ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko4336 ゆっくりは一流テイスター
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『ゆっくりは一流テイスター』 9KB
観察 考証 小ネタ 実験 現代 リベンジ作品
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過去作
anko3752 解析兄の『ゆっくり組成編成』
anko3776 解析兄の『ゆっくり創世記』
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- 半年前にフルボッコにされたあいつです
- 需要を研究してみたつもり
- 考証小ネタ
ゆっくりは一流テイスター
「いいかみんな!」
「よくねえよ」
思わぬ横槍に教壇の上の教授がカッと目を見開いて声がした方を向く。これが大講堂だったら声の主を特定するのは不可能に近いが、この部屋は小さなゼミ室で、そもそもゼミ生は四人しか居ない。
「お前、次のテスト結果覚えとけな」
「ひでえ!」
さて、このゼミはゆっくり学が主題である。ゆっくりを検体にして様々な実験や解剖を行うというゼミの内容のため、一見で訪れた愛護家は憤慨して帰り、残ったのは進路に迷った学生やら鬼威惨やらといった変人ばかりとなった。まあ、進路という意味では安定の加工所コースがあるので心配は要らないだろう。
教授はというと、まだそんなに権威とかいうものが出来るほど広い学問でないため、実は加工所からの出張研究員である。
「さてみんな。今日のゼミはゆっくりの味覚について学ぼう」
教授が白板へ、ゆっくりやケーキなどを象ったマグネットを貼りつけた。ゆっくりはれいむとまりさ、他にケーキ、コーヒー、タバスコなどがある。
「ゆっくりが甘いもの好きなのは知ってのとおりだ。自然界には少ないが、それゆえに『あまあま』といって溺愛しているな」
白板上のれいむの側へケーキを近寄せると、教授は『しあわせー!』と書いた吹き出しをれいむの上に付け足した。それだけで鬼と書かれたTシャツを着ている学生の眉間に血管が浮かぶ。
「ではコーヒーのような苦いものを食べるとどうなるかな。はい、そこの君」
「餡子吐いて死にます」
器用にシャープペンを指先でくるくる回していた学生が答える。
「うん、正解。じゃ、辛いものは」
「これ、どくはいっちぇる!」
最初に教授へツッコミを入れた学生が、妙にうまいゆっくりのモノマネで答えてみせる。鬼Tシャツの学生の眉間にシワが寄ったのは言うまでもない。
「その通り。でも、それだけでゆっくりにとって辛いものや苦いものは本当に毒だと言えるのだろうか? VTRを見てみよう。はい、テレビデオ」
教授は間髪入れず部屋の隅のテレビデオへVHSを叩きこむ。
そこに映った映像には、頭の一部が切り取られて中身が見えるゆっくりがいた。暴れる様子が無いのは麻酔を掛けてあるからだろう。
――では、ゆっくりの中へコーヒーの粉を入れます。
インスタントコーヒーのものらしき顆粒がゆっくりの体内へ投入されていく。流動する液状の餡子にどんどんコーヒーが飲み込まれていくが、ゆっくりの表情に苦しそうなものは見られない。それどころかコーヒーの香りを感じ取ってか「れいむにもちょうだいね!」などと喚いている。
――続いてタバスコを入れます。
業務用らしい巨大なタバスコの瓶から、まるで醤油でも入れるかのようにタバスコが注ぎ込まれていく。しかしそれでもゆっくりは苦しくないようだ。一応匂いは感じ取っているらしく、「なんだかすっぱいにおいがするよ!」と叫んでいる。
ゆっくりは口から食べ物を食べても、このように直接体内の餡子に混ざっても同じように消化する。コーヒーやタバスコが餡子に混ざっても大丈夫ということは、苦味や辛味はゆっくりにとって平気だということだろうか。いや、そんなはずはない。
――次に同じ大きさのゆっくりへ、コーヒーとタバスコを経口摂取させます。
――ちゃんと口に含むように、耐水性のカプセルに包んであります。
左にはコーヒー、右にはタバスコとテロップが出ており、画面の左右で別々のまりさが映っている。まりさたちは与えられたカプセルに警戒しているようだったが、手前にいるらしい人から餌だと教えられると嬉々として口に放り込んだ。
――むーしゃむーしゃ、しあわぶぼらっ。
――ゆげげえ、これどくはいっちぇる!
だいたい同じタイミングで盛大に餡子を吐き出した。『にがにがさん』とか『からからさん』とか言っているが、要するに毒だ、と二頭は認識しているらしい。
「つまり、ゆっくりにとって苦味や辛味のある食べ物は毒ではないのですか? それともゆっくりにとってだけ顕れる経口毒とか」
今にも何かが爆発しそうだった鬼Tの学生が、吐き出すゆっくりを見た途端、打って変わって賢者のような表情で教授へ質問を投げかけた。教授はビデオを一時停止させると、ふむとうなずきかける。
「ゆっくりにだけ顕れる経口毒。いい発想だ。しかし最近の加工所の研究では、ゆっくりに効く毒物は発見されていない、ということになっている。毒物は効かない。されど苦味や辛味で餡子を吐き、ゆっくりころりや忌避剤で死に至る。面白い矛盾だな。ま、とりあえず続きをみてみようか」
――同条件で苦味や辛味の度合いを落としたカプセルを与えます。
今度は画面が四分割されて、それぞれ百分の一、一万分の一の辛味と苦味というテロップが出ている。そして四画面ともだいたい同じようなタイミングで同じような反応をした。要するに、
――むーしゃむーしゃ、しあわゆげえっ。
というやつである。ただし今回の場合はカプセルの破片と少量の餡子を吐き出しただけだった。コーヒーの顆粒とタバスコの原液の方は、吐き出したあとも半死半生といった感じだったが、度合いを落としたものは抗議をする余力さえある。
教授はビデオを一時停止させると、白板の隅へ『甘味、塩味、苦味、酸味』と書いた。
「あとこれに辛味とか旨味などを加えて五味という。人間など多くの動物が持つ基本的な味覚だな。ゆっくりもこれら五味を感じ取ることが出来るが、これには不思議な点がひとつある。なんだか分かるかな。はい、君」
部屋の後ろのほうでノートパソコンをかたかたやっていた学生が指さされる。何をやっていたのかは分からないが、指さされてびっくりした拍子にマウスを落としたようだ。
「えっ、あ、はい。えーーーーと、んーーーー、えっと、分からないです」
「ふむ、まあ簡単に分かったら加工所に来て欲しいくらいの逸材なんだけどな」
教授は意地悪そうに笑う。どうやら分かっていて彼を狙い撃ちにしたらしい。
「不思議な点とはゆっくりの味覚と毒耐性の矛盾だ。いや、ああ、確かにさっき言ったことだが、不思議とは更にその奥にある。例えば猫は甘味を感じることが出来ない。猫は体内で糖を生成できるために糖を経口摂取する必要がなく、そのために甘味を感じる必要がないのだ。また人間の赤ん坊は辛味を忌避する。それは辛味が口内の痛覚と同じであり、若いほど痛みに対する耐性が低いことから来るものだ」
「ということはつまり、ゆっくりは辛いものも苦いものも消化できるのに対応する味覚がある、ということが不思議なわけですね?」
はっと天啓を得たかのように顔を上げた鬼Tの学生が呟く。教授はそれを聞いて嬉しそうに微笑んだ。きっと自分の望んだ回答であったのだろう。
「そのとおり。世の中にはゆっくりコンポストという生ゴミ処理用ゆっくりがいて、それは明らかに危険なレベルの廃棄物を食べさせられることもあるという。調整剤を与えなければ長期間持たせることは出来ないと言われているが、調整剤とは名ばかりの砂糖水であり、精神的な気付けの目的であることは明らかだ。本来なんでも餡子に変換してしまうゆっくりにとって、食べられないものというのは本当はないのかもしれない……おっと」
教授ははたと口元に手をやった。
「調整剤がただの砂糖水って話はオフレコで頼むよ。私が加工所に怒られちまう」
照れ隠しのようにがははと笑って、教授はビデオの続きを流した。
――最後に甘い食べ物、それの一万分の一の甘さの食べ物、合成甘味料で百倍に甘くしたものを、それぞれ別のゆっくりへ与えます。
まず通常の小豆あんというテロップが出た。画面には既に『あまあま』を感知したのか、止めどなくよだれをたらしているゆっくりが映っている。
――あまあまだああああ! むーしゃ! むーしゃ! しあわせええええ!
賢者な鬼Tが臨戦態勢に入るのが目の端に映る。喜怒の激しい人だ。
はっきりいって野良ではよく見る光景である。最近では食品の廃棄物が多いと聞くからなおさらだろう。そして甘味に慣れたゆっくりが今後の食生活に絶望するのもまたテンプレというやつだ。そういえば旨味に慣れるゆっくりというのは聞かない気がする。きっとゆっくりは旨味より甘味のほうがゆっくりできるからだろう。私も甘いものは大好物だ。
次に一万分の一希釈砂糖水というテロップが出てくる。比較実験とするなら餡子にしなければいけないところだが、甘くない餡子を作るのが難しかったのかもしれない。
――ぺーろぺーろ、あまあまー。ぺーろぺーろ……。
さっきとは明らかなテンションの違いがある。感情がストレートに出るゆっくりにとって、この差はちょうど一万分の一くらいなのかもしれない。それにしても一万倍といえばバスタブ一杯の水に大さじ一杯くらいだ。人間の味覚ではこの甘さを感じることは出来るのだろうか。如何に餡子が甘いとはいえ、一万倍の水で希釈したらほとんど色のついた水だろう。
次は合成甘味料入り百倍甘味餡子とテロップが出た。甘味料だから匂いまで変化するわけでもないのに、画面のゆっくりの目は完全に血走っている。個体差だろうか。
――むーしゃ! むーしゃ! むーしゃ! し! あ! わ! せえええええええええええええ! もっと! もっとよこせええええ!
何かが折れる音がした。鬼Tの学生のシャーペンがその握力によってへし折られたことによるものだ。しかしもはやゼミ内では慣れっこのため、誰も気にしない。
当のゆっくりはゆん生最高の、恐らく人間でも口にしないような甘味を食べて、涙を流しながら幸福に浸っている。しかし恐らく舌が甘味に慣れきってしまって、この先まともな食事はできないだろう。というより点滴なしでは生きられない可能性が高い。実験用ゆっくりにそこまで金が掛けられるわけもなく、すでに未来が見えている当ゆんには少し同情する。
かちりと音がしてビデオが停止した。どうやらビデオは実験映像だけを抜粋したものだったようだ。
「さてこのビデオから分かることは、ゆっくりの味覚が異様に鋭いということだ。なぜそんなに鋭敏な味覚が必要なのか。より美味しさを味わうため、すなわち、よりゆっくりするため。これに尽きるだろう。ゆっくりは饅頭の体を持ち、なんでも餡子に変換する能力を持つこと以外、人間に酷似しているという。『ゆっくりしていってね!』で全ての会話が成り立つゆっくりに何故それ以外の言葉が芽生えたのか。無駄話を楽しむためだ。すりすりだけで繁殖できるのに、なぜ体力を使う交接型生殖が芽生えたのか。生殖を楽しむためだ。ここまで言えば分かると思うが、君、何故ゆっくりは辛味や苦味を毒と認識するのか?」
初めて私に質問が来た。いつも無視されているんじゃないかと心配になるが、考えてみれば私はゆっくりのことならどんな学生より詳しい。当たり前だ。なにしろほとんどが実体験なのだから。
楽しむため、ゆっくりするために感覚を鋭くしたゆっくり。しかしそれによって得られるのは何もゆっくりできることばかりではない。
「鋭敏な味覚が苦味や辛味を異常な数値で捉えるために起きるショック症状です、教授」
「まさしくその通り。ゆっくりはゆっくりを追求するあまり、ゆっくりできないことも洗練されてしまったというわけだ。ゆっくりの平均的な精神年齢は人間で言えば6歳くらいだという。もしゆっくりが長生きして苦味や辛味に慣れることが出来れば、一流テイスターになれるのにな」
教授はそう言って私に微笑みかける。教授は私が食べるものに気を使っていることも知っているし、それが普通の学生が食べるものよりも割高なのも知っていて、時々教授のおごりで食事に連れて行ってくれる。ただの恩師という以上の感情を教授に対して抱いているのは、私の心のなかだけの話にしておこう。
ゼミの時間も終わりに近づき、私のところへ出席表が廻ってくる。四人分しか無い出席簿の一番下、ゼミ生のみんなと同じように自分の名前の隣へ丸をつける。私の名前は鬼石和、胴付きぱちゅりーの鬼石和ぱちゅりーだ。
「よくねえよ」
思わぬ横槍に教壇の上の教授がカッと目を見開いて声がした方を向く。これが大講堂だったら声の主を特定するのは不可能に近いが、この部屋は小さなゼミ室で、そもそもゼミ生は四人しか居ない。
「お前、次のテスト結果覚えとけな」
「ひでえ!」
さて、このゼミはゆっくり学が主題である。ゆっくりを検体にして様々な実験や解剖を行うというゼミの内容のため、一見で訪れた愛護家は憤慨して帰り、残ったのは進路に迷った学生やら鬼威惨やらといった変人ばかりとなった。まあ、進路という意味では安定の加工所コースがあるので心配は要らないだろう。
教授はというと、まだそんなに権威とかいうものが出来るほど広い学問でないため、実は加工所からの出張研究員である。
「さてみんな。今日のゼミはゆっくりの味覚について学ぼう」
教授が白板へ、ゆっくりやケーキなどを象ったマグネットを貼りつけた。ゆっくりはれいむとまりさ、他にケーキ、コーヒー、タバスコなどがある。
「ゆっくりが甘いもの好きなのは知ってのとおりだ。自然界には少ないが、それゆえに『あまあま』といって溺愛しているな」
白板上のれいむの側へケーキを近寄せると、教授は『しあわせー!』と書いた吹き出しをれいむの上に付け足した。それだけで鬼と書かれたTシャツを着ている学生の眉間に血管が浮かぶ。
「ではコーヒーのような苦いものを食べるとどうなるかな。はい、そこの君」
「餡子吐いて死にます」
器用にシャープペンを指先でくるくる回していた学生が答える。
「うん、正解。じゃ、辛いものは」
「これ、どくはいっちぇる!」
最初に教授へツッコミを入れた学生が、妙にうまいゆっくりのモノマネで答えてみせる。鬼Tシャツの学生の眉間にシワが寄ったのは言うまでもない。
「その通り。でも、それだけでゆっくりにとって辛いものや苦いものは本当に毒だと言えるのだろうか? VTRを見てみよう。はい、テレビデオ」
教授は間髪入れず部屋の隅のテレビデオへVHSを叩きこむ。
そこに映った映像には、頭の一部が切り取られて中身が見えるゆっくりがいた。暴れる様子が無いのは麻酔を掛けてあるからだろう。
――では、ゆっくりの中へコーヒーの粉を入れます。
インスタントコーヒーのものらしき顆粒がゆっくりの体内へ投入されていく。流動する液状の餡子にどんどんコーヒーが飲み込まれていくが、ゆっくりの表情に苦しそうなものは見られない。それどころかコーヒーの香りを感じ取ってか「れいむにもちょうだいね!」などと喚いている。
――続いてタバスコを入れます。
業務用らしい巨大なタバスコの瓶から、まるで醤油でも入れるかのようにタバスコが注ぎ込まれていく。しかしそれでもゆっくりは苦しくないようだ。一応匂いは感じ取っているらしく、「なんだかすっぱいにおいがするよ!」と叫んでいる。
ゆっくりは口から食べ物を食べても、このように直接体内の餡子に混ざっても同じように消化する。コーヒーやタバスコが餡子に混ざっても大丈夫ということは、苦味や辛味はゆっくりにとって平気だということだろうか。いや、そんなはずはない。
――次に同じ大きさのゆっくりへ、コーヒーとタバスコを経口摂取させます。
――ちゃんと口に含むように、耐水性のカプセルに包んであります。
左にはコーヒー、右にはタバスコとテロップが出ており、画面の左右で別々のまりさが映っている。まりさたちは与えられたカプセルに警戒しているようだったが、手前にいるらしい人から餌だと教えられると嬉々として口に放り込んだ。
――むーしゃむーしゃ、しあわぶぼらっ。
――ゆげげえ、これどくはいっちぇる!
だいたい同じタイミングで盛大に餡子を吐き出した。『にがにがさん』とか『からからさん』とか言っているが、要するに毒だ、と二頭は認識しているらしい。
「つまり、ゆっくりにとって苦味や辛味のある食べ物は毒ではないのですか? それともゆっくりにとってだけ顕れる経口毒とか」
今にも何かが爆発しそうだった鬼Tの学生が、吐き出すゆっくりを見た途端、打って変わって賢者のような表情で教授へ質問を投げかけた。教授はビデオを一時停止させると、ふむとうなずきかける。
「ゆっくりにだけ顕れる経口毒。いい発想だ。しかし最近の加工所の研究では、ゆっくりに効く毒物は発見されていない、ということになっている。毒物は効かない。されど苦味や辛味で餡子を吐き、ゆっくりころりや忌避剤で死に至る。面白い矛盾だな。ま、とりあえず続きをみてみようか」
――同条件で苦味や辛味の度合いを落としたカプセルを与えます。
今度は画面が四分割されて、それぞれ百分の一、一万分の一の辛味と苦味というテロップが出ている。そして四画面ともだいたい同じようなタイミングで同じような反応をした。要するに、
――むーしゃむーしゃ、しあわゆげえっ。
というやつである。ただし今回の場合はカプセルの破片と少量の餡子を吐き出しただけだった。コーヒーの顆粒とタバスコの原液の方は、吐き出したあとも半死半生といった感じだったが、度合いを落としたものは抗議をする余力さえある。
教授はビデオを一時停止させると、白板の隅へ『甘味、塩味、苦味、酸味』と書いた。
「あとこれに辛味とか旨味などを加えて五味という。人間など多くの動物が持つ基本的な味覚だな。ゆっくりもこれら五味を感じ取ることが出来るが、これには不思議な点がひとつある。なんだか分かるかな。はい、君」
部屋の後ろのほうでノートパソコンをかたかたやっていた学生が指さされる。何をやっていたのかは分からないが、指さされてびっくりした拍子にマウスを落としたようだ。
「えっ、あ、はい。えーーーーと、んーーーー、えっと、分からないです」
「ふむ、まあ簡単に分かったら加工所に来て欲しいくらいの逸材なんだけどな」
教授は意地悪そうに笑う。どうやら分かっていて彼を狙い撃ちにしたらしい。
「不思議な点とはゆっくりの味覚と毒耐性の矛盾だ。いや、ああ、確かにさっき言ったことだが、不思議とは更にその奥にある。例えば猫は甘味を感じることが出来ない。猫は体内で糖を生成できるために糖を経口摂取する必要がなく、そのために甘味を感じる必要がないのだ。また人間の赤ん坊は辛味を忌避する。それは辛味が口内の痛覚と同じであり、若いほど痛みに対する耐性が低いことから来るものだ」
「ということはつまり、ゆっくりは辛いものも苦いものも消化できるのに対応する味覚がある、ということが不思議なわけですね?」
はっと天啓を得たかのように顔を上げた鬼Tの学生が呟く。教授はそれを聞いて嬉しそうに微笑んだ。きっと自分の望んだ回答であったのだろう。
「そのとおり。世の中にはゆっくりコンポストという生ゴミ処理用ゆっくりがいて、それは明らかに危険なレベルの廃棄物を食べさせられることもあるという。調整剤を与えなければ長期間持たせることは出来ないと言われているが、調整剤とは名ばかりの砂糖水であり、精神的な気付けの目的であることは明らかだ。本来なんでも餡子に変換してしまうゆっくりにとって、食べられないものというのは本当はないのかもしれない……おっと」
教授ははたと口元に手をやった。
「調整剤がただの砂糖水って話はオフレコで頼むよ。私が加工所に怒られちまう」
照れ隠しのようにがははと笑って、教授はビデオの続きを流した。
――最後に甘い食べ物、それの一万分の一の甘さの食べ物、合成甘味料で百倍に甘くしたものを、それぞれ別のゆっくりへ与えます。
まず通常の小豆あんというテロップが出た。画面には既に『あまあま』を感知したのか、止めどなくよだれをたらしているゆっくりが映っている。
――あまあまだああああ! むーしゃ! むーしゃ! しあわせええええ!
賢者な鬼Tが臨戦態勢に入るのが目の端に映る。喜怒の激しい人だ。
はっきりいって野良ではよく見る光景である。最近では食品の廃棄物が多いと聞くからなおさらだろう。そして甘味に慣れたゆっくりが今後の食生活に絶望するのもまたテンプレというやつだ。そういえば旨味に慣れるゆっくりというのは聞かない気がする。きっとゆっくりは旨味より甘味のほうがゆっくりできるからだろう。私も甘いものは大好物だ。
次に一万分の一希釈砂糖水というテロップが出てくる。比較実験とするなら餡子にしなければいけないところだが、甘くない餡子を作るのが難しかったのかもしれない。
――ぺーろぺーろ、あまあまー。ぺーろぺーろ……。
さっきとは明らかなテンションの違いがある。感情がストレートに出るゆっくりにとって、この差はちょうど一万分の一くらいなのかもしれない。それにしても一万倍といえばバスタブ一杯の水に大さじ一杯くらいだ。人間の味覚ではこの甘さを感じることは出来るのだろうか。如何に餡子が甘いとはいえ、一万倍の水で希釈したらほとんど色のついた水だろう。
次は合成甘味料入り百倍甘味餡子とテロップが出た。甘味料だから匂いまで変化するわけでもないのに、画面のゆっくりの目は完全に血走っている。個体差だろうか。
――むーしゃ! むーしゃ! むーしゃ! し! あ! わ! せえええええええええええええ! もっと! もっとよこせええええ!
何かが折れる音がした。鬼Tの学生のシャーペンがその握力によってへし折られたことによるものだ。しかしもはやゼミ内では慣れっこのため、誰も気にしない。
当のゆっくりはゆん生最高の、恐らく人間でも口にしないような甘味を食べて、涙を流しながら幸福に浸っている。しかし恐らく舌が甘味に慣れきってしまって、この先まともな食事はできないだろう。というより点滴なしでは生きられない可能性が高い。実験用ゆっくりにそこまで金が掛けられるわけもなく、すでに未来が見えている当ゆんには少し同情する。
かちりと音がしてビデオが停止した。どうやらビデオは実験映像だけを抜粋したものだったようだ。
「さてこのビデオから分かることは、ゆっくりの味覚が異様に鋭いということだ。なぜそんなに鋭敏な味覚が必要なのか。より美味しさを味わうため、すなわち、よりゆっくりするため。これに尽きるだろう。ゆっくりは饅頭の体を持ち、なんでも餡子に変換する能力を持つこと以外、人間に酷似しているという。『ゆっくりしていってね!』で全ての会話が成り立つゆっくりに何故それ以外の言葉が芽生えたのか。無駄話を楽しむためだ。すりすりだけで繁殖できるのに、なぜ体力を使う交接型生殖が芽生えたのか。生殖を楽しむためだ。ここまで言えば分かると思うが、君、何故ゆっくりは辛味や苦味を毒と認識するのか?」
初めて私に質問が来た。いつも無視されているんじゃないかと心配になるが、考えてみれば私はゆっくりのことならどんな学生より詳しい。当たり前だ。なにしろほとんどが実体験なのだから。
楽しむため、ゆっくりするために感覚を鋭くしたゆっくり。しかしそれによって得られるのは何もゆっくりできることばかりではない。
「鋭敏な味覚が苦味や辛味を異常な数値で捉えるために起きるショック症状です、教授」
「まさしくその通り。ゆっくりはゆっくりを追求するあまり、ゆっくりできないことも洗練されてしまったというわけだ。ゆっくりの平均的な精神年齢は人間で言えば6歳くらいだという。もしゆっくりが長生きして苦味や辛味に慣れることが出来れば、一流テイスターになれるのにな」
教授はそう言って私に微笑みかける。教授は私が食べるものに気を使っていることも知っているし、それが普通の学生が食べるものよりも割高なのも知っていて、時々教授のおごりで食事に連れて行ってくれる。ただの恩師という以上の感情を教授に対して抱いているのは、私の心のなかだけの話にしておこう。
ゼミの時間も終わりに近づき、私のところへ出席表が廻ってくる。四人分しか無い出席簿の一番下、ゼミ生のみんなと同じように自分の名前の隣へ丸をつける。私の名前は鬼石和、胴付きぱちゅりーの鬼石和ぱちゅりーだ。
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