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③修二君に話しかける

「あの、あのね修二くん!」

私は何か言わなくちゃいけない気がして声を掛けた。
大きな声で呼ばれた修二くんは、困った顔のままで向き直る。

「あのね修二くん! 私にとっては修二くんも同じだよ。別の誰かが修二くんの代わりなんか出来ない!」
「愛菜ちゃん?」
「修二くんは修二くんだから。一郎くんとも冬馬先輩とも違う。
さっきは怖いことされたからつい大嫌いって言ったけど、意地悪だって思ったけど、
それでもやっぱり私の大切な友達だもん!」

まくしたてる様な早口になる。
強引にキスしたりした事は許せないけど、かといって嫌いになれない。

「だからね、修二くんの代わりは誰にも出来ない。逆に一郎くんの……」
「二度振るだけじゃ足りず、わざわざ友達宣言まで。愛菜ちゃんは手厳しいなぁ」

私の言葉に被せるように、修二くんは言った。
苦笑を漏らし、壁に頭を預けている。

「わ、私はそういう意味で言ったんじゃなくて……」
「言わなくてもいいよ。愛菜ちゃんもようやく気付いたんでしょ?俺が兄貴のコピーだって事にさ」

私は何も言えずに黙り込む。
どんな言葉を掛けていいのか分からない。

「俺は俺。兄貴は兄貴。そう言いたいんだよね」

私は黙ったまま頷く。
これだけはどうしても伝えて、分かってもらいたかった。

「ずっと前から薄々気付いていたよ。だからこそ、俺は兄貴とは別の方法を選びたかったんだ。
運命に従う窮屈な生き方より自由を選びたかったし、支えていくより一緒に並んでいたかった。
だから兄貴には黙っているように言われていたけど、愛菜ちゃんに力の話をしたんだからね」

修二くんは壁に預けた頭をあげて、私を見る。

「けど愛菜ちゃんはそのせいで色々大変だったみたいだね。やっぱり迷惑だった?」

悪びれたり悔いる様子でも無く、修二くんは淡々とした口調で尋ねてきた。

①迷惑だった
②迷惑じゃない
③何も言わない

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②迷惑じゃない 

(最初はすごく途惑ったけど……)

水野先生と隆のキスから、日常の歯車が狂い出した気がする。
修二くんに言われて初めて力の存在を知り、予知夢もその一つだと分かった。
冬馬先輩や周防さん、色々な人と出会ったり不思議な夢を沢山見た。

もし知らないままだったら、私は何も出来なかったはずだ。
意味も分からず状況に巻き込まれ、組織の道具として利用されていたかもしれない。

修二くんが本当のことを言ってくれたから、今、私はここに居る。

「迷惑じゃなかったよ」
「本当に?」

修二くんは確認するように言った。
私は大きく頷いて、壁に体を預けたままの修二くんを見る。

「修二くんが力の存在を教えてくれたから、私が私で居られたんだよ。
だからね、ちっとも迷惑じゃなかったよ」

修二くんに対して、不信感が全くなくなった訳じゃない。
けど、ちゃんと話してくれたことにはとても感謝している。
だから私は、修二くんに胸を張って笑顔で答える。

「むしろすごく感謝しているんだ。言ってくれてありがとう」

私の顔を見て、修二くんは顔を歪ませて笑うと静かに目を伏せる。
壁に体を預けた修二くんの横顔が数秒間止まっていた。
そして、目を開き私を見た。

「修二くん?」
「なに、愛菜ちゃん」
「どうして目を閉じていたの?」
「目に焼き付けてた」
「何を?」
「好きで好きでたまらなかった女の子の笑顔、かな」

そう言うと、修二くんはパチンと指を鳴らした。
すると、階段をすごい勢いで上ってくる複数の足音が聞こえた。
その足音を聞いて始めて、この空間以外が無音だったと気付く。

すごい勢いで、ドアが開いた。

部屋に入ってきたのは……
①春樹
②隆
③チハル

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①春樹

「姉さん!」

まず入ってきたのは春樹だった。
次に隆、続いてチハルが顔を見せる。

「春樹……隆にチハルも……」
「姉さん、大丈夫だった?」

春樹は駆け寄り、私に声を掛けた。
「うん……私は平気」
「よかった。とりあえず無事ならいいんだ」

一方、乱暴に部屋に入ってきた隆は何かを探すように部屋の中を見渡している。
そして壁際にいる修二くんを見つけ、急に怒鳴り出した。

「おい、宗像弟! お前、どういうつもりだ!」
「騒がしいなぁ。俺が何したっていうんだよ」

隆の剣幕とは対照的に、修二くんはうざったそうに隆に尋ね返している。
そんな態度に、隆は更に語気を強めて言う。

「よくも俺達を締め出しておいてっ……!」

今にも掴みかかりそうな勢いの隆を、春樹が腕をつかんで止めた。
「待ってください、隆さん」
「離せ、春樹!」
「少し俺に任せてもらえませんか」

真剣な春樹を見て、隆は少し冷静になったようだ。
「分かった」と言って頷くと、隆はチハルの手を掴んで一歩下がった。
隆に任された春樹は一歩前に出て、口を開いた。

「修二先輩、教えてください。わざわざ俺達が入れないよう結界まで張って何をしていたんですか」
「何って、契約する以外に無いと思うけど」
「少しの間二人きりにして欲しいと言われたから、俺達はこの部屋から出て行ったんです。
あれから四十分以上も経ってる。少しの間と言うには長すぎると思いますが」

やっぱり、この部屋は修二くんの結界に覆われていたようだ。
三人は修二くんに締め出され、その後入ることが出来なかったかもしれない。

「俺にとって四十分は少しなんだよ。一々目くじら立てるほどの事でもないじゃん?」
「契約するなら、俺達の前だって出来るはずです。
それなのに締め出すような真似をするから、俺達は腹を立てているんじゃないですか」
「契約させに呼んでおいて、公開契約までしろって方がよっぽと図々しいと思うけどね」
「だから俺達は契約してもらう為に部屋から出て行ったんです。
でも契約を済ませるにも四十分は長すぎます。一郎先輩の契約の時、ものの数秒でした」
「うるさいなー。色々あったんだよ」
「色々って……それじゃ俺の尋ねた答えになってない。ちゃんと答えてください」

「ねぇ、隆。愛菜ちゃんとシュウジはまだケイヤクをしていないみたいだよ」

春樹と修二くんの会話を聞いていたチハルが、隆の制服の裾を掴みながら言った。

「は? じゃあ、なんで愛菜が動けてるんだよ」
「わかんない。だけど、愛菜ちゃんが少しヘンだよ」
「それは愛菜ちゃんの体に鬼が現れたから動けているんだよ。もうタイムリミットみたいだけどね」

隆とチハルの会話に、春樹と話していたはずの修二くんが言葉を挟む。

(タイムリミット?)

そう考えた時、急に腕が重くなってくる。
そして、そのまま私の体がバランスを崩すようにベッドから落ちそうになった。

私は……
①ベッドから落ちた
②誰かに支えられた
③なんとか自分で支えた

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②誰かに支えられた

「危ない!」

そう言って私を抱きかかえたのは春樹だった。

「春樹……あ、ありがと」
「姉さん、やっぱり無理してたんだね」

私を抱きかかえたまま、怒った顔で春樹が覗き込んでくる。
怖い顔の春樹に、私は慌てて首を横に振って言い訳をする。

「違うよ。本当にさっきまで平気だったんだから」
「またそう言って……」
「嘘じゃないよ。私の中の鬼が出てきたら、急に体が動くようになったんだから」

私は修二くんに同意を求めるように視線を移す。
修二くんは壁にもたれたままの姿勢で「そうだね」とそっけなく言った。

「鬼? 愛菜の中の鬼ってどういう事だ」

話が見えないのか、眉をひそめて隆が誰とも無く問いかけてきた。
手を握られたままのチハルがそれに答える。

「あのね。愛菜ちゃんはもうほとんどオニになっちゃってるんだよ」
「なんだそりゃ……」

眉をひそめ、にわかには信じられないという隆の態度だった。
私はそんな隆に向って、声を掛ける。

「今朝の夢、隆も憶えてるでしょ。その時に光輝が感じていた鬼の気配。
それは私そのものなんだよ」
「今朝の夢って……なんで愛菜が俺の夢を知ってるんだよ……」
「それが私の鬼の力だから」

(確か守屋さんは夜見の力と言っていたっけ)

「だからさっきから色々あったって言ってんのにさ」

壁際の修二くんが春樹に一瞥してから顔を上げた。

「鬼が現れたせいで愛菜ちゃんの中に陰の気に満ちて、一時的に動けてただけ。
それももう時間切れみたいだけどね」
「さっき修二先輩が言っていたタイムリミットって……」
「そ。もうほとんど見えないから、すぐに愛菜ちゃんは会話も出来なくなるだろうね」

修二くんとは他にも色々あったし、たくさん話し合った。
強引にキスされた事に対して、まだ謝ってくれない修二くんには言いたい事もある。
けど、それをすべて二人に話してもこの場が混乱するだけかもしれない。
そんな事を考えていたら、頭の上から声が聞こえきた。

「あの、修二先輩」
「なぁに、弟くん」
「もう一度改めてお願いします。姉に……姉さんに契約をしてください」

真剣な熱意のこもった声だった。
そんな春樹に対して、修二くんは首だけを動かして反応する。

「そのつもりで結界を解いたんだし、別にいいけどさ……。
いつまでも愛菜ちゃんとくっついてるのがマジでムカつくんだよねぇ」

(……!?)

修二くんの言葉で、ずっと春樹に抱きしめられていた事に気付く。

私は……
①逃げようとした
②恥ずかしくなった
③びっくりした

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③叫んだ

「「……あっ!」」

私と春樹は同時に声を上げた。

「あの…姉さん…ごめん……」

なぜか謝りながら、春樹はベッドに私を寝かせてくれた。

「う、ううん。私こそごめんね……」

私もぎこちない返事をする事しか出来なかった。
(今まで通りにしていればいいだけなのに、上手くいかないよ)

そんな私達を見ていた隆が、仕方なそうに大きなため息をつく。

「愛菜を元に戻さないことには始まるものも始まらないか」
「ねぇねぇ、なにがはじまるの?」
「チハルには早い話だよ」

そうチハルに言うと、今度は修二くんに顔を向ける。

「宗像弟。契約って言ってるけど、どういうものか知ってるのかよ」
「もちろん」
「で、どうやるんだ? そういやさっき春樹はすぐ終わるものだって言ってたな」
「神器が巫女に誓いの宣言して、キスするだけだよ」
「キ、キスかよ……」
「それに俺ですべての神器が揃うわけだから、きっと何か起きるはずだよ」
「何か起きる? 何かって宗像弟にもわかんないのか?」
「詳しい事まで知らない。兄貴と違って記憶もないし」
「そんな適当なのでいいのかよ」
「別に。どうなるか分かんないくらいの方が面白いじゃん」

隆と修二くんの会話を聞いていた春樹が、下を向いて考えているのに気付いた。
その顔はどこか浮かないものだった。

「春樹?」
「あっ、姉さん……」
「どうしたの? そんな顔して」
「姉さん。兄さんが神器を揃えていた目的って憶えてる?」

えっと……
①鬼が治めていた国の再興のため
②壱与を復活させる事
③忘れた

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①鬼が治めていた国の再興のため

「たしか、鬼の国を復活させたかったんだよね」

(『永きに渡る高村の悲願、国の再興を果たす』そう秋人さんは言ってた)

「うん。だから兄さんは勾玉を探してたんだ」

結局、勾玉は香織ちゃんですごくびっくりした。
ちゃっかり私の勾玉に関する封印まで施していたなんて、さすが香織ちゃんだ。

「今はすべての神器が揃っているって事は……」
「もし修二先輩と契約したら、兄さん……いや、高村一族が昔からずっと求めていた状況と同じになるんだ」
「鬼の巫女が神器をすべて揃え終えるって事だね」

春樹は私の言葉を聞いて、ゆっくりと頷く。

「愛菜も春樹もちょっと待てって!」

突然、私と春樹の話に隆が割り込んでくる。

「神器や神宝の存在は分かる。だが愛菜まで鬼になったって……一体なんなんだ!?」
「神器は鬼の封印を解くカギでもあったんです」
「でも御門ってヤツが契約した時、愛菜の能力はほとんど無かったじゃないか」
「物分りが悪いなぁ、湯野宮は。愛菜ちゃんはね、子供の頃に自ら力を封印していたのさ。つまり二重の封印が成されていたんだよ」
「だけど俺には……今も愛菜は愛菜にしか見えない。 鬼だなんて俺には思えない」

どうしても納得いかない口ぶりで隆は訴えた。
隆と私が同じ夢を見ただけでは、当然納得できないだろう。
そんな隆を見て、修二くんが呆れたように鼻を鳴らした。

「そう思っているのはもう湯野宮くらいでしょ」
「どういう事だ」
「俺の目で見ても、神宝の弟くんや精霊が感じている気配も、そして愛菜ちゃん自身が一番自覚している事さ」

修二くんがいうように、私自身にもはっきり自覚できた。
ただ今は神宝の器となってしまったことで、上手く力が出せないだけだ。

「隆、私だって認めたくないよ」
「愛菜……」
「こんなの私には過ぎた力だもん」

(身の丈以上の力だと思う。けど……)

「けどね、よく考えてみたらいい事だってあるんだよ。
守られてるばっかりだから辛いって……大声で泣かなくてもいいもんね」

そう言って私は……
①隆に向って微笑む
②力を示す
③おどける

復元してよろしいですか?