅりたいよ。
みんにゃでしあわしぇーになれりゅ、さいっきょう!のゆっくちぷれいしゅぢゃよ!」
「みょぉぉ……ん。まりちゃのゆめはでっきゃいみょん! みょんもめざしゅはさいっきょう!ぢゃみょん!!」
ゆっくりも「にんげんさん」も、皆がゆっくりできる最高の「ゆっくりぷれいす」。それが子まりさの夢なのである。
子まりさのゆっくりした夢に感化され、子みょんも自らの夢を高らかに紡ぐ。最高と最強を聞き違えていたが。
ここで、子まりさは俯き、夢を阻む要因を口にする。
「ぢぇも、にんげんしゃんはゆっくちにきびちいかりゃ、ゆっくちはゆっくちできにゃいよね……。どうしちぇ……」
「みょ! そりぇはにんげんしゃんがゆっくちをどくっしぇん!しちぇるかりゃにきまっちぇるみょん!!
にんげんしゃんはいじわりゅぢぇひきょーもにょぢゃみょん! くしょにんげんぢゃみょん!!」
群れのゆっくり達にとって「にんげんさん」は、ゆっくりする事を許してくれない忌むべき存在である。
ゆっくり達を不条理な掟で縛り、「ゆっくり」を求めていくら訴えても、まるで取りあってくれない。
食い下がれば耐えがたい痛みや苦しみを与えられ、最悪の場合には永遠にゆっくりさせられてしまう。
ゆっくりから「ゆっくり」を奪い、自分達だけでゆっくりしている。
群れのゆっくり達にとって、「にんげんさん」とはそういう存在であった。
自分達が被る全ての不遇は「にんげんさん」のせいである。
そう言葉を重ねる度に2頭の感情は膨れ上がり、子まりさの方は憂いが、子みょんの方は憤りが身体に現れる。
臆病な気性の子まりさに比べ、直情的な気性の子みょんは、たやすく感情に支配されてしまう。
こうなると子みょんは止まらない。子まりさは今さらに思い出したのだが、手遅れだった。
「ゆぅぅ! みょん、ゆっくちしちぇね! ゆっくちしちぇね!」
「そうぢゃみょん! みょんがゆっきちできにゃいにょも! みんにゃがゆっくちできにゃいにょも!
みんにゃみんにゃくしょにんげんのしぇいぢゃみょん!! ゆるしぇにゃいみょおおおおおんっ!!
…………みょ!?」
折り悪く、昂った子みょんの視界に入ったのは、見憶えのある「おにーさん」。
群れのゆっくり達が掟に従っているかを見張っている、とてもゆっくりできない「おにーさん」だ。
掟破りのゆっくりをゆっくりできない目に遭わせるし、その度に長ぱちゅりーは怒鳴られている。
子みょんでなくとも、群れの誰もが疎ましく思う存在であった。
「くしょにんげんは、ゆっくちしにゃいでたたっきっちぇやりゅみょおおおおおんっっ!!」
「まっちぇねみょぉぉん!! いかにゃいぢぇにぇぇぇぇっ!! ゆっくちぃぃぃぃっっ!!」
そこからは御覧じるままである。
子みょんは「おにーさん」に問答無用で襲い掛かり、容易く捕まえられてしまったのだ。
愛用の小枝「ろーかんけん」が全く歯が立たなかったというのに、子みょんの闘志は未だ衰えない。
長ぱちゅりーが必死の想いで駆け付けてくれたにもかかわらず、「おにーさん」に敵意を剥き出しにする。
今や子まりさや長ぱちゅりーだけではなく、公園に住むゆっくり達も物陰から様子を見守っていた。
ただし、子みょんを救い出そうとするゆっくりは、1頭たりとも進み出なかった。
「む、むきゅうううううっ!? みょ、みょん!! ゆっくりしないでおにーさんにあやまりなさい!!
とりかえしがつかないことになってしまうわああああっ!!」
「ゆっくちしちぇいっちぇね!! みょんも、おにーしゃんも、ゆっくちしちぇいっちぇね!!」
「ちーんぴょっ!! おしゃもまりちゃもほーけいちんぴょぢゃみょんっ!!
ゆっくちはじぶんのちかりゃでかちとりゅ、びっぐまりゃぺにしゅぢゃみょんっ!!
くしょにんげんっ!! そこになおりぇみょん! みょんがいましゅぐふにゃまりゃにしちぇやりゅみょんっっ!!」
途端、直立する「おにーさん」。ゆっくりしてないその姿は、子まりさがいくら身を伸ばしても届かぬ頂きだ。
子みょんを刺すように貫くその視線は、餡子を冷やす程ゆっくりできなかった。
「はいはいゆっくりゆっくり。……掟破りがどうなっか、躾け直す必要があるみてーだなァ。
判決出すからよく聞いとけッ! コイツ、死刑ッ!」
宣告が下った瞬間、子みょんの体は空中に放り出された。
子まりさの、長ぱちゅりーの、周囲のゆっくり達の思考が、止まる。
「おしょりゃをとんぢぇりゅみちゃいぢゃみょぉぉぉぉゆびゅぁあ゛っ!?」
子みょんは遥かな高みから放り落され、その小さな身体を地面に叩きつけられた。
ぺちょっ、という軽い音とは裏腹に、子みょんの右半身は衝撃で爆ぜていた。
「み゛ょ……! み゛ょ……! み゛ょ……!」
「…………ゆ……? ……ゆああああああああっ!? みょ、みょおおおおおおんっっ!!」
いち早く思考を取り戻した子まりさが、激痛に身を震わせる子みょんに跳ね寄る。
その子みょんを、暗い影が覆う。
「ホイ、執行!」
ぐちゃっ
再び子まりさの思考が停止した。瀕死の子みょんの姿が、影も形も無くなったのだ。
子みょんが居たところに屹立する「おにーさん」の「あんよ」。その先端が、白い花模様を踏み付けている。
子まりさには、ただそう見えた。
「……む、むきゅぁぁああああ!? みょ、みょおおおおおんっっ!! なんでごどおおおおお!?」
「…………ゆ? みょ、ん……?」
長ぱちゅりーの絶叫をたっぷり受け、子まりさはようやく我を取り戻す。
みょんはどこへ行ったのだろう?
未だ状況を解せず、慌てて視線を巡らすばかりの子まりさだった。
そして「おにーさん」は子まりさに目もくれず、長ぱちゅりーに向けて長い「あんよ」を持ち上げた。
「オラ、さっさと片付けろ」
「……む゛!? ゆぶっ!! えれえれえれえれえれ…………」
「ゆん!? おしゃ!! どうち…………!!」
ただならぬ長ぱちゅりーの気配に、思わず振りかえる子まりさ。
そうしてようやく、子まりさは子みょんの姿を見つける事ができた。
「……ゆ、ゆ、ゆんやあああああああああああああああっっ!!」
「おにーさん」の「あんよ」の裏。そこに子みょんはいた。
中身を残らず絞り出され、皮だけとなった死相は壮絶に歪んでいる。
黒いリボンのお飾りがなければ、誰も子みょんと認識できないほどだ。
変わり果てた子みょんの姿を間近で晒された長ぱちゅりーは、強烈な死臭をも嗅いでいたのだろう。
込み上げた嘔吐感に耐えられず、中身の白い生クリームを泡立たせながら吐き出していた。
「チッ! モタモタしやがって。後で始末しとけよ。また来るッ!」
「おにーさん」はそう言うと、嘔吐の止まらぬ長ぱちゅりーに「あんよ」の裏を押し付け、踏みにじる。
そして長ぱちゅりーの頬に子みょんの死顔がべったり貼り付いたのを確認すると、足早に公園の出口へ向かった。
「どぽじぢぇ……! どぽじぢぇ……!」
子まりさは泣いた。
痙攣する長ぱちゅりーの「おかお」に飾られた、子みょんの歪んだデスマスクを見て泣いた。
幼馴染を失った悲しさに、自分の無力さに、「おにーさん」の非情さに、世の中の無情さに、泣いた。
身を潜めている周囲の群れのゆっくり達も、小さな同族の死を悼み、すすり泣いた。
この公園に住むゆっくり達は、外に出る事を掟により固く禁じられているが、それ以前に外の世界を恐れていた。
公園の出入り口は近づく程にゆっくりの死臭が満ちており、ゆっくりは外に出る前に餡子を吐いて永遠にゆっくりしてしまう。
このため公園の外はゆっくりできない世界であると、皆の餡子に刻まれていた。
公園の外から食料を持ち込めないこの群れのゆっくり達は、いつも「ぽんぽん」を空かしていた。
草花については整然と保つ掟があり、好きに食べる事は出来ない。食べられるのは落ちているゴミや決められた種類の雑草だけだ。
そんな群れのゆっくり達にも、申し訳程度の狩場を与えられていた。
「さあ、ごはんさんをわけるのぜ! まずはおちびちゃんたちからだぜ!」
「じゅんばんはまもってね! よこはいりはゆっくりできないよ!」
公園内の静かな場所に点在する、ゆっくりよりずっと大きな、白い円筒状の「ごみばこさん」。
そこに「にんげんさん」達は「なまごみさん」を投げ捨てて行くのだ。
その「なまごみさん」が、公園に住むゆっくり達の貴重な「ごはんさん」なのである。
掟では「なまごみさん」を持ち出す事はできず、家族総出で狩場を訪れ、群れ単位で分けあって食さなければならない。
そして、何でも食べなければならない。
ゆっくりにとって致命的に辛い物はもちろん、腐った食べ物や明らかに食べ物ではない物体も、全てだ。
散らかしたままは許されず、カケラ一つ残さず「ぽんぽん」に収めるのが、群れのゆっくりに課せられた掟なのである。
もし雨が降ろうものなら、その日の食事は抜かざるを得ない。多量の水に弱いゆっくりにとって雨中の外出は致命的だからだ。
「なまごみさん」を「おうち」に持ち帰れない為、長雨が続く季節には群れのゆっくりが半数以上も減る。
このように、ゆっくり達が守る群れの掟は、徹底してゆっくりがゆっくりするための物ではなかった。
「つぎのおちびちゃんおいで! ゆぅ、おさのおちびちゃん、ゆっくりしていってね! おさはゆっくりしてるの?」
「ゆぅぅ……。あまりゆっくちしてにゃいよ……。きょうもおうちかりゃでりゃれなかっちゃよ……」
そのれいむは狩場を仕切るゆっくりの1頭である。群れ中の「おちびちゃん」が大好きで、子まりさも気に掛けられていた。
長ぱちゅりーは先日の一件以降、辛うじて生き延びたものの衰弱したきりとなり、身動きもままならない。
融通の利かない「おきて」は、長ぱちゅりーのような例外など案じられていないのだ。
子まりさは後ろめたいながらも、目前のれいむに懇願する。
「それぢぇね……、おしゃのごはんしゃん……。ゆうん、なんぢぇもにゃい……」
「しーっ!だよ! これはれいむからおさにだよ! ゆっくりしないでよくなるといいね!」
「あ、ありがちょうううう!!」
れいむが舌を使って、子まりさの帽子の内側に「ごはんさん」を詰める。情けが身に沁みた子まりさは、思わず涙をこぼした。
「ごはんさん」を持って帰る事は掟破りなのだが、狩場を仕切るゆっくり達は子まりさに便宜を図っていた。
「みたよー!! おさのとこのまりさはいつもずるいんだよー! おきてをまもれよー!!」
「そうよそうよ! おうちからでられずにずっとゆっくりしたゆっくりだっていたのよ! おきてやぶりはいなかものだわ!!」
「そうだよ! れいむにもごはんさんちょうだいね!!」
面白くないのは、掟を頑なに守ってきた古株のゆっくり達の、その一部。
愚直なゆっくりはただ掟を守るだけで、掟破りはゆっくりできないと感情的になるだけだった。
狩場を仕切るゆっくり達は、子まりさをなじる声に噛みつき、古株のゆっくり達と言い争いになる。
「おきてはまもらないといけないのぜ! でもつぎのおさがきまらないのにおさをうしなうわけにはいかないのぜ!」
「そのとおりだわ! おさがげんきになるのがいちばんよ! かんがえてものをいいなさい! このいなかものども!!」
「ふざけるなだぜ! だれだってゆっくりできないおきてなんかまもりたくないのぜ! れいがいはなしなんだぜ!!」
「ゆっくりしないでれいむにもごはんさんちょうだいねっ!!」
狩場を仕切るゆっくり達にしろ、現状維持を求める後ろ向きな発言なのは子まりさも感じていた。
長は「おにーさん」の矢面に立たされる為、誰もなろうとはしないのである。
大半のゆっくり達はこの言い争いを、事情を鑑みつつ見て見ぬふりを決め込んでいた。
「ゆぅぅぅ……! みんにゃ、ゆっくちしちぇね! ゆっくちしちぇね!」
狩場を仕切るゆっくり達と、古株のゆっくり達。その間で子まりさは困り果て、双方にゆっくりするよう求めた。
ゆっくりできない掟に振り回され、互いに罵り合う群れのゆっくり達。
掟はゆっくりをゆっくりさせる為にあるべきなのに。
子まりさがゆっくりできない想いに暮れた、その時だった。
「ゆああああっ!! ごみばこさんがたおれるのぜえええええっ!! みんなにげるのぜえええええっ!!」
ゆっくりが「なまごみさん」を手に入れる為には、「ごみばこさん」を倒さなくてはならない。
そして、空になった「ごみばこさん」は元通りに立て直さなくてはならない。これも掟の内である。
大きく重い「ごみばこさん」を倒して立て直すのは、成体ゆっくりが何頭も協力しなければならない重労働だ。
そして、倒すならともかく、立て直すに至っては何度も失敗を繰り返し、時に犠牲が生じざるを得なかった。
「「「「ゆんやあああああああああああっ!? こっぢにごないでえええええええっ!!」」」」
「ゆ? ……ゆああああああっ!?」
ゴロン、ゴロン、と唸りを上げて転がる「ごみばこさん」は、折り悪く子まりさ達がいる方向に向かってきた。
睨み合っていたゆっくり達は散り散りに逃げ跳んだが、状況を理解するのが遅れた子まりさはその場に立ちすくんでしまった。
子まりさに狙いを付けたかのように、弧を描いて転がる「ごみばこさん」。
その軌道上に、子まりさへ「ごはんさん」を分け与えたれいむが立ち塞がった。
「あぶないよおちびちゃぁぁゆぎゅりゅぶぁああああああああっっ!!?」
間一髪、れいむの身体は半ば潰されたものの、「ごみばこさん」は子まりさに達することなく停止した。
口から大量の餡子を吐き出して痛みに悶えるれいむに、子まりさは慌てて近寄る。
「れ、れいみゅぅぅう!! ご、ごべんなじゃいいい!! ゆっくぢじぢぇえええ!!」
「……よがっだ……。だいじょうぶだね、おぢびぢゃん。……ぶべぇえっ!!」
「ゆんやあああああっ!! ゆっくぢじぢぇね!! ゆっくぢじぢぇね!!」
れいむの口から再び餡子が溢れ出す。そのゆっくりできない様に、子まりさはれいむの死を感じ取り、泣き崩れた。
それでも尚、れいむはゆっくりとした表情を浮かべた。
「れいむは、もうだめみだい、だよぉ……。せっがぐだがら、おぢびぢゃんに、みんなにおいじぐだべでもらうね。
ゆっぐりじでいっでね、おぢびぢゃん……。ざ、あ、おだべ、なざい」
そう言った途端、れいむの身体は真っ二つに割れた。ゆっくりの不思議のひとつ、「おたべなさい」である。
ゆっくりした面持ちのれいむの死骸を前にして、子まりさは何も述べる事ができない。ただ涙がこぼれるばかりだ。
そこに、狩場を仕切るゆっくり達が集い、涙を流しながられいむの身体を取り分け、群れのゆっくりに分け与えていく。
ゆっくりを埋葬する事も掟により許されていない。死骸もまた、貴重な食料なのである。
「どぽじぢぇ……! どぽじぢぇぇぇ……!」
子まりさは泣いた。
黙々と解体されて食べられていくれいむを見ながら泣いた。
ゆっくりしているゆっくりの呆気ない死に、自分の迂闊さに、掟の理不尽さに、世の中の無情さに、泣いた。
群れのゆっくり達もまた、分け与えられたれいむの身体を食べながら、すすり泣いた。
子まりさ達が住む公園は、ゆっくりの視点でも四方を囲む高い塀が見渡せる、その程度の広さである。
そんな公園の一角にも、ゆっくり達が飲んだり身を清められる水を湛えた、小さな「おいけ」があった。
便意を催した子まりさが、ゆっくりしないで「おいけ」のほとりにたどり着くと、そこの住人が日向ぼっこをしていた。
「ゆっしょ! ゆっしょ! ゆふぅ、ゆふぅ。……ゆっくりしていってね!!」
「ゆ? ゆっくりしていってね!! ……やあ、めいゆー!」
赤ゆ言葉の抜けた子まりさの挨拶に、成体に至らない若いにとりが笑顔で答える。子まりさの幼馴染の1頭だ。
にとりのゆっくりした雰囲気に、子まりさはここを訪れた理由で申し訳ない気持ちになってしまう。
「ゆ、ゆゆぅ、にとりぃ、あの、そのね……」
「わかってるよ、めいゆー。おきてだからね。いつでもいいよ」
「ご、ごめんなさい、にとりぃ」
子まりさはプリンと揺れる尻をにとりに向けると、力んでいた「あにゃる」を脱力させる。
途端に、ひり出される古い餡子。
「うんうん、でるよ……。すっ……ぐっ!」
「すっきりー!!」と大声で叫びたい衝動が溢れそうだったが、唇を噛み締めて子まりさは堪える。
それをにとりの前で言う事は、子まりさにはできなかった。
「ゆっくりいただきます! ……ゆ、ゆっぐぇ……。げろまずー……」
にとりは子まりさがひり出した「うんうん」を舌ですくい、一口で飲みこんだ。
これが、この池に住むにとり達に課せられた掟なのだ。
この群れのゆっくり達は、公園内で用を足したら自分で食してしまわねばならなかった。
たとえ自らの「おうち」内であろうとも公園の一部。掟に従って自分で始末しなければならない。
唯一設けられた例外は「おいけ」の水際での排泄である。
「おいけ」にはにとり種が住まわされ、「おいけ」から離れる事を許されず、美観を保つ掟を強いられた。
そうなれば当然、ゆっくり達がひり出した「うんうん」も片付けなければならない。
にとり達はそれ以外の「ごはんさん」をロクに得る事ができない。食せざるを得ないのだ。
そうして他ゆんの「うんうん」を食べては自らの「うんうん」とし、柵で仕切られた水流の出口で流していた。
「ぺーろぺーろっ! ほらっ、きれいになったよ、めいゆー」
「ゆぅぅん。ありがとう、にとり。いつもごめんなさい……」
「あにゃる」の汚れを落としてくれたにとりに、はにかみながらお礼を言いつつ謝る子まりさ。
2頭は池の波打ち際で、すーり、すーり、と肌を合わせた。
群れのゆっくり達はにとり達を汚らわしく思っており、にとり達を嘲笑ってちっぽけな「ゆっくり」を得る者もいた。
しかし子まりさは、にとり達のお陰で池の周りがゆっくりしているのだと長ぱちゅりーに教えられ、敬意すら抱いていた。
にとりにしても、自分達に近づいてくる変わり者の子まりさだけが、唯一の「めいゆー」なのだ。
「にとりはなにかたべたいものある? こんどおさにたのんでみるよ」
「ゆうん、だめだって。おきてやぶりはゆっくりできないよ。めいゆーもゆっくりできなくなるよ。
……でも、いちどでいいからきゅーりさん、たべてみたいなぁ」
このにとりに限らず、「おいけ」のにとり達は「うんうん」やゴミ以外を殆ど食べた事が無い。
にとり種にとって「きゅーりさん」は「あまあま」に等しい存在なのだ。
未だ見ぬ「きゅーりさん」を想うにとり。そのゆっくりした表情に、子まりさも釣られてゆっくりする。
「れいむの!」
「ありすの!」
「「すーぱーうんうんたいむ、はじまるよっ!!」」
「「「はじまりゅよ!!」」」
突然響いた大声に驚く子まりさ。「おいけ」の対岸に目をやると、れいむとありすの一家が用を足しに来ていた。
すると、にとりの家族達が「おいけ」中から集まってきて、れいむ達の尻の前で待ち構える。
「ごめん、めいゆー。にとりもいくね。きゅうりさん、きたいしないでまってるよ」
にとりは子まりさから名残惜しそうに離れ、「おいけ」を渡って家族と合流した。
子まりさは気付く。「うんうん」をひり出しながらゆっくりするれいむ達の目つきは、にとり達を見下している。
「どぼじで……! どぼじでぇ……!」
子まりさは泣いた。
見下されながら「うんうん」を口にするにとりから目をそらし、逃げながら泣いた。
幼馴染の不遇に、不遇な同類を嘲笑するゆっくりの性根に、それらを強いる掟の存在に、世の中の無情さに、泣いた。
にとり達は次々訪れるゆっくり達の「うんうん」を食べながら、すすり泣いた。
ゆっくりできない世界から公園に入って来る「にんげんさん」は、やはり群れのゆっくり達から恐れられていた。
公園の日の当たる場所は「にんげんさん」が往来し、ゆっくり達を邪魔者扱いして独り占めしていた。
木陰でぼうっと青空を眺めていた子まりさの前で、「おさんぽ」中であろうゆっくりの家族と「にんげんさん」が鉢合わせる。
「うわッ! ゆっくりじゃねーか。気持ちワリッ!」
若いまりさとさなえの夫婦、その子供達がまりさとさなえ1頭ずつのゆっくり一家。
一家は整列し、「にんげんさん」に向け深々と「おつむ」を下げて、挨拶を送った。
「「「「ようこそいらっしゃいました、にんげんさん。
いつもゆっくりさせていただき、ありがとうございます。
つまらないところですが、どうぞゆっくりしていってくださいね」」」」
この群れのゆっくり達は「にんげんさん」に出会ったなら、必ずこの挨拶を行わなければならない。
群れの掟のひとつなのだが、どのゆっくりにとっても、自分の気持ちを欺くゆっくりできない行為である。
何一つゆっくりできないのに、何をゆっくりさせてもらっていると言うのか。
現にまりさとさなえの一家は、揃って苦虫を噛み潰した「おかお」を地面に向けている。
このため群れのゆっくり達は、「おつむ」を下げるのを嫌って茂みの陰などで静かに隠れている。
外出時は狩場に赴く時か、この一家のように「にんげんさん」の目を盗んで「おさんぽ」に出る時ぐらいだ。
もっとも、それだけが「にんげんさん」を避ける理由ではない。
「目障りなんだよッ!! どけやァッ!!」
「ゆげぇああああああっ!?」
「ゆびいいいいっ!?」
「ぢゅぶゅ!!」 「ぶじゃぅっ!!」
平伏したままの親まりさが、「にんげんさん」の「あんよ」に蹴り飛ばされた。
そして、あっという間もなく、親さなえも子供達も蹴り飛ばされる。子供達の身体は蹴られた瞬間に爆ぜた。
一家を蹴り飛ばすと、「にんげんさん」は足早にその場を去った。
「ゆぎっ! ゆぎぃっ! ざなえ、ざなえぇ、だいじょうぶなのぜぇ……!」
「ゆひぃっ! ゆひぃぃ……! おもにほっぺがいだいでずううう……! お、おぢびぢゃんは……!」
「おぢびぢゃんは、ざんねんだったのぜ……。またづぐればいいのぜ……。ゆっ、ゆぐっ……!!」
「そ、ぞんな……!! ひ、ひどいでず……。あんまりでずぅぅぅ……! ゆああああああああああああんっっ!!」
このように「にんげんさん」の中には、友好的で無抵抗なゆっくり達に、理不尽な暴力を仕掛けてくる者もいるのだ。
みんな頑張って掟を守ってるのに、「にんげんさん」はゆっくりしてくれない。
長ぱちゅりーが言うには、ずっと昔のさなえは「にんげんさん」に特に可愛がられ、ゆっくりしていたらしい。
それが今では、どのさなえも先程の親さなえの様に容赦なく暴力に晒され、悲しみに暮れる日々を送っている。
どうして「にんげんさん」は、ゆっくりとゆっくりしてくれないのだろう。
みんなでゆっくりすれば、もっともっとゆっくりできるのに。
「どぼじで……。どぼじで……」
子まりさは泣いた。
我が子の唐突な死に号泣するまりさとさなえを見ながら泣いた。
ゆっくりを襲う悲運に、「にんげんさん」の冷酷さに、叶わぬ自らの夢に、世の中の無情さに、泣いた。
まりさとさなえは、傷ついた身体で家路を這いずりながら、すすり泣いた。
「むきゅ……。そうね。なにもかもゆっくりにやさしくないわね。むりげー、だわね……。
でもね……。ゆっくりがこのこうえんでいきていられるのは、おにーさんの、にんげんさんのおかげなのよ……。
このおうちだって、いぬさんのおうちをおにーさんがあたえてくれたのよ……」
居並ぶ三角屋根の「おうち」のひとつ、長ぱちゅりーの「おうち」。
日が暮れれば、子まりさは常々思っている愚痴をこぼしては、長ぱちゅりーに優しくなだめられる日々を送っていた。
「……でも、でも、だれもゆっくりしてないよ。ゆっくりできないおきてのせいだよ。
どうしておにーさんは、ゆっくりにおきてをおしつけるの? どうしてにんげんさんはゆっくりしてくれないの……?」
もう何度も何度も繰り返された質問だ。
その質問の度、長ぱちゅりーは弱々しい身体を奮い、決って次の様に話しかけた。
「むきゅ……。にんげんさんは、ゆっくりしてるだけではゆっくりしてくれないからよ。
おきてをまもればにんげんさんはゆっくりしてくれるわ。ゆっくりりかいしてね……」
「そんなの、そんなのうそだよ! おきてをまもってもにんげんさんはぜんっぜん!ゆっくりしてくれないよ!!
だれもゆっくりしてないからにんげんさんだってゆっくりできないんだよ!
ゆっぐりでぎないおぎでは、もういやだよおおお……!」
曖昧な物言いで突き付けられた冷たい現実に、子まりさは反発し、涙ぐむ。
長ぱちゅりーは子まりさの絶望を見かね、今日も慰めを紡ぐことにした。
「むきゅ、もし、もしまりさがどすだったら、にんげんさんにみとめてもらうことができるかもね。
みんなでゆっくりできるかもしれないわね……」
「どずになっだら……、ほんどうに、ほんどうにゆっぐりでぎるの?」
「ええ、どすはとってもおおきくて、とってもかしこくて、とってもつよくて、とってもゆっくりしてるゆっくりなのよ。
どすだったら、きっとみんなをゆっくりさせることができるわ。……むきゅ」
「おしえて! どすのこと、もっとまりさにおしえて! まりさどすになりたいよ!!
どすになって、みんながゆっくりできるゆっくりぷれいすをつくるよ!!」
「むきゅきゅ、まりさはきっとどすになれるわ。ねむくなったらすーやすーやしてもいいわよ」
ドスの話を聞いた途端、悲しみに暮れていた子まりさは調子を取り戻した。
長ぱちゅりーは、子まりさが不満をこぼす度に現実を教え、涙をこぼす度にドスの話で慰めていたのだ。
ドス。ゆっくりの中のゆっくり、とてもゆっくりしてるゆっくり。
子まりさは、長ぱちゅりーが子守歌代わりに語るドスに想いを馳せ、ゆっくりとした気持ちを抱いて眠る事ができるのだ。
きっとドスになって、この世をゆっくりと「にんげんさん」が、みんながゆっくりできる「ゆっくりぷれいす」にする。
その想いは子まりさの中で膨らんでいった――。
メキッ! メリメリメリッ!!
「ゆ、ゆああああっ!? な、なんなのおおお!?」
全身を締め付けられるような感触に、子まりさはゆっくりできない目覚めを果たす。
慌てて周りを見渡す子まりさ。その眼には、朝焼けの淡い紅に彩られる公園の景色が映った。
「……ゆ?」
何時の間に「おうち」の外に出たのだろう? 隣に居るはずの長ぱちゅりーは?
子まりさが疑問に思ったところで、圧迫された「おしり」の辺りにムズムズとした感触が走る。
「……む、むぎゅ……。ぢゅぶれりゅううう……」
「お、おさあああ!? どぼじでおさがまりさのおしりでつぶれそうなのおおお!?」
驚いた子まりさは身体をよじり、自らを拘束するものを壊しながら抜け出し、そして驚いた。
子まりさを縛っていたのは、すっかり小さくなった「おうち」だったのだ。
そして「おうち」の残骸の中に、潰れかかった小さな長ぱちゅりーを見つけた。
「おざあああ! しっかりしてえええ!! どぼじでおちびちゃんになっちゃったのおおおおお!?」
「む、ぎゅぅぅ……。ぎゃくよ……。まりざが、おおきくなっだのよ……。
まりざ、ほんどうにどすに、なれだのね……。むぎゅ」
「ど、す? まりさ、どすになったの?」
そう言われれば、いつも見上げていた世界を見下ろす様に見ている事に気付く。
長ぱちゅりーだけではない。何事かと様子を見に来た群れのゆっくり達も小さく見える。
子まりさは自らの変化をゆっくり理解できた。
「ゆわあああ! どうしたんだぜえええ! おさのとこのまりさがでっかくなってるのぜえええ!」
「わからないよー! ぜんぜんわがらないよー!!」
「ゆっ! たいへんよぉ! とかいはなおさのおうちがあああ! おさがあああ!」
混乱するゆっくり達の叫びに長ぱちゅりーの事を思いだし、子まりさは慌てて「おうち」の残骸に向き直った。
長ぱちゅりーの身体は、体内の生クリームを絞り出されて平たくなっていた。
「ゆああっ! おざあああ! ごべんなざいいい! まりざのぜいでえええええ!」
「むぎゅ……。いいのよ、まりざ。……それよりも、よくききなざい。ぱぢぇはもうだめだわ……。
だからまりざ……いいえ、どすに、このむれをまかぜるわ……。どすがつぎのおざよ……。
おさはつらくぐるしいからまりさにはなってほしぐながったけど、どずならだいじょうぶ、かもね……」
「ぞんなぁ! おざぁ、もっとゆっぐりじでよおおお!!」
ザワッ、と周囲がざわめく。今や群れ中のゆっくり達が集い、固唾を飲んで見守っていた。
再びの静寂を待たず、長ぱちゅりーは言葉を繋ぐ。
「どすならきっとつぐれるわ。ゆっくりとにんげんさんがゆっぐりでぎる、ほんとうのゆっぐりぷれいずを……。
そこにぱぢぇがいられないのが……、ざんねんだわ……、むぎゅぅ……」
「ゆ! ゆっぐり! ゆっぐりじでね!!」
「だがら、みんなのいちぶになって……。ゆっぐりするわ。おいじぐたべでね……。
ざあ……、おだべなざい」
「おざあああっ!!」
長ぱちゅりーの平らな身体が、子まりさの眼前で二つに割れた。
子まりさは育ての親の死に泣き崩れそうになる。
だが状況は、ただ泣かせておいてくれはしなかった。
「……どす? あれがどす……? どすが、つぎのおさ……なのぜ?」
「ゆっくりにゆっくりをもたらす、ゆっくりのなかのゆっくり、ですか……?」
「ごみばこさんとおなじくらいでかくて! にんげんさんよりつよそうで! とにかくすごいゆっくりだみょん!」
「すごいよー! どすはほんとうにいたんだよー!!」
「おさがいっていたよ! どすがつぎのおさだよ!!」
「「「「「どすーっ! どすーっ! どすーっ!」」」」」
群れのゆっくり達の緊張が解け、子まりさの周囲から歓喜の声が上がる。
誰もが新しい長の誕生に、ゆっくりできない生活からの変化を期待し、子まりさの言葉を待ち構えていた。
この群れを託されたのだ。ドスとなった、この自分に――。
子まりさは自らの想いを皆に伝える決意を固めた。
「みんな……。ゆっくりしていってね!!!」
「「「「「「ゆっくりしていってね!!!」」」」」」
「みんなもきいてたとおり、まりさが、どすがこのむれのおさになったよ!
どすのゆめはこのせかいを、ゆっくりが、にんげんさんが、みんながゆっくりできるゆっくりぷれいすにすることだよ!
そのためにまずは、このこうえんをみんなのゆっくりぷれいすにするよっ!!」
「「「「「「ゆっくりぷれいすにするよっ!!!」」」」」」
「おきてはおにーさんとはなしあって、ゆっくりがゆっくりできるおきてをつくるよ!!
ちゃんとはなせば、おにーさんもゆっくりりかいしてくれるよ! しんぱいしないでね!!」
「「「「「「ゆおぉぉぉーーーっ!!」」」」」」
「おにーさんがくるまで。ゆっくりしたいことをどすにおしえてね。ゆっくりできないおきてをかえるからね!!
たとえば、ごはんさんはゆっくりできるものだけたべようね! ゆっくりできないものはたべないでね!
たりなかったらくささんやはなさんもむーしゃむーしゃしていいよ!! かってにはえてくるんだからだいじょうぶだよ!!」
「「「「「「ゆっくりりかいしたよっ!!」」」」」」
「おといれはもうおいけでしないでね! おいけはにとりたちのおうちだよ!
おといれはみんながゆっくりできるやりかたをかんがえようね!!」
「「「「「「ゆっくりりかいしたよっ!!」」」」」」
「それじゃあ、みんなでぱちぇをおいしくたべてあげてね、ひとくちずつだよ!!
おいしくたべたら、いっぱいゆっくりしていってねっっ!!!」
「「「「「「ゆっくりしていってねっっ!!!」」」」」」
自分の言葉に皆がうなずき、興奮し、ゆっくりしている。
群れの生活を司るゆっくり達も、古株のゆっくり達も、若いゆっくり達も、「おちびちゃん」達も、全員である。
熱気を帯びるゆっくり達の姿に、子まりさもまた高揚していた。昨日までのちっぽけな自分では考えられなかった事だ。
誰も異を唱える者はいない。自分の想いは皆が望んでいた物、すなわち正義。
子まりさは天啓を得たのだ。
「し、し、し、しあわぜ~~~~~~~っっ!!」
にとりは生まれて初めて「うんうん」以外の食事を口にし、喜びに震え、絶叫した。
ましてや食したのは、夢にまで見た「きゅーりさん」の欠片なのである。
涙やよだれに加え「うれしーしー」まで垂れ流すにとりの歓喜に、子まりさは心からゆっくりした。
「どす、ありがとう! めいゆーはやくそくをまもってくれたんだね。にとり、とっってもうれしーよっ!!」
「ゆぅ~ん! にとりがゆっくりしてくれて、どすもうれしいよ! これからもっともっとゆっくりできるからね!!」
「おいけ」で一生を終えるゆん生を強いられていたにとり達に、子まりさは陸地に上がるよう促したのだ。
最初こそ掟破りを恐れていたものの、ドスとなった子まりさの姿に安心したにとり達は境界を踏み越えた。
そのままにとり達を狩場まで連れ出した子まりさは、群れのゆっくり達と一緒に「ごはんさん」を分け合った、という次第である。
にとり達から「うんうん」の匂いがすると難癖をつけるゆっくりもいたが、子まりさはこう返した。
「にとりはくさくないよ! みんなとおなじゆっくりなんだよ! へんなこといってなかまはずれにしないでね!!
ゆっくりがゆっくりとゆっくりできないなら、にんげんさんとゆっくりなんてゆめのまたゆめだよっ!!
だれとでもゆっくりできるゆっくりぷれいすは、みんながゆっくりしないとはじまらないよ! ゆっくりりかいしてね!!」
「「「「「「ゆぉぉ~~~っ!! ゆっくりりかいしたよ!!!」」」」」」
強い調子で「ゆっくり」の大望を持ち出されれば、群れのゆっくり達はただ関心するばかり。
子まりさの言葉で思いを正したゆっくり達は、改めてにとり達を群れの一員に迎えたのである。
狩場周辺にはゆっくりできないとして食べられなかった物が無数に散乱し、気に留める者は誰もいなかった。
「ねえねえどす!! すくらんぶるだよ!! れいむうんうんがでそうだよ!!
おいけでうんうんできなかったらどこですればいいのおおお!? あにゃるがえまーじぇんしーだよおおおっ!!」
「そうだよー! ごはんさんをたべたらうんうんがでるんだよー!! これはうんっめい!なんだよー!!
どすはゆっくりしないでどうするかきめてよー!!」
「ゆゆゆ? ゆーん……」
ゆっくり達の訴えに、子まりさは悩んだ。これは自分が言い出した事に帰結する因果なのである。
今さら「おいけ」を「おといれ」に戻すなど以ての外であり、さりとて新しい「おといれ」などすぐに思いつくわけでもない。
ちなみに、「にんげんさん」用の「おといれ」は公園には存在しなかった。
「ゆ、ゆ、ゆ……!! も、げんか、い、だよ、お……! れいむの、うんうんたいむ!ふるばーすとだよおおおっ!!
ゆっぐぅぅんっ! ……す、す、す、ずっぎりぃぃ~~~~~っっ!!」
悩む子まりさの眼前で、便意を我慢できなかったれいむは、道のど真ん中で野太い「うんうん」をひり出してしまった。
その姿から、子まりさは悩みを打ち消す閃きを受け取った。
「そうだよ! うんうんはしたいときにするのがいちばんゆっくりできるんだよ!! がまんはゆっくりできないよ!
うんうんをたべるのはゆっくりできないから、あとでおにーさんにかたづけてもらおうよ!
いまはがまんしないで、みんなもゆっくりうんうんしてね!!」
「「「「「「ゆわぁぁ~~~~~いっ!! すーぱーうんうんたいむ、はじめるよっ!!」」」」」」
子まりさが促した直後から、公園内は色取り取りの「うんうん」で彩られていった。
公園を縦断する道に、緑の芝生に、樹木の袂に、ゆっくり達は思い思いの場所で排泄を行った。
群れのゆっくり達のゆっくりした姿に、子まりさは溢れんばかりのゆっくりを得た。
「え、ちょ、何……?」
「キャアアッ! どうしたのコレ!? 汚なッ!!」
「でけっ! 何あの……、ゆっくり……?」
悲鳴にも似た驚きの声に、子まりさは重々しい身体を返す。
公園の入り口付近には、何人もの「にんげんさん」達が集まっていた。
狼狽したのは群れのゆっくり達も同様である。何せゆっくりできない挨拶をしなければならないのだから。
しかし子まりさは、1頭だけ動じることなく、
「ゆっくりしていってね!!!」
「にんげんさん」を見上げ、大声で挨拶をした。
これには群れのゆっくり達も「にんげんさん」達も意表を突かれた形になり、黙りこんでしまう。
「みんなどうしたの? ちゃんとにんげんさんにゆっくりできるあいさつをしてね!!
もうゆっくりできないあいさつはしなくていいよ!! おにーさんとおきてをつくりかえるからね!!
みんな! よういはいい!? にんげんさんにごあいさつだよ! さん、はい!!」
子まりさの悠然とした物言いに、群れのゆっくり達は奮いたった。
もう「おつむ」を下げなくてもいい。ゆっくりした挨拶を送る事ができる。
群れ中のゆっくり達が、様子を伺う「にんげんさん」達に向けて、一斉に声を揃えた。
「「「「「「ゆっくりしていってねっっ!!!」」」」」」
それは公園外にまで響き渡る程の大音響となった。
子まりさの巨体に、群れのゆっくり達の身体に、ジーンと痺れるような達成感が残響する。
しかし「にんげんさん」達の反応は、子まりさが欲しいものとは縁遠いものだった。
「マジかよ。うぜー」
「はいはい回り道回り道」
「もうっ! 絶好の近道だったのに! 遅刻するじゃないっ!!」
「にんげんさん」達は踵を返して逃げ去った。
誰もが苦々しいという仕草をとり、とてもゆっくりしていなかった。
「……どうしてゆっくりしていかないの? どすたちとゆっくりしていけばいいのに……」
「みょん! きっと、どすにおそれをなしてにげたんだみょん! こしのぬけた、ほーけいちーんぽ!どもだみょん!!」
「さすがどすだぜ! たたかわずしてびくとりー!なんだぜ! このちょうしでにんげんさんをけちらしてしまうんだぜ!!」
「だ、だめだよ! にんげんさんとはたたかっちゃだめなんだよ!! いっしょにゆっくりするんだよ!!
どすがほんきをだしたら、にんげんさんがいたいいたいでかわいそうだからね!! ゆっくりりかいしてね!!」
「「「「「「ゆっくりりかいしたよ!!!」」」」」」
満場一致。子まりさの言葉に頷く群れのゆっくり達。
しかし子まりさは、逃げ出した「にんげんさん」の姿に、後ろ髪を引かれる思いをしばし引きずった。
その後も群れのゆっくり達は、公園内で思うままにゆっくりと過ごしていた。
もっとも掟で抑圧された反動からか、大概はハメを外すばかりの行いに至っていた。
パンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッ
「き、き、きもぢいいです~~~!! おてんとざまのしたでずっきりー、さ、さいっこう!でず~~~っっ!!」
「さなえはだいったんなのぜぇ! みんながみてて、まりさはちょっぴりはずかしいのぜぇ……!」
「じょうっしき!にとらわれてはいげまぜん!! どすがいいまじた!もうなにもがまんじなくていいんでずっ!!
おちびちゃんをたっくさんつぐって、みんなでゆっぐりするんでず~~~っ!! ゆんぉお゛~~~っっ!!」
先日「おちびちゃん」達を失ったまりさとさなえの夫婦は、芝生の上で「すっきりー」に勤しんでいる。
これまでの群れでは慢性的な食糧難の為、子作りは最低限に控える傾向にあった。
まりさとさなえも例にもれず、2頭の「おちびちゃん」を丹精込めて育て、そして一瞬で潰された。
今朝まで悲しみは癒えずにいたのだが、ドスの言葉に希望が芽生え、こうしてやり直しを決意したのである。
「ゆわぁぁ……。こんなまっぴるまから、みんながみてるまえですっきりーしてるよ。にとりのほうがはずかしいよぉ!」
「でも、とてもゆっくりしてるね。とっっってもがまんしてたんだよね」
本能剥き出しの「すっきりー」を遠巻きに眺める群れのゆっくり達に、にとりと連れ添って散策をしていた子まりさも合流した。
にとりのように羞恥心で「おかお」を伏せたり、興奮して「ぺにぺに」を勃起させる等、様々な反応を取るゆっくり達。
皆が一様にムズムズと我慢する様子を見て、子まりさは群れのゆっくり達に告げる。
「おちびちゃんはすっっごく!ゆっくりできるんだよ!! おちびちゃんがたっくさんいればたっくさんゆっくりできるよ!!
みんなもゆっくりすっきりしてね! たっくさんのおちびちゃんをみれば、おにーさんもきっとゆっくりするよ!!
どすはたっくさんのおちびちゃんのために、おにーさんにたっくさんのあまあまをよういしてもらうからね!!」
「「「「「「ゆわぁぁ~~~~~い!! すっきりーしておちびちゃんたっくさんつくるよ!!」」」」」」
直後、公園の至る所でゆっくり達の嬌声が響き渡った。
元から番いだったゆっくり達も、隣に居合わせただけのゆっくり達も、成体に程遠い子ゆっくり達までも、存分に身体を合わせた。
「ゆぅ~ん。にとりもへんなきぶんになっちゃたよぉ……」
今や子まりさの傍らに居たにとりまでも、モジモジと身を震わせている。
そして、自らも疼きを感じ始めた子まりさは、にとりに肌を擦りつけた。
「に、にとりぃ! どすたちも、その、しようか……」
「ゆぅ!? で、でも、だめだよ。にとりはすむばしょがちがうよ……。それにたっくさんよごれてるよ……。
どすにはもっとゆっくりしたゆっくりがおにあいだよぉ……」
「にとりはとてもゆっくりしてるよ! すむばしょだってどうにかなるよ!
だからにとりはどすのおよめさんになってね! へんじはいますぐでいいよ!!」
「め、めいゆ~ぅ……! にとり、どすのおよめさんになるよ! いっしょにゆっくりぷれいすをつくるよ!!」
こうして子まりさとにとりは一つに繋がった。
子まりさの「ぺにぺに」は、にとりの「まむまむ」に不釣り合いな大きさだったが、にとりは痛みに耐えて受け入れた。
その痛みも最初のうち、一体感の共有によってゆっくりした気持ちが広がっていき、2頭は本能のままに身体をぶつけ合う。
たちまち訪れる絶頂に、子まりさとにとりは声を揃えて歓喜の絶叫を放つ。
「「す、す、すすす、すっぎりぃぃ~~~~~~~~っっ!!」」
「「「「「「すすす、すっきり~~~っっ!!!」」」」」」
群れのゆっくり達も昂りの頂点にたどり着き、思い思いに絶叫した。
絶叫は木霊の様に公園内を駆け巡った。
子まりさはゆん生最高の「ゆっくり」を享受していた。
「しあわせー」に寄り添い合うのは幼馴染のにとり。その「ぽんぽん」には自らの「おちびちゃん」がいるのだ。
2頭の視界には、やはり新しい家族に希望と期待を寄せるゆっくり達の姿がある。
未だ幼く「すっきりー」に参加しなかった「おちびちゃん」達の、無邪気に遊んでいる声が届く。
群れのゆっくり達がこんなにゆっくりしている事は未だかつてなかった。
この「ゆっくり」を「にんげんさん」と。みんなと――。
子まりさは、想いは叶えられるという確信に、ゆっくりと浸るのだった。
「んほぉぉぉおっ! たかぶりがおさまらないわあああっ!! まりさあああああっ!!」
「ゆんやあああああっ!! れいぱーだあああああっ!! だずげでえええええっ!!」
突然の悲鳴に、子まりさは緊張する。
悲鳴のした方向を見れば、1頭のありすが「れいぱー」となって、主にまりさ種を追い回しているではないか。
もっとゆっくりしたいという気持ちを振り払って、子まりさは直立した。
「たいっへんだよぉ! れいぱーはゆっくりできないよ!!」
「どすぅ……」
「ごめんね、にとり。どすはありすをとめてくるよ! もどってきたらまたゆっくりしようね!!」
「わかってるよ、めいゆ……じゃなくて、あなただね、どす。いっしょにゆっくりしようね!!」
にとりの見送りを受け、子まりさは異変の元凶へと「あんよ」を急がせる。
群れの掟では、「れいぱー」は即刻殺さなくてはならなかった。
しかし子まりさは、殺したくなかった。ドスとなった今なら、ゆっくり話せば誰でも自分の過ちをゆっくり理解する。
その為にはいかに「れいぱー」となったありすの動きを封じるか。その方法を思索していた矢先――。
「んほぉぉゆぼびゅぽおおおおおっ!!?」
ありすの動きが封じられた。長い「あんよ」の下敷きになって。
予想外の事に驚き、子まりさは制止する。
長い「あんよ」の持ち主は、子まりさが待ちかねていた「おにーさん」だったのである。
「ゆ、ゆぅぅ!? おにーさん、ありがとー! ありすをとめてくれて……」
自分の意図するところを事もなく実行した「おにーさん」に、子まりさは改めて「あんよ」を進めようとする。
しかし、「あんよ」は動かない。身体自体が動かない。
「おにーさん」が纏うあまりにもゆっくりしてない雰囲気に、子まりさは近づくことができなかった。
「な、な、な…………、
なんじゃあゴラァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!?」
「おにーさん」が放った身を貫くような絶叫に、群れ中のゆっくり達はゆっくりした気持ちを打ち砕かれてしまう。
子まりさも例外ではない。ドスとなったはずの巨体が、小刻みに震えているのである。
「オラァッ!! 長のぱちゅりーはどしたァッ!! とっとと出て来いやゲロ袋ォッ!!」
これ程までに「おにーさん」が怒り狂う様を、子まりさは見た事が無かった。逃げ出してしまいたかった。
しかし、今やこの群れの長はドスとなった子まりさだ。
ドスになったからには大丈夫、きっと何もかも上手くいく。
先ずは「おにーさん」をゆっくりさせる。覚悟を決めて、子まりさは強張る「あんよ」で進み出た。
「おにーさん……。ゆっくりしていってね!!!」
「……なんだァ手前ェ……?」
「どすはどすだよ! どすはまえのおさのぱちゅりーがずっとゆっくりしたから、あたらしいおさになったんだよ!!
きいておにーさん!! どすはゆっくりとにんげんさんがゆっくりできる、ほんとうのゆっくりぷれいすをつくりたいんだよ!
そのためには、おにーさんとはなしあって、ゆっくりできないおきてをゆっくりできるおきてにしないといけないんだよ!
とりあえずありすのうえのあんよをどけてあげてね! はなしはそれからだよ!!」
「………………」
思った事を一気にまくし立てた為か、「おにーさん」は二の句を告げずにいる。子まりさはちょっぴり困ってしまった。
ちょっと難しかったのかな。もっと簡単な言い方が良かったかな。もしかしたら怖がってるのかもしれない。
そのような気を回しつつ、子まりさはジッと「おにーさん」を見上げ、返答を待った。
「ゆげぎゅえあああっ!! おもいっ!! おもいわあああっ!! ゆっくりしないでいなかくさいあんよをどけてえええっ!!
ぢゅ……! ぢゅ、ぶ、れ、りゅうううううっ!!」
突然、「おにーさん」の「あんよ」に踏み敷かれたままのありすが悲鳴を上げた。
慌てて視線を下げれば、ありすの身体に「あんよ」が深々とめり込んでいる。
半ば飛び出した両目をグルグル回し、口から「あにゃる」からカスタードクリームを絞り出されるありす。
あまりにもゆっくりできない光景に、子まりさは思わず叫ぶ。
「や、やめてね!! ひどいよおにーさん! ありすがつぶれちゃよおおおっ!!
ゆっくりしないであんよをどけてね!! いまならまだかんべんしてあげられるから!!」
ぶちゃあっ!!
子まりさが叫び終わる瞬間、ありすの身体は踏み抜かれた。
中身であるカスタードの大半を一瞬で絞り出され、ピクリとも動かなくなってしまった。
子まりさ率いる群れの一員が、自らの目の前で永遠にゆっくりしたのだ。
「……どう勘弁しないって? 特大ゴミ袋が、よォ……?」
「……ゆ? ……ゆ、ゆ、ゆあああああああああっ!? ありすうううううっ!!」
先程のゆっくりできない怒声とは打って変わった、重く静かな「おにーさん」の声。
子まりさは長となって初めて戦慄を覚えた。
ドスである自分を前にして「おにーさん」の態度は何一つ変わらないのだ。ドスの強さが解らないほど愚かなのか?
その「おにーさん」は、うろたえる子まりさなど眼中に無いが如く、ゆっくりしないで公園の中央に向けて歩み出した。
「ゆっ!? ま、まってねおにーさん! はなしはこれからだよ!! どこいくのおおおおおっ!!」
「…………」
「おにーさん」に追いすがる子まりさの動揺は膨らみ続ける。
「あんよ」を幾ら早めても「おにーさん」の背中を見上げ続けてばかりで、追い抜くどころか引き離されようとさえする。
さらに「おにーさん」は、進路上でゆっくりしていた群れのゆっくり達を容赦なく蹴散らしてしまう。
これ以上の犠牲者を出す前に、何としても「おにーさん」の注意を引かねば。
子まりさは一方的に「おにーさん」に話しかける。
「お、おにーさん! どすはむれのおきてをゆっくりできるおきてにかえたいんだよ!!
なまごみさんはゆっくりできないものでいっぱいだよ! ちゃんとゆっくりできるごはんさんをもってこなくちゃだめだよ!!
くささんやはなさんもすきなときにすきなだけむーしゃむーしゃできるようにしてねっ!!」
「…………」
「おいけはもうおといれにしないよ!! にとりたちがゆっくりできないからね!!
みんながゆっくりできる、とっっってもゆっくりしたおといれをよういしてねっ!!」
「…………」
「にんげんさんはゆっくりにいたいいたいするんだよ! いたいいたいはすごくゆっくりできないよ!!
ゆっくりにいたいいたいしたにんげんさんは、ゆっくりにいたいいたいされるおきてをつくってね!!
さんっばいがえしでいいよっ!!」
「…………」
「おにーさん、よろこんでね! むれのみんながたっくさんのおちびちゃんをつくったよ!!
たっくさんのおちびちゃんをみれば、だれだってすっっっごく!ゆっくりできるよ!!
いまのおうちだけだといっぱいいっぱいだから、いつもあったかくてすっごくひろいおうちをつくってね!!
それと、うまれてくるおちびちゃんのためにあまあまもよういしてね!! たっくさんだよっ!!」
「…………」
「それから……! ゆっと……! ゆっと……!」
「…………」
子まりさは懸命に追随しながら、常々考えていた構想を「おにーさん」の背中に浴びせかけ続ける。
そのどれもが、ゆっくりと「にんげんさん」が共にゆっくりできる、理想の「ゆっくりぷれいす」を描いたものである。
しかし、理想の何をもってしても「おにーさん」を止める事はできない。
そうこうしている内に、子まりさと「おにーさん」は、公園中央の芝生に踏み入った。
そこは先刻、群れのゆっくりの大半が子作りに励んだ場所である。
「まってなのぜ! まってなのぜぇおにーさん!! このさきはさなえとおちびちゃんがゆっくりしてるんだぜ!!
みんながゆっくりしてるんだぜ! こわいこわいはきちゃだめなんだぜぇぇぇ!!」
「…………」
さなえと共に真っ先に「すっきりー」に及んだまりさが「おにーさん」の前に立ちふさがった。
只ならぬ気配に不安を感じ、家族を守る為に勇気を振り絞ったに違いない。
しかし、「おにーさん」はまりさの制止には応じない。力強く真っすぐ歩み――、
「ぶぎゅううううっ!?」
進路を塞いでいたまりさの「おつむ」を踏み敷いて、そこで止まった。
そのままで、「おにーさん」は子まりさに「おかお」を向けた。とてもゆっくりしてない「おかお」を。
「……なァ、特大ゴミ袋サンは、群れの長、なんだよなァ。何で俺に無断で掟を変えようとか思ったワケ?
お前達ゴミ袋が、何の為にここに用意されたのか、ぱちゅりーから聞いてねェのかよ?」
「ゆ……? なんの、こと? どすたちはさいしょからこうえんにすんでるんだよ。
そんなこともしらないと、……ばかになっちゃうよ? ……しんじゃうよ?」
子まりさが言い終えた途端、まりさを踏んでいる「あんよ」が深く沈んだ。途端に醜く膨らむまりさの形相。
額に「おちびちゃん」を結実させたさなえは、夫の危機に悲鳴を上げる。
「ゆぶぶぶっ!? ぢゅぶれりゅうううううっ!!」
「ゆあああっ!? まりざあああっ!! どすはゆっぐりじないでまりざをだずげでぐだざいいいっ!!」
さなえは取り乱し、子まりさに夫の助命を乞う。その他のゆっくり達は、固唾を飲んで見守るしかできなかった。
もはや話が通じる相手ではない。今もまた群れの一員が永遠にゆっくりしようとしている。
長として、群れを守る為に、ドスの力を振るわねばならない。子まりさは覚悟を決めた。
「……おにーさん。ゆっくりしないでまりさからどいてね。
いまならまだまにあうよ。いたいいたいどころじゃないよ。ずっとゆっくりしちゃうよ……!」
「はァ? くだらねー妄想も大概にしろよ……。ゴミ袋に何ができンだよ」
「どすはぷくー!ぬきでおにーさんをせいっさい!するよ! ゆっくりしないでせいっさい!だよ!!
さあ、おにーさん! さっさとそのきたないあんよをまりさからどけてあげてね!!」
「やってみな。できるものならなァ」
「ゆうう! このわからずやぁぁあ!! どすは、どすは……! ずっとゆっくりさせたくないのにぃぃっ!!」
ぽよんっ!
「おつむ」から伝わる確かな感触。子まりさは己の勝利を実感した。
まりさを踏んでいた方とは反対側の「あんよ」に、渾身の体当りを仕掛けたのだ。
「おにーさん」は瀕死の境を彷徨っている事だろう。
自らの奮った力に怖れを抱いた子まりさは、目を開けられないまま悔いた。
「……ゆぅ、ごめんね、おにーさん。どすだって、ほんとうはたたかいたくなかったんだよ。
でも、きもちだけじゃなにもまもれないって、ゆっくりりかいしたよ……。たたかいって、むなしいんだね……」
ぶぢゃぁっ!
「ゆんやあああああっ!? まりざっ! まりざあああああっ!!」
「……ゆゆぅ!?」
さなえの絶叫に、自分に酔っていた子まりさは驚いて目を剥き、信じられない光景を目の当たりにした。
目の前で、まりさが「おつむ」を踏み抜かれて絶命しているのだ。
自らの「おつむ」から伝わってくる感触は、体当りを仕掛けた「あんよ」が健在である事に気付く。
何が起こったのか、全く理解できない。何よりも強いドスが、本気で相手を打ち倒したはずなのに。
呆然とする子まりさに、呆れたような「おにーさん」の言葉が降ってきた。
「……で、いつ制裁タイムが始まるんだ? 待ちきれねーから潰しちまったよ」
「ど、ど、ど、どぼじでどずのたいあだりをうげでへいぎなのおおおおおっ!?」
「お前ェ、自分が一丁前のドスだって本気で思ってたのか? 片腹痛ェ。自分を知らねーなら教えてやる。
……プチドスなんだよ、お前ェはなッ!!」
「………………ぷち………どす…………………?」
「そう、プチドスだ! ドスになれなかった思い込みの半端な出来損ないッ!!
良い所は毛の生えたような賢さだけで、デカいだけの図体をロクに使いこなせないトロくせーグズッ!!
飼いゆっくり全盛期に物珍しさで話題になったが、ドスらしい事は何一つ出来ねーパチモンなんだよッ!!」
「そ、そんな……! どすはどすだよっ!! へんなこといわないでねっ! ゆっくりできないよおおおっ!!」
「じゃあ実感してみろ。プチドスの大きさは帽子抜きで精々1m足らず、俺の股下程度だな。
対してドスはどんな奴でも俺を見降ろす程デカイんだ。……さて、お前ェはいつまで俺を、見・上・げ・て・ンだ?」
「ゆ? ………………ゆゆぅ!?」
子まりさは絶句した。
「おにーさん」を見上げていると言う事実は、自分は「おにーさん」より小さいと言う何よりの証だ。
言われたように、何よりも大きいドスならば「おにーさん」を見下ろす事ができるはずだ。それなのに――。
真実の自分。その一端を理解してしまい、子まりさは餡子が冷えるような想いを抱く。
「ゆるざなえっ! ゆるざなえ~~~っっ!! まりざをごろじだくぞにんげんは、ゆっぐりじないでゆるざなえぇ~~~っ!!」
夫のまりさを失ったさなえが、怒りで醜く歪んだ「おかお」で睨みながら「おにーさん」に吠えた。
それがいけなかった。次に「おにーさん」は、さなえの方に歩んでいったのだから。
事実を未だ受け止めきれない子まりさは、制止を求める言葉すら発する事ができなかった。
子まりさの眼前で、さなえが「おにーさん」の「おてて」に掴み上げられる。
「はなぜくぞにんげん~~~っ!! ざなえをゆっぐりじないではなぜえええ!
ゆっぐりじないでざなえのしんっばつ!をうげろおおおおおっ!! ぜったいにゆるざなえ~~~っっ!!」
「……オイ、特大ゴミ袋。お前ェ何のつもりで掟をひっくり返しやがった。聞いてやるから、ほざいて見ろ。
まぁ答えは知れたモンだがなァ」
「ざなえのはなじをぎげえええええっ!! ゆるざなえ~~~っ!!」」
このままではさなえも潰されてしまう。
群れの一員の危機に、子まりさはゆっくりしないで行動を迫られた。
幸いにして、「おにーさん」は子まりさの話に耳を傾けるというのだ。千載一遇、説得のチャンス到来である。
この好機を逃してはならない。真理をもってして事に臨む子まりさだった。
「そ、それは、おきてはゆっくりできないからだよ!! ぜんぜんゆっくりがゆっくりできないおきてばかりだよ!!
にんげんさんがゆっくりしてないのは、ゆっくりがぜんぜんゆっくりしてないからでしょお!?」
「…………」
「だからどすは! ゆっくりがゆっくりできるゆっくりぷれいすをつくるんだよ!!
ゆっくりがゆっくりしてれば、にんげんさんもゆっくりできるからね!! みんなでいっしょにゆっくりできるよ!!
これは、だいうちゅうのほうっそく!なんだよおっ!! こんなこともわからないおばかさんなのおおおおおっ!?」
全ての想いの根源を、子まりさは言葉に換え一気に解き放った。
ゆっくりがゆっくりすれば、みんなゆっくりできる――。これこそがゆっくりの全て、存在意義なのだ。
その真実真理を子まりさは、この上なく丁寧に、言葉を選んで、熱心に、「おにーさん」に語りかけた。
それなのに――、
「…………あー、オレオレ。……詐欺じゃねェ、古臭ェネタで遊ぶな。予定通り掃除器を運び込め。全部な」
さなえを小脇に抱えた「おにーさん」は、子まりさを見もしないで話をしていた。
鈍い銀色の小さな板に向かって、まるで居もしない誰かに話しかけているかのようだ。
渾身の説得を無視されて、子まりさは呆然とした。
「……おーし、ちょいと暇潰しすっかな」
「ゆるざなあああっ!? いだだだだだだだっ!! おもにおづむがいだいいいいいっ!!」
銀色の板を隠した「おにーさん」は、さなえを構え直す。
片方の「おてて」でさなえを鷲掴みにし、もう片方の「おてて」を茎の先端に寄せ――、
ぷちゃっ
そのまま「おちびちゃん」のひとつを潰してしまった。
流れるような一連の動きに、さなえも、子まりさも、群れのゆっくり達も、見とれて言葉を失う。
それもつかの間、我に返った者から順に悲鳴が上がる。
「ゆんやあああああああっ!? とってもきちょーなざなえにのおぢびぢゃんがあああああっ!!」
「ゆああああああっ!! どぼじでどすのむれのゆっくりできるおぢびぢゃんをつぶじぢやうのおおおおおっ!?」
「「「「「「ゆんやああああああああああああああっっ!!」」」」」」
「……お前ェ達ゴミ袋はな、コストダウンを図った循環型公園管理の為に用意されたんだよ。
平たく言うと、公園に毎日投棄されるゴミを片付けるのがお前ェらゴミ袋の存在理由だ。
実験重ねて受注勝ち取って、ギリギリまでゆっくりさせずに個体数調整して、2年近く続いてたのに、なァ」
「おにーさん」は誰を見るでもなく呟きながら、次の「おちびちゃん」を摘まんだ。さなえの悲鳴がひときわ甲高くなる。
もはや予断は許されない。子まりさは自分の力を信じ、究極の力を使う決断をした。
「やめてね、おにーさん。さなえとおちびちゃんをゆっくりしないではなしてね……。
どすは……、どすは、どすすぱーくをうつよっ!! おにーさんをえいえんにゆっくりさせるよ!!」
ぷちゃっ
「全部大無しだ。勝手に生えてきた特大ゴミ袋のせいでなァ。オラ、早く撃ってみろよ。ドススパークとやらを、よォ」
「ゆああああんっ!! もうやべでえええっ!! どずはゆっぐりじでないでざなえとおぢびぢゃんをだずげろおおおっ!!」
悠長だった。撃つと決めた時にはすでに撃っていなくてはいけなかった。
宣告に怯むことなく、「おにーさん」は3個目の「おちびちゃん」に「おてて」を伸ばす。
子まりさは自らの判断の甘さを責めながら、身体の奥底から沸き立ち煮えたぎった想いを、口から放つ。
「どすすぱーくっ!!」
……ぷちゃっ
「ゆがあああああっ!! おぢびぢゃんっ!! すでぎなざなえのおぢびぢゃあああああんっ!!」
「おにーさん」は3個目の「おちびちゃん」を潰した。何事も無かったかの如く。と言うか、何事も起こらなかった。
長ぱちゅりーが子守歌代わりに語ってくれた、必殺必勝の「どすすぱーく」が放たれなかった。
大口を開けたまま固まる子まりさに、「おにーさん」が吐き捨てる。
「言ったろ? お前ェはパチモンだって。ドススパークを撃つ能力なんか無ェし撃ち方も知らねェんだからな。
オラオラ、構わねェからどんどん撃って来いやァ!」
「ど、どどど、どすすぱーく! どすすぱーく! どすすぱーく! どすすぱーく~~~っ!!」
「このぐぞどずうううううっ!! ふざげでるんでずがあああああっ!! まじめにやりやがれでずうううううっ!!」
子まりさは「どすすぱーく」を連射した。何度も何度も撃った。しかし、煌めく光線は放たれなかった。
いよいよ、さなえの最後の「おちびちゃん」が、「おにーさん」に狙われた。
子まりさは「どすすぱーく」を撃ち続けた。両の「おめめ」に涙を滲ませながら。
ぷちゃっ
「……ゆ、ゆ、ゆぎゃあああああっ!! あらゆんがみになるべきざなえにのおぢびぢゃんがあああああああっ!!
このやぐただずのぐぞどずうううううっ!! ごろじでやるぅ! ゆっぐりじないでごろじでやりまずうううっ!!」
「どすずぱーぐ! どずずぱーぐぅっ! どずずば~~~ぐ~~~っっ!!」
最後の「おちびちゃん」も無慈悲に潰された。
さなえは怒りの矛先を子まりさに向け、その子まりさは泣きながら「どすすぱーく」を放ち続けている。
ドスである子まりさの無力さに、「おにーさん」の冷酷さに、群れのゆっくり達は新しい長に従ったことを心底後悔した。
目端の効くゆっくりは子まりさを見限り、その場を逃れて素知らぬふりを決め込もうとしたが――、
「ゆ、ゆ、ゆんやあああああっ!! まりさはゆっくりしないでにげるのぜ……。ゆええええっ!?」
「ゆ、ゆゆ、こ? ……ど、どど、どぼじでれいむだぢゆゆごにかごまれでるのおおおおおっ!!」
「な、なな、なんなんだよー! ぜんぜんわがらないよおおおおおっ!!」
事の成り行きを見守る為に集結していた群れのゆっくり達は、いつの間にか無数のゆゆこ達に囲まれていたのだ。
子まりさの身体に匹敵する捕食種ゆゆこ達を従えるのは、「おにーさん」と同じ「おべべ」を着ている「にんげんさん」達。
その1人が、「おにーさん」に声を投げかけた。
「包囲終了しましたっ! さっすが室長、注目度バツグンでしたよ。ゆっくり共は残らず囲いの中です!」
「取りこぼすなよォ! 犬小屋の中も池の中も徹底的にだ! ……さ、キリ良く暇潰しは終わりだ。オラッ!」
「おぞらをどんでるみだいでずうううううっ!!」
さなえは軽々と「おにーさん」に放り投げられた。
放物線を描いて落ち行く先は、大きく開いたゆゆこの口の中――。
ぼすんっ
「ゆゆ~~~! むっちゃむっちゃ~~~!」
「ゆっ……! ゆぎゃあああああ!! ざなえをだべないでぐだざいいいっ!! ざなえはきぢょうなんでずよおおおっ!!
ゆ゛ん゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!」
満面の笑みを浮かべながら、さなえを咀嚼するゆゆこ。
響き渡るさなえの断末魔に、群れのゆっくり達は身を凍りつかせたかのように固まった。
「ゆゆ~、こぼね~。ぷっっ!」
違和感を抱いてか、ゆゆこが吹き出した何かが、ゆっくり達の眼前で地面に転がった。
それは、さなえの髪に巻きついていた蛇に似たお飾り。その砕けた破片である。
群れのゆっくり達の誰もが理解しようとしていた。これが自分の運命だと。
「なーにが貴重だ、幾らでも作れるっつーの。未だ希少種気どりのゴミ袋が」
「「「「「「ゆ、ゆ、ゆああああ……!!」」」」」」
「最後に身の程を知ったか?ゴミ袋共。せっかくだから、今日はお前ェらゴミ袋の言い方に合わせてやる。
加工所の、スーパー一斉駆除タイムッ!! 始まるよォッッ!!」
「「「「「「ゆゆ~~~っ!!」」」」」」
「「「「「「ゆ゛ん゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっ!!!」」」」」」
「おにーさん」の掛け声で解き放たれたゆゆこ達の歓喜の声、続いて群れのゆっくり達の絶叫が公園を満たす。
飢えた獣の如く、ゆゆこ達は手前のゆっくり達を長い舌で絡め取っては、次々と口中で噛み下していく。
小さな小さな「おちびちゃん」達は、寄せられた口にまとめて吸い込まれていく。
群れのゆっくり達が抱いた希望は、絶望によって打ち砕かれていった。
数刻前まで理想の「ゆっくりぷれいす」だった公園は、今や阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
群れの仲間達が食べられていく。「ゆっくり」が失われていく。
抗う事も逃げる事も許されず、ゆゆこ達の「ぽんぽん」に飲み込まれていく群れのゆっくり達。
「どずずぱーぐっ! どずずぱーぐっ! どずずぱーぐっ! どずずぱーぐっ! どずずぱーぐぅっ……!!」
子まりさは、一心不乱に「どすすぱーく」を放っていた。涙を流しながら叫び続けていた。
「どすすぱーく」で「おにーさん」を、「にんげんさん」達を、ゆゆこ達を薙ぎ払い、起死回生の逆転劇を迎えるはずなのだ。
それなのに状況に介入すらできない。子まりさは孤立したような錯覚すら覚える。
「……どす~~~っ!! どす~~~っ!!」
そのとき、子まりさを呼ぶ声が聞こえた。子まりさは「どすすぱーく」を撃ちながら視線を巡らし、声の主を探し当てた。
我が妻となったばかりのにとりが、方々に跳び回るゆっくり達の中から子まりさに近づいてくる。
ゆっくりと這いずりながら、狂乱するゆっくり達に何度もぶつかられ、何度も踏まれていた。
水棲種であるにとりは、陸上おいては這いずる事しかできない程に移動能力が低下する。
その上「ぽんぽん」には子まりさの「おちびちゃん」がいるのだ。
にとりは猶予が無い事を悟ったのか、自らの想いを子まりさに叫びかける。
「にとりはどすのおかげでゆっくりできたよ! うんうんしかたべられないゆんせいからすくってくれて、ありがとーね!!
どすはどすじゃなくても、さいっこう!のめいゆーで、いとしのだんなさまだよおおおおおっ!!」
「に、に、にどりぃぃ……!! ゆ、ゆああああああっ!?」
たった一ゆん、子まりさを慕い続けるにとりの声に感激する子まりさだったが、そのにとりの背後に迫るゆゆこの姿に戦慄する。
「ぽんぽん」に「おちびちゃん」を抱えたにとりでは、ゆゆこからは逃げられない。子まりさが見ても明白である。
子まりさはゆっくりしないでにとりを救う方法を思案し、そして、実行した。
「お、おお……! おにーざんっ!! おねがいでずっ!! もうやめでぐだざいいいいいっ!!
にどりを、むれのゆっぐりだぢをゆっぐりじないでだずげでぐだざいいいいいっ!! ごのどおりでずうううううっ!! 」
歯を食いしばり、「おつむ」を下げ、子まりさは傍らでほくそ笑む「おにーさん」に懇願した。
無力だった。「どすすぱーく」など幻想だった。自分だけの力だけでは、この窮地を脱する方法は無かった。
だから子まりさは、苦々しい想いを噛み締めて「おにーさん」に平伏する事を選んだのだ。
「オイオイ、もう音を上げたのかよォ、ド・ス。
根性見せろよ、なァドスさんッ! 群れの皆が大変ですよォ? フレー、フレー、ドースッ!」
「ゆっ……!? ぐぐっ……!! ゆがあああああっ!!」
ペチペチと撫でるように「ほっぺ」を叩いてくる「おにーさん」。
その猫撫で声は、子まりさをとてもゆっくり出来なくさせた。「おにーさん」はこの惨状を見てゆっくりしているのだ。
ゆっくりと「にんげんさん」がいっしょにゆっくりできる。これもまた幻想だったのか。
幼いころから心に描いてきた「ゆっくりぷれいす」の姿が、儚く霧散してゆくのを実感する子まりさであった。
「ゆゆ~~~!」
「ゆんやあああっ!? どずうううううっ!!」
自らを呼ぶ悲鳴に、子まりさは我に返った。
振り返れば、にとりがゆゆこの長い舌に絡め取られている。この間合いでは、近づく前ににとりは食べられてしまう。
無駄だと理解していても、やらねばならなかった。
「どずずぱーぐっどずずぱーぐっどずずぱーぐっどずずぱーぐっどずずぱーぐっどずずぱーぐっどずずぱーぐぅぅっ!!」
息もつかせぬ「どすすぱーく」の連射を、にとりを捕らえたゆゆこに浴びせかける。
しかし、必死の思いを込めても尚、窮地を覆す光条は現れなかった。
涙を撒き散らしながら叫び続ける子まりさに、にとりはゆっくりと微笑みかけた。
「ありがとー、どす。ゆっくり……していってね!」
「どずずぱーぐっどずずぱーぐっどずずぱ……!!」
別れの言葉と共に、にとりの姿はゆゆこの口内に消えてしまった。
大口を開いたままの姿勢で、子まりさの身体と思考は強張ってしまい、微動だにしなかった。
そして――、
「ゆぎゃあああっ!! いやだっ!まだじにだぐなぎぴいいいっ!? もっどゆっぐぢじだいいぎゃぢゃあああっ!!
ゆっぐぢっ……! ゆ゛っぐ、ぢ……! ゆ゛っ…………」
ゴクリッ
未練を込めたにとりの断末魔によって、子まりさはゆっくりと我に返った。
将来の「ゆっくり」を誓い合った、最愛のにとり。理想の「ゆっくりぷれいす」を担うはずだった「おちびちゃん」。
それが目の前で、跡形もなく食べつくされてしまった。無くなってしまった。
失った「ゆっくり」の換わりに餡子の奥底から湧き上がる、身体を焼くような感情を、子まりさは絶叫に変えた。
「ゆ、ゆ、ゆ……、ゆがあああああああああああああああああっ!!! にどりにどりにどりいいいいいいいいいっ!!
ごのぐっそじじいいいいいっ!! ゆっぐりじないでごろじでやるうううううっ!!」
日々を嘆きながら育った子まりさが、生まれて初めて抱いた感情。それは怒り。
子まりさは怒りの化身となって「おにーさん」に襲い掛かった。ほぼ這いずる様に跳ねながら。
「ちったァ見れるツラになったじゃねェか。だがなァ――」
どぼぉっ!
「ゆっぶびゅうううううううううううっ!!?」
子まりさに一切怯むことなく、「おにーさん」は長い「あんよ」で子まりさを蹴った。
「ぽんぽん」に深くめり込んだ「あんよ」がもたらす激痛に、身体に満ちていた怒りもかき消える。
一瞬の硬直を経て、子まりさの身体が蹴られた方向に跳ね転がった。
「ゆっぎゃあああああっ!! いだいいだいいだいいいいいっ!! おもにぽんぽんがいだいいいいいっ!!
いだいよおおおおおおおっ!! ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛っ!!」
「反応遅っせ! そのブ厚い皮じゃなかったら穴ァ空いてたぞ。ホント救えねェトロカスだな。
オラ、根性無し。もう終わりかッ!?」
争い事を避けて育った子まりさには苦痛を堪える根性は無く、何よりプチドスの身体は重荷以外の何でもなかった。
衝撃をまともに身体で受け止めた子まりさは、初めて体験する激痛に身悶え、転げ回るしかできないのだ。
「いだいいいっ!! いだいいだいはゆっぐぢできないいいっ!! いだだだいだいいいいだいいいいい!!
………………ゆ?」
不意に子まりさは気付いた。痛みが和らぐような、こそばゆい感触が身体を這い回っている。
それを確かめようと辺りを見まわした刹那、子まりさは餡子が凍りつくような想いを抱いた。
「「「「「「ゆゆ~~~!」」」」」」
「ゆ、ゆ、ゆゆごだあああああああああああああああああっっ!!」
身体を這い回っていたのは、子まりさを取り囲んだゆゆこ達の長い舌だったのだ。
ゆゆこ達は味を値踏みするように、子まりさの全身を舐め上げていた。
恐怖で震えあがる子まりさを見下す「おにーさん」に、「にんげんさん」が駆け寄ってきた。
「室長! 公園内のゆっくり共はプチドスを残して全部片付きました。犬小屋の中で身動きできなかった奴も残らずです」
「おっし。そんじゃあゴミ袋がばら撒いたクソも残らず片付けてさせてくれ」
「そのプチドスどうします? やっぱり踊り食いっスか?」
「ゆひぃぃっ!? やぢゃやぢゃやぢゃあああああああっ!! どずはまだじにだぐないよおおおおおっ!!
じにだぐないよおおおおおおおおおおおおおっっ!!」
プチドスの巨体で、子まりさは子ゆっくりの様に泣き叫んだ。ドスとしての見栄も誇りも失って。
その無様を一瞥し、「おにーさん」は方針を決めた。
「コイツは……連れて帰る。ゴミ袋のままにしろ始末するにしろ、もうちょい身の程を解らせねーとな」
「どうなんスかねぇ。大きくなった分だけ並みのゆっくりよりは利口かもしれませんが」
「ンじゃ、後頼むわ。……オラァッ! こっち来いやァ、ウスノロッ!!」
「ゆ!? ゆあああああっ!? ひっぱらないでえええええっ! ぢぎれりゅうううううっ!!」
怯えていた子まりさは、三つ編みのお下げを引き抜かれそうな痛みに我を取り戻した。
「おにーさん」がお下げを引っ張りながら歩き出したのだ。
抵抗してお下げが千切れる自体を怖れ、子まりさは「おにーさん」の後をゆっくりしないで這いずった。
「ホラホラッ! さっさと片付けなさい! さっき食べたのと同じでしょ! モタモタしてると加工ライン行きよ!」
「ゆ、ゆゆ~~~……。げろげろ~~~……」
「おにーさん」の仲間の「おねーさん」が、嫌がるゆゆこを「おてて」で引っ叩いていた。
群れのゆっくり達を平らげたゆゆこ達は、公園中にひり出された「うんうん」や散らかったゴミも食べさせられていた。
ゆっくりできない匂いや感触に「おかお」を歪め、涙を滲ませながら食べさせられていた。嫌がって何度も何度も叩かれていた。
その空虚な光景を横目で見ながら、子まりさは悲しみに暮れた。
「どぼじでぇ……! どぼじでえええええ……!」
子まりさは泣いた。
群れのゆっくりが消え去ってしまった公園を見ながら泣いた。
共にゆっくりしたかったにとりや仲間の死に、自分の勘違いに、「にんげんさん」との力の差に、世の中の無情さに、泣いた。
群れのゆっくり達を食べたゆゆこ達もまた、ゆっくりできない物を無理矢理食べさせられ、泣いていた。
「……ゆっ! ゆっ! のーびのーび! のーびのーびっ!」
群れを失ってから数日、子まりさは加工所のとある一角に連行されていた。
そこは固い壁に囲まれた、温もりの感じられない殺風景な部屋。
子まりさはあの日以来、「おにーさん」達に途轍もなくゆっくりできない目に遭わされてきた。
「のーびのーびっ! のーびのーびっ! ……もうすこし、だよ」
「おつむ」のはるか上、天井から吊り下げられている大事な大事な帽子のお飾り。
戦うにも逃げ出すにも何をするにも、ゆっくりできるお飾りが無ければ始まらない。
子まりさは朝が来る度、必死に「のーびのーび」しながら舌を伸ばし、もう少しで届きそうな所まで身体を伸ばすのだ。
だが、必死の表情を浮かべる子まりさは、部屋に入ってきたゆっくりできない気配に気づいていなかった。
「きめェッ!」
ドムゥッ
「ゆっぼびゅぶぼおろおおおおおおっ!?」
「おにーさん」は部屋に入って来るや、自分の身長よりも身体を伸ばしていた子まりさに回し蹴りを見舞った。
途端、「く」の字に折れ曲がり、床に崩れる子まりさの身体。
伸びたままの身体が激痛でグニョグニョとのたうち回る。
「毎日毎日芸がねーなッ! 何時までやってやがるゴミ袋ッ! 早く元に戻らねーと、ねーじねーじしてやるぞッ!!」
ドボォッ
「ゆぢゅばぶぁぎゃあああああっ!!」
再び子まりさの身体に蹴りを放つ「おにーさん」。子まりさの身体は「ひ」の字に折れ曲がり、激痛で小刻みに震えた。
プチドスとなってからの毎日。それは「ゆっくり」とはまるで無縁の日々である。
「も、もうやべでぐだざいいいいいっ!! どずはいだいいだいいやなんでずうううううっ!!」
「未だにドス気分かよ。お前ェは特大ゴミ袋だろうがッ!!
……それよりだ、アレは何だ?」
「ゆ……、ど、どずの、うんうん、でず……」
「おにーさん」が指差した先。そこには子まりさがひり出した「うんうん」が放置されている。
「ごはんさん」も「おといれ」も用意されず、「うんうん」したら自分で食べる掟をここでも強いられていた。
しかし、「ゆっくり」を渇望していた子まりさは、昨晩の排便でささやかな「ゆっくり」を得、そのままにしていたのである。
「ヤレヤレだ。やはり物解りの悪いゴミ袋には、身体に教える教育が必要だなァ……!」
今日も「おにーさん」はロッカーを開き、中から固い棒状の得物を取り出し、元通りの縦長饅頭体型をとった子まりさに迫る。
その得物は金属バット。子まりさはこの凶器で毎日のように殴られ続け、その威力が身体に沁みていた。
「ゆ、や、いやだあああああっ!! いやだあああああっ!! きんぞくばっとさんはゆっくぢでぎないいいいいっ!!
たべます!! うんうんだべまず!! だがら、がんべんじでぐだざいいいいいっ!!」
「謝るぐらいなら、最初から掟を守れってんだよォッッ!!」
「ゆぁぎゃあああああっ!! あぎゃああっ! ぶぢゃあっ!! ゆだああああああああああああっっ!!」
目にも止まらない速度で振るわれる金属バットに対し、子まりさは抗う事などできなかった。
「おつむ」に、「ほっぺ」に、「ぽんぽん」に、「おしり」に、「あんよ」に、転げ回されながら与えられる痛打の数々。
思わず吐き出してしまう餡子の中には、砕けた歯も含まれていた。
金属バットの一撃は、本来ならゆっくりの身体では吸収しきれず、永遠にゆっくりする程の威力を持つ。
しかし、プチドスの図体は必殺の一撃にも耐え、代わりに身体が砕けるような激痛を存分に子まりさに与えるのだ。
子まりさが只のゆっくりであれば簡単に死ねたものを、プチドスであるが故に苦しみ続けなければならない。
殴られる度、子まりさは涙や「しーしー」を漏らしながら、赤ゆっくりの様に泣きじゃくった。
コンコン、ガチャッ
「室長! お楽しみ中のところスミマセン! 件の動物愛護団体ですが、やはり相当数のゆっくりを違法に所持しています。
警察官の突入後、証拠品として全てのゆっくりを確保するよう正式に要請がありました」
「フーッ、フーッ。バカヤロ、これも仕事のうちだ。ようし、勘違いヤロー共の泣きっ面、拝みに行ってやっか!
……おっと、忘れるとこだった。ほれ、オレンジジュースだ! 床を片付けておくんだぞ、ゴミ袋ッ!」
「ゆ゛っ! ゆ゛っ! ゆ゛っ! ゆ゛っ! ゆ゛っ!」
「おにーさん」は子まりさの身体を申し訳程度に治療すると、「にんげんさん」の後を追って部屋から出て行った。
このように、明るい間は仕事の手が空いた「おにーさん」に殴られ、蔑まれ、徹底的にゆっくりできなくされる。
今朝はまだマシなほうだ。日によっては何人もの「にんげんさん」も加わり、よってたかって子まりさを殴りつけるのだから。
「おにーさん」達が一斉駆除に出かける時は、戻ってくるまで休むことができる。しかしゆっくりはしていられない。
帰ってくるまではどこかでゆっくり達が駆除されており、帰ってくれば子まりさが殴られるのだ。
常にゆっくり達が苦しんでいるかと思うと、子まりさ一ゆんだけ取り残されても、決してゆっくりできなかった。
「ゆっぐっ……!! ゆげぇ! ぐるぇえええええっ!!」
子まりさは「おにーさん」の言いつけ通り、仕方なく自らひり出した「うんうん」を食し、そして吐き出した。
ここでもプチドスの身体が災いする。通常ゆっくりの数倍もの体躯を誇るプチドスは、排泄物もまた数倍なのである。
よって、子まりさは自らの山盛り「うんうん」に吐き気を催し、食べては吐いてを何度も繰り返した。
こんなゆっくりできないモノを、掟だと言い訳して毎日にとりに食べさせていた自分が情けなかった。
「うえっぶ……!! ……ゆ、ゆぐっ……、ゆえええええええええんっ……! ゆえええええええええんっ……!」
どうにか床をキレイにした子まりさは、ゴロリと身を横たえながら泣き崩れた。
ただゆっくりしただけなのに。みんなでゆっくりしたかっただけなのに――。
苛烈で残酷な仕打ちが、掛け替えの無い「ゆっくり」を打ち砕いてしまった。
どうにかしてゆっくりしたい。むせび泣きながら子まりさは、在りし日の公園の思い出に浸る。
「にどりぃ……、ぱぢゅりー……、みょん……、ゆえええええん……」
にとりと日向ぼっこをしていた頃が懐かしかった。
長ぱちゅりーと「おべんきょー」をしていた頃が懐かしかった。
子みょんと将来を語り合った頃が懐かしかった。
群れのみんなと共にいた公園が、懐かしかった。
――しかし、全ては失われたのである。子まりさに慰めの言葉をかける者は誰もいない。
ゆっくりできる思い出が一巡すれば、ゆっくりできない思い出が嫌でも思い出されてしまう。
「……ゆぅぅ。やべでね、やべでね! やべでねええええええっ!!」
目を懸命につぶっても、暗闇の中からゆっくり達の最後が次々湧き上がり、鮮明に蘇った。
ゆゆこに食べられたにとりの、さなえの、皆の断末魔。
プチドスとなった自らの身体に潰された長ぱちゅりーの、真っ二つになった姿。
「おにーさん」に踏み潰された、子みょんや群れの仲間達の無残な死顔。
「ごみばこさん」から身を呈して子まりさを守った、心優しいれいむの真っ二つになった姿――。
「ゆ……、ゆゆ?」
突然、子まりさの餡子に閃きが駆け巡った。
長ぱちゅりーの、真っ二つになった姿。心優しいれいむの真っ二つになった姿。
共にゆっくりした2頭の表情から、この窮地を逃れる方法を見いだした子まりさであった。
ガチャッ
「……ったくよォ、何がゆっくりは掛け替えのない命、だ。あの世間知らずのナルシスト共ッ! ……ん……?」
「おかえりなさい、おにーさん! ゆっくりしていってね!!」
「…………」
子まりさは「おにーさん」が帰って来るのを、部屋の中央で佇んで待ち続けていた。
そのゆっくりした姿勢は、「おにーさん」の言葉を一瞬失わせる。
「……オイオイ、随分と居直ってるじゃねーか。やっと自分がゴミ袋だって理解したのか?」
「まりさはごみぶくろさんじゃないよ! ゆっくりだよ! ゆっくりするためにいるんだよ!!」
「ンな簡単にいかねェよなァ。で、何かするつもりなのか」
「おにーさん」の質問に、ほくそ笑む子まりさ。
そのままの表情で、朝方の閃きを言葉にして伝える。
「ゆふふふっ。おにーさん、どすはね、もうぜんぜんゆっくりできないよ。だからね、おたべなさいをするよっ!
おたべなさいをすると、ゆっくりできるんだよ! どす、かしこくってごめんなさいっ!!」
「…………お前ェ、それ本気で言ってんのか?」
「どすはほんき!だよ!! さあ、ゆっくりみててねっ!!」
子まりさの閃き。それは長ぱちゅりーや心優しいれいむが死ぬ間際に行った「おたべなさい」である。
思い出に浸るうちに、気付いたのだ。二つに割れた顔の、とてもゆっくりしていた事に。
「おたべなさい」をすればゆっくりできる。子まりさは確信を得ていた。
また、これはゆっくりできない事ばかりを行う「おにーさん」に対しての意趣返しでもあった。
子まりさを虐めることが出来なくなって、きっと悔しがるだろう。
最後に勝つのは自分なのだ。子まりさはそう信じ、力強くその言葉を唱えた。
「さあ! おたべなさいっ!!」
子まりさは余韻に浸る。最後に「おにーさん」を出し抜き、勝利をもってゆん生を終えた事に。
「おにーさん」の、とてもゆっくりしてない顔たるや、無様もいいとこである。
そら、「おにーさん」の負け惜しみが聞こえるではないか。
「…………で、いつおたべなさいするんだ? やるなら早くしろ。出来なければ、解ってんだろうなァ?」
「ゆ゛ぅっ!?」
信じがたい言葉を聞いて、子まりさの身体がビクリと波打った。
慌てて視線を「あんよ」に向けて、子まりさは愕然とした。何も起こっていない――。
予想外の事にうろたえる子まりさに向けて、「おにーさん」はゆっくりと歩み始めた。ゆっくりできない気配を纏って。
「あのさァ、おたべなさいってよォ、ゆっくりさせたいからやるんじゃねーの?
何お前ェだけでゆっくりしようとするわけ? そんな不純な動機が許されると思ったわけ?」
「ゆ、ゆ、ゆあああ……! さ、さささ、さぁ! おたべなさいっ!
……どどど、どぼじでえええええっ!?
「お前ェ、俺に食べられたいとか、心から思った? これっぽっちも思ってねーよなァ?
おたべなさいって言えば死ねるって、都合のいいこと思いついただけだろォ?
……残ァん念ェん、でした」
「お、お、おたべなさいっ! おたべなさいっ! おたべなさいっ! おだべなざい~~~っっ!!」
まるであの日と同じだった。「どすすぱーく」が放たれなかった、あの滅びの日に。
圧倒的に無力な自分。絶望的な感情が餡子を冷やし、身体を震えさせる。
「おそろしーしー」を垂れ流して尚、子まりさは「おたべなさい」を唱え続けた。
「おだべなざいっおだべなざいっおだべなざいっおだべなざいっおだべなざいっおだべなざいっおだべなざいっっ!!」
「生憎とよォ、この世界はなァ……」
「おぢゃべなじゃいぃっおぢゃべなじゃいぃっおぢゃべなじゃいぃっおぢゃべなじゃいぃっおぢゃべなじゃいぃっっ!!」
「お前達ゴミ袋なんかによォ……」
「おぢゃべなじゃっおぢゃべなじゃっおぢゃべなじゃっおぢゃべなじゃっおぢゃべなじゃっおぢゃべなじゃっっ!!」
「都合良く出来てねェンだよォッッ!!」
「おぢゃべなおぢゃべなおぢゃべなおぢゃべ…………。いだだだだだだっだだだだあっだあっだっ!?」
子まりさは「おつむ」に走る激痛に目を剥いた。「おにーさん」が両の「おてて」で髪の毛を掴んで引っ張り上げたのだ。
痛みを逸らそうと「のーびのーび」で必死に身体を伸ばす子まりさ。
次の瞬間、「おにーさん」が放った膝蹴りが子まりさの眉間にめり込んだ。
「ゆぶばぁりゃあばらああああああああっ!?」
ブチリブチリと髪の毛が千切れる痛みもさることながら、「おかお」のど真ん中に受けた衝撃はとびきりの激痛となった。
子まりさは反射的に後ろに跳ね転がり、ゴロゴロと冷たい床をのたうち回った。
「おにーさん」はすかさず子まりさに跨り、マウントポジションからの鉄拳を躊躇なく振り下ろす。
「俺はな、御大層な綺麗ゴトを並べながら、自分だけ得しようとする無責任クズが、死ぬほど嫌いなんだよッ!」
どぶぅっ!
「ゆぎゅばぁああああっ!!」
「ソレが人間でも耐えがたいのに、オメーラ糞饅頭はソレに特化しやがった。存在自体がムカムカすンだよッ!」
どぶぅっ!
「いだ……! いだいぃ……ぎゃにゃああああっ!!」
「クズはクズらしいツラしてろってンだよッ!! こォの野郎ォおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
どぶっどずっどむっどぶっどずっどむっどぶっどずっどむっ!
「ゆぢゃjっ! だpfじょっ! sふぉjごjっ! kぢふgyっ! おぱwfぱっ!!」
その拳の一撃は、金属バットで殴られるよりも重く、餡子の芯を揺さぶられるほどの衝撃と苦痛を子まりさに与えた。
嵐のような暴力の前に、子まりさは圧倒的な力の差を痛感した。
「……ど、どぼじで……? どぼじでにんげんざんは、ごんなにづよいのに……」
「ハーッ! ハーッ! ……あァン?」
「ゆっぐり、りがい、じだよ……。にんげんざんは、ずっっごぐ、づよいよ。どず、ぜんぜんがなわない、よ。
ゆっぐりは、むりょぐ、なんだよ……。むりっげー……だよぉ」
「ほォ、少しは立場を弁えたよーだな」
吐いた餡子と涙と「しーしー」がぶちまけられた床の上。身体をグニャグニャに歪ませ痙攣しながら、子まりさは紡いだ。
激情した「おにーさん」に小一時間殴られ、覆しようの無い力の差を餡子に沁み込まされたのだ。
「……どずは、にんげんざんがうらやまじいよ。でも、ぞのずごいぢがらを、よわいゆっぐりをいじめるのに、づがうんだね。
にんげんざんは、ゆっぐりどいっじょにゆっぐりじないんだね。……ゆっぐり、りがい、じだよ。
どずが、にんげんざんだっだら、みんなでゆっぐりでぎる、ゆっぐりぶれいずをづぐっだのにぃ……」
子まりさは「にんげんさん」の絶大な力を理解した。苦痛を抱いて永遠にゆっくりする事を覚悟した。
それでもなお渇望するのは、想い描き続けた「ゆっくりぷれいす」の姿。
無念と皮肉を込めて、泣きながら子まりさが紡いだ言葉に、床にへたり込んだ「おにーさん」はゆっくり返答した。
「…………人間は創ろうとしてたさ、人間とゆっくりが共にゆっくりできる、ゆっくりプレイス」
「…………………………ゆ?」
「おにーさん」の穏やかな口調、意外な言葉に、子まりさは目を剥く。
意外過ぎて、その言葉の意味を全く理解できなかった。
「お前ェが生えてくるずっとずっと前、人間はこの世界に突然生えてきたゆっくりを迎え入れようとしたさ。
だけどな、ソレは叶わなかったんだ」
「ど、どぼじで……?」
「それはな、お前ェらゆっくりが、オレ達人間を裏切って、手前ェらだけでゆっくりしようとしたからだろーがッッ!!」
「ゆ……。ゆぇええええええええええええええっ!?」
突拍子もない言葉に、子まりさは驚愕した。
塵袋編に続く
虐待 考証 自業自得 駆除 群れ ドスまりさ 希少種 現代 虐待人間 独自設定 これは英ゆんの物語ではない 暇つぶしにどうぞ
・善良なだけの子まりさが、ゆっくり過渡期を経た世界で、理想と現実の差に嘆き苦しみ絶望の果てにたどり着く話です。
英ゆん編・塵袋編の二分割仕様です。決してすっきりできる話ではありません。
・独自設定に基づいた世界観です。ゆっくりが悪い方向に可能性を広げた仕様です。
塵袋編では人類に対し極めて有害な部分が取り上げられますので御注意ください。
・英ゆん編は力無き正義が蹂躙される仕様です。ミ○ドスとかト○等と同系統の亜種設定虐待メインです。
暴力虐待描写・食うん描写多々、いかなるゆっくりも無下に扱われ、さなえとかにとりとかも酷い目に遭います。
・その他ネタ被り、独自設定、意味不明な箇所など書き捨て御免ということで。
・暇つぶしにどうぞ。話のネタにしてくれたら幸いです。
ドスはみんなでゆっくりしたい:英ゆん編
「むぎゃあああ!! もうじわげありまぜんでじだあああっっ!! どうがゆるじであげでぐだざいいいいいっっ!!」
子まりさはゆっくりできない気持ちを抱く。公園のゆっくり達を束ねる長ぱちゅりーの平身低頭ぶりに。
ビッタン、ビッタン、ビッタンと、地面に「おかお」を打ち付けながら「どげざっ」を繰り返す姿は、無様の一言であった。
窮地を打開するためとはいえ、あまりにもゆっくりしていない――。
そんな子まりさの想い空しく、長ぱちゅりーの前にいる「おにーさん」は、一際ゆっくりしてない様子を顕わにした。
「許してあげて、じゃねーッ! 人間にケンカ売ってタダで済ますつもりかよッ!!
掟破りがどうなるのか、ちゃんとゴミ袋共に躾けてるのかッ!? このゲロ袋ッ!!」
「むきゅううう!?」
長ぱちゅりーに突き出された「おにーさん」の「おてて」。
その先には1頭の子みょんが摘まみ上げられていた。
その子みょんは子まりさの幼馴染であり、つい先程まで一緒にゆっくりしていたのだ。
しかし、子みょんは厳守すべき掟を破ってしまったのだ。「にんげんさん」を襲ってはいけないという掟を。
「はにゃしぇみょぉぉん!! ひきょーもにょのくしょにんげんはゆっくちしにゃいでみょんをはなしぇみょぉぉん!!」
「みょ、みょん! ゆっくち! ゆっくちしちぇね! おにーしゃんも、ゆっくちしちぇね!!」
子まりさは互いに向けてゆっくりしようと訴える。それが事を収める最善の方法と信じて――。
子まりさも子みょんも公園で生まれて間も無く、親姉妹に先立たれた孤児である。
2頭のような身よりの無い「おちびちゃん」を、長ぱちゅりーは自らの「おうち」に迎え入れ、共に生活を営んだ。
時に自らの「しあわせー」を我慢して、群れのゆっくり達の生活を守る長ぱちゅりー。
その姿に、子まりさは少なからず影響を受けて育った。
この日、子まりさと子みょんは日向ぼっこをしながら夢を語り合った。
「まりちゃはいちゅか、ゆっくちもにんげんしゃんも、みんにゃがゆっくちできりゅ、ゆっくちぷれいしゅをつきゅりたいよ。
みんにゃでしあわしぇーになれりゅ、さいっきょう!のゆっくちぷれいしゅぢゃよ!」
「みょぉぉ……ん。まりちゃのゆめはでっきゃいみょん! みょんもめざしゅはさいっきょう!ぢゃみょん!!」
ゆっくりも「にんげんさん」も、皆がゆっくりできる最高の「ゆっくりぷれいす」。それが子まりさの夢なのである。
子まりさのゆっくりした夢に感化され、子みょんも自らの夢を高らかに紡ぐ。最高と最強を聞き違えていたが。
ここで、子まりさは俯き、夢を阻む要因を口にする。
「ぢぇも、にんげんしゃんはゆっくちにきびちいかりゃ、ゆっくちはゆっくちできにゃいよね……。どうしちぇ……」
「みょ! そりぇはにんげんしゃんがゆっくちをどくっしぇん!しちぇるかりゃにきまっちぇるみょん!!
にんげんしゃんはいじわりゅぢぇひきょーもにょぢゃみょん! くしょにんげんぢゃみょん!!」
群れのゆっくり達にとって「にんげんさん」は、ゆっくりする事を許してくれない忌むべき存在である。
ゆっくり達を不条理な掟で縛り、「ゆっくり」を求めていくら訴えても、まるで取りあってくれない。
食い下がれば耐えがたい痛みや苦しみを与えられ、最悪の場合には永遠にゆっくりさせられてしまう。
ゆっくりから「ゆっくり」を奪い、自分達だけでゆっくりしている。
群れのゆっくり達にとって、「にんげんさん」とはそういう存在であった。
自分達が被る全ての不遇は「にんげんさん」のせいである。
そう言葉を重ねる度に2頭の感情は膨れ上がり、子まりさの方は憂いが、子みょんの方は憤りが身体に現れる。
臆病な気性の子まりさに比べ、直情的な気性の子みょんは、たやすく感情に支配されてしまう。
こうなると子みょんは止まらない。子まりさは今さらに思い出したのだが、手遅れだった。
「ゆぅぅ! みょん、ゆっくちしちぇね! ゆっくちしちぇね!」
「そうぢゃみょん! みょんがゆっきちできにゃいにょも! みんにゃがゆっくちできにゃいにょも!
みんにゃみんにゃくしょにんげんのしぇいぢゃみょん!! ゆるしぇにゃいみょおおおおおんっ!!
…………みょ!?」
折り悪く、昂った子みょんの視界に入ったのは、見憶えのある「おにーさん」。
群れのゆっくり達が掟に従っているかを見張っている、とてもゆっくりできない「おにーさん」だ。
掟破りのゆっくりをゆっくりできない目に遭わせるし、その度に長ぱちゅりーは怒鳴られている。
子みょんでなくとも、群れの誰もが疎ましく思う存在であった。
「くしょにんげんは、ゆっくちしにゃいでたたっきっちぇやりゅみょおおおおおんっっ!!」
「まっちぇねみょぉぉん!! いかにゃいぢぇにぇぇぇぇっ!! ゆっくちぃぃぃぃっっ!!」
そこからは御覧じるままである。
子みょんは「おにーさん」に問答無用で襲い掛かり、容易く捕まえられてしまったのだ。
愛用の小枝「ろーかんけん」が全く歯が立たなかったというのに、子みょんの闘志は未だ衰えない。
長ぱちゅりーが必死の想いで駆け付けてくれたにもかかわらず、「おにーさん」に敵意を剥き出しにする。
今や子まりさや長ぱちゅりーだけではなく、公園に住むゆっくり達も物陰から様子を見守っていた。
ただし、子みょんを救い出そうとするゆっくりは、1頭たりとも進み出なかった。
「む、むきゅうううううっ!? みょ、みょん!! ゆっくりしないでおにーさんにあやまりなさい!!
とりかえしがつかないことになってしまうわああああっ!!」
「ゆっくちしちぇいっちぇね!! みょんも、おにーしゃんも、ゆっくちしちぇいっちぇね!!」
「ちーんぴょっ!! おしゃもまりちゃもほーけいちんぴょぢゃみょんっ!!
ゆっくちはじぶんのちかりゃでかちとりゅ、びっぐまりゃぺにしゅぢゃみょんっ!!
くしょにんげんっ!! そこになおりぇみょん! みょんがいましゅぐふにゃまりゃにしちぇやりゅみょんっっ!!」
途端、直立する「おにーさん」。ゆっくりしてないその姿は、子まりさがいくら身を伸ばしても届かぬ頂きだ。
子みょんを刺すように貫くその視線は、餡子を冷やす程ゆっくりできなかった。
「はいはいゆっくりゆっくり。……掟破りがどうなっか、躾け直す必要があるみてーだなァ。
判決出すからよく聞いとけッ! コイツ、死刑ッ!」
宣告が下った瞬間、子みょんの体は空中に放り出された。
子まりさの、長ぱちゅりーの、周囲のゆっくり達の思考が、止まる。
「おしょりゃをとんぢぇりゅみちゃいぢゃみょぉぉぉぉゆびゅぁあ゛っ!?」
子みょんは遥かな高みから放り落され、その小さな身体を地面に叩きつけられた。
ぺちょっ、という軽い音とは裏腹に、子みょんの右半身は衝撃で爆ぜていた。
「み゛ょ……! み゛ょ……! み゛ょ……!」
「…………ゆ……? ……ゆああああああああっ!? みょ、みょおおおおおおんっっ!!」
いち早く思考を取り戻した子まりさが、激痛に身を震わせる子みょんに跳ね寄る。
その子みょんを、暗い影が覆う。
「ホイ、執行!」
ぐちゃっ
再び子まりさの思考が停止した。瀕死の子みょんの姿が、影も形も無くなったのだ。
子みょんが居たところに屹立する「おにーさん」の「あんよ」。その先端が、白い花模様を踏み付けている。
子まりさには、ただそう見えた。
「……む、むきゅぁぁああああ!? みょ、みょおおおおおんっっ!! なんでごどおおおおお!?」
「…………ゆ? みょ、ん……?」
長ぱちゅりーの絶叫をたっぷり受け、子まりさはようやく我を取り戻す。
みょんはどこへ行ったのだろう?
未だ状況を解せず、慌てて視線を巡らすばかりの子まりさだった。
そして「おにーさん」は子まりさに目もくれず、長ぱちゅりーに向けて長い「あんよ」を持ち上げた。
「オラ、さっさと片付けろ」
「……む゛!? ゆぶっ!! えれえれえれえれえれ…………」
「ゆん!? おしゃ!! どうち…………!!」
ただならぬ長ぱちゅりーの気配に、思わず振りかえる子まりさ。
そうしてようやく、子まりさは子みょんの姿を見つける事ができた。
「……ゆ、ゆ、ゆんやあああああああああああああああっっ!!」
「おにーさん」の「あんよ」の裏。そこに子みょんはいた。
中身を残らず絞り出され、皮だけとなった死相は壮絶に歪んでいる。
黒いリボンのお飾りがなければ、誰も子みょんと認識できないほどだ。
変わり果てた子みょんの姿を間近で晒された長ぱちゅりーは、強烈な死臭をも嗅いでいたのだろう。
込み上げた嘔吐感に耐えられず、中身の白い生クリームを泡立たせながら吐き出していた。
「チッ! モタモタしやがって。後で始末しとけよ。また来るッ!」
「おにーさん」はそう言うと、嘔吐の止まらぬ長ぱちゅりーに「あんよ」の裏を押し付け、踏みにじる。
そして長ぱちゅりーの頬に子みょんの死顔がべったり貼り付いたのを確認すると、足早に公園の出口へ向かった。
「どぽじぢぇ……! どぽじぢぇ……!」
子まりさは泣いた。
痙攣する長ぱちゅりーの「おかお」に飾られた、子みょんの歪んだデスマスクを見て泣いた。
幼馴染を失った悲しさに、自分の無力さに、「おにーさん」の非情さに、世の中の無情さに、泣いた。
身を潜めている周囲の群れのゆっくり達も、小さな同族の死を悼み、すすり泣いた。
この公園に住むゆっくり達は、外に出る事を掟により固く禁じられているが、それ以前に外の世界を恐れていた。
公園の出入り口は近づく程にゆっくりの死臭が満ちており、ゆっくりは外に出る前に餡子を吐いて永遠にゆっくりしてしまう。
このため公園の外はゆっくりできない世界であると、皆の餡子に刻まれていた。
公園の外から食料を持ち込めないこの群れのゆっくり達は、いつも「ぽんぽん」を空かしていた。
草花については整然と保つ掟があり、好きに食べる事は出来ない。食べられるのは落ちているゴミや決められた種類の雑草だけだ。
そんな群れのゆっくり達にも、申し訳程度の狩場を与えられていた。
「さあ、ごはんさんをわけるのぜ! まずはおちびちゃんたちからだぜ!」
「じゅんばんはまもってね! よこはいりはゆっくりできないよ!」
公園内の静かな場所に点在する、ゆっくりよりずっと大きな、白い円筒状の「ごみばこさん」。
そこに「にんげんさん」達は「なまごみさん」を投げ捨てて行くのだ。
その「なまごみさん」が、公園に住むゆっくり達の貴重な「ごはんさん」なのである。
掟では「なまごみさん」を持ち出す事はできず、家族総出で狩場を訪れ、群れ単位で分けあって食さなければならない。
そして、何でも食べなければならない。
ゆっくりにとって致命的に辛い物はもちろん、腐った食べ物や明らかに食べ物ではない物体も、全てだ。
散らかしたままは許されず、カケラ一つ残さず「ぽんぽん」に収めるのが、群れのゆっくりに課せられた掟なのである。
もし雨が降ろうものなら、その日の食事は抜かざるを得ない。多量の水に弱いゆっくりにとって雨中の外出は致命的だからだ。
「なまごみさん」を「おうち」に持ち帰れない為、長雨が続く季節には群れのゆっくりが半数以上も減る。
このように、ゆっくり達が守る群れの掟は、徹底してゆっくりがゆっくりするための物ではなかった。
「つぎのおちびちゃんおいで! ゆぅ、おさのおちびちゃん、ゆっくりしていってね! おさはゆっくりしてるの?」
「ゆぅぅ……。あまりゆっくちしてにゃいよ……。きょうもおうちかりゃでりゃれなかっちゃよ……」
そのれいむは狩場を仕切るゆっくりの1頭である。群れ中の「おちびちゃん」が大好きで、子まりさも気に掛けられていた。
長ぱちゅりーは先日の一件以降、辛うじて生き延びたものの衰弱したきりとなり、身動きもままならない。
融通の利かない「おきて」は、長ぱちゅりーのような例外など案じられていないのだ。
子まりさは後ろめたいながらも、目前のれいむに懇願する。
「それぢぇね……、おしゃのごはんしゃん……。ゆうん、なんぢぇもにゃい……」
「しーっ!だよ! これはれいむからおさにだよ! ゆっくりしないでよくなるといいね!」
「あ、ありがちょうううう!!」
れいむが舌を使って、子まりさの帽子の内側に「ごはんさん」を詰める。情けが身に沁みた子まりさは、思わず涙をこぼした。
「ごはんさん」を持って帰る事は掟破りなのだが、狩場を仕切るゆっくり達は子まりさに便宜を図っていた。
「みたよー!! おさのとこのまりさはいつもずるいんだよー! おきてをまもれよー!!」
「そうよそうよ! おうちからでられずにずっとゆっくりしたゆっくりだっていたのよ! おきてやぶりはいなかものだわ!!」
「そうだよ! れいむにもごはんさんちょうだいね!!」
面白くないのは、掟を頑なに守ってきた古株のゆっくり達の、その一部。
愚直なゆっくりはただ掟を守るだけで、掟破りはゆっくりできないと感情的になるだけだった。
狩場を仕切るゆっくり達は、子まりさをなじる声に噛みつき、古株のゆっくり達と言い争いになる。
「おきてはまもらないといけないのぜ! でもつぎのおさがきまらないのにおさをうしなうわけにはいかないのぜ!」
「そのとおりだわ! おさがげんきになるのがいちばんよ! かんがえてものをいいなさい! このいなかものども!!」
「ふざけるなだぜ! だれだってゆっくりできないおきてなんかまもりたくないのぜ! れいがいはなしなんだぜ!!」
「ゆっくりしないでれいむにもごはんさんちょうだいねっ!!」
狩場を仕切るゆっくり達にしろ、現状維持を求める後ろ向きな発言なのは子まりさも感じていた。
長は「おにーさん」の矢面に立たされる為、誰もなろうとはしないのである。
大半のゆっくり達はこの言い争いを、事情を鑑みつつ見て見ぬふりを決め込んでいた。
「ゆぅぅぅ……! みんにゃ、ゆっくちしちぇね! ゆっくちしちぇね!」
狩場を仕切るゆっくり達と、古株のゆっくり達。その間で子まりさは困り果て、双方にゆっくりするよう求めた。
ゆっくりできない掟に振り回され、互いに罵り合う群れのゆっくり達。
掟はゆっくりをゆっくりさせる為にあるべきなのに。
子まりさがゆっくりできない想いに暮れた、その時だった。
「ゆああああっ!! ごみばこさんがたおれるのぜえええええっ!! みんなにげるのぜえええええっ!!」
ゆっくりが「なまごみさん」を手に入れる為には、「ごみばこさん」を倒さなくてはならない。
そして、空になった「ごみばこさん」は元通りに立て直さなくてはならない。これも掟の内である。
大きく重い「ごみばこさん」を倒して立て直すのは、成体ゆっくりが何頭も協力しなければならない重労働だ。
そして、倒すならともかく、立て直すに至っては何度も失敗を繰り返し、時に犠牲が生じざるを得なかった。
「「「「ゆんやあああああああああああっ!? こっぢにごないでえええええええっ!!」」」」
「ゆ? ……ゆああああああっ!?」
ゴロン、ゴロン、と唸りを上げて転がる「ごみばこさん」は、折り悪く子まりさ達がいる方向に向かってきた。
睨み合っていたゆっくり達は散り散りに逃げ跳んだが、状況を理解するのが遅れた子まりさはその場に立ちすくんでしまった。
子まりさに狙いを付けたかのように、弧を描いて転がる「ごみばこさん」。
その軌道上に、子まりさへ「ごはんさん」を分け与えたれいむが立ち塞がった。
「あぶないよおちびちゃぁぁゆぎゅりゅぶぁああああああああっっ!!?」
間一髪、れいむの身体は半ば潰されたものの、「ごみばこさん」は子まりさに達することなく停止した。
口から大量の餡子を吐き出して痛みに悶えるれいむに、子まりさは慌てて近寄る。
「れ、れいみゅぅぅう!! ご、ごべんなじゃいいい!! ゆっくぢじぢぇえええ!!」
「……よがっだ……。だいじょうぶだね、おぢびぢゃん。……ぶべぇえっ!!」
「ゆんやあああああっ!! ゆっくぢじぢぇね!! ゆっくぢじぢぇね!!」
れいむの口から再び餡子が溢れ出す。そのゆっくりできない様に、子まりさはれいむの死を感じ取り、泣き崩れた。
それでも尚、れいむはゆっくりとした表情を浮かべた。
「れいむは、もうだめみだい、だよぉ……。せっがぐだがら、おぢびぢゃんに、みんなにおいじぐだべでもらうね。
ゆっぐりじでいっでね、おぢびぢゃん……。ざ、あ、おだべ、なざい」
そう言った途端、れいむの身体は真っ二つに割れた。ゆっくりの不思議のひとつ、「おたべなさい」である。
ゆっくりした面持ちのれいむの死骸を前にして、子まりさは何も述べる事ができない。ただ涙がこぼれるばかりだ。
そこに、狩場を仕切るゆっくり達が集い、涙を流しながられいむの身体を取り分け、群れのゆっくりに分け与えていく。
ゆっくりを埋葬する事も掟により許されていない。死骸もまた、貴重な食料なのである。
「どぽじぢぇ……! どぽじぢぇぇぇ……!」
子まりさは泣いた。
黙々と解体されて食べられていくれいむを見ながら泣いた。
ゆっくりしているゆっくりの呆気ない死に、自分の迂闊さに、掟の理不尽さに、世の中の無情さに、泣いた。
群れのゆっくり達もまた、分け与えられたれいむの身体を食べながら、すすり泣いた。
子まりさ達が住む公園は、ゆっくりの視点でも四方を囲む高い塀が見渡せる、その程度の広さである。
そんな公園の一角にも、ゆっくり達が飲んだり身を清められる水を湛えた、小さな「おいけ」があった。
便意を催した子まりさが、ゆっくりしないで「おいけ」のほとりにたどり着くと、そこの住人が日向ぼっこをしていた。
「ゆっしょ! ゆっしょ! ゆふぅ、ゆふぅ。……ゆっくりしていってね!!」
「ゆ? ゆっくりしていってね!! ……やあ、めいゆー!」
赤ゆ言葉の抜けた子まりさの挨拶に、成体に至らない若いにとりが笑顔で答える。子まりさの幼馴染の1頭だ。
にとりのゆっくりした雰囲気に、子まりさはここを訪れた理由で申し訳ない気持ちになってしまう。
「ゆ、ゆゆぅ、にとりぃ、あの、そのね……」
「わかってるよ、めいゆー。おきてだからね。いつでもいいよ」
「ご、ごめんなさい、にとりぃ」
子まりさはプリンと揺れる尻をにとりに向けると、力んでいた「あにゃる」を脱力させる。
途端に、ひり出される古い餡子。
「うんうん、でるよ……。すっ……ぐっ!」
「すっきりー!!」と大声で叫びたい衝動が溢れそうだったが、唇を噛み締めて子まりさは堪える。
それをにとりの前で言う事は、子まりさにはできなかった。
「ゆっくりいただきます! ……ゆ、ゆっぐぇ……。げろまずー……」
にとりは子まりさがひり出した「うんうん」を舌ですくい、一口で飲みこんだ。
これが、この池に住むにとり達に課せられた掟なのだ。
この群れのゆっくり達は、公園内で用を足したら自分で食してしまわねばならなかった。
たとえ自らの「おうち」内であろうとも公園の一部。掟に従って自分で始末しなければならない。
唯一設けられた例外は「おいけ」の水際での排泄である。
「おいけ」にはにとり種が住まわされ、「おいけ」から離れる事を許されず、美観を保つ掟を強いられた。
そうなれば当然、ゆっくり達がひり出した「うんうん」も片付けなければならない。
にとり達はそれ以外の「ごはんさん」をロクに得る事ができない。食せざるを得ないのだ。
そうして他ゆんの「うんうん」を食べては自らの「うんうん」とし、柵で仕切られた水流の出口で流していた。
「ぺーろぺーろっ! ほらっ、きれいになったよ、めいゆー」
「ゆぅぅん。ありがとう、にとり。いつもごめんなさい……」
「あにゃる」の汚れを落としてくれたにとりに、はにかみながらお礼を言いつつ謝る子まりさ。
2頭は池の波打ち際で、すーり、すーり、と肌を合わせた。
群れのゆっくり達はにとり達を汚らわしく思っており、にとり達を嘲笑ってちっぽけな「ゆっくり」を得る者もいた。
しかし子まりさは、にとり達のお陰で池の周りがゆっくりしているのだと長ぱちゅりーに教えられ、敬意すら抱いていた。
にとりにしても、自分達に近づいてくる変わり者の子まりさだけが、唯一の「めいゆー」なのだ。
「にとりはなにかたべたいものある? こんどおさにたのんでみるよ」
「ゆうん、だめだって。おきてやぶりはゆっくりできないよ。めいゆーもゆっくりできなくなるよ。
……でも、いちどでいいからきゅーりさん、たべてみたいなぁ」
このにとりに限らず、「おいけ」のにとり達は「うんうん」やゴミ以外を殆ど食べた事が無い。
にとり種にとって「きゅーりさん」は「あまあま」に等しい存在なのだ。
未だ見ぬ「きゅーりさん」を想うにとり。そのゆっくりした表情に、子まりさも釣られてゆっくりする。
「れいむの!」
「ありすの!」
「「すーぱーうんうんたいむ、はじまるよっ!!」」
「「「はじまりゅよ!!」」」
突然響いた大声に驚く子まりさ。「おいけ」の対岸に目をやると、れいむとありすの一家が用を足しに来ていた。
すると、にとりの家族達が「おいけ」中から集まってきて、れいむ達の尻の前で待ち構える。
「ごめん、めいゆー。にとりもいくね。きゅうりさん、きたいしないでまってるよ」
にとりは子まりさから名残惜しそうに離れ、「おいけ」を渡って家族と合流した。
子まりさは気付く。「うんうん」をひり出しながらゆっくりするれいむ達の目つきは、にとり達を見下している。
「どぼじで……! どぼじでぇ……!」
子まりさは泣いた。
見下されながら「うんうん」を口にするにとりから目をそらし、逃げながら泣いた。
幼馴染の不遇に、不遇な同類を嘲笑するゆっくりの性根に、それらを強いる掟の存在に、世の中の無情さに、泣いた。
にとり達は次々訪れるゆっくり達の「うんうん」を食べながら、すすり泣いた。
ゆっくりできない世界から公園に入って来る「にんげんさん」は、やはり群れのゆっくり達から恐れられていた。
公園の日の当たる場所は「にんげんさん」が往来し、ゆっくり達を邪魔者扱いして独り占めしていた。
木陰でぼうっと青空を眺めていた子まりさの前で、「おさんぽ」中であろうゆっくりの家族と「にんげんさん」が鉢合わせる。
「うわッ! ゆっくりじゃねーか。気持ちワリッ!」
若いまりさとさなえの夫婦、その子供達がまりさとさなえ1頭ずつのゆっくり一家。
一家は整列し、「にんげんさん」に向け深々と「おつむ」を下げて、挨拶を送った。
「「「「ようこそいらっしゃいました、にんげんさん。
いつもゆっくりさせていただき、ありがとうございます。
つまらないところですが、どうぞゆっくりしていってくださいね」」」」
この群れのゆっくり達は「にんげんさん」に出会ったなら、必ずこの挨拶を行わなければならない。
群れの掟のひとつなのだが、どのゆっくりにとっても、自分の気持ちを欺くゆっくりできない行為である。
何一つゆっくりできないのに、何をゆっくりさせてもらっていると言うのか。
現にまりさとさなえの一家は、揃って苦虫を噛み潰した「おかお」を地面に向けている。
このため群れのゆっくり達は、「おつむ」を下げるのを嫌って茂みの陰などで静かに隠れている。
外出時は狩場に赴く時か、この一家のように「にんげんさん」の目を盗んで「おさんぽ」に出る時ぐらいだ。
もっとも、それだけが「にんげんさん」を避ける理由ではない。
「目障りなんだよッ!! どけやァッ!!」
「ゆげぇああああああっ!?」
「ゆびいいいいっ!?」
「ぢゅぶゅ!!」 「ぶじゃぅっ!!」
平伏したままの親まりさが、「にんげんさん」の「あんよ」に蹴り飛ばされた。
そして、あっという間もなく、親さなえも子供達も蹴り飛ばされる。子供達の身体は蹴られた瞬間に爆ぜた。
一家を蹴り飛ばすと、「にんげんさん」は足早にその場を去った。
「ゆぎっ! ゆぎぃっ! ざなえ、ざなえぇ、だいじょうぶなのぜぇ……!」
「ゆひぃっ! ゆひぃぃ……! おもにほっぺがいだいでずううう……! お、おぢびぢゃんは……!」
「おぢびぢゃんは、ざんねんだったのぜ……。またづぐればいいのぜ……。ゆっ、ゆぐっ……!!」
「そ、ぞんな……!! ひ、ひどいでず……。あんまりでずぅぅぅ……! ゆああああああああああああんっっ!!」
このように「にんげんさん」の中には、友好的で無抵抗なゆっくり達に、理不尽な暴力を仕掛けてくる者もいるのだ。
みんな頑張って掟を守ってるのに、「にんげんさん」はゆっくりしてくれない。
長ぱちゅりーが言うには、ずっと昔のさなえは「にんげんさん」に特に可愛がられ、ゆっくりしていたらしい。
それが今では、どのさなえも先程の親さなえの様に容赦なく暴力に晒され、悲しみに暮れる日々を送っている。
どうして「にんげんさん」は、ゆっくりとゆっくりしてくれないのだろう。
みんなでゆっくりすれば、もっともっとゆっくりできるのに。
「どぼじで……。どぼじで……」
子まりさは泣いた。
我が子の唐突な死に号泣するまりさとさなえを見ながら泣いた。
ゆっくりを襲う悲運に、「にんげんさん」の冷酷さに、叶わぬ自らの夢に、世の中の無情さに、泣いた。
まりさとさなえは、傷ついた身体で家路を這いずりながら、すすり泣いた。
「むきゅ……。そうね。なにもかもゆっくりにやさしくないわね。むりげー、だわね……。
でもね……。ゆっくりがこのこうえんでいきていられるのは、おにーさんの、にんげんさんのおかげなのよ……。
このおうちだって、いぬさんのおうちをおにーさんがあたえてくれたのよ……」
居並ぶ三角屋根の「おうち」のひとつ、長ぱちゅりーの「おうち」。
日が暮れれば、子まりさは常々思っている愚痴をこぼしては、長ぱちゅりーに優しくなだめられる日々を送っていた。
「……でも、でも、だれもゆっくりしてないよ。ゆっくりできないおきてのせいだよ。
どうしておにーさんは、ゆっくりにおきてをおしつけるの? どうしてにんげんさんはゆっくりしてくれないの……?」
もう何度も何度も繰り返された質問だ。
その質問の度、長ぱちゅりーは弱々しい身体を奮い、決って次の様に話しかけた。
「むきゅ……。にんげんさんは、ゆっくりしてるだけではゆっくりしてくれないからよ。
おきてをまもればにんげんさんはゆっくりしてくれるわ。ゆっくりりかいしてね……」
「そんなの、そんなのうそだよ! おきてをまもってもにんげんさんはぜんっぜん!ゆっくりしてくれないよ!!
だれもゆっくりしてないからにんげんさんだってゆっくりできないんだよ!
ゆっぐりでぎないおぎでは、もういやだよおおお……!」
曖昧な物言いで突き付けられた冷たい現実に、子まりさは反発し、涙ぐむ。
長ぱちゅりーは子まりさの絶望を見かね、今日も慰めを紡ぐことにした。
「むきゅ、もし、もしまりさがどすだったら、にんげんさんにみとめてもらうことができるかもね。
みんなでゆっくりできるかもしれないわね……」
「どずになっだら……、ほんどうに、ほんどうにゆっぐりでぎるの?」
「ええ、どすはとってもおおきくて、とってもかしこくて、とってもつよくて、とってもゆっくりしてるゆっくりなのよ。
どすだったら、きっとみんなをゆっくりさせることができるわ。……むきゅ」
「おしえて! どすのこと、もっとまりさにおしえて! まりさどすになりたいよ!!
どすになって、みんながゆっくりできるゆっくりぷれいすをつくるよ!!」
「むきゅきゅ、まりさはきっとどすになれるわ。ねむくなったらすーやすーやしてもいいわよ」
ドスの話を聞いた途端、悲しみに暮れていた子まりさは調子を取り戻した。
長ぱちゅりーは、子まりさが不満をこぼす度に現実を教え、涙をこぼす度にドスの話で慰めていたのだ。
ドス。ゆっくりの中のゆっくり、とてもゆっくりしてるゆっくり。
子まりさは、長ぱちゅりーが子守歌代わりに語るドスに想いを馳せ、ゆっくりとした気持ちを抱いて眠る事ができるのだ。
きっとドスになって、この世をゆっくりと「にんげんさん」が、みんながゆっくりできる「ゆっくりぷれいす」にする。
その想いは子まりさの中で膨らんでいった――。
メキッ! メリメリメリッ!!
「ゆ、ゆああああっ!? な、なんなのおおお!?」
全身を締め付けられるような感触に、子まりさはゆっくりできない目覚めを果たす。
慌てて周りを見渡す子まりさ。その眼には、朝焼けの淡い紅に彩られる公園の景色が映った。
「……ゆ?」
何時の間に「おうち」の外に出たのだろう? 隣に居るはずの長ぱちゅりーは?
子まりさが疑問に思ったところで、圧迫された「おしり」の辺りにムズムズとした感触が走る。
「……む、むぎゅ……。ぢゅぶれりゅううう……」
「お、おさあああ!? どぼじでおさがまりさのおしりでつぶれそうなのおおお!?」
驚いた子まりさは身体をよじり、自らを拘束するものを壊しながら抜け出し、そして驚いた。
子まりさを縛っていたのは、すっかり小さくなった「おうち」だったのだ。
そして「おうち」の残骸の中に、潰れかかった小さな長ぱちゅりーを見つけた。
「おざあああ! しっかりしてえええ!! どぼじでおちびちゃんになっちゃったのおおおおお!?」
「む、ぎゅぅぅ……。ぎゃくよ……。まりざが、おおきくなっだのよ……。
まりざ、ほんどうにどすに、なれだのね……。むぎゅ」
「ど、す? まりさ、どすになったの?」
そう言われれば、いつも見上げていた世界を見下ろす様に見ている事に気付く。
長ぱちゅりーだけではない。何事かと様子を見に来た群れのゆっくり達も小さく見える。
子まりさは自らの変化をゆっくり理解できた。
「ゆわあああ! どうしたんだぜえええ! おさのとこのまりさがでっかくなってるのぜえええ!」
「わからないよー! ぜんぜんわがらないよー!!」
「ゆっ! たいへんよぉ! とかいはなおさのおうちがあああ! おさがあああ!」
混乱するゆっくり達の叫びに長ぱちゅりーの事を思いだし、子まりさは慌てて「おうち」の残骸に向き直った。
長ぱちゅりーの身体は、体内の生クリームを絞り出されて平たくなっていた。
「ゆああっ! おざあああ! ごべんなざいいい! まりざのぜいでえええええ!」
「むぎゅ……。いいのよ、まりざ。……それよりも、よくききなざい。ぱぢぇはもうだめだわ……。
だからまりざ……いいえ、どすに、このむれをまかぜるわ……。どすがつぎのおざよ……。
おさはつらくぐるしいからまりさにはなってほしぐながったけど、どずならだいじょうぶ、かもね……」
「ぞんなぁ! おざぁ、もっとゆっぐりじでよおおお!!」
ザワッ、と周囲がざわめく。今や群れ中のゆっくり達が集い、固唾を飲んで見守っていた。
再びの静寂を待たず、長ぱちゅりーは言葉を繋ぐ。
「どすならきっとつぐれるわ。ゆっくりとにんげんさんがゆっぐりでぎる、ほんとうのゆっぐりぷれいずを……。
そこにぱぢぇがいられないのが……、ざんねんだわ……、むぎゅぅ……」
「ゆ! ゆっぐり! ゆっぐりじでね!!」
「だがら、みんなのいちぶになって……。ゆっぐりするわ。おいじぐたべでね……。
ざあ……、おだべなざい」
「おざあああっ!!」
長ぱちゅりーの平らな身体が、子まりさの眼前で二つに割れた。
子まりさは育ての親の死に泣き崩れそうになる。
だが状況は、ただ泣かせておいてくれはしなかった。
「……どす? あれがどす……? どすが、つぎのおさ……なのぜ?」
「ゆっくりにゆっくりをもたらす、ゆっくりのなかのゆっくり、ですか……?」
「ごみばこさんとおなじくらいでかくて! にんげんさんよりつよそうで! とにかくすごいゆっくりだみょん!」
「すごいよー! どすはほんとうにいたんだよー!!」
「おさがいっていたよ! どすがつぎのおさだよ!!」
「「「「「どすーっ! どすーっ! どすーっ!」」」」」
群れのゆっくり達の緊張が解け、子まりさの周囲から歓喜の声が上がる。
誰もが新しい長の誕生に、ゆっくりできない生活からの変化を期待し、子まりさの言葉を待ち構えていた。
この群れを託されたのだ。ドスとなった、この自分に――。
子まりさは自らの想いを皆に伝える決意を固めた。
「みんな……。ゆっくりしていってね!!!」
「「「「「「ゆっくりしていってね!!!」」」」」」
「みんなもきいてたとおり、まりさが、どすがこのむれのおさになったよ!
どすのゆめはこのせかいを、ゆっくりが、にんげんさんが、みんながゆっくりできるゆっくりぷれいすにすることだよ!
そのためにまずは、このこうえんをみんなのゆっくりぷれいすにするよっ!!」
「「「「「「ゆっくりぷれいすにするよっ!!!」」」」」」
「おきてはおにーさんとはなしあって、ゆっくりがゆっくりできるおきてをつくるよ!!
ちゃんとはなせば、おにーさんもゆっくりりかいしてくれるよ! しんぱいしないでね!!」
「「「「「「ゆおぉぉぉーーーっ!!」」」」」」
「おにーさんがくるまで。ゆっくりしたいことをどすにおしえてね。ゆっくりできないおきてをかえるからね!!
たとえば、ごはんさんはゆっくりできるものだけたべようね! ゆっくりできないものはたべないでね!
たりなかったらくささんやはなさんもむーしゃむーしゃしていいよ!! かってにはえてくるんだからだいじょうぶだよ!!」
「「「「「「ゆっくりりかいしたよっ!!」」」」」」
「おといれはもうおいけでしないでね! おいけはにとりたちのおうちだよ!
おといれはみんながゆっくりできるやりかたをかんがえようね!!」
「「「「「「ゆっくりりかいしたよっ!!」」」」」」
「それじゃあ、みんなでぱちぇをおいしくたべてあげてね、ひとくちずつだよ!!
おいしくたべたら、いっぱいゆっくりしていってねっっ!!!」
「「「「「「ゆっくりしていってねっっ!!!」」」」」」
自分の言葉に皆がうなずき、興奮し、ゆっくりしている。
群れの生活を司るゆっくり達も、古株のゆっくり達も、若いゆっくり達も、「おちびちゃん」達も、全員である。
熱気を帯びるゆっくり達の姿に、子まりさもまた高揚していた。昨日までのちっぽけな自分では考えられなかった事だ。
誰も異を唱える者はいない。自分の想いは皆が望んでいた物、すなわち正義。
子まりさは天啓を得たのだ。
「し、し、し、しあわぜ~~~~~~~っっ!!」
にとりは生まれて初めて「うんうん」以外の食事を口にし、喜びに震え、絶叫した。
ましてや食したのは、夢にまで見た「きゅーりさん」の欠片なのである。
涙やよだれに加え「うれしーしー」まで垂れ流すにとりの歓喜に、子まりさは心からゆっくりした。
「どす、ありがとう! めいゆーはやくそくをまもってくれたんだね。にとり、とっってもうれしーよっ!!」
「ゆぅ~ん! にとりがゆっくりしてくれて、どすもうれしいよ! これからもっともっとゆっくりできるからね!!」
「おいけ」で一生を終えるゆん生を強いられていたにとり達に、子まりさは陸地に上がるよう促したのだ。
最初こそ掟破りを恐れていたものの、ドスとなった子まりさの姿に安心したにとり達は境界を踏み越えた。
そのままにとり達を狩場まで連れ出した子まりさは、群れのゆっくり達と一緒に「ごはんさん」を分け合った、という次第である。
にとり達から「うんうん」の匂いがすると難癖をつけるゆっくりもいたが、子まりさはこう返した。
「にとりはくさくないよ! みんなとおなじゆっくりなんだよ! へんなこといってなかまはずれにしないでね!!
ゆっくりがゆっくりとゆっくりできないなら、にんげんさんとゆっくりなんてゆめのまたゆめだよっ!!
だれとでもゆっくりできるゆっくりぷれいすは、みんながゆっくりしないとはじまらないよ! ゆっくりりかいしてね!!」
「「「「「「ゆぉぉ~~~っ!! ゆっくりりかいしたよ!!!」」」」」」
強い調子で「ゆっくり」の大望を持ち出されれば、群れのゆっくり達はただ関心するばかり。
子まりさの言葉で思いを正したゆっくり達は、改めてにとり達を群れの一員に迎えたのである。
狩場周辺にはゆっくりできないとして食べられなかった物が無数に散乱し、気に留める者は誰もいなかった。
「ねえねえどす!! すくらんぶるだよ!! れいむうんうんがでそうだよ!!
おいけでうんうんできなかったらどこですればいいのおおお!? あにゃるがえまーじぇんしーだよおおおっ!!」
「そうだよー! ごはんさんをたべたらうんうんがでるんだよー!! これはうんっめい!なんだよー!!
どすはゆっくりしないでどうするかきめてよー!!」
「ゆゆゆ? ゆーん……」
ゆっくり達の訴えに、子まりさは悩んだ。これは自分が言い出した事に帰結する因果なのである。
今さら「おいけ」を「おといれ」に戻すなど以ての外であり、さりとて新しい「おといれ」などすぐに思いつくわけでもない。
ちなみに、「にんげんさん」用の「おといれ」は公園には存在しなかった。
「ゆ、ゆ、ゆ……!! も、げんか、い、だよ、お……! れいむの、うんうんたいむ!ふるばーすとだよおおおっ!!
ゆっぐぅぅんっ! ……す、す、す、ずっぎりぃぃ~~~~~っっ!!」
悩む子まりさの眼前で、便意を我慢できなかったれいむは、道のど真ん中で野太い「うんうん」をひり出してしまった。
その姿から、子まりさは悩みを打ち消す閃きを受け取った。
「そうだよ! うんうんはしたいときにするのがいちばんゆっくりできるんだよ!! がまんはゆっくりできないよ!
うんうんをたべるのはゆっくりできないから、あとでおにーさんにかたづけてもらおうよ!
いまはがまんしないで、みんなもゆっくりうんうんしてね!!」
「「「「「「ゆわぁぁ~~~~~いっ!! すーぱーうんうんたいむ、はじめるよっ!!」」」」」」
子まりさが促した直後から、公園内は色取り取りの「うんうん」で彩られていった。
公園を縦断する道に、緑の芝生に、樹木の袂に、ゆっくり達は思い思いの場所で排泄を行った。
群れのゆっくり達のゆっくりした姿に、子まりさは溢れんばかりのゆっくりを得た。
「え、ちょ、何……?」
「キャアアッ! どうしたのコレ!? 汚なッ!!」
「でけっ! 何あの……、ゆっくり……?」
悲鳴にも似た驚きの声に、子まりさは重々しい身体を返す。
公園の入り口付近には、何人もの「にんげんさん」達が集まっていた。
狼狽したのは群れのゆっくり達も同様である。何せゆっくりできない挨拶をしなければならないのだから。
しかし子まりさは、1頭だけ動じることなく、
「ゆっくりしていってね!!!」
「にんげんさん」を見上げ、大声で挨拶をした。
これには群れのゆっくり達も「にんげんさん」達も意表を突かれた形になり、黙りこんでしまう。
「みんなどうしたの? ちゃんとにんげんさんにゆっくりできるあいさつをしてね!!
もうゆっくりできないあいさつはしなくていいよ!! おにーさんとおきてをつくりかえるからね!!
みんな! よういはいい!? にんげんさんにごあいさつだよ! さん、はい!!」
子まりさの悠然とした物言いに、群れのゆっくり達は奮いたった。
もう「おつむ」を下げなくてもいい。ゆっくりした挨拶を送る事ができる。
群れ中のゆっくり達が、様子を伺う「にんげんさん」達に向けて、一斉に声を揃えた。
「「「「「「ゆっくりしていってねっっ!!!」」」」」」
それは公園外にまで響き渡る程の大音響となった。
子まりさの巨体に、群れのゆっくり達の身体に、ジーンと痺れるような達成感が残響する。
しかし「にんげんさん」達の反応は、子まりさが欲しいものとは縁遠いものだった。
「マジかよ。うぜー」
「はいはい回り道回り道」
「もうっ! 絶好の近道だったのに! 遅刻するじゃないっ!!」
「にんげんさん」達は踵を返して逃げ去った。
誰もが苦々しいという仕草をとり、とてもゆっくりしていなかった。
「……どうしてゆっくりしていかないの? どすたちとゆっくりしていけばいいのに……」
「みょん! きっと、どすにおそれをなしてにげたんだみょん! こしのぬけた、ほーけいちーんぽ!どもだみょん!!」
「さすがどすだぜ! たたかわずしてびくとりー!なんだぜ! このちょうしでにんげんさんをけちらしてしまうんだぜ!!」
「だ、だめだよ! にんげんさんとはたたかっちゃだめなんだよ!! いっしょにゆっくりするんだよ!!
どすがほんきをだしたら、にんげんさんがいたいいたいでかわいそうだからね!! ゆっくりりかいしてね!!」
「「「「「「ゆっくりりかいしたよ!!!」」」」」」
満場一致。子まりさの言葉に頷く群れのゆっくり達。
しかし子まりさは、逃げ出した「にんげんさん」の姿に、後ろ髪を引かれる思いをしばし引きずった。
その後も群れのゆっくり達は、公園内で思うままにゆっくりと過ごしていた。
もっとも掟で抑圧された反動からか、大概はハメを外すばかりの行いに至っていた。
パンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッ
「き、き、きもぢいいです~~~!! おてんとざまのしたでずっきりー、さ、さいっこう!でず~~~っっ!!」
「さなえはだいったんなのぜぇ! みんながみてて、まりさはちょっぴりはずかしいのぜぇ……!」
「じょうっしき!にとらわれてはいげまぜん!! どすがいいまじた!もうなにもがまんじなくていいんでずっ!!
おちびちゃんをたっくさんつぐって、みんなでゆっぐりするんでず~~~っ!! ゆんぉお゛~~~っっ!!」
先日「おちびちゃん」達を失ったまりさとさなえの夫婦は、芝生の上で「すっきりー」に勤しんでいる。
これまでの群れでは慢性的な食糧難の為、子作りは最低限に控える傾向にあった。
まりさとさなえも例にもれず、2頭の「おちびちゃん」を丹精込めて育て、そして一瞬で潰された。
今朝まで悲しみは癒えずにいたのだが、ドスの言葉に希望が芽生え、こうしてやり直しを決意したのである。
「ゆわぁぁ……。こんなまっぴるまから、みんながみてるまえですっきりーしてるよ。にとりのほうがはずかしいよぉ!」
「でも、とてもゆっくりしてるね。とっっってもがまんしてたんだよね」
本能剥き出しの「すっきりー」を遠巻きに眺める群れのゆっくり達に、にとりと連れ添って散策をしていた子まりさも合流した。
にとりのように羞恥心で「おかお」を伏せたり、興奮して「ぺにぺに」を勃起させる等、様々な反応を取るゆっくり達。
皆が一様にムズムズと我慢する様子を見て、子まりさは群れのゆっくり達に告げる。
「おちびちゃんはすっっごく!ゆっくりできるんだよ!! おちびちゃんがたっくさんいればたっくさんゆっくりできるよ!!
みんなもゆっくりすっきりしてね! たっくさんのおちびちゃんをみれば、おにーさんもきっとゆっくりするよ!!
どすはたっくさんのおちびちゃんのために、おにーさんにたっくさんのあまあまをよういしてもらうからね!!」
「「「「「「ゆわぁぁ~~~~~い!! すっきりーしておちびちゃんたっくさんつくるよ!!」」」」」」
直後、公園の至る所でゆっくり達の嬌声が響き渡った。
元から番いだったゆっくり達も、隣に居合わせただけのゆっくり達も、成体に程遠い子ゆっくり達までも、存分に身体を合わせた。
「ゆぅ~ん。にとりもへんなきぶんになっちゃたよぉ……」
今や子まりさの傍らに居たにとりまでも、モジモジと身を震わせている。
そして、自らも疼きを感じ始めた子まりさは、にとりに肌を擦りつけた。
「に、にとりぃ! どすたちも、その、しようか……」
「ゆぅ!? で、でも、だめだよ。にとりはすむばしょがちがうよ……。それにたっくさんよごれてるよ……。
どすにはもっとゆっくりしたゆっくりがおにあいだよぉ……」
「にとりはとてもゆっくりしてるよ! すむばしょだってどうにかなるよ!
だからにとりはどすのおよめさんになってね! へんじはいますぐでいいよ!!」
「め、めいゆ~ぅ……! にとり、どすのおよめさんになるよ! いっしょにゆっくりぷれいすをつくるよ!!」
こうして子まりさとにとりは一つに繋がった。
子まりさの「ぺにぺに」は、にとりの「まむまむ」に不釣り合いな大きさだったが、にとりは痛みに耐えて受け入れた。
その痛みも最初のうち、一体感の共有によってゆっくりした気持ちが広がっていき、2頭は本能のままに身体をぶつけ合う。
たちまち訪れる絶頂に、子まりさとにとりは声を揃えて歓喜の絶叫を放つ。
「「す、す、すすす、すっぎりぃぃ~~~~~~~~っっ!!」」
「「「「「「すすす、すっきり~~~っっ!!!」」」」」」
群れのゆっくり達も昂りの頂点にたどり着き、思い思いに絶叫した。
絶叫は木霊の様に公園内を駆け巡った。
子まりさはゆん生最高の「ゆっくり」を享受していた。
「しあわせー」に寄り添い合うのは幼馴染のにとり。その「ぽんぽん」には自らの「おちびちゃん」がいるのだ。
2頭の視界には、やはり新しい家族に希望と期待を寄せるゆっくり達の姿がある。
未だ幼く「すっきりー」に参加しなかった「おちびちゃん」達の、無邪気に遊んでいる声が届く。
群れのゆっくり達がこんなにゆっくりしている事は未だかつてなかった。
この「ゆっくり」を「にんげんさん」と。みんなと――。
子まりさは、想いは叶えられるという確信に、ゆっくりと浸るのだった。
「んほぉぉぉおっ! たかぶりがおさまらないわあああっ!! まりさあああああっ!!」
「ゆんやあああああっ!! れいぱーだあああああっ!! だずげでえええええっ!!」
突然の悲鳴に、子まりさは緊張する。
悲鳴のした方向を見れば、1頭のありすが「れいぱー」となって、主にまりさ種を追い回しているではないか。
もっとゆっくりしたいという気持ちを振り払って、子まりさは直立した。
「たいっへんだよぉ! れいぱーはゆっくりできないよ!!」
「どすぅ……」
「ごめんね、にとり。どすはありすをとめてくるよ! もどってきたらまたゆっくりしようね!!」
「わかってるよ、めいゆ……じゃなくて、あなただね、どす。いっしょにゆっくりしようね!!」
にとりの見送りを受け、子まりさは異変の元凶へと「あんよ」を急がせる。
群れの掟では、「れいぱー」は即刻殺さなくてはならなかった。
しかし子まりさは、殺したくなかった。ドスとなった今なら、ゆっくり話せば誰でも自分の過ちをゆっくり理解する。
その為にはいかに「れいぱー」となったありすの動きを封じるか。その方法を思索していた矢先――。
「んほぉぉゆぼびゅぽおおおおおっ!!?」
ありすの動きが封じられた。長い「あんよ」の下敷きになって。
予想外の事に驚き、子まりさは制止する。
長い「あんよ」の持ち主は、子まりさが待ちかねていた「おにーさん」だったのである。
「ゆ、ゆぅぅ!? おにーさん、ありがとー! ありすをとめてくれて……」
自分の意図するところを事もなく実行した「おにーさん」に、子まりさは改めて「あんよ」を進めようとする。
しかし、「あんよ」は動かない。身体自体が動かない。
「おにーさん」が纏うあまりにもゆっくりしてない雰囲気に、子まりさは近づくことができなかった。
「な、な、な…………、
なんじゃあゴラァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!?」
「おにーさん」が放った身を貫くような絶叫に、群れ中のゆっくり達はゆっくりした気持ちを打ち砕かれてしまう。
子まりさも例外ではない。ドスとなったはずの巨体が、小刻みに震えているのである。
「オラァッ!! 長のぱちゅりーはどしたァッ!! とっとと出て来いやゲロ袋ォッ!!」
これ程までに「おにーさん」が怒り狂う様を、子まりさは見た事が無かった。逃げ出してしまいたかった。
しかし、今やこの群れの長はドスとなった子まりさだ。
ドスになったからには大丈夫、きっと何もかも上手くいく。
先ずは「おにーさん」をゆっくりさせる。覚悟を決めて、子まりさは強張る「あんよ」で進み出た。
「おにーさん……。ゆっくりしていってね!!!」
「……なんだァ手前ェ……?」
「どすはどすだよ! どすはまえのおさのぱちゅりーがずっとゆっくりしたから、あたらしいおさになったんだよ!!
きいておにーさん!! どすはゆっくりとにんげんさんがゆっくりできる、ほんとうのゆっくりぷれいすをつくりたいんだよ!
そのためには、おにーさんとはなしあって、ゆっくりできないおきてをゆっくりできるおきてにしないといけないんだよ!
とりあえずありすのうえのあんよをどけてあげてね! はなしはそれからだよ!!」
「………………」
思った事を一気にまくし立てた為か、「おにーさん」は二の句を告げずにいる。子まりさはちょっぴり困ってしまった。
ちょっと難しかったのかな。もっと簡単な言い方が良かったかな。もしかしたら怖がってるのかもしれない。
そのような気を回しつつ、子まりさはジッと「おにーさん」を見上げ、返答を待った。
「ゆげぎゅえあああっ!! おもいっ!! おもいわあああっ!! ゆっくりしないでいなかくさいあんよをどけてえええっ!!
ぢゅ……! ぢゅ、ぶ、れ、りゅうううううっ!!」
突然、「おにーさん」の「あんよ」に踏み敷かれたままのありすが悲鳴を上げた。
慌てて視線を下げれば、ありすの身体に「あんよ」が深々とめり込んでいる。
半ば飛び出した両目をグルグル回し、口から「あにゃる」からカスタードクリームを絞り出されるありす。
あまりにもゆっくりできない光景に、子まりさは思わず叫ぶ。
「や、やめてね!! ひどいよおにーさん! ありすがつぶれちゃよおおおっ!!
ゆっくりしないであんよをどけてね!! いまならまだかんべんしてあげられるから!!」
ぶちゃあっ!!
子まりさが叫び終わる瞬間、ありすの身体は踏み抜かれた。
中身であるカスタードの大半を一瞬で絞り出され、ピクリとも動かなくなってしまった。
子まりさ率いる群れの一員が、自らの目の前で永遠にゆっくりしたのだ。
「……どう勘弁しないって? 特大ゴミ袋が、よォ……?」
「……ゆ? ……ゆ、ゆ、ゆあああああああああっ!? ありすうううううっ!!」
先程のゆっくりできない怒声とは打って変わった、重く静かな「おにーさん」の声。
子まりさは長となって初めて戦慄を覚えた。
ドスである自分を前にして「おにーさん」の態度は何一つ変わらないのだ。ドスの強さが解らないほど愚かなのか?
その「おにーさん」は、うろたえる子まりさなど眼中に無いが如く、ゆっくりしないで公園の中央に向けて歩み出した。
「ゆっ!? ま、まってねおにーさん! はなしはこれからだよ!! どこいくのおおおおおっ!!」
「…………」
「おにーさん」に追いすがる子まりさの動揺は膨らみ続ける。
「あんよ」を幾ら早めても「おにーさん」の背中を見上げ続けてばかりで、追い抜くどころか引き離されようとさえする。
さらに「おにーさん」は、進路上でゆっくりしていた群れのゆっくり達を容赦なく蹴散らしてしまう。
これ以上の犠牲者を出す前に、何としても「おにーさん」の注意を引かねば。
子まりさは一方的に「おにーさん」に話しかける。
「お、おにーさん! どすはむれのおきてをゆっくりできるおきてにかえたいんだよ!!
なまごみさんはゆっくりできないものでいっぱいだよ! ちゃんとゆっくりできるごはんさんをもってこなくちゃだめだよ!!
くささんやはなさんもすきなときにすきなだけむーしゃむーしゃできるようにしてねっ!!」
「…………」
「おいけはもうおといれにしないよ!! にとりたちがゆっくりできないからね!!
みんながゆっくりできる、とっっってもゆっくりしたおといれをよういしてねっ!!」
「…………」
「にんげんさんはゆっくりにいたいいたいするんだよ! いたいいたいはすごくゆっくりできないよ!!
ゆっくりにいたいいたいしたにんげんさんは、ゆっくりにいたいいたいされるおきてをつくってね!!
さんっばいがえしでいいよっ!!」
「…………」
「おにーさん、よろこんでね! むれのみんながたっくさんのおちびちゃんをつくったよ!!
たっくさんのおちびちゃんをみれば、だれだってすっっっごく!ゆっくりできるよ!!
いまのおうちだけだといっぱいいっぱいだから、いつもあったかくてすっごくひろいおうちをつくってね!!
それと、うまれてくるおちびちゃんのためにあまあまもよういしてね!! たっくさんだよっ!!」
「…………」
「それから……! ゆっと……! ゆっと……!」
「…………」
子まりさは懸命に追随しながら、常々考えていた構想を「おにーさん」の背中に浴びせかけ続ける。
そのどれもが、ゆっくりと「にんげんさん」が共にゆっくりできる、理想の「ゆっくりぷれいす」を描いたものである。
しかし、理想の何をもってしても「おにーさん」を止める事はできない。
そうこうしている内に、子まりさと「おにーさん」は、公園中央の芝生に踏み入った。
そこは先刻、群れのゆっくりの大半が子作りに励んだ場所である。
「まってなのぜ! まってなのぜぇおにーさん!! このさきはさなえとおちびちゃんがゆっくりしてるんだぜ!!
みんながゆっくりしてるんだぜ! こわいこわいはきちゃだめなんだぜぇぇぇ!!」
「…………」
さなえと共に真っ先に「すっきりー」に及んだまりさが「おにーさん」の前に立ちふさがった。
只ならぬ気配に不安を感じ、家族を守る為に勇気を振り絞ったに違いない。
しかし、「おにーさん」はまりさの制止には応じない。力強く真っすぐ歩み――、
「ぶぎゅううううっ!?」
進路を塞いでいたまりさの「おつむ」を踏み敷いて、そこで止まった。
そのままで、「おにーさん」は子まりさに「おかお」を向けた。とてもゆっくりしてない「おかお」を。
「……なァ、特大ゴミ袋サンは、群れの長、なんだよなァ。何で俺に無断で掟を変えようとか思ったワケ?
お前達ゴミ袋が、何の為にここに用意されたのか、ぱちゅりーから聞いてねェのかよ?」
「ゆ……? なんの、こと? どすたちはさいしょからこうえんにすんでるんだよ。
そんなこともしらないと、……ばかになっちゃうよ? ……しんじゃうよ?」
子まりさが言い終えた途端、まりさを踏んでいる「あんよ」が深く沈んだ。途端に醜く膨らむまりさの形相。
額に「おちびちゃん」を結実させたさなえは、夫の危機に悲鳴を上げる。
「ゆぶぶぶっ!? ぢゅぶれりゅうううううっ!!」
「ゆあああっ!? まりざあああっ!! どすはゆっぐりじないでまりざをだずげでぐだざいいいっ!!」
さなえは取り乱し、子まりさに夫の助命を乞う。その他のゆっくり達は、固唾を飲んで見守るしかできなかった。
もはや話が通じる相手ではない。今もまた群れの一員が永遠にゆっくりしようとしている。
長として、群れを守る為に、ドスの力を振るわねばならない。子まりさは覚悟を決めた。
「……おにーさん。ゆっくりしないでまりさからどいてね。
いまならまだまにあうよ。いたいいたいどころじゃないよ。ずっとゆっくりしちゃうよ……!」
「はァ? くだらねー妄想も大概にしろよ……。ゴミ袋に何ができンだよ」
「どすはぷくー!ぬきでおにーさんをせいっさい!するよ! ゆっくりしないでせいっさい!だよ!!
さあ、おにーさん! さっさとそのきたないあんよをまりさからどけてあげてね!!」
「やってみな。できるものならなァ」
「ゆうう! このわからずやぁぁあ!! どすは、どすは……! ずっとゆっくりさせたくないのにぃぃっ!!」
ぽよんっ!
「おつむ」から伝わる確かな感触。子まりさは己の勝利を実感した。
まりさを踏んでいた方とは反対側の「あんよ」に、渾身の体当りを仕掛けたのだ。
「おにーさん」は瀕死の境を彷徨っている事だろう。
自らの奮った力に怖れを抱いた子まりさは、目を開けられないまま悔いた。
「……ゆぅ、ごめんね、おにーさん。どすだって、ほんとうはたたかいたくなかったんだよ。
でも、きもちだけじゃなにもまもれないって、ゆっくりりかいしたよ……。たたかいって、むなしいんだね……」
ぶぢゃぁっ!
「ゆんやあああああっ!? まりざっ! まりざあああああっ!!」
「……ゆゆぅ!?」
さなえの絶叫に、自分に酔っていた子まりさは驚いて目を剥き、信じられない光景を目の当たりにした。
目の前で、まりさが「おつむ」を踏み抜かれて絶命しているのだ。
自らの「おつむ」から伝わってくる感触は、体当りを仕掛けた「あんよ」が健在である事に気付く。
何が起こったのか、全く理解できない。何よりも強いドスが、本気で相手を打ち倒したはずなのに。
呆然とする子まりさに、呆れたような「おにーさん」の言葉が降ってきた。
「……で、いつ制裁タイムが始まるんだ? 待ちきれねーから潰しちまったよ」
「ど、ど、ど、どぼじでどずのたいあだりをうげでへいぎなのおおおおおっ!?」
「お前ェ、自分が一丁前のドスだって本気で思ってたのか? 片腹痛ェ。自分を知らねーなら教えてやる。
……プチドスなんだよ、お前ェはなッ!!」
「………………ぷち………どす…………………?」
「そう、プチドスだ! ドスになれなかった思い込みの半端な出来損ないッ!!
良い所は毛の生えたような賢さだけで、デカいだけの図体をロクに使いこなせないトロくせーグズッ!!
飼いゆっくり全盛期に物珍しさで話題になったが、ドスらしい事は何一つ出来ねーパチモンなんだよッ!!」
「そ、そんな……! どすはどすだよっ!! へんなこといわないでねっ! ゆっくりできないよおおおっ!!」
「じゃあ実感してみろ。プチドスの大きさは帽子抜きで精々1m足らず、俺の股下程度だな。
対してドスはどんな奴でも俺を見降ろす程デカイんだ。……さて、お前ェはいつまで俺を、見・上・げ・て・ンだ?」
「ゆ? ………………ゆゆぅ!?」
子まりさは絶句した。
「おにーさん」を見上げていると言う事実は、自分は「おにーさん」より小さいと言う何よりの証だ。
言われたように、何よりも大きいドスならば「おにーさん」を見下ろす事ができるはずだ。それなのに――。
真実の自分。その一端を理解してしまい、子まりさは餡子が冷えるような想いを抱く。
「ゆるざなえっ! ゆるざなえ~~~っっ!! まりざをごろじだくぞにんげんは、ゆっぐりじないでゆるざなえぇ~~~っ!!」
夫のまりさを失ったさなえが、怒りで醜く歪んだ「おかお」で睨みながら「おにーさん」に吠えた。
それがいけなかった。次に「おにーさん」は、さなえの方に歩んでいったのだから。
事実を未だ受け止めきれない子まりさは、制止を求める言葉すら発する事ができなかった。
子まりさの眼前で、さなえが「おにーさん」の「おてて」に掴み上げられる。
「はなぜくぞにんげん~~~っ!! ざなえをゆっぐりじないではなぜえええ!
ゆっぐりじないでざなえのしんっばつ!をうげろおおおおおっ!! ぜったいにゆるざなえ~~~っっ!!」
「……オイ、特大ゴミ袋。お前ェ何のつもりで掟をひっくり返しやがった。聞いてやるから、ほざいて見ろ。
まぁ答えは知れたモンだがなァ」
「ざなえのはなじをぎげえええええっ!! ゆるざなえ~~~っ!!」」
このままではさなえも潰されてしまう。
群れの一員の危機に、子まりさはゆっくりしないで行動を迫られた。
幸いにして、「おにーさん」は子まりさの話に耳を傾けるというのだ。千載一遇、説得のチャンス到来である。
この好機を逃してはならない。真理をもってして事に臨む子まりさだった。
「そ、それは、おきてはゆっくりできないからだよ!! ぜんぜんゆっくりがゆっくりできないおきてばかりだよ!!
にんげんさんがゆっくりしてないのは、ゆっくりがぜんぜんゆっくりしてないからでしょお!?」
「…………」
「だからどすは! ゆっくりがゆっくりできるゆっくりぷれいすをつくるんだよ!!
ゆっくりがゆっくりしてれば、にんげんさんもゆっくりできるからね!! みんなでいっしょにゆっくりできるよ!!
これは、だいうちゅうのほうっそく!なんだよおっ!! こんなこともわからないおばかさんなのおおおおおっ!?」
全ての想いの根源を、子まりさは言葉に換え一気に解き放った。
ゆっくりがゆっくりすれば、みんなゆっくりできる――。これこそがゆっくりの全て、存在意義なのだ。
その真実真理を子まりさは、この上なく丁寧に、言葉を選んで、熱心に、「おにーさん」に語りかけた。
それなのに――、
「…………あー、オレオレ。……詐欺じゃねェ、古臭ェネタで遊ぶな。予定通り掃除器を運び込め。全部な」
さなえを小脇に抱えた「おにーさん」は、子まりさを見もしないで話をしていた。
鈍い銀色の小さな板に向かって、まるで居もしない誰かに話しかけているかのようだ。
渾身の説得を無視されて、子まりさは呆然とした。
「……おーし、ちょいと暇潰しすっかな」
「ゆるざなあああっ!? いだだだだだだだっ!! おもにおづむがいだいいいいいっ!!」
銀色の板を隠した「おにーさん」は、さなえを構え直す。
片方の「おてて」でさなえを鷲掴みにし、もう片方の「おてて」を茎の先端に寄せ――、
ぷちゃっ
そのまま「おちびちゃん」のひとつを潰してしまった。
流れるような一連の動きに、さなえも、子まりさも、群れのゆっくり達も、見とれて言葉を失う。
それもつかの間、我に返った者から順に悲鳴が上がる。
「ゆんやあああああああっ!? とってもきちょーなざなえにのおぢびぢゃんがあああああっ!!」
「ゆああああああっ!! どぼじでどすのむれのゆっくりできるおぢびぢゃんをつぶじぢやうのおおおおおっ!?」
「「「「「「ゆんやああああああああああああああっっ!!」」」」」」
「……お前ェ達ゴミ袋はな、コストダウンを図った循環型公園管理の為に用意されたんだよ。
平たく言うと、公園に毎日投棄されるゴミを片付けるのがお前ェらゴミ袋の存在理由だ。
実験重ねて受注勝ち取って、ギリギリまでゆっくりさせずに個体数調整して、2年近く続いてたのに、なァ」
「おにーさん」は誰を見るでもなく呟きながら、次の「おちびちゃん」を摘まんだ。さなえの悲鳴がひときわ甲高くなる。
もはや予断は許されない。子まりさは自分の力を信じ、究極の力を使う決断をした。
「やめてね、おにーさん。さなえとおちびちゃんをゆっくりしないではなしてね……。
どすは……、どすは、どすすぱーくをうつよっ!! おにーさんをえいえんにゆっくりさせるよ!!」
ぷちゃっ
「全部大無しだ。勝手に生えてきた特大ゴミ袋のせいでなァ。オラ、早く撃ってみろよ。ドススパークとやらを、よォ」
「ゆああああんっ!! もうやべでえええっ!! どずはゆっぐりじでないでざなえとおぢびぢゃんをだずげろおおおっ!!」
悠長だった。撃つと決めた時にはすでに撃っていなくてはいけなかった。
宣告に怯むことなく、「おにーさん」は3個目の「おちびちゃん」に「おてて」を伸ばす。
子まりさは自らの判断の甘さを責めながら、身体の奥底から沸き立ち煮えたぎった想いを、口から放つ。
「どすすぱーくっ!!」
……ぷちゃっ
「ゆがあああああっ!! おぢびぢゃんっ!! すでぎなざなえのおぢびぢゃあああああんっ!!」
「おにーさん」は3個目の「おちびちゃん」を潰した。何事も無かったかの如く。と言うか、何事も起こらなかった。
長ぱちゅりーが子守歌代わりに語ってくれた、必殺必勝の「どすすぱーく」が放たれなかった。
大口を開けたまま固まる子まりさに、「おにーさん」が吐き捨てる。
「言ったろ? お前ェはパチモンだって。ドススパークを撃つ能力なんか無ェし撃ち方も知らねェんだからな。
オラオラ、構わねェからどんどん撃って来いやァ!」
「ど、どどど、どすすぱーく! どすすぱーく! どすすぱーく! どすすぱーく~~~っ!!」
「このぐぞどずうううううっ!! ふざげでるんでずがあああああっ!! まじめにやりやがれでずうううううっ!!」
子まりさは「どすすぱーく」を連射した。何度も何度も撃った。しかし、煌めく光線は放たれなかった。
いよいよ、さなえの最後の「おちびちゃん」が、「おにーさん」に狙われた。
子まりさは「どすすぱーく」を撃ち続けた。両の「おめめ」に涙を滲ませながら。
ぷちゃっ
「……ゆ、ゆ、ゆぎゃあああああっ!! あらゆんがみになるべきざなえにのおぢびぢゃんがあああああああっ!!
このやぐただずのぐぞどずうううううっ!! ごろじでやるぅ! ゆっぐりじないでごろじでやりまずうううっ!!」
「どすずぱーぐ! どずずぱーぐぅっ! どずずば~~~ぐ~~~っっ!!」
最後の「おちびちゃん」も無慈悲に潰された。
さなえは怒りの矛先を子まりさに向け、その子まりさは泣きながら「どすすぱーく」を放ち続けている。
ドスである子まりさの無力さに、「おにーさん」の冷酷さに、群れのゆっくり達は新しい長に従ったことを心底後悔した。
目端の効くゆっくりは子まりさを見限り、その場を逃れて素知らぬふりを決め込もうとしたが――、
「ゆ、ゆ、ゆんやあああああっ!! まりさはゆっくりしないでにげるのぜ……。ゆええええっ!?」
「ゆ、ゆゆ、こ? ……ど、どど、どぼじでれいむだぢゆゆごにかごまれでるのおおおおおっ!!」
「な、なな、なんなんだよー! ぜんぜんわがらないよおおおおおっ!!」
事の成り行きを見守る為に集結していた群れのゆっくり達は、いつの間にか無数のゆゆこ達に囲まれていたのだ。
子まりさの身体に匹敵する捕食種ゆゆこ達を従えるのは、「おにーさん」と同じ「おべべ」を着ている「にんげんさん」達。
その1人が、「おにーさん」に声を投げかけた。
「包囲終了しましたっ! さっすが室長、注目度バツグンでしたよ。ゆっくり共は残らず囲いの中です!」
「取りこぼすなよォ! 犬小屋の中も池の中も徹底的にだ! ……さ、キリ良く暇潰しは終わりだ。オラッ!」
「おぞらをどんでるみだいでずうううううっ!!」
さなえは軽々と「おにーさん」に放り投げられた。
放物線を描いて落ち行く先は、大きく開いたゆゆこの口の中――。
ぼすんっ
「ゆゆ~~~! むっちゃむっちゃ~~~!」
「ゆっ……! ゆぎゃあああああ!! ざなえをだべないでぐだざいいいっ!! ざなえはきぢょうなんでずよおおおっ!!
ゆ゛ん゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!」
満面の笑みを浮かべながら、さなえを咀嚼するゆゆこ。
響き渡るさなえの断末魔に、群れのゆっくり達は身を凍りつかせたかのように固まった。
「ゆゆ~、こぼね~。ぷっっ!」
違和感を抱いてか、ゆゆこが吹き出した何かが、ゆっくり達の眼前で地面に転がった。
それは、さなえの髪に巻きついていた蛇に似たお飾り。その砕けた破片である。
群れのゆっくり達の誰もが理解しようとしていた。これが自分の運命だと。
「なーにが貴重だ、幾らでも作れるっつーの。未だ希少種気どりのゴミ袋が」
「「「「「「ゆ、ゆ、ゆああああ……!!」」」」」」
「最後に身の程を知ったか?ゴミ袋共。せっかくだから、今日はお前ェらゴミ袋の言い方に合わせてやる。
加工所の、スーパー一斉駆除タイムッ!! 始まるよォッッ!!」
「「「「「「ゆゆ~~~っ!!」」」」」」
「「「「「「ゆ゛ん゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっ!!!」」」」」」
「おにーさん」の掛け声で解き放たれたゆゆこ達の歓喜の声、続いて群れのゆっくり達の絶叫が公園を満たす。
飢えた獣の如く、ゆゆこ達は手前のゆっくり達を長い舌で絡め取っては、次々と口中で噛み下していく。
小さな小さな「おちびちゃん」達は、寄せられた口にまとめて吸い込まれていく。
群れのゆっくり達が抱いた希望は、絶望によって打ち砕かれていった。
数刻前まで理想の「ゆっくりぷれいす」だった公園は、今や阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
群れの仲間達が食べられていく。「ゆっくり」が失われていく。
抗う事も逃げる事も許されず、ゆゆこ達の「ぽんぽん」に飲み込まれていく群れのゆっくり達。
「どずずぱーぐっ! どずずぱーぐっ! どずずぱーぐっ! どずずぱーぐっ! どずずぱーぐぅっ……!!」
子まりさは、一心不乱に「どすすぱーく」を放っていた。涙を流しながら叫び続けていた。
「どすすぱーく」で「おにーさん」を、「にんげんさん」達を、ゆゆこ達を薙ぎ払い、起死回生の逆転劇を迎えるはずなのだ。
それなのに状況に介入すらできない。子まりさは孤立したような錯覚すら覚える。
「……どす~~~っ!! どす~~~っ!!」
そのとき、子まりさを呼ぶ声が聞こえた。子まりさは「どすすぱーく」を撃ちながら視線を巡らし、声の主を探し当てた。
我が妻となったばかりのにとりが、方々に跳び回るゆっくり達の中から子まりさに近づいてくる。
ゆっくりと這いずりながら、狂乱するゆっくり達に何度もぶつかられ、何度も踏まれていた。
水棲種であるにとりは、陸上おいては這いずる事しかできない程に移動能力が低下する。
その上「ぽんぽん」には子まりさの「おちびちゃん」がいるのだ。
にとりは猶予が無い事を悟ったのか、自らの想いを子まりさに叫びかける。
「にとりはどすのおかげでゆっくりできたよ! うんうんしかたべられないゆんせいからすくってくれて、ありがとーね!!
どすはどすじゃなくても、さいっこう!のめいゆーで、いとしのだんなさまだよおおおおおっ!!」
「に、に、にどりぃぃ……!! ゆ、ゆああああああっ!?」
たった一ゆん、子まりさを慕い続けるにとりの声に感激する子まりさだったが、そのにとりの背後に迫るゆゆこの姿に戦慄する。
「ぽんぽん」に「おちびちゃん」を抱えたにとりでは、ゆゆこからは逃げられない。子まりさが見ても明白である。
子まりさはゆっくりしないでにとりを救う方法を思案し、そして、実行した。
「お、おお……! おにーざんっ!! おねがいでずっ!! もうやめでぐだざいいいいいっ!!
にどりを、むれのゆっぐりだぢをゆっぐりじないでだずげでぐだざいいいいいっ!! ごのどおりでずうううううっ!! 」
歯を食いしばり、「おつむ」を下げ、子まりさは傍らでほくそ笑む「おにーさん」に懇願した。
無力だった。「どすすぱーく」など幻想だった。自分だけの力だけでは、この窮地を脱する方法は無かった。
だから子まりさは、苦々しい想いを噛み締めて「おにーさん」に平伏する事を選んだのだ。
「オイオイ、もう音を上げたのかよォ、ド・ス。
根性見せろよ、なァドスさんッ! 群れの皆が大変ですよォ? フレー、フレー、ドースッ!」
「ゆっ……!? ぐぐっ……!! ゆがあああああっ!!」
ペチペチと撫でるように「ほっぺ」を叩いてくる「おにーさん」。
その猫撫で声は、子まりさをとてもゆっくり出来なくさせた。「おにーさん」はこの惨状を見てゆっくりしているのだ。
ゆっくりと「にんげんさん」がいっしょにゆっくりできる。これもまた幻想だったのか。
幼いころから心に描いてきた「ゆっくりぷれいす」の姿が、儚く霧散してゆくのを実感する子まりさであった。
「ゆゆ~~~!」
「ゆんやあああっ!? どずうううううっ!!」
自らを呼ぶ悲鳴に、子まりさは我に返った。
振り返れば、にとりがゆゆこの長い舌に絡め取られている。この間合いでは、近づく前ににとりは食べられてしまう。
無駄だと理解していても、やらねばならなかった。
「どずずぱーぐっどずずぱーぐっどずずぱーぐっどずずぱーぐっどずずぱーぐっどずずぱーぐっどずずぱーぐぅぅっ!!」
息もつかせぬ「どすすぱーく」の連射を、にとりを捕らえたゆゆこに浴びせかける。
しかし、必死の思いを込めても尚、窮地を覆す光条は現れなかった。
涙を撒き散らしながら叫び続ける子まりさに、にとりはゆっくりと微笑みかけた。
「ありがとー、どす。ゆっくり……していってね!」
「どずずぱーぐっどずずぱーぐっどずずぱ……!!」
別れの言葉と共に、にとりの姿はゆゆこの口内に消えてしまった。
大口を開いたままの姿勢で、子まりさの身体と思考は強張ってしまい、微動だにしなかった。
そして――、
「ゆぎゃあああっ!! いやだっ!まだじにだぐなぎぴいいいっ!? もっどゆっぐぢじだいいぎゃぢゃあああっ!!
ゆっぐぢっ……! ゆ゛っぐ、ぢ……! ゆ゛っ…………」
ゴクリッ
未練を込めたにとりの断末魔によって、子まりさはゆっくりと我に返った。
将来の「ゆっくり」を誓い合った、最愛のにとり。理想の「ゆっくりぷれいす」を担うはずだった「おちびちゃん」。
それが目の前で、跡形もなく食べつくされてしまった。無くなってしまった。
失った「ゆっくり」の換わりに餡子の奥底から湧き上がる、身体を焼くような感情を、子まりさは絶叫に変えた。
「ゆ、ゆ、ゆ……、ゆがあああああああああああああああああっ!!! にどりにどりにどりいいいいいいいいいっ!!
ごのぐっそじじいいいいいっ!! ゆっぐりじないでごろじでやるうううううっ!!」
日々を嘆きながら育った子まりさが、生まれて初めて抱いた感情。それは怒り。
子まりさは怒りの化身となって「おにーさん」に襲い掛かった。ほぼ這いずる様に跳ねながら。
「ちったァ見れるツラになったじゃねェか。だがなァ――」
どぼぉっ!
「ゆっぶびゅうううううううううううっ!!?」
子まりさに一切怯むことなく、「おにーさん」は長い「あんよ」で子まりさを蹴った。
「ぽんぽん」に深くめり込んだ「あんよ」がもたらす激痛に、身体に満ちていた怒りもかき消える。
一瞬の硬直を経て、子まりさの身体が蹴られた方向に跳ね転がった。
「ゆっぎゃあああああっ!! いだいいだいいだいいいいいっ!! おもにぽんぽんがいだいいいいいっ!!
いだいよおおおおおおおっ!! ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛っ!!」
「反応遅っせ! そのブ厚い皮じゃなかったら穴ァ空いてたぞ。ホント救えねェトロカスだな。
オラ、根性無し。もう終わりかッ!?」
争い事を避けて育った子まりさには苦痛を堪える根性は無く、何よりプチドスの身体は重荷以外の何でもなかった。
衝撃をまともに身体で受け止めた子まりさは、初めて体験する激痛に身悶え、転げ回るしかできないのだ。
「いだいいいっ!! いだいいだいはゆっぐぢできないいいっ!! いだだだいだいいいいだいいいいい!!
………………ゆ?」
不意に子まりさは気付いた。痛みが和らぐような、こそばゆい感触が身体を這い回っている。
それを確かめようと辺りを見まわした刹那、子まりさは餡子が凍りつくような想いを抱いた。
「「「「「「ゆゆ~~~!」」」」」」
「ゆ、ゆ、ゆゆごだあああああああああああああああああっっ!!」
身体を這い回っていたのは、子まりさを取り囲んだゆゆこ達の長い舌だったのだ。
ゆゆこ達は味を値踏みするように、子まりさの全身を舐め上げていた。
恐怖で震えあがる子まりさを見下す「おにーさん」に、「にんげんさん」が駆け寄ってきた。
「室長! 公園内のゆっくり共はプチドスを残して全部片付きました。犬小屋の中で身動きできなかった奴も残らずです」
「おっし。そんじゃあゴミ袋がばら撒いたクソも残らず片付けてさせてくれ」
「そのプチドスどうします? やっぱり踊り食いっスか?」
「ゆひぃぃっ!? やぢゃやぢゃやぢゃあああああああっ!! どずはまだじにだぐないよおおおおおっ!!
じにだぐないよおおおおおおおおおおおおおっっ!!」
プチドスの巨体で、子まりさは子ゆっくりの様に泣き叫んだ。ドスとしての見栄も誇りも失って。
その無様を一瞥し、「おにーさん」は方針を決めた。
「コイツは……連れて帰る。ゴミ袋のままにしろ始末するにしろ、もうちょい身の程を解らせねーとな」
「どうなんスかねぇ。大きくなった分だけ並みのゆっくりよりは利口かもしれませんが」
「ンじゃ、後頼むわ。……オラァッ! こっち来いやァ、ウスノロッ!!」
「ゆ!? ゆあああああっ!? ひっぱらないでえええええっ! ぢぎれりゅうううううっ!!」
怯えていた子まりさは、三つ編みのお下げを引き抜かれそうな痛みに我を取り戻した。
「おにーさん」がお下げを引っ張りながら歩き出したのだ。
抵抗してお下げが千切れる自体を怖れ、子まりさは「おにーさん」の後をゆっくりしないで這いずった。
「ホラホラッ! さっさと片付けなさい! さっき食べたのと同じでしょ! モタモタしてると加工ライン行きよ!」
「ゆ、ゆゆ~~~……。げろげろ~~~……」
「おにーさん」の仲間の「おねーさん」が、嫌がるゆゆこを「おてて」で引っ叩いていた。
群れのゆっくり達を平らげたゆゆこ達は、公園中にひり出された「うんうん」や散らかったゴミも食べさせられていた。
ゆっくりできない匂いや感触に「おかお」を歪め、涙を滲ませながら食べさせられていた。嫌がって何度も何度も叩かれていた。
その空虚な光景を横目で見ながら、子まりさは悲しみに暮れた。
「どぼじでぇ……! どぼじでえええええ……!」
子まりさは泣いた。
群れのゆっくりが消え去ってしまった公園を見ながら泣いた。
共にゆっくりしたかったにとりや仲間の死に、自分の勘違いに、「にんげんさん」との力の差に、世の中の無情さに、泣いた。
群れのゆっくり達を食べたゆゆこ達もまた、ゆっくりできない物を無理矢理食べさせられ、泣いていた。
「……ゆっ! ゆっ! のーびのーび! のーびのーびっ!」
群れを失ってから数日、子まりさは加工所のとある一角に連行されていた。
そこは固い壁に囲まれた、温もりの感じられない殺風景な部屋。
子まりさはあの日以来、「おにーさん」達に途轍もなくゆっくりできない目に遭わされてきた。
「のーびのーびっ! のーびのーびっ! ……もうすこし、だよ」
「おつむ」のはるか上、天井から吊り下げられている大事な大事な帽子のお飾り。
戦うにも逃げ出すにも何をするにも、ゆっくりできるお飾りが無ければ始まらない。
子まりさは朝が来る度、必死に「のーびのーび」しながら舌を伸ばし、もう少しで届きそうな所まで身体を伸ばすのだ。
だが、必死の表情を浮かべる子まりさは、部屋に入ってきたゆっくりできない気配に気づいていなかった。
「きめェッ!」
ドムゥッ
「ゆっぼびゅぶぼおろおおおおおおっ!?」
「おにーさん」は部屋に入って来るや、自分の身長よりも身体を伸ばしていた子まりさに回し蹴りを見舞った。
途端、「く」の字に折れ曲がり、床に崩れる子まりさの身体。
伸びたままの身体が激痛でグニョグニョとのたうち回る。
「毎日毎日芸がねーなッ! 何時までやってやがるゴミ袋ッ! 早く元に戻らねーと、ねーじねーじしてやるぞッ!!」
ドボォッ
「ゆぢゅばぶぁぎゃあああああっ!!」
再び子まりさの身体に蹴りを放つ「おにーさん」。子まりさの身体は「ひ」の字に折れ曲がり、激痛で小刻みに震えた。
プチドスとなってからの毎日。それは「ゆっくり」とはまるで無縁の日々である。
「も、もうやべでぐだざいいいいいっ!! どずはいだいいだいいやなんでずうううううっ!!」
「未だにドス気分かよ。お前ェは特大ゴミ袋だろうがッ!!
……それよりだ、アレは何だ?」
「ゆ……、ど、どずの、うんうん、でず……」
「おにーさん」が指差した先。そこには子まりさがひり出した「うんうん」が放置されている。
「ごはんさん」も「おといれ」も用意されず、「うんうん」したら自分で食べる掟をここでも強いられていた。
しかし、「ゆっくり」を渇望していた子まりさは、昨晩の排便でささやかな「ゆっくり」を得、そのままにしていたのである。
「ヤレヤレだ。やはり物解りの悪いゴミ袋には、身体に教える教育が必要だなァ……!」
今日も「おにーさん」はロッカーを開き、中から固い棒状の得物を取り出し、元通りの縦長饅頭体型をとった子まりさに迫る。
その得物は金属バット。子まりさはこの凶器で毎日のように殴られ続け、その威力が身体に沁みていた。
「ゆ、や、いやだあああああっ!! いやだあああああっ!! きんぞくばっとさんはゆっくぢでぎないいいいいっ!!
たべます!! うんうんだべまず!! だがら、がんべんじでぐだざいいいいいっ!!」
「謝るぐらいなら、最初から掟を守れってんだよォッッ!!」
「ゆぁぎゃあああああっ!! あぎゃああっ! ぶぢゃあっ!! ゆだああああああああああああっっ!!」
目にも止まらない速度で振るわれる金属バットに対し、子まりさは抗う事などできなかった。
「おつむ」に、「ほっぺ」に、「ぽんぽん」に、「おしり」に、「あんよ」に、転げ回されながら与えられる痛打の数々。
思わず吐き出してしまう餡子の中には、砕けた歯も含まれていた。
金属バットの一撃は、本来ならゆっくりの身体では吸収しきれず、永遠にゆっくりする程の威力を持つ。
しかし、プチドスの図体は必殺の一撃にも耐え、代わりに身体が砕けるような激痛を存分に子まりさに与えるのだ。
子まりさが只のゆっくりであれば簡単に死ねたものを、プチドスであるが故に苦しみ続けなければならない。
殴られる度、子まりさは涙や「しーしー」を漏らしながら、赤ゆっくりの様に泣きじゃくった。
コンコン、ガチャッ
「室長! お楽しみ中のところスミマセン! 件の動物愛護団体ですが、やはり相当数のゆっくりを違法に所持しています。
警察官の突入後、証拠品として全てのゆっくりを確保するよう正式に要請がありました」
「フーッ、フーッ。バカヤロ、これも仕事のうちだ。ようし、勘違いヤロー共の泣きっ面、拝みに行ってやっか!
……おっと、忘れるとこだった。ほれ、オレンジジュースだ! 床を片付けておくんだぞ、ゴミ袋ッ!」
「ゆ゛っ! ゆ゛っ! ゆ゛っ! ゆ゛っ! ゆ゛っ!」
「おにーさん」は子まりさの身体を申し訳程度に治療すると、「にんげんさん」の後を追って部屋から出て行った。
このように、明るい間は仕事の手が空いた「おにーさん」に殴られ、蔑まれ、徹底的にゆっくりできなくされる。
今朝はまだマシなほうだ。日によっては何人もの「にんげんさん」も加わり、よってたかって子まりさを殴りつけるのだから。
「おにーさん」達が一斉駆除に出かける時は、戻ってくるまで休むことができる。しかしゆっくりはしていられない。
帰ってくるまではどこかでゆっくり達が駆除されており、帰ってくれば子まりさが殴られるのだ。
常にゆっくり達が苦しんでいるかと思うと、子まりさ一ゆんだけ取り残されても、決してゆっくりできなかった。
「ゆっぐっ……!! ゆげぇ! ぐるぇえええええっ!!」
子まりさは「おにーさん」の言いつけ通り、仕方なく自らひり出した「うんうん」を食し、そして吐き出した。
ここでもプチドスの身体が災いする。通常ゆっくりの数倍もの体躯を誇るプチドスは、排泄物もまた数倍なのである。
よって、子まりさは自らの山盛り「うんうん」に吐き気を催し、食べては吐いてを何度も繰り返した。
こんなゆっくりできないモノを、掟だと言い訳して毎日にとりに食べさせていた自分が情けなかった。
「うえっぶ……!! ……ゆ、ゆぐっ……、ゆえええええええええんっ……! ゆえええええええええんっ……!」
どうにか床をキレイにした子まりさは、ゴロリと身を横たえながら泣き崩れた。
ただゆっくりしただけなのに。みんなでゆっくりしたかっただけなのに――。
苛烈で残酷な仕打ちが、掛け替えの無い「ゆっくり」を打ち砕いてしまった。
どうにかしてゆっくりしたい。むせび泣きながら子まりさは、在りし日の公園の思い出に浸る。
「にどりぃ……、ぱぢゅりー……、みょん……、ゆえええええん……」
にとりと日向ぼっこをしていた頃が懐かしかった。
長ぱちゅりーと「おべんきょー」をしていた頃が懐かしかった。
子みょんと将来を語り合った頃が懐かしかった。
群れのみんなと共にいた公園が、懐かしかった。
――しかし、全ては失われたのである。子まりさに慰めの言葉をかける者は誰もいない。
ゆっくりできる思い出が一巡すれば、ゆっくりできない思い出が嫌でも思い出されてしまう。
「……ゆぅぅ。やべでね、やべでね! やべでねええええええっ!!」
目を懸命につぶっても、暗闇の中からゆっくり達の最後が次々湧き上がり、鮮明に蘇った。
ゆゆこに食べられたにとりの、さなえの、皆の断末魔。
プチドスとなった自らの身体に潰された長ぱちゅりーの、真っ二つになった姿。
「おにーさん」に踏み潰された、子みょんや群れの仲間達の無残な死顔。
「ごみばこさん」から身を呈して子まりさを守った、心優しいれいむの真っ二つになった姿――。
「ゆ……、ゆゆ?」
突然、子まりさの餡子に閃きが駆け巡った。
長ぱちゅりーの、真っ二つになった姿。心優しいれいむの真っ二つになった姿。
共にゆっくりした2頭の表情から、この窮地を逃れる方法を見いだした子まりさであった。
ガチャッ
「……ったくよォ、何がゆっくりは掛け替えのない命、だ。あの世間知らずのナルシスト共ッ! ……ん……?」
「おかえりなさい、おにーさん! ゆっくりしていってね!!」
「…………」
子まりさは「おにーさん」が帰って来るのを、部屋の中央で佇んで待ち続けていた。
そのゆっくりした姿勢は、「おにーさん」の言葉を一瞬失わせる。
「……オイオイ、随分と居直ってるじゃねーか。やっと自分がゴミ袋だって理解したのか?」
「まりさはごみぶくろさんじゃないよ! ゆっくりだよ! ゆっくりするためにいるんだよ!!」
「ンな簡単にいかねェよなァ。で、何かするつもりなのか」
「おにーさん」の質問に、ほくそ笑む子まりさ。
そのままの表情で、朝方の閃きを言葉にして伝える。
「ゆふふふっ。おにーさん、どすはね、もうぜんぜんゆっくりできないよ。だからね、おたべなさいをするよっ!
おたべなさいをすると、ゆっくりできるんだよ! どす、かしこくってごめんなさいっ!!」
「…………お前ェ、それ本気で言ってんのか?」
「どすはほんき!だよ!! さあ、ゆっくりみててねっ!!」
子まりさの閃き。それは長ぱちゅりーや心優しいれいむが死ぬ間際に行った「おたべなさい」である。
思い出に浸るうちに、気付いたのだ。二つに割れた顔の、とてもゆっくりしていた事に。
「おたべなさい」をすればゆっくりできる。子まりさは確信を得ていた。
また、これはゆっくりできない事ばかりを行う「おにーさん」に対しての意趣返しでもあった。
子まりさを虐めることが出来なくなって、きっと悔しがるだろう。
最後に勝つのは自分なのだ。子まりさはそう信じ、力強くその言葉を唱えた。
「さあ! おたべなさいっ!!」
子まりさは余韻に浸る。最後に「おにーさん」を出し抜き、勝利をもってゆん生を終えた事に。
「おにーさん」の、とてもゆっくりしてない顔たるや、無様もいいとこである。
そら、「おにーさん」の負け惜しみが聞こえるではないか。
「…………で、いつおたべなさいするんだ? やるなら早くしろ。出来なければ、解ってんだろうなァ?」
「ゆ゛ぅっ!?」
信じがたい言葉を聞いて、子まりさの身体がビクリと波打った。
慌てて視線を「あんよ」に向けて、子まりさは愕然とした。何も起こっていない――。
予想外の事にうろたえる子まりさに向けて、「おにーさん」はゆっくりと歩み始めた。ゆっくりできない気配を纏って。
「あのさァ、おたべなさいってよォ、ゆっくりさせたいからやるんじゃねーの?
何お前ェだけでゆっくりしようとするわけ? そんな不純な動機が許されると思ったわけ?」
「ゆ、ゆ、ゆあああ……! さ、さささ、さぁ! おたべなさいっ!
……どどど、どぼじでえええええっ!?
「お前ェ、俺に食べられたいとか、心から思った? これっぽっちも思ってねーよなァ?
おたべなさいって言えば死ねるって、都合のいいこと思いついただけだろォ?
……残ァん念ェん、でした」
「お、お、おたべなさいっ! おたべなさいっ! おたべなさいっ! おだべなざい~~~っっ!!」
まるであの日と同じだった。「どすすぱーく」が放たれなかった、あの滅びの日に。
圧倒的に無力な自分。絶望的な感情が餡子を冷やし、身体を震えさせる。
「おそろしーしー」を垂れ流して尚、子まりさは「おたべなさい」を唱え続けた。
「おだべなざいっおだべなざいっおだべなざいっおだべなざいっおだべなざいっおだべなざいっおだべなざいっっ!!」
「生憎とよォ、この世界はなァ……」
「おぢゃべなじゃいぃっおぢゃべなじゃいぃっおぢゃべなじゃいぃっおぢゃべなじゃいぃっおぢゃべなじゃいぃっっ!!」
「お前達ゴミ袋なんかによォ……」
「おぢゃべなじゃっおぢゃべなじゃっおぢゃべなじゃっおぢゃべなじゃっおぢゃべなじゃっおぢゃべなじゃっっ!!」
「都合良く出来てねェンだよォッッ!!」
「おぢゃべなおぢゃべなおぢゃべなおぢゃべ…………。いだだだだだだっだだだだあっだあっだっ!?」
子まりさは「おつむ」に走る激痛に目を剥いた。「おにーさん」が両の「おてて」で髪の毛を掴んで引っ張り上げたのだ。
痛みを逸らそうと「のーびのーび」で必死に身体を伸ばす子まりさ。
次の瞬間、「おにーさん」が放った膝蹴りが子まりさの眉間にめり込んだ。
「ゆぶばぁりゃあばらああああああああっ!?」
ブチリブチリと髪の毛が千切れる痛みもさることながら、「おかお」のど真ん中に受けた衝撃はとびきりの激痛となった。
子まりさは反射的に後ろに跳ね転がり、ゴロゴロと冷たい床をのたうち回った。
「おにーさん」はすかさず子まりさに跨り、マウントポジションからの鉄拳を躊躇なく振り下ろす。
「俺はな、御大層な綺麗ゴトを並べながら、自分だけ得しようとする無責任クズが、死ぬほど嫌いなんだよッ!」
どぶぅっ!
「ゆぎゅばぁああああっ!!」
「ソレが人間でも耐えがたいのに、オメーラ糞饅頭はソレに特化しやがった。存在自体がムカムカすンだよッ!」
どぶぅっ!
「いだ……! いだいぃ……ぎゃにゃああああっ!!」
「クズはクズらしいツラしてろってンだよッ!! こォの野郎ォおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
どぶっどずっどむっどぶっどずっどむっどぶっどずっどむっ!
「ゆぢゃjっ! だpfじょっ! sふぉjごjっ! kぢふgyっ! おぱwfぱっ!!」
その拳の一撃は、金属バットで殴られるよりも重く、餡子の芯を揺さぶられるほどの衝撃と苦痛を子まりさに与えた。
嵐のような暴力の前に、子まりさは圧倒的な力の差を痛感した。
「……ど、どぼじで……? どぼじでにんげんざんは、ごんなにづよいのに……」
「ハーッ! ハーッ! ……あァン?」
「ゆっぐり、りがい、じだよ……。にんげんざんは、ずっっごぐ、づよいよ。どず、ぜんぜんがなわない、よ。
ゆっぐりは、むりょぐ、なんだよ……。むりっげー……だよぉ」
「ほォ、少しは立場を弁えたよーだな」
吐いた餡子と涙と「しーしー」がぶちまけられた床の上。身体をグニャグニャに歪ませ痙攣しながら、子まりさは紡いだ。
激情した「おにーさん」に小一時間殴られ、覆しようの無い力の差を餡子に沁み込まされたのだ。
「……どずは、にんげんざんがうらやまじいよ。でも、ぞのずごいぢがらを、よわいゆっぐりをいじめるのに、づがうんだね。
にんげんざんは、ゆっぐりどいっじょにゆっぐりじないんだね。……ゆっぐり、りがい、じだよ。
どずが、にんげんざんだっだら、みんなでゆっぐりでぎる、ゆっぐりぶれいずをづぐっだのにぃ……」
子まりさは「にんげんさん」の絶大な力を理解した。苦痛を抱いて永遠にゆっくりする事を覚悟した。
それでもなお渇望するのは、想い描き続けた「ゆっくりぷれいす」の姿。
無念と皮肉を込めて、泣きながら子まりさが紡いだ言葉に、床にへたり込んだ「おにーさん」はゆっくり返答した。
「…………人間は創ろうとしてたさ、人間とゆっくりが共にゆっくりできる、ゆっくりプレイス」
「…………………………ゆ?」
「おにーさん」の穏やかな口調、意外な言葉に、子まりさは目を剥く。
意外過ぎて、その言葉の意味を全く理解できなかった。
「お前ェが生えてくるずっとずっと前、人間はこの世界に突然生えてきたゆっくりを迎え入れようとしたさ。
だけどな、ソレは叶わなかったんだ」
「ど、どぼじで……?」
「それはな、お前ェらゆっくりが、オレ達人間を裏切って、手前ェらだけでゆっくりしようとしたからだろーがッッ!!」
「ゆ……。ゆぇええええええええええええええっ!?」
突拍子もない言葉に、子まりさは驚愕した。
塵袋編に続く