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[[冬馬741~750]] 「じゃあそこのベッド借りるか。愛菜ちゃんそこに横になってみようか」 「はい」 言われるまま、ベッドに仰向けに寝る。 周防さんは私の額にそっと手を置いた。 (このマクラ冬馬先輩の匂い。ダメだ、ギュッとされたの思い出す。これから退行催眠だから緊張しちゃいけない。平常心平常心) 私は必死で自分に言い聞かせる。 「えっと、なんだ……あいつはトウヘンボクのオタンコナスだから。とっとと忘れるのが一番かもな」 周防さんが私だけに耳打ちした。 私も周防さんにだけ聞こえる様に話す。 「それって冬馬先輩のことですか?」 「ついでにデクノボウの大バカだ」 口は悪いけど、周防さんなりの励ま方なのかもしれない。 さっき冬馬先輩の心を読んですべて把握したのだから、振られたのだって知ってるはずだ。 「私の心、やっぱり見えますよね」 「まぁな……」 「そうですよね」 恥ずかしくて消えたくなる。 だけどここでやめてしまうと勾玉の手掛かりが途絶えてしまう。 それだけは絶対に困る。 「愛菜ちゃんはいい子だから、これからもたくさん良い恋愛ができるさ」 「そうだといいけど……」 「ああ。俺が保証する」 「でも……まだ他の人は無理かもしれないです」 「だろうな」 「それなら今のこの気持ちを大事にします」 「愛菜ちゃん」 「いいんです。一方通行でも」 「本当にそれで平気なのかい?」 「分かりません。追いかけてヘトヘトに疲れた時、また考えます」 私が言葉にしなくても全部お見通しなのだろう。 嘘をついたって体裁を取り繕ったって周防さんにはきっと無意味。 周防さんの瞳がそう教えてくれる。 「周防さんから見て、私の心ってどう見えるんですか?」 「そうだなぁ」 しばらく考えてポツリと呟く。 「カルガモの雛って感じだな。無垢でまだヨチヨチ歩きだ」 カルガモの親子がお引越しなんてニュースで見かけたことがある。 親ガモについて一列になってちょこちょこと懸命ついて行く様子を思い出す。 「かわいいですね。ちょっと嬉しいかも」 「あくまでイメージだけどな」 さっきまで緊張していたのに、周防さんと話している内に大分落ち着いてきた。 話しかけてくれたのもそんな意図があったのかもしれない。 「周防……愛菜の帰宅時間もあるから急いで」 冬馬先輩が周防さんに声を掛けた。 「アイツ機嫌悪いな。きっと俺たちが内緒話してるのが気に入らないんだ」 「……そうなんですか」 「独占欲かもな。本人が無自覚なのがタチが悪い」 「私に大好きな周防さんをとられて怒ってるのかな」 「むしろ逆じゃないか?」 「逆?」 「アイツ、恋愛も人との繋がりも今時の小学生以下の経験値だからな。余計話がややこしくなるのさ」 (経験値…そんな事言ったら私だって) こんなにはっきりと誰かを好きだと自覚した事なんて無かった。 冬馬先輩に抱いた、相手を好きだって強い想いは初めてだ。 「周防」 また冬馬が声を掛ける。 確かに口調が不機嫌できつい気もする。 「せかすなよ。愛菜ちゃんを落ち着かせていただけだって」 「今から10年前の夏頃を境に愛菜の能力が消失した。それが手掛かり」 「了解」 「私はどうすれば……」 「眠るだけでいい。さあ愛菜ちゃん、今から時間旅行だ。自分が6歳の頃を思い浮かべて。そのままゆっくりまぶたが重くなるよ」 周防さんの穏やかな声が心地いい。 「身体もだんだん重くなる。でも苦しいわけじゃないから」 だんだん周防さんの言葉が遠ざかっていく。 「上手だ。俺に任せておけばいい。愛菜ちゃんなら必ず勾玉を見つけられる」 周防さんに言われるとなぜかうまくいく気がする。 「もし万一邪魔が入ったら自分の目的をしっかり思い出すんだ」 身体がズブズブと沈んでいく感覚。 でも嫌な気分じゃない。 「勾玉を見つけたら名前を忘れない事。戻ってくる時に置いてか……ように……」 もうほとんど周防さんの言葉を理解できなくなっている。 そう思っている内に、プツリと明るい場所から切り離され、私はゆっくり落ちていった。 次へ[[冬馬761~770]]
[[冬馬741~750]] 「じゃあそこのベッド借りるか。愛菜ちゃんそこに横になってみようか」 「はい」 言われるまま、ベッドに仰向けに寝る。 周防さんは私の額にそっと手を置いた。 (このマクラ冬馬先輩の匂い。ダメだ、ギュッとされたの思い出す。これから退行催眠だから緊張しちゃいけない。平常心平常心) 私は必死で自分に言い聞かせる。 「えっと、なんだ……あいつはトウヘンボクのオタンコナスだから。とっとと忘れるのが一番かもな」 周防さんが私だけに耳打ちした。 私も周防さんにだけ聞こえる様に話す。 「それって冬馬先輩のことですか?」 「ついでにデクノボウの大バカだ」 口は悪いけど、周防さんなりの励ま方なのかもしれない。 さっき冬馬先輩の心を読んですべて把握したのだから、振られたのだって知ってるはずだ。 「私の心、やっぱり見えますよね」 「まぁな……」 「そうですよね」 恥ずかしくて消えたくなる。 だけどここでやめてしまうと勾玉の手掛かりが途絶えてしまう。 それだけは絶対に困る。 「愛菜ちゃんはいい子だから、これからもたくさん良い恋愛ができるさ」 「そうだといいけど……」 「ああ。俺が保証する」 「でも……まだ他の人は無理かもしれないです」 「だろうな」 「それなら今のこの気持ちを大事にします」 「愛菜ちゃん」 「いいんです。一方通行でも」 「本当にそれで平気なのかい?」 「分かりません。追いかけてヘトヘトに疲れた時、また考えます」 私が言葉にしなくても全部お見通しなのだろう。 嘘をついたって体裁を取り繕ったって周防さんにはきっと無意味。 周防さんの瞳がそう教えてくれる。 「周防さんから見て、私の心ってどう見えるんですか?」 「そうだなぁ」 しばらく考えてポツリと呟く。 「カルガモの雛って感じだな。無垢でまだヨチヨチ歩きだ」 カルガモの親子がお引越しなんてニュースで見かけたことがある。 親ガモについて一列になってちょこちょこと懸命ついて行く様子を思い出す。 「かわいいですね。ちょっと嬉しいかも」 「あくまでイメージだけどな」 さっきまで緊張していたのに、周防さんと話している内に大分落ち着いてきた。 話しかけてくれたのもそんな意図があったのかもしれない。 「周防……愛菜の帰宅時間もあるから急いで」 冬馬先輩が周防さんに声を掛けた。 「アイツ機嫌悪いな。きっと俺たちが内緒話してるのが気に入らないんだ」 「……そうなんですか」 「独占欲かもな。本人が無自覚なのがタチが悪い」 「私に大好きな周防さんをとられて怒ってるのかな」 「むしろ逆じゃないか?」 「逆?」 「アイツ、恋愛も人との繋がりも今時の小学生以下の経験値だからな。余計話がややこしくなるのさ」 (経験値…そんな事言ったら私だって) こんなにはっきりと誰かを好きだと自覚した事なんて無かった。 冬馬先輩に抱いた、相手を好きだって強い想いは初めてだ。 「周防」 また冬馬先輩が声を掛ける。 確かに口調が不機嫌できつい気もする。 「せかすなよ。愛菜ちゃんを落ち着かせていただけだって」 「今から10年前の夏頃を境に愛菜の能力が消失した。それが手掛かり」 「了解」 「私はどうすれば……」 「眠るだけでいい。さあ愛菜ちゃん、今から時間旅行だ。自分が6歳の頃を思い浮かべて。そのままゆっくりまぶたが重くなるよ」 周防さんの穏やかな声が心地いい。 「身体もだんだん重くなる。でも苦しいわけじゃないから」 だんだん周防さんの言葉が遠ざかっていく。 「上手だ。俺に任せておけばいい。愛菜ちゃんなら必ず勾玉を見つけられる」 周防さんに言われるとなぜかうまくいく気がする。 「もし万一邪魔が入ったら自分の目的をしっかり思い出すんだ」 身体がズブズブと沈んでいく感覚。 でも嫌な気分じゃない。 「勾玉を見つけたら名前を忘れない事。戻ってくる時に置いてか……ように……」 もうほとんど周防さんの言葉を理解できなくなっている。 そう思っている内に、プツリと明るい場所から切り離され、私はゆっくり落ちていった。 次へ[[冬馬761~770]]

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