「妖精」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る

妖精 - (2017/03/23 (木) 20:29:52) のソース

「雅、ねえ...この名簿にも載ってるがどういう奴なんで?」

ホルホースは当然の疑問を抱く。
 自分達を助けた彼がああも殺気を纏わせるのだ。当然の問いだろう。

 「奴は吸血鬼だ。それも、俺達を地獄に突き落とした最強最悪のな」

 吸血鬼。そのいまの雇い主に纏わる単語に、ホルホースうげっと舌を出しかける。

(勘弁してくれ。DIO以外にも吸血鬼がいるなんてふざけてやがる)

その雅とやらがどの程度の吸血鬼なのかはわからないが、関わらないのが吉だろう。
この男はどうやら雅を殺したいらしいが、危険を避けたいホルホースにとっては都合が悪すぎる。
これが殺し合いなんて場でなければ組む必要もないため放っておけばいい。
だが、この男は戦力としては充分当たり。他者を助ける程度の常識もあることから、組みやすい相手でもある。
どうにかして引き留めたいが...ここは彼の良心にかけてみよう。

 「旦那、その雅って奴を倒すのはこのバトルロワイアルが終わってからでいいんじゃねえか?」
 「なに?」
 「いや、確かに旦那は雅を殺せればいいかもしれねえがよ、他の参加者はどうなるんだ。それこそまどかちゃんなんて一般人だ。早く家に帰してやらねえと不憫でしょうがないぜ」

 泣き落としは女と子供の専売特許であり最高の武器である。
 多少なりともマトモな感性を持ち合わせていれば揺らがざるを得ないはずだ。

 「...あんたのいう事は尤もだ。状況だけみれば、あいつも俺たちと同じ被害者なのかもしれない」
 「おっ、話がわかるじゃねえか。じゃあ、その雅って奴には...」
 「だからこそ、この状況はチャンスなんだ」

ホルホースは思わず「は?」と声を漏らす。
せっかく話が纏まりかけたと思ったら、明の目からは微塵も殺気が消えていない。

 
「奴はその強さや不死性が厄介な上に、常に周囲に邪鬼や吸血鬼を従えている。だが、この場では部下もいなければご自慢の不死身もなにかしらの方法で制御されているはずだ。でなければ、ヤツに首輪を嵌めたところでなんの枷にもなりはしない」
 「ってことはなにか?旦那はその雅ってヤツを殺すまではここを抜けるつもりはねえってことか?」
 「ああ。こんなチャンスは二度とないかもしれない」

 宮本明という男と組むメリットとデメリット、両者の顔が覗かせる。
この男は強い。性格も相まって"相棒"としては最高級だ。
 加えて、脱出には大した興味を示していないため、赤い首輪の参加者を殺せるチャンスがくれば代わりに譲ってくれる可能性が高い。
デメリットとしては、雅なる吸血鬼と出くわす可能性が高くなることだ。
 彼を探している以上、情報の出所へ足を向けるのは当然であり、適当にぐるぐるとまわるよりは遭遇する確率はかなり高くなる。
もしも雅と戦う時にとばっちりを受けてはたまったものではない。可能な限り避けて通りたい道である。

(まあ、現状はメリットの方が大きい。やっぱこの機を逃すわけにはいかねえよなァ)

「旦那よ、あんたの事情はなんとなくわかった。あんたの複雑な事情に首ツッこむほどヤボじゃあねえ。だが」

ここで、チラリとまどかを一瞥する。
この交渉の肝はやはり彼女だ。善人を利用するには弱者を効果的に使うことが交渉の基本である。

 「俺はともかくとして、やっぱり彼女を巻き込むのはどうかと思うぜ。旦那一人で雅を追うにしてもそれじゃあ彼女の危険が高まっちまう」
 「......」

 考える素振りを見せる明の様子を見て、ホル・ホースは内心でガッツポーズを決める。
もうひと押しで折れそうだ。このままいけるぞホル・ホース。

 「あの、明さん」

まどかが申し訳なさそうに小さく挙手をする。
それを見たホル・ホースはいい流れだとほくそ笑む。

(おっ、なんだ嬢ちゃん。加勢してくれるのか?いいぞいいぞ、多少の我儘は女の子の特権だ)

「明さんは、赤い首輪の人を...殺すつもりなんですか?」
 「...いや。雅は別だが、特別に赤い首輪の参加者を敵視するつもりはない。雅とこの島の吸血鬼を倒し、それでも俺が生き残っていれば残る参加者全員の脱出を目指すつもりだ」

 思わずホッと胸を撫で下ろすまどか。その様子に明は思わず疑問を抱く。


「それがどうかしたのか?」
「あっ...えっと...」

 言うべきか言わないべきか。そんな躊躇いを体現するかのように、目を逸らしては明へと戻し、また逸れかければ再び戻す。
 先程の質問とその様子を見れば、勘の鈍い者でも彼女の悩みはなんとなくは察せる。
おそらくまどかは赤い首輪の参加者に知り合いの心当たりがあり、それを自分達に教えていいのかと悩んでいるのだろう。
まさかこんな普遍的な女の子にそんな危険なツテがあったとは。

(まあ、吸血鬼やスタンド使いがいるんだ。今さらなにがきても驚きはしねえ)

そう。ホルホースはこれまでの人生で己を含めた常識外れの存在を多くみてきた。
そもそもスタンド使い自体が千差万別であり、常識なんてほとんど通じない。
そして、DIOというスタンド使い且つ吸血鬼。それにこの島で出会った吸血鬼とアホみたいにデカい鉄の塊をあっさりと振るう男。
 最早常識などとうの昔に捨て去っている。
 来るのが狼男だろうが蛇女だろうが大抵のことは受け入れられるはずだ。

やがてまどかは決心したかのように、明を正面から見据えた。

 「...わたしの友達のさやかちゃんとマミさんと杏子ちゃん。みんな死んじゃったはずなんです。でも、この名簿には載ってて...」

 準備をしていたからこそ。
その言葉に度胆を抜かれてしまった。
ストレートに備えたガードを擦り抜けたジャブをモロに顎に受け呆気なく倒れてしまうボクサーの気持ちとはこんなものだろうか。

 「か、勘違いじゃねえのか?嬢ちゃんがそう思ってただけで実は生きていたとかよ」

 命は一つの生物に対して一つしかない。
それを深く理解しているからこそホル・ホースは殺し屋という道を選び、誰よりも己の命に執着する。
まかり間違っても死者が蘇り再び生を得るなどあってはならないのだ。

しかし、まどかは首を横に振り否定する。
 己の見たあの光景を嘘という形で逃避するわけにはいかないと。

 「マミさんは魔女に食べられて、杏子ちゃんとさやかちゃんは、一緒に...」
 「魔女?」
 「...マミさん達は、魔法少女なんです。キュゥべえと契約して、願いを叶えた...」

まどかは語る。
 魔法少女のこと、願いを叶えたこと、契約すれば魂を抜かれること、魔女のこと...
とにかく、己の知り得る限りのことを二人に語った。
 下手に隠して魔法少女を『赤首輪の化け物』と見られたくはなかったからだ。
 勿論、ただの赤の他人に教えることなどはしない。明とホル・ホースを信頼できる者として認めたから、誤解のないように話す決心をしたのだ。



「なるほど。彼女達魔法少女は、人間の身体じゃなくなった。だから首輪も赤い首輪である可能性が高い...そう言いたいんだな?」
 「...はい」
 「...さっきも言ったが、俺はなにも人外全てを憎んでいる訳じゃない。雅さえ倒せれば、後はなるべく全員が脱出できるように行動するつもりだ」
 「明さん...!」
 「俺も、人間じゃなくても良い奴は知ってるからな」

 明の答えに顔を明るくするまどかと、それにつられてか笑顔を見せる明。

(いやいやいや、アンタは話をちゃんと聞いてなかったのかよ!?)

一方のホル・ホースは冷や汗交じりにそう心中でツッこんでいた。

 魔法少女。
 響きだけは可愛らしいものだが、その実態はどう考えてもただの化け物だ。
まあ、それ自体は味方につければ頼もしい戦力となるだろう。
 魂を抜かれた、という点も生きてナンボのホル・ホースからしてみれば大して重要ではない。
だが、問題は戦力そのものではない。
ホル・ホースが懸念するのは魔法少女の行く先である魔女の存在だ。

 魔女とは魔法少女が絶望しソウルジェムが濁り切った時に産まれる怪物である。
 理性なし。言葉は通じない。己の絶望を他者にぶつけその魂を食らう。
 敵も味方もありゃしない。ただただ、目についた者と殺すだけの災厄。
しかも、ソウルジェムの濁りという奴は絶望せずとも魔力を使うだけでも増していくらしい。
つまり、魔法少女と行動するということはいつ爆発するやもしれぬ爆弾を抱え込むのと同じ。
 考えようによっては明の憎む吸血鬼よりもタチが悪いかもしれない。
そいつらとお友達のまどかはともかく、まともな神経では易々とは受け入れられないだろう。

(だが、ここで魔法少女を知れたのはラッキーかもしれねえな)

おそらくこの事実を知らぬまま件の魔法少女と遭遇した場合、ソウルジェムの浄化だとかそんなことは一切考えずにいつも通りに接していただろう。
 時には相棒に、時には隠れ蓑に、時には仮初めのガールフレンドに。
そして、起爆に気が付かぬまま魔女の誕生を許しあっさりと命を落としていたことだろう。
そんな羽目にならずに済みそうなのは幸運としか言いようがない。

(それに、嬢ちゃんがいれば魔法少女の制御も楽だろうからなぁ。よし、運は向いてきている)

魔法少女という化け物の制御となるだろう少女と人間の癖にバケモン染みた男。
この二つとこんな序盤で接触できたのは紛れもなく幸運だ。失禁と引き換えでもおつりが来るくらいだ。


「よし、そういうわけだ。当面は俺たちで嬢ちゃんを保護しつつ、お友達を探すのを優先ってことでいいだろ明の旦那?」
 「すまないがそれはできない」

 即座の返答に、ホル・ホースは思わずガクリと肩を落としかけた。

 「雅は必ず殺し合いに乗るだろう。奴を優先的に殺すことは他の参加者の生存にも繋がるんだ。...それに、ヤツとの戦いは俺の問題。他の者を巻き込むわけにはいかない」

ここまで頑固であれば、ホル・ホースも観念した。
 彼と組むのは不可能。少なくとも、雅という男が死ぬまでは相棒にすることはできない。

 「...すまない、二人共。だが、これだけは譲れないんだ」

 謝るくらいなら協力してくれ。
そう内心で毒づくホル・ホースだが、下手に敵視されても困るので表には出さない。

 「仕方ねえさ。人間誰しも、どうしようもねえ事情ってモンがあらァ。助けてくれただけでも感謝するぜ」
 「明さん...絶対に、死なないでくださいね」
 「ありがとう。...この村で人目につきにくいルートは調べておいた。元気になったらそこを使ってくれ」

 大まかな道筋を書き記した用紙を二人に渡し、明はその背のドラゴンころしと共に家屋を去っていく。

 踏みしめるは、憎むべき仇敵たちの残骸の山。

(俺は立ち止まる訳にはいかない。一刻も早くヤツを殺さなければ...!)

復讐を糧に男は進む。
 例えその果てに血塗られた戦場しかなくとも。

―――クス クス クス

 そんな彼を笑う声がする。
 声の主は誰だ。鹿目まどかか、それともホル・ホースか。
いや、彼らは違う。聞こえてくるのは頭上。見上げなければ見ることのできない空中だ。


 昆虫のように真赤な眼に、頭部に生えた触覚。背に生えた巨大な羽根。
それでいて、身体は幼い少女そのもの。
 明を愉快気に見下ろすソレは、正に異形そのものだった。


 ☆


「コレ、お兄ちゃんがやったの?」

 異形は問いかける。明の足元に散らばる残骸を指差して。
それは罪を問いただすとか恐怖にかられてだとか、そんなものとは正反対。
 異形にあるのは好奇心のみ。それは明にもしっかりと見てとれる。

 「...そうだ。こいつらは吸血鬼。俺が殺らなければならない存在だ」
 「ふーん。吸血鬼って人間よりも強いの?」
 「ああ」
 「じゃあ、お兄ちゃんはその吸血鬼よりも強いんだ。人間なのにどうして強いの?」
 「......」

 明は異形の意図が読めなかった。
まるで、興味を持った子供がなんでも質問してくるかのように思えてくる。

 「その刀、あのお兄ちゃんのやつだねえ。少しは楽しめそうだし、ちょっと味見してみようかな」

ゾクリ、と明の背に怖気が走る。
 殺気。微かだが、確かに異形からソレが放たれたのだ。

 「いっきまーす!」

その掛け声と共に異形が明へと迫りくる。
 速い。人間などとは比べものにならない速さだ。
だが、その軌道は直線。タイミングさえ誤らなければ攻撃を当てることはできる。

まどかには赤首輪の参加者とて殺すつもりはないと言ったが、目の前の異形は明らかに害を為そうとしている。
こちらを殺すつもりならば、戦うしかない。

 明はドラゴンころしを構え、垂直に振り下ろす。

―――が。

直線から曲線へ。異形は高速で動いている最中に軌道を変える。
反応しきれなかった明の右頬に、すれ違いざまに触覚で切りつけ鮮血を舞い上げる。

 
「ヤッター、私の勝ちィ!」

キャッキャと異形ははしゃぎ、対する明は戦慄を覚える。
アレは強敵だ。ヤツにとってあんなものは遊びの一環なのだろう。
 更に現在の明の装備も万全ではない。
そして、いまの明の武器であるドラゴンころし。破壊力は充分だが、小回りがきかず普段の武器よりも速さが劣る。
これではあの速さには追いつけない。せめてもう少し小回りのきく武器があればいいのだが。

(このままでは不利か...!)

「それじゃあもう一回―――」

ピクリ、と異形の触覚が揺れ明から視線を外す。
その先、距離にして遠目である場所には家屋。更に絞れば曲がり角。

 異形はギュン、と角へと一っ飛び。
その思惑を図りかねる明だが、数秒後にその答えを知ることになる。

 「ゲッ!」

 異形が角へと辿りつくのとほぼ同時に漏れるは男性の悲鳴。
 間違いない、ホル・ホースのものだ。

 「のぞき見なんて趣味が悪いね」
 「...いや、なに。嬢ちゃんみてえな可憐な妖精を見れば誰だって出ていくのを憚られるってモンだぜ」

(チクショウチクショウチクショウ!なんたってこういう展開になっちまうんだよ!?)

表面上は平静を保ってはいるものの、その心中は決して穏やかではない。
 当然だろう。彼の恐れるシチュエーションである『赤首輪とのタイマン』がいままさに成立しようとしているのだから。

 何故、先程明と別れたホル・ホースがここにいるのか。
 理由は単純。ここは吸血鬼の村だ。未だ残存しているかもしれない吸血鬼に怯えながら身体を休められるはずもない。
だから、彼は明の後をつけることにした。彼が歩いた道に吸血鬼は生きているはずもない。
 故に、この村を安全に出るには明の示した人目につかないルートよりも、明の道を辿った方が安全である。
そんな目論見で後をつけたのが完全に裏目に出た。吸血鬼よりもタチの悪い怪物に遭遇してしまった。

 
 (...だがよ、逆に言えばコイツはチャンスかもしれねえ)

ホル・ホースの最終目的はゲームからの脱出である。
そのための手段は問わず、要は生き残れれば勝ちである。
 女は傷付けないというポリシーはあるが、それは人間に当てはまる持論だ。目の前のコレは明らかに怪物である。

(まだ俺はスタンドを見せちゃいねえ。奴は俺の手の内を知らねえことになる)

唯一の勝機は、ホル・ホースは僅かながらも手の内を知っており、且つ自分は手札を見せていないというこのアドバンテージ。
 悪くない。皇帝のスタンドは近接戦での暗殺にその真価を発揮する。
 眼前の異形は、完全にホル・ホースを舐めきっている。それでいい。楽に勝てるのならいくら侮られようが問題ない。

 「おじちゃんも遊んでよ」
(タイミングはいま―――!!)

異形が攻撃の宣言をすると同時に拳銃の像を発現させる。
まさに早業。そんじょそこらのガンマンでは歯が立たないだろう。

だがそれでも。

 「ッ!!」

 銃を構えると同時、膝を軽く曲げ微かに身を屈める。
 本能的に悟ったのだ。間に合わない、と。
それとほぼ同時にホル・ホースの額を一筋の風が吹く。

ピリッ。

そんな小さな音と共にホル・ホースの帽子のツバに裂け目が入り、微かに額が切れ血が滴る。
それが触覚によるものだと気が付いた時には既に遅かった。
 当然、こんな有り様で反射的に引いた引き金で狙いを定められるはずもなく、皇帝の弾丸はあっさりと虚空に逸れてしまった。

 「ヤッター、またわたしの勝ちィ!」
(あ、危ねェ...!間一髪だ。反応が遅れりゃオダブツだった!)

背筋を冷や汗が伝う。
あの異形は、駆け引きだとか有利に立ち回るだとかそんなものには一切興味を示さない。
 己の赴くままに力を振るう。ただそれだけだ。
あくまでも勝率の高い勝負に持ちこもうとするホル・ホースとの差はソレだ。
 彼の手札になんら警戒心を持たず己の速さを示すことしか考えていないが故に、ホル・ホースの狙いを定める時間を奪うことに成功したのだ。


 (チクショウ、赤首輪ってのは伊達じゃねえってことか...!DIOの野郎といい赤首輪ってのはこんなのばっかなのかよ!?)
「じゃあ今度こそ―――」
 「ホル・ホースさん!」

 再びホル・ホースへと攻撃を仕掛けようとした異形を遮るのは少女の声。ここまでくれば言うまでもなくわかるだろう。鹿目まどかである。
まだ存分に身体を動かせるほど回復していなかったまどかは、明を見送ってくると告げたホル・ホースに置いていかれたのだが、当然こんな場所で一人にされるのは短時間でも心細い。
 程なくして、疲労の抜けていない身体に鞭うちホル・ホースのあとを追う。
 意図せず明の後を追うホル・ホースの後を追うまどかという珍妙な状況ができあがっていたのだ。

 「もーなんなのよー」

 三度目の中断にさしもの頭にきたのか、プクッと頬を膨らませ一気にまどかへと肉薄する。
 邪魔をするな、後で遊んであげるから大人しくしていろ。そんな旨を伝えるためだ。

(ヤベェ!)

まどかには利用価値が大いにある。こんな場面で死なれるのはご免だ。
ホル・ホースは異形を止めるためすぐさま発砲する。
しかし、放たれた弾丸を一瞥した異形は、その触覚で弾丸を叩き落す。
そしてあっという間に異形は少女のもとへと舞い降りた。

 「あなたもなにか見せてくれるのかな?」

にこやかに問いかける異形だが、一般人のまどかですらその真意は直感している。
つまらなければ殺すと。

 鹿目まどかは強大な素質を持っている。
しかし、それはキュゥべえと契約し魔法少女となって初めて意味を為すものであり、現状ではただの一般人に過ぎない。
 魔法少女の先輩の力にさえなれなければ、魔女となった親友を救うこともできない。
そんなちっぽけな存在に異形が惹かれるはずもなく。異形の基準でいえば遊ぶ価値もないデクの坊である。

そんな彼女が見せられるものなどない。
 心臓を締め付けられるような圧力がまどかを襲う。
しかし。

 「あの...」

 「?」

 「あなたとどこかで、会った気が...?」

つい、口に出してしまった既視感。
それが異形の意識を思わず奪い、戦況は変化する。

 「―――!!」

 足元から感じ取った殺気に思わず目を向ける。
 先程弾き落とした弾丸が異形目掛けて再び襲い掛かったのだ。

 「おっと」

しかし、それでも足りない。触覚が振るわれ弾丸は弾かれる。
が、落ちたはずの弾丸は再び速度を伴い異形へと迫る。

 「しつこい、なあ!」

 異形は悪態と共に飛び退き、弾丸を触覚で巻き上げる。
そこまでして弾丸はようやくその動きを止めた。

 「うおおおおおお!!」

それを狙いすましたかのように異形へと被さる影。
ようやく異形へと追いついた明が異形へと向けて跳びかかったのだ。

 振り下ろされるドラゴンころしは、大げさな音を立てて地面を砕き砂塵を舞い上げる。

 砂塵の晴れた先には、真っ二つに斬られた異形の姿が―――確認できず。

 「いまのはちょっと驚いちゃったかな~」

トボけたような声が上空より投げかけられる。
そこにはやはりというべきか、多少の埃は付着しているものの、未だ健在の異形の姿。

 「面白いね、あなたたち」

 明とホル・ホースの背に冷や汗が伝う。
いまの攻撃も躱されたとなると、現状はかなり厳しい。
 明が速さに慣れるのも、ホル・ホースが明との連携を完全に仕上げるのも時間がかかる。
それまでに異形が本気を出せば絶体絶命だ。できればアレとの戦いは避けたい。

 「でも、こんなので終わらせちゃうのは勿体ない。お兄ちゃんたちがもっと面白くなったらまたくるね」

そんな二人の祈りが通じたのか。異形は小馬鹿にした態度でくるりと背を向け飛び去っていく。

 
異形―――ロシーヌには目的などなかった。
ただ、何者にも捉われず、かつて夢見た霧の谷のエルフのように自由に生きたいだけだった。

このバトルロワイアルでもそうだ。
あの主催の男になんか従わない。
 自分の好きなように遊んで好きなように玩具を壊す。
 時間が足りなくなりそうだったら本気を出してさっさと全部を排除する。
ロシーヌにはそれが出来る自信があった。なんせ自分は妖精だから。人間なんかよりいっとう優れた存在だから。
だから、自分の一存で玩具の価値を決めることだってできる。

ジルの好きな男にちょっぴり似てるあの男、ちょっぴり男前な渋みのあるおじさん。あとはおまけの桃色髪の少女。
 過程はどうあれ、あとひといきで捉えられそうになったのはいつぶりだろうか。
もう少し泳がせていればもっと面白い玩具に成長するかもしれない、と少しばかりの期待を込めて、ロシーヌは彼らを見逃した。

 「さーて、次はどこへ行こうかな~」

 気ままな妖精は空を行く。
 彼女の次なる出会いは果たして―――?


 【D-2/一日目/黎明】 


 【ロシーヌ@ベルセルク】 
 [状態]:健康
 [装備]:
 [道具]: 不明支給品1~2
 [思考・行動] 
 基本方針: 好きにやる。


※参戦時期は少なくともガッツと面識がある時点です。


去っていくロシーヌの姿が闇夜に消え去るまで見つめ、消えると同時にホル・ホースは深く息をついた。

 「間一髪だったな、明の旦那」
 「ホル・ホース。お前、なんであんなところに」
 「細かいことはいいじゃねえか。ただまあ、これで少しはわかっただろ。俺が足手まといじゃねえってことがよォ」

つい先ほどまで死線に立ちかけていたというのに、彼はすぐにこの状況を交渉に用いた。
 生き残る確率を上げるためには交渉に余念がない男。それがホル・ホースという男であった。

 「旦那が雅を追うのは構わねえが、さっきのみてえに手強いのがいちゃ、いつ何時おっ死ぬかわかったもんじゃねえ。どうだい、ここはひとつ俺と組んでみるってのは」
 「......」

 明は考える。
 先程の異形はかなりの手強さだった。それこそ、並の吸血鬼では相手にならないほど、少なくとも邪鬼(オニ)レベルの強さだ。
もしもホル・ホースが訪れず、一人で戦いを続けていればただでは済まなかっただろう。
そしてそれはホル・ホースたちの立場でも同じことである。
 雅との戦いに巻き込みたくないと二人から離れようとしたが、どうやらこの状況では離れる方が危険が高まりそうだ。

 「...わかった。雅に会うまで手を貸してくれ」
 「よろしく頼むぜ、明の旦那」

 契約を取り付けたホル・ホースはヒヒッ、と思わず笑みを零しかける。
 結果オーライだ。明と同行すれば、大概の敵はどうにかなる。
さっきの怪物も、明との連携をしっかりととれるようになれば勝機は増す。
これで生存率はだいぶあがったはずだ。

 上機嫌になるホル・ホースの一方で、まどかは未だロシーヌの飛び去った方角を見つめていた。


(...なんだろう、あの子)

ロシーヌと対面した時、まどかは奇妙な感情に襲われた。
 恐怖は確かにあった。だが、その陰には確かに既視感をおぼえたのだ。

(どこかで、会ったこと...あるのかな)

「っつーわけだ、まどかの嬢ちゃん。しばらくは明の旦那と行動することになったから...」
 「......」
 「どうした?」

ロシーヌの残り香に囚われていたまどかは、ホル・ホースの呼びかけでようやく我を取り戻した。

 鹿目まどかの既視感の正体。それは、ロシーヌの存在そのものだ。
ロシーヌの正体。それは、人間の絶望より生まれし、超越者、使徒である。
まどかは知っていた。直接戦ったことこそないものの、魔法少女の絶望より生まれし魔女の存在を。
そんな使徒と魔女の雰囲気が相似していたことに感覚的に気が付いた、ただそれだけのことである。

しかし、これらが相似していることを、ロシーヌがもとは人間であることを気が付けたとしても彼女にはどうすることもできないだろう。
 魔女も使徒も。絶望の果てに捨てたものはもう元には戻らないのだから。


【D-1/一日目/吸血鬼の村/黎明】 
※この付近の吸血鬼@彼岸島(NPC)は全滅しました。

 【宮本明@彼岸島】 
 [状態]:雅への殺意、右頬に傷。
 [装備]:ドラゴンころし@ベルセルク 
[道具]: 不明支給品0~1
 [思考・行動] 
 基本方針: 雅を殺す。
 1:吸血鬼を根絶やしにする。
 2:ホル・ホース及びまどかとしばらく同行する(雅との戦いに巻き込むつもりはない)
3:邪魔をする者には容赦はしない。
※参戦時期は47日間13巻付近です。



 【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】 
 [状態]:疲労(大)、精神的疲労(絶大)、失禁
 [装備]: 女吸血鬼の服@現地調達品、破れかけた見滝原中学の制服
 [道具]: 不明支給品1~2
 [思考・行動] 
 基本方針: みんなと会いたい。
 0:ほむら、仁美との合流。マミ、さやか、杏子が生きているのを確かめたい。
 1:明とホル・ホースと同行する。
 2:あの子(ロシーヌ)の雰囲気、どこかで...?

※参戦時期はTVアニメ本編11話でほむらから時間遡航のことを聞いた後です。
※吸血鬼感染はしませんでした。


 【ホル・ホース@ジョジョの奇妙な冒険】 
 [状態]:疲労 (絶大)、精神的疲労(絶大)、失禁、額に軽傷
 [装備]: 吸血鬼の服@現地調達品、いつもの服
 [道具]: 不明支給品1~2
 [思考・行動] 
 基本方針: 脱出でも優勝でもいいのでどうにかして生き残る
0:できれば女は殺したくない。
 1:しばらく明を『相棒』とする。
 2:DIOには絶対に会いたくない。
 3:まどかを保護することによっていまの自分が無害であることをアピールする(承太郎対策)。
 4:そういやこいつら、スタンドが見えているのか


※参戦時期はDIOの暗殺失敗後です。
※赤い首輪以外にも危険な奴はいると認識を改めました。
※吸血鬼感染はしませんでした。

時系列順で読むBack:[[朱、交わって]] Next:[[ホモコースト勃発!]]

投下順で読むBack:[[運のいい時に限って中々気付けない]] Next:[[ホモコースト勃発!]]


|COLOR(yellow):GAME START|ロシーヌ||
|[[鉄塊]]|宮本明||
|~|ホル・ホース||
|~|鹿目まどか||