ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko1121北方ゆっくり戦史 ヴェルギナの星の旗の下に
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ankoss
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作:神奈子さまの一信徒
「北方ゆっくり戦史 二つの群れ」の続編です。
注意点:パロディが本当にひどいです。
独自設定満載です。
長いです。
クラシック好きな人への推奨BGM
ショスタコーヴィッチ交響曲第11番「1905年」
『北方ゆっくり戦史 ヴェルギナの星の旗の下に』
6
初夏、子ありすは生まれてちょうど一年が経ち、成体と認められるサイズまで成長
した。ここは寒冷な気候、限られた食糧資源のために、ゆっくりの成長もよりゆっ
くりしたものとなっているのだ。その代わり、南方のゆっくりよりも長命な個体が
多い傾向があった。
季節が変わったことにくわえ、子の成体ありすが成長したことで、ありす一家は働
き手が増え、食糧に恵まれるようになった。最近、父まりさと母ありすは次の赤ゆ
を産むかどうか相談しているようだ。ただ、良いことばかりではない。
ありすにも緊急時は兵ゆっくりとして任務につくよう通達が来たのである。初めて
持つゆっくりの槍は長くて重く、口にくわえるととてもゆっくりできなかった。
そして、少し湿った涼やかな朝の大気に、陽光が熱を持って刺し込む頃、ありすは
他の兵ゆっくりと一緒に訓練に参加していた。
教官役のえーりんが一同に号令をかける。
「お前達はなんだ!?」
「ぐらん・だるめ!!!」
このえーりんは過去の捕食種や他の群れとの戦いで傷一つ負ったことがなく、不死
身のえーりん、不死身の鬼美濃、ばばさまなどと呼ばれている英ゆんであった。
「続きをゆっくり言ってみてね!!ぐらん・だるめは!?」
「せかいいちぃぃぃっ!!!」
「違う!!!ゆっくり考え直してね!!!ぐらん・だるめは!!?」
「せかいさいきょおぉぉぉぉっ!!!」
えーりんは満足そうにうなずく。
ぐらん・だるめとは、この群れにおける兵ゆっくりの総称であった。
「ゆんゆん…必死にゆっくりしようとするその姿こそ愛きものよ…」
父まりさは、軽装備のみょんとまりさで構成されるエリート部隊「よーム戦士団」
に抜擢され、今は漕ぎゆとして、沼の上に浮かべた発泡スチロールの軍船の上で訓
練をしている。
ぬまのむれの兵ゆっくりは、他の群れに比べて複雑な編成を持っていた。
主力となるのは、長槍を口にくわえ、肉厚の葉をつるでつなぎ合わせた鎧を身につ
けたふぁらんくすである。
ふぁらんくすはよーム戦士団などと共に南方から伝わってきた戦術の一つである。
かつて、南の島のとある群れが編み出した巣穴の防御戦術「ふぁらんくす」は、今
では各地に伝達され、集団行動に関心の強い群れによって採用・改良されていた。
お館さなえの群れでは、前方に勇敢だが力のないゆっくり、後方に力があり、武器
の扱いに長けたゆっくりを置き、長めの槍を装備させた。これは、ふぁらんくすの
二列、三列目も一列目と同時に攻撃に参加できるようにするためであり、これによ
って、攻撃力、敵ゆっくりの拘束力が上昇した陣形は、「まけどにあん・ふぁらん
くす」と命名され、絶対にゆるさなえな陣形として採用された。
みょん種のみはその忠誠心と戦闘技術から単独で一部隊を編成しており、これを
「よーム戦士団」と呼んだ。よーム戦士団は、みんなであにゃるすっきりをするこ
とによって互いの連帯感を高め合った、死をも恐れぬ群れの最強部隊であり、鎧は
つけていなかった。
このみょんたちには、群れで一つの生き物となってゆっくりするという、お館さな
えの理念、スイミズムが徹底的に教育されていた。
また、場合によっては、彼女たちはまりさ種と組んで、水上戦力を構成する。この
とき、四隻の発泡スチロールの大型軍船をまりさ種が操ることで、みょんたちを沼
の周辺へすぐに展開させることが可能だった。
さらにおやかたさまを守る親衛隊である、「ゆン・イレギュラーズ」が、敵前逃亡
を監視する督戦隊兼予備戦力として編成されていた。なお、この名称は「ゆン・イ
レギュラーズ」が戦闘行動に支障のない奇形ゆっくり(口が効けない、髪がない、
お飾りが生まれつき変、など)や、町にいた頃に虐待され、片目やお飾りを失った
ゆっくりたちによって構成されていることから来ていた。
一時期、すぃー騎兵隊やびゅーんびゅびゅーん投石兵隊も編成されたのだが、前者
は湿原では車輪が埋まってしまい、活躍できないこと、後者はコントロールが難し
く、命中するどころか牽制にすらならなかったため、消滅していた。
「よし!次!ゆっくりふぁらんくすの陣形になってね!!!」
えーりんの命令に一斉に槍をくわえ、密集する兵ゆっくりたち。
「ゆ!…ゆゆぅ???」
ありすは懸命に舌で柄を持ち、槍の後端を口でくわえることで槍を固定しようとし
たが、うまくいかず、槍が地面についてしまった。
「ゆ!?ゆっくりしっかと持ってね!槍があがらないと負け戦だよ!」
「ゆゆ!!ゆっくりりかいしたよ!!!」
なんとか必死に槍を持ち上げようとするありす。
事件が起きたのはそのときであった。
「ばばさまっ!!!」
「ば、ばばぁさまぁっ!!!」
伝令の印である、鳥の羽を髪につけたゆっくりがえーりんのもとに急いで跳ねてき
た。異常事態の発生である。
「お前、今、ばばあさまといったね…?」
「へ?」
不死身のえーりんの表情が先程までの穏やかな表情から、凶悪なものへと変化する。
「えーりんはえたーなるてぃーんえいじゃーじゃあっ!!!」
「ゆぶぅ!?」
突如怒り狂ったえーりんは幾度となく、伝令の兵ゆっくりにのしかかり、跳ね、踏
み潰した。
「たじゅげでっ!!!ばっ!!ばーばーさーまーぁっ!!!」
「ばばあじゃねえっていってんだるぉがぁっ!!!ぴっちぴちのてぃーんなんじゃ
ーっ!!!ゆっくりりかいしろぉっ!!!地獄をみてぇのかぁ!!?」
えーりんはなおも失言?をした伝令ゆっくりにどつく、体当たりをする、武器で殴
るなどの暴行を加え続けた。
「ゆっぐぢ…ゆっぐちりがじまじだ!!!…えーりんざまは…じゅうななさい…で
ず…えーりんざまは…じゅうななざいです…」
伝令ゆっくりが涙を飲んで壊れたレコーダーのように、同じ文言を繰り返し始めた。
最後まで、伝令ゆっくりは自分がなぜぼこられているのか理解できなかったようだ。
ありすはその様子に心底恐怖した。
「…ふう…がらにもなく取り乱したわ…で、何事かのう?ゆっくり話してね!」
「なかまのゆっくりが!もりのむれにかこまれてるよ!!!ゆっくりしないでたす
けてね!!」
伝令によると、沼地周辺の森に餌を採りにいったゆっくりが、もりのむれのゆっく
りと餌場をめぐって対峙、今はもりのむれのゆっくりたちに囲まれているらしい。
「ゆゆ!?ゆっくり理解したよっ!!えーりんは訓練中の兵ゆっくりと現場に向か
うから、伝令はおやかたさまをゆっくりしないで呼んできてね!!!」
「ゆ!ゆっくりりかいしました!」
このぬまのむれは、沼の中央に伸びた半島を本拠地としており、この地は防御の面
で優れていた。だが、半島奥の小さな林と、沼地の植物だけでは、巣の材料、越冬
用の食糧が不足してしまう。そこで、沼地周辺の森でそれらを補ってきた。
しかし、もりのむれが去年の秋に移住してきて以降、両者の勢力圏は沼地周縁部で
衝突したのである。
沼沿いの日当たりの良い場所は、夏にはエゾイチゴが真っ赤な果実を実らせ、秋に
はミズナラなどがたくさんのどんぐりを落としてくれる、大切な餌場であった。
ぬまのむれとしては、森の奥は遠すぎて縄張りを確保できない以上、絶対に守りた
い餌場であった。一方、もりのむれにしてみれば、森の奥では手に入らない資源が
ある場所であり、ぜひとも確保しておきたい場所であった。
ばばさまこと、不死身のえーりんは、ありすたち訓練中のゆっくりを率いて現場に
急行する。
現場−群生するエゾイチゴが緑の野原に真っ赤な実を愛らしくコーディネートした
草むらには、ドス率いるもりのむれに捕まって怯える数匹のゆっくりがいた。
「おそれることはありません!すべてを神々に委ねるのです!」
その中央ではあの母ありすの姉、ごっつありすが皆を落ち着かせようとしている。
「ゆふふ、ふじみのえーりんのおでましなのぜ!」
「じゃおーんっ!!!」
そこにいたのは、もりのむれを率いるドスまりさ、そしてその側近のめーりん姉
妹らであった。
ドスまりさはえーりんの方へと向き直り、宣言する。
「どすのむれは森でとってもゆっくりしているよっ!!だから、もりは全部どす
たちのむれのものだよ!さなえのむれはぬまでゆっくりしているから、森ではゆ
っくりしないでね!」
高圧的な態度でえーりんをにらみつけるドスまりさ。既に口の中にどすすぱーく
を打つのに使用する例のきのこを含み、いつでも打てる態勢にあることを見せ付
けている。ありすはその様子を見て、がたがたと震えだした。どすすぱーくを食
らえば、一瞬で塵と化すと噂で聞いていた。
「この土地にあとから来たのはドスたちの方よのう…ドスもめーりんも噂通り、
面の皮が厚いね!!!」
えーりんは自身と、沼の中央にある群れの中心部が直線状にならないよう陣取っ
ている。どすすぱーくの有効射程が分からないからだ。さらに万が一のときはド
スを急襲するよう、側面の草むらに数匹、歴戦のみょんを潜ませていた。えーり
んは、引き連れている兵ゆっくりのほとんどが練度の低いため、万が一のときは
自分たちを囮にしてドスを仕留めるしかないと考えていた。
「どすのむれは森でとってもゆっくりしているよっ!!だから、森は全部まりさ
たちのむれのものだよ!こんな簡単なりくつが分からないの?」
「じゃおーん!」
「じゃおじゃおーん!!」
ドスまりさの理不尽な主張を応援するかのように、めーりん姉妹が他人を小馬鹿
にしたような表情で吼える。
えーりんは、大きなため息をついた。馬鹿なのか、それとも話し合う気がないの
か。おそらく後者であろう。
このとき、ドスの群れはかわのむれからたくさんの移住ゆっくりを受け入れた上、
彼らにドスの権威を思い知らせるために気前良く、食糧貯蔵庫を解放したため、
餌場を拡大する必要性に迫られていたのである。
「ここは昔からこちらの群れの餌場だよ。ゆっくり理解してゆっくりしないで帰
ってね!」
えーりんは刺し違えてでも、譲るつもりはなかった。この気候の厳しい土地では、
ちょっとした油断や譲歩が群れの死へとつながる。新参の群れの要求に対して、
「はい、そうですか」と餌場を譲るぐらいなら兵ゆっくりを鍛えたりしない。
「ゆーかんなばあさんだね…でも、周りをゆっくり見た方がいいよ。」
「え゛ーり゛ん゛っ!!!え゛ーり゛ん゛っ!!!」
「だじゅげでええっ!!!え゛ーり゛ん゛っ!!!」
もりのむれに捕まっているゆっくりたちに二匹のめーりんがのしかかり、めりめり
と潰していく。このめーりん姉妹は十分に成長した個体であり、町出身であるため
野良ゆっくりとの争いの場数も踏んでいる、もりのむれの切り札であった。噂では
群れを襲ったれみりゃやふらんをも潰したという。
「じゃおーん!!?」
愉快そうに笑いながら、醜くたるんだ肉をふるわせている方が妹めーりん。
「じゃおじゃおーん!!!」
小馬鹿にした表情でこちらをにらみつけてくる、片目が潰れている方が姉めーりん
である。
ぶちゅっ
「ゆぎゅっ!!?…もっちょ…ゆっぐり…がった…」
「じゃああ↑おおおおおお↓おおおおん↑!!?」
妹めーりんの方がのしかかる力を入れ過ぎてしまったらしい。一匹のまりさが潰れ
てしまった。
「ゆゆぅ!!!めーりんは力加減をゆっくりかんがえてね!!!全滅させたら人質
の意味がないよ!!!」
ドスのたしなめる口調でさえ、どこか愉快そうだった。
「じゃおおおおおん!!!」
「じゃあああおおおんっ!!!」
潰れてしまったまりさをぐりぐりと踏み潰しながら高らかに笑うめーりん姉妹、堪
忍袋の緒は意外なところから切れた。
「われわれが人質の死を恐れるとでも思ったのですか?」
そう語りかけるように言い放ったのは、現に今人質になっているごっつありすだっ
た。
「ゆぅ?人質はゆっくりおとなしくしててね!さもないと…」
人質を包囲している、もりのむれのれいむが口にくわえた棒をごっつありすへと突
きつける。
「われわれは死を恐れません!信仰とは死ぬことと見つけたりぃっ!!!」
くわっと両目を見開き、全力で跳び上がるごっつありす。
「ごぉぉっどぷれぇぇすっ!!!」
「ゆ!!?やねてね!れいむのほうにこないべぼっ!!?」
ぶしゃあっという音ともにれいむは潰れ、眼孔と口から餡子が吹き出す。
それを見た人質ゆっくりたちの目は、怯えたもの、決意を固めたもの、それぞれだっ
た。ごっつありすの瞳に既に正気はなく、高ぶる闘争心が無限の渦を描いている。
「おとなしくしているみょん!!?」
ごっつありすの後方から飛び出したみょんの攻撃をごっつありすは素早くかわす。
「ごっどっ!せんじゅぺにぃっ!!!」
「みょぶぶっ!!?」
ごっつありすの絶叫と共に、むくっと起き上がったぺにぺにが高速で(ゆっくりにし
ては)膨らみ、縮みを繰り返し、みょんの顔面を連打する。
「お゛ーも゛ーい゛ーがぁぁぁっ!!!」
兵みょんの頭からは次々と茎が生え、兵みょんは一瞬のうちに黒ずんで永遠にゆっ
くりしてしまった。
「かかって来なさい!!私は誰の挑戦でも受け…わおおおおおおおお!!」
「じゃおおおおんっ!!!」
さらに挑発するごっつありすを姉めーりんが体当たりで叩き飛ばす。
「人質は人質らしくゆっくりしていてね!!!次騒いだらどすすぱーくで永遠にゆっ
くりしてもらうよ!!!」
ドスが叫ぶ。えーりんはドスと姉めーりんの注意が人質に逸れた隙を突こうとしたが、
ぶくぶくに太った妹めーりんは以前、えーりんらへの警戒を怠らなかった。
ドスは姉めーりんが暴れる人質を取り押さえたのを見て安堵すると、えーりんに対し
て最後の警告を突きつけた。
「ドスはかんだいだからもういちど言うよ!ここはドスの群れのえさばだよ!どうし
てもそれを認めないというのなら、一匹ずつ人質を永遠にゆっくりさせるよ!そして
えーりんもどすすぱーくで殺すよ!」
ふんぞり返ってえーりんを見下すドスまりさ。完全に自軍に有利な状況下で、ドスは
遠慮などしなかった。
「ここをドスの群れのえさばと認めて、二度とその沼から出ないというのなら全員助
けてあげるよ!どうするかゆっくりしないで答えてね!」
そのとき、えーりんの目に、ドスたちの背後の森で草が不自然に揺れているのが見え
た。数本の草が右へ左へと、まるでメトロノームのように揺れている。
合図である。
既に潰れた帽子のまりさはゆン・イレギュラーズの一部を引き連れて、ドスの背後の
森の中に展開を完了していた。
「…!…ゆふぅ…では、戦るか…」
えーりんはにやりと笑った。ここでドスの言い分を認めれば、もうドスたちの要求は
エスカレートする一方だろう。絶対にこのような交渉を認めるわけにはいかなかった。
「ゆ?勇敢だね!そんなに永遠にゆっくりしたいなら、させてあげるよ!やさしいド
スに感謝してね!めーりん!こいつらをっ!!?」
「貴様が斜陽よ!」
次の瞬間、草むらから一斉に槍が突き出され、ドスや姉めーりん、他のもりのむれの
ゆっくりたちののど元に突きつけられた。
完全にドスまりさの油断であった。のど元に何本もの槍を突き出されている状態では、
例え今から口の中のきのこを咀嚼しても、どすすぱーくを打つまでの間にめった刺し
にされてしまうであろう。
姉めーりんはを頬をお館さなえに噛みつかれ、ぐったりしていた。さなえの持つ麻痺
毒を抽入されたのだ。
さなえ種はかなこ種、すわこ種と共に、もりやと呼ばれるグループを形作っており、
それらの共通した特徴は毒の使用である。
かなこ種は穀物なども好む雑食性だが、強力な毒牙を有し、ゆっくりの中では比較的
上位の捕食者として知られている。毒牙から分泌される毒は出血毒であり、小動物や
他のゆっくりを捕食する際に、その組織を融解、壊死させ、獲物を行動不能へと追い
込むのだ。
一方で、すわこ種の毒は捕食された後に捕食者に効果を発揮する、フグや毒ガエルの
持つような毒である。そのため、ゆっくりの間では祟り神として手を出さないよう敬
遠されていた。
さなえ種はかなこ種とすわこ種の縮小再生産的な特徴を持っており、毒牙から分泌さ
れるのは弱い神経性麻痺毒であり、昆虫ならともかく、ゆっくりに対しては一時的に
行動不能に持ち込むのが精一杯であった。
「おやかたさま!!!」
「「さなえさま!!!」」
自ら救援軍を率いて突入してきたりーだーの姿に、ぬまのむれの構成ゆんたちは色め
きたった。
発泡スチロールの軍船やまりさのお帽子で沼側から上陸したお館さなえたちは、水辺
沿いの背丈の高い葦原からそろーりそろーりと接近し、機会を窺っていたのだった。
もりのむれのドスの不注意もあるが、ぐらん・だるめの日頃の訓練のたまものであっ
た。
「まずは人質を返してもらおう…」
「ふざけないでね!!!」
お館さなえに強い調子で言い返してきたのは、一匹の兵れいむだった。兵れいむを中
心とした数匹のもりのむれの兵ゆっくりが、のどもとに突きつけられた槍をものとも
せずにさなえをにらみつける。
「ドスは永遠にゆっくりすることよりも不名誉をおそれるんだよっ!ドスが永遠にゆ
っくりすることをおそれると思ってるの?馬鹿なの?死ぬの?今かられいむたちが華
麗にぎゃくしゅうに転じるんだよっ!!!」
現状を見るに逆襲は無理なようだ。
だが、まあ勇敢なゆっくりと言っていいだろう。
「勇敢ね…でもドスは買い被ってほしくないみたいです…」
「ゆっぴいいいいいいいっ!!!やべでね!!!ドスはえらいんだよっ!!!ドスを
ごろざないでねっ!!!」
情けなくも、ぺにぺにからおそろしーしーを垂れ流すドスまりさ。突きつけられた槍
先がかすかにドスの頬を切り裂き、久々に味わう傷口の痛みはドスを心底怯えさせた。
その大きな図体と比較して、その肝っ玉とぺにぺには滑稽なほどに小さかったのであ
る。先程啖呵を切った兵れいむは、唖然として口から棒を落としてしまった。
「ゆゆ!!?ど、ドスを解放するのが先だよ!!!人質の解放はそれからゆっぴいい
いいっ!!!」
お館さなえは兵ゆっくりから長槍を借りると、それで払いのけるように、口の中にあ
ったきのこを叩き落した。そのとき、槍先が軽くドスの口内を切り裂いた。
「ものわかりの悪いドスは絶対にゆるさなえ!…立場の分からないドスも絶対に許さ
なえ!絶対にです!!!」
「ゆぎっ!!!ゆびいいいいっ!!!わかったよ!わかったからもうやべでね!!!
ゆぎゃあああああん!!!もうやじゃよおおおおおっ!!!おうぢがえるぅっ!!」
おそろしーしーが出なくなったと思えば、今度は泣き始めてしまった。
ドスのあまりの情けなさに、めーりんらもりのむれのゆっくりたちも唖然としている。
「なにじでるのっ!!!はやぐ人質をがいぼうじでねっ!!どずがゆっぐりできない
よ!ばやぐっ!!!」
ごっつありすを囲んでいた、もりのむれの兵ゆっくりたちが呆れたような表情のまま、
人質を解放する。
その瞬間、ドスたちの背後の森に潜んでいたゆン・イレギュラーズの面々が人質とも
りのむれの兵ゆっくりの間に素早く割って入った。
意外な場所に潜んでいた敵の伏兵にドスたちは思わず目を丸くする。
「ありす先生、ご無事で何よりなんだぜ…」
「まりさ、ありがとうございます…これもとかいはな神々のお導きでしょう…神々よ、
感謝いたします。」
潰れた帽子のまりさはまず、ごっつありすを気遣った。ごっつありすもそれに笑顔で
答える。
「ゆ゛ゆ゛…やぐぞぐだよ…どすをゆっくりしないでかいほうしてね!!!」
「帽子の中に隠しているきのこも出せ…」
「ゆぐっ!!?」
お館さなえの鋭い視線に一瞬ためらった後、どすはあきらめたように帽子の中からき
のこを出した。お館さなえの部下たちがそのきのこをすかさず持ち去る。
「さがりなさい。」
お館さなえの号令に、ドスたちに槍を突きつけていた兵ゆっくりたちが一歩下がった。
槍はのどもとから離れたが、以前、ドスたち、もりのむれのゆっくりに向けられたま
まである。
「ここはずっとこちらの群れの餌場よ…去れ…」
「うわああああああああああああああああああああああああんっ!!!」
ドスまりさは解放されると一目散に逃げて行ってしまった。
他のゆっくりたちを全て残して。
「じゃおーんっ…」
小さく、舌打ちするようにうめいた後、妹めーりんはぐったりしている姉をくわえて
森の中へ帰っていった。ぞろぞろと他の兵ゆっくりたちもそれに続く。
「やっと…おわったのね…」
初めての出陣にずっと緊張していたありすは思わず、口から槍を落とした。
「大儀であったの…だがまだ気を抜かないでね…」
すかさずえーりんがたしなめる。
「さなえさま、わざわざの救援、ゆっくり感謝します。」
ごっつありすが深々と頭を下げる。人質になっていた他のゆっくりたちもそれに続く。
「この時期に駒を失うわけにはいかない…それだけのことよ…」
お館さなえはぷいっとそっぽを向くと、潰れた帽子のまりさにしばらく、もりのむれの
動向を監視させ、自身は発泡スチロールの軍船へと戻っていった。
今回、ドスらを殺さなかったのは、あのまま交戦した場合、人質の安否がどうなるか
判断つきにくかったためである。結果的に奇襲はきれいに成功したが、夏から越冬の
準備を始めなければならないこの環境下、おまけにゆん口が少ないお館さなえの群れ
では働き手を失うような危険はできるだけ避けなければならなかった。
単に局地戦の勝利だけでは、群れとして生き残れないのである。
その後も、もりのむれとぬまのむれの間には何度か小競り合いが発生したが、本格的
な会戦へと発展はしなかった。この時点ではまだ、波は穏やかだったのである。
7
「ごはんさんがないなんて、難儀だね~…わからないよ~…」
ぬまのむれに所属する一匹のちぇんは一生懸命、森の中で食糧を探していた。ちぇん
は巣で待つ十二匹の妹たちのために必死に食糧を探しているのだ。十二匹の妹は皆、
微妙な外見のゆっくりであったが、お姉ちゃん子で、いつも面倒見のいい姉のことを
頼りにしている困った妹たちであった。
ちぇんは、もう数時間は、その細目をくわっと見開き跳ねているが、餌はほとんど集
まっていなかった。
無理もない、ドスの大盤振る舞いと、自分で狩りをしない、またはできないゆっくり
にせっせと群れの餌を提供した結果、もりのむれは深刻な餌不足に陥っていたのだ。
おまけにぬまのむれから、食糧資源を奪おうとしたものの、ぬまのむれの素早い反応
によってこれも失敗に終わっていた。
そして、今に至る。低い位置にある草や苔は真っ先に食いつぶされ、しっかりごはん
さんをむーしゃむーしゃしているのは、まずい草でも構わず食べている個体か、狩り
の上手な個体ぐらいだった。それでも、ぽんぽいっぱいになるまでむーしゃむーしゃ
してしあわせーできる個体はほとんどいなくなっていた。
「ちぇんは秘蔵のごはんさんすぽっとに向かうんだよ~!!分かるね~!」
ちぇんが向かったのは、枯れ果てた木が倒れ、重なっている場所であった。ちぇんは
ここで何度も大きなカミキリムシを捕っていた。
だが、別に隠してあるわけでもない。ちぇんが倒木のところへ行くと、倒木は全て皮
を剥がされ、削られ、ぼろぼろになっていた。
おそらく、大勢のゆっくりがここから昆虫の類を乱暴に持ち去ったのであろう。
「…やれやれ…難儀なんだよ~…」
思わずため息をつくちぇん。このところ、満足に餌を取って帰ることもできず、ちぇ
んの妹たちは毎日のようにおなかを空かせていた。おまけに群れから配給される食糧
は減っていく一方だった。
「ちぇえええええんっ!!!」
「ゆ?」
そこに現れたのは、九本のもふもふした尻尾を持つゆっくり、らんであった。
らんは帽子の中から、かわいらしい花束を取り出し、ちぇんにぐっと押し付ける。
「ら…ら…らんは…ちぇんとずっと一緒にゆっくりしたいんだよっ!!!」
「!!?」
突然のぷろぽーずに固まるちぇん。何と返せばいいのか、ちぇんの頭の中はホワイト
アウトしてしまった。
「ちぇ…ちぇんのどこが好きなの~?…分からないよぉ…」
ちぇんが永遠に感じた数秒間の思考の末に、搾り出したのはその一言だった。
らんは恥ずかしそうに答える。
「そ、そのすてきな長いのかな…」
「す、すてきな長いの…!?ぺ!ぺにだとぉっ!!!分かったよぉーっ!!!」
ぺにぺにをいきり立たせ、興奮するちぇん、だが正解は長くて素敵な尻尾だったと告
げられたのはその直後のことであった。
非難するかのようなじと目でちぇんをにらみつけてくるらん。
「じ~…」
「そ!そんな純粋な目でちぇんを見ないでねっ!!!分からないよぉ~っ!!!」
だが、そんなちぇんよりも、もりのむれは混乱に陥っていた。
群れの配給が少なくなったことに不満を持つゆっくりたち、今まで群れから与えられ
た食糧だけでゆっくりしてきたゆっくりたちが、ドスやゲロりーなど、群れの幹部の
巣を訪れてはシュプレヒコールを挙げていたのである。
「はいきゅーのごはんさんをへらさないでね!!!ゆっくりできないよっ!!!ゆっ
くりしないで元に戻してねっ!!!」
「れいむはしんぐるまざーなんだよっ!!!かわいそうなんだよっ!!!」
「さっさとごはんさんをよこすんだじぇっ!!!まりしゃしゃまはこんなんじゃじぇ
んじぇんたりないんだじぇっ!!!」
中には、ドスやゲロりーを無能だと咎める声もあった。
なんで、自分までドスと一緒に非難を浴びなければならないのか?
ゲロりーは巣の中で、理不尽なシュプレヒコールを挙げるゆっくりたちにいーらいー
らしていた。
(むきゅ!これもドスがばかみたいにごはんさんをむだづかいするからよ!!!)
ゲロりーは考えた。
まだまだ、自分の理想の群れ、みんなが弱者のために動き、弱者もゆっくりできる愛
の群れを作り上げる道半ばで、権力を失うわけにはいかなかった。
悔しいが、群れのゆっくりたちからは、ゲロりーとドスは同罪、即ち、自分達をゆっ
くりさせない元凶と捉えられていた。
(ぱちぇの夢はまだまだ終わるわけにはいかないわ!…むきゅぅ…まずはドスの人気
を回復する必要があるわね…そして、ごはんさん不足も…)
もりのむれの食糧不足は、確かにドスの浪費によるところも多かったが、ゆん口の急
増による餌場不足の影響も少なくなかった。
気前良くかわのむれのゆっくりたちを受け入れたことで、新参ゆっくりと古参ゆっく
りとの対立まで起こっていた。古参ゆっくりにしてみれば、なぜ自分達もごはんさん
がなくて大変なのに、いつまでもゆっくりしているだけの新参ゆっくりにごはんさん
を提供しなければいけないのか?というのである。
ゲロりーはこの群れのゆっくりたちが愛を理解していないことにがっかりしていた。
まだ回りのことが分からない新参ゆっくりや、弱いゆっくりたち、そして、狩りの下
手なこのゲロりー自身も群れから与えられる最低限のごはんさんで我慢しているのだ。
逆に感謝してもらいたいぐらいである。
一刻も早く、ドスの権勢を建て直し、ゲロりーの指導の下に、群れのゆっくりたちに
愛の尊さを理解させなければならなかった。
自分でしっかり狩りができる富めるゆっくりたちには、もっとゲロりーみたいな弱者
に何ができるのか考えてもらわなければならないのだ。
(むきゅ!前途多難ね!でもけんじゃのぱちぇはこれくらいではくじけないわ!)
いずれにせよ、餌場が不足しているのなら増やせばよいのだ。
餌場を拡大する場合、可能性は二つ。
森の側を流れる川から見て、上流か下流である。
上流側はぬまのむれの縄張りがあり、下流側はかつてはかわのむれの縄張りがあった
場所である。
ゲロりーがドスの人気回復のために、沼地への侵攻作戦を提案したのは翌日のことで
あった。
「あいとじゆーの兵ゆっくりが進むところ、ぬまのむれのゆっくりたちは進んでぱち
ぇたちに協力するにちがいないわ!!!今こそ!ぬまのむれをかいほーして、ここに
真のゆっくりぷれいすを築き上げるのよ!!!」
ゲロりーはゆっくりたちの士気を上げるために、咳き込むほど熱弁をふるった。だが、
理想論だけではゆっくりたちは動かないらしい。
「ぱちゅりーっ!!!せんそーなんて面倒くさいよ!それよりもあまあま持ってきて
ね!ゆっくりしなくていいよ!!!」
「そんなことよりおうどん食べたいっ!」
「まりしゃしゃまはぽんぽいっぱいになってしあわせ~したいんだじぇ!!!」
ゲロりーは自身の演説を理解しようとせずに自分の欲望ばかり口にするゆっくりたち
にがっかりした。
(むきゅぅ…ここは我慢よ…まだよ…愛の精神が浸透するには時間がかかるのよ…)
ゲロりーは飯寄こせと喚き続けるゆっくりたちに向かって答えた。
「ぬまのむれは愛を知らないわ!だからごはんさんがなくて困っているぱちぇたちの
群れを助けようとしないの!愛がないゆっくりはゆっくりじゃないわ!ぱちぇたちが
ゆっくりできないのはぬまのむれのせいに決まっているのよ!!!連中を倒してごは
んさんをたくさん手に入れれば、みんなでゆっくりできるのよっ!!!」
馬鹿なゆっくりたちにも分かりやすいように、手近な利益をぶら下げるゲロりー。
「ゆゆ!!!あまあまを独り占めしているぬまのむれはゆるせないよっ!せいっさい
っだよ!!!」
「まりしゃしゃまはあのくじゅどもをいちどぼっこぼこにしたいとおもってたんだじ
ぇい!!!」
「ごはんさんはぜんぶみょんたちのものだみょん!!!」
さっきまでとは打って変わり、賛同の声があちこちから飛んでくる。悪いことは他人
のせいにする傾向が強い、というのはゆっくりに共通する性質なのかもしれない。
だが、一匹のゆっくり、あの細目のちぇんは質問した。
「ぱちゅりーさまが何をしたいのか分からないよ~!!!餌場がほしいの?ぬまのむ
れからごはんさんを奪うの?ぬまのむれを永遠にゆっくりさせるの?」
「ごはんさんの確保が第一よっ!!!」
「じゃあ、ぬまのむれからごはんさんをもらえれば、戦わないで逃げてもいいんだね!
分かってよ~!!」
ちぇんはぬまのむれとの本格的な戦闘に巻き込まれるのを恐れていた。せっかくらん
と恋仲になったのである。まだふぁーすとちゅっちゅっもふぁーすとすっきりもしな
いうちにゆっくりできない体になってしまったり、永遠にゆっくりしてしまったりし
たらと思うと、怖かったのである。
「むきゅ!そこはこーどにじゅーなんせーを維持しつつ、りんきおーへんに対応するの
よっ!!!」
「全然わからないよぉ~っ!!!」
要するに何も考えてないのだろうか?ちぇんはこの出兵の意味も、目的も理解できなか
った。もし、ごはんさんが欲しいのならば、もっと狩りをするなり、群れを分散させれ
ばいいのではないだろうか?
もっと狩りをすればいい、それは現状を把握できていないゆっくりの考えだった。だが、
ちぇんは群れの幹部でもなく、一ゆっくりに過ぎない。発言の無知さを責めるのは酷と
いうものであろう。群れに関わらず、周辺の環境や群れの現状などを考えながら生きて
いるゆっくりなどごく一部なのだ。
実を言うと、ドスたちも群れの分割を考えなかったわけではない。だが、ドスまりさは
自身の権勢が衰えるのを嫌い、ゲロりーは愛の精神で群れを統一するという自身の目的
にそぐわないため、この意見は初めから却下していた。
「みんな心配いらないよ!!!」
騒然とする場を沈めたのはドスまりさの一声だった。
「ぬまのむれなんてどすすぱーくで一撃だよ!どすすぱーくはとぅーるはんまーなんだ
よ!みんなは安心してドスについてきてくれればいいよっ!!!ドスは必ずみんなにご
はんさんを配るよっ!だからドスのすごさをみんなもゆっくり思い知ってね!!!」
ついこの間大泣きしながら逃げてきたドスとは思えない頼もしい言葉である。だが、ド
スまりさの自信は全く根拠がないものではなかった。
前回は脅して餌場を奪取する腹積もりであったため、どすすぱーくをもったいぶって使
わなかった。それこそが敗因であると、ドスは考えていた。そして、それはあながち的
外れな意見ではなかった。
どすすぱーくの前には、さなえはずんだ餡一欠けらも残らず、不死身のえーりんと言え
どもなす田楽を撒き散らして永遠にゆっくりするはずなのだ。
「みんなのごはんさんをドスと一緒に取り戻すよっ!ぬまのむれにせいっさいっを!あ
まあまを取り戻せ!」
ドスの声に興奮したゆっくりたちが一斉に答える。
「「ぬまのむれにせいっさいっを!」」
「「あまあまを取り戻せ!」」
「「暴力はいいぞぉっ!!」」
ゲロりーは自身の立てた作戦を「いーぐる・ふらい・ふりー作戦」と命名したが、この
作戦名が浸透することはなかった。
沼の中心にあるぬまのむれの集団営巣地、そこへ続く細い陸橋…
この陸橋を封鎖し、その出口で包囲陣を敷かれると、この沼の中心に伸びた半島は難攻
不落になることは明白だった。おまけにぬまのむれの方が水上部隊は充実している。も
し、ドスの群れが普通に攻め寄せれば、お館さなえはこの戦術を取るだろう。
ゲロりーが立てた作戦とは、そのぬまのむれの地形的有利さを逆手にとるものであった。
まず、兵力を二分し、主力をドスが率い、ぬまのむれの見張りに見つからないよう、陸
橋方面に向かう。一方、まりさを中心とした軍をゲロりーが率い、ぬまの反対側から助
攻として、上陸・強襲する素振りを見せ、敵を牽制する。
ぬまのむれの軍勢がゲロりーらに引き付けられている間に、ドスは、ドス―陸橋が一直
線上になる位置を占拠し、兵ゆっくりがそれを援護する。
この場所さえとってしまえば、陸橋を通ろうとする敵兵はどすすぱーくで一掃が可能と
なるのだ。ぬまのむれが巣から出てこないようならば、そのまま兵ゆっくりと共に一直
線に陸橋から侵入し、ぬまのむれの集団営巣地をどすすぱーくで叩きのめす。
もし、お館さなえが赦しを請うのならば、ありったけの食糧と餌場をもらう。統率力と
士気の維持に難があるもりのむれとしては、そうしてもらった方がありがたいのだが、
この作戦ならば徹底抗戦されたところで、時間をかければぬまのむれを消滅させること
が可能であるはずだった。
「ゆっくり出陣するよっ!!!」
「むきゅ!ぬまのむれのあっせーに苦しむごはんさんをかいほーするのよっ!!」
もりのむれのゆっくりたち、「あいとじゆーのゆん民解放軍」は出陣した。たくさんの
あまあまを略奪、いや奪還することを夢見て。
8
「…というわけだよ!どすもぱちゅりーもたくさんの兵ゆっくりを連れてどこかへ出か
けたっきり帰ってこないよ!」
ドスらの出陣をお館さなえに報告に来たのは、一匹の疲れた表情のまりさだった。その
目の下にはクマが出来ており、どう見ても不健康そうである。
「そのぱちゅりーの作戦とやらは分かるか?」
「そこまではわからないよ!ぱちゅりーのさくせんは幹部にしか教えられてないみたい
だよ!」
出陣を把握できただけでも満足するべきだろう、お館さなえはそう思った。
クマまりさはもう我慢できなさそうな表情を浮かべている。
「へへっ、さなえさま!そろそろまりさはあまあまがほしいんだよ!ゆっくり我慢でき
ないんだよ!」
「分かった、ご苦労であった!」
お館さなえの合図とともに、あの潰れた帽子のまりさが帽子の中から、笹の葉の包みを
取り出し、クマまりさの前に置いた。クマまりさは何かに急かされるかのようにその包
みを舌で開く。
「ゆぅ~っ!!!あまあまさんはゆっくりできるよおおおおおっ!!!」
そこにあったのは、以前処刑されたれいむとさなえの番からかき出されたものと同じも
の、適度に乾燥させた餡子やチョコレートの塊であった。
「うっめ!これめっちゃうっめっ!!」
無我夢中で餡子に食らいつくクマまりさ。
実はこのクマまりさはもりのむれの一員である。しかし、同時にお館さなえの間諜でも
あった。クマまりさはそれと知らず、ゆっくりの中身である餡子などの甘味を与えられ、
今ではこの野生のゆっくりにとっては強烈過ぎるあまあまがなければゆっくりできない
状態になってしまったのである。
ゆっくりに対して、小麦粉や砂糖が麻薬のような働きをすることはよく知られた事実で
ある。また、人間から与えられた味の濃いお菓子や飲み物が原因で、味覚が変化し、野
生の食物ではゆっくりできなくなってしまうこともよく知られている。
ぬまのむれには捨てられたゆっくりや野良ゆっくりだった個体が多く、それらの危険性
を知るものは少なくなかった。そこで、せいっさいっされた個体から餡子などを取り出
し、これをもりのむれのゆっくりに与えることで、お館さなえから与えられる甘味がな
ければゆっくりできない体にしていたのである。
灰汁の多い木の実などを主食としている寒冷地のゆっくりにとって、自分達の中身は禁
断の甘さだったのだ。このクマまりさをはじめ、数匹の間諜ゆっくりは、もはや甘いも
の中毒であり、それを手に入れるために、群れの情報をお館さなえに流し続けていた。
無論、これは一般の群れの構成ゆんには知らされておらず、お館さなえの指揮の下、親
衛隊のみが極秘裏にその任に当たっていた。
それはまるで、ハッシシを与えることで、教主に絶対服従するアサシン集団を作り上げ
た「山の老人」のような手法であった。
「また何かあれば知らせるのです。あと分かっているとは思いますが、他のゆっくりに
このことを話せば、二度とあまあまは渡しません。ゆっくり理解してね!」
間諜とするには、約束を覚えているぐらい頭が良く、自身の利益のためならば仲間を売
ることをいとわない個体…要するにまりさ種は適任だった。
「ゆへへっ!まりさは分かってるよ!…また来るよ…」
クマまりさはあまあまの残りを帽子の中に仕舞い込むと、お館さなえの巣から出て行っ
た。あのあまあまを包んでいる笹の葉が、この群れへの通行許可証の役目も果たしてい
た。
「戦か…」
お館さなえは不死身のえーりん、ごっつありすなど、群れの幹部を召集した。
(ドスが出陣しているということは、どすすぱーくを使うつもりでしょう。)
お館さなえはどすすぱーくと、ぬまのむれよりゆん口が多いもりのむれの人海戦術の双
方に対策を立てなければならなかった。
ぬまのむれで総動員令が発令されたのは、その二時間後のことである。
兵ゆっくりたちは総動員令が下った場合、命令が解除されるまで、武装し、見回りや待
ち伏せ、非難や隠蔽のための土木工事などに従事しなければならなかった。
ごっつありすは、動員された奇形ゆっくりたちを集め、語りかけた。
「この度の戦いもゆっくりの神々のお導きによるもの…皆、存分に戦いなさい。
小生はお前達がこのような姿に生まれ、このようなゆん生を送っていることにも意味が
あると思う。なぜならば、お前達は苦難の半生故にほかのゆっくりよりも、ゆっくりす
ることの大切さを感じ取れると思っているからだ。」
奇形ゆっくりたちは、皆の命の恩人であり、恩師であるごっつありすの話に黙って耳を
傾けた。
「選ばれし神々の子らよ、信仰を持ち、誇りを持ちなさい。お前達をゆっくりさせてく
れる神々のために、さなえさまのために、この群れのために戦いなさい。」
奇形ゆっくりたちの先頭にいるのは、常にお館さなえを護衛している、潰れた帽子のま
りさだった。このまりさは生まれつき帽子が変形していた奇形ゆっくりなのだ。それ故
に両親の見ていないところで姉妹にいじめられ、髪はすべてむしりとられて禿げまりさ
にされて、最後には両親に捨てられたのである。
まだ、お館さなえやごっつありすが町にいた頃、禿げまりさは捨て子だった。
その日、お館さなえは野良ゆっくりの群れとの戦いをひかえ、ごっつありすらと会議を
重ねていた。ある日、かいぎしつと呼ばれていた土管に向かう途中、禿げまりさは餌を
もらおうと、通りかかったお館ありすについて行った。しかし、お館ありすはまるで禿
げまりさの存在に気づいていないかのようにかいぎしつへ入っていった。
困ったのは、土管の入り口を警備していた兵ゆっくりである。どう見ても潰れた帽子を
被った禿げまりさは野良ゆっくりにしても汚く、通常なら関わりあいたくない類のゆっ
くりであった。しかし、万が一、お館さなえの親族であるといけないので、兵ゆっくり
たちはとりあえず手持ちのごはんさんを分け与え、お話の相手をしていた。
「なんだこれは?」
それが土管から出てきたお館さなえが禿げ大福を見たときの第一声であった。
「さ、さなえさまの妹さまかお子さまかと思ったよ…?」
「我の妹に見えるのか…」
兵ゆっくりはお館さなえの反応に戸惑った。やはり無関係だったのだろうか。
「ち、違うの?ゆっくり教えてね!…」
「そうか、我の妹に見えるのか…」
「さなえさま…?」
その後、禿げまりさがお館さなえに面倒を見られるようになり、長じて護衛となったの
である。
「まりさ、さなえさまのこと、ゆっくり頼みましたよ!」
「ありす先生…この身に代えてもさなえさまはお守りするんだぜ…」
不死身のえーりんは、出撃前に自宅で四番目の妻とすっきりをしようとしていた。
えーりんはゆっくりにしては非常に長命な種であり、数十年生きるともされている。科
学的な報告では二十年前後であり、加齢に伴い、知能もゆっくりにしてはかなり高度な
レベルにまで発達すると言われている。かつて推定年齢三十七歳というえーりんが新聞
の地方版の一面を飾ったこともあった(後にこの新聞社には、「えーりんは17歳☆」と
書かれた謎の剃刀レターが届いた)。
いずれにせよ、三番目までの妻はえーりんよりも早く、寿命で永遠にゆっくりしてしま
ったのである。
「もし、えーりんが永遠にゆっくりしたら、この子をゆっくりできるゆっくりに育てて
ね!」
「えーりんが永遠にゆっくりすることなんてあるの?えーりんは不死身のえーりんなん
でしょ!?」
まだ番になって数ヶ月のまりさつむりがそう言い返す。
「ゆふふ…戦場で死ぬ気はせんのぅ…」
そう言って目を細めるえーりん。
「では、ヤるか…」
えーりんはくわっと目を見開き、まりさつむりのまむまむにアハトアハトを差し込んだ。
「んほおおおおおっ!!!こいつは素敵よ!大好きよぉぉっ!!!」
「「すっきり!すっきり!すっきりーっ!!!」」
ありす一家の巣では、兵ゆっくりと出撃する父まりさとありすに、母ありすがごはんさ
んを振舞っていた。
サワゼリ、ワレモコウの花、ミミズ、カナブン、そしてデザートに甘酸っぱいエゾイチ
ゴ。ありす一家にとっては久しぶりのご馳走だった。特にエゾイチゴは母ありすの大好
物であるにもかかわらず、貯蓄分を全て葉の上に盛り付けてあった。
「ゆっくりあじわってね!」
母ありすの声はどこか震えていた。だが、父まりさもありすもそれに気がつかなかった。
あるいは、気がつかない振りをしていた。
「むーしゃむーしゃ!しあわ(ぶぴっ!)…ゆ…?」
「むーしゃむーしゃ!しあわせぇぇぇっ!!!」
大好物のエゾイチゴを口いっぱいに頬張り、嬉しそうに咀嚼するありす。
父まりさは何かあったのか、あにゃるを上方に振り上げた奇妙な格好で、巣の出口に向か
って微速後退していった。母ありすはその姿を見て何か察したようだが、ただ落ち着いた
表情でニコニコと娘がごはんさんをたいらげる様子を見つめていた。
「ふぅ!まりさ危機一髪だったよ!」
外から何やらすっきりした表情の父まりさが帰ってきた。その頃には、もう任務のために
でかけなくてはならない時間が迫っていた。
父まりさは帽子を、ありすは支給された葉っぱの兜をカチューシャの上から身につける。
父まりさは帽子の中から一つ、大きなエゾイチゴの塊を取り出した。
「ゆゆ!まりさこれをありすに渡すの忘れちゃってたよ!後でゆっくり食べてね!」
「…ゆっくり…ありがとう…」
母ありすにはか細い声でそうお礼を言うのがやっとだった。
「「ゆっくり行って来るよ!」」
「ちょっと待ちなさい。」
母ありすが子ありすを呼び止める。
「かちゅーしゃがずれているわ!とかいはじゃないわよ!」
そう言って母ありすはありすのカチューシャを直した。
「ありがとうおかーさん!今度こそゆっくり行って来るね!」
そして二匹は兵ゆっくりの集合場所へと跳ねて行った。
誰もいなくなった巣の中で、母ありすは家族の無事を祈り、一人涙した。それはいつも
の強気の母ありすからは決して見ることのできない姿であった。
9
翌々日の朝、その日は薄っすらとした川霧が川の方から沼地へと流れ込み、アメーバの
ように伸縮を繰り返し、水面を、地面を覆っていった。本来ならば、新緑を背景に、そ
の黒ずんだ紅色の花も鮮やかに咲き乱れているはずのワレモコウの花は霧に覆われ、ま
るで雲の上に咲く、幻の花のようであった。
東の空から金色の太陽が顔を出し、暖かな陽光が差し込んでくると、川霧は徐々にその
占領地から撤退し、代わりに鮮やかな緑が帰ってきた。
そして、撤退した川霧と入れ替わるように、もりのむれのゲロりー支隊が沼の岸辺に現
れた。
「むきゅ!ドスは…まだ来てないのね…ぱちぇの立てたげいじつてきな作戦通りだわ!」
ゲロりー支隊は、まずぬまのむれのゆっくりを牽制し、陸橋入り口から連中の注意を逸
らさなければならない。そのためには、被害を抑えつつも、ある程度本格的な攻撃を仕
掛ける必要があった。
「むっきゅうん!!行くのよ!まりさ!さなえからごはんさんを解放するのよっ!!!」
「ゆっくりりかいしたよ!」
「ゆっへっへ!!!すーぱーむーしゃむーしゃたいむ!すーぱーすっきりたいむのとき
なんだぜええええっ!!」
ゲロりー支隊の主力を構成するまりさたちは、帽子を水上に浮かべ、防備の手薄そうな
場所への上陸を目指して、ゆっくりと櫂を漕ぎ始めた。
「…来たか…」
お館さなえはゲロりー支隊に占める黒い帽子が多く、まりさ種に偏った編成であること
からこれが主攻ではないことを看破した。しかし、主力がどこから来るのかが分からな
かった。
お館さなえは飼いゆっくり出身であるため、どすすぱーくの威力、射程はまるで予想で
きなかった。もしも、沼地の岸辺からこの巣まで届くようであれば、ドスが沼地に接近
するまでに速攻をしかけて包囲するしかない。
かと言ってあちらこちらに兵力を分散配置しては、ゆん口で負けているぬまのむれは各
個撃破を受け、競り負ける可能性が考えられた。
「えーりん!主力を率いて陸橋の外に布陣、ドスを捜索せよ!水上部隊は出撃、敵まり
さを殲滅せよ!ゆン・イレギュラーズは作業を続行せよ!」
お館さなえは本当はゲロりー支隊を無視し、水上部隊を利用した遊撃戦が展開できるよ
う、よーム戦士団は待機させておきたかった。しかし、ゲロりー支隊のまりさだけでも、
数だけならこちらの水上部隊に匹敵する規模であり、ドスが率いるであろう本隊にぶつ
ける陸上兵力をできるだけ大きなものにするためには、速やかに敵の水上戦力を殲滅す
る必要があった。そして、よーム戦士団ならそれが可能と考えていた。
「やろうども!でっぱつするんだぜ!!!」
「「がってんしょうちみょん!!!」」
水上部隊を指揮するのはでぶまりさ、通称でぶりである。
見た目はぱっとしない顔つきのまりさであり、太っていることも相まってとても帽子や
船の上に乗せるべきではない存在に見える。しかし、この群れで一番の漕ぎ手であり、
まだお館さなえが町で活動していた頃から、どぶ川のボスを務めていた個体であった。
でぶりの指令とともに、水草の陰に隠れていた発泡スチロールの軍船、帽子に乗った水
上まりさ、せいっさいっされたゆっくりから取り上げた帽子に乗って移動しているまり
さが続々と姿を現した。せいっさいっされた帽子に乗っている個体は、元々帽子に穴が
開いており、奇形とされたか、二次的に帽子を損傷してしまい、両親からも捨てられた
まりさたちだった。
「取り舵いっぱ~いっ!!!ゆっくりしないで全速前進!!!」
船長まりさの指示のもと、漕ぎまりさたちが一斉に櫂を漕ぎ始める。
「ゆっくりりかいしたよ!!!」
そこにはあの父まりさの姿もあった。父まりさが乗り込んだのは、発泡スチロールの軍
船二番船ゆリシーズである。
舳先を敵のまりさ達に向け、ゆリシーズはぐんぐんと加速していった。
船上では、よーム戦士団の戦闘ゆんであるみょんたちが武器を構え、出番を今か今かと
待っている。
「これが終わったらまたみんなですっきりするみょん…」
「ゆふふ、みょんのあにゃるはえる・どらどなんだみょん…」
よーム戦士団に配属されたみょんたちは、連携を強力なものとするために、あにゃるす
っきりを利用していた。これはテーバイの神聖隊などでも使われていた手法である。
そんなみょん達の会話に、父まりさのあにゃるはきゅっと絞まった。
「目標補足!敵のまりさを目指して突っ込むよ!!!」
「「ゆっくりしねぇっ!!!ゆっくりしねぇっ!!!」」
二番船「ゆリシーズ」、三番船「ひるでがるで」、四番船「けるげれん」が一列に並び、
その後方からは一番船にして総旗艦「ヴぁんがーど」が最大戦速でゆっくり突撃してい
く。その左右には三匹一組で戦隊を形成したまりさが展開していた。
「ゆわあああああっ!!!こないでねっ!!!まりさのほうにこないでねっ!!!ゆっ
くりしないであっち…ゆぼぉっ!!!だじゅげっ!!!ごぼぼ…」
巨大な発泡スチロールと正面衝突し、もりのむれのまりさは一撃で沼に沈んだ。
「ゆわあああっ!!!ぐるなあああっ!!!まりざのほうにぐるなあああっ!!!」
もりのむれのまりさたちは混乱に陥った。滅多に帽子で水上移動を行わないもりのむれ
のまりさと、ぬまのむれの水上部隊とでは、戦力として差がありすぎたのだ。
「ゆひいいいっ!!!」
一匹のまりさが必死に櫂を動かし、ゆリシーズの突進を回避する。
「ゆっくりしないで沈んでねっ!!!」
父まりさはすかさず櫂でその敵まりさを叩いた。
「ゆべっ!!!やべっ!!!まりざばっ!!!」
「往生際が悪いみょん!!!」
なかなかしぶとく粘る敵まりさに業を煮やしたみょんが、長い棒の先端に打撃用の石を
取り付けたタイプの槍で、思いっきり叩きのめす。
「ぶぎゃあああっ!!!ゆぎっ!!!おぢるっ!!!だじゅげべええええっ!!!」
ぼちゃん
みょんと父まりさに散々叩かれた敵まりさは、とうとうバランスを失い、涙を流し、悲
劇的な表情のまま、ほの暗い水底へと沈んでいった。
同様の光景はあちこちで展開されていた。
「やじゃよ!!ばでぃざはみじゅにおぢだぐないよ!!!やべで!!ぶだないで!!ゆ
ぶっ!!!ごぼぼ…だじゅ!!!…ごぼぼ…」
「ゆがああああ!!!どぼぢでばでぃざのおぼうじやぶれぢゃっでるのおおおっ!!!」
「もうやじゃあああっ!!!おぶぢがえぶううっ!!!ゆんやああああっ!!!」
「ゆぎいいいっ!!!おふねさんはゆっくりできないいいっ!!!ゆっくりしないで上
陸するよっ!!!」
「ゆゆ!!!あそこならゆっくりがいないんだぜ!楽勝で上陸できるんだぜ!!!」
もりのむれのまりさたちは、ぬまのむれの軍船と戦うの諦め、ぬまのむれの本拠地があ
る半島へと必死に櫂を動かした。数が少ないせいか、ぬまのむれの兵ゆっくりの配置に
はムラがあり、もりのむれのまりさたちは、明らかに手薄な面から上陸を試みる。
「ゆっへっへ!上陸してしまえばこっちのもんなんだぜ!!!あまあまはまりささまの
ものなんだぜ!!!」
とうとう、半島にたどり着いたもりのむれのまりさが、帽子から湿原へと飛び降りる。
べちゃ
「ゆ?」
そこには見たことのない植物が広がっていた。幅広の葉に朝露のようなものがたくさん
付着している。
「ゆびいいいいっ!!!なんなのぜえええっ!!!ばでぃざのあんよがうごかないんだ
じぇええええっ!!!」
そこは、かつてごっつありすが立ち入るなと、ありす一家に警告した場所だった。その
場所に生えているのはモウセンゴケ。葉の上に分泌される粘液で昆虫を絡め取る食虫植
物である。上陸したまりさのあんよには、モウセンゴケの粘液がべっちょりと張り付い
ていた。
モウセンゴケ一株一株の粘液は大したことがなかったが、ゆっくりのように、体の体積
に対して接地面の多い体形の生き物は、たくさんの粘液をそのあんよに張り付かせてし
まい、進めば進むほど、身動きが取れなくなっていった。
「ゆぎいいいっ!!!ばでぃざのあんよざんうごくんだじぇえええっ!!!」
上陸したまりさが必死にあんよを動かす。しかし、渾身の力で跳ねようとした瞬間、バ
ランスを崩し、顔面から粘液まみれの食虫植物群に突っ込んだ。
ぶちゃあぁ
「ゆぐぐぐぐぐぐっ!!!うぎょげないんだべえええええっ!!!」
顔面から腹部にかけて粘液が付着し、もはや上陸したまりさは自力では起き上がれなく
なっていた。必死に起き上がろうとあんよをぐにぐに動かし、お尻をぷりんぷりんと動
かすが、船上のみょんたちの笑いを誘うばかりであった。
もはや、このまりさには少しずつ群生する食虫植物に吸収されていくか、そのまま雨の
日に溶けていくかの二択しかなかった。
「かしこいまりさは逃げるよ!こーそこーそ…どぼじでうじろにおぶねざんぎでるのお
おおおおっ!!!」
「うるさいみょん!さっさと沈むか、けつを出すみょん!!!」
みょんに槍でがすがすと突かれ、また一匹まりさが沈んでいく。
「ゆびっ!!ゆぶぅっ!!なんじぇ!!まりざが!!ごん…」
お館さなえの命令から一時間しないうちに、もりのむれのまりさの半数ほどが沼に沈み、
残りは岸へと逃げていった。
陸橋を目指して、ドスと、ゆっくりの大群が姿を見せたのは、そのときであった。
10
ドスは陸橋に対して正面方向の森から姿を現した。ドスの出現方向をつかめなかったの
は、おそらく、偵察に向かわせたゆっくりがもりのむれのゆっくりに殲滅されてしまっ
たためであろう。
ここに来て、お館さなえはドスたちの狙いに気がついた。
陸橋を縦隊にて通過しようとすれば、確実にどすすぱーくを打たれる。かといって戦力
の逐次投入は、兵力差で劣勢なこの状況下では各個撃破されるだけである。予備戦力と
してとっておいたゆン・イレギュラーズを投入する機会は、当分訪れそうになかった。
お館さなえはドスとゲロりーの作戦を読みきれず、結果的に戦力の分断を許してしまっ
たのである。
(どすすぱーくが打てる状況下では、我は出れぬ…)
総司令官が戦死しては、群れの敗北は決定してしまう。戦術的な勝利はばばさまこと、
不死身のえーりんに任せるしかなかった。
お館さなえは前回の戦いでドスまりさを永遠にゆっくりさせなかったことを後悔してい
た。
(我も甘い…結局、人質を見殺していたほうが、永遠にゆっくりするゆっくりの数が少
なかったのではないか…)
お館さなえは、巣に残された母子ゆっくりが全て、避難用の洞窟(どすすぱーくの直撃
を受けない位置にある)に避難していることを確認させると、ただ水上部隊の帰還を待
った。
「やべ…れい…いや…じゃ…」
「じゃお…じゃおおお…じゃおおおおおおおおんっ!!!」
「ゆっぎぃっ!……」
片目が潰れている姉めーりんが、瀕死のれいむですっきりしている。このれいむは、え
ーりんが放った偵察任務の兵ゆっくりの一匹だった。
ぬまのむれが放った偵察ゆっくりのうち、ドスがいる方向に向かったものはすべて、こ
のめーりん姉妹によって永遠にゆっくりさせられていたのである。
「ゆぅ…めーりん!そのへんにしといてね!もうてきの本拠地だよ!!!」
「じゃああおおおおおん!!!」
姉めーりんは最後にもう一度、黒ずみ、もはや動かなくなっているれいむですっきりし
てから、進軍に加わった。
この姉めーりんは気に入らないゆっくりをぼこぼこにいたぶってからすっきりすること
を好む特殊な性癖のゆっくりであった。そのため、大事にされている金バッジや、近く
を通った野良など、片っ端から暴力をふるってすっきりをし、最後には飼い主が大事に
していた子猫に乱暴を振るおうとして捨てられたのである。
「…ゆぅ…やれやれ、面倒なのが来たのぉ…」
えーりんは葉っぱで作った兜をくいっと、舌で持ち上げ、敵の様子を確認する。えーり
んが赤と青の帽子の上から兜を被っているのは、指揮官がどこにいるかを分からなくす
るためであった。
えーりんは兵ゆっくりたちを、ぬまのむれ得意のまけどにあん・ふぁらんくすではなく、
散開陣形で接近させた。ドスまりさの周囲は、もりのむれのふぁらんくすで固められて
おり、えーりんらは可能な限り素早くドスたちに接近し、乱戦に持ち込む。そして敵味
方入り乱れる状態を作り出すことで、どすすぱーくを打てなくするしかなかった。
しかし、散開陣形のまま突っ込んでは、敵のふぁんらんくすに押しつぶされる。
「進みながらゆっくりふぁらんくすになってね!!」
えーりんは次々と指示を飛ばし、散開陣形を敵前で密集させるという職人芸を披露する。
だが、ふぁらんくすの陣形が完成しようかというそのとき、それは来た。
「ゆふふ!これが!これがしんせかいをきりひらくそーせーのひかりだよ!!!どすす
ぱぁぁぁぁぁくっ!!!」
輝く極太の光線がドスまりさの口内から放たれ、えーりん隊の中央を削り取る。光線は
そのまま湿地に着弾し、泥と草を派手に舞い上げた。
えーりん隊の中央に位置していた、数列のふぁらんくすは丸々消滅し、後には、焦げた
餡子やチョコレートのようなものの臭いが漂った。
「ゆっくりしないで逃げるよーっ!!!」
「ゆっくりしないで逃げるんだぜーっ!!!」
無事だったえーりん隊の左翼と右翼から叫び声が聞こえ、それぞれ左右に蜘蛛の子を散
らすように跳ねていく。
「おお、ぶざま、ぶざま!!!まるでむしさんのようにみみっちいね!!!右と左のふ
ぁらんくすは逃げるごみを追撃してみなごろしにしてね!!!まんなかのふぁらんくす
はどすと一緒にぬまのむれの巣をたたきつぶすよっ!!!」
「もうやじゃあああっ!!!だじゅぐぶっ!!!」
「ゆげえええっ!!!どぼじでぢぇんのおべべびえないのおおおおっ!!!わがらない
よおおおおっ!!!」
「ゆ゛…ゆ゛…ゆ゛…」
ドスはそのまま逃げ切れなかったぬまのむれのゆっくりを踏み潰し、陸橋から半島へと
進軍を開始した。
そのとき、ドスの左側から接近してくる影があった。二隻の軍船、ゆリシーズとけるげ
れんを中心とした水上部隊である。でぶり提督の指示を受け、陸橋に比較的近い位置で
掃討戦を行っていた二隻が、陸橋通過時にドスたちの側面を突くべく急行を命じられた
のである。
「他の群れのドスが!小汚いゆっくりが!まりさたちの縄張りを縦隊組んでゆっくり跳
ねていくなんて!このぐらん・だるめが!このよーム戦士団が許すと思ってるの!!?
ばかなの?死ねよ!」
先遣隊の指揮を執る、ゆリシーズの船長まりさの号令のもと、一気に船速を上げて行く。
ドスまりさはその光景を不愉快そうに横目で眺めた。
「ゆぅ…みみっちいいきものがうるさいよっ!!!」
どすは二個目のきのこをむーしゃむーしゃと咀嚼した。
裁断されたきのこ飲み込んでしばらくすると、どすの口内からうっすらとした光があふ
れ出す。
「どすすぱぁぁぁぁぁぁくぅぅぅっ!!!」
二射目の光線は派手に水蒸気を巻き上げながら、水上を走り、四番船けるげれんを直撃
した。
「!!!」
「うわわああああああっ!!!」
「ゆ゛!!!…ごぼがぼ…」
何かが弾けるような音と共にけるげれんは文字通り蒸発し、水面が沸騰、水蒸気がもう
もうと舞い上がった。けるげれんの近くを航行していたまりさ種もこの沸騰に巻き込ま
れ、帽子から振り落とされ、水中に叩き込まれていった。
「ゆぎゃああああああ゛っ!!!」
けるげれんの隣を航行していたゆリシーズは直撃を免れたものの、甚大な被害を受けた。
いきなりのどすすぱーくに驚いた父まりさのあにゃるが決壊を起こしたのである。ゆリ
シーズの上ではうんうんが天下統一を果たしていた。
「ゆっぴいいいいいいいっ!!!どぼじでう゛ん゛う゛ん゛がどまらないのおおおおっ
!!!!ばでぃざのあにゃるざんじんごぎゅうじでおぢづいでねえええええっ!!!」
「なにやってるのおおおお!このうんうんまりさああああああっ!!!」
「ゆぎゃあああああ!!!みょんのじらうおのようなあんよにうんうんがああああああ
ああああああっ!!!」
「ま、まりさはかしこいからうんうんさんから逃げるよ!うんうんまりさはゆっくりで
きないよっ!!!」
「ばか!敵前逃亡はせいっさいっされるみょん!たとえうんうんまみれでも戦うんだみ
ょん!!!…くさいみょおおおおん!!!」
結局、水面に向かって放たれたどすすぱーくは、けるげれんを撃沈し、随伴していたま
りさを数匹蒸発させた。そして、ゆリシーズもまた、一時的とは言え、戦闘不能に追い
込まれたのである。
「ゆっはっはっは!!!いいざまだね!!!いいゆっくりは死んだゆっくりだけだよ!
このえらばれしどすたちをのぞいてね!!」
とうとうドスまりさたちは陸橋を突破した。
そこには緑色の草花が繁茂し、ぬまのむれの中心部である小さな林まで、ドスまりさた
ちを阻むものは何もなかった。
11
「待ってね~!おとなしくちぇんたちにこーさんしてねー!無駄な抵抗はわからないよ
ー!!!」
以前、らんにぷろぽーずされた細目のちぇんは、もりのむれの左翼を構成していた軍の
中にあって、逃亡したぬまのむれの右翼を追っていた。
「ゆひいいいいっ!!!ぐるなあああっ!!!までぃざのほうへぐるぶううううっ!」
ちぇんの突き出した槍が泣きながら逃げ惑っていたまりさの口から差し込まれ、中枢餡
を貫通する。
ぬまのむれのぐらん・だるめは練度が高いせいか、敗走も速かった。それでも、逃げ遅
れたゆっくりから一匹、また一匹と刺され、潰され、餡子の花を咲かせて永遠にゆっく
りしていく。
「…ここらかの…」
逃亡したぬまのむれの右翼を指揮しているのはえーりんであった。えーりんが采配代わ
りにくわえているススキを高く振りかざす。
「横槍をくらわせよ!!!」
「ぐらん・だるめはせかいさいきょおおおおおおっ!!!」
「!!?」
追撃を続けるもりのむれ旧左翼の側面の草むらから、一列の伏兵が一気に槍を突き出す。
「ゆわあああっ!!!どぼじでごんなどごろにぶぐっ!!!」
少数の伏兵による奇襲的な反撃であったが、追撃に夢中になっていたもりのむれ旧左翼
軍を混乱させるには十分だった。
最初からえーりんは、ドス以外の敵ゆっくりひきつけ、これを追撃、または乱戦のまま
ドスに接近する算段だったのである。
ドスが左右のどちらかに逃亡した隊を追ってくることは、陸橋をきれいにどすすぱーく
の射程に入れようとする自分達の策を放棄することになるため、ありえない選択肢であ
った。万が一、追ってきたならば、本拠地からさなえ率いるゆン・イレギュラーズら予
備戦力が出撃可能となり、戦力分断の利を放棄することになる。もっとも、ゲロりーの
いない状態で、あのドスがそこまで考えられたかが疑問ではあるが。
そして、もし、追撃してこなかったのならば、そのまま後背を突き、乱戦に持ち込む腹
積もりであった。
左右に分かれたことで、伏兵の効果は薄まってしまったが、これはどすすぱーくで戦力
を一網打尽にされないために必要な措置であった。当然のことだが、どすすぱーくのき
のこには限りがあるはずである。前回の交戦でドスが持ち込んでいたきのこは二個、そ
のきのこのサイズとドスの帽子の大きさから、どんなに帽子に詰め込んでも五、六発が
限界とお館さなえらは考えていた、他のゆっくりが運ぶには、どすすぱーくのきのこは
大きいためである。実際、今のところ、ドスはある程度、ゆっくりが固まっている場所
にしかどすすぱーくを打っていなかった。
「さて、戦るか…」
もりのむれの旧左翼軍が伏兵で混乱している間に、あっという間に再編成を済ませた、
えーりんたち右翼隊が襲い掛かる。この編成の速さと巧みさこそが、えーりんの恐るべ
き手際の良さ(ゆっくりにしては)と、日頃の訓練の化学反応によるものであった。
あのありすは反撃に転じたえーりん隊にあって、槍を振るっていた。
「おとーさんとおかーさんのおうちに!ゆっくりできないゆっくりが近づくなああああ
あああっ!!!」
「ゆっぎゃあああああああああっ!!!でいぶのぼうぜぎみだいなおべべっ!!!おべ
べがああああっ!!!」
その前に細目のちぇんが立ちはだかる。
「難儀だねぇっ!!」
ちぇんが連続で突き出す槍をありすが一撃、二撃と受け流し、反撃する。
「そいぁっ!!!」
「やるんだね!わかるよー!!!」
細目のちぇんは二本の尻尾で巧みにありすの槍を逸らす。
「ありす!ちぇんは戦いにおいて、ありすこそライバルと認めるよ~っ!!分かってね
~っ!!」
「らいばるなんてとかいはね!!!のぞむところっよっ!!!」
互いに突き出した槍が交差し、それぞれがありすの頬を、細目のちぇんのおでこを微か
に傷つける。
「ありすーっ!!」
そこへ仲間のゆっくりたちが駆けつける。横槍で崩されたもりのむれ旧左翼軍はもはや
総崩れになりつつあった。
「ゆゆ!一騎打ちを邪魔するなんて無粋なんだね~!分かってね~っ!!!この勝負は
お預けだよ~っ!!!」
細目のちぇんはそのまま軽快に飛び跳ね逃げていった。
一方、逃げたぬまのむれ左翼隊は、ごっつありすの指揮の下、同じ戦法で反撃に転じて
いた。
「剛力招来!!!超力招来!!!」
ごっつありすの操る槍が、ぺにが、辺りを真っ黒な餡子で染め上げていく。
「さあっ!!懺悔なさいっ!!!」
「ぢぃーーーーーーんぶっふううっ!!!」
恐るべきごっど・ぺに・かのんの一撃を食らったもりのむれのみょんが、ホワイトチョ
コレートを撒き散らしながら、弾け、永遠にゆっくりした。
元々、ぐらん・だるめに比べれば烏合の衆であり、恐怖による統制も、掟による秩序も、
信仰による団結も持たないもりのむれは、ドスやめーりん姉妹といった中核となる戦力
なしでは、一度守勢にまわったが最後、士気が崩壊するのも無理なからぬことであった。
12
ドスまりさ率いるもりのむれ中央軍は、誰もいない半島を進撃していたが、すぐにその
進撃は停止することになる。
「ゆぎゃああああああああああああっ!!!」
突如、先行していたもりのむれのまりさつむりが悲鳴を上げ、転げまわった。
「いたいんだじぇええええっ!!!つむりの!!つむりのえぐぜれんどなあんよがああ
ああああっ!!!」
「ゆ!どうしたの!てきさん!!?」
だが、ドスの問いかけへの回答よりも早く、次の犠牲者が現れる。
「ゆぎいいいいっ!!!でいぶのあんよがあああっ!!!でいぶのいふーどーどーたる
あんよがあああっ!!!」
「ゆええええええ゛!!!あんよがいじゃいよおおおおっ!!!わっがらないよおおお
おおっ!!!」
次から次へとあんよの痛いみを訴え、進撃を停止するゆっくりが現れた。よく見ると、
そのあんよには何やら褐色の木の実のようなものが突き刺さっている。
それは水生植物ヒシの実、撒き菱の元ネタとなった植物の実であった。その名の通り
(むしろ、菱型の語源がこのヒシの実や葉であると言われている。)、菱型の実の両端に
は鋭い棘があり、実際に忍者はこれを道に撒いて追っ手の追撃をかわしたという。
この北の大地においては、古来、澱粉の豊富な貴重な食糧源としてされており、このぬ
まのむれにおいては、食糧源兼防衛用トラップとして使われていた。
「ちょこざいだよっ!!!ドスはどこにもにげないよっ!!さなえは出てきてせーせー
どーどーどすとしょうぶだよっ!!!」
ドスは大声でそう呼びかけた。だが、どこからも返事はない。
「ひきょーものはせいっさいっだよ!」
ドスは三個目のきのこを口に入れた。
「どすすぱぁぁぁぁくっ!!!」
ドスまりさは三度目の光線をぬまのむれの本拠地がある、小さな林に向けて撃った。
「ゆゆ!?」
しかし、さすがに距離がありすぎた。どすすぱーくは湿度の高い、水辺の空気中で拡散
し、わずかな熱風が林の木々を揺らしただけだった。
「そんなとおくにかくれてるなんてひきょーだよっ!!!」
ドスはいーらいーらしていた。足元には何やら棘のある実が撒かれており、それを踏ん
でしまったときのことを考えると、とてもゆっくりできない。さなえはびくびくとかく
れていないでどすと対決するか、さっさとあまあまを出して降参すべきなのだ。沼の水
面から照り返される陽光は明らかに大自然の王者としてドスを歓迎していた。
「ドス!降参するんだぜ!!まりさたちは平和の使者なんだぜ!」
「だからもうどすすぱーくを撃つのは止めて欲しいみょん!!」
そこに来たのは、きれいな帽子のまりさと、白旗を掲げたみょんであった。
「こーさんするのはゆっくりできる選択だよ!でもまりさやみょんじゃだめだよ!さな
えを連れてきて土下座させないとゆっくりできないよっ!!!」
ドスは高圧的な視線で二匹をにらみつける。
「さなえならもう逮捕したんだぜ!あそこにいるんだぜ!ドスへのあまあまも一緒なん
だぜ!」
「ゆゆ!!?」
使者まりさが指し示す方角には、沼のほとりの草の上に低く山盛りにされたあまあまを
はじめとするご馳走、そしてつるで縛られ、口をふさがれ、ひたすらもがくさなえの姿
があった。
「さなえはゆっくりできないりーだーだったんだみょん!奇形とか捨て子とかゆっくり
できないゆっくりばかり大事にしているくずだったんだみょん!だからせいっさいっし
たんだみょん!」
「これはさなえが隠し持っていたあまあまなんだぜ!!」
そう言って使者まりさは地べたに笹の葉で包まれたあの餡子の塊を置いた。
ドスは胡散臭そうにそのあまあまを見つめると、兵ゆっくりの一人にそれを食べてみる
よう促した。兵ゆっくりは明らかな毒見役に嫌がったが、そのあまあまの臭いを嗅ぐと
目の色を変えた。
「ゆゆ~ん!とてもゆっくりできる臭いがするよ!…むーしゃむーしゃ…しあわせーっ
!!!こんなあまあま食べたことないよ!!!」
「ゆ!!?」
その反応にドスまりさも早速、舌であまあまを口に運ぶ。
「むーしゃむーしゃ…しあわせぇぇぇぇぇっ!!!」
それはドスも食べたことがない味だった。
「これはゆっくりできるあまあまだよ!まりさとみょんはゆっくりできるゆっくりみた
いだから、ドスがたくさんもらってあげるよ!」
「気に入ってくれたかみょん!!もっとたくさんあるけどみょんたちでは運べないみょ
ん!安全な道を案内するから持って行ってほしいみょん!!!」
「でも、まりさたちもあまあま食べたいから、全部は勘弁してほしいんだぜ!ドスの帽
子に入る分だけドスにあげるんだぜ!!」
ドスは考えた。敗戦群れであるぬまのむれはドスにあまあまを全部献上すべきだ。だが、
ゲロりーが愛だのあーうーだの言っていた通り、支配には甘い餌も必要であろう。まず
はドスの偉大さと寛大さに心服させ、あまあまはまた後で徴収すればいい。
それに、あそこにあるあまあまがこのドス自慢の大きな帽子に全て入ってしまう可能性
だってあるのだ。それなら誰も文句は言えまい。ドスは約束にうるさいのだ。
「ドスはかんだいだから、その条件でいいよ!!!ゆっくりかんるいのなみだをながし
てよろこんでね!!早速あまあまをもらいに行くよ!!!ゆっくりしないでどすをあん
ないしてね!!」
「「ゆっくりりかいしたよ!」」
ドスは念のため、二匹の兵ゆっくりに先行させ、使者の後を跳ねていった。後方ではま
だ戦いが続いているようだが、あまあまを回収したら、宣言しよう、ドスたちの光り輝
く勝利を。
大量のあまあまは沼のほとりに葉っぱを敷き詰めて置かれていた。
これなら全部持ち帰れるのではないか?
ドスまりさの頬が自然とほころぶ。
そうだ、本当はもっとあまあまを隠しているのかもしれない。
ドスはこれを全てもらってから、この二匹の使者を問い詰めようと考えた。
もうしばらく跳ねると、今度はつるでぐるぐると縛られたさなえの姿が見えてきた。真
っ赤に泣きはらした目から涙を流し、むごいことに飾りは全てむしりとられ、口は葉っ
ぱで塞がれていた。周りへのずんだ餡の飛び散り具合からして、おそらく、口はぐちょ
ぐちょにされているのではないか?ご丁寧にまむまむ(ぺにぺにが切られた痕?)とあに
ゃるには、鋭い棒が刺し込まれていた。
(おお、あわれあわれ…ゆっくりできないばかがせのびするからそうなるんだよ!!!)
ドスまりさは嗜虐的な笑みを隠そうともしなかった。
「さあ、どうぞドス!まりさたちはここで待ってるんだぜ!!」
「ゆっくり持って行ってね!さなえは好きにしていいよ!!」
「ゆふふ、ご苦労だったね!そうさせてもらうよ!!!」
ドスは涎を垂らす二匹の兵ゆっくりを押しのけると、あまあまの山のところまで跳ねて
いった。
「ゆっくりできなくてりーだーがせいっさいっされるとか、かたはらだいげきつうだね!
さなえのことはあまあまをいただいてから、ゆっくりせいっさいっしてあげるから楽し
みにっ!?」
突如ドスの視界に変化が起こり、縛られているさなえが、あまあまの山がせり上がって
いく。
いや、ドスが沈んでいたのだ。
そこは、草によって巧みに偽装された泥炭地であり、かつてせいっさいっされたゆっく
りが生き埋めにされた場所だった。
このような寒冷な気候下の湿原では、植物が分解されず、泥炭として堆積する。そして
水気の多い場所では、まるで底なし沼のように重いものを飲み込んでいくのである。
通常のゆっくりならば、脱出不可能なまでに埋まることはなかったかもしれないが、体
重がときに百キロを越えるドスでは事情が異なった。
また、所々にある小さな穴、それらは泥炭の隙間であり、その直下には広大な空洞が空
いていることもある。かつて、北海道開拓時代には、このような泥炭地の空洞に馬が落
ち、そのまま生き埋めとなったケースが少なくなかったという。
お館さなえの群れは、かつて何度か、あんよが泥炭から抜けなくなる事故が発生してお
り、その経験を利用したのである。泥炭地の中心に面積の広い葉を次々と投入し、簡単
なシートを作り、その上に少しずつあまあまを重ねていく。あまあまの山が低くなって
いたのは、重量が狭い範囲に集中することで沈下するのを防ぐためであった。お館さな
え率いるゆン・イレギュラーズは、もりのむれの出撃を知って以来、最後の手段として、
この天然の落とし穴による罠を用意していたのである。
「ゆぎいいっ!!!どぼじでどずのあんよざんうごがないのおおおおっ!!!」
ドスは跳ねて着地したときの衝撃であんよがまるまる泥炭中に埋まり、ちょっとやそっ
とでは脱出できない状況に陥っていた。
「でっかいくそ袋なんだぜ!!!」
使者まりさがきれいな帽子を脱ぎ捨て、すかさずみょんと共にドスまりさの口を槍で貫
く。きれいな帽子の下にあったのは、あの潰れた帽子。それはお館さなえを護衛してい
た禿げまりさであった。
「ゆぎゃあああああっ!!!あああ゛っ!!!あああ゛っ!!!」
ドスになっても痛みに弱いという、ゆっくりの特徴は変わらないらしい。突き出された
槍は、ドスの口を、舌をずたずたにした。
ドスに随伴してきた兵ゆっくりが慌てて棒きれを構え、潰れた帽子のまりさと、みょん
に襲い掛かる。
「ゆ!!」
「みょん!!」
二匹の背中に鈍い痛みが走った。だが、この槍を離せば、ドスは助かってしまうかもし
れない。
「まだまだああああっ!!!」
二匹はあらん限りの力を込め、槍をさらに押し出した。
「ああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
ドスはもうまともに口をくきことも、叫ぶことも出来なかった。
「群れを守る働き!大儀です!」
そこに一番船ヴぁんがーどに乗って、水草の陰に隠れていたお館さなえが、よーム戦士
団を引き連れて上陸する。あの縛り上げられていたさなえは影武者、何度もあまあまを
要求してきた間諜まりさに、この前せいっさいっしたあほ毛さなえの皮を被せたものだ
ったのだ。
「かかれぇっ!!!」
よーム戦士団のみょんたちは一斉に槍を突き出し、潰れた帽子のまりさとみょんに棒を
突き刺していた、もりのむれの兵ゆっくりを、ドスの口を、帽子を、頭を貫いていく。
もはや、ドスはハリネズミのようだった。
帽子は叩き落とされ、口はずたずたにされ、もうどすすぱーくを撃つことはできない。
「念のため、あんよも潰しておけ!」
さらに槍がドスの下腹部目掛けて次々と突き出される。ドスのあんよは泥炭の下に埋ま
っているので、ちゃんとあんよに刺さっているのか確かめる術はなかった。しかし、ド
スに残されたゆん生は、突き刺された槍の痛みに苦しみながら、ゆっくりと泥炭に沈ん
でいくだった。
「旗を揚げよ!これより全軍により、もりのむれを追撃する!一人も生かして帰すな!」
総旗艦ヴぁんがーどの上に、赤と黄色のマケドニア国旗(小学校の運動会の万国旗がちぎ
れたものを、町にいた頃に、群れの印としたものだった)、すなわちヴェルギナの星の旗
が翻った。
13
助攻として、ドスとは沼を挟んで反対側に布陣していたゲロりーは、まりさ部隊が壊滅
した後は、特にやることもなく、ドスの勝利を楽しみに待っていた。
そこへドス戦死(実際は、この時点ではまだ泥炭に半ば埋もれて生きている)、ドスの軍
勢敗走の報が伝わったのは、ドスが泥炭の罠にはまってから一時間ほど経ってからであ
った。
「…は?…」
ゲロりーは唖然とした。まるでゲロりーだけ時が止まってしまったかのように。
それまでゲロりーはずっといーらいーらしていた。ドスは半島内に侵入してからという
もの、ずっと動きを止めていたように見えたからである。
伝令―あの細目のちぇんはゲロりーの反応を、報告が聞こえなかったものと思ったよう
だ。
「ドスは永遠にゆっくりしちゃったんだよー!作戦は失敗なんだよー!今、めーりんた
ちが殿をしながら逃げてるんだよー!撤退戦は難儀なんだよー!分かってねー!早くゲ
ロりーも逃げるんだよー!」
「…ありえないわ!!!」
ゲロりーは突如爆発した。
「このきせきのまじゅつし!じょーしょーしょーぐん!ふはいのぱちゅりーさまが負け
るわけないでしょおおおおおおっ!!!」
ゲロりーは自身の失敗を受け入れられなかった。なぜならば、この世界を動かしている
のはゲロりーのはずだからだ。
「負けたんだよ~!分かってねー!早く撤退するんだよー!」
「撤退!!?なに言ってるの!!!これから全軍で突撃してあのちんちくりんどもを根
絶やしに!!!」
ゲロりーは頭から湯気を上げながら、どう見ても不可能な攻撃を主張する。もはや、残
っている兵ゆっくりたちも呆れ果てていた。
「そんなできもしないこと言ってるから負けるんだよー!!!ゆっくり分かってね!!
この低能ゲロまんじゅーっ!!!」
とうとう細目のちぇんはキレてしまった。もはや、ぱちゅりーは自分の地位の心配しか
していない、それも現実を無視して、と見なしたからである。
細目のちぇんの罵声にゲロりーの顔がみるみる青ざめていく。
「きゅ…むきっ…むぎゃああああ!!!…むっきゅぅぅぅううう゛んんんんっ!!!」
ヒステリーを起こしたゲロりーはそのまま泡を吹いて失神してしまった。
「どうしたの!!ぱちゅりーさまどうしたの!!」
兵ゆっくりの一匹がぱちゅりーを気遣う。
「おつむがろいやるふれあしたんだね~…難儀なんだね~…撤退するよ~…」
ゲロりーが自棄を起こした時点で、残存ゲロりー支隊の半分は逃げていたが、細目のち
ぇんは残りの兵ゆっくりをまとめて、愛するらんが待つ巣へと撤退した。
結局、もりのむれの侵攻は、もりのむれ、ぬまのむれ双方に多大な犠牲与え、もりのむ
れには何も益することなく終わった。
もりのむれの損害は、撤退時のめーりん姉妹の奮戦により、三割の戦死、及びゆっくり
不能で済んだ(敗北状況からして、この表現を使わざるを得ないが、群れのりーだーで
あるドスまりさがいなくなったことで、およそ半数がもりのむれを離れ、どこかへと旅
立っていった。その中には、ドスがゆっくりぷれいすの宣言をして以来、ずっとまじめ
に働いて、群れを支えてきたゆっくりが多く含まれていた。
残ったもりのむれのゆっくりたちは、ゲロりーを非難し、自分達にごはんさんを早く配
るよう要求した。これに対して、意識を取り戻したゲロりーはめーりん姉妹と結び、戒
厳令を発令、彼らを暴力で弾圧した。ゲロりー自身は戒厳令司令官に就任し、全ての群
れのゆっくりの心に愛の灯火が光るまでの一時的な体制として、赤ゆ、子ゆをゲロりー
の管理下に人質として置き、群れのために食糧を取ってこないゆっくり、ゲロりーに反
抗的なゆっくりを次々とせいっさいっした。
その代わり体制に従順なもの、そして、ゲロりーの切り札であるめーりん姉妹には優先
的にごはんさん、果物などのあまあま、すっきり相手を提供し、自身の支配力の確保に
努めた。そして、ゲロりー本人は、あまあまとすっきりに溺れていった。
一方、ぬまのむれは、群れの一割が戦死及び、ゆっくり不能になった。この被害の半分
以上はどすすぱーくによるものだった。逆に言えば、ぐらん・だるめの精強さを示した
と言っていいだろう。幹部クラスの戦死もなく、体制は安定し、お館さなえの求心力は
強化された。また、正常ゆっくり、奇形ゆっくりが共に危機を乗り越えたことで、彼ら
の団結力は堅固なものとなった。
雨降って地固まったのである。
だが、
ゲロりーは自分に恥をかかせたぬまのむれを決して赦しはしなかった。
そして、皮が厚く、活動力に優れるめーりん姉妹もまた、ドスに匹敵する強敵であるこ
とをこの度の戦いで示した。
そして、夏が過ぎ、これから厳しい季節が訪れようとしていた。
動物達が、限られた食糧資源を求め、争う、実りの秋が…
北の大地の戦いはまだ始まったばかりに過ぎない。
戦いの翌日、兵ゆっくりたちの半分が任を解かれ、巣への帰省が許された。
ありすはぼろぼろの葉っぱの兜を脱ぎ、船着場で、父まりさを待った。
「きれいにするよ!まりさはおふねさんをきれいにするよ!!!」
「おとーさん!!!」
「…!…ありすっ!!!(ぶっぱっ)…ゆ?…」
父まりさは軍船の掃除を一匹でやらされており、それが終わった頃には日が傾いていた。
それまで、ありすは船着場の近くに埋まっている、なんだかゆっくりできないもので遊
んでいた。それは金髪の大きなハリネズミのようであり、あちこちから棒を生やしてい
た。これに石をぶつけたり、棒でつついたりすると、時折、
「ゆ゛…」
と変な鳴き声が聞こえ、どこからか砂糖水が流れてくるのだ。
母ありすはずっと二匹の無事を祈っていた。避難用の洞窟から巣に帰ってきたとき、そ
こにはまだ手をつけてない、あの、父まりさからもらったエゾイチゴの実があった。ま
だ食べられなくはないが、少し痛んでしまっている。
何度か食べようと思ったのだが、食べられなかったのだ。
「…ふぅ…」
母ありすは、どうやら群れが勝利したらしいことは知っていたが、父まりさとありすが
無事なのか、いつ帰ってくるかはさっぱり分からなかった。
母ありすは気を紛らわせようと、葉っぱとつるでシーツを作り始めた。寝床に敷いてあ
ったものが、父まりさのあにゃるだすとれヴぁりえで汚されたままだったからだ。
ふと、入り口から懐かしい話し声が聞こえたような気がした。
「「ただいま!」」
ぶりっぱっ…
― 第一部 完 ―
神奈子さまの一信徒です。
趣味丸出しで書いた作品ですので、ゆっくりできなかった方も多いと思います。
楽しんでくれた、という方がいらっしゃるのでしたら、嬉しく思います。
ここ数日忙しかったので、前作のコメントには返事をする暇がなく、申し訳ありません
でした。一つ一つ、大事に読ませていただきました。ありがとうございました。
ご覧の通り、終わってません。また休みが取れたときに、少しずつ書いていこうと思い
ます。
なお、文中でも書いていますが、タイトルの「ヴェルギナの星の旗」とはマケドニア国
旗のことです。
ヴェルギナの星とは古代マケドニアの象徴とされていました。現在は過去の歴史云々で
隣国と揉め、それが簡素な図案化されたものとなっているそうです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。お目汚し失礼致しました。
「北方ゆっくり戦史 二つの群れ」の続編です。
注意点:パロディが本当にひどいです。
独自設定満載です。
長いです。
クラシック好きな人への推奨BGM
ショスタコーヴィッチ交響曲第11番「1905年」
『北方ゆっくり戦史 ヴェルギナの星の旗の下に』
6
初夏、子ありすは生まれてちょうど一年が経ち、成体と認められるサイズまで成長
した。ここは寒冷な気候、限られた食糧資源のために、ゆっくりの成長もよりゆっ
くりしたものとなっているのだ。その代わり、南方のゆっくりよりも長命な個体が
多い傾向があった。
季節が変わったことにくわえ、子の成体ありすが成長したことで、ありす一家は働
き手が増え、食糧に恵まれるようになった。最近、父まりさと母ありすは次の赤ゆ
を産むかどうか相談しているようだ。ただ、良いことばかりではない。
ありすにも緊急時は兵ゆっくりとして任務につくよう通達が来たのである。初めて
持つゆっくりの槍は長くて重く、口にくわえるととてもゆっくりできなかった。
そして、少し湿った涼やかな朝の大気に、陽光が熱を持って刺し込む頃、ありすは
他の兵ゆっくりと一緒に訓練に参加していた。
教官役のえーりんが一同に号令をかける。
「お前達はなんだ!?」
「ぐらん・だるめ!!!」
このえーりんは過去の捕食種や他の群れとの戦いで傷一つ負ったことがなく、不死
身のえーりん、不死身の鬼美濃、ばばさまなどと呼ばれている英ゆんであった。
「続きをゆっくり言ってみてね!!ぐらん・だるめは!?」
「せかいいちぃぃぃっ!!!」
「違う!!!ゆっくり考え直してね!!!ぐらん・だるめは!!?」
「せかいさいきょおぉぉぉぉっ!!!」
えーりんは満足そうにうなずく。
ぐらん・だるめとは、この群れにおける兵ゆっくりの総称であった。
「ゆんゆん…必死にゆっくりしようとするその姿こそ愛きものよ…」
父まりさは、軽装備のみょんとまりさで構成されるエリート部隊「よーム戦士団」
に抜擢され、今は漕ぎゆとして、沼の上に浮かべた発泡スチロールの軍船の上で訓
練をしている。
ぬまのむれの兵ゆっくりは、他の群れに比べて複雑な編成を持っていた。
主力となるのは、長槍を口にくわえ、肉厚の葉をつるでつなぎ合わせた鎧を身につ
けたふぁらんくすである。
ふぁらんくすはよーム戦士団などと共に南方から伝わってきた戦術の一つである。
かつて、南の島のとある群れが編み出した巣穴の防御戦術「ふぁらんくす」は、今
では各地に伝達され、集団行動に関心の強い群れによって採用・改良されていた。
お館さなえの群れでは、前方に勇敢だが力のないゆっくり、後方に力があり、武器
の扱いに長けたゆっくりを置き、長めの槍を装備させた。これは、ふぁらんくすの
二列、三列目も一列目と同時に攻撃に参加できるようにするためであり、これによ
って、攻撃力、敵ゆっくりの拘束力が上昇した陣形は、「まけどにあん・ふぁらん
くす」と命名され、絶対にゆるさなえな陣形として採用された。
みょん種のみはその忠誠心と戦闘技術から単独で一部隊を編成しており、これを
「よーム戦士団」と呼んだ。よーム戦士団は、みんなであにゃるすっきりをするこ
とによって互いの連帯感を高め合った、死をも恐れぬ群れの最強部隊であり、鎧は
つけていなかった。
このみょんたちには、群れで一つの生き物となってゆっくりするという、お館さな
えの理念、スイミズムが徹底的に教育されていた。
また、場合によっては、彼女たちはまりさ種と組んで、水上戦力を構成する。この
とき、四隻の発泡スチロールの大型軍船をまりさ種が操ることで、みょんたちを沼
の周辺へすぐに展開させることが可能だった。
さらにおやかたさまを守る親衛隊である、「ゆン・イレギュラーズ」が、敵前逃亡
を監視する督戦隊兼予備戦力として編成されていた。なお、この名称は「ゆン・イ
レギュラーズ」が戦闘行動に支障のない奇形ゆっくり(口が効けない、髪がない、
お飾りが生まれつき変、など)や、町にいた頃に虐待され、片目やお飾りを失った
ゆっくりたちによって構成されていることから来ていた。
一時期、すぃー騎兵隊やびゅーんびゅびゅーん投石兵隊も編成されたのだが、前者
は湿原では車輪が埋まってしまい、活躍できないこと、後者はコントロールが難し
く、命中するどころか牽制にすらならなかったため、消滅していた。
「よし!次!ゆっくりふぁらんくすの陣形になってね!!!」
えーりんの命令に一斉に槍をくわえ、密集する兵ゆっくりたち。
「ゆ!…ゆゆぅ???」
ありすは懸命に舌で柄を持ち、槍の後端を口でくわえることで槍を固定しようとし
たが、うまくいかず、槍が地面についてしまった。
「ゆ!?ゆっくりしっかと持ってね!槍があがらないと負け戦だよ!」
「ゆゆ!!ゆっくりりかいしたよ!!!」
なんとか必死に槍を持ち上げようとするありす。
事件が起きたのはそのときであった。
「ばばさまっ!!!」
「ば、ばばぁさまぁっ!!!」
伝令の印である、鳥の羽を髪につけたゆっくりがえーりんのもとに急いで跳ねてき
た。異常事態の発生である。
「お前、今、ばばあさまといったね…?」
「へ?」
不死身のえーりんの表情が先程までの穏やかな表情から、凶悪なものへと変化する。
「えーりんはえたーなるてぃーんえいじゃーじゃあっ!!!」
「ゆぶぅ!?」
突如怒り狂ったえーりんは幾度となく、伝令の兵ゆっくりにのしかかり、跳ね、踏
み潰した。
「たじゅげでっ!!!ばっ!!ばーばーさーまーぁっ!!!」
「ばばあじゃねえっていってんだるぉがぁっ!!!ぴっちぴちのてぃーんなんじゃ
ーっ!!!ゆっくりりかいしろぉっ!!!地獄をみてぇのかぁ!!?」
えーりんはなおも失言?をした伝令ゆっくりにどつく、体当たりをする、武器で殴
るなどの暴行を加え続けた。
「ゆっぐぢ…ゆっぐちりがじまじだ!!!…えーりんざまは…じゅうななさい…で
ず…えーりんざまは…じゅうななざいです…」
伝令ゆっくりが涙を飲んで壊れたレコーダーのように、同じ文言を繰り返し始めた。
最後まで、伝令ゆっくりは自分がなぜぼこられているのか理解できなかったようだ。
ありすはその様子に心底恐怖した。
「…ふう…がらにもなく取り乱したわ…で、何事かのう?ゆっくり話してね!」
「なかまのゆっくりが!もりのむれにかこまれてるよ!!!ゆっくりしないでたす
けてね!!」
伝令によると、沼地周辺の森に餌を採りにいったゆっくりが、もりのむれのゆっく
りと餌場をめぐって対峙、今はもりのむれのゆっくりたちに囲まれているらしい。
「ゆゆ!?ゆっくり理解したよっ!!えーりんは訓練中の兵ゆっくりと現場に向か
うから、伝令はおやかたさまをゆっくりしないで呼んできてね!!!」
「ゆ!ゆっくりりかいしました!」
このぬまのむれは、沼の中央に伸びた半島を本拠地としており、この地は防御の面
で優れていた。だが、半島奥の小さな林と、沼地の植物だけでは、巣の材料、越冬
用の食糧が不足してしまう。そこで、沼地周辺の森でそれらを補ってきた。
しかし、もりのむれが去年の秋に移住してきて以降、両者の勢力圏は沼地周縁部で
衝突したのである。
沼沿いの日当たりの良い場所は、夏にはエゾイチゴが真っ赤な果実を実らせ、秋に
はミズナラなどがたくさんのどんぐりを落としてくれる、大切な餌場であった。
ぬまのむれとしては、森の奥は遠すぎて縄張りを確保できない以上、絶対に守りた
い餌場であった。一方、もりのむれにしてみれば、森の奥では手に入らない資源が
ある場所であり、ぜひとも確保しておきたい場所であった。
ばばさまこと、不死身のえーりんは、ありすたち訓練中のゆっくりを率いて現場に
急行する。
現場−群生するエゾイチゴが緑の野原に真っ赤な実を愛らしくコーディネートした
草むらには、ドス率いるもりのむれに捕まって怯える数匹のゆっくりがいた。
「おそれることはありません!すべてを神々に委ねるのです!」
その中央ではあの母ありすの姉、ごっつありすが皆を落ち着かせようとしている。
「ゆふふ、ふじみのえーりんのおでましなのぜ!」
「じゃおーんっ!!!」
そこにいたのは、もりのむれを率いるドスまりさ、そしてその側近のめーりん姉
妹らであった。
ドスまりさはえーりんの方へと向き直り、宣言する。
「どすのむれは森でとってもゆっくりしているよっ!!だから、もりは全部どす
たちのむれのものだよ!さなえのむれはぬまでゆっくりしているから、森ではゆ
っくりしないでね!」
高圧的な態度でえーりんをにらみつけるドスまりさ。既に口の中にどすすぱーく
を打つのに使用する例のきのこを含み、いつでも打てる態勢にあることを見せ付
けている。ありすはその様子を見て、がたがたと震えだした。どすすぱーくを食
らえば、一瞬で塵と化すと噂で聞いていた。
「この土地にあとから来たのはドスたちの方よのう…ドスもめーりんも噂通り、
面の皮が厚いね!!!」
えーりんは自身と、沼の中央にある群れの中心部が直線状にならないよう陣取っ
ている。どすすぱーくの有効射程が分からないからだ。さらに万が一のときはド
スを急襲するよう、側面の草むらに数匹、歴戦のみょんを潜ませていた。えーり
んは、引き連れている兵ゆっくりのほとんどが練度の低いため、万が一のときは
自分たちを囮にしてドスを仕留めるしかないと考えていた。
「どすのむれは森でとってもゆっくりしているよっ!!だから、森は全部まりさ
たちのむれのものだよ!こんな簡単なりくつが分からないの?」
「じゃおーん!」
「じゃおじゃおーん!!」
ドスまりさの理不尽な主張を応援するかのように、めーりん姉妹が他人を小馬鹿
にしたような表情で吼える。
えーりんは、大きなため息をついた。馬鹿なのか、それとも話し合う気がないの
か。おそらく後者であろう。
このとき、ドスの群れはかわのむれからたくさんの移住ゆっくりを受け入れた上、
彼らにドスの権威を思い知らせるために気前良く、食糧貯蔵庫を解放したため、
餌場を拡大する必要性に迫られていたのである。
「ここは昔からこちらの群れの餌場だよ。ゆっくり理解してゆっくりしないで帰
ってね!」
えーりんは刺し違えてでも、譲るつもりはなかった。この気候の厳しい土地では、
ちょっとした油断や譲歩が群れの死へとつながる。新参の群れの要求に対して、
「はい、そうですか」と餌場を譲るぐらいなら兵ゆっくりを鍛えたりしない。
「ゆーかんなばあさんだね…でも、周りをゆっくり見た方がいいよ。」
「え゛ーり゛ん゛っ!!!え゛ーり゛ん゛っ!!!」
「だじゅげでええっ!!!え゛ーり゛ん゛っ!!!」
もりのむれに捕まっているゆっくりたちに二匹のめーりんがのしかかり、めりめり
と潰していく。このめーりん姉妹は十分に成長した個体であり、町出身であるため
野良ゆっくりとの争いの場数も踏んでいる、もりのむれの切り札であった。噂では
群れを襲ったれみりゃやふらんをも潰したという。
「じゃおーん!!?」
愉快そうに笑いながら、醜くたるんだ肉をふるわせている方が妹めーりん。
「じゃおじゃおーん!!!」
小馬鹿にした表情でこちらをにらみつけてくる、片目が潰れている方が姉めーりん
である。
ぶちゅっ
「ゆぎゅっ!!?…もっちょ…ゆっぐり…がった…」
「じゃああ↑おおおおおお↓おおおおん↑!!?」
妹めーりんの方がのしかかる力を入れ過ぎてしまったらしい。一匹のまりさが潰れ
てしまった。
「ゆゆぅ!!!めーりんは力加減をゆっくりかんがえてね!!!全滅させたら人質
の意味がないよ!!!」
ドスのたしなめる口調でさえ、どこか愉快そうだった。
「じゃおおおおおん!!!」
「じゃあああおおおんっ!!!」
潰れてしまったまりさをぐりぐりと踏み潰しながら高らかに笑うめーりん姉妹、堪
忍袋の緒は意外なところから切れた。
「われわれが人質の死を恐れるとでも思ったのですか?」
そう語りかけるように言い放ったのは、現に今人質になっているごっつありすだっ
た。
「ゆぅ?人質はゆっくりおとなしくしててね!さもないと…」
人質を包囲している、もりのむれのれいむが口にくわえた棒をごっつありすへと突
きつける。
「われわれは死を恐れません!信仰とは死ぬことと見つけたりぃっ!!!」
くわっと両目を見開き、全力で跳び上がるごっつありす。
「ごぉぉっどぷれぇぇすっ!!!」
「ゆ!!?やねてね!れいむのほうにこないべぼっ!!?」
ぶしゃあっという音ともにれいむは潰れ、眼孔と口から餡子が吹き出す。
それを見た人質ゆっくりたちの目は、怯えたもの、決意を固めたもの、それぞれだっ
た。ごっつありすの瞳に既に正気はなく、高ぶる闘争心が無限の渦を描いている。
「おとなしくしているみょん!!?」
ごっつありすの後方から飛び出したみょんの攻撃をごっつありすは素早くかわす。
「ごっどっ!せんじゅぺにぃっ!!!」
「みょぶぶっ!!?」
ごっつありすの絶叫と共に、むくっと起き上がったぺにぺにが高速で(ゆっくりにし
ては)膨らみ、縮みを繰り返し、みょんの顔面を連打する。
「お゛ーも゛ーい゛ーがぁぁぁっ!!!」
兵みょんの頭からは次々と茎が生え、兵みょんは一瞬のうちに黒ずんで永遠にゆっ
くりしてしまった。
「かかって来なさい!!私は誰の挑戦でも受け…わおおおおおおおお!!」
「じゃおおおおんっ!!!」
さらに挑発するごっつありすを姉めーりんが体当たりで叩き飛ばす。
「人質は人質らしくゆっくりしていてね!!!次騒いだらどすすぱーくで永遠にゆっ
くりしてもらうよ!!!」
ドスが叫ぶ。えーりんはドスと姉めーりんの注意が人質に逸れた隙を突こうとしたが、
ぶくぶくに太った妹めーりんは以前、えーりんらへの警戒を怠らなかった。
ドスは姉めーりんが暴れる人質を取り押さえたのを見て安堵すると、えーりんに対し
て最後の警告を突きつけた。
「ドスはかんだいだからもういちど言うよ!ここはドスの群れのえさばだよ!どうし
てもそれを認めないというのなら、一匹ずつ人質を永遠にゆっくりさせるよ!そして
えーりんもどすすぱーくで殺すよ!」
ふんぞり返ってえーりんを見下すドスまりさ。完全に自軍に有利な状況下で、ドスは
遠慮などしなかった。
「ここをドスの群れのえさばと認めて、二度とその沼から出ないというのなら全員助
けてあげるよ!どうするかゆっくりしないで答えてね!」
そのとき、えーりんの目に、ドスたちの背後の森で草が不自然に揺れているのが見え
た。数本の草が右へ左へと、まるでメトロノームのように揺れている。
合図である。
既に潰れた帽子のまりさはゆン・イレギュラーズの一部を引き連れて、ドスの背後の
森の中に展開を完了していた。
「…!…ゆふぅ…では、戦るか…」
えーりんはにやりと笑った。ここでドスの言い分を認めれば、もうドスたちの要求は
エスカレートする一方だろう。絶対にこのような交渉を認めるわけにはいかなかった。
「ゆ?勇敢だね!そんなに永遠にゆっくりしたいなら、させてあげるよ!やさしいド
スに感謝してね!めーりん!こいつらをっ!!?」
「貴様が斜陽よ!」
次の瞬間、草むらから一斉に槍が突き出され、ドスや姉めーりん、他のもりのむれの
ゆっくりたちののど元に突きつけられた。
完全にドスまりさの油断であった。のど元に何本もの槍を突き出されている状態では、
例え今から口の中のきのこを咀嚼しても、どすすぱーくを打つまでの間にめった刺し
にされてしまうであろう。
姉めーりんはを頬をお館さなえに噛みつかれ、ぐったりしていた。さなえの持つ麻痺
毒を抽入されたのだ。
さなえ種はかなこ種、すわこ種と共に、もりやと呼ばれるグループを形作っており、
それらの共通した特徴は毒の使用である。
かなこ種は穀物なども好む雑食性だが、強力な毒牙を有し、ゆっくりの中では比較的
上位の捕食者として知られている。毒牙から分泌される毒は出血毒であり、小動物や
他のゆっくりを捕食する際に、その組織を融解、壊死させ、獲物を行動不能へと追い
込むのだ。
一方で、すわこ種の毒は捕食された後に捕食者に効果を発揮する、フグや毒ガエルの
持つような毒である。そのため、ゆっくりの間では祟り神として手を出さないよう敬
遠されていた。
さなえ種はかなこ種とすわこ種の縮小再生産的な特徴を持っており、毒牙から分泌さ
れるのは弱い神経性麻痺毒であり、昆虫ならともかく、ゆっくりに対しては一時的に
行動不能に持ち込むのが精一杯であった。
「おやかたさま!!!」
「「さなえさま!!!」」
自ら救援軍を率いて突入してきたりーだーの姿に、ぬまのむれの構成ゆんたちは色め
きたった。
発泡スチロールの軍船やまりさのお帽子で沼側から上陸したお館さなえたちは、水辺
沿いの背丈の高い葦原からそろーりそろーりと接近し、機会を窺っていたのだった。
もりのむれのドスの不注意もあるが、ぐらん・だるめの日頃の訓練のたまものであっ
た。
「まずは人質を返してもらおう…」
「ふざけないでね!!!」
お館さなえに強い調子で言い返してきたのは、一匹の兵れいむだった。兵れいむを中
心とした数匹のもりのむれの兵ゆっくりが、のどもとに突きつけられた槍をものとも
せずにさなえをにらみつける。
「ドスは永遠にゆっくりすることよりも不名誉をおそれるんだよっ!ドスが永遠にゆ
っくりすることをおそれると思ってるの?馬鹿なの?死ぬの?今かられいむたちが華
麗にぎゃくしゅうに転じるんだよっ!!!」
現状を見るに逆襲は無理なようだ。
だが、まあ勇敢なゆっくりと言っていいだろう。
「勇敢ね…でもドスは買い被ってほしくないみたいです…」
「ゆっぴいいいいいいいっ!!!やべでね!!!ドスはえらいんだよっ!!!ドスを
ごろざないでねっ!!!」
情けなくも、ぺにぺにからおそろしーしーを垂れ流すドスまりさ。突きつけられた槍
先がかすかにドスの頬を切り裂き、久々に味わう傷口の痛みはドスを心底怯えさせた。
その大きな図体と比較して、その肝っ玉とぺにぺには滑稽なほどに小さかったのであ
る。先程啖呵を切った兵れいむは、唖然として口から棒を落としてしまった。
「ゆゆ!!?ど、ドスを解放するのが先だよ!!!人質の解放はそれからゆっぴいい
いいっ!!!」
お館さなえは兵ゆっくりから長槍を借りると、それで払いのけるように、口の中にあ
ったきのこを叩き落した。そのとき、槍先が軽くドスの口内を切り裂いた。
「ものわかりの悪いドスは絶対にゆるさなえ!…立場の分からないドスも絶対に許さ
なえ!絶対にです!!!」
「ゆぎっ!!!ゆびいいいいっ!!!わかったよ!わかったからもうやべでね!!!
ゆぎゃあああああん!!!もうやじゃよおおおおおっ!!!おうぢがえるぅっ!!」
おそろしーしーが出なくなったと思えば、今度は泣き始めてしまった。
ドスのあまりの情けなさに、めーりんらもりのむれのゆっくりたちも唖然としている。
「なにじでるのっ!!!はやぐ人質をがいぼうじでねっ!!どずがゆっぐりできない
よ!ばやぐっ!!!」
ごっつありすを囲んでいた、もりのむれの兵ゆっくりたちが呆れたような表情のまま、
人質を解放する。
その瞬間、ドスたちの背後の森に潜んでいたゆン・イレギュラーズの面々が人質とも
りのむれの兵ゆっくりの間に素早く割って入った。
意外な場所に潜んでいた敵の伏兵にドスたちは思わず目を丸くする。
「ありす先生、ご無事で何よりなんだぜ…」
「まりさ、ありがとうございます…これもとかいはな神々のお導きでしょう…神々よ、
感謝いたします。」
潰れた帽子のまりさはまず、ごっつありすを気遣った。ごっつありすもそれに笑顔で
答える。
「ゆ゛ゆ゛…やぐぞぐだよ…どすをゆっくりしないでかいほうしてね!!!」
「帽子の中に隠しているきのこも出せ…」
「ゆぐっ!!?」
お館さなえの鋭い視線に一瞬ためらった後、どすはあきらめたように帽子の中からき
のこを出した。お館さなえの部下たちがそのきのこをすかさず持ち去る。
「さがりなさい。」
お館さなえの号令に、ドスたちに槍を突きつけていた兵ゆっくりたちが一歩下がった。
槍はのどもとから離れたが、以前、ドスたち、もりのむれのゆっくりに向けられたま
まである。
「ここはずっとこちらの群れの餌場よ…去れ…」
「うわああああああああああああああああああああああああんっ!!!」
ドスまりさは解放されると一目散に逃げて行ってしまった。
他のゆっくりたちを全て残して。
「じゃおーんっ…」
小さく、舌打ちするようにうめいた後、妹めーりんはぐったりしている姉をくわえて
森の中へ帰っていった。ぞろぞろと他の兵ゆっくりたちもそれに続く。
「やっと…おわったのね…」
初めての出陣にずっと緊張していたありすは思わず、口から槍を落とした。
「大儀であったの…だがまだ気を抜かないでね…」
すかさずえーりんがたしなめる。
「さなえさま、わざわざの救援、ゆっくり感謝します。」
ごっつありすが深々と頭を下げる。人質になっていた他のゆっくりたちもそれに続く。
「この時期に駒を失うわけにはいかない…それだけのことよ…」
お館さなえはぷいっとそっぽを向くと、潰れた帽子のまりさにしばらく、もりのむれの
動向を監視させ、自身は発泡スチロールの軍船へと戻っていった。
今回、ドスらを殺さなかったのは、あのまま交戦した場合、人質の安否がどうなるか
判断つきにくかったためである。結果的に奇襲はきれいに成功したが、夏から越冬の
準備を始めなければならないこの環境下、おまけにゆん口が少ないお館さなえの群れ
では働き手を失うような危険はできるだけ避けなければならなかった。
単に局地戦の勝利だけでは、群れとして生き残れないのである。
その後も、もりのむれとぬまのむれの間には何度か小競り合いが発生したが、本格的
な会戦へと発展はしなかった。この時点ではまだ、波は穏やかだったのである。
7
「ごはんさんがないなんて、難儀だね~…わからないよ~…」
ぬまのむれに所属する一匹のちぇんは一生懸命、森の中で食糧を探していた。ちぇん
は巣で待つ十二匹の妹たちのために必死に食糧を探しているのだ。十二匹の妹は皆、
微妙な外見のゆっくりであったが、お姉ちゃん子で、いつも面倒見のいい姉のことを
頼りにしている困った妹たちであった。
ちぇんは、もう数時間は、その細目をくわっと見開き跳ねているが、餌はほとんど集
まっていなかった。
無理もない、ドスの大盤振る舞いと、自分で狩りをしない、またはできないゆっくり
にせっせと群れの餌を提供した結果、もりのむれは深刻な餌不足に陥っていたのだ。
おまけにぬまのむれから、食糧資源を奪おうとしたものの、ぬまのむれの素早い反応
によってこれも失敗に終わっていた。
そして、今に至る。低い位置にある草や苔は真っ先に食いつぶされ、しっかりごはん
さんをむーしゃむーしゃしているのは、まずい草でも構わず食べている個体か、狩り
の上手な個体ぐらいだった。それでも、ぽんぽいっぱいになるまでむーしゃむーしゃ
してしあわせーできる個体はほとんどいなくなっていた。
「ちぇんは秘蔵のごはんさんすぽっとに向かうんだよ~!!分かるね~!」
ちぇんが向かったのは、枯れ果てた木が倒れ、重なっている場所であった。ちぇんは
ここで何度も大きなカミキリムシを捕っていた。
だが、別に隠してあるわけでもない。ちぇんが倒木のところへ行くと、倒木は全て皮
を剥がされ、削られ、ぼろぼろになっていた。
おそらく、大勢のゆっくりがここから昆虫の類を乱暴に持ち去ったのであろう。
「…やれやれ…難儀なんだよ~…」
思わずため息をつくちぇん。このところ、満足に餌を取って帰ることもできず、ちぇ
んの妹たちは毎日のようにおなかを空かせていた。おまけに群れから配給される食糧
は減っていく一方だった。
「ちぇえええええんっ!!!」
「ゆ?」
そこに現れたのは、九本のもふもふした尻尾を持つゆっくり、らんであった。
らんは帽子の中から、かわいらしい花束を取り出し、ちぇんにぐっと押し付ける。
「ら…ら…らんは…ちぇんとずっと一緒にゆっくりしたいんだよっ!!!」
「!!?」
突然のぷろぽーずに固まるちぇん。何と返せばいいのか、ちぇんの頭の中はホワイト
アウトしてしまった。
「ちぇ…ちぇんのどこが好きなの~?…分からないよぉ…」
ちぇんが永遠に感じた数秒間の思考の末に、搾り出したのはその一言だった。
らんは恥ずかしそうに答える。
「そ、そのすてきな長いのかな…」
「す、すてきな長いの…!?ぺ!ぺにだとぉっ!!!分かったよぉーっ!!!」
ぺにぺにをいきり立たせ、興奮するちぇん、だが正解は長くて素敵な尻尾だったと告
げられたのはその直後のことであった。
非難するかのようなじと目でちぇんをにらみつけてくるらん。
「じ~…」
「そ!そんな純粋な目でちぇんを見ないでねっ!!!分からないよぉ~っ!!!」
だが、そんなちぇんよりも、もりのむれは混乱に陥っていた。
群れの配給が少なくなったことに不満を持つゆっくりたち、今まで群れから与えられ
た食糧だけでゆっくりしてきたゆっくりたちが、ドスやゲロりーなど、群れの幹部の
巣を訪れてはシュプレヒコールを挙げていたのである。
「はいきゅーのごはんさんをへらさないでね!!!ゆっくりできないよっ!!!ゆっ
くりしないで元に戻してねっ!!!」
「れいむはしんぐるまざーなんだよっ!!!かわいそうなんだよっ!!!」
「さっさとごはんさんをよこすんだじぇっ!!!まりしゃしゃまはこんなんじゃじぇ
んじぇんたりないんだじぇっ!!!」
中には、ドスやゲロりーを無能だと咎める声もあった。
なんで、自分までドスと一緒に非難を浴びなければならないのか?
ゲロりーは巣の中で、理不尽なシュプレヒコールを挙げるゆっくりたちにいーらいー
らしていた。
(むきゅ!これもドスがばかみたいにごはんさんをむだづかいするからよ!!!)
ゲロりーは考えた。
まだまだ、自分の理想の群れ、みんなが弱者のために動き、弱者もゆっくりできる愛
の群れを作り上げる道半ばで、権力を失うわけにはいかなかった。
悔しいが、群れのゆっくりたちからは、ゲロりーとドスは同罪、即ち、自分達をゆっ
くりさせない元凶と捉えられていた。
(ぱちぇの夢はまだまだ終わるわけにはいかないわ!…むきゅぅ…まずはドスの人気
を回復する必要があるわね…そして、ごはんさん不足も…)
もりのむれの食糧不足は、確かにドスの浪費によるところも多かったが、ゆん口の急
増による餌場不足の影響も少なくなかった。
気前良くかわのむれのゆっくりたちを受け入れたことで、新参ゆっくりと古参ゆっく
りとの対立まで起こっていた。古参ゆっくりにしてみれば、なぜ自分達もごはんさん
がなくて大変なのに、いつまでもゆっくりしているだけの新参ゆっくりにごはんさん
を提供しなければいけないのか?というのである。
ゲロりーはこの群れのゆっくりたちが愛を理解していないことにがっかりしていた。
まだ回りのことが分からない新参ゆっくりや、弱いゆっくりたち、そして、狩りの下
手なこのゲロりー自身も群れから与えられる最低限のごはんさんで我慢しているのだ。
逆に感謝してもらいたいぐらいである。
一刻も早く、ドスの権勢を建て直し、ゲロりーの指導の下に、群れのゆっくりたちに
愛の尊さを理解させなければならなかった。
自分でしっかり狩りができる富めるゆっくりたちには、もっとゲロりーみたいな弱者
に何ができるのか考えてもらわなければならないのだ。
(むきゅ!前途多難ね!でもけんじゃのぱちぇはこれくらいではくじけないわ!)
いずれにせよ、餌場が不足しているのなら増やせばよいのだ。
餌場を拡大する場合、可能性は二つ。
森の側を流れる川から見て、上流か下流である。
上流側はぬまのむれの縄張りがあり、下流側はかつてはかわのむれの縄張りがあった
場所である。
ゲロりーがドスの人気回復のために、沼地への侵攻作戦を提案したのは翌日のことで
あった。
「あいとじゆーの兵ゆっくりが進むところ、ぬまのむれのゆっくりたちは進んでぱち
ぇたちに協力するにちがいないわ!!!今こそ!ぬまのむれをかいほーして、ここに
真のゆっくりぷれいすを築き上げるのよ!!!」
ゲロりーはゆっくりたちの士気を上げるために、咳き込むほど熱弁をふるった。だが、
理想論だけではゆっくりたちは動かないらしい。
「ぱちゅりーっ!!!せんそーなんて面倒くさいよ!それよりもあまあま持ってきて
ね!ゆっくりしなくていいよ!!!」
「そんなことよりおうどん食べたいっ!」
「まりしゃしゃまはぽんぽいっぱいになってしあわせ~したいんだじぇ!!!」
ゲロりーは自身の演説を理解しようとせずに自分の欲望ばかり口にするゆっくりたち
にがっかりした。
(むきゅぅ…ここは我慢よ…まだよ…愛の精神が浸透するには時間がかかるのよ…)
ゲロりーは飯寄こせと喚き続けるゆっくりたちに向かって答えた。
「ぬまのむれは愛を知らないわ!だからごはんさんがなくて困っているぱちぇたちの
群れを助けようとしないの!愛がないゆっくりはゆっくりじゃないわ!ぱちぇたちが
ゆっくりできないのはぬまのむれのせいに決まっているのよ!!!連中を倒してごは
んさんをたくさん手に入れれば、みんなでゆっくりできるのよっ!!!」
馬鹿なゆっくりたちにも分かりやすいように、手近な利益をぶら下げるゲロりー。
「ゆゆ!!!あまあまを独り占めしているぬまのむれはゆるせないよっ!せいっさい
っだよ!!!」
「まりしゃしゃまはあのくじゅどもをいちどぼっこぼこにしたいとおもってたんだじ
ぇい!!!」
「ごはんさんはぜんぶみょんたちのものだみょん!!!」
さっきまでとは打って変わり、賛同の声があちこちから飛んでくる。悪いことは他人
のせいにする傾向が強い、というのはゆっくりに共通する性質なのかもしれない。
だが、一匹のゆっくり、あの細目のちぇんは質問した。
「ぱちゅりーさまが何をしたいのか分からないよ~!!!餌場がほしいの?ぬまのむ
れからごはんさんを奪うの?ぬまのむれを永遠にゆっくりさせるの?」
「ごはんさんの確保が第一よっ!!!」
「じゃあ、ぬまのむれからごはんさんをもらえれば、戦わないで逃げてもいいんだね!
分かってよ~!!」
ちぇんはぬまのむれとの本格的な戦闘に巻き込まれるのを恐れていた。せっかくらん
と恋仲になったのである。まだふぁーすとちゅっちゅっもふぁーすとすっきりもしな
いうちにゆっくりできない体になってしまったり、永遠にゆっくりしてしまったりし
たらと思うと、怖かったのである。
「むきゅ!そこはこーどにじゅーなんせーを維持しつつ、りんきおーへんに対応するの
よっ!!!」
「全然わからないよぉ~っ!!!」
要するに何も考えてないのだろうか?ちぇんはこの出兵の意味も、目的も理解できなか
った。もし、ごはんさんが欲しいのならば、もっと狩りをするなり、群れを分散させれ
ばいいのではないだろうか?
もっと狩りをすればいい、それは現状を把握できていないゆっくりの考えだった。だが、
ちぇんは群れの幹部でもなく、一ゆっくりに過ぎない。発言の無知さを責めるのは酷と
いうものであろう。群れに関わらず、周辺の環境や群れの現状などを考えながら生きて
いるゆっくりなどごく一部なのだ。
実を言うと、ドスたちも群れの分割を考えなかったわけではない。だが、ドスまりさは
自身の権勢が衰えるのを嫌い、ゲロりーは愛の精神で群れを統一するという自身の目的
にそぐわないため、この意見は初めから却下していた。
「みんな心配いらないよ!!!」
騒然とする場を沈めたのはドスまりさの一声だった。
「ぬまのむれなんてどすすぱーくで一撃だよ!どすすぱーくはとぅーるはんまーなんだ
よ!みんなは安心してドスについてきてくれればいいよっ!!!ドスは必ずみんなにご
はんさんを配るよっ!だからドスのすごさをみんなもゆっくり思い知ってね!!!」
ついこの間大泣きしながら逃げてきたドスとは思えない頼もしい言葉である。だが、ド
スまりさの自信は全く根拠がないものではなかった。
前回は脅して餌場を奪取する腹積もりであったため、どすすぱーくをもったいぶって使
わなかった。それこそが敗因であると、ドスは考えていた。そして、それはあながち的
外れな意見ではなかった。
どすすぱーくの前には、さなえはずんだ餡一欠けらも残らず、不死身のえーりんと言え
どもなす田楽を撒き散らして永遠にゆっくりするはずなのだ。
「みんなのごはんさんをドスと一緒に取り戻すよっ!ぬまのむれにせいっさいっを!あ
まあまを取り戻せ!」
ドスの声に興奮したゆっくりたちが一斉に答える。
「「ぬまのむれにせいっさいっを!」」
「「あまあまを取り戻せ!」」
「「暴力はいいぞぉっ!!」」
ゲロりーは自身の立てた作戦を「いーぐる・ふらい・ふりー作戦」と命名したが、この
作戦名が浸透することはなかった。
沼の中心にあるぬまのむれの集団営巣地、そこへ続く細い陸橋…
この陸橋を封鎖し、その出口で包囲陣を敷かれると、この沼の中心に伸びた半島は難攻
不落になることは明白だった。おまけにぬまのむれの方が水上部隊は充実している。も
し、ドスの群れが普通に攻め寄せれば、お館さなえはこの戦術を取るだろう。
ゲロりーが立てた作戦とは、そのぬまのむれの地形的有利さを逆手にとるものであった。
まず、兵力を二分し、主力をドスが率い、ぬまのむれの見張りに見つからないよう、陸
橋方面に向かう。一方、まりさを中心とした軍をゲロりーが率い、ぬまの反対側から助
攻として、上陸・強襲する素振りを見せ、敵を牽制する。
ぬまのむれの軍勢がゲロりーらに引き付けられている間に、ドスは、ドス―陸橋が一直
線上になる位置を占拠し、兵ゆっくりがそれを援護する。
この場所さえとってしまえば、陸橋を通ろうとする敵兵はどすすぱーくで一掃が可能と
なるのだ。ぬまのむれが巣から出てこないようならば、そのまま兵ゆっくりと共に一直
線に陸橋から侵入し、ぬまのむれの集団営巣地をどすすぱーくで叩きのめす。
もし、お館さなえが赦しを請うのならば、ありったけの食糧と餌場をもらう。統率力と
士気の維持に難があるもりのむれとしては、そうしてもらった方がありがたいのだが、
この作戦ならば徹底抗戦されたところで、時間をかければぬまのむれを消滅させること
が可能であるはずだった。
「ゆっくり出陣するよっ!!!」
「むきゅ!ぬまのむれのあっせーに苦しむごはんさんをかいほーするのよっ!!」
もりのむれのゆっくりたち、「あいとじゆーのゆん民解放軍」は出陣した。たくさんの
あまあまを略奪、いや奪還することを夢見て。
8
「…というわけだよ!どすもぱちゅりーもたくさんの兵ゆっくりを連れてどこかへ出か
けたっきり帰ってこないよ!」
ドスらの出陣をお館さなえに報告に来たのは、一匹の疲れた表情のまりさだった。その
目の下にはクマが出来ており、どう見ても不健康そうである。
「そのぱちゅりーの作戦とやらは分かるか?」
「そこまではわからないよ!ぱちゅりーのさくせんは幹部にしか教えられてないみたい
だよ!」
出陣を把握できただけでも満足するべきだろう、お館さなえはそう思った。
クマまりさはもう我慢できなさそうな表情を浮かべている。
「へへっ、さなえさま!そろそろまりさはあまあまがほしいんだよ!ゆっくり我慢でき
ないんだよ!」
「分かった、ご苦労であった!」
お館さなえの合図とともに、あの潰れた帽子のまりさが帽子の中から、笹の葉の包みを
取り出し、クマまりさの前に置いた。クマまりさは何かに急かされるかのようにその包
みを舌で開く。
「ゆぅ~っ!!!あまあまさんはゆっくりできるよおおおおおっ!!!」
そこにあったのは、以前処刑されたれいむとさなえの番からかき出されたものと同じも
の、適度に乾燥させた餡子やチョコレートの塊であった。
「うっめ!これめっちゃうっめっ!!」
無我夢中で餡子に食らいつくクマまりさ。
実はこのクマまりさはもりのむれの一員である。しかし、同時にお館さなえの間諜でも
あった。クマまりさはそれと知らず、ゆっくりの中身である餡子などの甘味を与えられ、
今ではこの野生のゆっくりにとっては強烈過ぎるあまあまがなければゆっくりできない
状態になってしまったのである。
ゆっくりに対して、小麦粉や砂糖が麻薬のような働きをすることはよく知られた事実で
ある。また、人間から与えられた味の濃いお菓子や飲み物が原因で、味覚が変化し、野
生の食物ではゆっくりできなくなってしまうこともよく知られている。
ぬまのむれには捨てられたゆっくりや野良ゆっくりだった個体が多く、それらの危険性
を知るものは少なくなかった。そこで、せいっさいっされた個体から餡子などを取り出
し、これをもりのむれのゆっくりに与えることで、お館さなえから与えられる甘味がな
ければゆっくりできない体にしていたのである。
灰汁の多い木の実などを主食としている寒冷地のゆっくりにとって、自分達の中身は禁
断の甘さだったのだ。このクマまりさをはじめ、数匹の間諜ゆっくりは、もはや甘いも
の中毒であり、それを手に入れるために、群れの情報をお館さなえに流し続けていた。
無論、これは一般の群れの構成ゆんには知らされておらず、お館さなえの指揮の下、親
衛隊のみが極秘裏にその任に当たっていた。
それはまるで、ハッシシを与えることで、教主に絶対服従するアサシン集団を作り上げ
た「山の老人」のような手法であった。
「また何かあれば知らせるのです。あと分かっているとは思いますが、他のゆっくりに
このことを話せば、二度とあまあまは渡しません。ゆっくり理解してね!」
間諜とするには、約束を覚えているぐらい頭が良く、自身の利益のためならば仲間を売
ることをいとわない個体…要するにまりさ種は適任だった。
「ゆへへっ!まりさは分かってるよ!…また来るよ…」
クマまりさはあまあまの残りを帽子の中に仕舞い込むと、お館さなえの巣から出て行っ
た。あのあまあまを包んでいる笹の葉が、この群れへの通行許可証の役目も果たしてい
た。
「戦か…」
お館さなえは不死身のえーりん、ごっつありすなど、群れの幹部を召集した。
(ドスが出陣しているということは、どすすぱーくを使うつもりでしょう。)
お館さなえはどすすぱーくと、ぬまのむれよりゆん口が多いもりのむれの人海戦術の双
方に対策を立てなければならなかった。
ぬまのむれで総動員令が発令されたのは、その二時間後のことである。
兵ゆっくりたちは総動員令が下った場合、命令が解除されるまで、武装し、見回りや待
ち伏せ、非難や隠蔽のための土木工事などに従事しなければならなかった。
ごっつありすは、動員された奇形ゆっくりたちを集め、語りかけた。
「この度の戦いもゆっくりの神々のお導きによるもの…皆、存分に戦いなさい。
小生はお前達がこのような姿に生まれ、このようなゆん生を送っていることにも意味が
あると思う。なぜならば、お前達は苦難の半生故にほかのゆっくりよりも、ゆっくりす
ることの大切さを感じ取れると思っているからだ。」
奇形ゆっくりたちは、皆の命の恩人であり、恩師であるごっつありすの話に黙って耳を
傾けた。
「選ばれし神々の子らよ、信仰を持ち、誇りを持ちなさい。お前達をゆっくりさせてく
れる神々のために、さなえさまのために、この群れのために戦いなさい。」
奇形ゆっくりたちの先頭にいるのは、常にお館さなえを護衛している、潰れた帽子のま
りさだった。このまりさは生まれつき帽子が変形していた奇形ゆっくりなのだ。それ故
に両親の見ていないところで姉妹にいじめられ、髪はすべてむしりとられて禿げまりさ
にされて、最後には両親に捨てられたのである。
まだ、お館さなえやごっつありすが町にいた頃、禿げまりさは捨て子だった。
その日、お館さなえは野良ゆっくりの群れとの戦いをひかえ、ごっつありすらと会議を
重ねていた。ある日、かいぎしつと呼ばれていた土管に向かう途中、禿げまりさは餌を
もらおうと、通りかかったお館ありすについて行った。しかし、お館ありすはまるで禿
げまりさの存在に気づいていないかのようにかいぎしつへ入っていった。
困ったのは、土管の入り口を警備していた兵ゆっくりである。どう見ても潰れた帽子を
被った禿げまりさは野良ゆっくりにしても汚く、通常なら関わりあいたくない類のゆっ
くりであった。しかし、万が一、お館さなえの親族であるといけないので、兵ゆっくり
たちはとりあえず手持ちのごはんさんを分け与え、お話の相手をしていた。
「なんだこれは?」
それが土管から出てきたお館さなえが禿げ大福を見たときの第一声であった。
「さ、さなえさまの妹さまかお子さまかと思ったよ…?」
「我の妹に見えるのか…」
兵ゆっくりはお館さなえの反応に戸惑った。やはり無関係だったのだろうか。
「ち、違うの?ゆっくり教えてね!…」
「そうか、我の妹に見えるのか…」
「さなえさま…?」
その後、禿げまりさがお館さなえに面倒を見られるようになり、長じて護衛となったの
である。
「まりさ、さなえさまのこと、ゆっくり頼みましたよ!」
「ありす先生…この身に代えてもさなえさまはお守りするんだぜ…」
不死身のえーりんは、出撃前に自宅で四番目の妻とすっきりをしようとしていた。
えーりんはゆっくりにしては非常に長命な種であり、数十年生きるともされている。科
学的な報告では二十年前後であり、加齢に伴い、知能もゆっくりにしてはかなり高度な
レベルにまで発達すると言われている。かつて推定年齢三十七歳というえーりんが新聞
の地方版の一面を飾ったこともあった(後にこの新聞社には、「えーりんは17歳☆」と
書かれた謎の剃刀レターが届いた)。
いずれにせよ、三番目までの妻はえーりんよりも早く、寿命で永遠にゆっくりしてしま
ったのである。
「もし、えーりんが永遠にゆっくりしたら、この子をゆっくりできるゆっくりに育てて
ね!」
「えーりんが永遠にゆっくりすることなんてあるの?えーりんは不死身のえーりんなん
でしょ!?」
まだ番になって数ヶ月のまりさつむりがそう言い返す。
「ゆふふ…戦場で死ぬ気はせんのぅ…」
そう言って目を細めるえーりん。
「では、ヤるか…」
えーりんはくわっと目を見開き、まりさつむりのまむまむにアハトアハトを差し込んだ。
「んほおおおおおっ!!!こいつは素敵よ!大好きよぉぉっ!!!」
「「すっきり!すっきり!すっきりーっ!!!」」
ありす一家の巣では、兵ゆっくりと出撃する父まりさとありすに、母ありすがごはんさ
んを振舞っていた。
サワゼリ、ワレモコウの花、ミミズ、カナブン、そしてデザートに甘酸っぱいエゾイチ
ゴ。ありす一家にとっては久しぶりのご馳走だった。特にエゾイチゴは母ありすの大好
物であるにもかかわらず、貯蓄分を全て葉の上に盛り付けてあった。
「ゆっくりあじわってね!」
母ありすの声はどこか震えていた。だが、父まりさもありすもそれに気がつかなかった。
あるいは、気がつかない振りをしていた。
「むーしゃむーしゃ!しあわ(ぶぴっ!)…ゆ…?」
「むーしゃむーしゃ!しあわせぇぇぇっ!!!」
大好物のエゾイチゴを口いっぱいに頬張り、嬉しそうに咀嚼するありす。
父まりさは何かあったのか、あにゃるを上方に振り上げた奇妙な格好で、巣の出口に向か
って微速後退していった。母ありすはその姿を見て何か察したようだが、ただ落ち着いた
表情でニコニコと娘がごはんさんをたいらげる様子を見つめていた。
「ふぅ!まりさ危機一髪だったよ!」
外から何やらすっきりした表情の父まりさが帰ってきた。その頃には、もう任務のために
でかけなくてはならない時間が迫っていた。
父まりさは帽子を、ありすは支給された葉っぱの兜をカチューシャの上から身につける。
父まりさは帽子の中から一つ、大きなエゾイチゴの塊を取り出した。
「ゆゆ!まりさこれをありすに渡すの忘れちゃってたよ!後でゆっくり食べてね!」
「…ゆっくり…ありがとう…」
母ありすにはか細い声でそうお礼を言うのがやっとだった。
「「ゆっくり行って来るよ!」」
「ちょっと待ちなさい。」
母ありすが子ありすを呼び止める。
「かちゅーしゃがずれているわ!とかいはじゃないわよ!」
そう言って母ありすはありすのカチューシャを直した。
「ありがとうおかーさん!今度こそゆっくり行って来るね!」
そして二匹は兵ゆっくりの集合場所へと跳ねて行った。
誰もいなくなった巣の中で、母ありすは家族の無事を祈り、一人涙した。それはいつも
の強気の母ありすからは決して見ることのできない姿であった。
9
翌々日の朝、その日は薄っすらとした川霧が川の方から沼地へと流れ込み、アメーバの
ように伸縮を繰り返し、水面を、地面を覆っていった。本来ならば、新緑を背景に、そ
の黒ずんだ紅色の花も鮮やかに咲き乱れているはずのワレモコウの花は霧に覆われ、ま
るで雲の上に咲く、幻の花のようであった。
東の空から金色の太陽が顔を出し、暖かな陽光が差し込んでくると、川霧は徐々にその
占領地から撤退し、代わりに鮮やかな緑が帰ってきた。
そして、撤退した川霧と入れ替わるように、もりのむれのゲロりー支隊が沼の岸辺に現
れた。
「むきゅ!ドスは…まだ来てないのね…ぱちぇの立てたげいじつてきな作戦通りだわ!」
ゲロりー支隊は、まずぬまのむれのゆっくりを牽制し、陸橋入り口から連中の注意を逸
らさなければならない。そのためには、被害を抑えつつも、ある程度本格的な攻撃を仕
掛ける必要があった。
「むっきゅうん!!行くのよ!まりさ!さなえからごはんさんを解放するのよっ!!!」
「ゆっくりりかいしたよ!」
「ゆっへっへ!!!すーぱーむーしゃむーしゃたいむ!すーぱーすっきりたいむのとき
なんだぜええええっ!!」
ゲロりー支隊の主力を構成するまりさたちは、帽子を水上に浮かべ、防備の手薄そうな
場所への上陸を目指して、ゆっくりと櫂を漕ぎ始めた。
「…来たか…」
お館さなえはゲロりー支隊に占める黒い帽子が多く、まりさ種に偏った編成であること
からこれが主攻ではないことを看破した。しかし、主力がどこから来るのかが分からな
かった。
お館さなえは飼いゆっくり出身であるため、どすすぱーくの威力、射程はまるで予想で
きなかった。もしも、沼地の岸辺からこの巣まで届くようであれば、ドスが沼地に接近
するまでに速攻をしかけて包囲するしかない。
かと言ってあちらこちらに兵力を分散配置しては、ゆん口で負けているぬまのむれは各
個撃破を受け、競り負ける可能性が考えられた。
「えーりん!主力を率いて陸橋の外に布陣、ドスを捜索せよ!水上部隊は出撃、敵まり
さを殲滅せよ!ゆン・イレギュラーズは作業を続行せよ!」
お館さなえは本当はゲロりー支隊を無視し、水上部隊を利用した遊撃戦が展開できるよ
う、よーム戦士団は待機させておきたかった。しかし、ゲロりー支隊のまりさだけでも、
数だけならこちらの水上部隊に匹敵する規模であり、ドスが率いるであろう本隊にぶつ
ける陸上兵力をできるだけ大きなものにするためには、速やかに敵の水上戦力を殲滅す
る必要があった。そして、よーム戦士団ならそれが可能と考えていた。
「やろうども!でっぱつするんだぜ!!!」
「「がってんしょうちみょん!!!」」
水上部隊を指揮するのはでぶまりさ、通称でぶりである。
見た目はぱっとしない顔つきのまりさであり、太っていることも相まってとても帽子や
船の上に乗せるべきではない存在に見える。しかし、この群れで一番の漕ぎ手であり、
まだお館さなえが町で活動していた頃から、どぶ川のボスを務めていた個体であった。
でぶりの指令とともに、水草の陰に隠れていた発泡スチロールの軍船、帽子に乗った水
上まりさ、せいっさいっされたゆっくりから取り上げた帽子に乗って移動しているまり
さが続々と姿を現した。せいっさいっされた帽子に乗っている個体は、元々帽子に穴が
開いており、奇形とされたか、二次的に帽子を損傷してしまい、両親からも捨てられた
まりさたちだった。
「取り舵いっぱ~いっ!!!ゆっくりしないで全速前進!!!」
船長まりさの指示のもと、漕ぎまりさたちが一斉に櫂を漕ぎ始める。
「ゆっくりりかいしたよ!!!」
そこにはあの父まりさの姿もあった。父まりさが乗り込んだのは、発泡スチロールの軍
船二番船ゆリシーズである。
舳先を敵のまりさ達に向け、ゆリシーズはぐんぐんと加速していった。
船上では、よーム戦士団の戦闘ゆんであるみょんたちが武器を構え、出番を今か今かと
待っている。
「これが終わったらまたみんなですっきりするみょん…」
「ゆふふ、みょんのあにゃるはえる・どらどなんだみょん…」
よーム戦士団に配属されたみょんたちは、連携を強力なものとするために、あにゃるす
っきりを利用していた。これはテーバイの神聖隊などでも使われていた手法である。
そんなみょん達の会話に、父まりさのあにゃるはきゅっと絞まった。
「目標補足!敵のまりさを目指して突っ込むよ!!!」
「「ゆっくりしねぇっ!!!ゆっくりしねぇっ!!!」」
二番船「ゆリシーズ」、三番船「ひるでがるで」、四番船「けるげれん」が一列に並び、
その後方からは一番船にして総旗艦「ヴぁんがーど」が最大戦速でゆっくり突撃してい
く。その左右には三匹一組で戦隊を形成したまりさが展開していた。
「ゆわあああああっ!!!こないでねっ!!!まりさのほうにこないでねっ!!!ゆっ
くりしないであっち…ゆぼぉっ!!!だじゅげっ!!!ごぼぼ…」
巨大な発泡スチロールと正面衝突し、もりのむれのまりさは一撃で沼に沈んだ。
「ゆわあああっ!!!ぐるなあああっ!!!まりざのほうにぐるなあああっ!!!」
もりのむれのまりさたちは混乱に陥った。滅多に帽子で水上移動を行わないもりのむれ
のまりさと、ぬまのむれの水上部隊とでは、戦力として差がありすぎたのだ。
「ゆひいいいっ!!!」
一匹のまりさが必死に櫂を動かし、ゆリシーズの突進を回避する。
「ゆっくりしないで沈んでねっ!!!」
父まりさはすかさず櫂でその敵まりさを叩いた。
「ゆべっ!!!やべっ!!!まりざばっ!!!」
「往生際が悪いみょん!!!」
なかなかしぶとく粘る敵まりさに業を煮やしたみょんが、長い棒の先端に打撃用の石を
取り付けたタイプの槍で、思いっきり叩きのめす。
「ぶぎゃあああっ!!!ゆぎっ!!!おぢるっ!!!だじゅげべええええっ!!!」
ぼちゃん
みょんと父まりさに散々叩かれた敵まりさは、とうとうバランスを失い、涙を流し、悲
劇的な表情のまま、ほの暗い水底へと沈んでいった。
同様の光景はあちこちで展開されていた。
「やじゃよ!!ばでぃざはみじゅにおぢだぐないよ!!!やべで!!ぶだないで!!ゆ
ぶっ!!!ごぼぼ…だじゅ!!!…ごぼぼ…」
「ゆがああああ!!!どぼぢでばでぃざのおぼうじやぶれぢゃっでるのおおおっ!!!」
「もうやじゃあああっ!!!おぶぢがえぶううっ!!!ゆんやああああっ!!!」
「ゆぎいいいっ!!!おふねさんはゆっくりできないいいっ!!!ゆっくりしないで上
陸するよっ!!!」
「ゆゆ!!!あそこならゆっくりがいないんだぜ!楽勝で上陸できるんだぜ!!!」
もりのむれのまりさたちは、ぬまのむれの軍船と戦うの諦め、ぬまのむれの本拠地があ
る半島へと必死に櫂を動かした。数が少ないせいか、ぬまのむれの兵ゆっくりの配置に
はムラがあり、もりのむれのまりさたちは、明らかに手薄な面から上陸を試みる。
「ゆっへっへ!上陸してしまえばこっちのもんなんだぜ!!!あまあまはまりささまの
ものなんだぜ!!!」
とうとう、半島にたどり着いたもりのむれのまりさが、帽子から湿原へと飛び降りる。
べちゃ
「ゆ?」
そこには見たことのない植物が広がっていた。幅広の葉に朝露のようなものがたくさん
付着している。
「ゆびいいいいっ!!!なんなのぜえええっ!!!ばでぃざのあんよがうごかないんだ
じぇええええっ!!!」
そこは、かつてごっつありすが立ち入るなと、ありす一家に警告した場所だった。その
場所に生えているのはモウセンゴケ。葉の上に分泌される粘液で昆虫を絡め取る食虫植
物である。上陸したまりさのあんよには、モウセンゴケの粘液がべっちょりと張り付い
ていた。
モウセンゴケ一株一株の粘液は大したことがなかったが、ゆっくりのように、体の体積
に対して接地面の多い体形の生き物は、たくさんの粘液をそのあんよに張り付かせてし
まい、進めば進むほど、身動きが取れなくなっていった。
「ゆぎいいいっ!!!ばでぃざのあんよざんうごくんだじぇえええっ!!!」
上陸したまりさが必死にあんよを動かす。しかし、渾身の力で跳ねようとした瞬間、バ
ランスを崩し、顔面から粘液まみれの食虫植物群に突っ込んだ。
ぶちゃあぁ
「ゆぐぐぐぐぐぐっ!!!うぎょげないんだべえええええっ!!!」
顔面から腹部にかけて粘液が付着し、もはや上陸したまりさは自力では起き上がれなく
なっていた。必死に起き上がろうとあんよをぐにぐに動かし、お尻をぷりんぷりんと動
かすが、船上のみょんたちの笑いを誘うばかりであった。
もはや、このまりさには少しずつ群生する食虫植物に吸収されていくか、そのまま雨の
日に溶けていくかの二択しかなかった。
「かしこいまりさは逃げるよ!こーそこーそ…どぼじでうじろにおぶねざんぎでるのお
おおおおっ!!!」
「うるさいみょん!さっさと沈むか、けつを出すみょん!!!」
みょんに槍でがすがすと突かれ、また一匹まりさが沈んでいく。
「ゆびっ!!ゆぶぅっ!!なんじぇ!!まりざが!!ごん…」
お館さなえの命令から一時間しないうちに、もりのむれのまりさの半数ほどが沼に沈み、
残りは岸へと逃げていった。
陸橋を目指して、ドスと、ゆっくりの大群が姿を見せたのは、そのときであった。
10
ドスは陸橋に対して正面方向の森から姿を現した。ドスの出現方向をつかめなかったの
は、おそらく、偵察に向かわせたゆっくりがもりのむれのゆっくりに殲滅されてしまっ
たためであろう。
ここに来て、お館さなえはドスたちの狙いに気がついた。
陸橋を縦隊にて通過しようとすれば、確実にどすすぱーくを打たれる。かといって戦力
の逐次投入は、兵力差で劣勢なこの状況下では各個撃破されるだけである。予備戦力と
してとっておいたゆン・イレギュラーズを投入する機会は、当分訪れそうになかった。
お館さなえはドスとゲロりーの作戦を読みきれず、結果的に戦力の分断を許してしまっ
たのである。
(どすすぱーくが打てる状況下では、我は出れぬ…)
総司令官が戦死しては、群れの敗北は決定してしまう。戦術的な勝利はばばさまこと、
不死身のえーりんに任せるしかなかった。
お館さなえは前回の戦いでドスまりさを永遠にゆっくりさせなかったことを後悔してい
た。
(我も甘い…結局、人質を見殺していたほうが、永遠にゆっくりするゆっくりの数が少
なかったのではないか…)
お館さなえは、巣に残された母子ゆっくりが全て、避難用の洞窟(どすすぱーくの直撃
を受けない位置にある)に避難していることを確認させると、ただ水上部隊の帰還を待
った。
「やべ…れい…いや…じゃ…」
「じゃお…じゃおおお…じゃおおおおおおおおんっ!!!」
「ゆっぎぃっ!……」
片目が潰れている姉めーりんが、瀕死のれいむですっきりしている。このれいむは、え
ーりんが放った偵察任務の兵ゆっくりの一匹だった。
ぬまのむれが放った偵察ゆっくりのうち、ドスがいる方向に向かったものはすべて、こ
のめーりん姉妹によって永遠にゆっくりさせられていたのである。
「ゆぅ…めーりん!そのへんにしといてね!もうてきの本拠地だよ!!!」
「じゃああおおおおおん!!!」
姉めーりんは最後にもう一度、黒ずみ、もはや動かなくなっているれいむですっきりし
てから、進軍に加わった。
この姉めーりんは気に入らないゆっくりをぼこぼこにいたぶってからすっきりすること
を好む特殊な性癖のゆっくりであった。そのため、大事にされている金バッジや、近く
を通った野良など、片っ端から暴力をふるってすっきりをし、最後には飼い主が大事に
していた子猫に乱暴を振るおうとして捨てられたのである。
「…ゆぅ…やれやれ、面倒なのが来たのぉ…」
えーりんは葉っぱで作った兜をくいっと、舌で持ち上げ、敵の様子を確認する。えーり
んが赤と青の帽子の上から兜を被っているのは、指揮官がどこにいるかを分からなくす
るためであった。
えーりんは兵ゆっくりたちを、ぬまのむれ得意のまけどにあん・ふぁらんくすではなく、
散開陣形で接近させた。ドスまりさの周囲は、もりのむれのふぁらんくすで固められて
おり、えーりんらは可能な限り素早くドスたちに接近し、乱戦に持ち込む。そして敵味
方入り乱れる状態を作り出すことで、どすすぱーくを打てなくするしかなかった。
しかし、散開陣形のまま突っ込んでは、敵のふぁんらんくすに押しつぶされる。
「進みながらゆっくりふぁらんくすになってね!!」
えーりんは次々と指示を飛ばし、散開陣形を敵前で密集させるという職人芸を披露する。
だが、ふぁらんくすの陣形が完成しようかというそのとき、それは来た。
「ゆふふ!これが!これがしんせかいをきりひらくそーせーのひかりだよ!!!どすす
ぱぁぁぁぁぁくっ!!!」
輝く極太の光線がドスまりさの口内から放たれ、えーりん隊の中央を削り取る。光線は
そのまま湿地に着弾し、泥と草を派手に舞い上げた。
えーりん隊の中央に位置していた、数列のふぁらんくすは丸々消滅し、後には、焦げた
餡子やチョコレートのようなものの臭いが漂った。
「ゆっくりしないで逃げるよーっ!!!」
「ゆっくりしないで逃げるんだぜーっ!!!」
無事だったえーりん隊の左翼と右翼から叫び声が聞こえ、それぞれ左右に蜘蛛の子を散
らすように跳ねていく。
「おお、ぶざま、ぶざま!!!まるでむしさんのようにみみっちいね!!!右と左のふ
ぁらんくすは逃げるごみを追撃してみなごろしにしてね!!!まんなかのふぁらんくす
はどすと一緒にぬまのむれの巣をたたきつぶすよっ!!!」
「もうやじゃあああっ!!!だじゅぐぶっ!!!」
「ゆげえええっ!!!どぼじでぢぇんのおべべびえないのおおおおっ!!!わがらない
よおおおおっ!!!」
「ゆ゛…ゆ゛…ゆ゛…」
ドスはそのまま逃げ切れなかったぬまのむれのゆっくりを踏み潰し、陸橋から半島へと
進軍を開始した。
そのとき、ドスの左側から接近してくる影があった。二隻の軍船、ゆリシーズとけるげ
れんを中心とした水上部隊である。でぶり提督の指示を受け、陸橋に比較的近い位置で
掃討戦を行っていた二隻が、陸橋通過時にドスたちの側面を突くべく急行を命じられた
のである。
「他の群れのドスが!小汚いゆっくりが!まりさたちの縄張りを縦隊組んでゆっくり跳
ねていくなんて!このぐらん・だるめが!このよーム戦士団が許すと思ってるの!!?
ばかなの?死ねよ!」
先遣隊の指揮を執る、ゆリシーズの船長まりさの号令のもと、一気に船速を上げて行く。
ドスまりさはその光景を不愉快そうに横目で眺めた。
「ゆぅ…みみっちいいきものがうるさいよっ!!!」
どすは二個目のきのこをむーしゃむーしゃと咀嚼した。
裁断されたきのこ飲み込んでしばらくすると、どすの口内からうっすらとした光があふ
れ出す。
「どすすぱぁぁぁぁぁぁくぅぅぅっ!!!」
二射目の光線は派手に水蒸気を巻き上げながら、水上を走り、四番船けるげれんを直撃
した。
「!!!」
「うわわああああああっ!!!」
「ゆ゛!!!…ごぼがぼ…」
何かが弾けるような音と共にけるげれんは文字通り蒸発し、水面が沸騰、水蒸気がもう
もうと舞い上がった。けるげれんの近くを航行していたまりさ種もこの沸騰に巻き込ま
れ、帽子から振り落とされ、水中に叩き込まれていった。
「ゆぎゃああああああ゛っ!!!」
けるげれんの隣を航行していたゆリシーズは直撃を免れたものの、甚大な被害を受けた。
いきなりのどすすぱーくに驚いた父まりさのあにゃるが決壊を起こしたのである。ゆリ
シーズの上ではうんうんが天下統一を果たしていた。
「ゆっぴいいいいいいいっ!!!どぼじでう゛ん゛う゛ん゛がどまらないのおおおおっ
!!!!ばでぃざのあにゃるざんじんごぎゅうじでおぢづいでねえええええっ!!!」
「なにやってるのおおおお!このうんうんまりさああああああっ!!!」
「ゆぎゃあああああ!!!みょんのじらうおのようなあんよにうんうんがああああああ
ああああああっ!!!」
「ま、まりさはかしこいからうんうんさんから逃げるよ!うんうんまりさはゆっくりで
きないよっ!!!」
「ばか!敵前逃亡はせいっさいっされるみょん!たとえうんうんまみれでも戦うんだみ
ょん!!!…くさいみょおおおおん!!!」
結局、水面に向かって放たれたどすすぱーくは、けるげれんを撃沈し、随伴していたま
りさを数匹蒸発させた。そして、ゆリシーズもまた、一時的とは言え、戦闘不能に追い
込まれたのである。
「ゆっはっはっは!!!いいざまだね!!!いいゆっくりは死んだゆっくりだけだよ!
このえらばれしどすたちをのぞいてね!!」
とうとうドスまりさたちは陸橋を突破した。
そこには緑色の草花が繁茂し、ぬまのむれの中心部である小さな林まで、ドスまりさた
ちを阻むものは何もなかった。
11
「待ってね~!おとなしくちぇんたちにこーさんしてねー!無駄な抵抗はわからないよ
ー!!!」
以前、らんにぷろぽーずされた細目のちぇんは、もりのむれの左翼を構成していた軍の
中にあって、逃亡したぬまのむれの右翼を追っていた。
「ゆひいいいいっ!!!ぐるなあああっ!!!までぃざのほうへぐるぶううううっ!」
ちぇんの突き出した槍が泣きながら逃げ惑っていたまりさの口から差し込まれ、中枢餡
を貫通する。
ぬまのむれのぐらん・だるめは練度が高いせいか、敗走も速かった。それでも、逃げ遅
れたゆっくりから一匹、また一匹と刺され、潰され、餡子の花を咲かせて永遠にゆっく
りしていく。
「…ここらかの…」
逃亡したぬまのむれの右翼を指揮しているのはえーりんであった。えーりんが采配代わ
りにくわえているススキを高く振りかざす。
「横槍をくらわせよ!!!」
「ぐらん・だるめはせかいさいきょおおおおおおっ!!!」
「!!?」
追撃を続けるもりのむれ旧左翼の側面の草むらから、一列の伏兵が一気に槍を突き出す。
「ゆわあああっ!!!どぼじでごんなどごろにぶぐっ!!!」
少数の伏兵による奇襲的な反撃であったが、追撃に夢中になっていたもりのむれ旧左翼
軍を混乱させるには十分だった。
最初からえーりんは、ドス以外の敵ゆっくりひきつけ、これを追撃、または乱戦のまま
ドスに接近する算段だったのである。
ドスが左右のどちらかに逃亡した隊を追ってくることは、陸橋をきれいにどすすぱーく
の射程に入れようとする自分達の策を放棄することになるため、ありえない選択肢であ
った。万が一、追ってきたならば、本拠地からさなえ率いるゆン・イレギュラーズら予
備戦力が出撃可能となり、戦力分断の利を放棄することになる。もっとも、ゲロりーの
いない状態で、あのドスがそこまで考えられたかが疑問ではあるが。
そして、もし、追撃してこなかったのならば、そのまま後背を突き、乱戦に持ち込む腹
積もりであった。
左右に分かれたことで、伏兵の効果は薄まってしまったが、これはどすすぱーくで戦力
を一網打尽にされないために必要な措置であった。当然のことだが、どすすぱーくのき
のこには限りがあるはずである。前回の交戦でドスが持ち込んでいたきのこは二個、そ
のきのこのサイズとドスの帽子の大きさから、どんなに帽子に詰め込んでも五、六発が
限界とお館さなえらは考えていた、他のゆっくりが運ぶには、どすすぱーくのきのこは
大きいためである。実際、今のところ、ドスはある程度、ゆっくりが固まっている場所
にしかどすすぱーくを打っていなかった。
「さて、戦るか…」
もりのむれの旧左翼軍が伏兵で混乱している間に、あっという間に再編成を済ませた、
えーりんたち右翼隊が襲い掛かる。この編成の速さと巧みさこそが、えーりんの恐るべ
き手際の良さ(ゆっくりにしては)と、日頃の訓練の化学反応によるものであった。
あのありすは反撃に転じたえーりん隊にあって、槍を振るっていた。
「おとーさんとおかーさんのおうちに!ゆっくりできないゆっくりが近づくなああああ
あああっ!!!」
「ゆっぎゃあああああああああっ!!!でいぶのぼうぜぎみだいなおべべっ!!!おべ
べがああああっ!!!」
その前に細目のちぇんが立ちはだかる。
「難儀だねぇっ!!」
ちぇんが連続で突き出す槍をありすが一撃、二撃と受け流し、反撃する。
「そいぁっ!!!」
「やるんだね!わかるよー!!!」
細目のちぇんは二本の尻尾で巧みにありすの槍を逸らす。
「ありす!ちぇんは戦いにおいて、ありすこそライバルと認めるよ~っ!!分かってね
~っ!!」
「らいばるなんてとかいはね!!!のぞむところっよっ!!!」
互いに突き出した槍が交差し、それぞれがありすの頬を、細目のちぇんのおでこを微か
に傷つける。
「ありすーっ!!」
そこへ仲間のゆっくりたちが駆けつける。横槍で崩されたもりのむれ旧左翼軍はもはや
総崩れになりつつあった。
「ゆゆ!一騎打ちを邪魔するなんて無粋なんだね~!分かってね~っ!!!この勝負は
お預けだよ~っ!!!」
細目のちぇんはそのまま軽快に飛び跳ね逃げていった。
一方、逃げたぬまのむれ左翼隊は、ごっつありすの指揮の下、同じ戦法で反撃に転じて
いた。
「剛力招来!!!超力招来!!!」
ごっつありすの操る槍が、ぺにが、辺りを真っ黒な餡子で染め上げていく。
「さあっ!!懺悔なさいっ!!!」
「ぢぃーーーーーーんぶっふううっ!!!」
恐るべきごっど・ぺに・かのんの一撃を食らったもりのむれのみょんが、ホワイトチョ
コレートを撒き散らしながら、弾け、永遠にゆっくりした。
元々、ぐらん・だるめに比べれば烏合の衆であり、恐怖による統制も、掟による秩序も、
信仰による団結も持たないもりのむれは、ドスやめーりん姉妹といった中核となる戦力
なしでは、一度守勢にまわったが最後、士気が崩壊するのも無理なからぬことであった。
12
ドスまりさ率いるもりのむれ中央軍は、誰もいない半島を進撃していたが、すぐにその
進撃は停止することになる。
「ゆぎゃああああああああああああっ!!!」
突如、先行していたもりのむれのまりさつむりが悲鳴を上げ、転げまわった。
「いたいんだじぇええええっ!!!つむりの!!つむりのえぐぜれんどなあんよがああ
ああああっ!!!」
「ゆ!どうしたの!てきさん!!?」
だが、ドスの問いかけへの回答よりも早く、次の犠牲者が現れる。
「ゆぎいいいいっ!!!でいぶのあんよがあああっ!!!でいぶのいふーどーどーたる
あんよがあああっ!!!」
「ゆええええええ゛!!!あんよがいじゃいよおおおおっ!!!わっがらないよおおお
おおっ!!!」
次から次へとあんよの痛いみを訴え、進撃を停止するゆっくりが現れた。よく見ると、
そのあんよには何やら褐色の木の実のようなものが突き刺さっている。
それは水生植物ヒシの実、撒き菱の元ネタとなった植物の実であった。その名の通り
(むしろ、菱型の語源がこのヒシの実や葉であると言われている。)、菱型の実の両端に
は鋭い棘があり、実際に忍者はこれを道に撒いて追っ手の追撃をかわしたという。
この北の大地においては、古来、澱粉の豊富な貴重な食糧源としてされており、このぬ
まのむれにおいては、食糧源兼防衛用トラップとして使われていた。
「ちょこざいだよっ!!!ドスはどこにもにげないよっ!!さなえは出てきてせーせー
どーどーどすとしょうぶだよっ!!!」
ドスは大声でそう呼びかけた。だが、どこからも返事はない。
「ひきょーものはせいっさいっだよ!」
ドスは三個目のきのこを口に入れた。
「どすすぱぁぁぁぁくっ!!!」
ドスまりさは三度目の光線をぬまのむれの本拠地がある、小さな林に向けて撃った。
「ゆゆ!?」
しかし、さすがに距離がありすぎた。どすすぱーくは湿度の高い、水辺の空気中で拡散
し、わずかな熱風が林の木々を揺らしただけだった。
「そんなとおくにかくれてるなんてひきょーだよっ!!!」
ドスはいーらいーらしていた。足元には何やら棘のある実が撒かれており、それを踏ん
でしまったときのことを考えると、とてもゆっくりできない。さなえはびくびくとかく
れていないでどすと対決するか、さっさとあまあまを出して降参すべきなのだ。沼の水
面から照り返される陽光は明らかに大自然の王者としてドスを歓迎していた。
「ドス!降参するんだぜ!!まりさたちは平和の使者なんだぜ!」
「だからもうどすすぱーくを撃つのは止めて欲しいみょん!!」
そこに来たのは、きれいな帽子のまりさと、白旗を掲げたみょんであった。
「こーさんするのはゆっくりできる選択だよ!でもまりさやみょんじゃだめだよ!さな
えを連れてきて土下座させないとゆっくりできないよっ!!!」
ドスは高圧的な視線で二匹をにらみつける。
「さなえならもう逮捕したんだぜ!あそこにいるんだぜ!ドスへのあまあまも一緒なん
だぜ!」
「ゆゆ!!?」
使者まりさが指し示す方角には、沼のほとりの草の上に低く山盛りにされたあまあまを
はじめとするご馳走、そしてつるで縛られ、口をふさがれ、ひたすらもがくさなえの姿
があった。
「さなえはゆっくりできないりーだーだったんだみょん!奇形とか捨て子とかゆっくり
できないゆっくりばかり大事にしているくずだったんだみょん!だからせいっさいっし
たんだみょん!」
「これはさなえが隠し持っていたあまあまなんだぜ!!」
そう言って使者まりさは地べたに笹の葉で包まれたあの餡子の塊を置いた。
ドスは胡散臭そうにそのあまあまを見つめると、兵ゆっくりの一人にそれを食べてみる
よう促した。兵ゆっくりは明らかな毒見役に嫌がったが、そのあまあまの臭いを嗅ぐと
目の色を変えた。
「ゆゆ~ん!とてもゆっくりできる臭いがするよ!…むーしゃむーしゃ…しあわせーっ
!!!こんなあまあま食べたことないよ!!!」
「ゆ!!?」
その反応にドスまりさも早速、舌であまあまを口に運ぶ。
「むーしゃむーしゃ…しあわせぇぇぇぇぇっ!!!」
それはドスも食べたことがない味だった。
「これはゆっくりできるあまあまだよ!まりさとみょんはゆっくりできるゆっくりみた
いだから、ドスがたくさんもらってあげるよ!」
「気に入ってくれたかみょん!!もっとたくさんあるけどみょんたちでは運べないみょ
ん!安全な道を案内するから持って行ってほしいみょん!!!」
「でも、まりさたちもあまあま食べたいから、全部は勘弁してほしいんだぜ!ドスの帽
子に入る分だけドスにあげるんだぜ!!」
ドスは考えた。敗戦群れであるぬまのむれはドスにあまあまを全部献上すべきだ。だが、
ゲロりーが愛だのあーうーだの言っていた通り、支配には甘い餌も必要であろう。まず
はドスの偉大さと寛大さに心服させ、あまあまはまた後で徴収すればいい。
それに、あそこにあるあまあまがこのドス自慢の大きな帽子に全て入ってしまう可能性
だってあるのだ。それなら誰も文句は言えまい。ドスは約束にうるさいのだ。
「ドスはかんだいだから、その条件でいいよ!!!ゆっくりかんるいのなみだをながし
てよろこんでね!!早速あまあまをもらいに行くよ!!!ゆっくりしないでどすをあん
ないしてね!!」
「「ゆっくりりかいしたよ!」」
ドスは念のため、二匹の兵ゆっくりに先行させ、使者の後を跳ねていった。後方ではま
だ戦いが続いているようだが、あまあまを回収したら、宣言しよう、ドスたちの光り輝
く勝利を。
大量のあまあまは沼のほとりに葉っぱを敷き詰めて置かれていた。
これなら全部持ち帰れるのではないか?
ドスまりさの頬が自然とほころぶ。
そうだ、本当はもっとあまあまを隠しているのかもしれない。
ドスはこれを全てもらってから、この二匹の使者を問い詰めようと考えた。
もうしばらく跳ねると、今度はつるでぐるぐると縛られたさなえの姿が見えてきた。真
っ赤に泣きはらした目から涙を流し、むごいことに飾りは全てむしりとられ、口は葉っ
ぱで塞がれていた。周りへのずんだ餡の飛び散り具合からして、おそらく、口はぐちょ
ぐちょにされているのではないか?ご丁寧にまむまむ(ぺにぺにが切られた痕?)とあに
ゃるには、鋭い棒が刺し込まれていた。
(おお、あわれあわれ…ゆっくりできないばかがせのびするからそうなるんだよ!!!)
ドスまりさは嗜虐的な笑みを隠そうともしなかった。
「さあ、どうぞドス!まりさたちはここで待ってるんだぜ!!」
「ゆっくり持って行ってね!さなえは好きにしていいよ!!」
「ゆふふ、ご苦労だったね!そうさせてもらうよ!!!」
ドスは涎を垂らす二匹の兵ゆっくりを押しのけると、あまあまの山のところまで跳ねて
いった。
「ゆっくりできなくてりーだーがせいっさいっされるとか、かたはらだいげきつうだね!
さなえのことはあまあまをいただいてから、ゆっくりせいっさいっしてあげるから楽し
みにっ!?」
突如ドスの視界に変化が起こり、縛られているさなえが、あまあまの山がせり上がって
いく。
いや、ドスが沈んでいたのだ。
そこは、草によって巧みに偽装された泥炭地であり、かつてせいっさいっされたゆっく
りが生き埋めにされた場所だった。
このような寒冷な気候下の湿原では、植物が分解されず、泥炭として堆積する。そして
水気の多い場所では、まるで底なし沼のように重いものを飲み込んでいくのである。
通常のゆっくりならば、脱出不可能なまでに埋まることはなかったかもしれないが、体
重がときに百キロを越えるドスでは事情が異なった。
また、所々にある小さな穴、それらは泥炭の隙間であり、その直下には広大な空洞が空
いていることもある。かつて、北海道開拓時代には、このような泥炭地の空洞に馬が落
ち、そのまま生き埋めとなったケースが少なくなかったという。
お館さなえの群れは、かつて何度か、あんよが泥炭から抜けなくなる事故が発生してお
り、その経験を利用したのである。泥炭地の中心に面積の広い葉を次々と投入し、簡単
なシートを作り、その上に少しずつあまあまを重ねていく。あまあまの山が低くなって
いたのは、重量が狭い範囲に集中することで沈下するのを防ぐためであった。お館さな
え率いるゆン・イレギュラーズは、もりのむれの出撃を知って以来、最後の手段として、
この天然の落とし穴による罠を用意していたのである。
「ゆぎいいっ!!!どぼじでどずのあんよざんうごがないのおおおおっ!!!」
ドスは跳ねて着地したときの衝撃であんよがまるまる泥炭中に埋まり、ちょっとやそっ
とでは脱出できない状況に陥っていた。
「でっかいくそ袋なんだぜ!!!」
使者まりさがきれいな帽子を脱ぎ捨て、すかさずみょんと共にドスまりさの口を槍で貫
く。きれいな帽子の下にあったのは、あの潰れた帽子。それはお館さなえを護衛してい
た禿げまりさであった。
「ゆぎゃあああああっ!!!あああ゛っ!!!あああ゛っ!!!」
ドスになっても痛みに弱いという、ゆっくりの特徴は変わらないらしい。突き出された
槍は、ドスの口を、舌をずたずたにした。
ドスに随伴してきた兵ゆっくりが慌てて棒きれを構え、潰れた帽子のまりさと、みょん
に襲い掛かる。
「ゆ!!」
「みょん!!」
二匹の背中に鈍い痛みが走った。だが、この槍を離せば、ドスは助かってしまうかもし
れない。
「まだまだああああっ!!!」
二匹はあらん限りの力を込め、槍をさらに押し出した。
「ああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
ドスはもうまともに口をくきことも、叫ぶことも出来なかった。
「群れを守る働き!大儀です!」
そこに一番船ヴぁんがーどに乗って、水草の陰に隠れていたお館さなえが、よーム戦士
団を引き連れて上陸する。あの縛り上げられていたさなえは影武者、何度もあまあまを
要求してきた間諜まりさに、この前せいっさいっしたあほ毛さなえの皮を被せたものだ
ったのだ。
「かかれぇっ!!!」
よーム戦士団のみょんたちは一斉に槍を突き出し、潰れた帽子のまりさとみょんに棒を
突き刺していた、もりのむれの兵ゆっくりを、ドスの口を、帽子を、頭を貫いていく。
もはや、ドスはハリネズミのようだった。
帽子は叩き落とされ、口はずたずたにされ、もうどすすぱーくを撃つことはできない。
「念のため、あんよも潰しておけ!」
さらに槍がドスの下腹部目掛けて次々と突き出される。ドスのあんよは泥炭の下に埋ま
っているので、ちゃんとあんよに刺さっているのか確かめる術はなかった。しかし、ド
スに残されたゆん生は、突き刺された槍の痛みに苦しみながら、ゆっくりと泥炭に沈ん
でいくだった。
「旗を揚げよ!これより全軍により、もりのむれを追撃する!一人も生かして帰すな!」
総旗艦ヴぁんがーどの上に、赤と黄色のマケドニア国旗(小学校の運動会の万国旗がちぎ
れたものを、町にいた頃に、群れの印としたものだった)、すなわちヴェルギナの星の旗
が翻った。
13
助攻として、ドスとは沼を挟んで反対側に布陣していたゲロりーは、まりさ部隊が壊滅
した後は、特にやることもなく、ドスの勝利を楽しみに待っていた。
そこへドス戦死(実際は、この時点ではまだ泥炭に半ば埋もれて生きている)、ドスの軍
勢敗走の報が伝わったのは、ドスが泥炭の罠にはまってから一時間ほど経ってからであ
った。
「…は?…」
ゲロりーは唖然とした。まるでゲロりーだけ時が止まってしまったかのように。
それまでゲロりーはずっといーらいーらしていた。ドスは半島内に侵入してからという
もの、ずっと動きを止めていたように見えたからである。
伝令―あの細目のちぇんはゲロりーの反応を、報告が聞こえなかったものと思ったよう
だ。
「ドスは永遠にゆっくりしちゃったんだよー!作戦は失敗なんだよー!今、めーりんた
ちが殿をしながら逃げてるんだよー!撤退戦は難儀なんだよー!分かってねー!早くゲ
ロりーも逃げるんだよー!」
「…ありえないわ!!!」
ゲロりーは突如爆発した。
「このきせきのまじゅつし!じょーしょーしょーぐん!ふはいのぱちゅりーさまが負け
るわけないでしょおおおおおおっ!!!」
ゲロりーは自身の失敗を受け入れられなかった。なぜならば、この世界を動かしている
のはゲロりーのはずだからだ。
「負けたんだよ~!分かってねー!早く撤退するんだよー!」
「撤退!!?なに言ってるの!!!これから全軍で突撃してあのちんちくりんどもを根
絶やしに!!!」
ゲロりーは頭から湯気を上げながら、どう見ても不可能な攻撃を主張する。もはや、残
っている兵ゆっくりたちも呆れ果てていた。
「そんなできもしないこと言ってるから負けるんだよー!!!ゆっくり分かってね!!
この低能ゲロまんじゅーっ!!!」
とうとう細目のちぇんはキレてしまった。もはや、ぱちゅりーは自分の地位の心配しか
していない、それも現実を無視して、と見なしたからである。
細目のちぇんの罵声にゲロりーの顔がみるみる青ざめていく。
「きゅ…むきっ…むぎゃああああ!!!…むっきゅぅぅぅううう゛んんんんっ!!!」
ヒステリーを起こしたゲロりーはそのまま泡を吹いて失神してしまった。
「どうしたの!!ぱちゅりーさまどうしたの!!」
兵ゆっくりの一匹がぱちゅりーを気遣う。
「おつむがろいやるふれあしたんだね~…難儀なんだね~…撤退するよ~…」
ゲロりーが自棄を起こした時点で、残存ゲロりー支隊の半分は逃げていたが、細目のち
ぇんは残りの兵ゆっくりをまとめて、愛するらんが待つ巣へと撤退した。
結局、もりのむれの侵攻は、もりのむれ、ぬまのむれ双方に多大な犠牲与え、もりのむ
れには何も益することなく終わった。
もりのむれの損害は、撤退時のめーりん姉妹の奮戦により、三割の戦死、及びゆっくり
不能で済んだ(敗北状況からして、この表現を使わざるを得ないが、群れのりーだーで
あるドスまりさがいなくなったことで、およそ半数がもりのむれを離れ、どこかへと旅
立っていった。その中には、ドスがゆっくりぷれいすの宣言をして以来、ずっとまじめ
に働いて、群れを支えてきたゆっくりが多く含まれていた。
残ったもりのむれのゆっくりたちは、ゲロりーを非難し、自分達にごはんさんを早く配
るよう要求した。これに対して、意識を取り戻したゲロりーはめーりん姉妹と結び、戒
厳令を発令、彼らを暴力で弾圧した。ゲロりー自身は戒厳令司令官に就任し、全ての群
れのゆっくりの心に愛の灯火が光るまでの一時的な体制として、赤ゆ、子ゆをゲロりー
の管理下に人質として置き、群れのために食糧を取ってこないゆっくり、ゲロりーに反
抗的なゆっくりを次々とせいっさいっした。
その代わり体制に従順なもの、そして、ゲロりーの切り札であるめーりん姉妹には優先
的にごはんさん、果物などのあまあま、すっきり相手を提供し、自身の支配力の確保に
努めた。そして、ゲロりー本人は、あまあまとすっきりに溺れていった。
一方、ぬまのむれは、群れの一割が戦死及び、ゆっくり不能になった。この被害の半分
以上はどすすぱーくによるものだった。逆に言えば、ぐらん・だるめの精強さを示した
と言っていいだろう。幹部クラスの戦死もなく、体制は安定し、お館さなえの求心力は
強化された。また、正常ゆっくり、奇形ゆっくりが共に危機を乗り越えたことで、彼ら
の団結力は堅固なものとなった。
雨降って地固まったのである。
だが、
ゲロりーは自分に恥をかかせたぬまのむれを決して赦しはしなかった。
そして、皮が厚く、活動力に優れるめーりん姉妹もまた、ドスに匹敵する強敵であるこ
とをこの度の戦いで示した。
そして、夏が過ぎ、これから厳しい季節が訪れようとしていた。
動物達が、限られた食糧資源を求め、争う、実りの秋が…
北の大地の戦いはまだ始まったばかりに過ぎない。
戦いの翌日、兵ゆっくりたちの半分が任を解かれ、巣への帰省が許された。
ありすはぼろぼろの葉っぱの兜を脱ぎ、船着場で、父まりさを待った。
「きれいにするよ!まりさはおふねさんをきれいにするよ!!!」
「おとーさん!!!」
「…!…ありすっ!!!(ぶっぱっ)…ゆ?…」
父まりさは軍船の掃除を一匹でやらされており、それが終わった頃には日が傾いていた。
それまで、ありすは船着場の近くに埋まっている、なんだかゆっくりできないもので遊
んでいた。それは金髪の大きなハリネズミのようであり、あちこちから棒を生やしてい
た。これに石をぶつけたり、棒でつついたりすると、時折、
「ゆ゛…」
と変な鳴き声が聞こえ、どこからか砂糖水が流れてくるのだ。
母ありすはずっと二匹の無事を祈っていた。避難用の洞窟から巣に帰ってきたとき、そ
こにはまだ手をつけてない、あの、父まりさからもらったエゾイチゴの実があった。ま
だ食べられなくはないが、少し痛んでしまっている。
何度か食べようと思ったのだが、食べられなかったのだ。
「…ふぅ…」
母ありすは、どうやら群れが勝利したらしいことは知っていたが、父まりさとありすが
無事なのか、いつ帰ってくるかはさっぱり分からなかった。
母ありすは気を紛らわせようと、葉っぱとつるでシーツを作り始めた。寝床に敷いてあ
ったものが、父まりさのあにゃるだすとれヴぁりえで汚されたままだったからだ。
ふと、入り口から懐かしい話し声が聞こえたような気がした。
「「ただいま!」」
ぶりっぱっ…
― 第一部 完 ―
神奈子さまの一信徒です。
趣味丸出しで書いた作品ですので、ゆっくりできなかった方も多いと思います。
楽しんでくれた、という方がいらっしゃるのでしたら、嬉しく思います。
ここ数日忙しかったので、前作のコメントには返事をする暇がなく、申し訳ありません
でした。一つ一つ、大事に読ませていただきました。ありがとうございました。
ご覧の通り、終わってません。また休みが取れたときに、少しずつ書いていこうと思い
ます。
なお、文中でも書いていますが、タイトルの「ヴェルギナの星の旗」とはマケドニア国
旗のことです。
ヴェルギナの星とは古代マケドニアの象徴とされていました。現在は過去の歴史云々で
隣国と揉め、それが簡素な図案化されたものとなっているそうです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。お目汚し失礼致しました。