選択肢を選んで1000レス目でED @ ウィキ内検索 / 「冬馬831~840」で検索した結果

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  • 冬馬831~840
    冬馬821~830 学校では普段通り、慌ただしく授業が始まって、終わっていく。 気がつけば、昼食の時間になっていた。 教室の一角、香織ちゃんと向かい合わせの席でご飯を食べだした。 「今日は一緒に食べられてよかったよ。最近愛菜忙しそうだったし」 「ちょっと色々立て込んでだからね」 「またコンビニおにぎり?」 「うん……お弁当作ってくれてたの春樹だからね」 「風邪だっけ。早く良くなるといいわね」 「そうだね」 (本当は出て行ったって、伝えた方がいいのかな) 「香織ちゃん、実はね……」 「ん? どうしたの?」 「実は春樹ね、風邪じゃなくて家出してるんだ」 「えっ! あの優等生が!?」 香織ちゃんは驚きのあまり、プチトマトを箸から落としてしまっていた。 「香織ちゃん、声大きいよ」 「ゴメンゴメン。へぇ、またどうしてそんな事に...
  • 冬馬821~830
    ...た。 次へ冬馬831~840
  • 冬馬841~850
    冬馬831~840 「一郎くん、ちょっと時間取れる?」 放課後、机の片付けをしている一郎くんに声をかける。 「大堂、またお前か」  溜め息まじりの、あからさまに嫌な顔をされる。 「なにその態度、愛菜にひどい事を言ったただじゃおかないわよ」 冷たい態度の一郎くんに、香織ちゃんが横から怒った。 「長谷川、これから大堂と話がある。席を外してもらおう」 「嫌よ。委員長の指図なんて受けないわ」 「あのね、一郎くん。香織ちゃんは部外者じゃないんだよ。だから一緒に居てもいいよね」 「長谷川が?」 一郎くんは目の前の香織ちゃんを見据える。 「訳ありのようだな。いいだろう、ついて来い」 先に歩き出した一郎くんに、私達はついていく事にした。 (ここは空き教室か)  「少し埃っぽいが我慢してくれ」 ...
  • 冬馬811~820
    冬馬801~810 (おなかすいた) 眼球だけうごかして周りをみる。 (よるだ。何かたべたい) とにかくおなかぺこぺこだった。 いつものつめたい箱の中にたべものがあるはず。 深い海の底のようなとても静かなよる。 わたしはおよぐように階段をおりる。 つめたい箱の扉を開けるとまぶしくて目がくらんだ。 あかりは嫌い。 目がつぶれてしまいそう。 まぶたを閉じて、匂いでたべものをさがす。 (きょうはすくない) 愛菜のははおやがかえってこなかったから食べるものがほとんどない。 それでもあるだけぜんぶ食べる。 (ぜんぜんたりない) いちばんのごちそうの匂い。 でもあれをたべたくないと私はいう。 たべたいわたしとたべたくない私。 どっちもどっちでせめぎあってる。 眩しいおひるは私の時間。 暗いよるはわたし...
  • 冬馬851~860
    冬馬841~850 「これで全員揃ったのかしら」 香織ちゃんが全員を見まわしながら言った。 「「「「「…………」」」」」 空き教室になんともいえない沈黙が降りる。 「あのね、みんな。それぞれ抱えた事情や複雑な感情はあるかもしれない。だけど今はそういうの抜きにしてこれからの事を考えて欲しいんだ」 半人前だけど巫女としてみんなをまとめなくちゃいけない。 まず私から全員に伝える。 「ねぇ、愛菜ちゃん。まず君が一番何かしたいか教えてよ。これからの事を考えるなら、そこ超重要だし」 そう言うと、修二くんは教室の後ろにある木でできた背面ロッカーにひょいと座る。 「修二、そこは椅子じゃないぞ」 「いいじゃん。それより愛菜ちゃん、教えてよ」 (私のしたい事……) 「まずは弟の春樹に家に戻って欲しいかな。心配なんだ、...
  • 831~840
    821~830 831 ①「もう鬼にこだわる必要なんてない気がします」 「私はこだわっているのだろうか」 「とてもこだわっている様に見えます」 時々、心がひとつのことに囚われすぎて、周りが見えなくなってしまうことがある。 たとえば、家の中だけで何日も過ごしていると、その箱庭がすべてのように感じてしまう。 けれど私の家も、遠くから見渡せば街明かりの一つに過ぎない。 守屋さんも復讐に囚われすぎていて、光輝のことなんてまるで気にも留めていない。 兵士の人達にだって家族や恋人や友達だっているはずなのに。 複雑な事情がありそうだし同情はするけれど、それ以上に段々腹が立ってきた。 (身勝手ですごくムカツク……) 喉がカラカラに渇いて、私はまた葡萄のジュースを飲み干した。 今日は熱帯夜なのか、身体がすごく熱い。 空になった器を手で弄びながら、守屋...
  • 冬馬861~870
    冬馬851~860。 「これで私は人でなくなったの?」 全員と契約を済ます。 両手の甲と手のひらにあざが浮かび上がっている。 私の身体に四つの証が刻まれたていた。 「馴染むのに時間がかかる。すぐ大堂の身体に変化が現れる訳じゃない」 「そうなんだ」 「それに大堂は能力を使い慣れていない。強い力を手に入れたというだけで、相応に使いこなすには訓練も必要だろう」 「今は神宝より先に神託の巫女になれた事が大切だから。後は利用されないようにしなくちゃね」 不思議な感覚だ。 何が変わったと言われれば答えられないけど、私の中心の部分が懐かしいと訴えている。 「愛菜ちゃんは契約しても愛菜ちゃんのままだったね。ホント、よかった」 「そうよね。今回ばかりは剣に感謝しなくちゃ」 冬馬先輩が私の身体に棲む鬼に交渉してくれたおかげだ。 「ありがと...
  • 冬馬801~810
    冬馬791~800 お風呂から上がり、部屋着に着替えて水を飲む。 すると居間のソファーに冬馬先輩が座っていた。 昨日のTシャツを用意しておいたから、先にお風呂に入っている先輩も用意した服に着替えていた。 「先輩、客間に布団を敷いておいたからね」 「ありがとうございます」 「少し時間がはやいね。まだ寝ない?」 「はい」 「私もまだ眠くないかも。少しお話ししてもいいかな」 「僕も愛菜と話したいです」 「よかった。何か飲み物持ってこようか?」 「大丈夫です」 「そっか。私も今はいいかな」 私は冬馬先輩と少し距離を置いて隣りに腰掛ける。 「私……今日ずっと考えてたんだ」 「何をですか?」 「私の能力って以前教えてもらったけど、強く願えば未来を思うように実現できるんだよね」 「封印を解けば可能だと言われています」 「冬馬先輩の時みたいに、...
  • 冬馬871~880
    冬馬861〜870 家の鍵を開けると、キッチンからお義母さんが顔を出した。 「愛ちゃん、御門くんおかえりなさい」 「ただいまー」 「ただいま戻りました」 私達は家の中に入る。 「長く一人暮らしなので、ただいまと帰ってくるのは久しぶりです。良いものですね、出迎えてくれる人がいるのは」 冬馬先輩が廊下に立ち止まってポツリともらす。 安心したような、照れるような横顔があった。 (シェアハウスの件、ちゃんと考えてみようかな) 冬馬先輩が嬉しい事、楽しい事を惜しんでちゃいけない。 あっさり振られたって、好きな内は追いかけると決めたんだ。 「しばらくご厄介になります」 キッチンに行って、冬馬先輩はお義母さんに丁寧な挨拶している。 「水道が使えないなんて生活が大変だもの。直るまでうちに居て頂戴ね」 「ありがとうござ...
  • 冬馬881~890
    冬馬871〜880 朝食を済ませた後、私は悩んでいた。 (服、どれがいいかな) 冬馬先輩と出掛けることになっている。 せっかくだしかわいい服が着たい。 (でも気合い入ってると思われちゃうかな) 部屋にはクローゼットから出した私服が並ぶ。 色々組み合わせてみたけど、しっくりこない。 悩んで結局、シンプルなワンピースを選んだ。 「愛ちゃん、お出かけ?」 出社前のお義母さんに尋ねられる。 「今日から文化祭前で自由登校だから出かけようと思って」 「かわいい服。もしかして今日はデート?」 「ち、違うよ。午後から冬馬先輩がアパート探しするみたいだから物件探しを手伝おうかなー、と思って」 「午後からなのにもう着替えてるのね。デート、楽しみで仕方ないのかしら」 「ち、違うって言ってるのに」 慌てる私が面白かったのかお義母...
  • 冬馬791~800
    冬馬781~790 『悪天候のため飛行機が欠航で今日は帰れなくなりました。愛ちゃん、よろしくお願いします』 お義母さんからのメールに気付いたのは家の前だった。 「お義母さん、今日帰ってこられないって連絡来てたよ」 「そうですか」 「あの……」 「何でしょうか」 「あのね、あの……」 (少しでも先輩と一緒に居たい) この先、どれだけ時間を共有できるか分からない。 もしかしたら、春樹が無事に戻って来たら姿を消してしまうかもしれない。 私のそばに居てくれたとしてもたった5年しか無い。 どちらにしろ、あまりに短過ぎる。 (離れたくないな) 「えっと……」 「……」 「その……」 (でも振られてるし、言い出すのが難しいよ) 「もしかして、心細いですか?」 先輩が尋ねてくる。 私は「うん」と首を大きく...
  • ストーリーを読む 4ページ目
    751番台~1000番 501番台~750番台 751~760 761~770 771~780 781~790 791~800 801~810 811~820 821~830 831~840 841~850 851~860 861~870 871~880 881~890 891~900 901~910 911~920 921~930 931~940 941~950 951~960 961~970 971~980 981~990 991~1000
  • 冬馬891~900
    冬馬881~890 夕食も済んで、私の部屋に冬馬先輩を誘った。 一緒に暮らす話を、まだお義母さんには内緒にしておきたかったからだった。 小さな折りたたみの机に不動産屋さんでもらった物件のコピーを並べてみる。 「花沢さん、とっても親身になってくれたね」 「少しも良くないです。今度会ったらキツく言っておきます」 「いいよ。私は気にしてないし」 冬馬先輩に案内されたのは駅前の昔からありそうな『花沢不動産』だった。 気の良さそうな恰幅のいいおじさんが出迎えてくれた。 冬馬先輩に対して、その人はすごく丁寧な話し方をした。 「神器って、すごいんだね。それだけで待遇が良いんだもん。家賃が要らないって言われた時にはびっくりしたよ」 「僕は愛菜が口を滑らさないか、ずっとハラハラしていました」 「私が巫女である事は黙っておくようにって言われた時は、なんで...
  • 冬馬931~940
    冬馬921~930 研究所の入り口前で私達は立ち止まる。 ガラスの自動ドアの横にはセキュリティ用のカードリーダーが設置されている。 ロビーの照明がほとんど落とされていて、中はかなり暗い。 非常口の緑の明かりがぼんやりと光っていた。 建物は古いけれど、まだ利用されている形跡はあちこちにある。 「大きい結界……」 私が軟禁されていたのと全く同じ結界が建物全体に張られている。 やはり私は半年近くこの研究所内に囚われていたのだろう。 「その結界に触んないほうがいいよ。愛菜ちゃん」 「修二くん……」 「この結界、愛菜ちゃんだけ屋内に入れるよう細工されてる。おまけに入ったら出られない。 それでも一人で乗り込んでみる?」 「遠慮しとくよ」 「てか外部からの直接攻撃はほぼ効かなそう。気が遮断されてるから中に入っても霊気の加護も受けられない。 それにして...
  • 冬馬731~740
    冬馬721~730 冬馬先輩の筋トレ講座も一息ついて、私はテーブルで少しずつ水を飲んでいた。 時計の秒針が聞こえそうなほど静かに時間が過ぎる。 (そうだ。冬馬先輩に聞こうとしていたことがあったんだ) 「冬馬先輩」 テーブルの対面に座っていた先輩に声を掛ける。 「どうしました?」 「あの……聞きにくいんだけど……修二くんって本当にクローンなの?」 昼休みには聞けなかったけど、ずっと気になっていた。 でもクローンという言葉自体は以前聞いた事がある。 数日前、隆の中に眠るもう一つの人格と少しだけ話した。 その子は隆が事故で大怪我したときに隆の一部になったと言っていた。 そして僕は隆のクローンだったと話してくれた。 「そうです。彼はクローンです」 「でも……どうやって……」 「この町には一つしか産婦人科の病院がありませ...
  • 冬馬631~640
    冬馬621~630 校門に入り、私は冬馬先輩と向き合う。 「少しはしゃいじゃったかな。先輩も私も肩がぬれちゃったね」 「はい」 「先輩の下駄箱はあっちだよね」 私は三年の下駄箱のある入り口に視線を向ける。 この学校はそれぞれの学年ごとに下駄箱のある入り口が違っている。 「愛菜、傘をありがとうございました」 冬馬先輩は大荷物を左手にまとめると傘をさす。 「やっぱり荷物半分持つよ」 「いいえ、大丈夫です」 「だけど」 「あと少しですので平気です」 冬馬先輩はやっぱり私に荷物を持たせてはくれなかった。 (もうっ) 「じゃあ私、教室にタオルがあるから取ってくるよ。冬馬先輩も濡れてるし拭かなくちゃ」 「わかりました」 「先輩は荷物を持って先に戻っていてください」 「はい」 私は冬馬先輩と別れてぬかるんだ...
  • 841~850
    831~840 841 ①闇についてきく (ねぇ、チハル。周防さんに闇について教えてくださいって言ってくれないかな) (スオウがね、ヤミのはなしはちょっとまってくれっていったよ) (え……なんで?) (春樹のココロにヤミがないかしらべるって) (春樹に闇……? そう周防さんがチハルの心の中に直接言ったの?) (うん。てれぱしーでおはなししたよ) (そうなんだ。何かあるのかな……) 私は仕方なく、ベッドの上から二人の様子を見守ることにした。 「なぁ、そういえば……」 「なんでしょうか?」 「春樹は……従兄である俺のことは知ってるよな?」 いきなりの話題を振ってきた周防さんに対して、春樹は首をかしげた。 それでも律儀にちゃんと質問に答える。 「もちろんです。お葬儀に出た記憶がありますから」 「葬式……。一応、昔に会ってるんだ...
  • 431~440
    421~430 431 ①修二君を追いかける 軽くなった体で部屋の扉を開けると、廊下にはすでに誰もいなかった。 「修二君……」 (どうして胸の締め付けられるような微笑み方をしたの?) 口説き文句か軽口で冗談と本気の区別がつかない修二君が、あんな顔するなんて思いもしなかった。 私が今まで思っていた修二君とはあまりにかけ離れていた。 (私……修二君を誤解していた?) 軽薄でたくさんの女の子のファーストキスを奪っても何も思わないような人だと決め付けていた。 だから私がファーストキスだって事も、言い出せなかった。 もちろん驚いて何も言えなかったのもある。 でも、それだけじゃない。 恋愛に疎いと思われるのが恥ずかしかったし、逆に『ラッキー』と幸運がられるのも悲くなるだけだからだ。 だけど、あの微笑はもっと複雑で優しさに満ちていた。...
  • 冬馬781~790
    冬馬771~780 身体全体がゆっくり光に向かって登っていく。 と、途中、グッと誰かに足を引っ張られる。 足首に目を向けると人の形をした黒い霧が私の足を両手でつかんでいた。 二つの穴が目のようにぽっかり開いている。 黒い霧はしばらく動かず、空洞の目で私を静かに見続けた。 (な、何これ………) 「ワレヲ……」 「!?」 「ワレヲ……コノバカラ……解放……」 「………!」 「フウイン……解ク……」 かすかに女の人のような声が聞こえる。 しゃがれ声で聞き取りにくいけど、確か誰かがしゃべっている。 とても息苦しそうに呻いているから、こっちまで胸の辺りが苦しくなってくる。 「……あ、あの」 「アカメノウ…マガタマヲ……」 いつのまにか私の手には緋色の勾玉が握られていた。 「これはあなたの?」 黒い...
  • 冬馬741~750
    冬馬731~740 「悪い。少し遅れちまった」 玄関扉を開けた冬馬先輩の横を通って、周防さんが部屋に入ってくる。 「周防さん。こんにちは」 顔を合わせて、開口一番あいさつをする。 こんにちはとこんばんはの間くらいの時間になっている。 一瞬迷って、こんにちはを選んだ。 「愛菜ちゃん待たせちゃってごめんな。時間も無いしさっそく始めるかな」 (始める?) 「あの……周防さんが私に用があったんですよね」 「違うって。愛菜ちゃんから頼まれたって冬馬が言ってたぞ」 頭の中に?が飛び交う。 私、周防さんに何か頼み事なんてしていただろうか。 「冬馬。まさか愛菜ちゃんに説明せずに連れてきたんじゃないだろうな」 冬馬先輩の横に座った周防さんがジロッと睨む。 「あの、私に説明って何でしょうか」 意味が分から...
  • ストーリーを読む 1ページ目
    ストーリーを読む 共通・トゥルールート 1番台~250番台 1~20 21~30 31~40 41~50 51~60 61~70 71~80 81~90 91~100 101~110 111~120 121~130 131~140 141~150 151~160 161~170 170~180 181~190 191~200 201~210 211~220 221~230 231~240 241~250 251番台~500番台へ
  • 821~830
    811~820 821 ③守屋さんと話をする 宴の準備を黙って見ていた守屋さんの横顔を、そっと覗き込む。 血を浴び、戦場で敵の命を絶っていた人と同一人物とは思えなかった。 「私、守屋さんってもっと怖い人かと思ってました」 「そうなのか?」 「この陣の雰囲気と一緒で、見た目に騙されてたのかもしれません」 「君には、この陣はどう映ったのかな」 「気のせいかもしれませんけど、守屋さんも兵士の人も……少しだけ楽しそうに見えちゃうんですよね」 守屋さんがすごく怖い人なら、この陣の中がもっと殺伐としているはずだ。 顔をあわせる兵士はみんなは守屋さんに敬意を払っている。 怪我人を診ている時にも、強い絆みたいなものを感じていた事だった。 「楽しそうか。確かに、ここの者達は私についてくる変人ばかりだからな」 「変人ですか?」 「ああ。過酷だった東国...
  • 冬馬921~930
    冬馬911~920 「あれが春樹くんのいる研究所ね」 「うん。そうだよ」 車窓から香織ちゃんが指さした研究所は山間に隠れるように建てられた3階建のビルだった。 小雨の降る夜のせいで霞の中に唐突にくり抜かれた四角い影の様に見える。 夜目がきく私には外観までよくわかる。蔦が絡まったすすけた外壁が研究所というよりも山の一部になった廃屋のようにも見えた。 最初に見たときは小さくて意外に思ったけど、今回は二回目のせいでやっとここまで来たという気持ちしかない。 美波さんが車を止めて私達に振り向く。 「車はここまでしか進めません。これからは徒歩で向かって下さい」 「あの、美波さんはどうしますか?」 (美波さんは私と同じ治癒だから戦闘向きの能力じゃないよね) 「私が行っても足手まといになるので、結界の張られたこの車に残ります。もし怪我をしたらここに戻っ...
  • 冬馬941~950
    冬馬931~940 『冬馬先輩』 私はホールに入ってすぐ、手を握って冬馬先輩に心の中で声を掛けた。 どれだけ離れていたとしても、心の一部が繋がっているおかげで私達は声に出さなくても会話ができる。 それでも先輩の手を離したくなくて、ギュッと握った。 『どうかしましたか』 頭に直接、先輩の声が響いた。 冬馬先輩は私の手を握り返し、歩みを止める。 ただの気のせいならいい。 でも胸の中にある不安がなかなか消えない。 『ごめん。少し不安になっただけ』 『大丈夫です』 冬馬先輩は子供をあやすように、私の頭を撫でる。 (先輩はやっぱり優しい。でも……) 半年前、私は数え切れないほどの敵の山とうめき声を聞いた。 それはおそらく冬馬先輩がやったこと。 多くの爪あとしか見ていないけど、その残酷な強さを知るには十分だった。 きっと...
  • 881~890
    871~880 881 ②(壱与なの?) 問いかけても答えは返って来なかった。 (壱与! 壱与ならちゃんと答えて) 独り言を考えているみたいに、一方通行の呼びかけにしかならない。 混乱したまま、状況だけでも確認しようと意識を向ける。 部屋の壁に押し付けられたままの修二くんが、息苦しそうに声を出した。 「笑うな……」 「ふふふっ。鏡よ、まるでお主は玩具を手に入れたがっている子供じゃ」 「どういう意味だ」 「言葉のままじゃ。この者を強引に手に入れたところで、玩具のように壊れてしまうだけだというのにな」 「黙れ。アンタに人の心が分かるのかよ……」 「自惚れるなよ、鏡。お主こそ人ではなくただの道具ではないか」 『道具』という言葉を聞いて、修二くんが息を止める。 さっきまで抵抗していた修二くんの両腕が、だらりと垂れた。 「道具...
  • 冬馬721~730
    冬馬711~720 冬馬先輩の後ろを黙って歩く。 会話の糸口を見つけたいのに、どう話せばいいか分からない。 駅前を抜け、築5.6年ほどの単身向けアパートの前で止まった。 「ここの二階に住んでいます。こちらです」 冬馬先輩はいつも通りの淡々とした口調で言った。 気まずいとか話しづらいという風でもない。 それはそれで気が楽だけど、私はその程度にしか思われていなかったのだと改めて凹んでしまう。 でも今は春樹を助けるため、出来る限りの事をしていくしかない。 「どうぞ」 冬馬先輩は鍵を開け、私を中に入れる。 「おじゃまします」 「まだ周防は来ていません。しばらく待っていてください」 玄関を入るとすぐワンルームがあった。 その奥がお風呂とトイレ。 第一印象は寂しい殺風景な部屋。 シングルのパイプベッドと勉強用の小さな平机。 ...
  • 冬馬901~910
    冬馬891~900 すべて上手くいっている。 あの時はそう思っていた。 規格外の能力を持つ雨の日の冬馬先輩に敵はいないはずだった。 なのに…… (冬馬先輩……) もう涙も枯れ果てた。 最後に冬馬先輩を見た時、虫の息だった。 それからが思い出せない。 亡骸に縋り付いた所で私の記憶が完全に途絶えてしまっている。 ガタッと音がして、外界との唯一の接点である小さな扉からトレーに乗せられた食事が出てくる。 「これで3回目」 日の光を取り入れる窓がないせいで、昼か夜かもわからない。 定期的に出てくる食事の3回目に印をつける。 これが毎日の日課になっていた。 (もう正って字を何度書いただろう) 20畳ほどの部屋に閉じ込められて、ノートには正が30個溜まった。 日々の日数を数えるのも、少し気持ちが落ち着いてから始めた事だ。 ...
  • 931~940
    921~930 931 ③香織ちゃんに今日の通し稽古の状況を聞いてみる (そうだ。今日の通し稽古の状況はどうだったんだろう) 私は自室に戻ると、携帯電話を手に取った。 急な用事でもないし、メールの文字を素早く打っていく。 『今日は最後の稽古に参加できなくてゴメンね。 ところで、通し稽古はきちんと時間内に終われたんだよね?』 「送信っと。そうだ……今のうちにお風呂はいってこよう」 ゆっくりめのお風呂に入って、パジャマに着替える。 自室の戻って携帯を確認すると、香織ちゃんから返信が来ていた。 『落ち込んでだみたいだけど復活したみたいだね。(よかったよかった) 最後の通し稽古だけど、無事に時間内に収めることができたみたい。 私って緊張しない性質だと思っていたけど、今更になって主役の重圧感じてきたかも。 明日私がポカやらかして落...
  • 冬馬641~650
    冬馬631~640 「ここが私の部屋だよ」 私は扉を開け、先に中に入る。 「失礼します」 冬馬先輩は続いて入ってきた。 「子供の頃からのぬいぐるみとかあるし、あんまり綺麗じゃないけどね」 くたびれたぬいぐるみがチェストの上に何体か置いてある。 もちろん隆からもらったチハルもいる。 みんな子供の頃から可愛がっていたから、手放すのもかわいそうで今も捨てられずいるものだ。 「いいえ、愛菜らしい部屋だと思います」 「……私らしいって?」 「よく整頓されています。新しいものに限らず古いものでも大切に使っている」 「そうかな」 「はい」 私が寝起きする最もプライベートな場所。 その場所を褒められると私自分が褒められているように感じる。 「あっ、先輩を立たせたままだったね」 「いえ、僕は平気です」 「駄目だよ。えっ...
  • 811~820
    801~810 811 ③誰かが入ってきた 「愛菜、さっきはわるかったな……チハル?」 入ってきたのは隆だった。 隆は薄くなったチハルを見ると、怒った顔になり私とチハルを引き剥がす。 「チハル、何をしてる?」 「愛菜ちゃんがね、おなかがすいて弱っちゃうから、ボクを食べてもらうの」 どこまでも無邪気に、チハルが笑う。 けれど、その身体が小さな子供の姿に変わってしまった。最初に会ったときより更に幼い、5歳くらいの男の子。 「愛菜がお前を食べるって、食べたいって言ったのか?」 「ちがうよ?」 「お前が勝手にやったんだな?」 「うん」 「ばかやろう!」 隆の怒号が響いた。家全体を震わせるくらいに大きな声だった。 「お前が愛菜を悲しませてどうする! 俺はコイツを悲しませるためにお前を動けるようにしたわけじゃないんだぞ!!」 「隆さん、一...
  • 871~880
    861~870 871 ③春樹を見る 私は確認するように春樹を見た。 ようやく私の視線に気付き、呆れたように口を開く。 「兄さんは信用できる人だ。けど嫌ならハッキリ言った方がいいよ」 (それって、私に任せるって事だよね……) 私は迷った。 もし足を治すなら、私の家で飼いながら獣医さんに連れて行けば済む。 あえてこのお兄さんを頼る必要なんかない。 けど…… 「あの、少しだけ……いいですか?」 「何だい、大堂愛菜さん」 「えっと、さっきの二人の会話で一つだけ気になる事があったんです……」 私の言葉を聞いて、お兄さんは首を傾げる。 そして、私に向かって優しく問いかけた。 「一体、何が気になったのかな?」 「私の勘違いだったら謝ります。あの……あなたが自分の母親を悪く言っている気がして……」 さっきの会話で、お兄さ...
  • 531~540
    521~530 531 ②「お、重い」 一回り大きい修二くんの身体が上にあって身動きが出来ない。 「し、修二くん、早くどいて」 「ったた…、うわ、愛菜ちゃんごめん、すぐ退くから!」 ガコンと音を立てて、修二くんは持ったままの蓋を床に置くとあわてて立ち上がる。 「大丈夫?愛菜ちゃん?」 「う、うん。なんとか」 修二くんが差し出してくれた手を取って、立ち上がる。 制服に付いたほこりを叩きながら足元を見ると、取れてしまった蓋が置かれている。 重そうな蓋は蝶番を止める部分が錆びて弱くなっていたのか、壊れてしまったようだ。 「壊れちゃったね、どうする?」 「まあ、仕方ないよ。かなり重いし、ただ置いておくだけで大丈夫じゃない?」 軽くいいながら、修二くんは蓋の取れた床を覗き込む。 「うーん、暗くて奥が見えないな…」 「ほんとだ…」 ...
  • 731~740
    721~730 731 ③様子をみる 「だけど……秋人さんはとても強いよ。春樹の力では勝てない……」 「力では圧倒的に負けてるのは分かってる。けど、兄さんに持っていないものを俺達は持ってるんだ。 だから、大丈夫だよ」 春樹の目に、失望の色は無い。 (春樹を信じよう) 「もう一度言う。壱与の器を渡してもらおうか」 「できません」 「それは……私に逆らうということだな」 秋人さんの言葉には、静かな怒りが含まれていた。 「兄さんに従うつもりはありません」 「馬鹿な弟を持ったものだ。お前の力で私に勝てると思っているのか」 「多分、勝てないと思います。けど、負けるつもりもありません」 春樹は一歩踏み出し、私の前に立った。 「祖父や父、そして兄さんがしようとしている事も全部知りました。多くの人たちを不幸にさせ、命を弄...
  • 31~40
    21~30 31 →隆ってカワイイ 少し前までは、ただの幼馴染だったのに いつの間にか私の中で隆はこんなに大きな存在になっていたんだ。 「…何、笑ってるんだよ?」 隆は真っ赤な顔でそっぽを向いている。 私がクスクス笑うと、隆は私にデコピンをした。 しばらく、いろいろな話をしていて 隆は急に黙り込んでしまった。 「・・・・・・なぁ、これから俺のウチに来ないか?今、誰もいないしさ。 ほ、ほら、冷えてきたしっ、なっ?」 私は… 1・普段通り、遊びに行く 2・「幼馴染」から「恋人」になったので少し迷いつつも、隆を信じて行く 3・春樹が家でご飯を作ってくれてる事を思い出し、断る 4・意識してしまい、話を無理やりそらす 32 3・春樹が家でご飯を作ってくれてる事を思い出し、断る ...
  • 冬馬711~720
    冬馬701~710 「落ち着きましたか?」 ずっと胸を貸してくれていた先輩が尋ねてくる。 持っていたハンカチは涙でぐしゃぐしゃだ。 「大分落ち着いたよ。もう大丈夫だから」 そう言いながら先輩から身を離して、なんとか笑顔をつくってみせる。 かなり長い間泣いていた。 屋上とはいえ授業中。 声を上げて泣いてしまいそうになるたび、冬馬先輩が苦しくなるほどギュッと抱きしめてくれていた。 泣き声は学校中に響かなかったけど、ブレザーに大きな涙のシミを作ってしまった。 「冬馬先輩の制服、涙で濡れちゃってるね」 「はい」 「鼻水もついちゃったかも」 「構いません」 「でも……」 「僕がいいのだから、愛菜が気にすることないです」 「やっぱりクリーニングに……」 言いかけた私を制すように冬馬先輩は首を横に振った。 「愛菜は僕の...
  • 冬馬681~690
    冬馬671~680 ピピピピピピ 目覚ましのアラームを止めながらのろのろと起き上がる。 「まだ少し寝たり無いかな……」 夜中に目を覚ましたのがいけなかったのか。 カーテンを開けて青空を見ても頭がまだボンヤリする。 パジャマを脱いで制服に着替え、一階へ下りる。 顔を洗いキッチンに行くと、ダイニングテーブルに冬馬先輩が座っていた。 「冬馬先輩、おはよう」 「愛菜。おはようございます」 冬馬先輩は制服を着て、ゆっくりコーヒーを飲んでいた。 私の席にはお義母さんが作ったサンドイッチが置いてあった。 「朝食お先にいただきました。愛菜のお母様は先にお家を出て行かれました」 「昨日、地方の取材で早く家を出るって言ってたから」 「取材ですか?」 「お義母さんは雑誌の記者なんだ」 「そうですか。お忙いですね」 「まぁね。だけど...
  • 冬馬701~710
    冬馬691~700 「冬馬先輩、大丈夫?」 私は土下座の格好をしたままの先輩に手をさしのべる。 「すみません。情けない姿をみせてしまいました」 手を取った冬馬先輩の指先が震えている。 膝も少し笑っているようだった。 「ううん。情けなくなんか無かったよ」 「まだ震えてますね。僕は人……特に相手が高圧的に出られるとこうなってしまうんです。 幼い頃は恐怖を攻撃性に変えて手がつけられなかった時期もあるようでした」 獣のような僕と冬馬先輩は言っていた。 だけど今は誰も傷つけられてはいない。 支えるようにしながら、冬馬先輩を座らせる。 私もその隣に腰掛けた。 「冬馬先輩のおでこ、少し血がついてる。ちょっと待ってて」 きっとコンクリートに額をつけた時だろう。 私はポケットからハンカチを取り出す。 「ハンカチが血...
  • 冬馬691~700
    冬馬681~690 「一郎くん、ちょっといいかな」 教室に残っていた一郎くんは文化祭の資料から目を離して私を見る。 放送委員長だから準備もあってこの時期は忙しいのだろう。 「大堂か。一体、何だ」 昨日よりも突き放した冷たい言い方をされる。 ここでめげていては何も始まらない。 「実はお願いがあるんだけど……」 一郎くんの様子を伺うと眉間のしわが先日よりさらに深い。 私が冬馬先輩側についたのが気に入らないのかもしれない。 「またアイツの話か」 (アイツって……きっと冬馬先輩の事だよね) 「うん。冬馬先輩に頼まれてね」 「アイツに何を言われた?」 「えっと、昼休み……って、今からなんだけど冬馬先輩に会ってくれないかな」 一郎くんの机には資料がいくつも置いてある。 委員会の仕事を休み時間に済ませようとして...
  • 冬馬951~960
    冬馬941~950 「愛菜、落ち着いてください」 「でも春樹が!」 もう少しで春樹を救える。 怪我はないか。 ちゃんと家に帰って来るのか。 どうして黙って出て行ってしまったのか。 話たい。今すぐに。 だけど先輩に手首を強くにぎられてしまって動けない。 「痛い……離し……離して!」 手を振り解こうと全力でもがく。 だけど冬馬先輩はその右手を解いてくれなかった。 「愛菜はここにいてください」 「でも!」 「手荒な真似は避けたかったですが仕方ない」 「何を……!」 「少し大人しくしていてください」 身体にひんやりとしたものがまとわりつく。 気がつくと、水の膜で周囲を覆われてしまっていた。 それはシャボン玉のようだったけれど、弾力があって私の力では割れそうにない。 『冬馬先輩!』 『これを今すぐ解いて』 『駄目で...
  • 冬馬751~760
    冬馬741~750 「じゃあそこのベッド借りるか。愛菜ちゃんそこに横になってみようか」 「はい」 言われるまま、ベッドに仰向けに寝る。 周防さんは私の額にそっと手を置いた。 (このマクラ冬馬先輩の匂い。ダメだ、ギュッとされたの思い出す。これから退行催眠だから緊張しちゃいけない。平常心平常心) 私は必死で自分に言い聞かせる。 「えっと、なんだ……あいつはトウヘンボクのオタンコナスだから。とっとと忘れるのが一番かもな」 周防さんが私だけに耳打ちした。 私も周防さんにだけ聞こえる様に話す。 「それって冬馬先輩のことですか?」 「ついでにデクノボウの大バカだ」 口は悪いけど、周防さんなりの励ま方なのかもしれない。 さっき冬馬先輩の心を読んですべて把握したのだから、振られたのだって知ってるはずだ。 「私の心、やっぱり...
  • 冬馬961~970
    冬馬951~960 お互いの剣の技量を計るかのように距離を取った斬り合いが続く。 先に大きく振りかぶったのは春樹だった。 上手く遠心力を使い、重い一撃を冬馬先輩に浴びせる。 鈍い金属の爆ぜる音が響く。 と、大きな赤い剣を細身の青い剣で受けとめ、ジリジリと力で弾き返した。 低くなった体勢のまま冬馬先輩が大きく前に出て懐に入ろうとする。 それを察した春樹は、紙一重で後ろへ飛び退いた。 「俺が火で先輩は水。やっかいな相剋だな」 「厄介という割には余裕がありそうですが」 「御門先輩、やっぱり強いね」 「春樹さんの隙のない滑らかな動き。剣を扱い尽くした相当な手練れです」 「それはそうさ。大和で一番の戦士だったんだ」 「守屋の剣士としての能力をトレースできるようですね」 「まぁね。だけど身体は俺のままだから使いすぎると次の日は動けなくなるんだけど」 ...
  • 631~640
    621~630 631 ③『近藤先生と話すのって緊張しない?』 差し出したノートを見て、隆が首を傾げる。 「何、びびってんだよ。そりゃ確かに少し恐いけど、聞けないほどじゃないだろ?」 (まぁ、そうだけど……) 近藤先生は厳しいけれど、いい先生だというのは知ってる。 昨日は茶道室まで連れてってくれたし、親切にしてもらった。 でも、なんというか威厳のある風貌に圧倒されてしまい、少し苦手なのだ。 『そうだね。明日、聞いてみようかな』 「もし不安なら、俺もついてってやるよ」 『うん、助かるよ』 「それと、チハルが起きたら一度聞いてみたほうがいいかもな。 鏡について何か思い出せそうだったし、手がかりになるかもしれないぜ」 私は、横に座らせたチハルを撫でながら頷いた。 夕食が終わり、私が片付けをしようと食器を持って立ち上がる。 すると...
  • 冬馬651~660
    冬馬641~650 冬馬先輩と一階に下りて、ダイニングに行く。 するとお義母さんがキッチンで洗い物をしていた。 「御門くんも座ってちょうだいね。今日はすき焼きだけどよかったかしら」 コンロの上に、鉄のなべが乗っている。 その横には牛肉の薄切りと割り下、切った野菜も置いてあった。 「うん、大好き。先輩もすき焼き大丈夫だよね」 冬馬先輩は私の問いに黙ってうなずいた。 「冬馬先輩も食べれるって」 「よかったわ。御門くん、卵も用意してよかったわよね」 コップや食器を持ってお義母さんがやって来た。 「じゃあ愛ちゃん、火をつけて牛脂を入れてくれる?」 「私がやるの?」 「そうよ」 てきぱきと食器を並べているお義母さんは当たり前のように言った。 (こういう役目、いつも春樹だったからな……) 冬馬先輩が座った...
  • 131~140
    121~130 131 ③御門君の名前を伏せて説明する 私はしばらく考えて話すことに決めた。 このままじゃいつまでたっても前に進めない。 (御門くんのことは、知らない男の子ってことにしておけば問題ないよね…) 「関係あるかわからないけど…」 そう前置きして私は夢での出来事を話した。 「大堂、そいつは君を主と呼んだんだな?」 「う、うん……」 「なんだよー、俺には話してくれなかったのに兄貴なら話すの~?」 「だ、だって、普通に夢だとおもうじゃない……」 修二君がぷーっとふくれる。 「いいんだいいんだ、俺なんて……」 わざとらしくいじける修二君を無視して、考え込む一郎君。 「おもいだした。時々学校で感じる残滓……あれと同じ感じだ」 一郎君は私をじっと見たままつぶやいた。 「ん?残滓?……...
  • 801~810
    791~800 801 ②隆 「愛菜、起きてるか? ……って、わかんねーなこれじゃ」 近づいてくる気配がして、隆の手が頬に触れた。 つんつんとつつく指がむずがゆいが身体は動かない。 「でも、起きてる気はするんだよな」 隆は言いながら頬をつつくのを止めない。 (なにしてんのよ隆?) 「……夢を見たんだ」 ふと、隆が低く呟く。ぎりぎり聞き取れるかどうかの呟きだ。 「お前が消える夢だ。 ただの夢だって分かってるけど……」 言葉と共に頬をつつく指が止まり、しばらくして手が額に当てられる。 「……ふと思ったんだけどさ、お前っていま人形と同じような状況じゃないか?」 (なにいってるの?) 「だから、試しに力をつかって見ることにする。人相手になんて使ったことないけどさ」 (ちょっと、それって危なくないの!?) 「ま、ダメ元ってやつだよ...
  • 71~80
    61~70 71 3.3人で一緒に帰る さっき修二くんが言った言葉は気になるけれど……。 仮に修二くんの言葉が本当であったとしても、今いきなり態度を変えたりしたら怪しまれてしまうかもしれない。 ……それに、何より私の中にまだ隆を信じたいって気持ちがある。 だからと言って、完全に信じられるかといえば……酷い話だけど、そういうわけじゃない。 今はまだ、何もわからなすぎる。 私は今だ握り締めたままの春樹の制服をじっと見つめる。 「……」 何かに気がついたのか……春樹はこちらに視線を向けた。 そして僅かに頷く。 (ごめんね、頼りないお姉ちゃんで……) 都合のいいときにだけ春樹を頼ってしまう自分を恨めしく思う。 内心で春樹に謝りながら、私はそっと頷き返した。 「じゃ、じゃあ、3人で帰ろうよ。ね?」 ...
  • 冬馬981~990
    冬馬971~980 ゆっくり瞼を開いた。 目の前には薄い水で覆われた、先輩が作った膜がある。 そのシャボン玉のような物に、もう一度触れてみる。 (この水の膜、これは防御障壁だ) 今ならこれが私を捕らえておく檻じゃなく、命を守るための盾だと分かる。 (冬馬先輩、厳しい事言ってたけどやっぱり優しい) そのシャボン玉を指先で弾く。 するとその膜は簡単にパチンと弾けた。 「これが覚醒した力……すごい」 あと少しでこの建物の結界も解かれそうだ。 網の目のように複雑に入り組んだ術式がほどかれていくのを肌で感じる。 (香織ちゃんたち、すごく頑張ってくれたんだ) この建物を覆う結界さえ無くなれば、自然界の霊気が自由に取り込める。 そうすればこの時間を元の場所に還す事ができる。 (その前に冬馬先輩と春樹が!) ...
  • 冬馬971~980
    冬馬961~970 黄泉醜女。 日本神話に登場する鬼。 逃げた神様を追いかける怖い女。 顔は醜く、執念深く恐ろしい化け物。 私の中でイメージしていた容姿と目の前の可愛らしい少女とが結びつかない。 「本当に黄泉醜女さんだよね」 「はい」 「ツノ、生えてないんだ」 私は頭の上を指で差しながら呟く。 「ツノもありませんし怖くもないですよ」 「そっか。よかった」 「黄泉の国は中つ国の人達にとっては異邦人。霊力を自在に操り、怪しい術を使う得体の知れない者。ですから、伝承に尾ひれがついてしまい、ツノを持った鬼となったのでしょう」 (しこめって醜い女って意味だけど、すごく可愛らしいよね) きめの細かい肌、色白に映える頬の薄紅色。 長い髪はツヤツヤでお人形のように整っている。 それでいて受け答えや言動が大人顔負けに落ち着いている。...
  • 331~340
    321~330 331 ②呆然とその場に立ち尽くす 「は、るき……」 頭の中が真っ白で何も考えられない。 たださっきの春樹の言葉が何度も私の中で繰り返し繰り返し響くだけ。 『もうこれ以上の厄介事は、ご免なんだ!』 私に笑顔を向けていてくれたときも。 私を気遣ってくれたときも。 私を守ろうとしてくれていたときでさえ。 (春樹は、ずっとそんな風に思って……でも、我慢してきたの?) 負担になっているのかもしれない……どこかそんな予感はしていた。 けれど、それは春樹の優しさと春樹への甘えで確実な答えに変わることは無かったけれど。 だけど今、はっきりと分かった。 (私は春樹にとって迷惑な存在で……私は、春樹の負担になってたんだ) 垣間見えた、春樹の本当の気持ち。 それを知って私は…...
  • 851~860
    841~850 851 ②五年前のことを思い出す (今から五年前……) 私は自分の机の上にある、写真立てに目を向ける。 春樹は私の視線を追いかけるように立ち上がると、その写真立てを手に持った。 「この写真、姉さんも飾ってるんだ」 (うん。居間に飾ってあるのと同じなんだけどね) 私と春樹の会話を聞いて、周防さんは春樹の手元を興味深そうに見つめていた。 「家族の写真……か。俺にもよく見せてくれ」 (構いませんよ。春樹、周防さんに渡してあげて) 春樹は「どうぞ」と言って、五年前に撮った写真を手渡した。 「ほうほう。まだ二人とも小学生か? にしても春樹……お前さん、なんて無愛想な顔をしてるんだ。 写真なら、もっとにこやかに笑うものだろう?」 「たしかに酷い顔ですね。でもあの時は……笑えるような心境じゃなかったんです」 「ん? ...
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