週刊少年サンデーバトルロワイアル内検索 / 「こうしてはいられない」で検索した結果
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こうしてはいられない
こうしてはいられない ◆hqLsjDR84w そこは、ひどく暗かった。 とはいえ彼方から伸びる市街地の灯りはぼんやりと見て取れるし、上空では月や無数の星が燦然と輝いている。 だがそれらが認識できるということは、つまりよっぽど他の光がないということだ。 そんな場所で、一人の少年がたたずんでいる。 彼の存在は、闇夜のなかでとても異質だった。 浮いている、というか――どうも馴染んでいないのだ。 周囲に比べて、あまりにも色がなさすぎる。 見た目が、という話ではない。 Tシャツもズボンも、無地の白い物を纏っているが。 額には包帯を巻いているし、肌だってとても白いが。 そういう、表面的な違和感ではなく。 まるでこの世界に本来いるべき人間ではないかのような――そんな、気配を放っていた。 彼の名は、ロベルト・ハイドン。 ... -
ガキじゃいられない
ガキじゃいられない ◆hqLsjDR84w ◇ ◇ ◇ 恐れるものなどなにもない――だなんて、そんなのはガキだけが言える妄言だ。 ◇ ◇ ◇ しばらくレイラと話してみて、魔道具『輪廻』について少し分かった。 副作用である記憶の不明瞭化には、作用する記憶と作用しない記憶がある。 魔本や魔物についての知識が、レイラからは消えていないのだ。 記憶にはいくつもの種類がある。そのうち長期記憶は、輪廻の副作用を受けないのだろう。 あくまで現時点においては、の話である。いずれ使い続けていくうちに常識さえ失ってしまうかもしれない。そのときには破壊する。 いまにして思い返してみれば、英語の文章をキーボードで打ち込んだ時点で気が付くべきであった。 だというのにあっさりと見過ごしてしまっていたなんて、まったく僕らしくない。 人類最高の頭脳... -
◆hqLsjDR84w
...here~ 007 こうしてはいられない 014 夢の花 015 Re Re 019 現在位置~Where do we come from? Where are we going?~ うしおと――/――ととら 026 人間 027 とぼけた現実も原色で塗り替えてしまえ 033 It s like a 自問自答 034 銀の意志/銀の遺志 038 レッツゴーレッカマン 040 振り放けて三日月見れば一目見し 044 ひとりじゃない 047 重い荷物の担ぎ方 049 ガキじゃいられない 050 歯車が噛み合わない 052 ワンダーランド 054 ミッドナイト・クラクション・ベイビー 056 妖語(バケモノガタリ) 057 現在位置~Fly! You can be Free Bird~ 059 ナビ 064 ぎゅっと握って 066 ばかやろう節(1) ばかやろう節(2) ばかやろう節(3... -
風と煩悩と謎の玉
...下順で読む 前へ:こうしてはいられない 戻る 次へ:リング 時系列順で読む 前へ:こうしてはいられない 戻る 次へ:リング キャラを追って読む GAME START 霧沢風子 044:ひとりじゃない GAME START 横島忠夫 ▲ -
追跡表(うえきの法則)
...ドン:5】 007 こうしてはいられない ◆hqLsjDR84w 才賀エレオノール、ロベルト・ハイドン 033 It s like a 自問自答 ◆hqLsjDR84w 小金井薫、シルベストリ、才賀エレオノール、ロベルト・ハイドン 055 境遇――孤独だった三人 ◆6LcvawFfJA 小金井薫、才賀エレオノール、ロベルト・ハイドン 095 明け方の演奏会 ◆hqLsjDR84w コウ・カルナギ、小金井薫、才賀エレオノール、ジョージ・ラローシュ、ロベルト・ハイドン 114 置き手紙 ◆hqLsjDR84w 加藤鳴海、高槻涼、小金井薫、才賀エレオノール、ロベルト・ハイドン 【李崩:1】 014 夢の花 ◆hqLsjDR84w 朧、李崩、パウルマン&アンゼルムス ▲ 【INDEX】 からくりサーカス ARMS 金色のガッシュ!! 金剛番長 うしおととら 烈火... -
『太陽の人形芝居』
...れる者 戻る 次へ:こうしてはいられない 時系列順で読む 前へ:青雲の志 戻る 次へ:こうしてはいられない キャラを追って読む GAME START フェイスレス 043 雷人具太陽(ライジングサン) 前編 GAME START 才賀正二 045 フロムダスク・ティルドーン GAME START ガッシュ・ベル ▲ -
SSタイトル元ネタ
...の同名楽曲 007 こうしてはいられない ロックシンガー『スネオヘアー』の同名楽曲 010 ぐれんとゆう 藤田和日郎の漫画『うしおととら』 011 宵闇の唄 藤田和日郎の短篇集『夜の歌』『暁の歌』 012 Dash! to truth アリスソフトが2003年12月19日に発売した18禁シミュレーションゲーム、大番長-Big Bang Age-の主題歌 014 夢の花 ロックバンド『THE BACK HORN』の同名楽曲 015 Re Re ロックバンド『ASIAN KUNG-FU GENERATION』の同名楽曲 016 剣迷いなく、道遠し アリスソフトの18禁シミュレーションゲーム、大番長-Big Bang Age-の作中セリフ 019 現在位置~Where do we come from? Where are we going?~うしおと――/――ととら ロックシンガー『スネ... -
第一放送までの本編SS(投下順)
...シュ・ベル 007 こうしてはいられない ◆hqLsjDR84w 才賀エレオノール、ロベルト・ハイドン 008 風と煩悩と謎の玉 ◆CFbjQX2oDg 霧沢風子、横島忠夫 009 リング ◆xrS1C1q/DM ジョージ・ラローシュ、シルベストリ 010 ぐれんとゆう ◆nucQuP5m3Y 秋山優(卑怯番長)、紅煉 011 宵闇の唄 ◆PbH8Onsw.o ルシール・ベルヌイユ、蒼月紫暮 012 Dash! to truth ◆5ddd1Yaifw 石島土門 013 ロスト ◆d4asqdtPw2 佐野清一郎、コロンビーヌ 014 夢の花 ◆hqLsjDR84w 朧、李崩、パウルマン&アンゼルムス 015 Re Re ◆hqLsjDR84w 来音寺萬尊(念仏番長)、バロウ・エシャロット 016 剣迷いなく、道遠し ◆xrS1C1q/DM 佐々木小次郎、伊崎剣司(憲兵番長)、... -
第一放送までの本編SS(時系列順)
...シュ・ベル 007 こうしてはいられない ◆hqLsjDR84w 才賀エレオノール、ロベルト・ハイドン 008 風と煩悩と謎の玉 ◆CFbjQX2oDg 霧沢風子、横島忠夫 009 リング ◆xrS1C1q/DM ジョージ・ラローシュ、シルベストリ 010 ぐれんとゆう ◆nucQuP5m3Y 秋山優(卑怯番長)、紅煉 011 宵闇の唄 ◆PbH8Onsw.o ルシール・ベルヌイユ、蒼月紫暮 012 Dash! to truth ◆5ddd1Yaifw 石島土門 013 ロスト ◆d4asqdtPw2 佐野清一郎、コロンビーヌ 015 Re Re ◆hqLsjDR84w 来音寺萬尊(念仏番長)、バロウ・エシャロット 016 剣迷いなく、道遠し ◆xrS1C1q/DM 佐々木小次郎、伊崎剣司(憲兵番長)、キース・シルバー 017 拳の少女・木の男 ◆GmTqfb9yfU 白雪宮拳(... -
造花
造花 ◆6LcvawFfJA 瓦礫の山から抜け出したシルベストリは、自分の身体に視線を這わす。 衣服がところどころ破れているが、“自動人形”のボディは破壊されていない。 四肢を軽く動かして、行動に支障は無いと結論を下す。 次に、シルベストリは纏う服を傷付けた少年の事を思い返す。 ロベルトと呼ばれていた彼は、何も所持していなかったにもかかわらず右手に武器を生み出した。 “O”の類かとも思ったが、いくらシルベストリの“造物主”とてあそこまでの質量を持つ武器を二種類も体内に内蔵させることは不可能に思える。 加えて、メカニズムの分からぬ赤いシャボン玉。 あんなものを操る者など、いまだかつて目にしたことはない。 おそらく、“自動人形”でも“O”でも“人形破壊者”でもない存在。 気を引き締めねばならないと思う一方で、シルベストリは僅かに高ぶる物を感じた。 ... -
ひとりじゃない
ひとりじゃない ◆hqLsjDR84w ◇ ◇ ◇ 横島忠夫と霧沢風子の二人は、山道を進んでいた。 長袖のトレーナーにジーンズの横島はともかく、タンクトップにデニムのホットパンツという風子の服装は山歩きに適しているとは言い難い。 だというのに、葉や草で肌を切る心配をまったくしていない。 携えた風神剣で風の刃を作り出し、進行先に生えている草木を刈り取っているのだ。 「――ってことは、なぁにぃ? アンタはゴーストスイーパーとかいう、幽霊やら妖怪やらその辺のを退治する仕事をしててぇ? しかもぉ? 国家資格ぅ? で認められたぁ? プロフェッショナルでぇ?」 同行者である横島忠夫の切実な願いを聞いた霧沢風子が、ゆっくりと口を開く。 いちいち語尾を上げながら、ジト目で横島を見つめている。 「…………なんだか口調と視線がすっごく気にな... -
It's like a 自問自答
...って読む 007:こうしてはいられない 才賀エレオノール 055:境遇――孤独だった三人 ロベルト・ハイドン GAME START 小金井薫 009:リング シルベストリ 048:造花 ▲ -
思索――自分達の現在位置
思索――自分達の現在位置 ◆6LcvawFfJA 高槻涼が落ち着きを取り戻し、暫らくが経過する。 依然として、紅麗と阿紫花英良が到着する気配は無い。 両者ともに放送で呼ばれてはいない以上は、おそらく向かってきているはずだ。 したがって勝手に移動する訳にもいかず、ただ待つしかない。 されど高槻涼の方はともかくとして、加藤鳴海にはそういう待機するだけというのは性に合わない。 最初の五分、ここまでは高槻と言葉を交わす事で問題無く過ごしていた。リビングの椅子に腰掛けながら、会話が弾む。 次の四分、この辺りで会話が途切れ始める。高槻から告げられる情報はきっとプログラム打破に重要なのだろうが、如何せん鳴海には難しすぎた。 さらに三分、無言のまま鳴海の体が微かに振動しだす。貧乏揺すりである。 もう二分、貧乏揺すりが激しくなる。腰かけている椅子に振動が伝わり、床から... -
日常――変わらぬ朝
日常――変わらぬ朝 ◆6LcvawFfJA 「……何ですかい、こいつは」 怪訝そうに言うのは、阿紫花英良。 それに対し前を行く紅麗は、きっぱりと言い切る。 「先程告げた通り、御神苗優が残したメモだ」 「そりゃ分かってるんですけどね……」 阿紫花が胡乱な目付きを向けているのは、参加者全員に配られた名簿である。 八十を超える人名が記された裏面には、ボールペンで文章が書き記されていた。 目を通したところ、どうやら筆者の“プログラム”に対する考察であるらしい。 「御神苗優とて、かなりの実力者。むざむざ命を捨てる気など無かっただろうが……。 万一の可能性を考慮し、考えを記しておいたのだろうな。何も遺さず息絶えるのを是とせずに」 「まあ……、そうなんでしょうけどね」 阿紫花に疑問を抱かせたのはメモ自体ではなく、その内容だ。 キース・ブラックを貫いた高槻涼の右... -
非戦闘生命
非戦闘生命 ◆hqLsjDR84w ◇ ◇ ◇ エリアC-4の河原では、二つの戦闘が繰り広げられている。 その片方――二メートルほどの長身の老人と、それ以上の巨躯を誇る高校生。 すなわちドクターカオスと金剛晄の戦闘は、両者のスペックからは想像できぬ展開を見せていた。 使いなれぬ道具を武器としているカオスが、間違いなく戦闘力で勝っている金剛を攻め続けているのだ。 ドクターカオスが武器として用いているのは、純白のマリオネット。 オリンピアという名を持つそれは、六本の腕や内蔵した注射機などの武器で戦うトリッキーな懸糸傀儡だ。 とはいえ現状では、まだドクターカオスはオリンピアの性能をすべて引き出せているとは言い難い。 説明書こそ付属していたが、内蔵武器などについて記すばかりでその操作方法についての奇妙は大してなかったのだ。 十指すべてを用い... -
神をも恐れぬ父
神をも恐れぬ父 ◆hqLsjDR84w ◇ ◇ ◇ ――ぎちぃゃり。 そんな軋むような音を鳴らしたのは、キース・ブルーが腰掛けている車椅子である。 学校の備品だけあって、彼が常日頃愛用している全自動車椅子とは比べ物にならないほど粗末な代物だ。 ボタン操作で操縦することなどできないし、素材が安物なために座り心地もよろしくない。 だが、ブルーは心の底から歓喜していた。 車輪を自らの手で回転させねばならないとはいえ、己の意思通りに進むことが可能となる。 それは、ブルーがこれまでできなかったことだ。 むかしからずっと願っていて、けれどどうしても叶わなかった。 そんな、長らく夢見ていた幻想だったのだ。 車椅子の具合を確かめるべく部屋をぐるりと一周してから、ブルーは備え付けられた時計を見上げた。 あと、ほんの僅かで六時を迎える。 ... -
追跡表(からくりサーカス)
...ール:5】 007 こうしてはいられない ◆hqLsjDR84w 才賀エレオノール、ロベルト・ハイドン 033 It s like a 自問自答 ◆hqLsjDR84w 小金井薫、シルベストリ、才賀エレオノール、ロベルト・ハイドン 055 境遇――孤独だった三人 ◆6LcvawFfJA 小金井薫、才賀エレオノール、ロベルト・ハイドン 095 明け方の演奏会 ◆hqLsjDR84w コウ・カルナギ、小金井薫、才賀エレオノール、ジョージ・ラローシュ、ロベルト・ハイドン 114 置き手紙 ◆hqLsjDR84w 加藤鳴海、高槻涼、小金井薫、才賀エレオノール、ロベルト・ハイドン 【ギイ・クリストフ・レッシュ:6】 002 インビジブル ◆d4asqdtPw2 ギイ・クリストフ・レッシュ、朧、井上真由子 041 死出の誘蛾灯 ◆xrS1C1q/DM 花菱烈火、宮本武蔵、伊崎剣司(憲兵番長... -
トラッシュ
トラッシュ ◆d4asqdtPw2 闇夜の元を悠然と進む、二人の老兵。 彼らが目指す先は近場の小学校だ。 少しばかり急ぎ足なのは、両者共に探し人がいるからであろうか。 しかし、そんな彼らをあざ笑うかのごとく、殺し合いという残酷な現実がその歩みを阻む。 「お盛んなことだねぇ」 遊園地を出た二人は、さっそく足止めを食うこととなってしまった。 暗き森に突如現れたのは、大地に転がる死体だ。 だが、老婆は微塵も動じることない。 それも当然のことだろう。 彼女は最古のしろがね、ルシール・ベルヌイユ。 自動人形との、永きにわたる戦いを繰り広げてきた女である。 その悠久の生命の最中では、屍など飽きるほど目にしてきた。 今さら見知らぬものが死んでいたからといって、狼狽するはずもない。 そんな彼女とは対照的なのが、... -
普通の子ども
普通の子ども ◆hqLsjDR84w ◇ ◇ ◇ 市街地へと歩みを進めつつ、思考を巡らせる。 朧さんに先頭を任せているので、それくらいの余裕はある。 完全に人を頼りきってしまうつもりはないが、いまは考えなければならないときだ。 前を行くおキヌさんが心配そうに振り向いているので、微笑みを返してから思考に没頭する……―― ◇ ◇ ◇ 僕のなかには、三つの記憶がある。 僕自身、すなわち才賀勝という少年の記憶。 おじいちゃんである人形破壊者(しろがね)・才賀正二の記憶。 そして――自動人形(オートマータ)の造物主・フェイスレスの記憶。 一つ目は僕が生まれた日より培ってきたものであるのに対し、二つ目と三つ目は違う。 二つ目はおじいちゃんの血を飲んだことで入手し、三つ目は僕の身体を手に入れようとしたフェイスレスによ... -
うしおと――/――ととら
うしおと――/――ととら ◆hqLsjDR84w ◇ ◇ ◇ 殺し合いの舞台に飛ばされた蒼月潮は、ただ拳を握りしめている。 キース・ブラックが殺し合いの説明をしている際、うしおは動くことができなかった。 未成年にもかかわらず酒なんかを飲んでしまったせいで、妙な夢を見ているのか――などと、そんなことを考えていたのだ。 そんな自分が、許せなかった。 あの場面では動けなくて当然であると、他の人間に対してはそう思っている。 それでも、うしおは己を攻めたてるのを止めない。 自分はある程度修羅場をくぐってきているし、何より相棒である妖(バケモノ)はすぐさま動いていたのだ。 あの攻撃は少しばかり早すぎたものの、あとになって考えてみれば仕掛けるべきであった。 もしもあそこでブラックを止めることが出来ていたなら、誰かが死んでしまうこともな... -
記憶~リメンブランス~
記憶~リメンブランス~ ◆imaTwclStk 「……姉ちゃんは、俺の事を知ってるって事は あのブラックとかいう“悪もん”の兄妹なのか?」 蒼月潮の私に対しての質問の第一声はそれだった。 “悪い”、か……定義としては正に間違ってはいないと思う。 そう、兄…キース・ブラックが始めたこのプログラムは彼らからすれば 一方的かつ、唐突に始められた事なのだからこれは仕方が無い事だ。 私達や高槻達オリジナルARMSのように最初から 運命の内側に閉じ込められていた人間とは違うのだから…… 「その質問の答えは『YES』よ、蒼月潮。 それを知ったらあなたはどうするの?」 兄の真意を知らずに“悪い”と認める事に逡巡はあったけれど、 敢えて包み隠さずに真実を述べる。 「……だとしたら、俺は姉ちゃんを許せない」 ……やはり、そうだろうな。 私達の... -
二百年も待ったのだ
二百年も待ったのだ ◆hqLsjDR84w ◇ ◇ ◇ 蒼月紫暮とルシール・ベルヌイユの二人は、小学校に向かう道中で放送を聞くことになった。 両者ともによく知る名が読み上げられたのだが、彼らは決して歩みを止めない。 それどころか僅かに速度を緩めることすらせず、放送前と変わらぬ速度で進み続ける。 「多い、ですね」 「そうだね」 「殺し合いに乗り気なものが多い、ということでしょうか」 「だろうね」 会話はこれで切り上げられ、二人の間を静寂が広がる。 自分の知る名が呼ばれたことは、相手に悟られないようにしよう。 そんな両者の思惑は、しかし失敗に終わっていた。 そして、その事実にはどちらも気付いていなかった。 ◇ ◇ ◇ 目的地である小学校のすぐ近くまで到着し、二人は足を止める。 紫暮は法力僧の突出した視力... -
たった一つの卑怯なやり方
たった一つの卑怯なやり方 ◆c8fjjCyRkM メキラはあくまで紅煉から逃げただけであり、キース・バイオレットの元に向かおうという意思はそもそも持ってなかった。 別段目的地など定めていない為、秋山優が投擲するヒョウによっていとも容易く進行方向を誘導される。 結果として、駅を出た時点では喫茶店へと直進する形であったメキラは、現在は喫茶店とは全く異なる方向へと進んでいた。 「すげえよ優兄ちゃん! こんな方法、俺には全然浮かばなかった!」 「まあ僕も、キース・ブラックと繋がりがありそうなキース・バイオレットには用があるからね」 投げたヒョウを残さず回収しながら、秋山は隣を行く蒼月潮に言葉を返す。 2人の真上で浮いている紅煉は、順調さが気に入らないらしく険しい表情だ。 「ああ……、キース・ブラックか……。確かに関係あるって言ってたな……。でも、バイオ... -
誘雷
誘雷 ◆hqLsjDR84w ◇ ◇ ◇ 蒼月潮の腕のなかで、キース・バイオレットが崩れていく。 ものの喩えなどではなく――文字通りに、そのままの意味で。 彼女の全身に亀裂が走っていたのは、彼女を抱きかかえていた潮にはよく分かっていた。 その亀裂が次第に深くなっていることもだ。 にもかかわらず、バイオレットは言葉を紡ぎ続けた。 制そうとした潮の声を遮りながら、言い聞かすような口調で。 「……バイオレット姉ちゃん……」 瞳に涙を溜めながら、潮は知らず両手に籠める力を強くする。 その分だけ、バイオレットの身体が崩れる感触が伝わってきた。 砂場で作った城に触れているような、そんな感覚だ。 さらさらと、服の下にある体組織がこぼれ落ちていく。 相棒・とらと妖(バケモノ)退治の日々を送ってきた潮だからこそ、考え... -
天才アル・ボーエンの仲間達
天才アル・ボーエンの仲間達 ◆n0WqfobHTU アル・ボーエンの脳は、随時活発に活動している。 例え物事に集中していなくとも、五感よりもたらされる情報を、つい分析してしまうのだ。 当人は手持ち無沙汰な人間が、何とはなしにぶらぶらと手足を振る程度の感覚でしかないのだが。 上に下にと揺れるシーソー。これを用いる事で、子供では届かぬ高さを得る事が出来る。 高い視点はそれだけでより遠くまで届く視界を得る事が出来、アルにもこれを快いと思える気分は理解出来た。 それに、大した労力を払わずとも行なわれる上下運動は、自分が強力を得たかのような気分にさせてくれる。 子供だましの域は出ないが、なるほど、子供は騙せる程度に工夫はされているのだなと、今度は跳ねる感覚に意識を回す。 ゴム、それも古タイヤを用いているようだ。 シーソーと大地との接地点に置かれたこれは、貧乏臭... -
ノイズキャンセリング
ノイズキャンセリング ◆hqLsjDR84w ◇ ◇ ◇ バチン、と。 そんな擬音が聞こえそうなほどの勢いで、ゼオン・ベルは閉じていた目蓋を開いた。 すぐさま、傍らに置いておいた時計に視線を飛ばす。 時刻は、六時三分前。 定期的に流れるという放送が始まるまで、あと僅かである。 現在ゼオンが身を潜めている倉庫のなかにまで、放送が届くとも限らない。 そう判断するやいなや、ゼオンは立ち上がった。 いまのいままで熟睡していたというのに、まったく寝ぼけている様子はない。 きびきびとした動作で扉を開くと、ゼオンは紫色の瞳を細くする。 「寝ているうちに、日が昇っていたか」 これは、ただ思ったことを吐き出しただけである。 つまるところ単なる独り言であり、ゼオンは返答など求めてはいなかったのだが―― 思いがけず、肯定するような声が... -
青雲の志
青雲の志 ◆.WX8NmkbZ6 ヴィンセント・バリーはその目立ち過ぎる体躯を隠そうともせずに、中学校二階の廊下に立っていた。 頭には中ほどで前に曲がった二本の角――正確にはその片方は根元から折れている。 そこかしこの破れた、深い青を基調とした服。 全身を走る無数の傷痕。 しかしそのどれもが見る者に痛々しさを思わせるものではなく、むしろバリーの持つ威圧感を助長させるのに一役買っていた。 また引き締まった腕の筋肉が破れた右袖から覗き、バリーの強さを見せ付けている。 人間の大人と変わらない程の背を壁に預け、鋭すぎる抜き身の刀のような眼を真っ直ぐに手の中の名簿へ向けた。 魔界の王を決める戦いに選ばれた、百人の魔物の子供。 バリーはそのうちの一人だ。 もしもその戦いが始まった頃のバリーがここに来ていたならば、まずは周囲にある物を適... -
『太陽の人形芝居』2(前編)
『太陽の人形芝居』2(前編) ◆hqLsjDR84w ◇ ◇ ◇ 告げられた放送の内容に、ジャン・ジャックモンドの思考は停止した。 十六名もの参加者がすでに死したことには、大して驚いていない。 被害者が出るのを止められなかったのはもちろん歯がゆいが、あくまで予想の範疇内だ。 アーカム財団直属のS級特殊工作員・スプリガンとして様々な修羅場を潜り抜けてきたからこそ、人間が案外簡単に死んでしまうものだとよく知っている。 また、巴武士が呼ばれ、ゼオン・ベルは呼ばれなかった。 こちらも意外ではなかった。薄々、察しがついていた。 だが――御神苗優。 彼の名が呼ばれるとは、まったく考えていなかった。 巴武士のように甘ちゃんであるのは、誰よりもよく分かっていたはずなのにだ。 なかなか力をつけてきたとはいえ、ゼオンのような優の力を上回る相手... -
殺したらおわり(前編)
殺したらおわり(前編)◆hqLsjDR84w ◇ ◇ ◇ 横島忠男の眼球を抉り取ろうとしていたさとりは、唐突にその動きを止めた。 三日月状の刀剣・魔道具『海月』を振りかざしたまま、不自然な体勢で硬直する。 「な、なんだってんだ、いきなり……」 対する横島のほうもまた、霊波刀を構えた状態で首を傾げる。 よもやこちらの意図を汲んで、人殺しをやめてくれる気になったのだろうか。 いや、そうに違いない。たまには勇気を振り絞ってみるものだ。超逃げたかったけど、そうしなくて正解だった。よかったよかった。 そんな思考が『心を読む妖(バケモノ)』であるさとりに流れ込んでくるものの、まったくの見当違いだ。 横島の言い分なぞ、知ったことではない。 そもそも、さとりには横島の言わんとすることの半分も理解できていない。 妖でも家族になれる... -
歯車が噛み合わない
歯車が噛み合わない ◆hqLsjDR84w ◇ ◇ ◇ 「これも欲しいかな。ああ、それもあるだけ入れておいて。あとあれもお願いね」 思い上がった声を浴びせられ、紅煉は何度目になるか分からない舌打ちを鳴らす。 同時に、夜の闇より黒く艶のある体毛が僅かに逆立ち、血のように赤い瞳が鈍く輝く。 紅煉の計画では、すでに五人は殺して喰らっているはずであった。 殺し合いの会場が広く他の参加者と出会いづらいものの、それは人間の場合である。 妖(バケモノ)に人間のルールは適用されない。 夜中でも昼間と同じように視界は開けているし、人間の臭いを辿ることも可能だ。また、そもそもの移動速度自体が人間とは比べ物にならない。 だから、いまごろ満腹とまでは行かずとも腹八分目程度までは満たされている――つもりだった。 「ああ、ごめんごめん。二つ下の階にあったチ... -
100話到達記念企画、首輪の謎に迫る!
100話到達記念企画、首輪の謎に迫る! ◆hqLsjDR84w ◇ ◇ ◇ 一しきり苛立ちを言葉に代えてみて、いい加減喉が少し痛くなってきた。 その辺りで、才賀勝はようやく悟る。 いくら声を張り上げたところで、意図が伝わることはなさそうだ――と。 どんなに叫んでもどこ吹く風で、むしろなんでこの少年はこんなに怒っているんだろうフェイス決め込んでいる二人を前に。 肩で息をしながら、いまさらになって察した。 「…………」 ついに口を閉ざし、勝は眼前の二人にじとりと視線を向ける。 その鋭さは『見る』というよりもはや『睨む』寄りであったのだが、それに気付いてくれる相手はこの場にいない。 艶のある黒い髪を腰まで伸ばした二人は、怪訝そうな表情でお互い顔を見合わせる。 そうしてから、まったく同じことを言うのだった。 「「どうかしまし... -
明暗
明暗 ◆6LcvawFfJA <登場人物紹介> 一人目……夢を抱く少年。 二人目……夢を抱くのを止めた青年。 三人目……夢を抱く事を許されなかった青年。 ○ 「……は?」 ガッシュ・ベルの口から零れ落ちたのは、ひどく気の抜けた声。 現状を認識出来ずにいながら、吐息と共に自然に漏れてしまった物だ。 先程までの射抜くような視線は鳴りを潜め、目を見開いたまま放心している。 その眼前で、ジャン・ジャックモンドは正二の所持品を回収する。 人形をアタッシュケースに戻して蔵王に入れ、正二のリュックサックに収納する。 終始口を利こうともせず、ジャンは幾つものリュックサックを手にガッシュの傍らを横切っていく。 ジャンの長い金髪が、ガッシュの頬をほんの僅かに擦った。 そのくすぐったい感触が、ガッシュを我に返す。 ... -
『太陽の人形芝居』2(後編)
『太陽の人形芝居』2(後編) ◆hqLsjDR84w ◇ ◇ ◇ 「ボーッとしてる場合じゃねえ! 逃げるぞッ!!」 ゆっくりと近付いてくる二体の人形を前に、兜は平成を乱していなかった。 いや、嘘っぱちだ。うろたえていないワケがない。虚勢を張ってるだけだ。 本当は怖い。いい歳して泣きたくなる。気を抜けば、小便を漏らしてしまいかねない。スーツの下は、とうに汗でビショ濡れだ。 なぜそれでも震える素振りを見せずにいるのかといえば、この場にガッシュがいるからである。 子どもがいるのに、大人がビビっていられるはずがない。 それも、兜光一という男はただの大人の男ではない。 未だに正義の味方を夢見る、元お巡りさんだ。 お巡りさんに限って、悪人に怯むワケにはいかないのだ。 警察手帳なんか辞表と一緒に叩き付けてやったが、いまでも桜の代紋は胸に刻まれて... -
ナビ
ナビ ◆hqLsjDR84w ◇ ◇ ◇ 「だいぶ今さらやけど、温泉ちゅーのは身体洗うだけのもんちゃうねん」 佐野清一郎が笑みを浮かべながら語っているが、すぐ横のコロンビーヌは返答しない。 目蓋を半分だけ開けて、呆れたような視線を向けるだけだ。 というのも、佐野という少年はこれまでひたすら一人で喋り続けていたのだ。 歩きだしてからずっとである。 話題は変わらず、温泉トークばかり。 同行して以来、口を開けば温泉。さながら温泉特集である。 興味があるものならばともかく、大して知りも知らないことをこうも語られても、なんていうか、困る。 コロンビーヌでなくとも、そう思うだろう。 「ロボットやから分からんかもしれんけど、体調よくするのに役立つのもあるんやで。 だいぶむかしから医療に使われたとかなんとか。 肩こりだの、腰痛だの、そ... -
ナゾナゾ博士と植木の法則
ナゾナゾ博士と植木の法則 ◆I2LrcbxxNg 蔵王という球体から出てきたのは、掃き溜めからビニール袋で可能な限り掬ったかのようなゴミ袋。 生ゴミも混入しているのか、透明のゴミ袋からは口を締めていてもなお異臭が漂う。 年を食った老人に対して酷い仕打ちではないか。 老人のリュックはゴミ入れではないというのに。 ウェーブがかった白髪にマジシャンかと思わせるようなハット、金色の装飾が煌く黒衣にマントをはためかせ歩み行く。 ピンとしたお髭に独眼鏡もあり、怪しげながらどこか知的な印象を受けるその人はナゾナゾ博士という。 街灯も無く、月の灯りを頼りとするしかない現在地より向かって西、地図の最西端こそが彼の目的地である。 この殺し合いの舞台はお馴染みのモチノキ町。本来ならば他の町へと通ずる道は地図上に記されていない。 落ち着ける場所で腰を下ろしゆっくりしたいという欲も湧いた... -
守りたいもの(前編)
守りたいもの(前編) ◆AJINORI1nM 深夜、植物園。 照明は点いておらず、ガラス張りの天井から月明かりが差し込んでいる。 植物達に囲まれた芝生の上。 支給品の確認を終えたレイラがそこに居た。 小学校低学年だろうか。 美しい青紫色の髪を持つ、幼い少女だ。 髪の毛と同じ色の服を着ており、胸には月の模様が描かれている。 奇妙なことに、彼女の頭からは二本の小さな角が生えていた。 (どうして私はまだ人間界に居るのかしら……) 彼女は、千年に一度行われる、魔界の王を決める戦いに参加する魔物の子の一人だ。 と言っても、彼女の戦いは千年前に終わっている。 千年前の戦いで、ゴーゴンという魔物の子に敗北してしまったからだ。 敗北の原因はゴーゴンの放った術、『ディオガ・ゴルゴジオ』。 この術は魔物の子を魔本に閉じ込め... -
バグ
バグ ◆d4asqdtPw2 「Dr.鍵宮」 誰もいない虚空に向かって呼びかける。 博士に連絡し、今後の行動についての指示を仰ぐために。 しかし、彼の躯体内に搭載されている通信ユニットには一切の反応はない。 装置は問題なく動作しているはずなのに。 「Dr.鍵宮。異常ガ発生シマシタ。応答ヲ」 彼が何度呼びかけても博士は応答しない。 それどころか、東京都文京区にある鍵宮研究室との交信自体が途絶えてしまっている。 どうやら、彼が立っているこの場所が専用無線通信の有効範囲外であるか、または何者かによって通信電波が妨害されているらしい。 「…………交信不能。自律モードニ移行スル」 銀髪にやや面長な、西洋風の綺麗な顔立ち。 ボタンを全開にした学ラン姿も、ワインレッドの眼鏡も、かなり様になっていた。 海外の映画俳優かと... -
重い荷物の担ぎ方
重い荷物の担ぎ方 ◆hqLsjDR84w ◇ ◇ ◇ 「ここまで来れば、ひとまず大丈夫……かな。 わざわざ移動した僕たちを探すとも思えないし、あまり体力を使いすぎてしまっても本末転倒だからね」 後ろをついて来ているおキヌさんに告げて、足を止めた。 いきなり反応しきれなかったらしいおキヌさんが、僕の三メートルほど前まで行って停止した。 お爺ちゃんの記憶が溶け込んだ『生命の水』を飲んだ才賀勝――つまり僕は、このくらいの運動で疲れてしまうことはない。 だけど幽霊であるおキヌさんは、どうなのだろう。 そう、おキヌさんは幽霊なのだ。 一見ただの高校生に見える巫女服を着た長い黒髪の彼女は、もう命を落としている。 それも、三百年も前に亡くなったのだという。 僕のなかにあるフェイスレスの記憶よりも、さらに百年も昔だ。 「はぁー……くたび... -
モーニングティーを飲みに行こう
モーニングティーを飲みに行こう ◆hqLsjDR84w ◇ ◇ ◇ 「ほおお、ここがあの『でんしゃ』に乗るための施設か。 …………あァ? なんだ、この扉は。この俺の前に立ち塞がろうってのかァ? はん! こんなもんで! 妖(バケモノ)を! それもこの紅煉を! 止められるもんかよォ、バァァァカ!!」 と、チャイム音を鳴らす自動改札機を盛大に罵ると、紅煉は舌を出しながら浮遊した。 生き血より赤い舌を見せつけたまま、堅く閉ざされた扉の上を飛んで行く。 重力に逆らうことのできる妖に、足元を封じる扉などなんの役目も果たせない。 自動改札機を越えて駅内に侵入すると、紅煉は振り返って右掌を自動改札機に向ける。 「ま、この紅煉にかかりゃあこんなもんよ。ハッハッハッハッ!」 高笑いとともに放たれた雷により、ずらりと並んだ十の自動改札機すべてが... -
横島忠夫、清麿と出会う(後編)
横島忠夫、清麿と出会う(後編) ◆n0WqfobHTU ドットーレにとってこの戦い、清麿に負けて欲しくはなかった。 守ろうとした人間を殺し、不幸を呪い嘆く清麿が見たかっただけなのだから、あの人間にはむしろ適当な所でさくっと死んで欲しかった。 しかし、まるで意味が不明な執着から清麿を狙う彼は、なかなかに愉快な人材であると思いなおし始めていた。 自分の命を優先し、他者を踏みつけ被害者顔を隠そうともしない。実に、ドットーレの知る人間らしい人間であったのだ。 ドットーレの経験上、こういう人間は彼の振るタクトに合わせ、面白いように踊ってくれるものだ。 そこでドットーレは、不覚を取ったかと校庭の方へと目をやる。 校舎内の戦闘に注視しつつ、流された放送の事を考えていた為、ふらふらと歩み寄って来る人間に気付くのが遅れてしまった。 校庭脇、校舎側の鉄棒の上にぴょんとドット... -
貫くということ
貫くということ◆WMyP5RHbA6 殺す。 霧沢風子の頭にある思考はそれだけだった。 目の前で血と臓物を撒き散らしながら動かない仲間を見て。 風子の世界は音を失くした。 「あ、ああっ」 殺し合い。集められた五人の仲間。 全員が全員ただで殺られるようなヘタレ野郎じゃない。 今回もいつも通り、ボロボロになりながらも無事にハッピーエンドを勝ち取るはずだった。 「何でだよ……何でっ!」 ハッピーエンドはもう叶わない。一緒に生きて帰りたい仲間が早くも二人消えてしまった。 何やってんだ、烈火、みーちゃん。殺しても死なないゴキブリみたいなお前等がどうして死んじゃうんだよ。 流れだした放送を口では否定したが、心の奥底ではとっくに理解できていたはずだ。 烈火も水鏡も、死んでしまったんだって。 「残して、いくな。置いていかないでっ」 ... -
察知――君の現在位置
察知――君の現在位置 ◆6LcvawFfJA 放送で呼ばれたのは、合計十六名。 全体の五分の一が、夜明けを待たず脱落した事になる。 さらに言えば、その内の一人はオリジナルARMS“ホワイトラビット”の適正者、巴武士。 停滞状態に陥っていた彼がいかなる状態でプログラムに参加させられたのは、もはや下手人くらいしか知らぬ事実と思われるが、もし行動可能な状態だったとすればその力は凄まじい。 オリジナルARMS最速のスピードに加えて、“ジャバウォック”や“ナイト”と同じくARMS殺しまで有している筈だ。 そんなホワイトラビットをも含む十六名が、早々に命を落とした。 しかしその事実と直面しても、キース・グリーンはただ参加者の脱落具合が想像より早いと思うだけであった。 元より、強者が集っているとは思っていたのだから。 理解していながら、一つの椅子を求める決意をした... -
横島忠夫、清麿と出会う(前編)
横島忠夫、清麿と出会う(前編) ◆n0WqfobHTU 風子を追っている横島忠夫という男は、例えば風子が仲間としていた者達と比べ、頼りになる男なのであろうか。 見た目は、もうどうしようもなく負けている。辛うじて腐乱犬ぐらいが勝負になるかどうかだが、彼の雄々しき巨体は高い男度数を誇り、女子へのアピール材料ともなりうる。 うっかり水鏡君と比べようものなら、月と便所蟋蟀ぐらいの差をつけてやらねばならなくなる。 では中身はどうか。 それを、横島忠夫は試される事となる。 「ほう、人間にあの速さが出せるとはな」 そう呟いたドットーレは、視線の先に居た人物を見て感嘆の息を漏らす。 そして顔を大きく歪ませると、ニンゲンにはありえぬ速度でコレを追走し始めた。 ぐんぐんと迫る人間。 まだあちらはドットーレに気付いていない。 人間が鈍いのか、ドットーレの速さが... -
ドクター・カオスとオリンピア
ドクター・カオスとオリンピア ◆n0WqfobHTU 移動の最中、ドクター・カオスが妙な提案を持ちかけて来た。 マリリン・キャリーは、三順分ぐらい裏の裏の裏を読んだ上で、にっこり笑ってこれを了承。 ドクター・カオスは受け取った鞄を隣を歩くパルコ・フォルゴレへと手渡す。 移動の足を止める気はない。ならば作業は移動しながら行なわなければならない。 フォルゴレが抗議するように視線を送ってくるが、ドクター・カオスはこれを黙殺し鞄から伸びる糸を、その先の指にはめる輪をいじりまわす。 無言でこれらをいじっていたらそれはそれで怖いものがあるが、実際の所ドクター・カオスはぶつぶつあーでもないこーでもないと独り言を呟き続ける。 明らかに間違った単純計算結果を口にする事もあり、フォルゴレにもマリリンにもこの計算の意味する事が理解出来ぬまま。 しかし、その計算は本当に誤ってい... -
ばかやろう節(2)
ばかやろう節(2) ◆hqLsjDR84w ◇ ◇ ◇ ギイ・クリストフ・レッシュの脳内にふと蘇ったのは、栗色の髪をした少女の姿であった。 不可解な事態に巻き込まれてなお明るく振舞い、屈託のない笑顔を浮かべていた――井上真由子。 当初、ギイは死した自分が生きている現実に戸惑い、まだ殺し合いに対してどう動くかを決めかねていたのだ。 混乱しながらも、とりあえず武器を確認しようと思い立った。 知らぬうちに背負っていたリュックサックを引っくり返すと、すぐに彼女は現れた。 「だめぇぇーーーーっ!」 と、叫びながら。 自分より動転している相手を見ると、妙に冷静になるものだ。 彼女をどうにか落ち着かせて話を聞いてみると、なんでも支給された刀が妖気を放っているので危険だという。 ギイは内心で疑いながらも口には出さず、同封されていた説明... -
ワンダーランド2
ワンダーランド2 ◆hqLsjDR84w ◇ ◇ ◇ ふーふー。 ふーふー。 ずるずる。 はふはふ。 ずるずる。 はふはふ。 ずるずる。 ずるずる。 ずるずる。 ずずずず。 ずずずず。 「……ふう」 一拍の間を空けて、ため息が一つ。 それがはたして誰のものであったのか、高嶺清麿の頭脳をもってしても分からなかった。 カップラーメンをすする三人を静かに見守っていた、食事を必要としないマシン番長ではないだろう。 しかしそこからさらに、他の三人のうち誰だったのかを搾り出すことはできない。 霧沢風子かもしれないし、横島忠夫かもしれないし、清麿自身が無意識のうちに吐いていたのかもしれない。 「…………っ」 プログラムに巻き込まれてか... -
鉄風鋭くなって
鉄風鋭くなって ◆hqLsjDR84w ◇ ◇ ◇ 定時放送が始まる数分前から、永井木蓮は食事を一時中断して耳をすましていた。 放送がもたらす二つの情報は、最後の一人になるまで生き延びるつもりの木蓮にとってかなり有益なものだ。 死者の数は以降どう動くかの目安になるし、禁止エリアに至っては知らなければ呆気なく死にかねない。 ゆえに注意深く聞き耳を立てていたのだが、にもかかわらず半ばから先を聞き損なってしまった。 自分自身の哄笑に遮られて、放送の終盤が耳に入ってこなかったのである。 まずいとは思っていたものの、とめどなく溢れてくる歓喜の念を抑えることはできずに終わった。 勝手に口元は大きく歪んでしまうし、笑い声は手で押さえた程度で止められるほど穏やかなものではなかった。 神様の力を使うなどとぬかしていたワケの分からんガキに敗戦を喫したことなど、い... -
さよなら旧い自分
さよなら旧い自分 ◆hqLsjDR84w ◇ ◇ ◇ 「……さて」 もうすっかり昇りきった日の下で、憲兵番長こと伊崎剣司が誰にともなく呟く。 河原に向かったギイとシルベストリを見送ってから、とうに十分ばかし経過している。 その間、いったいなにをしていたのかといえば、ひとえに『仕込み』をしていたのである。 彼は人を斬る音色を愉しむことこそ最上の快楽としているが、しかしあくまで最上であって唯一ではない。 単に人体に刃を滑り通せればそれでよいのではなく、むしろその過程をも堪能するべく趣向を凝らすタイプなのだ。 その憲兵番長の視線の先には、地べたの上で横たわる少女――魔物の子・チェリッシュ。 すぐ横で一人の命が奪われた事実も知らずに、未だ意識を取り戻す素振りすら見せていない。 眠ったままの彼女に雷神剣の刃を突き刺してやるというのも、決し... -
現在位置~You are here~
現在位置~You are here~ ◆hqLsjDR84w 極秘組織『エグリゴリ』を統率する四人の最高幹部『キースシリーズ』。 同じ遺伝子から作られた彼らは、母たる『アリス』の葛藤を映してそれぞれに異なる意思を与えられている。 四つの選択肢から、たった一つを選び出すために。 だからこそ―――― 彼らは家族であるが、しかしながら決してお互いが同じ線に重なってしまうことはない。 そんなキースシリーズの末弟であるキース・グリーン。 彼に託された意思は――――『希望』。 ◇ ◇ ◇ 真夜中の、山。 湿っぽく、肌寒く、そして暗い。 人工の照明など設置されておらず、地表を照らすのは木々の隙間を通り抜けてくる月光だけだ。 誰もわざわざ近寄ろうとしない、仮に入ってしまったとし... -
ゲェムを作る側から見た場合
ゲェムを作る側から見た場合 ◆hqLsjDR84w ◇ ◇ ◇ 『――次の放送は正午に行われるので、覚えておくんだな』 その宣言をもって、辺りに静けさが戻る。 足を止めて放送に耳を傾けていたフェイスレスは、ふうと大きく息を吐く。 「いやあ、二人とも無事みたいでよかったよ。 ようやく掴みかけた夢を、こんな形で手放せないからね」 言葉の内容に反して、口調に安堵の色はない。 当たり前のことである。 フェイスレスの記憶を持つ才賀勝は強いし、エレオノールも人形破壊者(しろがね)として修羅場をくぐっている。 彼らに限って、こうも早い段階で命を落としたりはしないだろう。 このように分かり切っていた事実を知らされたにすぎないのだから、いちいち胸を撫で下ろすはずもない。 軽薄な笑みを浮かべて、フェイスレスは頬に手を伸ばす。 そのま... - @wiki全体から「こうしてはいられない」で調べる