623 :名無しさん@秘密の花園 2012/07/07(土) 22:39:15.07 ID:R1FhWFky
>>619ちょうどキャラソンからレジェ灼妄想を書いてたんで完成できるよう頑張ってみる
712 :名無しさん@秘密の花園 2012/07/09(月) 23:19:57.51 ID:C+hywFTi
713 :名無しさん@秘密の花園 2012/07/09(月) 23:21:59.56 ID:C+hywFTi
714 :名無しさん@秘密の花園 2012/07/09(月) 23:24:04.08 ID:C+hywFTi
>>623で言っていたレジェ灼が書けたので数スレ拝借致します


教師と生徒いう枠組みを越え恋人として付き合い始めてからも、
二人だけで過ごす甘ったるさにも似た独特の空気にはあまり慣れない。
そのときばかりは胸を打つ鼓動も否応なしに高まってしまう。
見つめた先で二人の視線が交われば、その熱さに耐え切れなくなってしまい瞳が揺らぐ。
気恥ずかしさから視線を逸らしてしまうことだって少なくない。

「灼は大げさすぎるよ」

そう優しく微笑まれたのなら、それまでの甘さとは別の痺れが胸を貫く。
ちょっとした痛みを含む罪悪感ということなのかもしれない。
小さく息を吸い込んで肺に空気を送り込む。
いくら平然を装うとしてみせたって、このやり切れない感情を持て余してしまう。
だけど、それすらお構いなしといった態度でハルちゃんは次の行動に移る。
いつだって、私に心の準備というものを持たせてはくれない。
唐突に名前を呼ばれたかと思えば、あっさりと手首を拘束されてしまった。
そうはいっても、痛みは全く伝わってこない。

「いい加減、こっち向いてよ」

どこか拗ねたような声色を耳にすれば、自分の表情が少し和らぐのがわかる。
もう、本当にしょうがないなぁ……

これだって単なる言い訳にしか過ぎず、本心ばかりは誤魔化しようもない。
観念して顔を上げる。
また互いの視線が絡み合って、凛とした力強さも感じられる姿に見惚れてしまう。
一斉に自分の中で何かが弾けて急速に胸の中をせり上がっていく。
もぞもぞとした様子で指先だって勝手に動いてしまう。
ああ、どうしようもなく恥ずかしい。


「あのね、ハルちゃん……」

抱える想いとは対照的に抜けていった声はか細く頼りない。
例え全てを伝え切れなくてもハルちゃんが私の感情を汲み取ってくれる。
手首の拘束が解けたかと思えば、今度はゆったりとした動きで指先が下に向かう。
指先にまで感じられるハルちゃんの温もり。
遊ばせるかのような仕草が何だかくすぐったい。でも、それがすごく心地良い。
それなりの月日を要してはいても、この空間を満たす雰囲気には一向に慣れない。
嘘じゃないのにと心が訴えてはいても信じ切れない私自身がいる。

自信なんてものは恐らく微塵もなかった。
いくら気持ちを伝えてみせたところで、それが本人に通じないのなら無意味でしかない。
そう言い繕って、燻ぶり続けたままの自分に嘘を吐き通した。
いつしか憧れから感情が移ろいでしまっていたことも、何もかも。
いっそのこと、全て熔けてしまえばいいとさえ思っていた。
でも、無理だった。
貰ったネクタイが捨てられなかったように、この感情の行き場所なんて他になかった。

どんなに遠ざけようと試みたって、その度に思い知らされる。
憧れて、幻滅して、自分から遠ざけて、それでも忘れられなくて。
再会してからも思い描いていた理想との違いに戸惑ってばかり。
新たな一面を知る度に二つの感情がせめぎ合う。
それでも嫌いになんかなれなくて、跡形もなく熔けてしまうはずだった感情はさらに燃え上がり続ける。

ハルちゃんが好き。好きで、好きで、堪らない。
自分の感情に戸惑って臆しては、たくさんの間違いをくり返してきたかもしれない。
変わるものと、変わらないもの。
その差はあっても根本的なものは揺らがないし、揺らぎようもなかった。
体中から絶え間なく溢れる想いも、口に出来なければその意味だって半減してしまう。
手探りで不恰好でもいい。
ありのままの心模様を伝えよう。そう、強く突き動かされた。


「……ハルちゃんのことが好き。ただ憧れていた頃よりも、ハルちゃんが好きな気持ちを抑えられないの」

二人で買い出しに行った帰りの車内。
普段と同じようにハルちゃんは私を家の前まで送ってくれた。
私が一向に助手席から降りようとしないと心配そうに肩を揺すってくれたのを覚えている。
想いとは対照的に抜けていった声はあまりにも頼りなく流暢というには程遠かった。
当のハルちゃんはというと、突然の告白に面食らっていた様子だった。
あのときの慌て様も今じゃすっかり形を潜めてしまっている。それが何だか悔しい。

ぼんやり思考を張り巡らせていると、その隙を見計らってなのか不意に抱きしめられる。
咄嗟のことで声を上げてしまうと、何とも締まりのない表情を浮かべたハルちゃんがいた。
ハルちゃんってば、さっきまでのカッコよさが台無しだよ。本当にもう……

「……ちょっと、苦しいってば」
「こればっかりは灼が可愛すぎるからしょうがないな」
「……それにニヤニヤしすぎ。調子に乗ってるの?」
「そりゃまぁ、こんな可愛い子に十年間も想われ続けていたとあっちゃ少しぐらい調子にも乗るわよ」

釘を刺すつもりで言おうとした言葉は喉の奥に詰まって掻き消された。
柔らかくも、それでいて温かい。
どこか切ないとも思わせる余韻を残して、一瞬だけ触れ合った唇が離れていった。
同時に、それは私から抵抗する気力をも奪っていく。

まだ幼かった頃、躍進を続けるハルちゃんの姿を見て、私は初めて憧れというものを抱いた。
ハルちゃんに少しでも近付きたいって、子供心にそんなことばかり考えていた。
伸ばした手の行き着く先は誰よりも大好きなハルちゃんの背中。
早鐘のように波打つ鼓動がわずらわしい。瞳を閉じて、大きく息を吸い込む。
そして、自分の心が趣くままに思いの丈を吐き出してみた。
今日一番よく響き渡ったかと思うその言葉はすぐに静寂の中に吸い込まれて消えた。

以上です