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①引き止める

この人が私にとって困った不審者であることには変わりない。
しつこいし、訳の分らない事ばかり問い詰めてくるし、本当に迷惑だ。
だけど冷静になって考えると、怪我をしている人をこのままに放って置くわけにもいかない。

「待って!」

私はめげることなく、不審者の男の子の腕を掴んで引き止める。
ようやく不審者の男の子は歩みを止めてくれた。

「…………」
「ちょっと待って。すぐに手当てしなくちゃ」
「手当て……?」
「そうだよ。ほら、手にも顔にも怪我してるんだから」

私は男の子の手を掴んで、痛々しい患部を見せる。
ぼんやりと他人事のように、男の子はその傷ついた拳を見ていた。

「痛いでしょ? 家で手当てしてあげるよ」
「…………」
「さっき寝られなかったって言ってたよね。何か悩みでもあるの?」
「…………………」
「それに理由はわからないけど、ずっと私の事を姉さんって言ってるよね」
「…………………」
「あなたのお姉さんと私って、そんなに似てるの?」

不審者の男の子は何も言わない。
それとも初対面の私には言えない理由でもあるのだろうか。
傷ついた拳を一点に見つめる男の子の姿は、視線を合わせることすら拒んでいるようにも見えた。

「そのお姉さんと私が似ているなら、何かの縁なのかもしれない。悩みくらいなら聞いてあげるよ?」
「…………」
「言えば気持ちが楽になるかもしれないし、私にも手伝えることがあるかもしれないでしょ?」
「姉さん……」

男の子はようやく私を見てくれた。
私は心の中で胸をなでおろすと、男の子を肩で支えた。

「ほら、また私の事『姉さん』って言ってる」
「……ごめん」
「もう姉さんでも、姉御でも好きに呼んでいいよ。私は大堂愛菜。あなたの名前を教えて?」
「俺の名前は……春樹……」
「春樹くんだね。ねぇお母さん、一緒に肩を貸してあげて」

携帯電話を持ったまま黙って私達の様子を見ていたお母さんに、私は話しかける。
お母さんは覗き込むように不審者の男の子を見て、安心したように微笑む。

「もう救急車を呼ばなくても平気かしら?」
「はい。面倒をお掛けしてすみません……」

恐縮しながら春樹と名乗った男の子は、お母さんに頭を下げていた。

私は……
①春樹くんと話をする
②客間に寝てもらう
③お母さんと話をする

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②客間に寝てもらう

私と同じくらいの年齢とはいえ、体は大人と変わりない。
まだ足元の危うい男の子を肩で支えながら、なんとかお母さんと二人で客間へと運んだ。

春樹と名乗った男の子の顔色がまだ良くないように感じる。
私は布団を敷いて、寝るように促した。
男の子も立っていられないのか、私の言葉に大人しく従ってくれた。

「春樹くん、上着はここに置いておくからね」
「……………」

男の子は布団の中で、私が上着をたたむ様子を見ている。
すると、お母さんが立ち上がって私達に声を掛けた。

「じゃあ私は飲み物でも用意しましょうか。愛菜のお友達は何がお好みなの?」

お母さんはこの男の子のことを、まだ私の友達だと思っているようだ。
成り行き上、初対面の子を家に入れる事になった訳だし、いまさら不審者かもしれないとは言いづらい。
とりあえずお母さんも家に居るし、この様子じゃ私でも勝てそうだから、このまま成り行きに任せることにした。

「私はミルクティーがいいな。春樹くんは何がいい?」
「……………」
「私と一緒でいい?」
「……………はい」
「そう。じゃあ愛菜と一緒にするわね」

お母さんはそう言って、キッチンへと歩いていった。
私は用意した救急箱から消毒液と脱脂綿を取り出す。

「本当にびっくりしたんだから。もう自分を傷つけたりしたらダメだからね」
「……………痛っ」
「ごめんね、ちょっとしみるかもしれないよ」

私は慣れない手つきでガーゼを当て、包帯を巻いていく。
手の甲に巻かれていく不恰好な包帯を男の子は黙って見ていた。

「よし、手は終わり。次は顔の擦り傷だね」
「……あの」

ここに運んでからろくに話をしなかった春樹くんが突然話しかけてきた。
私は首をかしげて、次の言葉を待つ。

「……あの、さっきは取り乱してごめん」
「ううん。気にしてないよ」
「それと、姉さんの母親が生きてて、本当によかったね」
「……??」
「亡くなったと聞かされていたから、すごく驚いたけど……姉さんも幸せそうだし、俺も嬉しいよ」

また訳の分らない事を春樹くんは言い出した。
きっと私とそっくりのお姉さんと勘違いしているのかもしれない。

「私のお母さんはずっと元気一杯だよ?」
「優しそうな人だし、姉さんとよく似てる」
「うん。そっくりだってみんなに言われるかな」
「姉さんが……長い間生きていると信じていたから、その願いが叶ったのかもしれないね」

春樹と名乗った男の子は、親しみを込めた優しい笑顔を私に向けてくる。

私は……
①姉さんという人についてきく
②寝るように言う
③素性を尋ねる

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①姉さんという人についてきく

この春樹という男の子にとって、この『姉さん』は特別な存在なのかもしれない。
こんなにも必死になっているのだから、きっと大切な人なのだろう。
今は、私をその『姉さん』だと間違えているだけだ。
その人の話を聞けば、何か手がかりがあるかもしれない。

「ねぇ、春樹くん。その『姉さん』って人は春樹くんとどんな関係なの?」
「それは姉さんが一番良く知っているはずだよ」
「私が知るはずないじゃない。春樹くんに会うのだって、初めてなのに……」
「姉さん、本気で言っているの?」

春樹くんは悲しそうな顔をして、私に問いかける。
そんな顔をされてしまったら、あなたの方が変だとは言えなくなってしまう。
困っている私に気づいたのか、春樹くんは一つため息をついた。

「ごめん、頭がオカシイのは俺の方だったよ」
「お、おかしい事は無いと思うよ。話していても、割と普通だし」
「割とか……」
「ち、違うよ。それなりに正常だと思うよ」
「姉さんが気を使わなくても、自覚はあるんだ。きっと、俺は過誤記憶症候群なんだと思う」
「カゴキオクショウコウグン?」

私は耳慣れない言葉に、オウム返しで問いかける。

「誤った記憶を持ってしまうことだよ。俺も記憶と現状があまりにもかけ離れていているんだ。
だから家を飛び出して、姉さんに会いに来た。だけど、やっぱりオカシイのは俺だったみたいだね」
「よく分らないけど……春樹くんの記憶が間違いを起こしているって事?」
「多分、ね。だって記憶の中では、俺の名前は大堂春樹なんだから」
「大堂って、私の苗字じゃない!」
「そうだよ。……けど、現状では違うんだ。これを見て」

手の平ほどの大きさの手帳を手渡される。
よく見ると、春樹くんの生徒手帳だった。
一年A組 高村春樹と書いてある。

「春樹くんは一つ年下だったんだね。わっ、すごい!」
「どうしたの?」
「これ、名門高校じゃない。春樹くんって、頭いいしお金持ちなんだ」

思わず私は羨望のまなざしで、春樹くんを見てしまう。
そんな私を見て、春樹くんは首を横に振って口を開いた。

「そんな目で見られても、この高校に通った記憶は無いよ。ただ付属の初等部なら、五年生まで通った記憶はあるけどね」

まるで他人の物のように、春樹くんは自分の生徒手帳を見ていた。

私は……
①姉さんという人について詳しく
②寝るように言う
③記憶の違いをきく

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