ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko1290 癒しを求めて
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ankoss
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一日の激務を終え、男は自分のアパートへと帰ってきた。
会社での仕事は苦痛ではないが、気苦労も多い。
やりがいがあるかと聞かれたら返答に窮してしまうが、辞めたいと思ったことはない。
給料には満足しているし、同僚との関係もうまくいっている。
しかし、やはりあちこちからストレスを背負い込むことはあるのだ。
だがそんなイライラも、最近はかなり和らいだ。
家に帰れば、自分にぴったりの楽しみが待っているのだ。
階段を登り、鍵を鍵穴に差し込み、男はドアを開ける。
我が家の匂いに心が安らぐ。
自分の匂いと、ほんの少し甘い匂いとが混じったものだ。
帰ってきたのだ。
ドアを閉める。
サラリーマンの自分はこれでおしまい。
今から、本当の自分に戻れる。
男は鞄を置き、スーツをハンガーに掛けネクタイをゆるめる。
部屋着に着替えながら、男は鞄を開けた。
携帯の隣にあるボールのようなものを取り出す。
材質はプラスチックだが、表面はゴムでコーティングされ,中には液体が詰まっている。
男のやや険のある目つきが優しいものになった。
我が子の写真を見るかのように、男は愛情さえこもった目でボールを見つめる。
どろりとした透明な液体の中に、何かが入っている。
それは男が何もしなくても、常に全体を伸縮させて動いている。
ぱたぱたと、両脇に付いているものが鳥の翼のように振られている。
男はその様子を、クリオネのようだと思った。
液体の中のものは、明らかにもがいている。
泳いでいるのではない。溺れているのだ。
窒息の苦しみに体をよじらせ、どこにもない空気を求めて助けを呼んでいる。
死んではいない。溺死寸前の苦痛を、延々と味わっているのだ。
それは、一匹の小さなれいむだった。
大きさからして赤ゆっくり、あるいは品種改良した豆ゆっくりに間違いない。
五体満足でリボンももみあげもきれいなれいむが、ボールの中に閉じ込められていた。
ボールの中は液体で満たされている。
ゆっくりは窒息死しない癖に、呼吸をする。
そのためこのれいむは、ボールの中にいる間ずっと溺れているのだ。
れいむは口をぱくぱくと開いたり閉じたりしながら、ひたすら苦しむことしかしていない。
これはゆっくりの標本を作るためのキットである。
本来は、ボールの中に薬で殺したゆっくりを入れ、保存液を満たして完成となる。
しかしいつからか、男のように生きたゆっくりを入れて、その苦しむ様子を鑑賞するために用いられる事の方が多くなった。
実際、ヒャッハー目的での購入の方が、本来の用途での購入よりも三倍は多いという統計もある。
真偽はどうあれ、男はゆっくりの標本を作る気などさらさらなかった。
こうやって、生きたゆっくりを入れる為にキットを買ったのだ。
このキットの良い点は、いつでもどこでもゆっくりの苦しむ様子を見られる事だ。
何よりも、ゆっくりのうるさい声が周囲に漏れないところがいい。
男はこれを会社に持ち込んでいた。
鞄に入れて、仕事の合間に取り出して眺めるのが主な用い方だ。
液体の中でもがく様子は、幻想的ですらある。
同様の方法でゆっくりを持ち込む社員は思いの外多い。
皆、ゆっくりのもがく姿にヒーリングを求めているのだ。
今日も一日、れいむは元気いっぱいで苦しんでくれた。
力なくボールの中で沈んでいては、見ていても面白くない。そんなのは標本と同じだ。
こうやって、懸命に生きようと足掻く姿こそ、見ていて心が癒される。
男は感謝の気持ちを込めて、窒息に苦しむれいむをじっと眺めた。
れいむは、生まれてすぐボールの中に入れられた。
恒例の「ゆっくりちていってにぇ!」の言葉は、注ぎ込まれる保存液でくぐもったものになった。
それからというもの、れいむのゆん生は窒息とほぼ同じ意味だった。
れいむは生まれてからというもの、苦しみ以外何も味わっていない。
両親にすーりすーりしたこともない。
姉妹にぺーろぺーろしたこともない。
おいしいご飯をお腹いっぱいむーしゃむーしゃしたことも、あったかい毛布の中ですーやーすーやしたこともない。
餡子に刻まれた先祖からの記憶にあるたくさんのゆっくりは、どれ一つ味わうことなく夢と消えた。
保存液の作用で、れいむの体は当分衰弱することもない。
さすがに永久に持つことはないが、後二ヶ月くらいは元気な姿を見せてくれることだろう。
ボールの中で、れいむは溺れながら踊っているかのようだ。
もみあげを翼のように羽ばたかせ、顔を歪め、れいむは訴える。
(たしゅけちぇ!おにーしゃん!れいみゅをたしゅけちぇ!くるちいにょ!れいみゅくるちいにょ!おぼれりゅ!
おぼれりゅよおおお!たしゅけちぇよおおお!おにーしゃん!れいみゅをたしゅけちぇ!くるちい!くるちいいいい!!)
れいむにとって、時々自分をゆっくりした目つきで眺める男だけが救いだった。
何とかして、この無限に続く溺死の地獄から助けてもらおうと、れいむは必死で男に呼びかける。
だが、男はその様子を楽しそうにじっと見ているだけだ。
助けを求める姿。苦しみにもがく姿。
それだけが、れいむに求められているものだった。
れいむの心が死に、光を失った目でボールの底に沈むまで、れいむが引き上げられることはない。
だが、待ちに待ったボールの外を、れいむが体験することはないだろう。
用済みとなったれいむは、あっさり潰されてしまうに違いない。
そんなことも知らず、れいむは男の目の前でいつまでも溺れ続けていた。
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冷蔵庫にあった昨日の残り物と、コンビニで買った出来合の食品をテーブルに並べ、男は食事を始めた。
以前はたった一人の食事を寂しく思ったものだ。
だが今は、それを癒してくれるゆっくりたちがいる。
「いぢゃぃ………いぢゃいよぉ…………」
「おにぇがぃ………これ…とっちぇ…………」
「いだいよぉ……れいみゅ…いだいの…………」
「おかーしゃん……まりちゃを……たしゅけ…ちぇ……」
「ゆ゙っ……ゆ゙っ………ゆ゙っ………ゆ゙っ…………」
テーブルの上には木の板があった。
その上には、一本の長い釘によってあにゃるから頭まで貫かれたゆっくりが並んでいる。
ルーマニアのドラキュラにあやかった串刺しの列だ。
れいむの頭からは釘の先端が見えるが、まりさは帽子で分からない。
一匹残らず、釘による行動の制限と苦痛でその場で弱々しくもがくだけだ。
「おかーしゃん……おかーしゃぁん………まりちゃ………まりちゃぁ…………」
「ゆぇぇ………どうちて……れいみゅ…わるいこと……ちてにゃいのに…………」
「いぢゃいよぉ……いぢゃい…いぢゃいぃぃ………しゅごくいぢゃいぃ…………」
懸命に母親を呼ぶものもいれば、なぜ自分がこうなったのか分からずただ涙を流すものもいる。
ほとんどは、ひたすら体を貫く痛みに苦しんでいるだけだ。
赤ゆっくりを使っているため、場所も取らないし悲鳴も小さく騒音にならない。
テーブルの上だけで、静かに楽しむことができる。
三者三様のもがき方と、消え入りそうな悲鳴に男の箸も進む。
「ゆ……ゆ………ゆゆっ…………ゆ……」
「…………………………ゆ……………………ゆ………………」
「ゆひっ………ひっ………………ひっ…………」
悲鳴を上げているのは、まだ串刺しにして日の浅いゆっくりだ。
二日を過ぎた辺りで、空腹と絶え間ない苦痛で赤ゆっくりは壊れ始める。
串刺しの列の中には、死んだ魚のような目でぼんやりと遠くを見ているものがいる。
どうやら、心が砕けてしまったようだ。
その隣では、異様な目つきで小さく笑い声を上げているものがいた。
こちらは狂うことで楽になろうとしたゆっくりだろう。
「ゆひひっ………おかーしゃん…おとーしゃん……まりちゃちあわしぇーだよ………ゆききっ……じゅっといっちょ……ゆひひっ」
一番端のまりさは、ずいぶん早くに壊れてしまった。
昨日串刺しにしたのに、もう狂っている。
まりさは家族と幸せに暮らしている妄想に浸っているらしく、ひっきりなしに不気味なことを呟いている。
やがて例外なく壊れてしまうとはいえ、この串刺しの列は見ていて飽きない。
わめき散らすこともなく、暴れることもなく、ただ静かに苦痛が続いている。
痛みに苦しむゆっくりの顔を眺めていてもいいし、釘を抜いてくれるよう哀願する声に耳を傾けてもいい。
ゆっくりと、赤ゆっくりたちの心が壊れ、衰弱して死んでいく様子を見ているだけだ。
それだけで、儚い幻想を見ているかのように心が癒されていく。
「おにぇがい…おにーしゃん………れいみゅをたしゅけて………いちゃいの………いちゃいのおぉぉ…………
にゃんでもしゅるよ………ゆっくりさせてあげりゅよ………だかりゃたしゅけて………たしゅけてよぉおぉ…………」
男は涙を流して助けを求めるれいむを見つめながら、簡単な食事を終えた。
最後に赤ゆっくりたちにオレンジジュースを垂らしてから、男は流しに向かう。
後ろでれいむがさらに何か言っていたが、男はまったく聞いていなかった。
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風呂上がりに、男は部屋のあちこちに置いてある水槽を一つずつ覗いていく。
折からのゆっくりブームに乗じて、飼育キットもずいぶん安くなった。
最初は水槽の数は一つだったが、今では三つもある。
ずいぶんゆっくりにはまってしまったな、と男は苦笑した。
最初の水槽には、数匹の子ゆっくりが入っている。
男が蓋を開けると、いっせいにゆっくりたちは男の方を見た。
室内で飼っているはずなのに、このゆっくりたちは一匹残らず薄汚れていた。
帽子とリボンは色あせ、饅頭の皮はがさがさなのがガラス越しなのによく分かる。
どのゆっくりも、飢えているのだ。
「おにーさん………おにーさん……おなかがすきました……おなかがぺこぺこなんです………」
「なんでもいいです……たべさせてください………おくちにはこんでください…………」
「まりさたちはうごけないです……だから……ごはんがたべられません……たすけてください………」
「ごはんがだめなら…なまごみでもいいです…いいですから………おねがいです………なにかたべさせてください………」
蓋を開ければ、ゆっくりたちの小さく苦しそうな声が聞こえてくる。
ゆっくりたちは男の顔を見上げ、涙を流しながら訴えるだけだ。
どのあんよも、男によって念入りに焼かれているため動かない。
ゆっくりたちは日がな一日お互いの顔を眺めながら、餓死の苦しみを味わい続けている。
これもまた、静かな楽しみだ。
飢えたゆっくりの声は小さいため、周りの迷惑になることもない。
死ぬ時も静かに動かなくなるだけなので、まったくうるさくない。
男のようなアパート暮らしの人間は、こうやって静かに楽しむ。
男は水槽の中に、飴玉をいくつか置いた。
どのゆっくりの目にも見える場所だが、同時に決して手が届かない場所にそれを置く。
「あまあまだよ…たべるよ………たべたいよお…………とどかない…とどかないよぉぉぉ」
「えぇぇぇ…………あぁぁぁぁ………どうして……どうしてとどかないの?」
「おにーさん……もっと……もっとまりさのちかくにおいてください……とどかないです……とどかないんです………」
「やだよぉぉぉ……しにたくないよぉぉぉ………おなかすいたよぉぉぉ…………」
「も……もっと………ゆっく…り……した……かった……よぉ……………」
なりふり構わず、ゆっくりたちは舌を伸ばして飴玉を食べようとする。
長い舌が釣り竿のように伸び、転がっている飴玉に向かって懸命に伸ばされる。
だが、どれだけ必死に舌を伸ばしても、後もうちょっとの所で届かない。
その間抜けな顔と仕草に、男は笑顔を浮かべた。
小さな水槽の中に、生きるための必死のドラマがある。
どんなテレビも映画も作り出せない、本物の生への執着だ。
もう何回これを繰り返しただろう。
最後は決まって餓死で終わるのだが、男はちっとも飽きない。
奇跡を信じて、目を血走らせ一生懸命舌を伸ばすもの。
あきらめたのか、目を閉じてさめざめと泣いているもの。
もう男以外に頼るものがいないため、小さな声で哀願するもの。
衰弱しきったのか、虚ろな目で痙攣しているだけのもの。
リアルタイムで繰り広げられるゆっくりたちのドラマに満足し、男は水槽の蓋を閉めた。
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二番目の水槽の蓋を開けると、こちらには元気な子ゆっくりが入っていた。
男に向かってぴょんぴょんと跳ねてくる様子から察するに、健康そのもののようだ。
水槽の中には板チョコが一枚はいっているが、まったく口を付けた様子がない。
男が顔を近づけると、そろってゆっくりたちは体をのーびのーびさせてから頭を水槽の床にすりつける。
土下座しているようだ。
顔を上げてみればすぐに分かる。どのゆっくりも、口がないのだ。
この水槽に入っているゆっくりは、男によって口を抉られている。
まだ赤ゆっくりの頃に、ピンセットによって口を抉られ、傷口を別のゆっくりから取った皮によってふさがれたのだ。
口のあった場所は、滑らかな饅頭皮が完全に覆ってしまい、痕跡さえ残っていない。
当然、ゆっくりたちは食べることも喋ることもできないでいる。
おいしそうな板チョコも、眺めているだけで口に入れることはできない。
突然口を裂かれる激痛に気絶したゆっくりたちは、目を覚ましてからさぞかし驚いたことだろう。
口も舌も歯も喉も、自分たちの顔からなくなってしまったのだから。
もう二度と、むーしゃむーしゃとおいしいご飯を食べることはできない。
ぺーろぺーろと愛情を込めて顔を舐めてあげることもできない。
それどころか、楽しくお喋りすることさえできないのだ。
男の姿が見えると、ゆっくりたちは我先に跳ねてきては土下座する。
疲れて動けなくなれば、涙をいっぱいにたたえた瞳で男をじっと見つめた。
声が出せなくてもよく分かる。何を言いたいのか、男にはすぐに分かる。
(おねがいです!おにーさん!れいむたちのおくちをもとにもどしてください!)
(おくちがないとむーしゃむーしゃできません!ぺーろぺーろできません!できないのはいやなんです!)
(おねがいだよおおおお!おにーさあああん!もどして!おくちをもとにもどしてよおおおお!)
(もうやだああああ!こんなのいやなんだぜええええ!おくちがないとゆっくりできない!できないんだぜええええ!)
(おねがいします!おねがいします!おねがいしますうううう!おくちをください!おくちをくださああああい!)
もしゆっくりたちが話せたならば、さぞかしうるさいことだろう。
だが、ここではゆっくりが額を床にぶつける音しか聞こえない。
痛みはないが、食べることも喋ることもできないゆん生は苦痛でしかない。
目の前に甘いチョコレートがあることが、ゆっくりたちの苦しみをさらに引き立てている。
そのあまりにも哀れなゆっくりは、この上ない癒しのアイテムだ。
男は一匹ずつゆっくりを取り上げ、成長抑制剤を混ぜたオレンジジュースを注射していく。
これがゆっくりの餌だ。
ゆっくりは餓死することはないが、食事を楽しむこともできない。
ゆっくりできないことから衰弱死する時まで、ゆっくりたちは喋ることも食べることもできない。
水槽に降ろされたゆっくりたちは、今日も口を元に戻してもらえないことが分かったようだ。
ぽろぽろと涙をこぼしながら、お互いにすりすりして慰め合っている。
最後のまりさは、一向にお願いを聞いてくれない男に業を煮やしたらしい。
水槽に降り立つや否や、男の手に体当たりを始めた。
ぽんぽんと柔らかい感触が手から伝わってくる。
顔を近づけると、まりさは涙をこらえて男をにらみつける。
(まりさたちからおくちをとったわるいおにーさんなんか、ゆっくりしないでいますぐしんでね!)
きっとそう言いたいのだろう。
男はほほ笑み、まりさをつまみ上げた。
注射器にオレンジジュースとは別の液体を注入し、まりさに突き刺す。
中身を全部まりさの体に注射すると、まりさはカッと目を見開いた。
(な!なにごれええええええ!!がらい!がりゃいいいいいいいいい!ぐるぢいいいいいいいい!)
ぽとりと水槽に落とすと、まりさはその場でぽよんぽよんと跳ね始めた。
豆を煎っているかのような動きだ。
目から涙をどばどば流し、体をめちゃくちゃに捻りながら、まりさはあまりの苦しさに跳ね回る。
(がらい!いだい!がらい!いだい!おにーざん!ごめんなざい!ごめんなざい!がらいい!いだいい!だずげで!だずげでぐだざあああい!!)
男が注入したのは、タバスコを溶かした水だ。
ほかのゆっくりたちは男に逆らうとどうなるのか見せつけられ、ひたすらその場で涙を流していた。
やがてまりさは跳ねるのを止め、泡を吹いて気を失った。
無音の嘆きに男は満足し、水槽の蓋を閉めた。
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明日は休日だ。
だから、今夜はもう少しだけゆっくりで遊ぶことにしよう。
男は足取りも軽く風呂場に戻る。
そろそろ解凍が終わった頃だろう。
男は湯を満たした洗面器から、ペットショップで買った「冷凍ゆっくりパック」を二つ引き上げた。
四匹で一セットのこれは、親ゆっくりの頭から採取した赤ゆっくりを冷凍したものだ。
便利な時代になったものだ。
躾や知能にこだわらなければ、都会のど真ん中で清潔な赤ゆっくりがすぐ手に入る。
蓋をはがしてから、男は中のゆっくりをスプーンですくってテーブルの上に置いた。
眠っているまりさとれいむがそれぞれ四匹ずつだ。
どの赤ゆっくりも幸せそうな顔で目を閉じ、ついさっきまで親の頭に実っていたかのようだ。
外気に触れたからか、やがて皆体をぷるぷると振るわせ始めた。
一番最初にまりさが目を開ける。
「ゆっくりちていっちぇにぇ!」
目をぱっちりと開いて、赤まりさは男に向かって生まれて最初の挨拶を行う。
「まりちゃはまりちゃだよ!おとーしゃん、いっしょにゆっくりちようにぇ!」
刷り込みも完璧だ。
一番最初に見た男を、まりさは親だと思ったらしい。
まりさの声に誘われるように、次々と残りのゆっくりたちも目を覚ました。
「ゆ~ん!ゆっくり!ゆっくりっ!」
「ゆっくりちゅるよ!ゆっくりちようにぇ!」
「ゆゆ~ん!おとーしゃんだ!おとーしゃん!れいみゅはれいみゅだよ!」
「おとーしゃん!まりしゃここにいりゅのじぇ!こっちをみてほちいのじぇ!」
「ゆっくり~♪ゆっ♪ゆっ♪」
「おとーしゃんといっしょにゆっくりしゅるよ!ゆっくりしゅりゅ!」
「ゆ……?ゆぅ……?ゆ~ゆ~?ゆっ…………」
元気はつらつと男に挨拶するゆっくりたちだが、一匹だけおかしなれいむがいる。
ろくに男の方を見ようともせず、それどころか恒例の挨拶もしない。
きょろきょろと周囲を見回しては、不思議そうな顔をしているだけだ。
どうやら不良品らしい。
冷凍の際に中枢餡が傷ついてしまったのだろう。
低確率だが、冷凍ゆっくりパックにはこうした不良品が混じることがしばしばある。
知能がないため、ろくに会話することもできずただ食べて排泄して眠るだけだ。
「おとーしゃん!おとーしゃん!れいみゅおなかがしゅいた!」
「まりちゃも!まりちゃも!まりちゃもおおおおおお!」
「ゆええええん!おなかしゅいたよおおおおお!」
「ぽんぽんぺこぺこなんだじぇ!おとーしゃん、おいちいごはんがたべたいんだじぇ!」
新しい環境を見終えたゆっくりたちは、口々にかん高い声で空腹を訴える。
赤ゆっくりとしては大声で叫んでいるつもりだが、男にとっては小さな声だ。
これくらいなら、どれだけ騒いでも近所迷惑になることはないだろう。
男は付属しているゆっくりの蔓ペーストの封を切った。
この緑色のペーストは、赤ゆっくりたちが実っていた蔓をすり潰して加工したものだ。
手ずからこれを赤ゆっくりに与えることで、人間に対する信頼を高めることができる。
これによって、男がゆっくりたちにとって完全に「おとーさん」になるだろう。
男は皿に蔓ペーストを空けると、スプーンでかき混ぜてからゆっくりたちに差し出した。
一番最初に目覚めたまりさに、まずは近づける。
くんくんと匂いを嗅いだまりさは、目を輝かせてスプーンを口に入れる。
「ゆゆん!しゅごくおいしそうなにおいがしゅるよ!まりちゃたべりゅにぇ。むーちゃむーちゃ!ちあわしぇーっ!」
むーしゃむーしゃしてからごっくんと飲み込んだまりさの顔は、とても幸せそうな表情だった。
まりさがゆっくりしたのを見て、ほかのゆっくりたちも騒ぎ出す。
「れいみゅもたべちゃい!たべちゃいよ!おとーしゃん、れいみゅにもちょうだいにぇ!」
「まりしゃむーちゃむーちゃしゅるのじぇ!いっぱいたべておおきくなりゅのじぇ!」
「おいちそうだにぇ!おとーしゃん!れいみゅいっぱいたべりゅよ!」
「ゆぅ~!ゆっゆっゆ!ゆっ~!」
男は一匹ずつ丁寧に餌を与えた。
まるで、口を開けた雛に餌をやる親鳥のようだ、と男は思った。
一口ぱくりとペーストを食べたゆっくりは例外なく、もーぐもーぐしてから「ちあわしぇーっ!」と叫ぶ。
不良品ゆっくりも、「ゆぇ~!ゆぅ~!」と嬉しそうな顔をした。
どうやら、加工場のゆっくりにしては良くできたゆっくりたちだ。
ゆっくりはもろい饅頭の癖に、自分より弱いものをすぐに見下して虐める性質がある。
あの不良品ゆっくりもそうなるかと思ったが、どのゆっくりも虐めることはない。
一匹のまりさが姉代わりになったのか、しきりに世話を焼こうとしているのがほほえましい。
「れいみゅ、おくちのまわりがよごれていりゅよ。まりしゃがぺーりょぺーりょちてあげるにぇ!」
「ゆっゆっ!ゆぅ~」
「きれいきれいになったにぇ!まりしゃがおねーしゃんになってあげりゅから、ゆっくりちてにぇ!」
食事を終えたら、男は少しゆっくりたちと遊ぶことにした。
遊ぶといっても激しい運動はできない。
指先でつついたり、転がしてみたり、追いかけっこをしたり、上に持ち上げたりするだけだ。
「ゆんゆん♪おとーしゃん、まりしゃ、とってもゆっくりちてるのじぇ?うらやまちいのじぇ?」
「れいみゅこーりょこーりょしゅりゅにぇ!こーりょこーりょ!ゆっくり~」
「まっちぇ!おとーしゃんのおててゆっくりまつんだじぇ!まりしゃはおいかけっことくいなんだじぇ!」
「みちぇみちぇ!おとーしゃん!れいみゅもうのーびのーびできりゅよ!しゅごいでしょ!のーびのーび!」
「ゆわーい!まりちゃおしょらをとんでりゅみちゃい!おとーしゃんしゅごいにぇ!」
机の上が小さな運動場になった。
まだ高くジャンプすることはできないが、小さく跳ねたり転がったりして赤ゆっくりたちは男と遊ぶ。
無邪気そのものの表情と声に、男の疲れた心も癒されていく。
赤ゆっくりたちがへばってくると、最後は手にすりすりさせる。
「ゆ~ん。おとーしゃんのおててしゅーりしゅーりしゅるとゆっくりできりゅにぇ!」
「しゅーりしゅーり!おとーしゃんゆっくりしてるにぇ!もっとしゅーりしゅーりしゃせちぇ!」
「おとーしゃんはまりちゃのおとーしゃんだよ!まりちゃとしゅーりしゅーりしようにぇ!」
「まりしゃもしゅーりしゅーりしゅるのじぇ!しゅーりしゅーり!ゆっくりー!」
八匹を均等に構ってやると、瞬く間に時間が過ぎた。
そろそろいいだろう。
ゆっくりたちを水槽に入れ、男はあちこちをあさって道具を準備した。
水槽の前に戻ると、男とゆっくりたちと目が合う。
どのゆっくりも、男を父親だと思って信頼しきっているのがよく分かった。
「れいみゅ、まりちゃ、じゅんびできてりゅよにぇ?」
何を思ったのか、一番最初に目覚めた長女まりさが男の方に進み出る。
それに合わせて、不良品れいむ以外のゆっくりがうなずいた。
「それじゃあ……せーの、でいっしょにおとーしゃんにいうんだよ」
赤ゆっくりたちはきれいに一列に並んでいる。
「せーの………おとーしゃんだいしゅき!!」
「おとーしゃんだいしゅき!」
「おとーしゃんだいしゅきだよ!」
「おとーしゃんだいしゅきなのじぇ!」
「だーいしゅきだよ!だいしゅき!」
「おとーしゃんだいしゅきだじぇ!」
「ゆっくりだいしゅき!おとーしゃん!」
「ゆっ!ゆっ!ゆぅ~!」
声を揃えて、八匹のゆっくりたちは男にそう言った。
男が道具を探している間に、長女まりさを中心にして計画していたのだろう。
見事な刷り込みだ。餌を与えたことで、ゆっくりたちの愛情は男に集中したのか。
「まりちゃたちおとーしゃんのことだいしゅきだよ!いっちょにじゅっとゆっくりちようにぇ!」
長女まりさは男ににこにこ笑いながら告げた。
父親となった男のことが、大好きで仕方がないといった顔をしている。
生まれて一時間も経っていないのに、もう男のことを完全に信頼したようだ。
まりさたちは、全身全霊を込めて「おとーしゃん」を「だいしゅき」だと言った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
男は何も言わずに手を伸ばした。
どれにしようか、と迷ったが、すぐに不良品れいむを選ぶ。
これは反応が悪く、残しても意味がないと思ったからだ。
逆に、最後まで残すのは長女まりさと決めていた。
「ゆぅ~……ゆぁぁ~」
不良品れいむをつまみ上げる。
普通のゆっくりなら「おそらをとんでるみたい」と言うのに、ほとんど反応がない。
目も駄目か。
男はそう思ったが、すぐに違うと気づいた。
「ゆぅ~ん♪」
不良品れいむは男と目が合うと、笑ったのだ。
こちらのことが分かるらしい。
壊れた中枢餡でも、ゆっくりできる父親の姿は分かるのか。
どうでもいいことだ。
男は不良品れいむの笑顔を無視し、指先に一気に力を込めた。
「ゅぶっ!」
反応に期待せず、男はれいむを即死させた。
目から目玉と一緒に、口からは歯と一緒に、れいむの体内の餡子が吹き出す。
不良品れいむはあまりにも短い一生を終えた。
「ゆっ……お…とー……しゃ…ん………?」
「にゃに……しちゃの?……れいみゅ…………どうしちゃ…にょ?」
「れいみゅが………どうちて……?」
「あ……ああ……あんこしゃん……れいみゅの……あんこしゃんが…………」
「おとーしゃん……………にゃんで…………にゃんで…………?」
下の水槽では、赤ゆっくりたちが硬直していた。
ついさっきまでの不良品れいむをうらやむ表情は消え、目の前の現実が信じられない顔をしている。
男は指に残っていたれいむの残骸を、ぽとりと水槽に落とした。
皮だけになった無惨なれいむは、丁度姉のように世話を焼いていたまりさの前に落ちた。
「あ……ゆぁぁ………れいみゅ……れいみゅぅ………どうちて……どうちてぇ…………」
呆然とまりさはれいむの死体に近づき、そっと顔をすりつける。
妹みたいだったのに。一緒にご飯を食べたのに。
楽しく遊んだのに。おとーさん大好きって言ったのに。
どうして?どうしておとーさんがれいむを殺しちゃったの?
そんなふうに思っているだろうか。
「ゆっくりちてないでよぉ………おめめをあけてよぉ………れいみゅう……ゆっくりちようにぇ……まりしゃとゆっくりちてぇ………」
まりさは泣きながら、死んだれいむを舌でぺろぺろと舐めている。
男は涙を流すまりさを、指でそっと押さえた。
「ゆっ……おとーしゃん?なにしゅるにょ?」
少しずつ力を入れていく。
生まれたばかりの柔らかいまりさの体は、癖になりそうな弾力で男の指を受け止める。
「ゆ゙っ!ゆ゙っ!おとーしゃん!まりしゃくるちいよ!おしゃないで!まりしゃくるちいよおおおお!」
さらに力を入れていく。
もうどれだけまりさが力んでも、押し返すことのできないレベルだ。
まりさの体が、楕円形に押し潰されていく。
「ちゅぶれりゅうううううううう!まりしゃちゅぶれりゅううううううううう!」
この声が聞きたかった。
男の心に、たとえようもない満足感が押し寄せた。
今この瞬間のために、自分はゆっくりたちの父親を演じたのだ。
「ちゅぶれりゅううう!おとーしゃん!おどーしゃん!おどーぢゃぶ!ぢゅぶぶびゅぶっ!!」
興奮のあまり、男は力を加減することを忘れてしまった。
まりさの体は、さんざん叫んでいた通りに潰れた。
まだ生まれたばかりでどろっとした餡子が水槽の中に飛び散り、二つの目玉がころころと転がった。
「ゆ゙っ………お……ど……じゃ………………」
最後まで男を父親と呼びながら、まりさはわけも分からず死んだ。
残された六匹のゆっくりたちは、ゆっくりしていない顔で二つの死体と男を見た。
だんだんと、事態が飲み込めてきた。
おとーさんは、れいむたちとゆっくりしてくれないよ。
おとーさんは、まりさたちをころすつもりなんだ。
辺りに飛び散った餡子が、甘い香りを放っている。
それは、自分たちの末路だ。
恐怖が、一気にゆっくりたちを飲み込んだ。
「ゆああああああああああああああ!」
「やじゃああああああああああああ!」
「ゆっぐりぢぢゃい!ゆっぐりぢぢゃいいいいいい!」
「ゆんやあああああああああああ!」
「おとーしゃんやめちぇええええええええ!!」
「ゆっぐり!ゆっぐり!ゆっぐりいいいいいいい!!」
ゆっくりたちはパニックに陥った。
ばらばらの方向に六匹の赤れいむと赤まりさは逃げ出す。
しかしここは水槽の中だ。逃げ場などどこにもない。
男の手が、合流して逃げるれいむとまりさのペアを捕まえた。
「はなしちぇ!おとーしゃんはなしちぇぇええええ!れいみゅきょわい!きょわいよおおおお!」
「やめるんだじぇ!おとーしゃん!れいみゅこわがってるのじぇ!」
生意気にも、もうこの二匹はカップルにでもなったつもりらしい。
恐怖で叫ぶれいむをかばうように、まりさは男に止めるように言ってくる。
男は二匹をそれぞれの手でつまむと、その頬をくっつけた。
勢い余って皮を破らないように注意しつつ、れいむとまりさを高速で擦り合わせる。
「ゆっゆっゆっっ!……ゆゆ?……ゆぅぅぅぅっ!?」
「ゆぇぇ…………ゆっゆっ!……ゆぁぁぁぁっ!?」
最初は怖がっていた赤れいむと赤まりさだが、すぐに効果が発揮された。
見る見るうちに二匹の顔が赤くなり、目がとろんとしてきた。
口がだらしなく開き、体からねっとりした液がにじみ出してくる。
生まれてすぐだというのに、すっきりする準備ができている。
「にゃ、にゃにこりぇ!れいみゅ!れいみゅううううう!おかちいよぉ!」
「ゆああああ!しゅごくへんなのじぇぇぇ!おとーしゃん!おとーしゃああああん!」
「れいみゅへんだよおおおおお!おとーしゃん!れいみゅおかちくなっちゃうよおおおおおお!」
「おとーしゃああん!まりしゃ……きもちいいのじぇぇぇぇ!ゆっくり!ゆっくりちてりゅのじぇぇえええ!」
たちまち押し寄せる快感に、二匹は今までの恐怖を忘れて大声を上げた。
逆に男に、手を止めないでもっとしてくれるように頼む始末だ。
いつの間にか、水槽の中ではゆっくりたちが逃げるのを止め、二匹をじっと注視していた。
「おとーしゃん!まりしゃ!まりしゃにもっちょ!もっちょ!ちゅ、ちゅ!ちゅ!ちゅっきりぃぃぃ!」
「れいみゅも!おとーしゃんれいみゅもおおおおおおお!ちゅっきりぃぃぃぃいいいいいい!」
あっという間に、すっきりは終了した。
それまでの気色悪い顔から一転して、すっきりした顔で二匹は「ちゅっきりー!」と宣言した。
男は絶頂の余韻に浸ってぼんやりしている二匹を、水槽の中にそっと置いた。
「れいみゅ!れいみゅ!だいじょうぶにゃの?いちゃくにゃい?」
「しゅごーくちゅっきりちてたのじぇ。きもちよかったのじぇ?」
「おとーしゃん、まりちゃもちゅっきりしたいよ!まりちゃにもちてにぇ!」
「れいみゅもちたい!れいみゅもまりしゃといっしょにちゅっきりちたい!」
すぐにほかの四匹がれいむとまりさに群がる。
心配そうに顔を眺めていたが、二匹が苦しいどころか気持ちよさそうな顔をしていることに気づいたようだ。
たちまち、口を揃えて自分たちもすっきりしたいと言ってきた。
れいむとまりさ、すごくゆっくりしてたよ。
いいなあ。まりさもゆっくりしたいよお。
すっきりっていうんだよね。
いっしょにすっきりして、きもちよくなれるんだ。
おとーさん、すっきりしたいよ。まりさやれいむみたいにゆっくりしたいよ。
そんなことを考えているのがよく分かる。
さっき二匹の赤ゆっくりが死んだことは、目の前のゆっくりしたことにかき消されたらしい。
「ゆふぅん………おとーしゃん……。しゅごくきもちよかったよ……。ありがとうにぇ……」
「まりしゃも……ちゅっきりできたのじぇ……。おとーしゃん…またちゅっきりちたいのじぇ…………」
四匹の後ろで、気持ちよさそうにすっきりの余韻を楽しんでいる二匹。
男が親切心から、自分たちをすっきりさせてくれたと思っているのだろう。
そろそろ、その誤解も解ける。
「ゆぐぅ!」
「ゆぎぃ!」
始まったらしい。
すっきりによって二匹の体に妊娠、出産の用意ができた。
体内の餡子と栄養をたっぷりと吸い取って、赤ゆっくりができあがりつつある。
文字通り、二匹の体を喰らうことによって。
「ゆあっ!……がはっ!…ゆぐっ!…くりゅちいっ!………おとーしゃん!まりしゃ……くりゅちいっ!」
「かっ……かはっ……あっ……ゆあっ……にゃにこりぇ……れいみゅ……おとーしゃん……!」
うまく両方共妊娠できたようだ。
まりさの腹がぽこりと膨らみ始める。
動物型だ。
「どうちて……まりしゃ…おかーしゃん?………ちゅっきりって……あかちゃん……まりしゃ……おかーしゃんに……」
ようやく、まりさは気づいたらしい。
気持ちよくてゆっくりできたすっきりは、大人になってから行う赤ちゃんをつくる行為だということに。
本能の警告が聞こえるだろう。
赤ゆっくりの癖にすっきりをした個体は例外なく死ぬ、と。
「ぽんぽん…くりゅちいよぉ……やじゃぁ………おとーしゃん……たしゅけて………まりしゃをたしゅけてほちいのじぇ……」
たちまちまりさの体から栄養が枯渇していく。
体内の赤ゆっくりが形を形成するため、まりさの栄養を奪っていくのだ。
皮が萎びていき、髪の毛が束になって抜け落ちていく。
逆に、そこだけ膨れ上がっていく腹だけが餓鬼のようで不気味だ。
「おとーしゃん…まりしゃを……たしゅけて……たしゅけてぇ……やじゃぁ……くりゅちいのやぢゃぁ………」
まりさの体はバランスを崩し、仰向けにひっくり返った。
なおも膨れ上がっていく腹と、反比例してミイラのようになっていくまりさの体。
既に両目は眼窩の中でかちかちに干涸らび、だらりと口から垂れ下がった舌も萎びている。
全身の水分が、赤ゆっくりに集中しているのだ。
「くりゅちい…おにゃかいちゃい……あかちゃん…いやなのじぇ……まりしゃのぽんぽん……ぱんぱんなのじぇ……おとーしゃん…たしゅけて……」
助けを求めるまりさの体は、どんどんと乾燥して小さくなっていく。
生まれたばかりのまりさは、体の中の赤ゆっくりに全てを奪われて衰弱していく。
自分の苦しみの原因が、赤ゆっくりにあると分かったのだろう。
まりさはもうろうとした意識の中呟き続けている。
「まりしゃの……あかちゃん……うまれにゃいで……まりしゃ……しぬにょ……やじゃぁ……うまれにゃいで……う……ま…りぇ…………」
腹の中の赤ゆっくりを拒絶しながら、まりさは息絶えた。
まりさが死んでから、ようやく異様に膨れ上がった腹に変化が起きた。
それまで見えなかった産道が開く。
母親を殺して、出産の用意ができたらしい。
産道から、どろっと餡子が流れ出た。
餡子の中には、よく見るとリボンのようなものや、皮らしきものの破片がある。
妊娠はしたものの、栄養が足りなくて死産だったようだ。
産道を通る時に、柔らかすぎるその体はばらばらになったに違いない。
「ま……まりしゃああああああ!れいみゅもちぬにょ?ちゅっきりちて、ちぬにょ?やじゃあ!やじゃあああああ!」
無惨なまりさの死体を見て、れいむは絶叫した。
れいむはがたがた震えて、水槽の中を跳ね回る。
ほかのゆっくりたちは、目の前で起こっている惨劇が信じられないらしく固まっている。
「やじゃああ!ゆんやああ!ゆんやあああああ!おとーしゃんたしゅけて!たしゅけておとーしゃん!ゆぐぅぅぅ!」
狂乱していたれいむの動きが止まった。
額からするすると細くて縮れた蔓が伸びてきた。
こちらは植物型だったらしい。
両方の死に方を観察できるとは、運がいい。
男は自分の幸運を感謝した。
まりさは萎びて死んだが、れいむは溶けて死ぬようだ。
れいむの饅頭皮があっという間に黒ずんでいく。
死んだゆっくりの皮の色に、生きたまま変色していく。
「ゆぎっ……ゆぎぃ…れいみゅ……くりゅちいよぉ……かはっ………いき……できにゃい……おにゃか……いちゃい…………」
貧弱な蔓は、れいむの頭から伸びるとあちこちが膨らみ始めた。
ここに赤ゆっくりが実るはずだ。
膨らんでいくのに比例して、れいむの体は崩れていく。
「あんよ……いちゃい……おめめ……いちゃい………おとーしゃん…にゃんで……れいみゅ………おとーしゃん……だいしゅきにゃのに……」
れいむの体は球形を保てなくなり、ナメクジのような形になりつつある。
両目がどろりと溶けて、眼窩から餡子と一緒に流れ出す。
れいむは小さな声で、何度も男に尋ねる。
「どうちて……どうちて……ゆっくりちてたよ……おとーしゃんと…ゆっくりちてたのに………おとーしゃん……れいみゅのこと…きらいにゃの?」
男は無言で、れいむの最後を見ている。
まわりのゆっくりたちも、一緒になってれいむの末路を見届ける。
れいむはどんどんとゆっくりの姿から黒ずんだ塊に変わりながら、なおも命乞いをする。
「やじゃぁ……まだ……ゆっくりちたい……もっと……ゆっくりちたい………ちにたくにゃい………おとーしゃんと……ゆっく……ち……」
それ以上、れいむは喋ることができなかった。
口と歯と舌が溶け、れいむは黒ずんだヘドロとなって死んだ。
汚らしい黒い塊から、一本の蔓が伸びている。
そこに実っていた赤ゆっくりも、れいむと同じ姿だった。
目も口もない黒い実が、蔓にいくつかくっついている。
あまりの惨状に呆然としているゆっくりたちの中から、男はれいむを選んでつまみ上げた。
水槽から持ち上げられると、れいむは「ゆぴゃあっ!」と小鳥のような声を上げた。
恐怖でれいむは歯をかちかち鳴らしながら、精一杯愛想笑いをする。
「にゃにしゅりゅの……おとーしゃん……。れいみゅ……いいこにしゅりゅよ……きゃわいいよ……いちゃいの……やめちぇにぇ……」
男は注意深く片方の手の指でれいむの上半身を、もう片方の手の指でれいむの下半身をつかんだ。
指で潰さないように注意しつつ、れいむの胴体を引っ張る。
「ゆびゅぅうんっ!」
れいむの胴体は倍近く伸びた。
さすが体の柔らかい赤ゆっくりだ。
大人では不可能な長さでのーびのーびする。
「くりゅちぃいぃいいいい!ぐりゅぢいっ!おどーじゃん!れいみゅぐるぢいっ!いぢゃい!ぽんぽんいだぁいいい!」
確かにれいむの胴体はのーびのーびできた。
しかし、まだ慣れないことを強制的にさせられたせいで、れいむは苦しそうに叫ぶ。
無理矢理体を引っ張られる痛みに、れいむはもみあげをぴこぴこと動かす。
「ゆあああ!やめりゅんだじぇ!おとーしゃんやめりゅんだじぇぇえええええ!」
「れいみゅくるしがってりゅよおおおおお!やめちぇ!おとーしゃんやめちぇええええ!」
「だみぇえええええ!のーびのーびはだみぇにゃのおおおお!だみぇ!おとーしゃんもうやめちぇええええ!」
下で残されたゆっくりたちがわめいているが、男は無視した。
少しずつ、のーびのーびしたれいむの体を捻っていく。
今度はねーじねーじだ。
ちょっと強く力を込めすぎると潰れてしまうため、細心の注意を払って男はれいむを捻る。
「びゅっ!……ぶぉっ!…………ぼぉっ!…………ゆ゙ぉ!」
体を九十度ほどひねった辺りから、れいむの口から意味のある言葉が聞けなくなった。
下半身から大量のしーしーが水槽に流れ落ちていく。
(くりゅちい!やめちぇ!おとーしゃん!もうやめちぇ!れいみゅちぎれりゅ!ちぎれりゅううう!)
そう訴えたくても、激痛で声が出ないその顔。
どれだけ叫んでも、近所迷惑にはならない小さな声。
まさに赤ゆっくりたちは、男にとって最良の玩具だった。
最後は一気に捻る。
「ゆ゙ぶぁ゙っ!」
コロネのような形になったれいむの体が、上下に分断する。
れいむは信じられない顔で男をじっと見ていた。
男に殺されることを、絶対に認めなくないようだ。
目がぐるんと裏返り、れいむはひどい形相のまま死んだ。
惨殺したれいむの上半身と下半身を水槽に落とすと、再びゆっくりたちは絶叫した。
「きょわいいいいいいいいいいいい!」
「ゆんやああああああああああああ!」
「やじゃああああああああああああ!」
忘れていた恐怖がよみがえり、ゆっくりたちは三方に散って逃げる。
かなり疲れているはずなのだが、どのゆっくりも逃げるのに必死だ。
「ゆっぐり!ゆっぐり!ゆっぎゅりいいいい!」
「にげりゅよ!ゆっぐりぢないでにげりゅよおおおお!」
「きょわいいいい!きょわいよおおおおお!」
これが子ゆっくりや成体のゆっくりだったら、さぞかしうるさいことだろう。
だが、赤ゆっくりの全力疾走も、渾身の絶叫もたいしたことはない。
男はいつも赤ゆっくりを使っていた。
どれだけ悲鳴を楽しんでも、周りの迷惑にならない。
男は金属製のトングで逃げるまりさを捕まえた。
いくら逃げても、人間にとっては蚊を捕まえるよりも簡単だ。
「いやじゃあああ!まりしゃしにたくにゃい!おとーしゃんやめりゅのじぇ!まりしゃはゆっくりちたいのじぇええええ!」
男はまりさによく見えるように、ライターの火を付けた。
燃え上がる炎を見て、まりさが硬直する。
「しょ……しょれ……にゃんなの……?まりしゃに……なにしゅりゅのじぇ?」
しーしーを垂れ流しながら、まりさはわずかな希望を込めて男にすがる。
これから自分がどうなるのか、かすかに分かったようだ。
「しょれ……あちゅいあちゅいなのじぇ………。まりしゃ……しょれちかづけりゅと……しんじゃうのじぇぇぇ…………」
男はライターをまりさのあんよに少しずつ近づけていく。
徐々に伝わってくる熱気に、まりさの顔色が変わった。
「やじゃあ!あちゅいのやじゃあ!おとーしゃんやめちぇ!やめちぇええええ!あぢゅい!あぢゅいのじぇ!あぢゅいいいいいいい!!」
ついにまりさのあんよに火が押しつけられた。
炎は生まれたての柔らかい饅頭皮をたちまち焦がしていく。
「ゆぴぇえええええええ!あぢゅいいいいいいい!やべぢぇええ!おどぉぉじゃぁぁあああん!!」
トングに挟まれたまりさは、下半身をめちゃくちゃに振り回して熱さから逃れようとする。
男のライターは、あんよだけではなくまりさの全身をくまなく焼いていく。
「あぢゅい!おどーじゃん!ばりぢゃあぢゅい!あぢゅいいいい!あ゙ぁあ゙…あ゙あ゙……ゆ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」
帽子に火が燃え移り、まりさは小さな火の玉となって燃え上がった。
ぱちぱちと音を立てて髪の毛と帽子が燃え、絶叫するまりさの顔から両目が蒸発していく。
「あ゙ゔわ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!ゆ゙ぎぢぃい゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙!びゃあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」
炎に包まれたまりさは、体を焼かれる苦痛からのたうち回る。
その様子はまりさの悲鳴と相まって、ゆっくりたちには地獄の光景のように見えたことだろう。
火の玉まりさはしばらくの間トングの間で踊っていたが、やがて動かなくなった。
「あ゙……ゔぁ…………あ゙…………ゆ゙っ…………ぐ゙…………ぢ………………」
男はトングでつまんでいたまりさを、水槽の中に置いた。
それは、もはやまりさとは思えない真っ黒焦げの炭の塊だった。
中枢餡まで火が通っていないため、まりさが死ぬまでもう少しかかる。
「まりちゃああああああああああ!!ひどいよおおお!ひどいよおとーしゃあああああん!!」
両目と口の所に穴が空いただけの炭の塊に、残されたまりさとれいむが突進した。
そのひどい顔を間近で見て、すぐに二匹はしーしーを漏らして飛び退く。
「まりちゃのいもうちょ!まりちゃのきゃわいいいもうちょだったのにいいいいい!おとーしゃんにゃんで!にゃんでえええええ!」
「もうやめちぇええええ!ころしゃにゃいで!ゆっくりちてよおおおお!ゆっくりちようにぇ!ゆっくりちていっちぇにぇええ!」
男の方を見上げ、出せる限りの大声で二匹は殺さないでくれるよう命乞いをする。
「もうやじゃあああああ!もうやめちぇ!みんなしんじゃったよおおお!れいみゅたちおとーしゃんとゆっくりしちゃいのにぃいいいい!」
「おにぇがいだよおおおおお!まりちゃとゆっくりちてにぇ!いちゃいいちゃいやめちぇ!やさしいおとーしゃんにもどっちぇよおおおおお!」
泣き止まない二匹を見て、男は急に笑って見せた。
男のそれまでの所業からして、突然の心変わりはあり得ない。
あり得ないはずだったが、ゆっくりすることを求める赤ゆっくりたちはそれにすがってしまう。
男が笑ったことで、やめてくれるかもしれないと期待したのだろう。
ぎこちなく、涙でべたべたの顔で二匹は笑った。
「ゆぅ……ゆっくり……ゆっくりしてにぇ、おとーしゃん」
「まりちゃと……ゆっくりちてくれりゅ?してくれりゅよにぇ?」
男が左手を伸ばすと、れいむとまりさはびくっと体を震わせた。
ぎゅっと目をつぶって、ぶるぶると震えている様子はとても哀れで見ていて飽きない。
男はわざと、優しくれいむとまりさの頭を撫でてやった。
「ゆっ……おとーしゃん…………おとーしゃぁん………れいみゅ……ゆっくりしゅりゅよ………」
「しゅーりしゅーり………おとーしゃんに……しゅーりしゅーりしゅりゅよ…………」
指先で二匹のほっぺたをくすぐり、髪を撫でる。
最初は怯えていた二匹も、次第に目を開いて泣き笑いの表情になっていく。
優しいお父さんが戻ってきた。
もう、あんな恐い思いをしなくていいのだ。
「ゆゆ~ん…………きょわかったよぉ………れいみゅ…しゅごくこわかったよぉぉ…………」
「まりちゃ……おとーしゃんがだいしゅきだよ……やさしいおとーしゃんにもどって……うれちいよぉ………」
慎重かつ辛抱強く、男はれいむとまりさを慰め、かわいがってやる。
もう安心していいよ。
お父さんはお前たちを殺したりしないからね。
ゆっくりしていいからね。意地悪しないよ。
れいむ、まりさ。泣かないで。
口には出さないが、そんな気持ちを込めて男は二匹にすりすりさせる。
「おとーしゃん………。おとーしゃん……。まりちゃ、もうへいきだよ。ゆっくりちてきたよ……」
「れいみゅもだよ……。もうなかにゃいよ!れいみゅ、ゆっくりちてるきゃわいいゆっくりになるにぇ!」
先に立ち直ったのはれいむだった。
すっかり機嫌を直したれいむは、男に向かってゆっくりしている顔で笑った。
「おとーしゃん!れいみゅとゆっくりちようにぇ!ゆっくり!ゆっくり!ゆっく………り゙ぃ゙っ゙!?」
満面の笑みを浮かべて男を信頼したれいむに、男はそれまで水槽に入れなかった右手を突き出した。
音を立てて、金属製の刃が重なり合う。
「ゆっ……?ゆぅ……?おとーしゃ……ん?……れいみゅ…に…なに……しちゃ…………にょ?」
男は右手を持ち上げる。
手に握られているのはハサミだった。
それは無防備に全身をさらしていたれいむの上半身と下半身を、横から二つに分けていた。
一瞬で切断したため、れいむの体に変化はない。
「や……やぢゃぁ………れいみゅ……やぢゃぁ……しょんなの……おとーしゃん……ど…うち……てぇ?」
だが、れいむもだんだん分かってきたようだ。
自分がどうなったか、おぼろげに理解できてきたらしい。
男は、立ち尽くしたまま現実が受け入れられないれいむに、現実を教えてあげることにした。
ハサミで、れいむの頭を後ろに押してやる。
「やめちぇぇええええええええええええ!!」
れいむが絶叫した。
あんよは動かないのに、れいむの視点だけがぐるりと動く。
れいむの上半身が下半身から分かれ、ぽとりと断面をさらして水槽の床に倒れた。
これで、れいむも実感できただろう。
自分の体が、二つに切断されたということに納得できたに違いない。
中枢餡から切り離されたあんよは、まだかすかに痙攣している。
一方、どろりと餡子を垂れ流している上半身はぴくりとも動かない。
れいむの顔は、恐怖と驚愕が混じったまま、完全に硬直していた。
もみあげさえ微動だにしない。
しばらく、れいむはそのまま動かなかった。
だんだん、その表情から驚愕がなくなり、代わって恐怖のみになっていく。
れいむは突然、金切り声を張り上げた。
「ゆ゙ん゙や゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ゙っ゙っ゙!!」
恐ろしい声で一度叫ぶと、れいむは死んだ。
何も見ていない目が、男の方を向いている。
大きく開かれた口は、悲鳴の形で固まっている。
中枢餡が流れ出したからではない。
自分が死ぬという恐怖によって、れいむは心ごと先に死んだのだ。
あまりの恐ろしさに、れいむは生きることを放棄した。
その死に顔は、最後の瞬間まで味わった恐怖によって、二目と見られないものになっていた。
一度安心したことによって、れいむの恐怖は計り知れないものとなっただろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
赤まりさの周りには、一緒に生まれたれいむたちとまりさたちがいる。
そのどれもが、無惨な死体だ。
まりさはきょろきょろと周囲を見回しては、「ゆわああっ!?」と叫んでしーしーを漏らす。
喋れないけれど、とてもゆっくりしていたれいむは目と口から餡子を吐いて死んだ。
れいむの世話を焼いていた立派なお姉さんのまりさは、背中から潰されて死んだ。
仲が良くて一緒にいたれいむとまりさは、早すぎるすっきりで干涸らびたりどろどろに溶けて死んだ。
のーびのーびでみんなをゆっくりさせてくれたれいむは、体を捻られて死んだ。
腕白で誰よりも元気だったまりさは、火で焼かれ黒こげになって死んだ。
最後まで残ったれいむは、体を半分に切られて恐ろしさのあまり死んだ。
まりさは一番最初に生まれた。
だから、まりさはじぶんをみんなのお姉さんだと思っていた。
それなのに、自分は何もできなかった。
「ゆぁあ………ゆあ……ゆああああああ…………」
お父さんが、こっちを見ている。
生まれてから一番最初に見た、ゆっくりしたお父さん。
おいしい緑色のご飯を食べさせてくれた、まりさたちのお父さん。
とってもゆっくりしたお父さんだと思っていたのに、どうして。
一緒に遊んでくれたし、いっぱいすーりすーりもさせてくれたのに、どうして。
どうちて、みんなころしちゃったにょ?
おとーしゃんは、まりちゃたちのことがきらいだったにょ?
どうちて?どうちて?
ころされるんだったら、まりちゃたちはどうちてうまれてきたにょ?
ころされるためだけに、まりちゃたちはうまれてきたにょ?
そう言いたくても、恐怖のあまり体が動かない。
ひたすら恐くて、まりさはしーしーを漏らす。
もう、どうすればいいのか分からない。
「やめちぇにぇ……おとーしゃん………もう……やめちぇにぇ…………」
まりさはもう、男の気まぐれにすがるしかなかった。
がたがた震えながら、まりさは男に泣き付く。
男はにやりと笑って、首を左右に振った。
何も言われなくても、まりさはすべてを理解してしまった。
自分の最後の願いは、聞き届けられなかった。
男によって、まりさは殺される。
妹たちと同じように、いっぱい苦しんでから死ぬ。
やじゃあああああああ!しにちゃくにゃい!しにちゃくにゃいいいいいい!!
まりちゃはゆっくりしゅりゅ!ゆっくりしゅりゅううううう!ゆっくりしゅりゅのにいいいいい!
まりちゃはゆっくりだよ!ゆっくりはゆっくりしゅるためにうまれたんだよ!ゆっくりしちゃいんだよ!
ころされりゅためにうまれたんじゃないよ!いちゃいいちゃいされりゅためにうまれたんじゃないよ!
おとーしゃん!ころしゃにゃいで!ころしゃにゃいで!いちゃいいちゃいしにゃいでえええええええ!
まりちゃをゆるちて!ゆるちてよおおおお!まりちゃいきたいよ!もっとゆっくりいきたい!
いっぱいゆっくりちて!むーしゃむーしゃちて!たのちくあそんで!ぼうけんちて!
しょれから!しょれから!おおきくなって!きれいなれいみゅとじゅっとゆっくりちて!ふぁーすとちゅっちゅちて!
しゅっきりちて!たくしゃんあかちゃんつくって!ゆっくりちあわしぇーになりちゃいのにいいいいい!
どうちてころしゅの?おとーしゃんどうちて!どうちてまりちゃをころしゅの!
まりちゃは、まりちゃは、ばり゙ぢゃ゙ばあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!
まりさのゆん生から、すべての希望が奪われた。
今まりさは生きているが、既に死んでいるのと同じだった。
これから殺される。苦しい思いをいっぱいして、痛みに叫びながら殺される。
まりさの中で、何かがぷつりと切れてしまった。
「ぱぴぷっ!ぱっぴぃぴ!ぱぴぴゅぺぴょぉ!ぱっぴっぷっぺっぴょ~!!」
まりさは正気を失った。
狂気に逃げることによって、まりさは恐怖を捨てようとしたのだ。
まりさの目は焦点の合わない目になり、体を不規則に揺らしながら奇妙な声で歌を歌う。
「ゆぴょ~ん♪ゆぴょぴょ~♪おと~ぴゃ~ん♪まぴぴゃといっぴょにゆっくりぴょっぴょっ~♪」
もう、まりさは男に怯えることはない。
気が狂えば、何も分からない。
こうなってしまえば、どんなことがあっても苦しむことはない。
「ゆぴぷぺぽ~♪ゆぴゃ~ん♪ゆ~ぴゅ~り~ぴていっぴぇ~にぇ~♪おと~ぴゃ~ん♪」
果たして、本当にそうだろうか。
まりさの顔は、一見するととてもゆっくりしているようだ。
だが、まりさは今もひどい苦しみを味わっているようにも見える。
あまりの苦しみに、正常な反応ができなくなっているゆっくりの動きに似通っている。
そうだとしたら、気が狂ってもまりさはゆっくりできなかったのだろう。
「ゆぷぷ~ぷ~ぷ~♪ぱ~ぴぷぺぽ~♪ぱ~ぴちゃ~はたのぴ~いゆっ~くぴ~っ♪ぴっぴっ♪」
どちらであっても、男には関係ない。
男はこの結果に満足だった。
時間をかけて、七匹のゆっくりの命を奪った。
加工場で大量生産したゆっくりとは思えないくらい、いろいろな反応を楽しめた。
最後のまりさに至っては、発狂したくらいだ。
男は水槽の中で歌っているまりさをつまみ上げ、手の上に置いた。
顔を近づけても、まりさはもう驚いたり怖がったりしない。
どこか遠くを見ながら、たまに体を不気味にのーびのーびさせてまりさは歌う。
泣きながら笑い、苦しみながらゆっくりしている顔だ。
「ぴょぴょぴょ~♪ゆ~ゆ~ぴ~ぷ~♪おと~ぴゃんとまぴちゃでゆっくりぴあわぴぇ~♪」
男の心に、最高の満足感が訪れた。
何て、素晴らしい歌声なんだろう。
町で見かける、「ゆっくりのひ~♪」などと下手な歌を歌っているゆっくりよりも数億倍聞き応えがある。
何の下心も邪心もない、究極の歌だ。
半日も付き合っていないのに、こんな素晴らしい声を聞かせてくれるなんて。
ちょっと手を加えただけで、ゆっくりがこんなに面白いものに変化するなんて。
男はまりさに感動さえしていた。
まりさを小さな瓶に入れて、蓋をする。
まりさのためだけに用意されたステージだが、まりさは気づかない。
瓶の中でも、男の手の上と同じように体を揺らしながら死んだ目で歌い続けている。
小さなヒーリングアイテムの完成だ。
男は水槽の中身を片づけ、瓶を片手に寝室に向かう。
枕元に瓶を置くと、目覚まし時計をセットしてから電気を消した。
かすかに歌声が聞こえてくる。目を凝らせば、中で動くまりさの姿も見える。
とても充実した時間を過ごせた。
仕事の疲れも、ゆっくりと遊ぶことによって全部吹っ飛んでしまった。
安価にゆっくりを購入し、好きに使えるとは何て良い時代なのだろう。
男は今日も消費したゆっくりたちに感謝しつつ、満ち足りた気持ちで目を閉じた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
朝、男は自然に目を覚ました。
夢も見ないくらい、ぐっすりと眠れた。
ベッドから起き上がり、男は上半身を動かす。
頭は起き抜けなのにすっきりし、昨日からの仕事のストレスも引きずっていないようだ。
これも、全部ゆっくりのおかげだ。
男は昨日から楽しい歌声を聞かせてくれたまりさの方を見る。
瓶の中で、まりさは死んでいた。
たった数時間が過ぎただけなのに、まりさの体は黒ずんでぼろぼろだった。
死んで数日経ったゆっくりと言っても、誰も疑わないだろう。
発狂しても逃れられなかった苦痛が、まりさを殺したのだ。
休むことなく歌い続け、苦しみ続けてまりさは衰弱死したのだろう。
どんなゆっくりに見せても、こんな死に方だけはしたくないと言うに違いない。
まりさはたった一匹で、惨めに死んでいった。
「ありがとう」
男は初めてゆっくりたちに口をきいた。
ゆっくりたちによって、男はとてもゆっくりした時間を過ごすことができた。
もともとゆっくりたちが「ゆっくりしていってね!」と言うのは、誰かにゆっくりしてもらいたい欲求のあらわれらしい。
それがいつからか、自分たちをゆっくりさせろとはしたなく要求するようになった。
男によって消費されたゆっくりたちは、その本分を果たしたのだ。
「ゆっくりしていってね」
死んだまりさをゴミ箱に捨てる男の顔は、ゆっくりたちもうらやむようなゆっくりした顔だった。
会社での仕事は苦痛ではないが、気苦労も多い。
やりがいがあるかと聞かれたら返答に窮してしまうが、辞めたいと思ったことはない。
給料には満足しているし、同僚との関係もうまくいっている。
しかし、やはりあちこちからストレスを背負い込むことはあるのだ。
だがそんなイライラも、最近はかなり和らいだ。
家に帰れば、自分にぴったりの楽しみが待っているのだ。
階段を登り、鍵を鍵穴に差し込み、男はドアを開ける。
我が家の匂いに心が安らぐ。
自分の匂いと、ほんの少し甘い匂いとが混じったものだ。
帰ってきたのだ。
ドアを閉める。
サラリーマンの自分はこれでおしまい。
今から、本当の自分に戻れる。
男は鞄を置き、スーツをハンガーに掛けネクタイをゆるめる。
部屋着に着替えながら、男は鞄を開けた。
携帯の隣にあるボールのようなものを取り出す。
材質はプラスチックだが、表面はゴムでコーティングされ,中には液体が詰まっている。
男のやや険のある目つきが優しいものになった。
我が子の写真を見るかのように、男は愛情さえこもった目でボールを見つめる。
どろりとした透明な液体の中に、何かが入っている。
それは男が何もしなくても、常に全体を伸縮させて動いている。
ぱたぱたと、両脇に付いているものが鳥の翼のように振られている。
男はその様子を、クリオネのようだと思った。
液体の中のものは、明らかにもがいている。
泳いでいるのではない。溺れているのだ。
窒息の苦しみに体をよじらせ、どこにもない空気を求めて助けを呼んでいる。
死んではいない。溺死寸前の苦痛を、延々と味わっているのだ。
それは、一匹の小さなれいむだった。
大きさからして赤ゆっくり、あるいは品種改良した豆ゆっくりに間違いない。
五体満足でリボンももみあげもきれいなれいむが、ボールの中に閉じ込められていた。
ボールの中は液体で満たされている。
ゆっくりは窒息死しない癖に、呼吸をする。
そのためこのれいむは、ボールの中にいる間ずっと溺れているのだ。
れいむは口をぱくぱくと開いたり閉じたりしながら、ひたすら苦しむことしかしていない。
これはゆっくりの標本を作るためのキットである。
本来は、ボールの中に薬で殺したゆっくりを入れ、保存液を満たして完成となる。
しかしいつからか、男のように生きたゆっくりを入れて、その苦しむ様子を鑑賞するために用いられる事の方が多くなった。
実際、ヒャッハー目的での購入の方が、本来の用途での購入よりも三倍は多いという統計もある。
真偽はどうあれ、男はゆっくりの標本を作る気などさらさらなかった。
こうやって、生きたゆっくりを入れる為にキットを買ったのだ。
このキットの良い点は、いつでもどこでもゆっくりの苦しむ様子を見られる事だ。
何よりも、ゆっくりのうるさい声が周囲に漏れないところがいい。
男はこれを会社に持ち込んでいた。
鞄に入れて、仕事の合間に取り出して眺めるのが主な用い方だ。
液体の中でもがく様子は、幻想的ですらある。
同様の方法でゆっくりを持ち込む社員は思いの外多い。
皆、ゆっくりのもがく姿にヒーリングを求めているのだ。
今日も一日、れいむは元気いっぱいで苦しんでくれた。
力なくボールの中で沈んでいては、見ていても面白くない。そんなのは標本と同じだ。
こうやって、懸命に生きようと足掻く姿こそ、見ていて心が癒される。
男は感謝の気持ちを込めて、窒息に苦しむれいむをじっと眺めた。
れいむは、生まれてすぐボールの中に入れられた。
恒例の「ゆっくりちていってにぇ!」の言葉は、注ぎ込まれる保存液でくぐもったものになった。
それからというもの、れいむのゆん生は窒息とほぼ同じ意味だった。
れいむは生まれてからというもの、苦しみ以外何も味わっていない。
両親にすーりすーりしたこともない。
姉妹にぺーろぺーろしたこともない。
おいしいご飯をお腹いっぱいむーしゃむーしゃしたことも、あったかい毛布の中ですーやーすーやしたこともない。
餡子に刻まれた先祖からの記憶にあるたくさんのゆっくりは、どれ一つ味わうことなく夢と消えた。
保存液の作用で、れいむの体は当分衰弱することもない。
さすがに永久に持つことはないが、後二ヶ月くらいは元気な姿を見せてくれることだろう。
ボールの中で、れいむは溺れながら踊っているかのようだ。
もみあげを翼のように羽ばたかせ、顔を歪め、れいむは訴える。
(たしゅけちぇ!おにーしゃん!れいみゅをたしゅけちぇ!くるちいにょ!れいみゅくるちいにょ!おぼれりゅ!
おぼれりゅよおおお!たしゅけちぇよおおお!おにーしゃん!れいみゅをたしゅけちぇ!くるちい!くるちいいいい!!)
れいむにとって、時々自分をゆっくりした目つきで眺める男だけが救いだった。
何とかして、この無限に続く溺死の地獄から助けてもらおうと、れいむは必死で男に呼びかける。
だが、男はその様子を楽しそうにじっと見ているだけだ。
助けを求める姿。苦しみにもがく姿。
それだけが、れいむに求められているものだった。
れいむの心が死に、光を失った目でボールの底に沈むまで、れいむが引き上げられることはない。
だが、待ちに待ったボールの外を、れいむが体験することはないだろう。
用済みとなったれいむは、あっさり潰されてしまうに違いない。
そんなことも知らず、れいむは男の目の前でいつまでも溺れ続けていた。
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冷蔵庫にあった昨日の残り物と、コンビニで買った出来合の食品をテーブルに並べ、男は食事を始めた。
以前はたった一人の食事を寂しく思ったものだ。
だが今は、それを癒してくれるゆっくりたちがいる。
「いぢゃぃ………いぢゃいよぉ…………」
「おにぇがぃ………これ…とっちぇ…………」
「いだいよぉ……れいみゅ…いだいの…………」
「おかーしゃん……まりちゃを……たしゅけ…ちぇ……」
「ゆ゙っ……ゆ゙っ………ゆ゙っ………ゆ゙っ…………」
テーブルの上には木の板があった。
その上には、一本の長い釘によってあにゃるから頭まで貫かれたゆっくりが並んでいる。
ルーマニアのドラキュラにあやかった串刺しの列だ。
れいむの頭からは釘の先端が見えるが、まりさは帽子で分からない。
一匹残らず、釘による行動の制限と苦痛でその場で弱々しくもがくだけだ。
「おかーしゃん……おかーしゃぁん………まりちゃ………まりちゃぁ…………」
「ゆぇぇ………どうちて……れいみゅ…わるいこと……ちてにゃいのに…………」
「いぢゃいよぉ……いぢゃい…いぢゃいぃぃ………しゅごくいぢゃいぃ…………」
懸命に母親を呼ぶものもいれば、なぜ自分がこうなったのか分からずただ涙を流すものもいる。
ほとんどは、ひたすら体を貫く痛みに苦しんでいるだけだ。
赤ゆっくりを使っているため、場所も取らないし悲鳴も小さく騒音にならない。
テーブルの上だけで、静かに楽しむことができる。
三者三様のもがき方と、消え入りそうな悲鳴に男の箸も進む。
「ゆ……ゆ………ゆゆっ…………ゆ……」
「…………………………ゆ……………………ゆ………………」
「ゆひっ………ひっ………………ひっ…………」
悲鳴を上げているのは、まだ串刺しにして日の浅いゆっくりだ。
二日を過ぎた辺りで、空腹と絶え間ない苦痛で赤ゆっくりは壊れ始める。
串刺しの列の中には、死んだ魚のような目でぼんやりと遠くを見ているものがいる。
どうやら、心が砕けてしまったようだ。
その隣では、異様な目つきで小さく笑い声を上げているものがいた。
こちらは狂うことで楽になろうとしたゆっくりだろう。
「ゆひひっ………おかーしゃん…おとーしゃん……まりちゃちあわしぇーだよ………ゆききっ……じゅっといっちょ……ゆひひっ」
一番端のまりさは、ずいぶん早くに壊れてしまった。
昨日串刺しにしたのに、もう狂っている。
まりさは家族と幸せに暮らしている妄想に浸っているらしく、ひっきりなしに不気味なことを呟いている。
やがて例外なく壊れてしまうとはいえ、この串刺しの列は見ていて飽きない。
わめき散らすこともなく、暴れることもなく、ただ静かに苦痛が続いている。
痛みに苦しむゆっくりの顔を眺めていてもいいし、釘を抜いてくれるよう哀願する声に耳を傾けてもいい。
ゆっくりと、赤ゆっくりたちの心が壊れ、衰弱して死んでいく様子を見ているだけだ。
それだけで、儚い幻想を見ているかのように心が癒されていく。
「おにぇがい…おにーしゃん………れいみゅをたしゅけて………いちゃいの………いちゃいのおぉぉ…………
にゃんでもしゅるよ………ゆっくりさせてあげりゅよ………だかりゃたしゅけて………たしゅけてよぉおぉ…………」
男は涙を流して助けを求めるれいむを見つめながら、簡単な食事を終えた。
最後に赤ゆっくりたちにオレンジジュースを垂らしてから、男は流しに向かう。
後ろでれいむがさらに何か言っていたが、男はまったく聞いていなかった。
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風呂上がりに、男は部屋のあちこちに置いてある水槽を一つずつ覗いていく。
折からのゆっくりブームに乗じて、飼育キットもずいぶん安くなった。
最初は水槽の数は一つだったが、今では三つもある。
ずいぶんゆっくりにはまってしまったな、と男は苦笑した。
最初の水槽には、数匹の子ゆっくりが入っている。
男が蓋を開けると、いっせいにゆっくりたちは男の方を見た。
室内で飼っているはずなのに、このゆっくりたちは一匹残らず薄汚れていた。
帽子とリボンは色あせ、饅頭の皮はがさがさなのがガラス越しなのによく分かる。
どのゆっくりも、飢えているのだ。
「おにーさん………おにーさん……おなかがすきました……おなかがぺこぺこなんです………」
「なんでもいいです……たべさせてください………おくちにはこんでください…………」
「まりさたちはうごけないです……だから……ごはんがたべられません……たすけてください………」
「ごはんがだめなら…なまごみでもいいです…いいですから………おねがいです………なにかたべさせてください………」
蓋を開ければ、ゆっくりたちの小さく苦しそうな声が聞こえてくる。
ゆっくりたちは男の顔を見上げ、涙を流しながら訴えるだけだ。
どのあんよも、男によって念入りに焼かれているため動かない。
ゆっくりたちは日がな一日お互いの顔を眺めながら、餓死の苦しみを味わい続けている。
これもまた、静かな楽しみだ。
飢えたゆっくりの声は小さいため、周りの迷惑になることもない。
死ぬ時も静かに動かなくなるだけなので、まったくうるさくない。
男のようなアパート暮らしの人間は、こうやって静かに楽しむ。
男は水槽の中に、飴玉をいくつか置いた。
どのゆっくりの目にも見える場所だが、同時に決して手が届かない場所にそれを置く。
「あまあまだよ…たべるよ………たべたいよお…………とどかない…とどかないよぉぉぉ」
「えぇぇぇ…………あぁぁぁぁ………どうして……どうしてとどかないの?」
「おにーさん……もっと……もっとまりさのちかくにおいてください……とどかないです……とどかないんです………」
「やだよぉぉぉ……しにたくないよぉぉぉ………おなかすいたよぉぉぉ…………」
「も……もっと………ゆっく…り……した……かった……よぉ……………」
なりふり構わず、ゆっくりたちは舌を伸ばして飴玉を食べようとする。
長い舌が釣り竿のように伸び、転がっている飴玉に向かって懸命に伸ばされる。
だが、どれだけ必死に舌を伸ばしても、後もうちょっとの所で届かない。
その間抜けな顔と仕草に、男は笑顔を浮かべた。
小さな水槽の中に、生きるための必死のドラマがある。
どんなテレビも映画も作り出せない、本物の生への執着だ。
もう何回これを繰り返しただろう。
最後は決まって餓死で終わるのだが、男はちっとも飽きない。
奇跡を信じて、目を血走らせ一生懸命舌を伸ばすもの。
あきらめたのか、目を閉じてさめざめと泣いているもの。
もう男以外に頼るものがいないため、小さな声で哀願するもの。
衰弱しきったのか、虚ろな目で痙攣しているだけのもの。
リアルタイムで繰り広げられるゆっくりたちのドラマに満足し、男は水槽の蓋を閉めた。
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二番目の水槽の蓋を開けると、こちらには元気な子ゆっくりが入っていた。
男に向かってぴょんぴょんと跳ねてくる様子から察するに、健康そのもののようだ。
水槽の中には板チョコが一枚はいっているが、まったく口を付けた様子がない。
男が顔を近づけると、そろってゆっくりたちは体をのーびのーびさせてから頭を水槽の床にすりつける。
土下座しているようだ。
顔を上げてみればすぐに分かる。どのゆっくりも、口がないのだ。
この水槽に入っているゆっくりは、男によって口を抉られている。
まだ赤ゆっくりの頃に、ピンセットによって口を抉られ、傷口を別のゆっくりから取った皮によってふさがれたのだ。
口のあった場所は、滑らかな饅頭皮が完全に覆ってしまい、痕跡さえ残っていない。
当然、ゆっくりたちは食べることも喋ることもできないでいる。
おいしそうな板チョコも、眺めているだけで口に入れることはできない。
突然口を裂かれる激痛に気絶したゆっくりたちは、目を覚ましてからさぞかし驚いたことだろう。
口も舌も歯も喉も、自分たちの顔からなくなってしまったのだから。
もう二度と、むーしゃむーしゃとおいしいご飯を食べることはできない。
ぺーろぺーろと愛情を込めて顔を舐めてあげることもできない。
それどころか、楽しくお喋りすることさえできないのだ。
男の姿が見えると、ゆっくりたちは我先に跳ねてきては土下座する。
疲れて動けなくなれば、涙をいっぱいにたたえた瞳で男をじっと見つめた。
声が出せなくてもよく分かる。何を言いたいのか、男にはすぐに分かる。
(おねがいです!おにーさん!れいむたちのおくちをもとにもどしてください!)
(おくちがないとむーしゃむーしゃできません!ぺーろぺーろできません!できないのはいやなんです!)
(おねがいだよおおおお!おにーさあああん!もどして!おくちをもとにもどしてよおおおお!)
(もうやだああああ!こんなのいやなんだぜええええ!おくちがないとゆっくりできない!できないんだぜええええ!)
(おねがいします!おねがいします!おねがいしますうううう!おくちをください!おくちをくださああああい!)
もしゆっくりたちが話せたならば、さぞかしうるさいことだろう。
だが、ここではゆっくりが額を床にぶつける音しか聞こえない。
痛みはないが、食べることも喋ることもできないゆん生は苦痛でしかない。
目の前に甘いチョコレートがあることが、ゆっくりたちの苦しみをさらに引き立てている。
そのあまりにも哀れなゆっくりは、この上ない癒しのアイテムだ。
男は一匹ずつゆっくりを取り上げ、成長抑制剤を混ぜたオレンジジュースを注射していく。
これがゆっくりの餌だ。
ゆっくりは餓死することはないが、食事を楽しむこともできない。
ゆっくりできないことから衰弱死する時まで、ゆっくりたちは喋ることも食べることもできない。
水槽に降ろされたゆっくりたちは、今日も口を元に戻してもらえないことが分かったようだ。
ぽろぽろと涙をこぼしながら、お互いにすりすりして慰め合っている。
最後のまりさは、一向にお願いを聞いてくれない男に業を煮やしたらしい。
水槽に降り立つや否や、男の手に体当たりを始めた。
ぽんぽんと柔らかい感触が手から伝わってくる。
顔を近づけると、まりさは涙をこらえて男をにらみつける。
(まりさたちからおくちをとったわるいおにーさんなんか、ゆっくりしないでいますぐしんでね!)
きっとそう言いたいのだろう。
男はほほ笑み、まりさをつまみ上げた。
注射器にオレンジジュースとは別の液体を注入し、まりさに突き刺す。
中身を全部まりさの体に注射すると、まりさはカッと目を見開いた。
(な!なにごれええええええ!!がらい!がりゃいいいいいいいいい!ぐるぢいいいいいいいい!)
ぽとりと水槽に落とすと、まりさはその場でぽよんぽよんと跳ね始めた。
豆を煎っているかのような動きだ。
目から涙をどばどば流し、体をめちゃくちゃに捻りながら、まりさはあまりの苦しさに跳ね回る。
(がらい!いだい!がらい!いだい!おにーざん!ごめんなざい!ごめんなざい!がらいい!いだいい!だずげで!だずげでぐだざあああい!!)
男が注入したのは、タバスコを溶かした水だ。
ほかのゆっくりたちは男に逆らうとどうなるのか見せつけられ、ひたすらその場で涙を流していた。
やがてまりさは跳ねるのを止め、泡を吹いて気を失った。
無音の嘆きに男は満足し、水槽の蓋を閉めた。
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明日は休日だ。
だから、今夜はもう少しだけゆっくりで遊ぶことにしよう。
男は足取りも軽く風呂場に戻る。
そろそろ解凍が終わった頃だろう。
男は湯を満たした洗面器から、ペットショップで買った「冷凍ゆっくりパック」を二つ引き上げた。
四匹で一セットのこれは、親ゆっくりの頭から採取した赤ゆっくりを冷凍したものだ。
便利な時代になったものだ。
躾や知能にこだわらなければ、都会のど真ん中で清潔な赤ゆっくりがすぐ手に入る。
蓋をはがしてから、男は中のゆっくりをスプーンですくってテーブルの上に置いた。
眠っているまりさとれいむがそれぞれ四匹ずつだ。
どの赤ゆっくりも幸せそうな顔で目を閉じ、ついさっきまで親の頭に実っていたかのようだ。
外気に触れたからか、やがて皆体をぷるぷると振るわせ始めた。
一番最初にまりさが目を開ける。
「ゆっくりちていっちぇにぇ!」
目をぱっちりと開いて、赤まりさは男に向かって生まれて最初の挨拶を行う。
「まりちゃはまりちゃだよ!おとーしゃん、いっしょにゆっくりちようにぇ!」
刷り込みも完璧だ。
一番最初に見た男を、まりさは親だと思ったらしい。
まりさの声に誘われるように、次々と残りのゆっくりたちも目を覚ました。
「ゆ~ん!ゆっくり!ゆっくりっ!」
「ゆっくりちゅるよ!ゆっくりちようにぇ!」
「ゆゆ~ん!おとーしゃんだ!おとーしゃん!れいみゅはれいみゅだよ!」
「おとーしゃん!まりしゃここにいりゅのじぇ!こっちをみてほちいのじぇ!」
「ゆっくり~♪ゆっ♪ゆっ♪」
「おとーしゃんといっしょにゆっくりしゅるよ!ゆっくりしゅりゅ!」
「ゆ……?ゆぅ……?ゆ~ゆ~?ゆっ…………」
元気はつらつと男に挨拶するゆっくりたちだが、一匹だけおかしなれいむがいる。
ろくに男の方を見ようともせず、それどころか恒例の挨拶もしない。
きょろきょろと周囲を見回しては、不思議そうな顔をしているだけだ。
どうやら不良品らしい。
冷凍の際に中枢餡が傷ついてしまったのだろう。
低確率だが、冷凍ゆっくりパックにはこうした不良品が混じることがしばしばある。
知能がないため、ろくに会話することもできずただ食べて排泄して眠るだけだ。
「おとーしゃん!おとーしゃん!れいみゅおなかがしゅいた!」
「まりちゃも!まりちゃも!まりちゃもおおおおおお!」
「ゆええええん!おなかしゅいたよおおおおお!」
「ぽんぽんぺこぺこなんだじぇ!おとーしゃん、おいちいごはんがたべたいんだじぇ!」
新しい環境を見終えたゆっくりたちは、口々にかん高い声で空腹を訴える。
赤ゆっくりとしては大声で叫んでいるつもりだが、男にとっては小さな声だ。
これくらいなら、どれだけ騒いでも近所迷惑になることはないだろう。
男は付属しているゆっくりの蔓ペーストの封を切った。
この緑色のペーストは、赤ゆっくりたちが実っていた蔓をすり潰して加工したものだ。
手ずからこれを赤ゆっくりに与えることで、人間に対する信頼を高めることができる。
これによって、男がゆっくりたちにとって完全に「おとーさん」になるだろう。
男は皿に蔓ペーストを空けると、スプーンでかき混ぜてからゆっくりたちに差し出した。
一番最初に目覚めたまりさに、まずは近づける。
くんくんと匂いを嗅いだまりさは、目を輝かせてスプーンを口に入れる。
「ゆゆん!しゅごくおいしそうなにおいがしゅるよ!まりちゃたべりゅにぇ。むーちゃむーちゃ!ちあわしぇーっ!」
むーしゃむーしゃしてからごっくんと飲み込んだまりさの顔は、とても幸せそうな表情だった。
まりさがゆっくりしたのを見て、ほかのゆっくりたちも騒ぎ出す。
「れいみゅもたべちゃい!たべちゃいよ!おとーしゃん、れいみゅにもちょうだいにぇ!」
「まりしゃむーちゃむーちゃしゅるのじぇ!いっぱいたべておおきくなりゅのじぇ!」
「おいちそうだにぇ!おとーしゃん!れいみゅいっぱいたべりゅよ!」
「ゆぅ~!ゆっゆっゆ!ゆっ~!」
男は一匹ずつ丁寧に餌を与えた。
まるで、口を開けた雛に餌をやる親鳥のようだ、と男は思った。
一口ぱくりとペーストを食べたゆっくりは例外なく、もーぐもーぐしてから「ちあわしぇーっ!」と叫ぶ。
不良品ゆっくりも、「ゆぇ~!ゆぅ~!」と嬉しそうな顔をした。
どうやら、加工場のゆっくりにしては良くできたゆっくりたちだ。
ゆっくりはもろい饅頭の癖に、自分より弱いものをすぐに見下して虐める性質がある。
あの不良品ゆっくりもそうなるかと思ったが、どのゆっくりも虐めることはない。
一匹のまりさが姉代わりになったのか、しきりに世話を焼こうとしているのがほほえましい。
「れいみゅ、おくちのまわりがよごれていりゅよ。まりしゃがぺーりょぺーりょちてあげるにぇ!」
「ゆっゆっ!ゆぅ~」
「きれいきれいになったにぇ!まりしゃがおねーしゃんになってあげりゅから、ゆっくりちてにぇ!」
食事を終えたら、男は少しゆっくりたちと遊ぶことにした。
遊ぶといっても激しい運動はできない。
指先でつついたり、転がしてみたり、追いかけっこをしたり、上に持ち上げたりするだけだ。
「ゆんゆん♪おとーしゃん、まりしゃ、とってもゆっくりちてるのじぇ?うらやまちいのじぇ?」
「れいみゅこーりょこーりょしゅりゅにぇ!こーりょこーりょ!ゆっくり~」
「まっちぇ!おとーしゃんのおててゆっくりまつんだじぇ!まりしゃはおいかけっことくいなんだじぇ!」
「みちぇみちぇ!おとーしゃん!れいみゅもうのーびのーびできりゅよ!しゅごいでしょ!のーびのーび!」
「ゆわーい!まりちゃおしょらをとんでりゅみちゃい!おとーしゃんしゅごいにぇ!」
机の上が小さな運動場になった。
まだ高くジャンプすることはできないが、小さく跳ねたり転がったりして赤ゆっくりたちは男と遊ぶ。
無邪気そのものの表情と声に、男の疲れた心も癒されていく。
赤ゆっくりたちがへばってくると、最後は手にすりすりさせる。
「ゆ~ん。おとーしゃんのおててしゅーりしゅーりしゅるとゆっくりできりゅにぇ!」
「しゅーりしゅーり!おとーしゃんゆっくりしてるにぇ!もっとしゅーりしゅーりしゃせちぇ!」
「おとーしゃんはまりちゃのおとーしゃんだよ!まりちゃとしゅーりしゅーりしようにぇ!」
「まりしゃもしゅーりしゅーりしゅるのじぇ!しゅーりしゅーり!ゆっくりー!」
八匹を均等に構ってやると、瞬く間に時間が過ぎた。
そろそろいいだろう。
ゆっくりたちを水槽に入れ、男はあちこちをあさって道具を準備した。
水槽の前に戻ると、男とゆっくりたちと目が合う。
どのゆっくりも、男を父親だと思って信頼しきっているのがよく分かった。
「れいみゅ、まりちゃ、じゅんびできてりゅよにぇ?」
何を思ったのか、一番最初に目覚めた長女まりさが男の方に進み出る。
それに合わせて、不良品れいむ以外のゆっくりがうなずいた。
「それじゃあ……せーの、でいっしょにおとーしゃんにいうんだよ」
赤ゆっくりたちはきれいに一列に並んでいる。
「せーの………おとーしゃんだいしゅき!!」
「おとーしゃんだいしゅき!」
「おとーしゃんだいしゅきだよ!」
「おとーしゃんだいしゅきなのじぇ!」
「だーいしゅきだよ!だいしゅき!」
「おとーしゃんだいしゅきだじぇ!」
「ゆっくりだいしゅき!おとーしゃん!」
「ゆっ!ゆっ!ゆぅ~!」
声を揃えて、八匹のゆっくりたちは男にそう言った。
男が道具を探している間に、長女まりさを中心にして計画していたのだろう。
見事な刷り込みだ。餌を与えたことで、ゆっくりたちの愛情は男に集中したのか。
「まりちゃたちおとーしゃんのことだいしゅきだよ!いっちょにじゅっとゆっくりちようにぇ!」
長女まりさは男ににこにこ笑いながら告げた。
父親となった男のことが、大好きで仕方がないといった顔をしている。
生まれて一時間も経っていないのに、もう男のことを完全に信頼したようだ。
まりさたちは、全身全霊を込めて「おとーしゃん」を「だいしゅき」だと言った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
男は何も言わずに手を伸ばした。
どれにしようか、と迷ったが、すぐに不良品れいむを選ぶ。
これは反応が悪く、残しても意味がないと思ったからだ。
逆に、最後まで残すのは長女まりさと決めていた。
「ゆぅ~……ゆぁぁ~」
不良品れいむをつまみ上げる。
普通のゆっくりなら「おそらをとんでるみたい」と言うのに、ほとんど反応がない。
目も駄目か。
男はそう思ったが、すぐに違うと気づいた。
「ゆぅ~ん♪」
不良品れいむは男と目が合うと、笑ったのだ。
こちらのことが分かるらしい。
壊れた中枢餡でも、ゆっくりできる父親の姿は分かるのか。
どうでもいいことだ。
男は不良品れいむの笑顔を無視し、指先に一気に力を込めた。
「ゅぶっ!」
反応に期待せず、男はれいむを即死させた。
目から目玉と一緒に、口からは歯と一緒に、れいむの体内の餡子が吹き出す。
不良品れいむはあまりにも短い一生を終えた。
「ゆっ……お…とー……しゃ…ん………?」
「にゃに……しちゃの?……れいみゅ…………どうしちゃ…にょ?」
「れいみゅが………どうちて……?」
「あ……ああ……あんこしゃん……れいみゅの……あんこしゃんが…………」
「おとーしゃん……………にゃんで…………にゃんで…………?」
下の水槽では、赤ゆっくりたちが硬直していた。
ついさっきまでの不良品れいむをうらやむ表情は消え、目の前の現実が信じられない顔をしている。
男は指に残っていたれいむの残骸を、ぽとりと水槽に落とした。
皮だけになった無惨なれいむは、丁度姉のように世話を焼いていたまりさの前に落ちた。
「あ……ゆぁぁ………れいみゅ……れいみゅぅ………どうちて……どうちてぇ…………」
呆然とまりさはれいむの死体に近づき、そっと顔をすりつける。
妹みたいだったのに。一緒にご飯を食べたのに。
楽しく遊んだのに。おとーさん大好きって言ったのに。
どうして?どうしておとーさんがれいむを殺しちゃったの?
そんなふうに思っているだろうか。
「ゆっくりちてないでよぉ………おめめをあけてよぉ………れいみゅう……ゆっくりちようにぇ……まりしゃとゆっくりちてぇ………」
まりさは泣きながら、死んだれいむを舌でぺろぺろと舐めている。
男は涙を流すまりさを、指でそっと押さえた。
「ゆっ……おとーしゃん?なにしゅるにょ?」
少しずつ力を入れていく。
生まれたばかりの柔らかいまりさの体は、癖になりそうな弾力で男の指を受け止める。
「ゆ゙っ!ゆ゙っ!おとーしゃん!まりしゃくるちいよ!おしゃないで!まりしゃくるちいよおおおお!」
さらに力を入れていく。
もうどれだけまりさが力んでも、押し返すことのできないレベルだ。
まりさの体が、楕円形に押し潰されていく。
「ちゅぶれりゅうううううううう!まりしゃちゅぶれりゅううううううううう!」
この声が聞きたかった。
男の心に、たとえようもない満足感が押し寄せた。
今この瞬間のために、自分はゆっくりたちの父親を演じたのだ。
「ちゅぶれりゅううう!おとーしゃん!おどーしゃん!おどーぢゃぶ!ぢゅぶぶびゅぶっ!!」
興奮のあまり、男は力を加減することを忘れてしまった。
まりさの体は、さんざん叫んでいた通りに潰れた。
まだ生まれたばかりでどろっとした餡子が水槽の中に飛び散り、二つの目玉がころころと転がった。
「ゆ゙っ………お……ど……じゃ………………」
最後まで男を父親と呼びながら、まりさはわけも分からず死んだ。
残された六匹のゆっくりたちは、ゆっくりしていない顔で二つの死体と男を見た。
だんだんと、事態が飲み込めてきた。
おとーさんは、れいむたちとゆっくりしてくれないよ。
おとーさんは、まりさたちをころすつもりなんだ。
辺りに飛び散った餡子が、甘い香りを放っている。
それは、自分たちの末路だ。
恐怖が、一気にゆっくりたちを飲み込んだ。
「ゆああああああああああああああ!」
「やじゃああああああああああああ!」
「ゆっぐりぢぢゃい!ゆっぐりぢぢゃいいいいいい!」
「ゆんやあああああああああああ!」
「おとーしゃんやめちぇええええええええ!!」
「ゆっぐり!ゆっぐり!ゆっぐりいいいいいいい!!」
ゆっくりたちはパニックに陥った。
ばらばらの方向に六匹の赤れいむと赤まりさは逃げ出す。
しかしここは水槽の中だ。逃げ場などどこにもない。
男の手が、合流して逃げるれいむとまりさのペアを捕まえた。
「はなしちぇ!おとーしゃんはなしちぇぇええええ!れいみゅきょわい!きょわいよおおおお!」
「やめるんだじぇ!おとーしゃん!れいみゅこわがってるのじぇ!」
生意気にも、もうこの二匹はカップルにでもなったつもりらしい。
恐怖で叫ぶれいむをかばうように、まりさは男に止めるように言ってくる。
男は二匹をそれぞれの手でつまむと、その頬をくっつけた。
勢い余って皮を破らないように注意しつつ、れいむとまりさを高速で擦り合わせる。
「ゆっゆっゆっっ!……ゆゆ?……ゆぅぅぅぅっ!?」
「ゆぇぇ…………ゆっゆっ!……ゆぁぁぁぁっ!?」
最初は怖がっていた赤れいむと赤まりさだが、すぐに効果が発揮された。
見る見るうちに二匹の顔が赤くなり、目がとろんとしてきた。
口がだらしなく開き、体からねっとりした液がにじみ出してくる。
生まれてすぐだというのに、すっきりする準備ができている。
「にゃ、にゃにこりぇ!れいみゅ!れいみゅううううう!おかちいよぉ!」
「ゆああああ!しゅごくへんなのじぇぇぇ!おとーしゃん!おとーしゃああああん!」
「れいみゅへんだよおおおおお!おとーしゃん!れいみゅおかちくなっちゃうよおおおおおお!」
「おとーしゃああん!まりしゃ……きもちいいのじぇぇぇぇ!ゆっくり!ゆっくりちてりゅのじぇぇえええ!」
たちまち押し寄せる快感に、二匹は今までの恐怖を忘れて大声を上げた。
逆に男に、手を止めないでもっとしてくれるように頼む始末だ。
いつの間にか、水槽の中ではゆっくりたちが逃げるのを止め、二匹をじっと注視していた。
「おとーしゃん!まりしゃ!まりしゃにもっちょ!もっちょ!ちゅ、ちゅ!ちゅ!ちゅっきりぃぃぃ!」
「れいみゅも!おとーしゃんれいみゅもおおおおおおお!ちゅっきりぃぃぃぃいいいいいい!」
あっという間に、すっきりは終了した。
それまでの気色悪い顔から一転して、すっきりした顔で二匹は「ちゅっきりー!」と宣言した。
男は絶頂の余韻に浸ってぼんやりしている二匹を、水槽の中にそっと置いた。
「れいみゅ!れいみゅ!だいじょうぶにゃの?いちゃくにゃい?」
「しゅごーくちゅっきりちてたのじぇ。きもちよかったのじぇ?」
「おとーしゃん、まりちゃもちゅっきりしたいよ!まりちゃにもちてにぇ!」
「れいみゅもちたい!れいみゅもまりしゃといっしょにちゅっきりちたい!」
すぐにほかの四匹がれいむとまりさに群がる。
心配そうに顔を眺めていたが、二匹が苦しいどころか気持ちよさそうな顔をしていることに気づいたようだ。
たちまち、口を揃えて自分たちもすっきりしたいと言ってきた。
れいむとまりさ、すごくゆっくりしてたよ。
いいなあ。まりさもゆっくりしたいよお。
すっきりっていうんだよね。
いっしょにすっきりして、きもちよくなれるんだ。
おとーさん、すっきりしたいよ。まりさやれいむみたいにゆっくりしたいよ。
そんなことを考えているのがよく分かる。
さっき二匹の赤ゆっくりが死んだことは、目の前のゆっくりしたことにかき消されたらしい。
「ゆふぅん………おとーしゃん……。しゅごくきもちよかったよ……。ありがとうにぇ……」
「まりしゃも……ちゅっきりできたのじぇ……。おとーしゃん…またちゅっきりちたいのじぇ…………」
四匹の後ろで、気持ちよさそうにすっきりの余韻を楽しんでいる二匹。
男が親切心から、自分たちをすっきりさせてくれたと思っているのだろう。
そろそろ、その誤解も解ける。
「ゆぐぅ!」
「ゆぎぃ!」
始まったらしい。
すっきりによって二匹の体に妊娠、出産の用意ができた。
体内の餡子と栄養をたっぷりと吸い取って、赤ゆっくりができあがりつつある。
文字通り、二匹の体を喰らうことによって。
「ゆあっ!……がはっ!…ゆぐっ!…くりゅちいっ!………おとーしゃん!まりしゃ……くりゅちいっ!」
「かっ……かはっ……あっ……ゆあっ……にゃにこりぇ……れいみゅ……おとーしゃん……!」
うまく両方共妊娠できたようだ。
まりさの腹がぽこりと膨らみ始める。
動物型だ。
「どうちて……まりしゃ…おかーしゃん?………ちゅっきりって……あかちゃん……まりしゃ……おかーしゃんに……」
ようやく、まりさは気づいたらしい。
気持ちよくてゆっくりできたすっきりは、大人になってから行う赤ちゃんをつくる行為だということに。
本能の警告が聞こえるだろう。
赤ゆっくりの癖にすっきりをした個体は例外なく死ぬ、と。
「ぽんぽん…くりゅちいよぉ……やじゃぁ………おとーしゃん……たしゅけて………まりしゃをたしゅけてほちいのじぇ……」
たちまちまりさの体から栄養が枯渇していく。
体内の赤ゆっくりが形を形成するため、まりさの栄養を奪っていくのだ。
皮が萎びていき、髪の毛が束になって抜け落ちていく。
逆に、そこだけ膨れ上がっていく腹だけが餓鬼のようで不気味だ。
「おとーしゃん…まりしゃを……たしゅけて……たしゅけてぇ……やじゃぁ……くりゅちいのやぢゃぁ………」
まりさの体はバランスを崩し、仰向けにひっくり返った。
なおも膨れ上がっていく腹と、反比例してミイラのようになっていくまりさの体。
既に両目は眼窩の中でかちかちに干涸らび、だらりと口から垂れ下がった舌も萎びている。
全身の水分が、赤ゆっくりに集中しているのだ。
「くりゅちい…おにゃかいちゃい……あかちゃん…いやなのじぇ……まりしゃのぽんぽん……ぱんぱんなのじぇ……おとーしゃん…たしゅけて……」
助けを求めるまりさの体は、どんどんと乾燥して小さくなっていく。
生まれたばかりのまりさは、体の中の赤ゆっくりに全てを奪われて衰弱していく。
自分の苦しみの原因が、赤ゆっくりにあると分かったのだろう。
まりさはもうろうとした意識の中呟き続けている。
「まりしゃの……あかちゃん……うまれにゃいで……まりしゃ……しぬにょ……やじゃぁ……うまれにゃいで……う……ま…りぇ…………」
腹の中の赤ゆっくりを拒絶しながら、まりさは息絶えた。
まりさが死んでから、ようやく異様に膨れ上がった腹に変化が起きた。
それまで見えなかった産道が開く。
母親を殺して、出産の用意ができたらしい。
産道から、どろっと餡子が流れ出た。
餡子の中には、よく見るとリボンのようなものや、皮らしきものの破片がある。
妊娠はしたものの、栄養が足りなくて死産だったようだ。
産道を通る時に、柔らかすぎるその体はばらばらになったに違いない。
「ま……まりしゃああああああ!れいみゅもちぬにょ?ちゅっきりちて、ちぬにょ?やじゃあ!やじゃあああああ!」
無惨なまりさの死体を見て、れいむは絶叫した。
れいむはがたがた震えて、水槽の中を跳ね回る。
ほかのゆっくりたちは、目の前で起こっている惨劇が信じられないらしく固まっている。
「やじゃああ!ゆんやああ!ゆんやあああああ!おとーしゃんたしゅけて!たしゅけておとーしゃん!ゆぐぅぅぅ!」
狂乱していたれいむの動きが止まった。
額からするすると細くて縮れた蔓が伸びてきた。
こちらは植物型だったらしい。
両方の死に方を観察できるとは、運がいい。
男は自分の幸運を感謝した。
まりさは萎びて死んだが、れいむは溶けて死ぬようだ。
れいむの饅頭皮があっという間に黒ずんでいく。
死んだゆっくりの皮の色に、生きたまま変色していく。
「ゆぎっ……ゆぎぃ…れいみゅ……くりゅちいよぉ……かはっ………いき……できにゃい……おにゃか……いちゃい…………」
貧弱な蔓は、れいむの頭から伸びるとあちこちが膨らみ始めた。
ここに赤ゆっくりが実るはずだ。
膨らんでいくのに比例して、れいむの体は崩れていく。
「あんよ……いちゃい……おめめ……いちゃい………おとーしゃん…にゃんで……れいみゅ………おとーしゃん……だいしゅきにゃのに……」
れいむの体は球形を保てなくなり、ナメクジのような形になりつつある。
両目がどろりと溶けて、眼窩から餡子と一緒に流れ出す。
れいむは小さな声で、何度も男に尋ねる。
「どうちて……どうちて……ゆっくりちてたよ……おとーしゃんと…ゆっくりちてたのに………おとーしゃん……れいみゅのこと…きらいにゃの?」
男は無言で、れいむの最後を見ている。
まわりのゆっくりたちも、一緒になってれいむの末路を見届ける。
れいむはどんどんとゆっくりの姿から黒ずんだ塊に変わりながら、なおも命乞いをする。
「やじゃぁ……まだ……ゆっくりちたい……もっと……ゆっくりちたい………ちにたくにゃい………おとーしゃんと……ゆっく……ち……」
それ以上、れいむは喋ることができなかった。
口と歯と舌が溶け、れいむは黒ずんだヘドロとなって死んだ。
汚らしい黒い塊から、一本の蔓が伸びている。
そこに実っていた赤ゆっくりも、れいむと同じ姿だった。
目も口もない黒い実が、蔓にいくつかくっついている。
あまりの惨状に呆然としているゆっくりたちの中から、男はれいむを選んでつまみ上げた。
水槽から持ち上げられると、れいむは「ゆぴゃあっ!」と小鳥のような声を上げた。
恐怖でれいむは歯をかちかち鳴らしながら、精一杯愛想笑いをする。
「にゃにしゅりゅの……おとーしゃん……。れいみゅ……いいこにしゅりゅよ……きゃわいいよ……いちゃいの……やめちぇにぇ……」
男は注意深く片方の手の指でれいむの上半身を、もう片方の手の指でれいむの下半身をつかんだ。
指で潰さないように注意しつつ、れいむの胴体を引っ張る。
「ゆびゅぅうんっ!」
れいむの胴体は倍近く伸びた。
さすが体の柔らかい赤ゆっくりだ。
大人では不可能な長さでのーびのーびする。
「くりゅちぃいぃいいいい!ぐりゅぢいっ!おどーじゃん!れいみゅぐるぢいっ!いぢゃい!ぽんぽんいだぁいいい!」
確かにれいむの胴体はのーびのーびできた。
しかし、まだ慣れないことを強制的にさせられたせいで、れいむは苦しそうに叫ぶ。
無理矢理体を引っ張られる痛みに、れいむはもみあげをぴこぴこと動かす。
「ゆあああ!やめりゅんだじぇ!おとーしゃんやめりゅんだじぇぇえええええ!」
「れいみゅくるしがってりゅよおおおおお!やめちぇ!おとーしゃんやめちぇええええ!」
「だみぇえええええ!のーびのーびはだみぇにゃのおおおお!だみぇ!おとーしゃんもうやめちぇええええ!」
下で残されたゆっくりたちがわめいているが、男は無視した。
少しずつ、のーびのーびしたれいむの体を捻っていく。
今度はねーじねーじだ。
ちょっと強く力を込めすぎると潰れてしまうため、細心の注意を払って男はれいむを捻る。
「びゅっ!……ぶぉっ!…………ぼぉっ!…………ゆ゙ぉ!」
体を九十度ほどひねった辺りから、れいむの口から意味のある言葉が聞けなくなった。
下半身から大量のしーしーが水槽に流れ落ちていく。
(くりゅちい!やめちぇ!おとーしゃん!もうやめちぇ!れいみゅちぎれりゅ!ちぎれりゅううう!)
そう訴えたくても、激痛で声が出ないその顔。
どれだけ叫んでも、近所迷惑にはならない小さな声。
まさに赤ゆっくりたちは、男にとって最良の玩具だった。
最後は一気に捻る。
「ゆ゙ぶぁ゙っ!」
コロネのような形になったれいむの体が、上下に分断する。
れいむは信じられない顔で男をじっと見ていた。
男に殺されることを、絶対に認めなくないようだ。
目がぐるんと裏返り、れいむはひどい形相のまま死んだ。
惨殺したれいむの上半身と下半身を水槽に落とすと、再びゆっくりたちは絶叫した。
「きょわいいいいいいいいいいいい!」
「ゆんやああああああああああああ!」
「やじゃああああああああああああ!」
忘れていた恐怖がよみがえり、ゆっくりたちは三方に散って逃げる。
かなり疲れているはずなのだが、どのゆっくりも逃げるのに必死だ。
「ゆっぐり!ゆっぐり!ゆっぎゅりいいいい!」
「にげりゅよ!ゆっぐりぢないでにげりゅよおおおお!」
「きょわいいいい!きょわいよおおおおお!」
これが子ゆっくりや成体のゆっくりだったら、さぞかしうるさいことだろう。
だが、赤ゆっくりの全力疾走も、渾身の絶叫もたいしたことはない。
男はいつも赤ゆっくりを使っていた。
どれだけ悲鳴を楽しんでも、周りの迷惑にならない。
男は金属製のトングで逃げるまりさを捕まえた。
いくら逃げても、人間にとっては蚊を捕まえるよりも簡単だ。
「いやじゃあああ!まりしゃしにたくにゃい!おとーしゃんやめりゅのじぇ!まりしゃはゆっくりちたいのじぇええええ!」
男はまりさによく見えるように、ライターの火を付けた。
燃え上がる炎を見て、まりさが硬直する。
「しょ……しょれ……にゃんなの……?まりしゃに……なにしゅりゅのじぇ?」
しーしーを垂れ流しながら、まりさはわずかな希望を込めて男にすがる。
これから自分がどうなるのか、かすかに分かったようだ。
「しょれ……あちゅいあちゅいなのじぇ………。まりしゃ……しょれちかづけりゅと……しんじゃうのじぇぇぇ…………」
男はライターをまりさのあんよに少しずつ近づけていく。
徐々に伝わってくる熱気に、まりさの顔色が変わった。
「やじゃあ!あちゅいのやじゃあ!おとーしゃんやめちぇ!やめちぇええええ!あぢゅい!あぢゅいのじぇ!あぢゅいいいいいいい!!」
ついにまりさのあんよに火が押しつけられた。
炎は生まれたての柔らかい饅頭皮をたちまち焦がしていく。
「ゆぴぇえええええええ!あぢゅいいいいいいい!やべぢぇええ!おどぉぉじゃぁぁあああん!!」
トングに挟まれたまりさは、下半身をめちゃくちゃに振り回して熱さから逃れようとする。
男のライターは、あんよだけではなくまりさの全身をくまなく焼いていく。
「あぢゅい!おどーじゃん!ばりぢゃあぢゅい!あぢゅいいいい!あ゙ぁあ゙…あ゙あ゙……ゆ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」
帽子に火が燃え移り、まりさは小さな火の玉となって燃え上がった。
ぱちぱちと音を立てて髪の毛と帽子が燃え、絶叫するまりさの顔から両目が蒸発していく。
「あ゙ゔわ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!ゆ゙ぎぢぃい゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙!びゃあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」
炎に包まれたまりさは、体を焼かれる苦痛からのたうち回る。
その様子はまりさの悲鳴と相まって、ゆっくりたちには地獄の光景のように見えたことだろう。
火の玉まりさはしばらくの間トングの間で踊っていたが、やがて動かなくなった。
「あ゙……ゔぁ…………あ゙…………ゆ゙っ…………ぐ゙…………ぢ………………」
男はトングでつまんでいたまりさを、水槽の中に置いた。
それは、もはやまりさとは思えない真っ黒焦げの炭の塊だった。
中枢餡まで火が通っていないため、まりさが死ぬまでもう少しかかる。
「まりちゃああああああああああ!!ひどいよおおお!ひどいよおとーしゃあああああん!!」
両目と口の所に穴が空いただけの炭の塊に、残されたまりさとれいむが突進した。
そのひどい顔を間近で見て、すぐに二匹はしーしーを漏らして飛び退く。
「まりちゃのいもうちょ!まりちゃのきゃわいいいもうちょだったのにいいいいい!おとーしゃんにゃんで!にゃんでえええええ!」
「もうやめちぇええええ!ころしゃにゃいで!ゆっくりちてよおおおお!ゆっくりちようにぇ!ゆっくりちていっちぇにぇええ!」
男の方を見上げ、出せる限りの大声で二匹は殺さないでくれるよう命乞いをする。
「もうやじゃあああああ!もうやめちぇ!みんなしんじゃったよおおお!れいみゅたちおとーしゃんとゆっくりしちゃいのにぃいいいい!」
「おにぇがいだよおおおおお!まりちゃとゆっくりちてにぇ!いちゃいいちゃいやめちぇ!やさしいおとーしゃんにもどっちぇよおおおおお!」
泣き止まない二匹を見て、男は急に笑って見せた。
男のそれまでの所業からして、突然の心変わりはあり得ない。
あり得ないはずだったが、ゆっくりすることを求める赤ゆっくりたちはそれにすがってしまう。
男が笑ったことで、やめてくれるかもしれないと期待したのだろう。
ぎこちなく、涙でべたべたの顔で二匹は笑った。
「ゆぅ……ゆっくり……ゆっくりしてにぇ、おとーしゃん」
「まりちゃと……ゆっくりちてくれりゅ?してくれりゅよにぇ?」
男が左手を伸ばすと、れいむとまりさはびくっと体を震わせた。
ぎゅっと目をつぶって、ぶるぶると震えている様子はとても哀れで見ていて飽きない。
男はわざと、優しくれいむとまりさの頭を撫でてやった。
「ゆっ……おとーしゃん…………おとーしゃぁん………れいみゅ……ゆっくりしゅりゅよ………」
「しゅーりしゅーり………おとーしゃんに……しゅーりしゅーりしゅりゅよ…………」
指先で二匹のほっぺたをくすぐり、髪を撫でる。
最初は怯えていた二匹も、次第に目を開いて泣き笑いの表情になっていく。
優しいお父さんが戻ってきた。
もう、あんな恐い思いをしなくていいのだ。
「ゆゆ~ん…………きょわかったよぉ………れいみゅ…しゅごくこわかったよぉぉ…………」
「まりちゃ……おとーしゃんがだいしゅきだよ……やさしいおとーしゃんにもどって……うれちいよぉ………」
慎重かつ辛抱強く、男はれいむとまりさを慰め、かわいがってやる。
もう安心していいよ。
お父さんはお前たちを殺したりしないからね。
ゆっくりしていいからね。意地悪しないよ。
れいむ、まりさ。泣かないで。
口には出さないが、そんな気持ちを込めて男は二匹にすりすりさせる。
「おとーしゃん………。おとーしゃん……。まりちゃ、もうへいきだよ。ゆっくりちてきたよ……」
「れいみゅもだよ……。もうなかにゃいよ!れいみゅ、ゆっくりちてるきゃわいいゆっくりになるにぇ!」
先に立ち直ったのはれいむだった。
すっかり機嫌を直したれいむは、男に向かってゆっくりしている顔で笑った。
「おとーしゃん!れいみゅとゆっくりちようにぇ!ゆっくり!ゆっくり!ゆっく………り゙ぃ゙っ゙!?」
満面の笑みを浮かべて男を信頼したれいむに、男はそれまで水槽に入れなかった右手を突き出した。
音を立てて、金属製の刃が重なり合う。
「ゆっ……?ゆぅ……?おとーしゃ……ん?……れいみゅ…に…なに……しちゃ…………にょ?」
男は右手を持ち上げる。
手に握られているのはハサミだった。
それは無防備に全身をさらしていたれいむの上半身と下半身を、横から二つに分けていた。
一瞬で切断したため、れいむの体に変化はない。
「や……やぢゃぁ………れいみゅ……やぢゃぁ……しょんなの……おとーしゃん……ど…うち……てぇ?」
だが、れいむもだんだん分かってきたようだ。
自分がどうなったか、おぼろげに理解できてきたらしい。
男は、立ち尽くしたまま現実が受け入れられないれいむに、現実を教えてあげることにした。
ハサミで、れいむの頭を後ろに押してやる。
「やめちぇぇええええええええええええ!!」
れいむが絶叫した。
あんよは動かないのに、れいむの視点だけがぐるりと動く。
れいむの上半身が下半身から分かれ、ぽとりと断面をさらして水槽の床に倒れた。
これで、れいむも実感できただろう。
自分の体が、二つに切断されたということに納得できたに違いない。
中枢餡から切り離されたあんよは、まだかすかに痙攣している。
一方、どろりと餡子を垂れ流している上半身はぴくりとも動かない。
れいむの顔は、恐怖と驚愕が混じったまま、完全に硬直していた。
もみあげさえ微動だにしない。
しばらく、れいむはそのまま動かなかった。
だんだん、その表情から驚愕がなくなり、代わって恐怖のみになっていく。
れいむは突然、金切り声を張り上げた。
「ゆ゙ん゙や゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ゙っ゙っ゙!!」
恐ろしい声で一度叫ぶと、れいむは死んだ。
何も見ていない目が、男の方を向いている。
大きく開かれた口は、悲鳴の形で固まっている。
中枢餡が流れ出したからではない。
自分が死ぬという恐怖によって、れいむは心ごと先に死んだのだ。
あまりの恐ろしさに、れいむは生きることを放棄した。
その死に顔は、最後の瞬間まで味わった恐怖によって、二目と見られないものになっていた。
一度安心したことによって、れいむの恐怖は計り知れないものとなっただろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
赤まりさの周りには、一緒に生まれたれいむたちとまりさたちがいる。
そのどれもが、無惨な死体だ。
まりさはきょろきょろと周囲を見回しては、「ゆわああっ!?」と叫んでしーしーを漏らす。
喋れないけれど、とてもゆっくりしていたれいむは目と口から餡子を吐いて死んだ。
れいむの世話を焼いていた立派なお姉さんのまりさは、背中から潰されて死んだ。
仲が良くて一緒にいたれいむとまりさは、早すぎるすっきりで干涸らびたりどろどろに溶けて死んだ。
のーびのーびでみんなをゆっくりさせてくれたれいむは、体を捻られて死んだ。
腕白で誰よりも元気だったまりさは、火で焼かれ黒こげになって死んだ。
最後まで残ったれいむは、体を半分に切られて恐ろしさのあまり死んだ。
まりさは一番最初に生まれた。
だから、まりさはじぶんをみんなのお姉さんだと思っていた。
それなのに、自分は何もできなかった。
「ゆぁあ………ゆあ……ゆああああああ…………」
お父さんが、こっちを見ている。
生まれてから一番最初に見た、ゆっくりしたお父さん。
おいしい緑色のご飯を食べさせてくれた、まりさたちのお父さん。
とってもゆっくりしたお父さんだと思っていたのに、どうして。
一緒に遊んでくれたし、いっぱいすーりすーりもさせてくれたのに、どうして。
どうちて、みんなころしちゃったにょ?
おとーしゃんは、まりちゃたちのことがきらいだったにょ?
どうちて?どうちて?
ころされるんだったら、まりちゃたちはどうちてうまれてきたにょ?
ころされるためだけに、まりちゃたちはうまれてきたにょ?
そう言いたくても、恐怖のあまり体が動かない。
ひたすら恐くて、まりさはしーしーを漏らす。
もう、どうすればいいのか分からない。
「やめちぇにぇ……おとーしゃん………もう……やめちぇにぇ…………」
まりさはもう、男の気まぐれにすがるしかなかった。
がたがた震えながら、まりさは男に泣き付く。
男はにやりと笑って、首を左右に振った。
何も言われなくても、まりさはすべてを理解してしまった。
自分の最後の願いは、聞き届けられなかった。
男によって、まりさは殺される。
妹たちと同じように、いっぱい苦しんでから死ぬ。
やじゃあああああああ!しにちゃくにゃい!しにちゃくにゃいいいいいい!!
まりちゃはゆっくりしゅりゅ!ゆっくりしゅりゅううううう!ゆっくりしゅりゅのにいいいいい!
まりちゃはゆっくりだよ!ゆっくりはゆっくりしゅるためにうまれたんだよ!ゆっくりしちゃいんだよ!
ころされりゅためにうまれたんじゃないよ!いちゃいいちゃいされりゅためにうまれたんじゃないよ!
おとーしゃん!ころしゃにゃいで!ころしゃにゃいで!いちゃいいちゃいしにゃいでえええええええ!
まりちゃをゆるちて!ゆるちてよおおおお!まりちゃいきたいよ!もっとゆっくりいきたい!
いっぱいゆっくりちて!むーしゃむーしゃちて!たのちくあそんで!ぼうけんちて!
しょれから!しょれから!おおきくなって!きれいなれいみゅとじゅっとゆっくりちて!ふぁーすとちゅっちゅちて!
しゅっきりちて!たくしゃんあかちゃんつくって!ゆっくりちあわしぇーになりちゃいのにいいいいい!
どうちてころしゅの?おとーしゃんどうちて!どうちてまりちゃをころしゅの!
まりちゃは、まりちゃは、ばり゙ぢゃ゙ばあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!
まりさのゆん生から、すべての希望が奪われた。
今まりさは生きているが、既に死んでいるのと同じだった。
これから殺される。苦しい思いをいっぱいして、痛みに叫びながら殺される。
まりさの中で、何かがぷつりと切れてしまった。
「ぱぴぷっ!ぱっぴぃぴ!ぱぴぴゅぺぴょぉ!ぱっぴっぷっぺっぴょ~!!」
まりさは正気を失った。
狂気に逃げることによって、まりさは恐怖を捨てようとしたのだ。
まりさの目は焦点の合わない目になり、体を不規則に揺らしながら奇妙な声で歌を歌う。
「ゆぴょ~ん♪ゆぴょぴょ~♪おと~ぴゃ~ん♪まぴぴゃといっぴょにゆっくりぴょっぴょっ~♪」
もう、まりさは男に怯えることはない。
気が狂えば、何も分からない。
こうなってしまえば、どんなことがあっても苦しむことはない。
「ゆぴぷぺぽ~♪ゆぴゃ~ん♪ゆ~ぴゅ~り~ぴていっぴぇ~にぇ~♪おと~ぴゃ~ん♪」
果たして、本当にそうだろうか。
まりさの顔は、一見するととてもゆっくりしているようだ。
だが、まりさは今もひどい苦しみを味わっているようにも見える。
あまりの苦しみに、正常な反応ができなくなっているゆっくりの動きに似通っている。
そうだとしたら、気が狂ってもまりさはゆっくりできなかったのだろう。
「ゆぷぷ~ぷ~ぷ~♪ぱ~ぴぷぺぽ~♪ぱ~ぴちゃ~はたのぴ~いゆっ~くぴ~っ♪ぴっぴっ♪」
どちらであっても、男には関係ない。
男はこの結果に満足だった。
時間をかけて、七匹のゆっくりの命を奪った。
加工場で大量生産したゆっくりとは思えないくらい、いろいろな反応を楽しめた。
最後のまりさに至っては、発狂したくらいだ。
男は水槽の中で歌っているまりさをつまみ上げ、手の上に置いた。
顔を近づけても、まりさはもう驚いたり怖がったりしない。
どこか遠くを見ながら、たまに体を不気味にのーびのーびさせてまりさは歌う。
泣きながら笑い、苦しみながらゆっくりしている顔だ。
「ぴょぴょぴょ~♪ゆ~ゆ~ぴ~ぷ~♪おと~ぴゃんとまぴちゃでゆっくりぴあわぴぇ~♪」
男の心に、最高の満足感が訪れた。
何て、素晴らしい歌声なんだろう。
町で見かける、「ゆっくりのひ~♪」などと下手な歌を歌っているゆっくりよりも数億倍聞き応えがある。
何の下心も邪心もない、究極の歌だ。
半日も付き合っていないのに、こんな素晴らしい声を聞かせてくれるなんて。
ちょっと手を加えただけで、ゆっくりがこんなに面白いものに変化するなんて。
男はまりさに感動さえしていた。
まりさを小さな瓶に入れて、蓋をする。
まりさのためだけに用意されたステージだが、まりさは気づかない。
瓶の中でも、男の手の上と同じように体を揺らしながら死んだ目で歌い続けている。
小さなヒーリングアイテムの完成だ。
男は水槽の中身を片づけ、瓶を片手に寝室に向かう。
枕元に瓶を置くと、目覚まし時計をセットしてから電気を消した。
かすかに歌声が聞こえてくる。目を凝らせば、中で動くまりさの姿も見える。
とても充実した時間を過ごせた。
仕事の疲れも、ゆっくりと遊ぶことによって全部吹っ飛んでしまった。
安価にゆっくりを購入し、好きに使えるとは何て良い時代なのだろう。
男は今日も消費したゆっくりたちに感謝しつつ、満ち足りた気持ちで目を閉じた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
朝、男は自然に目を覚ました。
夢も見ないくらい、ぐっすりと眠れた。
ベッドから起き上がり、男は上半身を動かす。
頭は起き抜けなのにすっきりし、昨日からの仕事のストレスも引きずっていないようだ。
これも、全部ゆっくりのおかげだ。
男は昨日から楽しい歌声を聞かせてくれたまりさの方を見る。
瓶の中で、まりさは死んでいた。
たった数時間が過ぎただけなのに、まりさの体は黒ずんでぼろぼろだった。
死んで数日経ったゆっくりと言っても、誰も疑わないだろう。
発狂しても逃れられなかった苦痛が、まりさを殺したのだ。
休むことなく歌い続け、苦しみ続けてまりさは衰弱死したのだろう。
どんなゆっくりに見せても、こんな死に方だけはしたくないと言うに違いない。
まりさはたった一匹で、惨めに死んでいった。
「ありがとう」
男は初めてゆっくりたちに口をきいた。
ゆっくりたちによって、男はとてもゆっくりした時間を過ごすことができた。
もともとゆっくりたちが「ゆっくりしていってね!」と言うのは、誰かにゆっくりしてもらいたい欲求のあらわれらしい。
それがいつからか、自分たちをゆっくりさせろとはしたなく要求するようになった。
男によって消費されたゆっくりたちは、その本分を果たしたのだ。
「ゆっくりしていってね」
死んだまりさをゴミ箱に捨てる男の顔は、ゆっくりたちもうらやむようなゆっくりした顔だった。