ピカチュウ「昔はよかった・・・」@ ウィキ内検索 / 「病み上がりタイチの修行日記その1」で検索した結果

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    ...仔煩悶記 第十四帖 病み上がりタイチの修行日記その1 病み上がりタイチの修行日記その2 Aya 16 years その他 伝言板 リンク @wiki @wikiご利用ガイド ここを編集
  • 病み上がりタイチの修行日記その1
    「もう無茶しちゃ駄目だよ?」 「はは、分かってますって」 幾度となく繰り返した遣り取りも、きっとこれで最後だ。 「君はこれからどうするの?旅を続けるのかしら?」 「俺を待ってる人……いや、追いかけなくちゃならない人がいるんだ」 「……君に名誉の傷を"負わせた"相手?」 先生は微かに険のある目つきで俺を見つめてくる。 ……なんとなく分かった。 心配してくれているんだ。 俺がまたその子のせいで、怪我をするんじゃないかって。 「はい」 でも、俺はあえて正直に答えた。 「そう……」 先生は腰に手を当てて、深い溜息をつきながら、 「……気を付けなさいね」 「止めねえの?」 「止めても聞かないでしょう、君は。  私は精々、ここであなたの無事を祈ることしかできない」 ただし、と先生はピッと人差し...
  • 病み上がりタイチの修行日記その2
    「冗談だろ……おい……」 もう終わりか、とでも言いたげに、玲瓏に嘶くギャロップ。 圧倒的な試合運びだった。 信じられねえ。 俺のマグマラシが、何も出来ずにやられちまうなんて。 「立て、立つんだ、マグマラシ!」 「勝負あった。無理に動かせば大事になるぞ。  ポケモンの治癒力をあまり過信しすぎないほうがいい」  カレンさんは艶然と笑んで、ギャロップの首筋に指を這わす。 「君は、今し方の敗北の理由を何とする?」 「それは……あんたのポケモンが速すぎて……」 マグマラシとギャロップの機動力には懸隔があった。 爆発的な加速。 安定した急制動。 徹底したヒット&アウェイ。 目の前のギャロップに、親父のウィンディが重なる。 勝てっこなかったんだ。 勝負を吹っ掛けたのがそもそもの間違いだった……。 消沈する俺に、カレンさんは溜息をついて言っ...
  • 伝言板/コメント/27
    タイチの修行日記追加 追加?もしや、復活!? -- (名無しさん) 2011-03-22 16 11 58
  • 徒然なるタイチ
    暇だった。とにもかくにも暇だった。 起床。検温。朝飯。包帯の交換。昼食。午睡。夕食。包帯の交換。就寝。 このルーチンワークのつまらなさ加減は、入院したことのあるヤツにしかわかんねーだろうな。 テレビはあるし、看護婦さんが雑誌や文庫本を貸してくれたりもしたが、 俄然アウトドア派の俺にはどれも無用の長物で、俺は専ら、窓の外を眺めたり、院内を散歩したりして時間を潰していた。 見舞いに来てもらっている幸せな患者を見かけると、どうしようもなく悲しくなる。 なんでヒナタを引き留めなかったんだ? あいつのことだから責任感じて、絶対留まってくれたぞ? そういった馬鹿な考えが浮かんできては、それを沈める毎日が続いていた。 親父やお袋に連絡するのも癪だった。それに仮に連絡したとして、年下の女の子にポケモンバトルで負けて火傷させられた、なんて言えるか? 無理だね。恥ずかしさで死ねる。 そんな...
  • 第十八章 上
    帰ってきたエアームドが嘴で指したのは、 ヤマブキシティに本社を有する巨大企業にして、 ポケモン産業の中核を成すシルフカンパニーだった。 それからのあたしたちの行動は早かった。 タイチは既に荷物を小さく纏めていたし、 あたしの準備もあっという間に完了して、 エアームドは帰還早々、空の道を往復することになった。 「体力は大丈夫なの?」 「今なんか言ったか?」 声を張り上げるタイチ。 地上で十分だった声量は、空に上がった途端、小さな囁き声になってしまう。 「エアームドの体力は大丈夫なの?」 「問題ない。こいつは見かけ通りタフだからさ」 タイチの言葉を裏付けるように、エアームドが甲高い鳴き声を上げる。 「それよりヒナタ、お前の方は大丈夫なのか?」 「どういう意味?」 「寒いのが我慢できなくなったり、休憩したいときは無理せず言えってことさ...
  • 第十九章 中
    マサラタウンの春を思わせる麗らかな午後だった。 僕は中庭を目指して病室から抜け出した。 何故「外に出た」のではなく「抜け出した」なのかというと、 看護婦さんが僕の外出を許してくれなかったからだ。 しかしそれは彼女の行き過ぎた看護責任が僕の外出を認められないだけで、 僕の健康状態は数値的にも表面的にも、それなりの回復を見せているはずだ。 サカキの允許もそれを見越してのものだろう。 病室の外の世界は新鮮だった。 一級リゾート地に建てられた別荘と聞いて、豪奢な建物を想像していたが、 なかなかどうして、ロココ様式の教会を想起させる落ち着いた保養所だ。 緩やかなカーブを描く階段を見つける。 一段一段を下るごとに、目に優しい装飾や丁度によって、良い意味で現実感がそぎ落とされていく。 この別荘に現代の知識や感覚は相応しくないように思える。 しかし現実として、ここには最新鋭...
  • 第八章
    『もうお腹いっぱーい。ママ、残してもいいでしょー?』 『ピカピカー』 『なあに、ピカチュウ? もしかして、にんじん食べてくれるの?』 『ピカ、ピカチュ!』 『ありがと! ママには内緒だよっ』 『ひぐっ、えぐっ……ここ……どこ、なの……?  ううっ……帰れないよぉ……』 『……ピカー……ピカー…………チュッ!』 『……ピカ、チュウ……? えぐっ……探しに来て……ひくっ……くれたの?……』 『ピカピカー』 ――――――――― ――――――― ―――― 瞼が朝日を受けて、その裏の夢を溶かしていく。 ……瞼を開く。 頭の中は真っ白で、それと同じように、視界も靄がかかったように霞んでいた。 「ピカチュウ……」 いつでも傍にいて。 いつでもあたしを見守っていてくれた、掛替えのないポケモン。 目の端を拭うと指が少し濡れた。瞬く。 クリ...
  • 第二十六章 下
    通路を抜けると、そこは草原だった。 「キョウの間だな」 草いきれを胸いっぱいに吸い込む。 冬なのに春の薫りがした。 足許に目を凝らせば蟻の行列があって、名前の知らない青い花には紋白蝶が止まっていた。 「ここだけ季節が違うね、ピカチュウ」 「チャー」 ピカチュウはあたしの肩から降りて、嬉しそうに耳をぱたぱたと動かした。 けど、穏やかな時間は一分と続かなかった。 「来たか。カンナもシバもつくづく無能だな」 金色の髪と金色の瞳。 ポケモントレーナーの中では、恐らくあたしのお父さんの次に知名度が高い人物がこちらに歩いてくる。 「チャンピオン様がこんなところで何してる?」 元四天王にして現チャンピオン、ドラゴンタイプの使い手、ワタルがそこにいた。 「調子づいた侵入者を始末してやろうと思ってね」 「穏やかじゃないな。そ...
  • 第二十五章 上
    タケシさんの部屋に行くと、ピカチュウはついさっき出て行ったと言われた。 もしピカチュウがあたしの部屋に戻ったのだとしたら、途中ですれ違っているはず。 「どこに行ったのよ、もう」 爪を噛む。苛立ちと不安で、小さい頃に直った癖が復活しそうになる。 あたしが何気なく庭園に視線を移すと、誰かが正門の方へ歩いているところだった。 常夜灯がその人の顔を淡く照らし出す。 「あっ……」 夕方に見たのと同じ人だった。 既視感がさらに強まる。なのに、それが誰だか思い出せない。 今追いかけてなければ、あの人にもう二度と会えないような直感がした。 靴を取りに行って戻ってきたとき、既に人影は消えていた。 それでもあたしは庭に降りて、常夜灯と青白い月明かりを頼りに人影を見た辺りまで歩いていった。 「探したぜ。何やってんだよ、こんなところで」 振り返ると、そ...
  • 第十九章 下
    フユツグに服を用意するようにと告げられたその日の夜。 名刺にあった住所を元に有名服飾系ブランド『Gardevoir』直営店を訪れたあたしとタイチは、 閉店まで30分ほど待たされた後、店の裏に通された。 あたしが店を訪れた理由を話すと、二人は二つ返事で快諾してくれた。 そこまでは良かったんだけど……。 話を聞きつけたショップのコーディネーターやオーナーさんまで協力してくれることになって、 今は貸し切り状態の店内で、それぞれ男女に分かれて服を選んでもらっている。 「ドレスアップスーツは普段スーツを着慣れていることが重要なんスよ。  その点タイチさんはポケトレとして旅をしてるだけあって、正装にはほとんど縁がない。  だから無理に飾り立てるよりは、いっそのこと開き直った方がいいと思います」 「いいのか、そんなんで」 「全然オッケーっスよ。これでも一応勉強してるんで、ここ...
  • 第十八章 中
    濡れた髪を梳りながら、名刺の上に小さくプリントされた文字を読む。 Gardevoir――『高級』『上質』が売りの、服飾系有名ブランドだった。 もちろんその知識はカエデから教わったものだ。 「カエデがいないのが残念ね……」 いたら飛び上がって喜んだあと、 あの二人組に掛け合って、格安でGardevoirの服を購入していたに違いなかった。 ポケモンセンターまでの道すがら、 二人組のうち背の高い方は、クチバで分かれてからの経緯を短く話してくれた。 『あのときは言いませんでしたけど、俺、親父に出頭命令食らってたんスよ。  才能がないお前がポケモントレーナーを続けても無意味だ、いい加減諦めて俺の仕事を手伝え、って。  親父は服飾プランナーって仕事なんスけど、俺は正直、そんな仕事を手伝うのはゴメンでした。  友達も一緒に連れてこい、って言われても乗り気じゃなかっ...
  • 第二十章 下
    空調ダクトに潜んでから約一時間後。 ルアーボール、ムーンボール、ヘビーボール、スピードボール。 新型ボールのプレゼンテーションは恙なく進行し、デプログラムはいっこうにその効力を発揮する気配がない。 不安になってきた僕をよそに、真下のモニターからは、最後のプレゼンテーションを始めるアナウンスが聞こえてくる。 プレゼン方式は各開発部門のトップが成果を発表するというもので、都合、壇上の人間はボール毎に入れ替わることになる。 そして次に壇上に上がり、マイクを取ったらしい人間の声に、僕は戦慄した。 「ご紹介に与りました、ハギノです」 ハギノ。 オツキミヤマにおけるピッピ乱獲およびカントー発電所占拠の中心的人物。 システム幹部が何故ここにいる? システム最高指導者たる管理者がレセプションの参加者に紛れている以上、 その護衛がついていることは予測の範疇だったが、 まさ...
  • 第十七章 下
    翌朝。 朝食をとるためにカエデと連れだって部屋を出たところで、 あたしは眠そうに欠伸をしているタイチを発見した。 「ふぁーあっ……よう、二人とも。遅かったじゃねえか」 ふにゃふにゃの顔はそのままに声をかけてくる。 服装もだらしない。 「おはよう」 わざわざこんなところで待ち伏せしてたの? あたしたちの部屋のドアをノックすれば良かったのに――と続ける間もなく、 「おーはーよーっ」 カエデが"ごく自然"な動作であたしとタイチの間に身体を割り込ませる。 「あたし思ったんだけど、タイチくんまだ疲れてるんじゃないの?  長旅を終えたその足でヒナタを助けに行ったんだし……、  あっ、あたし食堂から食事とってきてあげよっか?」 「いいっていいって。  食事ついでに雑談するのが目的だったんだよ。  さ、早いとこ三...
  • 第七章 下
    「へぇー、それじゃあヒナタもポケモンマスター目指してるのか?」 「うん、まあ……一応ね」 焚火の明かりに、四つのバッジがきらきらと反射している。 内訳はグレーバッジとブルーバッジが一つずつ。 「俺と一緒だな」 タイチは嬉しそうに言って、破顔する。 その表情は幼子の無邪気なそれにそっくりで、 とても初めて見たときのイメージに合致しなかった。 外見だけで人間性を推し量ることはできないのだと、僕はしみじみ再認識する。 「あたしもポケモンマスター目指そっかな……」 と膝を抱えて独りごちるカエデ。 僕はそんな彼女の肩を叩いて、 「ピカ、ピカチュ」 早まらないほうがいい。一時の情感に流されて本当の夢を見失うつもりかい? 「そうよね。今からニビシティに向ったらヒナタやタイチと離ればなれになっちゃうもん...
  • 意見・感想/コメント/53
    感動しました。頑張って下さい(^^)ヒナタとタイチのその後も気になります(*^^*) -- (名無しさん) 2010-10-14 00 31 22
  • 伝言板/コメント/15
    番外編のタイチのやつって消えたの? -- (名無しさん) 2009-11-20 21 22 33
  • 第二十章 中
    映画館の上映直前のそれのように、照明が弱まり、巨大なスクリーンにシルフカンパニーの社標が映し出される。 同時に放談も密談に移り変わり、あたしを囲んでいた人たちは一緒に来た人のところへ散っていった。 「君と話せてよかった。それじゃあまた、のちほど」 「え、ええ」 最後に自称年収三千五百万某ベンチャー企業総取締役が、 ホワイトニングされた真っ白な歯を見せつけるように去っていって、あたしはようやく人心地をついた。 正直、何を話したのか全く覚えていない。 ただ相手の話に合わせて相槌を打っていただけだったような気がする。 もしあたしの身上を仔細に尋ねられたら、どうしようもなかった。 言い寄った女が実は年端もいかない小娘だと知れば、 不審に思ったり、そのせいで印象に残ったりするのは当然の帰結。 「今度うちにいらっしゃいな。  ブーバーちゃんもあなたのことをきっ...
  • 第十六章 下
    「"火の粉"を撒き散らしなさい」 とアヤは言った。広範囲攻撃で炙り出すつもりなのだろうか。 しかしスターミーに対して火の粉はあまりに効果が薄すぎるし、 炎の渦を通り抜けた(水鉄砲で火力は弱められていたけど)ピッピがそれに動じるとは思えない。 キュウコンが九尾を波打たせる。 大量の火の粉が舞い上がる。 あたしは一瞬、夜空の星の数が倍になったように錯覚する。 「ポケモンよりも、自分の身を案じた方がいいですよ。  火の粉の攻撃範囲はあなたにまで及びます」 目は降り注ぐ火の粉に注がれたまま、 耳はアヤの自信に満ちたソプラノを聴いている。 花火の真下にいるようなものだ。 避けようがない。 「……っ」 恐怖に目を瞑る。 でも、いつまで経っても火の粉は降り注がなかった。 代わりにあたしは頭の上に若干の重みを感じて、 傘が雨粒を...
  • 第七章 上
    「おもーい、だるーい、歩きたくなーい」 約27回目となるカエデの弱音に、ヒナタと僕は慣れきってしまっていた。 「地図を見た感じだと、あともう少しよ。頑張りましょ」 「ヒナタ、さっきから同じことばっか言ってるじゃないの」 「ピカァ……」 それは君が言えた台詞じゃないだろう……。 それにいつまで経っても目的地が見えてこないのは、 君の歩みが果てしなく遅いからだぞ。 「ね! ここら辺で休憩しない?  お腹もへったし。あたしクチバシティでおやつ買ってきたんだ」 勝手に座り込んで、リュックサックを開けるカエデ。 ヒナタと僕は視線を合わせ、深い深い溜息を吐く。 ここは十番道路の外れ。 イワヤマトンネルの手前あたりの入り江をパウワウの力を借りて渡り、 僕たちはかつての無人発電所に向かっている。 さて――何故僕...
  • 第二十四章 下
    あたしが聞いた話をそのまま話し終えた時、二人の反応は見事なまでに正反対だった。 「有りえねえ。マジで有りえねえ」 「…………………」 有りえねえ、を連呼するタイチと、ひたすら物言わぬ貝に徹し続けるカエデ。 「ミュウスリーはまだ信じられるとして、  ポケモンがいない時代の超文明とか、  その遺産のトンデモコンピュータがセキエイに隠されてるとか、お伽噺もいいとこだろ」 「マサキ博士も言ってたわ。  信じるか信じないかは、あたしたち次第だって」 あたしは畳の上に、シゲルおじさまから貰った地図を広げた。 「でも、これを見て。あの夜、リザードンは西に飛び去っていったわ。  ヤマブキシティから西に直線を引くと、ほら、セキエイ高原があるでしょ?」 「偶然だって。それにいくら西に都合良くセキエイがあるからって、  途中で方向転換しないとも限らないし、セキエ...
  • 第十八章 下
    「だから発電所で偶然お前に会った時はマジでびっくりしたな」 とタイチは笑い混じりに言った。 タイチの話を聞いているあいだに、あたしの頭はすっかり冴えていた。 「あの時は、キャタピーにびびってた情けない俺を忘れたままでいてほしい気持ちと、  もしかしたら俺と友達になったことを……あの冒険を思い出してくれたらいいなって気持ちが半々だった。  ま、結局ヒナタは親父の話通り、完璧に俺のことを忘れてくれてたわけだが」 それは、あたしがタイチと一緒に家を抜け出して、森に入って、キャタピーに囲まれて、 見知らぬトレーナーに助けられて、気を失うまでの経緯を聞かされた今でも変わらない。 あたしの瞼の裏にはちっともそれらにリンクした映像が立ち上がらなかった。 「こうやって一緒に旅出来る今では、その方が良かったと思ってるんだ。  あの頃俺たちはまだ子供で、攻撃的なキャ...
  • Aya 16 years
    「止めです、キュウコン。"火炎放射"」 「突き進め、ニドキング。お前なら堪えられる」 紅蓮の炎が迸り、鉄塊の如き巨体を包み込みます。 削り切れれば勝ち。 凌ぎきられれば負け。 真正面からの力比べは、思い返せば完全な賭けでした。 けれど、わたしはキュウコンを信じていたのです。 そしてわたしの最愛のポケモンは、見事、その期待に応えてくれました。 「あーあー、やられちまったか。  もうちっと踏ん張れると思ったんだがな」 倒れ伏したニドキングをボールに格納し、悔しげに頭を掻くその人の名は、シゲル。 トキワシティの現ジムリーダーにして、 わたしの義理の義理の父になるかもしれない人です。 認めたくありませんけど。 「強くなったなあ、アヤ。  いや、初めて会った時からお前は強かったが……」 「修行の成果です」 「俺の息子はちゃ...
  • Aya 17 years
    「止めです、キュウコン。"火炎放射"」 「突き進め、ニドキング。お前なら堪えられる」 紅蓮の炎が迸り、鉄塊の如き巨体を包み込みます。 削り切れれば勝ち。 凌ぎきられれば負け。 真正面からの力比べは、思い返せば完全な賭けでした。 けれど、わたしはキュウコンを信じていたのです。 そしてわたしの最愛のポケモンは、見事、その期待に応えてくれました。 「あーあー、やられちまったか。  もうちっと踏ん張れると思ったんだがな」 倒れ伏したニドキングをボールに格納し、悔しげに頭を掻くその人の名は、シゲル。 トキワシティの現ジムリーダーにして、 わたしの義理の義理の父になるかもしれない人です。 認めたくありませんけど。 「強くなったなあ、アヤ。  いや、初めて会った時からお前は強かったが……」 「修行の成果です」 「俺の息子はちゃ...
  • 第二十三章 中
    マサキはこう前置きした。 『悪い知らせと最悪な知らせがある。どっちから聞きたい?』 鎮痛剤の副作用で感覚を失った。 命の蝋燭はいつ消えてもおかしくないほどに痩せ細っている。 これ以上の不幸が僕には想像できなかった。 「ピィカ、チュウ?」 それで、最悪な知らせというのは? 「ワイは歯に衣着せた物言いが苦手や」 知ってるよ。 「君の末路は、二つ限りや」 マサキは極めて平坦な声で言った。まるでそれが既定事項であるかのように。 「苦しみながらの死か。薬物による安楽死か。  どちらを選ぶか、その選択権は君にある。  でも君の死に目を看取るのは、ワイと、君の知らん人間や」 僕は感覚の希薄な体を流れる血液が、沸騰するのを感じた。 「ピィ……」 諧謔を弄するのはよしてくれ、マサキ。 僕には、ヒナタやそ...
  • 第二十五章 下
    翌朝。 僕は久方ぶりに、ヒナタやカエデのポケモンたちと共に穏やかな時間を過ごすことができた。 淡雪が降り出しそうな寒天の下、マフラーを首に巻かれたワニノコとピッピが追いかけっこしている。 庭に設えられた人工池では、ヒトデマンから進化したスターミーとパウワウが半身を浸している。 そして僕の隣では、それなりに立派な体躯のハクリュウが、時折僕をチラ見しながらトレーニングに勤しんでいる。 僕たちは初対面のはずなのに、なぜ意識されているのか解せなかった。 「ピィ」 吐いた息は白く凍り、立ち上っては消えていく。 「ぴぃっぴぃ~」 ピッピが僕の背中に駆け込んでくる。 すぐにワニノコがやってきて、僕の顔色を窺いながら、 「がうがう!」 卑怯だぞ、と言いたいのだろう。 なるほど、背後のピッピは可愛らしい舌をちろちろと見せてワニノコをからかっている...
  • 第二十五章 中
    翌朝。 僕は久方ぶりに、ヒナタやカエデのポケモンたちと共に穏やかな時間を過ごすことができた。 淡雪が降り出しそうな寒天の下、マフラーを首に巻かれたワニノコとピッピが追いかけっこしている。 庭に設えられた人工池では、ヒトデマンから進化したスターミーとパウワウが半身を浸している。 そして僕の隣では、それなりに立派な体躯のハクリュウが、時折僕をチラ見しながらトレーニングに勤しんでいる。 僕たちは初対面のはずなのに、なぜ意識されているのか解せなかった。 「ピィ」 吐いた息は白く凍り、立ち上っては消えていく。 「ぴぃっぴぃ~」 ピッピが僕の背中に駆け込んでくる。 すぐにワニノコがやってきて、僕の顔色を窺いながら、 「がうがう!」 卑怯だぞ、と言いたいのだろう。 なるほど、背後のピッピは可愛らしい舌をちろちろと見せてワニノコをからかっている...
  • 第二十二章 上
    「な、なんなのよコレ! いったいどうなってんの!?」 カエデが悲鳴にも似た声を出した。 エレベーターで屋上から数階下のフロアに辿り着いたあたしたちが見たもの、 それは抵抗する時間も与えられずに戦闘不能に追い込まれたポケモンと、気絶した警邏の数々だった。 屋上に向かうには、このフロアの階段を上る必要がある。 そしてそこを阻むように降りていたらしい防火壁は、今では木っ端微塵に砕かれて瓦礫と化していた。 「すげえな……並の壊れ方じゃねえ。一撃で破壊されてる。  誰かが俺たちよりも先に屋上に行ってると考えて、まず間違いねえだろうな」 「ね、ヒナタ。本当に行くの?」 「ここまで来て、引き返してどうするのよ」 「屋上にいるのは、あの分厚い防火壁を一撃で壊しちゃうようなポケモンの持ち主なのよ?」 あたしはカエデの答えを知りながら言ってみた。 「カエデはここ...
  • エピローグ
    四年後。 あたしとカエデは、ひとまわり成長したタイチのエアームドに乗せてもらって、シオンタウンを目指していた。 「それで、あたしは言ってやったわけ。  あんたみたいなポケモン考古学の端っこをちょこっと囓っただけの浅学馬鹿と、  この知識の蒐集家にしてミスタマムシのあたしがどうして付き合わなくちゃいけないの――って、ヒナタ、ちゃんと聞いてるの?」 「ん……ごめん、何の話してたっけ?」 「だーかーらー、最近あたしに構ってくる冴えない男の話」 「その人のこと、気になってるんでしょ」 「なっ、どこをどう聞き間違えたらそうなるわけ?」 「だって、カエデは興味ない人のことはいちいち喋らないもの」 赤面して黙り込むカエデ。 本当、分かりやすいんだから。 タイチが場を取りなすように言った。 「そういやカエデは、タマムシ大学を卒業したらどうするつもりなんだ?...
  • 第二十章 上
    「作戦の説明は以上だ」 とサカキはペルシアンを介して僕に言った。 「任務遂行にあたって余計なことは考えるな。  与えられた任務にのみ集中しろ。  時間は限られているのだからな」 「ピカ」 了解だよ。 サカキは杖を突いて立ち上がり、ペルシアンに目で合図した。 それでもペルシアンはすぐにその場を動こうとしなかった。 「本当にいいのかニャ?」 片方に傷を負った双眸が僕を見つめる。 ペルシアンはあえて多くを言わなかったのだろう、と思う。 僕は鷹揚に 「ピーカ、チュウ」 大丈夫、と答えて見せた。それは本意でもあり、虚構でもあった。 傷が完全に癒えていない体で任務に就くのは、はっきりいって心懸かりだ。 それを知った上で僕に命を下したサカキのことを、恨めしくも思う。 けど、システムの構想を打砕くという大義名分のもとでは、僕の不満...
  • 第二十六章 中
    暗闇の中を、シゲルおじさまのウィンディが散らす火の粉を頼りに走り抜ける。 目から血を噴き出したニドクインや、片羽を失ったモルフォン、背中を抉られたサンドパン、 片腕が真っ黒に焼け焦げたエレブー、地面に叩きつけられた衝撃で両足がねじ曲がったゴルバット――。 あの場にいたポケモンは確かな殺意を持っていた。 だからシゲルおじさまも、ウィンディに殺意を持たせた。躊躇させなかった。 分かっているのに肌が粟立った。あたしは震えそうになる足をがむしゃらに動かすことで誤魔化した。 「……っ」 バトルフィールドに一人残ったタケシさんのことを思うと、今すぐタケシさんを助けに戻った方がいいのではないか、という考えに駆られた。 でも、シゲルおじさまにそれを申し出たところで、却下されるに決まっている。 そんな葛藤を募らせていたあたしに、すぐ隣を走っていたタイチは言った。 「ヒナ...
  • 第十八章 下・続
    昨日待ち合わせした喫茶店があるビルの前に着くと、フユツグは支柱に凭れて雑踏を眺めていた。 服装は昨日の雰囲気と似た、落ち着いたものだった。 腕時計で時間を確認する。 約束の時間より、まだ15分も早い。 「ごめんなさい、待ちました?」 「僕もつい先程着いたところです。それでは行きましょうか」 と自然に嘘を吐くフユツグ。 「行き先は決めてあるんですか?」 「いえ、ノープランです。とりあえず歩き回ってみませんか。  時折僕がガイドとして、ヒナタさんの興味がありそうなところにお連れしますよ。  ところで、ヒナタさん」 「は、はい?」 「僕に対して敬語を使う必要はないと、以前言ったはずですが?」 「あっ……でも、それを言うならフユツグさんだってあたしには敬語を使っているじゃないですか」 「僕のは職業病で治しようがない。けれどヒナタさんの口調は意識一つで変...
  • 第十章 上
    「ピッピ、指を振るのよ!」 あたしの呼びかけに、 ピッピは小さく頷いてから、同じく小さな指を降り始めた。 もくもくもくもく。 指の先から黒煙が湧き出て、瞬く間にピッピを覆い隠す。そして――。 「ぴぃっ!! ぴぃ、ぴぃ」 ケホケホ、と可愛らしく咳をしながら、 ピンク色のボールのような物が、いや、ピッピが煙の中から転がり出てきた。 もうっ、折角"煙幕"を張ったのに、自分から出てきてどうするのよ……。 「あのぅ、そろそろオレ、攻撃してもいいかな……」 オオスバメを肩に止めた少年は、哀れみの入り交じった声でそう言った。 レベル、技の練度、どれをとっても格下のポケモン相手に、攻撃するのを躊躇っているのだ。 「ピッピ、もういいわ。戻って」 閃光。 あたしはピッピの入ったボールをベルトに...
  • 第二十四章 上
    「ピカチュウ」 「ピカァ?」 「ううん……なんでもないの。呼んでみただけ」 もう、こんなことを何度も繰り返している。 嬉しすぎて、幸せすぎて、ふと瞬きした瞬間に、ピカチュウがいなくなってしまうような幻覚がして――。 けれど膝の上から伝わる温もりは、ピカチュウがここに存在している、確かな証拠だった。 昨日の大雨とはうって変わって、今日の空には雲一つ浮かんでいない。 澄んだ空から降り注ぐ太陽の光が、ぽかぽかして気持ちいい。 ふとした拍子に、午睡に誘われてしまいそうなほどに。 「お昼寝、する?」 ピカチュウが片耳を傾げて、こちらを見上げる。 その何気ない仕草がたまらなくい愛おしくて、あたしはピカチュウに頬をすり寄せた。 「もう……どこにも行っちゃだめなんだから……」 誰かがみたら、あまりにも幼い触れ合いだと、笑うかもしれない。 けど、今の...
  • 第二十一章 上
    「鍵は?」とカエデが言った。 「あいつが持ってるかも」 タイチがスキンヘッドに近づこうとしたその時、 「ヒャ、ヒャハハ……ハ……」 スキンヘッドが眼を覚ました。 「抵抗したら容赦なく攻撃するから。本気よ」 「お前のボールの開閉機構は潰してある」 スキンヘッドはさっきのように取り乱さなかった。 背中を壁に預けたまま、狂ったように笑っていた。 「鍵はどこ?」 「ヒャハ、ハハ、ねえよ、ンなもん」 「本当のことを言って」 「初めからねえんだよ、ヒャハ、どうしても外したきゃ、力任せに壊すしかねぇ。  拘束具の中の腕がどうなるかは知らねえけどなァ、ヒャハハ」 「この野郎……!!」 「タイチ! 待って!」 「ヒナタ、でも、」 「こいつの言うことに乗せられちゃダメ」 冷静になれば、解決策が思い浮かぶはず。 「ぴぃ」 ...
  • 第六章 中
    「……ど、どうしてですか?  あの、あたし、他の人たちと同じように、ちゃんとポケモンバトルします!」 「まあまあ、落ち着いて。  なにもあなたがわたしの姪だから、優遇しているわけじゃないのよ。  例えわたしがジムリーダーとしてあなたが勝負しても、結果は見えてるわ。  ――ヒナちゃんが勝って、わたしは負ける。  それなら最初から、ジム戦をする意味なんてないでしょう?」 と言って、ウインクするアヤメ。 ヒナタは到底納得出来ないようで、 「そんなの……戦ってみないとわかんないです。  アヤメ叔母さまが強力な水ポケモンの使い手であることは、  お母さんがいつも話してくれていました。  だからあたし、叔母さまとポケモンバトルできると思って楽しみにしてたのに……」 カップに視線を落とす。 ヒナタの代わりに、僕はアヤメを見据えた。...
  • 第十九章 上
    ――――――― ――――― ―― ぼやけた視界に、10:46の数字が映る。 「こんな時間まで寝過ごすなんて」 自覚のないうちに、疲れが溜まっていたのかしら。 「ふぁ~あっ……」 大きな欠伸と伸びを一緒くたにしてから、ソファーセットの上で丸まっているタイチの存在に気付く。 見られてない? 見られてないわよね? あたしはタイチの長い睫を指先でそっとつついて、 熟睡していることを確かめてから、急いで着替えを済ませて、1Fのロビーに向かった。 「こんにちは」 昨夜の気さくなジョーイさんが話しかけてくる。 「あっ、おはようございます」 「ふふ、あなたには"おはよう"と言った方が良かったわね」 赤面する。ジョーイさんはくすくす笑って、 「お出かけ?」 「はい。ヤマブキシティは初めてなので、...
  • 第十二章
    覚醒には色々なパターンがあるが、 大別すれば以下の二つになる。 充分睡眠をとったことを示す、自然な目覚め。 誰かに揺り起こされたり、声をかけられたりして意識が浮上する、予期せぬ目覚め。 しかし、僕が白壁に囲まれた空間で目覚める時、 その目覚め方は決まって、自発的にでも無理矢理にでもない、奇妙なものだった。 例えるなら――、そう、底の深いプールで気持ちよく漂っていたところを、 栓を抜かれて、僕を支えていた浮力の源である水が流れ去り、 固い底に背中が触れて、それまでの快さが失われてしまったような、 もっと簡潔に言うなら、ずっと母親の陽水に浸っていたかった赤子が、 時期がきて外の世界に生まれ落とされたような、 ――不可抗力の、穏やかな目覚め。 「ピ……カ……」 慣れないな、まったく。 薬物を用いずとも、君たちが望むのなら僕は進んで目を瞑り、 この白...
  • 本作のストーリー設定等
    作者による、ストーリーの設定・表現の解説等です。 (説明を分かりやすくするよう、適宜レス改変あり) 若干のネタバレが含まれている可能性アリ。 初見では、☆印の項をひと通り読んでおくといいかもしれない 世界観の概要、他の作品からの引用等 ☆ ピカチュウと周りの人間との意思疎通 ☆ ピカチュウの年齢について トキワの森の所在 「ポケモントレーナー」という職業について ☆ ヒナタとカエデの容姿 野生のポケモンは少ないの? ポケモンの成長と、その体長について ゲンガーの体質と体長 エリカ様の年齢 アヤのキュウコンとゲンガーの戦闘能力差について 十八章時点での各キャラクターと所持ポケモン対応表 シゲルはリーグチャンピオン経験者? 御三家 -世界観の概要、他の作品からの引用等 886 : ◆ihjpPTk9ic [sage] : 投稿...
  • 第二十一章 中
    ビルの壁面を沿うように続く空調ダクトを降りていくのは骨が折れた。 両手両足を突っ張っれる丁度良い広さではあることは確かだが、 とっかかりがないために、いつ手足が滑って落ちてしまいやしなかと心に余裕がない。 フロアに通じる分岐路を見つけは入り込み、現在位置が2Fでないことを確認してから垂直降下を再開すること四回。 僕はモニター越しではない、生の拍手喝采を耳にした。マイクを通したハギノの声も、幽かに聞こえてくる。 それはあのピッピとピクシーが、ポケモンから動物に退化させられたことを意味している。 僕は居たたまれない気持ちになった。 「ピィ……」 ねえ、サカキ。 いったい君はいつ、このレセプションに幕を下ろすつもりなんだい? このままなにも起らなければ、あと数分もしないうちに、レセプションは終わってしまう。 システムの管理者を拉致できる機会が、水泡に帰してしまう...
  • 第二十六章 上
    地平線から溢れ出た黄金色の朝日が、夜の暗幕に包まれていたセキエイ高原に陰影と色彩を与えていく。 時折、侵入者を威嚇するかのような怪鳥の鳴き声が、冴え凍った夜明けの空気を震わせる。 自然と、カイリューの触覚を握る手に力がこもった。 初めてチャンピオンロードを踏破した時の感動が蘇り、僕はしばし、眼下に広がる偉観に目を奪われた。 荒々しい岩肌の雀茶色と、鬱蒼と生い茂った木々の暗緑色。 それは、この場所にポケモンリーグが建造されてから二世紀が経った今となっても、 頑なに人類を拒絶し続けていることの何よりの証明だった。 「見えてきた」 と、よく通る声でシゲルは言った。 エアームドに乗ったタイチとヒナタが、左手のピジョットに乗ったキョウとタケシが、 右手のピジョットに乗ったアヤメとカエデが、同時にセキエイ高原の彼方、朝日を弾いて銀白色に煌めく建造物を認めた。 同...
  • 第二十三章 上
    障子を透かした朝の日の光は、優しい。悪い夢を溶かしてくれる。 隣でぐっすり眠っているカエデをそのままに、寝床から身を起こす。 ぎし、ぎし、ぎし。 朝の空気に、廊下の軋む快い音が響き渡る。 静閑な日本庭園の一角に、あたしは薄紅色の人影を認めた。 「昨夜も、深い眠りは訪れなかったんですの?」 エリカさんは枝垂れ柳を仰いだまま言った。 「いえ、昨夜はよく眠れました」 逆説を続けたい気持ちを抑える。 ――でも、夢を見るんです。とても悪い夢を。 そう言うことで、余計な心配をエリカさんにかけたくなかった。 「だいぶ、落ち着いたみたいです」 エリカさんが振り返り、近づいてくる。 下駄と敷石が奏でる音はどこまでも優雅だった。 あたしは無理に微笑んで見せた。 それを見て安心したのかもしれない。 エリカさんはふと立ち止まると、告解する信者のよ...
  • fathers & mothers 18
    ――女と共に、最後のジムに来い―― 変声機を通した声が、今も青年の耳朶にこびりついている。 雨が止むのを待って、翌日、青年とハナコはトキワシティに向かっていた。 「サカキ代理の男は、電話の相手について何か言ってなかったの?」とハナコ。 「分からないの一点張りだったよ」 「最後のジム、というのはトキワシティジムで間違いないわよね。  いったい電話の相手は、どうしてそんな場所を指定したのかしら」 「俺に、突拍子もない考えがあるんだけどね」 「どんな?」 「突拍子もなさすぎるから、内緒」 ハナコが弱く青年の背中をつねる。そして、トーンダウンした声で、 「いよいよ、お父さんの居場所について、有力な情報が得られるのかしら……」 「一ヶ月足らずの間に、色々なことがあったね」 「あなたには助けられてばっかりで、わたし、やっぱり何か、ちゃんとしたお礼をしな...
  • 外伝14
    「おとーたま!」 舌足らずな声が響く。 覚束ない足取りで、とてとてと歩いてくるアヤを、 掬い上げるように抱きしめる。 「また重くなったんじゃないか?」 頬を擦りつけると、アヤはきゃっきゃっと無邪気に笑った。 『髭が痛いからやめて』と嫌な顔をされるのは、まだまだ当分先のようだ。 くりくりした大きな瞳と、ふっくらした唇、和毛のような赤い髪は、 アヤを天使と形容するに十分な条件を満たしていて……。 「お帰りなさい。サトシ」 「ただいま」 アヤを渡しながら、サヤに口付ける。 ゆったりとした服に身を包んだサヤは、言葉少なく、しかし顔を綻ばせて、俺を迎え入れてくれる。 俺がサヤと結ばれて以来、屋敷に帰るとき、最初に見る顔はサヤと決まっていた。 奥で休んでいればいいと言っても、サヤは頑として聞かなかった。 「おとーたま、は直らなかったか」...
  • fathers & mothers 34
    強いポケモンと戦り合うことが、純粋に楽しかった。 が、あるとき勢いに乗りすぎて、相手トレーナーのポケモンを過剰攻撃、 死に至らしめた上に死体を損壊せさ、リーグ参加資格を剥奪された。 それからすぐに、謎の組織から接触を受けて、護衛要員として雇われた。 危険地域に趣き、探険家を原生ポケモンから守る。 命の危険を感じたことは無数にあるが、すんでのところで生き延びてきた。 顔に傷のある男は、適格者としてこの世に生まれ落ちたことに感謝している。 そしていま、 「びゃっ」 奇声を上げて護衛要員の一人が弾け、岩壁に赤い花が咲いた。 ツガキリのヌシがポケモンの防衛線を一瞬突破し、 その巨大な爪で護衛要員の一人を薙ぎ払ったのだ。 「おーおー、派手に逝ったなァ!」 顔に傷のある男は笑う。 人間もポケモンも、いつかは死ぬ。 主を失ったキングラーとブーバーは、...
  • fathers & mothers 24
    季節はめぐる。 休日の朝、青年は大木戸博士の私立研究所の一室で、複数の論文に目を通していた。 博士が青年に話しかけた。 「こうしていると、大学での君を思い出すよ。毎度のことながら、助かる」 「タダで最新の研究を知ることができるんです。得をしてるのは俺の方ですよ」 「最近は要旨を読むことすら億劫でね」 「そんなことを仰らないでください、博士」 博士の元へは、定期的にタマムシ大学から、最新の研究論文の写しが届く。 それを読ませてもらうのが、青年の時々の楽しみのひとつだった。 「目についたものを簡単に」 「いよいよ、木戸マサキのポケモン転送理論が完成したそうです」 「ここだけの話だが、タマムシの技開局では既に転送装置の設計に相当な人員を割いている。他には?」 「モンスターボールのインプリンティング技術の汎用性が向上したとか」 「残すは竜種と、希少種のみ...
  • 第三章
    さて、ヒトデマンのその後を少しだけ話そう。 彼女――ヒトデマンは雌雄同体なのだが、便宜上雌とする――は、ヒナタがスピア―に襲われた場所の近くで、 寸分も変わらぬ姿勢で倒れ伏していた。ヒナタはすぐにヒトデマンを抱え上げ、 「ごめんっ、ヒトデマン! あなたを置いていくなんて、あたし、どうかしちゃってた……え??」 目を見開いた。僕はヒナタの肩によじ登り、彼女の反応に倣った。 ヒトデマンが受けていた傷は、キレイに快癒していた。そこから導き出される結論は一つだ。 「スピア―にあんなにいたぶられたのに……、どうして傷が治ってるのかしら?」 「ピカ、チュ」 僕はヒナタのバッグの、図鑑があるあたりを指した。 彼女はすぐに図鑑を取り出して起動した。機械音声が、ヒトデマンのステータスを読み上げる。 「―――覚えている技――みずでっぽう――...
  • fathers & mothers 22
    環境対策・保全課について、多くの市民は――役所の職員ですら――閑職である、と考えていた。 なぜなら同課の職員は取り組むべき仕事を見つけられず、さらに長たる課長の職務怠慢が常態化していたからである。 であるからして、青年が入所し、まず取り組んだことは、環境保全協定、公害防止計画、 化学物質対策、自然災害防止計画、そしてマサラタウン周辺に生息する野生ポケモンの精確な分布調査であった。 従来の業務履歴への批評と今後の計画についての青年の上申を、しかし、課長は鼻で笑い飛ばした。 仕方ないので青年は区長に直訴した。 新人に逸材あり、と聞き及んでいた区長は、十分間の対談機会を彼に与えた。 その対談は一時間に及び、青年が上申した複数の計画のうち、優先順位が高いものから実施されることが決定した。 「……それでついたあだ名が、マサラタウンの風雲児、ねえ。  あんまり派手にやると、目を...
  • 第十二章 Ⅲ
    ――当日は曇天だった。 あたしは予定時刻の20分前に、タマムシシティジムに着いた。 案内の人に従って巨大な門をくぐり、 荘厳としか言い表しようのない庭園を抜けて、バトルフィールドに辿り着く。 この表現だけでは、敷地の広大さを伝えるには不充分かな。 「お嬢様は只今準備中で御座います。しばらくお待ちくださいませ」 そう言って、案内人が去っていく。 あたしは丈の低い植物が繁茂した緑の庭に、たった一人取り残された。 とりあえず、先鋒を出しておく。 ――閃光。 「ぴいっ」 元気よく鳴いて、手をぱたぱたさせるピッピ。 この子はどうしてこんなに嬉しそうなんだろう? 頭を傾げて、ピッピの視線を辿ると、謎が解けた。 雲の切れ間に、真っ白な夕月が覗いている。 「ピッピは望月の夜を特別に好むと聞きますが、  あなたのピッピはそれとは無関係に、月がお...
  • 第九章
    とても懐かしい音を聞いた。 何かの物音? 誰かの声? 分からない。判然としない。 何かに、或いは誰かに、呼ばれているような感覚。 ここは何処何だろう? 僕はどうしてこんなところにいる? ただ一つだけ分かるのは、ここは、僕がいるべき場所ではないということ。 ここを出よう、と思う。 でも、そう思ったそばから、思考が蕩けていく。 足場がない。一カ所に留まっていられない。 だから僕はたゆたう。果てしなく。何処までも。 与えられた眠りは優しくて心地よくて、 それと同じように目覚めも、まるで深海で留まっていた気泡が水面に浮上するみたいに穏やかだった。 頭を振って、まだ微睡んでいる思考を揺り起こす。 尻尾を振る。自在に動く。 手足を動かす。異常はない。 右耳と左耳を交互に動かす。支障はない。 電気袋から電流を迸らせる。まったくもってノープロブ...
  • @wiki全体から「病み上がりタイチの修行日記その1」で調べる

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