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[[691~670]] 671 ①八尺瓊勾玉の存在 なぜか八尺瓊勾玉だけを聞き取ることが出来なかった。 でも、私の知っている祝詞は三種の神器がすべて揃っていたはずだった。 (幼い私が力を捨ててしまった時のように……勾玉も心の枷になってるという事?) 剣と鏡と勾玉はご神体だった。 私は巫女として祝詞を奉読したり、神楽を舞ったりしていたのだ。 そして、神託を帝に……。 「私は……巫女として…神様の声を…神託を告げる役目だったよ」 声に出して認めた瞬間、ぼやけた映像が鮮明に変わっていった。 まばゆい光に包まれて、意識が吸い込まれる感覚に襲われた。 ――ずっとずっと昔、人々がまだ八百万の神々だけを信じ、祈りを捧げていた時代。 日本がようやく一つの国として成り立ち始めた頃、私は生まれた。 でも、混乱した時代はまだ続いていた。内乱は収まらず、国の存在もまだ強固なものではなかったのだ。 先代の巫女から選ばれ、帝の元で私は託宣の巫女として生きていくことになった。 豪族の娘だった私は故郷を離れ、神殿に幽閉され、日々を泣いて過ごしていた。 まだ子供で、巫女としても未熟だった私には、味方になってくれる者がだれも居なかったからだ。 そんな時、一人の少年と出会ったのだった。 ガタッという物音を聞き、私は身をすくめた。 「こんな遅くに……だれ?」 怖くなった私は女官を呼ぼうとして闇に目をこらす。すると、一人の少年が立っていた。 「君こそだれ? ここはだれも入っちゃいけないはずだよ」 少年は質問を質問で返してくると、私の傍まで歩いて来た。 「……まだ童だね。この神殿にいるっていうことは、君は巫女かな」 闇の中、ジッと探るような視線で見られている事に、沸々と怒りが湧いてくる。 「あのねぇ……あなたもまだ童でしょ。それに、女性の寝所に入ってくるなんて、失礼よ」 「あっ、ごめんっ」 ようやく気付いたとばかりに驚くと、少年は膝を折り、丁寧に頭を下げてから再び口を開いた。 「数々の非礼をお許しください、姫君」 少年はうやうやしく詫びてきた。 その仕草から、この男の子は下賎の者ではない、と思う。 「じゃあ、ここからすぐに出て頂けるかしら」 私は突き放すように少年に向って言った。 「わかったよ。だけど、一つだけ質問していいかな?」 「いいよ。何?」 「君……泣いてたよね。何か辛い事でもあったの?」 辛い事って ①寂しいのかもしれない ②悔しいのかもしれない ③考える 672 ①寂しいのかもしれない 「辛いというより、少し寂しいのかも。だけど……こんな名誉な事は無いって父様も母様も喜んでくれたのよ。 私のような者でも、お仕えさせて頂くことができるんだもの」 大役を任されたからには、精一杯尽くさなくてはいけない。 「君って偉いね。感心しちゃったな」 「そ、そんな事ないよ」 私は恥ずかしくなって、俯いてしまう。 「あのさ、もう一つだけ質問。君の名前……聞いてもいいかな?」 少年は照れたような笑顔を向け、私に尋ねてきた。 人さらいや賊の類ではなさそうだと安心し、私は口を開く。 「私の名前は壱与。壱与って呼んでくれていいわ。あなたのお名前も教えて?」 「君が…出雲の大豪族からの人質……」 「どうしたの??」 「……あぁ! そういえば、君に出て行くように言われてたよね。ごめん、すっかり忘れてたよ」 そう言って少年は立ち上がろうとする。 私はそれを慌てて止めた。 「ま、待って」 「どうしたの?」 「私ね。もう少しだけ、あなたとお話ししていたい……」 「いいの? 泣き声が聞こえてきて迷い込んだだけだし、僕が居たら迷惑じゃない?」 「とっても故郷が懐かしくなっちゃったんだ。お願いだよ、もう少しだけ……」 「わかったよ、壱与。君の故郷の話、たくさん聞かせて?」 「うん。あのね……」 少年は私の語る故郷の話を楽しそうに、興味深く聞いてくれた。 久しぶりの楽しい会話に、心が弾む。 「でね、手習いも沢山あって。難しくって、すごく苦手だったんだよ」 「僕も手習いは嫌いだな。やっぱり僕たちって、似てるね」 二人とも顔を見合わせて笑い合う。 クスクスと声を抑えて、口うるさい大人に見つからない様にするのがとっても楽しい。 「……僕、そろそろ戻らなきゃ」 「そっか、もう遅いもんね。また来てくれるかな……えっと」 まだ名前を聞いていない事を思い出す。 少年は胸元をゴソゴソと探り、首にかけていた翡翠の勾玉を取り出した。 「これは僕の宝物なんだ。次に会う時まで預かってて」 私の手に、深緑の宝石が握られる。 月光を浴びてキラキラと光って、綺麗で、この勾玉は少年みたいだな、と思った。 「じゃあね、壱与。さよなら」 私は少年の背中を見送り、寝床に戻る。 (いい子だったな。でも、名前は教えてくれなかったよね…) 上手くはぐらかされてしまった気がする。 少し残念だったけど、宝物を預けてくれたということはまた会えるということだ。 私は翡翠の勾玉を握り締め、目を閉じた。 ①現在へ戻る ②続きを見る ③考える

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