ある日、ヤタが街を歩いているとマフラーをした二人組の子供に襲われる。キュウビとヤタにあっさり負ける子供だったが、しきりにヤタのことを悪魔、極悪人、殺さないといけない存在だと叫ぶ子供の様子を疑問に思う。 子供の名前はショウとチク。神父様に八咫鴉は悪魔で、世界の平和のために一刻も早くその存在を抹消しなければならないと言われたという。仲間が大勢いると言われ、心配の種ははやく潰すにこしたことはないとヤタは首をつっこむことに。 ごみ山と倉庫で寂れた肆番街。その中に突如できた「正義信教」という新興宗教の教会。二人の話によれば、その教会では多くの孤児が育てられていて、日々正義のために戦っているという。教祖である神父は絶対的な正義だと。 中を覗き見れば、確かに多くの子供たちが楽しそうに生活していた。優しそうな神父の姿も。そして礼拝堂には巨大な女神の石像が。 ヤタは、楽しそうとごちるキュウビを外に置いて、一人中に忍び込む。 神父が一人になったのを見計らって接触するヤタ。ヤタが八咫鴉だと分かると逃げ出す神父。神父をボコしてどういうつもりなのか吐かせようとするヤタは後を追う。 一方キュウビは子供に見つかり、教会の中へと招待される。そこで、神父は優しく、捨て子だった子供たちを世界中から集めて世話してくれている正義の塊のような人だと教えられる。キュウビもここで暮らせばいいとも。同年代の友達がいなくて寂しかったキュウビは少し乗り気。 神父は教会の奥の小部屋に逃げ込む。ドアを破壊して中に入るヤタ。ボコそうとしたところ、異変に気付く。 部屋の中にはいたるところに子供の写真。ただの写真ではなく、ポルノや人身売買と見られる全身をバラバラにされた子供の姿が映っていた。神父を問い詰めるヤタ。 「これはどういうことだ!正義はどうした!」 「何、この程度のこと、お前なら見慣れているだろう」 怒り狂うヤタの背後に、いつの間にかチクの姿が。 「どうやら君には再教育が必要だな」 チクに殴られ、意識を失うヤタ。 子供たちと仲良く談笑していたキュウビだったが、だんだん話が宗教の話になっていく。「正義信教」とは正義のため戦い、世界を平和にするのが目的である。この街は正義とは程遠い。だから神父はこの街を平和にするために越してきたのだと。そして、街が凶悪である全ての原因である八咫鴉を殺さなければならないと教えられたと、子供たちは言う。そのうち全面戦争をしかけるつもりだったが、先走ったショウとチクが八咫鴉を襲った。キュウビも八咫鴉と仲良くしていないで、一緒に倒そうと誘われる。疑問を覚えるキュウビ。 「何でヤタが悪いって決まったの?」 「神父様が言ったから」 「正義って何?」 「神父様が決めてくれる」 「僕はヤタが悪い人だと思わないよ」 「大変だ!悪魔の八咫鴉に洗脳されている!一刻も早く奴を殺さないと!」 「ダメだよ!」 「どうして」 「ヤタは悪くない!いやちょっと悪いかもしんないけど、でも僕はヤタの方が正義だって思うよ!」 「正義じゃない!」 「それは神父様が言ったからでしょ!八咫鴉は正義なんだ!僕は、自分でそう決めた!!」 一方牢屋にぶちこまれたヤタ。セルフ手品BGMで縄抜けしたり、どこでもドアを壁に描いて脱出しようとしたり一人で遊んで騒いでいると、ショウとチクが来る。 神父が正義なんて嘘っぱちだ、子供を売って私服をこやしている変態野郎だとヤタが訴えても聞く耳をもたない二人。正義感の強いショウはヤタに嘘吐きと唾を吐きかける。 出ていこうとするショウとチク。お前は知っているのかとチクに問うヤタ。何も知らないと答え、出ていくチク。チクがさっきの部屋を見て全く動揺しなかったことを不思議に思うヤタ。 どう説得しても神父を信じないキュウビを神父に会わせ、一緒に牢屋に向かう子供たち。再会に喜んだのも束の間、八咫鴉がいかに悪かを講義する神父。罵倒する子供たち。怒るキュウビ。 「だから違うって言ってるでしょ!」 「やめとけよ、こいつら聞く耳もたねーぜ。耳がない新人類かもしんない」 「違うよ!考えるのをやめてるんだ!洗脳されてるのはそっちだよ!」 「まぁ思考停止も時には必要だよねー楽ちんだもの」 「ちょっと黙ってて」 「はい」 キュウビの意見は全く相手にされず、子供たちはヤタへの罵倒をやめない。 「悪魔とか死ねーとかそれしか語彙ないのかアンタら」 「黙れ悪魔!」 「正義なら悪魔の言うことにも惑わされないし気にもならないんじゃないでしたっけ、ねえ変態神父様」 「黙れって言ってるだろ!神父様に汚い言葉を吐きかけるな」 「独り言が趣味なんですほっといてください。しかしアンタら神を信じてるのか神父様を信じてるのかどっちなんだ?」 「どっちも正義だ!殺すぞ!」 「監禁罵倒プレイが正義のすることでしょーか」 「いい加減にしろ!神を信じない悪魔が!」 「信じてないけどさーまぁでもアンタらの信じてる神の言葉を借りるなら、『神は見ている』ぞ」 「!」 「子供に売春させたりバラバラにして臓器を売ったり、洗脳して戦闘訓練して兵の駒にしたり、この街を支配しようと俺を殺そうとしているのも、悪が大好きなくせに正義の名を騙って全てを誤魔化してるのも、見られているよ神父様」 動揺する子供たちの隙をついて、牢から脱出するヤタ。襲い掛かってくる子供たちを簡単に倒していくキュウビを見て、逃げ出す神父。追うヤタ。 礼拝堂に逃げ込んだが、追い詰められた神父は教会を爆破する。逃げ惑う子供たち。それでも歩みを止めない八咫鴉に神父は言う。 「子供を売るなんて大したことじゃない!みんなやっている!ここは無法地帯だ!この程度の罪で私を裁けるはずがない!!」 「そのために俺がいる。神は見ている」 爆破の衝撃で傾く巨大石像。信念を揺るがされた神の偶像は神父の上へと崩れ落ちる。 瓦礫と化した教会の前で茫然とする子供たち。そこへ現れるヤタとキュウビ。ヤタが神父は死んだことを告げると、お前が殺したんだろう!と罵られる。 「教会を破壊したのもお前だろ!俺たちの居場所を奪って満足かこの悪魔め!」 ヤタはそれには答えない。 「それでも、街はお前達を受け入れてくれるよ」 「いつか必ず、必ずお前を殺してやる八咫鴉!」 子供たちの罵倒を背に去るヤタとキュウビ。 帰り道、キュウビがぽつりと言う。 「ヤタは正義だよね?」 「そんなことはどうでもいい。大切なのは自分で考えて決めることさ。お前、ちょっと洗脳されたんじゃないか?」 「そうかもしんない」 「まぁ、正義も悪も、どちらをちょうどよくやるのも楽じゃねぇよなぁ」 「…八咫鴉はどこにいるの?」 「どこにでも。見る奴次第さ」 「僕、神様もそうなんじゃないかって、思うよ」