『ドラなの』第8章「いざ、次元空間へ」


「いったいなにがあったの?」

疲弊した様子で床にへたり込んでしまったはやてに、のび太が心配そうに聞く。

「それが・・・・・・」

──────────

魔力サージ直後

「どうなっとるん!?」

守護騎士達と共に食堂にて待機していたはやては、全く状況がわからなくなっていた。
艦隊と合流したかと思えば、一緒にいたなのは達にアースラの直掩命令が下り、何事かもわからないうちに電源がダウンしてしまった。

「主はやて、大丈夫ですか?」

非常灯に照らし出されるシグナムが、その手にデバイスを待機させながらこちらの安全を確認して来た。

「私は大丈夫や。でも、この魔力サージは・・・・・・」

電灯が落ちる寸前に感じた、どこか懐かしく、しかし今感じるにはおかしい力の波動に言葉が濁る。

「間違いなく夜天の魔導書でしょうね」

すでに騎士甲冑を纏ったシャマルが、恐れていたその名を口にする。
この中で最も魔力に対する高い感知能力を持つ彼女が言うのだ。間違いない。
騎士達は瞬時に甲冑を纏って主の安全を確保するように周りに展開して警戒する。
すると沈黙が支配していた食堂に明かりが戻った。しかし同時に第一級の緊急事態を告げるレッドアラートの警報が鳴り響き、事態の深刻さを声高に叫ぶ。

「一体なにが起こっているというの・・・・・・?」

惚けたようなシャマルのつぶやきに、彼女らの視線がそちらへと注がれる。そこには電源とともに機能を回復した窓に、外の様子が投影されていた。
薄暗い次元空間をバックに、アースラの2倍もあるような次元航行艦が大写しとなっていたが、その青白く塗装された外壁は、ツタのように伸びる茶色い触手が覆っていた。

「そんな・・・・・・サージ前と位置関係が変わらなかったとしたら、あれは第3艦隊の旗艦だぞ!?」

現場の人間としてその艦の力を知っているらしいシグナムは、驚きを隠せない。
しかしツタによって主要な固定兵装を封印され、ツタ排除のため苦渋の選択か、友軍魔導士の魔力砲撃をその身に受ける戦艦は、どうしようもなく無力な存在に見えた。
その時、

「我が名は大魔王デマオン・・・・・・」

突然窓と自分達の間に現れた影に、騎士達は一斉にそれぞれの得物を手に向き直る。

「今回の事件、貴様が黒幕か!?」

「・・・・・・その通り。そして君達は遂に忌々しきナルニアデスの夜天歴程の場所を探り当ててくれた。礼を言おうぞ」

シグナムの剣幕にも何処かの暗黒卿のような外套を纏った影はまったく動じず、いっそ愉快そうに言葉を紡いだ。すかさずシャマルが質問を繰り出す。

「その歴程は夜天の魔導書の破壊方法が書かれている書のはず。そんなものを使って何をするつもりなんですか!?」

「ふん、そんなもの遥か昔、ナルニアデスによって阻止された我が野望の成就。それだけだ!」

「野望って何をする気や!?」

「ほぅ、お前が魔導書の現管理者か・・・・・・それに免じて教えてやろう。我が野望は、真なる魔界の創生!」

「マカイってなんだよ?」

名詞から意味を繋げられなかったらしいヴィータが問うが、大魔王にはどうでも良かったようだ。

「人間の世はもうすぐ終焉を迎える!これからは我らが"悪魔族"が、貴様ら愚かな人間共を蹂躙するのだ!」

叫ぶとともにその身を包んでいた某宇宙戦争の暗黒卿の外套が吹き飛び、その恐ろしい姿を現した。
全身隈なく暗黒色に統一され、頭には鬼を思わせる2本の角。そして体格も空想上の鬼と言っても過言でない威様を誇る。そして何より、彼の纏った圧倒的熱量を生み出す黒い炎は自分達の潜在意識に恐怖を呼び起こした。
一般人は尻込みしてしまうだろう神話に登場しそうな大魔王を前に、主を守ると誓った守護騎士達は一歩も引かず対峙する。

「ふん、意気はよし。だが、実力が伴わねばな!」

大魔王は腕を一振りすると、纏っていた炎を放って来る。

「ハァ!!」

気合いと共に放たれたシグナムの斬撃が、その炎を容易く打ち消す。しかし敵の本命は炎ではなかったようだ。

「まずは小手調べと行こうか・・・・・・」

何時の間にか出現した4体の魔物。一見人間に似た容姿をしているが、その肌は黒色で、目は赤く、とがった耳と、とがった歯を有する裂けた口を持っていた。頭部には特徴的な三角帽子に、星2つが3体、星3つが1体それぞれ描かれている。見たところ、人間で言う階級を現しているようだった。

「やれ」

「御意」

大魔王の命に3つ星悪魔が恭しく頭を垂れると、配下をともなって突撃してくる。
守護騎士達は間髪入れずに主の前に出て、その身を盾に交戦を始めた。
特に得物を持っていないように見えた悪魔達だが、その身体は強靭で、シグナムの斬撃も、ヴィータのハンマーも、人間型になったザフィーラの徒手空拳も、どれも期待した効果を発揮せずに受け止められた。
だが騎士達は、まだ単なる物理攻撃以上の事はしていない。

「「カートリッジロード!」」

シグナムとヴィータのデバイスから空のカートリッジが飛び出し、シャマル、ザフィーラ達と共に魔力が彼らの攻撃に付加効果を施す。結果、拮抗は簡単に解消され、ある者は炎熱変換された炎で、ある者は質量増加したハンマーで、ある者は地面から出現した氷柱に貫かれて絶命していった。

「・・・・・・ふむ、噂通り実力も申し分ないか。見ての通り我らは物理攻撃には強いが魔力攻撃には弱くてね」

「ならば、喧嘩を売る相手を間違えたな。私は時空管理局地上部隊所属、陸士108部隊のシグナムだ。貴様を危険魔法使用及び公務執行妨害で逮捕する!」

シグナムにヴィータが敵を確保せんと一歩踏み込む。しかし次の瞬間、大魔王を名乗る敵は爆発するように消えた。

「自爆!?」

「いや・・・・・・」

シャマルの驚きをヴィータが否定すると、念話で魔王の声が響いた。

『(あとしばらくの自由だ。精々謳歌するがいい!その時が来れば、貴様ら人間の世は終わり、我ら悪魔族の時代となるであろう!)』

捨て台詞のような言葉を残して、大魔王の気配が消える。どうやら当面の危機は脱したようだった。しかし局地戦に勝利したところで喜んではいられない。
奴は艦隊に攻撃をかけ、今にも艦隊を瓦解させようとしているのだ。だが、時空管理局は座して敗北を待つほど愚かではなかった。

「ん?動き出したみたいだぞ」

ヴィータの呟きを肯定するように、窓に映る第3艦隊旗艦『クレイトス』の後方から小さくも力強い推進炎が吹き出し、その巨体を震わす。推進ノズルを覆っていたツタ状の触手が力任せに焼き切られ、ゆっくりと。だが、だんだんと速くに。
こうしてそれなりの巡航速度を得た艦体は、窓から見える範囲から消えて行った。

『全艦、対ショック態勢!本艦は艦隊の空間より緊急離脱する!』

船内アナウンスが警告を発し、窓の外の景色が歪む。シールド周波数を変更したことで艦隊のシールドが形成する宇宙からはアースラは異物となり、空間が強制的に排除しようとしているのだ。
通常推進とは比較にならない加速度に艦の慣性制動装置がついに屈する。引っ叩かれたように床が進行方向へ吹き飛び、その場にとっさに伏せていたはやて達に大きな慣性が襲う。
それに必死に耐えていると、窓が突如として莫大な光を発し、クレイトス最後の抵抗を伝えた。

──────────

「こうして取り敢えずは悪魔族の連中から逃げたんやけど、結局艦隊には沈めることができなかったみたいで、今もアースラは交戦しつつ逃げまくっとる。でも逃げるだけじゃいつか捕まるっちゅうことで、私だけここに逃げてきたんや」

はやての全身に残る煤や切り傷、そしてずっと後生大事に抱えていたのだろう、夜天の魔導書を抱く腕は、力が入りすぎて青白くなっていた。それだけ見てもアースラの逃走劇が恐ろしく苛烈な物であることが伝わった。

「ごめんな、2人まで巻き込んでまって・・・・・・」

「やれやれ」

のび太がドラえもんに肩をすくめて見せる。ドラえもんもまた、同じ動作を返した。事情はともかく、厄介な事柄なのは確かだった。

「ユーノくんが見つけた夜天歴程を探し出せば、夜天の魔導書を破壊するだけじゃなくて、大魔王デマオンの野望を阻止する方法もわかる!それを持って魔界星に乗り込めば・・・・・・」

「魔界星?」

まったく初耳の名称にのび太とドラえもんが反応する。はやては

「まだ話しとらんかったっけ?」

と戸惑うと、一通りの説明をしてくれた。
アースラでの逃避行中に大魔王デマオンから聞き出したことだが、次元空間に魔界星という悪魔族に守られた人工の要塞があるらしい。そこでデマオンの野望の最終フェイズ、魔界の創生を行うという。具体的には魔導書のパワーを使った悪魔達の強化と拡散である。成功した暁には強化された悪魔族の住む魔界が新たな次元世界として誕生し、次元空間を自由に渡って各次元世界への侵略を行うらしい。

「大魔王デマオンを倒さない限り、魔導書無しでも時間をかけて、他の方法で彼らは必ずここ(第97管理外世界)へもやってくる!それに、置いてきたみんなを助けな・・・・・・!」

「「んん・・・・・・」」

なんだか話が大きくなってきたな・・・・・・とのび太達は難しい顔でお互いを見合わせる。

「お願いや、二人とも、力を貸して!」

話の流れからいえば当然の要請だが・・・・・・

「いきなりそんな恐ろしいこと言われても・・・・・・」

何と言ってもドラえもんすら任せておけば大丈夫だと思っていた、時空管理局の艦隊が敵わなかった相手なのだ。

「ああ!いや行かないとは言ってないよ!まだ・・・・・・」

どうしても尻込みしてしまう。ドラえもんの方も

「うんうん」

と無難な、しかし焦ったような相槌をうつ。
正直なところ、どうやって角の立たないように断ろうと考えているところだろう。その気の動転の様はセールスマンをどうやって追い払おうか考えている時によく似ていた。と言っても見捨てたいというわけもない。はやては大切な友人で、まだ知り合って間もないが、なのは達にも強い絆を感じる。ただ・・・・・・

「ただ・・・・・・たった3人で何ができるのかなって・・・・・・」

最大の不安が頭をもたげる。そう、時空管理局という大きな組織が敵わなかった相手。それも悪魔のような連中だと言う。それだけでも忌避するに足る要素でもあった。

「まぁまずは警察に相談してみるとか・・・・・・」

ドラえもんがまったく役に立たない提案をあげることで、はやては遂に肩を落としてしまった。

「そうやね・・・・・・これ以上2人やみんなを巻き込むなんて酷いわな。これは私の問題や」

その落胆した表情。そして気の落としように、のび太の心は引き裂かれんばかりに痛む。こんな事になるくらいなら、もしもボックスでこんな世界に来なきゃ良かったと、本気で後悔し始める。このまま彼女を見送っては永遠に後悔する羽目になっただろう。


だからのび太は、次の瞬間訪れたイレギュラーに多いに感謝した。


『話は聞かせてもらったぞ!』

ふすま越しに聞こえた聞き覚えのある野太い声。そしてふすまが開きながら

「ガラッ、人類は滅亡する!!」

効果音をつけながらふすまを開け放った先には、スネ夫の姿。
そして一回やって見たかったんだよね・・・・・・と照れ臭そうに頭を掻く彼の後ろには、ジャイアンとしずかの姿があった。

「ちょっぴり怖いけど、やっぱりじっとなんてしてられないの!」

とはしずかの言。どうもはやて達が心配ということで皆が集い、ドラえもんへの直談判に来たところで、偶然はやての救援要請を聞いてしまったようだった。
そしてそれこそのび太、ドラえもんを含めたみんなの本当の気持ちであった。だから彼らはすぐに頷きあい、はやての救援要請を飲む事を決定した。

「それで、はやてちゃんは私たちに何をさせたいの?」

しずかの質問にはやては、ユーノが持っていたプラスチック板を取り出す。

「ユーノくんの解読が正しいとすると、夜天歴程は第12管理外世界の北極にあるみたいなんや」

プラスチック板からホログラムが飛び出し、その星の北極のある一点が小さく明滅する。

「でもナルニアデスさんは夜天の魔導書の力を悪用しようとする者の入手を避けると言う理由で、歴程の置いてある洞窟に夜天の魔導書の魔力がある者と、リンカーコア保有者を弾く結界を張っているらしい。だからアースラが決死の覚悟で取りに行く案も上がったんやけど、アースラは艦全体が魔導書の魔力サージを受けてしまったから、誰が行っても弾かれてしまうんや」

「それで俺達の出番ってわけだな!」

ジャイアンが腕まくりして声を張り上げる。

「そうや。みんなにはリンカーコアも無いし、魔導書からの攻撃も受け取らんから、結界に入って夜天歴程を持って来れるはず!あとは次元空間の移動手段やけど、さてどうしたもんか・・・・・・」

「次元空間ならタイムマシンの機能で航行できるから大丈夫!」

「タイムマシンって、この中に置いてあった機械の事か?」

次元空間から直接来たはやては引き出しを開けると、中にある長方形の板に機械類が乗った物を指差した。ドラえもんがその問に頷くと、はやては

「あんなんで次元航行できるんか・・・・・・まるで魔法の空飛ぶ絨毯みたいやな・・・・・・」

と目を丸くした。

「となると他に問題は・・・・・・あれま、あられへん・・・・・・上手くいくで!この作戦!!」

はやて自身こんなに上手く行くとは予想外だったようだ。拳を突き上げて全身で喜色を現した。

「よし、そうと決まれば・・・・・・」

ドラえもんがポケットに手を突っ込むと、何かを漁る。一同その行方を見守っていると、くだんの通りどこからかの効果音と共に三角帽子が出てきた。

「魔法帽子~」

「すごい!どんな魔法でも使えるようになる帽子!?」

しかしのび太達の期待は瞬時に裏切られる。

「ううん。ただの飾り」

これには絶好調のはやても巻き込んで脱力した。

「まぁ、気分の問題だよ。それと第12管理外世界だっけ?座標はわかる?」

「・・・・・・え?」

言われてみれば第12管理外世界という名しか知らない事にはやては頭を抱えた。

「しまったぁー!場所がわからんやん!」

この世の終わりだぁー!という絶望の表情をするはやてをしずかが背中をさすって慰める。しかしドラえもんにとっては想定範囲内だったようだ。

「そのホログラムパッドが第12管理外世界の物なんだよね」

はやての持っていたプラスチック板を指差すと、彼女は迷いながらも頷く。

「少なくともユーノくんはその世界で発掘したはずやけど・・・・・・」

「なら物質のエネルギー準位とかでわかるはずだ。ちょっと待ってて」

ドラえもんはそのまま引き出しの中へと入っていく。しかし次の瞬間には頭に捻じり鉢巻、手にはトンカチを持って出て来た。

「ふぅ・・・・・・これで大丈夫なはずだ」

ドラえもんが何事を成したのかのび太が確認に行く。

「あれ、いつものタイムマシンに何か着いてる?」

いつものタイムマシンは左右に2個の円筒型タンクのような物に、前部中央と右後方に制御盤、そして右側に街灯を1つ着けたような簡単な意匠のはずだったが、今は違った。
タンクの上に装備したのか、シャッターを降ろした戦闘機のエアインテーク(空気取り入れ口)のような物に変わっており、そこから小さな翼が左右に張り出している。そしてエアインテークにつながった2本の管は後方の装置に繋がっており、小さな推進器のように見えた。
簡単にいえば『カッコ良くなっている!』である。

「タイムスペースナビって装備でね。これでそのホログラムパッドを元に歴程がある世界まで行けるはずだよ」

こうして話はトントン拍子に進んで行き、そしてついに・・・・・・

「いざ、次元空間へ!」

「「「おぉー!」」」

次々と引き出しの中へと入って行くのび太達。
最後にはやても続こうとするが、ふいに立ち止まり部屋を一瞥する。


その瞳がネコを捉えた。


先程まで部屋に居なかったはずのネコ。
そのネコは眼光鋭くはやてを睨み返す。

「はやてちゃんどうしたの?早く行こうよ~」
「忘れ物かぁ?」

机の中からのび太達の急かす声が届く。

「ううん、なんでもない。すぐ行く」

はやてはネコから視線を外し、机の中で待っているのび太達の元へと降りていく。
引き出しが閉められ、タイムマシンが航行を開始する。
単なる引き出しへと回帰した机の前でネコが二本足で立ち上がる。

「ムギーーー!」

鳴き声が響き、かの部屋にオレンジ色の光が満ちる。それを彼らはまだ知らない。

to be continue…


――――――――――

ストックがないし、リアルが忙しかったりするので、明言はできませんが出来るだけ早く出せるように頑張りたいです。
あと、コメント欄を作ったのでできればコメントください!
コメントが来ると、うp主はすごく喜びます!なので更新がもしかしたらそれだけ早くなるかも・・・・・・
コメントはここから飛んでください  

―――――――――




タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2012年09月20日 21:21