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 [[冬馬761~770]]
 
 「ちょっと人が多すぎるわね。こっち来て」
 
 小さな私と隆は、先を行く女の子に黙ってついていく。
 
 「ここにあらかじめ結界を張っておいたの」
 「ケッカイ?」
 「秘密基地みたいなものよ。さ、入って」
 
 公園の一角、木々が茂った死角がある。
 そこは木漏れ日が芝生に影を落としていた。
 
 「……その、あなたは私の味方なんだよね」
 「そうよ」
 「こんな所に連れてきて、私と隆くんをどうするの?」
 
 小さな私はオドオドと隆に隠れながら言った。
 
 「お前、まさか愛菜ちゃんをいじめるんじゃないだろうな」
 「違うわよ」
 「もしかしてあのドロドロの仲間か」
 「まさか」
 「じゃあ、大人に言われたのか」
 「細かい事はいいでしょ。それより私、ランドセル買ってもらったの。一体何色だと思う?」
 
 女の子は突然質問を投げかけてくる。
 
 「あなた、私と同じ年なの? 次は一年生?」
 
 小さな私はすごく親近感を覚えたようだ。
 無理もない。
 話し方からいけば、もっと年上だと想像していたんだろう。
 
 「そうよ。買ってもらったのは先週。さぁ、色を当ててみて」
 「うーん。水色かな……」
 「オレは紫だと思うぜ」
 「二人ともハズレ。正解は赤でした」
 
 いつの間には三人はランドセルの話で打ち溶け合っている。
 
 (この女の子。警戒心を解くためにわざと共通の話題を振ったんだ)
 
 まるで大人のような会話術。
 やっぱり普通の子供ではない。
 
 「へぇ。愛菜はピンクにしたんだ、きっと似合うわね」
 「えへへ、ありがとう」
 「オレは紺なんだ。カッコイイだろ」
 「別に……普通」
 
 (なんだか……隆に冷たい。この感じ。誰かに似てる……)
 
 ちびっ子三人は木陰に座り込んでいた。
 いつの間にか別の話題を話し始めている。
 
 「私はね。少しだけ未来が見えるときがあるんだ」
 「そう……さっきはなんだか良くない雰囲気だったけど、それが原因?」
 「うん」
 
 小さな私はコクンとうなずく。
 すると隆がイライラしながら口を挟む。
 
 「愛菜ちゃんはもっと隠せよ。黒い塊も未来も大人には気持ち悪い事なんだろうからさ」
 「そうなのかな」
 「何度も言ってるだろ」
 「でも……」
 「愛菜ちゃんの馬鹿」
 「ごめん……」
 
 小さな私は隆に謝ったまま、言葉に詰まってしまった。
 すると、女の子が私の手をしっかりにぎる。
 
 「愛菜は良くない未来を変えたくて、つい口出ししてしまうのね」
 「うん」
 「とっても優しいのね。私はすばらしい事だと思うわよ」
 
 私は自分の行いが肯定されたのが嬉しかったのか顔を歪める。
 そしてしくしくと泣き出してしまった。
 
 「愛菜ちゃんってホント泣き虫」
 
 隆は突き放すように言う。
 
 「そうだよ……ね。すぐに…泣き止むよ」
 
 小さな私は腕で目をこする。
 なんとか涙を乾かそうとゴシゴシと何度も往復させる。
 
 「泣いた友達にどう向き合えばいいか分からないからって……攻撃するなんて本当に子供なのね」
 「なっ……」
 「当たってるんでしょ」
 「う、うるさいっ」
 
 図星を指されたのか、小さな隆はそっぽを向いてしまう。
 
 「まぁ大体分かったわ。もう無くしてしまいましょうか、その力」
 「そんな事できるの?」
 「封じ込める……平たく言えば、出ないように蓋をするだけだけれど私なら出来るわ」
 「本当に?」
 「もちろん。この私にドンと任せなさい」
 
 女の子は胸を張り、拳で心臓を叩いてみせる。
 この癖を見て、私の疑心が確信に変わる。
 
 一方、女の子は小さな私に向かって正面を向き、真剣に問いかけていた。
 
 「愛菜は封印……力に蓋をすることを望む?」
 
 小さな私はしばらく考えて「うん」と頷いた。
 
 「わかったわ」
 
 そういうと、女の子は私の手を取ったまま立ち上がらせる。
 そして芝生の中央に立つように指示した。
 
 「ここでいい?」
 「ばっちりオッケーよ」
 
 女の子は深呼吸する。
 と、横で見ていた隆が口を挟んだ。
 
 「お前、蓋するって本当に大丈夫なのか?」
 「黙ってて気が散るから」
 「……わかったよ」
 「あと、ここでの記憶は愛菜も隆も全部消すから、よろしくね」
 「……何でだよ」
 「身元がバレたくないだけよ。さぁ、どいたどいた」
 
 隆は一歩下がって黙って様子を見守っている。
 
 すると女の子は指を器用に動かして、次々と印を結んでいく。
 そして印を結び終わると、手のひらで地面に触った。
 突然、私を中心に青白い円陣がフワっと浮き上がった。
 
 「我は望む。彼の者の力を封印せしめ給え!」
 
 (まずい……もう私の姿が消えかかってる……)
 
 手を見ると、透けて地面が見えている。
 一刻の猶予も無い。
 
 「香織ちゃん!」
 
 思わず大声で叫んでいた。
-すると不思議な女子は振り向き、キョロキョロと辺りを見回す。
+すると不思議な女の子は振り向き、キョロキョロと辺りを見回す。
 
 (よかった。そういう事だったんだ)
 
 また一つ、胸のつかえが取れた気がする。
 私は眼を閉じ、浮遊感に身を任せた。
 
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