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931~940 - (2009/04/02 (木) 10:56:32) の編集履歴(バックアップ)



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③香織ちゃんに今日の通し稽古の状況を聞いてみる

(そうだ。今日の通し稽古の状況はどうだったんだろう)

私は自室に戻ると、携帯電話を手に取った。
急な用事でもないし、メールの文字を素早く打っていく。

『今日は最後の稽古に参加できなくてゴメンね。
ところで、通し稽古はきちんと時間内に終われたんだよね?』

「送信っと。そうだ……今のうちにお風呂はいってこよう」

ゆっくりめのお風呂に入って、パジャマに着替える。
自室の戻って携帯を確認すると、香織ちゃんから返信が来ていた。

『落ち込んでだみたいだけど復活したみたいだね。(よかったよかった)
最後の通し稽古だけど、無事に時間内に収めることができたみたい。
私って緊張しない性質だと思っていたけど、今更になって主役の重圧感じてきたかも。
明日私がポカやらかして落ち込んでたら、今度はアンタが慰めてよ?』

(そっか。さすがの香織ちゃんも緊張するんだね)

『もし香織ちゃんが失敗したら、私の胸を好きなだけ貸してあげるよ。
それじゃ明日、学校でね』

香織ちゃんに返事のメールをして携帯を閉じる。
壁の時計を確認すると、いつの間にか10時をまわっていた。

(少し早いけど寝ようかなって……アレ?)

部屋の電気を消そうと何気なく伸ばした右手に、いつもと違う異変を見つける。
伸ばした指先が薄っすらと透けているように見えたのだ。

(何…これ?)

目をこすってみたけど、やっぱり向こう側の様子が見えるくらい透けている。
第一関節の人差し指と中指、薬指が、まるで霞んだ様に消えかかっていた。
左手を見ても、同じように消えかかっている。

私は……
①きっと疲れているだけだし気にしない
②春樹くんに連絡してみる
③隆に連絡してみる

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①きっと疲れているだけだし気にしない

「疲れすぎてるのかな……早く寝よう」
電気を切って布団に入ると、昼間も寝たのにストンと落ちていくように眠りに落ちた。


「……っ、撫子の君!」
どこかで呼ばれているのを感じて、目を開けると何かの木の横に立っていた。
当りは真っ暗だが少しはなれた所では火が焚かれていて、たくさんの人の気配がする。

「撫子の君!」
その明かりを背にして人が近づいてくる。
逆光で顔は見えないが、こんなふうに呼ぶのは一人しか居ない。

「守屋さん?」
「撫子の君、急に走って行ったかとおもったら、目の前で消えてしまったから、また会えなくなるかと……」
守屋さんの言葉に、舞を舞って、舞台から逃げ出した直後なのだと分かった。
追いかけてきた武士の中に守屋さんも混じっていたのだろう。

「ごめんなさい……やっぱり人前は苦手で」
「いや、それはいいんだ。……それにしても、素晴らしい舞だった」
「そうですか……?」
私が舞うのは初めてだし、自分で舞を見られるわけでもないので自分で自分の舞を評価する事は出来ない。

「ああ、素晴らしかった。皆も見入っていた」
「ありがとうございます」
「ところで……」
「はい?」
「舞の最中に君の頭上に現れたあれは……もしかして」
私の反応をうかがうように、守屋さんは言葉を切った。

「たぶん、守屋さんの考えている通りのものだと思います」
「やはり……だが、なぜ君が?」
「何でって言われると……、私がそうしたかったから、です」
私の願いのために。と、心の中でつぶやいて、ちょっと笑う。

「でも、思った以上に大変でした……見てください」
「これは……!?」
私は手を守屋さんへ向ける。指先が透けて向こう側が見えている。

「きっと、鬼の私は消えるんだと思います。 鏡を元通りにしたから」
「どういうことだ?」
「鏡が壊れて力が消え、他の人と契約が出来なくなってしまって、神器の契約はずっと壱与の魂に刻まれていたんです。「鬼の姫であった壱与」との契約」
「それが……?」
「だから、私は転生しても鬼のままだった。他の鬼たちは人に転生しているのに」
全ての神器と再度契約を交わして、私は悟った。

「その神器が元に戻った。壱与は次の巫女を選び、その巫女は神器と契約を結ぶ。そうなれば、壱与に……私に刻まれていた契約は消えるんです」
「だから君も消えると言うのか!?」
「そうです。だって、私は未来に居るはずのない鬼ですから。だから鬼の私は、消えます」
うすうすは分かっていた事だ。
もしかしたら、という可能性も考えたが、こうやって消えていこうとしている指先を見ると、それは期待出来ないということなのだろう。

「君はそれで良いのか? 消えてしまっても良いと言うのか!?」
守屋さんが私の肩を掴んで揺さぶる。

それは……
①「良いんです」
②「……良くはないです」
③「まだ、少しは時間がありますから……」

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②「……良くはないです」

(本当は消えたくない。薄々わかっていたけど……やっぱり怖いよ)

喉がつっかえて、ほとんど声にならなかった。
守屋さんの真っ直ぐな視線から逃げるように目をそらす。
そんな私の姿を見て、守屋さんの掴む力がさらに強くなった。

「なぜ望まないことをするんだ! なぜそんな辛そうな顔をする!」
「私の望む未来を見せるって……ある人と約束したからです」

修二くんと契約の時に約束を交わした。
綺麗事にしか聞こえない、私の望む未来を見せて欲しいと言われたんだ。

「君が犠牲になることを、その人物が望んでいるとでも言うのか!」
「多分……約束した人は……私が消えることを望んでいないと思います」
「ではなぜ!?」 

修二くんは私が消えることなんて望んでいないだろう。
修二くんは修二くんのやり方で、私をいつも心配してくれていた。
私の知っている修二くんならやっぱり止めるだろう。

(だけど……)
「私が望む未来がその先にあるから……です」
「君が望む未来?」
「はい。だから未来を私の手で変えなくちゃいけないんです。そのためには仕方の無い事なんです」

私の言葉を聞いて守屋さんは黙り込む。
そして何か感づいたのか、目を見開いて叫んだ。

「まさか!? 撫子の君が消えた先に、その望む未来があるのか!?
だから君自身が犠牲になると、そういうことなのか!」

顔を上げ、守屋さんの目を見ながら私は静かに頷く。
鏡を元通りにした先、力の無い世界こそが私の望む未来の姿だ。
守屋さんは決意の固い私の姿を見て、掴んでいた手を力なく落とした。

「じゃあ、逆に聞こう。君の元いた世は……変えなくてはならないほど酷いものだったのか?」

(酷い……)

私は自問自答する。
守屋さんの言うとおり、変えなくてはならないほど酷い世界だったのか。
力に翻弄される人、利用され苦しむ人が大勢いた。
お母さんが失踪して、香織ちゃんと友達になって、新しい家族が増えた。
春樹のご飯を食べ、隆と冗談を言い合い、一郎くんと委員会に取り組み、修二くんの軽口をあしらう……そんな日常があった。
騒動に巻き込まれて、周防さんや美波さん、チハルに出会った。
そんな私を取り巻いてきたすべてを否定しなくてはならないほど、元の世界は酷かったんだろうか。

私は……
①それでも変えなくちゃいけない
②やっぱり消えたくない
③望む未来に修二くんと冬馬先輩が居ないことを思い出す

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③望む未来に修二くんと冬馬先輩が居ないことを思い出す

目覚めた私はこの夢を覚えていることは出来ないけれど、ここに居る私はどちらも覚えている。
組織の手によって作られた修二くんと冬馬先輩は、この先の未来では消えていた。
けれどそれは悪いことではないはずだ。
冬馬先輩だってちゃんと言っていた。違う形で会うことがあるかもしれないと。
それなら私だって大堂愛菜ではなく、ちゃんと人として転生して別の形に生まれ変わるのだ。

「酷いかと聞かれたら、そんなことはないって答えます」
「ならば……!」
「でも、約束した人はこうも言ったんです。ほしい物はほしいって言ったほうが良い、私は少しわがままなくらいが良いんだって。
 これは私のわがままなんです」
修二くんや冬馬先輩が消えてしまったとしても、その魂は別の形で転生していると信じる。
消える事には恐怖を覚えるけれど、生まれ変わること自体はどちらかと言うと楽しみでもある。
それに生まれ変わった後の私は、この恐怖を覚えては居ないだろう。
恐怖を覚えるのは今だけ、だ。
転生論を否定している守屋さんには、納得出来ないことだろうけれど…。

「私は消えます。でも、別の私が生まれるんです。
 鬼じゃない私、人の私です。私が一番ほしいのは、人である私です」
力のない世界で、鬼ではなく人として。
たとえ、今の大堂愛菜が消えてしまっても。別の名前になったとしても。

「そんなに鬼である事が嫌なのか?」
「嫌って言うわけではないですけど……でも、人の世界に立った一人だけの鬼なんて、寂しいですよ?」
「ならば、私が鬼の国を再建しよう。君が寂しがらないように」
「だめです!」
「何故だ!」
永きに渡る高村の悲願、国の再興を果たす、と言った秋人さんの言葉を思い出す。

(まさか……、まさか未来を変えようとしても結局は同じ結果になるの?
 で、でも今回は神器はちゃんと元に戻ったし、私が転生しても鬼じゃない。
 転生を繰り返す私を使って鬼の血を残すことは出来ないはず……。
 それに、修二くんと冬馬先輩はあの世界にはいなかったんだから……)
考えて、きっと再建は出来ないだろうと予想する。
けれど、気になる事もある。私は守屋さんの腰にある剣を見る。
封印を剣で破られたら、もしかしたら……。

①なんとか口で説得する
②剣を奪う
③好きにさせる