自分用SSまとめ
06 僕の友達
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meteor089
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06 僕の友達
鏡に映ったその顔は、酷く歪んで見える。
ひっでぇ顔だなぁ、誰だよこれ。あ、オレか。
小さい頃から「天からの使いのような美しさ」と、もてはやされてきたオレとは思えないね。
「ククール、そろそろ行くよ。早くしないと……ゼシカを見失なうかもしれないし……」
宿に備え付けてある鏡を見ていたオレの後ろから、エイトが声をかけてきた。
「ああ、悪ぃな。もうすぐ終わるよ」
そう言いながらオレは、解いていた髪をいつものように首元で結わえた。
オレたちは突然消えたゼシカの後を追い、サザンビークの宿を出て北の関所を目指してた。
ゼシカに追いつきたいっていう気持ちがあるせいか知らないけど、
心なしかいつもよりみんなの歩みが速くなっていたように思ったよ。
関所までは予想以上に距離があってね、トロデ王の「あーっ、疲れたわい!!
ミーティアも喉が渇いてるようだし……ワシはひと休みするぞ!」っていう一声で、
途中で休憩を取ることになったんだ。
トロデ王は……本当に疲れてたってこともあったんだろうけど、
オレたちの雰囲気が暗かったんで、少し休ませようとして気を遣ったんだと思う……多分ね。
吊り橋を渡った先に丁度広い草むらがあったんで、そこを休憩場所にすることにしたんだ。
トロデ王はミーティア姫に水を飲ませるために、近くを流れている川へ足早に駆けていった。
ヤンガスは「アッシはちょいとひと眠りするでがす……」と言って、木陰で一人、眠り始めている。
オレとエイトは、大きな岩を椅子代わりにして、向かい合って座った。
岩に座ったまま、下を向いてじっとしていたら、突然もやもやした感情の塊が
胸の奥から沸き上がって来やがったんだ。
何だよこれ。痛てぇよ。
オレはこの妙な痛みから気を紛らわせようと、目の前にいるエイトの顔をちらっと見た。
エイトもあまり元気そうな顔はしていない。
ま、サザンビークのバカ王子に付き合わされてた時から、どうも不機嫌そうな感じはあったけどな。
でも、ふしぎな泉でミーティア姫に会った時は、エイトはいつもの笑顔を取り戻していた。
オレから見ててもさ、ふしぎな泉でエイトとミーティア姫様が話している姿は、
何だか忘れ難いものがあったんだ。
……別にミーティア姫に見とれてたわけじゃねーよ。
二人がさ、あんなに仲がいいとは思ってなかったんだ、オレは。
何だかんだ言ったって、あの二人は主従関係にあるわけだろ?
それなのにさ、目上と目下の関係でもなさそうだし、単なる幼馴染っていう感じでもなくって……。
こんなこと言っていいのか判らないけど、おそらく二人はさ、お互いのことを好きなんだろうなぁ……。
そんなことを考えていたら、痛みが少し遠のいていたんだ。
ああ、よかった。額に少し汗が滲んでるのが判る。
オレがガラスのボトルで水を飲もうとしたら、エイトが話しかけてきた。
「……ゼシカは僕らより年下だけど、すごくしっかりしてるから……大丈夫だと思うよ」
「……そうだな。オレも大して心配はしてねぇよ」
「ほんとに……そう思ってる?」
エイトは確認するかのように、オレの顔を覗き込んでくる。
「ああ、本当だよ」
……自慢じゃないけどな、オレはこういう小さい嘘つくの、苦手なんだよ。
そんなオレを見て、エイトは突然カバンの中をゴソゴソとまさぐり始めた。
「ねぇククール、これ食べてみない?」
エイトはカバンから、真っ赤なりんごを一つ取り出した。
「さっきそこの森の中で見つけたんだー。なかなか美味しそうだから、食べてみようよ!
えーっと……ゼシカのブロンズナイフを借りようっと」
道具袋の中からナイフを取り出し、エイトはまるで機械のようにするするとりんごの皮を剥き始める。
その手さばきがあんまり見事なもんで、オレはボーっと見とれてしまった。
「上手いもんだなぁ」
オレは感心して、思わず声を上げた。
「近衛兵になるまでは、ずっと城の厨房で雑用係やってたんだ。
ジャガイモなんて毎日100個近く剥いてたからね~」
エイトはりんごから目を離さずに答えた。
「なぁエイト……お前さぁ、ミーティア姫様があのチャゴス王子と結婚することに、何も感じないのか?」
「……『何も』って……例えばどんなこと?」
エイトにしては珍しいな。オレの質問にしらばっくれてやがる。
「ふしぎな泉でお前と姫様が話してるのを見て、あんまり仲が良さそうだったから、さ」
オレがそう言ったとたん、エイトの顔色が変わったのが判った。
「止めてくれよ!僕と姫様が仲いいなんて言うのは!!」
エイトは声を荒げ、言葉を続けた。
「……姫様の名前に傷が付くじゃないか……こんな出自も判らない一兵士と仲がいいなんて……」
ナイフの動きを止めてそう語るエイトは、まるで全てを諦めようとしているように見えた。
「バカ、変な意味で取るなよ。お前と姫様は幼馴染のように育ったんだろ?
そういう意味だよ、仲がいいってのは」
オレの言葉を聞いて、エイトははっと我に返ったようにナイフを再び動かし始めた。
「ごめんごめん。……姫様の結婚は……すごくいいご縁だと思うよ。トロデーン王国とサザンビーク王国は
この世界ではどちらも一、二を争う大国だし……僕ごときが口に出来る話じゃないんだよ」
「ふーん……でもさ、姫様はお前と話せて、すごく嬉しそうだったな」
「そうかな?」
「オレには、そう見えたよ」
オレの言葉に、エイトは少しはにかんだようだった。
「うーん……そりゃねー、ミーティア姫様と僕は全然住む世界の違う人間なんだけど、姫様はずっと僕の……」
そこまで言うと、エイトは突然言葉を止めた。
馬の蹄の音が微かに聞こえて来る。
おそらくトロデ王とミーティア姫が帰ってきたんだろう。
一拍置いて、エイトは慌てるように言葉を続けた。
「……姫様は僕の……友達だから、ね」
友達、か。都合のいい言葉だな。
なぁエイト、お互いもっと上手く嘘をつけるようになろうぜ?
オレは岩の上から立ち上がり、歩み寄ってエイトの頭をポンポンと軽く撫でた。
「お前はおりこうさんだよ、エイト。でもなぁ、心にも無いことを言ったり嘘ついたりすると、
ダンビラムーチョに舌抜かれるんだぜ?知ってるか?」
「ほ、本当でがすかっ!!」
オレの言葉に反応したのは、寝起きのヤンガスだった。
「あわわわ……どうしよう……。あ、兄貴!アッシは昔、ゲルダに一つ大嘘をついていたでがすよ!!!
今懺悔したら、アッシの舌は無事で済むんでがすかねぇぇぇぇぇ!!!!」
慌てふためくヤンガスを見て、オレは笑いを堪えるのに必死だった。
エイトもヤンガスから顔を背けて、肩を震わせて笑ってる。
「まぁまぁヤンガス、落ち着いて。ほら、りんごが剥けたからみんなで食べようよ。はい、これククールの分!」
そう言って、エイトはオレに四分の一に切ったりんごを手渡した。
オレは手渡されたりんごを思いっきり噛み締めてみる。
すると、思ってた以上に甘くって、さっき痛んでた胸の奥にじんわり染み込んでいった。
その時、気がついたんだよ。
オレは今――すごく傷ついてるんだなぁって。
バカだよな、気づくのが遅いったらありゃしない。
――ゼシカ、お前がいなくなったおかげで、オレはどうしようもなく傷ついてるんだぜ?
どうしてくれるんだよ。
早くここへ来て、いつものように「ごめん!」って笑って謝れよ……。
そういえばお前、確かドルマゲスを倒した時に
「ドルマゲスを倒しても、兄さんが帰ってくるわけじゃない」「虚しい」って言ってたよな?
――本当にその通りだよ。オレだって虚しかったさ。
ドルマゲスを倒したところで、オディロ院長は生き返るわけでもないし、
オレの人生が180度好転するわけでもない。
しかも実際、トロデのおっさんと馬姫様の呪いは解けやしなかった。
この旅はいったい何のためだったんだ?って思ったよ。
オレの人生はつくづく面倒くさい……ってな。
でも、オレはそれでもこの旅を続けようと決心したんだぜ?
オレは――お前が兄さんのカタキをちゃんと討つまでは、絶対に旅を止めないだろうと思ってたから……。
いいか、よく聞けよ、ゼシカ。
お前がいなくなったのは、きっとお前の意思じゃない。そうだろ?
じゃなきゃ、お前がオレたちに何も言わずにいなくなったりする訳がない。
だとしたら、お前がいなくなったのは、お前の変化に気づかなかったオレたちの責任だ。
だから、オレは絶対にお前を探し出す。
たとえお前が、オレを必要としていなくても――。
ひっでぇ顔だなぁ、誰だよこれ。あ、オレか。
小さい頃から「天からの使いのような美しさ」と、もてはやされてきたオレとは思えないね。
「ククール、そろそろ行くよ。早くしないと……ゼシカを見失なうかもしれないし……」
宿に備え付けてある鏡を見ていたオレの後ろから、エイトが声をかけてきた。
「ああ、悪ぃな。もうすぐ終わるよ」
そう言いながらオレは、解いていた髪をいつものように首元で結わえた。
オレたちは突然消えたゼシカの後を追い、サザンビークの宿を出て北の関所を目指してた。
ゼシカに追いつきたいっていう気持ちがあるせいか知らないけど、
心なしかいつもよりみんなの歩みが速くなっていたように思ったよ。
関所までは予想以上に距離があってね、トロデ王の「あーっ、疲れたわい!!
ミーティアも喉が渇いてるようだし……ワシはひと休みするぞ!」っていう一声で、
途中で休憩を取ることになったんだ。
トロデ王は……本当に疲れてたってこともあったんだろうけど、
オレたちの雰囲気が暗かったんで、少し休ませようとして気を遣ったんだと思う……多分ね。
吊り橋を渡った先に丁度広い草むらがあったんで、そこを休憩場所にすることにしたんだ。
トロデ王はミーティア姫に水を飲ませるために、近くを流れている川へ足早に駆けていった。
ヤンガスは「アッシはちょいとひと眠りするでがす……」と言って、木陰で一人、眠り始めている。
オレとエイトは、大きな岩を椅子代わりにして、向かい合って座った。
岩に座ったまま、下を向いてじっとしていたら、突然もやもやした感情の塊が
胸の奥から沸き上がって来やがったんだ。
何だよこれ。痛てぇよ。
オレはこの妙な痛みから気を紛らわせようと、目の前にいるエイトの顔をちらっと見た。
エイトもあまり元気そうな顔はしていない。
ま、サザンビークのバカ王子に付き合わされてた時から、どうも不機嫌そうな感じはあったけどな。
でも、ふしぎな泉でミーティア姫に会った時は、エイトはいつもの笑顔を取り戻していた。
オレから見ててもさ、ふしぎな泉でエイトとミーティア姫様が話している姿は、
何だか忘れ難いものがあったんだ。
……別にミーティア姫に見とれてたわけじゃねーよ。
二人がさ、あんなに仲がいいとは思ってなかったんだ、オレは。
何だかんだ言ったって、あの二人は主従関係にあるわけだろ?
それなのにさ、目上と目下の関係でもなさそうだし、単なる幼馴染っていう感じでもなくって……。
こんなこと言っていいのか判らないけど、おそらく二人はさ、お互いのことを好きなんだろうなぁ……。
そんなことを考えていたら、痛みが少し遠のいていたんだ。
ああ、よかった。額に少し汗が滲んでるのが判る。
オレがガラスのボトルで水を飲もうとしたら、エイトが話しかけてきた。
「……ゼシカは僕らより年下だけど、すごくしっかりしてるから……大丈夫だと思うよ」
「……そうだな。オレも大して心配はしてねぇよ」
「ほんとに……そう思ってる?」
エイトは確認するかのように、オレの顔を覗き込んでくる。
「ああ、本当だよ」
……自慢じゃないけどな、オレはこういう小さい嘘つくの、苦手なんだよ。
そんなオレを見て、エイトは突然カバンの中をゴソゴソとまさぐり始めた。
「ねぇククール、これ食べてみない?」
エイトはカバンから、真っ赤なりんごを一つ取り出した。
「さっきそこの森の中で見つけたんだー。なかなか美味しそうだから、食べてみようよ!
えーっと……ゼシカのブロンズナイフを借りようっと」
道具袋の中からナイフを取り出し、エイトはまるで機械のようにするするとりんごの皮を剥き始める。
その手さばきがあんまり見事なもんで、オレはボーっと見とれてしまった。
「上手いもんだなぁ」
オレは感心して、思わず声を上げた。
「近衛兵になるまでは、ずっと城の厨房で雑用係やってたんだ。
ジャガイモなんて毎日100個近く剥いてたからね~」
エイトはりんごから目を離さずに答えた。
「なぁエイト……お前さぁ、ミーティア姫様があのチャゴス王子と結婚することに、何も感じないのか?」
「……『何も』って……例えばどんなこと?」
エイトにしては珍しいな。オレの質問にしらばっくれてやがる。
「ふしぎな泉でお前と姫様が話してるのを見て、あんまり仲が良さそうだったから、さ」
オレがそう言ったとたん、エイトの顔色が変わったのが判った。
「止めてくれよ!僕と姫様が仲いいなんて言うのは!!」
エイトは声を荒げ、言葉を続けた。
「……姫様の名前に傷が付くじゃないか……こんな出自も判らない一兵士と仲がいいなんて……」
ナイフの動きを止めてそう語るエイトは、まるで全てを諦めようとしているように見えた。
「バカ、変な意味で取るなよ。お前と姫様は幼馴染のように育ったんだろ?
そういう意味だよ、仲がいいってのは」
オレの言葉を聞いて、エイトははっと我に返ったようにナイフを再び動かし始めた。
「ごめんごめん。……姫様の結婚は……すごくいいご縁だと思うよ。トロデーン王国とサザンビーク王国は
この世界ではどちらも一、二を争う大国だし……僕ごときが口に出来る話じゃないんだよ」
「ふーん……でもさ、姫様はお前と話せて、すごく嬉しそうだったな」
「そうかな?」
「オレには、そう見えたよ」
オレの言葉に、エイトは少しはにかんだようだった。
「うーん……そりゃねー、ミーティア姫様と僕は全然住む世界の違う人間なんだけど、姫様はずっと僕の……」
そこまで言うと、エイトは突然言葉を止めた。
馬の蹄の音が微かに聞こえて来る。
おそらくトロデ王とミーティア姫が帰ってきたんだろう。
一拍置いて、エイトは慌てるように言葉を続けた。
「……姫様は僕の……友達だから、ね」
友達、か。都合のいい言葉だな。
なぁエイト、お互いもっと上手く嘘をつけるようになろうぜ?
オレは岩の上から立ち上がり、歩み寄ってエイトの頭をポンポンと軽く撫でた。
「お前はおりこうさんだよ、エイト。でもなぁ、心にも無いことを言ったり嘘ついたりすると、
ダンビラムーチョに舌抜かれるんだぜ?知ってるか?」
「ほ、本当でがすかっ!!」
オレの言葉に反応したのは、寝起きのヤンガスだった。
「あわわわ……どうしよう……。あ、兄貴!アッシは昔、ゲルダに一つ大嘘をついていたでがすよ!!!
今懺悔したら、アッシの舌は無事で済むんでがすかねぇぇぇぇぇ!!!!」
慌てふためくヤンガスを見て、オレは笑いを堪えるのに必死だった。
エイトもヤンガスから顔を背けて、肩を震わせて笑ってる。
「まぁまぁヤンガス、落ち着いて。ほら、りんごが剥けたからみんなで食べようよ。はい、これククールの分!」
そう言って、エイトはオレに四分の一に切ったりんごを手渡した。
オレは手渡されたりんごを思いっきり噛み締めてみる。
すると、思ってた以上に甘くって、さっき痛んでた胸の奥にじんわり染み込んでいった。
その時、気がついたんだよ。
オレは今――すごく傷ついてるんだなぁって。
バカだよな、気づくのが遅いったらありゃしない。
――ゼシカ、お前がいなくなったおかげで、オレはどうしようもなく傷ついてるんだぜ?
どうしてくれるんだよ。
早くここへ来て、いつものように「ごめん!」って笑って謝れよ……。
そういえばお前、確かドルマゲスを倒した時に
「ドルマゲスを倒しても、兄さんが帰ってくるわけじゃない」「虚しい」って言ってたよな?
――本当にその通りだよ。オレだって虚しかったさ。
ドルマゲスを倒したところで、オディロ院長は生き返るわけでもないし、
オレの人生が180度好転するわけでもない。
しかも実際、トロデのおっさんと馬姫様の呪いは解けやしなかった。
この旅はいったい何のためだったんだ?って思ったよ。
オレの人生はつくづく面倒くさい……ってな。
でも、オレはそれでもこの旅を続けようと決心したんだぜ?
オレは――お前が兄さんのカタキをちゃんと討つまでは、絶対に旅を止めないだろうと思ってたから……。
いいか、よく聞けよ、ゼシカ。
お前がいなくなったのは、きっとお前の意思じゃない。そうだろ?
じゃなきゃ、お前がオレたちに何も言わずにいなくなったりする訳がない。
だとしたら、お前がいなくなったのは、お前の変化に気づかなかったオレたちの責任だ。
だから、オレは絶対にお前を探し出す。
たとえお前が、オレを必要としていなくても――。