「もう雪の季節か」
いつにない朝の寒さに戸を開けた元就は、ひらひらと目の前に舞い降りてきた雪片を掌へと受けた。
薄暗い雲に隠されて日輪を拝めないのは少々不満だと、小さく溜息をついた。
「おい、いつまで開けているんだよ」
隙間風が入って敵わねえ、とぼやく声に振り返り、元就の口元に笑みが浮かぶ。
「これはすまぬ」
ぴしゃり、と閉めると、床で不貞腐れている元親の傍へと座る。
「そなたも床から出てみたらどうだ」
体を動かせば寒さも和らごう、という彼女の顔を見上げ、元親は掛けていた布を被り直す。
「何だってこんなに寒いんだ」
「雪が降っておる」
外が静かだったのもその為である。
「昼過ぎには白く積もろう」
この季節ならばすぐに解けてしまうが、と言い、元就は手を伸ばした。
「ほら、起きぬか」
ぺしぺし、と布から覗く元親の頬を軽く叩き、起床を促すが一向に効き目がない。
「そのまま冬眠する気か」
手をついて元親の顔を覗き込むと、床にうつ伏せとなって動かない元親の耳元へと囁きかける。
「寒くて死にそうだ」
ちらり、と顔を上げて、自分を見下ろす琥珀の瞳と視線を合わせると、手を伸ばして元就の腕を掴んだ。
そのまま床へと引き込んで抱き締めようとするが、するりと逃れる。
「これでもまだ寒いと申すか」
不服そうに元親が顔を上げようとした瞬間、元就はその頭を己の胸元へと抱え込んで捕まえた。
寝巻き越しに感じる柔らかな胸と首筋を撫でる手の感触に、思わず言葉もなく手を止めた。
「…あー、寒くて死にそうだ」
調子に乗って、細い腰へと腕を回してしがみ付くと、ぐりぐりと顔を胸元へと埋める。
「まるで童ではないか」
もう止さぬか、という制止の声を振り切り、首をぐっと持ち上げて襟元から覗く白い柔肌へと吸い付く。
「あ」
一瞬、艶めいた声が上がる。
それはまるで昨夜の情事を思い起こさせ、要らん所に熱がこもる。
「今日は雪が降ったからお休み、な?」
「これ、何を」
あんまり可愛い事をする元就が悪いんだと、適当な言い訳を並び立て、帯へと手を伸ばす。
そして、それを解こうとした瞬間。
「いかがされましたか、元就様」
締め切った戸の向こう、いつもより遅い時刻になっても起きてこない主を心配した側近が声を掛けてきた。
「………いや、大事ない」
すぐに向かう、といつもの冷徹な口調で答えると、固まったまま動かない元親の手をどかして体を起こす。
「そう拗ねるな、手が空けば相手をしてやろう」
確かにこの部屋は少々寒いな、と呟き、火鉢を用意するよう控えていた者へ命じた。
何事もなく去っていく後ろ姿を見送りながら、元親はへたりと脱力してその場に突っ伏した。
いつにない朝の寒さに戸を開けた元就は、ひらひらと目の前に舞い降りてきた雪片を掌へと受けた。
薄暗い雲に隠されて日輪を拝めないのは少々不満だと、小さく溜息をついた。
「おい、いつまで開けているんだよ」
隙間風が入って敵わねえ、とぼやく声に振り返り、元就の口元に笑みが浮かぶ。
「これはすまぬ」
ぴしゃり、と閉めると、床で不貞腐れている元親の傍へと座る。
「そなたも床から出てみたらどうだ」
体を動かせば寒さも和らごう、という彼女の顔を見上げ、元親は掛けていた布を被り直す。
「何だってこんなに寒いんだ」
「雪が降っておる」
外が静かだったのもその為である。
「昼過ぎには白く積もろう」
この季節ならばすぐに解けてしまうが、と言い、元就は手を伸ばした。
「ほら、起きぬか」
ぺしぺし、と布から覗く元親の頬を軽く叩き、起床を促すが一向に効き目がない。
「そのまま冬眠する気か」
手をついて元親の顔を覗き込むと、床にうつ伏せとなって動かない元親の耳元へと囁きかける。
「寒くて死にそうだ」
ちらり、と顔を上げて、自分を見下ろす琥珀の瞳と視線を合わせると、手を伸ばして元就の腕を掴んだ。
そのまま床へと引き込んで抱き締めようとするが、するりと逃れる。
「これでもまだ寒いと申すか」
不服そうに元親が顔を上げようとした瞬間、元就はその頭を己の胸元へと抱え込んで捕まえた。
寝巻き越しに感じる柔らかな胸と首筋を撫でる手の感触に、思わず言葉もなく手を止めた。
「…あー、寒くて死にそうだ」
調子に乗って、細い腰へと腕を回してしがみ付くと、ぐりぐりと顔を胸元へと埋める。
「まるで童ではないか」
もう止さぬか、という制止の声を振り切り、首をぐっと持ち上げて襟元から覗く白い柔肌へと吸い付く。
「あ」
一瞬、艶めいた声が上がる。
それはまるで昨夜の情事を思い起こさせ、要らん所に熱がこもる。
「今日は雪が降ったからお休み、な?」
「これ、何を」
あんまり可愛い事をする元就が悪いんだと、適当な言い訳を並び立て、帯へと手を伸ばす。
そして、それを解こうとした瞬間。
「いかがされましたか、元就様」
締め切った戸の向こう、いつもより遅い時刻になっても起きてこない主を心配した側近が声を掛けてきた。
「………いや、大事ない」
すぐに向かう、といつもの冷徹な口調で答えると、固まったまま動かない元親の手をどかして体を起こす。
「そう拗ねるな、手が空けば相手をしてやろう」
確かにこの部屋は少々寒いな、と呟き、火鉢を用意するよう控えていた者へ命じた。
何事もなく去っていく後ろ姿を見送りながら、元親はへたりと脱力してその場に突っ伏した。
「ああ見えて、元就様は雪合戦が大好きなんですよ」
知らなかったんですか、と火鉢を持ってきた側近は、益々顔を不機嫌そうに歪める元親を見てほくそ笑んだという。
知らなかったんですか、と火鉢を持ってきた側近は、益々顔を不機嫌そうに歪める元親を見てほくそ笑んだという。
(了)