ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko4315 8・小僧
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ankoss
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『8・小僧』 86KB
考証 仲違い 実験 独自設定 立て続けに失礼しました
考証 仲違い 実験 独自設定 立て続けに失礼しました
【小僧、お手伝いに身を入れるのこと】
※
現代社会をベースに、ゆっくり達が「奇妙な新種」として実在する世界だと思ってください。
ノリとしては、新種発見ブームが一段落した後みたいな感じです。
現代社会をベースに、ゆっくり達が「奇妙な新種」として実在する世界だと思ってください。
ノリとしては、新種発見ブームが一段落した後みたいな感じです。
※
anko1323 1・学者
anko1324 2・先輩
anko3853~4 3・小僧(前・後)
anko4274 4・旦那
anko4312 5・小僧
anko4313 6・ゆーか
anko4314 7・所長
今作 8・小僧
anko1323 1・学者
anko1324 2・先輩
anko3853~4 3・小僧(前・後)
anko4274 4・旦那
anko4312 5・小僧
anko4313 6・ゆーか
anko4314 7・所長
今作 8・小僧
と、連続しています。
どこから読んでも、それほど問題ないようにしようと努めたつもりですが、
過去作を読んでないと、よくわからない部分があるかもしれません。
けどまぁ、大事なところでもないと思います。
どこから読んでも、それほど問題ないようにしようと努めたつもりですが、
過去作を読んでないと、よくわからない部分があるかもしれません。
けどまぁ、大事なところでもないと思います。
ただし、今作は「7・所長」の直後のお話となっています。
※
設定に違和感を憶える場合もあるかと思いますが
「ああ、こういう世界なのね」と大らかな気持ちで見てくだされば幸いです。
設定に違和感を憶える場合もあるかと思いますが
「ああ、こういう世界なのね」と大らかな気持ちで見てくだされば幸いです。
「では、処分の方を済ませようと思うのですが……小僧くん、手伝ってもらえますか?」
室内プールから出て行く所長さんを見送ると、すぐに学者さんは、処分対象に選ばれた
ゆっくり共を処置室の一つへと運んでくれるようにと、頼んできた。
ゆっくり共を処置室の一つへと運んでくれるようにと、頼んできた。
「了解っす。運ぶだけじゃなく、処分自体も手伝いますよ」
「助かります」
「助かります」
「小僧」ってのは、俺のあだ名。この特定生物研究所で、結構長くバイトしてる。進学
してすぐ始めたから、かれこれ1年半くらい経つのかなぁ?
「学者さん」ってのも、あだ名。研究所で雇われてる正規の研究員だから、立場は俺よ
り上なのに、丁寧な喋り方で、いつも“頼む”って感じの言い方をする。研究員の中じゃ、
なんだかんだで付き合いが一番多くて長いんだから、俺なんかに遠慮することないと思う
んだけど。他の研究員さん達だって、バイト相手には命令っぽい言い方をする人がほとん
どだし。
そういう性格なのかなぁ?
まぁ、悪い気はしないけどね。
してすぐ始めたから、かれこれ1年半くらい経つのかなぁ?
「学者さん」ってのも、あだ名。研究所で雇われてる正規の研究員だから、立場は俺よ
り上なのに、丁寧な喋り方で、いつも“頼む”って感じの言い方をする。研究員の中じゃ、
なんだかんだで付き合いが一番多くて長いんだから、俺なんかに遠慮することないと思う
んだけど。他の研究員さん達だって、バイト相手には命令っぽい言い方をする人がほとん
どだし。
そういう性格なのかなぁ?
まぁ、悪い気はしないけどね。
「にしても所長、すげー感心してましたね。成功ですよね、これ?」
水上まりさの育成と、教育。そして、その性能向上。俺も結構手伝っただけに、所長が
高く評価してくれて、嬉しかったんだ。でも、学者さんは静かに首を横に振る。
高く評価してくれて、嬉しかったんだ。でも、学者さんは静かに首を横に振る。
「要求を満たせていないのですから、成功・失敗以前の話でしょう。今回、所長に見てい
ただいた水上まりさは、出来て当然だろうと思っていたことです。個人的に、得るものも
少なかった……研究を続けるための、時間稼ぎに過ぎなかったのかもしれませんね」
ただいた水上まりさは、出来て当然だろうと思っていたことです。個人的に、得るものも
少なかった……研究を続けるための、時間稼ぎに過ぎなかったのかもしれませんね」
学者さんがいう「要求」ってのは、『一緒に風呂へ入れるゆっくりの開発』ってものだ。
確かに、水上まりさじゃ一緒に風呂へ入るって感じじゃないかもしれないけど……
確かに、水上まりさじゃ一緒に風呂へ入るって感じじゃないかもしれないけど……
なんというか……学者さんは、いろいろと贅沢というか、高望みをしすぎというか……
出来て当然って、お湯の上でも平気な水上まりさなんてもの、普通考えないし、頑張って
作ったりしないと思うんだけど。
普通の水上まりさだって、未だにペットショップじゃ滅多に見かけないし、ネットでも
高値で取引されているくらいだ。
今回の成果なら、ペット向けに、きちんと教育する時間だって取れるし、野生のよりも
さらに水に強いんだから、たいしたもんだと思うんだけどなぁ。
難点と言えば……大人になった連中しか、売りに出せないことかなぁ? ペットとして
飼いたいってのは、育てたいっていう思いも含んでるだろうし。
まぁ、贅沢だろうが高望みだろうが、学者さん自身に向いているみたいだ。俺が文句を
言うようなことでもないだろうから、黙っておく。
出来て当然って、お湯の上でも平気な水上まりさなんてもの、普通考えないし、頑張って
作ったりしないと思うんだけど。
普通の水上まりさだって、未だにペットショップじゃ滅多に見かけないし、ネットでも
高値で取引されているくらいだ。
今回の成果なら、ペット向けに、きちんと教育する時間だって取れるし、野生のよりも
さらに水に強いんだから、たいしたもんだと思うんだけどなぁ。
難点と言えば……大人になった連中しか、売りに出せないことかなぁ? ペットとして
飼いたいってのは、育てたいっていう思いも含んでるだろうし。
まぁ、贅沢だろうが高望みだろうが、学者さん自身に向いているみたいだ。俺が文句を
言うようなことでもないだろうから、黙っておく。
それより、要求を満たす──風呂に入れるゆっくりなんて、本当に可能なのかと聞いて
みると、学者さんが珍しく表情を変えた。
悩んでる。
見るからに悩んでいる、難しい顔ってヤツだ。そこまで大変なんだ……
みると、学者さんが珍しく表情を変えた。
悩んでる。
見るからに悩んでいる、難しい顔ってヤツだ。そこまで大変なんだ……
「……困難です。いくつかプランを考えたのですが……どれも要求に添ってはいないんで
すよ」
すよ」
『一緒にお風呂へ入れるゆっくり』という言葉からは「飼い主が、可愛がっているペッ
トのゆっくりと、共に入浴する」、あるいはそれに近い状況が想定されていることが窺え
る……らしい。
人とゆっくりが、一緒に湯船に浸かること。
人の手で、ゆっくりを清潔に洗ってやること。
そして、ゆっくりがそれを望み喜ぶこと。
さらに可能ならば、ゆっくりに人の体を洗わせること。
……等々。
最低でも、湯船に浸かり、シャンプーや石鹸みたいな専用の洗剤でゆっくりを洗うこと
の2点はクリアしなければならない……って、ことらしい。
トのゆっくりと、共に入浴する」、あるいはそれに近い状況が想定されていることが窺え
る……らしい。
人とゆっくりが、一緒に湯船に浸かること。
人の手で、ゆっくりを清潔に洗ってやること。
そして、ゆっくりがそれを望み喜ぶこと。
さらに可能ならば、ゆっくりに人の体を洗わせること。
……等々。
最低でも、湯船に浸かり、シャンプーや石鹸みたいな専用の洗剤でゆっくりを洗うこと
の2点はクリアしなければならない……って、ことらしい。
この段階で、俺なんかは無茶苦茶な話だと思うし、学者さんもあれこれ難しく考えすぎ
じゃないのかと思ってしまう。
でも、確かに『一緒にお風呂へ』って言うのなら、そういうことになるのかなぁ。
じゃないのかと思ってしまう。
でも、確かに『一緒にお風呂へ』って言うのなら、そういうことになるのかなぁ。
「クライアントの言葉自体を、私は直接に聞いていません。ですが、所長から伝えられた
言葉を元に推察すれば、ゆっくりの開発──すなわち、ゆっくりそのものを造り替えるこ
とは、ベターであってもベストではないのだと考えられます。ベストは、ゆっくりと共に
入浴するための、その方法論か、補助技術です」
「いや、さすがに無茶っすよ、それ」
言葉を元に推察すれば、ゆっくりの開発──すなわち、ゆっくりそのものを造り替えるこ
とは、ベターであってもベストではないのだと考えられます。ベストは、ゆっくりと共に
入浴するための、その方法論か、補助技術です」
「いや、さすがに無茶っすよ、それ」
風呂なんかに入れたら、ゆっくりの皮はすぐに脆くなる。ちょっとしたことで、ボロボ
ロと崩れ始めるのだ。ゆっくり自身が暴れれば、すぐに自壊して死んでしまう。それは、
ついさっきそこのプールでも起こったことだ。
ロと崩れ始めるのだ。ゆっくり自身が暴れれば、すぐに自壊して死んでしまう。それは、
ついさっきそこのプールでも起こったことだ。
「ですから所長も、『一緒にお風呂へ入れるゆっくりの開発は可能か』という聞き方をさ
れたのでしょう。それでも、『一緒に入浴する』です。『お湯に耐えられる』では、ない
んですよ」
れたのでしょう。それでも、『一緒に入浴する』です。『お湯に耐えられる』では、ない
んですよ」
大事なところは、お湯に対する耐久性じゃなくて、人と一緒に入ること……飼いゆっく
りとして、人に受け入れられなければならないってことみたいだ。
あれ? てことは、お湯に耐えられるゆっくりは、可能ってことなのかなぁ?
聞いてみると、「可能です」と、簡単に頷かれた。
…………嘘でしょ?
りとして、人に受け入れられなければならないってことみたいだ。
あれ? てことは、お湯に耐えられるゆっくりは、可能ってことなのかなぁ?
聞いてみると、「可能です」と、簡単に頷かれた。
…………嘘でしょ?
「動かなくても良いのなら、実に簡単ですよ。温水中での活動も、形態を限れば方法はあ
ります。最大の問題点はお湯によって脆くなる皮なのですから、それこそ“ガワ”を替え
ればいいだけでしょう?」
ります。最大の問題点はお湯によって脆くなる皮なのですから、それこそ“ガワ”を替え
ればいいだけでしょう?」
簡単に言う……けど、まぁ……そうかもしれない。
でも、それでは『ゆっくり』ではなくなる。少なくとも、飼い主になろうとする者達が
ゆっくりに求めているものが、消えてしまう。
だから、それだけでは要求を満たせない。
たとえば、脆い外皮に手を加えれば、ゆっくりが喜ぶ「す~りすり」などのグルーミン
グは、無意味なものとなるだろう。それに、子作りなどにも支障が出る。一代限りになっ
ても意味がないんだ。子供を作り、生まれた子供を溺愛することだって、ゆっくりらしさ
の一つだし、子供を作れないということが、ゆっくりに大きなストレスを与え、死に至ら
しめることだってある。
皮に一時的なコーティングをするとか、何かを装着して保護するとかじゃ、湯船に浸か
れたところで、ゆっくりの体を清潔に洗うことは出来ないから……やっぱり、駄目。
でも、それでは『ゆっくり』ではなくなる。少なくとも、飼い主になろうとする者達が
ゆっくりに求めているものが、消えてしまう。
だから、それだけでは要求を満たせない。
たとえば、脆い外皮に手を加えれば、ゆっくりが喜ぶ「す~りすり」などのグルーミン
グは、無意味なものとなるだろう。それに、子作りなどにも支障が出る。一代限りになっ
ても意味がないんだ。子供を作り、生まれた子供を溺愛することだって、ゆっくりらしさ
の一つだし、子供を作れないということが、ゆっくりに大きなストレスを与え、死に至ら
しめることだってある。
皮に一時的なコーティングをするとか、何かを装着して保護するとかじゃ、湯船に浸か
れたところで、ゆっくりの体を清潔に洗うことは出来ないから……やっぱり、駄目。
「難しいもんっすねぇ」
「ええ、難題です。……が、やり甲斐はあります」
「ええ、難題です。……が、やり甲斐はあります」
俺だったら、馬鹿な要求をするなって言って、投げ出しちゃうと思う。
水上まりさに関しては、ほぼ一段落。あとは通常の飼育業務の延長線で、なんとかなる
みたいだ。現状を維持するために教育を続けるも良し、自然を意識して一つの群れを形成
させるも良し、ということらしい。プールの水温を低くしてやれば、グラスコーティング
無しでもある程度の水上活動が可能だろうし。
みたいだ。現状を維持するために教育を続けるも良し、自然を意識して一つの群れを形成
させるも良し、ということらしい。プールの水温を低くしてやれば、グラスコーティング
無しでもある程度の水上活動が可能だろうし。
「ともあれ、処分の方は今日のうちに済ませなくては」
「んじゃ、先に処置室へ行っててください。俺、運んできますから」
「んじゃ、先に処置室へ行っててください。俺、運んできますから」
お願いしますと軽く頭を下げる学者さんにお辞儀し返して、飼育スペースへと向かった。
*** *** *** ***
飼育スペースの入り口のところには、処分対象のゆっくり共を一匹ずつケージに押し込
んで、それら全部をカートに積んである。屋内プールのスペースへ、ゲスまりさを届ける
前にやっておいたのだ。
んで、それら全部をカートに積んである。屋内プールのスペースへ、ゲスまりさを届ける
前にやっておいたのだ。
「くそ にんげんの おにいさんっ! だしてねっ! れいむは いいこ だって、どうして
わからないのっ!? さっさと ここから ださない くそにんげんな おにいさんなんて、
せいっさいっだよ! それも、うんうん まみれコースだよ!」
わからないのっ!? さっさと ここから ださない くそにんげんな おにいさんなんて、
せいっさいっだよ! それも、うんうん まみれコースだよ!」
「げひんな れいむ なんて、どうでもいいわよ! とかいは である ありすを、こんなに
せまいところへ おしこめるなんて、おにいさん いなかものね! とかいは の なんたる
かを おしえてあげるから、ありす をここからだして、ひれふすのよ!」
せまいところへ おしこめるなんて、おにいさん いなかものね! とかいは の なんたる
かを おしえてあげるから、ありす をここからだして、ひれふすのよ!」
「むきゅきゅんっ。おろかで てーのーな、にんげんさん。この、けんじゃ ぱちゅりーを
かいほうし、ゆっくりさせなさい。そして、ぱちぇの えいちに ふさわしい ふかふかな
ぎょくざと、あまあまを よういするの。ぱちぇは かんだいだから、たくさんでいいわ」
かいほうし、ゆっくりさせなさい。そして、ぱちぇの えいちに ふさわしい ふかふかな
ぎょくざと、あまあまを よういするの。ぱちぇは かんだいだから、たくさんでいいわ」
「そんなことより、れいむを……!」
「こんな、いなかものたちより……!」
「おろかものたちは、ほうっておいて……」
「こんな、いなかものたちより……!」
「おろかものたちは、ほうっておいて……」
近づいた途端、ギャーギャーとこっちに向けてあれこれ騒ぎ出した。助けてくれと言う
なら可愛げもあるけど、どいつもこいつも自分を棚に上げっぱなしで、こっちを馬鹿にし
てくる。
なら可愛げもあるけど、どいつもこいつも自分を棚に上げっぱなしで、こっちを馬鹿にし
てくる。
「うるせぇよ、ゲス共! ぶん殴られても、まだ反省の色無しか!」
「れいむ、ゲスじゃないよっ! それに『はんせい、のいろ』って、なに!? そんなの、
れいむ たべたことないよ!」
「ばかね、れいむ。はんせいって、いなかもの がする おしゃれ のことよ」
「むきゅ~……どっちもバカだわ。はんせいとは、ちょっとだけ かしこくなった ぐしゃ
が、きのうまでの じぶんを おもいだすことよ」
れいむ たべたことないよ!」
「ばかね、れいむ。はんせいって、いなかもの がする おしゃれ のことよ」
「むきゅ~……どっちもバカだわ。はんせいとは、ちょっとだけ かしこくなった ぐしゃ
が、きのうまでの じぶんを おもいだすことよ」
「れいむ、ばかじゃないよ!?」
「ばかは、れいむだけでしょ!?」
「ばかは、れいむだけでしょ!?」
「れいむは ばかじゃないって いってるでしょぉおおお!?」
一応は、さすがと言うべきなのかなぁ……ぱちゅりー種の一匹が言ったことは、「反省」
って言葉の意味に、わりと近い。
って言葉の意味に、わりと近い。
「むっきゅあっきゅあっきゅあっきゅあっ! どう!? これが、けんじゃ ぱちゅりーの
じつりょくよ! わかったのなら、さぁ! ぱちぇに ぎょくざを!」
「まぁ、馬鹿なゲスって時点で、他と大差ないけどな」
「なんですって!? ぱちぇは、バカでもゲスでもないわよ? バカって れいむたちで、
ゲスって ありすたちのことでしょう? まちがえないでほしいわ」
じつりょくよ! わかったのなら、さぁ! ぱちぇに ぎょくざを!」
「まぁ、馬鹿なゲスって時点で、他と大差ないけどな」
「なんですって!? ぱちぇは、バカでもゲスでもないわよ? バカって れいむたちで、
ゲスって ありすたちのことでしょう? まちがえないでほしいわ」
「れいむ、ばかじゃないって いったでしょ!? なんで わかんないの!? ばかなの!?
しぬの!?」
「ありすは、とかいはよぉおっ!! ゲスな いなかものは、あんたたちでしょう!」
しぬの!?」
「ありすは、とかいはよぉおっ!! ゲスな いなかものは、あんたたちでしょう!」
処分対象とされたゆっくりは、まりさ種はプールに沈んだ一匹だけ。ありす種も一匹だ
けで、この二種は今回少ない。あとは、ぱちゅりー種が二匹に、れいむ種が四匹。
けで、この二種は今回少ない。あとは、ぱちゅりー種が二匹に、れいむ種が四匹。
「おにいさん、えさはこびのどれいでしょ? でいぶ、しってるよ。ゆっくりしないで、
さっさと かわいい でいぶを、ごちそうが たくさんある、でいぶせんようの ゆっくりプ
レイスに、つれていってね!」
「ブクブク太った“でいぶ”を可愛く思うヤツなんて、この世にいないっての」
「でいぶは かわいいよ! ふとってないよ! でいぶは かわいそうなんだよ!? その
でいぶに、ひどいことをいう くそにんげんは、ゆっくりしないで さっさと しんでね!」
さっさと かわいい でいぶを、ごちそうが たくさんある、でいぶせんようの ゆっくりプ
レイスに、つれていってね!」
「ブクブク太った“でいぶ”を可愛く思うヤツなんて、この世にいないっての」
「でいぶは かわいいよ! ふとってないよ! でいぶは かわいそうなんだよ!? その
でいぶに、ひどいことをいう くそにんげんは、ゆっくりしないで さっさと しんでね!」
「ごちそうたくさんの、ゆっくりプレイス!? そこは、でいぶのゆっくりプレイスだよ!
かわいそうな でいぶのために、かみさまが よういしたんだよ! だれにもあげないよ!」
「でいぶのだよ! でいぶにはあげないよ! でいぶのゆっくりプレイスは、でいぶだけ
のものだよ!」
かわいそうな でいぶのために、かみさまが よういしたんだよ! だれにもあげないよ!」
「でいぶのだよ! でいぶにはあげないよ! でいぶのゆっくりプレイスは、でいぶだけ
のものだよ!」
「うるせえ、ブクブク饅頭! どっちも、でいぶだろ! お前らには、ゆっくりプレイス
なんてねぇよ!」
なんてねぇよ!」
れいむ種のうちの二匹は、ネットで言われている“でいぶ”状態だ。太って発声も悪く
なり、体が大きな分だけ無駄に態度がでかい。自己愛も肥大していて、何かというと自分
は可哀想だとか、可愛い自分のためにだとか、見当違いでイライラする要求を口にする。
太っている理由は、食料の過剰摂取と、運動量の低下。
ゆっくり達は「もっとゆっくりとした群れにするために」と、頻繁に共同作業を行う。
餌となるものを手分けして集める「狩り」は、その代表的なものだ。
それ以外にも、たとえば誰かの巣を作るためだったり、みんなで寛ぐための憩いの場所
を掃除したり整えたり。
考えていたより、ゆっくり達も真面目に働いたり、共同生活を大事にしているというこ
とが、ここでバイトを続けるうちにわかってきた。なんせ、仕事内容に群れの観察・監視
も含まれているから。まぁ、ゆっくり達が働くっつっても、たいしたことないんだけど。
ところが でいぶ共は、そのたいしたことないことさえ、一切手伝おうとしない。
手伝わないどころか、自分の要求のために群れの労働力を全て使おうとし、受け入れら
れないとなると、その巨体にものを言わせて群れの仲間に暴力を振るう。
暴力に屈して、群れがその要求を受け入れ続けていれば、「じゃあ自分も」と考えて、
怠けるゆっくりが増え続け、群れ全体がでいぶに近い状態となって他の群れに迷惑をかけ、
他の群れでも……と、破滅への汚染が始まってしまう。
当然、処分対象。
なり、体が大きな分だけ無駄に態度がでかい。自己愛も肥大していて、何かというと自分
は可哀想だとか、可愛い自分のためにだとか、見当違いでイライラする要求を口にする。
太っている理由は、食料の過剰摂取と、運動量の低下。
ゆっくり達は「もっとゆっくりとした群れにするために」と、頻繁に共同作業を行う。
餌となるものを手分けして集める「狩り」は、その代表的なものだ。
それ以外にも、たとえば誰かの巣を作るためだったり、みんなで寛ぐための憩いの場所
を掃除したり整えたり。
考えていたより、ゆっくり達も真面目に働いたり、共同生活を大事にしているというこ
とが、ここでバイトを続けるうちにわかってきた。なんせ、仕事内容に群れの観察・監視
も含まれているから。まぁ、ゆっくり達が働くっつっても、たいしたことないんだけど。
ところが でいぶ共は、そのたいしたことないことさえ、一切手伝おうとしない。
手伝わないどころか、自分の要求のために群れの労働力を全て使おうとし、受け入れら
れないとなると、その巨体にものを言わせて群れの仲間に暴力を振るう。
暴力に屈して、群れがその要求を受け入れ続けていれば、「じゃあ自分も」と考えて、
怠けるゆっくりが増え続け、群れ全体がでいぶに近い状態となって他の群れに迷惑をかけ、
他の群れでも……と、破滅への汚染が始まってしまう。
当然、処分対象。
「つまり、ゆっくりプレイスは、ありすのものね!! もちろん、とかいはな ゆっくり
プレイスよね?」
「なにがつまりだよ、変態レイパー」
「ありす、へんたい でも れいぱーでもないわよ!?」
プレイスよね?」
「なにがつまりだよ、変態レイパー」
「ありす、へんたい でも れいぱーでもないわよ!?」
ありす自身がなんと言おうと、間違いなくレイパーで、さらに変態だ。
なんせ、コイツらで言う“あにゃる”に突っ込んで犯すのが大好きで、二日間で六匹は
犯し殺してるんだ。
ケツの穴に射精されても妊娠するってんだから、ゆっくりってのはなんと言うか、本当
に変な生き物だ。なんか、ぶっかけでも妊娠するらしいし。
どうやら、レイパーとして覚醒……というか、たがが外れたのはごく最近のことらしい。
現在、行方知れずのゆっくりが五匹ほどいるが、そのうちの何匹かはコイツが犯し殺して、
喰っちまった可能性が高い。犯し殺したゆっくりの死骸を喰っているところも、観察用カ
メラに記録されてたし。
どっちにしたって危険すぎるので、処分対象。
なんせ、コイツらで言う“あにゃる”に突っ込んで犯すのが大好きで、二日間で六匹は
犯し殺してるんだ。
ケツの穴に射精されても妊娠するってんだから、ゆっくりってのはなんと言うか、本当
に変な生き物だ。なんか、ぶっかけでも妊娠するらしいし。
どうやら、レイパーとして覚醒……というか、たがが外れたのはごく最近のことらしい。
現在、行方知れずのゆっくりが五匹ほどいるが、そのうちの何匹かはコイツが犯し殺して、
喰っちまった可能性が高い。犯し殺したゆっくりの死骸を喰っているところも、観察用カ
メラに記録されてたし。
どっちにしたって危険すぎるので、処分対象。
「むきゅあきゅあっ! けんじゃに ふさわしい ぎょくざのある、ゆっくりプレイスよ。
かしこい ぱちぇには、わかっているわ」
「お前は賢者じゃないし、玉座もねぇよ。だいたい、賢者に玉座ってなんだよ」
「ぱちぇは、けんじゃよ? だいじょうぶかしら? もしかして あたまが ざんねんな、
おにいさんなのかしら?」
かしこい ぱちぇには、わかっているわ」
「お前は賢者じゃないし、玉座もねぇよ。だいたい、賢者に玉座ってなんだよ」
「ぱちぇは、けんじゃよ? だいじょうぶかしら? もしかして あたまが ざんねんな、
おにいさんなのかしら?」
誰の頭が残念だってんだ。
このぱちゅりーは、どうも賢者と王者を勘違いしているみたいなんだ。
体力に劣るぱちゅりー種が、群れの共同作業で働きが悪いことなんて珍しくもないし、
群れの連中も他の面での活躍を期待して、力仕事をさせなかったりする。
ところが、コイツの場合は一切協力しない。ゆっくりにしてはって意味でなら結構賢い
らしいって報告もあったけど、仲間達から質問されても、知恵を求められても、答えない
んだ。
ただ、愚かだと相手を見下すだけ。
当然、村八分状態だったんだけど、群れから不自然に死ぬゆっくりを出したくなかった
長が面倒を見続け……限界を向かえたらしく、俺達人間側に相談してきた。
で、処分対象。珍しく、ゆっくり側からのご指名と言える。
このぱちゅりーは、どうも賢者と王者を勘違いしているみたいなんだ。
体力に劣るぱちゅりー種が、群れの共同作業で働きが悪いことなんて珍しくもないし、
群れの連中も他の面での活躍を期待して、力仕事をさせなかったりする。
ところが、コイツの場合は一切協力しない。ゆっくりにしてはって意味でなら結構賢い
らしいって報告もあったけど、仲間達から質問されても、知恵を求められても、答えない
んだ。
ただ、愚かだと相手を見下すだけ。
当然、村八分状態だったんだけど、群れから不自然に死ぬゆっくりを出したくなかった
長が面倒を見続け……限界を向かえたらしく、俺達人間側に相談してきた。
で、処分対象。珍しく、ゆっくり側からのご指名と言える。
「ぱちぇには わかるわ。つまり、ぱちぇのほうが しんの けんじゃということね」
「どっちも馬鹿だよ。お前はお前で、間違ったことしか言えないくせに」
「むきゅはふぅ……やれやれだわ。やっぱり、ぱちぇのかしこさに、にんげんなんていう
かとうせいぶつは、ついて こられないのね」
「どっちも馬鹿だよ。お前はお前で、間違ったことしか言えないくせに」
「むきゅはふぅ……やれやれだわ。やっぱり、ぱちぇのかしこさに、にんげんなんていう
かとうせいぶつは、ついて こられないのね」
こっちのぱちゅりーは、他者と積極的に関わろうとし、群れへも協力的だが、ことごと
く間違いばかり。他のゆっくりよりも馬鹿のくせに、「知らない」の一言で済むところを、
大間違いの嘘をついて、仲間達に怪我を負わせたり、病気させたり……さらに自分の間違
いを認めず、他人のせいにする。
前回も候補に挙がったが、警告だけで様子見とされたのだが、改善されなかったため、
処分対象。
く間違いばかり。他のゆっくりよりも馬鹿のくせに、「知らない」の一言で済むところを、
大間違いの嘘をついて、仲間達に怪我を負わせたり、病気させたり……さらに自分の間違
いを認めず、他人のせいにする。
前回も候補に挙がったが、警告だけで様子見とされたのだが、改善されなかったため、
処分対象。
「れいむだよね!? かわいいかわいい れいむが、ゆっくりプレイスに……」
「ちがうよ! れいむだよ! かわいいのは れいむで、れいむは かわいくないよ!」
「お前らのどこが可愛いってんだ! ブスの可愛いアピールとか吐き気がする!」
「「れいむは、かわいいでしょぉおおお!?」」
「ちがうよ! れいむだよ! かわいいのは れいむで、れいむは かわいくないよ!」
「お前らのどこが可愛いってんだ! ブスの可愛いアピールとか吐き気がする!」
「「れいむは、かわいいでしょぉおおお!?」」
こいつらは、自分が可愛いと信じ、可愛い自分は特別だと考え、自分を持て囃し、甘や
かさないモノは全て、悪と決めつける。そして、攻撃する。
今だって狭いケージの中で暴れ、その透明な壁に体当たりしている。俺にぶつかりたい
ところなんだろう。
俺達バイトが確認できただけでも、二匹合わせて結構な数の被害が出ている。
「自分の方が可愛いのに、自分を無視して別のゆっくりにプレゼントした」などの理由
で、破局に追いやったカップルは、17組。その際、殺してしまったゆっくりは3匹。生
き残ったゆっくりも、大なり小なり怪我を負わされている。
「自分に失礼なことを言った」と攻撃して、怪我をさせた数は30匹を超える。被害に
あったゆっくりは揃って、まったく身に覚えがないかったり、あんなれいむは知らないと
言ってたり。れいむと面識があるもの達でも、そんなに怒るとは思わなかったと言ってる。
実際、それほどひどいことを言ったゆっくりなんて、いなかった。
一つ一つの事件は、良くあるトラブルだ。でも調べてみれば、この二匹は群を抜いて数
が多かったため、処分対象に決まった。
ちなみに、同じゆっくりの番から、同じ日に生まれた双子姉妹だ。素晴らしい仲の良さ
で、吐き気がするほどだ。胸くそ悪い。
かさないモノは全て、悪と決めつける。そして、攻撃する。
今だって狭いケージの中で暴れ、その透明な壁に体当たりしている。俺にぶつかりたい
ところなんだろう。
俺達バイトが確認できただけでも、二匹合わせて結構な数の被害が出ている。
「自分の方が可愛いのに、自分を無視して別のゆっくりにプレゼントした」などの理由
で、破局に追いやったカップルは、17組。その際、殺してしまったゆっくりは3匹。生
き残ったゆっくりも、大なり小なり怪我を負わされている。
「自分に失礼なことを言った」と攻撃して、怪我をさせた数は30匹を超える。被害に
あったゆっくりは揃って、まったく身に覚えがないかったり、あんなれいむは知らないと
言ってたり。れいむと面識があるもの達でも、そんなに怒るとは思わなかったと言ってる。
実際、それほどひどいことを言ったゆっくりなんて、いなかった。
一つ一つの事件は、良くあるトラブルだ。でも調べてみれば、この二匹は群を抜いて数
が多かったため、処分対象に決まった。
ちなみに、同じゆっくりの番から、同じ日に生まれた双子姉妹だ。素晴らしい仲の良さ
で、吐き気がするほどだ。胸くそ悪い。
互いに罵り合い、俺のことも罵ってくるゆっくり共に怒鳴り返しながら、カートを押し
て処置室へ向かう。
正規の研究員は、たいていは自分専用の研究室を持っていて、そこに付随する形で専用
の処置室も持っている。どれも、担当している研究内容に合わせた機材・設備で、複数の
処置室を持っていたり、大掛かりな設備を借りてる人もいる。学者さんが、水上まりさの
研究と開発のために、屋内プールを借りてたみたいな感じだ。
て処置室へ向かう。
正規の研究員は、たいていは自分専用の研究室を持っていて、そこに付随する形で専用
の処置室も持っている。どれも、担当している研究内容に合わせた機材・設備で、複数の
処置室を持っていたり、大掛かりな設備を借りてる人もいる。学者さんが、水上まりさの
研究と開発のために、屋内プールを借りてたみたいな感じだ。
けど、処分の時に使うのは、専門的な機材も大掛かりな設備もいらない。共用されてい
るものの一つで十分なんだ。
その共用の処置室も複数あって、たまに持ち込まれる治療依頼や、簡単な解剖なんかで
よく使われる部屋だ。一通りの虐待道具……じゃなくて、ゆっくりに様々な処置を施すた
めの道具・機材の、基本的なものが揃っている。
るものの一つで十分なんだ。
その共用の処置室も複数あって、たまに持ち込まれる治療依頼や、簡単な解剖なんかで
よく使われる部屋だ。一通りの虐待道具……じゃなくて、ゆっくりに様々な処置を施すた
めの道具・機材の、基本的なものが揃っている。
飼育スペースの、他のゆっくり達が見ている前で行うのは、あくまで「決まりを破った
者達に対する、お仕置き」なので、余程にひどい場合以外は、殺すところを見せない方が
良いってことになった。基本的にはお仕置きとして、人間がぶん殴るか、群れの長が体当
たりを一発かまして、後は群れから追放という形で飼育スペースから連れ出す。
余程にひどい場合は殺すところを見せることもあるけど、その時でも、一匹だけ。多く
のゆっくりを、人間が平気で殺すところを見せたりしたら、今度はゆっくり達に別の考え
を持たせてしまいかねないからだ。
「悪いことをしたから、罰を受ける」のではなく「人間は、自分達を理不尽に殺す」と
いう考えを。
人間に対して、強い反発や敵意、根深い懐疑心を、ゆっくり達全体に持たせては、飼育
スペース自体の維持が難しくなる。それは、俺にだって簡単に想像が付く。
それに、この研究所で行われている様々な研究は、解剖とかで済むものだけじゃない。
知育・躾けなどの、人間と友好的な状態を保ったまま継続的に行わなくちゃ駄目なものだ
って多いんだ。敵意を取り除くところから始めないと研究を行えないなんて、面倒臭いに
もほどがあるだろうし。
者達に対する、お仕置き」なので、余程にひどい場合以外は、殺すところを見せない方が
良いってことになった。基本的にはお仕置きとして、人間がぶん殴るか、群れの長が体当
たりを一発かまして、後は群れから追放という形で飼育スペースから連れ出す。
余程にひどい場合は殺すところを見せることもあるけど、その時でも、一匹だけ。多く
のゆっくりを、人間が平気で殺すところを見せたりしたら、今度はゆっくり達に別の考え
を持たせてしまいかねないからだ。
「悪いことをしたから、罰を受ける」のではなく「人間は、自分達を理不尽に殺す」と
いう考えを。
人間に対して、強い反発や敵意、根深い懐疑心を、ゆっくり達全体に持たせては、飼育
スペース自体の維持が難しくなる。それは、俺にだって簡単に想像が付く。
それに、この研究所で行われている様々な研究は、解剖とかで済むものだけじゃない。
知育・躾けなどの、人間と友好的な状態を保ったまま継続的に行わなくちゃ駄目なものだ
って多いんだ。敵意を取り除くところから始めないと研究を行えないなんて、面倒臭いに
もほどがあるだろうし。
そう考えると、バイト仲間の“愛で派”寄りの連中が、ゆっくり共とこっそり遊んだり
するのも、悪いことばかりじゃないのかも。だから、大目に見られてんのかなぁ?
本当は、駄目なんだけどね。
するのも、悪いことばかりじゃないのかも。だから、大目に見られてんのかなぁ?
本当は、駄目なんだけどね。
それに、“虐待お兄さんは雇ってもらえないし、雇われてもバレたらクビになる”って
噂も、それほど間違っちゃいないわけで、所長さんも否定しようとしないんだ。
まぁ、俺はクビにならずに済んだんだけどね。
噂も、それほど間違っちゃいないわけで、所長さんも否定しようとしないんだ。
まぁ、俺はクビにならずに済んだんだけどね。
*** *** *** ***
「お待たせしました~」
指定された処置室のドアを開け、中へとカートを押して入りながら、声をかける。
学者さんは、すでに白衣を着込んで手袋までして、スタンバイしていた。
広いテーブル──施術台の上には、良く切れるメスの様な刃物が複数種類だけ。学者さ
んの傍らには、大きなポリバケツ。
今回も、ビックリするほどの手際の良さで、ちゃっちゃと解体して、いろいろ測って、
それで終わりだろうか。
学者さんは、すでに白衣を着込んで手袋までして、スタンバイしていた。
広いテーブル──施術台の上には、良く切れるメスの様な刃物が複数種類だけ。学者さ
んの傍らには、大きなポリバケツ。
今回も、ビックリするほどの手際の良さで、ちゃっちゃと解体して、いろいろ測って、
それで終わりだろうか。
この、問題のあるゆっくりの処分を学者さんが行うのは、最初の一回目を除けば、今回
で二回目になる。処分自体は最短で1週間、長くても1ヶ月ほど間を置いて行われていて、
もう結構な回数が行われてるんだけど。
他の研究員の人達にも処分そのものをやりたがる人が多くて、持ち回りで行うことにな
ってるからだ。
処分が目的なんだから、特に何の成果も出せずじまいだったって文句を言われない。だ
から気楽に、気になってたことを解剖して調べられるってわけだ。
で二回目になる。処分自体は最短で1週間、長くても1ヶ月ほど間を置いて行われていて、
もう結構な回数が行われてるんだけど。
他の研究員の人達にも処分そのものをやりたがる人が多くて、持ち回りで行うことにな
ってるからだ。
処分が目的なんだから、特に何の成果も出せずじまいだったって文句を言われない。だ
から気楽に、気になってたことを解剖して調べられるってわけだ。
「では、始めますか」
「はい。……あ。一個、疑問があったんですけど……いいっすか?」
「はい。……あ。一個、疑問があったんですけど……いいっすか?」
淡々と進めようとする学者さんに、ふと思い出したことがあって聞いてみる。もし学者
さんに、今すぐ確かめたいことなんかが無ければ、教えてくれるかもしれない。
研究員の中でも一番親しくしてる人だからっていう、甘えが出たかな……と、チラッと
反省しかけたけど、学者さんは相変わらず淡々とした調子で「どうぞ」と言ってくれた。
思い出した疑問を、投げかけてみる。
さんに、今すぐ確かめたいことなんかが無ければ、教えてくれるかもしれない。
研究員の中でも一番親しくしてる人だからっていう、甘えが出たかな……と、チラッと
反省しかけたけど、学者さんは相変わらず淡々とした調子で「どうぞ」と言ってくれた。
思い出した疑問を、投げかけてみる。
「ゆっくりって、喉も無いのになんで声が出せるんですか?」
確か、人間は喉にある声帯を振動させることで、声の元になる音を出している。そんで、
口の中の形とか、舌の使い方とか唇の形とか、そういう色々で、細かな音の差……言葉が、
声として出る。
……んだったんだと思う。確か。
口の中の形とか、舌の使い方とか唇の形とか、そういう色々で、細かな音の差……言葉が、
声として出る。
……んだったんだと思う。確か。
でも、ゆっくりには、喉ってものがない。なんせ、頭だけだから。なのに人間と同じよ
うに声が出てる。
この前、ある人の家で同じゆっくりでも言葉の聞き取りやすさに結構違いがあるんだと
感じたことから、そもそもなんで声が出てるのかという疑問を、ようやく抱いたのだ。
それまでは、「ゆっくりは喋る不思議饅頭」としか思ってなかったから、何故とか考え
なかった。
俺の疑問を聞いて、学者さんは小さく頷いた。
うに声が出てる。
この前、ある人の家で同じゆっくりでも言葉の聞き取りやすさに結構違いがあるんだと
感じたことから、そもそもなんで声が出てるのかという疑問を、ようやく抱いたのだ。
それまでは、「ゆっくりは喋る不思議饅頭」としか思ってなかったから、何故とか考え
なかった。
俺の疑問を聞いて、学者さんは小さく頷いた。
「私も以前、気になって調べたことがあります。ちょうど素材もあることですし、色々と
見てみますか?」
「お願いします!」
見てみますか?」
「お願いします!」
もう一度軽く頷き、学者さんがケージの方へと歩いていく。
「確かに、我々人間も、犬も、猫も……脊椎動物は概ね、喉に声帯という発声するための
器官を持っています。鳥類の発声器官は声帯ではなく、肺寄りにある鳴管でしたか」
器官を持っています。鳥類の発声器官は声帯ではなく、肺寄りにある鳴管でしたか」
話しながら、学者さんがケージの一つを施術台の上に持ち上げ、中のゆっくり──でい
ぶの一匹を、重さと持ちにくさに苦労しながら、取り出した。
そして、でいぶが暴れるよりも早く、大きな口から両頬を左右に裂くようにして、スッ
スッと刃物を滑り込ませる。
ぱっくりと大口を開けた格好で、でいぶがひっくり返った。……って言っても、頭の上
半分が天井を向いてるだけで、下顎は元のまま。
ざっくりと切られた頬の切れ目、上下に別れた断面を、左右ともテキパキと餃子の皮の
ような「ゆっくり用絆創膏」で塞いでいく。小麦粉を主原料に作られていて、治癒が進む
のに合わせて馴染んでいき、最後にはゆっくりの皮の一部になってしまうものだ。
それが終わると、上を向いているでいぶの上側に顔を寄せて、学者さんは命じるように
話しかけた。
ぶの一匹を、重さと持ちにくさに苦労しながら、取り出した。
そして、でいぶが暴れるよりも早く、大きな口から両頬を左右に裂くようにして、スッ
スッと刃物を滑り込ませる。
ぱっくりと大口を開けた格好で、でいぶがひっくり返った。……って言っても、頭の上
半分が天井を向いてるだけで、下顎は元のまま。
ざっくりと切られた頬の切れ目、上下に別れた断面を、左右ともテキパキと餃子の皮の
ような「ゆっくり用絆創膏」で塞いでいく。小麦粉を主原料に作られていて、治癒が進む
のに合わせて馴染んでいき、最後にはゆっくりの皮の一部になってしまうものだ。
それが終わると、上を向いているでいぶの上側に顔を寄せて、学者さんは命じるように
話しかけた。
「何か話してみろ。うまく話すことが出来れば、元通りに直してやろう」
「……!? ……! !! ! ……? ? !?」
「……!? ……! !! ! ……? ? !?」
でいぶの舌の付け根の、さらに奥の辺り……元のままだったら、口の奥の「喉」の部分
が、ビクンボコンと膨らんだり凹んだりしている。中心を凹ませたまま、かなり盛り上が
って、その凹んでた部分もポコンという感じで膨らみ、全体が半球状になる。そしてまた
平たい状態に戻って、中心を凹ませたままググッと盛り上がって……と、いう動きを繰り
返していた。
同時に上顎の、これも奥の方がビクビクと細かく動いている。
未だケージに入れられたままの、他のゆっくり達がギャーギャー騒いでいるので聞き取
りにくいけど、でいぶから微かに音が聞こえる。ろくに言葉となってはいないけど、上顎
の方から、ブブッ、ブッと、屁のような音がしているんだ。
が、ビクンボコンと膨らんだり凹んだりしている。中心を凹ませたまま、かなり盛り上が
って、その凹んでた部分もポコンという感じで膨らみ、全体が半球状になる。そしてまた
平たい状態に戻って、中心を凹ませたままググッと盛り上がって……と、いう動きを繰り
返していた。
同時に上顎の、これも奥の方がビクビクと細かく動いている。
未だケージに入れられたままの、他のゆっくり達がギャーギャー騒いでいるので聞き取
りにくいけど、でいぶから微かに音が聞こえる。ろくに言葉となってはいないけど、上顎
の方から、ブブッ、ブッと、屁のような音がしているんだ。
わかったことを、言ってみる。学者さんが軽く頷き、「もう少しわかりやすくしましょ
うか」という言葉と共に、素速く鮮やかに、今度はでいぶの頭を縦に割った。ビクンと震
えて、でいぶは絶命したようだ。
……たいして苦しまなかっただろうから、ゲスの最後としては恵まれているなぁ。
うか」という言葉と共に、素速く鮮やかに、今度はでいぶの頭を縦に割った。ビクンと震
えて、でいぶは絶命したようだ。
……たいして苦しまなかっただろうから、ゲスの最後としては恵まれているなぁ。
ぐずぐずと、柔らかい中身の餡が崩れてしまう。綺麗な断面状態は一瞬だったけど、確
かに見ることが出来た。
かに見ることが出来た。
ビクビクと細かく震えていた、上顎の奥の方。そこは薄い膜のような、仕切りのような
もので、上側には空洞があった。位置は人間で言うと、喉の真っ直ぐ上あたり。鼻の奥の、
さらに奥、後頭部に近いところかな。
学者さんが、半身状態のでいぶの頭の片方を、断面を上にして置き直す。メスのような
モノで、崩れた餡をどかしたり整えたりしながら、わかりやすく指し示してくれた。
口の中の空洞の上にある、もう一つ小さな空洞は、大きさがテニスボールくらいかな?
もうちょっと小さいかなぁ?
もので、上側には空洞があった。位置は人間で言うと、喉の真っ直ぐ上あたり。鼻の奥の、
さらに奥、後頭部に近いところかな。
学者さんが、半身状態のでいぶの頭の片方を、断面を上にして置き直す。メスのような
モノで、崩れた餡をどかしたり整えたりしながら、わかりやすく指し示してくれた。
口の中の空洞の上にある、もう一つ小さな空洞は、大きさがテニスボールくらいかな?
もうちょっと小さいかなぁ?
「口腔と、その上部にある空洞。この間にある、複数の薄い皮膜に見えるものは、人間の
声帯のように空気が通るようになっています。つまり、これこそがゆっくり達の声帯とい
うわけです」
「上っ側にあるんですか」
声帯のように空気が通るようになっています。つまり、これこそがゆっくり達の声帯とい
うわけです」
「上っ側にあるんですか」
上の小さな空洞は、多少は膨張・収縮するらしい。その膨張と収縮は、ゆっくり自体の
体の動きが伴えば、その分だけ変化が大きくなる。
そして、空気が行き来することによって、声帯が振動して音を発する。上の空洞が吸気
する際も、排気する際も、どちらでも振動は起きて音は出るらしい。
下側で、ボッコンベッコンと膨らんだり凹んだりしていた器官は、その空気の動きを補
助・補強するのだとか。上の空洞が僅かに膨張し吸気しようとしているときは、下部もボ
コンと膨らんで空気の動きを助ける。
さらに多くの空気を、通常の膨張力以上に上の空洞へと送り込む際には、中央を凹ませ
たまま上部に密着し、その凹んでいた中央を膨らませることで、空気を押し込む。
あとは、人間とだいたい同じらしい。音の高低は、声帯を引っ張って振動の周波を細か
くすれば高い音、緩めれば低い音。最終的に、口の中の形を変えたり、舌や唇で音を確定
させて、声になり言葉として響く。
体の動きが伴えば、その分だけ変化が大きくなる。
そして、空気が行き来することによって、声帯が振動して音を発する。上の空洞が吸気
する際も、排気する際も、どちらでも振動は起きて音は出るらしい。
下側で、ボッコンベッコンと膨らんだり凹んだりしていた器官は、その空気の動きを補
助・補強するのだとか。上の空洞が僅かに膨張し吸気しようとしているときは、下部もボ
コンと膨らんで空気の動きを助ける。
さらに多くの空気を、通常の膨張力以上に上の空洞へと送り込む際には、中央を凹ませ
たまま上部に密着し、その凹んでいた中央を膨らませることで、空気を押し込む。
あとは、人間とだいたい同じらしい。音の高低は、声帯を引っ張って振動の周波を細か
くすれば高い音、緩めれば低い音。最終的に、口の中の形を変えたり、舌や唇で音を確定
させて、声になり言葉として響く。
「発声だけならばともかく、人間のように“話す”ことを考えると、このメカニズムはそ
れほど上手くはありません。“歌う”ことに関しては、最悪と言っていいでしょう」
「……どういうことっすか?」
「音が安定しないんですよ」
れほど上手くはありません。“歌う”ことに関しては、最悪と言っていいでしょう」
「……どういうことっすか?」
「音が安定しないんですよ」
口腔内から上の空洞へ空気が移動するときの声帯の振動と、上から下りてくるときの声
帯の振動が、どうしても違ってしまうらしい。元となる振動が違うから、同じ音にはなら
ない。
たとえば「あ」という声を出そうとして、口を開いて舌を引き気味にして発声しても、
「あ」に聞こえるときと「は」と聞こえるときがある……という感じらしい。
さらに、発声のためには口の中の形を変えたり、大きく口を開いたり、小さく窄めたり
する。その口の動きで、ゆっくりの場合は体全体が動き、上の空洞の形にも影響が出る。
声を出すつもりで口を動かしたら、空気の移動が上手く行かずに声帯が思ったような振動
をせず、結果として満足に音が出ないということも頻繁に起こるのだとか。
さらには「あーーーーーー」と、一定した音階で長く発声をしようとしても、空気を上
へ移動させたり下へ戻したりと、頻繁に行き来させなくちゃ声帯が震えないのだから、安
定した音なんて出せない。悲鳴なんかが自然と「ゆぎゃぁああああ」と奇妙に波打ち震え
て、一音一音響いて聞こえるのは、そのためなのだとか。
帯の振動が、どうしても違ってしまうらしい。元となる振動が違うから、同じ音にはなら
ない。
たとえば「あ」という声を出そうとして、口を開いて舌を引き気味にして発声しても、
「あ」に聞こえるときと「は」と聞こえるときがある……という感じらしい。
さらに、発声のためには口の中の形を変えたり、大きく口を開いたり、小さく窄めたり
する。その口の動きで、ゆっくりの場合は体全体が動き、上の空洞の形にも影響が出る。
声を出すつもりで口を動かしたら、空気の移動が上手く行かずに声帯が思ったような振動
をせず、結果として満足に音が出ないということも頻繁に起こるのだとか。
さらには「あーーーーーー」と、一定した音階で長く発声をしようとしても、空気を上
へ移動させたり下へ戻したりと、頻繁に行き来させなくちゃ声帯が震えないのだから、安
定した音なんて出せない。悲鳴なんかが自然と「ゆぎゃぁああああ」と奇妙に波打ち震え
て、一音一音響いて聞こえるのは、そのためなのだとか。
まぁ、その“必ず震えて情けなく聞こえる面白い悲鳴”が、虐待お兄さんに喜ばれる理
由の一つではあると思うんだけどね。
由の一つではあると思うんだけどね。
「いくつか試してみましょうか」
そう言って学者さんが、もう一匹のでいぶのケージを持ち上げた。慌てて、割られた方
のでいぶをポリバケツへと捨てて、ケージを受け取る。手伝うって言ったのに、さっきか
ら何もしてないし。こういう力仕事は、俺がやるべきだと思うし。
のでいぶをポリバケツへと捨てて、ケージを受け取る。手伝うって言ったのに、さっきか
ら何もしてないし。こういう力仕事は、俺がやるべきだと思うし。
「けど、またでいぶっすか?」
「ええ。肥満体を残しておいても、私の方では今のところ使い道もありませんから」
「ええ。肥満体を残しておいても、私の方では今のところ使い道もありませんから」
風呂に入れるゆっくりの開発のため、何かヒントを得られないか色々と試すつもりなの
かもしれない。
かもしれない。
「それに、肥満体だから……という理由もあります」
どんな理由なのかは、これからわかるってところか。楽しみにしておこう。
でいぶをケージから出すのは俺に任せて、学者さんは棚からいくつか道具や材料を出し
てきて、カチャカチャとやり始めた。
でいぶをケージから出すのは俺に任せて、学者さんは棚からいくつか道具や材料を出し
てきて、カチャカチャとやり始めた。
「やべでぇえええええええっ! でいぶは なにも わるいことしてないよ!? でいぶは
かわいそうなんだよ!? さっきの げすとは、ちがうんだよ!? でいぶをわらないで!
かわいそうで かわいい でいぶを、たすけてあげてね!」
かわいそうなんだよ!? さっきの げすとは、ちがうんだよ!? でいぶをわらないで!
かわいそうで かわいい でいぶを、たすけてあげてね!」
「うるせぇ! 可哀想でも可愛くもねぇよ、くそでぶ!」
「くそでぶじゃなくて、でいぶでしょぉおおおおおおおおっ!? でいぶの どこが でぶ
なの!? めが わるいにも ほどがあるよ、この くそにんげんっ!! かわいそうな で
いぶに あやまってねっ!」
なの!? めが わるいにも ほどがあるよ、この くそにんげんっ!! かわいそうな で
いぶに あやまってねっ!」
怒鳴りつけると、でいぶが自分の姿をまるで理解してないらしい内容で罵り返してきた。
どっちにしてもお前なんか殺処分なんだから、最後くらい大人しくしてろ。
でいぶが何か言うたびに怒鳴りつける俺に、学者さんが感心したような声を漏らした。
どっちにしてもお前なんか殺処分なんだから、最後くらい大人しくしてろ。
でいぶが何か言うたびに怒鳴りつける俺に、学者さんが感心したような声を漏らした。
「よく、生真面目に相手をしてやれますね」
「俺からしたら、徹底的にスルーできる学者さん達の方が凄いっすけどね」
「俺からしたら、徹底的にスルーできる学者さん達の方が凄いっすけどね」
スルーしていても、そのうち我慢できなくなる。カッとなって蹴っ飛ばす前に、思い切
り怒鳴り飛ばして、多少はスッとした方がいい。話を聞かない、理解もしない、そもそも
会話の成立しないクソゲスゆっくりが相手でも、大声を出した分だけスッキリ出来るもの
はあるし。
り怒鳴り飛ばして、多少はスッとした方がいい。話を聞かない、理解もしない、そもそも
会話の成立しないクソゲスゆっくりが相手でも、大声を出した分だけスッキリ出来るもの
はあるし。
「それに、これでまた怒りが溜まれば、殺処分の作業も前向きにこなせますしね!」
「なるほど。仕事に対するモチベーションの、あり方の違いですか」
「なるほど。仕事に対するモチベーションの、あり方の違いですか」
なんだか感心されつつ納得されちゃったけど、きっと学者さんが考えてるような、ちゃ
んとした理屈なんてないと思う。
せっかくクソゆっくりをブッ潰せるんだから、思いっきりスカッとするために、怒りを
ハッキリさせておこうってくらいなもんだし。
んとした理屈なんてないと思う。
せっかくクソゆっくりをブッ潰せるんだから、思いっきりスカッとするために、怒りを
ハッキリさせておこうってくらいなもんだし。
「そのまま、仰向けに抑えていてください」
「は、はい……って、暴れんなよ、くそでぶ!」
「なんべん まちがえば きがすむの、この くそにんげんめぇえええっ! えごあっ!?」
「は、はい……って、暴れんなよ、くそでぶ!」
「なんべん まちがえば きがすむの、この くそにんげんめぇえええっ! えごあっ!?」
大声で喚いでるでいぶの下顎を、学者さんが掴んで大口を開けさせる。素速いだけじゃ
なくて、わりと力もあるんだなぁ、学者さんって。
なくて、わりと力もあるんだなぁ、学者さんって。
「先ほど確認した、下顎にある補助器官を、切除します」
淡々と説明ながら、左手ででいぶの舌を引っ掴んで引っ張り、刃物を持った右手をその
口の中へ突っ込んだ。
口の中へ突っ込んだ。
「おごっ!? ぎおっ!? ごっ!? ぉっ!? !?! !!!!」
口の中を切り刻まれ、抉られているんだろう。でいぶがガクガクビクビクと、震えてい
る。抵抗し、暴れようとしているみたいで、かなりの力だ。両手で、でいぶの額を押し潰
しそうなくらいに体重を乗せて抑え込む。
学者さんは、でいぶの口の中から黒ずんだ汚い欠片を何度も取り出している。小さな茶
碗一杯分くらいになったところで、手にしていたメスを置いた。
る。抵抗し、暴れようとしているみたいで、かなりの力だ。両手で、でいぶの額を押し潰
しそうなくらいに体重を乗せて抑え込む。
学者さんは、でいぶの口の中から黒ずんだ汚い欠片を何度も取り出している。小さな茶
碗一杯分くらいになったところで、手にしていたメスを置いた。
「傷を塞ぎます。あと少し、抑えていてください」
学者さんの左腕にも結構な力が入っていそうなのに、声は相変わらず淡々としてる。
砂糖と小麦粉を水に溶いたものを刷毛に付けて、でいぶの口の中へ。それを何度か繰り
返してから、小倉の漉し餡と小麦粉を練り合わせて平たくしたものを、でいぶの口の中へ
と入れた。
砂糖と小麦粉を水に溶いたものを刷毛に付けて、でいぶの口の中へ。それを何度か繰り
返してから、小倉の漉し餡と小麦粉を練り合わせて平たくしたものを、でいぶの口の中へ
と入れた。
「…………いいでしょう」
しばらく右手を突っ込んだまま何かを確認していた学者さんが、両手を離して軽く頷い
た。
俺も手を離すと、でいぶは痛みに震えながらゆっくりと起き上がった。そして、大口を
開けて……
た。
俺も手を離すと、でいぶは痛みに震えながらゆっくりと起き上がった。そして、大口を
開けて……
「ぇぃふっ…………!? ひ……ぇ……? ひゅ……? !? ……!?」
何かを罵ろうとしたようだが、ろくに声が出ていない。体を揺らす度に音は出ているん
だが、それほど大きなものじゃないし、満足に言葉となっていない。
だが、それほど大きなものじゃないし、満足に言葉となっていない。
肥満体であるでいぶは、ブクブクと体が肥え太っていても、声帯の上にある空洞自体の
大きさは変わっていないらしい。体の大きさに比べて、通常の膨張では吸気出来る量が少
ない。それを補うために下顎の補助器官を活用するため、そっちは発達している。
ところが、補助器官に頼りっきりのために、上の空洞の方が自力で膨張する力が弱まっ
ていくのだとか。
大きさは変わっていないらしい。体の大きさに比べて、通常の膨張では吸気出来る量が少
ない。それを補うために下顎の補助器官を活用するため、そっちは発達している。
ところが、補助器官に頼りっきりのために、上の空洞の方が自力で膨張する力が弱まっ
ていくのだとか。
「しかも、その空洞の上にある重りは、どんどん重くなっており、周囲を取り巻いている
壁も分厚くなっているんです」
壁も分厚くなっているんです」
普通のゆっくりと同じように発声し、同じように喋り続けるためには、重くなった頭に
負けないように、周囲の分厚い餡子に負けないだけの力を出せるように、空洞も鍛えられ
ていなければならない。なのに、どんどん弱まっていく。
そのため、体全体を動かすことで空洞の大きさを変え、発達した下顎の補助器官もフル
活用する。
だから、ちょっと喋っただけで「たくさん喋ったから疲れた」なんて、いかにも怠け者
発言をする。
でいぶがちゃんと発声するための、頼みの綱である下顎にある補助器官をえぐり取った
ために、空気の移動が上手く行かず、音自体を上手く出せなくなったんだ。
負けないように、周囲の分厚い餡子に負けないだけの力を出せるように、空洞も鍛えられ
ていなければならない。なのに、どんどん弱まっていく。
そのため、体全体を動かすことで空洞の大きさを変え、発達した下顎の補助器官もフル
活用する。
だから、ちょっと喋っただけで「たくさん喋ったから疲れた」なんて、いかにも怠け者
発言をする。
でいぶがちゃんと発声するための、頼みの綱である下顎にある補助器官をえぐり取った
ために、空気の移動が上手く行かず、音自体を上手く出せなくなったんだ。
「ここで勤めるようになる前のことですが、ゆっくりから声を奪うという試行は、何度か
行いました。これも、その一つです。この処置の後、きちんと話せるようになったものは
成長前の個体が一匹。話すことを諦め、自殺したものが二匹。小声でしか話せなくなった
ものも二匹いましたが、ストレスが元で狂いました」
行いました。これも、その一つです。この処置の後、きちんと話せるようになったものは
成長前の個体が一匹。話すことを諦め、自殺したものが二匹。小声でしか話せなくなった
ものも二匹いましたが、ストレスが元で狂いました」
喋れないってのは、ゆっくりにとってはかなりのストレスらしい。
生き残った一匹も、大声を出そうとすると失敗ばかりで、そのことをよく嘆いていたと
いう。
生き残った一匹も、大声を出そうとすると失敗ばかりで、そのことをよく嘆いていたと
いう。
「ぇひゅっ……!? ひゅ……! ぃ……! ひ……! っ……!!」
でいぶが何を言っているのか、さっぱりわからない。
体がぶよぶよと太っている分だけ、あちこち分厚いだろうし。小声で喋ったって、その
デブい体に阻まれて、声が聞こえてこなさそうだな。
表情だって、怒ったかと思えば、嘆き、怯え、また怒りと、コロコロ変わっているので
顔色から感情を読むのも難しい。
まぁ、俺達人間を罵っているか、助けろと言っているか……どっちかだろうけど。
体がぶよぶよと太っている分だけ、あちこち分厚いだろうし。小声で喋ったって、その
デブい体に阻まれて、声が聞こえてこなさそうだな。
表情だって、怒ったかと思えば、嘆き、怯え、また怒りと、コロコロ変わっているので
顔色から感情を読むのも難しい。
まぁ、俺達人間を罵っているか、助けろと言っているか……どっちかだろうけど。
学者さんが、喋れなくなったでいぶをケージに戻しながら、他のゆっくり達もケージご
と、施術台に乗せてくれと言ってきた。
でいぶのケージを中心に、ぐるりと半円状に他のゲス共のケージを配置する。でいぶ一
匹に、他のゲス共を向かい合わせた感じだ。
配置が済むと、学者さんに促されて、俺達二人は他のゆっくり達の後ろ側へと回る。他
のゆっくり達の頭越しに、でいぶと向かい合う形だ。
と、施術台に乗せてくれと言ってきた。
でいぶのケージを中心に、ぐるりと半円状に他のゲス共のケージを配置する。でいぶ一
匹に、他のゲス共を向かい合わせた感じだ。
配置が済むと、学者さんに促されて、俺達二人は他のゆっくり達の後ろ側へと回る。他
のゆっくり達の頭越しに、でいぶと向かい合う形だ。
「お前達の正面にいる、太っているゆっくりは……満足に話すことも出来ないゆっくりだ」
「ひゅぅ!? ぇいぶ……! ぶふふ! ふっ……! ゅぐっ……!」
「ひゅぅ!? ぇいぶ……! ぶふふ! ふっ……! ゅぐっ……!」
学者さんが静かに言うと、でいぶが中で飛び跳ねたらしく、がたんとケージが揺れた。
「にんげんさんが、なにかして おはなし できなくしたのよね? ぱ、ぱちぇには、しな
いわよね? おはなしができなくなったら、ぎょくざに すわっても、だれも おはなしを
しにきてくれなくなるもの」
いわよね? おはなしができなくなったら、ぎょくざに すわっても、だれも おはなしを
しにきてくれなくなるもの」
そもそもお前が、誰の話も聞かないくせに。お話も何もないだろうが。
「でも、にんげんさんが なにかして、おはなし できなくなるなんて、へんだよ。れいむ
は、おはなしできるよ? ほらほら、かわいい れいむのおはなし、いっぱい きかせてあ
げるね?」
は、おはなしできるよ? ほらほら、かわいい れいむのおはなし、いっぱい きかせてあ
げるね?」
お前は、何もされてないだろうが。あと、可愛くねぇし、聞きたくねぇよ。
「いなかものの れいむの はなしなんて、どうでもいいわよ。ゆうがな おしゃべりって、
とかいは に ゆるされた すてーたすなのよ」
とかいは に ゆるされた すてーたすなのよ」
お前ほど優雅って言葉が似合わない変態は、なかなかいないぞ。
「ぱちぇには、わかるわ。ふとった れいむは、ふとっているから おはなしできないの。
でいぶ なったものの、まつろね。れいむたちも きをつけなさい」
でいぶ なったものの、まつろね。れいむたちも きをつけなさい」
でいぶの末路って部分はともかく、肝心の所が見事に間違ってるな、お前らしいよ。
「れいむは、ふとってないよっ! かわいい れいむが ふとるなんて、ありえないよ!!
かわいい かわいい れいむは、いつだって すてきな びせいなんだから!」
かわいい かわいい れいむは、いつだって すてきな びせいなんだから!」
可愛くないし、美声でもないだろう。すでに太りかけてるし。元から下膨れだし。
「れいむのほうが、かわいいよ! れいむの えんじぇる ぼいすの みらくる はーもにー
には、みんなが めろめろ なんだから! ゆ~♪ ゆゆゆ、ゆっくりぃ~♪ すてきな♪
れいむと♪ ゆっくりのひ~♪」
には、みんなが めろめろ なんだから! ゆ~♪ ゆゆゆ、ゆっくりぃ~♪ すてきな♪
れいむと♪ ゆっくりのひ~♪」
歌うな、うぜぇ。
「れいむなんかより、れいむのほうが びせいだよっ! ほんものの うたひめの、ぎんが
を ふるわせる うたごえ、きかせてあげちゃうね! ゆふふふ~ん♪ ぷりてぃれいむぅ♪
すいーとれいむの、ゆっくり すてきな まったりたいむぅ♪」
を ふるわせる うたごえ、きかせてあげちゃうね! ゆふふふ~ん♪ ぷりてぃれいむぅ♪
すいーとれいむの、ゆっくり すてきな まったりたいむぅ♪」
美声とか歌姫とか、しかも銀河とか、理解して喋ってんのか? 頼むから歌うな。
「いなかじみた そうおんを まきちらさないで!! とかいはな ありすは、なえなえよ!」
周囲の状況に関係なく発情しそうだけどな、お前は。
「あなたたちの きたない うたごえは、ぱちぇの ぎょくざには ふさわしくないわ!」
お前だって玉座には相応しくないほど汚いっての。
……いちいち怒鳴りつけてやりたいところだが、我慢しておく。我慢した分だけ、イラ
イラが溜まって、早くぶん殴ってぶっ潰したくなるけど……
学者さんが、黙って様子を見ている。俺にも黙って見ているようにと、軽く手を挙げて
制してきているし。
イラが溜まって、早くぶん殴ってぶっ潰したくなるけど……
学者さんが、黙って様子を見ている。俺にも黙って見ているようにと、軽く手を挙げて
制してきているし。
「えぃふっ……!? えっ……ふっ、はっ! ぇぃ……!! ぅ……!!」
喋れなくなったでいぶは、何か言われる度に中で暴れ、飛び跳ね、ガタガタとケージを
揺らしていた。その動きに併せて、奇妙な音を漏らすのが精一杯のようで、どれだけ頑張
っても言葉になってない。
顔を真っ赤にして、涙をダラダラ流し、それでも言葉だけが出ない。
さんざんに同じゆっくりから馬鹿にされ、話が逸れて無視され続け、また自分に注意が
向いたかと思えば結局は馬鹿にされと、それを繰り返されるうちに、でいぶは……
揺らしていた。その動きに併せて、奇妙な音を漏らすのが精一杯のようで、どれだけ頑張
っても言葉になってない。
顔を真っ赤にして、涙をダラダラ流し、それでも言葉だけが出ない。
さんざんに同じゆっくりから馬鹿にされ、話が逸れて無視され続け、また自分に注意が
向いたかと思えば結局は馬鹿にされと、それを繰り返されるうちに、でいぶは……
がぼっ!!
……と、派手な音を立てて、餡子を吐き始めた。ごぼごぼ、げろげろと、中身を吐き出
し続ける。上手く喋れないせいか「えれえれ」「おろろろ」と、吐く時によくゆっくりが
出す音はさせないまま、ごぼごぼビタビタと、ただ吐瀉音を響かせている。
し続ける。上手く喋れないせいか「えれえれ」「おろろろ」と、吐く時によくゆっくりが
出す音はさせないまま、ごぼごぼビタビタと、ただ吐瀉音を響かせている。
「はっ、はいたわ!? きもちわるい! やっぱり、いなかものね!」
「きもちわるいよぉ! かわいい れいむに、きもちわるいものなんて みせないでね!」
「きもちわるいよぉ! かわいい れいむに、きもちわるいものなんて みせないでね!」
口々に、ゲス共が罵る。でいぶの嘔吐を見たくないと、狭いケージの中で身をよじりな
がら罵っている。満足に飛び跳ねられないケージの中じゃ、なかなか真後ろに向き直るこ
とは出来ないんだ。どんなに体をくねらせようと、どうしても視界に入るだろうなぁ。
がら罵っている。満足に飛び跳ねられないケージの中じゃ、なかなか真後ろに向き直るこ
とは出来ないんだ。どんなに体をくねらせようと、どうしても視界に入るだろうなぁ。
「なんて おろかなの!? なかみを はきつづければ、しぬのよ!」
賢者と王者を勘違いしてるぱちゅりーが言った。確かに、その通りだ。虐め続けたゆっ
くりが、最後には中身を吐き続けて死ぬ……なんてことは、良くある話だ。
小さな声で、学者さんが「まさしく、死ぬために吐いているんです」と、呟いた。話す
ことが出来ないということは、それだけ強いストレスを与える。
くりが、最後には中身を吐き続けて死ぬ……なんてことは、良くある話だ。
小さな声で、学者さんが「まさしく、死ぬために吐いているんです」と、呟いた。話す
ことが出来ないということは、それだけ強いストレスを与える。
殴られる痛みよりも、不味くて仕方のない食事よりも、眠ることさえ出来ない苦しみよ
りも、ただ自分の訴えを聞いてもらえないと言うことが、他とは比べものにならないほど
「ゆっくりできない」らしい。たとえ声が出ていても、聞いてもらえないと感じることで
ストレスを憶える。
仮に、環境も食事も、全てが優遇されて満たされた状態だったとしても、「ゆっくり」
という一言を発せられなければ、やはりそれが深いストレスとなって心を苦しめる。
そして、「ゆっくりできない」と言うことすら出来ないことが、ゆっくり達を絶望させ
るらしい。
りも、ただ自分の訴えを聞いてもらえないと言うことが、他とは比べものにならないほど
「ゆっくりできない」らしい。たとえ声が出ていても、聞いてもらえないと感じることで
ストレスを憶える。
仮に、環境も食事も、全てが優遇されて満たされた状態だったとしても、「ゆっくり」
という一言を発せられなければ、やはりそれが深いストレスとなって心を苦しめる。
そして、「ゆっくりできない」と言うことすら出来ないことが、ゆっくり達を絶望させ
るらしい。
「先ほど話した、大声が出ない点以外は普通に話せる個体でも、最後には『ゆっくり』と
いう一言を、ただただ繰り返していました」
いう一言を、ただただ繰り返していました」
静かに言って、学者さんはでいぶの様子を確認しにいく。そして、その死を確認したの
か、ケージの中身をポリバケツへと捨てた。
か、ケージの中身をポリバケツへと捨てた。
「ぱちぇには わかるわ。おはなしもできない できそこないは、すてられるの。だって、
ごみとおんなじだもの」
ごみとおんなじだもの」
間違いしか言えない馬鹿ぱちゅりーの言葉に続いて、そうだそうだ、喋れないゆっくり
は出来損ないだ、ゴミだと、クズ共が口々に死んだでいぶへと罵声を投げかけ、嘲笑った。
は出来損ないだ、ゴミだと、クズ共が口々に死んだでいぶへと罵声を投げかけ、嘲笑った。
「続けましょうか?」
今すぐに、目の前のクズ共を潰したくなっていた俺は、学者さんの淡々とした声を聞い
て、なんとか踏みとどまる。まだ、見せてくれるものがあるらしい。だったら、見せても
らわなくちゃ損だ。
だいたい簡単に潰すようじゃ、真の虐待お兄さん達に笑われちゃうってもんだろう。
て、なんとか踏みとどまる。まだ、見せてくれるものがあるらしい。だったら、見せても
らわなくちゃ損だ。
だいたい簡単に潰すようじゃ、真の虐待お兄さん達に笑われちゃうってもんだろう。
「はぁ~っ……うるせぇ、クソ共! 黙ってろ! テメェらだって、ゴミ以下だろうが!」
怒鳴りつけ、後は知らんぷり。
今度は口々に俺を罵ってきているらしいが、こっちはデカい声を出してスッキリしたし、
無視無視。
……って、なんか「ゆっくり」の一言でストレスが緩和するゆっくりと、一回怒鳴って
落ち着ける俺って、大差ないんじゃ…………
今度は口々に俺を罵ってきているらしいが、こっちはデカい声を出してスッキリしたし、
無視無視。
……って、なんか「ゆっくり」の一言でストレスが緩和するゆっくりと、一回怒鳴って
落ち着ける俺って、大差ないんじゃ…………
「どうかしましたか?」
「えっ……!? あ……い、いえ、えっと……はい、なんでもないです」
「えっ……!? あ……い、いえ、えっと……はい、なんでもないです」
考えすぎないようにしよう。大声出してスッとするのは、人間として自然なことだし。
「あっ……それより、いいんですか? くそでぶ……でいぶはともかく、他のは風呂に入
れるゆっくり開発のために……」
「かまいません、特にあてもありませんし。まるで関係ないことから、ヒントを得ること
だって、あり得ますから」
れるゆっくり開発のために……」
「かまいません、特にあてもありませんし。まるで関係ないことから、ヒントを得ること
だって、あり得ますから」
そういうものなのだろうか。まぁ、研究のために本当にやりたいことが見つかった場合
は、ちゃんと相応しい個体を選ぶだろうし。そのためのゆっくりは、きちんと飼育されて
るし。けど、ちょっとした思いつきを試すためだけに潰してもいい処分対象が、次に学者
さんに回ってくるのは、また当分先になるんじゃ……
は、ちゃんと相応しい個体を選ぶだろうし。そのためのゆっくりは、きちんと飼育されて
るし。けど、ちょっとした思いつきを試すためだけに潰してもいい処分対象が、次に学者
さんに回ってくるのは、また当分先になるんじゃ……
「さて、それでは……」と短い時間考えていた学者さんが、何か思いついたのか、あり
すに向かって問いかけた。
すに向かって問いかけた。
「れいむの歌声は、酷いと言っていたな?」
「ええ、ひどいわ! おんちで だみごえなんて、とんだ いなかものよね。あなただって、
そうおもうでしょう?」
「ええ、ひどいわ! おんちで だみごえなんて、とんだ いなかものよね。あなただって、
そうおもうでしょう?」
ありすの、同意を求めているような問いかけは無視して学者さんは、ぱちゅりー達にも
そう思うかと確認した。
そう思うかと確認した。
「ぱちぇには わかるわ。れいむは、うたっているつもりかもしれないけど、あれは うた
じゃないわね。うなっているのと おなじよ」
じゃないわね。うなっているのと おなじよ」
「ほかの おろかものたちは ともかく、けんじゃ ぱちゅりーとしては、あんな うたでは
しっかくね。ぎょくざの そばには ちかよらせたくないわ」
しっかくね。ぎょくざの そばには ちかよらせたくないわ」
「ありすだって、にどと ききたくないわよ。きもちわるいだけだもの」
三匹とも、れいむ達の歌声は酷いと言うことで、意見は一致しているようだ。こればっ
かりは、俺も同意見だ。歌とも言えないって点も、その通りだと思う。
かりは、俺も同意見だ。歌とも言えないって点も、その通りだと思う。
「ちょっとまってねっ! れいむはともかく、れいむは びせいだよ! おうた だって、
じょうずなんだよ! うそ だとおもうなら、もういっかい れいむのびせいを、ゆっくり
きいてね!!」
じょうずなんだよ! うそ だとおもうなら、もういっかい れいむのびせいを、ゆっくり
きいてね!!」
「ちがうよ! れいむが へたで、れいむが じょうずなんだよ! れいむの うた なんか
より、れいむの みらくるはーもにー に、ゆっくり ききほれてね!」
より、れいむの みらくるはーもにー に、ゆっくり ききほれてね!」
「「「どっちも うたわないでっ!!!」」」
ありすとぱちゅりー達、三匹の声が綺麗にハモった。そういや、れいむの一匹はさっき
からハーモニーとか言ってるけど、やっぱり意味はわかってないんだろうなぁ。
からハーモニーとか言ってるけど、やっぱり意味はわかってないんだろうなぁ。
「では、三匹とも二度とれいむ達の歌声は聞きたくない……と言うことで、良いんだな?」
もちろんだ、当然だ、何度も聞くなと、三匹が口々にれいむ達を罵りながら、学者さん
の念押しに頷き返してくる。
その三匹に対して れいむ達が、可愛い れいむになんてことを言うんだとか、謝れとか
色々と罵りながら、撤回と謝罪と賠償を要求している。
の念押しに頷き返してくる。
その三匹に対して れいむ達が、可愛い れいむになんてことを言うんだとか、謝れとか
色々と罵りながら、撤回と謝罪と賠償を要求している。
学者さんが、次は上を塞いでみよう言って、れいむの一匹をケージから出した。そいつ
を受け取って、押さえつける。
を受け取って、押さえつける。
「目の両脇より、少しだけ下を押さえてください。もう少し頬寄りの……そこです。そこ
を、左右から強く押してください。……もっと強く。潰すつもりで」
を、左右から強く押してください。……もっと強く。潰すつもりで」
言われたとおりに、れいむを持ち直してキツく左右から締めるように押す。
「あ゛か゛っ……!! やべでね……! あげっ! ぁええ゛ぬぇっえあ゛!」
左右からの圧力のためか、れいむは口を開くことは出来ても、きちんと閉じたりは出来
ないらしい。当然、上手く声を出すことも出来ない。
その開きっぱなしの口に、学者さんがゆっくり用絆創膏を持った右手を突っ込んだ。
ないらしい。当然、上手く声を出すことも出来ない。
その開きっぱなしの口に、学者さんがゆっくり用絆創膏を持った右手を突っ込んだ。
「えおっ!? っ……!? !? !!!!」
「終わりました。もう一匹も、同じようにお願いします」
「終わりました。もう一匹も、同じようにお願いします」
「やっ、やめてね!? かわいい れいむが おはなしできなくなったら、みんな さびしが
るよ!? かわいい れいむの おうたが きこえなくなったら、みんな かなしむよ!?」
るよ!? かわいい れいむの おうたが きこえなくなったら、みんな かなしむよ!?」
それは有り得ないって、確認済みだろう。諦めろよ、音痴のだみ声。
ケージから、もう一匹のれいむを引っ張り出し、さっきと同じように俺が左右から締め
付け、学者さんが手を突っ込み、ゆっくり用の絆創膏で、上顎にある声帯に蓋をする。
ケージから、もう一匹のれいむを引っ張り出し、さっきと同じように俺が左右から締め
付け、学者さんが手を突っ込み、ゆっくり用の絆創膏で、上顎にある声帯に蓋をする。
「!!!!!! ……!? !!!!」
「!? !? ???? !!!!!」
「!? !? ???? !!!!!」
時々、パクパクと音はする。だが、どれだけ口を動かそうと、どれほど舌をこねくり回
そうと、何度も体を伸び縮みさせようと、れいむ達は声を発し、言葉を喋ることが出来な
いようだ。
そうと、何度も体を伸び縮みさせようと、れいむ達は声を発し、言葉を喋ることが出来な
いようだ。
「「………………!! ………………!!」」
二匹のれいむはほとんど同時に、同じように震え、同じように俯き、同じくらいの涙を
ダバダバと流し始めた。さすがは双子の姉妹だ。感動的なほどよく似ている。
ダバダバと流し始めた。さすがは双子の姉妹だ。感動的なほどよく似ている。
「小僧くん」
「は、はい?」
「は、はい?」
れいむの様子に、思わずニヤついちゃった俺を、学者さんが部屋の隅へと導く。そこで、
ゆっくり達には聞こえないようにして、この後の展開を教えられた。
てっきり、でいぶと同じように嘔吐させ続けて死なせるものだと思っていたけど、もう
一手間加えるらしい。
施術台の側へと戻ると、学者さんは静かな声でれいむ達に問いかけた。
ゆっくり達には聞こえないようにして、この後の展開を教えられた。
てっきり、でいぶと同じように嘔吐させ続けて死なせるものだと思っていたけど、もう
一手間加えるらしい。
施術台の側へと戻ると、学者さんは静かな声でれいむ達に問いかけた。
「れいむ。お前達は、あの三匹が望んだから声が出なくなった。それは、わかっているな?」
「「??? ……!!!!! ……!! ……!!」」
「「??? ……!!!!! ……!! ……!!」」
二匹揃って、こっちを睨んで何度も跳ねている。口をパクパクさせ、また何度も跳ねる。
実際に声が出ないようにしたのは、俺と学者さんだということを、さすがにまだ忘れては
いないようだ。
実際に声が出ないようにしたのは、俺と学者さんだということを、さすがにまだ忘れては
いないようだ。
「そういえば、れいむだっけ? 人間に何かされて、お話できなくなるわけがないって言
ってたよなぁ」
ってたよなぁ」
いくらかわざとらしいが、俺が思い出したような顔で、れいむ達にしっかりと聞こえる
ように呟く。
それを聞いて、れいむ達の動きが止まった。二匹はお互いを見つめ合い、しばらくする
と、後ろでケージに入れられたままの、ありすとぱちゅりー達を睨み付ける。
ように呟く。
それを聞いて、れいむ達の動きが止まった。二匹はお互いを見つめ合い、しばらくする
と、後ろでケージに入れられたままの、ありすとぱちゅりー達を睨み付ける。
「れいむ。お前達は、あの三匹が望んだから声が出なくなった」
最初の発言を、学者さんが繰り返す。
今度はこちらを睨んできたりせず、れいむ達はありすの、そしてぱちゅりー達のケージ
に、順々に体当たりをし始めた。
今度はこちらを睨んできたりせず、れいむ達はありすの、そしてぱちゅりー達のケージ
に、順々に体当たりをし始めた。
「やっ、やめなさい! この いなかもの! バンバンうるさいのよ!」
「ぐらぐらするわ! ぐらぐらしたら、こわくて きもちわるいわ! おろかなれいむは、
そんなこともわからないの!?」
「ぱちぇには わかるわ! れいむは バカだから、なんにもわかってないのよ! だから
バカなのよ! しぬのよ!」
「ぐらぐらするわ! ぐらぐらしたら、こわくて きもちわるいわ! おろかなれいむは、
そんなこともわからないの!?」
「ぱちぇには わかるわ! れいむは バカだから、なんにもわかってないのよ! だから
バカなのよ! しぬのよ!」
ケージの中にいるから、れいむ達がいくら体当たりしても、痛くはないだろう。でも、
閉じ込められているケージを衝撃で揺らされるのは、怖いらしい。このまま放っておくと、
れいむ達の体当たりで三匹のケージが施術台から落ちるかもしれない。
閉じ込められているケージを衝撃で揺らされるのは、怖いらしい。このまま放っておくと、
れいむ達の体当たりで三匹のケージが施術台から落ちるかもしれない。
「三匹には聞いたが、れいむ達には聞いていなかったな」
学者さんが話し始めても、れいむ達は無視したまま体当たりを繰り返している。だが、
次の言葉でれいむ達はその動きを止め、こちらへと向き直り、頼み込んでくる。
……と、学者さんは言っていた。
次の言葉でれいむ達はその動きを止め、こちらへと向き直り、頼み込んでくる。
……と、学者さんは言っていた。
「話せるようになりたいか、れいむ」
「「!?」」
「「!?」」
学者さんの言うとおりになった。
れいむ達の動きがピタリと止まり、そろそろと、こちらを振り返る。学者さんも俺も、
黙ったままでいると、急いで飛び跳ねて近づいてきて、側まで来ると、その場で何度も跳
ねた。さらに、その不細工な体をクネクネとさせ、口をパクパクさせながら、ニヤニヤと
笑う。
多分、媚びているんだろう。言葉がないから、馬鹿にしてんのかって言いたくなる顔だ
けど……
れいむ達の動きがピタリと止まり、そろそろと、こちらを振り返る。学者さんも俺も、
黙ったままでいると、急いで飛び跳ねて近づいてきて、側まで来ると、その場で何度も跳
ねた。さらに、その不細工な体をクネクネとさせ、口をパクパクさせながら、ニヤニヤと
笑う。
多分、媚びているんだろう。言葉がないから、馬鹿にしてんのかって言いたくなる顔だ
けど……
「話せるように、なりたいんだな?」
「「!!!! ……! ……!」」
「「!!!! ……! ……!」」
二匹が飛び跳ね、何度も体を前に曲げる。ようやく喋ることを諦めたのか、口をパクパ
クさせなくなった。懸命に体を動かし、なんとかこちらへアピールしてくる。
クさせなくなった。懸命に体を動かし、なんとかこちらへアピールしてくる。
「では、声が出るようにしてやろう」
これは簡単で、上顎の奥に張り付いている絆創膏を剥がせばいい。上の空洞の空気が抜
けた状態で貼り付けたから、吸い付けられた状態で、自然に剥がれたりすることはない。
でも、まだ馴染むほどの時間は経ってないから、人間の指でなら、それほど難しい作業
じゃない。
まぁ、引っぺがせば多少は痛むだろうけど。
けた状態で貼り付けたから、吸い付けられた状態で、自然に剥がれたりすることはない。
でも、まだ馴染むほどの時間は経ってないから、人間の指でなら、それほど難しい作業
じゃない。
まぁ、引っぺがせば多少は痛むだろうけど。
学者さんと俺で手分けして、二匹のれいむの口の中へと、同時に手を突っ込む。
そして、俺はわざと失敗する。失敗というか、なんにもしないまま突っ込んだ手を出す
だけなんだけどね。
そして、俺はわざと失敗する。失敗というか、なんにもしないまま突っ込んだ手を出す
だけなんだけどね。
「ゆへぇ……いたかった……ゆ!? ゆゆゆ!? ゆぁあああんっ!! よかったよぉ!
れいむ、おはなしできるよ! れいむの みらくるぼいすが、かえってきたよ!」
れいむ、おはなしできるよ! れいむの みらくるぼいすが、かえってきたよ!」
「!!!!? !? !! ……! ……!」
「ゆふふふふ~~ん? どうしたの、れいむ? れいむは ちゃんと おはなしできるよ?
ほらほら。かわいいかわいい、れいむの みらくるぼいす、すてき でしょう? あれれ?
れいむは、どうして おはなし できないなの? かわいい かわいい れいむと ちがって、
れいむは、できそこないの クズだから? だから、おはなし できないの?」
ほらほら。かわいいかわいい、れいむの みらくるぼいす、すてき でしょう? あれれ?
れいむは、どうして おはなし できないなの? かわいい かわいい れいむと ちがって、
れいむは、できそこないの クズだから? だから、おはなし できないの?」
片方だけ話せる状況だと、話せるようになった方は、話せないままのもう片方を、これ
でもかと馬鹿にする。話せないままの方は、当然混乱し、こんなはずがないと思う。
そして、俺がこう言うと……
でもかと馬鹿にする。話せないままの方は、当然混乱し、こんなはずがないと思う。
そして、俺がこう言うと……
「すみません、学者さん。俺の方は、失敗したみたいです」
「!!!? !?」
「!!!? !?」
俺を、睨んでくる。俺が悪い、ということになる。
「……!! ……! !! ……!!」
罵りたいのに、声が出ない。お前のせいで、ゆっくりできないと、訴えられない。
よく似た存在が、対照的な状態であるだけに、放っておけば、でいぶの時よりもスピー
ディーに絶望し、全てを吐き出して死に至るらしい。
その前に、学者さんが救いの手を差し伸べる。
よく似た存在が、対照的な状態であるだけに、放っておけば、でいぶの時よりもスピー
ディーに絶望し、全てを吐き出して死に至るらしい。
その前に、学者さんが救いの手を差し伸べる。
「私なら、お前も話せるように出来るぞ」
「!? ……?」
「私を、信じることだ。見ろ。もう一匹は、話せている」
「!? ……?」
「私を、信じることだ。見ろ。もう一匹は、話せている」
「ゆふふふ~ん? だって、れいむは かわいいんだよ? かわいい れいむは、はなせる
のが とうぜんだよね? かわいくない れいむは、はなせないクズだよね?」
のが とうぜんだよね? かわいくない れいむは、はなせないクズだよね?」
話せるようになって有頂天の方は、「誰かに助けてもらったからだ」とは、考えない。
「自分が特別だから、当然のことだ」と思い込み、引き続き話せないままの方を馬鹿にし
続ける。
話せないままの方は、そんなわけがないと話せる方の考えを全面的に否定する。「あい
つが話せるのは、こっちの人間のおかげだ」「自分が話せないのは、コイツのせいだ」と、
その答えにしがみつく。
「自分が特別だから、当然のことだ」と思い込み、引き続き話せないままの方を馬鹿にし
続ける。
話せないままの方は、そんなわけがないと話せる方の考えを全面的に否定する。「あい
つが話せるのは、こっちの人間のおかげだ」「自分が話せないのは、コイツのせいだ」と、
その答えにしがみつく。
もちろん正解なんだけど、その正解へと至った思考の道筋は「自分が救われないわけが
ない」という願望であり「アイツだけがゆっくりできるなんて、おかしい」と、馬鹿にし
てくる相手を否定したいからだ。
ない」という願望であり「アイツだけがゆっくりできるなんて、おかしい」と、馬鹿にし
てくる相手を否定したいからだ。
そして、喋れないままのれいむは、縋り付くような思いで、救ってやるという学者さん
を信じる。強く信じ込む。
それだって、正解から導かれた信頼なんかじゃない。
特別な存在は、ヤツではなく自分なのだと、思いたいからだ。自分がまだ救われていな
いのは、運悪く“外れ”に当たったから。
こっちの人間──学者さんは、“当たり”だから、きっと救われる。
なぜなら、自分こそが救われるべき特別な存在だから。
そう信じたいから、学者さんのことも信じる。強く信じ込む。
を信じる。強く信じ込む。
それだって、正解から導かれた信頼なんかじゃない。
特別な存在は、ヤツではなく自分なのだと、思いたいからだ。自分がまだ救われていな
いのは、運悪く“外れ”に当たったから。
こっちの人間──学者さんは、“当たり”だから、きっと救われる。
なぜなら、自分こそが救われるべき特別な存在だから。
そう信じたいから、学者さんのことも信じる。強く信じ込む。
ゆっくりは、どんな状況でも“希望的観測”を捨てられない。
願望に過ぎない「こうだったら良いな」という思いが、「こうなるに違いない」という
予測に変化して、「こうならないはずがない」という断定を経て、「ならなかったら世界
がおかしい」という独善にまで至る。
……と、これはさっき聞かせてもらった、学者さんからの受け売り。
願望に過ぎない「こうだったら良いな」という思いが、「こうなるに違いない」という
予測に変化して、「こうならないはずがない」という断定を経て、「ならなかったら世界
がおかしい」という独善にまで至る。
……と、これはさっき聞かせてもらった、学者さんからの受け売り。
でも、俺だって虐待お兄さんの端くれ。
希望的観測を捨て、最悪の結果を想定して行動できるゆっくりなんて、貴重種中の貴重
種よりも、レアケースだってことは、知っているつもりだ。
思考パターンがとんでもなくデタラメにレアケースなゆっくりは、すでに二組知ってる。
一匹と、一家族。あんな連中、ゴロゴロいてたまるか。これ以上、出くわすわけがない。
希望的観測を捨て、最悪の結果を想定して行動できるゆっくりなんて、貴重種中の貴重
種よりも、レアケースだってことは、知っているつもりだ。
思考パターンがとんでもなくデタラメにレアケースなゆっくりは、すでに二組知ってる。
一匹と、一家族。あんな連中、ゴロゴロいてたまるか。これ以上、出くわすわけがない。
「信じられるか、私を?」
「……!!!!」
「……!!!!」
学者さんの問いかけに、喋れないままのれいむが、深く、強く、頷いた。
「それでいい。大丈夫だ。私を信じろ」
穏やかな声で語りかけながら、学者さんが手を差し出す。それを迎え入れるように、喋
れないままのれいむが大きく口を開いた。
れないままのれいむが大きく口を開いた。
「ゆっぷぷぷぷぷぷ~♪ むだなのにぃ♪ だって、れいむはクズなんだよ? かわいい
れいむとは ちがって、おはなし できなくても しかたのない、クズなんだから」
れいむとは ちがって、おはなし できなくても しかたのない、クズなんだから」
どっちもれいむで、どっちもクズだろ。ここには可愛いれいむなんていないってのに。
わざと時間をかけていたらしい学者さんが、勿体振るような緩やかさで体を起こした。
「よし……もう、大丈夫だ。話してみろ」
「れいむは、クズなんかじゃ……! ゆ? ゆゆ? おはなしできるよ! おにいさんの
いったとおり、れいむ、おはなしできるよ!」
「れいむは、クズなんかじゃ……! ゆ? ゆゆ? おはなしできるよ! おにいさんの
いったとおり、れいむ、おはなしできるよ!」
「ゆあ……!?」
今度は、嘲笑っていたれいむが、ショックを受け、そんなはずがないと頭の中で否定し
始める。なぜなら、話せるようになった理由は『自分が特別だから』と思っているから。
ようやく話せるようになった“学者さんを信じたれいむ”は、一応は学者さんに感謝を
するが、放っておけば自分こそが特別だと自惚れ、学者さんのことを忘れるだろう。
で、この二匹は決定的に仲が悪くなって、殺し合いすら始めてしまう。
今のまま、手を加えなければ、まぁ……相打ちだろうなと俺も思う。
始める。なぜなら、話せるようになった理由は『自分が特別だから』と思っているから。
ようやく話せるようになった“学者さんを信じたれいむ”は、一応は学者さんに感謝を
するが、放っておけば自分こそが特別だと自惚れ、学者さんのことを忘れるだろう。
で、この二匹は決定的に仲が悪くなって、殺し合いすら始めてしまう。
今のまま、手を加えなければ、まぁ……相打ちだろうなと俺も思う。
「ゆぁああああんっ! うれしいよぉ、おにいさん! れいむの びせい、おにいさんにも
ちゃんと きこえてるよね!?」
「ああ、聞こえている。綺麗な声だ」
ちゃんと きこえてるよね!?」
「ああ、聞こえている。綺麗な声だ」
そして、いい気になっているうちに、その声を褒め称えて謝れば、失敗した俺のことも
あっさりと許す。
あっさりと許す。
「こんな美声は、俺も聞いたことがないよー。俺が失敗したせいで、こんなに綺麗な声が
二度と聞けなくなったかもしれないって思うと……ごめんな、れいむ。本当にゴメン」
二度と聞けなくなったかもしれないって思うと……ごめんな、れいむ。本当にゴメン」
どうしても、棒読みになっちゃう。そもそも演技力なんてないけど、こんな言葉に心を
込めろとか、無理っす。
込めろとか、無理っす。
「ほんとだよ! だめだね、クズにんげんは!」
ビキッと来たが、我慢する。
「ゆふふふふふ♪ でも、ゆるしてあげるよ。れいむの びせいの みりょくが、ようやく
わかったんだもんね。クズにんげんから、どれいくらいには“らんくあっぷ”してあげて
もいいよ」
「あ~、はい、ありがとう、ありがとう」
わかったんだもんね。クズにんげんから、どれいくらいには“らんくあっぷ”してあげて
もいいよ」
「あ~、はい、ありがとう、ありがとう」
クズから奴隷にランクアップかよ。ランクダウンだろ、それ。お前らの奴隷になるくら
いなら、クズ人間と社会から爪弾きにされつつも、慎ましく世の中の隅っこで生きた方が
遙かにマシだよ、クソ饅頭が。
いなら、クズ人間と社会から爪弾きにされつつも、慎ましく世の中の隅っこで生きた方が
遙かにマシだよ、クソ饅頭が。
「ふ……ふぅ~~んだっ! いくら おなはしできるようになっても、れいむの みらくる
ぼいすには、かなわないよ! ゆっくり まけ をみとめてね!」
ぼいすには、かなわないよ! ゆっくり まけ をみとめてね!」
「れいむこそ、れいむの びせいには かなわないって みとめてね! れいむが おはなし
できるようになった とたん、なきそうになったくせに!」
できるようになった とたん、なきそうになったくせに!」
「な、なきそうになんて、なってないよ!」
「れいむの へっぽこぼいす なんて、れいむの びせいが なかったから、きいてもらえた
だけだよ! れいむが おはなしできるようになった いじょうは、むかち な だみごえだ
よ! ゆっくり りかいしてね!」
だけだよ! れいむが おはなしできるようになった いじょうは、むかち な だみごえだ
よ! ゆっくり りかいしてね!」
「へっぽこぼいす じゃないよ! みらくるぼいすだよ! れいむこそ、ゆっくり りかい
してね!」
してね!」
「ごめんね、まちがえたよ! へっぽこれいむの だめぼいすだね! びせい のもちぬし
で、かわいい れいむには、きたない こえで きたない れいむの くのう は、わからない
けど、ゆっくりゆるしてね?」
で、かわいい れいむには、きたない こえで きたない れいむの くのう は、わからない
けど、ゆっくりゆるしてね?」
「れいむは、かわいいでしょおおお!? かわいいのは、れいむだよ! きたないのは、
れいむのほうでしょ! きたない こえも、れいむのほうだよ!」
れいむのほうでしょ! きたない こえも、れいむのほうだよ!」
「ゆゆゆ~♪ きたない れいむの きたない こえが うるさいから、かわいい れいむの
すてきな びせいで、きれいにするよ~♪ かわいくって~~♪ ごめ~~~んねっ★」
すてきな びせいで、きれいにするよ~♪ かわいくって~~♪ ごめ~~~んねっ★」
「ゆぎぃいいいいいい!? そんな きたない こえ、いらないよ! それより、れいむの
みらくるぼいすを、おみまいするから、みんなで ききほれてね!」
みらくるぼいすを、おみまいするから、みんなで ききほれてね!」
「きったなぁ~い♪ 『ゆぎー』だって~~♪ あ~あ~、きたな~い、あ~きたない♪
きたない れいむは、こえも きたない~♪」
きたない れいむは、こえも きたない~♪」
「ゆぎゃぁああああ!」
「もっと き~~たな~~い♪」
お互いに自分を「れいむ」、相手も「れいむ」と言い合って、オマケに同じ姿であっち
へこっちへと飛び跳ね、動き回るもんだから、どっちがどっちかわからなくなりそうだ。
確か……「みらくるぼいす」とか言う怒ってる方が、先に声が出るようになったれいむ
で、「びせい」って言って喜んでる方が、学者さんを信じ込んだれいむだよな?
へこっちへと飛び跳ね、動き回るもんだから、どっちがどっちかわからなくなりそうだ。
確か……「みらくるぼいす」とか言う怒ってる方が、先に声が出るようになったれいむ
で、「びせい」って言って喜んでる方が、学者さんを信じ込んだれいむだよな?
頭の中で確認するが、なんだか余計にこんがらがりそうだ。
うるさい二匹のれいむに顔をしかめていると、学者さんの静かな声が響く。
うるさい二匹のれいむに顔をしかめていると、学者さんの静かな声が響く。
「れいむ。今よりも、もっと美しい声になれるぞ」
「うるさいよ!! だまってて!!」
「ゆ!? な、なんて? 今、なんて!?」
「ゆ!? な、なんて? 今、なんて!?」
一匹は聞く耳持たず、もう一匹は食いついてきた。食いついてきた方は、学者さんを信
じ込んだ方のはずだ。
じ込んだ方のはずだ。
「今よりも、もっと美しい声になれると言ったんだ」
「なに いってんの!? れいむの みらくるぼいすは、どんな こえより うつくしいんだ
よ!? そんなこともわからないの!? ばかなの!? しぬの!?」
「れいむ、いまよりも もっと びせいの もちぬしになれちゃうの? いまよりもだよ!?
うそだったら、れいむ おこるよ!?」
よ!? そんなこともわからないの!? ばかなの!? しぬの!?」
「れいむ、いまよりも もっと びせいの もちぬしになれちゃうの? いまよりもだよ!?
うそだったら、れいむ おこるよ!?」
学者さんが、「嘘じゃない」と請け負う。
自分は、ちゃんとお前達の声が出るようにしてやったはずだ。自分なら出来ると、お前
は信じたはずだ。そう、語りかける。
その言葉を、最初に声が出るようになったれいむは、鼻で笑い飛ばした。話せるように
なったのは、自分が特別だからだと。人間なんか、関係ないと。
だが、学者さんを信じ込んだ方は……
自分は、ちゃんとお前達の声が出るようにしてやったはずだ。自分なら出来ると、お前
は信じたはずだ。そう、語りかける。
その言葉を、最初に声が出るようになったれいむは、鼻で笑い飛ばした。話せるように
なったのは、自分が特別だからだと。人間なんか、関係ないと。
だが、学者さんを信じ込んだ方は……
「ほ……ほんとうなの? ほんとうの、ほんとうに、できちゃうの?」
もう一人のれいむが、特別なんかじゃないと信じ込みたかった。だから、声が出るよう
になったのは、学者さんのおかげだと、そうじゃなきゃいけないんだと信じ、願っている。
だったら……と、希望的観測を捨てられない。
ゆっくりは絶対に、希望的観測を捨てられない。
になったのは、学者さんのおかげだと、そうじゃなきゃいけないんだと信じ、願っている。
だったら……と、希望的観測を捨てられない。
ゆっくりは絶対に、希望的観測を捨てられない。
「俺を信じろと言ったな。信じて、お前はどうなった?」
「ちゃんと、こえ がでたよ! おにいさんを しんじたから、れいむの びせいは かえっ
てきたよ! きたない れいむは、とくべつ なんかじゃないよ! おにいさんが、なおし
てくれただけなのにね! れいむは かわいくて かしこいから、おにいさんのことをしん
じるよ!」
「ちゃんと、こえ がでたよ! おにいさんを しんじたから、れいむの びせいは かえっ
てきたよ! きたない れいむは、とくべつ なんかじゃないよ! おにいさんが、なおし
てくれただけなのにね! れいむは かわいくて かしこいから、おにいさんのことをしん
じるよ!」
食いついてきた。投げ付けられた希望に食いつき、願望を膨らませる。
「なに いってるの!? れいむは とくべつな ゆっくりなんだよ! ゆっくり りかいし
てね!」
「おまえなんか、とくべつ じゃないよ! きたないクズは、だまっててね! ゆっくり
しないで、さっさと しんでね! この、ゆっくりの はじさらし!」
てね!」
「おまえなんか、とくべつ じゃないよ! きたないクズは、だまっててね! ゆっくり
しないで、さっさと しんでね! この、ゆっくりの はじさらし!」
ついに、お前呼ばわりだ。
「どうするんだ、れいむ?」
「う゛る゛さ゛い゛よ゛っ! いらないって いったのが、わからないの!? クズにんげん
なんかが、なにかしても、しなくても、とくべつな れいむは……!!」
「おまえのほうが うるさいよっ!! きたない こえをださないでね! クズ! ゲス!
だまれ! だまって しね!」
なんかが、なにかしても、しなくても、とくべつな れいむは……!!」
「おまえのほうが うるさいよっ!! きたない こえをださないでね! クズ! ゲス!
だまれ! だまって しね!」
学者さんを信じ込んでいる方が、もう一方に何度も体当たりをして、施術台の端まで追
いやる。
突き落とされる前に、俺が持ち上げた。最初に話せるようになったれいむの口を塞ぎな
がら、学者さんを信じ込んでいる方に、愛想笑いを向ける。
いやる。
突き落とされる前に、俺が持ち上げた。最初に話せるようになったれいむの口を塞ぎな
がら、学者さんを信じ込んでいる方に、愛想笑いを向ける。
「綺麗な声のれいむは、さっき俺のことを許してくれたもんな。お礼に、こいつは俺が、
こうして抑えておくよ」
「ゆゆ!? えらいよ! さすがは、れいむのどれいだよ! れいむも、ゆるしてあげた
かいが、あったってもんだよ!」
こうして抑えておくよ」
「ゆゆ!? えらいよ! さすがは、れいむのどれいだよ! れいむも、ゆるしてあげた
かいが、あったってもんだよ!」
奴隷って決めつけたこと、ちゃっかり憶えてやがんのか。そういうのは憶えてるんだか
らなぁ。むかつく。
らなぁ。むかつく。
「おにいさん! れいむは、おにいさんをしんじるよ! れいむのこえを、もっともっと
びせいにしてね!」
「わかった。少し痛いが、俺を信じて我慢するんだ」
「ゆっくり りかいしたよっ! もっと びせいになるためだもんね! れいむ、ちゃんと
がまんするよ!」
びせいにしてね!」
「わかった。少し痛いが、俺を信じて我慢するんだ」
「ゆっくり りかいしたよっ! もっと びせいになるためだもんね! れいむ、ちゃんと
がまんするよ!」
ウキウキしまくりだ。
その信じ込んでいるれいむに、学者さんは大きく大きく口を開けさせた。そして、小さ
な刃物を隠すように持った右手を、そっとその口の中へと入れる。
声帯を構成している薄い皮膜に、切れ目を入れているはずだ。小さな切れ目だが、いく
つもいくつも。
その信じ込んでいるれいむに、学者さんは大きく大きく口を開けさせた。そして、小さ
な刃物を隠すように持った右手を、そっとその口の中へと入れる。
声帯を構成している薄い皮膜に、切れ目を入れているはずだ。小さな切れ目だが、いく
つもいくつも。
「うっ……!? っ……! ゆ゛……!」
「手術というのは、痛いものだ。声が綺麗になる手術だから、喉の奥が痛い。我慢しきれ
ば、綺麗な声になるぞ」
「ゆ゛っく゛……! ぃ゛か゛い゛ひ゛ぁ゛ぉ゛……! ゆ゛ゆ゛……!」
「手術というのは、痛いものだ。声が綺麗になる手術だから、喉の奥が痛い。我慢しきれ
ば、綺麗な声になるぞ」
「ゆ゛っく゛……! ぃ゛か゛い゛ひ゛ぁ゛ぉ゛……! ゆ゛ゆ゛……!」
ダラダラと大粒の汗を浮かべて、信じ込んでいるれいむは耐えている。俺が捕まえてい
る方も、まさか本当にと思い始めているのか、暴れ方が激しくなってきた。
口を押さえられたまま、無理矢理喋ろうとするので、抑えているこっちの手に涎がべっ
たり付き始めてる。気持ち悪い。
る方も、まさか本当にと思い始めているのか、暴れ方が激しくなってきた。
口を押さえられたまま、無理矢理喋ろうとするので、抑えているこっちの手に涎がべっ
たり付き始めてる。気持ち悪い。
「う~~~っ! うむむむむぅう!!!! ぶびゅるるるぅ!」
「手術を邪魔するつもりだろうが、そうはいかねぇよ。あっちのれいむは、すっごい美声
になるんだ。みんなが聞き惚れるだろうなぁ。それに比べたら、お前のだみ声なんて、聞
いただけでみんなが吐いちゃうだろうなぁ」
「うぶぶぶぶぶぶぶっ!!!!」
「手術を邪魔するつもりだろうが、そうはいかねぇよ。あっちのれいむは、すっごい美声
になるんだ。みんなが聞き惚れるだろうなぁ。それに比べたら、お前のだみ声なんて、聞
いただけでみんなが吐いちゃうだろうなぁ」
「うぶぶぶぶぶぶぶっ!!!!」
抑え付けているれいむの方は、目を血走らせてブルブルと震えている。手術中のれいむ
は、眼をキラキラさせて懸命に痛みに耐えていた。
は、眼をキラキラさせて懸命に痛みに耐えていた。
「よし……終わりだ」
その言葉と共に、学者さんが“手術を受けていた”れいむから離れる。
俺も、抑えていたれいむを施術台に戻してやった。
俺も、抑えていたれいむを施術台に戻してやった。
「ゆ゛ぅ゛ぅ゛……い゛た゛か゛っ゛た゛よ゛……で゛も゛、こ゛れ゛で゛……ゆ゛ゆ゛? ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛?」
「ゆあ……?」
手術を受けていたれいむが、声を出した。期待していたものとはまるで違う、間違いなく
汚い声に、ガタガタと震え出す。
抑えていたれいむも、何事が起こったのかとキョトンとしている。
汚い声に、ガタガタと震え出す。
抑えていたれいむも、何事が起こったのかとキョトンとしている。
「お゛、お゛か゛し゛い゛よ゛……? ゆ゛~゛……ゆ゛ゆ゛~゛……ゆ゛あ゛……あ゛……ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!?」
「ゆぷっ! ゆぷぷぷはっ! ゆぷぴゃはははははっ! なにそれ! なんなの、それ!?」
いくら努力しても、濁った音しか出せない。誰がどう聞いても、汚い声にしか思えない。
その汚い声しか出せないれいむは、今も希望的観測を捨てられずに、こんなはずがないと何
度も声を試し続ける。
元通りの声のれいむは、まさかと思っていた不安が払拭され、萎みかけた希望的観測が再
び独善にまで育つ。
その汚い声しか出せないれいむは、今も希望的観測を捨てられずに、こんなはずがないと何
度も声を試し続ける。
元通りの声のれいむは、まさかと思っていた不安が払拭され、萎みかけた希望的観測が再
び独善にまで育つ。
「ゆひははははははははっ! やっ、やめてね! その きたない こえを、ださないでね!
クズれいむに おにあい すぎて、れいむ わらいすぎちゃう! わらいすぎて、どうにかな
っちゃいそうだよぉ!」
クズれいむに おにあい すぎて、れいむ わらいすぎちゃう! わらいすぎて、どうにかな
っちゃいそうだよぉ!」
「き゛た゛な゛く゛な゛い゛よ゛! れ゛い゛む゛の゛ほ゛う゛が゛ク゛ズ゛で゛しょ゛! れ゛い゛む゛こ゛そ゛だ゛ま゛っ゛て゛ね゛!!」
「きたない こえ すぎて、よく わかんないよ? れいむは クズですって、じこしょうかい
したの? しってるから、ゆっくり だまっててね?」
したの? しってるから、ゆっくり だまっててね?」
「ゆ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!? お゛に゛い゛さ゛ん゛!? ど゛う゛な゛っ゛て゛る゛の゛!? れ゛い゛む゛の゛こ゛え゛が゛……!!!」
当然、人間を疑う。自分に原因があるわけがないのだから、他の誰かだ。信じていた相手
に裏切られるということを、ゆっくりは比較的容易に受け入れる。
ただし、それが楽な考えだった場合は、だ。
そして、それが次の希望的観測に繋がるのなら、だ。
だが、もしも自分の信じた学者さんが、裏切っていたのだとしたら……誰が、汚い声から
救ってくれるだろう?
希望を懐く先が見つからない場合、ゆっくりは裏切られていても、その裏切り自体を信じ
ない。裏切ったという事実こそが、嘘だと決めつける。裏切ったなんて言う、意地悪な嘘を
言っているんだと、信じ込みたがる。
に裏切られるということを、ゆっくりは比較的容易に受け入れる。
ただし、それが楽な考えだった場合は、だ。
そして、それが次の希望的観測に繋がるのなら、だ。
だが、もしも自分の信じた学者さんが、裏切っていたのだとしたら……誰が、汚い声から
救ってくれるだろう?
希望を懐く先が見つからない場合、ゆっくりは裏切られていても、その裏切り自体を信じ
ない。裏切ったという事実こそが、嘘だと決めつける。裏切ったなんて言う、意地悪な嘘を
言っているんだと、信じ込みたがる。
当然、もっと気持ちの良い嘘なら、信じ込むというほどのこともなく、あっさりと受け入
れる。
れる。
「お゛に゛い゛さ゛ん゛!?」
「ああ、とても良い声だ」
「ゆ゛っ゛……!?」
「ああ、とても良い声だ」
「ゆ゛っ゛……!?」
「すっごい良い声すぎて、聞き惚れちゃったよ」
「ゆ゛っ゛ゆ゛っ゛……!?」
「ゆ゛っ゛ゆ゛っ゛……!?」
学者さんと俺が、二人してその汚く濁った声を、褒め称える。良い声だ。美しい響きだ。
綺麗すぎて驚いた。
さぁ、気持ちの良い嘘が用意された。
自分はちゃんと、素晴らしい美声に生まれ変わっている。汚く濁った声に聞こえるのは、
気のせいだ。あるいは、美しくなりすぎた声に、耳が戸惑っているのだ。
自分の声は、美しい。
あんなに痛い思いをして、それを我慢したんだから、当然だ。
綺麗すぎて驚いた。
さぁ、気持ちの良い嘘が用意された。
自分はちゃんと、素晴らしい美声に生まれ変わっている。汚く濁った声に聞こえるのは、
気のせいだ。あるいは、美しくなりすぎた声に、耳が戸惑っているのだ。
自分の声は、美しい。
あんなに痛い思いをして、それを我慢したんだから、当然だ。
だったら、汚く聞こえる方が、間違っているのだ。
「そ゛、そ゛う゛だ゛よ゛ね゛。び゛っ゛く゛り゛し゛た゛よ゛、れ゛い゛む゛の゛こ゛え゛は゛、と゛び゛き゛り゛す゛て゛き゛な゛
び゛せ゛い゛な゛ん゛だ゛よ゛ね゛?」
「もちろんだ」
「まったく、綺麗な声だよ。俺なんて、まだビックリしてるぞ」
び゛せ゛い゛な゛ん゛だ゛よ゛ね゛?」
「もちろんだ」
「まったく、綺麗な声だよ。俺なんて、まだビックリしてるぞ」
学者さんに、俺に、何度も確認してくる。短い言葉で淡々と答える学者さんより、芝居の
下手さを言葉の多さで誤魔化そうとしている俺の方が、お気に召したらしい。
しきりと俺に、感想を求めてくる。
心地よい嘘を、もっとよこせと。
下手さを言葉の多さで誤魔化そうとしている俺の方が、お気に召したらしい。
しきりと俺に、感想を求めてくる。
心地よい嘘を、もっとよこせと。
「ゆ゛ふ゛ふ゛ふ゛、そ゛う゛だ゛よ゛ね゛、そ゛う゛だ゛も゛ん゛ね゛!! で゛も゛れ゛い゛む゛に゛、こ゛い゛し゛ち゛ゃ゛
だ゛め゛だ゛よ゛? お゛に゛い゛さ゛ん゛と゛は゛、い゛き゛る゛せ゛か゛い゛が゛ち゛が゛う゛ん゛だ゛か゛ら゛」
だ゛め゛だ゛よ゛? お゛に゛い゛さ゛ん゛と゛は゛、い゛き゛る゛せ゛か゛い゛が゛ち゛が゛う゛ん゛だ゛か゛ら゛」
どうやら、「奴隷」から「お兄さん」へとランクアップしたようだ。
「ゆ゛は゛~゛~゛~゛、び゛っ゛く゛り゛し゛た゛よ゛。れ゛い゛む゛、て゛っ゛き゛り゛……」
「どうした、綺麗な声のれいむ? れいむも、自分の声に感動して泣いちゃったか? 涙が
いっぱい出てるぞ」
「ゆ゛!? ゆ゛……ゆ゛ふ゛ふ゛ふ゛ふ゛、そ゛う゛な゛の゛。さ゛す゛が゛の゛れ゛い゛む゛も゛、び゛っ゛く゛り゛し゛た゛よ゛。
き゛れ゛い゛な゛こ゛え゛で゛、ご゛め゛ん゛ね゛?」
「どうした、綺麗な声のれいむ? れいむも、自分の声に感動して泣いちゃったか? 涙が
いっぱい出てるぞ」
「ゆ゛!? ゆ゛……ゆ゛ふ゛ふ゛ふ゛ふ゛、そ゛う゛な゛の゛。さ゛す゛が゛の゛れ゛い゛む゛も゛、び゛っ゛く゛り゛し゛た゛よ゛。
き゛れ゛い゛な゛こ゛え゛で゛、ご゛め゛ん゛ね゛?」
「なに いってるの? びっくりするくらい、きたない こえ だよ?」
「ゆ゛が゛っ゛……!?」
「ゆ゛が゛っ゛……!?」
当然、そういう声が掛かる。言い出すのは、もう一匹のれいむ。
自分の方が優れていると、自分こそが特別だと、思い上がりを肥え太らせているのだから、
容赦なんてするわけがない。徹底的に否定し、こき下ろし、馬鹿にし、自分の優位性に酔い
たがる。
自分の方が優れていると、自分こそが特別だと、思い上がりを肥え太らせているのだから、
容赦なんてするわけがない。徹底的に否定し、こき下ろし、馬鹿にし、自分の優位性に酔い
たがる。
「こんな きたない こえ、れいむ きいたことがないよ。きいてると、みみが おかしくなり
そうだよ。きもち も わるくなって、はきそうだよ。えろえろえ~♪」
「れ゛い゛む゛の゛こ゛え゛の゛ほ゛う゛が゛、゛ず゛っ゛と゛ず゛っ゛と゛き゛た゛な゛い゛よ゛!」
「きたない こえ すぎて、なんて いってるか わかんないって、なんぺん いわせたいの??
うんうん ごえ の れいむは、だまっててね? えいえんでいいよ。しんで いいよ」
「ゆ゛が゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!! れ゛い゛む゛は゛き゛た゛な゛い゛こ゛え゛な゛ん゛か゛じ゛ゃ゛な゛い゛ぃ゛い゛い゛い゛!!」
そうだよ。きもち も わるくなって、はきそうだよ。えろえろえ~♪」
「れ゛い゛む゛の゛こ゛え゛の゛ほ゛う゛が゛、゛ず゛っ゛と゛ず゛っ゛と゛き゛た゛な゛い゛よ゛!」
「きたない こえ すぎて、なんて いってるか わかんないって、なんぺん いわせたいの??
うんうん ごえ の れいむは、だまっててね? えいえんでいいよ。しんで いいよ」
「ゆ゛が゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!! れ゛い゛む゛は゛き゛た゛な゛い゛こ゛え゛な゛ん゛か゛じ゛ゃ゛な゛い゛ぃ゛い゛い゛い゛!!」
お前の声は汚い……という事実は、一番聞きたくないはずだ。
自分の声は綺麗だと、信じ込もうとしているのだから。自分自身にも汚い声だとしか思え
ない自分の声を、それは間違いだと思い込もうとしているのに。
当然、怒る。許せないと感じる。
汚く聞こえるのは、間違い。嘘。そんなもので、自分をゆっくり出来ない気持ちにさせる
ヤツも、間違っている。大嘘つきだ。
その思いを、後押ししてやる。
自分の声は綺麗だと、信じ込もうとしているのだから。自分自身にも汚い声だとしか思え
ない自分の声を、それは間違いだと思い込もうとしているのに。
当然、怒る。許せないと感じる。
汚く聞こえるのは、間違い。嘘。そんなもので、自分をゆっくり出来ない気持ちにさせる
ヤツも、間違っている。大嘘つきだ。
その思いを、後押ししてやる。
「聞く能力が劣っているのだろう」
学者さんの声。
「ここに集められたのは、群れに迷惑をかけるクズばっかりなんだよなぁ」
俺も、聞こえるように言う。
「綺麗な声のれいむ。憶えてるか? あいつら、お仕置きされてたろう? ぶん殴られてた
よな?」
「ゆ゛ゆ゛ゆ゛……? ゆ゛っ゛……! ゆ゛あ゛……! そ゛、そ゛う゛だ゛っ゛た゛よ゛!」
よな?」
「ゆ゛ゆ゛ゆ゛……? ゆ゛っ゛……! ゆ゛あ゛……! そ゛、そ゛う゛だ゛っ゛た゛よ゛!」
汚い声のれいむが、もう一匹のれいむを睨み、ありすを見、ぱちゅりー達を見る。
ここで「あいつら」と、ちゃんと言うのがポイントだと、学者さんにアドバイスされた。
ここで「あいつら」と、ちゃんと言うのがポイントだと、学者さんにアドバイスされた。
「お仕置きされた」「殴られた」とだけ言われて記憶を探った場合、ゆっくりはその言葉
にある受動性……された、やられたと言う響きによって、自分がされたことから思い起こす。
思い出せなくても、自分が殴られた気持ちになって、怒り出す。
にある受動性……された、やられたと言う響きによって、自分がされたことから思い起こす。
思い出せなくても、自分が殴られた気持ちになって、怒り出す。
「あいつらが」「された」と言葉が続くと、ゆっくりは見た記憶から掘り起こす。他人の
様子を指し示しているから。
なにより、自分は痛い思いをしたくないし、していたなんて思い出したくないから。
だからこの手順なら、自分のことは高確率で思い出さない。他の連中が殴られてるところ
を見た、その映像だけを、思い出すのだ。自分が殴られた記憶は、主に痛みの感覚を中心に
記憶しているから、「同じような視覚から受けた映像の記憶」では、思い出されない。
様子を指し示しているから。
なにより、自分は痛い思いをしたくないし、していたなんて思い出したくないから。
だからこの手順なら、自分のことは高確率で思い出さない。他の連中が殴られてるところ
を見た、その映像だけを、思い出すのだ。自分が殴られた記憶は、主に痛みの感覚を中心に
記憶しているから、「同じような視覚から受けた映像の記憶」では、思い出されない。
そして、自分も殴られたという事実を、見事に棚に上げて、都合良く忘れる。
「そ゛う゛だ゛よ゛! あ゛い゛つ゛ら゛は゛ク゛ズ゛で゛、ゲ゛ス゛だ゛か゛ら゛っ゛て゛、お゛に゛い゛さ゛ん゛に゛
お゛し゛お゛き゛さ゛れ゛て゛た゛よ゛!」
「なに いってるの!? クズは、れいむのほうでしょ! きたない こえのクズ!」
「れ゛い゛む゛の゛こ゛え゛は゛、き゛れ゛い゛な゛ん゛だ゛よ゛!!」
「きたないよ!! ごみごえ! クズごえ! うんうんごえ!!」
「ク゛ズ゛は゛お゛前゛だ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛! ク゛ズ゛は゛し゛ね゛! ゲ゛ス゛は゛し゛ね゛! し゛ね゛! し゛ね゛!」
「ゆべっ!? ぶべっ!? ぐっ……ぐずのっ……! クズのくせに……ゆぎゃんっ!!」
お゛し゛お゛き゛さ゛れ゛て゛た゛よ゛!」
「なに いってるの!? クズは、れいむのほうでしょ! きたない こえのクズ!」
「れ゛い゛む゛の゛こ゛え゛は゛、き゛れ゛い゛な゛ん゛だ゛よ゛!!」
「きたないよ!! ごみごえ! クズごえ! うんうんごえ!!」
「ク゛ズ゛は゛お゛前゛だ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛! ク゛ズ゛は゛し゛ね゛! ゲ゛ス゛は゛し゛ね゛! し゛ね゛! し゛ね゛!」
「ゆべっ!? ぶべっ!? ぐっ……ぐずのっ……! クズのくせに……ゆぎゃんっ!!」
そして、相手はお仕置きされて当然の、クズだから……という、攻撃しても良い理由が加
わるわけだ。
自分の声が綺麗だってことを、否定するヤツを黙らせたい。相手はクズだから、言ってる
ことは嘘塗れの、間違いだらけ。
縋りたかった希望的観測が、あっと言う間に膨れあがる。
わるわけだ。
自分の声が綺麗だってことを、否定するヤツを黙らせたい。相手はクズだから、言ってる
ことは嘘塗れの、間違いだらけ。
縋りたかった希望的観測が、あっと言う間に膨れあがる。
「し゛ね゛っ゛! し゛ね゛っ゛! し゛ね゛っ゛! し゛ね゛っ゛! し゛ね゛っ゛!」
「ゆぎゃ! ゆげっ! げうっ! ぐげっ! だずっ……! だずげでぇええ!」
「ゆぎゃ! ゆげっ! げうっ! ぐげっ! だずっ……! だずげでぇええ!」
汚い声のれいむは、自分の声は美しいという嘘を信じ込めなければ、絶対にゆっくり出来
ない。
ゆっくり出来ないかもしれないという状況は、ゆっくりにとって生きるか死ぬかの瀬戸際
に等しいんだ。
ない。
ゆっくり出来ないかもしれないという状況は、ゆっくりにとって生きるか死ぬかの瀬戸際
に等しいんだ。
立て続けに体当たりを喰らい、施術台から落ちそうになる度に、俺が中央へと押し戻して
やる。
そしてまた、同じ姿をしたモノに何度も体当たりされる。
やる。
そしてまた、同じ姿をしたモノに何度も体当たりされる。
「だずっ……! だずげでっで……! た゛す゛け゛て゛っ゛て゛い゛っ゛て゛る゛で゛し゛ょ゛ぉ゛お゛お゛お゛!?」
元の声のままのれいむは、自分は特別だと思い続け、実際に難を逃れ続けていた。特別な
自分は、救われて当然だと思っている。
自分は、救われて当然だと思っている。
同じれいむでも、必死さに差がありすぎる。当然、勝負は見えていた。
「ど゛う゛!? ど゛う゛な゛の゛! お゛も゛い゛し゛っ゛た゛? こ゛の゛ク゛ズ゛! ゲ゛ス゛! お゛も゛い゛し゛っ゛た゛?
わ゛か゛っ゛た゛? れ゛い゛む゛の゛こ゛え゛は゛、き゛れ゛い゛な゛ん゛だ゛よ゛! す゛っ゛ご゛く゛! す゛っ゛ご゛く゛!!
び゛せ゛い゛な゛ん゛だ゛よ゛っ! そ゛ん゛な゛こ゛と゛も゛わ゛か゛ら゛な゛い゛お゛ま゛え゛は゛、ク゛ズ゛な゛ん゛だ゛よ゛!
ゲ゛ス゛だ゛か゛ら゛、し゛ん゛で゛と゛う゛ぜ゛ん゛だ゛よ゛!」
わ゛か゛っ゛た゛? れ゛い゛む゛の゛こ゛え゛は゛、き゛れ゛い゛な゛ん゛だ゛よ゛! す゛っ゛ご゛く゛! す゛っ゛ご゛く゛!!
び゛せ゛い゛な゛ん゛だ゛よ゛っ! そ゛ん゛な゛こ゛と゛も゛わ゛か゛ら゛な゛い゛お゛ま゛え゛は゛、ク゛ズ゛な゛ん゛だ゛よ゛!
ゲ゛ス゛だ゛か゛ら゛、し゛ん゛で゛と゛う゛ぜ゛ん゛だ゛よ゛!」
体当たりし、噛み付き、飛び乗って、何度も攻撃して、姉妹を潰した汚い声のれいむは、
さらに潰れた饅頭の上で飛び跳ね、踏みつけ、姉妹だった餡を飛び散らせている。
さらに潰れた饅頭の上で飛び跳ね、踏みつけ、姉妹だった餡を飛び散らせている。
見事に学者さんが言っていたとおりで……ちょっと、ゾッとするほどだ。このくらい理解
して、きちんと誘導できたら……研究者としては物足りなかったりするだろうけど、虐待に
活用できたら楽しそうだなぁ。
実際、今楽しいし、俺。
して、きちんと誘導できたら……研究者としては物足りなかったりするだろうけど、虐待に
活用できたら楽しそうだなぁ。
実際、今楽しいし、俺。
「アレは、もう良いでしょう」
学者さんが、淡々と言う。
もう十分。予想したとおりの結果で、意外性もなかった。だから、もう良い。
用無しってわけだ。
許可をもらった俺は、夢中になって姉妹だったものを踏みつけている汚い声のれいむに、
優しく声をかける。
もう十分。予想したとおりの結果で、意外性もなかった。だから、もう良い。
用無しってわけだ。
許可をもらった俺は、夢中になって姉妹だったものを踏みつけている汚い声のれいむに、
優しく声をかける。
「もういいってさ」
「ゆ゛へ゛ぇ゛~゛! ゆ゛へ゛ぇ゛~゛! お゛、お゛に゛い゛さ゛ん゛! れ゛い゛む゛、ゲ゛ス゛を゛た゛い゛じ゛し゛た゛よ゛!
す゛ご゛い゛で゛し゛ょ゛!? や゛っ゛ぱ゛り゛、れ゛い゛む゛は゛こ゛え゛が゛き゛れ゛い゛な゛ぶ゛ん゛、こ゛こ゛ろ゛も゛……」
「ゆ゛へ゛ぇ゛~゛! ゆ゛へ゛ぇ゛~゛! お゛、お゛に゛い゛さ゛ん゛! れ゛い゛む゛、ゲ゛ス゛を゛た゛い゛じ゛し゛た゛よ゛!
す゛ご゛い゛で゛し゛ょ゛!? や゛っ゛ぱ゛り゛、れ゛い゛む゛は゛こ゛え゛が゛き゛れ゛い゛な゛ぶ゛ん゛、こ゛こ゛ろ゛も゛……」
「え? なんだって? 何を言ってるのか、わからないな。声が汚すぎるからかな?」
「ゆ゛っ゛…………!? な゛……な゛に゛を゛い゛っ゛て゛る゛の゛? れ゛い゛む゛の゛こ゛え゛は゛き゛れ゛い゛っ゛て゛、
お゛に゛い゛さ゛ん゛も゛……」
「なんだよ、お前。ブリブリブリブリ汚い声だな。口から、うんうんを漏らしてんのか?」
「ゆ゛っ゛…………!? な゛……な゛に゛を゛い゛っ゛て゛る゛の゛? れ゛い゛む゛の゛こ゛え゛は゛き゛れ゛い゛っ゛て゛、
お゛に゛い゛さ゛ん゛も゛……」
「なんだよ、お前。ブリブリブリブリ汚い声だな。口から、うんうんを漏らしてんのか?」
冷たく見下ろす俺から、のろのろと顔を背ける。
聞こえなかったことにして……という感じだろう。れいむは学者さんの方を向くと、精一
杯の笑顔を浮かべた。
聞こえなかったことにして……という感じだろう。れいむは学者さんの方を向くと、精一
杯の笑顔を浮かべた。
「お゛、お゛に゛い゛さ゛ん゛……? ど゛、ど゛う゛? ほ゛ら゛、れ゛い゛む゛の゛こ゛え゛っ゛て゛……」
「汚いな。声ですらない。聞いたこともないほど、汚い音だ」
「汚いな。声ですらない。聞いたこともないほど、汚い音だ」
縋る先を、見失った。気持ちのいい嘘を、与えてくれる相手が消えた。
ここから自力で、懸命に嘘を構築し、希望にまで育て膨らませていくには、しばらく時間
が必要だろう。
硬直したままピクリとも動かなくなった汚い声のれいむを、ありすとぱちゅりー達のケー
ジへと向き直らせた。
ここから自力で、懸命に嘘を構築し、希望にまで育て膨らませていくには、しばらく時間
が必要だろう。
硬直したままピクリとも動かなくなった汚い声のれいむを、ありすとぱちゅりー達のケー
ジへと向き直らせた。
「おい……ありす、ぱちゅりー。お前らも、思い出したか? お前らは、クズで、ゲスで、
群れに迷惑をかけるからと、お仕置きされたってことを。ここに連れて来られたゆっくりは、
みんなクズだってことを」
群れに迷惑をかけるからと、お仕置きされたってことを。ここに連れて来られたゆっくりは、
みんなクズだってことを」
俺が問いかけると、三匹ともほとんど同時に「自分は違う」と言うようなことを主張し始
めた。他の連中がいかにクズかを言いながら、自分だけは違うのだと。
めた。他の連中がいかにクズかを言いながら、自分だけは違うのだと。
「クズで、ゲスは、どうなるのか……この、うんうん声のれいむが見せてくれたよな?」
うんうん声という言葉に反応して、れいむがビクンと震える。だが、それ以外は止まった
ままだ。新しく聞こえてきたその声も、今必死に否定していることだろう。
大きめの板をれいむの後ろから、立てかけるように乗せる。
ままだ。新しく聞こえてきたその声も、今必死に否定していることだろう。
大きめの板をれいむの後ろから、立てかけるように乗せる。
「こんなふうに、潰されるんだ……よっ!!!」
ドガンッ!!
板に体重を一気にかけ、れいむを潰した。後ろ側から押し潰される形となったれいむは、
呆然としたまま目玉を弾け出させ、その目の穴と口から餡を吹き出した。
餡の全てが、板の圧力でさらに前方へ……ありすと、二匹のぱちゅりーのケージへ向かい、
ぶちまけられた。
板に体重を一気にかけ、れいむを潰した。後ろ側から押し潰される形となったれいむは、
呆然としたまま目玉を弾け出させ、その目の穴と口から餡を吹き出した。
餡の全てが、板の圧力でさらに前方へ……ありすと、二匹のぱちゅりーのケージへ向かい、
ぶちまけられた。
「いぃやぁああああ!? きたない! きたないわぁあああ!? とかいはじゃないわよ、
こんなのぉおおお!?」
「むぎゅぅううっ!! うっ! うえおっ!? だっ、だめ……! えれえれしては……!
ぱちぇは……! ぎょくざに すわるまえに、しぬわけには……!」
「ぱっ、ぱぱぱ、ぱちぇにはわかるわ! こっ、これっ! これは……! これは……え、
えっと……ただの、うんうんよ! きたないだけよ!」
こんなのぉおおお!?」
「むぎゅぅううっ!! うっ! うえおっ!? だっ、だめ……! えれえれしては……!
ぱちぇは……! ぎょくざに すわるまえに、しぬわけには……!」
「ぱっ、ぱぱぱ、ぱちぇにはわかるわ! こっ、これっ! これは……! これは……え、
えっと……ただの、うんうんよ! きたないだけよ!」
「さぁてと。同じくらいゲスのお前らは、どうしようかなぁ?」
言いながら、とりあえず施術台の上を綺麗にする。れいむ達だったモノをかき集めてポリ
バケツへ。それから、ペーパータオルで施術台を綺麗に拭き清めて……と。
バケツへ。それから、ペーパータオルで施術台を綺麗に拭き清めて……と。
「むきゅぁあああっ!? やめなさいっ! とくべつに あなたを、けんじゃ ぱちゅりーの
けらいにしてあげるわ! きょくざの みぎどなりに、すわることを ゆるしてあげる!」
「あっ、ありす……! ありすはっ! ありすは、ゲスなんかじゃないわよっ! ありすは、
とっても とかいはよ!?」
「そっ、そこまでよっ! ぱっ、ぱちぇには、わかるわ! おしおきは、もうおわりよっ!
あの、えっと! あなたは かしこいから、ぱちぇがゲスじゃないって わかってるの!」
けらいにしてあげるわ! きょくざの みぎどなりに、すわることを ゆるしてあげる!」
「あっ、ありす……! ありすはっ! ありすは、ゲスなんかじゃないわよっ! ありすは、
とっても とかいはよ!?」
「そっ、そこまでよっ! ぱっ、ぱちぇには、わかるわ! おしおきは、もうおわりよっ!
あの、えっと! あなたは かしこいから、ぱちぇがゲスじゃないって わかってるの!」
三匹とも、都合の良い命乞い……というか、命乞いにもなってない主張を、繰り返す。
本当にどうしてやろうかと考えていると、学者さんが静かに聞いてきた。
本当にどうしてやろうかと考えていると、学者さんが静かに聞いてきた。
「そのありすは、レイパーですか?」
「はい」
「はい」
「ありすは、れいぱーなんかじゃないわよぉおおおっ!!」
ありすは、どうしても自分がレイパーだと言うことを否定したいらしい。怯えをすっかり
忘れて、がなり立ててきた。
忘れて、がなり立ててきた。
「ぱちゅりー種の二匹で、どちらが体力面で優れてますか?」
「う~ん、多分ですけど……こっちの間違いしか言えない馬鹿の方が、まだマシかなぁ?」
「う~ん、多分ですけど……こっちの間違いしか言えない馬鹿の方が、まだマシかなぁ?」
間違いだらけの馬鹿の方が、群れでの共同作業を始めとして他者と多く関わろうとしてい
た分だけ、多少は運動もしている。
まぁ、ぱちゅりー種って段階で、体力なんてどっちもどっちだろうけど。
た分だけ、多少は運動もしている。
まぁ、ぱちゅりー種って段階で、体力なんてどっちもどっちだろうけど。
「むきゃきゃっ! ぱちぇには、わかるわ。うんどう も できる、しん の けんじゃである
ぱちぇは、ゆうしゅう な ゆっくりとして たたえられるのよ!」
「たすかるのは、ぎょくざにすわるべき、この けんじゃ ぱちゅりー ただ ひとりよ。せい
ぜい げんきに のたうって、いじめられなさい!」
ぱちぇは、ゆうしゅう な ゆっくりとして たたえられるのよ!」
「たすかるのは、ぎょくざにすわるべき、この けんじゃ ぱちゅりー ただ ひとりよ。せい
ぜい げんきに のたうって、いじめられなさい!」
ぱちゅりー二匹は、どっちも自分に都合良く解釈して、自分だけは助かるという考えを捨
てようとしない。
てようとしない。
学者さんは、ちょっと思いついたことがあるから、試してみたいのだとか。
「なんですか? 試したいことって」
「ゆっくりは、どのような接触であっても、条件さえ整っていれば子を成します」
「ゆっくりは、どのような接触であっても、条件さえ整っていれば子を成します」
知っている。すぐそこにいる変態ありすも、その良い例だろう。“あにゃる”に挿入して、
何匹も犯し殺した。犯された連中の直接的な死因は、どれも大量の茎を額から生やし、大量
の赤ゆに体力を吸い取られ、母子共に死亡したってものだ。典型的な、レイパーに襲われた
被害者の死に様。
何匹も犯し殺した。犯された連中の直接的な死因は、どれも大量の茎を額から生やし、大量
の赤ゆに体力を吸い取られ、母子共に死亡したってものだ。典型的な、レイパーに襲われた
被害者の死に様。
まともな交尾でも、挿入無しで体を擦り合わせるだけって行為で妊娠するし、ネットなん
かでも目撃報告がある話なら、レイパーにぶっかけられただけだってのに、妊娠したって場
合もあるらしいし。
かでも目撃報告がある話なら、レイパーにぶっかけられただけだってのに、妊娠したって場
合もあるらしいし。
少し首をかしげて、学者さんが話を続ける。
「子を成す形態は、大きく分けて二つです」
植物型と、胎生型。これも有名な話だから、よく知ってる。
「妊娠に関しては、どのような場所にも条件さえ整えば可能なのか、否か」
「……え?」
「……え?」
植物型は、ゆっくりの額から茎が伸びて、その名の通り植物が実を付けるように、茎に並
んで赤ん坊が成る。
胎生型は、ゆっくりの下側の、前。人間の頭なら顎か、顎の下か、そのあたりだ。ゆっく
り達は、そこを“お腹”とか“ぽんぽん”とかいう。“まむまむ”の内側には子を育成する
ための空洞が作られてるらしい。
んで赤ん坊が成る。
胎生型は、ゆっくりの下側の、前。人間の頭なら顎か、顎の下か、そのあたりだ。ゆっく
り達は、そこを“お腹”とか“ぽんぽん”とかいう。“まむまむ”の内側には子を育成する
ための空洞が作られてるらしい。
「胎生型妊娠は、前下部だけなのか。植物型妊娠は、額だけなのか」
つまり、交尾と同じように、妊娠にもでたらめな自由自在さが、有るのか、無いのか……
ってこと?
それは……どうなんだろう? 少なくとも、他の例を聞いたことはない。
変態レイパーの例なら、“あにゃる”に出しても、ケツに子供は出来なかった。胎生型に
はならず、植物型になったんだ。
胎生型妊娠のためには、“まむまむ”への挿入と精子餡の注入が必要で、その量が他の場
所からの精子餡吸収よりも多くなくっちゃならない。他の場所からの精子餡吸収が多ければ、
植物型になる……んじゃ、なかったっけ? 確か、学者さんのレポートにあったのを、読ん
だことがある。
ってこと?
それは……どうなんだろう? 少なくとも、他の例を聞いたことはない。
変態レイパーの例なら、“あにゃる”に出しても、ケツに子供は出来なかった。胎生型に
はならず、植物型になったんだ。
胎生型妊娠のためには、“まむまむ”への挿入と精子餡の注入が必要で、その量が他の場
所からの精子餡吸収よりも多くなくっちゃならない。他の場所からの精子餡吸収が多ければ、
植物型になる……んじゃ、なかったっけ? 確か、学者さんのレポートにあったのを、読ん
だことがある。
「あくまで推論です。レポートにも、書いておいたはずですが……それに私は、“精子餡”
という表現は使っていません」
という表現は使っていません」
精子餡と言われているが、ゆっくりが交尾の際に“ぺにぺに”から吹き出すのは、水分と
糖分が多いが中身とそれほど大差のない餡なのだとか。餡と言っても、中身に比べれば蜜と
言った方が良いくらいに『構成割合』に違いはあるが『構成成分』自体は大差がないとか。
とにかく、精子のように次世代へと情報を伝えるものなどは見つかっていないし、餡を緩
めている蜜自体も、交尾の際に体表から分泌する粘液と成分的には同じらしい。
さらには、“ぺにぺに”から出されるその餡を使わなくても、体表から分泌される粘液と、
体を擦り合わせることで混じり合わされた皮の成分だけでも、植物型妊娠をすることは確認
されてるそうだ。
だから、子作りのための特別な餡という感じの表現は、避けたんだとか。
糖分が多いが中身とそれほど大差のない餡なのだとか。餡と言っても、中身に比べれば蜜と
言った方が良いくらいに『構成割合』に違いはあるが『構成成分』自体は大差がないとか。
とにかく、精子のように次世代へと情報を伝えるものなどは見つかっていないし、餡を緩
めている蜜自体も、交尾の際に体表から分泌する粘液と成分的には同じらしい。
さらには、“ぺにぺに”から出されるその餡を使わなくても、体表から分泌される粘液と、
体を擦り合わせることで混じり合わされた皮の成分だけでも、植物型妊娠をすることは確認
されてるそうだ。
だから、子作りのための特別な餡という感じの表現は、避けたんだとか。
動物の子宮のように、前下部に子を宿すための空間が、確かに用意されてはいる。個体に
よっては、余剰水分……“ちーちー”を溜めておく場所と一体になってしまっているものや、
あまりに小さく狭いものも稀にいるのだとか。何故、そんな違いが出るのか、環境の違いな
のか遺伝なのか、それもわからない。
だが、ちーちーが入り込んでくるようになっていようと、極端に狭かろうと、胎生型妊娠
自体は可能ではあるらしい。当然、無事に生まれてくる可能性は恐ろしく低いから、そうい
う個体が子供を成す時は、植物型で確認されるのだとか。
よっては、余剰水分……“ちーちー”を溜めておく場所と一体になってしまっているものや、
あまりに小さく狭いものも稀にいるのだとか。何故、そんな違いが出るのか、環境の違いな
のか遺伝なのか、それもわからない。
だが、ちーちーが入り込んでくるようになっていようと、極端に狭かろうと、胎生型妊娠
自体は可能ではあるらしい。当然、無事に生まれてくる可能性は恐ろしく低いから、そうい
う個体が子供を成す時は、植物型で確認されるのだとか。
そして、その空間が妊娠のためのモノとして機能しているのか、その空間に片親の因子を
たっぷりと取り込むからこその胎生型妊娠なのかも、まだハッキリとしていないそうだ。
たっぷりと取り込むからこその胎生型妊娠なのかも、まだハッキリとしていないそうだ。
変態ありすにレイプされた連中が植物型妊娠だった理由は、尻の方には前のように空間が
あらかじめ用意されていない……たとえば、“うんうんを溜めておく場所”みたいなものは
無いからだと考えられるらしい。
ゆっくりの内側では、特別な器官以外は、餡の流動がほぼ休みなく行われている。そして、
その流動で新しい餡や、食物繊維を初めとする、食べることで取り込んだ様々な成分を移動
させ、特別な器官も適宜作り直されているのだとか。でも、基本的には上側の方が新しい餡
で、下側には古い餡が溜まるのだという。
新しい餡は柔らかく流動にも乗りやすいから上へも昇るけど、“うんうん”がすぐ固まり
カピカピになるように、古い餡は柔らかさを失っているから、動きも重いのだとか。
あらかじめ用意されていない……たとえば、“うんうんを溜めておく場所”みたいなものは
無いからだと考えられるらしい。
ゆっくりの内側では、特別な器官以外は、餡の流動がほぼ休みなく行われている。そして、
その流動で新しい餡や、食物繊維を初めとする、食べることで取り込んだ様々な成分を移動
させ、特別な器官も適宜作り直されているのだとか。でも、基本的には上側の方が新しい餡
で、下側には古い餡が溜まるのだという。
新しい餡は柔らかく流動にも乗りやすいから上へも昇るけど、“うんうん”がすぐ固まり
カピカピになるように、古い餡は柔らかさを失っているから、動きも重いのだとか。
だから、ゆっくりは飯を食うと、ほとんどその直後に“うんうん”をする。食料を取り込
んで内容量が増え、内圧が上昇している機会に、下部に溜まりがちな古い餡を排出するんだ。
んで内容量が増え、内圧が上昇している機会に、下部に溜まりがちな古い餡を排出するんだ。
「他の、あらかじめ存在する空洞が、番いの因子で満たされたら? 前下部での過程と同じ
ことをして、それでも子を成さなければ……」
ことをして、それでも子を成さなければ……」
胎生型妊娠は、絶対に“まむまむ”の中にたっぷりと出さなくちゃならない……ってこと
になるのか。少なくとも、その可能性が高いと考えられる。“まむまむ”の奥が、赤ん坊を
宿すための機能を持った部屋だという仮定を後押しする。空間があればいいと言うだけじゃ
なく、子を成すための、何らかの機能があるという仮定も出来る。
他の、あらかじめ存在する空洞でも可能ってことなら、ただ空間があればいいと言うだけ。
特別な機能が必要なのではなく、内部に大量に因子を取り込み、子を育成するスペースさえ
あれば、どこだっていい……という仮定の方が後押しされる。
になるのか。少なくとも、その可能性が高いと考えられる。“まむまむ”の奥が、赤ん坊を
宿すための機能を持った部屋だという仮定を後押しする。空間があればいいと言うだけじゃ
なく、子を成すための、何らかの機能があるという仮定も出来る。
他の、あらかじめ存在する空洞でも可能ってことなら、ただ空間があればいいと言うだけ。
特別な機能が必要なのではなく、内部に大量に因子を取り込み、子を育成するスペースさえ
あれば、どこだっていい……という仮定の方が後押しされる。
そして、「他の、あらかじめ存在する空洞」ってのは……まぁ、今日勉強したばっかなん
だし、さすがにわかる。
だし、さすがにわかる。
「すごいこと考えますね」
「そうですか? 当然、浮かんでくる疑問だと思いますが」
「そうですか? 当然、浮かんでくる疑問だと思いますが」
さらりと言ってのけるが、なかなか思いつかないと思う。自分のモノをゆっくりの喉奥ま
で突っ込んでぶち破った、ちょっと変態チックな虐待お兄さんの話なら、ネットで見たこと
あるけど……
喩えるなら、喉で妊娠させてみようってことでしょ? なかなか思いつかないって。
で突っ込んでぶち破った、ちょっと変態チックな虐待お兄さんの話なら、ネットで見たこと
あるけど……
喩えるなら、喉で妊娠させてみようってことでしょ? なかなか思いつかないって。
「植物型妊娠の方は、どうなんですか? なんで、額なんすかね?」
「今のところ、もっとも安全で、都合も良いスペースだから……としか、言えませんね」
「今のところ、もっとも安全で、都合も良いスペースだから……としか、言えませんね」
植物型の方も、やっぱりわからないことだらけのようだ。
ただ、接地面に近づけば近づくほど、母体は身動きが制限されるし、赤ん坊への直接的な
危険も高まる。頬などの良く動く場所では、安定しない。一番安定し、一番見やすく、髪な
どで皮が隠れていない部分が、額だから……という、推測らしい。
ただ、接地面に近づけば近づくほど、母体は身動きが制限されるし、赤ん坊への直接的な
危険も高まる。頬などの良く動く場所では、安定しない。一番安定し、一番見やすく、髪な
どで皮が隠れていない部分が、額だから……という、推測らしい。
「ですから、額をもっとも不安定で危険な場所にします」
「どうやってですか?」
「そちらのぱちゅりー種の額を、出来るだけ時間をかけて、少しずつ壊していってください。
どんな方法でも構いません」
「……傷だらけにするんじゃなくて、壊すんすね?」
「ええ」
「どうやってですか?」
「そちらのぱちゅりー種の額を、出来るだけ時間をかけて、少しずつ壊していってください。
どんな方法でも構いません」
「……傷だらけにするんじゃなくて、壊すんすね?」
「ええ」
額は、痛い思いをする場所だと思い込ませるまで、何度も何度も痛みを与え続ける。皮に
刃物で傷をつけただけじゃ、安定性は維持されるから、ボコボコにする。出来れば、グニャ
グニャに柔らかくなるまで。
だが、壊すのは額だけ。穴を開けたり、ましてや頭をフッ飛ばしちゃ、意味がない。死な
れちゃ困るんだから。
難しい注文だなぁ。
でも考えてみたら、殺す・潰す以外で、初めて任されたゆっくりへの“処置”だ。実験の
お手伝いっぽくなってきた。そう考えると、ワクワクする。なんとしても、やらないと。
刃物で傷をつけただけじゃ、安定性は維持されるから、ボコボコにする。出来れば、グニャ
グニャに柔らかくなるまで。
だが、壊すのは額だけ。穴を開けたり、ましてや頭をフッ飛ばしちゃ、意味がない。死な
れちゃ困るんだから。
難しい注文だなぁ。
でも考えてみたら、殺す・潰す以外で、初めて任されたゆっくりへの“処置”だ。実験の
お手伝いっぽくなってきた。そう考えると、ワクワクする。なんとしても、やらないと。
「はっ、はなすのよ!! けんじゃ ぱちゅりーは、ぎょくざに すわるべき、いだいな……
むぎゃっ!? むぇ……! ぇ……!? ぅ……!!!」
むぎゃっ!? むぇ……! ぇ……!? ぅ……!!!」
見ると学者さんは、賢者と王者を勘違いしているぱちゅりーの方を、上と下に割るように
して開いていた。最初に、でいぶに対してやったのと同じ要領だ。
して開いていた。最初に、でいぶに対してやったのと同じ要領だ。
俺も、取り掛かることにする。棚から、細かな突起がいくつも突いた、小さなハンマーを
持ってくる。肉なんかを軟らかくするために、とんとんと叩くカナヅチを、もう一回り小さ
くしたようなものだ。
持ってくる。肉なんかを軟らかくするために、とんとんと叩くカナヅチを、もう一回り小さ
くしたようなものだ。
「ぱっ、ぱちぇには、わかるわ!? おにいさんは、それで、えっと……ぱちぇのための、
ごはんをつくるの!」
「違うよ、馬鹿」
「むぎゅっ!? ぎゃんっ! むぎゅあああああんっ!」
ごはんをつくるの!」
「違うよ、馬鹿」
「むぎゅっ!? ぎゃんっ! むぎゅあああああんっ!」
仰向けに倒して抑え、とんとんと額を叩き始めると、大袈裟すぎる声を上げた。まだそこ
まで痛くないだろうに。
叩いてる馬鹿ぱちゅりーがうるさいが、これなら余所見していても作業は続けられる。
まで痛くないだろうに。
叩いてる馬鹿ぱちゅりーがうるさいが、これなら余所見していても作業は続けられる。
すでに学者さんは、勘違いぱちゅりーの切り口を丁寧に塞ぎ終わっていた。「殺さないか
ら安心しろ」と勘違いぱちゅりーに声をかけ、ありすをケージから取り出した。
ら安心しろ」と勘違いぱちゅりーに声をかけ、ありすをケージから取り出した。
「ありす、ここを犯せ」
短く命じて、勘違いぱちゅりーの上顎の奥……ビクビクぶるぶると動いている、声帯を指
し示した。
し示した。
「なっ……なんてことをいうの!? できるわけないでしょう!? ありすは、とかいはな
しゅくじょよ!? おっ、おかせだなんて……そんな、へんたいみたいな めいれい……!」
「お前、変態レイパーじゃねぇか」
しゅくじょよ!? おっ、おかせだなんて……そんな、へんたいみたいな めいれい……!」
「お前、変態レイパーじゃねぇか」
つい、口を挟んでしまった。
俺の言葉に、自分は変態じゃない、レイパーじゃないと否定してくるありすに、何匹犯し
殺したか、憶えてないのかと怒鳴り返した。
俺の言葉に、自分は変態じゃない、レイパーじゃないと否定してくるありすに、何匹犯し
殺したか、憶えてないのかと怒鳴り返した。
「そ、それは……かわいそうな こ たち だったのよ! かのじょ たちを、ゆるしてあげて!
ありすの、あまりに おおきな“あい”をうけとめるには、あの こ たちは、ちいさすぎた……
それだけなの! かのじょ たち に、つみはないのよ!」
ありすの、あまりに おおきな“あい”をうけとめるには、あの こ たちは、ちいさすぎた……
それだけなの! かのじょ たち に、つみはないのよ!」
何言ってんだ、お前。
罪があるのは、お前だろう。レイパーのお前が、犯し殺したんじゃないか。変態のお前は、
“まむまむ”じゃなくて“あにゃる”に突っ込んでばかりだったろうが。何度も何度も“あ
にゃる”を犯して、大量に子を成したために衰弱死した連中を、喰うなんてことまでしたく
せに。
罪があるのは、お前だろう。レイパーのお前が、犯し殺したんじゃないか。変態のお前は、
“まむまむ”じゃなくて“あにゃる”に突っ込んでばかりだったろうが。何度も何度も“あ
にゃる”を犯して、大量に子を成したために衰弱死した連中を、喰うなんてことまでしたく
せに。
「あなたのような いなかもの になんか、ありすの“あい”は わからないのよ! なのに、
ありすと あいしあった こ たちを ぶじょくして! なんて ひどい いなかものなの!」
ありすと あいしあった こ たちを ぶじょくして! なんて ひどい いなかものなの!」
どうしよう。ダントツでコイツぶっ殺したい。
舌を潰して、喋れなくしてから虐待したい。“ぺにぺに”ちょん切って、“あにゃる”に
太い生木の杭を突っ込んで、髪の毛を全部引き千切って、その後で頭皮を丁寧に焼いて、頬
も額もザックザクに切り裂いて、その傷跡がちゃんと残るように薄めた塩酸で焼いて、ちょ
ん切っただけでほったらかしの前の穴を“ゆるまむ”としても使えないように焼けた鉄棒突
っ込んで、腹の中も良い感じに焼けたら鉄棒を引っこ抜いて、鉄棒を抜いた後のぽっかり空
いた穴に燃やして灰にしたコイツの髪の毛を詰めて縫い塞いで、頬に穴を開けて、頬の穴が
ぼっかり開いた状態で傷を癒して跳ねられないようにして、足焼きして“ず~りずり”も出
来なくして、焼けこげたその足を鉄ヤスリでゴリゴリ削り落として、生の部分が出て来たら
もう一回焼いて、それから愛で派も喜ぶ幸せそうなゆっくり達の映像をさんざん見せて、ゆ
っくり用とかゆっくり好き変態さん用の特殊エロ映像をたっぷり見せて。
ただ目から水を出すだけのモノになってから、真っ二つに割る感じで上から踏み潰したい。
舌を潰して、喋れなくしてから虐待したい。“ぺにぺに”ちょん切って、“あにゃる”に
太い生木の杭を突っ込んで、髪の毛を全部引き千切って、その後で頭皮を丁寧に焼いて、頬
も額もザックザクに切り裂いて、その傷跡がちゃんと残るように薄めた塩酸で焼いて、ちょ
ん切っただけでほったらかしの前の穴を“ゆるまむ”としても使えないように焼けた鉄棒突
っ込んで、腹の中も良い感じに焼けたら鉄棒を引っこ抜いて、鉄棒を抜いた後のぽっかり空
いた穴に燃やして灰にしたコイツの髪の毛を詰めて縫い塞いで、頬に穴を開けて、頬の穴が
ぼっかり開いた状態で傷を癒して跳ねられないようにして、足焼きして“ず~りずり”も出
来なくして、焼けこげたその足を鉄ヤスリでゴリゴリ削り落として、生の部分が出て来たら
もう一回焼いて、それから愛で派も喜ぶ幸せそうなゆっくり達の映像をさんざん見せて、ゆ
っくり用とかゆっくり好き変態さん用の特殊エロ映像をたっぷり見せて。
ただ目から水を出すだけのモノになってから、真っ二つに割る感じで上から踏み潰したい。
「むぎゅあっ! むぎゃあああっ! あっ! あぎゅむっ! あだまが! わっ、われる!
ぱちぇの かしこい かしこい ずのうを おさめた、すぐれた あたまがわれちゃう!」
ぱちぇの かしこい かしこい ずのうを おさめた、すぐれた あたまがわれちゃう!」
あ……っと。馬鹿ぱちゅりーの額をとんとんやってた右手に、力が入りすぎたみたいだ。
「むぎゃっ! あっ! やめっ! ぱっ、ぱちぇには、わかるわ! やめなくちゃだめよ!」
「間違ってるぞ。やめちゃ駄目なんだよ」
「間違ってるぞ。やめちゃ駄目なんだよ」
ありすの方は、まだ愛がどうとか、愛してあげた子達がどうとか、戯言を言い続けている。
学者さんは、まったく気にしていないのか、淡々と冷たく命じるだけだった。
学者さんは、まったく気にしていないのか、淡々と冷たく命じるだけだった。
「さっさと始めろ」
「だから、いったでしょう!? そんなこと、できないって……」
「そうか。死にたいのなら、それでいい。潰して捨てる。協力的で優秀なありす種は、他に
いくらでもいる」
「ゆえ……!? まっ……! まままま! まって! ありすは、しにたくないわよ!」
「だから、いったでしょう!? そんなこと、できないって……」
「そうか。死にたいのなら、それでいい。潰して捨てる。協力的で優秀なありす種は、他に
いくらでもいる」
「ゆえ……!? まっ……! まままま! まって! ありすは、しにたくないわよ!」
学者さんがありすの頭を掴むと、さすがに戯言をやめて慌てた声を出した。
「う……わ……わかったわ……ありすは ゆうしゅうで、とかいは だもの……ほかのありす
より、ずっと、ずっと……や、やればいいんでしょう? どうしてもっていうのなら……」
「さっさと始めろ」
「わっ、わかったから!」
より、ずっと、ずっと……や、やればいいんでしょう? どうしてもっていうのなら……」
「さっさと始めろ」
「わっ、わかったから!」
学者さんの手から解放されると、ありすはそろそろと勘違いぱちゅりーへと近づいていく。
上下で真っ二つにされたような、普段なら見ることなどないはずの口の中へと、近づいてい
った。
学者さんは、勘違いぱちゅりーの頭を抑えている。ありすが犯している間、その体が必要
以上に動かないようにするためだろう。
上下で真っ二つにされたような、普段なら見ることなどないはずの口の中へと、近づいてい
った。
学者さんは、勘違いぱちゅりーの頭を抑えている。ありすが犯している間、その体が必要
以上に動かないようにするためだろう。
「ご、ごめんなさいね、ぱちゅりー……ぱちゅりーは しゅみ じゃないけど、でも、どうせ
なら……ちゃんと あいしてあげたかったわ。こんな……おくちのなかの、こんな ばしょを
……お、おかす だなんて……まるで、へんたいで……ああ、どうしよう……」
なら……ちゃんと あいしてあげたかったわ。こんな……おくちのなかの、こんな ばしょを
……お、おかす だなんて……まるで、へんたいで……ああ、どうしよう……」
モジモジと身をよじりながら、ありすはブツブツと言い続けている。なかなか始めようと
しない。
しない。
「ああ……こんなところを……ありす、おかすのね……へんたいみたいに……! うぅん、
へんたいそのものだわ……! そんな、へんたいだなんて……! ありす、へんたいに……!
なっちゃうだなんて……!」
へんたいそのものだわ……! そんな、へんたいだなんて……! ありす、へんたいに……!
なっちゃうだなんて……!」
どんどん、ありすの息が荒くなってる。
「ふあああっ……! こ、こんな、こんな へんたいちっくな ぷれいで! んふああ……!
こうふん してるだなんて! なんて……! なんて へんたいなの! ありすは、こんなに
へんたいだったのね! こんな へんたいぷれい! だれも! したことがないわよね!」
こうふん してるだなんて! なんて……! なんて へんたいなの! ありすは、こんなに
へんたいだったのね! こんな へんたいぷれい! だれも! したことがないわよね!」
変態がいる。
ありすは、自分が変態だと認識していくに従って、どんどん興奮を高め、どんどん“ぺに
ぺに”を大きくしていく。変態プレイだってわかってたからこそ、“あにゃる”ばっかり犯
してたのか。
そして、そういう変態プレイをするんだと考えることで、レイパーに変化していたわけだ。
ぺに”を大きくしていく。変態プレイだってわかってたからこそ、“あにゃる”ばっかり犯
してたのか。
そして、そういう変態プレイをするんだと考えることで、レイパーに変化していたわけだ。
「うふふふふふふ! きゅうきょく に とかいはの ありすが! いま! しんきょうち を
きりひらくわ! つみぶかい へんたいぷれいに よる かいらく と! あふれまくっている
ありすの きょだいな“あい”に! さぁ、ぱちゅりー! よがり なくのよほぉおおっ!」
きりひらくわ! つみぶかい へんたいぷれいに よる かいらく と! あふれまくっている
ありすの きょだいな“あい”に! さぁ、ぱちゅりー! よがり なくのよほぉおおっ!」
ありすの“ぺにぺに”が、マッキーとかのマジックくらいにデカくなった。上には上がい
るだろうけど、ゆっくりの“ぺにぺに”としちゃ、かなり破格の長さとデカさだろう。
るだろうけど、ゆっくりの“ぺにぺに”としちゃ、かなり破格の長さとデカさだろう。
「!!!!? !!! !?!?!?!?!?」
「あくぅううううううううんっ!? なにこれ!? すごいわ! ばーじん まむまむより、
がんばるのね!? でも!! なんぴとたりとも、ありすの“あい”は、とめられないわよ!
さあ、あなぼこちゃん! あなたも へんたい すっきり あな に、なっちゃいなさいなぁあ!
えぃやぁあああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
「あくぅううううううううんっ!? なにこれ!? すごいわ! ばーじん まむまむより、
がんばるのね!? でも!! なんぴとたりとも、ありすの“あい”は、とめられないわよ!
さあ、あなぼこちゃん! あなたも へんたい すっきり あな に、なっちゃいなさいなぁあ!
えぃやぁあああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
一度、後ろへ下がったありすが、勢いを付けて突っ込んだ。突進という意味でも、挿入と
いう意味でも、突っ込んだ。
いう意味でも、突っ込んだ。
「!!!!!!!!!!!!!!!!」
「はひぃいいいいいいいいいいいいいんっ! しん かんかく よぉおおおおおおおおおお!!
ぱちゅりーが ふるえるたびに、ありすのぺにぺにが かんじちゃう! もっとよぉおおおお!
もっとふるえてぇえええええええっ! もっと ふるえなさい、へんたい あなぼこぉおん!!
もっと ありすを、かんじさせるのよぉおおおおおお!!」
「はひぃいいいいいいいいいいいいいんっ! しん かんかく よぉおおおおおおおおおお!!
ぱちゅりーが ふるえるたびに、ありすのぺにぺにが かんじちゃう! もっとよぉおおおお!
もっとふるえてぇえええええええっ! もっと ふるえなさい、へんたい あなぼこぉおん!!
もっと ありすを、かんじさせるのよぉおおおおおお!!」
変態でレイパーなだけあって、相手に対して失礼で身勝手なことをほざきながら、相手を
一切気遣わずに体をガクガクと揺らしている。
一切気遣わずに体をガクガクと揺らしている。
「……本当に、このありすはレイパーなんですか?」
え?
怪訝な表情で、ポツリと学者さんが呟いた。
実際、ありすは何匹も犯し殺して、その亡骸を食った。今だって、レイパーだとしか思え
ないくらいの……
怪訝な表情で、ポツリと学者さんが呟いた。
実際、ありすは何匹も犯し殺して、その亡骸を食った。今だって、レイパーだとしか思え
ないくらいの……
「いくわよっ! いくわよ、へんたい あなぼこちゃん! ありすの! あふれまくってる!
きょだいな“あい”を! うけとめるのよぉおおおおっ! あひっ! いく! い! いっ!
いくのほほほぉほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
きょだいな“あい”を! うけとめるのよぉおおおおっ! あひっ! いく! い! いっ!
いくのほほほぉほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
どばんっ!
とても射精の音とは思えない音と共に、濁った咆吼をあげて、ありすは呆れるほどの量を
射精──じゃないんだっけ。射……射餡?──した。
とても射精の音とは思えない音と共に、濁った咆吼をあげて、ありすは呆れるほどの量を
射精──じゃないんだっけ。射……射餡?──した。
「これは、いくらなんでも……」
呆れたような声を、学者さんが漏らす。
出される瞬間、勘違いぱちゅりーの体がガクンと跳ねたように見えた。それが噴射の勢い
のためか、それともぱちゅりー自身の、断末魔の振動だったのか。
……両方かなぁ。
ぱちゅりーがこの段階で死んでいたら、妊娠は行われないだろう。胎生型だろうと植物型
だろうと、少なくとも妊娠の形態が現れるまでは、母体が生きてなくちゃいけない。
せっかく学者さんが思いついた実験も、今回は失敗ってことだろうか。
こっちの馬鹿ぱちゅりーで、もう一度試すのかなぁ?
出される瞬間、勘違いぱちゅりーの体がガクンと跳ねたように見えた。それが噴射の勢い
のためか、それともぱちゅりー自身の、断末魔の振動だったのか。
……両方かなぁ。
ぱちゅりーがこの段階で死んでいたら、妊娠は行われないだろう。胎生型だろうと植物型
だろうと、少なくとも妊娠の形態が現れるまでは、母体が生きてなくちゃいけない。
せっかく学者さんが思いついた実験も、今回は失敗ってことだろうか。
こっちの馬鹿ぱちゅりーで、もう一度試すのかなぁ?
でも、ありす自身だって、あんなに大量の餡を吐き出しては、命が……そう思いありすを
見ると、ぽかんと呆けたように口を丸く開け、レイパーらしく焦点の合ってなさそうな目が
グルグルと動いている。
待て。
あいつ、さっきまでは……ぱちゅりーを犯している最中には、あのレイパーの目をしてた
っけ?
見ると、ぽかんと呆けたように口を丸く開け、レイパーらしく焦点の合ってなさそうな目が
グルグルと動いている。
待て。
あいつ、さっきまでは……ぱちゅりーを犯している最中には、あのレイパーの目をしてた
っけ?
濁った目をグルグルギョロギョロと動かし続けたまま、ありすの口元がにや~っと三日月
状に形を歪めていく。
状に形を歪めていく。
「学者さん、危ないっ! 噛まれる!!」
俺の声に、学者さんが素速くぱちゅりーから手を放す。ほとんど同時に、ありすが凄い勢
いで勘違いぱちゅりーを……その亡骸を、貪り食い始めた。
いで勘違いぱちゅりーを……その亡骸を、貪り食い始めた。
「むきゅあああっ!? ぱ、ぱちぇには、わかるわ……! あっ、あ、あああ、あれは……!
れいっ、れれ、れ、れいっ、れ……!」
れいっ、れれ、れ、れいっ、れ……!」
俺が抑えている方の馬鹿ぱちゅりーが、ガクガクと震えだしている。
どうすべきか、考えている間──ほんの短い時間だと思う。5秒ほどか……10秒は経っ
てないと思う──に、ありすは勘違いぱちゅりーを、元の形がわからないくらいに食い散ら
かしてしまった。
どうすべきか、考えている間──ほんの短い時間だと思う。5秒ほどか……10秒は経っ
てないと思う──に、ありすは勘違いぱちゅりーを、元の形がわからないくらいに食い散ら
かしてしまった。
「小僧くん、君も離れた方が良い。ありすは、そのぱちゅりーも餌と認識するはずです」
変態行為を引き金として、ありすは異常なレベルにまで興奮した。だが、その段階ではレ
イパー化とは言えなかったのだ。ただし異常興奮のため、自身の生命が危険域に達するほど
の餡を、因子として相手に注ぎ込み続けた。
何度も何度も繰り返し犯したという報告から、この異常興奮は一度の交尾では収まらない
のだろう。その繰り返しによって、餡を出し過ぎた。
自身の生命が危険域に達するほどの餡を吐き出したありすは、生存のために優秀な栄養源
である目の前のゆっくりを、自分が犯した同族を喰らう、捕食者という形で暴走する。その
段階で初めて、限りなくレイパーに近い状態になった。
イパー化とは言えなかったのだ。ただし異常興奮のため、自身の生命が危険域に達するほど
の餡を、因子として相手に注ぎ込み続けた。
何度も何度も繰り返し犯したという報告から、この異常興奮は一度の交尾では収まらない
のだろう。その繰り返しによって、餡を出し過ぎた。
自身の生命が危険域に達するほどの餡を吐き出したありすは、生存のために優秀な栄養源
である目の前のゆっくりを、自分が犯した同族を喰らう、捕食者という形で暴走する。その
段階で初めて、限りなくレイパーに近い状態になった。
本来のレイパーは、後継を残すという種の保存の法則から。
目の前のありすは、自らが死なないためという、やはり生命としての本能から。
どちらも、禁忌も加減も忘れた状態に、暴走する。
目の前のありすは、自らが死なないためという、やはり生命としての本能から。
どちらも、禁忌も加減も忘れた状態に、暴走する。
目の前のありすは、異常興奮の段階ですでに加減を忘れていると言っていいが。
今回は特に、これまでは考えたこともない行為だったため、異常興奮がその分だけ高まり
すぎたのだろう。
仮に過去にも、今と同じくらいに一度で大量の餡を噴出したような状況があったのだとし
たら、それは確認されていないであろう初犯時だけではないか……
すぎたのだろう。
仮に過去にも、今と同じくらいに一度で大量の餡を噴出したような状況があったのだとし
たら、それは確認されていないであろう初犯時だけではないか……
と、推測されるらしい。
全部、俺が話した断片的な情報からの、学者さんの推測。でも目の前で、なるほど確かに
と思える状況が、展開され、今も続いている。
全部、俺が話した断片的な情報からの、学者さんの推測。でも目の前で、なるほど確かに
と思える状況が、展開され、今も続いている。
学者さんが口早に説明している間、勘違いぱちゅりーを食い終わったありすは、ただユラ
ユラとしていた。おかしくなった目を、ぎょろぎょろと動かし虚空を見つめたまま。
俺から解放された馬鹿ぱちゅりーは、額を叩かれ続ける拷問で弱った体を懸命に動かし、
ありすから少しでも離れようと施術台の上を右往左往して、結局は俺の側に寄ってくると、
救いを求めてきた。
ユラとしていた。おかしくなった目を、ぎょろぎょろと動かし虚空を見つめたまま。
俺から解放された馬鹿ぱちゅりーは、額を叩かれ続ける拷問で弱った体を懸命に動かし、
ありすから少しでも離れようと施術台の上を右往左往して、結局は俺の側に寄ってくると、
救いを求めてきた。
「むっ、むきゅ……! ぱ、ぱちぇ……わ、わかるわ……わからないって……ぱちぇには、
どうしたらいいか……いや……いやぁ……! ありすは……れいぱーは……!」
どうしたらいいか……いや……いやぁ……! ありすは……れいぱーは……!」
唐突に。
こちらへ向き直る動作を目で確認できなかったほどの唐突さとスピードで、ありすが馬鹿
ぱちゅりーに食らいつこうと飛びかかった。
咄嗟に馬鹿ぱちゅりーを、抱き上げる。猛烈な勢いで、ぱちゅりー目掛けて突進してきた
ありすが、その勢いのまま俺の脇腹にぶつかり、床へと転げ落ちた。
こちらへ向き直る動作を目で確認できなかったほどの唐突さとスピードで、ありすが馬鹿
ぱちゅりーに食らいつこうと飛びかかった。
咄嗟に馬鹿ぱちゅりーを、抱き上げる。猛烈な勢いで、ぱちゅりー目掛けて突進してきた
ありすが、その勢いのまま俺の脇腹にぶつかり、床へと転げ落ちた。
「いっ……てぇえええっ! ちくしょうっ!!」
「小僧くん!?」
「どうってことないです! 馬鹿力で噛まれるならともかく、饅頭の体当たりで怪我なんか
しませんよ」
「小僧くん!?」
「どうってことないです! 馬鹿力で噛まれるならともかく、饅頭の体当たりで怪我なんか
しませんよ」
すげぇ痛かったけど。でも、たいした怪我はしてないと思う。馬鹿ぱちゅりーを施術台の
上へと戻し、グルグルぐねぐねと目を回しているありすへと足早に歩み寄った。
上へと戻し、グルグルぐねぐねと目を回しているありすへと足早に歩み寄った。
「……処分します」
「どうぞ」
「どうぞ」
学者さんの短い返事を確認して、足を振り上げる。
ああ、スッとする!
ああして、こうして、こうやってと、考えた行程は丸省きだが、この際だ。諦めてやるよ。
お前を、ダントツでぶっ殺したかったんだ。
頭の上から、真っ二つに割る感じに、踏み潰してな!
ああして、こうして、こうやってと、考えた行程は丸省きだが、この際だ。諦めてやるよ。
お前を、ダントツでぶっ殺したかったんだ。
頭の上から、真っ二つに割る感じに、踏み潰してな!
ズドンッ!!
と、ありすを踏み抜いた。
断末魔も無かった。学者さんが言う、捕食者としての暴走をしてから、こいつ一言も喋ら
なかったな。言葉どころか、声自体をまったく出さなかった。
と、ありすを踏み抜いた。
断末魔も無かった。学者さんが言う、捕食者としての暴走をしてから、こいつ一言も喋ら
なかったな。言葉どころか、声自体をまったく出さなかった。
「むきゅ……! むきゅぁあああんんっ! よかったぁあああ! ぱちぇ……! ぱちぇは!
たすかったのね! どうしていいか、わからなかったのに……! ありがとう、おにいさん!
たすけてくれて、ほんとうに ありがとうっ! ぱちぇは、もう かしこくなくても、いいわ!
わからないことが たくさんの、ばかでもいいわ!」
たすかったのね! どうしていいか、わからなかったのに……! ありがとう、おにいさん!
たすけてくれて、ほんとうに ありがとうっ! ぱちぇは、もう かしこくなくても、いいわ!
わからないことが たくさんの、ばかでもいいわ!」
生き残れた悦びに、馬鹿ぱちゅりーがボロボロと涙を流し、感動し、俺に感謝してくる。
自分が馬鹿だと認め、まるでそのことが嬉しいことのように涙塗れの顔で微笑んだ。
そうか、と頷いて見せ、俺も優しくぱちゅりーに笑いかけた。
自分が馬鹿だと認め、まるでそのことが嬉しいことのように涙塗れの顔で微笑んだ。
そうか、と頷いて見せ、俺も優しくぱちゅりーに笑いかけた。
「まぁ、お前もちゃんと処分するから、安心しろ」
「……むきゅ?」
「残念だったなぁ。遅すぎたんだよ、自分が馬鹿だって気付くのが」
「……むきゅ?」
「残念だったなぁ。遅すぎたんだよ、自分が馬鹿だって気付くのが」
ぱちゅりーがピタリと泣きやみ、引きつった笑顔で表情が固まる。
学者さんが、小さく溜め息をついた。
「せっかく思いついた試行も、失敗ですか……後は、任せてもいいですか?」
「ええ。後片付けは、やっておきますから」
「ええ。後片付けは、やっておきますから」
ではよろしくと、学者さんが処置室から出て行く。ガックリと来たらしく、その後ろ姿は
無表情な顔よりもよっぽど感情を表しているように思える。
でも、ちょっと聞こえてきた「確かめたい課題が、また増えた」とかって独り言は、どこ
か楽しげな響きを含んでいたように感じられた。
無表情な顔よりもよっぽど感情を表しているように思える。
でも、ちょっと聞こえてきた「確かめたい課題が、また増えた」とかって独り言は、どこ
か楽しげな響きを含んでいたように感じられた。
学者さんを見送って、ぱちゅりーに向き直る。
まだ固まってた。
しばらく待っていると、ガタガタと震え出した。ギシギシと恐怖に顔が歪み、口から震え
る叫びを上げ始める。
しばらく待っていると、ガタガタと震え出した。ギシギシと恐怖に顔が歪み、口から震え
る叫びを上げ始める。
「むっ、むきゅ……むきゅぁあああ!? なに!? なに!? なになになに!? ぱちぇ、
ばかだから、わからないわ!?」
「またまたぁ。本当は、わかってるんだろう? ぱちゅりーは、どうなるんだ?」
「ぱっ、ぱちぇ……ぱちぇは……ぱちぇは………………つぶされるの?」
ばかだから、わからないわ!?」
「またまたぁ。本当は、わかってるんだろう? ぱちゅりーは、どうなるんだ?」
「ぱっ、ぱちぇ……ぱちぇは……ぱちぇは………………つぶされるの?」
「正解」
「むきゅぁああああああああああああっ!?」
「むきゅぁああああああああああああっ!?」
処分対象と決まったゆっくりを、後になって許すわけにはいかないんだよ。それじゃ、決
まりとしての意味がなくなっちゃうから。
前に警告したときに、自分の馬鹿さ加減に気づいていれば良かったんだけどなぁ。残念な
がら、遅かったよ。
ホント、悪いなぁ……ちょっとだけ、賢くなったぱちゅりーよ。勘弁してくれ。
まりとしての意味がなくなっちゃうから。
前に警告したときに、自分の馬鹿さ加減に気づいていれば良かったんだけどなぁ。残念な
がら、遅かったよ。
ホント、悪いなぁ……ちょっとだけ、賢くなったぱちゅりーよ。勘弁してくれ。
─ 小僧、お手伝いに身を入れるのこと 了 ─