R2-D2内検索 / 「ACT.42」で検索した結果

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  • ACT.42
     シンスケは考えていた。  心の師、炎のスピリットを持つ老人のこと。ただならぬ因縁のある、白スーツの男のこと。そして、前の二人とは一見なんの関係もない女性……森で出会った、静香のこと。  老人の話によれば、彼は十歳の時にデジタルワールドへ来、リアルワールドにとっての九年間で八十年ほど歳を取った。つまり、こちらの世界は向こうに比べて時間の流れる速さが約九倍ということになる。だが、シンスケはそのことに対して些かの疑念を抱いていた。老人を耄碌(もうろく)と思っているわけではないが、合点がいかない点がいくつかあるのだ。  一つは白スーツの男。シンスケは彼をよく知っている。彼の名、こちらに来る前の年齢、そしてこちらに来たであろう時期まで知っている。シンスケの憶測が正しければ、あの男がこちらにやって来たのは三十五歳の時。リアルワールドでいうところの六年前。リアルワールドでいう六年は、老人の例を参考にす...
  • NOVEL
    ...40 ACT.41 ACT.42 ACT.43  ACT.44 ACT.45 ACT.46 ACT.47 ACT.48 ACT.49 D2―Digimon Detective グーグー・ドールズの使命 第一幕 伊礼春雪        1 2 3 第二幕 社火門        1 2 3 第三幕 監視者        1 2 3 第四幕 狐と烏        1 2 3 4 5 6 7 第五幕 夜は短し走れよ乙女        1 2 3 終幕  鬼神        1 2 3 4 雷のベル・ウィル・リング 第一幕 桑原雷        1 2 第二幕 乾いた梅雨        1 2 3 4 第三幕 人の有為        1 2 3 4 Short Stroy カノンコード  第一楽章 第二楽...
  • ACT.41
     村を包む灼熱の炎。その炎の海、揺らめく陽炎の中を動く影が二つ。 「プッカさん! こっちにもまだ息のある人が!」 「ハア……ハア……待ってろよ……今行く!」  青き幻竜ブイドラモン、そして村の青年ジョブス。  シャーリーを炎の外へと避難させたプッカは、辛うじて難を逃れたジョブスと共に救助活動を始めたのであった。  デジタルワールドにやって来た人間は、その肉体の構成因子をデジタルデータに変換される。つまり、命を失う際にはデジモンと同じようにデータの塵と帰すのだ。  爆撃とその炎によって命を落とした村人達。彼らの肉体を構成していたデータは、図らずとも救助にあたっていたプッカの身にロードされることとなる。結果、彼らの命はプッカ血肉となり、進化に至らせ、一人でも多くの生存者を救うための力となった。 散った者達の命が、残った者達の命を守るのである。  この時点で既に十数名の命を救ったプッカだったが...
  • ACT.44
     カウスは街の中心部にある、最も高いビルの上から狙撃を行う。  だがそれは昨日までの話だ。 「カウスは真面目だねぇ」  甲高い声質の所為か、シエロの声はどこか呑気そうに聞こえる。 「選ばれし子供達を、間違っても逃がすわけにはいかないからな。スピリットは一つも欠いてはならない。〝神の完成〟のためには、全てのスピリットが必要なのだから」  デファンスシティはイグドラシルの命を遵守するため、自分たちからスピリットを守りたい。イグドラシルによって使わされた選ばれし子供達は、スピリットを集めている。そしてデファンスシティの住人と子供達は昨日接触をした。これらの条件から導き出される、彼らの取り得る策は一つ。選ばれし子供達にスピリットを託し、全力でこの街から脱出させる。  彼らからすれば、今の状況は絶望的。そしてスピリットを子供達に託して脱出させる策は、その絶望の暗闇に差し込んだ一条の光である。カウスは...
  • ACT.47
    『黄太! 敵の手はこっちよりずっと速いよ! ここは一旦距離を取って!』 『おうよアグラ! 一旦退いたら頭上を取る!』  喉元を狙ったタイガーヴェスパモンの刺突を、黄太とアグラは後方に退き紙一重でかわす。切っ先との距離は本当に紙一枚分。鎧ごしにもビームソードの熱を感じる。  そして、二手目が繰り出されるより前に上昇。人型にとって死角である頭上を取りに行く。 『空中では四肢の柔軟な使い方が重要だよ!』 『だな! 上昇直後は無論手より脚の方が敵に近い!』 『脚が近いなら……』 『迷わず蹴りだ!』  黄太とアグラの図太い脚がタイガーヴェスパモンの脳天に叩き下ろされる。いわば、空中踵落としである。  黄太とアグラの体躯は割と小さめだが、見た目とは裏腹にこれがなかなか強靭なパワーを秘めている。その強烈無比な打撃を頭部に受けたタイガーヴェスパモンは、あまりに大きな衝撃に一瞬目の前が真っ白になってしまう。...
  • ACT.43
     カウスは街の中心部にある、最も高いビルの上から狙撃を行う。  だがそれは昨日までの話だ。 「カウスは真面目だねぇ」  甲高い声質の所為か、シエロの声はどこか呑気そうに聞こえる。 「選ばれし子供達を、間違っても逃がすわけにはいかないからな。スピリットは一つも欠いてはならない。〝神の完成〟のためには、全てのスピリットが必要なのだから」  デファンスシティはイグドラシルの命を遵守するため、自分たちからスピリットを守りたい。イグドラシルによって使わされた選ばれし子供達は、スピリットを集めている。そしてデファンスシティの住人と子供達は昨日接触をした。これらの条件から導き出される、彼らの取り得る策は一つ。選ばれし子供達にスピリットを託し、全力でこの街から脱出させる。  彼らからすれば、今の状況は絶望的。そしてスピリットを子供達に託して脱出させる策は、その絶望の暗闇に差し込んだ一条の光である。カウスは...
  • ACT.49
     ACT.49 Romance:1            ~吾が神なり~ 「バッチコーイ!」  何度もツッコんでもう面倒になったから敢えて放っておくが、だからそれは違うと思う。  バッチというのはバッターのことで、バッチコーイと云うのはつまりバッターを挑発する言葉なのである。  バッターが尻をフリフリしながら声高らかに叫ぶのは間違っている。  何度もツッコんだのに訂正しないのはわざと間違えているからなのだろうが、しかし相手が相手なだけに、素で間違え続けていると云う可能性もある。  異世界の荒野のド真ん中で繰り広げられるお馬鹿な草野球を眺めながら、佐倉八重はそんなことを考えていた。 「父ちゃん――俺は今、モーレツに感動しているぜ!」  このお馬鹿な草野球のピッチャーは、歴史に残る偉大な野球漫画の主人公のモノマネをしながら、殺人的な速度でその辺の石ころを放っている。  そのお馬鹿なピッチャーの...
  • ACT.40
     「新たなる神」を崇拝し、自らをその神に認められた友人であるとする集団『八神友』。  彼らは、この世界に存在する他のデジモン・人間が持ち得ないものを二つ持っている。一つが『メモリ』、もう一つが『啓示』。  セントガルゴモンは八神友の一角「フィル」の配下であり、アイゼンベルクの技術によっての彼の啓司『尽読(ツクヨミ)』を授かった個体である。  ただし、彼の尽読は本物のそれに比べるとかなり限定的な能力である。未来を予知する能力といっても、確実にやってくる未来をいつでも完璧に予知できるわけではないのだ。  未来とは可能性。いわば枝分かれした道であり、しかもその枝は瞬間ごとに多様に変化する。それを完璧に予知することなど不可能。彼に出来るのは、その「可能性の枝」を知ること。つまり「これから起こることを正確に知る能力」ではなく、「これから起こる可能性のあることを正確に知る能力」なのである。しかもこれ...
  • ACT.45
     全てがクリアーだ。  シンスケはそう思った。いや、〝感じた〟というべきなのだろう。  ビーストスピリットがシンスケに齎したものは、全身に漲る力と迸る野性だけではなかったのである。  余力を残してなお周囲を完全に置いてきぼりにしてしまう程のこの脚力は素晴らしい。恐怖すらも高揚感に昇華しまう程のこの闘争本能も、やはり素晴らしい。  だが何よりもシンスケが素晴らしいと感じたのは、その〝感覚〟である。  ガルムモンは光速で駆けることのできるデジモン。だが、それは優れた脚力とバネのみで成せる業ではない。光速の世界にも対応できるだけの感覚神経系が何より重要なのである。光速で過ぎてゆき、同時に迫りくる景色を認識するだけの視覚。視覚でカバーしきれない情報を収集し、光速の世界に投射していくだけの聴覚と嗅覚。そして大地を踏んで己の蹴り足の強さを認知し、風を切る感覚と合わせて次の脚を繰り出すタイミングを無意識...
  • ACT.46
     脇腹を抉られた。これが御雷か。  出血がないだけ有難いが……これはヘヴィな一撃だ。傷が深いとかいう次元ではない。脇腹の筋肉も骨もごっそり持っていかれてしまったのだから、まず動くことすら敵わない。運よく致命傷は免れることができたが、これは致命的なダメージである。 「蒼太さん! 蒼太さん!」  背後から金切り声が聞こえる。  竜乃が今にも泣き出しそうな勢いで蒼太の名前を呼んでいる。いや、もう泣いているのかもしれない。  カクは振り返るのが怖かった。 ――俺のパートナーは死んでしまったのだろうか。  全身の力が抜けていく。これは自分が負ったダメージのせいか。それとも、進化の力の源である蒼太の心が消えかけているからだろうか。カクの体を構成するデータの結合だけでなく、カクの心もまた不安定になってゆく。……怖い。  ――俺はまた、相棒を失うことになるのか。  怖い。  カクの体からデータが抜けていく...
  • ACT.48
     バロック風というのだろうか。  このだたっぴろい部屋にあるインテリアは、いちいち派手な装飾がついている。彼が今座っている椅子にしても、肘を置いているテーブルにしてもそうである。テーブルの端やや椅子の背もたれはバラの花が複雑に咲き乱れているような黄金の彫刻で縁どられ、四つ脚は滑らかな曲線を描いている。  彼はこういった装飾が苦手である。良さが分からない。  どちらかというと、無駄のないもの方が美しい。そう思う。いくら見た目が華美で豪壮だろうと、それによって何らかの機能が追加されないのであれば意味がない。無駄がなく、機能的に優れているもの。それこそが本当に美しい。  インテリアと同じく華美な花の意匠を施されたティーカップ、そこに注がれた紅茶。アールグレイとかいうらしい。その透き通った茜色の水面に、彼ご自慢の銀ぶち眼鏡が映り込んで一瞬煌めいた。  彼は紅茶の表面を覗き込む。  オールバックにま...
  • ACT.01
    「わからない……」  よく晴れた冬の日の昼休み。教室の片隅で、彼は頭を抱えていた。 「モグモグ……ハァ、わからない……」  焼そばパンを頬張りながら、頭を抱えていた。 「ズズズズ……プハァ、わからない……」  コーヒー牛乳を飲みながら、頭を抱えていた。 「チラッ……フウゥ、わからない……」  一緒に昼食をとっている友人の顔を上目で見遣りながら、頭を抱えていた。 「ちょっといい加減にしなさいよ」 「うん?」 「いつまでそうやって頭抱えてるつもり? いい加減イラッと来たんですけど」  ネコの様な目をしたその少女は、イラついているというよりはウンザリした様子で彼を睨みつけた。 「いやなに、いつもの考え事だよ。あぁ、ひょっとして、また心配かけちゃったかな?」 「アタシがいつもアンタのこと心配してるみたいな言い方やめてくれません?」  彼女は酷く無機質な口調で返す。腹を立てているとき、彼女は彼に対し...
  • ACT.11
    「オイオイオイオイ! オーガモンが二匹出てきたぞ!」 「逃がすかテメーら!」 「ブッころーす!」 「何で二匹なんでしょうかね?」 「しかもなんか泣いてるんだけど……」  オーガモン三兄弟のアジトから抜け出した珠生たち。無事に逃げ切ったかと思ったら、三兄弟のうち二匹が追いかけてきた。 「途中で見つかりはしなかったはずなのにね……」 「みんな、走るでゲスー!」 ACT.11 Preparedness            ~負ける気がしない~  洞窟を抜けだして再び大草原に出た珠生達は、その清々しい風の香りを楽しむ間も与えられないうちに、戦いの危機に晒されていた。  二匹のオーガモンは、珠生達が走るよりもずっと早く追ってくる。力任せに振り回す骨棍棒が彼らをミンチにするのは時間の問題だろう。 「埒があきませんね」 「モユル、しっかりしろよー!」  モユルは歩の腕の中でぐったりしたまま動かない。だ...
  • ACT.31
    「代理戦争だと……? 新旧の神? 何を言っている?」  ワーガルルモンに進化し、改めてシルフィーモンと対峙するカク。手を半開きにして前方に柔らかく突き出す独特の構えを取りながら、緩やかな螺旋を描くような足運びでジリジリと相手との間合いを詰めてゆく。 「カクさん、あなたはこの世界の神イグドラシルのしもべ……そして私はイグドラシルを討ち滅ぼすであろう新たな神のしもべ。これを代理戦争と言わずに何と言いましょうか?」  対するシルフィーモンは両腕をダラリと下げたまま、直立不動の姿勢でカクが己の間合いに入って来るのを待ち構えている。両者の身の丈は殆ど変わらないため、間合いもほぼ同じ。ならば、いかに上手く相手が間合いに入ったタイミングを見極めるか。それが先手の条件となるのだ。 「フン……クレイジーだな」  カクがそう言って一歩を踏み出した瞬間――シルフィーモンは一切の予備動作を入れずに、まるで一本の棒...
  • ACT.08
    「え? 沈んだんですか?」 「だーからぁ、進化だよ。シ・ン・カ! 沈下じゃねぇっつーの!」 「そーだ! バーカ! 誰が下ネタだ!」 「いや、『そっち』でもないと思うけど……てか一応私女の子だから、下ネタうんぬんにツッコませないでくれるかな」 「月が奇麗だね、八重ちゃん」 「肩に手を置くならもっと雰囲気のあるときにしてちょうだい」 「え? 角度を測るのか?」 「分度器か!」 「星も奇麗だ」 「コンニャロー! オレの相棒を殴るんじゃねー!」 「熱ッ! マント、マントが燃える!」 「おや、こんなところに地上の星が」 「確かに明るいけどね……てか手を腰に回すな腰に」 「モユル、さっきのはツッコミってやつさ。殴ったんじゃねぇよ」 「え? そうなのかあ。ゴメンよー」 「いいから早く! 火を消してー!」 「八重ちゃん……星が消えるのはね、熱すぎるからなんだよ」 「だってさ、地上の星」 「私は消えるんです...
  • ACT.23
     メタリフェクワガーモンは指先のビームを剣状に収束させる。 「とりあえず、武装は全て試さなければな」  スティングモンとテンドウは視線を交わし、テンドウはメタリフェクワガーモンの背後に、スティングモンは囮として正面に回った。 (まずは牽制から……)  スティングモンは、ブレイドクワガーモンを仕留めた時のように両腕の棘を発射する「ムーンシューター」にて牽制しようかと考える。 (いや、奴には先ほどのホーミングレーザーがある……距離をとっての攻撃は良くないな)  そのスティングモンの思考はそれこそ瞬間的行われたものであったが……その「瞬間」は、メタリフェクワガーモンが彼の懐に飛び込むには十分すぎる時間であった。 ACT.23 Awakening            ~心が流れて~  スティングモンの選択肢は三つ。 「うおおおおお!」  スティングモンの喉元を狙うメタリフェクワガーモンの突き。ス...
  • ACT.10
     一体、どれほどの時間眠っていたのだろうか。グルーミータウンを出たのは早朝。あの延髄切りを喰らったのは確かまだ昼前。あれから比べると、気温が随分上がったように感じる。今はもう正午か、それ以降だろうか。  珠生は後頭部に鈍痛を感じたまま、鼻から目いっぱい空気を吸い込んだ。日の光で温められた草の匂いが入ってくることを期待した。だが期待に反して、珠生の鼻腔に入って来たのは何かすえたカビ臭い匂いだった。珠生は不思議に思い、瞼を開けてみる。するとその瞳に飛び込んできたのは、眩しいほどの太陽の光ではなく、暗闇だった。 「あれ?」  珠生は上体起こす。すると珠生の体から、何か布がバサリと落ちた。どうやらこの布が珠生の顔を含めた全身を覆い隠していたようだ。そして更に珠生は、あることに気づく。布がまだ覆いかぶさっているであろう腰から下が、無いのだ。いや、マントが珠生の体の下にあるであろう景色、映し出している...
  • ACT.12
    「カルロって人間だったわけ?」  八重の声は震えていた。 「そうだよ。君らと同じだ」  カルロはフランクにほほ笑んで見せるが、友好的な感情は一切感じられない。むしろ珠生たちを見下しているようですらあった。 「一つ質問があるんだが、テメェは敵か?」  歩はプレッシャーを感じていないのか、ズンズンとカルロに歩み寄る。 「ヒント、オレはオーガモン三兄弟の親分です」 「ならブッ飛ばしていいな」 「ちょ、歩!」  歩はカルロの顔面に右ストレートを打ち込むが、カルロはそれを片手で受け止める。 「お前は随分と暴力的だな」 「なんでか知らないけど、テメェは気に食わない」  互いを「お前」「テメェ」と呼び、にらみ合う二人。 「歩のパンチを受け止めるなんてね……」  珠生は心底感心する。歩の身体能力は人間離れしているからだ。以前、歩が路上にたむろして道を塞いでいた高校生たちを注意して喧嘩になったところを見たこ...
  • ACT.02
     砂塵が舞い、男たちの顔を強かに打ちつける。二つの連なった方陣の中には、最強と呼ばれた男と最狂と呼ばれた男がそれぞれ立っている。方陣の外では、彼らの盟友たちが固唾をのんで見守っている。 「始めようぜ」  ここは校庭。すなわち弱肉強食の場。勝負の名はドッジボール。無慈悲なる血の闘技。 ACT.2 Ignition           ~女神の頬笑み~ 「やるからには一対一だぜ! 幸い、皆快く了解してくれたことだしな。ボールは三つ使う。三つだぜ。始めはお互い一つずつ持ち、もう一つはセンターライン上、ど真ん中に置く。ボールは全て、取った方に使用権がある。ただし外野どもは、ボールを自分たちの内野に回すこと。これはオレと珠生の勝負なんだからな。そしてもちろん一発食らったらアウト、そこで終了だ。いいか?」  歩が一通りルールを説明し終えると、まだ太ももの腫れが引いていない石田が解説役然り、体育館の犬走...
  • ACT.09
     グルーミータウンを出ると、そこには山のふもとまで延びる広大な草原があった。三人がデジタルワールドに来てから、一番最初に見た景色。当然手入れなどされていない原生の草原の草は、その丈が彼らの腰ほどまでもあり、なんとも歩きにくいことこの上ない。そして時折現れる大きなデジモンのシルエットは、三人に行く先の不安を感じさせて余りある。この草原を、あと何日歩いたら山の麓の町までたどり着けるのか。彼らにとって最初の旅路は、不安との戦いであった。  ひたすら歩くこと数時間。一行は、進行方向の数メートル先に、草原の蒼に埋もれた黄色の物体を発見した。 「なんじゃありゃ」 「花かな」 「でっかいトカゲに見えるけど……」 「あれデジモンだぞー」 「大きさからして成長期くらいですかね」 「成長期? オレ達も成長期だぜ」  歩は八重を横眼でチラッと見る。主に、胸のあたりを。 「もちろんコイツもだ」 「オイ」  珠生も...
  • ACT.04
    「二万八千九百九十六!」  汗を飛び散らせながら、歩は野球ボールを投げる。ボールは直線軌道を描き、ムチを打ちつけたような音を上げて珠生のグローブに収まった。 「だんだん、左手の感覚が無くなってきたよ」  珠生は歩以上に汗を垂れ流している。疲労と、左手の痛みのせいだ。 「じゃあもう辞めればいいのに」  八重は汗をかいていない。二人のキャッチボールを、ただベンチに座って眺めているだけだからだ。  日曜の昼下がり。珠生と歩は、公園でキャッチボールをしていた。ただしこれも勝負である。「デッドエンドキャッチボール」。相手に「疲れた」の一言を言わせれば勝ち。そのためならどんな手段を用いても構わない。 ACT.4 Encounter           ~ウィザーモンはカユくない~ 「二万八千九百九十七……あ!」  珠生が放ったボールは歩の頭上を越え、公園のフェンスを越えて、あさっての方向に飛んで行って...
  • ACT.18
     火口の決戦より数日が過ぎ、シンスケのケツの傷も癒えたころ。  かの火山から見て北東にある、大陸随一の面積を誇る湖。その湖畔に広がる、広大な森。南側に広がる形となっているその森は、南側は昆虫型デジモンたちの楽園で余所者は侵入禁止となっているが、北側は森に生きるその他のデジモンの生息地になっており、林業を営む人間たちの村もある。黄太達は現在東を目指しているのだが、当然森の南側は避け、北側を抜けようとしている。  ところで、彼らが来訪者を求めて歩く上で指針にしているものは何なのか。  答えは「感覚」である。来訪者に一度出会った者は皆、その独特の「存在感」を体の芯に叩き込まれ、どれほど距離が離れていても、だいたいどの方角に来訪者がいるのかが分かってしまうようになるというのだ。  ちなみに黄太たちのパーティーでこのレーダーを持っているのはカクである。つまりカクは来訪者に少なくとも一度出会ったことが...
  • ACT.13
     カルロとの激闘を経て更に二度もの野宿を乗り越えた珠生たちは、遂に山の麓の町にたどり着くことができた。 「な、長かったぁー……」  荷物持ちとツッコミ隊長を担う八重は、肉体的・精神的な疲労でクタクタのようだ。 「てか、何で私がずっと荷物持ちなのよ!」 「何か臭いな」  漂ってくる匂いに、歩は顔をしかめる。 「硫黄の匂いだね」 「この町には温泉があるでゲス」 「なるほど、どうして活火山の麓に町なんかつくるのかと思っていたけど……温泉目当てだったんだね」 「この後山越えも控えていることですし、しっかり休養することにしましょう」 「オラはオンセン、入れないけどな~」 ACT.13 Break            ~温泉に入ろう!~  活火山の麓にある、温泉の町キヌガータウン。そこは元々人間がつくった町であり、デジモンが住み着きはじめて久しい現在においても、住人の割合は人間の方が高い。  温泉の...
  • ACT.17
     長き(?)にわたる沈黙を破って、今、第二部が始まる。 ACT.17 Introduction            ~柚木黄太~  柚木黄太はその日、ガールフレンドにフラれた。  黄太が付き合っていたのは、同じ学校の後輩。清楚とはいかないまでも真面目で、明るく、学校でも五本の指に入るような美少女であった。  黄太が彼女と付き合うことができたのは、本人にから見ても、周囲の人間から見ても、地上で最高の奇跡としか言いようが無かった。  何故なら黄太は何の取り柄もなく、おまけに空前絶後のヘタレ野郎だからだ。  勉強が出来ないのは言うに及ばず、運動も苦手。筋力が低いとかではなく、運動センスそのものが無い。絵画を上手く描けるわけでもなければ、歌が上手いわけでもない。というかむしろ人類かどうかも疑わしいレベルにあるほど。  性格は前述したとおりヘタレ。つまり、根性やら度胸が無いとか、ビビりであるという...
  • ACT.21
     湖での戦いから数日後。森を抜け出た黄太達は、久々に広い空を見たのであった。 「うあー! なんかあれだな、世界はこんなにも広かったのか! って感じだな」 「だな!」  黄太とアグラは空を見上げながら大きく伸びをする。完全体に進化できたという自信からだろうか。今までダメダメコンビだった二人は、少しだけ爽やかに、そして強かになったようである。 「風が気持ちええなあ」 「森は植物が多いせいか、湿っぽかったッスからね」 「カク、体はもう大丈夫?」  竜乃は、湖の一件でさんざんな目にあったカクの体を気遣う。火山のときもそうだったが、どうもこのところカクは大けがを負い、特に口の中に攻撃を喰らうことが多い。 「ああ。問題はないよ」  歯が数本欠けていること以外は、である。  それを密かに知っている蒼太は、顔をそむけて笑いをこらえつつも、自分の「ある予想」を確かめなければならない、と思っていた。 「カク…...
  • ACT.22
     テンドウは、八重をいわゆるお姫様だっこで抱えて枝から降りる。といってもテンドウの身長は八重の四分の一程しかないため、それは滑稽を通り越して奇妙な光景であった。 「テンドウ貴様……どういうつもりだ! 我々を裏切るのか!」  珠生たちを襲撃した三匹のリーダー格であるスティングモンは、ラッシュを受けた脇腹をおさえながらテンドウに詰め寄った。 「裏切る……それはお前たちのことじゃあないのか? ん? 『陛下』は、きちんとこちらの事情を説明した上で協力の意を示してくれた者だけを連れて来い、と仰られたはずだ。力ずくでは意味がない、とな」 「何をバカなことを……」 「バカじゃない。オレは天才だ」 「陛下は確かにそう仰られたがな……それでは時間がかかりすぎるのだ! そんな人間を見つける前に我々は……我々の国たるこの森は! 『奴ら』に蹂躙されてしまう!」 「そう思うのはお前が凡才だからだ。ところがオレは天才...
  • ACT.05
    「というわけで一緒に来て下さい」 「『というわけ』て……頼ってくれたところ悪いんだけど、そんな急に言われても……ねぇ?」  八重は同意を求めて珠生と歩の方を窺う。二人は互いに顔を見合わせ「言いたいことは分かってるぜ」と言わんばかりに頷いたので、八重ホッとした。が、しかし。 「あぁ、確かに唐突だけどな。世界の危機とあっちゃあ行かないわけにはいかねぇよ」 「そうそう……て、ん?」 「世界を救うなんてこんなロマンチックなチャンス、これを逃したらもう二度と無いだろうしね」 「あれ……行く気満々?」 「お前の杖を折っちまったお詫びも兼ねてな」  歩はウィザーモンの肩に手を置く。 「皆さん……ありがとうございます」 「え、ちょ、まっ……」  ウィザーモンが少し涙ぐんでいるのを見て躊躇った八重は、「私は行きたくない」という旨を伝える最後のチャンスを失った。 「では皆さん、私の体に触れて下さい。これから特...
  • ACT.07
    「いやあああッ!」  ガーゴモンの不気味なほど白い手が、八重の体を握りつぶさんとする。ケータイは助けを呼ぶこともできないまま彼女の手から滑り落ちる。ピコデビモン達は彼女を助けようとしてくれたが、あえなく叩き落とされてしまった。今の叫び声が珠生達に聞こえていたとして、助けに来たとしても間に合わないだろう。彼女は死を覚悟することすら出来ずにいた。今の彼女にあるのはただ、恐怖だけ。 ACT.7 Partner           ~劫火拳乱~ 「うおおおお! 行けぇプチメラモン! バーニングファイヤーブレイズヒート(燃え上がる炎の燃え上がる熱)だ!」 「ヨッシャー!」  突如として、場の空気を完全にブチ壊すような威勢のいい声と小さな火球が飛んで来た。そのうちの火球はガーゴモンの腕に命中する。その反動でガーゴモンの手が弛緩し、八重は地面に落とされた。そしてもう一方、威勢のいい声は、八重を包んでいた...
  • ACT.33
    「さ、アンタの負けッスよ」  シンスケは、四肢の腱を切りつけられて動けなくなったアンキロモンの喉元に光の剣……リヒトシュベーアトを突きつける。 「ぐうっ……こ、これまでだぎゃ」  選ばれし子どもたちの唯一の希望・シンスケは、二回戦も圧勝で突破して見せた。そして次は準々決勝。闇のスピリット獲得まで、あと三勝だ。 「おう! シンスケお帰り!」 「お帰りぃ!」  自分たちのところに戻ってきたシンスケに、黄太とアグラは元気よく「おかえり」を告げる。この二人、今日はなんだかいつも以上に元気がいい。それはこの熱気あふれるアリーナ席の空気に馴染んでしまったせいなのか。それとも単に、早々と負けてしまったから元気が有り余っているだけなのか。 「うーす……なんつーか、口ほどにもねぇって感じッスよ」  シンスケは席に座る前に、一つ大きく伸びをした。どうやら本当に退屈してしまっているらしい。 「オレもカクみたいに...
  • ACT.32
    「は……がはっ……」  地に下ろされ、仰向けに倒れて血を吐くシルフィーモン。長い戦いの止めとしてカクが放った一撃は、シルフィーモンの内臓にも甚大なダメージを与えていたようだ。 「酷いじゃないですか……ハハ……殺す気だったでしょう?」  試合はカクの勝ち。大会スタッフがシルフィーモンを運ぶために担架を持ってくるまで、結果として、激闘を繰り広げた両者にはしばしの会話時間が与えられることとなった。見ごたえのある試合を見せてくれたことに対する大歓声に包まれた中での、当事者達にしか聞こえない会話。 「殺す気だって? フン。当然だ。貴様は自らイグドラシル様の敵対者だと名乗ったのだから」  折れた腕を気にする様子もなく、カクは「いいからとっとと死ね」とでも言いたげな冷たい視線と共に言い放つ。 「イグドラシル様か……カクさん……あなたは、今の神に満足しているのですか?」 「……何だと?」  それは、在り得...
  • ACT.34
    「せぇあっ!」  シンスケは、光の二刀のうちの左の一刀を下段に打ち込む。膝を狙った一閃だ。  対するアグニモンは、それを難無く跳躍してかわす。だが、それは真上に跳ぶのでも後方に退くのでもない。前方、つまりシンスケに向かう形での跳躍。 (やっぱ飛び込み蹴りか)  シンスケはこれを予測していたかのように、間髪入れずにアグニモンの胴体目がけて右の突きを繰り出した。  相手を殺害しては失格になってしまうこのトーナメントにおいて、殺傷に向いている突きは難しい攻撃である。だが、その相手がハイブリット体であるアグニモンならば話は別だ。シンスケ自身もスピリットで進化するから良く分かる。ハイブリット体は、致命傷となる攻撃を受けてもスピリット進化が解除されるだけで済むのだ。本体に疲労感や消耗感は残るが、ダメージはスピリットが引き受けてくれる。つまり、このアグニモンに対しては殺す気くらいで丁度いい。  シンスケ...
  • ACT.30
    「あなた方は……私が地に足を着いて戦うに相応しい相手だ」  そう言うと、シルフィーモンは腕の力を抜いたままカクに突撃してきた。その片羽根だけが残された腕を、まるで尾ヒレのようになびかせながら。  カクは、短期決戦を心に決めた。ここまで……やっと対等な目線で戦う段階に至るまでに受けた傷は、決して少ないものではない。長期戦になることはすなわち敗北といっても過言ではない状況なのだ。  ACT.30 Tournament:3            ~先に立つ者として~ 「エク!」  シルフィーモンは妙な掛け声とともに右の拳を振り抜く。カクの横っ面を目がけたフック。 「……ぬ!」  カクはその拳を、その場から動かずに尻を上げ、頭を低くすることでかわす。  その場から動かずにかわしたのは、体力の消耗を防ぐためだけではない。かわす目的で取ったこのカクの態勢は、四足の生物が〝あること〟をする時に取る共通す...
  • ACT.25
    「ジュエルスリーとフォーは東進! 敵の進路は予測と若干ズレがあるから! オオクワチームは敵の背後に回って! ただし、背後に回った時点で停止して! 私が合図するまでは前身も攻撃もしないこと! もちろん見つかってもだめだから! モユルとヘリアン、ウィズはそのまま待機!」  ここは森。ここは戦場。  八重は進化したテンドウの背に乗り、珠生の作戦どおりに侵攻してきた敵本営を迎え撃つ態勢を整えていた。  デジヴァイス同士の通信機能を使うことで、八重はリアルタイムで状況を報告し、また珠生の指示も仰ぐことができる。  この森の各所には兼ねてからサーチモンが配備されており、彼らが昆虫型にしか分からない高周波で各地の戦況をそれぞれの兵に伝える。いわばこれは、昆虫王国の通信網。先のブレイドクワガーモンとの戦いにおいて、テンドウたちがいち早く敵の接近に気づけたのもこの情報網のおかげなのである。更にこの通信能力は...
  • ACT.26
    「オラア!」  グラウンドラモンの巨腕がテンドウめがけて振り下ろされる。だが、その速度がいくら早いといっても、威力があるといっても、超音速で飛行できるテンドウには当たるべくもない。テンドウは旋回して悠々とその腕をかわすと、グラウンドラモンの真上を取り、その頭部目がけて光球を放った。 「うおお! メガブラスター・ジーニアス!」  メガブラスター・ジーニアスとはテンドウのオリジナル技で、通常のカブテリモンのメガブラスターの一・五倍のエネルギーを放つ攻撃である。 「ハッ! ……避けるのも面倒くせえや」  何故かグラウンドラモンはそれを避けようともしない。それどころか、防御の姿勢も取ろうとしない。  そして光球はグラウンドラモンの頭部に直撃する。紫電が弾け、まるで空気を焦がすような熱エネルギーが巨龍の体を中心に、戦場一体を包み込んだ。  その威力は、ウィズの張る結界の中にいる八重でさえ、魔力の壁が...
  • ACT.28
    「勝者! ガルルモンのカク選手うっ!」  中央コロッセオのフィールドで、司会進行のボルケーモン・オヲタが自慢のビッグバンボイスで高らかに叫んだ。  オヲタの他にフィールド上にある影は二つ。片方は、先ほど勝者として名を叫ばれたカク。そしてもう片方は、そのカクに秒殺(殺してないけど)されてしまったレオモン。喉元から血をたれ流し、声にならない嗚咽を上げながらうずくまっている。  試合直後にも関わらず、カクの青白い毛皮には傷一つ付いていない。更に、息を乱すどころか相手の呆気なさに溜息をつく余裕がある辺り、このカクというデジモンは流石といえる。  予選トーナメントからたった今勝利を収めた決勝トーナメント一回戦まで、カクの相手は全て成熟期であった。完全体に進化できないカクは当然ガルルモンのまま戦ってきたわけだが、彼はこれまでの試合で一度も相手の攻撃を受けていない。別に回避に徹しているというわけではなく...
  • ACT.24
    「テラ殿」  メタリフェクワガーモンは、彼の目の前にいる人間に呼びかけた。  テラと呼ばれたその人間は長身でガッチリとした体格の男性で、長く伸びた髪を緑色の紐で束ねている。 「三号が南方面で哨戒行動中に敵と遭遇し、これに撃破されたそうです」  テラはゆっくりとメタリフェクワガーモンの方を振り返る。 「そうか」  その眼は、力強い彼の体とは裏腹に、とても虚ろであった。 「いかがなさいますか」  黒い革のジャケットを素肌の上に直接羽織った彼の胸元には、何やら銀色の細長い棒状の物がチェーンでぶら下がっている。 「別に。何もしねぇよ。面倒くせぇもの」 ACT.24 Strategist            ~アンダーフォレスト宮~  珠生は瞼を持ち上げる前に考える。  自分が意識を失ったのは、日の光もほとんど差し込まないような鬱蒼とした森の中。だが、それにしても暗すぎやしないだろうか。目を閉じて...
  • ACT.19
    「風魔っていうのは先代のシューツモンのことだと思うのよ」  静香は黄太達を網から下ろしつつ話す。 「だって私がこっちの世界に来たのはそんな昔の話じゃないし……人を襲ったりもしてないしね」 「じゃあこのトラップは何なんだ?」  ロープが当たっていた頬をさすりながら蒼太が訊ねる。 「あー、これはホラ、村の人の反応が面白いもんでさ」  静香は頭の羽をパタパタさせる。 「風魔に食われるうーとか、殺されるうーとか、オタスケーとかさ、反応がいいとイタズラのしがいがあるじゃない?」  あの頭の羽はどうやら楽しい気分のときに動くものらしい。 「他にも落とし穴とか、怪しいうめき声とか! 耳に息を吹きかけてやるだけでもギャーとか言って必死に逃げてくの!」  数々の思い出を語る彼女は実に楽しげである。 「アンタ、その姿はスピリットによるものッスよね?」  語りの邪魔をするのを少しだけ申し訳なさそうにしながら、シ...
  • ACT.36
     覚えているだろうか。森の中の村、「オーク村」のことを。  選ばれし子供達によってマーレの魔の手から救われた、あの小さな村のことを。  風魔の誤解を解いた静香が、その後住まうことになったあの村のことを。  覚えているなら話は早い。  今回は、そのオーク村の日常のお話。   ACT.36 Bombing             ~医者と教祖とマイスター~  村の一角にある、とある住家。この家の住人は、老夫婦とその息子夫婦。この老夫婦の夫はつい先日、農作業中に腰をヤってしまった。  美しい自然に囲まれ、付近に凶悪なデジモンが存在しないことが分かったこのオーク村にも、悩みの種はある。それは、無医村ということだ。  そして、そもそも人口密度が低いデジタルワールドである。医者がいる他の村やら町まで行くのには、往復で十日以上もかかってしまう。これでは事実上、医者にかかることは不可。自然治癒を待つしかな...
  • ACT.16
     火口の決戦。  激戦を繰り広げる子供たちの前に噴火とともに現れたのは、完全体であるヴォルクドラモン。縄張りを荒された彼が子供たちにもたらすものは、果たして……。 ACT.16 Pause            ~子供たちの選択~ 「オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」  噴火の爆音とともに響く、さらに低い重低音。それはヴォルクドラモンの怒りの叫びであった。  その体にたぎるのはマグマよりも熱い血。その瞳にたぎるのは明らかな敵意。 「子供たち! 全員私の周りに集まって!」  火山弾と塵灰が降り注ぐ中、ウィズが声を張り上げる。 「何を……!」  当然、敵である蒼太たちはウィズの意図がどうであれ、言うことを聞く義理はない。すぐさまウィズのもとに駆け付けた珠生たちとは裏腹に、彼らはその場から離れようとしなかった。  その様子を見て、あの男はブチ切れた。 「バカ野郎!」  歩だ。 「死にて...
  • ACT.20
    「待てよコラ」  村人たちの方に歩み寄ろうとしたマーレの首筋に、ヴォルフモンとなったシンスケは後ろから光の刃を突き付けている。だがマーレは余裕があるようで、シンスケの方を振り向こうともしない。 「ヒトの恐喝現場のぞくのって、趣味がいいとは言えないよ?」 「結構ッスよ。それよりアンタ、さっき何をした? 雷か何か……」  シンスケが言い終える前に、マーレは上体を前に倒し、シンスケの腹部に後ろ蹴りを放った。その速度はシンスケが反応出来ないほど早く、シンスケは完全に不意を突かれた結果となってしまった。そして、その威力は……。 「ウ、おッ!?」  ガクン、という衝撃をシンスケは受けた。腹を貫いた衝撃に、体が遅れてついて行ったような、奇妙な感覚。足が浮き、衝撃に体が追いついたと思ったその時には、シンスケの体は立っていたところより遙か後方に、吹っ飛ぶ途中の木々をなぎ倒して落ちていた。 「ゲホッ」 ACT...
  • ACT.03
     前回までのあらすじ  男と男のタマの取り合い、ドッジボール。それはまさに、生死をかけた戦いであった。 「そんなネタを引っ張らないで下さい」 ACT.3 World           ~本当の戦いはこれからだ~  珠生と歩の千三百十九回目の勝負の題目は「トリプルドッジ」。三つのボールを用いて行う、一対一のドッジボールだ。勝負開始直後、珠生は大胆な奇策により、全てのボールをその手中に収めたのであった。 「これがあらすじなんじゃないか?」  石田は誰に言うでもなく、空に向かってポツリと呟いた。 「ねぇ石田くん」  貴乃は石田の呟きを敢えて無視して声をかけた。 「なんだい貴乃さん」 「日向くんはボールを三つとも取ったけどさ、ここからどうやって攻撃するの? 普通に投げたら桃山くんには絶対通用しないけど、普通以外の攻め方なんて無いよね? ドッジボールだし。速く投げるくらいしかないよね?」 「いや…...
  • ACT.29
     執拗に繰り返される上空からの攻撃。時には強靭な足腰による蹴撃。時には足の大爪による斬撃。  風を操るシルフィーモンの、無限に滑空し続ける不破の陣。いかに歴戦の雄たるカクといえど、これに打ち勝つ術を見つけることは極めて困難であった。  ACT.29 Tournament:2            ~空のベクトル~  カクは四度目の蹴撃を受ける。爪によるダメージも深刻だが、現在カクを苦しめているのは主にこの蹴りのダメージだ。  そもそもガルルモンの毛皮はかなりの硬度を誇り、いかに完全体の爪でも一撃で深手を負わされるということはまず無い。ましてデジヴァイスによって進化し、全ての能力が通常の個体よりも強化されているカクであれば、爪によるダメージは無視できるレベルとまではいかないまでも、大して出血しない程度には抑えられている。  その一方で、毛皮では決してダメージを軽減できないのがその協力無比な蹴...
  • ACT.06
    「うおおおお!」  プチメラモンは進化の輝きに包まれる。 「うおおおお?」  歩は状況が掴めずうろたえていると、突如デジヴァイスに文字が表示された。 「ん?」 「進化完了ぉ!」  歩はまばゆい光から解き放たれたプチメラモンの姿を凝視する。「進化した」と言っていたからには何か変わるのかと思っていたが、見た目には何も変わっていないようだった。強いて言うなら、一回り大きくなった気がしないでもないのだが。 「何か……変わったか?」 「おう! オラ、成長期になったんだ!」  デジヴァイスの画面には、「プチメラモン成長期」の文字が表示されていた。 ACT.6 Statue           ~バリサンだ!~ 「お前はオラのパートナーだ! なぁ、ところでお前の名前、なんてーの?」 「オレ? 歩だけどさ……いや待て、パートナーだって?」 「うん、歩はオラを進化させるパートナーだ!」 「よくわかんねぇよ」...
  • ACT.15
     ジオグレイモンVSグレイモン。メラモンVSヴォルフモン。ウィザーモンVSガルルモン。雲の上にある火口の側。珠生たちと選ばれし子供たちの戦い。運命の、ファーストコンタクト。 ACT.15 Crusaders            ~選ばれし子供たち~ 「ぐおおおおおおおおお!」 「ぎぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!」  ヘリアンVSアグラ。二体のグレイモンは、頭を突き合わせたまま膠着状態になっていた。踏ん張る二体は一歩も後退しないものの、その足元の土は大きく抉れ、そのぶつかり会うパワーの大きさを示している。 「ゲス!」  痺れをきらしたヘリアンは、首を捻って強引にアグラを突き飛ばした。  アグラは倒れこそしなかったものの、後ろに数歩下がってしまう。 「ゲス!」  ヘリアンは尻尾を振り上げてアグラの横っつらを張る。アグラはよろめきながらも、自分も尾を振り上げて対抗しようとする。 「何所狙ってるでゲス!」...
  • ACT.38
     血は赤い。炎も赤い。赤は、命の色。  命の色であるはずの赤。その赤い色をした血と炎が、死の恐怖を呼び起こさせるのは何故だろう。  村を包み込む紅蓮の炎。全家屋が木造のこの村にあっては、ミサイルが直撃していない家屋でさえものの数秒で炎に包まれてしまう。  炎が燃える音に、家屋が焼け崩れる音。そして、人々の悲鳴と呻き声。地獄絵図とはまさにこのことだろうか。道端には、認めたくはないが……吹き飛ばされた人間の体の部位らしきものがいくつか転がっている。 「ハァ、ハァ……くそ、何だってんだ……!」  プッカは村の街道を走る。仲間達の姿を探して。  彼自身は運良く直撃を避けられ、屋外にいたからいいものの……果たして、仲間達は無事なのか。いや、それ以前に今どこにいるのか。更に言うなら、どうしてこんな事態になっているのかすら彼には分からない。村が何者かに襲撃されたとして……思い当たるのは、アイゼンベルクか...
  • ACT.14
     山の入り口で珠生たちは行き倒れのブイモンに出会った。  ついこの間も同じことがあって、それは戦いのきっかけでもあったなぁなどと思いつつも、行き倒れのデジモンを放っておくことはやはり良心が痛むということで、珠生たちはとりあえずブイモンに声をかけることにした。 「おい、大丈夫か?」  歩がブイモンの体をゆする。 「うう……」  ブイモンは何やら苦しそうに呻く。 「また棒で突いてみようか」  珠生は適当な棒きれを探し始めた。 「町で新調した杖でよければどうぞ」 「あれはマジに痛かったでゲス。できれば止した方がいいと思うでゲス」 「うっ……」  突如ブイモンの体が硬直する。カッと目を見開いて、泡でも噴きそうな様子である。 「ちょ、ちょっとウィズ。このコヤバいんじゃないの?」 「死は突然訪れるものです」 「うううう……」  ブイモンの視線は宙を彷徨い、体は痙攣し始める。  あまりに突然の緊急事態に...
  • ACT.37
     とある民家にて――。 「はーい、お口アーンしてー……」 「あー……」  幼児はウィズに言われるままに口を開け、喉の奥を見せる。  ウィズは杖の先に光を灯すと、いい感じに見やすく開かれたピンク色の口腔を覗き込む。 「腫れは引いているようですね……」  この幼児は先日まで風邪によって扁桃腺を腫らしていたのだが、咳が止まると共にその腫れも引いてくれたようだ。 (こちらの世界に風邪の菌がいるなんて驚きですが……) 「鼻水も止まったようですし、もう殆ど治ったと言っても過言ではありませんね。でも風邪というのはひきはじめと治りかけが一番の注意のしどころです。くれぐれも、無茶はさせないように」 (これもまた来訪者の影響……なのですかね。世界の境界線は、どんどん曖昧になってゆく……) 「ありがとうございます」  幼児の母親は頭を下げる。母親と言っても、見た目は二十代半ばにも至っていないように見える。その白...
  • ACT.35
     それは、選ばれし子供達がウィズ一味に出会うより数日前――。  子供達は火山の麓で、小さな町を面白半分に破壊するバルバモン軍の残党……スカルサタモンという凶悪強力なデジモンと戦闘した。  スカルサタモンは完全体。当時の子供達の戦力と言えば、グレイモンに進化できるようになったアグラとシンスケのみ。カクはまだガルルモンに進化出来なかった。当然、これではまるで勝ち目がない。  旅が始まって以来の危機。まず天使軍を名乗ったキミタローが倒され、次にアグラが倒され、シンスケもスピリット解除まで追い込まれた。そしてスカルサタモンがカクを蹴り飛ばし、子供達にも攻撃を加えようとした時……シンスケは、イグドラシルに「使うならば絶体絶命の危機の時だけ」と言い聞かされていたビーストスピリットを使う決心をした。  そして、進化してすぐシンスケは自我を失う。  自我を取り戻したシンスケが見たのは、何故か進化したカクの...
  • ACT.27
     この建造物は、一体だれが造ったのだろうか。  黄太は、これと同じものを知っている。そう、人間の世界にもこれと同じものはある。だが、人間の世界にあるものはもはや老朽化してところどころが崩れ落ち、かつ数も一つしかない。だが、こちらの世界のこれはどうだ。まだアリーナが欠けたりしておらす、石の色合いからは、どこか真新しさすら感じる。それにこの数はどうしたものだろう。五つもある。最も大きなものを中央に据え、東西南北に二回り小さいものが一つずつ。黄太が今いるのは、その内の北のもの。  黄太は目下で繰り広げられている戦いを見つめる。「飛び道具禁止」というルールの元で行われているこの試合は、必然的に格闘戦となり、観客たちを飽きさせない。先ほどから絶えることのない、まるで耳の穴を押し広げてしまいそうなほどの大歓声。 (アグラの試合はこの次か……)  漢たちの血が沸き、肉が踊るコロッセオ。その中にあって、自...
  • ACT.39
     それは、珠生がまだ歩や八重と出会う前――小学校に入学したばかりの頃のこと。  左目が茶、右目が金のオッドアイである珠生は、同学年の子供達から「まじん」という仇名を付けられ、からかわれていた。幼い珠生は、ロクに言い返すことも聞き流すこともできずにただただ俯くのみ。言い返せないことが悔しいとは思っていたが、それでも耐えるしかない日々。  ある時、そんな毎日に転期が訪れた。転機と言っても、天命が彼を救ったのではない。屈辱の日々に耐えかねた彼自身が、自ら行動を起こしたのだ。  それは暴力。いつも自分をからかっていたグループの一人を、彼は殴り倒したのだ。しかし、殴り倒したとは言っても所詮は子供の拳。同じ子供といえど、一発で相手を「殴り倒す」ことなど不可能である。つまりどういうことか。珠生は、相手が「倒れるまで殴った」ということに他ならない。  珠生が己の恨みを晴らし、久しく晴れ晴れとした気持ち...
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