ローゼンメイデンが普通の女の子だったら @Wiki内検索 / 「『電車を待ちながら』」で検索した結果

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  • テレパシー
    好きだ! ラッシュにはまだ間がある朝の電車は、立っている乗客を数人数えられる程度に空いていた。 桜田ジュンは吊り革につかまり、愛を叫び続けていた。 目の前に座っている銀髪の女性はうんざりして彼を盗み見る。 ジュンが好きだと叫んでいる相手は、銀髪の女性の右隣に座って文庫本を読んでいる女性だ。 好きだ! 彼女が不意に文庫本から顔を上げた。びっくりして怪訝そうに辺りを見回している。 その動きに、つい顔を向けてしまったジュンと視線がぶつかった。見つめ合う形になっても、ジュンの心の中で「好きだ!」と言葉がもれていた。 彼女の顔が真っ赤になる。慌てて顔を伏せ、読書に戻ったが、明らかに文字を追っていない。 彼女は電車を降りる直前に顔を上げ、ジュンをしばらく見つめてから降りた。 ジュンもその駅で降りた。それに気付いて彼女はジュンをホー...
  • ―/― おわりのうた
     彼女は言った。たった一枚の絵を、描きたいのだと。頭の中に曖昧に浮かんでいる絵を かたちにする為に、筆を走らせていたっけ。  それは、何処か遠い遠いところにある景色のようなものらしい。小さい頃から、ずっと 一緒だったけど。実際のところ、それが果たしてどんな景色なのか、それとも本当に『景 色』であるのかすら僕にはわからなくて……ともかく、彼女が『描きたい』と願うものを 僕は知らない。  言葉で伝えられても、僕にはそれを正確にトレースすることは出来ないから。それは当 然と言えば当然のことだったし。それでいて、少しだけ寂しいこと。  また、彼女は言った。この世界には、世界を作り上げるからくりがあって、そして物語 があるのだと。その物語は、少なくとも。それこそこの世界に生きる人々の数だけ、綴ら れていることは確かなのだと思う。  世界のからくりが、物語の中に物語を内包する。だからその数は、実...
  • 『ひょひょいの憑依っ!』Act.11
          『ひょひょいの憑依っ!』Act.11 白銀のステージライトを浴びて、ゆるゆると路上に佇む、眼帯娘。 だらりと肩を下げ、今にも大きな欠伸をしそうな、さも怠そうな様子は、 立ちはだかるというより寧ろ、寝惚けてフラフラ彷徨っていた感が強い。 冷えてきた夜風を、緩くウェーブのかかった長い髪に纏わせ、遊ばせて…… 水晶を模した髪飾りが、風に揺れる度に、鋭い煌めきを投げかけてきます。 でも、人畜無害に思えるのは、パッと見の印象だけ。 めぐと水銀燈の位置からでは逆光気味でしたが、夜闇に目が慣れた彼女たちには、 ハッキリと見えていたのです。 眼帯娘の面差し、金色に光る瞳、口の端を吊り上げた冷笑さえも。 「貴女……どっかで見た顔ねぇ」 水銀燈は、一歩、めぐを庇うように脚を踏み出します。 午前一時を回った深夜まで、独りでほっつき歩いている娘―― しかも、出会い頭に妙なコトを口走ったとあれ...
  • 『ひょひょいの憑依っ!』Act.4
      『ひょひょいの憑依っ!』Act.4 ちゃぶ台に置かれた料理の数々が、ジュンの目を惹きつけます。 驚くべきコトに、それらは全て、金糸雀のお手製と言うではあーりませんか。 玄関を開けたときに、鼻腔をくすぐった美味しそうな匂いは、気のせいではなかったのです。 「ジュンの帰りを待ち侘びながら、あの女が持ってきた食材を使って、  お昼ご飯を作っちゃったかしら~」 金糸雀は、ニコニコと満面の笑みを浮かべながら、幸せそうに話します。 もし、ジュンが帰ってこなかったら、無駄になってしまうと考えなかったのでしょうか。 おっちょこちょいな、彼女のことです。そんな仮定など、していたかどうか……。 「ホントに、お前が作ったのか? 近所の食卓から、かっぱらって来たんじゃあ――」 「むぅ~。侮辱かしら。失礼しちゃうかしらっ!  この部屋から出られないカナが、そんなこと出来っこないじゃない」 「ああ、それ...
  • 第十二話  『君がいない』
    始業のチャイムが、校舎に静寂をもたらす。 医薬品のニオイが仄かに香る部屋に、翠星石は独り、取り残されていた。 保健室の周囲には、教室がない。 さっきまで居た保健医も、今は所用で出かけたきり。 固いベッドに横たわり、青空を眺める翠星石の耳に届くのは、風の声だけだった。 「蒼星石――」 青く澄みきった高い空を横切っていく飛行機雲を、ガラス越しに眺めながら、呟く。 胸裏を占めるのは、妹のことばかりだった。 「あの夜……蒼星石の気持ちを受け止めていれば、良かったですか?」 でも、それは同情しているだけではないのか。 可哀相だからと哀れみ、抱き寄せて、よしよしと頭を撫でてあげるのは容易い。 今までだって、ずっと……蒼星石が泣いていれば、そうしてきた。 しかし――ふと、自分の内に潜んでいる冷淡な翠星石が、疑問を投げかける。 お姉さんぶって、妹を慰めながら、優越感に浸っていたのではないか? 同...
  • 【愛か】【夢か】
    「おかえりなさい」 夜更けの非常識な来客を、凪いだ海のように穏やかな声が出迎えてくれた。 僕の前に佇む君に、あどけない少女の面影は、もうない。 けれど、満面に浮かぶのは、あの頃と何ひとつ変わらぬ夏日のように眩しい笑顔で。 「疲れたでしょう? さあ、入って身体を休めるかしら」 そんなにも屈託なく笑えるのは、なぜ? 君が見せる優しさは、少なからず、僕を困惑させた。 ――どうして? 僕のわななく唇は、そんな短語さえも、きちんと紡がない。 でも、君は分かってくれた。 そして、躊躇う僕の手を握って、呆気ないほど簡単に答えをくれた。 「あなたを想い続けることが、カナにとっての夢だから」 なんで詰らないんだ? 罵倒してくれないんだ? 僕は君に、それだけのことをした。殴られようが刺されようが、文句も言えない仕打ちを。 ここに生き恥を曝...
  • 第十話  『こんなにそばに居るのに』
    ひたと正眼に構えられた木刀は、木枯らしに煽られようと、微塵も揺るがない。 巴の真剣な眼差しは、真っ直ぐ前方に向けられていた。 まるで、眼前に敵が立ちはだかっているかの様に、虚空を睨んでいる。 凛とした立ち居振る舞いから放たれる緊張感。 ひしひしと蒼星石の肌を刺激するのは、冷たい風ばかりではないのだろう。 学校で目にする、物静かで淑やかな彼女からは、想像もつかない。 どちらが、柏葉巴という娘の、本当の姿なのだろうか。 社殿の階段に腰を下ろした蒼星石は、膝を抱えて、巴の仕種を眺めていた。 「なんだか……素敵だなぁ」 思わず、心に浮かんだ感想が、言葉に変わっていた。 かっこいいでも、凛々しいでもなく、素敵。 ただ一心に、剣の道に打ち込む巴は、全身から不思議な輝きを放っている。 他人の目を惹きつけてやまない、独特の雰囲気を。 巴が、静から動へと移る。 対峙していた仮想の敵に、猛烈な斬撃を浴...
  • 【お酒と河川敷と、お嬢様】
    「ジュン様は奥手すぎるのですっ! 大体ですね……」   さて、隣でやたら僕に絡んでくるこのお方の対処に、僕はほとほと困り 果てて居るのだった。どうしようかなあ……普段おしとやかでも、ひとっ てやっぱり変わるんだなあ……  かと言ってこのまま放置していく訳にもいかないし。一度腹を決めたのだ、 とことんまで付き合おうではないか。   僕の隣で、最早顔も真っ赤にしながら話し続けているのは雪華綺晶。この 辺りじゃ有名なお屋敷に住んでいるお嬢様である。夕暮れ時の光が、彼女の 顔をより一層赤く照らしているように見えた。 「あ、また無くなりましたわね……ジュン様、そちらの袋をおとり下さいますか」 「はいよ」   がちゃん、と音が重く響くほど中身の詰まった袋を、彼女に渡す。 「ゴミを持ち帰るのは、ひととしてのマナーですわ」   ...
  • 大人と子供
    「月が綺麗……」 電話の向こう側で彼女がなにげなく呟いた。 長々と電話をして、ふと会話が途切れる瞬間。 気まずさが出ない程度の短い沈黙を使ってなんてことない事を言 ってきた。 「そうか?」と僕が聞き返すと「そうよ」と一言。 携帯電話を片手に冬のすこし曇った窓を手のひらでクリアにして、 空を見上げてみる。 一点の曇りも無い純白の月が周りの星々をかき消して燦然として いていた。 いつからだろう。 これを綺麗と感じなくなったのは。 小学校の頃はなんにでも興味を持てたのに、今はあらゆる物がく だらない。 星だって、月だって、街のネオンだって、それこそ車のライトだ って。 あらゆる物が素晴らしかった。 でも何故だろう。 今はそうじゃない。 「そうでもないよ」 急に寂しさに苛まれた僕は少しむきになってしま...
  • 【ゆめうつつ】~トロイメント~§エピローグ
    §エピローグ  冬は、全てが眠りにつく季節だと思う。ついこの間まであんなに美しい彩り を見せていた樹々の葉が、いつの間にか枯れ木になり。今はその枝を冬風に揺 らしている。  きっと春になればまた新緑は芽吹き、穏やかな風が吹くだろう。今はその為 の準備期間。たとえ眠っていても、時間はこうやって進んでいるから。  街はひかりで彩られ、賑わいを見せている。その理由は簡単で、もう少しで クリスマスがやってくるから。  大きな通りに、ツリーが飾られている。イルミネーションの電飾が、きらき らと輝いていて美しい。人々は何処かうきうきとした様子で歩いている。    この季節だけ見ることの出来る、一瞬の景色。  冬に眠りについた人々が見ている、束の間の夢。  そんな中で独り、私は歩いている。細い小道に入ると、煌びやかだった電飾 は幾分ささやかなものになり、道を照らしていた。  店に辿り着き、...
  • 第五話  『もう少し あと少し…』
    横に並んで歩き、塀の陰に消える二人の背中が、目の奥に焼き付いている。 校舎と校門は、かなり離れていた筈なのに――彼女たちの笑顔は、ハッキリ見えた。 瞬きをする度に、その光景が頭の中でフラッシュバックする。   どうして、あの二人が? 蒼星石の頭を占めているのは、その疑問だけ。 双子の姉妹という間柄、姉の友好関係は熟知しているつもりだった。 けれど、翠星石と柏葉巴が友人という憶えはない。 彼女たちは、蒼星石の知らないところで交流があったのだろうか? 翠星石ならば、有り得そうだった。可愛らしい姉は、男女を問わず人気者なのだから。 しかし、それなら今日、巴との会話の中で、翠星石の話題が出ても良さそうなものだ。 (それが無かったところから察して、つい最近の付き合いなのかな。  昨日、姉さんが体育館にいたのも、柏葉さんと今日の約束をしてたのかも――) なんだか除け者にされたみたいで、蒼星...
  • 『いつわり』
      鏡に映る、若い娘。 ――それは、私。他の誰でもない、自分自身。 湯上がりの、薄桃色に染まった肌から幽かに立ちのぼる淡い色香は、 いくらも保たずに、濡れたままの洗い髪へと溶けてゆく。 なにも……変わらない。変わってなどいない。 瑞々しく細い喉、胸元を点々と飾るホクロ、薄蒼く血管の浮いた白い肌。 全ては、いつもどおりの、見慣れた景色。 「ステキな身体……私のカラダ……」 鏡の中の自分に見とれながら、そんな戯れ言を、口にしてみた。 夢の中で、いつも逢う彼女が、熱っぽい吐息と共に囁く言葉を。 だけど、彼女の姿は、ハッキリと思い出せない。 白いモヤモヤしたイメージしか、残っていない。 ここ最近、毎晩のように、同じ夢を見ているというのに。 そのくせ、彼女の声だけ、不思議と明瞭に憶えているのは、何故? 実際に、鼓膜が震わされた感覚が、刻み込まれているのは、何故? 「どうして、あんなワケの...
  • 超機動戦記 ローゼンガンダム 第二話 激突する力
    超機動戦記 ローゼンガンダム 第二話 激突する力 「搭載機、すべて出撃完了しました。」 ブリッジでサクラダ副官の巴が言う。 「了解だ。ブリッジ遮蔽。全武装起動。アリスのMSの迎撃に移る。サクラダ、発進!」 JUMの声が上がる。メイデンの旗艦サクラダ。特に足が速かったり、搭載可能機が多かったりは しないが、戦闘に関しては数あるレジスタンスの旗艦の中でもトップクラスの力を誇る。 22基の対空機銃「ベリーベル」、右舷2連装砲「レンピカ」、左舷2連装砲「スィドリーム」 6連装ミサイルランチャー「メイメイ」、主砲「ホーリエ」とかなり強力な火力を誇り、 防御面も相手のミサイル等を自動でレーザーで迎撃する自動迎撃システム「ピチカート」も搭載しており かなりの戦闘力を誇っている。 この時代の戦艦はとにかく狙われやすいため、ビーム兵器に対しては特殊なコーティングを施すことで ある程度は無効化できる。しかし...
  • あなたを感じていたい
    「とにかく、翠星石は僕がいない間に無茶苦茶するなよ。僕がいなくなったとたん にせいせいして、いろいろやんちゃしだすからな……」  ジュンはこれでもかというぐらいに私に釘を差す。 「うるさすぎるです、チビ人間」  本当にうるさい。  そこまで言わなくても分かっているですよ。  ――そんなに……しゃべらなくも……。 「また雛苺にいらないちょっかい掛けるなよ。雛苺から泣きの電話が入るのはうん ざりするのだからな」 「いちいちうるせえですよ!翠星石はそこまでひでえ奴じゃねえです」  ジュンのさらなる言葉に私は顔を膨らませた。 「ははは、本当に翠星石は可愛い奴だな」  そんな私の反応を見て吹き出すジュン。 「ジ、ジュンこそちょっかいかけてるじゃねえですか。だったらこうしてやるです」  私はそう言ってジュンの首元をくすぐる。 「ち、ちょっとやめてくれよ、ははは」 「もっとやってやるですぅ」  ...
  • 第八話  『愛が見えない』
    知らず、翠星石の肩を掴む手に、力が込められていたらしい。 尋常ならざる妹の気迫に言葉を失っていた翠星石が、思い出したように抗議の声を上げた。 「い、痛いです、蒼星石っ」 「答えてよっ! ボクと、彼女と……どっちを選ぶの!」 「手を離すですぅっ!」 噛み合わない会話に焦れて、蒼星石はベッドから腰を浮かせ、脅える姉を威圧的に見下ろす。 「ずぅっと一緒に居るって言ったのに! 約束したのにっ!」 詰め寄られて、翠星石はバランスを崩し、ベッドの上で仰向けに倒れた。 手にしていたマグカップから零れたレモネードが、彼女の胸元に降りかかる。 まだ温くなっていない液体がパジャマを濡らし、肌に貼り付かせた。 「熱ぃっ」 か細い悲鳴を聞いてもなお、蒼星石は力を緩めず、姉の身体にのし掛かった。 重なり合った二人のパジャマに、レモンの香りが染み込んでいく。 レモンの花言葉は『誠実な愛』『熱意』そして...
  • 最終話 生きる事は・・・
    「超機動戦記ローゼンガンダム 最終話 生きる事は・・・」     「これでよしっと・・・」 自室のドレッサーで薄く化粧をする少女がいた。軍部に身を置きながらも年頃の女の子。身だしなみは 忘れない。最も、今日はオフだからなのだが。彼女の名前は地球連合軍「Rozen Maiden」第六番大隊 隊長、柏葉巴中佐。11年前のアリスの乱からはじまった戦乱をレジスタンス「メイデン」の旗艦、サクラダの 副艦長として活躍し、現在はその手腕を買われて六番大隊の隊長に抜擢された。もっとも、彼女の場合は 戦闘のための隊長というより、ある人物の護衛。悪く言えばお守りとしての役割の方が大きい。 1年前、稀代の天才科学者ローゼンの作りし最高の人工知能「アリス」の暴走による戦乱は様々な レジスタンスによって鎮圧された。そのレジスタンスで最も活躍したとされるメイデンから因んで、現在連合軍は 自らを「Rozen Maid...
  • 【ゆめの、あとさき】
     カタン、カタン――。電車は、揺れる。なんとなく、外を覗いてみた。  見慣れぬ、景色。しかしその色が、僕が本来もち得ない筈の郷愁の念を抱かせるような 気がした。長く都会に暮らしていると、こういった田舎風の情景に心惹かれる様になる― ―というのも、あながち否定出来ないのかもしれない。  周りを見れば、車内には殆どひとが居ない。殆ど貸切状態だった。ゆらぎを見せる電車 の中で、僕は何だか眠くなってくる。――このまま、眠ってしまっても、良いだろうか?  そうして、僕は夢を見る。僕の故郷と呼べる場所はそこそこ都会で、そこから出たこと など今まで一度も無かったように思う。そう、今こうやって、そんな場所に向かおうとす るまでは。  夢を見終わった後の記憶は、いつだって曖昧だ。だから、今願ってみよう。どうか、夢 を見るならば。いつか忘れてしまうようなものであっても――きっと優しいものであるよ うに、...
  • 『ひょひょいの憑依っ!』Act.2
      『ひょひょいの憑依っ!』Act.2 ――チュンチュン……チュン カーテンを取り付けていない窓辺から、朝の光が射し込んできます。 遠くに、早起きなスズメたちの囀りを聞きながら、ジュンは布団の中で身を捩りました。 春は間近と言っても、朝晩はまだまだ冷え込むのです。 「……うぁ~」 もうすぐ会社の新人研修が始まるので、規則正しい生活を習慣づけないと―― そうは思うのですが、4年間の学生生活で、すっかりグータラが染みついてるようです。 結局、ぬくぬくと二度寝モードに入ってしまいました。 すると、その時です。 「一羽でチュン!」 ジュンの耳元で、聞き慣れない声が囁きました。若い女の声です。 寝惚けた頭が、少しだけ目覚めます。 「二羽でチュチュン!!」 小学校に通学する子供たちの騒ぎ声が、近く聞こえるのかも知れません。 うるさいなぁ。人の迷惑も考えろよ。胸の内で、大人げなく悪...
  • 第三話  『運命のルーレット廻して』
    ベッドに入ってから一睡もできなかったというのに、頭は妙にスッキリしていた。 気怠さや、疲れも感じない。肌だって瑞々しくて、パッと見、荒れた様子はなかった。 これが若さなのかな? と蒼星石は洗面所の前で、小首を傾げてみた。 鏡の中の彼女は、不思議そうに、自分を見つめ返している。 そこに、昨夜の雰囲気――柏葉巴の影は、全く見受けられない。 今日、学校に行ったら……話しかけてみよう。 夕暮れの体育館で見た凛々しい姿を思い出しながら、もう一度、昨夜の決心を繰り返す。 おとなしそうな彼女だけど、果たして、呼びかけに応えてくれるだろうか。 人付き合いは、やはり、第一印象が大事。変な人と思われないように、気を付けないと。 蒼星石は、鏡の中の自分に、ニッコリと笑いかけてみた。 大きな期待の中に、ちょっとの不安を内包した、ぎこちない微笑み。 少しばかり表情が硬いな、と思っていると―― 「朝っぱらから、...
  • 第二十八話 雛苺
    「超機動戦記ローゼンガンダム 第二十八話 雛苺」   ポーランドの空に閃光が走る。赤い魔槍ゲイボルグと、ビームサーベルが弾け合う。 「うっ・・・・っく・・・」 しかし、それで体に走る衝撃は尋常ではない。そもそも、ヒナイチゴ自体が完璧ではないのだ。 傷口から伝う液体を感じる。口にも鉄の味が滲んでくる。 「ひゃあっはははー!苦しそうだなぁ!」 梅岡が歪んだ笑顔を向ける。 「うゆ・・・苦しくなんかないの・・・・まだ戦えるんだからぁ・・・!」 有線ビーム砲を展開させる。4つのビームが踊るようにプラムに襲い掛かる。 「ひゃは!甘いんだよぉおお!!」 プラムのダブルビームライフルが有線ビーム砲を2つ破壊する。 「さぁどけ!僕はせめて桜田を殺さないと押さえれそうにないんだよぉおお!!」 プラムがヒナイチゴの脇をすり抜けサクラダに向かおうとする。しかし、その背後からビームが走る。 「いかせないの・・・JU...
  • 第十三話  『痛いくらい君があふれているよ』
    「うーん……どれが良いかなぁ」 ケーキが並ぶウィンドウを覗き込みながら、蒼星石の目は、ココロの動きそのままに彷徨う。 どれもこれも、とっても甘くて美味しそう。 だけど、水銀燈の好意に応えるためにも、翠星石に喜んでもらえるケーキを選びたかった。 「……よし、決めたっ。すみません、これと、これと……これを」 選んだのは、苺のショートケーキ。祖父母には、甘さ控えめなベイクド・チーズケーキを。 それと、絶対に外せないのは、姉妹と亡き両親を繋ぐ、思い出のケーキ。 甘~いマロングラッセをトッピングした、モンブランだった。 (これなら姉さんだって、少しくらい具合が悪くても、食べてくれるよね) そうでなければ、苦心して選んだ意味がない。 一緒に、ケーキを食べて……にこにこ微笑みながら、仲直りがしたいから。 いま、たったひとつ蒼星石が望むことは、それだけだった。 会計を済ませて、ケーキ屋のガラ...
  • ずっと傍らに…激闘編 第十九章~翠星石side~
    翠「~♪」 すこやかに~のびやかに~♪ 今日もちゃんとお花に水をやるですよ~♪ いやぁ…見事なまでに青空が広がってるですぅ。 絶好の行楽日和…って言っても、今年はどこにも行けないんですが… まぁジュンとは街へ出掛けたんですけどね~♪ それだけでも良しとしますか。 …邪魔が入った? あぁ、そんなもん知らねぇです。 ヒッキーと外で遊べること自体奇跡だったわけですし、 駅弁食べながらのんびり過ごすことも出来ましたし、 色々と服も買えましたし、 アクセサリーも買えましたし、 ケーキ屋にも行けましたし── このキャミワンピースも、ジュンはさっさと気づいてくれるですかねぇ~。 『(あっ!その服、こないだ買ったやつだろ?  やっぱお前が着ると可愛く見えるよなぁ~…)』 …きゃはっ! 顔がにやけてくるですw だっ…誰にも見られてないですよね? …って、みんな家の中でゴロゴロしてやがるですか!...
  • 第20話  『悲しいほど貴方が好き』
    茨の蔦は、想像していた以上に太く、複雑に入り乱れている。 しかも、異常な早さで再生するから、始末が悪い。 一本の蔦を丹念に切り、取り除いていく間に……ほら、別の蔦が伸びてくる。 その繰り返しで、なかなか前に進めなかった。 すっかり夜の帳も降りて、降り注ぐ月明かりだけが、辺りを青白く照らすだけ。 翠星石は薄暗い茨の茂みに目を遊ばせ、蒼星石の手元を見て、またキョロキョロする。 彼女の落ち着きのなさは、不安のあらわれに違いない。 (早く、こんな茨の園を抜け出して、安心させてあげなきゃ) 焦れて、無理に切ろうとした鋏の刃が滑り、跳ねた茨が蒼星石の肌を傷付けた。 「痛ぃっ!」 しんと静まり返った世界に、蒼星石の小さな悲鳴が、よく響いた。 それを聞きつけて、翠星石は表情を曇らせ、蒼星石の隣に寄り添う。 「大丈夫……です?」 「あ、うん。平気だよ、姉さん。ちょっと、棘が刺さっただけだから」 ...
  • 第十六話 薔薇水晶
    「超機動戦記ローゼンガンダム 第十六話 薔薇水晶」   「っくぅうう!!このぉお!」 シンクにReスイギントウのダインスレイブが突き刺さる瞬間、シンクを弾き飛ばし割って入ったバラスイショウ。 シンクは直撃を受けずに済んだが、バラスイショウが右腕を切り落とされてしまう。しかし、それでも バラスイショウは止まらずに残った左腕のガトリングガンでReスイギントウを退ける。 「真紅!しっかりして・・・真紅!!」 薔薇水晶がコクピットで震えている真紅に声を呼びかける。しかし、今の真紅の脳裏にはReカナリアの うなだれ兵士のマーチにより蘇ったアリスの乱の惨状がフラッシュバックしていた。 「お父様・・・お母様・・・いや・・いや・・・助けて・・・JUM・・・」 Reカナリアはさらに追撃をかけようとする。「破壊のシンフォニー」。この世界にこれ以上劣悪な音は 存在しないという音。黒板ひっかき音やジャイアンの歌さ...
  • =さらば!我が愛しき日々よ=第八話
    どのくらいの時間が過ぎたのだろう。意識はまだ薄ぼんやりとしている。 『ガチャ・・・パタン』 ドアを開ける音が聞こえる。匂いからして、ここはリビングだろう。 背中にはやわらかい感触がする。 じゃあ僕は、ソファーの上で寝ているということなのか・・・ 頭がなんだか重い・・・ の「ジュン君、起きた?」 不意に、のりの声が聞こえた。しかし、まだ瞼を開けるほどの力は出てこない。 雪「まだですわ。もう朝ですのに・・・」 誰だったかな・・・。昨日の配達物を受け取った後の記憶が無い・・・ 真「まったく、あの程度で気絶するなんて貧弱な下僕だわ。」 この声は・・・真紅か。声を聞いたらに急に背筋が冷めてきたのはのは何故だろう・・・。 雪「当たり前ですわ。誰一人として耐えたことの無い、真紅必殺の『絆パンチ』を顔に、しかもまともに食らったのですから。」 意識はまだはっきりしない・・・。二人の...
  • 一日目
    「おはよう、二人とも」 「おはようですぅ。今日もお前はチビですねぇ。」 「ちょっと翠星石…。自分の彼氏にその言い方は…。あ、ジュン君おはよう。」 いつもと同じ、ある水曜日の朝。 もう点滅しはじめている信号。傍らには花屋。そんな景色。 また3人で登校するようになって、もう一月くらいたつのかな。 ジュン君と翠星石が付き合い始めてから僕も遠慮してたけど… ちょっと前、また3人で通わないか、ってジュン君から誘われたんだ。 その二人だけど、翠星石もあんな事言っておきながらジュン君にベタベタなんだよね…。ほら。 「♪♪」 「ちょ、朝から腕組むなよ。」 「いいじゃないですかぁ♪恋人同士なのですよ?」 翠星石とジュン君が腕を組んで。僕がジュン君の横について。 日差しは、僕の側から降り注ぐ。でも、むしろ暗さを感じる。 二人に少し相槌を打ちながら、歩いていた。 ボーっとしていたからかもしれない。 ...
  • 『ひょひょいの憑依っ!』Act.13
        『ひょひょいの憑依っ!』Act.13 ――こんなに、広かったんだな。 リビングの真ん中で胡座をかいて、掌の中でアメジストの欠片を転がしながら、 ぐるり見回したジュンは、思いました。 間取りが変わるハズはない。それは解っているのに…… なぜか、この狭い部屋が、茫洋たる空虚な世界に感じられたのです。 一時は、本気で追い祓おうと思った、地縛霊の彼女。 だのに……居なくなった途端、こんなにも大きな喪失感に、翻弄されている。 彼のココロに訪れた変化――それは、ひとつの事実を肯定していました。 はぁ……。 もう何度目か分からない溜息を吐いたジュンの右肩に、とん、と軽い衝撃。 それは、あの人慣れしたカナリアでした。 左肩に止まらなかったのは、彼のケガを気遣ってのこと? それとも、ただ単に、医薬品の臭いを忌避しただけなのか。 後者に違いない。すぐに、その結論に至りました。 意志の疎通...
  •  『ひょひょいの憑依っ!』Act.5
     『ひょひょいの憑依っ!』Act.5 夕闇が迫る下町の風景は、どうして、奇妙な胸騒ぎを運んでくるのでしょう? どこからか漂ってくる、夕飯の匂い。お風呂で遊ぶ子供の、はしゃぎ声。 車のエンジン音と、クラクション。遠く聞こえる電車の警笛。その他、様々な雑音―― 闇が世界を塗りつぶしていく中、人影の群は黒い川となって、足早に流れてゆきます。 毎日、繰り返される平穏な日常の、何の変哲もないワンシーン。 なのに、ジュンはそれらを見る度に、家路を急ぎたい衝動に駆られるのでした。 黄昏時は、逢魔が刻。 そんな迷信じみた畏れが、連綿と魂に受け継がれているのかも知れません。 ――などと、しっとりとした雰囲気に包まれながら、ジュンは、ある場所を目指していました。 それは……ズバリ、近所の銭湯です。 タオルやボディソープ、シャンプーなど、入浴に必要な物はバッグに詰めて、背負っています。 にしても、自宅...
  • 【ある日の幕間】
     ――さて。    私は今の状況を、冷静に分析しようと試みる。  それが失敗に終わることは、勿論自覚していたのだ。手先は割かし器用な方だけれど、複雑なことを考えるのはとんと苦手だから、私は。  本当に、複雑な問題なのかしら?  改めて考えて、その自問にもやっぱり答えを出すことが出来ない。  ――少し、嘘をついている。  出すことが出来ない、ではなくて。出そうとしていない、だけじゃなのかも? 「槐さん、お茶が入りました」 「ああ、ありがとう」  私の思考を余所に、繰り広げられる幕間。 「みっちゃんさんも……はい、どうぞ」 「あ、ああ、ありがと」  優雅な仕草で私にお茶を差し出し、お盆を持っていそいそと奥の部屋へ戻る彼女。  今、時は夜中の十二時をまわったところ。  眼の前には、これまたこの上無いくらい上品な仕草で紅茶に口をつける彼。  一流の人形師ともなると、普段の仕草まで...
  • *終盤戦1 巴さん地獄変
        どのお酒が一番すき? と問われれば、多分答えることができないと思う。  なぜなら、お酒はどれもすきだからだ。  うん。何が言いたいかっていうと、九平次うまいね。 「さくらだくん、あなたねえ、このぼくねんじん」 「いきなり酷くないかそれ?」  箸を動かす。口へ運べば、しゃっきりとした歯ごたえ。はぁ……なんでこんなにただの漬物が美味しいんだろ。 「あかかぶちょうだい?」 「どうぞ」 「たべさせて」 「なんでだよ」 「さくらだくん?」 「はい逆らいません」  何やってんだ僕は。とりあえずこの赤カブを与えないと危(ヤバ)い雰囲気を感じたので、従うことにする。こんなに赤いのに、僕らはこれを美味しいという……着色料とか使ってないんだよなー。姉ちゃんどこから仕入れてくるんだろう。そういう問題じゃないよ。弱いなあ僕。 「ほら」 「あーん」  何故眼を瞑る。  口に運んでみると、...
  • 第七話  『ハートに火をつけて』
    蒼星石は考えていた。 帰りの電車の中で、微睡む水銀燈と肩を寄せ合い、座っているときも。 駅から家までの暗い夜道を、俯きながら歩いているときも。 お風呂に入って、熱い湯をはったバスタブに、身を浸しているときも。 そして、今……家族が揃って、晩の食卓を囲んでいるときも。 ――大切なヒトを、温かく幸せな気持ちで満たしてあげられること。 水銀燈の、自信に満ちた口調が、頭の中で幾度となく繰り返される。 表面上は突っ張っていても、心の底では愛されたいと切望している女の子。 そんな彼女だからこそ、愛を熟知していて、愛することにも慣れているのだろう。 甘え上手で、カリスマ的。冷淡なようで、姐御肌な一面も併せ持っている。 それらを巧みに使い分けられる水銀燈は、同い年の娘たちより精神的に大人だった。   じゃあ……ボクは? みんなは、ボクと居ることで幸せな気持ちになっているの? 箸を休め、食事...
  • 第十四話  『君に逢いたくなったら…』
    ぽっかりと抜け落ちた、パズルのピース。 過半数に及ぶ空隙に当てはまるスペアは無く、虚ろな世界が口を広げるのみ。 翠星石の部屋で、蒼星石は虚脱感の促すままに、くたりと寝転がって動かない。 目を閉ざせば、瞼の裏に焼き付いた光景が、色鮮やかに蘇ってきた。   息吹を止めた、姉――   すべすべで温かかった柔肌は、時と共に色を失い、冷たく固まってゆく――   まるで、精巧に作られた蝋人形のよう―― 「……イヤだ…………そばに来てよ、姉さん」 思い出すたび、飽くことなく繰り返される、嗚咽。 蒼星石は頭を抱え、身体を丸めて、溢れ出す涙を流れるに任せた。 それは短く切りそろえた髪を濡らし、姉の匂いが染みついたカーペットに馴染んでゆく。 しゃくりあげる蒼星石を、ふわりと包み込んでくれる、翠星石の残り香。 この部屋には、まだ確かに、姉の面影がひっそりと息づいていた。 それは、悲しみに暮れ...
  • 第十話 槐
    「超機動戦記ローゼンガンダム 第十話 槐」   白いガンダムと同じく白だが、ウサギのようなふざけたフォルムの機体が光の刃をぶつけ合う。 「ふふふっ、いいですねぇ雪華綺晶。相変わらずの太刀筋で。」 「抜かせ・・・貴様の本気がこの程度じゃないのは分かってる。」 キラキショウの頭部の右目の薔薇が伸びる。その伸びた茎にはいくつかの針がついている。 キラキショウの特殊兵装の一つ、「ローズウイルス」。この針に命中すると刺さり具合にもよるが 驚異的な速度でウイルスが進入、侵攻。機体のOSを破壊する兵器。綺麗な薔薇には棘があるって ところだろうか。もっとも、射程がかなり短いのでかなり接近しなくてはならない。おまけにこの兵装を知ってる 相手ならば必ず近づいてくるのが分かるので当てるのは至難の業だ。しかし・・・キラキショウには これを効率的に当てる事ができるもう一つの特殊兵装がある。 「もらうぞ・・・・白崎!...
  • 「あなたを呼ぶ」後日談3
    私が、Teegesellschaftでアルバイトを始めてから、 二ヶ月くらい経ったかしら。 場所が場所だけに、新規客はあまり見かけないけれども、常連は多いわ。 薔薇水晶さんは、無口なほうだけれども、決して悪い人ではないわ。 むしろ、アルバイトの人をよく気にかけてくれるのだわ。 紅茶の葉の状態や淹れ方の作法、覚えることは多いけれども、 こういうのも、楽しいものね。 自分で淹れた紅茶というのも、中々味わい深いものだわ。 扉が開く。常連さんだわ。 紅「いらっしゃいませ。」 客「いつもの」 いつものテーブルに座り、そういったわ。 紅「かしこまりました。少々お待ちください。」 薔薇水晶さんに注文を伝えたのだわ。 調理は彼女の仕事だわ。だけれども、今日は違ったわ。 薔「……淹れてみる?……」 紅「え、……私が淹れていいのですか?」 薔「……うまくなったから……」 紅「はい、がんばります。」 薔薇水晶さ...
  • =さらば!我が愛しき日々よ=第五話
    1時間後・・・ 疲れた・・・。結局真紅に全部させられた・・・。腰がイテェ 大掃除が終わった後は、全員リビングへばっている。 銀「つ、疲れたわぁ。」 金「カ、カナもかしら~。」 翠「腰が痛いですぅ・・・」 真「この程度で疲れるなんて、なってないわね。」 雛「ひなもうだめなの~」パタッ 薔「ZZZ・・・」 蒼「みんな、お疲れ様。」 真紅以外は全員相当参っているようで、当分静かになりそうだ。部屋は随分ときれいになっている。 意外にも、掃除はできる方らしい。そう思い、部屋へ戻ろうとしたところ、 ガチャ、 の「ただいま~。」 のりが帰ってきた。コノジョウキョウハ・・・まずくないか? ばたばた、カチャ の「ジュン君ごめんね~、おそくなって・・・」 あちゃ~。のりはリビングの扉を開けて部屋を見るなり、固まってしまった。 の「だ、だめよジュン君!未成年なのに出張ヘ○ス...
  • 第五話 バトルインヨコハマ
    超機動戦記ローゼンガンダム 第五話 バトルインヨコハマ 「まもなく作戦開始時刻です。各機、準備をしてください。」 巴の声が響く。続いてJUMの声がする。 「いいな、みんな・・・作戦は伝えてあるとおりだ。この戦いは金糸雀が鍵を握っている・・・」 「うふふ、カナに任せるかしらー!」 ヨコハマ攻略に対するメイデンの作戦。それはカナリアを中心とした作戦であった。 内容はこうだ。ヨコハマ基地にはあまり重要視されてないと言えどもかなりの兵力が用意されているのが 予想される。しかし・・・だ。その兵力の大半が人工知能機なのだ。 そして、こういう基地の場合得てして基地のどこかに命令電波を送る場所がある。 その電波をカナリアの電波キャッチ機能を使い発見。そこにサクラダの主砲を撃ち込み一気に人口知能機を 無力化しようと、こういうことだ。 「ま、無難な作戦よねぇ。正面突破じゃあこっちも簡単にはいかないでしょうし...
  • ―/― はじまりのうた――夢の続き
     色々なことを、思い出していた。学校での、出来事。保健室での出会い、思い出。それ よりももっと前の、曖昧な記憶。  雛苺が渡仏してから、年明けの春。あと半年とちょっともすれば、彼女は日本へ帰って くる。僕は高校二年生になって、来年は受験生だ。……といっても、大学を受験するつも りはないから、周りよりはある程度余裕ではある。そのことを伝えに、僕はこれからフラ ンスへ向かう。我ながら、相当大胆な行動に出たものだと思う。  出世払い……というとプレッシャーなのだけれど、今回の旅費については家のひとに相 当無理を言ってしまった。姉はなんだか喜んでいたみたいだったが。  本当はバイトをして自分で稼ぎたかったが、山奥の学校ではそれも敵わず。その辺りは、 流石に不便であると思う。 『卒業したらバイト始めなよ、桜田君。いいとこ紹介してあげるから』 『ジュンが働くなら、私も其処でバイトするわぁ』  ...
  • 『ひょひょいの憑依っ!』Act.7
    『ひょひょいの憑依っ!』Act.7 大笑いしている水銀燈は放っておいて、めぐは再び、襟元を広げました。 そして、ふくよかな双丘の上端を指さしながら、ジュンに語りかけたのです。 「ほら、ここ。私の左胸に、黒い痣があるでしょ」 「なるほど……勾玉というか、人魂みたいなカタチの痣がありますね、確かに」 確認を済ませたジュンは、気恥ずかしさから、すぐに目を逸らしました。 ジロジロ見て、懲りずに水銀燈のまさかりチョップを食らうのも馬鹿げています。 めぐの方も、水銀燈の手前とあってか、すぐに襟を閉じました。 「つまり、水銀燈さんは禍魂っていう存在で、柿崎さんに取り憑いてるってワケか」 「うん。きっと……これは報いなのよ。命を粗末にした、傲慢に対する罰ね」 つ――と、めぐは悲しげな眼差しを空に向けましたが、すぐに表情を切り替え、 顎のラインをするりと指でなぞりつつ、ジュンを見つめました。 ...
  • *序盤戦
       「大丈夫よ、ジュン。国によって飲酒は16歳から認められるわ」 「もう早く始めましょうよぉ。何か隠し玉でもあるのかしらぁ?」  真紅、ここは日本だ。  あと水銀燈。お前は酒がすきすぎる。ボトル抱えるな。 「いえいえ、本当に無理はなさらぬよう。しかしながら、皆様もう大学生。昨年よりは羽目を多少外したところで、お酒の神様も見逃してくれるでしょう」  白崎さん……無責任なこと言わないでください……  昨年、というのは。丁度僕が独りだけ大学に落っこちたものの、とりもあえず高校は卒業したんだということで、ちまりとお酒なんかも出されたりもしたのだった。  それでもまだ、当時は結構平和的に行われていた筈のそれ――ごめん、ちょっと嘘ついた。  今回は一体どうなってしまうのだろう。  会場となった我が家の居間。妙に広い間取りがこういうときばかりは役に立つ。入ろうと思えば入れる空間。 ...
  • 【ゆめうつつ】~トロイメント~§1
     「いらっしゃいませ」 扉を開けると。古びたドアベルの音と共に、まずは来店御挨拶の歓迎であった。 客は私一人だけの様子。外に比べて店内は明るくはなかったが、それほど陰気 という印象は受けない。まず眼についたのは、設けられていたカウンター席。 巷でよく見かけるカフェと言ったら、通常オープンテラスでゆったり過ごせる スペースがあるもの。ここにはそれが無い。看板には『カフェ』と銘打ってあ るものの、この造りはどちらかと言うとバーに近いものを感じさせる。    お世辞にも広いとは言いがたい店内は。アンティーク調、と言えば良いだろ うか。よくよく見ると装飾は結構凝っているようで、店内の隅に置かれている 本棚には洋書らしきものが収められているのが見える。  一応テーブル席もあったけれど、とりあえずはカウンターに落ち着くことに した。 「メニューはこちらになります」 受け取って、軽く眺めてみる。...
  • 【空と森のノート】
       「はあ……暇ですねぇ」  誰に語りかけるでもなく、呟いてみる。  気だるい午後――には、まだ早い。今はまだ、お昼前。庭にお水はもうやってしまったし、朝のお仕事は終わってしまった。  気晴らしにスコーンでも焼こうかしら、とも思うのだけれど、妹が出かけているし、それもなんだかやりがいが無い。  妹は森へ木の実を採りにいった。もう暫くすれば、帰ってくるような気もする。  そうすれば、今日の午後は、木の実を使ったタルトでも作ることが出来る――ああ、待ち遠しい。レシピはもう覚えてしまっているから――その内新しいものを思いついたら、またノートに書いておこう。  ちょっと、外へ出てみた。  樹々の隙間から、木漏れ日が私の顔を照らす。今日も、天気が良い。ぽかぽかと暖かいし、やわらかいベッドに潜り込んだら、もういくらでも眠ってしまえそう。  でも、それは駄目。ぐうたら過ごすのは楽には楽...
  • 最終話  『永遠』 -後編-
    蒼星石の問いを、澄ました顔で受け止め、二葉は言った。 「ラベンダーの花言葉を、知っているかね?」 訊ねる声に、少しだけ含まれている、気恥ずかしそうな響き。 花言葉という単語は、男がみだりに使うべきものではないと…… 女々しいことだと、思っているのだろうか。 いつまでも黙っている蒼星石の様子を、返答に窮したものと見たらしく、 翠星石が助け船を出すように、口を挟んだ。 「あなたを待っています……ですぅ」 二葉は満足げに頷いて、まるでラベンダーの庭園がそこにあるかの如く、 ティーカップを並べたテーブルに、優しい眼差しを落とした。 「中庭のラベンダー。実を言うと、あれは僕が育てたものだ」 「結菱さんが? と言うか、よくラベンダーの種を持ってましたね」 「まったくです。用意がいいヤツですぅ」 「……ふむ。君たちは、まだ来たばかりだから、そう思うのも仕方ないか」 なんだか言葉が噛み合ってい...
  • カムフラージュ 【4】
     5. ラストオーダーは、最初と同じカクテルを注文した。 これで、楽しかった宴も、おしまい。 消えゆく幸せな時間を名残り惜しむように……僕らはゆっくりと、それを飲み干した。 たおやかに奏でられる旋律に、耳を傾けながら―― その曲がドビュッシー作の『夢』だと知ったのは、この数日後だった。  「だいぶ、酔ったな」  「……ですねぇ」 来たとき同様、足どりの怪しい薔薇水晶を支えつつ、控え室まで戻る。 彼女が、「どうしても着替えて帰る」と言い張ったから、仕方なくだ。  「そのドレス、着たままタクシーで帰ってもいいよ」 クリスマスだし、プレゼントすると言ったけれど、聞き入れられなかった。 薔薇水晶は頑として、首を縦に振ろうとしない。 僕のデザインしたドレスなんか、どうせ、もらったって嬉しくないよな…… なんて、ヘソを曲げたフリで困らせ...
  • 哀歌~HUNT MEMORYS~
    水銀燈の長編の走馬灯~MANY MEMORYS~から続いてる話なので先にそちらを読むことをお勧めします。 哀歌~HUNT MEMORYS~ 思い出とは儚い物・・・故にそれは美しくもなるのです。 これは大事な親友が死んだとある乙女が “思い出“の意味を違う意味で捉えてしまい 狂気に染まり、やがて双子の姉をも巻き込んでしまう物語です。 では彼女が捉えた“思い出“ 哀れなこのお話を皆さん暫しご覧あれ。 -真夜中 夜の路地に彼女は立っていた。 蒼「よし・・・あの人・・にしよう。」 蒼星石は角に隠れて人が通り過ぎるのを待つ。 そして通り過ぎた瞬間蒼星石は人の背後から 鋏を頭にへと突き刺す。 そして突き刺した所から鋏を一気に下へと下げる。 人は血を吹き流しながら二つへ分かれていく。 やがて両断されると人だった物体は声をあげる事もなく静かに倒れた。 蒼「ふふ・・これでこの人の“思い出“は貰った...
  • クルクルなパン
    小さな町の 小さな病院の 小さな病室で 小さな小窓から 小さな景色を観ている女の子がいました。 銀:こんにちは、メグ 長くて銀色の髪の女の子がとびらをあけて入ってきました メグ:うん だけど呼ばれた女の子はからだを動かさないで返事をするだけです 銀:きょうはね、学校の給食でヤクルトが出たんだよ 銀の髪の女の子は話しはじめます けど、メグと呼ばれる女の子はあんまりおもしろくなさそうです メグは外のことを楽しそうに話す女の子がうらやましかったんです 銀:メグはきょう何を食べたの? 銀の髪の女の子は決まってお話を始めると途中でメグにお話をふります メグ:野菜を煮込んだものとご飯、味はしなかったわ メグはそっけなく言います 銀:そっか、あのね給食ってとっても美味しいんだよ元気になったら一緒に食べようね 銀の髪を揺らしながら少し...
  • 『薔薇HiME』第2話
    翌日、約束どおりジュンは巴に連れられ学校への道を歩くことになった。 「有璃珠学園ってどんな学校?」 沈黙を避けようと、早々にジュンがそんな疑問を話題にする。 「中高一貫の共学で…あの、普通は進学のときにしか編入はないところなんだけど…」 後半を言い辛そうにする巴に、ジュンが笑いながら気にしないよう言った。 「ん…そう…話を戻すね。 ……そうだなぁ、学園の真ん中に、"nのフィールド"って湖があるのが、やっぱり一番特徴かなぁ」 「"nのフィールド"?変な名前の湖…」 「うん、わたしもそう思う」 ジュンが洩らした感想に、巴が笑いながら相づちを打つ。 「でね、その湖にはいろんな言い伝えがあるんだけど… …まぁそれに準えた学園行事が多いし、追々知ることになると思うよ」 他にも巴はいくつか学園の話をしたが、「敷地がやたらと広い」「学食は豪...
  • 超機動戦記 ローゼンガンダム 第一話 戦いの狼煙
    超機動戦記 ローゼンガンダム 第一話 戦いの狼煙 空気が焼き焦げるような感覚に陥る。周りは真っ赤真っ赤真っ赤。呼吸がしにくい。 「お母様・・・お父様・・・」 その地獄で金色の髪の少女が声を漏らす。しかし、それは無常にも爆音の中にかき消された。 「紅・・・真紅!」 その少女の元に一人の少年が駆けつける。 「JUM・・・お母様が・・・お父様が・・・」 「大丈夫だから・・・行こう!真紅は・・・僕が守るから・・・」 それは、遠い記憶と約束・・・ 「んっ・・・」 暗闇に染まった部屋で金色の長い髪の女性が目を覚ました。 「あの時の・・・夢なのだわ・・・」 女性が額にかいた汗を手でぬぐう。まだ深夜だと言うのに不思議と寝付けそうになかった。 女性・・・真紅は頻繁にこの夢を見ている。その度に起きてしまうのだった。しかし、不思議な事に 真紅にはその夢は悪夢とは思えなかった。 真紅が部屋を出て食堂へ向かう。...
  • 「しっぽの話」 ホーリエ編
    「しっぽの話」 ホーリエ編 我輩は犬である。名前はホーリエ・フォン・ローゼンハイム。 どこで生まれたか頓と見当がつかぬ。何でも薄暗いブリーダーさん家の居間で きゅんきゅん泣いていた事だけは記憶している…。 そんなわけで、こんにちは、メイメイさんから後を任されましたホーリエ号です。 犬種はシェパード、年は三歳。長い名前の後半は犬舎号というもので、私の正式な苗字に当たります。 ご主人様ご一家には、小さい頃から厳しく訓練を受けさせて頂きまして、 おかげで今は嘱託警察犬などの任務にもついております。 あくまで嘱託ですので、普段はただの番犬なんですけどね。 ちなみにメイメイさんとは、まだお互い小さな頃からの付き合いで。 昔は良く水銀燈さんと一緒に遊びに来られていましたが。 最近は、ご主人様がある一件から猫が苦手になってしまったので今は中々…… なので、私が昼間に庭で番をしているときに、一匹で...
  • バーのある風景
    私の名は真紅。 普段は、紅茶を愛飲している。 けれども、たまにはお酒が飲みたくなるときがある。 そういうときは、いつものバーに行く事にしている。 駅のそばにあるビル中のひとつ、地下2階にその店はある。 取っ手のない漆黒の扉の中央に、Jade Sternと金色の小さな文字が刻まれている。 その分厚く、重い扉を押す。 「いらっしゃいませ」 名も知らない物憂げなジャズとともに、声が聞こえる。 けれども、薄暗い照明に目が慣れないため、すぐに動けない。 しばらく辺りを見渡す。 蒼と緑の灯りが所々にある。 数人が座れるカウンターに、テーブル。 店内に、植物は見当たらないが、カウンター奥の棚には、 長髪の女性の写真とともに、使い込まれた如雨露と鋏が飾られている。 あの不思議な扉のせいなのか、照明のせいなのか、店内の雰囲気のせいなのか どことなく、日常世界とバーの空間は別次元のような気がする。 ようやく、...
  • 【ゆきふる、まちで】
    「すっかり浮かれ気分ですねー……」  クリスマスイブの、前日。普段は静かなこの街がにわかに盛り上がって見える のは、きっと気のせいでは無いと思う。  時刻は夕方近く。今年も残り僅かになった師走の大通りには、きらびやかなイ ルミネーションが飾り付けられていた。  家族連れや、恋人たち。幸せそうな雰囲気に包まれている辺りの中、私は独り 呟いていた。 「まあ、イヴ前日に合コンはねーですよ……」  大学の友人からの、お誘い。このままでは、女ばかりの寂しいクリスマスになっ てしまうから――とのことだったけれど。 『クリスマスは、家族と過ごすもんですよ。悪いけどパスするです』  という塩梅で、さっくりと断ってしまった。特に後悔はしていない。  大学生になって、恋人のひとりやふたりは出来るんじゃないか――そう考えた ことがないかと言われれば、嘘になる。実際、私も。私の大事な妹も。男に言い 寄ら...
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