ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko4335 そこにいなかったのにいた
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ankoss
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『そこにいなかったのにいた』 40KB
愛で 思いやり 飼いゆ 希少種 現代 独自設定 25作品目。久々の投稿となります。
愛で 思いやり 飼いゆ 希少種 現代 独自設定 25作品目。久々の投稿となります。
注意書きです。
1 希少種が出てきます。
2 愛で要素の強い内容となっています。
3 作者の独自設定が含まれています。
2 愛で要素の強い内容となっています。
3 作者の独自設定が含まれています。
それでもOKという方のみ、どうぞ。
「ぐー……、ぐー……」
そこは、とある街中の、とある一軒家。
その一軒家には、一人の青年が住んでいた。
その青年は今、薄暗い寝室のベッドの上で、寝息を立てて寝ていた。
その一軒家には、一人の青年が住んでいた。
その青年は今、薄暗い寝室のベッドの上で、寝息を立てて寝ていた。
ジリリリリリ!!
「ふぐ……」
青年の枕元に置いてあった目覚まし時計のベル音が寝室の中で鳴り響き、青年は目を覚ました。
「もう朝か……」
青年は目覚まし時計のベル音を止めて時刻を確認すると、ベッドから下りて寝室を出た。
青年はどこにでもあるような普通の会社に勤めている、普通のサラリーマンである。
いつも通りの時間に起きて、いつも通りに会社に出勤して働く……、至って平凡な人生を送っている。
「ふあぁ……」
まだ眠いのか、青年の口から欠伸が漏れる。
そして寝惚け眼のまま、いつも通りに台所へと向かった。
青年の枕元に置いてあった目覚まし時計のベル音が寝室の中で鳴り響き、青年は目を覚ました。
「もう朝か……」
青年は目覚まし時計のベル音を止めて時刻を確認すると、ベッドから下りて寝室を出た。
青年はどこにでもあるような普通の会社に勤めている、普通のサラリーマンである。
いつも通りの時間に起きて、いつも通りに会社に出勤して働く……、至って平凡な人生を送っている。
「ふあぁ……」
まだ眠いのか、青年の口から欠伸が漏れる。
そして寝惚け眼のまま、いつも通りに台所へと向かった。
「おはようございます、ごしゅじんさま。あさごはんのしたくができていますわ」
……青年が台所に入ると、そこには一匹の胴付きゆっくりがいた。
そのゆっくりはメイドのような服を着ていて、頭の上にカチューシャのような髪飾りを付けていた。
そして、テーブルの上にはホカホカのご飯や味噌汁など、温かい朝食が用意されていた。
そのゆっくりはメイドのような服を着ていて、頭の上にカチューシャのような髪飾りを付けていた。
そして、テーブルの上にはホカホカのご飯や味噌汁など、温かい朝食が用意されていた。
「おはよう、さくや。相変わらずさくやは起きるのが早いなぁ」
青年はそのゆっくり……、ゆっくりさくやにそう言うと、テーブルの椅子に座った。
「それが『じゅうしゃ』たる、わたくしのとうぜんのつとめですわ」
青年にそう言われたさくやはニコリと微笑み、青年の向かい側の席に座る。
さくやの笑顔を見て気持ちが緩んだ青年は、自分も笑顔になりながら、さくやと一緒に朝食を食べ始めた。
「それが『じゅうしゃ』たる、わたくしのとうぜんのつとめですわ」
青年にそう言われたさくやはニコリと微笑み、青年の向かい側の席に座る。
さくやの笑顔を見て気持ちが緩んだ青年は、自分も笑顔になりながら、さくやと一緒に朝食を食べ始めた。
ゆっくりさくや。
それは、自分が主と認める存在の者に仕える事を喜びとするゆっくりである。
ゆっくりさくやは飼い主に忠実で、胴付きなら簡単な家事炊事などをこなす事が出来る、いわゆる『従者』のような立ち位置にある。
それはこのさくやも同様であった。
それは、自分が主と認める存在の者に仕える事を喜びとするゆっくりである。
ゆっくりさくやは飼い主に忠実で、胴付きなら簡単な家事炊事などをこなす事が出来る、いわゆる『従者』のような立ち位置にある。
それはこのさくやも同様であった。
「ふぅ……、ご馳走様」
「ごしゅじんさま、いまきがえをおもちしますわ。すでにあいろんをかけてありますので」
「あぁ、ありがとうさくや。俺、顔を洗ってくるから寝室に持って来てくれ」
「かしこまりましたわ、ごしゅじんさま」
さくやの返事を確認した青年は、浴室の洗面台へ向かった。
「ごしゅじんさま、いまきがえをおもちしますわ。すでにあいろんをかけてありますので」
「あぁ、ありがとうさくや。俺、顔を洗ってくるから寝室に持って来てくれ」
「かしこまりましたわ、ごしゅじんさま」
さくやの返事を確認した青年は、浴室の洗面台へ向かった。
……数分後。
「じゃ、行って来るよ」
顔を洗い終え、歯を磨き、さくやが用意してくれた服に着替え、青年は会社に行く準備を済ませた。
そして会社に出勤すべく、青年は玄関のドアを開けた。
そして会社に出勤すべく、青年は玄関のドアを開けた。
「はい。いってらっしゃいまし、ごしゅじんさま」
玄関には既にさくやが待っていて、笑顔で青年を見送った。
「今日も頑張るか」
ドアを閉め、青年はいつも通りに会社へと出勤する。
「さて、きょうはにかいにそうじきをかけないと……」
青年が出掛けた事を確認したさくやは、一日の家事に取り組む。
何の変哲もない二人の一日。
それが二人の日常で、二人の全て。
……これは、そんな『主』と『従者』の物語。
そこにいなかったのにいた
作:ぺけぽん
△月○日
「ただいまー」
一日の仕事を終えた俺は真っ直ぐに自宅へと帰宅した。
「おかえりなさいませ、ごしゅじんさま」
俺が玄関のドアを開けると、既に玄関先で待っていたさくやが出迎えた。
「いやー、今日は疲れたよ。お得意先でトラブルがあってさー」
「それはたいへんでしたわね。だいじにはいたりませんでした?」
「あぁ。危うく商談失敗って事になりかけたけど」
「ごしゅじんさま、いますぐゆうはんになさいます?それともおふろですか?」
「先に一っ風呂浴びるかな」
「かしこまりました。ひえたびーるをよういしておきますね」
「ん、分かった。じゃあ先に風呂に入るから」
俺はさくやが沸かしてくれた風呂に入るべく浴室へ向かった。
「いやー、今日は疲れたよ。お得意先でトラブルがあってさー」
「それはたいへんでしたわね。だいじにはいたりませんでした?」
「あぁ。危うく商談失敗って事になりかけたけど」
「ごしゅじんさま、いますぐゆうはんになさいます?それともおふろですか?」
「先に一っ風呂浴びるかな」
「かしこまりました。ひえたびーるをよういしておきますね」
「ん、分かった。じゃあ先に風呂に入るから」
俺はさくやが沸かしてくれた風呂に入るべく浴室へ向かった。
数時間後……。
「ごしゅじんさま、びーるのおつまみはいりますか?」
「スルメがあったら欲しいな」
「かしこまりましたわ」
「スルメがあったら欲しいな」
「かしこまりましたわ」
風呂から上がってさくやが作った夕食を食べ終え、俺は居間でテレビを見ていた。
『今日の特集は、先日オープンしたばかりの、なずりーらんどの目玉スポットを紹介していきます!』
『いやー、楽しみですねー。あそこはマスコットキャラのなずーりんが可愛いんですよねー』
『いやー、楽しみですねー。あそこはマスコットキャラのなずーりんが可愛いんですよねー』
テレビからは女性ニュースキャスターの若々しい声とゲストの男性の声が聞こえる。
「なんか、やけに危ない感じがする所だと思うけど気のせいかな……」
俺はテレビを見ながら一人呟いていた。
「はい、ごしゅじんさま、おもちしましたわ」
そこへ、台所でおつまみとなるものを探していたさくやが戻ってきた。
「あぁ」
俺はさくやからおつまみの乗った皿を受け取る。
「……」
さくやは首を横に向け、テレビをじっと見ていた。
「……なぁ、いつもありがとうな、さくや」
「……?……どうなさいました?」
「いや、さくやが傍にいてくれて本当に良かったなーって思ってさ。さくやが家に来る前までは俺一人だけだったから、結構寂しかったんだ」
「そういってもらえると、うれしいですわ」
「それに、さくやは働き者だから、自分で出来る事もついつい頼んじゃうようになっちゃってさ。これは駄目だなーって思ってたんだ」
「そんなことはありませんわ。それがじゅうしゃのつとめですもの」
「そうだ、今度の休みは一緒にどこかに行かないか?さくやの行きたい所に連れてってやるよ」
「ありがとうございます。ですが、そこまでわたくしにきをつかわなくてもだいじょうぶですわ」
「遠慮するなよ。さくやだってハメを外したいだろ?」
「……そうですね。それでしたら、おことばにあまえようとおもいます」
「そっか。それで、どこに行きたいんだ?あんまり騒がしくない、静かな所がいいと思うんだけどさ」
「……えっと……、そうですね、でしたら……、……その、びじゅつかんにいってみたいです」
「美術館?……あぁ、さくやはそういうの好きそうだからな。よし分かった。一緒に行こうな」
「はい、ごしゅじんさま」
さくやはそう言って、ニコリと微笑んだ。
「ふわ……。なんか眠くなってきたな。それじゃ俺は寝るわ。おやすみ、さくや」
アルコールが効いてきたのか、程良い睡魔に襲われた俺はテレビの電源を消した。
「なんか、やけに危ない感じがする所だと思うけど気のせいかな……」
俺はテレビを見ながら一人呟いていた。
「はい、ごしゅじんさま、おもちしましたわ」
そこへ、台所でおつまみとなるものを探していたさくやが戻ってきた。
「あぁ」
俺はさくやからおつまみの乗った皿を受け取る。
「……」
さくやは首を横に向け、テレビをじっと見ていた。
「……なぁ、いつもありがとうな、さくや」
「……?……どうなさいました?」
「いや、さくやが傍にいてくれて本当に良かったなーって思ってさ。さくやが家に来る前までは俺一人だけだったから、結構寂しかったんだ」
「そういってもらえると、うれしいですわ」
「それに、さくやは働き者だから、自分で出来る事もついつい頼んじゃうようになっちゃってさ。これは駄目だなーって思ってたんだ」
「そんなことはありませんわ。それがじゅうしゃのつとめですもの」
「そうだ、今度の休みは一緒にどこかに行かないか?さくやの行きたい所に連れてってやるよ」
「ありがとうございます。ですが、そこまでわたくしにきをつかわなくてもだいじょうぶですわ」
「遠慮するなよ。さくやだってハメを外したいだろ?」
「……そうですね。それでしたら、おことばにあまえようとおもいます」
「そっか。それで、どこに行きたいんだ?あんまり騒がしくない、静かな所がいいと思うんだけどさ」
「……えっと……、そうですね、でしたら……、……その、びじゅつかんにいってみたいです」
「美術館?……あぁ、さくやはそういうの好きそうだからな。よし分かった。一緒に行こうな」
「はい、ごしゅじんさま」
さくやはそう言って、ニコリと微笑んだ。
「ふわ……。なんか眠くなってきたな。それじゃ俺は寝るわ。おやすみ、さくや」
アルコールが効いてきたのか、程良い睡魔に襲われた俺はテレビの電源を消した。
「おやすみなさい、ごしゅじんさま」
後ろから聞こえるさくやの声を背に受け、寝室へと向かう。
……さくやは知的な感じがするから、絵画や芸術品なんかに惹かれるんだろうな。
今までさくやには頑張ってもらっていたから、きっと喜ぶだろうな。
今度の休みが楽しみだ。
……さくやは知的な感じがするから、絵画や芸術品なんかに惹かれるんだろうな。
今までさくやには頑張ってもらっていたから、きっと喜ぶだろうな。
今度の休みが楽しみだ。
……俺はそう思いながら、ベッドに横になり、眠り始めた。
……が、それは叶う事はなかった。
……次の日の昼間、会社で仕事をしていた俺に、一本の電話が届いた。
……買い物に出かけていたさくやが、交通事故に遭った、との知らせだった。
△月×日
会社を早退した俺は、さくやが搬送されたゆックリニックへと向かった。
飼い主は基本、飼いゆっくりに飼いゆっくりの証であるバッジを着用する事を義務付けられている。
飼いゆっくりのバッジには飼い主の連絡先などの情報が記載されており、何かトラブルが起きた場合役に立つ。
……はっきり言って、役に立つような日なんか来ないでほしいと思っていた。
飼い主は基本、飼いゆっくりに飼いゆっくりの証であるバッジを着用する事を義務付けられている。
飼いゆっくりのバッジには飼い主の連絡先などの情報が記載されており、何かトラブルが起きた場合役に立つ。
……はっきり言って、役に立つような日なんか来ないでほしいと思っていた。
「せ、先生!!さくやは、大丈夫なんですか!?」
ゆックリニックに辿り着いた俺は、俺に連絡を寄こした主治医の先生に詰め寄った。
「今、集中治療室で治療を受けており、面会謝絶です。……詳しい話をしますので、こちらへ……」
俺は先生に個室へと連れられた。
そこで俺は先生から詳しい話を聞いた。
……さくやが買い物帰りに横断歩道を渡っている最中に、車同士の接触事故が起きて、その事故に巻き込まれてしまったそうだ。
幸い運転手や周辺の人達に怪我はなかったそうだが、さくやは車に跳ね飛ばされ、轢かれ、重傷を負ってしまったとの事だ。
「全身……、特に胴体の損傷が酷く、今の医学では首から下を切断しなければなりません」
「せ、切断……!」
「胴付きゆっくりは胴体を失っても、時間が掛かりますが通常のゆっくりとしての活動が可能になります」
「……命は、助かるんですか……?」
「……あのさくやさんには酷ですが、それしか方法がありません。……そして、本題はここからです」
「……!?」
「さくやさんは頭部に激しい衝撃を受けて、傷口からゆっくりの中身が漏れ出ています」
「な、中身が……!?」
「はい。さくやさんは中身を四分の一ほど失っており、『人工餡』と呼ばれる代わりの中身を注入する必要があります」
「でしたら早く……!」
「……それについてですが、この方法にはある『デメリット』があります」
「デ、デメリット……?」
俺には先生の言っている『デメリット』が何なのか分からなかった。
中身が失われているなら、代わりのものを入れれば、それで良いんじゃないのか?
「はい。それは……」
困惑している俺に、先生はその『デメリット』について語り始めた……。
「今、集中治療室で治療を受けており、面会謝絶です。……詳しい話をしますので、こちらへ……」
俺は先生に個室へと連れられた。
そこで俺は先生から詳しい話を聞いた。
……さくやが買い物帰りに横断歩道を渡っている最中に、車同士の接触事故が起きて、その事故に巻き込まれてしまったそうだ。
幸い運転手や周辺の人達に怪我はなかったそうだが、さくやは車に跳ね飛ばされ、轢かれ、重傷を負ってしまったとの事だ。
「全身……、特に胴体の損傷が酷く、今の医学では首から下を切断しなければなりません」
「せ、切断……!」
「胴付きゆっくりは胴体を失っても、時間が掛かりますが通常のゆっくりとしての活動が可能になります」
「……命は、助かるんですか……?」
「……あのさくやさんには酷ですが、それしか方法がありません。……そして、本題はここからです」
「……!?」
「さくやさんは頭部に激しい衝撃を受けて、傷口からゆっくりの中身が漏れ出ています」
「な、中身が……!?」
「はい。さくやさんは中身を四分の一ほど失っており、『人工餡』と呼ばれる代わりの中身を注入する必要があります」
「でしたら早く……!」
「……それについてですが、この方法にはある『デメリット』があります」
「デ、デメリット……?」
俺には先生の言っている『デメリット』が何なのか分からなかった。
中身が失われているなら、代わりのものを入れれば、それで良いんじゃないのか?
「はい。それは……」
困惑している俺に、先生はその『デメリット』について語り始めた……。
……数分後。
「……これで私の話は終わりです」
「……」
「……結論は出ましたか?この方法を実施するかどうか、私は飼い主であるあなたの判断に委ねます」
「……」
……俺はすぐに答えを出す事が出来なかった。
俺の選択一つで、さくやの命も、これからのゆん生も、全て決まるからだ。
しかし、こうして黙り、悩んでいる間にもさくやの命の灯火が消えつつある。
……けれども、『それ』を選ぶには、あまりにも酷すぎる。
どうすればいいのか。
どちらが、俺と、さくやにとって正しい選択となるのか。
「……」
「……結論は出ましたか?この方法を実施するかどうか、私は飼い主であるあなたの判断に委ねます」
「……」
……俺はすぐに答えを出す事が出来なかった。
俺の選択一つで、さくやの命も、これからのゆん生も、全て決まるからだ。
しかし、こうして黙り、悩んでいる間にもさくやの命の灯火が消えつつある。
……けれども、『それ』を選ぶには、あまりにも酷すぎる。
どうすればいいのか。
どちらが、俺と、さくやにとって正しい選択となるのか。
俺は……。
「……さい」
「……」
「……」
「……その方法で、どうか、さくやを救ってください」
……俺は、さくやに生きてほしいと、ただそう願ったのだった……。
○月×日
「さくや……、やっと帰って来れたな」
「……はい」
「……はい」
俺はさくやを抱き抱え、自宅の玄関前に立っていた。
……あれから一ヶ月後。
さくやは一命を取り留め、胴付きから胴無しとなり、胴無しとしての機能訓練を終え、我が家へと戻って来た。
「さくや、今日は退院祝いだ。何か美味しいものでも食べようか」
「……はい」
「……」
体の傷は完治したものの、心の傷はそうはいかなかった。
……それも当然だろう。
今のさくやの状態を人間に例えれば、両腕・両足を全て失った状態なのだ。
たかが一ヶ月で立ち直れるものではない。
「……とりあえず、このまま突っ立ってても、あれだな。中に入ろう」
「……はい」
……さくやの暗い声を聞きながら、俺は玄関のドアを開け、重い足取りで居間へと向かう。
「……ごしゅじんさま」
「ん?」
廊下を歩いている途中で、さくやが口を開く。
「……わたくしがいないあいだ、いろいろとたいへんではありませんでしたか?」
「そりゃあ、大変だったさ。さくやが助かるかどうかとか、さくやのリハビリとか大変じゃないかなとか、色々心配したよ」
「いえ……、わたくしは、ごしゅじんさまが……」
「俺は大丈夫さ。元々一人暮らしだからな、さくや程家事は上手く出来ないけど、何とかやってきたよ」
「……そうですか……。……もうしわけありません……」
「謝るなよ。さくやは何も、悪くないんだから」
「……はい。もうしわけありません……」
「……」
俺もさくやもそれ以上会話が続かなくなり、そのまま居間に入った。
「じゃ、さくやはここでゆっくり待っててくれ。今から美味いもん作るから」
さくやを用意しておいたクッションの上に置いて、台所へ行こうとした。
「ご、ごしゅじんさま……!」
「ん?」
後ろからさくやが俺を呼び止めた。
「……わたくしは、ごらんのとおり、からだをうしないました……」
さくやは俯き、ポツリ、ポツリと語り始める。
「いまのわたくしは……、ごしゅじんさまのおやくにたつことができません……」
「さくや……」
「ごしゅじんさま……。わたくしは……、ただの、やく、たたず……」
「……今から大分前……、俺が会社の残業で帰りが遅くなって、すっかり暗くなった帰り道を歩いていた時の事だ」
「え……?」
「あの日は風邪がふいてて、とても寒くてなぁ……。早く家に帰りたかったんだ」
「ごしゅじんさま……?」
俺の独白に、さくやは訳が分からないといった表情をしていた。
「コートに身を包み、小走りで帰る途中、近くの電信柱の陰で、誰かがうずくまっていたんだ」
「……!」
「見てみると、それはゆっくりでな……。服も飾りも汚れてて、ボロボロで、裸同然で……。冷たい風を一身に受けて、俺以上にブルブル震えてたんだ」
「ご、ごしゅじん……、さま……」
「……それを見て、俺は、そのゆっくりに、手を差し伸べていたんだ……」
「う……、うぅ……」
後ろから、さくやの嗚咽が聞こえてくる。
さくやがどんな顔をしているのかは、見なくても分かる。
「さくや……。俺は、お前が役に立つから一緒にいる訳じゃないんだ。……ただ、一緒にいたいから、一緒にいるんだよ」
「ごしゅじんさま……!ごしゅじんさま……!!」
「さくや。自分を責めるな。お前は役立たずなんかじゃない。いらない存在なんかじゃないんだ」
「……ごしゅじん、さま……」
……あれから一ヶ月後。
さくやは一命を取り留め、胴付きから胴無しとなり、胴無しとしての機能訓練を終え、我が家へと戻って来た。
「さくや、今日は退院祝いだ。何か美味しいものでも食べようか」
「……はい」
「……」
体の傷は完治したものの、心の傷はそうはいかなかった。
……それも当然だろう。
今のさくやの状態を人間に例えれば、両腕・両足を全て失った状態なのだ。
たかが一ヶ月で立ち直れるものではない。
「……とりあえず、このまま突っ立ってても、あれだな。中に入ろう」
「……はい」
……さくやの暗い声を聞きながら、俺は玄関のドアを開け、重い足取りで居間へと向かう。
「……ごしゅじんさま」
「ん?」
廊下を歩いている途中で、さくやが口を開く。
「……わたくしがいないあいだ、いろいろとたいへんではありませんでしたか?」
「そりゃあ、大変だったさ。さくやが助かるかどうかとか、さくやのリハビリとか大変じゃないかなとか、色々心配したよ」
「いえ……、わたくしは、ごしゅじんさまが……」
「俺は大丈夫さ。元々一人暮らしだからな、さくや程家事は上手く出来ないけど、何とかやってきたよ」
「……そうですか……。……もうしわけありません……」
「謝るなよ。さくやは何も、悪くないんだから」
「……はい。もうしわけありません……」
「……」
俺もさくやもそれ以上会話が続かなくなり、そのまま居間に入った。
「じゃ、さくやはここでゆっくり待っててくれ。今から美味いもん作るから」
さくやを用意しておいたクッションの上に置いて、台所へ行こうとした。
「ご、ごしゅじんさま……!」
「ん?」
後ろからさくやが俺を呼び止めた。
「……わたくしは、ごらんのとおり、からだをうしないました……」
さくやは俯き、ポツリ、ポツリと語り始める。
「いまのわたくしは……、ごしゅじんさまのおやくにたつことができません……」
「さくや……」
「ごしゅじんさま……。わたくしは……、ただの、やく、たたず……」
「……今から大分前……、俺が会社の残業で帰りが遅くなって、すっかり暗くなった帰り道を歩いていた時の事だ」
「え……?」
「あの日は風邪がふいてて、とても寒くてなぁ……。早く家に帰りたかったんだ」
「ごしゅじんさま……?」
俺の独白に、さくやは訳が分からないといった表情をしていた。
「コートに身を包み、小走りで帰る途中、近くの電信柱の陰で、誰かがうずくまっていたんだ」
「……!」
「見てみると、それはゆっくりでな……。服も飾りも汚れてて、ボロボロで、裸同然で……。冷たい風を一身に受けて、俺以上にブルブル震えてたんだ」
「ご、ごしゅじん……、さま……」
「……それを見て、俺は、そのゆっくりに、手を差し伸べていたんだ……」
「う……、うぅ……」
後ろから、さくやの嗚咽が聞こえてくる。
さくやがどんな顔をしているのかは、見なくても分かる。
「さくや……。俺は、お前が役に立つから一緒にいる訳じゃないんだ。……ただ、一緒にいたいから、一緒にいるんだよ」
「ごしゅじんさま……!ごしゅじんさま……!!」
「さくや。自分を責めるな。お前は役立たずなんかじゃない。いらない存在なんかじゃないんだ」
「……ごしゅじん、さま……」
「だから泣くのはやめて、笑ってくれ、さくや。泣き顔は、さくやに一番似合わないんだからさ」
「はい……。わかりました。ごしゅじんさま……」
「……さて、腹も減ったし、そろそろ夕飯作んないとな。……そうだな、今日はさくやの大好きなクリームシチューを作るか。それで良いな?さくや」
俺は後ろを振り返り、さくやに尋ねた。
「……さて、腹も減ったし、そろそろ夕飯作んないとな。……そうだな、今日はさくやの大好きなクリームシチューを作るか。それで良いな?さくや」
俺は後ろを振り返り、さくやに尋ねた。
「……はい!」
さくやは満面の笑みを浮かべ、俺にそう言った。
○月□日
「ゆんしょ……、ゆんしょ……」
「ん?」
「ん?」
居間に置いてある洗濯物を畳もうとして居間に向かったら、そこにはさくやがいた。
見ると、さくやは洗濯物のシャツを口に咥えて何かをしていた。
「さくや、何してんだ?」
「あ、ごしゅじんさま」
「シャツなんか口に咥えてどうした?」
「あ、はい……。その、わたくしも、いぜんのようにせんたくものをたためるようにと……」
成る程……、前みたいに洗濯物を畳めるように練習してたのか。
……けど、さくやの周りにはヨレヨレの洗濯物が数枚あり、思うように練習の成果は出ていないようだ。
まぁ、胴付きと胴無しでは勝手が違いすぎるし、何より口だけで洗濯物を畳むのは難しすぎる。
「さくや、無理しなくても良いぞ。俺がやるよ」
「いえ……。わがままをいって、たいへんもうしわけないのですが、わたくしにやらせてください」
「いや、結構大変だろ?体力使うだろうし」
「ごしゅじんさま……。わたくしは、いまのじょうたいでなにができるのか、それをみつけたいのです」
「さくや……」
「それに、いえのなかでただじっとしているのは、わたくしのしょうにあいませんので」
「……そっか。分かった。頑張れよ、さくや。無理だと思ったら遠慮せず言えよ」
「はい。ありがとうございます。ごしゅじんさま」
さくやはそう言って、再びゆんしょゆんしょと洗濯物を頑張って畳み始めた。
見ると、さくやは洗濯物のシャツを口に咥えて何かをしていた。
「さくや、何してんだ?」
「あ、ごしゅじんさま」
「シャツなんか口に咥えてどうした?」
「あ、はい……。その、わたくしも、いぜんのようにせんたくものをたためるようにと……」
成る程……、前みたいに洗濯物を畳めるように練習してたのか。
……けど、さくやの周りにはヨレヨレの洗濯物が数枚あり、思うように練習の成果は出ていないようだ。
まぁ、胴付きと胴無しでは勝手が違いすぎるし、何より口だけで洗濯物を畳むのは難しすぎる。
「さくや、無理しなくても良いぞ。俺がやるよ」
「いえ……。わがままをいって、たいへんもうしわけないのですが、わたくしにやらせてください」
「いや、結構大変だろ?体力使うだろうし」
「ごしゅじんさま……。わたくしは、いまのじょうたいでなにができるのか、それをみつけたいのです」
「さくや……」
「それに、いえのなかでただじっとしているのは、わたくしのしょうにあいませんので」
「……そっか。分かった。頑張れよ、さくや。無理だと思ったら遠慮せず言えよ」
「はい。ありがとうございます。ごしゅじんさま」
さくやはそう言って、再びゆんしょゆんしょと洗濯物を頑張って畳み始めた。
(……そうだよな。自分で何かをしたいって言ってるのに、邪魔しちゃ悪いよな)
……さくやは今、前を向いて進み始めようとしている。
今の自分に何が出来るのかを、手探りで探そうとしている。
さくやがそうしたいと言っているなら、俺はさくやがやりたい通りにやらせた方が良いと思う。
少しずつ、少しずつでも良いから……、それを見つけて、その心に留めさせてほしい。
忘れたりしてしまわないように、しっかりと。
今の自分に何が出来るのかを、手探りで探そうとしている。
さくやがそうしたいと言っているなら、俺はさくやがやりたい通りにやらせた方が良いと思う。
少しずつ、少しずつでも良いから……、それを見つけて、その心に留めさせてほしい。
忘れたりしてしまわないように、しっかりと。
○月○日
「ふー、食った食った」
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
今日は近所のスーパーで肉の特売セールをしていたので、肉を大量に買って来て、さくやと一緒に食べた。
「ごしゅじんさま、さくやがてーぶるをふいておきますね」
「あぁ、頼むよ」
「あぁ、頼むよ」
俺がテーブルの上の皿をよけて、さくやが口に咥えた布巾でテーブルを拭き始める。
あれからさくやは、前のように洗濯物を畳めるようになったり、上限二枚まで皿を頭の上に乗せて運んだりなど、出来る事が増えてきた。
俺にとっても、さくやにとっても、それは喜ばしい事だ。
「テレビでも見るかな」
皿を片づけ終え、テレビの電源を付ける。
「さくやも一緒に見よう」
「はい」
そう言って、テーブルを拭き終えたさくやを膝の上に乗せて一緒にテレビを眺め始める。
あれからさくやは、前のように洗濯物を畳めるようになったり、上限二枚まで皿を頭の上に乗せて運んだりなど、出来る事が増えてきた。
俺にとっても、さくやにとっても、それは喜ばしい事だ。
「テレビでも見るかな」
皿を片づけ終え、テレビの電源を付ける。
「さくやも一緒に見よう」
「はい」
そう言って、テーブルを拭き終えたさくやを膝の上に乗せて一緒にテレビを眺め始める。
『今週の特集は、可愛いワンちゃんを紹介していきます!』
『私は柴犬が好きですねー。見ていて愛くるしいですよ。犬に限らず、ペットは私達の心を癒してくれます』
『そうですよねー。ペットは飼い主の心のオアシスのようなものですからね』
『私は柴犬が好きですねー。見ていて愛くるしいですよ。犬に限らず、ペットは私達の心を癒してくれます』
『そうですよねー。ペットは飼い主の心のオアシスのようなものですからね』
ペットの犬の特集か……、俺も犬は好きだから、どんな犬が出てくるか楽しみだな。
『……さっきのブルドックはキモ可愛かったですねー。……さて、次は犬繋がりという事で、今期注目の映画を紹介しましょう』
『これは実話を元にした映画なんですよねー。老犬と老人を主人公とした物語……、心温まります』
『上映は来月からとなっております。タイトルは『老犬と老人』。皆さんも、是非この映画を見て涙を流してください』
『これは実話を元にした映画なんですよねー。老犬と老人を主人公とした物語……、心温まります』
『上映は来月からとなっております。タイトルは『老犬と老人』。皆さんも、是非この映画を見て涙を流してください』
ふむ……、実話なのか。
面白そうだな、休みの日にでも見に行こうかな。
面白そうだな、休みの日にでも見に行こうかな。
「……」
ふと、膝の上に乗っているさくやを見ると、何やらぼんやりとした表情で、テレビを眺めていた。
「どうした?さくや。眠いのか?」
「え……?いえ、そんなことはありませんよ?」
「そうか?だったら良いけど……」
「……あの、ごしゅじんさま」
「ん?」
「その……、ごしゅじんさまは、こんどはいつ、おやすみがとれますか?」
「んー……。今月は夜勤や半日勤務が多いからなー……。ちゃんとした休みが取れるのは来月かな」
「そうですか……」
さくやは何か言いたそうだった。
これは、もしかすると……。
「そうか……。さくや、どこかに出掛けたいんだな?」
「えっ!?い、いえ、そんな……。さくやはただ、ごしゅじんさまがいつもいそがしそうでしたので……」
さくやはしどろもどろになりながら弁解しているが、何を考えているかは見え見えだ。
「そうだよな。この前は色々あって駄目になっちゃったけど、今度はちゃんとした休みが取れたら、一緒に出かけような」
「ごしゅじんさま……」
「来月は一緒に美術館に行こうな。さくやも行きたがってたし、知的な美術ツアーと洒落込もう」
「……ええ。さくや、たのしみにしています!」
さくやは笑顔でそう答えた。
「じゃあ俺はそろそろ寝るわ。飯食って眠くなったし。さくやも早く寝ろよ?」
さくやを膝から下ろし、そのまま寝室へ行こうとした。
「どうした?さくや。眠いのか?」
「え……?いえ、そんなことはありませんよ?」
「そうか?だったら良いけど……」
「……あの、ごしゅじんさま」
「ん?」
「その……、ごしゅじんさまは、こんどはいつ、おやすみがとれますか?」
「んー……。今月は夜勤や半日勤務が多いからなー……。ちゃんとした休みが取れるのは来月かな」
「そうですか……」
さくやは何か言いたそうだった。
これは、もしかすると……。
「そうか……。さくや、どこかに出掛けたいんだな?」
「えっ!?い、いえ、そんな……。さくやはただ、ごしゅじんさまがいつもいそがしそうでしたので……」
さくやはしどろもどろになりながら弁解しているが、何を考えているかは見え見えだ。
「そうだよな。この前は色々あって駄目になっちゃったけど、今度はちゃんとした休みが取れたら、一緒に出かけような」
「ごしゅじんさま……」
「来月は一緒に美術館に行こうな。さくやも行きたがってたし、知的な美術ツアーと洒落込もう」
「……ええ。さくや、たのしみにしています!」
さくやは笑顔でそう答えた。
「じゃあ俺はそろそろ寝るわ。飯食って眠くなったし。さくやも早く寝ろよ?」
さくやを膝から下ろし、そのまま寝室へ行こうとした。
「あ、あの、ごしゅじんさま……」
立ち上がろうとした俺を、さくやが呼び止めた。
「ん?」
「……いえ、びじゅつかん、たのしみですね!」
「あぁ、そうだな。じゃ、おやすみ」
俺は何かが引っかかっているような気がしたが、それが一体何なのか分からなかった。
まぁ、大した事でもないだろう。
俺はそう思い、居間を後にした。
「ん?」
「……いえ、びじゅつかん、たのしみですね!」
「あぁ、そうだな。じゃ、おやすみ」
俺は何かが引っかかっているような気がしたが、それが一体何なのか分からなかった。
まぁ、大した事でもないだろう。
俺はそう思い、居間を後にした。
(しかし……、さくやは一体何の部類の芸術品が好きなんだ?絵か?それとも壺とかかな?)
さくやの好みの問題もあるし、的外れな場所には行けないな。
洋食好きな彼女を和食店に連れて行くのと一緒だ。
洋食好きな彼女を和食店に連れて行くのと一緒だ。
(……一通り揃っている所が良いかな)
……普段そういうジャンルに関わっていないだけに、事前にしっかり調べておいた方がいいと思った。
○月△日
「は、はじめまして。さくやは、さくやです……」
「ゆっ!れいむはれいむだよ!よろしくね!」
「さくや、いっしょにあそぶのぜ!」
「ゆっ!れいむはれいむだよ!よろしくね!」
「さくや、いっしょにあそぶのぜ!」
「いやいや、お宅のさくやちゃんは慎ましいですね。うちのれいむとまりさにも見習わせたいです」
「はは……。さくやには元気が足りないですからね。あの子達の元気を分けてもらいたいですよ」
「はは……。さくやには元気が足りないですからね。あの子達の元気を分けてもらいたいですよ」
今日はさくやと一緒にスーパーへ買い物をしに出掛けた。
その帰り道にある公園を通りかかると、近所に住んでいるおっさんが、飼いゆっくりのれいむとまりさを砂場で遊ばせているのを見かけた。
おっさんは俺達に気付くと声をかけて来て、今こうして俺と一緒にベンチに座ってさくや達を眺めていた。
このおっさんとはあまり話をした事がないから、丁度良い機会かもしれない。
近所付き合いは大切だからな。
その帰り道にある公園を通りかかると、近所に住んでいるおっさんが、飼いゆっくりのれいむとまりさを砂場で遊ばせているのを見かけた。
おっさんは俺達に気付くと声をかけて来て、今こうして俺と一緒にベンチに座ってさくや達を眺めていた。
このおっさんとはあまり話をした事がないから、丁度良い機会かもしれない。
近所付き合いは大切だからな。
「えーと……、さ、さくやはなにをすれば……」
「それじゃあ、おにごっこをしようよ!」
「そうするのぜ、いっしょにあそべば、もっとたのしくなるのぜ!」
「あ、あそぶ、ですか……」
「それじゃあ、おにごっこをしようよ!」
「そうするのぜ、いっしょにあそべば、もっとたのしくなるのぜ!」
「あ、あそぶ、ですか……」
さくやは他のゆっくり達と触れ合う機会がないから、若干戸惑っているようだった。
……俺はさくやと出会う前の、さくやの過去を知らない。
さくや自身も聞かれるのを嫌がるだろうと思って聞いていないが、きっと遊びのあの字も知らないんだろう。
……俺はさくやと出会う前の、さくやの過去を知らない。
さくや自身も聞かれるのを嫌がるだろうと思って聞いていないが、きっと遊びのあの字も知らないんだろう。
(うーん……、さくやには少し無理な事をさせただろうか……)
他のゆっくり達と触れ合う事が、さくやの為になると思ったのだが、かえってさくやを困らせる形となってしまったかもしれない。
「ところで、聞きましたよ」
「えっ?」
急におっさんが俺の方に顔を向けて、話を振ってきた。
「お宅のさくやちゃん、だいぶ前に大けがをしてしまったようで……」
「え、えぇ、まぁ……。あの時は色々ありましたけど、今はこうして……」
「えぇ。……良かったですね。命が助かって。本当に、良かったですよ」
おっさんはそう言って、再び顔をさくや達の方に戻す。
「……うちの子達もね、数年前に交通事故にあいましてね……」
「……そうなんですか?」
「はい。……一緒に出掛けて、少し目を離した隙に、自分の不注意で……」
「……」
「本当に、命が危ない状態でしてね。あの時は自分を責めましたよ。自分は飼い主失格だってね」
「……」
「病院に搬送されて、何とか無事、命は助かって……。病室で包帯でグルグル巻きになって寝ているあの子達の姿を見て、申し訳ない気持ちになりました」
「……」
「目が覚めたらなんと声を掛ければ良いのやらと思ってた時に、丁度あの子達の目が覚めて、私に言ったんですよ」
「……何て言ったんですか?」
「『おにいさん、ゆっくりおはよう!』って……。……思わず、涙が出ちゃいました」
「……自分も、さくやの目が覚めた時は、本当に嬉しかったです」
「自分を責めたり、これからどうしたらいいのか考えたりしましたが……、その時はただ、『生きてて良かった』と心の底から思いました」
……気のせいだろうか、おっさんの目が、少しだけ潤んでいるような気がした。
いや、多分、気のせいではないだろう。
「今じゃあこうして元気に遊ぶ事が出来て……。もし、あの子達が目を覚まさなかったら……、あの言葉ではなかったら……」
「……」
「私はずっと、後悔しっぱなしだったかもしれません」
「……俺、思うんですよ」
「え?」
「後ろだけを見続けるんじゃなくて、ただそこに立ち続けるんじゃなくて、きちんと前を見て進まなくちゃいけないんだなって」
「ところで、聞きましたよ」
「えっ?」
急におっさんが俺の方に顔を向けて、話を振ってきた。
「お宅のさくやちゃん、だいぶ前に大けがをしてしまったようで……」
「え、えぇ、まぁ……。あの時は色々ありましたけど、今はこうして……」
「えぇ。……良かったですね。命が助かって。本当に、良かったですよ」
おっさんはそう言って、再び顔をさくや達の方に戻す。
「……うちの子達もね、数年前に交通事故にあいましてね……」
「……そうなんですか?」
「はい。……一緒に出掛けて、少し目を離した隙に、自分の不注意で……」
「……」
「本当に、命が危ない状態でしてね。あの時は自分を責めましたよ。自分は飼い主失格だってね」
「……」
「病院に搬送されて、何とか無事、命は助かって……。病室で包帯でグルグル巻きになって寝ているあの子達の姿を見て、申し訳ない気持ちになりました」
「……」
「目が覚めたらなんと声を掛ければ良いのやらと思ってた時に、丁度あの子達の目が覚めて、私に言ったんですよ」
「……何て言ったんですか?」
「『おにいさん、ゆっくりおはよう!』って……。……思わず、涙が出ちゃいました」
「……自分も、さくやの目が覚めた時は、本当に嬉しかったです」
「自分を責めたり、これからどうしたらいいのか考えたりしましたが……、その時はただ、『生きてて良かった』と心の底から思いました」
……気のせいだろうか、おっさんの目が、少しだけ潤んでいるような気がした。
いや、多分、気のせいではないだろう。
「今じゃあこうして元気に遊ぶ事が出来て……。もし、あの子達が目を覚まさなかったら……、あの言葉ではなかったら……」
「……」
「私はずっと、後悔しっぱなしだったかもしれません」
「……俺、思うんですよ」
「え?」
「後ろだけを見続けるんじゃなくて、ただそこに立ち続けるんじゃなくて、きちんと前を見て進まなくちゃいけないんだなって」
「まつのぜーっ!れいむーっ!さくやーっ!」
「ゆゆっ!ぜったいにつかまらないよっ!」
「あはっ……、れいむさん、まりささん、おにごっこってたのしいですね!」
「ゆゆっ!ぜったいにつかまらないよっ!」
「あはっ……、れいむさん、まりささん、おにごっこってたのしいですね!」
俺は、おっさんの飼いゆっくり達と楽しそうに遊ぶさくやを見つめながら言う。
「過去も今も未来も、全部同じ位に大事ですからね」
□月△日
ジリリリリリッ……!
「ふわぁ……」
枕元の目覚まし時計を止めて、ベッドから下りて、普段着に着替えて寝室を出る。
浴室の洗面台で顔を洗い、歯を磨く。
今日は、久々に取れたまともな休暇だ。
いつもなら昼近くまでグースカ寝てるんだが、今日は違った。
浴室の洗面台で顔を洗い、歯を磨く。
今日は、久々に取れたまともな休暇だ。
いつもなら昼近くまでグースカ寝てるんだが、今日は違った。
(さくやと約束したってのに、寝坊する訳にはいかないからな)
……そう、今日はさくやと一緒に、さくやの行きたい所に出掛ける日だ。
本当はずっと前に約束していた事だが、あの事故が原因で、かなり遅れてしまった。
本当はずっと前に約束していた事だが、あの事故が原因で、かなり遅れてしまった。
(ずっと待たせてしまったからな……)
さくやは今まで散々苦労をしてきた。
だからこそ、今日は色んな事を忘れて、さくやには楽しんでほしいと思っている。
だからこそ、今日は色んな事を忘れて、さくやには楽しんでほしいと思っている。
(昨日は随分ソワソワしてたから、もう起きてるかな……)
歯を磨き終えた俺は、そのまま居間へと直行する。
(やっぱり)
案の定、そこにはさくやがウキウキしながら俺が現れるのを今か今かと待っていた。
まだ俺がいる事には気付いていないようだ。
まだ俺がいる事には気付いていないようだ。
「おはよう、さくや」
俺はさくやに声を掛けた。
そこでさくやは俺がいる事に気付き、親犬を見つけた子犬のように俺の足元まで跳ねて来た。
そこでさくやは俺がいる事に気付き、親犬を見つけた子犬のように俺の足元まで跳ねて来た。
「おはようございます!ごしゅじんさま!」
さくやは元気よく俺に挨拶する。
「朝から元気だな、さくや」
「だって、きょうはごしゅじんさまとおでかけするひですもの!」
「そうだな、今日はさくやの行きたい所に行こうな」
「はい!」
さくやの嬉しそうな顔を見ると、俺も同じように嬉しい気持ちになってくる。
「出掛ける前に朝ご飯を食べようか」
「そうですね!さくや、おなかぺこぺこです!」
俺は台所へ向かい、冷蔵庫から卵とウインナーを取り出し、ガスコンロの火を付けてフライパンを乗せる。
熱を帯びたフライパンの上で卵を片手で割って黄身を投下し、ウインナーも一緒に焼く。
……数分後には簡単なウインナー付きの目玉焼きが完成した。
それを皿に盛り、用意していた茶碗にご飯をよそう。
「いただきます」
「いただきます!」
さくやは美味しそうに目玉焼きを食べ、俺はそんなさくやを見ながらご飯を口に入れる。
「朝から元気だな、さくや」
「だって、きょうはごしゅじんさまとおでかけするひですもの!」
「そうだな、今日はさくやの行きたい所に行こうな」
「はい!」
さくやの嬉しそうな顔を見ると、俺も同じように嬉しい気持ちになってくる。
「出掛ける前に朝ご飯を食べようか」
「そうですね!さくや、おなかぺこぺこです!」
俺は台所へ向かい、冷蔵庫から卵とウインナーを取り出し、ガスコンロの火を付けてフライパンを乗せる。
熱を帯びたフライパンの上で卵を片手で割って黄身を投下し、ウインナーも一緒に焼く。
……数分後には簡単なウインナー付きの目玉焼きが完成した。
それを皿に盛り、用意していた茶碗にご飯をよそう。
「いただきます」
「いただきます!」
さくやは美味しそうに目玉焼きを食べ、俺はそんなさくやを見ながらご飯を口に入れる。
(この地区の美術館の場所は調べといたから、迷わず行けるな)
さくやが前々から行きたいと言っていた美術館についてインターネットなどで事前に調べておいた。
何でもそこは、外国の様々な画家の数々の作品が展示しているらしい。
有名な名前の画家は一人もいなかったが、さくやが興味を示しているんだ、きっと良い作品が展示しているんだろう。
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした!」
五分もしない内に朝食を食べ終え、食器を片づける。
「じゃあ、行こうか」
「はい!」
俺とさくやは玄関へ向かい、靴を履き、外へと出た。
「さくや、目的地はこっちの方向だからな」
俺は美術館のある方角を指差した。
何でもそこは、外国の様々な画家の数々の作品が展示しているらしい。
有名な名前の画家は一人もいなかったが、さくやが興味を示しているんだ、きっと良い作品が展示しているんだろう。
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした!」
五分もしない内に朝食を食べ終え、食器を片づける。
「じゃあ、行こうか」
「はい!」
俺とさくやは玄関へ向かい、靴を履き、外へと出た。
「さくや、目的地はこっちの方向だからな」
俺は美術館のある方角を指差した。
「?」
……何故だろう、さくやは首を傾げるように体を傾けていた。
「ごしゅじんさま、なんでそっちのほうにいくんですか?」
「何でって……、美術館に行くにはここを左に……」
「ごしゅじんさま、なんでそっちのほうにいくんですか?」
「何でって……、美術館に行くにはここを左に……」
「びじゅつかん?それって、どんなところですか?」
「……」
「ごしゅじんさま、びじゅつかんってなんですか?たのしいところですか?」
「……うん、そうだな、綺麗な物や変わった物が沢山ある所かな」
「そうですか……。さくや、そういうところもすきですけど、やっぱり、たのしいところがだいすきです!」
「……そっか。じゃあ、別の所に行こうか」
「わかりました!だったら、さくや、なずりーらんどにいきたいです!」
「なずりーらんど?」
「はい!さくや、そこにいきたいです!」
さくやは目を輝かせながらそう言った。
「うん、じゃあ、なずりーらんどに行こうか」
「はい!」
さくやは反対側の道へ……、なずりーらんどのある道へと元気よく跳ねて行った。
「おいおい、あんまり先に行くなよ?転んで怪我するぞ?」
「ごしゅじんさま、びじゅつかんってなんですか?たのしいところですか?」
「……うん、そうだな、綺麗な物や変わった物が沢山ある所かな」
「そうですか……。さくや、そういうところもすきですけど、やっぱり、たのしいところがだいすきです!」
「……そっか。じゃあ、別の所に行こうか」
「わかりました!だったら、さくや、なずりーらんどにいきたいです!」
「なずりーらんど?」
「はい!さくや、そこにいきたいです!」
さくやは目を輝かせながらそう言った。
「うん、じゃあ、なずりーらんどに行こうか」
「はい!」
さくやは反対側の道へ……、なずりーらんどのある道へと元気よく跳ねて行った。
「おいおい、あんまり先に行くなよ?転んで怪我するぞ?」
「だいじょうぶですよ!さくや、けがなんてしたことありませんから!」
「……あぁ。そうだな。さくやはいつだって、元気百倍だからな」
「はい!さくやはいつだってげんきです!」
「はは……」
俺とさくやは共に笑いながら、予定を変更してなずりーらんどへ行く事となった……。
「はい!さくやはいつだってげんきです!」
「はは……」
俺とさくやは共に笑いながら、予定を変更してなずりーらんどへ行く事となった……。
……数時間後。
「ごしゅじんさま!たかいです!すっごくたかいですよ!」
「……そうだな、すごく高いな」
「……そうだな、すごく高いな」
あれから俺とさくやは、なずりーらんどで遊びまくった。
きめぇ丸コースターやおりんりんハウス、てんこ叩きにひなーゴーランドなど、ほとんどの遊具や施設を回った。
そして最後に、なずりーらんど一の名物こと、なずりん車に乗る事にした。
……まぁ、ようは普通の観覧車だ。
乗り込んで数分後、あっと言う間に一番上まで辿り着いた。
きめぇ丸コースターやおりんりんハウス、てんこ叩きにひなーゴーランドなど、ほとんどの遊具や施設を回った。
そして最後に、なずりーらんど一の名物こと、なずりん車に乗る事にした。
……まぁ、ようは普通の観覧車だ。
乗り込んで数分後、あっと言う間に一番上まで辿り着いた。
「うわぁ……、すごいけしきですよ!たてものやおうちとか、とてもちいさいです!……あっ、あれ、ごしゅじんさまのおうちじゃないですか!?」
さくやは窓から見える景色に、子ゆっくりのようにはしゃいでいた。
「……なぁ、さくや。このなずりーらんどに来てよかったか?」
「あたりまえじゃないですか!ここにこれて、ほんとうによかったですよ!」
「……そっか。よかったよ」
「さくや、ずっとまえにてれびでみて、ここであそんでみたいなっておもってたんです!」
「ずっと前に?」
「はい!それで、ごしゅじんさまにいおうとして……、えっと……、あれ?なんでさくや、ずっとごしゅじんさまにいきたいっていわなかったんでしょう?」
「思い出せないなら、無理に思い出さなくていいさ。とにかく今日は一杯楽しんだんだからさ」
「はい!そうですよね!」
そんな会話を交わしているうちに、俺達の乗った観覧車は一周し終えた。
「ごしゅじんさま!きょうはとってもたのしかったです!ありがとうございました!」
「満足してくれたか?」
「はい!」
「……じゃあさ、このまま帰るのもなんだからさ、最後にちょっと、俺の行きたい所に寄ってもいいか?」
「どんなところですか?たのしいところですか?」
「楽しいかどうかは分からないけど、見てみたいものがあるんだ」
「わかりました!さくやもごいっしょします!」
「……なぁ、さくや。このなずりーらんどに来てよかったか?」
「あたりまえじゃないですか!ここにこれて、ほんとうによかったですよ!」
「……そっか。よかったよ」
「さくや、ずっとまえにてれびでみて、ここであそんでみたいなっておもってたんです!」
「ずっと前に?」
「はい!それで、ごしゅじんさまにいおうとして……、えっと……、あれ?なんでさくや、ずっとごしゅじんさまにいきたいっていわなかったんでしょう?」
「思い出せないなら、無理に思い出さなくていいさ。とにかく今日は一杯楽しんだんだからさ」
「はい!そうですよね!」
そんな会話を交わしているうちに、俺達の乗った観覧車は一周し終えた。
「ごしゅじんさま!きょうはとってもたのしかったです!ありがとうございました!」
「満足してくれたか?」
「はい!」
「……じゃあさ、このまま帰るのもなんだからさ、最後にちょっと、俺の行きたい所に寄ってもいいか?」
「どんなところですか?たのしいところですか?」
「楽しいかどうかは分からないけど、見てみたいものがあるんだ」
「わかりました!さくやもごいっしょします!」
……一時間後。
『俺もお前も、すっかりガタが来ちまったなぁ……』
『クゥン……』
『なぁ……、お前、俺で良かったのか?お前の隣にいるのが俺でよぉ……、本当に良かったか?』
『クゥ~ン……』
『……そうかぁ。……まぁ、どっちも一人ぼっちってのより、ずっとマシかぁ……』
『クゥン……』
『なぁ……、お前、俺で良かったのか?お前の隣にいるのが俺でよぉ……、本当に良かったか?』
『クゥ~ン……』
『……そうかぁ。……まぁ、どっちも一人ぼっちってのより、ずっとマシかぁ……』
「……」
「……」
「……」
……俺とさくやは今、なずりーらんどの近くにある映画館で映画を見ていた。
タイトルは『老人と老犬』……、俺が見てみたいと思っていた作品だ。
あらすじは、十年前に妻に先立たれ、近所からは偏屈ジジイ呼ばわりされ、残りの人生を一人で過ごしてきた老人がある日捨てられた老犬を拾ってくるというものだ。
初めは興味本位で拾ってきただけだったが、いつしか老犬は老人の第二のパートナーとなり、家族と呼べる存在となっていた。
……そしてストーリーは終盤に差し掛かり、老犬が老人の腕の中で、天寿を全うしようとしているシーンが流れている。
タイトルは『老人と老犬』……、俺が見てみたいと思っていた作品だ。
あらすじは、十年前に妻に先立たれ、近所からは偏屈ジジイ呼ばわりされ、残りの人生を一人で過ごしてきた老人がある日捨てられた老犬を拾ってくるというものだ。
初めは興味本位で拾ってきただけだったが、いつしか老犬は老人の第二のパートナーとなり、家族と呼べる存在となっていた。
……そしてストーリーは終盤に差し掛かり、老犬が老人の腕の中で、天寿を全うしようとしているシーンが流れている。
『もう疲れたろう。ゆっくり休めや』
『……』
『大丈夫だ。俺ぁ一人は慣れてるからよ。お前がいなくても、寂しいなんて感じねぇさ』
『……』
『……もう良いんだよ。無理しなくても良いんだよ。心配なんざしなくても良いんだよ。……頼むから、休んでくれよ……』
『……』
『大丈夫だ。俺ぁ一人は慣れてるからよ。お前がいなくても、寂しいなんて感じねぇさ』
『……』
『……もう良いんだよ。無理しなくても良いんだよ。心配なんざしなくても良いんだよ。……頼むから、休んでくれよ……』
「……ごしゅじんさま」
「ん?」
先程まで黙って映画を見ていたさくやが口を開いた。
さくやには少々退屈だったのかもしれない。
「……どうしてこのおじいさんは、ないているんですか?いぬさんはただ、おやすみしようとしているだけですよね?」
「……そうだな。……さくや。もしあの犬が、ずっと目を覚まさなかったらどう思う?」
「とてもしんぱいです。なにかあったのかなっておもいます」
「あの爺さんは、あの犬が二度と、絶対に目を覚まさないって分かってるんだ。だから、泣いてるんだ」
「……どうして、めがさめないってわかってるのに、おやすみなさいっていってるんですか?」
「爺さんだって、本当は眠ってほしくない。このままずっと目が覚めたままでいてほしいんだよ。……でも」
「でも?」
「……楽にさせてあげたいんだ。あの犬を。ゆっくり休ませて、眠らせてあげたいんだ。……それが、あの犬の為だから」
「……」
「ん?」
先程まで黙って映画を見ていたさくやが口を開いた。
さくやには少々退屈だったのかもしれない。
「……どうしてこのおじいさんは、ないているんですか?いぬさんはただ、おやすみしようとしているだけですよね?」
「……そうだな。……さくや。もしあの犬が、ずっと目を覚まさなかったらどう思う?」
「とてもしんぱいです。なにかあったのかなっておもいます」
「あの爺さんは、あの犬が二度と、絶対に目を覚まさないって分かってるんだ。だから、泣いてるんだ」
「……どうして、めがさめないってわかってるのに、おやすみなさいっていってるんですか?」
「爺さんだって、本当は眠ってほしくない。このままずっと目が覚めたままでいてほしいんだよ。……でも」
「でも?」
「……楽にさせてあげたいんだ。あの犬を。ゆっくり休ませて、眠らせてあげたいんだ。……それが、あの犬の為だから」
「……」
『……』
『……ありがとよぉ……。こんな俺の傍に、ずっと、いてくれてよぉ……』
『……ありがとよぉ……。こんな俺の傍に、ずっと、いてくれてよぉ……』
……映画が終わり、スタッフロールが流れる。
客席にいた客達が次々と立ち上がり、出口から出て行く。
「さて、帰ろうか」
「……ごしゅじんさま」
「ん?」
客席にいた客達が次々と立ち上がり、出口から出て行く。
「さて、帰ろうか」
「……ごしゅじんさま」
「ん?」
「……さくやは、いきてるあいだは、ずっとごしゅじんさまのおそばにいますからね?」
「……あぁ。俺もずっと、さくやの傍にいるからな」
「はい!」
……俺はさくやを抱きかかえ、他の客達と一緒に出て行く。
「はい!」
……俺はさくやを抱きかかえ、他の客達と一緒に出て行く。
(生きてる間は、ずっと……、か……)
……さくやのその言葉が、重く、深く、俺の心の奥底に入り込んでくる。
本当は、とても嬉しい言葉の筈だ。
本当は、とても嬉しい言葉の筈だ。
……だけど今は、その言葉を心の底から喜ぶ事は、出来なかった。
□月□日
「ただいまー」
一日の仕事を終え、俺はそのまま真っ直ぐ帰宅した。
「……?」
おれは妙な違和感を感じた。
「……さくや?」
その違和感の正体にすぐ気付いた。
いつもなら、さくやは俺が帰るとすぐに出迎えてくれる筈なのに、そこにはいなかった。
「さくや?寝てるのか?」
昼寝でもしていて、寝過したのだろうか。
俺はいつもさくやがいる居間へと向かう。
「……?」
おれは妙な違和感を感じた。
「……さくや?」
その違和感の正体にすぐ気付いた。
いつもなら、さくやは俺が帰るとすぐに出迎えてくれる筈なのに、そこにはいなかった。
「さくや?寝てるのか?」
昼寝でもしていて、寝過したのだろうか。
俺はいつもさくやがいる居間へと向かう。
「……」
……案の定、居間にはさくやがいた。
……さくやはぼんやりと、何もない空間をじっと見つめていた。
……さくやはぼんやりと、何もない空間をじっと見つめていた。
「……さくや?」
俺はさくやに声を掛けた。
……さくやはクルリと、ゆっくり俺の方を向いた。
「おにいさん、だぁれ?」
×月□日
「さくやー、飯だぞー」
俺は昨日の残り物のシチューを温め、皿に盛り、さくやを呼んだ。
「はーい!」
さくやは元気良く俺の所まで跳ねて来た。
「おにいさんおにいさん、きょうのごはんさんはなに?」
「あぁ、昨日のシチューだよ」
「しちゅーなんだね!ねぇ、それっておいしいの?」
「俺が作ったからな、美味いに決まってるさ」
「さくや、おいしいごはんさんはだいすきだよ!おにいさん、はやくたべようよ!」
「ちょっと待ってな」
「あぁ、昨日のシチューだよ」
「しちゅーなんだね!ねぇ、それっておいしいの?」
「俺が作ったからな、美味いに決まってるさ」
「さくや、おいしいごはんさんはだいすきだよ!おにいさん、はやくたべようよ!」
「ちょっと待ってな」
俺ははやるさくやを少し待たせ、近くの棚の引き出しを開ける。
中に入っている白い袋の中から、錠剤を取り出し、それをさくやの分のシチューに混ぜる。
中に入っている白い袋の中から、錠剤を取り出し、それをさくやの分のシチューに混ぜる。
「おにいさん、それなぁに?」
「ん……、砂糖と塩だよ。もっと美味しくなるようにかけたんだ。ほれ、お食べ」
「いただきまーす!むーしゃむーしゃ……、おにいさん、しちゅーっておいしいね!」
「美味しいだろ?」
「うん!」
……さくやはシチューの味に舌鼓を打ちながら、錠剤と一緒にシチューを口に入れる。
「ごちそうさまでした!」
さくやは数分もしない内に、シチューをペロリと平らげた。
「さくや、今から俺、ちょっと出掛けるから、留守番頼むよ」
「はーい!」
俺はさくやが食べ終えたシチューの皿を片づけ、玄関へ向かった。
靴を履き、玄関を出て、しっかりと鍵を掛ける。
「ん……、砂糖と塩だよ。もっと美味しくなるようにかけたんだ。ほれ、お食べ」
「いただきまーす!むーしゃむーしゃ……、おにいさん、しちゅーっておいしいね!」
「美味しいだろ?」
「うん!」
……さくやはシチューの味に舌鼓を打ちながら、錠剤と一緒にシチューを口に入れる。
「ごちそうさまでした!」
さくやは数分もしない内に、シチューをペロリと平らげた。
「さくや、今から俺、ちょっと出掛けるから、留守番頼むよ」
「はーい!」
俺はさくやが食べ終えたシチューの皿を片づけ、玄関へ向かった。
靴を履き、玄関を出て、しっかりと鍵を掛ける。
「……」
居間の窓から、さくやが俺の用意した絵本を面白そうに読んでいるのが見えた。
「……」
俺は我が家に背を向け、歩き出した。
「先生、こんにちは」
「こんにちは。さくやさんの調子はいかがですか?」
「……あまり」
「そうですか……」
「こんにちは。さくやさんの調子はいかがですか?」
「……あまり」
「そうですか……」
俺は診察室の椅子に座りながら、半年程前のさくやの事故の際にお世話になったゆっクリニック主治医の先生と話をしていた。
俺の用事とは、このゆっクリニックの先生に会い近況報告をする事だ。
俺の用事とは、このゆっクリニックの先生に会い近況報告をする事だ。
「……最近では昨日食べた食べ物や、絵本の内容を完全に忘れてしまっています」
「ふむ……、緩やかですが、症状が進行していますね。薬を倍出しましょう」
「それと、多分味覚も段々おかしくなってきてると思います。甘い食べ物が辛いと言う時がありますから」
「甘味や苦味を感じる薬だと飲まなくなる可能性がありますね。薬の一部を無味のシロップに変えてみます」
「ふむ……、緩やかですが、症状が進行していますね。薬を倍出しましょう」
「それと、多分味覚も段々おかしくなってきてると思います。甘い食べ物が辛いと言う時がありますから」
「甘味や苦味を感じる薬だと飲まなくなる可能性がありますね。薬の一部を無味のシロップに変えてみます」
……俺は先生と話をしながら、あの時の事を思い返していた……。
「……それについてですが、この方法にはある『デメリット』があります」
「デ、デメリット……?」
俺には先生の言っている『デメリット』が何なのか分からなかった。
中身が失われているなら、代わりのものを入れれば、それで良いんじゃないのか?
「はい。それは……」
困惑している俺に、先生はその『デメリット』について語り始めた……。
「デ、デメリット……?」
俺には先生の言っている『デメリット』が何なのか分からなかった。
中身が失われているなら、代わりのものを入れれば、それで良いんじゃないのか?
「はい。それは……」
困惑している俺に、先生はその『デメリット』について語り始めた……。
「……それは、さくやさんが、さくやさんでなくなってしまう可能性がある事です」
「……え?」
……俺は、先生が何を言っているのか分からなかった。
さくやが……、さくやで、なくなる……?
……駄目だ、さっき以上に訳が分からなくなってきた。
「……この人工餡は、人間で言う失われた臓器を補う役割を果たします」
「は、はい……」
「……ですが、その人工餡が、さくやさんの体に適応しなかった場合、様々な副作用が生じます」
「副作用……?」
「まず第一に現れる症状は記憶障害……、最初は最近の記憶について障害が出始めますが、数ヶ月もすれば、次第に古い記憶にも障害が出始めます」
「……つまり……、さくやは、昔の事を……、俺の事も、忘れてしまうんですか……?」
「はい。そうなります」
「そんな……」
……俺は先生の言う事が信じられなかった。
さくやが俺の事を忘れてしまうなんて、信じられなかったのだ。
「記憶障害は……、やがてさくやさん自身のゆん格にも及びます。簡単に言うと、本来の自分を、忘れていくのです」
「自分を……」
「さくやさん自身は、自分が変わっていく事に全く気付いていません。忘れた記憶を無理に思い出そうとすれば、パニックに陥ります」
「……」
「記憶障害の症状から順々に身体機能の異常……、運動機能や免疫力の低下、時折生じる発作や激しい痛覚などが出始めます」
「……」
「最初は薬などで症状を抑える事は出来ますが、やがて薬でもその症状を抑えられなくなります。」
「……」
「そして何より重要なのは……、一度この方法を実施して適合しない場合、無理に人工餡を取り除こうとすれば、さらなる命の危険性があるという事です」
「……これで私の話は終わりです」
「……」
「……結論は出ましたか?この方法を実施するかどうか、私は飼い主であるあなたの判断に委ねます」
「……」
……俺はすぐに答えを出す事が出来なかった。
俺の選択一つで、さくやの命も、これからのゆん生も、全て決まるからだ。
しかし、こうして黙り、悩んでいる間にもさくやの命の灯火が消えつつある。
……けれども、『それ』を選ぶには、あまりにも酷すぎる。
どうすればいいのか。
どちらが、俺と、さくやにとって正しい選択となるのか。
さくやが……、さくやで、なくなる……?
……駄目だ、さっき以上に訳が分からなくなってきた。
「……この人工餡は、人間で言う失われた臓器を補う役割を果たします」
「は、はい……」
「……ですが、その人工餡が、さくやさんの体に適応しなかった場合、様々な副作用が生じます」
「副作用……?」
「まず第一に現れる症状は記憶障害……、最初は最近の記憶について障害が出始めますが、数ヶ月もすれば、次第に古い記憶にも障害が出始めます」
「……つまり……、さくやは、昔の事を……、俺の事も、忘れてしまうんですか……?」
「はい。そうなります」
「そんな……」
……俺は先生の言う事が信じられなかった。
さくやが俺の事を忘れてしまうなんて、信じられなかったのだ。
「記憶障害は……、やがてさくやさん自身のゆん格にも及びます。簡単に言うと、本来の自分を、忘れていくのです」
「自分を……」
「さくやさん自身は、自分が変わっていく事に全く気付いていません。忘れた記憶を無理に思い出そうとすれば、パニックに陥ります」
「……」
「記憶障害の症状から順々に身体機能の異常……、運動機能や免疫力の低下、時折生じる発作や激しい痛覚などが出始めます」
「……」
「最初は薬などで症状を抑える事は出来ますが、やがて薬でもその症状を抑えられなくなります。」
「……」
「そして何より重要なのは……、一度この方法を実施して適合しない場合、無理に人工餡を取り除こうとすれば、さらなる命の危険性があるという事です」
「……これで私の話は終わりです」
「……」
「……結論は出ましたか?この方法を実施するかどうか、私は飼い主であるあなたの判断に委ねます」
「……」
……俺はすぐに答えを出す事が出来なかった。
俺の選択一つで、さくやの命も、これからのゆん生も、全て決まるからだ。
しかし、こうして黙り、悩んでいる間にもさくやの命の灯火が消えつつある。
……けれども、『それ』を選ぶには、あまりにも酷すぎる。
どうすればいいのか。
どちらが、俺と、さくやにとって正しい選択となるのか。
俺は……。
「……ん。……さん?」
「え……、あっ、はい!」
「え……、あっ、はい!」
……俺は先生に呼ばれている事に気付いていなかった。
「では、今日から薬の種類と量を変えてみます。何か別の症状が出始めたら、すぐ連絡をよこして下さい」
「はい、分かりました……」
俺は先生にお辞儀をして、診察室を出た。
受付付近の椅子に座りながら、呼ばれるのを待つ。
「では、今日から薬の種類と量を変えてみます。何か別の症状が出始めたら、すぐ連絡をよこして下さい」
「はい、分かりました……」
俺は先生にお辞儀をして、診察室を出た。
受付付近の椅子に座りながら、呼ばれるのを待つ。
(……俺は……)
……俺は、分からなくなってきた。
さくやの記憶が、さくや自身が変わりつつある事を、あの時の俺は覚悟していた筈だ。
さくやが変わっていく事に動揺しないよう、さくやの知っている、『いつもの』俺を演じ続ける。
それがさくやの為だと信じていた。
……しかし今、俺はとても後悔している。
さくやの症状がこれ以上悪くなり続けるのを、このまま見続ける事しか出来ない自分に、不甲斐なさを感じている。
さくやの記憶が、さくや自身が変わりつつある事を、あの時の俺は覚悟していた筈だ。
さくやが変わっていく事に動揺しないよう、さくやの知っている、『いつもの』俺を演じ続ける。
それがさくやの為だと信じていた。
……しかし今、俺はとても後悔している。
さくやの症状がこれ以上悪くなり続けるのを、このまま見続ける事しか出来ない自分に、不甲斐なさを感じている。
(……俺は、一体どうすれば……)
俺は今も、その答えを出せないでいる。
……そんな俺を余所に、無情にも時間と月日が流れ続ける。
「おにいさん、さくやのからだ、なんだかおもくなってるきがするよ……」
「……きっと体が疲れてるんだよ。ゆっくり休めば、元気になるよ」
「うん、わかった!おにいさんがいうなら、きっとそうなんだよね!」
「……」
「あのね、きんじょのおじさんのところのれいむとまりさがね、こんどさくやといっしょにあそぼっていったの!」
「……そっか。でも、しばらくは休んで、元気になってから遊ぼうな」
「うん、わかった!」
「……きっと体が疲れてるんだよ。ゆっくり休めば、元気になるよ」
「うん、わかった!おにいさんがいうなら、きっとそうなんだよね!」
「……」
「あのね、きんじょのおじさんのところのれいむとまりさがね、こんどさくやといっしょにあそぼっていったの!」
「……そっか。でも、しばらくは休んで、元気になってから遊ぼうな」
「うん、わかった!」
さくやは体を満足に動かせなくなっていた。
先生が言うには、体内の中身が硬化しつつあるとの事だった。
先生が言うには、体内の中身が硬化しつつあるとの事だった。
「おにぃさん……、ぽんぽんいたいよぅ……」
「大丈夫か?ほら、痛みが飛んでいく『お水』だ」
「ごく……、ごく……、……げほっ!?がはぁっ……!!」
「さくや!?大丈夫か!?」
「ぐぅ……、お、おにいさん、だいじょう、むせただけ……、ぽんぽん、なでて、いつもみたいに……」
「落ち着いたか?」
「うん、おにいさん、ごめんね……」
「大丈夫か?ほら、痛みが飛んでいく『お水』だ」
「ごく……、ごく……、……げほっ!?がはぁっ……!!」
「さくや!?大丈夫か!?」
「ぐぅ……、お、おにいさん、だいじょう、むせただけ……、ぽんぽん、なでて、いつもみたいに……」
「落ち着いたか?」
「うん、おにいさん、ごめんね……」
さくやは薬だけでなく、食べ物も満足に摂る事が出来なくなっていた。
辛うじて水やスープなどは飲む事が出来るが、その内それすらも受け付けなくなるだろう。
辛うじて水やスープなどは飲む事が出来るが、その内それすらも受け付けなくなるだろう。
「ああぁぁぁぁっ……!!い、いたいぃっ……!!あ、あたまがあぁ……!!」
「さくや!?さくや!?」
「うっ……、くぅ……、はぁ……、はぁ……」
「大丈夫か!?さくや!!」
「……おにいさん、どこ……?」
「!?」
「おにいさんのこえはきこえるのに、そこにいるのに、みえないよ、おにいさん……」
「さくや!?さくや!?」
「うっ……、くぅ……、はぁ……、はぁ……」
「大丈夫か!?さくや!!」
「……おにいさん、どこ……?」
「!?」
「おにいさんのこえはきこえるのに、そこにいるのに、みえないよ、おにいさん……」
日に日に体を激痛が襲うようになり、目も見えなくなっていった。
さくやの悲鳴や呻き声が、家の中に響くようになっていた。
さくやの悲鳴や呻き声が、家の中に響くようになっていた。
「……」
「さくや、お腹空いてないか?どこか、苦しくないか?」
「……だいじょうぶ」
「何かあったらすぐに言えよ。我慢しないで言ってくれよ」
「……だいじょうぶ」
「さくや……」
「……だいじょうぶ」
「さくや、お腹空いてないか?どこか、苦しくないか?」
「……だいじょうぶ」
「何かあったらすぐに言えよ。我慢しないで言ってくれよ」
「……だいじょうぶ」
「さくや……」
「……だいじょうぶ」
さくやが、少しずつ、壊れていく。
さくやの辛そうな顔、苦しそうな顔、疲れ切った顔を見て、俺は思う。
さくやの辛そうな顔、苦しそうな顔、疲れ切った顔を見て、俺は思う。
さくやを苦しめているのは、誰でもない、俺なんだと。
×月△日
「おにいさん……、そこにいるの……?」
「あぁ、ここにいるよ」
「あぁ、ここにいるよ」
さくやは居間のクッションの上で横になっていた。
目の下にはクマが出来ていて、息も絶え絶えで、目は白く濁っていた。
恐らく、俺の姿はまともに見えていないだろう。
……もう、さくやの体も心もボロボロだ。
今じゃ一日に何回かは俺の姿を見て怯え、俺に助けを求めている。
おにいさん、おにいさんと助けを求めて……、俺が大丈夫だよと頭を撫でてやると、安心した様子で目を閉じる。
……俺はこれ以上、さくやがおかしくなっていく姿を見たくなかった。
目の下にはクマが出来ていて、息も絶え絶えで、目は白く濁っていた。
恐らく、俺の姿はまともに見えていないだろう。
……もう、さくやの体も心もボロボロだ。
今じゃ一日に何回かは俺の姿を見て怯え、俺に助けを求めている。
おにいさん、おにいさんと助けを求めて……、俺が大丈夫だよと頭を撫でてやると、安心した様子で目を閉じる。
……俺はこれ以上、さくやがおかしくなっていく姿を見たくなかった。
「おにいさん」
「何だ?」
「……さくや、ずっと、このままなのかな」
「……!!」
「からだもだるくていたいし、めもみえないし、すごくねむたいし……。もう、よくならないのかな」
「……何言ってるんだよ、さくや。今はただ、疲れてるだけだ。ちゃんと休めば、前みたいに元気になるから」
「何だ?」
「……さくや、ずっと、このままなのかな」
「……!!」
「からだもだるくていたいし、めもみえないし、すごくねむたいし……。もう、よくならないのかな」
「……何言ってるんだよ、さくや。今はただ、疲れてるだけだ。ちゃんと休めば、前みたいに元気になるから」
……嘘を吐くなよ、俺。
……この前、先生に言われたばかりじゃないか。
もう、さくやは長くないって。
何とかして下さい、もう一回手術してくださいってすがる俺に、先生は言っただろうが。
……この前、先生に言われたばかりじゃないか。
もう、さくやは長くないって。
何とかして下さい、もう一回手術してくださいってすがる俺に、先生は言っただろうが。
『最後の瞬間まで、さくやさんの傍にいてあげてください』
……そう、言われただろうが。
「……そうかなぁ。ちゃんと、げんきになれるかな?」
「当たり前だろ。さくやは元気な子だ。きっと良くなるよ」
「そっか……」
「あぁ、そうだよ」
「当たり前だろ。さくやは元気な子だ。きっと良くなるよ」
「そっか……」
「あぁ、そうだよ」
「……そうだよね!おにいさんはいつだって、さくやにうそをついたこと、ないもんね!」
―あぁ、だからゆっくり休みなよ。
「……ごめんな……!!ごめんな、さくや……!!」
俺は、さくやに、そうだよとは……、言えなかった。
「おにいさん……?」
「おにいさん……?」
「俺は……、お前に、死んでほしくなくて……、心の底から、命だけは助かってほしいと願ってたんだ……」
……今のさくやに言っても、何の事だか分かる訳がない。
「でも、俺は……、俺は、お前を苦しめてた!お前に嘘を吐き続けてた!!」
……それでも、言わずにはいられなかった。
「大事な事を忘れていくお前に何も言わなかった!!壊れていくお前を前に、俺は本当の事を言えなくて、嘘を吐く事に必死だった!!」
……ただ、さくやに謝りたかった。
「俺はお前を……、ただ、不幸にしただけだった……。ごめんな……、ごめんな、さくや……、さくや……」
「……おにいさん。さくやは、おにいさんが、なにをいってるのか、よくわからないよ……」
「さくや……」
「でも、おにいさんはなにもわるくないよ。さくやはおにいさんのことをうらんだことなんて、いちどもないよ」
「でも……、俺は、お前を……」
「さくやは、おにいさんと……、やさしくて、かっこよくて、さくやがだいすきなおにいさんといられて、ほんとうによかったよ」
「う、うぅっ……!」
「さくや……」
「でも、おにいさんはなにもわるくないよ。さくやはおにいさんのことをうらんだことなんて、いちどもないよ」
「でも……、俺は、お前を……」
「さくやは、おにいさんと……、やさしくて、かっこよくて、さくやがだいすきなおにいさんといられて、ほんとうによかったよ」
「う、うぅっ……!」
「だから、なくのはやめて、おにいさん。おにいさんのないてるかおは、おにいさんらしくないんだから」
「……あぁ。分かった。もう泣かないからな」
俺は涙を拭いて、さくやに笑ってみせた。
「うん、いつものおにいさんのかおだよ。……さくや、あんしんしたよ」
さくやはそう言って、ニコリと微笑んだ。
俺は涙を拭いて、さくやに笑ってみせた。
「うん、いつものおにいさんのかおだよ。……さくや、あんしんしたよ」
さくやはそう言って、ニコリと微笑んだ。
「おにいさん」
「何だ?」
「さくや、なんだか、つかれてきたよ」
「何だ?」
「さくや、なんだか、つかれてきたよ」
そう言うさくやの瞳が、徐々に閉じつつある。
……俺は分かっていた。
さくやが目を閉じれば、もうさくやは目を覚まさないだろうという事を。
それでも俺は、止める事は出来ない。
……俺は分かっていた。
さくやが目を閉じれば、もうさくやは目を覚まさないだろうという事を。
それでも俺は、止める事は出来ない。
「ゆっくり休みなよ、さくや」
「うん、そうだね、さくや、ゆっくりやすむよ」
「うん、そうだね、さくや、ゆっくりやすむよ」
瞼の隙間から見えるさくやの瞳の光が、消えていく。
さくやの命が、消えていく。
……俺はそれを、最後の瞬間まで見届けなければいけなかった。
現実から目を逸らす訳にはいかなかった。
さくやの命が、消えていく。
……俺はそれを、最後の瞬間まで見届けなければいけなかった。
現実から目を逸らす訳にはいかなかった。
「あのね、おにいさん。……さくやね、めがさめたらね、……おにいさんとあそびたいな」
「俺と?」
「うん。おにいさんとたくさん、きのすむまで、おもいっきりあそんで、こころのそこから、わらって、たのしみたい」
「あぁ。さくやの気の済むまで、目一杯遊んでやるからな」
「……うん。ありがとう、おにいさん」
「約束だからな」
「うん、やくそくだね」
「俺と?」
「うん。おにいさんとたくさん、きのすむまで、おもいっきりあそんで、こころのそこから、わらって、たのしみたい」
「あぁ。さくやの気の済むまで、目一杯遊んでやるからな」
「……うん。ありがとう、おにいさん」
「約束だからな」
「うん、やくそくだね」
俺はさくやが壊れつつあると思い続けていた。
……でも、それは間違いだった。
今なら思える。
忘れるとか、思い出すとか、そんな事じゃない。
……変わってないんだ。
……でも、それは間違いだった。
今なら思える。
忘れるとか、思い出すとか、そんな事じゃない。
……変わってないんだ。
……さくやは、ずっと、俺の大切な、さくやのままなんだ。
「おやすみなさい、ごしゅじんさま」
さくやはそう言って、瞳を閉じた。
その表情は、とても安らかなものだった。
「……お休み、さくや」
俺はさくやの頭を優しく撫でた。
返事は、返ってこなかった。
涙は、出なかった。
もう、泣かない、前を向いて歩いて行く。
……ちゃんと、約束したもんな、さくや……。
?月?日
あのときは、ただ、とてもさむかった。
じぶんのいばしょはどこにもなくて、どこにいけばいいのかわからなくて、ただ、うずくまってた。
じぶんはすてられたということはわかっていた。
じぶんはじゅうしゃなのだから、ごしゅじんさまにさからってはいけないということはわかっていた。
ごしゅじんさまがきめたことだから、じゅうしゃのじぶんは、それにしたがう。
あたりまえのことなのに、ただ、それが、かなしかった。
じぶんはこれから、どうすればいいのか、わからなかった。
「……お前、ゆっくりか?こんな所で何やってんだ?」
……そうおもっていたとき、めのまえに、ひとりのおとこのひとがあらわれた。
「飼い主は?」
じぶんはくびをよこにふった。
じぶんにはそれしかできなかったから。
「……そのままじゃ、凍え死ぬぞ。どこにも行く場所がないなら、俺の家に来いよ」
そういって、おとこのひとは、てをさしのべて、じぶんのてを、にぎってくれた。
そのてはとても、あたたかかった。
「……いいのですか?ついていっても、いいのですか?」
じぶんは、おとこのひとにそうたずねた。
「いいよ、どうせ一人だし。一人より、二人の方が良いからな」
おとこのひとはそういって、わらっていた。
……そのえがおをみて、おもった。
……このひとのおやくにたちたい、さいごまでごいっしょしたい……、と。
「……わたくしは、さくやともうします。……どうか、よろしくおねがいいたします。……ごしゅじんさま」
……さようなら、ごしゅじんさま。
……はじめまして、ごしゅじんさま。
これは、一人の従者の終わりの物語。
これは、一人の主の始まりの物語。
……これは、二人の全ての物語。
END
あとがき
知らない方は初めまして、知っている方はお久しぶりです。
失踪に定評のあるぺけぽんでございます。
前の投稿から約半年も過ぎてしまいました。
このSSを書きあげるのにも一ヶ月以上かかり、やっとの事での投稿となりました。
僕もメイドさん欲しいなぁ。
ご意見、ご感想、お待ちしています。
失踪に定評のあるぺけぽんでございます。
前の投稿から約半年も過ぎてしまいました。
このSSを書きあげるのにも一ヶ月以上かかり、やっとの事での投稿となりました。
僕もメイドさん欲しいなぁ。
ご意見、ご感想、お待ちしています。
作者:ぺけぽん
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今までに書いたSS
anko1656 クズとゲス
anko1671 うにゅほのカリスマ求道記
anko1767 あなたは、食べてもいい○○○○?
anko1788 そんなの常識ですよ?
anko1926~1928 二人はW ~Yは二度と帰らない~
anko2079 しんぐるまざー
anko2750 無意識だから
anko2786 ともだち
anko3189 おちびちゃんは大切だよ!
anko3210 バクユギャ
anko3221 根本的な間違い
anko3249 お兄さんは興味が無い
anko3261 それぞれの願い
anko3319 好みは人それぞれ
anko3330~3331 HENNTAI達の日常~メスブタの家出~
anko3343 HENNTAI達の日常~駄メイドの休日~
anko3360 可哀想なゆっくり
anko3419 優秀or無能
anko3469 たまたま
anko3528 悪いのは誰?
anko3885 可愛いは正義
anko3983~3984 それぞれの冬ごもり
anko3996 野良ゆが消えない理由
anko4028~4030 邪悪なる者達
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