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anko4325 いちゆんまえのまりさ
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『いちゆんまえのまりさ』 61KB
虐待 観察 差別・格差 現代 失礼します。
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anko4290 肉体的暴力とゆっくり
anko4219 教育番組とゆっくり
「」ゆっくりの台詞
『』人間の台詞でお願いします
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「」ゆっくりの台詞
『』人間の台詞でお願いします
「おにいさんっ! いいっかげんにしてね!」
おにいさん、そう呼ばれた青年の飼いゆっくりである成体のまりさ、銀バッジ2980円也が顔を歪ませ叫んでいた。
うんざりとした気分を隠さず残さず溜息にして表した青年は、読みかけの雑誌を伏せて、まりさの方を見た。
まりさがいるのは居間の隅に作られた1m四方のドッグサークル、木で作られた軽い柵だが、ゆっくりの出入りを封じるくらい簡単なレベルだた。
この家では基本的にその中でまりさを飼育している、理由はこのまりさはあまり出来が良くなくていつになっても部屋を荒らすからだ。
青年とまりさが住んでいるのは、彼の親戚筋から借りた一人で暮らすには広い一軒家、その分ボロいけれど、十分な作りになっている。
部屋も余っているしと、青年はまりさを買った当初は放し飼いにしていたのだけれども。
まりさは青年が少し出かけた内に、ゴミ箱を荒らし、物を壊し、そこらにしーしーうんうんをしてしまう。
何度も注意しても直らない、否治さないまりさに業を煮やした彼は物置にあったドッグサークルに放り込むことに決めた。
決めたは良いけど、狭い場所が気に入らないらしいまりさは一々文句を言ってくる。
今日もその類だろうと、青年は立ち上がりサークルの前まで行く。
サークルの中でまりさはふくれっつらをしていた、しかも餌皿をひっくり返して、水もまけてくれやがった。
……餌も水もタダじゃねーんだぞ。
そんなことを思いながら、また溜息を一つと幸福を交換して青年は口を開く。
『今日はなんだよ、散歩なら明日な明日』
適当にそのものに告げ、水だけでも汲み直そうと腰を屈めて手を伸ばす――が。
「ばかにしないでね!」
叫び一つで、まりさは伸ばされた手に体当たりをしてきた。
実に弱い一撃ではあったけど、その行為自体は人を怒らせるのに十分なものだった。
当たり前であろう、ゆっくり程度に攻撃をされて平静を装えるような奴は聖人君子か、某愛護団体のものくらいだ。
『っ、なにすんだよ!! てめぇ、飯抜きにすっぞ!』
聖人君子でも、愛護団体所属でもない彼は、当然の怒りに任せて、まりさの頭を掴んで押さえつけた。
成体ゆえにある程度雑に扱っても平気だけれども、当たり前に苦しいらしく「ゅぎぐべぇっ!?」と、気色悪い声を漏らしていた。
その情けない姿に少しだけ溜飲を下して、青年はまた溜息一つ。
『んで、今日は何なんだよ? マジでくだらねぇことだったら飯抜きだからな』
饅頭如きに怒るのも馬鹿馬鹿しいと思ったのか、手を離して質問する。
まりさは苦しかったのか、二三度咳き込んでから口を開いた。
「ここからだしてね!」
やっぱりそれか、と部屋にまた溜息が落ちる。。
青年は呆れ顔をしながら、まりさを見下ろす。
『やだよ』
「どうじで!?!」
拒否の言葉に、まりさは納得いかないと言わんばかりに歯を剥き出しにして食いついてくる。
『どうしても何も、お前馬鹿で何度も言っても部屋荒らすだろ、だからだよ』
はい、話はお仕舞い、と青年は肩を竦めながら踵を返す。
彼はまりさとこの手の話は何度もしたし、これからもするだろうから無駄に時間を使いたくないのかも知れない。
雑誌を読み直そうと、元居た場所へ戻ろうとした背中にまりさの声が押し付けられた。
「いいからここからだしてね! まりさはもういちゆんまえなんだよ!」
『はいはい、一人前ねぇ、そんなん自分で生活できるようになってから言おうな?』
具体的には部屋を荒らさないレベル。
青年はそう考え、どうせ無理だと諦めながら雑誌に手を伸ばし、座りなおそうとしたが……。
「ゆぐぐぅ! まりさはおにーさんの おせわになんか ならなくても もう じゅうぶんくらしていけるよ! いちゆんまえなんだよ!」
『…………』
まりさの根拠不明の叫びを聞いて、伸ばした手をそっと戻して振り返った。
『……お前、今なんつったよ?』
視線を受けて、まりさは一瞬ビクっと震えたけれど、直ぐにまた強がる顔に戻り。
「なんかいもいわせないでね! まりさは もう いちゆんまえだよ!」
……そこまでは良い、饅頭の自意識過剰は今に始まった訳じゃない、と彼は頷く。
「おにーさんの おせわになんかならなくても じゅうぶんくらしていけるよ」
『そうか、わかった』
まりさの言葉に笑顔で頷く青年。
最近何度か、どうしてコイツを飼い始めたんだったか疑問に思い出していた彼は、とびきりの笑顔を見せた。
そして、その手でまりさの頭をむんずと掴むと……。
「ゆ? おにいさんやっとわかったんだね! これからは まりさのいうこ、ゆびゅべっ!?」
『んじゃ、お前今日から庭住みな、しっかり生きろよ?』
庭へ続く戸を開けると、手入れをしていないので草が生え放題のそこへ放り投げた。
まりさは顔面から着地して、情けない声と共にうんうんを漏らして震えている。
青年は胸がスーッとするような爽快感に、久しぶりにまりさといて笑顔になれたな、最初からこうすれば良かったな、と頷いてた。
そして青年は、震えるまりさの背中というかあにゃるに声を放り投げた。
『んじゃ、頑張れよ、いちゆんまえのまりさちゃん』
「ゆ?」
彼がピシャリと戸を閉めると同時に、震えていたまりさは身体を起こした。
そして直ぐに周囲をキョロキョロ見渡して自分が外に、普段おにーさんに頼んで頼んでたまの出して貰う庭にいると気づいた。
「ゆっ! まったくおにーさんは ようやくまりさが いちゆんまえってみとめたんだね!」
まりさは、青年が自分のお願いを聞いてくれて外に出してくれたものと判断したらしく偉そうに踏ん反りかえると直ぐに庭で遊びだした。
普段なら青年が監督しているからあんまり好き勝手出来ないからと、まりさは庭を跳ね回り、草や花を無造作に引きちぎったりして遊んだ。
それから数十分、一人遊びでは限界が来るし、今日は餌も食べずに遊んでいるから空腹を覚えたまりさはしっかり閉められた戸の前に踏ん反り返る。
「おにーさん! まりさはおなかがへったよ! はやくふーきふーきしておうちにいれてね! すぐでいいよ!」
声を高らかかに青年を呼ぶが、まりさの声に応えるものは無く。
戸は閉じられたまま、むなしくそこにあるだけだった。
「ゆゆー!! おにーさん! まりさがよんでるんだよ! はやくでてきてね! なにやってるの!!」
反応が無いことに腹を立てて叫んでみても戸は開かれることはない。
何故なら青年は居間から離れた位置にある自室で、音楽を聞きながら漫画を読むという優雅な時間を過ごしているから。
まりさの声は聞こえないし、例え聞こえていても生意気饅頭の言うことを聞くつもりは一切ないのだ。
そんなことを知らないまりさは、戸の前でぴょんぴょん跳ねながら何度も何度も青年を呼んでいたけれど、やがて疲れたのかその場でつぶれ饅頭みたいに身体を休ませ出した。
「ゆひー、ゆへー……おにーさん、なにしてるのぉ? かわいいまりさが、よんでるのにぃ……」
疲労と空腹、そして着てくれない寂しさに涙を滲ませながら、ゆっくりと暮れだしている空を不安そうに眺めていた。
それから2時間ほどして、泣きつかれたまりさが眠っていると暗くなって久しい居間に電気がついた。
漫画に夢中になっていた青年が、そろそろ夕飯にしようとこちらに出てきたのだ。
光と音でそれを察知したまりさは飛び起きると、頬を膨らませながら待った。
「…………(おにーさんがきたら まりさおこるよ! まりさをこんなにまたせるなんてゆるされないんだから!)」
待った。
「…………(それからあまあまだよ! シュークリームさんをようっきゅうするよ! そのけんりがまりさにはあるんだから!)」
待った。
「…………(それからそれから、きょうからおにーさんがあのさくのなかでくらすんだよ! おうちはまりさのだよ!)」
待った。
だけど、戸は開けられることはかった。
まりさの予想予定妄想では、直ぐに戸が開けられて青年は怒るまりさに平謝り。
それを寛大に許してあげて、あまあまとおうちを手に入れるのだったけれど、青年はまったくこちらに来ようともしない。
『夕飯どーすっかなぁ……おっ、コロッケ買ったの忘れてた、これでいっか』
青年はまりさをかなり本気で忘れて、冷蔵庫から発見したお惣菜を見て笑顔になっていた。
彼にとってこの夕飯時は、一々自分の食べてるものを寄越せと叫ぶまりさと一緒で心休まらない時間だった。
それが今日はないので、とてもゆっくりとした表情のまま夕飯の準備をしていた。
『あー、肉が賞味期限やばいし冷しゃぶにでもするかな……軽く日本酒混ぜて、タレはごま油に醤油に、おっ。トマト缶あるからオリーブオイルのタレもつくっちまおっかな♪』
普段ならば騒ぐまりさにイライラしながらなので、適当な料理になってしまうけれど今日はとても穏やかな気持ちで、ちょっと凝った料理をやってみようかな、とまで思えるほどにリラックスしている青年。
そして、戸の外で今か今かと青年来るのを待つ魔理沙、しかしその今は一向にやってこないでいた。
青年が料理を終えて、それらを座卓に運び終えたときに、彼は初めてまりさを意識した。
『あ……ちっ』
意識した感情は『嫌なもん見た』と言ったものだった。
そこに来てまりさは自分が無視されて―――正確には忘れられて―――いることに気づいてプルプルと怒りに身体を震わせ。
「おにぃいさぁぁぁああああぁぁあん!! なにじでんだぁああああ!! まりさがまってるでしょおおおぉおおおおお!?!?!」
爆発するように叫び出した。
疲れも空腹も忘れて、その場でボスンボスンと地団太を踏みながら大声で喚く。
涙を流して、怒りをそのままに。
だけど、青年は―――。
『トマト冷しゃぶやばいな……正直はまりそう』
「きげぇぇえええええええ!!!! どぼじでぇ! どぼじでむじずるのぉおおおぉおおおお!?!?」
―――優雅に楽しく夕飯に熱中しているようだった。
「まりざはおながずいですんだよぉおおおぉお!! ざっざどごはんんんんん!!!!!」
『………………』
居間にいて、直ぐそこにいるまりさの声は聞こえてはいるけれど、青年は明らかに無視をしていた。
しかも、無視をしながら必死に自分に声をかけてくるまりさを見ながら優越感に似た喜びを感じているようで、普段よりリラックス出来ている。
それから20分ほど、夕飯を終えてまったりと食後のお茶を飲みながらテレビを見ていた青年は、ふと思い出したように立ち上がり。
今では飛び跳ねる元気もなくなり「ゆぐゆぐ」泣いているまりさの目の前にガラス戸を開けた。
「ゆっぐゆっぐ、ばりざ、ごはんん、ゆ!?」
『さっきから五月蝿いんだけど』
片手の小指で耳を穿りながら、明らかに面倒臭そうな顔をした青年はまりさを見下ろしながらそう言い放った。
「ゆゆ!? なんなのぞのだいどはぁぁぁぁあああああ!!!」
『あー、うるせーうるせー』
青年のあまりにダルそうな態度にまりさは目を見開き、大声で吠え出した。
まりさにしたらここは申し訳なさそうに頭を下げて、そしてあまあまを献上するのが筋だと思っていた。
そしたら「まりさもおにじゃないからね! おにーさんとくべつにゆるしてあげるよ!」と言ってあげるつもりでもあった。
その予定が根底から一気にポーンしてしまったので、まりさの薄い理性もポーンしてしまった。
「ゆっが! ゆが! ゆっぐぉおおお!!」
『何語だよ、それ』
怒りで言葉も喋れなくなったまりさは、その場で身を捩りだしていた。
それを見ながら青年は『うわぁ、きめぇ』と小さく呟く。
「どーゆーつもりなのおにいさん!!! まりさをこんなにまたせておいて! じぶんだけゆっくりしてたくせにぃい!!」
ポーンと飛んでいった理性を拾ってきたのか、まりさは再び人語を喋るようになって怒りのままに青年を怒鳴ったが。
『どーゆーつもりも何も、言ったろお前今日からそこで暮らせって』
「はぁぁぁああぁあああ!?!? なにいっでるの?!」
青年はつまらなそうに言って、まりさはそれに跳ねながら大声をあげた。
その声にイライラするのか、彼は溜息をついてから、戸に手をかけて。
『お前はもう一人前なんだろ? 言ってたろ、俺の世話にならなくても生きていけるって。じゃな、頑張って生きろよ、特別に庭にはいさせてやるから』
「おにぃいさあぁああん!? なにいっで、ちょっどぉおおお!?! なんでしめちゃうのぉおおお!?!?」
言うことを言うと、まりさの反応なんてまたずに青年はさっさと戸を閉めて、そのまま居間の電気を消すと部屋に戻っていた。
そして、優雅にだらだら過ごして寝てしまった。
その間もまりさは騒いで跳ねて、声をあげてそして泣きつかれて寝た。
……。
…………。
『うーっし、行ってきまーす』
「おにいざん!! ばりざのごはんがまだでしょ!? あとおふろいれてね! あとあまあまちょーだいね!!!」
青年が起きて、朝食を取っている間は騒ぎ倒して、そして無視をされてたので今度は玄関先で待ち伏せをしていたまりさ。
昨日言われたこと、そしてその前に自分が言ったことを忘れてるのか、忘れたことにしているのか、まりさは偉そうに汚れた身体をふんぞり返らせた。
が、しかし―――。
『お前は一人前なんだろ? 一人で頑張れよー、んじゃな』
「ちょ、ま、まっでえっぇええぇええ!!! ごはああああああん!!」
彼はまりさに視線を向けることすらしないで、さっさと家を出ていた。
この家は少し街中から離れた場所にあるので急がなくてはならにのだった。
その分、家賃は安いし、まりさがいくら騒いでも苦情もない。
そんな訳で、爽やかな朝日の中青年はゆっくりでは追いつけない速さでどんどん歩いていってしまう。
「まっで! おにーざん! まっで! ばりざおごってないよ?! いまならゆるずからぁぁああぁああ!!!」
まりさは的を外れて自分に跳ね返ってきそうな勘違いな言葉を吐きながら青年を追うが、直ぐに追いつけなくなってしまう。
人間との運動能力の差は激しいを取り越して無理だし、昨日から何も食べていないまりさは身体に力が入らなくなっていた。
「おなか、すいたよぉ……なんで、まりざがこんなめにぃっ!」
涙を流しながら、ずりずりと這いずってまりさは家の庭に戻ってきた。
「ごはん、おにーさん、どうしてぇ……」
そして、庭に戻ってうろうろ歩き回って、どこかに自分の食事が用意されていないかを探し回るけれど。
青年は何一つ用意することは無かった。
このまりさは生粋の飼いゆっくり、両親も飼いゆっくり、そして自身もある会社の大量生産とは言え飼いゆっくりの教育をされてペットショップを経て青年に買われた。
その間に、野良の生活は見たことはあったけど自分とは関係ない世界の話と思っていたので、こんな状況になると食べるものなど存在しない。
家の庭は草や虫が結構いるので、野良ゆっくりなら数家族楽に養える狩場ではあるのだけれど、まりさには自分の周りにあるものが食べ物と認識出来ていなかった。
なので、その場で蹲って「おにーさんがかえってきたら こんどはまりさおこるよ!」等と空腹を誤魔化すしかなかった。
「ゆぅう、まりさのごはんさん、まりさのごはんさぁん…………」
昨日食べずに撒き散らした餌が今になって恋しくなったまりさは、涙を流しながらうなり続ける。
それでも、まりさの空腹が満たされることなんて絶対なくて、ただただ疲れが溜まるだけだった。
それから数時間、まりさはただただ青年が帰ってくるのを待っていた。
日が暮れた頃に青年が帰ってくると、まりさはずりずりと底部を這わせながら寄っていき。
「……おにーさん、いったいなにをしてたの? まりさおなかがすっごくすいてるんだよ? それなのに ごはんもよういしないで………………いっだいなにじでだんだぁぁぁあぁああぁっぁあぁぁぁあぁああぁああああ!!!!!!!!!」
今まで怒りを溜め込んでいたのか、それを一気に爆発させて口を限界上に開いて叫んだ。
『はぁ?』
完全にまりさを忘れに忘れていた青年は、帰って来て今日は夕飯何にしようかな? とか上がっていたテンションが一気に下降したのを感じた。
足元でぎゃーぎゃー騒ぐ汚い饅頭を見ながら、青年は溜息をつくと、話を聞いてあげるつもりはあるのか家には入らずにその場に立ち止まった。
『んで、何だよ? 要があんならさっさとな』
「な、な、なんなのそのたいどはぁっぁああぁあああああああ!!?!?」
『あー、うるせーうるせー』
叫ぶまりさに、流す青年。
彼は片耳を塞ぎながら、つまらなそうに眼を細める。
『んで何だよ、俺腹減ってんだからさっさと言えよ』
「おながへっでるのはばりざのぼうだよぉおおぉおおおおぉおおおおおおおおお!!!!!」
『話進まねーな、んで何だよ一人前のまりさちゃんよ』
「なにって!! おなかがへってるっていってるんだよ!? まりさが おなかへってるっていったら おにーさんはごはんださなきゃダメでしょぉおおおおお!!!」
まりさの必死に叫びに、青年は溜息一つで。
『なんで?』
「はぁぁぁああああぁぁあっぁあああああああぁぁぁっぁああああぁぁぁぁっぁあああぁあ?!!?!?!?!?!?!?!?!?!」
『うるっせー』
若干まりさの反応が楽しくなってきたのか、彼はニヤニヤ笑いながら耳を塞いでいた。
そして、見下すのに疲れたのかしゃがみこむと、ニヤニヤ笑いながら。
『んで、何で俺が餌を用意しなきゃなんねーんだよ?』
「なんでって、なんでって! おにーさんがまりさにごはん くれるのはじょーしきでしょぉおおぉおお?!!?」
所詮安物銀バッジ、この程度の知能である。
人間が餌をくれるのは当然と思ってはいたけれど、奴隷とまでは見下さないそのレベルだった。
そして、青年もその常識に則ってまりさに餌を与えていたけれど、それも昨日までの話だ。
しゃがんだ青年は、楽しそうに笑って口を開いた。
『常識じゃねーよ、つーか、お前は昨日言ってたろ? 自分はもう一人前だから俺の世話にならないってよ。なのになんで俺に餌貰うんだよ? ばっかじゃねーの?』
「ゆが!? そ、それとごはんさんとはべつでしょぉおおぉおお?!」
投げかけられた正論に言葉をつまらせたまりさは、表面に砂糖水の汗をかきながらゆっくり特有の〔れいっがい〕理論を発動させる。
〔れいっがい〕理論とはゆっくりが正論言われたときに、自分の行いだけは全て正しいから例外だと主張したりするゆっくりなら誰もが備えている餡子理論である。
そんな理論を叫んで青年が納得するハズもなく。
『例外の訳ねーじゃん、お前は俺の世話にならなくても大丈夫って言ったんだぞ? あ、もしかして嘘? やっぱりまりさは俺の手助けなくちゃ生きられないゆっくりなんだぁ、へー、もう大人なのに、ぷっ、赤ゆっくりかっての』
「な、なにほざいてるのぉおお!? まりさはいちゆんまえだよ! おにーさんなんかいなくてもだいじょーぶなんだよぉおおお!!!」
『はい言質取りましたー、んじゃ、ソロ生活頑張れよ?』
まりさの叫びを聞いて彼は立ち上がると、さっさと家の中に入っていってしまった。
その背中を見ながら、叫んだ状態のまま固まっていたまりさ。
再び動き出すのは2分後だった。
しかし、動き出しても、叫び倒しても青年は庭に出ることはなく、まりさ今日も庭で一夜を明かすことになった。
……。
…………。
「おなが、へっだよ…………」
次の日の昼間、日差しを避けるように庇の下で潰れ饅頭になっているまりさ。
いくら成体で、しかも一昨日までは栄養たっぷりの餌を食べていたとしても二日の絶食と、野宿のゆっくり出来なさに限界が来ていた。
まりさは何で青年が自分に〔いじわる〕するのが未だに解らなかった。
それが自分の根拠の無い見栄や自信により引き起こされている物と気付かないまま、青年が今日は〔かいっしん〕してくれると信じていた。
しかし、そんな訳もなく青年は自分の食事を済ませると、まりさを室内で飼っていたときなんかよりずっとゆっくりした表情で家を出て行った。
その背中を昨日より元気なく追いかけたが、青年はまた。
『まりさは一人前なんだよな? 俺の世話なんかいらないんだよな?』と聞いてきて。
それに反射的に「そうだよ! まりさはなんでもできる いちゆんまえなんだよ!」と答えていた。
それが原因だと未だに気付かないまりさ。
それもそうなのだ、まりさにとってご飯は人間が出してくれるもの、水も巣も全て人間が提供するのが当たり前。
極端な話、人間にとっての呼吸の認識なのだ。
して当たり前、して貰って当たり前、否して貰っているという感覚すらない。
だから、自分を〔いちゆんまえ〕と称してもそれらは自分のすることの範疇に入っていないのだ。
故にまりさは自分が〔いちゆんまえ〕という発言は撤回しないし、今の状況を〔いじわる〕くらいにしか思えないのだ。
このまま食事をしなければ早ければ後2日くらいで死に至ると言うのに。
そして極力動かないまま夕方になり青年が帰ってくるのを玄関先で待っていたまりさ。
『あー、今日は何食うかなぁ……ん? 何してんだ? 邪魔』
「まっでね、おにーさんごはんちょーだいね、まりさ、もうおなかペコペコなんだよ……」
やつれたまりさの言葉を聞いての反応は。
『ふーん』
と、それだけ。
叫ぶ気力もないらしいまりさは、悔しそうに歯を食いしばって彼を見上げると。
「おにーさん、まりさがなにかしたならあやまるよ、だからごはん、ちょーだいね」
まりさにしたら〔なにもわるいことしてないのに〕仕方なしに謝る状況。
その悔しさがしっかり顔に出ているので、青年にはその心境が丸見えなのはご愛嬌。
それが解っているから青年はニヤニヤしながら。
『いや、だからさぁ、まりさは一人前なんだろ?』
「そうだよ、まりさはいちゆんまえだよ? それがどうかしたの?」
『お前さ、一人前ってどんなことか知ってるの? 野良の成体がどんな風に暮らしてるかとか?』
まりさの話に付き合うように、話し出した。
「ゆぅ? いちゆんまえは、いちゆんまえ、だよ? それがどーしたの?」
しかし、悲しいかな安物餡子脳、青年の言葉を簡単には理解してくれない。
『良いかまりさ、一人前ってのはな? 自分で自分の住む家を見つけて、餌も自分でとって、何でも全部出来て一人前なんだよ』
「ゆ、ゆがーん!!」
知らされた一人前の事実にまりさは口を開けてショックを受けていた。
今までまりさが言っていた〔いちゆんまえ〕は特に何の根拠もない発言だったのだ、そこに普段自分では絶対しないことを追加されてしまうとは思いもしなかった。
『お前は、俺に家も餌も水もなんでも用意して貰ってようやっと生きてるマジで赤ちゃんレベルなんだよ、理解できる?』
「ゆ、ゆ、ゆぐぅ…………そ、そんなのうそだよ!! そんなわけないよ! おにーさんはうそつきだよ!」
『はぁ? なんでよ?』
しかし、ゆっくりは自分の常識を覆すことを大いに嫌う。
青年の言葉を嘘だと断言して睨みつける。
「そんなのまりさきいたことないよ!」
『そりゃお前は教えられなかっただけだっつの』
「ちがうよ! うそなんだよ! おにーさんがらくをしたいから まりさにうそいってるだけなんだよ! いじわるだけじゃなくて、うそまでつくなんてゆっくりできないよ!!!!」
『…………』
「おにーさんのうそつき! うそつき! うそつき! このゲス! いいからさっさとまりさにごはんよういしてね!!」
『…………はぁ』
事実を受け入れられない、元から受け入れる気が無いまりさは大声で青年を「うそつき」と罵りその場でゴロゴロと身体を転がしだした。
溜息をついた彼は頭を掻いて立ち上がると、呆れたような眼で、事実呆れきった眼でまりさを見下す。
「なんなの!? なんなのぉおおおおぉお?! わるいのはおにーさんでしょぉおおお!? そのめはなんなのぉおおおおおおおお!!!!」
『何か面倒になっちまったな、ちょっと待ってろ……』
「ゆ! やっとはんっせいしたんだね! さっさとごはんもってきてね!!」
青年はつまらなそうに手を振ると、家の中に入っていき、まりさを飼っていたサークル内に置かれたダンボールと買い置きしておいた餌を皿に盛って庭に戻ると、それらを放り投げた。
『ほれ』
「ゆわーいごはんさんだよぉおおお!! ゆわわーい!!」
まりさは涙を流しながら喜ぶと、餌皿の中に身体全体を突っ込むと久しぶりの食事を堪能していた。
それを見ながらゆっくりは、庭の隅にダンボールを設置すると尻を振りながら食事するまりさをつま先で軽く蹴り飛ばした。
「ゆびゅ!? なにずるの!! やべでね!」
『とりあえずよ、餌はお前にくれてやるよ』
「ゆ?」
彼は庭の隅に設置したダンボールを指差した。
『巣もくれてやるよ、だから、一人前なら一人前らしく一人で生きてみろ』
餌と巣を貰っている時点で一人前には程遠いのだけれど、優しい優しい青年はそう言い放った。
それを聞いたまりさはしばらくフリーズしてから。
「ゆ! わかったよ! おにーさんはやっとじぶんのやくめをおもいだしたんだね! ゆふふ、よかったよ」
そう解釈したらしく、さも理解ある父親みたいな顔をして笑った。
一瞬踏み潰しそうになったのを堪えた青年は、まりさに何度もしっかり約束をさせた。
おにいさん、そう呼ばれた青年の飼いゆっくりである成体のまりさ、銀バッジ2980円也が顔を歪ませ叫んでいた。
うんざりとした気分を隠さず残さず溜息にして表した青年は、読みかけの雑誌を伏せて、まりさの方を見た。
まりさがいるのは居間の隅に作られた1m四方のドッグサークル、木で作られた軽い柵だが、ゆっくりの出入りを封じるくらい簡単なレベルだた。
この家では基本的にその中でまりさを飼育している、理由はこのまりさはあまり出来が良くなくていつになっても部屋を荒らすからだ。
青年とまりさが住んでいるのは、彼の親戚筋から借りた一人で暮らすには広い一軒家、その分ボロいけれど、十分な作りになっている。
部屋も余っているしと、青年はまりさを買った当初は放し飼いにしていたのだけれども。
まりさは青年が少し出かけた内に、ゴミ箱を荒らし、物を壊し、そこらにしーしーうんうんをしてしまう。
何度も注意しても直らない、否治さないまりさに業を煮やした彼は物置にあったドッグサークルに放り込むことに決めた。
決めたは良いけど、狭い場所が気に入らないらしいまりさは一々文句を言ってくる。
今日もその類だろうと、青年は立ち上がりサークルの前まで行く。
サークルの中でまりさはふくれっつらをしていた、しかも餌皿をひっくり返して、水もまけてくれやがった。
……餌も水もタダじゃねーんだぞ。
そんなことを思いながら、また溜息を一つと幸福を交換して青年は口を開く。
『今日はなんだよ、散歩なら明日な明日』
適当にそのものに告げ、水だけでも汲み直そうと腰を屈めて手を伸ばす――が。
「ばかにしないでね!」
叫び一つで、まりさは伸ばされた手に体当たりをしてきた。
実に弱い一撃ではあったけど、その行為自体は人を怒らせるのに十分なものだった。
当たり前であろう、ゆっくり程度に攻撃をされて平静を装えるような奴は聖人君子か、某愛護団体のものくらいだ。
『っ、なにすんだよ!! てめぇ、飯抜きにすっぞ!』
聖人君子でも、愛護団体所属でもない彼は、当然の怒りに任せて、まりさの頭を掴んで押さえつけた。
成体ゆえにある程度雑に扱っても平気だけれども、当たり前に苦しいらしく「ゅぎぐべぇっ!?」と、気色悪い声を漏らしていた。
その情けない姿に少しだけ溜飲を下して、青年はまた溜息一つ。
『んで、今日は何なんだよ? マジでくだらねぇことだったら飯抜きだからな』
饅頭如きに怒るのも馬鹿馬鹿しいと思ったのか、手を離して質問する。
まりさは苦しかったのか、二三度咳き込んでから口を開いた。
「ここからだしてね!」
やっぱりそれか、と部屋にまた溜息が落ちる。。
青年は呆れ顔をしながら、まりさを見下ろす。
『やだよ』
「どうじで!?!」
拒否の言葉に、まりさは納得いかないと言わんばかりに歯を剥き出しにして食いついてくる。
『どうしても何も、お前馬鹿で何度も言っても部屋荒らすだろ、だからだよ』
はい、話はお仕舞い、と青年は肩を竦めながら踵を返す。
彼はまりさとこの手の話は何度もしたし、これからもするだろうから無駄に時間を使いたくないのかも知れない。
雑誌を読み直そうと、元居た場所へ戻ろうとした背中にまりさの声が押し付けられた。
「いいからここからだしてね! まりさはもういちゆんまえなんだよ!」
『はいはい、一人前ねぇ、そんなん自分で生活できるようになってから言おうな?』
具体的には部屋を荒らさないレベル。
青年はそう考え、どうせ無理だと諦めながら雑誌に手を伸ばし、座りなおそうとしたが……。
「ゆぐぐぅ! まりさはおにーさんの おせわになんか ならなくても もう じゅうぶんくらしていけるよ! いちゆんまえなんだよ!」
『…………』
まりさの根拠不明の叫びを聞いて、伸ばした手をそっと戻して振り返った。
『……お前、今なんつったよ?』
視線を受けて、まりさは一瞬ビクっと震えたけれど、直ぐにまた強がる顔に戻り。
「なんかいもいわせないでね! まりさは もう いちゆんまえだよ!」
……そこまでは良い、饅頭の自意識過剰は今に始まった訳じゃない、と彼は頷く。
「おにーさんの おせわになんかならなくても じゅうぶんくらしていけるよ」
『そうか、わかった』
まりさの言葉に笑顔で頷く青年。
最近何度か、どうしてコイツを飼い始めたんだったか疑問に思い出していた彼は、とびきりの笑顔を見せた。
そして、その手でまりさの頭をむんずと掴むと……。
「ゆ? おにいさんやっとわかったんだね! これからは まりさのいうこ、ゆびゅべっ!?」
『んじゃ、お前今日から庭住みな、しっかり生きろよ?』
庭へ続く戸を開けると、手入れをしていないので草が生え放題のそこへ放り投げた。
まりさは顔面から着地して、情けない声と共にうんうんを漏らして震えている。
青年は胸がスーッとするような爽快感に、久しぶりにまりさといて笑顔になれたな、最初からこうすれば良かったな、と頷いてた。
そして青年は、震えるまりさの背中というかあにゃるに声を放り投げた。
『んじゃ、頑張れよ、いちゆんまえのまりさちゃん』
「ゆ?」
彼がピシャリと戸を閉めると同時に、震えていたまりさは身体を起こした。
そして直ぐに周囲をキョロキョロ見渡して自分が外に、普段おにーさんに頼んで頼んでたまの出して貰う庭にいると気づいた。
「ゆっ! まったくおにーさんは ようやくまりさが いちゆんまえってみとめたんだね!」
まりさは、青年が自分のお願いを聞いてくれて外に出してくれたものと判断したらしく偉そうに踏ん反りかえると直ぐに庭で遊びだした。
普段なら青年が監督しているからあんまり好き勝手出来ないからと、まりさは庭を跳ね回り、草や花を無造作に引きちぎったりして遊んだ。
それから数十分、一人遊びでは限界が来るし、今日は餌も食べずに遊んでいるから空腹を覚えたまりさはしっかり閉められた戸の前に踏ん反り返る。
「おにーさん! まりさはおなかがへったよ! はやくふーきふーきしておうちにいれてね! すぐでいいよ!」
声を高らかかに青年を呼ぶが、まりさの声に応えるものは無く。
戸は閉じられたまま、むなしくそこにあるだけだった。
「ゆゆー!! おにーさん! まりさがよんでるんだよ! はやくでてきてね! なにやってるの!!」
反応が無いことに腹を立てて叫んでみても戸は開かれることはない。
何故なら青年は居間から離れた位置にある自室で、音楽を聞きながら漫画を読むという優雅な時間を過ごしているから。
まりさの声は聞こえないし、例え聞こえていても生意気饅頭の言うことを聞くつもりは一切ないのだ。
そんなことを知らないまりさは、戸の前でぴょんぴょん跳ねながら何度も何度も青年を呼んでいたけれど、やがて疲れたのかその場でつぶれ饅頭みたいに身体を休ませ出した。
「ゆひー、ゆへー……おにーさん、なにしてるのぉ? かわいいまりさが、よんでるのにぃ……」
疲労と空腹、そして着てくれない寂しさに涙を滲ませながら、ゆっくりと暮れだしている空を不安そうに眺めていた。
それから2時間ほどして、泣きつかれたまりさが眠っていると暗くなって久しい居間に電気がついた。
漫画に夢中になっていた青年が、そろそろ夕飯にしようとこちらに出てきたのだ。
光と音でそれを察知したまりさは飛び起きると、頬を膨らませながら待った。
「…………(おにーさんがきたら まりさおこるよ! まりさをこんなにまたせるなんてゆるされないんだから!)」
待った。
「…………(それからあまあまだよ! シュークリームさんをようっきゅうするよ! そのけんりがまりさにはあるんだから!)」
待った。
「…………(それからそれから、きょうからおにーさんがあのさくのなかでくらすんだよ! おうちはまりさのだよ!)」
待った。
だけど、戸は開けられることはかった。
まりさの予想予定妄想では、直ぐに戸が開けられて青年は怒るまりさに平謝り。
それを寛大に許してあげて、あまあまとおうちを手に入れるのだったけれど、青年はまったくこちらに来ようともしない。
『夕飯どーすっかなぁ……おっ、コロッケ買ったの忘れてた、これでいっか』
青年はまりさをかなり本気で忘れて、冷蔵庫から発見したお惣菜を見て笑顔になっていた。
彼にとってこの夕飯時は、一々自分の食べてるものを寄越せと叫ぶまりさと一緒で心休まらない時間だった。
それが今日はないので、とてもゆっくりとした表情のまま夕飯の準備をしていた。
『あー、肉が賞味期限やばいし冷しゃぶにでもするかな……軽く日本酒混ぜて、タレはごま油に醤油に、おっ。トマト缶あるからオリーブオイルのタレもつくっちまおっかな♪』
普段ならば騒ぐまりさにイライラしながらなので、適当な料理になってしまうけれど今日はとても穏やかな気持ちで、ちょっと凝った料理をやってみようかな、とまで思えるほどにリラックスしている青年。
そして、戸の外で今か今かと青年来るのを待つ魔理沙、しかしその今は一向にやってこないでいた。
青年が料理を終えて、それらを座卓に運び終えたときに、彼は初めてまりさを意識した。
『あ……ちっ』
意識した感情は『嫌なもん見た』と言ったものだった。
そこに来てまりさは自分が無視されて―――正確には忘れられて―――いることに気づいてプルプルと怒りに身体を震わせ。
「おにぃいさぁぁぁああああぁぁあん!! なにじでんだぁああああ!! まりさがまってるでしょおおおぉおおおおお!?!?!」
爆発するように叫び出した。
疲れも空腹も忘れて、その場でボスンボスンと地団太を踏みながら大声で喚く。
涙を流して、怒りをそのままに。
だけど、青年は―――。
『トマト冷しゃぶやばいな……正直はまりそう』
「きげぇぇえええええええ!!!! どぼじでぇ! どぼじでむじずるのぉおおおぉおおおお!?!?」
―――優雅に楽しく夕飯に熱中しているようだった。
「まりざはおながずいですんだよぉおおおぉお!! ざっざどごはんんんんん!!!!!」
『………………』
居間にいて、直ぐそこにいるまりさの声は聞こえてはいるけれど、青年は明らかに無視をしていた。
しかも、無視をしながら必死に自分に声をかけてくるまりさを見ながら優越感に似た喜びを感じているようで、普段よりリラックス出来ている。
それから20分ほど、夕飯を終えてまったりと食後のお茶を飲みながらテレビを見ていた青年は、ふと思い出したように立ち上がり。
今では飛び跳ねる元気もなくなり「ゆぐゆぐ」泣いているまりさの目の前にガラス戸を開けた。
「ゆっぐゆっぐ、ばりざ、ごはんん、ゆ!?」
『さっきから五月蝿いんだけど』
片手の小指で耳を穿りながら、明らかに面倒臭そうな顔をした青年はまりさを見下ろしながらそう言い放った。
「ゆゆ!? なんなのぞのだいどはぁぁぁぁあああああ!!!」
『あー、うるせーうるせー』
青年のあまりにダルそうな態度にまりさは目を見開き、大声で吠え出した。
まりさにしたらここは申し訳なさそうに頭を下げて、そしてあまあまを献上するのが筋だと思っていた。
そしたら「まりさもおにじゃないからね! おにーさんとくべつにゆるしてあげるよ!」と言ってあげるつもりでもあった。
その予定が根底から一気にポーンしてしまったので、まりさの薄い理性もポーンしてしまった。
「ゆっが! ゆが! ゆっぐぉおおお!!」
『何語だよ、それ』
怒りで言葉も喋れなくなったまりさは、その場で身を捩りだしていた。
それを見ながら青年は『うわぁ、きめぇ』と小さく呟く。
「どーゆーつもりなのおにいさん!!! まりさをこんなにまたせておいて! じぶんだけゆっくりしてたくせにぃい!!」
ポーンと飛んでいった理性を拾ってきたのか、まりさは再び人語を喋るようになって怒りのままに青年を怒鳴ったが。
『どーゆーつもりも何も、言ったろお前今日からそこで暮らせって』
「はぁぁぁああぁあああ!?!? なにいっでるの?!」
青年はつまらなそうに言って、まりさはそれに跳ねながら大声をあげた。
その声にイライラするのか、彼は溜息をついてから、戸に手をかけて。
『お前はもう一人前なんだろ? 言ってたろ、俺の世話にならなくても生きていけるって。じゃな、頑張って生きろよ、特別に庭にはいさせてやるから』
「おにぃいさあぁああん!? なにいっで、ちょっどぉおおお!?! なんでしめちゃうのぉおおお!?!?」
言うことを言うと、まりさの反応なんてまたずに青年はさっさと戸を閉めて、そのまま居間の電気を消すと部屋に戻っていた。
そして、優雅にだらだら過ごして寝てしまった。
その間もまりさは騒いで跳ねて、声をあげてそして泣きつかれて寝た。
……。
…………。
『うーっし、行ってきまーす』
「おにいざん!! ばりざのごはんがまだでしょ!? あとおふろいれてね! あとあまあまちょーだいね!!!」
青年が起きて、朝食を取っている間は騒ぎ倒して、そして無視をされてたので今度は玄関先で待ち伏せをしていたまりさ。
昨日言われたこと、そしてその前に自分が言ったことを忘れてるのか、忘れたことにしているのか、まりさは偉そうに汚れた身体をふんぞり返らせた。
が、しかし―――。
『お前は一人前なんだろ? 一人で頑張れよー、んじゃな』
「ちょ、ま、まっでえっぇええぇええ!!! ごはああああああん!!」
彼はまりさに視線を向けることすらしないで、さっさと家を出ていた。
この家は少し街中から離れた場所にあるので急がなくてはならにのだった。
その分、家賃は安いし、まりさがいくら騒いでも苦情もない。
そんな訳で、爽やかな朝日の中青年はゆっくりでは追いつけない速さでどんどん歩いていってしまう。
「まっで! おにーざん! まっで! ばりざおごってないよ?! いまならゆるずからぁぁああぁああ!!!」
まりさは的を外れて自分に跳ね返ってきそうな勘違いな言葉を吐きながら青年を追うが、直ぐに追いつけなくなってしまう。
人間との運動能力の差は激しいを取り越して無理だし、昨日から何も食べていないまりさは身体に力が入らなくなっていた。
「おなか、すいたよぉ……なんで、まりざがこんなめにぃっ!」
涙を流しながら、ずりずりと這いずってまりさは家の庭に戻ってきた。
「ごはん、おにーさん、どうしてぇ……」
そして、庭に戻ってうろうろ歩き回って、どこかに自分の食事が用意されていないかを探し回るけれど。
青年は何一つ用意することは無かった。
このまりさは生粋の飼いゆっくり、両親も飼いゆっくり、そして自身もある会社の大量生産とは言え飼いゆっくりの教育をされてペットショップを経て青年に買われた。
その間に、野良の生活は見たことはあったけど自分とは関係ない世界の話と思っていたので、こんな状況になると食べるものなど存在しない。
家の庭は草や虫が結構いるので、野良ゆっくりなら数家族楽に養える狩場ではあるのだけれど、まりさには自分の周りにあるものが食べ物と認識出来ていなかった。
なので、その場で蹲って「おにーさんがかえってきたら こんどはまりさおこるよ!」等と空腹を誤魔化すしかなかった。
「ゆぅう、まりさのごはんさん、まりさのごはんさぁん…………」
昨日食べずに撒き散らした餌が今になって恋しくなったまりさは、涙を流しながらうなり続ける。
それでも、まりさの空腹が満たされることなんて絶対なくて、ただただ疲れが溜まるだけだった。
それから数時間、まりさはただただ青年が帰ってくるのを待っていた。
日が暮れた頃に青年が帰ってくると、まりさはずりずりと底部を這わせながら寄っていき。
「……おにーさん、いったいなにをしてたの? まりさおなかがすっごくすいてるんだよ? それなのに ごはんもよういしないで………………いっだいなにじでだんだぁぁぁあぁああぁっぁあぁぁぁあぁああぁああああ!!!!!!!!!」
今まで怒りを溜め込んでいたのか、それを一気に爆発させて口を限界上に開いて叫んだ。
『はぁ?』
完全にまりさを忘れに忘れていた青年は、帰って来て今日は夕飯何にしようかな? とか上がっていたテンションが一気に下降したのを感じた。
足元でぎゃーぎゃー騒ぐ汚い饅頭を見ながら、青年は溜息をつくと、話を聞いてあげるつもりはあるのか家には入らずにその場に立ち止まった。
『んで、何だよ? 要があんならさっさとな』
「な、な、なんなのそのたいどはぁっぁああぁあああああああ!!?!?」
『あー、うるせーうるせー』
叫ぶまりさに、流す青年。
彼は片耳を塞ぎながら、つまらなそうに眼を細める。
『んで何だよ、俺腹減ってんだからさっさと言えよ』
「おながへっでるのはばりざのぼうだよぉおおぉおおおおぉおおおおおおおおお!!!!!」
『話進まねーな、んで何だよ一人前のまりさちゃんよ』
「なにって!! おなかがへってるっていってるんだよ!? まりさが おなかへってるっていったら おにーさんはごはんださなきゃダメでしょぉおおおおお!!!」
まりさの必死に叫びに、青年は溜息一つで。
『なんで?』
「はぁぁぁああああぁぁあっぁあああああああぁぁぁっぁああああぁぁぁぁっぁあああぁあ?!!?!?!?!?!?!?!?!?!」
『うるっせー』
若干まりさの反応が楽しくなってきたのか、彼はニヤニヤ笑いながら耳を塞いでいた。
そして、見下すのに疲れたのかしゃがみこむと、ニヤニヤ笑いながら。
『んで、何で俺が餌を用意しなきゃなんねーんだよ?』
「なんでって、なんでって! おにーさんがまりさにごはん くれるのはじょーしきでしょぉおおぉおお?!!?」
所詮安物銀バッジ、この程度の知能である。
人間が餌をくれるのは当然と思ってはいたけれど、奴隷とまでは見下さないそのレベルだった。
そして、青年もその常識に則ってまりさに餌を与えていたけれど、それも昨日までの話だ。
しゃがんだ青年は、楽しそうに笑って口を開いた。
『常識じゃねーよ、つーか、お前は昨日言ってたろ? 自分はもう一人前だから俺の世話にならないってよ。なのになんで俺に餌貰うんだよ? ばっかじゃねーの?』
「ゆが!? そ、それとごはんさんとはべつでしょぉおおぉおお?!」
投げかけられた正論に言葉をつまらせたまりさは、表面に砂糖水の汗をかきながらゆっくり特有の〔れいっがい〕理論を発動させる。
〔れいっがい〕理論とはゆっくりが正論言われたときに、自分の行いだけは全て正しいから例外だと主張したりするゆっくりなら誰もが備えている餡子理論である。
そんな理論を叫んで青年が納得するハズもなく。
『例外の訳ねーじゃん、お前は俺の世話にならなくても大丈夫って言ったんだぞ? あ、もしかして嘘? やっぱりまりさは俺の手助けなくちゃ生きられないゆっくりなんだぁ、へー、もう大人なのに、ぷっ、赤ゆっくりかっての』
「な、なにほざいてるのぉおお!? まりさはいちゆんまえだよ! おにーさんなんかいなくてもだいじょーぶなんだよぉおおお!!!」
『はい言質取りましたー、んじゃ、ソロ生活頑張れよ?』
まりさの叫びを聞いて彼は立ち上がると、さっさと家の中に入っていってしまった。
その背中を見ながら、叫んだ状態のまま固まっていたまりさ。
再び動き出すのは2分後だった。
しかし、動き出しても、叫び倒しても青年は庭に出ることはなく、まりさ今日も庭で一夜を明かすことになった。
……。
…………。
「おなが、へっだよ…………」
次の日の昼間、日差しを避けるように庇の下で潰れ饅頭になっているまりさ。
いくら成体で、しかも一昨日までは栄養たっぷりの餌を食べていたとしても二日の絶食と、野宿のゆっくり出来なさに限界が来ていた。
まりさは何で青年が自分に〔いじわる〕するのが未だに解らなかった。
それが自分の根拠の無い見栄や自信により引き起こされている物と気付かないまま、青年が今日は〔かいっしん〕してくれると信じていた。
しかし、そんな訳もなく青年は自分の食事を済ませると、まりさを室内で飼っていたときなんかよりずっとゆっくりした表情で家を出て行った。
その背中を昨日より元気なく追いかけたが、青年はまた。
『まりさは一人前なんだよな? 俺の世話なんかいらないんだよな?』と聞いてきて。
それに反射的に「そうだよ! まりさはなんでもできる いちゆんまえなんだよ!」と答えていた。
それが原因だと未だに気付かないまりさ。
それもそうなのだ、まりさにとってご飯は人間が出してくれるもの、水も巣も全て人間が提供するのが当たり前。
極端な話、人間にとっての呼吸の認識なのだ。
して当たり前、して貰って当たり前、否して貰っているという感覚すらない。
だから、自分を〔いちゆんまえ〕と称してもそれらは自分のすることの範疇に入っていないのだ。
故にまりさは自分が〔いちゆんまえ〕という発言は撤回しないし、今の状況を〔いじわる〕くらいにしか思えないのだ。
このまま食事をしなければ早ければ後2日くらいで死に至ると言うのに。
そして極力動かないまま夕方になり青年が帰ってくるのを玄関先で待っていたまりさ。
『あー、今日は何食うかなぁ……ん? 何してんだ? 邪魔』
「まっでね、おにーさんごはんちょーだいね、まりさ、もうおなかペコペコなんだよ……」
やつれたまりさの言葉を聞いての反応は。
『ふーん』
と、それだけ。
叫ぶ気力もないらしいまりさは、悔しそうに歯を食いしばって彼を見上げると。
「おにーさん、まりさがなにかしたならあやまるよ、だからごはん、ちょーだいね」
まりさにしたら〔なにもわるいことしてないのに〕仕方なしに謝る状況。
その悔しさがしっかり顔に出ているので、青年にはその心境が丸見えなのはご愛嬌。
それが解っているから青年はニヤニヤしながら。
『いや、だからさぁ、まりさは一人前なんだろ?』
「そうだよ、まりさはいちゆんまえだよ? それがどうかしたの?」
『お前さ、一人前ってどんなことか知ってるの? 野良の成体がどんな風に暮らしてるかとか?』
まりさの話に付き合うように、話し出した。
「ゆぅ? いちゆんまえは、いちゆんまえ、だよ? それがどーしたの?」
しかし、悲しいかな安物餡子脳、青年の言葉を簡単には理解してくれない。
『良いかまりさ、一人前ってのはな? 自分で自分の住む家を見つけて、餌も自分でとって、何でも全部出来て一人前なんだよ』
「ゆ、ゆがーん!!」
知らされた一人前の事実にまりさは口を開けてショックを受けていた。
今までまりさが言っていた〔いちゆんまえ〕は特に何の根拠もない発言だったのだ、そこに普段自分では絶対しないことを追加されてしまうとは思いもしなかった。
『お前は、俺に家も餌も水もなんでも用意して貰ってようやっと生きてるマジで赤ちゃんレベルなんだよ、理解できる?』
「ゆ、ゆ、ゆぐぅ…………そ、そんなのうそだよ!! そんなわけないよ! おにーさんはうそつきだよ!」
『はぁ? なんでよ?』
しかし、ゆっくりは自分の常識を覆すことを大いに嫌う。
青年の言葉を嘘だと断言して睨みつける。
「そんなのまりさきいたことないよ!」
『そりゃお前は教えられなかっただけだっつの』
「ちがうよ! うそなんだよ! おにーさんがらくをしたいから まりさにうそいってるだけなんだよ! いじわるだけじゃなくて、うそまでつくなんてゆっくりできないよ!!!!」
『…………』
「おにーさんのうそつき! うそつき! うそつき! このゲス! いいからさっさとまりさにごはんよういしてね!!」
『…………はぁ』
事実を受け入れられない、元から受け入れる気が無いまりさは大声で青年を「うそつき」と罵りその場でゴロゴロと身体を転がしだした。
溜息をついた彼は頭を掻いて立ち上がると、呆れたような眼で、事実呆れきった眼でまりさを見下す。
「なんなの!? なんなのぉおおおおぉお?! わるいのはおにーさんでしょぉおおお!? そのめはなんなのぉおおおおおおおお!!!!」
『何か面倒になっちまったな、ちょっと待ってろ……』
「ゆ! やっとはんっせいしたんだね! さっさとごはんもってきてね!!」
青年はつまらなそうに手を振ると、家の中に入っていき、まりさを飼っていたサークル内に置かれたダンボールと買い置きしておいた餌を皿に盛って庭に戻ると、それらを放り投げた。
『ほれ』
「ゆわーいごはんさんだよぉおおお!! ゆわわーい!!」
まりさは涙を流しながら喜ぶと、餌皿の中に身体全体を突っ込むと久しぶりの食事を堪能していた。
それを見ながらゆっくりは、庭の隅にダンボールを設置すると尻を振りながら食事するまりさをつま先で軽く蹴り飛ばした。
「ゆびゅ!? なにずるの!! やべでね!」
『とりあえずよ、餌はお前にくれてやるよ』
「ゆ?」
彼は庭の隅に設置したダンボールを指差した。
『巣もくれてやるよ、だから、一人前なら一人前らしく一人で生きてみろ』
餌と巣を貰っている時点で一人前には程遠いのだけれど、優しい優しい青年はそう言い放った。
それを聞いたまりさはしばらくフリーズしてから。
「ゆ! わかったよ! おにーさんはやっとじぶんのやくめをおもいだしたんだね! ゆふふ、よかったよ」
そう解釈したらしく、さも理解ある父親みたいな顔をして笑った。
一瞬踏み潰しそうになったのを堪えた青年は、まりさに何度もしっかり約束をさせた。
- 庭で暮らす。
- 餌をやるが一日分をまとめて。
- それ以外は全部自分でやれ。
と、簡単にこれだけだった。
まりさは「まりさはいちゆんまえなんだよ! これくらいかんたんだよ!」と自信満々と言うか。
新しい生活に希望を抱ききっているようだった。
そして最後に青年は『もし、どうしてもダメだと思ったら、自分が一人じゃ何も出来ない赤ちゃんゆっくり以下のゴミと、認めたら助けてやんよ』と告げて家に入っていった。
まりさはそれに「ぷくー」と膨れて威嚇をして怒りをあらわしていた。
青年が餌をくれて、巣も用意してくれたことでしっかり無敵気分になっているらしい。
そして、まりさは久しぶりにゆっくりとした食事を取ってダンボール内で睡眠をとった。
……。
…………。
「ゆっ! ゆっくりおきるよ!」
本格的に庭で暮らしだしたまりさの生活は幸せだった。
ダンボールの小屋から外に出れば軒先に餌皿に山盛りになったご飯が置かれているのだ。
それを存分に食べたら、以前は狭いサークル内だったけれど今は広い庭を走り回って遊べる。
相変わらず半日くらいで飽きはくるけど、少ししたらそれも忘れてまた遊びだす、それを繰り返して一日は過ぎていった。
そして、夕方に青年が帰ってきたら。
「おにーさん! まりさよごれたよ! さっさときれいにしてね! きいてるの!? まりさよごれ、はなしをきげぇぇえぇええええ!!」
要求を叫んで無視される日々だった。
本当に口だけ一人前のまりさは、常に青年に頼ろうとしていた。
最初の頃は、一日分の餌を一気に食べつくしてしまい空腹のまま青年を怒鳴りつけたりもしたが、今は何とか学習出来たらしく分割して食べていた。
青年はもはや無視をして、惰性でまりさを飼っているレベルだったので、庭のことは完全に無視をしていた。
毎朝、餌皿に適当にゆっくりフードをぶち込むだけで後は知らない。
そんな関係での生活が続いたある日。
「ゆ、ゆっ! ゆふー、ちょっとつかれたから ごはんにするよ!」
いつもの様に昼間庭を動いていたまりさ。
家で暮らしていた頃より大分汚れているが、餌は十分食べているので元気なようだった。
そして、今もまた朝の食べ残しを食べようとしていたら、不意に背後から声をかけられた。
「ま、まりさ、ゆっくりしていって、ね?」
「ゆん?」
食事をしようとしていたまりさが振り向くと、そこには一匹のれいむがいた。
正確にはれいむと、その影に隠れるように子れいむ子まりさも、だ。
そのどれもが実にボロボロ。
母親なのだろうれいむは、リボンは端々が切れていて汚く汚れているし。
もみ上げをまとめるお飾りも片方なくなっていた、そしてしーしー穴の周りはぐちょぐちょ、あんよは真っ黒。
体中にゴミやらをつけていて、子ゆっくり二匹もそれよりかはまし、程度の一般的な野良だった。
この辺りは民家が少なく、かといってゆっくりが住めそうな場所もないので、まりさは青年に公園へ連れて行って貰う以外にゆっくりを見たことは無かった。
庭で暮らし出してからは、散歩にも連れて行って貰えていなかったのでまりさ的には久しぶりに見たゆっくりだった。
しかし、まりさの眼には警戒というか嫌悪の色が浮かんでいた。
「……なんのようなの? ここはまりさのゆっくりプレイスだよ!」
「ゆ、お、おこらないでね、まりさ……おちびちゃんがこわがってるよ」
「こ、こわいのじぇ……」「おきゃーしゃん、だいじょうぶ?」
庭への招かれざる侵入者を睨むまりさ、そして窺うように見てくれるれいむと、怯える子ゆっくり。
常に綺麗な飼いゆっくりばかり見ていたまりさにとって、目の前の三匹は汚物くらいにみえていたのだ。
そんなまりさも庭暮らしで自分で身体を綺麗にするやり方も知らないもで、綺麗な野良くらいにはなっていたりするのだけれど。
それでも、れいむ達よりかは遥かに綺麗だった。
このれいむは、まぁ、ありがちなくらいありがちなテンプレしんぐるまざーだった。
熱愛そして夫の死というどこでも見られることを経て、自分で狩をしていたけれど満足な餌をとれずにフラフラここに迷い込んだのだ。
そして、そこで美味しそうなものを食べるまりさを見つけて声をかけたのだった。
「まりさ、その、よかったられいむたちにごはんをわけてほしいよ、おちびちゃんが、おなかすかせてるから……」
れいむは控えめに、ゆっくりとしては下からお願いをした。
だけど、まりさは……。
「なにいってるの!? これはまりさのごはんだよ! おまえらみたいなきたないのにはひとつもあげないよ!!」
「ゆゆゆぅ!?」
断られる可能性は考えていたものの、あまりに強い否定にれいむは驚いているようだった。
このれいむが子ゆっくりに二匹を連れて狩をしているのは、子供を見せて同情を引く為でもった。
出汁にするために、虐待をしたりは決してしていないけれど、少しでも餌が手に入るならとの考えで。
可愛い子ゆっくりがお腹を空かせてる可哀相な姿を見せれば、きっと餌が手に入ると信じていた。
なのに、まりさに「きたない」と一蹴されて悔しさに涙が出てきていた。
それを子れいむ子まりさが「ぺーろぺーろ」と舐め取っていく。
「お、おねがいだよまりさぁ! おちびちゃんがおなかをすかせてるんだよぉおお!? そんなにあるんだからすこしぐらい れいむたちにくれても……」
自分の子供に同情される悲しさで、更に涙を流して、れいむは餌皿にある大量の―――野良なら三日は食いつなげる―――食料を見つめた。
「なにいってるの! これはまりさのだっていってるでしょ!」
「ゆう、しょんなにあるのに……」「じゅるいのじぇ」
子ゆっくりたちは、自分たちの身体より高く積まれたゆっくりフードを羨ましそうに眺めていた。
それでも、成体サイズのまりさが怖いのかれいむの影からは出ない窺うだけに留めていた。
「まりさぁ、おねだいだよ! そんなにごはんあつめられるってことは まりさはかりのたつゆんなんでしょ? だったらすこしくらい……」
「ゆ? たつゆん? かり……」
れいむの言葉にまりさは、ボーっと反応した。
頭の中の何処かにあった言葉「かり」そして「たつゆん」
まりさ種ならば大抵一度は自称する「かりのたつゆん」
それがまりさの頭の中に初めて埋め込まれた。
「そうだよ! まりさはかりのたつゆんだよ!」
「だよねだよね! だったられいむたちにすこしくらいわけてくれても だいじょうぶだよね?」
れいむは少しでもまりさをおだてて、どうにか餌を貰おうと必死になっていた。
そんなれいむの心境に気付かないまりさは、自分が「かりのたつゆんだ!」と笑みを漏らして。
「ゆふぅー、しかないね、まりさはかりのたつゆんだし、いちゆんまえだから、れいむみたいなおちびちゃんゆっくりにごはんをあげるよ!」
「ゆ、お、おちびちゃん、ゆっくり?」
それはかつて青年に言われた一言、まりさを強く傷つけた言葉だった。
まりさはそれをれいむに向かって言い放った。
「そうだよ! まんぞくにかりもできないゆっくりは、おちびちゃんといっしょだよ! まったくまりさをみならってほしいよ……」
「ゆぐ!!?」
優越感から汚い笑みを浮かべながら、れいむにそんな言葉を向けた。
自分が以前と何も成長していない、青年の庇護の下に生きるしか出来ない「おちびちゃんゆっくり」だと言うのに。
ゆっくりながら必死に子供二匹を育てるれいむを見下していた。
れいむは悔しさを覚えながらも、ここでまりさの機嫌を損ねる訳にはいかないと歯を食いしばっていた。
「ゆっ、これをあげるからさっさとかえってね!」
そのれいむの前に、まりさはゆっくりフードを一粒放り投げた。
「ゆ、ゆ? ま、まりさ、これ、だけ、なの?」
目の前に落ちたゆっくりフード一粒、大きさは人間の小指の第一関節ほどの円柱型をしているそれが、たった一つ。
れいむはゆっくり出来ないことまで言われて、これしか貰えないのかと呆然としていた。
餌皿にある全て、とは言わないけどせめて半分くらいは貰えるのでは、と内心思っていたのでその落差に開いた口が塞がらなくなっていた。
「まりさ、せめて、せめておちびちゃんが 「あまえないでね!」 ゆひ!?」
「あのねれいむ、らくしてごはんがてにはいると おもわないでね! れいむはおちびちゃんゆっくりだから わからないかもしれないけど まりさは たっくさんがんばってかりをしてるんだよ!!」
一ミリも頑張っていないまりさちゃん(生後5ヶ月)の言葉でした。
「わかったらさっさとそれをもってどっかいってね! まったく、おなじゆっくりとしてはずかしいよ!」
「ゆぅう……」
れいむは目の前のゆっくりフード一粒を頭の上に乗せると、悔しそうに帰ろうとする。
だけど、それまで母の影に隠れるだけだった二匹が初めて前に出た。
「まりしゃおじしゃん! だったらそれがあるばしょおしえてほしいのじぇ!」
「れいみゅたちが がんばってかりしゅるから!」
「お、おちびちゃん…………」
自分の前で必死にまりさに教えを乞おうとする二匹の子供に、れいむは涙を浮かべていた。
そして、自分の不甲斐なさから、れいむ自身も頭を下げる。
「れいむもおねがいするよまりさ! おねがいだから、かりのばしょをおしえてね!!」
「ゅ、ゆゆぅ…………」
三匹に頼み込まれて困ったのはまりさだ。
何故なら、このゆっくりフードは朝青年が持ってきてくれるものなのだから。
どこにあるか、それは家の中なんだろうけれど、それすらまりさには思いつかない。
まりさにとって餌は「おにーさんから、かってにはえてくる」ものなのだ。
「ゅ、そ、それは、えっと……」
「おねがいしゅるのじぇ! かりのたつゆんのおじしゃん!」
「かりのたつゆんしゃん! おねがいしましゅ!」
「まりさぁぁああ!! おねがいだよぉお、かりのたつゆんなんでしょぉおおお!?!?」
困惑するまりさを、三匹は「かりのたつゆん」と褒めながら頭を下げてくる。
そう呼ばれることに快感を得てしまったまりさは、本当のことを言うなんて出来ない。
だからまりさは誤魔化す為に……。
「きょ、きょうはもうまりさつかれたから、ほら、もっとあげるから、またこんどおしえてあげるよ!」
「「「ゅ、ゆわぁぁあ!!」」」
餌皿から、親子三匹なら十分以上のゆっくりフードを明け渡した。
「ありがとうかりのたつゆんのおじしゃん!」
「とってもゆっくちしてるのじぇええ!!」
「ありがとう、ありがとうばりざぁぁあ!!」
涙を流して感謝してくる三匹。
生まれてこの方味わったことない快感に餡子を震わせていたまりさは、ニヤニヤしてしまう。
そして、餌を三匹が食べ始めれば、これまた感謝の「しあわせー!」の連呼。
かつて無いゆっくりを感じているまりさだった。
そしてその後は、子ゆっくり二匹が久しぶりの満腹感に眠りだしてしまった為、れいむ一家はまりさの段ボールに泊まることになった。
そこでもまりさは優越感を得ることになった。
まりさが住んでいる段ボールは数日前まで室内にあったり、野良のゆっくりが使うようにただ横倒しにしたのではなく、青年がしっかり密閉してから壁面にまりさが出入りする穴を開けたものだった。
そして、何より広く中にも雑巾が何枚か敷かれている野良ではありえない豪邸だ。
れいむたちが眼を丸くしているのを見て、それまではあって当然だった段ボールがとても誇らしく思えてきたのだった。
感心して羨ましがり、まりさを褒めるれいむ一家にまりさは気分良くして、久しぶりに他のゆっくりと頬を触れ合わせて眠った。
……。
…………。
「ゅ、ゆわぁあああ!! すっごいごはんさんだよぉおお!」
「「しゅっごぉおおおおい!!」」
「ゆっへん! それほどじゃないよ!」
次の日の朝、疲れからか、それとも元からかぐっすり寝ているれいむ一家が起きる前に、まりさは青年が用意してくれたゆっくりフードをわざわざ帽子に入れて段ボールまで持ってきた。
目の前に積まれた大量のゆっくりフードに、れいむと子ゆっくりたちは眼を丸くしていた。
昨日は既にまりさが半分近く食べていたので減っていたが、今あるのは青年は補充してくれたばかりなので大量も大量だ、あくまで野良視点ではあるが。
「おじしゃん、こりぇ、たべていいのじぇ?」「ゆっきゅり、ゆっきゅりぃ……」
涎を垂らして眼を輝かせる二匹と、こちらも涎だらだらのれいむ。
「ゆーん、どうしよっかなぁ、まりさがかりしてきた ごはんだし……」
「「「ゆ!?」」」
まりさの言葉に三匹は一気に悲しそうな顔をした。
子れいむはもみ上げをパタパタさせて泣きそうになりながら、子まりさは涎を垂らしながらお下げを振り回していた。
「まったく、しかたないゆっくりたちだね! いちゆんまえのまりさがとくべつにわけてあげるよ!!」
「「「ゆわぁあああい!!」」」
まりさの言葉で爆発するように三匹は食事を始めて、まりさも直ぐに食べだした。
優越感と、同種と一緒に食べる食事にまりさはゆっくりを感じなている。
そして食後、一日分のほとんどを食べ散らかした4匹は、体中を汚していた。
野良一匹ならば六日分くらいはあった食料、それを限界まで食い散らかしたのだった。
まりさも、覚えてきた配分も忘れて入る以上に食いまくった。
「ゆげっぴゅ!」「おなかいっぱいなのじぇえ……」
「まりさ、ほんとうにありがとうね……」
そんな3匹の言葉にまりさは胸を張って。
「ゆふん! まりさはいちゆんまえだからね! これくらいかんたんだよ!」
と偉ぶって宣言したが。
昨日の約束通りに、と狩場を教えるように3匹が言ってきた。
まりさはそれに「きょうもつかれているから!」そう言って、庭で遊びだした。
れいむを含めて、子ゆっくりたちにはこの庭は天国だった。
草が生い茂っていて、危ないものはないし、野良ならば食べられる草が山ほどあった。
しかもそれを横取りするゆっくりもいないという、最高のゆっくりプレイスだった。
れいむは、辛らつなことを言うまりさに感謝しきりで、子ゆっくりたちも感謝を示した。
それがまりさには気分が良くて良くて、今日も段ボールに泊めることになった。
朝ゆっくりフードを食い散らかしたけれど、れいむ一家は草や虫を取って食べていたので食事は特に問題はなかった。
まりさは普段より少なめな、ゆっくりフードを満足しながら食べて寝る。
そんな生活をしばらく続けていた。
早起きなまりさが、青年からの餌を狩の成果といって持ち帰り、それを食べてから餌場への案内を求められて断る、それからは庭で遊んで夜寝る、そんな生活。
その内に、性欲を満たすためのすっきりーをしてしまい子供が出来ると、なし崩しに二匹は番になった。
住食満たされたら次は性欲と、実に欲望に忠実な饅頭らしい流れだ。
れいむの頭には茎が生えて、そこに実ゆっくりがなった。
「ゆわぁああ、まりさのあかちゃん、かわいいよぉお!」
「ゆっくりしてるね、まりさ」
「いもーとたち、はやくうまれてね!」「すぐでいいのぜ!」
一応家族はそれを見てゆっくりしていた。
子ゆっくりも栄養沢山のゆっくりフードのおかげでどんどん成長して、実ゆっくりも順調に育っていた。
初めての我が子にまりさはもうメロメロだった。
こんなに可愛いものが世界にあって良いのかと、本気でそう思うくらいには。
そしてついに生まれることになった赤ゆっくり。
れいむに言われてまりさは帽子でその小さな饅頭たちを受け止めた。
「「ゆっきゅりしちぇいっちぇね!!!」」
「ゆ、ゆわっぁあああああ!! ゆっくりしていってねぇぇええええ!!!」
帽子の中で無駄にキラキラ光る眼で挨拶をした我が子にまりさは破顔して喜んだ。
その動きの一つ一つに感動して、感涙を繰り返した。
「おちょーしゃん! おちょーしゃん! れーみゅきゃわいい?」
「あったりまえだよぉおおおおおぉ!! せかいいちだよぉおおおおお!!」
わざとらしい赤れいむの問いかけにも全力で叫び。
「おちょーしゃ! みりゅのじぇ! まぃちゃこーんにゃにじゅーりじゅーりできるのじぇ!」
「さっすがまりさのおちびだよぉお!! さいっきょうかくていだねぇぇぇええ!!」
ちょっと這いずっただけの機動力ナメクジ以下の赤まりさを褒めちぎった。
「まりさは、まりさはしあわせだよぉおおおぉおおおお!!!」
しかし、そんな幸せは続く訳が無い。
「「「むーちゃ、むーちゃ、ゲロまずぅ」」」
赤ゆっくりが生まれて数日、段ボールではゆっくり出来ない声が響く。
それは母れいむ、そしてもう大分大きくなった子れいむ子まりさだった。
彼女らが食べているのは柔らかい草や虫。
以前は大好物だったけれど、ゆっくりフードに慣らされた為のゆっくり出来ない味になっていた。
何故そんなものを食べているかと言うと……。
「むーちゃむーちゃ! しゃぁわしぇぇぇえええ!!」
「おちょーしゃ! おいちいのじぇええええぇええ!!」
「ゆふふ、たくさんたべてね!」
そう、赤ゆっくりだ。
サイズは小さくても食べる量回数が半端じゃない。
しかも、それだけではなく自分の餡子を継ぐ赤ゆっくりをまりさが溺愛しているのだ。
その為に、義理の子である子れいむ子まりさ、そしてれいむにはゆっくりフードをほとんど分けないのだった。
最初はそれに抗議をしたがまりさが「これはまりさがじぶんのおちびちゃんにとってきたんだよ! じぶんのくらいじぶんでどうにかしてね! まったく、いつまでもおちびちゃんきぶんでいないでね!」と、初めて会ったときのように辛辣に言い放ったのだ。
まりさは赤ゆっくりに付きっ切りで、ゆっくりフードを与えて、れいむたちは段ボールの隅で苦い草を食べている。
そんな日々に限界を感じた子ゆっくり二匹は普段よりも早起きをした。
そして、まりさが狩に行った後をつけようとしたのだ。
自分でとったならば誰も文句は言わないだろうと、まりさが起きるのをずっと待っていたら。
『あー、だっりぃ』
「「ゆ?」」
子ゆっくりたちの耳に見知らぬ声が届いた。
そう、この家の庭の一応の持ち主の青年だ。
出かける前に、いつのものように餌皿にゆっくりフードを流し込みにきたのだ。
「れいむ……」
「まりさ……」
二匹は顔を見合わせると、まだ自分たち以外誰も起きていない段ボールからゆっくり出て行く。
「「ゆ!?」」
出た先で見たのは「にんげんさんが、いつもおとーさんが かりしてとってくるおいしいごはんさんを もっている」姿。
まぁ、青年が餌皿にゆっくりフードを注いでる姿そのままなのだけれど。
子ゆっくり二匹は、この状況が理解出来ずにポカンとしていた。
少し前までは野良をやっていたので、人間の存在は勿論しっていたけれど、まさかこんな近くで、しかもいつもまりさが持ってくるご飯とセットで見ると状況の判断が出来なくなるらしい。
この二匹は人間に激しい暴力を受けたことはないけれど、強く自分たちを簡単に殺せることが出来る生き物くらいには理解をしていた。
それと美味しいご飯の結びつきを出来ずにフリーズしていたら、餌を注ぎ終わった青年が二匹に気付いた。
『あぁん? いつの間にガキなんか作ったんだよあいつ』
まりさを庭で飼いだしてから本当に興味を失っていた青年は、今日始めて庭のゆっくりが増えていることに気付いたらしい。
「「ゆひっ!?」」
青年は軽く見ただけだけれど、子ゆっくり二匹は大げさにリアクションを取って、短い悲鳴をあげた。
ゆっくりフードの袋をそこらに置くと、数歩近づいて青年は子ゆっくりに二匹の前でしゃがみこんだ。
『お前ら何してんだ? まりさ、あー、いや、とーちゃんの代わりに餌を取りにきたんか?』
青年は何となく話しかけだした。
彼にしたら、呆れて放置に等しいことをしたまりさが、口だけじゃなくて一人前になって子供まで作ったのか、と少し感慨深かったからだ。
「ゆ?」「えさ?」
『ん? あー、これだよこれゆっくりフード、お前らの餌、代わりに取りに来たんじゃねーの?』
青年の質問に二匹は首を傾げていた。
〔えさ〕も解らなかったし〔ゆっくりフード〕はもっと解らない。
ただ、何となくそれが〔ゆっくりしたごはんさん〕だと理解したらしく、二匹は顔を見合わせた。
「ち、ちがうよ、れいむたちは おとーさんがそのゆっくりしたごはんさんをどこのかりばからもってくるのかしりたかっただけだよ」
「そうなのぜ、おとーさんはさいきんいもーとにしかそのごはんさんあげないから、まりさたちゆっくりできないのぜ!」
『ん~?』
子れいむ子まりさの訴えを聞いて、青年は首を捻った。
どうやらまりさが成長していないのを、何となく感じ取ったらしい。
『そう簡単に赤ちゃんゆっくりから成長しねーか』
「ゆ!? ぁ、あかちゃんゆっくりじゃないよ! れいむはおちびちゃんゆっくりじゃないよ!」
「そうなのぜ! まりさもしっかりかりもできるのぜ!」
青年の一言に妙に敏感に反応する二匹を、彼はまじまじと見ていた。
『なぁ、ちょっとお前ら話を聞かせろよ、ゆっくりフード分けてやるからさ』
……。
…………。
『ぷっははははは♪』
「わ、わらいごとじゃないのぜ! まりさたちこまってるのぜ!」
「そうだよ! おかーさんもゆっくりしたごはんさんたべたいっていってるのに!」
『いや、悪かった悪かった……へぇ、あのまりさが、ねぇ』
子ゆっくりに二匹を部屋に招いた青年は、今日までの話を聞いていた。
まりさとの出会い、そして罵倒、自慢、家族になり、そして新しい家族が生まれて態度を変えるまでを、感情論メインのゆっくり語りで。
それを聞いた感想は、見ての通りの笑いだった。
青年にとっては実に笑える話なのだ、口だけ一人前のまりさが自分から貰っている餌をさも苦労して手に入れているように語り、あまつさえ野良として厳しい世界を生きてきたれいむ親子を馬鹿にしたなんて、笑うしかなかった。
しかし、事情を知らない二匹は自分たちが馬鹿にされてると思い不機嫌に頬を膨らませていたが、青年の謝罪で渋々空気を吐き出した。
『それで、おとーさんが言ったのか』
「そうなのぜ、いつまでもおちびちゃんきぶんでいるんじゃない、って」
「れいむだってかりしてるのに、でも、ゆっくりしたごはんさんはどこにもはえてないんだよ!」
『へぇ…………』
憂鬱そうにしている二匹を見ながら青年は考えていた。
放置していても良いけれど、自分の知らないとこで調子に乗ってるまりさはうざいな、と。
『俺の存在を隠しているのも小賢しくてうざいし…………』
話を聞くに、まったくと言って青年の話が出ていないので、まりさは意図的に存在を隠しているようだった。
彼にとってそれも気に入らない要因にだった。
『どーすっかなぁ………………あ』
「ゆ? どうかしたのぜ?」
「にんげんさん! やくそくのごはんさんちょうだいね!」
何やら思いついた青年に、まりさは不思議そうに、れいむは空腹が限界なのか約束のご飯をねだっていた。
『ちびっこい赤いの、ちっと待て待て……お前ら良く聞け』
「「ゆ?」」
青年は悪い笑顔で子ゆっくりに話を持ちかけた。
……。
…………。
それから数日後の段ボール。
「ゆっち、ゆっち! おちょーしゃ! みちぇ! みちぇ! れぃみゅこぉんにゃにうごけりゅよ!」
「ゆゆ! さすがはまりさのおちびちゃんだよぉおお! てんっさいだね!」
「おちょーしゃ! おちょーしゃ! まぃしゃもみるのじぇ! ゆふん! ありしゃんをちゅかまえたのじぇ!!」
「さっすがまりさのおちびちゃん! さいっきょうだねぇぇえ!! まりさもはながたかいよ!」
いつものように、まりさは自分の餡をついだ赤れいむ赤まりさを溺愛しまくっていた。
ちょっと動いた、自分より遥かに小さなを蟻をしとめた、それだけのことを報告してくる一口饅頭を、まりさはその度に褒め、自分のことのように喜んでいた。
「おちびちゃん! がんばったらおなかすいたでしょ? はい、ごはんたんべよーね!」
「ゆわーい!」「まぃちゃごはんだいしゅきなのじぇ!!」
そして、いつものように青年から与えられたゆっくりフードの一部を二匹の前に並べていった。
「ゅう、まりさぁ、れいむたちにも、すこしちょーだいよ、ゆっくりしたいよ」
それを見ながら、れいむはオズオズと無駄と知りながら懇願をする。
自分の前に並ぶ、子れいむ子まりさがとって来てくれた草や虫を見ながら溜息をついていた。
そんな自分の妻を見ながら、まりさはわざとらしく溜息をつくと。
「なんかいもいわせないでね! これはまりさがおちびちゃんのためにとってきたんだよ! じぶんのことはじぶんでやってね! これだからおちびちゃんゆっくりはいやなんだよ! はやくまりさみたいないちゆんまえになってね!」
辛らつに、優越感と侮蔑を合わせた様な視線を向けて言い放った。
れいむは、それを言われるとシュンとなり「ゅう」と小さく鳴くだけだったが。
普段なら一緒に小さく鳴く子れいむ子まりさはお互いに顔を見合わせて。
「ゆぷ、ゆぷぷ」「ゆぷぷぷ♪」
と笑っていた。
「おかーさん、もうすぐだよ、まっててね」
「まりさたちがきっとおいしいごはんをとってくるのぜ!」
「ゆぅ? ……ありがとうね、おちびちゃん」
れいむは二匹の言葉を慰めと判断して、優しい子供を持って幸せだと思いながら笑顔を浮かべた。
しかし、それがただの慰めじゃないと知るのは次の日だった。
……。
…………。
「ゅ、ゆっくりおきたよ…………」
まりさはいつものように誰よりも早起きをすると、皆が寝ているのを確認してからのそのそ段ボールから出て行った。
そして、青年がいつもゆっくりフードを入れてくれている場所に向かっていき……。
「ゆ? ゆゆ? ゆゆゆゆ?」
普段ならばそこに置かれた餌皿に山盛りあるハズのゆっくりフードが見当たらずに、首を傾げていた。
この時点ではまりさは、焦るのではなく「おにーさんはねぼうしてる」くらいに考えてそこで待っていた。
そして、遅れてやってきた青年を叱ってあまあまを要求しよう、とかまで考えていた。
ここ最近顔を合わせていなかった青年に、未だに何か思うところはないらしく、自分が悪い部分は特にないと考えていた。
「ゆ! そうだよ! いつまでもおちびちゃんをこんなばしょでそだてられないよ!」
そんなまりさが、ふと思いついたのは、再び家に上がり込むことだった。
何で庭で暮らしているかなんてのは最初から頭になかった、ただ向こうの方がゆっくりしているのは知っている。
ゆっくりしたおちびちゃんを育てるならゆっくりした場所で、そんな思考から青年が来たら今日からまた家で暮らすと伝えるつもりになっていた。
お願いするとかではなく、既に決定事項。
青年がまりさとおちびちゃんの身体を丁寧に拭いて、食べきれないあまあまを差し出して、ついでに家も全て今度こそ自分の物になるだろうと確信していた。
「ゆゆん! それがいいよ! いつまでもこんなばしょじゃ おちびちゃんがゆっくりできないからね!」
名案とうんうん頷くと、まりさは青年を待った。
青年を待った。青年を待った。
青年を待った。
「…………おそいよ、おにーさん」
しかし、待てど暮らせど青年はこない。
まりさは苛立ちで身体を揺らしながら、庭に面したガラス戸を睨むけれど、そこにひかれたカーテンが開くことはなく、ただ時間が過ぎていく。
「ゆぅ…………!」
次第に苛立ちに混じって焦りも出てきたまりさ、チラチラと段ボールを見つめては「おにーさん! まだなの?!」と小さ目の声で催促をする。
まりさの感じる焦りは、青年から餌を貰っている姿を見せることだった。
しばらくれいむたちと暮らしている内に、ゆっくりの狩の概念を薄ぼんやり理解したまりさは、自分の「かり」を見られまいと隠してきていた。
自分は「いちゆんまえのかりのたつゆん」で無くてなならないという糞そのままのプライドを持っていたのだ。
青年から餌を貰うのは当然だけど、その姿を見られたくない妙なジレンマを抱えたまま待つ。
が、しかし青年はやって来ない。だけど、代わりに段ボールからはれいむと子ゆっくり二匹が這い出てきた。
「ゆ!?」
「ゆっくりおはよう、まりさ」
「おとーさん、まだかりにはいってないのかぜ?」
「ね、おかーさん、れいむがいったとおりでしょ?」
出てきた三匹、れいむは少し不安そうな顔をしているけど、二匹の子ゆっくりはニヤニヤ笑っていて、子れいむは母に何やら耳打ちをしていた。
まりさは子ゆっくり二匹の行動に気付く余裕もなく。
「かりはいろいろじゅんびがあるんだよ! おちびちゃんゆっくりのおまえたちにはわからないだろうけどね! だまってどっかいってね!」
イライラとそう言い放った。
それに対して子まりさは、逆らうこともなく。
「わかったのぜ、まりさたちはきょうはちょっととおくにかりにいくから もうでるのぜ! おかーさん、れいむいくのぜ!」
「「ゆん!」」
子まりさの言葉に頷いて、三匹は庭のスペースから離れていった。
その背中を見ながらまりさは安堵の溜息を漏らして、またイライラを感じながら戸を睨んでいた。
だけど、相も変わらず青年はやって来ないでその内。
「ゆぴゅ? おちょーしゃん?」「おにゃかしゅいたのじぇぇえええ!!」
「ゆゆ?!」
いつもなら朝起きたら大量の餌がある生活をしていた赤ゆっくり二匹が眼を覚まして直ぐに泣き出した。
その声を聞きつけてまりさは急いで段ボールに戻っていく。
「おちびちゃん! だいじょうぶ?」
「だいじょーぶじゃないのじぇえ! おにゃかがすいたのじぇ!」
「れーみゅも、おにゃかすきまくりだよぉおお!!」
満たせない食欲にもみ上げたしたし、お下げをふりふり二匹は不満を漏らす。
生まれて以来空腹を感じた経験もない甘やかされてきた二匹が初めて感じる痛みに似た感覚に涙を流していた。
普通のゆっくりなら、餌がとれなくてもそれなりの貯蓄をするから一日くらいは何とかなるけれど、相手はこのまりさ、貯蓄なんかする考えすらない。
していないのに、何かないのかと段ボールを見渡すと隅の方にれいむたちが集めて保存しておいた草、虫、花などが置かれていた。
「ゆぅうう、こんなのしかないの!? ほっとにおちびちゃんゆっくりはつかえないね!」
それでも無いよりましかと思い、まりさは以前食べてそれなりに食べれた思い出のある花を下で持つと、無く赤ゆっくりの前においた。
「ほら! おちびちゃん! かりのたつゆんのまりさがごはんとってきたよ! たべてね!」
「ゆぅ?」「にゃにこりぇ」
しかし、相手は生まれてこの方ゆっくりフード育ちの赤ゆっくり。
目の前に置かれた花を食物と認識できないでいる。
それに拍車をかけているのが、親であるまりさが日常的にれいむたちを馬鹿にしていることがあった。
幼くてもゆっくり、他者を見下す性能は世界最強。
自分たちが食べている美味しい物を食べれずに羨ましがるれいむたちを、幼いながらに見下しまくっていた。
実の母、半分は餡子が通じている姉妹をも馬鹿にしていて、そいつらが食べているものなど食べれる訳が無い、という理屈だった。
「やじゃやじゃぁぁああ!! こんにゃのゆっくりできにゃぃいい!!」
「おちょーしゃ! かりのたちゅゆんなのじぇぇぇええ?! はやきゅとっちぇくるのじぇえええぇええ!!」
「ゆ、ゆゆぅ…………」
出した花を弾かれて、まりさは困り顔をする。
いくら泣かれてもないものはないのだから。
まりさは再び庭に出て、未だに空の餌皿に歯軋りをすると……。
「おにぃいいさぁぁぁあぁあああん!!! なにグズグズしてるのぉおお!! さっさとごはぁぁああん!!!」
全力で叫び、戸の下で跳ねまくる。
そこまでしても餌は補充されず、まりさが疲労していくだけに留まった。
「もう! せいっさいだよ! おにーさんにはあきれたよ! おちびがないてるのにぃい!!」
青年を制裁する想像をしているのか、その場で何回も跳ねるまりさ。
そのまりさの背後から元気な声が聞こえてきた。
「たいっりょうだったのぜ!」
「ゆふふ、おちびちゃんはほんとうのかりのたつゆんだね!」
「とうっぜんだよ! れいむたちはいちゆんまえだからね!」
「…………」
暢気に狩の成果を褒めあうれいむたち、まりさは「まぁたおちびちゃんゆっくりがゴミみたいのをもってきたね……」と見下しながらそちらを見て眼を丸くした。
「ゅ、ゆえぇぇえぇええええ!? どぼじでぇぇえええ!!!」
「ゆ? おとーさん、まりさたちかえってきたのぜ!」
「ゆふんたいっりょうだよ!」
まりさが見たのは、れいむ一家全員が口にくわえた透明な袋に入れられた大量のゆっくりフードだった。
ありえない光景に眼を見開いたまりさに見せ付けるように、子ゆっくり二匹はその袋を突き出してみせた。
「ど、どぼ、どぼじで?!」
「どーしてって、まりさがかりのたつゆんだからなのぜ!」
「そうだよ、れいむもたつゆんだよ!」
「じゃあ、おかーさんもたつゆんだね!」
「「「ゆふふ♪」」」
仲睦まじく笑いあう一家とは対照的に、開いた口の塞がらないまりさ。
笑い合っていた一家は、まりさに向き直るとニヤニヤ意地の悪い笑みを浮かべる。
「あれぇ? おとーさん、かりはどうしたのぜぇ?」
「かりの‘たつゆん!‘のおとーさんだから、もういってきたんだよ! そうだよね?」
「ゆぐ、ゆぐぐぐ…………」
青年の発案でまりさに餌をやらずに、庭の反対側で餌を貰い、そこでしっかり事情を教えられた三匹は完全にまりさを見下していた。
今まで馬鹿にされたこともあって一入だ。
それでも、まりさはまだ自分の狩はバレていないと信じているらしく。
「きょ、きょうはちょうしがわるかったんだよ! だから、きょうはおまえたちのとってきたのでがまんするから、さっさとわたしてね!」
偉そうな態度のままそう言い放った。
しかし、そこで「ゆん! わかったよ」と渡す訳もなく。
「ゆあーん? おちびちゃんじゃないんだからじぶんのはじぶんでとってくるのぜ! それとも、そんなこともできないおちびちゃんゆっくりなのかぜぇ?」
「ゆぎ、ゆぐぐぐぐ!!」
子まりさはニヤニヤ笑いながら、そう告げた。
まりさは悔しそうに歯を噛み締めながら。
「い、いままでのおんをわすれるなんて……」と呟いていた。
その様子に大層ゆっくり出来たのか、三匹は笑顔のまま顔を見合わせると。
「それじゃあ、みんなでゆっくりたべようか!」
「そうするのぜ!」「れいむおなかペコペコさんだよ!」
「「「ゆっくりいただきます! むーしゃむーしゃ! しあわせぇぇえぇえぇえええええええ!!!!!」」」
れいむ一家は久しぶりの美味に顔を綻ばせ、まりさは久しぶりの空腹屈辱に顔を歪ませていた。
そこに、声を聞きつけたのか段ボールから赤ゆっくり二匹が這い出てきた。
「ゆ!? ぎょはん!」「やっちゃ! おちょーしゃがかりからかえってきたのじぇ!」
まりさを、父を「かりのたつゆん」と信じる二匹は眼を輝かせていた。
そして、れいむたちが食べているのを見ると不機嫌そうな顔をして。
「ゆ!? おちょーしゃん! なんじぇれぃみゅにじゃなくて、あんなおちびちゃんゆっくちにぎょはんさきにあげちぇるの!?」
「しょーなのじぇ! あいちゅらはさいぎょにあまったらがじょーしきなのんじぇ!」
家族を見下す発言をしながら、頬を膨らませていた。
「ゆ、ゆゆ……」
それにまりさは困ったように小さく声を出すだけだった。
そして、とりあえず赤ゆっくりを段ボールに戻さないとゆっくり出来ないことになる予感を感じて、そちらに進もうとしたら。
予感的中、子まりさ子れいむがニヤニヤ笑いながら赤ゆっくりを見つめて。
「いもーとたち、これはねれいむたちがかりでとってきたんだよ!」
「おとーさんは、きょうはなにもとってないのぜ!」
「「ゆゆ!?」」
まりさにとって絶対言われたくないことをハッキリと言われてしまった。
「お、おちびちゃん! おうちにもどるよ! はやくね! はやくね!」
自分の愛する子供に知られたくないと、まりさは急いで赤ゆっくりを巣に戻そうとしたけれど。
「にゃんでぇぇえ!? れいみゅおにゃかへっちぇるよ?!」
「まぃしゃにもぎょはん たべしゃせりゅのじぇええええぇえぇえ!!!」
「ゅ、ゆゆ、ゆゆぅ!」
二匹の赤ゆっくりは、れいむたちが食べているゆっくりフードを涎を垂らしながら見つめて、まりさの影から出て行く。
「おねーしゃ! まぃちゃにたべさせるのじぇ!」
「れぃみゅがたべてあげるよ! しゃっしゃとよこしてね!」
「お、おちび…………」
赤れいむ赤まりさは、小さな身体をもぞもぞ這わせながら一応の姉妹に近づいていく。
それを見ながらまりさは「ゆ、かわいいおちびちゃんたちになら、きっとあいつらもいじわるはしないはず」と少し安心していた。
が、しかし。
「あげないよ! これはれいむたちのだよ!」
「そうなのぜ! たべたかった、ゆぷぷ、かりのたつゆんのおとーさんにたのむのぜ! まっ、できれば、なのぜぇ」
「「なんじぇぇぇぇえ?!?」」
赤ゆっくりたちもまりさと同じく、可愛い自分たちならくれると信じていたのに、それを裏切られてプルプル震えだした。
「たべちゃい! たべちゃい! たべちゃい! たべちゃい!」
「おちょーしゃ! ぎょはんもっちぇくるのじぇぇぇえぇええええ!!!」
不満を我慢する機能なんて備えていない二匹はその場でジタバタ暴れだすが、れいむたちはその姿を見ながら久しぶりのゆっくりとして食事を続ける。
「おちょーしゃんはかりのたつゆんなんでしょぉおおぉおお!!? しゃっしゃともっちぇくるのじぇぇぇええ!!」
「あんにゃやつらでもとってこれるにょを、おちょーしゃんはとっちぇこれにゃいのぉおおお?!」
「ゆ、ゆぐ、あ、あのね、おちびちゃん、かりは、そのとってもつらくて、いくらかりのたつゆんでも むずかしいひはあるんだよ、ゆっくりりかいしてね?」
「できにゃぃいいいいぃいい!!!」
「おにゃかしゅいたのじぇぇえ! ぎょはん! ぎょっはぁぁあん!!」
まりさの言い訳も空腹の赤ゆっくりの前では意味を成さない。
今の二匹に必要なのは言い訳ではなく食事、それを満たせなければ赤ゆっくりにとって親は親じゃない。
自分のゆっくりを阻害する敵に代わるのだ。
「まいちゃにごはんよこすのじぇぇえぇええ!! しゃっしゃとしろぉおお!!」
「れいみゅをゆっくちさせにゃいくじゅはしにぇぇぇぇえええ!!」
「お、おちびちゃん…………」
怒りに任せて、まだまともに跳ねることも出来ない二匹はまりさの身体にまるですーりすーりするように攻撃を開始したけれど、もちろんダメージなんかはない。
それでも、まりさは自分の子供から向けられた敵意に泣きそうになっていた。
愛情を注ぎ続けた和が子からの攻撃はかなり心に響いたらしい。
そのまりさに追い討ちをかけるように……。
「ゆぷぷ! なさけないねぇ、ゆぷぷ!」
「なさけないのぜ! じぶんのおちびにまともにごはんもあげられないなんて、ゆぷぷ!」
「だめだよぉ、おちびちゃん、あんなんでもいちゆんまえのつもりなんだからぁ」
「ゆぎぎぎぃ!」
れいむたちの言葉にまりさは、悔しそうな顔で俯いていた。
昨日までは自分がずっと上にいたという意識があるために、見下される悔しさもかなりだ。
だけど、青年から餌を貰えない以上まりさにゆっくりフードの入手はありえない。
「おちょーしゃん! はやきゅ! ぎょはん! とってきちぇよぉおお!!」
「そーなのじぇ! そーなのじぇぇぇえ!!」
「お、おちびちゃん、だから、ゆっくりしたごはんは、その、すっごくきけんなとこにしかなくて……」
「きけんって、じゃあ、なんであいちゅらがとってこれてるのじぇええぇぇええ!!」
「ゆぐ!」
言い訳を続けるまりさの痛いところを赤まりさは一突きしてくる。
言葉をつまらせたまりさは、何か上手い言い訳を考えるけれど思いつくはずはなく、れいむたちのニヤニヤを一層強めることになった。
「かりのたつゆんのおとーさんはぁ、まりさたちでもとれるのをとれないのぜぇえ?」
「ゆぷぷ! それでよく かりのたつゆんなんていえたね!」
「だめだよぉ、そんなにいじめちゃ、おちびちゃんたちぃ♪」
見下され続けた恨みから三匹は徹底的にまりさを追い詰めていく。
それに解決策を講じられないまりさは、俯くだけしか出来ない。
「ゆぐ、ゆぐぐぐぐぅううう!!」
『よー、何してんだまりさー』
「ゆ!?」
追い詰められていくまりさ、それを笑うれいむたちが揃う庭に青年がゆっくりと現れた。
まりさは、一瞬皆に狩の正体を知られてはまずい、と焦ったけれど。
直ぐにニヤリと笑い―――。
「おにーさぁぁぁぁああん!! まりさのおうちにゲスなゆっくりがきたんだよぉおおお!! たすけてねぇぇええ!!」
「「「ゆ!?」」」
大声で仮にも家族を売り渡し、排除することを決めたらしい。
まだ小さな自分の子供は後でどうにでも言いくるめられる、良い機会だからいらない家族を排除して家に戻ろうと画策したようだ。
「さっさとこいつらをおいだしてね! せいっさいでもいいよ! はやくしてね!!」
「お、おとーさ 「おにーさぁぁああん!! はやくしてねえぇええ!!」 ゆゆ?!」
自分を父と呼ぼうとしたまりさの言葉をかき消すように叫んで、あくまで家にやってきたゲスとして処理する腹積もりらしい。
『…………へぇ』
「なにやっでるの!? ゲスはさっさとせいっさいだよ! せいっさい! ゆぷぷ! おまえらもおわりだよ!」
動こうとしない青年を怒鳴りつけて、れいむたちを嘲笑う。
まりさの脳内では輝かしい未来への栄光しかなくて、それが破綻する想像なんか一ミリも考えていなかった。
次の瞬間まで―――。
『追い出されるのはお前な、まりさ』
「ゆぇ? ゆべぇぇ!??!」
青年はまりさを踏み潰して、しばらくグリグリと足を動かしてから離した。
すると、中枢餡へのダメージかまりさは目を回して気絶していた。
そのまりさを掴みあげると、青年はれいむ一家を見る。
『んじゃ、お前ら俺に迷惑かけないなら庭に住んでいーからよ』
「ゆ! ゆっくりりかいしたよ!」
「ありがとうなのぜ! まりさはおとーさんみたいな おちびちゃんゆっくりじゃないからだいじょうぶなのぜ!」
青年は子れいむ子まりさに、そのような話をしてあったのだ。
何となく惰性で飼っているまりさ、それがあまりにも調子に乗っているので捨てることを決めて、それだと何か寂しいからと庭の賑やかしにれいむ一家の居住を許すと。
その前にと、子れいむ子まりさは、まりさにやり返したいというので今回のことを仕組んだのだ。
まりさに餌をやらずに、れいむ一家に餌を渡して見下す返す、ただそれだけなのだけれど、日常的に馬鹿にされていたれいむ一家は随分ゆっくり出来たようだった。
「にゃ、にゃに? にゃんにゃ? ゆびゅ!?」
「や、やめりゅのじぇ! まいちゃににゃにかしちゃら、おちょーしゃ、ゆびゅ!?」
『一口饅頭も捕獲っと、んじゃ、俺はこいつら捨ててくっから、餌は毎日やんねーけど適当に暮らせよ』
「ゆ、ゆっくりりかいしたよ」
「おいしいごはんさんは まいにちたべられないのぜ?」
「ゆーん、おちびちゃん、がまんしよーね! くささんも むしさんもがんばればおいしいよ!」
「ゆっくりがまんするのぜ……」
れいむ一家の声を背中に聞きながら、青年は家を出て、まりさと赤ゆっくり二匹を少し離れた場所にある公園に放置した。
……。
…………。
それから数日後。
「ゆ! おかーさん! たくさんとれたよ!」
「まりさもなのぜ! きょうはあまいこのみがあったのぜ!」
「ゆーん! おちびちゃんたち、もうすっかりいちゆんまえだね! おかーさんもはながたかいよ!」
『ねーだろ、鼻』
「どぼじでぞんなこというのぉおおお!?!」
青年の庭では、何とか草や虫を食べる生活に戻れたれいむ一家が平和に暮らしていた。
庭の持ち主の青年も案外ゆっくりと上手くやっているようで、飼い主飼いゆっくりほどじゃないけれど、微妙な隣人のような距離感をとっているようだった。
居間の戸をあけて、ボーっとする青年に声をあげて、もみ上げをふりながら叫ぶ母れいむ。
狩から帰ってきた二匹の子ゆっくりと、平和な光景がそこにあった。
まりさは「まりさはいちゆんまえなんだよ! これくらいかんたんだよ!」と自信満々と言うか。
新しい生活に希望を抱ききっているようだった。
そして最後に青年は『もし、どうしてもダメだと思ったら、自分が一人じゃ何も出来ない赤ちゃんゆっくり以下のゴミと、認めたら助けてやんよ』と告げて家に入っていった。
まりさはそれに「ぷくー」と膨れて威嚇をして怒りをあらわしていた。
青年が餌をくれて、巣も用意してくれたことでしっかり無敵気分になっているらしい。
そして、まりさは久しぶりにゆっくりとした食事を取ってダンボール内で睡眠をとった。
……。
…………。
「ゆっ! ゆっくりおきるよ!」
本格的に庭で暮らしだしたまりさの生活は幸せだった。
ダンボールの小屋から外に出れば軒先に餌皿に山盛りになったご飯が置かれているのだ。
それを存分に食べたら、以前は狭いサークル内だったけれど今は広い庭を走り回って遊べる。
相変わらず半日くらいで飽きはくるけど、少ししたらそれも忘れてまた遊びだす、それを繰り返して一日は過ぎていった。
そして、夕方に青年が帰ってきたら。
「おにーさん! まりさよごれたよ! さっさときれいにしてね! きいてるの!? まりさよごれ、はなしをきげぇぇえぇええええ!!」
要求を叫んで無視される日々だった。
本当に口だけ一人前のまりさは、常に青年に頼ろうとしていた。
最初の頃は、一日分の餌を一気に食べつくしてしまい空腹のまま青年を怒鳴りつけたりもしたが、今は何とか学習出来たらしく分割して食べていた。
青年はもはや無視をして、惰性でまりさを飼っているレベルだったので、庭のことは完全に無視をしていた。
毎朝、餌皿に適当にゆっくりフードをぶち込むだけで後は知らない。
そんな関係での生活が続いたある日。
「ゆ、ゆっ! ゆふー、ちょっとつかれたから ごはんにするよ!」
いつもの様に昼間庭を動いていたまりさ。
家で暮らしていた頃より大分汚れているが、餌は十分食べているので元気なようだった。
そして、今もまた朝の食べ残しを食べようとしていたら、不意に背後から声をかけられた。
「ま、まりさ、ゆっくりしていって、ね?」
「ゆん?」
食事をしようとしていたまりさが振り向くと、そこには一匹のれいむがいた。
正確にはれいむと、その影に隠れるように子れいむ子まりさも、だ。
そのどれもが実にボロボロ。
母親なのだろうれいむは、リボンは端々が切れていて汚く汚れているし。
もみ上げをまとめるお飾りも片方なくなっていた、そしてしーしー穴の周りはぐちょぐちょ、あんよは真っ黒。
体中にゴミやらをつけていて、子ゆっくり二匹もそれよりかはまし、程度の一般的な野良だった。
この辺りは民家が少なく、かといってゆっくりが住めそうな場所もないので、まりさは青年に公園へ連れて行って貰う以外にゆっくりを見たことは無かった。
庭で暮らし出してからは、散歩にも連れて行って貰えていなかったのでまりさ的には久しぶりに見たゆっくりだった。
しかし、まりさの眼には警戒というか嫌悪の色が浮かんでいた。
「……なんのようなの? ここはまりさのゆっくりプレイスだよ!」
「ゆ、お、おこらないでね、まりさ……おちびちゃんがこわがってるよ」
「こ、こわいのじぇ……」「おきゃーしゃん、だいじょうぶ?」
庭への招かれざる侵入者を睨むまりさ、そして窺うように見てくれるれいむと、怯える子ゆっくり。
常に綺麗な飼いゆっくりばかり見ていたまりさにとって、目の前の三匹は汚物くらいにみえていたのだ。
そんなまりさも庭暮らしで自分で身体を綺麗にするやり方も知らないもで、綺麗な野良くらいにはなっていたりするのだけれど。
それでも、れいむ達よりかは遥かに綺麗だった。
このれいむは、まぁ、ありがちなくらいありがちなテンプレしんぐるまざーだった。
熱愛そして夫の死というどこでも見られることを経て、自分で狩をしていたけれど満足な餌をとれずにフラフラここに迷い込んだのだ。
そして、そこで美味しそうなものを食べるまりさを見つけて声をかけたのだった。
「まりさ、その、よかったられいむたちにごはんをわけてほしいよ、おちびちゃんが、おなかすかせてるから……」
れいむは控えめに、ゆっくりとしては下からお願いをした。
だけど、まりさは……。
「なにいってるの!? これはまりさのごはんだよ! おまえらみたいなきたないのにはひとつもあげないよ!!」
「ゆゆゆぅ!?」
断られる可能性は考えていたものの、あまりに強い否定にれいむは驚いているようだった。
このれいむが子ゆっくりに二匹を連れて狩をしているのは、子供を見せて同情を引く為でもった。
出汁にするために、虐待をしたりは決してしていないけれど、少しでも餌が手に入るならとの考えで。
可愛い子ゆっくりがお腹を空かせてる可哀相な姿を見せれば、きっと餌が手に入ると信じていた。
なのに、まりさに「きたない」と一蹴されて悔しさに涙が出てきていた。
それを子れいむ子まりさが「ぺーろぺーろ」と舐め取っていく。
「お、おねがいだよまりさぁ! おちびちゃんがおなかをすかせてるんだよぉおお!? そんなにあるんだからすこしぐらい れいむたちにくれても……」
自分の子供に同情される悲しさで、更に涙を流して、れいむは餌皿にある大量の―――野良なら三日は食いつなげる―――食料を見つめた。
「なにいってるの! これはまりさのだっていってるでしょ!」
「ゆう、しょんなにあるのに……」「じゅるいのじぇ」
子ゆっくりたちは、自分たちの身体より高く積まれたゆっくりフードを羨ましそうに眺めていた。
それでも、成体サイズのまりさが怖いのかれいむの影からは出ない窺うだけに留めていた。
「まりさぁ、おねだいだよ! そんなにごはんあつめられるってことは まりさはかりのたつゆんなんでしょ? だったらすこしくらい……」
「ゆ? たつゆん? かり……」
れいむの言葉にまりさは、ボーっと反応した。
頭の中の何処かにあった言葉「かり」そして「たつゆん」
まりさ種ならば大抵一度は自称する「かりのたつゆん」
それがまりさの頭の中に初めて埋め込まれた。
「そうだよ! まりさはかりのたつゆんだよ!」
「だよねだよね! だったられいむたちにすこしくらいわけてくれても だいじょうぶだよね?」
れいむは少しでもまりさをおだてて、どうにか餌を貰おうと必死になっていた。
そんなれいむの心境に気付かないまりさは、自分が「かりのたつゆんだ!」と笑みを漏らして。
「ゆふぅー、しかないね、まりさはかりのたつゆんだし、いちゆんまえだから、れいむみたいなおちびちゃんゆっくりにごはんをあげるよ!」
「ゆ、お、おちびちゃん、ゆっくり?」
それはかつて青年に言われた一言、まりさを強く傷つけた言葉だった。
まりさはそれをれいむに向かって言い放った。
「そうだよ! まんぞくにかりもできないゆっくりは、おちびちゃんといっしょだよ! まったくまりさをみならってほしいよ……」
「ゆぐ!!?」
優越感から汚い笑みを浮かべながら、れいむにそんな言葉を向けた。
自分が以前と何も成長していない、青年の庇護の下に生きるしか出来ない「おちびちゃんゆっくり」だと言うのに。
ゆっくりながら必死に子供二匹を育てるれいむを見下していた。
れいむは悔しさを覚えながらも、ここでまりさの機嫌を損ねる訳にはいかないと歯を食いしばっていた。
「ゆっ、これをあげるからさっさとかえってね!」
そのれいむの前に、まりさはゆっくりフードを一粒放り投げた。
「ゆ、ゆ? ま、まりさ、これ、だけ、なの?」
目の前に落ちたゆっくりフード一粒、大きさは人間の小指の第一関節ほどの円柱型をしているそれが、たった一つ。
れいむはゆっくり出来ないことまで言われて、これしか貰えないのかと呆然としていた。
餌皿にある全て、とは言わないけどせめて半分くらいは貰えるのでは、と内心思っていたのでその落差に開いた口が塞がらなくなっていた。
「まりさ、せめて、せめておちびちゃんが 「あまえないでね!」 ゆひ!?」
「あのねれいむ、らくしてごはんがてにはいると おもわないでね! れいむはおちびちゃんゆっくりだから わからないかもしれないけど まりさは たっくさんがんばってかりをしてるんだよ!!」
一ミリも頑張っていないまりさちゃん(生後5ヶ月)の言葉でした。
「わかったらさっさとそれをもってどっかいってね! まったく、おなじゆっくりとしてはずかしいよ!」
「ゆぅう……」
れいむは目の前のゆっくりフード一粒を頭の上に乗せると、悔しそうに帰ろうとする。
だけど、それまで母の影に隠れるだけだった二匹が初めて前に出た。
「まりしゃおじしゃん! だったらそれがあるばしょおしえてほしいのじぇ!」
「れいみゅたちが がんばってかりしゅるから!」
「お、おちびちゃん…………」
自分の前で必死にまりさに教えを乞おうとする二匹の子供に、れいむは涙を浮かべていた。
そして、自分の不甲斐なさから、れいむ自身も頭を下げる。
「れいむもおねがいするよまりさ! おねがいだから、かりのばしょをおしえてね!!」
「ゅ、ゆゆぅ…………」
三匹に頼み込まれて困ったのはまりさだ。
何故なら、このゆっくりフードは朝青年が持ってきてくれるものなのだから。
どこにあるか、それは家の中なんだろうけれど、それすらまりさには思いつかない。
まりさにとって餌は「おにーさんから、かってにはえてくる」ものなのだ。
「ゅ、そ、それは、えっと……」
「おねがいしゅるのじぇ! かりのたつゆんのおじしゃん!」
「かりのたつゆんしゃん! おねがいしましゅ!」
「まりさぁぁああ!! おねがいだよぉお、かりのたつゆんなんでしょぉおおお!?!?」
困惑するまりさを、三匹は「かりのたつゆん」と褒めながら頭を下げてくる。
そう呼ばれることに快感を得てしまったまりさは、本当のことを言うなんて出来ない。
だからまりさは誤魔化す為に……。
「きょ、きょうはもうまりさつかれたから、ほら、もっとあげるから、またこんどおしえてあげるよ!」
「「「ゅ、ゆわぁぁあ!!」」」
餌皿から、親子三匹なら十分以上のゆっくりフードを明け渡した。
「ありがとうかりのたつゆんのおじしゃん!」
「とってもゆっくちしてるのじぇええ!!」
「ありがとう、ありがとうばりざぁぁあ!!」
涙を流して感謝してくる三匹。
生まれてこの方味わったことない快感に餡子を震わせていたまりさは、ニヤニヤしてしまう。
そして、餌を三匹が食べ始めれば、これまた感謝の「しあわせー!」の連呼。
かつて無いゆっくりを感じているまりさだった。
そしてその後は、子ゆっくり二匹が久しぶりの満腹感に眠りだしてしまった為、れいむ一家はまりさの段ボールに泊まることになった。
そこでもまりさは優越感を得ることになった。
まりさが住んでいる段ボールは数日前まで室内にあったり、野良のゆっくりが使うようにただ横倒しにしたのではなく、青年がしっかり密閉してから壁面にまりさが出入りする穴を開けたものだった。
そして、何より広く中にも雑巾が何枚か敷かれている野良ではありえない豪邸だ。
れいむたちが眼を丸くしているのを見て、それまではあって当然だった段ボールがとても誇らしく思えてきたのだった。
感心して羨ましがり、まりさを褒めるれいむ一家にまりさは気分良くして、久しぶりに他のゆっくりと頬を触れ合わせて眠った。
……。
…………。
「ゅ、ゆわぁあああ!! すっごいごはんさんだよぉおお!」
「「しゅっごぉおおおおい!!」」
「ゆっへん! それほどじゃないよ!」
次の日の朝、疲れからか、それとも元からかぐっすり寝ているれいむ一家が起きる前に、まりさは青年が用意してくれたゆっくりフードをわざわざ帽子に入れて段ボールまで持ってきた。
目の前に積まれた大量のゆっくりフードに、れいむと子ゆっくりたちは眼を丸くしていた。
昨日は既にまりさが半分近く食べていたので減っていたが、今あるのは青年は補充してくれたばかりなので大量も大量だ、あくまで野良視点ではあるが。
「おじしゃん、こりぇ、たべていいのじぇ?」「ゆっきゅり、ゆっきゅりぃ……」
涎を垂らして眼を輝かせる二匹と、こちらも涎だらだらのれいむ。
「ゆーん、どうしよっかなぁ、まりさがかりしてきた ごはんだし……」
「「「ゆ!?」」」
まりさの言葉に三匹は一気に悲しそうな顔をした。
子れいむはもみ上げをパタパタさせて泣きそうになりながら、子まりさは涎を垂らしながらお下げを振り回していた。
「まったく、しかたないゆっくりたちだね! いちゆんまえのまりさがとくべつにわけてあげるよ!!」
「「「ゆわぁあああい!!」」」
まりさの言葉で爆発するように三匹は食事を始めて、まりさも直ぐに食べだした。
優越感と、同種と一緒に食べる食事にまりさはゆっくりを感じなている。
そして食後、一日分のほとんどを食べ散らかした4匹は、体中を汚していた。
野良一匹ならば六日分くらいはあった食料、それを限界まで食い散らかしたのだった。
まりさも、覚えてきた配分も忘れて入る以上に食いまくった。
「ゆげっぴゅ!」「おなかいっぱいなのじぇえ……」
「まりさ、ほんとうにありがとうね……」
そんな3匹の言葉にまりさは胸を張って。
「ゆふん! まりさはいちゆんまえだからね! これくらいかんたんだよ!」
と偉ぶって宣言したが。
昨日の約束通りに、と狩場を教えるように3匹が言ってきた。
まりさはそれに「きょうもつかれているから!」そう言って、庭で遊びだした。
れいむを含めて、子ゆっくりたちにはこの庭は天国だった。
草が生い茂っていて、危ないものはないし、野良ならば食べられる草が山ほどあった。
しかもそれを横取りするゆっくりもいないという、最高のゆっくりプレイスだった。
れいむは、辛らつなことを言うまりさに感謝しきりで、子ゆっくりたちも感謝を示した。
それがまりさには気分が良くて良くて、今日も段ボールに泊めることになった。
朝ゆっくりフードを食い散らかしたけれど、れいむ一家は草や虫を取って食べていたので食事は特に問題はなかった。
まりさは普段より少なめな、ゆっくりフードを満足しながら食べて寝る。
そんな生活をしばらく続けていた。
早起きなまりさが、青年からの餌を狩の成果といって持ち帰り、それを食べてから餌場への案内を求められて断る、それからは庭で遊んで夜寝る、そんな生活。
その内に、性欲を満たすためのすっきりーをしてしまい子供が出来ると、なし崩しに二匹は番になった。
住食満たされたら次は性欲と、実に欲望に忠実な饅頭らしい流れだ。
れいむの頭には茎が生えて、そこに実ゆっくりがなった。
「ゆわぁああ、まりさのあかちゃん、かわいいよぉお!」
「ゆっくりしてるね、まりさ」
「いもーとたち、はやくうまれてね!」「すぐでいいのぜ!」
一応家族はそれを見てゆっくりしていた。
子ゆっくりも栄養沢山のゆっくりフードのおかげでどんどん成長して、実ゆっくりも順調に育っていた。
初めての我が子にまりさはもうメロメロだった。
こんなに可愛いものが世界にあって良いのかと、本気でそう思うくらいには。
そしてついに生まれることになった赤ゆっくり。
れいむに言われてまりさは帽子でその小さな饅頭たちを受け止めた。
「「ゆっきゅりしちぇいっちぇね!!!」」
「ゆ、ゆわっぁあああああ!! ゆっくりしていってねぇぇええええ!!!」
帽子の中で無駄にキラキラ光る眼で挨拶をした我が子にまりさは破顔して喜んだ。
その動きの一つ一つに感動して、感涙を繰り返した。
「おちょーしゃん! おちょーしゃん! れーみゅきゃわいい?」
「あったりまえだよぉおおおおおぉ!! せかいいちだよぉおおおおお!!」
わざとらしい赤れいむの問いかけにも全力で叫び。
「おちょーしゃ! みりゅのじぇ! まぃちゃこーんにゃにじゅーりじゅーりできるのじぇ!」
「さっすがまりさのおちびだよぉお!! さいっきょうかくていだねぇぇぇええ!!」
ちょっと這いずっただけの機動力ナメクジ以下の赤まりさを褒めちぎった。
「まりさは、まりさはしあわせだよぉおおおぉおおおお!!!」
しかし、そんな幸せは続く訳が無い。
「「「むーちゃ、むーちゃ、ゲロまずぅ」」」
赤ゆっくりが生まれて数日、段ボールではゆっくり出来ない声が響く。
それは母れいむ、そしてもう大分大きくなった子れいむ子まりさだった。
彼女らが食べているのは柔らかい草や虫。
以前は大好物だったけれど、ゆっくりフードに慣らされた為のゆっくり出来ない味になっていた。
何故そんなものを食べているかと言うと……。
「むーちゃむーちゃ! しゃぁわしぇぇぇえええ!!」
「おちょーしゃ! おいちいのじぇええええぇええ!!」
「ゆふふ、たくさんたべてね!」
そう、赤ゆっくりだ。
サイズは小さくても食べる量回数が半端じゃない。
しかも、それだけではなく自分の餡子を継ぐ赤ゆっくりをまりさが溺愛しているのだ。
その為に、義理の子である子れいむ子まりさ、そしてれいむにはゆっくりフードをほとんど分けないのだった。
最初はそれに抗議をしたがまりさが「これはまりさがじぶんのおちびちゃんにとってきたんだよ! じぶんのくらいじぶんでどうにかしてね! まったく、いつまでもおちびちゃんきぶんでいないでね!」と、初めて会ったときのように辛辣に言い放ったのだ。
まりさは赤ゆっくりに付きっ切りで、ゆっくりフードを与えて、れいむたちは段ボールの隅で苦い草を食べている。
そんな日々に限界を感じた子ゆっくり二匹は普段よりも早起きをした。
そして、まりさが狩に行った後をつけようとしたのだ。
自分でとったならば誰も文句は言わないだろうと、まりさが起きるのをずっと待っていたら。
『あー、だっりぃ』
「「ゆ?」」
子ゆっくりたちの耳に見知らぬ声が届いた。
そう、この家の庭の一応の持ち主の青年だ。
出かける前に、いつのものように餌皿にゆっくりフードを流し込みにきたのだ。
「れいむ……」
「まりさ……」
二匹は顔を見合わせると、まだ自分たち以外誰も起きていない段ボールからゆっくり出て行く。
「「ゆ!?」」
出た先で見たのは「にんげんさんが、いつもおとーさんが かりしてとってくるおいしいごはんさんを もっている」姿。
まぁ、青年が餌皿にゆっくりフードを注いでる姿そのままなのだけれど。
子ゆっくり二匹は、この状況が理解出来ずにポカンとしていた。
少し前までは野良をやっていたので、人間の存在は勿論しっていたけれど、まさかこんな近くで、しかもいつもまりさが持ってくるご飯とセットで見ると状況の判断が出来なくなるらしい。
この二匹は人間に激しい暴力を受けたことはないけれど、強く自分たちを簡単に殺せることが出来る生き物くらいには理解をしていた。
それと美味しいご飯の結びつきを出来ずにフリーズしていたら、餌を注ぎ終わった青年が二匹に気付いた。
『あぁん? いつの間にガキなんか作ったんだよあいつ』
まりさを庭で飼いだしてから本当に興味を失っていた青年は、今日始めて庭のゆっくりが増えていることに気付いたらしい。
「「ゆひっ!?」」
青年は軽く見ただけだけれど、子ゆっくり二匹は大げさにリアクションを取って、短い悲鳴をあげた。
ゆっくりフードの袋をそこらに置くと、数歩近づいて青年は子ゆっくりに二匹の前でしゃがみこんだ。
『お前ら何してんだ? まりさ、あー、いや、とーちゃんの代わりに餌を取りにきたんか?』
青年は何となく話しかけだした。
彼にしたら、呆れて放置に等しいことをしたまりさが、口だけじゃなくて一人前になって子供まで作ったのか、と少し感慨深かったからだ。
「ゆ?」「えさ?」
『ん? あー、これだよこれゆっくりフード、お前らの餌、代わりに取りに来たんじゃねーの?』
青年の質問に二匹は首を傾げていた。
〔えさ〕も解らなかったし〔ゆっくりフード〕はもっと解らない。
ただ、何となくそれが〔ゆっくりしたごはんさん〕だと理解したらしく、二匹は顔を見合わせた。
「ち、ちがうよ、れいむたちは おとーさんがそのゆっくりしたごはんさんをどこのかりばからもってくるのかしりたかっただけだよ」
「そうなのぜ、おとーさんはさいきんいもーとにしかそのごはんさんあげないから、まりさたちゆっくりできないのぜ!」
『ん~?』
子れいむ子まりさの訴えを聞いて、青年は首を捻った。
どうやらまりさが成長していないのを、何となく感じ取ったらしい。
『そう簡単に赤ちゃんゆっくりから成長しねーか』
「ゆ!? ぁ、あかちゃんゆっくりじゃないよ! れいむはおちびちゃんゆっくりじゃないよ!」
「そうなのぜ! まりさもしっかりかりもできるのぜ!」
青年の一言に妙に敏感に反応する二匹を、彼はまじまじと見ていた。
『なぁ、ちょっとお前ら話を聞かせろよ、ゆっくりフード分けてやるからさ』
……。
…………。
『ぷっははははは♪』
「わ、わらいごとじゃないのぜ! まりさたちこまってるのぜ!」
「そうだよ! おかーさんもゆっくりしたごはんさんたべたいっていってるのに!」
『いや、悪かった悪かった……へぇ、あのまりさが、ねぇ』
子ゆっくりに二匹を部屋に招いた青年は、今日までの話を聞いていた。
まりさとの出会い、そして罵倒、自慢、家族になり、そして新しい家族が生まれて態度を変えるまでを、感情論メインのゆっくり語りで。
それを聞いた感想は、見ての通りの笑いだった。
青年にとっては実に笑える話なのだ、口だけ一人前のまりさが自分から貰っている餌をさも苦労して手に入れているように語り、あまつさえ野良として厳しい世界を生きてきたれいむ親子を馬鹿にしたなんて、笑うしかなかった。
しかし、事情を知らない二匹は自分たちが馬鹿にされてると思い不機嫌に頬を膨らませていたが、青年の謝罪で渋々空気を吐き出した。
『それで、おとーさんが言ったのか』
「そうなのぜ、いつまでもおちびちゃんきぶんでいるんじゃない、って」
「れいむだってかりしてるのに、でも、ゆっくりしたごはんさんはどこにもはえてないんだよ!」
『へぇ…………』
憂鬱そうにしている二匹を見ながら青年は考えていた。
放置していても良いけれど、自分の知らないとこで調子に乗ってるまりさはうざいな、と。
『俺の存在を隠しているのも小賢しくてうざいし…………』
話を聞くに、まったくと言って青年の話が出ていないので、まりさは意図的に存在を隠しているようだった。
彼にとってそれも気に入らない要因にだった。
『どーすっかなぁ………………あ』
「ゆ? どうかしたのぜ?」
「にんげんさん! やくそくのごはんさんちょうだいね!」
何やら思いついた青年に、まりさは不思議そうに、れいむは空腹が限界なのか約束のご飯をねだっていた。
『ちびっこい赤いの、ちっと待て待て……お前ら良く聞け』
「「ゆ?」」
青年は悪い笑顔で子ゆっくりに話を持ちかけた。
……。
…………。
それから数日後の段ボール。
「ゆっち、ゆっち! おちょーしゃ! みちぇ! みちぇ! れぃみゅこぉんにゃにうごけりゅよ!」
「ゆゆ! さすがはまりさのおちびちゃんだよぉおお! てんっさいだね!」
「おちょーしゃ! おちょーしゃ! まぃしゃもみるのじぇ! ゆふん! ありしゃんをちゅかまえたのじぇ!!」
「さっすがまりさのおちびちゃん! さいっきょうだねぇぇえ!! まりさもはながたかいよ!」
いつものように、まりさは自分の餡をついだ赤れいむ赤まりさを溺愛しまくっていた。
ちょっと動いた、自分より遥かに小さなを蟻をしとめた、それだけのことを報告してくる一口饅頭を、まりさはその度に褒め、自分のことのように喜んでいた。
「おちびちゃん! がんばったらおなかすいたでしょ? はい、ごはんたんべよーね!」
「ゆわーい!」「まぃちゃごはんだいしゅきなのじぇ!!」
そして、いつものように青年から与えられたゆっくりフードの一部を二匹の前に並べていった。
「ゅう、まりさぁ、れいむたちにも、すこしちょーだいよ、ゆっくりしたいよ」
それを見ながら、れいむはオズオズと無駄と知りながら懇願をする。
自分の前に並ぶ、子れいむ子まりさがとって来てくれた草や虫を見ながら溜息をついていた。
そんな自分の妻を見ながら、まりさはわざとらしく溜息をつくと。
「なんかいもいわせないでね! これはまりさがおちびちゃんのためにとってきたんだよ! じぶんのことはじぶんでやってね! これだからおちびちゃんゆっくりはいやなんだよ! はやくまりさみたいないちゆんまえになってね!」
辛らつに、優越感と侮蔑を合わせた様な視線を向けて言い放った。
れいむは、それを言われるとシュンとなり「ゅう」と小さく鳴くだけだったが。
普段なら一緒に小さく鳴く子れいむ子まりさはお互いに顔を見合わせて。
「ゆぷ、ゆぷぷ」「ゆぷぷぷ♪」
と笑っていた。
「おかーさん、もうすぐだよ、まっててね」
「まりさたちがきっとおいしいごはんをとってくるのぜ!」
「ゆぅ? ……ありがとうね、おちびちゃん」
れいむは二匹の言葉を慰めと判断して、優しい子供を持って幸せだと思いながら笑顔を浮かべた。
しかし、それがただの慰めじゃないと知るのは次の日だった。
……。
…………。
「ゅ、ゆっくりおきたよ…………」
まりさはいつものように誰よりも早起きをすると、皆が寝ているのを確認してからのそのそ段ボールから出て行った。
そして、青年がいつもゆっくりフードを入れてくれている場所に向かっていき……。
「ゆ? ゆゆ? ゆゆゆゆ?」
普段ならばそこに置かれた餌皿に山盛りあるハズのゆっくりフードが見当たらずに、首を傾げていた。
この時点ではまりさは、焦るのではなく「おにーさんはねぼうしてる」くらいに考えてそこで待っていた。
そして、遅れてやってきた青年を叱ってあまあまを要求しよう、とかまで考えていた。
ここ最近顔を合わせていなかった青年に、未だに何か思うところはないらしく、自分が悪い部分は特にないと考えていた。
「ゆ! そうだよ! いつまでもおちびちゃんをこんなばしょでそだてられないよ!」
そんなまりさが、ふと思いついたのは、再び家に上がり込むことだった。
何で庭で暮らしているかなんてのは最初から頭になかった、ただ向こうの方がゆっくりしているのは知っている。
ゆっくりしたおちびちゃんを育てるならゆっくりした場所で、そんな思考から青年が来たら今日からまた家で暮らすと伝えるつもりになっていた。
お願いするとかではなく、既に決定事項。
青年がまりさとおちびちゃんの身体を丁寧に拭いて、食べきれないあまあまを差し出して、ついでに家も全て今度こそ自分の物になるだろうと確信していた。
「ゆゆん! それがいいよ! いつまでもこんなばしょじゃ おちびちゃんがゆっくりできないからね!」
名案とうんうん頷くと、まりさは青年を待った。
青年を待った。青年を待った。
青年を待った。
「…………おそいよ、おにーさん」
しかし、待てど暮らせど青年はこない。
まりさは苛立ちで身体を揺らしながら、庭に面したガラス戸を睨むけれど、そこにひかれたカーテンが開くことはなく、ただ時間が過ぎていく。
「ゆぅ…………!」
次第に苛立ちに混じって焦りも出てきたまりさ、チラチラと段ボールを見つめては「おにーさん! まだなの?!」と小さ目の声で催促をする。
まりさの感じる焦りは、青年から餌を貰っている姿を見せることだった。
しばらくれいむたちと暮らしている内に、ゆっくりの狩の概念を薄ぼんやり理解したまりさは、自分の「かり」を見られまいと隠してきていた。
自分は「いちゆんまえのかりのたつゆん」で無くてなならないという糞そのままのプライドを持っていたのだ。
青年から餌を貰うのは当然だけど、その姿を見られたくない妙なジレンマを抱えたまま待つ。
が、しかし青年はやって来ない。だけど、代わりに段ボールからはれいむと子ゆっくり二匹が這い出てきた。
「ゆ!?」
「ゆっくりおはよう、まりさ」
「おとーさん、まだかりにはいってないのかぜ?」
「ね、おかーさん、れいむがいったとおりでしょ?」
出てきた三匹、れいむは少し不安そうな顔をしているけど、二匹の子ゆっくりはニヤニヤ笑っていて、子れいむは母に何やら耳打ちをしていた。
まりさは子ゆっくり二匹の行動に気付く余裕もなく。
「かりはいろいろじゅんびがあるんだよ! おちびちゃんゆっくりのおまえたちにはわからないだろうけどね! だまってどっかいってね!」
イライラとそう言い放った。
それに対して子まりさは、逆らうこともなく。
「わかったのぜ、まりさたちはきょうはちょっととおくにかりにいくから もうでるのぜ! おかーさん、れいむいくのぜ!」
「「ゆん!」」
子まりさの言葉に頷いて、三匹は庭のスペースから離れていった。
その背中を見ながらまりさは安堵の溜息を漏らして、またイライラを感じながら戸を睨んでいた。
だけど、相も変わらず青年はやって来ないでその内。
「ゆぴゅ? おちょーしゃん?」「おにゃかしゅいたのじぇぇえええ!!」
「ゆゆ?!」
いつもなら朝起きたら大量の餌がある生活をしていた赤ゆっくり二匹が眼を覚まして直ぐに泣き出した。
その声を聞きつけてまりさは急いで段ボールに戻っていく。
「おちびちゃん! だいじょうぶ?」
「だいじょーぶじゃないのじぇえ! おにゃかがすいたのじぇ!」
「れーみゅも、おにゃかすきまくりだよぉおお!!」
満たせない食欲にもみ上げたしたし、お下げをふりふり二匹は不満を漏らす。
生まれて以来空腹を感じた経験もない甘やかされてきた二匹が初めて感じる痛みに似た感覚に涙を流していた。
普通のゆっくりなら、餌がとれなくてもそれなりの貯蓄をするから一日くらいは何とかなるけれど、相手はこのまりさ、貯蓄なんかする考えすらない。
していないのに、何かないのかと段ボールを見渡すと隅の方にれいむたちが集めて保存しておいた草、虫、花などが置かれていた。
「ゆぅうう、こんなのしかないの!? ほっとにおちびちゃんゆっくりはつかえないね!」
それでも無いよりましかと思い、まりさは以前食べてそれなりに食べれた思い出のある花を下で持つと、無く赤ゆっくりの前においた。
「ほら! おちびちゃん! かりのたつゆんのまりさがごはんとってきたよ! たべてね!」
「ゆぅ?」「にゃにこりぇ」
しかし、相手は生まれてこの方ゆっくりフード育ちの赤ゆっくり。
目の前に置かれた花を食物と認識できないでいる。
それに拍車をかけているのが、親であるまりさが日常的にれいむたちを馬鹿にしていることがあった。
幼くてもゆっくり、他者を見下す性能は世界最強。
自分たちが食べている美味しい物を食べれずに羨ましがるれいむたちを、幼いながらに見下しまくっていた。
実の母、半分は餡子が通じている姉妹をも馬鹿にしていて、そいつらが食べているものなど食べれる訳が無い、という理屈だった。
「やじゃやじゃぁぁああ!! こんにゃのゆっくりできにゃぃいい!!」
「おちょーしゃ! かりのたちゅゆんなのじぇぇぇええ?! はやきゅとっちぇくるのじぇえええぇええ!!」
「ゆ、ゆゆぅ…………」
出した花を弾かれて、まりさは困り顔をする。
いくら泣かれてもないものはないのだから。
まりさは再び庭に出て、未だに空の餌皿に歯軋りをすると……。
「おにぃいいさぁぁぁあぁあああん!!! なにグズグズしてるのぉおお!! さっさとごはぁぁああん!!!」
全力で叫び、戸の下で跳ねまくる。
そこまでしても餌は補充されず、まりさが疲労していくだけに留まった。
「もう! せいっさいだよ! おにーさんにはあきれたよ! おちびがないてるのにぃい!!」
青年を制裁する想像をしているのか、その場で何回も跳ねるまりさ。
そのまりさの背後から元気な声が聞こえてきた。
「たいっりょうだったのぜ!」
「ゆふふ、おちびちゃんはほんとうのかりのたつゆんだね!」
「とうっぜんだよ! れいむたちはいちゆんまえだからね!」
「…………」
暢気に狩の成果を褒めあうれいむたち、まりさは「まぁたおちびちゃんゆっくりがゴミみたいのをもってきたね……」と見下しながらそちらを見て眼を丸くした。
「ゅ、ゆえぇぇえぇええええ!? どぼじでぇぇえええ!!!」
「ゆ? おとーさん、まりさたちかえってきたのぜ!」
「ゆふんたいっりょうだよ!」
まりさが見たのは、れいむ一家全員が口にくわえた透明な袋に入れられた大量のゆっくりフードだった。
ありえない光景に眼を見開いたまりさに見せ付けるように、子ゆっくり二匹はその袋を突き出してみせた。
「ど、どぼ、どぼじで?!」
「どーしてって、まりさがかりのたつゆんだからなのぜ!」
「そうだよ、れいむもたつゆんだよ!」
「じゃあ、おかーさんもたつゆんだね!」
「「「ゆふふ♪」」」
仲睦まじく笑いあう一家とは対照的に、開いた口の塞がらないまりさ。
笑い合っていた一家は、まりさに向き直るとニヤニヤ意地の悪い笑みを浮かべる。
「あれぇ? おとーさん、かりはどうしたのぜぇ?」
「かりの‘たつゆん!‘のおとーさんだから、もういってきたんだよ! そうだよね?」
「ゆぐ、ゆぐぐぐ…………」
青年の発案でまりさに餌をやらずに、庭の反対側で餌を貰い、そこでしっかり事情を教えられた三匹は完全にまりさを見下していた。
今まで馬鹿にされたこともあって一入だ。
それでも、まりさはまだ自分の狩はバレていないと信じているらしく。
「きょ、きょうはちょうしがわるかったんだよ! だから、きょうはおまえたちのとってきたのでがまんするから、さっさとわたしてね!」
偉そうな態度のままそう言い放った。
しかし、そこで「ゆん! わかったよ」と渡す訳もなく。
「ゆあーん? おちびちゃんじゃないんだからじぶんのはじぶんでとってくるのぜ! それとも、そんなこともできないおちびちゃんゆっくりなのかぜぇ?」
「ゆぎ、ゆぐぐぐぐ!!」
子まりさはニヤニヤ笑いながら、そう告げた。
まりさは悔しそうに歯を噛み締めながら。
「い、いままでのおんをわすれるなんて……」と呟いていた。
その様子に大層ゆっくり出来たのか、三匹は笑顔のまま顔を見合わせると。
「それじゃあ、みんなでゆっくりたべようか!」
「そうするのぜ!」「れいむおなかペコペコさんだよ!」
「「「ゆっくりいただきます! むーしゃむーしゃ! しあわせぇぇえぇえぇえええええええ!!!!!」」」
れいむ一家は久しぶりの美味に顔を綻ばせ、まりさは久しぶりの空腹屈辱に顔を歪ませていた。
そこに、声を聞きつけたのか段ボールから赤ゆっくり二匹が這い出てきた。
「ゆ!? ぎょはん!」「やっちゃ! おちょーしゃがかりからかえってきたのじぇ!」
まりさを、父を「かりのたつゆん」と信じる二匹は眼を輝かせていた。
そして、れいむたちが食べているのを見ると不機嫌そうな顔をして。
「ゆ!? おちょーしゃん! なんじぇれぃみゅにじゃなくて、あんなおちびちゃんゆっくちにぎょはんさきにあげちぇるの!?」
「しょーなのじぇ! あいちゅらはさいぎょにあまったらがじょーしきなのんじぇ!」
家族を見下す発言をしながら、頬を膨らませていた。
「ゆ、ゆゆ……」
それにまりさは困ったように小さく声を出すだけだった。
そして、とりあえず赤ゆっくりを段ボールに戻さないとゆっくり出来ないことになる予感を感じて、そちらに進もうとしたら。
予感的中、子まりさ子れいむがニヤニヤ笑いながら赤ゆっくりを見つめて。
「いもーとたち、これはねれいむたちがかりでとってきたんだよ!」
「おとーさんは、きょうはなにもとってないのぜ!」
「「ゆゆ!?」」
まりさにとって絶対言われたくないことをハッキリと言われてしまった。
「お、おちびちゃん! おうちにもどるよ! はやくね! はやくね!」
自分の愛する子供に知られたくないと、まりさは急いで赤ゆっくりを巣に戻そうとしたけれど。
「にゃんでぇぇえ!? れいみゅおにゃかへっちぇるよ?!」
「まぃしゃにもぎょはん たべしゃせりゅのじぇええええぇえぇえ!!!」
「ゅ、ゆゆ、ゆゆぅ!」
二匹の赤ゆっくりは、れいむたちが食べているゆっくりフードを涎を垂らしながら見つめて、まりさの影から出て行く。
「おねーしゃ! まぃちゃにたべさせるのじぇ!」
「れぃみゅがたべてあげるよ! しゃっしゃとよこしてね!」
「お、おちび…………」
赤れいむ赤まりさは、小さな身体をもぞもぞ這わせながら一応の姉妹に近づいていく。
それを見ながらまりさは「ゆ、かわいいおちびちゃんたちになら、きっとあいつらもいじわるはしないはず」と少し安心していた。
が、しかし。
「あげないよ! これはれいむたちのだよ!」
「そうなのぜ! たべたかった、ゆぷぷ、かりのたつゆんのおとーさんにたのむのぜ! まっ、できれば、なのぜぇ」
「「なんじぇぇぇぇえ?!?」」
赤ゆっくりたちもまりさと同じく、可愛い自分たちならくれると信じていたのに、それを裏切られてプルプル震えだした。
「たべちゃい! たべちゃい! たべちゃい! たべちゃい!」
「おちょーしゃ! ぎょはんもっちぇくるのじぇぇぇえぇええええ!!!」
不満を我慢する機能なんて備えていない二匹はその場でジタバタ暴れだすが、れいむたちはその姿を見ながら久しぶりのゆっくりとして食事を続ける。
「おちょーしゃんはかりのたつゆんなんでしょぉおおぉおお!!? しゃっしゃともっちぇくるのじぇぇぇええ!!」
「あんにゃやつらでもとってこれるにょを、おちょーしゃんはとっちぇこれにゃいのぉおおお?!」
「ゆ、ゆぐ、あ、あのね、おちびちゃん、かりは、そのとってもつらくて、いくらかりのたつゆんでも むずかしいひはあるんだよ、ゆっくりりかいしてね?」
「できにゃぃいいいいぃいい!!!」
「おにゃかしゅいたのじぇぇえ! ぎょはん! ぎょっはぁぁあん!!」
まりさの言い訳も空腹の赤ゆっくりの前では意味を成さない。
今の二匹に必要なのは言い訳ではなく食事、それを満たせなければ赤ゆっくりにとって親は親じゃない。
自分のゆっくりを阻害する敵に代わるのだ。
「まいちゃにごはんよこすのじぇぇえぇええ!! しゃっしゃとしろぉおお!!」
「れいみゅをゆっくちさせにゃいくじゅはしにぇぇぇぇえええ!!」
「お、おちびちゃん…………」
怒りに任せて、まだまともに跳ねることも出来ない二匹はまりさの身体にまるですーりすーりするように攻撃を開始したけれど、もちろんダメージなんかはない。
それでも、まりさは自分の子供から向けられた敵意に泣きそうになっていた。
愛情を注ぎ続けた和が子からの攻撃はかなり心に響いたらしい。
そのまりさに追い討ちをかけるように……。
「ゆぷぷ! なさけないねぇ、ゆぷぷ!」
「なさけないのぜ! じぶんのおちびにまともにごはんもあげられないなんて、ゆぷぷ!」
「だめだよぉ、おちびちゃん、あんなんでもいちゆんまえのつもりなんだからぁ」
「ゆぎぎぎぃ!」
れいむたちの言葉にまりさは、悔しそうな顔で俯いていた。
昨日までは自分がずっと上にいたという意識があるために、見下される悔しさもかなりだ。
だけど、青年から餌を貰えない以上まりさにゆっくりフードの入手はありえない。
「おちょーしゃん! はやきゅ! ぎょはん! とってきちぇよぉおお!!」
「そーなのじぇ! そーなのじぇぇぇえ!!」
「お、おちびちゃん、だから、ゆっくりしたごはんは、その、すっごくきけんなとこにしかなくて……」
「きけんって、じゃあ、なんであいちゅらがとってこれてるのじぇええぇぇええ!!」
「ゆぐ!」
言い訳を続けるまりさの痛いところを赤まりさは一突きしてくる。
言葉をつまらせたまりさは、何か上手い言い訳を考えるけれど思いつくはずはなく、れいむたちのニヤニヤを一層強めることになった。
「かりのたつゆんのおとーさんはぁ、まりさたちでもとれるのをとれないのぜぇえ?」
「ゆぷぷ! それでよく かりのたつゆんなんていえたね!」
「だめだよぉ、そんなにいじめちゃ、おちびちゃんたちぃ♪」
見下され続けた恨みから三匹は徹底的にまりさを追い詰めていく。
それに解決策を講じられないまりさは、俯くだけしか出来ない。
「ゆぐ、ゆぐぐぐぐぅううう!!」
『よー、何してんだまりさー』
「ゆ!?」
追い詰められていくまりさ、それを笑うれいむたちが揃う庭に青年がゆっくりと現れた。
まりさは、一瞬皆に狩の正体を知られてはまずい、と焦ったけれど。
直ぐにニヤリと笑い―――。
「おにーさぁぁぁぁああん!! まりさのおうちにゲスなゆっくりがきたんだよぉおおお!! たすけてねぇぇええ!!」
「「「ゆ!?」」」
大声で仮にも家族を売り渡し、排除することを決めたらしい。
まだ小さな自分の子供は後でどうにでも言いくるめられる、良い機会だからいらない家族を排除して家に戻ろうと画策したようだ。
「さっさとこいつらをおいだしてね! せいっさいでもいいよ! はやくしてね!!」
「お、おとーさ 「おにーさぁぁああん!! はやくしてねえぇええ!!」 ゆゆ?!」
自分を父と呼ぼうとしたまりさの言葉をかき消すように叫んで、あくまで家にやってきたゲスとして処理する腹積もりらしい。
『…………へぇ』
「なにやっでるの!? ゲスはさっさとせいっさいだよ! せいっさい! ゆぷぷ! おまえらもおわりだよ!」
動こうとしない青年を怒鳴りつけて、れいむたちを嘲笑う。
まりさの脳内では輝かしい未来への栄光しかなくて、それが破綻する想像なんか一ミリも考えていなかった。
次の瞬間まで―――。
『追い出されるのはお前な、まりさ』
「ゆぇ? ゆべぇぇ!??!」
青年はまりさを踏み潰して、しばらくグリグリと足を動かしてから離した。
すると、中枢餡へのダメージかまりさは目を回して気絶していた。
そのまりさを掴みあげると、青年はれいむ一家を見る。
『んじゃ、お前ら俺に迷惑かけないなら庭に住んでいーからよ』
「ゆ! ゆっくりりかいしたよ!」
「ありがとうなのぜ! まりさはおとーさんみたいな おちびちゃんゆっくりじゃないからだいじょうぶなのぜ!」
青年は子れいむ子まりさに、そのような話をしてあったのだ。
何となく惰性で飼っているまりさ、それがあまりにも調子に乗っているので捨てることを決めて、それだと何か寂しいからと庭の賑やかしにれいむ一家の居住を許すと。
その前にと、子れいむ子まりさは、まりさにやり返したいというので今回のことを仕組んだのだ。
まりさに餌をやらずに、れいむ一家に餌を渡して見下す返す、ただそれだけなのだけれど、日常的に馬鹿にされていたれいむ一家は随分ゆっくり出来たようだった。
「にゃ、にゃに? にゃんにゃ? ゆびゅ!?」
「や、やめりゅのじぇ! まいちゃににゃにかしちゃら、おちょーしゃ、ゆびゅ!?」
『一口饅頭も捕獲っと、んじゃ、俺はこいつら捨ててくっから、餌は毎日やんねーけど適当に暮らせよ』
「ゆ、ゆっくりりかいしたよ」
「おいしいごはんさんは まいにちたべられないのぜ?」
「ゆーん、おちびちゃん、がまんしよーね! くささんも むしさんもがんばればおいしいよ!」
「ゆっくりがまんするのぜ……」
れいむ一家の声を背中に聞きながら、青年は家を出て、まりさと赤ゆっくり二匹を少し離れた場所にある公園に放置した。
……。
…………。
それから数日後。
「ゆ! おかーさん! たくさんとれたよ!」
「まりさもなのぜ! きょうはあまいこのみがあったのぜ!」
「ゆーん! おちびちゃんたち、もうすっかりいちゆんまえだね! おかーさんもはながたかいよ!」
『ねーだろ、鼻』
「どぼじでぞんなこというのぉおおお!?!」
青年の庭では、何とか草や虫を食べる生活に戻れたれいむ一家が平和に暮らしていた。
庭の持ち主の青年も案外ゆっくりと上手くやっているようで、飼い主飼いゆっくりほどじゃないけれど、微妙な隣人のような距離感をとっているようだった。
居間の戸をあけて、ボーっとする青年に声をあげて、もみ上げをふりながら叫ぶ母れいむ。
狩から帰ってきた二匹の子ゆっくりと、平和な光景がそこにあった。
そして、場面は公園に移る。
「ゆひぃ、ゆひぃいい!! ゆっくり、ゆっくりできないぃい!!」
庭に住みだしてかなり汚れていたけれど、まだそれなりに綺麗だったまりさは見る影もなく、帽子は誰かに踏まれたのか潰れて、金髪にはゴミが絡まり、黒く汚れていた。
饅頭の皮にはいくつも穴のような傷があり、眼の下には涙の痕に沿うようにゴミがついて黒く汚く目立ち、頬には人間の靴痕が刻まれたいた。
青年に公園に放置されたまりさは、何とか生きているようだった。
公園内を這いずり回って、ゴミを探し回っていた。
この公園には群れはないけれど、何匹かのゆっくりが暮らしている。
そのゆっくりたちは……。
「ゆぷぷ、みるのぜ!」「なさけないんだねー」
「みっともないね! あんなゆっくりにはなりたくないよ!」
飼いゆっくりから野良に落ちて、帽子までボロボロのまりさを遠巻きに見ながら嘲笑っていた。
かつて、飼われていた頃はこの公園にやってきていたまりさ、自分たちとは違う世界のゆっくりと羨望と嫉妬をしていた相手が自分たち以下に落ちた姿は、彼女らを実にゆっくりさせているようだった。
「なんで、なんでぇえ! なんでばりざが、ごんなめ、ゆびゅべ!?」
『きったねぇんだよ! 堂々と真ん中歩いてんじゃねぇえよ! ゴミ饅頭が!』
「やべ! いちゃ! ばりじゃ、やべでぇぇ!!」
成果のない狩をしていたまりさを、学生服を着た少年が気に障ったのか尻を蹴り飛ばしてから、更に何回も踏みつけていた。
まりさは痛みに涙を流し、泣き震えていた。
『ったく、気分悪くさせんなよなぁ……ぺっ』
「ゆびゅ?!」
蹴り飽きたのか、最後に唾を吐きかけると少年はその場を去っていった。
殺さなかったのは恐らく気まぐれだろう。
まりさはその気まぐれに助けれた何とか生きていた。
痛みで身体を動かないまりさは、その場でしばらく痙攣を繰り返して少し回復したら、今度は道の端っこをゆっくり這いずっていく。
そして向かっていく先は、公園のトイレの裏側。
そこには薄汚れたビニール袋が一枚おかれていて、その上にやつれた赤ゆっくり二匹が転がっていた。
「ぎょ、はん……まだにゃの?」
「まいしゃ、し、しんじゃうのじぇぇえ」
まともに食事をしていない二匹は、中の餡子が減っていて頬はげっそりこけ、眼球も落ち窪んでいた。
ゆっくりフードで育った二匹は公園で取れるような餌をまともに食べられないのだった。
「お、おちびちゃん、た、ただいま……」
「やっちょ、かえってきちゃのじぇ! しゃっしゃと、ぎょはん、しろなのじぇ……」
「なにやっでるの、むのう、は、さっさと、ぎょはんになっちぇ、ね」
まりさの声に反応してギラギラした瞳を見せる赤ゆっくり二匹は萎びかけた身体を動かして、まりさに近寄っていく。
その眼には親に対する敬意もなく、ただ餌と見ていた。
「きょ、きょうは、やめに、しない? おとーさん、い、いたいいたいは、ゆっくりできな―――」
「「はぁぁぁぁぁあああぁあああ?!?!? なにいってるのぉおおぉおおおお!!!!!」」
「ゆひ!?」
親の言葉に死にかけの姿はどこにやら、怒りと怒りと怒りを混ぜ込んだ赤ゆっくりらしからぬ表情で叫ぶ。
「おばえみだいな むのうのせいで まりちゃたちはくるしんでるのじぇえええ!!!」
「おやづらするなら こどもぐらいゆっぐちさせろおぉおお!!!」
「「ごのおちびちゃんゆっぐりがぁぁぁぁああああ!!!」」
「ご、ごべん、ごべんねぇ…………」
最愛の我が子に詰め寄られてまりさは、涙を流して謝罪をしたが、それでも赤ゆっくりは怒りを納めない。
「あやばっでるひまがあったら、ぎょはんだろぉおおがぁああ!!」
「ごのむのう! くしょげしゅぅううう!!」
「…………ゆ、ゆぅ、ゆっくりりかい、したよ」
まりさはビニールの隅に置かれた、重石代わりの尖った石をお下げで持ち上げると、トイレの壁と自分のお腹の間に挟んで。
「ゆ、ぐ、ゆっぐ、ゆぐ…………」
「しゃっしゃと!」「すぎゅしろ!」
チラッと視線を向けた先では、赤ゆっくりは涎を垂らして待ちかねていた。
「かりもろきゅにできにゃいんだから!」「しゃっしゃとぎょはんになるのじぇえ!!」
その声に背中を押されて、まりさは尖った石をお腹に押し付けたまま、前にジャンプをした。
「ゆっぎぃいぃいいいいいいい!?!?!?」
「やっちゃのじぇ!」「あみゃあみゃ! あみゃあみゃぁああ!!」
お腹に押し付けたままジャンプをした結果、まりさの柔らかい饅頭皮を突き破って石が刺さっていた。
「ゆぐ、ゆぎ、い、いじゃい……!」
涙を流しながら、まりさは石を引き抜くとそこから餡子が漏れ出していた。
赤ゆっくり二匹は、そんなまりさに見向きもしないで零れ落ちた餡子に群がっていく。
これがこの二匹の主な食事だった。
「あみゃあみゃ! あみゃあみゃぁあ!!」「くじゅのあんこでも、しょれなりなのじぇえ!!」
「お、おちびちゃん、ゆ、ゆっくりしてい、ゆぎゃぁぁあああ!!」
何とかゆっくりしだしてくれた我が子に涙の中で笑顔を見せようとしたが、直ぐにそれも苦痛に変わる。
「もっちょ! もっちょだしゅのじぇ!」
「いいよ! まいしゃ! きいちぇるよ!」
「やべ! おちび、やべでぇぇえええええ!!」
赤まりさが、もっと餡子を零させようとまりさの傷口近くに体当たりを繰り出していた。
餡子に響く傷みにまりさは身体をもるんもるんと震わせて、大声を上げて泣いていた。
「まんじょくにかりもできにゃい、おちびちゃんゆっくちなんじゃから、これぎゅらいしてとーじぇんなのじぇ!」
「しょーだよ! れいみゅたちをゆっくちさせられにゃいむのーなんじゃから!」
その泣く姿を見て、赤ゆっくりたちは心を満たして、親の餡子で腹を満たしていく。
まりさは、枯れない涙をいつまでも流していた。
どうしてこんな目にあっているか、死ぬその日まで考えながら。
「ゆひぃ、ゆひぃいい!! ゆっくり、ゆっくりできないぃい!!」
庭に住みだしてかなり汚れていたけれど、まだそれなりに綺麗だったまりさは見る影もなく、帽子は誰かに踏まれたのか潰れて、金髪にはゴミが絡まり、黒く汚れていた。
饅頭の皮にはいくつも穴のような傷があり、眼の下には涙の痕に沿うようにゴミがついて黒く汚く目立ち、頬には人間の靴痕が刻まれたいた。
青年に公園に放置されたまりさは、何とか生きているようだった。
公園内を這いずり回って、ゴミを探し回っていた。
この公園には群れはないけれど、何匹かのゆっくりが暮らしている。
そのゆっくりたちは……。
「ゆぷぷ、みるのぜ!」「なさけないんだねー」
「みっともないね! あんなゆっくりにはなりたくないよ!」
飼いゆっくりから野良に落ちて、帽子までボロボロのまりさを遠巻きに見ながら嘲笑っていた。
かつて、飼われていた頃はこの公園にやってきていたまりさ、自分たちとは違う世界のゆっくりと羨望と嫉妬をしていた相手が自分たち以下に落ちた姿は、彼女らを実にゆっくりさせているようだった。
「なんで、なんでぇえ! なんでばりざが、ごんなめ、ゆびゅべ!?」
『きったねぇんだよ! 堂々と真ん中歩いてんじゃねぇえよ! ゴミ饅頭が!』
「やべ! いちゃ! ばりじゃ、やべでぇぇ!!」
成果のない狩をしていたまりさを、学生服を着た少年が気に障ったのか尻を蹴り飛ばしてから、更に何回も踏みつけていた。
まりさは痛みに涙を流し、泣き震えていた。
『ったく、気分悪くさせんなよなぁ……ぺっ』
「ゆびゅ?!」
蹴り飽きたのか、最後に唾を吐きかけると少年はその場を去っていった。
殺さなかったのは恐らく気まぐれだろう。
まりさはその気まぐれに助けれた何とか生きていた。
痛みで身体を動かないまりさは、その場でしばらく痙攣を繰り返して少し回復したら、今度は道の端っこをゆっくり這いずっていく。
そして向かっていく先は、公園のトイレの裏側。
そこには薄汚れたビニール袋が一枚おかれていて、その上にやつれた赤ゆっくり二匹が転がっていた。
「ぎょ、はん……まだにゃの?」
「まいしゃ、し、しんじゃうのじぇぇえ」
まともに食事をしていない二匹は、中の餡子が減っていて頬はげっそりこけ、眼球も落ち窪んでいた。
ゆっくりフードで育った二匹は公園で取れるような餌をまともに食べられないのだった。
「お、おちびちゃん、た、ただいま……」
「やっちょ、かえってきちゃのじぇ! しゃっしゃと、ぎょはん、しろなのじぇ……」
「なにやっでるの、むのう、は、さっさと、ぎょはんになっちぇ、ね」
まりさの声に反応してギラギラした瞳を見せる赤ゆっくり二匹は萎びかけた身体を動かして、まりさに近寄っていく。
その眼には親に対する敬意もなく、ただ餌と見ていた。
「きょ、きょうは、やめに、しない? おとーさん、い、いたいいたいは、ゆっくりできな―――」
「「はぁぁぁぁぁあああぁあああ?!?!? なにいってるのぉおおぉおおおお!!!!!」」
「ゆひ!?」
親の言葉に死にかけの姿はどこにやら、怒りと怒りと怒りを混ぜ込んだ赤ゆっくりらしからぬ表情で叫ぶ。
「おばえみだいな むのうのせいで まりちゃたちはくるしんでるのじぇえええ!!!」
「おやづらするなら こどもぐらいゆっぐちさせろおぉおお!!!」
「「ごのおちびちゃんゆっぐりがぁぁぁぁああああ!!!」」
「ご、ごべん、ごべんねぇ…………」
最愛の我が子に詰め寄られてまりさは、涙を流して謝罪をしたが、それでも赤ゆっくりは怒りを納めない。
「あやばっでるひまがあったら、ぎょはんだろぉおおがぁああ!!」
「ごのむのう! くしょげしゅぅううう!!」
「…………ゆ、ゆぅ、ゆっくりりかい、したよ」
まりさはビニールの隅に置かれた、重石代わりの尖った石をお下げで持ち上げると、トイレの壁と自分のお腹の間に挟んで。
「ゆ、ぐ、ゆっぐ、ゆぐ…………」
「しゃっしゃと!」「すぎゅしろ!」
チラッと視線を向けた先では、赤ゆっくりは涎を垂らして待ちかねていた。
「かりもろきゅにできにゃいんだから!」「しゃっしゃとぎょはんになるのじぇえ!!」
その声に背中を押されて、まりさは尖った石をお腹に押し付けたまま、前にジャンプをした。
「ゆっぎぃいぃいいいいいいい!?!?!?」
「やっちゃのじぇ!」「あみゃあみゃ! あみゃあみゃぁああ!!」
お腹に押し付けたままジャンプをした結果、まりさの柔らかい饅頭皮を突き破って石が刺さっていた。
「ゆぐ、ゆぎ、い、いじゃい……!」
涙を流しながら、まりさは石を引き抜くとそこから餡子が漏れ出していた。
赤ゆっくり二匹は、そんなまりさに見向きもしないで零れ落ちた餡子に群がっていく。
これがこの二匹の主な食事だった。
「あみゃあみゃ! あみゃあみゃぁあ!!」「くじゅのあんこでも、しょれなりなのじぇえ!!」
「お、おちびちゃん、ゆ、ゆっくりしてい、ゆぎゃぁぁあああ!!」
何とかゆっくりしだしてくれた我が子に涙の中で笑顔を見せようとしたが、直ぐにそれも苦痛に変わる。
「もっちょ! もっちょだしゅのじぇ!」
「いいよ! まいしゃ! きいちぇるよ!」
「やべ! おちび、やべでぇぇえええええ!!」
赤まりさが、もっと餡子を零させようとまりさの傷口近くに体当たりを繰り出していた。
餡子に響く傷みにまりさは身体をもるんもるんと震わせて、大声を上げて泣いていた。
「まんじょくにかりもできにゃい、おちびちゃんゆっくちなんじゃから、これぎゅらいしてとーじぇんなのじぇ!」
「しょーだよ! れいみゅたちをゆっくちさせられにゃいむのーなんじゃから!」
その泣く姿を見て、赤ゆっくりたちは心を満たして、親の餡子で腹を満たしていく。
まりさは、枯れない涙をいつまでも流していた。
どうしてこんな目にあっているか、死ぬその日まで考えながら。