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涼宮ハルヒの経営I 仮説4 古墳タイムトラベル

最終更新:

hiroki2008

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仮説4 古墳タイムトラベル

時間凍結の途中で史実にある盗掘や調査について書いていたのだが
文章量を削ったために採用されなかったシーン


石室は縦穴式に変更された
長門には特殊な映像が見えているということを示す


明かりがないので何も見えないが、隣に長門の体温があった。俺は小声で囁いた。
「長門、もう現代に戻ってきたのか」
「……まだ」
「今はいつだ?」
「……西暦でいうと、一八七二年」
ええと、いやでござんすペリーさん、じゃなくて、いちはやく憲法発布、くらいか。明治初期だな。
「まだ百四十年くらい早いぞ。なにかあったのか」
「……熱源が三つ。外に人がいる」
俺はじっと耳を澄ました。石に耳を当てると確かに小さな足音がする。ちょうど石室の上のようだ。
「この時代に誰だろう。発掘調査かな」
「……調べてくる」
長門は俺たちが寝ていた石棺の足元のほうにごそごそと移動し、消えた。この石棺は完全な箱で、確か四方とも塞がってるはずだが。壁を通り抜けたのか。
 数分して長門が戻ってきた。
「……台風で古墳の一部が崩れた。役人が調査に来ている」
「まずいぞ。ここが掘り起こされないか」
「……問題ない。情報操作で政府に発掘調査を禁止させた」
そういえば小学生の頃、社会見学でこの古墳に来たことがあるが、正面の拝所以外入れないようになっていた。確か宮内庁の命令とやらで長いこと立ち入り禁止になっているはずだが、そういうわけだったのか。発掘したら俺たちが寝てたなんてことになったら歴史の教科書がひっくり返ってしまうよな。
 耳を澄ましていたが、足音も次第に遠のいていった。
「……行った」
「あと百四十年だな。じゃあおやすみ」
「……おやすみ」
長門のゴニョゴニョいう呪文が小さく聞こえた。

暗転。

呪文の声がプツと途切れて、石棺の中の温度が変った。石の壁がやけに冷たい。俺は時間を越えたことに気がついた。
「なんだ?」
「……地震の初期微動を検知した」
「今いつごろだ?」
「西暦一九九五年」
「九五年っていうと……阪神淡路か!ほかの三人は大丈夫か」
「……」
長門は首を回してまわりの様子を探っているふうで、しばらく黙ってから答えた。
「……問題ない。このフィールドは地震にも十分耐える」
ちょうど俺の地元直下で起きた地震だ、あの日のことは忘れようにも忘れられない。俺はまだ子供で、何が起きたのか分からずただ親にくっついて避難していた。家の壁が崩れ、水も電気も止まり、小学校の体育館で数日を過ごした。
「どうする、一旦出て気象庁にでも警告してみるか。できるなら地震を止めてみるとか」
「……それはできない。大規模な時空の歪みによる災害には干渉してはいけない」
俺と長門は黙り込んだ。地震やら津波にはそれまでの歴史の流れを変えてしまうくらいの力がある。そこで死んだ人も、生き残った人も、すくなからず人生が変っているはずだ。朝比奈さんだって災害への干渉は禁止されているだろう。
「ともかく俺たちの時代に帰ろう。干渉できるのはそこだけだ」
「……そうする」

暗転。

「……起きて」
長門に揺すられて目が覚めた。今度はほんとに眠っていたらしい。長門がボソボソと耳元で囁いた。
「……当該時間に戻った」
「千六百年経ったのか」
「……そう。今、蓋を開ける」
長門は何トンもある石棺の蓋をゴゴゴゴと音を響かせて横にずらした。千六百年ぶりに吸う外の空気は、清々しいどころかカビ臭かった。俺は棺から出て手足を伸ばした。石の上で寝ると腰が痛くなる。石室は暗かったが、ひんやりとした空気が流れて出口の方に向かっている。長門は暗視できるらしく、俺の手を握って暗い石の通路を案内してくれた。
「これからどこに行くんだ」
「……ほかの三人を起こす」
石室はそれぞれ分かれていた。長門は古泉の入った石棺に向かって呪文を唱え、分厚い蓋を動かした。
「おはようございます。もう着いたんですか」
「ああ。二十一世紀だ」
真っ暗な部屋で二人の声が石壁に跳ね返って響いた。古泉は棺に入ったときのままの格好で背伸びをした。背伸びをするほどの時間も寝てたわけじゃあるまいに。
 朝比奈さんを起こした。目覚めに王子様のキスでもするやつがいればいいんだろうが、あいにくと俺も古泉もそこまではしなかった。
「TPDDの具合はどうですか」
「まだ戻らないみたい」
これからどうすればいいんだろう。未来に救援を求めるとか、あるいはほかの未来人、気分的に嫌だけど藤原とかに頼むとか。
「心配しないで。涼宮さんがタイムマシンを完成させれば戻れることになるから」
それはまあ、完成すればなんですが。

(ハルヒの目覚め)
 最後にハルヒの蓋を開けた。こいつを千六百年の眠りから起こすのかと思うと、ちょっと構えてしまう。まさか火を噴いたり暴れだしたりせんだろうな。
「え、もう終わったの?まだぜんぜん寝てないのに」
時間の概念が俺と似ているらしく、眠っている間に時間移動するものと思っていたらしい。起こされた三人とも、なんとなくぼんやりしているのは時差ぼけか。ここが二十一世紀だって実感がないからか。
「ともかく出よう」
「……そう」
石室の扉は厳重に封鎖してあるはずだ。江戸時代ごろに盗掘団が掘り起こそうとしたらしく、長門が埋めなおしたらしい。目の前にあるのは、数トンはあろうかという石の壁だ。俺と古泉が全力で押しても動かせるわけはない。長門が呪文を唱えようとしたのでハルヒの耳を塞いだ。
「なにすんのよキョン」
「なんでもないなんでもない。耳に虫がついてると思ったんだ」
こんな真っ暗な部屋でそんなもん見えるわけないが。
 石の真中に人が通れるくらいの穴がぽっかりと開いた。穴の出口に外からの弱い明かりが差し込んでいる。長門が手招きして全員を外に案内した。
 外は夜だった。何時ごろか分からないが、たぶん深夜だろう。俺たちは星空を見上げた。あのときの星座とは星の位置が若干違うはずだが、その差には気付かない程度だ。地平に目を下ろすと遠くに町の明かりが見える。俺たちの文明の光だ。やっと帰ってきたんだ。
「……はやく」
感慨に浸る暇もなく、長門がみなをせかした。森を抜けて大きな池に出た。これ古墳のまわりを囲っている濠だよな。長門はざぶざぶと水の中に入った。
「……泳いで」
そんな、十月とはいえこんな夜中の水は冷たくて風邪ひくぞ。長門はそんな心配もおかまいなしに先を進んでいく。あまり深くもないようだ。俺たちはずぶ濡れになりながら水草やら泥やらにまみれて泳いだ。陸に上がりまた茂みを越えて国道らしき道路に出た。
「今何時ですか?」
俺は電波時計を持っている朝比奈さんに尋ねた。
「ええと、午前二時です」
「寒いですね。タクシーを捕まえましょう」
古泉が歩道に立ってタクシーに手を振るが、どれも客を乗せており空車が通りかからない。ハルヒが大きくくしゃみをした。
「早く止まらないかしら、冷えてきたわ」
「この時間ですからね。新川さんを呼びましょう」
携帯の電池はとっくに切れているので、古泉は公衆電話から電話をかけた。
「三十分くらいで来てくれるそうです」
こんな夜中に足代わりに使わせて、まったく機関も新川さんもご苦労だな。
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