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871~880」を以下のとおり復元します。
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③春樹を見る

私は確認するように春樹を見た。
ようやく私の視線に気付き、呆れたように口を開く。

「兄さんは信用できる人だ。けど嫌ならハッキリ言った方がいいよ」

(それって、私に任せるって事だよね……)
私は迷った。
もし足を治すなら、私の家で飼いながら獣医さんに連れて行けば済む。
あえてこのお兄さんを頼る必要なんかない。
けど……

「あの、少しだけ……いいですか?」
「何だい、大堂愛菜さん」
「えっと、さっきの二人の会話で一つだけ気になる事があったんです……」

私の言葉を聞いて、お兄さんは首を傾げる。
そして、私に向かって優しく問いかけた。

「一体、何が気になったのかな?」
「私の勘違いだったら謝ります。あの……あなたが自分の母親を悪く言っている気がして……」

さっきの会話で、お兄さんが『半分卑しい血』と言った後に春樹が『兄さんの母親の事?』 と尋ねていた。
私はその時に感じた気持ちを、素直に言葉にしていく。

「事情はよく分からないんですけど、もしそうだったらすごく悲しいなって……
そんな考え方の人にはミケは渡したくないって……そう、思ったんです」

自分自身でも何が言いたいのか、上手く整理ができなかった。
随分ひどい言い方になってしまった気がする。
相応しい言葉を選べなかったかったもどかしさに、思わず目を伏せた。

「愛菜さん、顔をあげて?」

言われるまま、私はゆっくり顔をあげる。
すると、お兄さんは怒るどころか顔を歪ませるように笑っていた。

「姿は変わってしまっても、君は君のままなんだね……」
「えっ?」
「済まない、こちらの話だよ。そうだね、愛菜さんの言う通り……僕は寂しい考え方をしていたね」

お兄さんはフッとため息を漏らした。
そしてまた泣きそうな笑みを私に向ける。

「今の言葉で目が醒めたよ。ありがとう」
「そんな、私は……」
「謙遜することはないよ。僕はとても嬉しかったのだから」
「あの、高村さん。ミケを……」
「??」
「ミケを治してあげてください。お願いします――」

そう言って、私はミケを手渡した。

①お兄さんに話しかける
②春樹に話しかける
③帰る

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③帰る

私達はお兄さんに別れを告げて、家へと急いだ。
別れ際、お兄さんは私と春樹が見えなくなるまで見送ってくれた。

「よかったの? 兄さんにミケを渡して」

家に着いて、今まで黙り込んでいた春樹に話しかけられた。
ようやくリビングのソファーに座ることが出来て、肩の力が抜けていく。

「うん。春樹くんが信用できるって言ってたしね」
「それは言ったけど……でも決めたのは姉さんだろ?」
「……あっ」
「何?」
「ううん。なんでもないよ」

(また姉さんって言ってくれた)

「なんだよ、気になるじゃないか……」

これ以上詮索されても困るし、私は慌てて話題を変えた。

「そ、それより私、お腹が空いちゃった」
「まだ母さんも帰ってきてないから……しょうがない、僕が作るよ」
「いいの?」
「ミケのご飯を物欲しそうに見ていただろ? すぐ作るからそのまま座っててよ」
「うん!」

三十分ほどして、食卓には立派な夕食が並んでいた。
春樹の手際のよさに、感心してしまった。

「このから揚げ、表面はサクッとしてるのに中はすごく柔らかいよ!」
「鳥もも肉にフォークで穴を開けておくと、下味も入りやすいし火の通りが早くなるから、柔らかくなるんだよ」
「へぇ……すごいね。あっ、このポテトサラダも美味しい」
「聞いてないし……」
「そんなこと無いよ。わっ、この中にチーズが入ってたよ」
「全く、仕方ないなぁ」

一々感動しながら食べている私を春樹は苦笑しながら見ていた。
私もようやくその視線に気付いて、また何か嫌味を言われないかと身構える。

「……また意地悪を言うつもりだったんでしょ」
「ううん、別に。ただミケみたいだなって思っただけだよ」
「むっ、それってミケみたいに焦って食べてるってこと?」
「違うよ。美味しそうに食べるなーってね。やっぱり一人で食べるより何倍も美味しく感じるなと思ったんだ」
「……そうだね」

私も一人で食事をする事が多かったから、その気持ちはよく分かった。
隆のうちでご馳走になったり、父と食べる事もあったけど毎回という訳にはいかなかった。
きっと春樹も同じだったに違いない。

私は……
①春樹に話しかける
②黙々と食べる
③様子を見る

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③様子を見る

私は春樹の様子を伺う。
すると、いつものやり場のない怒りは抜けて、とても穏やかな表情をしていた。

「ねぇ、姉さん」
「どうしたの? 春樹くん」
「明日、義父さんと話をしてみるよ」
「ええっ!?」
「……そんなに驚くことないじゃないか。あれからちょうど一週間なんだし」
「そ、そうだよね……」

聞く耳すら持たなかった春樹が、なぜだろうと思った。
ミケを見つける前まで、私や父を拒んでいたのは確かだ。
あの数時間で、春樹にどんな心境の変化があったのかは分からない。
親しいお兄さんに言われたからなのか。
それとも単なる気まぐれなのか。
春樹がどう思っているかなんて、どれだけ考えても私には理解できない。

「でも、よかった。春樹くんがそう思ってくれて」
「春樹でいいよ。一応、姉なんだから」
「えっ、だけど……」
「せめて名前の呼び方くらい姉っぽくしてくれなきゃ。らしくないんだし」
「う……」
(否定できない)

「さぁ、早く食べないと冷めてしまうよ」
「うん!」

意識が浮上していくのが分かる。
ああ、また夢を見ていたんだな、とようやく気付いた。
思い出している内に、寝てしまっていたようだ。

(私、すっかり忘れていたんだ……)

夢は忘れた記憶を呼び覚ますというけれど、今回はそんな感じだった。
五年前に私が経験したことばかりだったからだ。
目の前が白み始め、私はゆっくり目を開けていく。

そこに居たのは……

①春樹
②周防さん
③隆
④修二くん
⑤チハル

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