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吹寄「上条。その……吸って、くれない?」④ - (2011/09/10 (土) 19:03:10) の編集履歴(バックアップ)
456 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/09/10(土) 01:57:10.81 ID:PL/4xJCfo
「それじゃ、チャイムも鳴ったしこれで終わりにします」
起立、礼と日直が号令をかけ、小萌先生の退室を見送る。
これで上条のクラスは昼休みに突入した。延長もほとんどなかったので、晴れて昼休みを取れることになったのだが。
これで上条のクラスは昼休みに突入した。延長もほとんどなかったので、晴れて昼休みを取れることになったのだが。
「さ、さー昼飯昼飯っと」
シンと静まり返った教室に、白々しく上条の言葉が響く。
昼休みなのだ。もっと、普段ならみんなはしゃぎまわるし、煩くなるはずなのだが。
……明らかに、そういう気配はなかった。
昼休みなのだ。もっと、普段ならみんなはしゃぎまわるし、煩くなるはずなのだが。
……明らかに、そういう気配はなかった。
「なあカミやん。さっきは吹寄さんに邪魔されたけど」
トントンと静かな手つきで青髪がノートと教科書を整え、机に仕舞った。
周囲のクラスメイトも、青髪と心を同じくしているらしい。
周囲のクラスメイトも、青髪と心を同じくしているらしい。
「姫神さんとの関係について、ちゃんと喋ってもらおか」
コクリと、周囲が頷いて同調した。
遠めに姫神が戸惑っているのが分かった。
そりゃあそうだろう。たまたま知り合いである自分のいる学校に転校してきたからって、
まさかそれだけで好きな男の子を追っかけてきたとか、実は付き合ってるとか、
そういう噂を立てられたら迷惑に決まっている。
ちゃんと、否定するのも礼儀だとは思う。もちろん姫神に興味がない、というわけではないけれども。
……まあ、つい昨日から、興味を持ってはいけなくなったのだった。
遠めに姫神が戸惑っているのが分かった。
そりゃあそうだろう。たまたま知り合いである自分のいる学校に転校してきたからって、
まさかそれだけで好きな男の子を追っかけてきたとか、実は付き合ってるとか、
そういう噂を立てられたら迷惑に決まっている。
ちゃんと、否定するのも礼儀だとは思う。もちろん姫神に興味がない、というわけではないけれども。
……まあ、つい昨日から、興味を持ってはいけなくなったのだった。
「ほらカミやん、黙秘も事実を認めないのも、誰のためにもならへんよ」
「待て。ちょっと落ち着いて話をしよう」
「誰が興奮してるように見えるん?」
「興奮って言うかお前完全に自分の妄想を事実認定してるじゃねーか」
「……まさか、カミやんシラ切るつもり?」
「待て。ちょっと落ち着いて話をしよう」
「誰が興奮してるように見えるん?」
「興奮って言うかお前完全に自分の妄想を事実認定してるじゃねーか」
「……まさか、カミやんシラ切るつもり?」
すっと青髪の声に冷たい響きが混じる。
彼女なんているわけねーよ、なんて嘯きながら影でこっそり付き合う男と言うのは、
およそ人として最低の部類に入る。友好的な関係など、結ぶ余地はない。
そんな風に青髪は暗に宣告していた。
彼女なんているわけねーよ、なんて嘯きながら影でこっそり付き合う男と言うのは、
およそ人として最低の部類に入る。友好的な関係など、結ぶ余地はない。
そんな風に青髪は暗に宣告していた。
「シラを切るっていうか、姫神と付き合ってるって事実は否定しないと、姫神に悪いだろ」
「……」
「……」
なっ?と姫神に話を振ると、姫神はつまらなさそうな顔をした。
「確かに私は。この学校を選ぶ時に上条君がいるなんて知らなかった」
「で? 知らなかったけど、同じクラスメイトにまでなっちゃって、
急激に意識し始めて二人の距離は見る見るうちに……ってことなん?」
「違うよ。別に。その。私は。上条君とはなんでもないし」
「そうだぞ! っていうかそういう変な気持ちなんかお互い持ってないっての!
そういう邪推をするなよな、なあ姫神」
「で? 知らなかったけど、同じクラスメイトにまでなっちゃって、
急激に意識し始めて二人の距離は見る見るうちに……ってことなん?」
「違うよ。別に。その。私は。上条君とはなんでもないし」
「そうだぞ! っていうかそういう変な気持ちなんかお互い持ってないっての!
そういう邪推をするなよな、なあ姫神」
457 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/09/10(土) 01:57:46.87 ID:PL/4xJCfo
否定する姫神に便乗して、上条は青髪に食って掛かる。
カップル認定された人間の両サイドから青髪を攻め立てるつもりだったので、
再び上条は姫神にアイコンタクトを送った……のだが。
なんだか、姫神の顔がひどくつまらなそうだった。
表情には乏しいほうだが、それに輪をかけて醒めた感じと言うか。
カップル認定された人間の両サイドから青髪を攻め立てるつもりだったので、
再び上条は姫神にアイコンタクトを送った……のだが。
なんだか、姫神の顔がひどくつまらなそうだった。
表情には乏しいほうだが、それに輪をかけて醒めた感じと言うか。
「……姫神さん?」
「君は。もうちょっと人の気持ちを察する能力を身につけたほうが良いと思う」
「へ?」
「別に。私と上条君とはなんでもないけれど」
「けど、何だよ?」
「なんでもない。それより。もう一度言うけど。上条君と私は。別に付き合っているわけじゃないから」
「君は。もうちょっと人の気持ちを察する能力を身につけたほうが良いと思う」
「へ?」
「別に。私と上条君とはなんでもないけれど」
「けど、何だよ?」
「なんでもない。それより。もう一度言うけど。上条君と私は。別に付き合っているわけじゃないから」
大きな声ではなかったが、姫神はそうクラス中に伝えるように宣告し、
そして周りの視線を一切無視してお弁当箱を取り出し、昼食の準備を始めた。
いつになく強い姫神の主張に皆はちょっと戸惑ったらしかった。
青髪の煽りに乗せられて騒ぎ始めたクラスメイトだったが、
どうもそれが早とちりらしいということになって、またざわつき始めた。
そして周りの視線を一切無視してお弁当箱を取り出し、昼食の準備を始めた。
いつになく強い姫神の主張に皆はちょっと戸惑ったらしかった。
青髪の煽りに乗せられて騒ぎ始めたクラスメイトだったが、
どうもそれが早とちりらしいということになって、またざわつき始めた。
「またアイツの先走りか?」「青髪を信じるとかお前ゴシップを真に受けるタイプかよ」
「ってことは姫神はまだ相手ナシってこと?」「俺の春到来?」「それはねーわ」
「とりあえず声かけてみようかな」「俺こないだ二三言で会話打ち切られた」「俺も」「俺も」「皆一緒か」
「で、結局上条に彼女ができたって本当か?」「アイツは女子の気を引いといて放置する最悪なヤツだからなぁ」
「もしアイツが誰かと付き合えば空白を縫って俺が」「……止めろよ、そういう甘い期待をすると後が辛いぞ」
「まあ、上条に彼女が出来るとか、ねーだろ」「結局はそうだろうな」「発端は青髪だしな」
「ってことは姫神はまだ相手ナシってこと?」「俺の春到来?」「それはねーわ」
「とりあえず声かけてみようかな」「俺こないだ二三言で会話打ち切られた」「俺も」「俺も」「皆一緒か」
「で、結局上条に彼女ができたって本当か?」「アイツは女子の気を引いといて放置する最悪なヤツだからなぁ」
「もしアイツが誰かと付き合えば空白を縫って俺が」「……止めろよ、そういう甘い期待をすると後が辛いぞ」
「まあ、上条に彼女が出来るとか、ねーだろ」「結局はそうだろうな」「発端は青髪だしな」
空腹は食事以外への興味を薄れさせるいいスパイスだ。
四時間目という時間帯は、むしろ上条に好都合に働いたらしかった。
四時間目という時間帯は、むしろ上条に好都合に働いたらしかった。
「で、お前ら。お前昼飯は?」
「ボクはもう買かってあるよ」
「俺は弁当があるにゃー」
「ん、じゃあ俺パンでも買ってくるわ」
「……まさかカミやん、誰かと逢引?」
「っていうかお前はそういう迷惑な噂を撒き散らしておいて開き直るんじゃねーよ!」
「ボクはもう買かってあるよ」
「俺は弁当があるにゃー」
「ん、じゃあ俺パンでも買ってくるわ」
「……まさかカミやん、誰かと逢引?」
「っていうかお前はそういう迷惑な噂を撒き散らしておいて開き直るんじゃねーよ!」
きわどい反論をこなすのに冷や汗をかきつつ、上条は自然な素振りで教室を後にする。
姫神はもうそっぽを向いていて視線は会わなかったし、その近くに座る吹寄は、いつの間にかいなかった。
昼に会うことは、朝のうちに約束した事柄だ。
だからこの後上条はこっそりと吹寄と二人きりになりたいのだが、どうやって、それを成すか。
姫神はもうそっぽを向いていて視線は会わなかったし、その近くに座る吹寄は、いつの間にかいなかった。
昼に会うことは、朝のうちに約束した事柄だ。
だからこの後上条はこっそりと吹寄と二人きりになりたいのだが、どうやって、それを成すか。
「もっかい教室に戻って、顔を合わせるのは危ないな……」
クラスメイトの視線のなくなった廊下で、上条はそう思案する。
メールか電話で確認しようと思ったところで、大切なことに、気がついた。
メールか電話で確認しようと思ったところで、大切なことに、気がついた。
「俺……制理のアドレス、知らねーじゃん」
458 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/09/10(土) 01:58:53.23 ID:PL/4xJCfo
由々しき問題だった。
学生カップルの癖に、互いのアドレスを知らないなんて、間抜けもいいところだ。
携帯が役に立たない以上、自分の足で吹寄を探すほかない、と言うことになる。
学生カップルの癖に、互いのアドレスを知らないなんて、間抜けもいいところだ。
携帯が役に立たない以上、自分の足で吹寄を探すほかない、と言うことになる。
「見つかるか……?」
とりあえず、昼ごはんは用意するしかないので購買のパンを買いに行く。
そして腹が膨れる程度に見繕い、上条は吹寄を探してそのあたりをうろついた。
そして腹が膨れる程度に見繕い、上条は吹寄を探してそのあたりをうろついた。
「あいつ、弁当派ではなかったよな」
そして購買にも学食にもいなかった。すでに昼食を買ったのだろうか。
準備のいい吹寄のことだから、その可能性は高かった。
となると吹寄がいるのは、どこだろうか。そのまま、二人であれやこれやをできる場所だろうか。
正直に言って、上条にはその心当たりはほとんどなかった。
無闇に変なところには行かない性分なのだ。何があるかわからないし。
心当たりというか、吹寄と二人きりで過ごした場所と言うと、
保健室か、あの倉庫代わりの教室くらいしかないのだった。
その二箇所をとりあえず当たってみるかと早足になったところで、横から声をかけられた。
準備のいい吹寄のことだから、その可能性は高かった。
となると吹寄がいるのは、どこだろうか。そのまま、二人であれやこれやをできる場所だろうか。
正直に言って、上条にはその心当たりはほとんどなかった。
無闇に変なところには行かない性分なのだ。何があるかわからないし。
心当たりというか、吹寄と二人きりで過ごした場所と言うと、
保健室か、あの倉庫代わりの教室くらいしかないのだった。
その二箇所をとりあえず当たってみるかと早足になったところで、横から声をかけられた。
「随分と挙動不審に見えるけど? 上条」
「え……先輩?」
「え……先輩?」
廊下の窓際に背中を預け、豊かな胸元の下で腕を組んだ、上条の先輩。
雲川がニヤニヤと上条を見つめていた。
手には上条と同じパンの入った袋が下げられているので、あちらも昼食を買ったところなのだろう。
雲川がニヤニヤと上条を見つめていた。
手には上条と同じパンの入った袋が下げられているので、あちらも昼食を買ったところなのだろう。
「先輩、購買のパン食べるんですね」
「珍しい行動なのは認めるけど。時々、この学校臭い垢抜けなさが恋しくなるんだ」
「普通の揚げきな粉パンをそこまで貶しますか」
「愛情の裏返しだよ。何もストレートだけが恋愛のアプローチじゃない」
「はあ」
「珍しい行動なのは認めるけど。時々、この学校臭い垢抜けなさが恋しくなるんだ」
「普通の揚げきな粉パンをそこまで貶しますか」
「愛情の裏返しだよ。何もストレートだけが恋愛のアプローチじゃない」
「はあ」
なんというか、話がかみ合っているようでかみ合ってなかった。
というか常識的な上条の対応に取り合う気がないらしかった。
この聡明な先輩は、おそらくやろうと思えばそんなことは簡単に出来るのだろうが。
というか常識的な上条の対応に取り合う気がないらしかった。
この聡明な先輩は、おそらくやろうと思えばそんなことは簡単に出来るのだろうが。
「それで、あちこちキョロキョロとしているのはどうしてなんだ?」
「え? いや、まあその」
「……どの女だ?」
「へ? てか先輩! どういう目で俺を見ているんですか」
「どうもこうも、極めて純正でフェアな目で見ているよ。時々悔しくなるがね」
「悔しいってなんでですか」
「え? いや、まあその」
「……どの女だ?」
「へ? てか先輩! どういう目で俺を見ているんですか」
「どうもこうも、極めて純正でフェアな目で見ているよ。時々悔しくなるがね」
「悔しいってなんでですか」
459 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/09/10(土) 01:59:26.64 ID:PL/4xJCfo
この先輩は、基本的に上条をブンブン振り回して遊ぶタイプの人だった。
会った瞬間から、なんとなく不安を感じている。
だが、そんな不遜な雲川の態度が、一瞬だけ、揺らいだ。
上条にもなんとなくしか分からない隙だった。
会った瞬間から、なんとなく不安を感じている。
だが、そんな不遜な雲川の態度が、一瞬だけ、揺らいだ。
上条にもなんとなくしか分からない隙だった。
「今日の夜、パーティがあるんだ」
「はあ」
「私には、エスコートしてくれる男性がいない」
「……先輩、もてるでしょ?」
「侍らせたい男にはもてないよ。私は高望みなほうだからな」
「はあ」
「上条。夜は、暇か?」
「はあ」
「私には、エスコートしてくれる男性がいない」
「……先輩、もてるでしょ?」
「侍らせたい男にはもてないよ。私は高望みなほうだからな」
「はあ」
「上条。夜は、暇か?」
ニッと雲川が笑う。仮に吹寄がいなくても、断りの言葉は口にしただろう。
そう言う場所が似合う柄じゃないし、先輩のエスコートなど到底こなせないから。
だが、そういう事情に加えて、断らなければならない理由は、ちゃんとある。
そう言う場所が似合う柄じゃないし、先輩のエスコートなど到底こなせないから。
だが、そういう事情に加えて、断らなければならない理由は、ちゃんとある。
「時間は、あります」
「そうか、それじゃ」
「でも、いけません」
「……どうして?」
「雲川先輩とは、なんでもない関係なので、そういうことは出来ないです」
「……」
「そうか、それじゃ」
「でも、いけません」
「……どうして?」
「雲川先輩とは、なんでもない関係なので、そういうことは出来ないです」
「……」
雲川は、それ以上言い返さなかった。
聡明な人だから、もっと上条を困らせることは出来ただろうけれど。
聡明な人だから、もっと上条を困らせることは出来ただろうけれど。
「お前、落ち着いたな」
「へ?」
「台風に手を突っ込む立場の人間ではない、なんて気取っていたのが莫迦だったのかもしれないな」
「いや、言ってる意味全然分からないんですけど。どういうことですか?」
「へ?」
「台風に手を突っ込む立場の人間ではない、なんて気取っていたのが莫迦だったのかもしれないな」
「いや、言ってる意味全然分からないんですけど。どういうことですか?」
なんでもないよと雲川は手を振り、なにやら鈍重そうな体つきで、ふらふらと上条から距離をとった。
背中越しにポツリとこぼす。
背中越しにポツリとこぼす。
「恋人のいるお前に、私はそれを言えないよ」
「えっ?」
「吹寄は保健室の前にいたぞ。じゃあな」
「えっ?」
「吹寄は保健室の前にいたぞ。じゃあな」
ひらひらと手を振る雲川を、上条は呆然と見送った。
吹寄との関係はせいぜい小萌先生くらいにしか、知られていないはずだったのだが。
ハッと我に帰って、吹寄を待たせるわけにも行かないからと上条は早足でそこを後にした。
吹寄との関係はせいぜい小萌先生くらいにしか、知られていないはずだったのだが。
ハッと我に帰って、吹寄を待たせるわけにも行かないからと上条は早足でそこを後にした。