ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko1889 こがさとあじさい
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こがさとあじさい
カラン、コロン、カラン、コロン、カラ、コロ、カラ、コロ、カラン。
かろやかな下駄の音がして、家の前で止まった様子。
洗い物を終えて手を拭きながら、ゆかりさんはその気配に耳を澄ます。
「あの子、また今日も来たねえ……」
―――――
朝方には激しかった雨も、今は穏やかに降っている。
傘を広げ、ゆかりさんはつっかけのままで表に出る。
ゆかりさんの家の庭の、道路に面した生垣からは一あじさいが一杯に咲いている。
道行く人たちが、時折、足を止めて見入るほどに見事なあじさいはゆかりさんの自慢なのだ。
今日、そのあじさいを眺めているのは、人間ではなかった。
手足は無い。
大きな――西瓜くらいはあるだろうか?――おまんじゅうのような形。
それが頭に大きな傘をかぶり、ちいさな下駄の上にちょこんとのっている。
ゆっくりこがさである。
しかし、ゆっくりについての知識は人並みにしか持っていないゆかりさんに、勿論そこまではわからない。
ただ、毎日のようにあらわれて、あじさいをながめて行くこのゆっくりに、話しかけたくなっていたのだ。
「こんにちは、ゆっくりちゃん」
「こんにちは、にんげんさん。あ、にんげんさんはおねえさんだね!」
ゆかりさんは可笑しくなる。孫だってもう小学生なのに、私のこと、おねえさんだね、だって。
「おねえさん、こがさはこがさだよ!ゆっくりしていってね!」
「そう、ゆっくりちゃんはこがさちゃんっていうのね。こがさちゃんもゆっくりしていってね!」
ゆっくりしていってね。ゆっくりの挨拶が返ってきたことに、こがさは嬉しそうな顔をする。
頭の上の傘までがぺろぺろと舌を出したのに少しぎょっとするが、
その様子があまりに嬉しそうなので、思わずゆかりさんも笑い出してしまう。
「こがさちゃん、うちのあじさいをよく見に来るのね。こがさちゃんはあじさいが好きなの?」
「うん、だいすきだよ!とってもきれいだもん!」
嬉しそうにぴょんぴょん跳びはねるこがさを見ていて、ゆかりさんは気がついた。
「あら、こがさちゃんのお目々って……」
ほとんど青に近い深い青紫の花と、ほとんど赤に近い赤紫の花。
こがさの、左右で違う色の目は、まるでそのあじさいの花を映し込んだような色だ。
「うちのあじさいの色とおんなじだねえ」
「そうなの!こがさのおめめと、おねえさんのおうちのあじさいさんはおそろいっ!なのよ!
だからこがさ、あじさいさんがすき!おねえさんのおうちのあじさいさん、だいすき!」
こがさが頬を染めて飛び跳ねる。頭の上の傘までが赤くなっているようだ。
「そう、じゃあうちのあじさいを少し切ってこがさちゃんにあげるわ。こがさちゃんの髪と…」
ゆかりさんとこがさの頭の上の傘の、目が合う。
「…こがさちゃんのかわいい傘ちゃんにあじさいの花を飾ったら、とっても素敵だと思うけど?」
こがさは顔をかしげるようにして、少し考えてから、答えた。
「おねえさん、ありがとう。でも、こがさはみんなといっしょにさいているあじさいさんがすき」
「そう、こがさちゃんはとっても優しいのね」
「おねえさん、こがさ、またおねえさんのうちにきてあじさいさんとあうの。いいでしょ?」
「もちろんよ。またきてね、こがさちゃん!」
―――――
カラン、コロン、カラン、コロン。
小さな下駄を鳴らしながら飛び跳ねていたこがさが足を止めた。
植え込みにかたつむりを見つけたのだ。
ゆっくりはゆっくりと動くものを眺めると、とてもゆっくりとした気分になるという。
こがさもゆっくりの一種であるから、かたつむりのような生き物を見るのが大好きなのだ。
葉の上を、ゆらゆらと目玉を揺らしながらゆるゆると進むかたつむり。
こがさがその姿をうっとりと眺めていると、不意に、こがさの頭の上の傘がぺろりと長い舌をのばした。
「どぼじでかたつむりさんたべちゃうのおおおおおおお?!」
こがさは内側から傘をにらみ付ける。
「こがさのかさちゃん、かたつむりさんはとってもゆっくりしてたのに、どうしてたべちゃったの!?
こがさ、ゆっくりしてないこはきらい!こがさのかさちゃんもゆっくりしてないからきらい!!」
傘が困った顔をする。
「あやまったっておそいよ!こがさのかさちゃんがたべちゃったかたつむりさんは、もういきかえらないんだよ!」
こがさの顔の上に、ぽたりとしずくが落ちる。
「こがさのかさちゃん……なかないで。ううん、きらいなんてうそだよ。
こがさとこがさのかさちゃんはずっといっしょだよ!だからもうなかないで。いこう、こがさのかさちゃん!」
かろやかな下駄の音を立てて、こがさはまた雨の中を跳ね出していった。
―――――
クルクルクルクル、フワリ、トン。
空から舞い降りたのは、こがさの傘である。
こがさの傘は、そのままトン、トン、と茂みの方まで飛びはねる。
ガサリガサリと茂みをかき分けると、少し広くなった奥の方に、こがさがいる。
こがさの傘がこがさに向かってぺろりと舌を出す。
舌の上に乗っていたのは、いつものような虫、あるいは草花ではない。
団子、饅頭、せんべい、そういった人間の菓子。
「ゆわぁ、すごいね!こがさのかさちゃんはかりのめいじんさんだねぇ!」
夏のこの時期――お盆――は、墓地にこのような菓子のお供えが増える。
こがさの傘は、先祖から受け継いだ記憶で、それをよく知っている。
「とってもおいしそうだね、こがさのかさちゃん。じゃあ、いっしょにたべようね」
こがさの傘は体を揺らす。
「え?――そう、こがさたちのあかちゃんのためか。そう、そうだね。うん。ありがとう……」
菓子を食べ始めるこがさの姿を見届けると、こがさの傘は、再び茂みを出て行った。
―――――
ボネリムシという生物がいる。
研究者は最初、この生物が雌しか見つからないことに頭を悩ませていた。
雄はどこだ?
やがて意外な事実が判明する。
どの雌の体内にも見つかる寄生虫――これがボネリムシの雄だったのだ!
ボネリムシの雄は雌の体内に寄生し、体内から雌を受精させる。
また、チョウチンアンコウの一種、ビワアンコウは、雌の体の下側に雄が寄生し、
そのまま一生を共に過ごす。雌と雄の体格差は時に10倍以上になるという。
ゆっくりこがさ種も、こうした雄が雌に寄生する生物の一種と言えるかも知れない。
こがさ種の雄はこがさの頭の上に寄生する傘である。
この傘はこがさが生まれたときから頭上に寄生している。
こがさの傘がこがさを離れて動き回るのは、ただ、こがさが妊娠中の期間のみである。
この時期、こがさの傘は空中を飛行し、獲物を見つけては妊娠中の母体に届ける。
こがさの傘は空を飛ぶために羽ばたかなくてはならないので、あっという間に破れ、
体のあちこちに穴が開く。
一説には、この狩りの時期のこがさの傘が、傘化けのモデルともなったと言われるが、
さて、どうであろうか……
―――――
夏の終わり。
あの茂みの奥には、まだこがさがいる。
乾き、ひび割れ、砂のような色になって、もうほとんど動かなくなった姿で。
そのこがさの上に、こがさを守るように、こがさの傘が覆い被さっている。
その傘にも、もうほとんど骨だけしか残っていない。
ドロドロと響く雷の音。ポツリポツリと降り出した雨が、やがてどしゃ降りとなる。
こがさの傘も、もう、こがさを雨から守れない。
激しい雨が、砂色に乾いたこがさの体を濡らしていく。
「ゆっくりこがさが、ゆっくりうまれるよ!」
歓喜の声を上げ、こがさの体から子こがさが誕生する。
子こがさの頭の上の傘も、ペロペロと舌を出し、生まれ出た喜びを一杯にあらわす。
カラ、コロと数歩跳ねて、子こがさは振り返る。
「おかーさん、それに、おとーさん、ゆっくり、ありがとう!
こがさも、こがさのかさちゃんといっしょに、ゆっくりするからね!」
そして子こがさは、子こがさの傘と、雨の中を勢いよく跳ね出していった。
―――――
カラン、コロン、カラン、コロン、カラ、コロ、カラ、コロ、カラン。
かろやかな下駄の音がして、家の前で止まった様子。
洗い物の手を止めて、ゆかりさんはその気配に耳を澄ます。
「あの子、また今年も来たねえ……」
(終)
カラン、コロン、カラン、コロン、カラ、コロ、カラ、コロ、カラン。
かろやかな下駄の音がして、家の前で止まった様子。
洗い物を終えて手を拭きながら、ゆかりさんはその気配に耳を澄ます。
「あの子、また今日も来たねえ……」
―――――
朝方には激しかった雨も、今は穏やかに降っている。
傘を広げ、ゆかりさんはつっかけのままで表に出る。
ゆかりさんの家の庭の、道路に面した生垣からは一あじさいが一杯に咲いている。
道行く人たちが、時折、足を止めて見入るほどに見事なあじさいはゆかりさんの自慢なのだ。
今日、そのあじさいを眺めているのは、人間ではなかった。
手足は無い。
大きな――西瓜くらいはあるだろうか?――おまんじゅうのような形。
それが頭に大きな傘をかぶり、ちいさな下駄の上にちょこんとのっている。
ゆっくりこがさである。
しかし、ゆっくりについての知識は人並みにしか持っていないゆかりさんに、勿論そこまではわからない。
ただ、毎日のようにあらわれて、あじさいをながめて行くこのゆっくりに、話しかけたくなっていたのだ。
「こんにちは、ゆっくりちゃん」
「こんにちは、にんげんさん。あ、にんげんさんはおねえさんだね!」
ゆかりさんは可笑しくなる。孫だってもう小学生なのに、私のこと、おねえさんだね、だって。
「おねえさん、こがさはこがさだよ!ゆっくりしていってね!」
「そう、ゆっくりちゃんはこがさちゃんっていうのね。こがさちゃんもゆっくりしていってね!」
ゆっくりしていってね。ゆっくりの挨拶が返ってきたことに、こがさは嬉しそうな顔をする。
頭の上の傘までがぺろぺろと舌を出したのに少しぎょっとするが、
その様子があまりに嬉しそうなので、思わずゆかりさんも笑い出してしまう。
「こがさちゃん、うちのあじさいをよく見に来るのね。こがさちゃんはあじさいが好きなの?」
「うん、だいすきだよ!とってもきれいだもん!」
嬉しそうにぴょんぴょん跳びはねるこがさを見ていて、ゆかりさんは気がついた。
「あら、こがさちゃんのお目々って……」
ほとんど青に近い深い青紫の花と、ほとんど赤に近い赤紫の花。
こがさの、左右で違う色の目は、まるでそのあじさいの花を映し込んだような色だ。
「うちのあじさいの色とおんなじだねえ」
「そうなの!こがさのおめめと、おねえさんのおうちのあじさいさんはおそろいっ!なのよ!
だからこがさ、あじさいさんがすき!おねえさんのおうちのあじさいさん、だいすき!」
こがさが頬を染めて飛び跳ねる。頭の上の傘までが赤くなっているようだ。
「そう、じゃあうちのあじさいを少し切ってこがさちゃんにあげるわ。こがさちゃんの髪と…」
ゆかりさんとこがさの頭の上の傘の、目が合う。
「…こがさちゃんのかわいい傘ちゃんにあじさいの花を飾ったら、とっても素敵だと思うけど?」
こがさは顔をかしげるようにして、少し考えてから、答えた。
「おねえさん、ありがとう。でも、こがさはみんなといっしょにさいているあじさいさんがすき」
「そう、こがさちゃんはとっても優しいのね」
「おねえさん、こがさ、またおねえさんのうちにきてあじさいさんとあうの。いいでしょ?」
「もちろんよ。またきてね、こがさちゃん!」
―――――
カラン、コロン、カラン、コロン。
小さな下駄を鳴らしながら飛び跳ねていたこがさが足を止めた。
植え込みにかたつむりを見つけたのだ。
ゆっくりはゆっくりと動くものを眺めると、とてもゆっくりとした気分になるという。
こがさもゆっくりの一種であるから、かたつむりのような生き物を見るのが大好きなのだ。
葉の上を、ゆらゆらと目玉を揺らしながらゆるゆると進むかたつむり。
こがさがその姿をうっとりと眺めていると、不意に、こがさの頭の上の傘がぺろりと長い舌をのばした。
「どぼじでかたつむりさんたべちゃうのおおおおおおお?!」
こがさは内側から傘をにらみ付ける。
「こがさのかさちゃん、かたつむりさんはとってもゆっくりしてたのに、どうしてたべちゃったの!?
こがさ、ゆっくりしてないこはきらい!こがさのかさちゃんもゆっくりしてないからきらい!!」
傘が困った顔をする。
「あやまったっておそいよ!こがさのかさちゃんがたべちゃったかたつむりさんは、もういきかえらないんだよ!」
こがさの顔の上に、ぽたりとしずくが落ちる。
「こがさのかさちゃん……なかないで。ううん、きらいなんてうそだよ。
こがさとこがさのかさちゃんはずっといっしょだよ!だからもうなかないで。いこう、こがさのかさちゃん!」
かろやかな下駄の音を立てて、こがさはまた雨の中を跳ね出していった。
―――――
クルクルクルクル、フワリ、トン。
空から舞い降りたのは、こがさの傘である。
こがさの傘は、そのままトン、トン、と茂みの方まで飛びはねる。
ガサリガサリと茂みをかき分けると、少し広くなった奥の方に、こがさがいる。
こがさの傘がこがさに向かってぺろりと舌を出す。
舌の上に乗っていたのは、いつものような虫、あるいは草花ではない。
団子、饅頭、せんべい、そういった人間の菓子。
「ゆわぁ、すごいね!こがさのかさちゃんはかりのめいじんさんだねぇ!」
夏のこの時期――お盆――は、墓地にこのような菓子のお供えが増える。
こがさの傘は、先祖から受け継いだ記憶で、それをよく知っている。
「とってもおいしそうだね、こがさのかさちゃん。じゃあ、いっしょにたべようね」
こがさの傘は体を揺らす。
「え?――そう、こがさたちのあかちゃんのためか。そう、そうだね。うん。ありがとう……」
菓子を食べ始めるこがさの姿を見届けると、こがさの傘は、再び茂みを出て行った。
―――――
ボネリムシという生物がいる。
研究者は最初、この生物が雌しか見つからないことに頭を悩ませていた。
雄はどこだ?
やがて意外な事実が判明する。
どの雌の体内にも見つかる寄生虫――これがボネリムシの雄だったのだ!
ボネリムシの雄は雌の体内に寄生し、体内から雌を受精させる。
また、チョウチンアンコウの一種、ビワアンコウは、雌の体の下側に雄が寄生し、
そのまま一生を共に過ごす。雌と雄の体格差は時に10倍以上になるという。
ゆっくりこがさ種も、こうした雄が雌に寄生する生物の一種と言えるかも知れない。
こがさ種の雄はこがさの頭の上に寄生する傘である。
この傘はこがさが生まれたときから頭上に寄生している。
こがさの傘がこがさを離れて動き回るのは、ただ、こがさが妊娠中の期間のみである。
この時期、こがさの傘は空中を飛行し、獲物を見つけては妊娠中の母体に届ける。
こがさの傘は空を飛ぶために羽ばたかなくてはならないので、あっという間に破れ、
体のあちこちに穴が開く。
一説には、この狩りの時期のこがさの傘が、傘化けのモデルともなったと言われるが、
さて、どうであろうか……
―――――
夏の終わり。
あの茂みの奥には、まだこがさがいる。
乾き、ひび割れ、砂のような色になって、もうほとんど動かなくなった姿で。
そのこがさの上に、こがさを守るように、こがさの傘が覆い被さっている。
その傘にも、もうほとんど骨だけしか残っていない。
ドロドロと響く雷の音。ポツリポツリと降り出した雨が、やがてどしゃ降りとなる。
こがさの傘も、もう、こがさを雨から守れない。
激しい雨が、砂色に乾いたこがさの体を濡らしていく。
「ゆっくりこがさが、ゆっくりうまれるよ!」
歓喜の声を上げ、こがさの体から子こがさが誕生する。
子こがさの頭の上の傘も、ペロペロと舌を出し、生まれ出た喜びを一杯にあらわす。
カラ、コロと数歩跳ねて、子こがさは振り返る。
「おかーさん、それに、おとーさん、ゆっくり、ありがとう!
こがさも、こがさのかさちゃんといっしょに、ゆっくりするからね!」
そして子こがさは、子こがさの傘と、雨の中を勢いよく跳ね出していった。
―――――
カラン、コロン、カラン、コロン、カラ、コロ、カラ、コロ、カラン。
かろやかな下駄の音がして、家の前で止まった様子。
洗い物の手を止めて、ゆかりさんはその気配に耳を澄ます。
「あの子、また今年も来たねえ……」
(終)